『日米租税条約 改定議定書』 改正のポイントと実務への影響 【第1回】 「改正の概要及び利子所得免税」 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 1 概要 日米租税条約の改正については、昨年6月に基本合意に達したことが公表されていたが、その後、2013年1月24日に改正議定書に署名されるとともに、改正内容の詳細が明らかになった。同条約の改正は2003年以来となる。 改正の主な項目は4に掲載した表のとおりであるが、中でも重要な改正点は以下の3点である。 2 発効時期 今後それぞれの国内手続(日本は国会の承認)を経て、両国間で批准書が交換されることにより効力を生ずる。 2003年の新条約締結時には、2003年11月6日に新条約に署名され、翌年3月30日に批准書が交換された。 3 適用対象・適用時期 この議定書に盛り込まれた新条約の内容は、次のものについて適用される(議定書15②)。 上記にかかわらず、相互協議中の事案については、仲裁に移行する基準となる期間の2年の起算日は、この議定書が効力を生ずる日となる(議定書15③)。 また、情報交換、徴収共助の規定は議定書の発効日から適用する。 なお、教授免税の特典を受ける権利を有する個人は、議定書が効力を生じた後においても、それまで有している権利を失うときまで特典を受ける権利を引き続き有する。 4 改正の概要 〈日米租税条約の改正内容(平成25年1月24日署名)〉 ※画像をクリックすると、PDFファイルが開きます。 5 利子所得に関する改正 (1) 原則として源泉地国免税となった 利子所得は、従来は、金融機関の得るものを除いて、利子の発生した国(源泉地国)において10%を限度税率として課税できるとされていたが、改正後は原則として源泉地国では免税となる。 例えば、日本親会社の米国子会社に対する貸付金の利子については、従来は居住地国である日本で全世界課税の中で利子所得も課税され、加えて源泉地国である米国でも10%の源泉徴収が行われ、日本における確定申告書上、外国税額控除により二重課税の一部排除を行うという仕組みをとっていた。 改正後は、米国での源泉地国課税は行われないことになるので、企業にとっては外国税額控除の申告に要する手間が省け、親会社側の外国税額控除の枠が足りないことにより二重課税が完全には排除できないという問題もなくなる。 日米双方の企業にとっては、資金のやり取りがしやすくなるという点で朗報である。 (2) 源泉地国免税の例外 次のものは、源泉地国課税の適用対象とされる(議定書4、新条約11②)。 このうち(a)は新設の規定であるが、それ以外は現行条約に同様の規定がある。 【参考】 財務省ホームページ ・「アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書が署名されました」 ・「アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書のポイント」 (了)
税制改正を学ぶ ~税制改正を理解するためには 過去の改正の背景・経緯を理解することが必要 税理士 朝長 英樹 1 近年の法人税に関する疑問点や争点のほとんどが平成12年度改正以後の改正部分 法人税に関しては、近年、大きな改正が続いています。 この法人税に関する大きな改正が始まったのは、平成12年度の金融取引に関する取扱いの抜本改正(有価証券の取引に関する取扱いの抜本改正、デリバティブ取引・ヘッジ取引に関する規定の創設、外国為替取引等に関する取扱いの抜本改正)からですが、この平成12年度改正前の法人税関係法令の規定の量は、同改正から近年の改正の基礎を作った平成15年度改正までの改正により約2倍となり、その後、現在までの改正により約3倍となっています。 このような近年の改正には、従前の改正とは大きく異なる特徴があります。 それは、改正内容が時代の要請に合うように制度を根幹から改めるものとなっていること、そして、改正規定が取扱いを非常に詳細に定めていることです。 現在の法人税法は、昭和40年度改正によって制定されましたが、その後、30数年の長きにわたって本格的な改正が行われてこなかったと言えます。 平成12年度改正以後の改正は、この30数年間の遅れを取り戻す改正という性格のものであるため、連年のように、制度の根幹を改めるような改正が行われることとなったわけです。 また、平成12年度改正以後の改正は、改正規定が非常に詳細に定められているという特徴がありますが、これは、従来、「通達行政」という批判を受けるような状態があったことに対する反省として、「租税法律主義」という原則に立ち返って税制度を設けることとしたことによるものです。 「デリバティブ・ヘッジを境に法人税の条文が全く変わった!」と言われることがよくありましたが、仮に、平成12年度改正以後の改正を従来のように大幅に通達等に委ねていたら、かなりの混乱が生ずることとなったと考えられます。 このように、平成12年度改正以後の改正には、制度の根幹を改め、取扱いを詳細に定めるという特徴があり、これらは基本的にはプラスに評価できると考えますが、その反面、改正が非常に複雑で難解であるというマイナス面も生ずることとなりました。 平成12年度の金融取引に関する取扱いの抜本改正、平成13年度の資本等取引の取扱いの抜本改正と組織再編成税制の創設、平成14年度・15年度の連結納税制度の創設などから始まる近年の改正は、従前の改正とは大きく異なっています。平成18年度の会社法創設に伴う改正や平成22年度のグループ法人税制に係る改正なども、非常に複雑で難解な改正となっています。 このような事情のため、近年の法人税に関する疑問点や争点のほとんどが平成12年度改正以後の改正部分に関して生じているのです。 2 近年は『平成○年度税制改正の解説』の解説がよく分からない 上記1で述べたような複雑で難解な大規模な改正が行われると、自ずと、その改正の解説が非常に重要となります。 法人税法の過去の改正に関する解説がどの程度のものであったのかということを推測する材料として、『改正税法のすべて』(大蔵財務協会)又は『税制改正の解説』(財務省)の法人税法の改正に関する部分の頁数を確認してみると、次のとおりです。 昭和40年度改正は現在の法人税法を制定した改正で全項目にわたる改正となっているわけですが、その解説の頁数が77頁となっているのに対して、平成12年度改正等は個別項目の改正でありながら、その解説に非常に多くの頁数を割いており、近年の改正の解説が詳細に行われていることを、この数字から容易に読み取ることができます。 改正の内容を詳しく解説するということは、非常に大事なことであり、積極的に評価することができます。 しかし、その反面、「昔は、『改正税法のすべて』の解説を読めば改正の意味や内容がよく分かったが、最近は、読んでも、よく分からない」、「『税制改正の解説』の解説に書いてあることに疑問を感ずる」というような声が少なくありません。特に、平成18年度改正と22年度改正に関しては、『税制改正の解説』に記載されていることに対する疑問の声が多く寄せられました。 近年の改正は、詳しく丁寧に解説が行われてはいるものの、一般には、その改正内容が必ずしも十分に咀嚼されて理解されているとは言えず、また、改正内容に課題を残す部分も存在する、という状態になっているように思われます。 3 改正を正しく理解するためにはその改正前の取扱いを定めた改正を正しく理解する必要がある 今後、平成25年度以後の改正内容は、現時点では、まだよく分かりませんが、改正は常に過去の改正によって改められたものを改正するということになりますので、平成25年度以後の改正も、それ以前の改正内容を理解していなければ、正しく理解することはできません。平成25年度改正以後の改正を正しく理解するためには、その改正前の取扱いを正しく理解しておくことが必要であり、その改正前の取扱いを定めた改正の正しい理解を避けて通ることはできない、ということです。 これに関して、具体的な例で確認してみましょう。 平成25年度改正においては、連結納税制度における投資簿価修正に関する改正が予定されています。 これは、連結法人が他の連結法人の株式を当該他の連結法人の自己株式取得に応じて譲渡した際に当該他の連結法人の株式について投資簿価修正が行われず、その後、当該他の連結法人の株式を譲渡することとなった場合に投資簿価修正を行って譲渡損益を計上するということにしたままでは譲渡益が過大に生じてしまう、という問題点を是正するための改正であると説明されています(政府税制調査会(平成24年11月14日)の資料「連結子法人の個別利益積立金額がマイナスである場合の投資簿価修正とみなし配当」を参照)。 このような説明からすると、この改正は、過大な課税が生じないように技術的なところに関して規定の整備を行うもの、というように受け取られる可能性があります。 しかし、この改正は、本来は、そのような規定の整備というような性格のものではない、と考えられます。 この改正で是正しようとされている過大な課税という状態は、平成22年度改正における投資簿価修正の改正及び100%グループ法人間の自己株式等の取引について譲渡損益を計上せず資本金等の額の増減で処理することとされた改正に伴って生じているものです。 すなわち、平成22年度において、100%グループ法人間の自己株式等の取引について譲渡損益を計上せずに資本金等の額の増減で処理するという改正を行わず、株式のキャピタルゲインとキャピタルロスを正しく譲渡益と譲渡損とすることとしていれば、そもそも上記のような過大な課税という状態が生ずることにはならないわけです。 この過大な課税に関しては、そもそも平成22年度改正において本来は譲渡損益を計上するべきであるところを資本金等の額の増減としたところに問題があるわけであり、その根本的な問題に目を向けず、対処療法的に、連結子法人の個別利益積立金額がマイナスの場合における投資簿価修正の改正、すなわち、課税が生ずる場面だけについて改正によって課税を生じさせないようにするという対応には、疑問がある、と言わざるを得ません。 このように、小さな部分の小さな改正であっても元がよく分かっていなければ本当の正しい理解はできないという例は、決して珍しいものではなく、今後、法人税法改正においては、数多く出てくることになるものと思われます。 4 税制改正の『解説』を解説するものが必要となっている 近年、我が国の法人税制は、改正を重ねることにより、先進諸外国と比較して遜色のないものになってきたものの、制度の解説が改正に追いつかず、これが我が国の大きな課題となっています。 財務省から『平成○年度税制改正の解説』として公表される毎年度の税制改正の解説についても、改正前の取扱いを詳しく説明したり、改正の内容を分かりやすく説明したり、実務上の留意点や疑問点を詳しく説明したり、また、理論的な問題点を解説するなど、「『解説』の解説」とも言うべきものが、新しく求められていると言えます。 (了) Digital book 『法人税制改正詳解 2011-2012』 編 集:税の街.jp 「議論の広場」編集会議 ページ数:528頁 定 価:2,100円(税込) 発 行 日:2013年1月31日 発 行:清文社 ※本書はデジタルブックです。専用画面より、ID・パスワードを入力し、ログインして閲覧するものです。 本書(デジタルブック)は、新制度の導入や多岐に亘る税制改正により複雑化する法人税の取扱いについて、財務省公表の『税制改正の解説』のうち法人税関連の内容のみに着目し、実践的な解説を行ったものです。初年度版においては平成23年度・平成24年度税制改正及び通達等を織り込み、実務において留意すべき事項や疑問点について詳細な解説を加えています。 過去の改正の背景・経緯を踏まえ、取扱い上の解釈や具体的な事例とともに、経験豊かな税理士・会計士がポイントをまとめた法人税実務の指針書です。 お問い合わせ・ご購入については、こちら(清文社ホームページ)から(試し読みもできます)。
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第14回】 税率変更の問題点(13) 「経過措置に関する注意点(その4)」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 5 役務の提供に関する経過措置について 事業者が、施行日後に役務の提供を行った場合には、新税率を適用することとなるが、以下の経過措置の規定に該当する契約を指定日の前日までに締結した場合には、施行日後の役務の提供であっても旧税率を適用する。 この経過措置規定に該当する「役務の提供に係る契約」とは、その対象となる契約が少なく、具体的には冠婚葬祭のための施設の提供その他便宜の提供等に係る役務の提供(いわゆる冠婚葬祭の互助会における積立金)が該当する。 また、上記経過措置における2号の要件にある「役務の提供の対価の額の変更」には、当該契約において定められた役務の提供の内容の変更も含まれる。 したがって、役務の提供に係る契約であっても、契約期間の定めがあるビル等の清掃・メンテナンス業務、機械・器具等の資産の保守・管理業務などについては、契約期間中に継続して役務の提供を行うものであり、目的物の引渡しが一括して行われるものではないことから経過措置の対象とはならず、施行日後の期間に係る消費税について新税率が適用されることとなる。 なお、このメンテナンス業務や管理業務などの役務の提供に係る資産の譲渡等の時期は、原則として、役務の提供がすべて完了した日となるが、契約又は慣行により1年分の対価を収受することとしている場合で、事業者が継続して当該対価を収受した時に収益計上しているときは、施行日までに収受し、収益計上したものについては旧税率を適用する。 6 長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例を受ける場合における税率等に関する経過措置 (1) 長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例の意義 消費税法における資産の譲渡等の時期については、原則として「課税資産の譲渡等をした時」(いわゆる引渡基準)となっており(国税通則法15条2項7号)、具体的には、資産の譲渡等の場合は資産の引渡しのあった日、資産の貸付けの場合は使用料等の支払いを受けるべき日、役務の提供の場合はその目的物の全部を完成して引き渡した日又は役務の全部を完了した日となっている。 この消費税法の資産の譲渡等の時期の原則については、所得税法又は法人税法における総収入金額又は益金の額に算入すべき時期と同じ取扱いとなっている。 また、所得税法又は法人税法における資産の譲渡等の時期については、いくつかの特例規定を設けていることから、消費税法においてもその取扱いを統一するために、資産の譲渡等の時期の特例規定を設けている。 事業者が所得税法に規定する延払条件付販売等又は法人税法に規定する長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等(以下「長期割賦販売等」という)を行った場合やリース譲渡(ファイナンスリース取引)を行った場合において、その長期割賦販売等に係る対価の額につき延払基準又はリース延払基準の方法により経理することとしているときは、その資産の譲渡等の賦払金の額で翌課税期間以後にその支払期日が到来する部分(すでに支払いを受けたものを除く)については、資産の譲渡等を行った課税期間において資産の譲渡等を行わなかったものとみなして、その部分に係る対価の額を当該資産の対価の額の合計額から控除することができる。 この長期割賦販売等に該当する資産の譲渡等とは、以下のすべての要件を満たすものをいう。 なお、リース譲渡については、上記の要件はなく、その契約につき中途解約ができず、フルペイアウトの取引(前回参照)であれば長期割賦販売等に該当し、資産の譲渡等の時期の特例の対象となる。 消費税法においては、所得税法又は法人税法において長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例規定を適用している場合であっても、原則として引渡基準が適用されるが、事業者の事務負担等を考慮して所得税法又は法人税法とその取扱いを統一するために延払基準又はリース延払基準を適用することができる。 なお、所得税法又は法人税法において延払基準又はリース延払基準により経理しなかった場合や消費税の納税義務規定により課税事業者が免税事業者となった場合、免税事業者が課税事業者となった場合には、この資産の譲渡等の時期の特例を適用することはできず、その不適用となる時に、その資産の対価の額のうち未だ資産の譲渡等を行わなかったとみなされている部分につき一括して資産の譲渡等が行われたものとして処理することとなる。 したがって、長期割賦販売等に係る特例規定の適用関係は以下のようになる。 また、長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例を適用した場合の延払基準に基づく売上計上金額の計算については、以下のようになる。 なお、消費税法における資産の譲渡等の時期の特例は、あくまで売上計上時期の特例であり、資産を譲り受けた事業者については、資産の引渡しを受けた日においてその対価の額の全額につき仕入税額控除を行うこととなるので注意しなければならない。 (2) リース譲渡を行った場合 事業者が平成20年4月1日以後に締結するリース取引については、そのリース資産を賃借人へ引き渡した時にその資産の売買があったものとされ、原則として、その引き渡した時にその資産の対価の額の全額が売上げに計上されることとなる。 しかしながら、このリース譲渡については、上記(1)のように長期割賦販売等に該当することから長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例規定の適用が認められている。 リース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例については、上記(1)の延払基準以外にも、以下のようなリース延払基準により売上げを計上することも認められている。 消費税法においては、所得税法又は法人税法につき上記のリース延払基準により経理処理をしている場合、その同一の基準により資産の譲渡等の時期の特例を適用することとなり、所得税法又は法人税法と異なる基準で行うことはできないので留意しなければならない。 なお、消費税法におけるリース譲渡に係る資産の譲渡等の時期の特例については、上記(1)と同様にあくまで売上計上時期に関する特例であり、リース取引の賃借人側は一括して仕入税額控除を行うこととなるが、リース譲渡については賃貸借処理による分割控除も認めている(前回参照)。 (3) 長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例における経過措置 上記(1)及び(2)の長期割賦販売等に係る資産の譲渡等の時期の特例を受ける場合において、施行日の前に資産の引渡しを行い、施行日以後に支払いを受ける賦払金については、以下の経過措置規定により旧税率が適用される。 この経過措置規定については、請負契約に関する経過措置や資産の貸付けに関する経過措置とは違い、指定日までに契約を締結する必要はなく、施行日前までに資産の引渡しを行っていれば経過措置の対象となる。 消費税法においては、あくまで引渡基準が原則であり、延払基準やリース延払基準は特例規定であり旧税率を適用することが妥当であると考えられている。 経過措置の適用のイメージとしては、以下のようになる。 〔経過措置の適用例〕 【ケース1】 施行日前に引き渡した場合 【ケース2】 施行日後に引き渡した場合 なお、平成27年10月1日以後の賦払金について、【ケース1】の場合には5%、【ケース2】の場合には8%が適用されることとなる。 また、この経過措置の適用を受けた長期割賦販売等について、売上げに係る対価の返還等又は貸倒れがあった場合には、施行日後の返還等又は貸倒れであっても旧税率により処理することとなるので注意しなければならない。 (了)
〔平成25年4月1日以後開始事業年度から適用〕 過大支払利子税制 ─企業戦略への影響と対策─ 【第2回】 「損金不算入額の計算方法」 アースタックス税理士法人 税理士 中村 武 前回は本制度創設の背景及び概要について解説したが、より理解を深めるため、今回は事例及び図解により、「損金不算入額」及びその後の事業年度における「損金算入額」の計算イメージについて示すこととする。なお、解説の都合上、適用除外基準については考慮外とする。 1 損金不算入額の計算イメージ 事例1 〈損金不算入額の計算〉 ① 調整所得金額の計算 当期所得金額50(C)に、関連者純支払利子等の額200(A)と減価償却費30(B)を加算し、調整所得金額を求める(計算イメージとしては、関連者純支払利子等の額及び減価償却費の損金算入前の所得金額を算出する形となる)。 本事例では280となる。 ② 損金算入限度額の計算 ①の調整所得金額の50%相当額である140が損金算入限度額となる。 ③ 損金不算入額の計算 (A)の関連者純支払利子等の額200から、②で求めた損金算入限度額140を引いた60が、損金不算入額となる。 〈事例1:イメージ図〉 このように、所得金額に比して関連者純支払利子等の額が多額である場合には、本制度導入により「所得の金額に比して過大な利子の金額」について損金不算入額が計上されることとなる。 これに対し、次の事例のように、関連者純支払利子等の額が、所得金額に比して多額でない場合には、本規定による損金不算入額は計上されない。 事例2 〈損金不算入額の計算〉 ① 調整所得金額の計算 調整所得金額は、(C)+(A)+(B)の算式により480となる。 ② 損金算入限度額の計算 損金算入限度額は①の50%相当額である240となる。 ③ 損金不算入額の計算 当該事業年度の損金不算入額の計算を行う。(A)-②で、-40となり、当該事業年度の関連者純支払利子額の全額が損金算入される。 〈事例2:イメージ図〉 2 超過利子額の損金算入額の計算 より理解を深めるためのため、その後の事業年度における超過利子額の損金算入額の計算及びそのイメージ図を次にまとめる。なお、上記の事例1を適用初年度、事例2を適用次年度として取り上げる。 事例3 〈超過利子額の損金算入額の計算〉 適用次年度において、 関連者純支払利子等の額(200) ≦ 損金算入限度額(240) であったことから、損金算入限度額に満たない部分の金額の40を限度として、適用初年度に生じた超過利子額が損金算入されることとなる。 具体的には、超過利子額60のうち40が適用次年度において損金算入され、残りの部分である20については翌事業年度以降に繰り越されることとなる。 〈事例3:イメージ図〉 このように、過大支払利子税制においては、損金不算入額を計算する際に、当期所得金額等を考慮に入れる必要があることが、従前の移転価格税制及び過少資本税制との大きな違いの1つとなっている。 また、損金不算入額についても、その後の事業年度において多額の所得金額が出ることが予想される場合には、その時に損金算入が考えられるため、当期のみならず翌期以降の所得予想が、本制度の影響を検討する際に必要となる。 次回以降においては、今回の損金不算入額及びその後の損金算入額計算のイメージをもとに、関連者純支払利子等の額、関連者等に対する支払利子等の範囲等、規定の具体的な内容について確認を行うものとする。 (了)
新社名・新ロゴマークの 商標登録までに生ずる費用の 取得価額算入の要否 日本税制研究所研究員 朝長 明日香 【問】 当社は、来年度に行われる同業社A社との統合に伴い、現在、当社で使用している新社名・新ロゴマークを作り替えて、商標登録する予定です。 この新社名・新ロゴマークの制作費用は、「商標権」として無形固定資産に計上するものと考えますが、商標登録までに生ずる調査費用、出願費用や弁理士に対する報酬などは、法人税基本通達7-3-3の2(固定資産の取得価額に算入しないことができる費用の例示)(1)ニ「登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」として商標権の取得価額に算入しないこととしてよいのかという疑問が生じています。 新社名・新ロゴマークの商標登録までに生ずる次の一連の費用の法人税法上の取扱いについて、ご教授をお願い致します。 なお、当社は、新社名・新ロゴマーク入りの商品を既にホームページ上に掲載しているため、早期審査を受ける条件を満たしていると考えています。 【回答(要旨)】 これらのうち、登録費用(印紙代(登録免許税及び印紙税)及び弁理士への成功報酬並びに登録手数料)は、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニ「登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」に該当すると考えられるため、商標権の取得価額に算入しなくてもよいと考える。 出願費用(印紙代(印紙税)、弁理士への出願代理手数料及び電子化手数料)も、課税実務上、損金の額とすることが容認されているようである。 登録費用及び出願費用以外の費用は、原則どおり、取得価額に算入する必要があると考える。 1 商標権の取得価額 減価償却資産の取得価額に関しては、法人税法施行令54条1項各号に定めがあり、自己の建設、製作又は製造(以下「建設等」という)に係る減価償却資産の取得価額は、次のⅰとⅱの合計額とされている(同項2号)。 法令上は、新社名・新ロゴマークの商標登録までに要した費用の額は、すべて、商標権の取得価額を構成するとされている、と考えてよいであろう。 2 取得価額に算入しないことができる費用 商標権の取得価額に関する法令の規定は、上記1で述べたとおりであるが、この規定に関し、法人税基本通達に次のような解釈が示されている。 そして、この通達に関しては、次のように解説が行われている。 (森文人編著『法人税基本通達逐条解説〔六訂版〕』527頁(税務研究会出版局)) 上記の通達及びその解説には、そもそも上記1の法令の解釈として妥当であるのか否かという点に多分に疑問が存すると言わざるを得ない。 通達に関しては、(1)イからニまでの租税公課を固定資産の取得価額に算入しないことができる理由は何か、また、これらの租税公課と「登記又は登録のために要する費用」は性格が大きく異なるにもかかわらず同様に固定資産の取得価額に算入しないことができるとした理由は何か、というような疑問がある。 また、上記の解説に関しても、上記(1)イからニまでの租税公課等の取扱いの原則と特例が明確ではなく、「ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」が「一種の事後費用である」という根拠は何か、そもそも「事後費用」か否かという時間軸を用いて取得価額となるのか否かということを判断することはできないのではないか、また、「流通税的なもの」「第三者対抗要件を具備するための費用」が取得価額とならない理由は何か、というような疑問点がある。 ただし、このような根本的な疑問は、一応、措いて、上記の通達及び解説に則して本件の取扱いの検討を進めることとする。 本件に関しては上記通達の(1)の「ニ 登録免許税その他登記又は登録のために要する費用」の範囲が問題となるわけであるが、「登記」又は「登録」とは、次のように定義されている。 要するに、「登記」又は「登録」とは、公簿や帳簿に記載することをいうわけである。 また、この「登記又は登録のために要する費用」に関しては、単独で掲げられているのではなく、「その他」という用語を用いて「登録免許税」と併記されていることからも分かるとおり、「登記、登録、特許、免許、許可、認可、認定、指定及び技能証明(以下「登記等」という。)について課する」(登録免許税法2)こととされている「登録免許税」と併記してよい内容のものを指すはずである、という点にも留意する必要がある。 上記(1)においては、イからニまで租税公課を列挙し、その租税公課の中の「登録免許税」に併記した用語は、自ずと、登記等について課される「登録免許税」と併記してよい同種のものを指すものとなっているはずである。 そして、この「登記又は登録のために要する費用」に関しては、「もともとこれらの租税公課等は一種の事後費用であるうえ、その性格も流通税的なものないしは第三者対抗要件を具備するための費用」であるため、固定資産の取得価額に算入しなくてもよい、という考え方がとられているわけである。 このため、上記(1)ニに関しては、「公簿や帳簿に記載するために要する費用」で、「一種の事後費用」かつ「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」という要件に該当するものが、上記(1)ニにおいて固定資産の取得価額に算入しなくてもよいとしているものと捉えることができるはずである。 3 具体的な判定 新社名や新ロゴマークなどを商標登録するまでの間に発生する費用の取扱いは、次のようになるものと考える。 (1) 登録済みの他の商標と同一又は類似するものでないかを調査するための調査費用 「調査」のための費用であって、「登録」のために要する費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニに含まれないことは、明らかである。 (2) 出願費用(印紙代、弁理士への出願代理手数料及び電子化手数料) 「出願」のための費用であって、「登録」のための費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニには含まれないということになるはずである。 しかし、課税実務上は、この印紙税、出願手数料及び電子化手数料に関しては、損金とすることを容認しているケースが多いようである。 その理由は必ずしも明確ではないが、印紙税が租税公課であること、そして、「出願」を行わなければ「登録」も行われないという関係にあるためではないかと想定される。仮に、「登記又は登録のために要する費用」について前提を置かずにその用語のみを捉えるとすれば、その範囲はかなり広くなる可能性がある。 課税実務において、出願費用を損金とすることを容認するということであれば、細かな理由の是非等は別にして、特段、異論が出てくることはないものと考えられるが、税務執行当局の見解が明確でないことは事実であるから、何らかの形で税務執行当局の見解を明確にする方がよい、と考える。 (3) 早期審査費用 「早期審査」のための費用であって、「登録」のための費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニには含まれない。 (4) 拒絶理由通知に応答するための意見書・補正書の作成・提出費用 「意見書・補正書の作成・提出」のための費用であって、「登録」のための費用ではない。また、「流通税的なもの」又は「第三者対抗要件を具備するための費用」とも言えない。 このため、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニには含まれない。 (5) 登録費用(印紙代及び弁理士への成功報酬並びに登録手数料) 登録免許税と「登録」のための費用(印紙税及び弁理士への成功報酬並びに登録手数料)であって、「第三者対抗要件を具備するための費用」であり、法人税法基本通達7-3-3の2(1)ニに含まれる。 (了)
租税争訟レポート【第6回】 税理士の過失による損害賠償義務と 納税者の過失相殺 (税理士損害賠償請求事件控訴審判決) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【事案の概要】 【第一審及び控訴審の判断】 第一審は、承継前第一審原告であった税理士の作成した相続税申告書には、 という誤りがあり、委任者である被控訴人(第一審原告)について、重加算税及び相続税の軽減措置を受けることができなかった損害を認定し、訴訟を承継した相続人らに対して、1億円余りの損害賠償金及びこれに対する遅延損害金の支払いを命じた。 控訴審判決では、上記(1)については第一審と同じく税理士の過失を認める判断を示したが、(2)については、帰属不明であった2万5,000株余りについては、現在の代表者ですら誰に帰属するかわからないものであり、株主構成に関する客観的資料がない状況で、法人税申告書の持株数に依拠して、帰属不明株式を被相続人の相続財産に含めないで(過少に)申告したことが善管注意義務違反には当たらないとした。 また、税務調査の最中に委任契約を解除した行為が、委任契約を一方的に解消した点について、被控訴人は税理士の債務不履行を主張したが、判決では、依頼者である被控訴人は、当時すでに他の税理士法人との間で委任契約を締結しており、被控訴人である納税者の不利な時期に解除したものとはいえないとした。 さらに、納税者である被控訴人の過失について、「被控訴人は、海外資産の存在を認識していた上で、税理士がこれを除外した申告をすることを認識していたのであるから、(中略)海外資産を相続税の申告に反映させる義務があり、これにより隠ぺいに基づく申告を是正あるいは防止することができた」とし、被控訴人にも相応の過失があったから、損害の分担における衡平の観点から、過失相殺割合を3割と判断した。 【解説】 第一審では争点にならなかった被控訴人の過失に対する控訴人の主張ついて、被控訴人は、「時機に遅れた攻撃防御方法であるから却下されるべきである」と主張したが、東京高等裁判所は、「新たな証拠調べを要せず、訴訟の完結を遅延させるとはいえない」として、その主張を斥け、「被控訴人にも過失があったといえる」として、3割の過失相殺を認める判決を下した。 前回のレポートで取り上げたとおり、税理士に対する損害賠償請求事件では、一般納税者と専門家たる税理士との租税に対する知識や経験の差を勘案して、税理士に対して厳しい判決が出されることが多いが、本件は、被相続人の経営する法人の株主構成について、後継者である子すら知らなかったこと、被控訴人が、海外資産の存在を知りながら、それが相続税の課税標準から除外されることを正当化できないことなどを理由に、納税者の側にも相応の責任を認めた判決である。 (了)
平成26年1月から施行される 「国外財産調書制度」の実務と留意点 【第6回】 税理士法人トーマツ パートナー 税理士 小林 正彦 (第2章 制度の詳細な内容) 2-4 記載事項 政令の規定に定めるもののほか、国外財産の所在及び国外財産調書の書式その他国外財産調書の提出に係る手続に関し必要な事項は、財務省令で定めるとされており(送金等令10⑥)、同規則12条に定められている。 改正送金等規 別表第一(第12条関係) 「国外財産調書の記載事項」 この表に規定する「事業用」とは、その者の不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業又は業務の用に供することをいい、「一般用」とは、当該事業又は業務以外の用に供することをいうこととされている。 様式のイメージは以下のとおりである。 【国外財産調書の様式(イメージ)】 (出所)国税庁ホームページ「国外財産調書の提出制度が創設されました」 ※PDFファイル 2-5 加算税の減額・加重措置 適正な国外財産調書の作成・提出を促進することを目的として、所得税に関する修正申告等があった場合の加算税について5%の減額又は加重、相続税について5%の減額が行われることとなった。 具体的内容は、以下のとおりである(送金等法6①)。 (1) 概要 イ 国外財産について所得税・相続税の申告漏れがあった際、国外財産調書の提出があれば、加算税を5%減額する。 ロ 国外財産につき所得税の申告漏れがあった際、国外財産調書の提出がない(重要な事項の記載が不十分であると認められるときを含む)ときは、加算税を5%加重する。 死亡した者に係る所得税は除き、相続税について加重はない。 相続税について加重が適用されないこととした理由は、相続人にとって被相続人の財産をすべて漏れなく把握していなかった場合に、相続人の責めに帰すことはできない場合もあるからであると思われる。なお、贈与税については、減額も加重もない。 (2) 対象となる「国外財産から生ずる所得」 加算税の減額・加重の対象となる「国外財産から生ずる所得」は、以下のとおりである。 国外財産から生ずる果実としての所得金額そのものを指しており、事業所得の申告漏れの結果として国外資産が形成されている場合のその事業所得の申告漏れ相当額を指すものではないと考えられる。 具体的には、政令・省令において以下が列挙されている(送金等令11①)。 (3) 減額・加重の適用対象の判断の根拠となる国外財産調書 減額措置、加重措置の適用の可否は、以下の国外財産調書で判断される(送金等法6③)。 イ 所得税の場合 その修正申告等に係る年分の国外財産調書(提出は翌年)に記載があるかどうかで判断される。ただし、年の中途で修正申告等の基因となる国外財産を有しなくなった場合には、もはやその財産は記載されなくなるため、その年に提出すべき国外財産調書つまり前年分の調書に記載されているかどうかで判断することとされている。 ロ 相続税の場合 次のいずれかの国外財産調書に記載があれば、5%減額される。 上記の国外財産調書に記載がなければ、他の年分に記載があっても記載なしと判断されることになるため、過去の調書と比較して、単純な記載漏れがないように注意する必要がある。 (了)
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載10〕 外国子会社合算税制 (タックス・ヘイブン対策税制)の 適用の有無 税理士 郭 曙光 外国子会社合算税制(タックス・ヘイブン対策税制)の適用関係については、内国法人に係る外国法人に個人株主が存在する場合には、十分注意する必要がある。 以下では、次の例を用いて、内国法人A社に外国子会社合算税制の適用があるのか否かについて、解説を行うこととしたい。 1 内国法人A社は外国子会社合算税制の適用対象法人になるのか否か 外国子会社合算税制の対象となる内国法人は、次に掲げる法人とされている(措法66の6①)。 すなわち、内国法人が外国関係会社に対する株式等の保有割合が10%以上である場合、又は、内国法人の単独の保有割合が10%未満ではあるが、その内国法人の属している同族株主グループの保有割合が10%以上である場合は、その内国法人は、外国子会社合算税制の適用対象法人とされる。 内国法人A社に外国子会社合算税制が適用されるのか否かは、香港法人B社が外国関係会社に該当するのか否かということを検討するとともに、内国法人A社が属している同族株主グループが香港法人B社の株式等の10%以上を保有しているのか否かということを検討する必要がある。 2 香港法人B社が「外国関係会社」に該当するのか否か 「外国関係会社」とは、「外国法人で、その発行済株式等(自己株式等を除く)のうちに居住者及び内国法人並びに特殊関係非居住者が直接及び間接に保有する割合が50%を超えるもの」とされている(措法66の6②一)。 国外に居住する親族等にその株式等を分散保有することが懸念されるため、外国関係会社の判定においては、「特殊関係非居住者」の持分が例外的に考慮されている。 この「特殊関係非居住者」とは、居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある非居住者で、次に掲げるものとされている(措法66の6②一、措令39の14③)。 香港法人B社が「外国関係会社」に該当するのか否かは、香港法人B社の発行済株式総数の93%を保有している乙が「居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある非居住者」(措法66の6②一括弧書)に該当するのか否かによって決まることとなる。 乙が甲の親族(弟)であることは間違いないものの、香港法人B社の株式を保有していない甲がこの「特殊関係非居住者」の判定における「居住者」に含まれることになるのか、という疑問が生じる。 租税特別措置法66条の6第2項1号の「特殊関係非居住者」の定義に関する部分の前後の規定は、次のとおりである。 上記の規定の「特殊関係非居住者」の括弧書き中の「居住者」に関しては、その括弧書きの前に外国法人の株式を保有する「居住者」という文言があるにもかかわらず、その括弧書きの前の「居住者」を指す場合に用いられる「当該」又は「その」という文言が用いられていない。このため、法令の規定の正しい解釈という観点からすると、上記の規定の括弧書き中の「居住者」は、括弧書きの前の「居住者」に限定されない、ということになる。 このような解釈の妥当性を裏付けるものとして、この「居住者」に関し、「判定対象となる外国法人の株式等を直接及び間接に保有しているか否かを問わない」※という指摘がある。 このような点からすれば、香港法人B社の株式を保有していない甲は、「特殊関係非居住者」の判定における「居住者」に含まれることになり、乙は、上記①の居住者の親族に該当し、「特殊関係非居住者」となることになる。乙が「特殊関係非居住者」に該当すれば、内国法人A社と「特殊関係非居住者」が香港法人B社の発行済株式等のすべてを保有していることとなり、香港法人B社は「外国関係会社」に該当することになる。 ※大蔵省主税局長 高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』116頁(清文社)昭和54年1月10日 3 同族株主グループが香港法人B社の株式等の10%以上を保有しているのか否か 内国法人A社が単独で保有する香港法人B社の株式等の割合は7%であり、単独では10%未満ということになっているが、内国法人A社が属する一の同族株主グループの保有割合が10%以上か否かによって、外国子会社合算税制の適用があるのか否かが決まることになる。 この「同族株主グループ」については、租税特別措置法66条の6第2項6号で次のように定義されている。 この規定の「政令で定める特殊の関係のある者」に関しては、次に掲げる個人又は法人とされている(措令39の16⑥一・二)。 上記の租税特別措置法66条の6第2項6号の規定中の「当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者」の「一の居住者」に関しては、「当該」という用語が付されているため、その前に存在する「一の居住者」を指すことになる。この「当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者」の「一の居住者」は、外国関係会社の株式等を直接又は間接に保有する者ということになるわけである。 この点は、上記2において検討を行った租税特別措置法66条の6第2項1号括弧書きの「居住者」とは異なることとなる。 このため、香港法人B社の株式を保有していない甲は、この「一の居住者」に含まれず、非居住者乙も、「当該一の居住者又は内国法人と政令で定める特殊の関係のある者」に該当しないこととなる。 このように、内国法人A社と非居住者乙は一の「同族株主グループ」に属することとはならないため、株式等の保有割合が7%である内国法人A社は、外国子会社合算税制の適用対象法人とはならないこととなる。 4 結論 居住者甲は、判定対象である香港法人B社の株式を保有していないため、「同族株主グループ」の判定における「一の居住者 」に該当しない。非居住者乙も、居住者と「特殊の関係のある者」とならず、「同族株主グループ」に属する者とはならないこととなる。 この結果、内国法人A社は、香港法人B社の株式等の単独の保有割合が10%未満であり、「同族株主グループ」に属することもなっていないため、外国子会社合算税制の適用対象法人に該当せず、外国子会社合算税制の適用を受けることはない、ということになる。 (了)
会計リレーエッセイ 【第3回】 「企業の会計人材」 住友商事株式会社 特別顧問 島崎 憲明 会計との付き合いは、44年前の入社以来ということになる。 特に経理の仕事を希望したわけではないが、決算・業績管理・税務などを担当する部署に配属された。その後、国内外での異動や昇格などにより担当業務の拡がりはあったが、幸か不幸か、会計との縁が切れぬまま役員を卒業した。卒業後、IFRS財団のトラスティとして、単一で高品質の会計基準の作成と各国での適用に協力してきた。 今や会計がライフワークになってのめり込んでいる自分が居る。 総合商社にこのような業務があるとは知らずに入り込んだ経理の仕事には、本気で取り組めない時期もあった。しかし、入社当時の私の上司は部下の指導に熱心で、会計の知識だけでなく企業経営と会計という視点から新しいことへのチャレンジ精神が旺盛な方であった。 彼の机の上には『連結会計』とタイトルが書かれたファイルがあった。44年も前のことであるが、子会社も含めた決算が必要になる時代が来る、そのための勉強中だと聞かされた。 自分でとことん考える、工夫をこらす、原典にあたる、この3点を徹底して叩き込まれたが、これが私の企業会計人としてのバックボーンとなった。 私はこの教えを同僚と共有してきたが、駅伝のタスキのごとく、脈々と次の世代に受け継がれていると感じている。 企業会計人には、一般的に財務報告と経営管理の2つの機能が求められる。 前者は、利害関係者が経済的な意思決定を行う際に必要な情報を提供する機能であり、後者は、マネジメントが会社の状況を計数的に正確に把握し、企業価値の最大化を図るために経営資源の最適な配分を決定し、その結果を評価するために必要な情報を提供する機能である。 日本企業のほとんどは、企業会計人を新卒から自前で育成してきたが、近年その傾向に変化が見られる。 自前の養成に加え、公認会計士資格保有者や高度な会計スキルを持つ会計人材のキャリア採用、企業からの会計大学院派遣などが増加している。 これは企業活動の国際的拡がりや高度な会計知識と経験を必要とする複雑な事業が増えてきたことが一因である。 企業会計人(会計のみならず財務やリスクマネジメント業務も含まれる)に求められる会計リテラシーは、次の4段階に整理できる。 第一段階は、月次、四半期、通期の財務諸表作成など日々の経理実務を行う上で求められる基本的な会計・税務知識。 第二は、会社法・金融商品取引法上の開示、会計監査対応、内部統制に必要となる高度な会計知識。 第三は、事業経営の成果や問題点などを財務諸表から読み解く力。 第四は、経営資源の最適配分と適切なリスクマネジメントにより、企業の持続的成長を促す事業計画を策定し、PDCAサイクルを確実に回していく力、である。 私の場合、経理という仕事が面白いと前向きな気持ちに変わったきっかけは、前述した第三段階の管理会計の仕事を始めてからであった。 入社5年目頃、会社の事業計画策定に際して、ある事業の将来性や業界における競争力などについて分析を行い、トップマネジメントに提言する機会があった。 同業他社の有価証券報告書による財務分析や、今でいうビジネスモデルの比較考量なども行い、分析対象となった事業の将来性についてかなり大胆に言及した。 纏めたレポートに対してトップから直々のコメントもあって、経理マンとしてのモチベーションが高揚したことを今でもよく覚えている。 私が財務報告に関して会計基準などの勉強に真剣に取り組み始めたのは、ニューヨーク駐在から帰国し、部長に就任した頃からであった。 1990年代に入ってのバブル崩壊により、右肩上がりを前提にした経営に様々な歪みが顕在化し、日本的な会計対応にも課題山積の時期であった。ワラント付社債の金利処理、有価証券の評価方法、持合株式売却損益の認識方法、特金・ファントラの処理など、ファイナンス絡みの日本の会計基準は、米国に比べて大きく遅れていた。 入社早々企業会計原則を学び、日本基準に保守主義の原則があることは知っていたが、当時適用されていた基準には、企業経営の健全性からみて疑問を感じた。米国駐在時に当時のグローバルスタンダードである米国基準を学んだからこそ日本基準の問題点もよく見えたし、バブル崩壊後の処理についても企業の永続性という観点から適切な会計的対応も採れたと思う。 アベノミクスの三本の矢である成長戦略について、日本の企業が持続的成長を図るためには、アジア諸国をはじめ諸外国の成長を取り込んでいくことが必須である。 我が国におけるIFRS導入論議は一昨年の金融担当大臣の発言以来、具体的な方向性の審議が止まっている。 企業のグローバル展開が進む中、各企業の財務報告基準はどの基準に拠るのが好ましいのか、また現在の基準を使い続けることにより将来発生しうるリスクを回避するにはどうしたらよいのか、企業の経理担当者には深い考察に基づく企業トップに対する明確な提言が今、求められているのである。 (了)
-お知らせ- 適用指針等を織り込んだ最新版の『税効果会計を学ぶ』が好評連載中です。 税効果会計を学ぶ 【第5回】 「繰延税金資産及び繰延税金負債等の 表示方法並びに注記事項」 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ 繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法 「税効果会計に係る会計基準」第三及び「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第10号。以下「個別税効果会計実務指針」という)28項から30項、45項は、繰延税金資産及び繰延税金負債等の表示方法を次のように規定している。 Ⅱ 注記事項 「税効果会計に係る会計基準」第四及び個別税効果会計実務指針31項は、次のように注記事項を規定している。 (了)