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税理士が知っておきたい[認知症]と相続問題 【第2回】「“認知症”とはどのような病気なのか?」-押さえておきたい基礎知識-

税理士が知っておきたい [認知症]と相続問題 【第2回】 「“認知症”とはどのような病気なのか?」 -押さえておきたい基礎知識-   クレド法律事務所 駒澤大学法科大学院非常勤講師 弁護士 栗田 祐太郎   1 “認知症”とは、そもそもどういった病気であるのか この記事を読まれている方ならば、”認知症”と聞いたとき、漠然とではあるがすぐに何らかのイメージが浮かぶであろう。もしかすれば、身近に認知症のご親族がいらっしゃり、ご苦労されている方もあるかもしれない。 認知症という言葉自体には馴染みがあったとしても、認知症という病気について大まかな医学的知識を学ぶ機会は、意外に少ないと思われる。 今回は、認知症に関連する様々な法的問題を取り上げる前提として、まずこの“認知症”というものがいかなるものであるのか、最低限把握しておきたい医学的知識を確認したい。   2 認知症の4つのタイプ 認知症とは、いかなる状態をいうのか。 結論を簡単に述べれば、認知症とは、 をいう。 我々は誰しも、年齢を重ねるに従って物忘れがひどくなった、若い頃と比べて仕事や日常生活において記憶力の低下を感じる、テレビで見かけるタレントの名前が覚えられない等々、大なり小なりの“老化”を感じる瞬間がある。 しかし、認知症というものは、このような加齢による単なる“老化”とは根本的に異なるということを始めに確認しておく必要がある。 認知症とは、脳の病理的な変化、すなわち脳内の神経細胞同士のつながり(ニューロン・ネットワーク)に支障が生じることで、認知機能が低下することなのである。 たとえば、「昨日の夜に何を食べましたか」と質問されたとき、一瞬詰まって即答できず、考えこんでしまう場合も多いだろう。 このとき、老化による単なる物忘れであれば、「ほら、お隣さんからの貰い物をおかずにしたから・・・」とか「あなたの大好物の・・・」等と多少のヒントをもらえば思い出せる場合がほとんどである。これは、いわゆる記憶の3要素と言われる「記銘」「保持」「想起」のうち、想起だけがすぐに行えない状態だといえる。 しかし、認知症の場合は、以上とは根本的に異なってくる。認知症では、その体験・ストーリーそれ自体を丸ごと忘れ、当の本人にも「忘れた」という自覚がないというのである。 つまり、「昨日の夜にご飯を食べたかどうかすら思い出せない」という状態となるのである。前述の3要素にならえば、記銘・保持の面ですらも著しく支障が生じている状態となるが、本人の意識ははっきりしている場合が多い(意識清明)と言われている。 通常、ひとくちに認知症という呼び方がされるが、これは様々な原因疾患を総称した呼び名に過ぎない。認知症の原因となりうる疾患は約70種類前後にも上ると言われている。 ここでは、認知症全体の約9割を占める4つの代表的な類型につき、簡単に整理してみたい。 【認知症の代表的な4類型のまとめ】 (※) この4類型以外の原因疾患は、①神経変性性認知症(神経細胞の変性によるもの)と②二次性認知症(脳腫瘍等、①以外の疾患によるもの)とに大別される。 税理士とすれば、もし仮に自らのクライアントや関係者において上記の診断名が付いた場合には、たとえ認知症であることが判明していないケースであっても、認知症の発症やこれに伴う判断能力の有無・程度等について十分注意を払う必要がある。   3 認知症の発症による日常生活への影響 以上のような疾患により認知症を発症した場合には、具体的には次のような症状が生じる(主にアルツハイマー型認知症での例)。 【認知症がもたらす諸症状】 以上のように、特にアルツハイマー型認知症においては、進行とともに、本人あるいは家族の基本的な日常生活に多大な影響を及ぼす場合も多い。 そのため、現在では、認知症の早期発見や生活環境の構築(一人で悩まず、また家族だけで悩まず、医療機関や地域のつながりと連携をはかる必要性)が重要であると言われる。 そして、上記のような症状が一度出始めれば、自己の財産管理であったり、不動産の売買や各種の契約締結等といった契約行為を適切に行うための判断能力が適切に備わっているのか、絶えず注意を払っていく必要が生じる。 そのために、このような高齢者を保護する各種制度が必要となってくるわけである。このことについて、次回以降で詳しく説明したい。 (了)

#No. 184(掲載号)
#栗田 祐太郎
2016/09/08

〔新規事業を成功に導く〕フィージビリティスタディ10の知恵 【第6回】「F/Sの目的を再確認する」

〔新規事業を成功に導く〕 フィージビリティスタディ10の知恵 【第6回】 「F/Sの目的を再確認する」   中小企業診断士 西田 純   前回は、F/Sを実施するうえでの経営ビジョンの重要性についてお話しました。 今回は、実施中に起こりがちなF/Sの目的と異なる方向性が見えてくる場合の対応についてお話します。 調査段階で社内の協力が得られにくくなるケースについてはすでにお話しましたが、それとは別に、予想しなかった外部の影響を受けてF/Sの方向性自体が当初とは変わってくるという場合があります。   ▷ 外部環境の変化は予め予測しておく ありがちなのが、F/S実施中に関係する規制あるいは許認可の仕組みに変化が起き、F/Sそのものにも影響を及ぼすことが懸念されるという場合です。あるいは経済・社会の変化が影響を与えるケースもあるかもしれません。また、技術の進歩も脅威となる場合があります。 このようなケースに備える意味で、F/Sの環境分析においては「PEST分析」という手法が取り入れられています。 これは、Politics, Economy, Society and Technologyの頭文字を取ったもので、それぞれ政治・経済・社会・技術の4つの観点から、予測される「変化」を読み解こうとするものです。 F/Sが中期の損益予測を主体として実施されるのに対して、PEST分析はむしろ長期の変化を見通す視点で行われることから、このステップを実施することによって新規事業に致命的な変化をもたらす可能性のある事象への対応策を、あらかじめ織り込んでおくことができます。 以下の例では、日本食ブームを当て込んで、東南アジアで生産した和牛の肉を日本や近隣の市場国へ輸出するという事業を想定したPEST分析の例を挙げています。なお、これは技法を説明するためだけに想定した架空のプロジェクトであり、PEST分析も厳密な調査に基づくものではないことを予め付言します(そんなに外れていないとは思いますが)。 さらに考えを進めると、PEST分析で予測されるような変化が仮に起こった場合、事業環境はどのような影響を受けるのか、あらかじめシミュレーションしておいた方が良い、というニーズが出てきます。 このような想定に基づいて変化が起きた場合とそうでない場合について考える方法を「シナリオ・プランニング」と言います。 シナリオ・プランニングにおいては、PEST分析で想定されたような事象が起きた場合にどのような影響が出るのかを想定し、その影響度(インパクト)と実現可能性の二軸を使って、基本となるシナリオ(ベースライン)を決め、これに対して検討すべきシナリオを想定します。この中で、可能性は高くともインパクトが大きくない、あるいはすでに織り込み済みと思われる要素については、思い切って検討対象から外します(この例では、国内の高齢化やデフレ再燃など)。 また、円安・円高のようにどちらにも振れる可能性がある事象については、インパクトとの関係で取り上げるかどうか判断します(今回は、これまでに起こった為替変動を超えるものではないだろうとの読みで検討対象から外します)。同様に、可能性もインパクトも高くないと判断される要素も検討から外します(【図1】)。 【図1】 想定されるシナリオの分類 ここまでの作業で、ベースラインシナリオに対して「可能性は高くないかもしれないが、発生すると大きなインパクトを持つ」と想定されるシナリオが3本出そろいました。これを想定される発生確度の順に分けて、発生した場合にベースラインシナリオが受けるであろう影響について検討します(【図2】)。必要があればそれぞれの場合について財務分析を含む詳細な検証を実施します。 【図2】 変化に対応するために ここまで見通しておくことで、F/S自体も変化に適応する懐の深さを確保することになります。事前に様々な可能性を検討しておくことで、F/Sの目的に関する関係者の理解も深まりますので、準備段階では手間を惜しまずに備えを尽くすように取り組んでください。   ▷ F/Sの目的を再確認する しかしながらF/S実施の段階で、PEST分析を含む十分な備えをしていたとしても、外部環境が予想しなかった影響をもたらすという場合はありえます。自然災害の発生による経済構造の根本的な変化などは、どれだけ準備しても起きるときには起きるものです。 そうした場合の手仕舞いや、仕掛かりとなった調査・データ収集などをどのような形で保存し、先々の役に立てるのか、そのときの判断基準となるのが「F/S実施の目的」です。 これを明文化しておく、あるいは経営者が適宜F/Sの目的を自ら再確認するなど業務上の定点としての役割を果たすことで、業務の混乱や停滞を最低限に止めることができます。 F/Sの目的については、初期の予算伺い文書など社内の決裁文書に明示的な表現で残しておくと良いでしょう。また、F/Sプロジェクトチームの執務室などに大書して貼っておく、というのも有効な手段です。 さて、この連載も今回で折り返し地点に到着しました。F/Sに例えれば、社内外の変化に上手く適応して、調査分析がある程度進んできた段階といえます。ある程度の結論が見えてきたところでは、明示的な判断が求められます。 *   *   * 次回は「F/Sの結果を総合的に判断する」と題して、大局的な視野に立った結論の導き方についてお話します。 (了)

#No. 184(掲載号)
#西田 純
2016/09/08

プロフェッションジャーナル No.183が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年9月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.183を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2016/09/01

monthly TAX views -No.44-「NISA拡充は消費型所得税への移行であって優遇税制ではない」

monthly TAX views -No.44- 「NISA拡充は消費型所得税への移行であって優遇税制ではない」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   来年度税制改正の大きな論点の1つは、NISA(少額投資非課税制度)の取り扱いだ。 現行のNISAには、①非課税期間(5年)の恒久化、②口座開設期間(平成35年まで)の恒久化、③スイッチングの柔軟化・容認という3つの課題がある。 6月に閣議決定された「骨太方針2016」では、「3.(3)ストックを活用した消費・投資喚起」の項で、「老後の生活等に備えた自助による資産形成を支援するためにも、NISAの利便性を向上させるとともに、平成35年までの投資可能期間を恒久化することを検討する。」とされており、上記②についての議論が始まる。 一方、昨日(8月31日)に公表された金融庁の税制改正要望は、「年間投資上限額60万円、非課税期間20年の「積立NISA」の創設(現行NISAと選択制)を恒久措置として導入」することを目玉とし、その上で現行NISAについては、投資可能期間(現行:平成35年まで)の恒久化に加え、非課税期間(現行:5年間)終了時の対応を要望している(下記参照)。 NISAの拡充・恒久化に対する財務省・税制当局の壁は厚い。念頭にあるのは、税収減であろう。 *  *  * 平成27年11月に公表された、政府税制調査会「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理」の中に、以下の記述がある(下線部筆者)。 (※) 政府税制調査会「経済社会の構造変化を踏まえた税制のあり方に関する論点整理」p10より このように、老後の蓄えのために自助努力を支援する税制については、総論では合意ができているといってもよい。 問題は、証券税制の延長で議論され導入されたNISAが、このコンセプトに該当するかどうかということである。 筆者は、個人が自助努力で将来の生活資金などを蓄えていくことの重要性に鑑み、それを政府として税制で支援していくことの必要性を、米国IRAの制度にならって「日本版IRA」という名称で訴えてきた。 また、その方法として、本来は、米国型の誰でも加入できる貯蓄制度を創設することが望ましいが、それが直ちには難しいというならば、NISAを拡充していくことが考えられる。その場合、預貯金も含めてオール金融所得への積み立てに対して課税後拠出、運用時・引出し時非課税(TEE型)となる。 (※) 一連の提言内容は、金融税制・番号研究会報告書として、下記JTI(ジャパン・タックス・インスティチュート)ホームページから入手できる。 「ジャパン・タックス・インスティチュート(提言 報告書)」 このような税制は、はたして優遇税制と呼ぶべきか、つまり減収額を立てる必要があるのだろうか。 *  *  * 所得税体系では、貯蓄から生じる利子を毎年利子所得として課税所得に取り込む。 一方消費課税体系には、消費を直接課税ベースにする消費税(VAT)方式と、貯蓄(運用益・資本所得)を非課税にする方式の2つがある。さらに後者は、貯蓄時非課税(所得控除)、引出し時(消費時)課税というEET型と、課税後拠出(貯蓄時課税)、運用時・引出し時非課税のTEE型の2つがある。どちらも税率が一定であれば、税引き後の手取りは等しくなる。 当初100の所得を、税率20%、利子率5%で10年間運用するという前提で、10年後の税引き手取り額を計算し比べたのが以下の表である。 【図表】 所得課税と消費課税の比較 (注) 毎年の運用益(80×5%=4)に20%の税率を乗じ(0.8)、10年間の合計を求めると8になる。 ここで見てきたように、課税後拠出で、運用時・引出し時非課税のTEE型の商品であるNISAを拡充することは、所得税の消費税化(消費型所得税への移行)を進めるということであり、必ずしも優遇税制ではないのである。 米国では、経済を活性化するという観点から、連邦所得税の消費課税化が進んでいる。具体的には、年金・教育・医療目的の積み立ては、その段階では課税しないEET型か、課税後の積み立てで運用益などに課税しないTEE型のどちらかの税制となっている。IRA、教育IRA、医療IRAが前者の例で、後者の例はロスIRAである。 これらは、貯蓄からの運用益にも課税する所得課税への非効率性を正す観点から出現してきたものだが、米国では、所得課税体系からだけでなく消費課税体系からも税制を見る基準があり、後者では、このような税制は優遇税制とは捉えられていない。 これに対して、今回わが国で、専業主婦や国家公務員への適用拡大が図られた日本版401k(個人型DC)は、税制の取扱いが大きく異なっている。この税制は、拠出時非課税、運用益非課税、給付時公的年金等控除が適用され、事実上非課税という、EEE型の商品である。これは優遇税制そのものであり、さらなる商品性の拡大は、所得税課税ベースの縮小を引き起こし大きな問題となる。 つまり、NISAはTEE型の税制で、必ずしも優遇税制とはいえず、経済活性化の観点から、「所得課税を消費型所得税に変えていく」ということである。 税制当局も、このような視点を持って、個人の自助努力を支援する税制議論を行ってほしいものだ。 (了)

#No. 183(掲載号)
#森信 茂樹
2016/09/01

~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第11回】「売買として所有権が移転した土地建物であるが、その売買代金とされた金額のうち一部が寄附金に当たるとされた事例」

~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第11回】 「売買として所有権が移転した土地建物であるが、 その売買代金とされた金額のうち一部が寄附金に当たるとされた事例」   税理士 佐藤 善恵     (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 原告の法人(X社)は、平成9年12月1日、関係法人であるB社に対し、自己が所有する土地建物(本件土地建物)を5億4,969万1,546円で売却する旨の契約(平成9年契約)を交わした。 その後、平成16年3月25日、X社は、B社から本件土地建物を5億3,000万円で買い受ける旨の契約(平成16年契約)を締結して本件土地建物を譲り受け(買戻し)た。 平成9年契約の代金5億4,969万1,546円の内訳は、土地4億8,417万2,000円、建物6,551万9,546円である。 一方、平成16年契約の代金5億3,000万円の内訳は、土地1億8,620万円、建物5,148万6,011円、損失補填金2億9,231万3,989円と明示されていた。X社は、その損失補填金を損金の額に算入して申告をしたところ、原処分庁は、それがB社に対する寄附金に当たるとして法人税の更正処分等を行った。 (※) なお、平成11年に営業権をめぐってX社とB社との間で合意が交わされた(平成11年合意)事実もあるが、詳細は省略する。   〔当事者の主張〕 ▷ 原処分庁 X社は、平成16年契約に関して、本件土地建物の譲渡対価をB社の本件土地建物の帳簿価格を基準にして決定された5億3,000万円とするために、本件土地建物の時価に加えて、2億9,231万3,989円を「損失補填金」として支払うこととしたものである。 そうすると、その2億9,231万3,989円は、X社がB社に対し、単に同社の本件土地建物の譲渡損失を負担するため、自己の損失において専ら他の者に利益を供与したといえるのであって、その支払には対価性が認められないから寄附金に該当する。 ▷ X社 平成9年契約、平成11年合意及び平成16年契約を全体としてみれば、平成9年契約はX社がB社から経済支援を受けるためになされたものであり、その法的性質は、消費貸借契約及びこれに基づく貸金返還債務についての譲渡担保設定契約(※)に類似した契約、貸金返還を条件とする解除権留保付きの売買契約に類似した契約等とみるべきである。 そして、平成16年契約は、平成9年契約によって受けた援助を解消するためになされたと解すべきであるから、「損失補填金」は損金算入されるべきである。 (※) 譲渡担保・・・目的物を債権者に譲り渡す方法による物的担保。   〔裁判所の判断〕 下記のような本件の各契約の締結、履行の状況にかんがみると、平成9年契約と平成16年契約は目的物を同じくするもののそれぞれが別個の売買契約として、法律上存在しているというべきである。 平成16年契約において本件土地建物の売買代金とされた5億3,000万円中、損失補償金と位置づけられた2億9,231万3,989円については、直接的な対価を伴わないでした支出といわざるを得ない。   〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、売買という法形式が採られ、本件土地建物の所有権が移転したという事実、そして、X社の主張するような契約(合意)の存在を推認できるような証拠が認められなかった点にある。   〔本判決が示唆するもの〕 本件の平成16年契約に謳われた「損失補填金」は、単にB社の本件土地建物の譲渡損失を負担するために、X社がB社に利益を供与したものと判断された。関係会社間であっても、何の見返りも期待せずに利益供与した場合は、対価性がなく寄附金に当たるとのシンプルな論点である。 なお、現在は、グループ法人税制により、もしX社とB社に完全支配関係があれば、支出側の法人は全額損金不算入、受けた側の法人は全額益金不算入である。   〔控訴審にて〕 X社は、損失補填金を否認するのであれば、同額を売買代金として認めるべきであるとの主張をしたが、高裁は、平成16年契約において、建物代と土地代の内訳を区分していることや、関係する双方の合意書の記載を踏まえて、その主張は採用できないと述べている。 課税庁の判決情報のコメントを一部紹介する。 (了)

#No. 183(掲載号)
#佐藤 善恵
2016/09/01

金融・投資商品の税務Q&A 【Q9】「個人が割引債の償還を受けた場合の取扱い」~割引債の発行日が平成27年12月31日以前の場合~

金融・投資商品の税務Q&A 【Q9】 「個人が割引債の償還を受けた場合の取扱い」 ~割引債の発行日が平成27年12月31日以前の場合~   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子   ●○ 検 討 ○● 割引債(キーワード参照)の償還差益に対する課税については、従前、割引債の発行時に源泉徴収(償還差益に対し18.378%)を行い、個人については当該源泉徴収のみで課税関係が終了する源泉分離課税とされていました。 金融所得一体課税の改正に伴い、平成28年以後は、割引債の源泉徴収については発行時ではなく、償還時(支払時)に行われることとなりました。また、償還差益は株式等に係る譲渡所得等として課税されることとなりました。 改正前の規定が適用されるかどうかは、割引債の発行日が平成27年12月31日以前か平成28年1月1日以後かにより異なります。 平成27年12月31日以前に発行された割引債で、租税特別措置法第41条の12の発行時源泉徴収の適用を受けているものについては、経過措置により、改正後の償還時課税の規定の適用はありません。 本件の割引債の発行日は平成27年12月31日以前であり、発行時に償還差益(券面金額から発行価額を控除した金額)に対して18.378%(所得税18%、復興特別所得税0.378%)の税率にて源泉徴収が行われています。このため上述の経過措置に従い、償還時に申告等の必要はありません。 (了)

#No. 183(掲載号)
#箱田 晶子
2016/09/01

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第18回】「青色申告承認取消処分の事例①」~青色申告承認取消事由(帳簿書類の不保存等)に該当すると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第18回】 「青色申告承認取消処分の事例①」 ~青色申告承認取消事由(帳簿書類の不保存等)に該当すると判断した理由は?~   中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也   今回は、青色申告法人X社に対して、1号取消事由及び3号取消事由の双方に該当するものとして行われた青色申告承認取消処分に係る理由付記の十分性が争われた大阪地裁昭和50年5月9日判決(行集26巻5号714頁。以下「本判決」という)を取り上げる。   1 青色申告の承認の取消通知書に記載された処分の理由(本件理由付記) (注) 素材とした本判決の判決文から読み取ることができる理由付記の一部を筆者が加工している。   2 本判決の判断 本判決は、大要次のとおり、本件青色申告承認取消処分について、被告税務署長がその理由とする127条1項1号及び3号のいずれについても理由付記が不十分であって、これを違法として取り消すほかはないと判断した。 (1) 理由付記の趣旨目的 (2) 3号取消事由の理由付記の適否 (3) 1号取消事由の理由付記の適否   3 私見 本件理由付記は、法の求める理由付記として十分なものではないと考える。 青色申告承認取消処分に係る理由付記において要求される付記の内容及び程度は、特段の理由のない限り、いかなる事実関係に基づきいかなる法規を適用して当該処分がされたのかを、処分の相手方においてその記載自体から了知し得るものでなければならず、とりわけ法人税法127条1項3号のように該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができない場合には、青色申告承認取消通知書に当該号数を付記するのみでは足りず、取消しの基因となった事実自体についても処分の相手方が具体的に知りうる程度に特定して摘示しなければならない(最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決・民集28巻3号405頁)。 この点、次のとおり、本件理由付記は3号取消事由、1号取消事由のいずれにおいても、いかなる事実関係に基づいて本件青色申告承認取消処分が行われたのかを明らかにしていないから、法の求める理由付記として十分ではないと考える。 (1) 3号取消事由の理由付記の適否 法人税法127条1項3号は、「その事業年度に係る帳簿書類に取引の全部又は一部を隠蔽し又は仮装して記載し又は記録し、その他その記載又は記録をした事項の全体についてその真実性を疑うに足りる相当の理由があること」を青色申告承認取消事由としているところ、本件理由付記は「貴法人は、所得計算上収入に計上すべきものを除外し、仮装名義で銀行に預金をし、所得を過少に申告しています。」として、3号取消事由に対応する事実を抽象的にしか記載しておらず、収入を除外していた取引の内容、金額、日付等の具体的な事実を記載していない。これでは、処分の基因となった事実については単に法文の文言をそのまま記載したにすぎず、本判決が述べるとおり、単に3号という該当号数のみを記載しただけの場合と実質的に異なるところがないと評価されてもやむを得ない面がある。 そうすると、上記最高裁昭和49年4月25日判決に照らして、本件理由付記のうち3号取消事由に係る部分は、法の求める理由付記として十分ではないことは明らかである。 (2) 1号取消事由の理由付記の適否 本件理由付記のうち、「貴法人は、所得計算上収入に計上すべきものを除外し、仮装名義で銀行に預金をし、所得を過少に申告しています。」という記載部分と、「なお、売上、仕入に関する記録等の保存ならびに記帳が不備であることは法人税法第127条第1項第1号および第3号に該当します。」という記載部分の関係は、明快さに欠けるところがあるが、いずれにしても、「その事業年度に係る帳簿書類の備付け、記録又は保存が前条第1項に規定する財務省令で定めるところに従って行われていないこと」という1号取消事由に対応する具体的な事実の記載がないことは、3号取消事由の場合と同様であり、本判決が述べるとおり、単に1号という該当号数のみを記載したのと同視すべきものであると評価されてもやむを得ない面がある。 また、1号取消事由についても、数ある法定の帳簿書類のうちのどの帳簿書類が、どの期間、どのような態様で、備付け、記録、保存に不備があるかはケースバイケースであることから、やはり該当号数を示しただけでは取消しの基因となった具体的事実を知ることができないと解される。 そうすると、上記最高裁昭和49年4月25日判決に照らして、本件理由付記のうち1号取消事由に係る部分も、法の求める理由付記として十分ではないことは明らかである。 ところで、本判決は、青色申告法人が備え付けるべき帳簿、書類等の種別は多様であり、かつそれらに記載すべき内容も多岐にわたっているのであるから、1号による取消処分をするに当たっては、その理由付記の内容として、単に該当号数のみを記載するのみでは足りず、具体的に、いつからいつまでの期間内におけるいかなる帳簿、書類の備付けないし記録が不備であるのか或いは保存がなされていないのかを特定し得る程度に記載される必要があり、このような具体的記載を欠く理由付記は違法として取り消されるほかはないと解したからといって、取消庁に苛酷な負担を課するものとは考えられない旨述べている。 この点は、最高裁昭和49年4月25日第一小法廷判決(民集28巻3号405頁)においても、「取消しを行なう処分庁としては、既に具体的な取消事由についての調査を経ているはずであるから、これを具体的に処分の相手方に通知すべきものとしても、さほど困難な事務処理を強いられるものとは考えられない」と判示されており、妥当であると考える。 そもそも、納税者個々人からすれば、大量回帰的に処分を受けるものではなく、青色申告の承認を取り消されることの影響も決して小さいものではないのであるから、課税庁における理由付記という事務の負担を、理由の記載の程度を緩和するための材料として強調することには慎重さを持つべきではなかろうか。 *  *  * 本連載の最終回となる次回は、架空の試験研究費を計上していた事実等が法人税法127条1項3号に該当するものとして行われた青色申告承認取消処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)

#No. 183(掲載号)
#泉 絢也
2016/09/01

連結納税適用法人のための平成28年度税制改正 【第10回】「移転価格文書化制度(その3)」

連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第10回】 「移転価格文書化制度(その3)」   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸   (3) ローカルファイル (独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類) ① 概要 連結事業年度において、国外関連取引を行った連結法人は、当該国外関連取引に係る独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類 (電磁的記録を含む。ローカルファイル)を当該連結事業年度に係る連結確定申告書の提出期限までに作成しなければならない(措法68の88⑥)。 以下、(3)において、この取扱いを「同時文書化義務」という。 ② 作成義務者等 国外関連者との間で国外関連取引を行った連結法人(措法68の88⑥)。 ③ 書類内容 ローカルファイルは、次に掲げる書類をいう(措規22の74①)。 (*) ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 ④ 作成義務の免除 連結法人の当該連結事業年度の前連結事業年度等(※1)において、一の国外関連者との間で行った国外関連取引(※2)が次のいずれにも該当する場合又は連結法人が前連結事業年度等において、一の国外関連者との間で行った国外関連取引がない場合(※3)には、連結法人が当該連結事業年度において当該一の国外関連者との間で行った国外関連取引に係るローカルファイルは作成する必要はない(措法68の88⑦、措令39の112⑩⑪、措規22の74④)。 (※1) 連結法人の当該連結事業年度開始日の前日を含む事業年度が連結事業年度に該当しない場合には、連結法人のその前日を含む事業年度とする。 (※2) 前連結事業年度等がない場合、又は、当該一の国外関連者が連結法人の当該連結事業年度において国外関連者に該当することとなった場合には、当該連結事業年度において連結法人と当該一の国外関連者との間で行った国外関連取引とする。 (※3) (※2)の場合に該当することにより、前連結事業年度等において、当該一の国外関連者との間で行った国外関連取引がない場合を除く。 (※4) 資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為を含む。 ⑤ 作成期限 連結確定申告書の提出期限まで(措法68の88⑥)。 ローカルファイルは、連結確定申告書の提出期限の翌日から7年間(連結欠損金が生じた連結事業年度に係るものは10年間)、国外関連取引を行った連結法人の納税地(連結子法人の場合は、本店所在地)又は国内事務所に保存しなければならない(措規22の74②③)。 ⑥ 適用時期 連結法人の平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用する(平成28年所法等改正法附則121①②)。 ⑦ 文書化の担保策 次に掲げる場合に該当するときは、国税当局は推定課税及び同業者調査を行うことができる(措法68の88⑧⑨⑪⑫、措規22の74⑤⑥)。     2 国外事業所等との内部取引に係る移転価格文書化制度 連結法人が外国税額控除限度額に係る連結国外所得金額を計算する場合、連結事業年度において、連結法人の本店等と国外事業所等との間の内部取引がある連結法人は、その内部取引に係る独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)(※1)を当該連結事業年度に係る連結確定申告書の提出期限までに作成しなければならない(措法68の107の2③、措規22の83①)。 以下、2において、この取扱いを「同時文書化義務」という。 ただし、連結法人の当該連結事業年度の前連結事業年度等(※2)の一の国外事業所等との間の内部取引(※3)が次のいずれにも該当する場合又は前連結事業年度等の一の国外事業所等との間の内部取引がない場合(※4)には、連結法人の当該連結事業年度の当該一の国外事業所等との間の内部取引に係るローカルファイルは作成する必要はない(措法68の107の2④)。 (※1) 内部取引に係る独立企業間価格を算定するために必要と認められる書類(ローカルファイル)とは次に掲げる書類をいう(措規22の83①)。 (※2) 連結法人の当該連結事業年度開始日の前日を含む事業年度が連結事業年度に該当しない場合には、連結法人のその前日を含む事業年度とする。 (※3) 連結法人が当該連結事業年度において当該一の国外事業所等を有することとなった場合には、当該連結事業年度の当該一の国外事業所等との間の内部取引とする。 (※4) 連結法人が当該連結事業年度において当該一の国外事業所等を有することとなったことにより前連結事業年度等の当該一の国外事業所等との間の内部取引がない場合を除く(措令39の126の4①)。 (※5) 資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為を含む。 そして、次に掲げる場合に該当するときは、国税当局は同業者調査を行うことができることとなる(措法68の107の2⑤⑥、措規22の83⑤⑥)。 なお、ローカルファイルは、連結確定申告書の提出期限の翌日から7年間、内部取引を行った連結法人の納税地(連結子法人の場合は、本店所在地)又は国内事務所に保存しなければならない(措規22の83②③)。 この改正は、連結法人の平成29年4月1日以後に開始する連結事業年度から適用される(平成28年所法等改正法附則126①②)。   (了)

#No. 183(掲載号)
#足立 好幸
2016/09/01

裁判例・裁決例からみた非上場株式の評価 【第14回】「譲渡制限株式の譲渡④」

裁判例・裁決例からみた 非上場株式の評価 【第14回】 「譲渡制限株式の譲渡④」   公認会計士 佐藤 信祐   前回は、少数株主間の株式譲渡の裁判例として大阪高裁平成元年3月28日決定、少数株主から支配株主への株式譲渡の裁判例として、広島地裁平成21年4月22日決定について解説を行った。 本稿以降では、少数株主から支配株主への株式譲渡の裁判例について、さらに追加的な解説を行う予定である。   5 札幌高裁平成17年4月26日決定・判タ1216号272頁 (1) 事実の概要 本事件は、申請人の株主である被申請人が、申請人に対し、株式1万0500株(発行済株式総数の6.56%)をA株式会社に譲渡することの承認及び譲渡を承認しないときは譲渡の相手方を指定することを求めたところ、申請人が譲渡を承認しないこと及び譲渡の相手方として申請人を指定することを通知したため、売買価格の決定の申立てがなされた事件である。 (2) 原決定(札幌地裁平成16年4月12日決定・判タ1216号274頁) (3) 裁判所の判断 基本的には原決定の判断を踏襲しているため、詳細な解説は省略する。 (4) 評釈 このように、裁判所は、少数株主にとっての株式価値を配当還元法と純資産方式の併用方式とし、支配株主にとっての株式価値を収益方式とした。その結果、配当方式:純資産方式:収益方式=0.25:0.25:0.5の併用方式が用いられた。 抗告審においても同様の判断が行われているが、「抗告人がこれまで高い利益率を確保しながら、利益配当を定額に抑えてきたことなどを考慮すれば、売手である相手方の立場からする本件株式の価格の評価は、配当還元法による配当方式と純資産方式の中間値を採用するのが相当である。」とされたところが特徴的である。 すなわち、前回解説した広島地裁平成21年4月22日決定と異なり、配当性向が低いことが純資産方式との併用を行った根本的な理由であるということができる。 さらに、純資産方式との併用方式を用いている以上は内部留保は考慮されているため、ゴードンモデル方式を採用せず、実際配当還元法により評価を行っているという点も特徴的である。   6 千葉地裁平成3年9月26日決定・判時1412号140頁 (1) 事実の概要 申請人が1万4,000株(発行済株式総数の約10%)の株式を譲渡しようとしたところ、当該株式の譲渡を承認しない旨及び被申請人を譲渡の相手方と指定することの通知を受けたため、売買価格の決定の申立てがなされた事件である。 (2) 裁判所の判断 (3) 評釈 このように、裁判所は、少数株主にとっての株式価値を配当還元方式により評価し、支配株主にとっての株式価値を純資産価額方式により評価し、その折衷方式により売買価格を決定するものとした。やや古い判例であることから、純資産法が重視されているが、現在であれば、DCFや収益還元法が重視されていた可能性が高いと思われる。 本事件の特徴は、役員報酬をも配当金の変形とみなした上で、配当還元方式により評価を行ったという点である。役員報酬のうち、60%を賃金とし、残り40%のみを配当金の変形とみなしているが、役員としての地位が株主としての地位に連動しているが故の配慮であろうか。配当金78万円に対して、役員報酬が896万円であったことから、たしかに、この調整を行うことで、なんとなくのバランスが取れているようには思える。また、同族会社では配当を低位に抑え、役員報酬で実質的に分配することも多いことから、実態に合致しているようにも思える。 しかし、一定の株式数を有しているという点と役員報酬を得られるという点は別であり、役員報酬のうち約40%を配当金の変形とみなしたうえで、譲渡制限株式の売買価格を決定するのは納得しがたい。もし、譲渡を承認し、第三者に売却されたとしても、当該第三者を取締役に選任する義務は会社に存在しないことから、譲渡価額に反映されるはずがないからである。そういう意味で、本事件は、かなりレアケースの判例であると考えた方が良いと思われる。 次回以降では、組織再編に対する反対株主の買取請求が行われた事件について解説を行う予定である。 (了)

#No. 183(掲載号)
#佐藤 信祐
2016/09/01

税務判例を読むための税法の学び方【89】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む(その17:「「退職所得」の意義④」(最判昭58.9.9))

税務判例を読むための税法の学び方【89】 〔第9章〕代表的な税務判例を読む (その17:「「退職所得」の意義④」(最判昭58.9.9))   立正大学法学部准教授 税理士 長島 弘   今回は、最高裁の判断、及びその意義についてみていく。   6 裁判所の判断(上告審(最高裁昭和58年9月9日)の判断) これは裁判所ホームページにて判決が公開されているため、これを入手し、読んでいただきたい。そこには当事者の主張として付加された点も掲載されており、ここでは割愛するため、ぜひ見てもらいたい。   7 判決の意義 この判決は、退職給与等の要件として、①退職という事実による給付、②継続的な勤務に対する報償ないし労務の対価の後払的性質、③一時金としての支払がある点を明らかにし、また「これらの性質を有する給与」に該当するためには、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し、課税上、退職給与等と同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とする旨、明らかにしている。 ところで冒頭に記したように、10年打切りの退職金を支給した別件がある(年数の差はあるが、その制度導入の経緯についても、5年打切りの退職金を支給した本件と殆ど同じである)が、その第一審では、以下のように判示して国の処分を違法としている。 ここにおいては、租税回避の目的で設定されたものではなく、その必要な事情があったことを認めて、退職所得であるとしている。 また控訴審においても、同様の理由で、第一審の判断を支持している。 なお、この控訴審では以下の判断を示している。 しかしこの別件の最高裁判決においては、5年打切り支給の本件最高裁判決と同様の3つの要件を示し、また支給された金員を「勤務の継続中に受ける金員の性質を有するもの」と認定して、この要件に該当しないとして第一審・控訴審の判断を覆したのであった。 なおこの別件最高裁判決においては、 としている(なおこの最高裁判決においては、「その後も引き続き勤務する者のじ後の退職金の計算についてはすでに経過した勤務期間を計算に入れないこととした場合には、このような退職金につき、税法上退職所得扱いをすることは許されない、とまでいう必要はない」と、また「退職という以上その後継続雇用する場合すべての面において全くの新規採用と同じでなければならない、という理由もない」と、そして「10年という期間は労働者が同一使用者に雇用される期間としては必ずしも短いものではな」いことから、「原審の認定判断は正当」とする横井大三裁判官の反対意見がある)。 よって、両最高裁判決により、退職所得となるためには、上記3要件を満たすことが必要とされた。また「これらの性質を有する給与」該当性については、9月9日最高裁判決においては、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し課税上同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とするものとされ、12月6日最高裁判決においてその具体的な内容として「定年延長又は退職年金制度の採用等の合理的な理由による退職金支給制度の実質的改変により精算の必要があって支給されるもの」又は「当該勤務関係の性質、内容、労働条件等において重大な変動があって、形式的には継続している勤務関係が実質的には単なる従前の勤務関係の延長とはみられないなどの特別の事実関係があることを要するもの」が示された。もっとも、この末尾に「などの特別の事実関係」とあるように、他のものを排除する趣旨とは解されないため、これは例示であり、9月9日最高裁判決で示された、実質的にみてこれらの要件の要求するところに適合し課税上同一に取り扱うことを相当とするものであることを必要とするものに該当する場合には、「これらの性質を有する給与」に該当するものとなろう。 しかし、両事案において納税者側が根拠にしていた法人税基本通達にある「支給をしたことにつき相当の理由があり、かつ、その後は既往の在職年数を加味しないこととしているとき(基本通達制定前は法人税取扱通達276の「従来の在職年数を打切り、その後は既往の在職年数を加味しないこととして支給」)」について、「その後は既往の在職年数を加味しない」こととした場合でも認められないこととされたことから、この通達との関係での曖昧さが残り、今後はこの「相当の理由」が問われることになろう。 この10年打切りの退職金を支給した別件は、第一審から最高裁まで裁判所ホームページで公開されている。 *   *   * 次回からは、交際費の要件について、萬有製薬事件などから検討する。 (続く)

#No. 183(掲載号)
#長島 弘
2016/09/01
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