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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例113(法人税)】 「収用等の圧縮記帳と特別控除を重複適用したため、税務調査により修正申告となったが、「特別控除は当初申告の金額を変更できない」として圧縮記帳が不可となった部分につき損害が発生した事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例113(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(措法64) 法人の所有する資産が収用等され、交付を受けた補償金等により代替資産を取得した場合において、次の条件の全てを満たしているときは、代替資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額等したときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができる。 ◆収用等による圧縮限度額の計算(措法64) 収用等に伴い代替資産を取得した場合の圧縮限度額は、次の算式により計算された金額である。 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(措法65の2) 収用換地等によって補償金等を取得した場合において、次の条件の全てを満たしているときは、その資産の譲渡益(補償金額から譲渡直前の帳簿価額及び譲渡経費の額の合計額を控除した金額)のうち年5,000万円までの金額を損金算入することができる。       (了)

#No. 483(掲載号)
#齋藤 和助
2022/08/25

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第50回】「店舗併用住宅に係る配偶者居住権がある場合の小規模宅地等の特例の適用」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第50回】 「店舗併用住宅に係る配偶者居住権がある場合の小規模宅地等の特例の適用」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲の相続発生に伴い、甲が所有していた下記の土地建物について、配偶者乙が配偶者居住権を取得し、土地建物の所有権を乙、長男丙及び二男丁が共有で1/3ずつ取得しました。 相続開始の直前において、乙及び丙は2階で甲と同居しており、小規模宅地等に係る特定居住用宅地等の特例対象者ですが、丁は甲と別居していたため、特定居住用宅地等の特例対象者ではありません。なお、1階部分については、被相続人である甲が飲食店を営んでおり、相続後は、その飲食店の事業を丙が承継していますので、丙は小規模宅地等に係る特定事業用宅地等の特例対象者となります。 小規模宅地等の特例の選択にあたって、丙から優先的に特例を適用するとした場合には、乙及び丙の特例の適用面積はそれぞれ何㎡になりますか。 [A] 丙を優先的に適用した場合の選択特例対象宅地等の面積は、それぞれ次のとおりとなります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。したがって、居住建物の全部について配偶者居住権が及ぶことになりますので、飲食店の事業の用に供していた部分についても配偶者居住権が及ぶことになります。 ただし、居住建物の一部が賃貸用である場合には、賃借人に権利を主張することはできないため、配偶者居住権の評価額の計算の基礎となる金額から賃貸の用に供されている部分を除くこととされています(相法23の2①一かっこ書、相令5の7)。   2 利用区分ごとの相続税評価額の算定と面積の計算 本問の場合には、居住用と事業用の利用区分についてそれぞれ敷地利用権と敷地所有権がありますので、4つの区分に分けてそれぞれの相続税評価額及び面積を下記のとおり算定することになります。計算手順としてステップ❶で居住用と事業用に区分して計算し、ステップ❷で敷地利用権と敷地所有権に区分して計算することになります。 ステップ❶ 土地の相続税評価額と面積について、居住用と事業用に区分します。 具体的には、建物の床面積を基に居住割合(100㎡/200㎡)と事業割合(100㎡/200㎡)で按分して相続税評価額と面積を計算します。 ・居住用の土地の相続税評価額 ・事業用の土地の相続税評価額 ・居住用の土地の面積 ・事業用の土地の面積 ステップ❷ 居住用と事業用部分のそれぞれについて敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。具体的には、敷地利用権の居住部分及び事業部分の割合はステップ❶で求めた土地の面積を基に居住割合(450㎡/900㎡)、事業割合(450㎡/900㎡)を使用して計算します。 ・居住用の敷地利用権の相続税評価額 ・居住用の敷地所有権の相続税評価額 ・事業用の敷地利用権の相続税評価額 ・事業用の敷地所有権の相続税評価額 ・居住用の敷地利用権の面積 ・居住用の敷地所有権の面積 ・事業用の敷地利用権の面積 ・事業用の敷地所有権の面積   3 本問の場合の特例対象宅地等の面積 取得者ごとの宅地等の面積を整理すると、下記のとおりとなります。 〔特定居住用宅地等の特例対象宅地等の面積〕 特定居住用宅地等の特例対象者は、乙及び丙となりますので、乙が250㎡(150㎡ + 100㎡)、丙が100㎡となります。 〔特定事業用宅地等の特例対象宅地等の面積〕 特定事業用宅地等の特例対象者は、丙のみとなりますので、丙が100㎡となります。   4 本問の場合の選択特例対象宅地等の面積 〔特定居住用宅地等の選択特例対象宅地等の面積〕 特定居住用宅地等の限度面積は、330㎡となりますので、その範囲内で選択をすることになります。なお、相続税の計算に当たっては、同一の被相続人の相続人等に係る相続税の課税価格の合計額は、一致させる必要があるため、相続人が1人である場合などを除き、特例対象宅地等を取得した相続人等の全員の同意が必要とされています(措令40の2⑤)。したがって、乙及び丙は、話し合いにより取得した特例対象宅地等の面積の範囲内で選択することになります。 本問の場合には、優先的に丙が特例適用をすることが前提となっていますので、丙が100㎡を適用し、残りの面積230㎡(330㎡ - 100㎡)を乙が適用することになります。 〔特定事業用宅地等の選択特例対象宅地等の面積〕 特定事業用宅地等の限度面積は、400㎡となりますので、丙が取得した事業用の敷地所有権部分に係る面積である100㎡となります。 〔実務における検討事項〕 本問のように事業用と居住用がある場合には、1階と2階で区分登記を行い、敷地権割合を設定することにより2階部分に対応する部分を乙及び丙が取得し、1階部分に対応する部分を丙が取得することにより特定居住用宅地等は330㎡、特定事業用宅地等は400㎡の適用を受けることができます。 配偶者居住権を設定した方がいいかどうか、区分登記及び敷地権割合を設定した方がいいかどうかについては、配偶者の将来の相続税も含めて総合的に検討する必要があります。 ★実務上のポイント★ 配偶者居住権の及ぶ範囲を正確に理解しておく必要があります。配偶者居住権を設定することで小規模宅地等の特例金額が少なくなることもありますので、配偶者居住権を設定した場合と設定しない場合を比較して納税者にアドバイスをすることが重要となります。   (了)

#No. 483(掲載号)
#柴田 健次
2022/08/25

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第20回】「納税者の無申告により課税庁が固定資産税について特例を適用せずに賦課した事案において国家賠償法上の違法性が認められるかが争われた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第20回】 「納税者の無申告により課税庁が固定資産税について特例を適用せずに賦課した事案において国家賠償法上の違法性が認められるかが争われた事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税は賦課課税方式 納付する税額がいくらなのか確定する方法として、申告納税方式と賦課課税方式がある。申告納税方式は、納付すべき税額が納税者のする申告により確定することを原則とし、申告がない場合や申告に係る税額が、税法に従っていないこと等により税務署長等が調査したところと異なる場合に限って、税務署長等の処分により確定する方式(国通法16①一)である。 日本の代表的な国税である所得税、法人税、消費税、相続税、贈与税も申告納税方式で税額を確定させている。日本の国民の多くが納税意識を持ち、自発的に申告納税をするからこそ円滑な運用が可能な制度である。 一方、賦課課税方式は、納付すべき税額が専ら税務署長又は税関長の処分により確定する方式(国通法16①二)である。多くの地方税がこの方式をとっており、固定資産税も賦課課税方式である。賦課課税方式の場合でも、納税者に申告義務が課される場合もある。しかし、その申告で税額確定されるのではない。あくまでも税額を確定させるのは課税庁側であり、税額を確定させるために職務上通常尽くすべき注意義務を尽くさなければならない。   ▷住宅用地に対する固定資産税の課税標準の特例 固定資産税について、課税客体である土地のうち住宅用地については、課税標準の特例が設けられていて、住宅用地でその面積が200㎡以下であるものについては価格の6分の1の額を課税標準とし、200㎡を超える宅地は価格の3分の1の額を課税標準とする(地法349の3の2)。このような住宅用地に該当する場合、市町村長は条例で必要な事項を住宅用地の所有者に申告させることができる(地法384①)とされている。 東京都では、住宅用地の所有者に申告書の提出を義務付けており(都条例136の2①)、もし正当な事由なく申告しなかった場合は、10万円以下の過料を科す(都条例137)とされている。   ▷固定資産税の更正期限と国家賠償 住宅用地の申告をしなかったことから行政庁が内容を検討することができず、そのために誤った賦課処分をすることがある。誤りが指摘された場合の更正期限は法定納期限から5年(地法18①)であり、それを超える期間については国家賠償法により訴えることになる。 国家賠償法による賠償責任が認められるのは、公務員が故意又は過失によって他人に損害を加えたとき(国賠法1①)である。これは、公務員が職務を執行するに際し、職務上通常尽くすべき注意義務を尽くしたかどうかで判断される。 今回は、納税者が住宅用地の申告をしなかったことから、課税庁が認知症高齢者グループホームの固定資産税について特例を適用せずに賦課した事案において、国家賠償法上の違法性が認められるか否かが争われた事例を検討する。   ▷どのような事案か、主たる争点は何か これは次のような事案である。 争点は、Yに国家賠償法上の違法性が認められるか、Xに生じた損害額はいくらか、過失相殺の可否及び割合はどうなのかである。   ▷地裁の判断は 地裁はXの請求を主に次の理由から棄却した。 この判決に不服なXが控訴した。   ▷高裁の判断は 高裁は過失相殺3割で、Xの請求を一部認容した。認容の理由としては主に次のとおりとしている。 *   *   * このように、固定資産税が賦課課税方式であることから、納税者が申告をしなかったことにより税額が誤りであったとしても、誤りの責任は行政側にあるとし、納税者の無申告が誤りを誘発したことも事実であるため過失相殺3割とした。 税理士は日ごろ、申告実務に携わり、日々、税額を確定させているが、税理士が行った処理のミスを調査等で指摘される期間には期限があることから考えると、過失相殺があったとしても、かなり厳しい責任といえるだろう。   (了)

#No. 483(掲載号)
#菅野 真美
2022/08/25

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第85回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第85回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也     〈Q10〉 無償譲渡の場合の収益の計上時期・計上額 A社は、創業以来、取引をしている顧客B社が倒産の危機に瀕しているため、A社の商品を贈与(無償の譲渡)した。この場合、A社には法人税法22条の2の適用があるか。 〈A10〉 無償譲渡の場合にも、法人税法22条の2の適用がある。よって、A社は、その商品を引き渡した日の時価で、その引渡しの日の収益に計上することになる。なお、別途、寄附金や交際費等の損金不算入規定(法法37、措法61の4)の適用の有無を検討する必要がある。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 例えば、次の点を考慮すると、法人税法22条の2第1項~第4項は、無償による資産の譲渡にも適用があるといえる。 よって、無償による資産の譲渡の場合には、その収益の額について、その譲渡をした資産の引渡しの時における価額(時価)で計上する(法法22の2④)。また、収益の計上時期について、その譲渡に係る目的物の引渡しの日の属する事業年度に計上する(法法22の2①)。 なお、無償による資産の譲渡に対して、法人税法22条の2第2項の近接日基準、とりわけ契約効力発生日基準の適用があるか否かという問題がある。この点に関しては、無償取引に係る一般に公正妥当と認められる会計処理の基準が存在するか否かという点のほか、次のような疑問がある(本連載第27回参照)。 ◆有償取引と無償取引で適用する収益計上基準は異なると解すべきか。有償取引について、契約効力発生日基準を法人が継続的に採用していた場合に、単発的に発生した無償取引についても契約効力発生日基準を適用すべきであろうか。 ◆無償取引には近接日基準の適用はなく、引渡・役務提供基準のみが適用されることになるか。 ◆固定資産の譲渡に係る収益の帰属の時期について、引渡基準を原則としつつも、契約効力発生日による近接日基準も許容している法人税基本通達2-1-14は、無償取引にも適用があるのであろうか。 ◆そもそも、同通達による収益経理を採用した場合、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従ったことになるのであろうか。 ◆時価よりも低い金額(極端な例では1円)で譲渡する低額譲渡の場合には、どうなるのか。   *  *  *   〈Q11〉 申告調整による引渡基準の採用 売主であるA社(3月決算)は、X1年3月末に、買主であるB社に、B社が購入したA社の商品を引き渡した。決算後、税務申告の作業時に、会計上、この収益の計上をしていなかったことが発覚した。申告調整により、この収益をX1年3月期の益金の額に算入することはできるか。 〈A11〉 申告調整により、収益をX1年3月期の益金の額に算入することができる。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 引渡基準を定める法人税法22条の2第1項は、確定決算による収益経理を要求していない。この点は、2項とは異なる。 1項の文面上、同項に優先して適用される2項の適用がない場合には、引渡日又は役務提供日の属する事業年度で収益経理をしていないとしても、申告調整により、引渡・役務提供基準に基づく収益計上を認める(求める)ものと解してよいと考える。 もっとも、1項を適用することで、申告調整により、引渡・役務提供基準に基づいて収益計上を行う処理が常に認められるわけではない。 例えば、2項は、一定の要件を満たした場合には、1項に優先して適用される。このため、確定決算において、目的物の引渡日よりも前の近接日の属する事業年度の収益として計上した場合、後になって、引渡日の属する事業年度の収益として申告調整することは認められないことになろう(本連載第15回参照)。 ただし、このような場合に国税庁がどのように取り扱うかという点は明らかではない。 (了)

#No. 483(掲載号)
#泉 絢也
2022/08/25

〔今こそ確認したい〕サステナビリティ及び気候関連開示の現状 【第2回】「IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」[案]の概要」

〔今こそ確認したい〕 サステナビリティ及び気候関連開示の現状 【第2回】 「IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」[案]の概要」   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   2022年3月31日に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」等、及びIFRS S2号「気候関連開示」(以下、「S2号」という)等の公開草案を公表している。現状、両方を合わせて「IFRSサステナビリティ開示基準(ISSBが公表した基準)」という。 (注) 今後、上記以外の基準も公表され、「IFRSサステナビリティ開示基準」の数は増えることも想定される。 これらの公開草案が最終確定された場合、企業価値を評価する際の投資者の情報ニーズを満たすためのサステナビリティ開示の包括的なグローバル・ベースラインとなる(公開草案-スナップショット「はじめに」)。 今回は、様々なサステナビリティ関連財務情報の共通事項を定めたIFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」等の公開草案の概要について解説する。 IFRS S1号「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項」(以下、「S1号」という)等の公開草案は、主に以下のように構成されている。   1 S1号の目的 S1号の目的は、一般目的の財務報告の主要な利用者が企業価値を評価し企業に資源を提供するかどうかを決定する際に有用な企業の重大な(significant)サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する重要な(material)情報の開示を企業に要求することにある(S1号1、2)。 つまり、重大な(significant)リスク及び機会を識別した上で、企業価値評価に資する重要な(material)サステナビリティ関連財務情報を開示することが目的である。   2 重要性の定義 重要性があるとは、サステナビリティ関連財務情報を省略した場合や、誤表示等した場合に、一般目的の財務報告の主要な利用者の意思決定に影響を与えることが合理的に予想される場合をいう(S1号56)。 この重要性の定義は、「概念フレームワーク」及びIAS第1号と同様である。ただし、サステナビリティ関連財務情報を作成するため、企業は一般目的の財務諸表を作成する場合よりも長期にわたる財務上の影響を考慮しなければならない。また、バリュー・チェーン(※)の全体を通じての相互作用の財務上の影響も考慮する(S1結論BC71)。 (※) バリュー・チェーンとは、報告企業のビジネスモデル及び企業がオペレーションを行う外部環境に関連する活動、資源及び関係の全範囲をいう。バリュー・チェーンには、製品又はサービスの構想から提供、消費及び終了までの企業が製品又はサービスを生み出すために必要な活動、資源及び関係が含まれる。また、活動、資源及び関係には、人的資源、企業の供給、マーケティング、流通チャネル(材料及びサービスの調達、製品及びサービスの販売及び配送など)、財務的環境、地理的環境、地政学的環境及び規制環境などが含まれる(S1号付録A)。 リスクの重大性は一般的には「影響」と「発生可能性」で検討される。なお、重要性(materiality)の判断を行う際には、発生可能性が低いものの潜在的に大きな影響を有するリスクを考慮する必要がある(S1結論BC72)。   3 開示内容 サステナビリティ関連財務情報の開示の柱は、以下の(1)から(4)の4つである(S1号11)。また、サステナビリティ関連財務開示に準拠するのみでは、企業価値評価に資する情報として不十分な場合、追加の開示も検討する(S1号46)。 なお、個別具体的な開示内容は、S2号や今後公表される個別の基準において規定される。 (1) ガバナンス ① 目的 ガバナンスに関するサステナビリティ関連財務開示の目的は、一般目的の財務報告の利用者が、サステナビリティ関連のリスク及び機会をモニタリングし管理するために用いるガバナンスのプロセス、統制及び手続を理解できるようにすることである(S1号12)。 ② 開示内容 上記①の目的を達成するために、企業は、サステナビリティ関連のリスク及び機会を監督する単一又は複数の機関に関する情報、これらのプロセスにおける経営者の役割に関する情報を開示する。具体的には、企業は以下を開示する(S1号13)。 (2) 戦略 ① 目的 戦略に関するサステナビリティ関連財務開示の目的は、一般目的の財務報告の利用者が、重大な(significant)サステナビリティ関連のリスク及び機会に対処する企業の戦略を理解できるようにすることである(S1号14)。 ② 開示内容 上記①の目的を達成するために、企業は、以下の内容を開示する(S1号15)。 (3) リスク管理 ① 目的 リスク管理に関するサステナビリティ関連財務開示の目的は、一般目的の財務報告の利用者が、サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価及び管理する単一又は複数のプロセスを理解できるようにすることである。この開示により、利用者が、これらのプロセスが企業の総合的なリスク管理プロセスに統合されているか評価し、企業の総合的なリスク・プロファイル及びリスク管理プロセスを評価することができるようにする(S1号25)。 ② 開示内容 上記①の目的を達成するために、以下の内容を開示する(S1号26)。 (4) 指標及び目標 ① 目的 指標及び目標に関するサステナビリティ関連財務開示の目的は、一般目的の財務報告の利用者が、重大な(significant)サステナビリティ関連のリスク及び機会を企業がどのように測定し、モニタリング及び管理するのかについて理解できるようにすることにある。 これらの開示により、企業が設定した目標に向けた進捗を含め、企業がどのように自社のパフォーマンスを評価しているかについて利用者が理解できるようにする(S1号27)。 ② 開示内容 上記①の目的を達成するために、以下の内容を開示する(S1号30~34)。   4 比較情報 企業は、当期に開示されるすべての指標について、比較情報(前期の情報)を開示する。また、指標のみならず説明文章について、当期のサステナビリティ関連財務開示を理解する上で関連する場合は、説明文章についても比較情報を開示する(S1号63)。   5 報告の頻度 企業は、サステナビリティ関連財務開示を関連する財務諸表と同時に報告し、財務諸表と同じ報告期間を対象とする(S1号66)。   6 情報の記載場所 企業は、IFRS サステナビリティ開示基準で要求される情報について、企業の一般目的の財務報告の一部として開示する(S1号72)。   7 見積り 指標を直接測定することができず、見積もることしかできない場合、測定の不確実性が生じる。 そこで、企業は、開示した指標のうち、見積りの不確実性が重大な(significant)ものを識別し、見積りの不確実性の源泉及び性質並びに不確実性に影響を与える要因を開示する(S1号79)。 この開示において、サステナビリティ関連財務開示に財務データ及び仮定が含まれる場合、当該財務データ及び仮定は、可能な限り、企業の財務諸表における対応する財務データ及び仮定と整合させる(S1号80)。 また、企業が開示するサステナビリティ関連のリスク又は機会の情報について、重大な(significant)結果の不確実性が存在する場合、将来の仮定及びその他の重大な(significant)不確実性の源泉に関する情報を開示する(S1号83)。 なお、財務諸表では、会計上の見積り変更が行われた場合、将来に向かって変更するため、比較情報の変更は行わないが、サステナビリティ関連財務情報について、見積りの重要性(material)がある変更が行われた場合、比較情報を変更する(S1結論BC83)。   8 誤謬 企業は、過去の重要な(material)誤謬について、実務上不可能でない限り、開示された過去の期間の金額を修正再表示することにより訂正する(S1号84)。   9 準拠表明 サステナビリティ関連財務開示が、IFRS サステナビリティ開示基準のすべての要求事項に準拠する場合、その準拠の旨の明示的かつ無限定の記述を行う(S1号91)。 *  *  * なお、サステナビリティ関連財務開示に対する監査がどのようになるか、今後の動向を注視されたい。 (了)

#No. 483(掲載号)
#西田 友洋
2022/08/25

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第2回】「収益認識に関する注記①」-収益の分解情報-

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第2回】 「収益認識に関する注記①」 -収益の分解情報-   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における収益認識に関する注記のうち「収益の分解情報」について、何を記載すればいいか教えてください。 Answer 連結注記表では、収益及びキャッシュ・フローの性質や金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して収益の金額を注記することが求められます。なお、連結計算書類を作成する場合、個別注記表では収益の分解情報に関する注記は省略できます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2021年3月9日)によれば、連結注記表、個別注記表はそれぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 収益認識に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき収益認識に関する注記の概要は次のとおりです(会社計算規則第115条の2第1項)。 (※) 連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表において注記を要しません。なお、連結計算書類の作成義務のある株式会社(会社法第444条第3項の株式会社)以外の株式会社は、連結計算書類を作成していなくても個別注記表において注記を省略できます。 (2) 注記事項の解説 上記(1)の①は、「収益認識に関する会計基準」で定める「収益の分解情報」に相当するもので、その性質や金額、時期及び不確実性に影響を及ぼす主要な要因に基づく区分に分解して収益の金額を注記することが求められます。 上場会社の場合、報告セグメントごとの売上高との関係を財務諸表利用者が理解できるように収益の分解情報を開示することが求められるため、実際には次のようにセグメント注記の報告セグメントと関連付けて注記している事例が見られます。 [日本製紙株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※日本製紙株式会社「第96回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」7頁より抜粋。 [ユー・エム・シー・エレクトロニクス株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※ユー・エム・シー・エレクトロニクス株式会社「第55回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」15頁より抜粋。 [株式会社ルネサンス 2022年3月期 連結注記表] ※株式会社ルネサンス「第40回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」10頁より抜粋。 [株式会社G-7ホールディングス 2022年3月期 連結注記表] ※株式会社G-7ホールディングス「第47期定時株主総会招集ご通知」56頁より抜粋。 *  *  * 収益認識に関する注記では、開示目的(※)が定められ、これを達成できるよう注記を作成することが求められます。そのため、他の注記よりも難易度が高いですが、別の見方をすれば他社と差をつけやすい部分でもあるので、開示担当者の方には是非、創意工夫を凝らしていただきたいです。 (※) 顧客との契約から生じる収益及びキャッシュ・フローの性質、金額、時期及び不確実性を財務諸表利用者が理解できるようにするための十分な情報を企業が開示すること。 次回の第3回では、「収益認識に関する注記②-収益を理解するための基礎となる情報-」をテーマに解説します。   (了)

#No. 483(掲載号)
#竹本 泰明
2022/08/25

〔具体事例から読み取る〕“強い”会社の仕組みづくりQ&A 【第7回】「米国との比較からみる「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」の位置づけと役割」

〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第7回】 「米国との比較からみる 「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」の位置づけと役割」   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 内部統制報告制度の定型化 日本では、金融商品取引法に基づく金融庁の各種基準や会社法などによって内部統制報告制度を明らかにした上で、評価範囲、文書体系、評価の手順や手続を詳しく定めることで、制度が定型化されている。 制度を支える内部統制の文書のうち「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」もその定型化の一環として位置づけられる。こうした定型化の背後には、運用コストの削減というねらいがあったことをご存じだろうか。 2000年初頭、上場企業の相次ぐ不正と粉飾のために市場の信頼がすっかり失墜した米国では、信頼回復のために企業改革法に基づき、内部統制の仕組みが導入されたが、その運用には多額のコストを要した。それは「羹(あつもの)に懲りて膾(なます)を吹く」(※)ようだと、揶揄されることもあったようだ。 (※) 過去の失敗から必要以上に用心をすることの例え。 しかし同時期に、わが国でも内部統制の仕組みを取り入れることが求められていた。当時の政府は、もし米国式の内部統制をそのまま輸入すれば、制度導入に伴う多額のコスト負担によって日本企業の国際競争力が削がれることを大いに懸念したと言われている。制度を定型化した背後には、こうした危機意識も働いていたと考えられる。   2 米国における決算・財務報告プロセスの取扱い 日本の内部統制報告制度に対し、米国における内部統制の監査には、監査基準書第2号 ([財務諸表監査に関連して実施される財務報告に係る内部統制の監査]"Auditing Standard No.2 - An Audit of Internal Control Over Financial Reporting Performed in Conjunction with An Audit of Financial Statements")が広く適用される。 しかし、これ以外に米国で内部統制を評価する際の詳細な基準やガイドラインは存在しない。さらに米国では、業務プロセスの中で、内部統制上のリスクとコントロールが語られることが多く、決算や財務報告に関する手続もこの業務プロセスの中で議論されてしまう。 そのため「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」という制度上定型化された文書は存在しない。業務プロセスを通じ内部統制を検討することが多いため、数多くの業務プロセスを文書として抱えることとなり、企業の負担が増加する。監査でも業務プロセスに重点が置かれる結果になり、それらに費やす時間と労力からコスト増に結びつきやすいとも考えられる。   3 財務報告の信頼性と「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」 内部統制報告制度は、財務諸表監査にプロセス(過程)という概念を持ち込み、財務諸表ができあがる過程や手続に着目する視点をもたらした。「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」は、決算と財務報告手続に関するプロセスに潜むリスクを特定し、それに対抗するコントロールを明示する文書で、財務報告の信頼性を支える重要な位置を占める。   4 強い会社をつくるための「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」 本誌では、多くの専門家が「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」の一般的な役割について触れているが、本稿ではそれに“強い会社をつくる”という視点を加えたい。 (1)  一般的な「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」とは 財務報告の信頼性を脅かすリスクに対してコントロールが適切に整備、運用されているかどうかを評価する項目により構成され、文書上チェックリスト方式を採用する会社が比較的多い。評価項目は、以下の通り会社やグループ全体に通じる評価項目と各事業拠点で個別に評価すべき項目の2つに分類される。 ① 全社的な観点で評価する項目 会社やグループ全体について評価するプロセスで、例えば、次の手続きが挙げられる。 ② 個別に評価すべき項目 各事業拠点などで個別に財務諸表を作成する際、財務報告の信頼性に重要な影響を与えるプロセスがある。例えば、次の項目が挙げられる。 (2) “強い会社の仕組みづくり"という視点 「決算・財務報告プロセスに係る内部統制」を構成する評価項目は、経理・財務手続の正確性を担保するために策定されるが、会社の経理・財務力を強くする仕組みづくりという視点を折り込むことも忘れてはならない。 ① 経理部門による継続的な教育研修 経理部門の継続的な教育研修は、財務報告の信頼性を担保するために欠かせない。それは、継続的な教育投資をすることで、社員のスキルやレベルが向上することに繋がる。例えば、収益を認識する基準に変更があれば、経理知識を最新にし、ルールに反映させて部門内に周知する。さもなければ、誤った収益認識が蔓延り、収益認識が属人的となろう。 上場会社の内部統制報告書には、収益認識の誤りが報告されるが、その主な原因は不正操作のほか、経理知識の未成熟が挙げられる。そのため、次のような評価項目を加えることを勧めたい。 《評価項目の例》 ② 不正や不適切な会計処理を予防する意識の醸成 不正、不適切な会計処理や経理操作を見逃すスキがどこにあるか、確認や分析を怠らない意識を社員に持たせる。例えば、経理上の手続を新たに設計したり、運用をする際に、不正のトライアングルの3要素(動機・プレッシャー、機会、正当化)を踏まえ、経理手続に見落としや不備がないかどうかを考える意識や視点を持たせる。そうすることで、財務報告の信頼性の確保に留まらず、効率的で適切な仕組みを構築するスキルやノウハウを部門内に蓄積できる。 《評価項目の例》 ③ 財務諸表数値の趨勢分析 月次、四半期及び年次の(連結)財務諸表を作成する際、経営層は異常値の有無に関して検証を怠っていないか。必ず自分で確認を施すことで、経営上の課題だけでなく、危うい予兆を早期に発見して対応できる。こうした経営者の視点も評価項目に織り込む。 《評価項目の例》 (了)

#No. 483(掲載号)
#打田 昌行
2022/08/25

税理士事務所の労務管理Q&A 【第9回】「パート労働者の年次有給休暇」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第9回】 「パート労働者の年次有給休暇」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   使用者には、正社員と同様にパート労働者に対しても年次有給休暇の付与義務があります。 パート労働者は、曜日により労働時間が異なる場合や雇用契約更新時には労働時間や労働日数を変更することがあります。 今回は、パート労働者の年次有給休暇の付与要件、付与日数、賃金の支払い等について解説します。 * * 解 説 * * 1 年次有給休暇の付与要件 使用者は、雇入れの日から起算して6ヶ月継続勤務し、所定の労働日に8割以上出勤した労働者に10日の年次有給休暇を付与しなければなりません。雇用形態を問いませんので、正社員だけではなくパート労働者についても同様です(労働基準法第39条)。   2 年次有給休暇の付与日数 所定の労働日に8割以上出勤した場合、6ヶ月継続勤務で10日、1年6ヶ月で11日、2年6ヶ月で12日と、継続勤務1年につき1日ずつ加算され、3年6ヶ月からは2日ずつ加算された付与日数になり、20日が限度とされます。 〈図表1〉年次有給休暇の付与日数   3 年次有給休暇の比例付与 所定労働時間が週30時間以上又は所定労働日数が週5日以上の場合は、〈図表1〉のとおりの付与日数となりますが、所定労働時間が30時間に満たない場合等には、比例付与という方式が採られます。具体的には所定労働時間30時間未満かつ週の所定労働日数が4日以下又は年間所定労働日数が216日以下のパート労働者です。 〈図表2〉短時間従業員の有給休暇の付与日数 (※1) 所定労働日数が週によって決まっている場合は「週所定労働日数」で、それ以外の場合は「1年間の所定労働日数」で判断します。また所定労働日数は付与時点の週所定労働日数で計算します。 (※2) 赤網掛け部分は、5日の年次有給休暇取得義務の対象です(後述6参照)。   4 付与日数の考え方 付与日数は、基準日(年次有給休暇が付与された日)時点の状況に基づいて判断します。 したがって、基準日以後に雇用契約を見直し、所定労働時間や所定労働日数が変更された場合でも、すでに基準日に付与した年次有給休暇の日数はそのまま有効です。次の基準日に到達した時点で、その時の契約内容により付与日数が変更されます。   5 年次有給休暇中の賃金の支払い 賃金の支払いは、下記の3つの方法があります。どの方法を用いるかは、就業規則等に定めなければなりません。勤務実態に即した方法を選択することになります。 (1) 通常の賃金 所定労働時間労働をしたときに支払われる通常の賃金(通勤手当も含む)を支払う方法です。一般的には、年次有給休暇中も通常の出勤をしたものとして取り扱います。 したがって、パート労働者であれば、「年次有給休暇を取得した日に働くはずだった労働時間×時給」で計算します。 例えば、時給1,000円のパート労働者の所定労働時間が月曜日8時間、火曜日6時間の場合で、月曜日に年次有給休暇を取得した場合は、8,000円(8時間×1,000円)を、火曜日に年次有給休暇を取得した場合は、6,000円(6時間×1,000円)の賃金を支払わなければなりません。 (2) 平均賃金 平均賃金で支払う方法です。1日の労働時間が一定でない場合に用いられることが多く、前記(1)の算定方法のように、有給休暇を取得した日によって賃金額が左右されることがありません。 計算方法は、直近の3ヶ月間の賃金から平均額を算出します。次の①、②のうち、どちらか高い方の金額になります。 〈計算例〉 (3) 標準報酬日額 健康保険法に基づく標準報酬日額(標準報酬月額の30分の1相当額)で支払う方法です。この方法を用いるには、労使協定の締結が必要となります。 パート労働者の場合、健康保険の被保険者に該当しない場合もあるため、この方法を採用している事業所は少ないです。   6 終わりに 2019年4月から、年次有給休暇が年間10日以上付与される労働者に対して、年5日の年次有給休暇を取得することが、使用者に義務付けられました。 パート労働者(〈図表2〉の赤網掛け部分に該当する者)もその対象になります。違反した場合には罰則が科されることがありますので注意が必要です。 年次有給休暇については、就業規則に明確な規定がなければ、トラブルに発展する可能性もあります。勤務実態に即した就業規則を作成し、労働者に周知することが大切です。 (了)

#No. 483(掲載号)
#佐竹 康男
2022/08/25

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第9回】「新設された“海外在住者取得の日本の不動産につき国内の連絡先となる者を登記させる制度”の概要と注意点」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第9回】 「新設された“海外在住者取得の日本の不動産につき 国内の連絡先となる者を登記させる制度”の概要と注意点」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 海外在住者が取得した日本の不動産につき、国内の連絡先となる者も登記されると聞きました。新たに創設されたこの制度について教えてください。 【A】 所有者不明土地の「発生の予防」のため、海外在住者が取得した日本の不動産について国内の連絡先となる者(氏名、住所等)も登記されることとなりました。 -《解説》- 所有者不明土地の「発生の予防」のためには、不動産の所有者への連絡手段を確保する必要がある。日本の不動産を海外在住者が取得した場合、海外在住者の住所移転の履歴が登記簿上にタイムリーに反映されるとは言えず、不動産の所有者への連絡手段を確保する観点からは問題となっていた。 そのため、補助的・便宜的な連絡手段を確保する仕組みとして、海外在住者が取得した日本の不動産について国内の連絡先となる者(氏名、住所等)も登記されることとなった(不動産登記法73条の2第1項2号)。 具体的な内容は以下のとおりである。 *  *  * (※) 法制審議会民法・不動産登記法部会第15回会議(令和2年7月14日開催)参照。 (了)

#No. 483(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/08/25

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例74】フューチャーベンチャーキャピタル株式会社「定時株主総会での決議結果に関するお知らせ」 (2022.6.23)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例74】 フューチャーベンチャーキャピタル株式会社 「定時株主総会での決議結果に関するお知らせ」 (2022.6.23)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、フューチャーベンチャーキャピタル株式会社(以下「FVC」という)が2022年6月23日に開示した「定時株主総会での決議結果に関するお知らせ」である。タイトルどおり同日に開催された定時株主総会の決議結果が記載されているだけの内容なのだが、会社提案の議案はすべて否決されたのに対して、株主提案の議案はすべて可決されている。 それぞれの議案には取締役の選任があり、会社提案が否決され、株主提案が可決された結果、同社の取締役がすべて入れ替わることとなり、代表取締役も交代することとなった。そのため、同日、「代表取締役の異動及び役員人事等に関するお知らせ」も併せて開示されている。   2 ほかでも これまで株主総会において会社提案が否決され、株主提案が可決されるということは少なかった。まして取締役がすべて入れ替わるという事態は前代未聞といえる。 しかし、この数日前に似たようなことが、北越メタル株式会社(以下「北越メタル」という)でも起きていた。株主から取締役選任の提案がなされ、同社はこれに反対していたのだが(2022年5月23日開示「当社に対して提出された株主提案とこれに対する当社の反対意見に関するお知らせ」)、定時株主総会ではこれが可決され、会社が提案した取締役選任の一部は否決されたのである(2022年6月22日開示「臨時報告書」。同社は決議結果に関する適時開示を行っていない)。   3 大きな違い ただし、北越メタルの場合とFVCの場合とでは大きな違いがある。北越メタルに対して株主提案を行ったトピー工業株式会社は、同社の議決権を33.69%所有する筆頭株主であるため(第106期有価証券報告書。子会社のトピー実業株式会社の所有分と合わせると35.02%所有)、その提案が可決されたとしても、さほど驚くべきことではない。 それに対して、FVCに対して株主提案を行った金武偉氏(以下「金氏」という)とマンティス・アクティビスト投資1号株式会社(同社は金氏の個人所有会社。2022年4月7日開示「株主提案に関する書面受領のお知らせ」)は、両者合わせてFVCの議決権を2.5%ほどしか所有していない(第24期有価証券報告書)。その提案が可決されたことは、驚くべきことだろう。   4 個人株主が8割 FVCにおいて今回の株主提案が可決された要因の1つに同社の株主構成がある。同社の議決権の約8割は個人株主に所有されているのである(第24期有価証券報告書)。 金氏はそうした株主構成に勝機を見いだしたのかもしれない。「株主提案に関する書面受領のお知らせ」には、株主提案書面の記載がそのまま掲載されている。その「株主提案の議案の要領、提案の内容及び提案の理由」では、「現行事業モデルの問題点」と「問題点の解決策」が簡潔かつ強めの表現で記載されたうえで、最後に「まとめ」として次の記載がなされている(下線は筆者による)。   5 なぜ定款変更も否決? FVCは今回の開示と併せて「開示事項の中止(剰余金の配当及び定款一部変更)についてのお知らせ」も開示している。2022年3月10日に「剰余金の配当(初配)及び株主優待制度の新設に関するお知らせ」を、2022年5月19日に「定款一部変更に関するお知らせ」を開示し、定時株主総会にはそれらも付議されていたのだが、否決されたのである。 同社の株主はなぜそれらも否決したのだろうか。配当については「業績がまだ安定しておらず、配当を行うのは早い」と考えたのかもしれないが、わからないのは定款変更である。変更の内容は、2022年9月1日に施行される株主総会資料の電子提供制度(上場会社は利用が義務)に対応するためのものである。北越メタルの定時株主総会にも同様の定款変更が付議されたのだが(2022年5月23日開示「定款の一部変更および取締役候補者等の選任に関するお知らせ」)、こちらは可決されている(2022年6月22日開示「臨時報告書」)。 FVCの株主は、それぞれの議案の内容をきちんと理解したうえで賛否を決めたのだろうか。それとも、「会社提案はすべてダメ、株主提案はすべてOK」と深く考えることなく決めてしまったのだろうか。   6 ファンド出資者≠FVC株主 FVC側は2022年4月21日に「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を開示して、今回の株主提案に反対している。その理由は、同社の「創業理念やビジネスモデル」と合う提案ではないからである。 その「創業理念やビジネスモデル」については、次のように記載されている。 しかし、FVCの株主の多く(個人株主が8割)は、この「創業理念やビジネスモデル」に共感して、同社株式を取得したとは限らない。FVCのファンドへの出資者である「地域金融機関や大企業」は、この「創業理念やビジネスモデル」に共感しているのだろうが、彼らはFVCの株主ではない。株主であったとしても、議決権が2割に満たない微力な株主にすぎない。FVC側の反対意見はまったく効果を持たなかった。 (了)

#No. 483(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/08/25
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