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〈徹底分析〉租税回避事案の最新傾向 【第14回】「法人税法132条」

〈徹底分析〉 租税回避事案の最新傾向 【第14回】 「法人税法132条」   公認会計士 佐藤 信祐     16 判例分析(法人税法132条) (1) 最一小判令和4年4月21日(TAINSコード:Z888-2411・ユニバーサルミュージック事件) ユニバーサルミュージック事件において、最高裁は、「同族会社等による金銭の借入れが上記の経済的合理性を欠くものか否かについては、当該借入れの目的や融資条件等の諸事情を総合的に考慮して判断すべきものであるところ、本件借入れのように、ある企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合において、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くときは、当該借入れは、上記諸事情のうち、その目的、すなわち当該借入れによって資金需要が満たされることで達せられる目的において不合理と評価されることとなる。そして、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くものか否かの検討に当たっては、①当該一連の取引が、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるかどうか、②税負担の減少以外にそのような組織再編成を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在するかどうか等の事情を考慮するのが相当である。」と判示した。 第15回で解説するヤフー事件の判示と似ているようにも思われるが、制度濫用論ではなく、経済合理性基準により租税回避を捉えているという違いがある。さらに、最高裁は、「本件組織再編取引等は、通常は想定されない手順や方法に基づいたり、実態とはかい離した形式を作出したりするなど、不自然なものであるとまではいえず、また、税負担の減少以外に本件組織再編取引等を行うことの合理的な理由となる事業目的その他の事由が存在したものということができる。そうすると、本件組織再編取引等は、これを全体としてみたときには、経済的合理性を欠くものであるとまでいうことはできず、本件借入れは、その目的において不合理と評価されるものではない。」と判示した。前述のように、「同族会社等による金銭の借入れが上記の経済的合理性を欠くものか否かについては、当該借入れの目的や融資条件等の諸事情を総合的に考慮して判断すべき」であることから、経済合理性の有無については、様々な事情を総合的に考慮して判断することがわかる。本事件において、経済合理性基準に照らして最高裁の判断が妥当であったかどうかについては、異なる見解はあり得ると思うが、少なくとも、同族会社等の行為又は計算の否認の適用については、経済合理性基準により判断し、かつ、経済合理性を欠くかどうかについては、様々な事情を総合的に考慮するという最高裁の立場が確立したと解することに問題はないと思われる。 また、前述のように、「本件借入れのように、ある企業グループにおける組織再編成に係る一連の取引の一環として、当該企業グループに属する同族会社等が当該企業グループに属する他の会社等から金銭の借入れを行った場合において、当該一連の取引全体が経済的合理性を欠くときは、当該借入れは、上記諸事情のうち、その目的、すなわち当該借入れによって資金需要が満たされることで達せられる目的において不合理と評価されることとなる。」と判示していることから、組織再編税制に係る規定によって法人税の負担が減少したのではなく、組織再編成に付随する借入れによって法人税の負担が減少した場合であっても、組織再編成に経済合理性がなければ、それに付随する借入れについても経済合理性がないと判断されることがわかる。 さらに、大竹敬人「判解」ジュリスト1581号100-101頁(令和5年)では、「独立当事者間の通常の取引と異なる点があるかを検討することは有用であることを前提として(いる)」「税負担の減少をもたらす目的があったとしても、直ちに当該行為又は計算が経済合理性を欠くものと評価されるとは限ら(ない)」と解説されており、本事件が今後の実務に与える影響は大きいと考えられる。 (2) 実務上の対応 本事件では、ヤフー・IDCF事件と同様の考慮事項を用いながら経済合理性基準の判定を行うことと判示されたことから、第15回で解説する包括的租税回避防止規定における解釈を参考にすることができる。すなわち、不自然なものであるかどうかは、その程度が問題となるのであり、わずかな不自然さをもって経済合理性がないと判断することはできない。さらに、事業目的があればよいというわけではなく、税負担の減少目的といずれが上位にあるのかにより判断されることになる。 そして、組織再編成に付随する取引によって法人税の負担が減少した場合には、組織再編成を含む一連の取引に経済合理性があるかどうかにより判断することになるという点は非常に重要である。例えば、残余財産の確定による繰越欠損金の引継ぎ(法法57②)については、組織再編税制の対象外であることから、法人税法132条の2に規定されている包括的租税回避防止規定は適用されないが、同法132条に規定されている同族会社等の行為又は計算の否認の判断においては、残余財産の確定を含む一連の取引に経済合理性があるかどうかにより判断されることになる。 このように、第15回で解説する制度濫用論と比較すると、租税回避であると結論付けるための論理が似ているため、制度濫用論と経済合理性基準の違いがよくわからなくなるが、制度趣旨に反するかどうかという点を強調しているわけではないという違いがある。すなわち、通常は想定されない手順や方法に基づいたかどうかの判断については、専ら経済人としての見地により判断すべきであるため、例えば、残余財産が確定する前に完全支配関係を成立させることにより繰越欠損金を引き継ぐ行為については、残余財産が確定する前に完全支配関係を成立させることが、ビジネスの世界で想定される手法であり、かつ、その事案においても、経済合理性が認められるかどうかにより判断されることになる(※50)。一般的に、出資者に迷惑をかけないという理由により、残余財産が確定する前に少数株主から出資金額で買い取るということは行われており、不自然な取引であるとはいい難い。そのため、先ほどの事案において、少数株主から買い取ることに経済合理性が認められるのであれば、同族会社等の行為又は計算の否認を適用すべきではなく、経済合理性が認められないのであれば、同族会社等の行為又は計算の否認が適用される余地があるということになる。 (※50) 谷口勢津夫「谷口教授と学ぶ『税法基本判例』【第22回】」Profession Journal No.504(令和5年)では、「制度濫用基準は税法上の課税減免規定の濫用による租税回避に関する否認規範であり、経済的合理性基準は私法上の形成可能性の濫用による租税回避に関する否認規範であるといえよう。」と説明されている。 このように、ユニバーサルミュージック事件を参考にしたうえで、同族会社等の行為又は計算の否認の適用可能性を検討する際には、①経済合理性の判断が組織再編成を含む一連の取引により判断されるという点と、②経済合理性の考慮事情については、ヤフー・IDCF事件がそれぞれ参考にされているという点に留意が必要になる。 (了)

#No. 543(掲載号)
#佐藤 信祐
2023/11/09

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕税法や通達以外の実務知識 【第13回】「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その5)」-建蔽率②-

〔資産税を専門にする税理士が身に着けたい〕 税法や通達以外の実務知識 【第13回】 「建築基準法・都市計画法の基礎知識(その5)」 -建蔽率②-   税理士 笹岡 宏保   基本的な論点 第12回において、建蔽率についてその基本(建蔽率は、原則として、次に掲げる算式により計算されます。)を確認しました。 (算式) 今回は、この建蔽率の計算に当たって、応用的にはなるものの、実務上ではやはり習得しておくべきと考えられる項目を確認してみることにします。   解決への指針 (1) 制限の異なる2以上の地域にわたる場合の建蔽率の計算 建築基準法第53条(建蔽率)第2項の規定では、建築物の敷地が建築物の建蔽率に関する制限を受ける地域又は区域(当該地域又は区域については、前号(第12回)の「解決への指針」の(1)を参照してください。)の2以上にわたる場合においては、当該建築物の建蔽率は、当該制限を受ける当該各地域又は区域内の建築物の建蔽率の限度にその敷地の当該地域又は区域内にある各部分の面積の敷地面積に対する割合を乗じて得たものの合計以下でなければならないものとされています。この取扱いを算式及び図解で示すと、それぞれ、次に掲げるとおりとなります。 (算式) 図解 上記の取扱いを設例で確認すると、次のとおりとなります。 設例1 基本的な設例 (問題) 下記に掲げる敷地(敷地X及び敷地Yから構成される1単位の敷地)に対する建蔽率の限度(上限)を算定してください。 (計算)   設例2 応用的な設例(敷地のうちに敷地面積に算入されない部分を有する場合) (問題) 下記に掲げる敷地(敷地甲及び敷地乙から構成される1単位の敷地)に対する建蔽率の限度(上限)を算定してください。 (注) 敷地乙が接する前面路は、建築基準法第42条(道路の定義)第2項に規定する道路(いわゆるセットバックを必要とする道路)であることが、確認されています。 ▷留意事項 建築基準法施行令第2条(面積、高さ等の算定方法)第1項第1号の規定では、要旨、「敷地面積は、敷地の水平投影面積による。ただし、建築基準法第42条(道路の定義)第2項、第3項又は第5項の規定によって道路の境界線とみなされる線と道との間の部分の敷地は、算入しない。」とされています。 すなわち、(問題)に掲げる敷地乙については、敷地乙の面積のうち、次に掲げる計算により求めた面積である20㎡は、建蔽率の計算の基礎とされる敷地面積には算入されないことになります。 (計算) 上記の取扱いを図示すると、次のとおりとなります。 敷地面積に算入されない部分 (計算) (2) 建蔽率の制限緩和(特定行政庁が前面道路の境界線から後退して壁面線を指定した場合) 建築基準法第53条(建蔽率)第5項第1号の規定では、要旨、「特定行政庁が街区における避難上及び消火上必要な機能の確保を図るため必要と認めて前面道路の境界線から後退して壁面線を指定した場合における当該壁面線を越えない建築物で、特定行政庁が安全上、防火上及び衛生上支障がないと認めて許可したものの建蔽率は、原則的な取扱いに規定する建蔽率にかかわらず、その許可の範囲内における建蔽率とすることができる。」とされています。 この取扱いを図示すると、次のとおりです。 (了)

#No. 543(掲載号)
#笹岡 宏保
2023/11/09

Q&Aでわかる〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第34回】「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び建築中の家屋がある場合の取扱い」

Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第34回】 「〔第5表〕課税時期前3年以内に取得した土地等及び 建築中の家屋がある場合の取扱い」   税理士 柴田 健次   Q 経営者甲(令和5年8月1日相続開始)が100%保有している甲株式会社を長男が相続していますが、甲株式会社の資産の中に令和4年7月15日に取得しているA土地(取得価額200,000千円)があります。A土地の上に賃貸用建物であるAアパートを建築中でしたが、引渡しを受ける前に相続が発生しています。 甲株式会社は3月決算で直前期末は令和5年3月31日となり、時系列及び詳細は、下記の通りとなります。 この場合に、甲の相続税の甲株式会社の株式価額の算定上、第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地及び建築中の家屋等の相続税評価額及び帳簿価額はそれぞれいくらになりますか。 なお、令和4年から令和5年までA土地の路線価に変動はないものとします。 また、純資産価額の計算においては、仮決算方式(課税時期の資産及び負債の帳簿価額に基づき評価する方式)により計算するものとします。 上記のとおり、課税時期時点における工事進捗割合は80%となります。 A 第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する「3年以内取得土地等(A土地)」及び「建築中の家屋等(建設仮勘定)」の内訳は、下記の通りとなります。 (※) ① 建築中の家屋の評価:100,000千円 × 80% × 70% = 56,000千円 ② 未払金:100,000千円 × 80%-60,000千円 = 20,000千円 ③ ①-② = 36,000千円  ◆  ◆  ◆ ① 3年以内取得土地等及び3年以内取得家屋等の計上金額 評価会社が課税時期前3年以内に取得又は新築した土地及び土地の上に存する権利(以下「土地等」という)並びに家屋及びその附属設備又は構築物(以下「家屋等」という)の価額は、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価するものとされています。 この場合において、当該土地等又は当該家屋等に係る帳簿価額が課税時期における通常の取引価額に相当すると認められる場合には、当該帳簿価額に相当する金額によって評価することができるものとするとされています(評価通達185括弧書)。 帳簿価額が通常の取引価額として認められない場合として、買い急ぎや関連会社からの有利な価額による取得など適正な時価による取得として認められない場合や取得時期から課税時期までの間における地価の急騰や資材の高騰があった場合など取得時期と課税時期の時価に大きな変動があった場合が考えられます。   ② 建築中の家屋は課税時期前3年以内に該当するか否か 本連載の【第32回】において、旧租税特別措置法(以下「旧措置法」という)69条の4について解説をしていますが、旧措置法69条の4の規定と評価通達185括弧書の取扱いは、いずれも「課税時期前3年以内に取得又は新築をした土地等及び家屋等」を対象としていますので、旧措置法69の4の取扱いは参考になります。旧租税特別措置法関係通達69の4-3は、「取得等の日」について、下記のとおり規定しています。 ※注意書き省略 上記に記載のとおり、他に請け負わせて建設した建物等については、当該建物等の引渡しを受けた日を建物等の取得の日としていますので、本問の場合には、課税時期時点において、まだ建物の取得等はしていないことになります。したがって、建築中の家屋は3年以内取得家屋等に該当せず、通常通り財産評価を行うことになります。   ③ 建築中の家屋の評価 建築中の家屋は、下記の通り評価することになります(評基通89、91)。 費用現価の額とは、相続開始日までにその家屋に投下された建築費用の額を、課税時期の価額に引き直した額の合計額のことをいいます。実務的には、工事請負金額に工事進捗率を乗じて計算することになりますので、課税時期における工事進捗率を建築会社に確認することになります。 本問の場合には、費用現価の額は、80,000千円(100,000千円 × 80%(工事進捗率))となりますので、建築中の家屋の評価は、56,000千円(80,000千円 × 70%)となります。   ④ 工事請負金額に係る債権債務 上記③で計算した費用現価の額は、工事完了金額を意味しますので、その工事完了金額に対して既に支払っている金額が大きい場合には、その超過部分については前渡金として資産となり、反対にその工事完了金額に対して既に支払っている金額が少ない場合には、その不足部分については未払金として負債となります。 本問の場合には、20,000千円(100,000千円 × 80% -(30,000千円 + 30,000千円))が未払金となります。   ⑤ 借家権控除の適用の可否 借家権の減額の趣旨は、利用について制約を受け、借家権を消滅させるためには立退料の支払いが必要になるためとされていますので、相続開始時点において、建物の賃貸借契約が開始されていない場合には、原則として、借家権控除の適用はありません。 本問の場合には、まだ建物自体が完成しておらず、相続開始時点において借家権は発生していませんので、借家権控除を適用することはできません。   ⑥ 本問の場合の当てはめ ■A土地 A土地は3年以内取得土地等に該当し、購入時と課税時期の路線価も同一となりますので、取得価額(帳簿価額)が通常の取引価額となります。したがって、200,000千円が相続税評価額となります。 ■建築中の家屋等 建築中の家屋等の評価は、建築中の家屋の評価に工事完了金額と支払金額との差額の債権債務を加減した金額が相続税評価額となります。 建築中の家屋の評価は、③で計算した56,000千円であり、工事完了金額と支払金額との差額は④で計算した未払金20,000千円となりますので、36,000千円(56,000千円-20,000千円)が相続税評価額となります。 建築中の家屋の評価(56,000千円)と未払金(20,000千円)を、別々に資産の部と負債の部に表示する方法もありますが、あくまでも建設仮勘定60,000千円の財産評価が36,000千円(56,000千円-20,000千円)になりますので、建設仮勘定に対応する相続税評価額として表示した方が分かりやすいと思います。 すなわち、帳簿価額である建設仮勘定60,000千円は、工事完了金額80,000千円と工事完了金額に対する未払金20,000千円に分解することができ、その工事完了金額80,000千円について財産評価を行い、未払金を控除したということになります。 仮に未払金20,000千円を負債の部に計上する場合には、3年以内取得土地等(A土地)及び建築中の家屋等の資産及び負債の部に計上する相続税評価額及び帳簿価額は、下記の通りとなります。 最終的に第5表「1株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」において計算される「相続税評価額による純資産価額」及び「帳簿価額による純資産価額」は、どちらで表示しても同じとなります。したがって、未払金を負債の部に計上しても問題はありませんが、あくまでも建設仮勘定60,000千円に対応する相続税評価額が36,000千円(56,000千円-20,000千円)となりますので、上記の記載をする場合には、未払金の帳簿価額欄に20,000千円を計上しないように注意する必要があります。   ☆実務上のポイント☆ 建築中の家屋の評価は、3年以内取得家屋等には該当しませんが、建築中の家屋の評価を行うとともに工事完了金額と支払金額との差額としての債権債務の計上も忘れないように注意する必要があります。 (了)

#No. 543(掲載号)
#柴田 健次
2023/11/09

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第59回】「親族外事業承継と役員選任権付株式」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第59回】 「親族外事業承継と役員選任権付株式」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 梶本 岳   相談内容 私は、自動車部品製造業を営む非上場会社S社の創業者Nです。 親族の中にS社の経営を任せることができる者が見当たらないため、社内の役員・従業員の中から後継者を決めて事業承継を行うことにしました。すでに、50代のA氏を代表取締役社長に就任させており、私は代表取締役会長としてA社長への経営承継を進めているところです。 私が保有しているS社の株式については、家族に相続税の負担がかかることがないように、A社長を中心とする経営陣、従業員持株会に低廉な金額で譲渡することを検討しています。 S社株式をA社長らに譲渡するタイミングで代表権を返上し、経営の第一線から退くつもりです。ただし、ライフワークである研究開発やモノ作りは続けたいと考えており、株式を譲った後も非常勤役員として会社に残りたいと考えています。 少し心配なのは、今まではS社株式の全部を保有している私が取締役人事を取り仕切ってきましたが、株式譲渡後は私が他の株主に選んでもらう立場になってしまうということです。創業者である私が追い出されるようなことはないと思いたいですが、私がS社株式を譲った後も、取締役としての身分を保証してもらえるような仕組みがあれば、提案していただけないでしょうか。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 役員選任権付株式 役員選任権付株式とは、役員選任権付株式を保有する株主を構成員とする種類株主総会において取締役又は監査役を選任することを定めた株式をいいます(会108①九)。 役員選任権付株式を保有する株主を構成員とする種類株主総会においてすべての取締役を選任し、普通株式など他の種類株主は保有株式数・議決権数にかかわらず1人も選任することができない設計とすることも可能ですし、株式の種類ごとに選任できる取締役・監査役の数を定めることも可能です。 〈役員選任権付株式による役員選任と定款記載事項〉 したがって、N会長の保有株式のうち1株を役員選任権付株式に変更して引き続きN会長が保有し、残りの株式をA社長ら経営陣、従業員持株会に譲渡すれば、N会長が引き続き役員人事に関与することが可能となります。 〈N会長保有株式の処遇〉 N会長は代表取締役退任後も役員選任権を掌握することで院政を敷くことも可能ですが、株式を取得したA社長ら経営陣が役員人事にいつまでも関与できないような種類株式設計にしてしまうと、安定的な経営を行っていくことが難しくなりますので、N会長が自らの役員選任を確実とする程度の種類株式設計に留めることをお勧めします。   [2] 取得条項付株式 役員選任権付株式は取締役や監査役の選任という非常に強い権限を有しているため、経営陣の意に沿わない株主の手に渡ってしまうことがないように注意する必要があります。事業承継対策として拒否権付株式を発行する場合などと同様、株主に相続が発生するなど一定の事由が生じた場合に、発行会社が株主の同意なく買い戻すことができる取得条項を付帯させるべきでしょう(会2十九、108①六)。 種類株式に付帯させる取得条項の一例については、【第44回】「親族外事業承継と拒否権付株式」を参照ください。   [3] 結論 親族外事業承継において役員・従業員承継を選択するオーナー経営者、特に製造業のオーナー経営者の中には、経営の第一線から退いた後も自らのライフワークとして研究開発やモノ作りに携わり続けるため、役員として会社に残りたいと考えるオーナーが多いようです。 自らが信頼して経営を託した役員・従業員とはいえ、すべての株式を譲渡した後も役員としての身分が保証されるのか不安を感じることもあると思いますが、本事例のように役員選任権付株式を保有していれば、自らを取締役に選任するなど役員人事に関与し続けることが可能です。 オーナー経営者が保有する株式を役員選任権付株式に変更するには全株主の同意が必要となります。オーナー経営者がすべての株式を保有している場合は問題ありませんが、オーナー経営者以外にも株主が存在し、全株主の同意が得られない場合は役員選任権付株式を導入することはできません。 具体的な対策については、税理士等の専門家と相談の上、実行されることをお勧めします。   (了)

#No. 543(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2023/11/09

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第92回】「家屋の評価誤りと除斥期間事件」~最判令和2年3月24日(民集74巻3号292頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第92回】 「家屋の評価誤りと除斥期間事件」 ~最判令和2年3月24日(民集74巻3号292頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 543(掲載号)
#菊田 雅裕
2023/11/09

リース会計基準(案)を学ぶ 【第9回】「貸手のリースの会計処理②」

リース会計基準(案)を学ぶ 【第9回】 「貸手のリースの会計処理②」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回(第8回)に引き続き、貸手のリースの会計処理について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 所有権移転ファイナンス・リースと所有権移転外ファイナンス・リース ファイナンス・リースと判定されたもののうち、次の(1)から(3)のいずれかに該当する場合、「所有権移転ファイナンス・リース」に分類し、いずれにも該当しない場合、「所有権移転外ファイナンス・リース」に分類する(リース適用指針(案)66項、BC96項)。   Ⅲ 貸手のファイナンス・リースの会計処理 貸手は、ファイナンス・リースについて、通常の売買取引に係る方法に準じた会計処理を行う(リース会計基準(案)43項)。 企業会計基準適用指針第16号では、ファイナンス・リース取引の会計処理について、次の3つの方法を定めている(リース適用指針(案)BC98項)。 リース適用指針(案)は、上記の(2)の方法について、収益認識会計基準において割賦基準が認められなくなったこととの整合性から廃止するとし(リース適用指針(案)BC100項、収益認識会計基準104-3項)、以下で述べる会計処理を提案している。   Ⅳ 所有権移転外ファイナンス・リースの会計処理 1 製品又は商品を販売することを主たる事業としている企業が、同時に貸手として同一の製品又は商品を原資産としている場合 製品又は商品を販売することを主たる事業としている企業が、同時に貸手として同一の製品又は商品を原資産としている場合で、貸手として行ったリースが所有権移転外ファイナンス・リースと判定されるとき、貸手は、次の会計処理を行う(リース適用指針(案)67項、BC99項)。 2 貸手が原資産と同一の製品又は商品を販売することを主たる事業としていない場合 貸手が原資産と同一の製品又は商品を販売することを主たる事業としていない場合で、貸手として行ったリースが所有権移転外ファイナンス・リースと判定されるとき、貸手は、次の会計処理を行う(リース適用指針(案)68項、BC101項)。 3 利息相当額の各期への配分 貸手における利息相当額の総額は、貸手のリース料及び見積残存価額(貸手のリース期間終了時に見積られる残存価額で残価保証額以外の額)の合計額から、これに対応する原資産の取得価額を控除することによって算定する(リース会計基準(案)45項)。 利息相当額の総額を貸手のリース期間中の各期に配分する方法は、原則として、利息法による(リース会計基準(案)45項、リース会計基準(案)69項~71項)。 この場合に用いる利率は、リース適用指針(案)62項の貸手の計算利子率とする(リース適用指針(案)69項)。   Ⅴ 所有権移転ファイナンス・リースの会計処理 所有権移転ファイナンス・リースの会計処理については、基本的に、所有権移転外ファイナンス・リースと同様である(リース適用指針(案)74項、75項、BC102項)。 所有権移転ファイナンス・リースでは、リース適用指針(案)67項及び68項にある「リース投資資産」は「リース債権」と読み替えて適用することになる(リース適用指針(案)74項)。   Ⅵ オペレーティング・リースの会計処理 「オペレーティング・リース」とは、ファイナンス・リース以外のリースをいう(リース会計基準(案)13項)。 貸手のオペレーティング・リースについては、通常の賃貸借取引に係る方法に準じた会計処理を行う(リース会計基準(案)46項)。 貸手は、オペレーティング・リースによる貸手のリース料について、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上する(リース適用指針(案)78項)。 フリーレント(契約開始当初数か月間賃料が無償となる契約条項)やレントホリデー(例えば、数年間賃貸借契約を継続する場合に一定期間賃料が無償となる契約条項)がある場合、貸手のリース期間にわたり原則として定額法で計上することに注意が必要と考えられる(リース適用指針(案)BC104項)。 (了)

#No. 543(掲載号)
#阿部 光成
2023/11/09

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2023年10月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2023年10月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023年10月1日から10月31日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会及び日本公認会計士協会は次のものを公表し、意見募集を行っている(意見募集期間はいずれも2023年12月6日まで)。 これは、いわゆるパーシャルスピンオフの会計処理を取り扱うものである。 ① 企業会計基準適用指針公開草案第80号(企業会計基準適用指針第2号の改正案)「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針(案)」等の公表 ② 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正について(公開草案)   Ⅲ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第4号「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」」の改正(公開草案)(内容:品質管理システムの評価に当たっての具体的な手順や文書等について検討したもの。意見募集期間は2023年11月16日まで)   Ⅳ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「グループ監査における親会社監査役会の役割と責務」(内容:グループガバナンスの視点から、グループ監査における監査役の役割と責務について研究活動を行い、取りまとめたもの。日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会) (了)

#No. 543(掲載号)
#阿部 光成
2023/11/09

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第44回】「被害者が関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す場合の対応策」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第44回】 「被害者が関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す場合の対応策」   弁護士 柳田 忍   【Question】 ハラスメント窓口に、「自分を含めて複数の社員がパワハラの被害を受けている」という相談がありました。当該相談者から事情を聞いたうえで、関係者や加害者に対してヒアリングを実施して事実確認を行おうと思ったのですが、当該相談者は、「報復が怖いから自分が相談したことが加害者に絶対に知られないようにしてほしい」、「加害者と通じている可能性があるから、関係者にも自分が相談したことが知られないようにしてほしい」などと強く希望しており、関係者や加害者の事情聴取に難色を示しています。どうすればよいでしょうか。 【Answer】 まずは、相談者に対して、部署異動など、相談者と加害者との間に場所的・業務上の距離を置くよう調整を行う旨を提案し、関係者や加害者の事情聴取に同意してもらえるよう、促すのがよいと思います。それでも相談者が難色を示す場合、複数の被害者に対するハラスメントを織り交ぜて聴取を行うことにより相談者の特定を避ける旨説明したり、複数の被害者から同意を取得するから相談者にも同意してほしい旨伝えたりして同意を促すことが考えられます。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 総論 被害者からハラスメントの相談や通報を受け、会社において調査の必要性があると判断した場合、関係者や加害者の事情聴取を行うことになる。しかし、関係者や加害者に対して被害者からの相談や通報にかかる事実を確認する過程で、いかに被害者の氏名を伏せたとしても、事案によっては自ずと被害者が誰であるかが聴取対象である関係者や加害者に知れてしまうことは多い。被害者が被害を相談ないし通報したことが関係者や加害者に漏れた場合、関係者や加害者による嫌がらせや報復などのおそれが生じることなどから、関係者や加害者の事情聴取に際しては、原則として被害者の同意を得るべきである。 特に、ハラスメントが公益通報者保護法の対象に該当する場合(すなわち、暴行罪、傷害罪、強制わいせつ罪、強制性交罪等の刑事罰の対象となる行為に該当する場合)、公益通報者保護法との関係が問題となる。 公益通報者保護法では、事業者において、公益通報者を保護する体制の整備として、範囲外共有(公益通報者を特定させる事項を必要最小限の範囲を超えて共有する行為)の防止に関する措置を講じることを義務づけている(法11条2項、指針第4.2(2)(※))。また、公益通報対応業務従事者(以下「従事者」という)又は従事者であった者は、正当な理由なく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならないとされている(法12条)。前者の「必要最小限の範囲を超えて」共有する行為と後者の「正当な理由なく」漏らす行為は同等の行為と考えられており、例えば、通報者の同意がある場合や、調査又は是正措置を実施するにあたり、従事者の指定を受けていない者に対し、公益通報者を特定させる事項を伝えなければ調査又は是正措置を実施することができない場合などが想定されている。 (※) 公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(令和3年8月20日内閣府告示第118号) よって、目撃者のヒアリング実施のために目撃者に対して通報者を特定させる事項を伝えなければならない場合は範囲外共有や「正当な理由なく」漏らす行為には当たらないため、通報者の同意がなくても実施することは可能であると思われる。もっとも、通報者の同意を得られた方が望ましいことは言うまでもない。   2 被害者の同意を得る方法 関係者ないし加害者の事情聴取に難色を示す相談者からこれらの事情聴取について同意を取得する方法として、例えば以下の対応が考えられる。 (1) 相談者・通報者又は加害者の異動等を提案する 相談者・通報者が最も恐れるのは、自分が相談・通報したことが加害者に知られた挙げ句、相談・通報前と変わらず加害者と一緒に仕事を続けなければならないといった事態に陥ることである。 そこで、部署異動など、加害者と相談者・通報者との間に場所的・業務上の距離を置くよう調整を行う旨を提案し、関係者や加害者の事情聴取に同意してもらえるよう、促すことが考えられる。 (2) 複数の被害者に対してなされた行為を織り交ぜて聴取を行うことを提案する 相談者・通報者が受けたハラスメントのみを聴取の対象とすると、当該行為の被害者が相談・通報を行ったと推測されてしまう。そこで、相談者・通報者に対するハラスメントと相談者・通報者以外の被害者に対するハラスメントを織り交ぜて聴取を行うことにより、相談者・通報者が相談・通報を行ったことを相手に知られるリスクを減らすことができる旨提案して、関係者や加害者の事情聴取について相談者・通報者の同意を得ることが考えられる。 この方法をとる場合に注意すべき点は、各ハラスメントが行われた日時や具体的な行為内容などを明確にしたうえで聴取を行うと、聴取の相手方である関係者や加害者にどの被害者に対するハラスメントが調査の対象とされているかを知られてしまい、ひいては、当該ハラスメントの被害者が相談者・通報者ではないかと疑われてしまうおそれがあることである。相談者・通報者が相談者・通報者ではないかと疑われることも問題ではあるが、実際には相談者・通報者でない者が相談者・通報者ではないかと疑われてしまうことも避ける必要がある。 よって、この方法をとる場合には、被害者が特定されない程度にハラスメントの態様を抽象化したうえで聴取を行う必要があるが、抽象化しすぎるとヒアリングとしての意義をなさないことにもなりかねないため、注意が必要である。 (3) 他の被害者が関係者・加害者の事情聴取に同意している旨を伝える 加害者によるハラスメントについて複数の被害者が存在する場合、複数の被害者全員(ないし相当数)からそれぞれのハラスメントを聴取の対象とすることについての同意が得られた、又は、複数の被害者全員(ないし相当数)の同意をお願いしているところである、と伝えたうえで、あなたにもぜひ同意してほしい、と同意を促すことが考えられる。複数の被害者の同意を得たとしても、それぞれに対するハラスメントについて具体的に聴取を行えば、聴取の相手方に各ハラスメントの被害者が誰であるかが知られてしまうことになるので、嫌がらせや報復のおそれを完全に除去することはできない。しかし、他の被害者も勇気を出すのであれば、と勇気づけられる被害者も多い。また、被害者同士が連携して加害者の嫌がらせや報復行為を監視できるという利点もある。 (了)

#No. 543(掲載号)
#柳田 忍
2023/11/09

《速報解説》 金融庁、「企業内容等開示ガイドライン」の改正案を公表~譲渡制限付株式の特例に関し、取締役等の死亡などの事由の取扱いを明確化~

《速報解説》 金融庁、「企業内容等開示ガイドライン」の改正案を公表 ~譲渡制限付株式の特例に関し、取締役等の死亡などの事由の取扱いを明確化~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2023(令和5)年11月6日、金融庁は、「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合に、有価証券届出書の提出を不要とする特例に関して、取締役等の死亡などの事由の取扱いについて明確化を図るものである。 意見募集期間は2023(令和5)年12月5日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 総額1億円以上の有価証券の募集又は売出しを行う際には、有価証券届出書の提出が必要とされている。 他方、株式報酬として交付される株式が譲渡制限付である場合(いわゆる譲渡制限付株式(RS:Restricted Stock))については、有価証券届出書の提出を不要とし、臨時報告書の提出で足りるとする特例が設けられている。 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(案)は、株式報酬について発行会社が定める株式報酬規程等において、次の事由が生じた際、当該株式の譲渡が禁止される旨の制限を解除する旨の定めが設けられている場合であっても、上記の特例の譲渡制限期間の要件を満たし、有価証券届出書の提出が不要であることを明確化するものである。   Ⅲ 適用日 パブリックコメント終了後、速やかに適用する予定である。 (了)

#阿部 光成
2023/11/09

プロフェッションジャーナル No.542が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年11月2日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.542を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/11/02
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