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《速報解説》 各府省庁公表の令和5年度税制改正要望が取りまとめられる~既存制度の延長・拡充が中心も一部時流に応じた抜本強化・新制度創設を要望~

《速報解説》 各府省庁公表の令和5年度税制改正要望が取りまとめられる ~既存制度の延長・拡充が中心も一部時流に応じた抜本強化・新制度創設を要望~   Profession Journal編集部   例年通り8月末から9月頭にかけて各府省庁からの税制改正要望が公表された。その内容については概ね既存制度の延長・拡充を求めるものが中心であるものの、時流に対応した抜本強化・新制度創設も一部見受けられる。 本稿では、これから本格化する令和5年度税制改正に向けた議論の下地となる各府省庁からの要望事項について、主なポイントを確認していきたい。 はじめに、経済産業省は、我が国経済の発展、国際競争力の向上などを念頭に、スタートアップ・エコシステムの抜本強化のための税制措置を要望している。 「スタートアップ・エコシステム」とは、グローバルにインパクトを生み出す起業家やスタートアップ、イノベーション企業が自律的、連続的に生み出される仕組みのこと。しかし、我が国では様々な課題がこの仕組みの好循環を阻害している現状があり、これを打破すべく4つの税制措置が要望事項として掲げられている。 まずその中の1つとして「ストックオプション税制の拡充」がある。現行制度においてもストックオプションの利便性・魅力を向上させ、スタートアップ企業の人材獲得に一定程度寄与している一方で、現行の要件等が実態に即していないとの指摘があることから、更なる利便性向上に向け、権利行使期間の延長その他の所要の措置を要望している。 また、同じくエコシステム抜本強化のために、「暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し」が要望されている。現在内国法人が有する暗号資産については、税務上、期末に時価評価し、評価損益は、課税の対象とされているところ、こうした取扱いは、キャッシュフローを伴う実現利益がない中で、継続して保有される暗号資産についても課税を求めるものであり、国内においてブロックチェーン技術を活用した起業や事業開発を阻害する要因として指摘されていることから、自己発行・自己保有の暗号資産については、期末時価評価課税の対象外とすることが要望されている。 なお、その他のエコシステム抜本強化のための要望としては、個人によるスタートアップ投資を促進するエンジェル税制の申請手続に係る所要の見直しや非上場株式を担保とする場合の納税猶予手続につき、株券によらない担保提供を可能とするための国外転出時課税制度に関する所要の措置が掲げられている。 上記エコシステム抜本強化以外の経産省の要望には、平成29年度税制改正により創設されたスピンオフ税制に関し、「スピンオフの実施の円滑化のための税制措置」の拡充が求められており、その内容は、事業切出しの手法の1つであるスピンオフについて、段階的に事業を切り出そうとする企業などが活用できるよう、スピンオフを行う企業に持分を一部残す場合についても、スピンオフの実施を円滑化するための所要の措置を講じることとなっている。 その他、来年の3月末で適用期限を迎える研究開発税制、DX投資促進税制の拡充及び2年延長に加え、現在の社会情勢を受けた半導体の供給制約・物価高騰等の影響による自動車産業の厳しい事業環境などを踏まえた車体課税の見直しも要望にあるほか、中小企業に関する要望には、昨今の自然災害頻発への事前対策強化として、来年の3月末で適用期限が到来する中小企業防災・減災投資促進税制の2年延長及び対象設備に耐震装置を追加する要望等が見受けられる。 次に金融庁からは、「資産所得倍増プラン」に関連する要望として、「NISAの抜本的拡充」等が掲げられている。令和2年度税制改正により2階建ての「新しい一般NISA」が令和6年1月より施行されるところ、今回、次のような刷新を行うという大胆な要望がされている。 その他金融庁は、昨年と同様に「金融所得課税の一体化」も要望しており、昨年の税制改正大綱においては「デリバティブ取引に係る金融所得課税の更なる一体化については、金融所得課税のあり方を総合的に検討していく中で、意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、早期に検討する。」との記載もあったことから、今後の議論の動向も含めて注視したい。 次に国土交通省からは、高経年マンションが今後急激に増加することを背景に、「長寿命化に資する大規模修繕工事を行ったマンションに対する特例措置」の創設が要望されている。これは、管理計画認定マンションその他の一定の要件を満たすマンションについて、必要な修繕積立金が確保され、長寿命化に資する一定の大規模修繕工事が実施された場合に、そのマンションの建物部分について、大規模修繕工事が完了した翌年度分の固定資産税額を1/3減額する特例措置を、令和5年4月より2年間講じる内容となっている。 また同様に社会問題への対応の観点から、来年12月で適用期限を迎える「空き家の発生を抑制するための特例措置(3,000万円控除)」につき、売買契約等に基づき譲渡後一定期間内に耐震改修工事又は除却工事が行われる場合、工事の実施が譲渡後であっても適用対象とする拡充措置及び4年間の延長が要望されている。 ほかには文部科学省からの要望として、来年3月末が適用期限となる「教育資金一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税措置」につき、2年の延長と非課税上限額の引上げ等の拡充が要望されているほか、厚生労働省の要望事項では、医業承継の後押しとなる「医業継続に係る相続税・贈与税の納税猶予等の特例措置」につき、現行制度が来年9月末までの措置であるため3年延長とするとともに、更なる承継促進のため、移行期限の要件を緩和する要望が出されている。 (了)

#Profession Journal 編集部
2022/09/07

《速報解説》 内閣官房より「人的資本可視化指針」が公表される~今後、有価証券報告書で開示が求められる人的資本に関する項目への対応も記載~

 《速報解説》 内閣官房より「人的資本可視化指針」が公表される ~今後、有価証券報告書で開示が求められる人的資本に関する項目への対応も記載~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年8月30日、内閣官房の非財務情報可視化研究会から、「人的資本可視化指針」が公表された。 これは、人的資本の可視化への期待が高まる中、人的資本可視化指針は、特に人的資本に関する資本市場への情報開示の在り方に焦点を当てて、既存の基準やガイドラインの活用方法を含めた対応の方向性について包括的に整理した手引きとして編纂されたものである。 有価証券報告書における対応についても記載されている。 付録として、次のものが公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 1 人的資本の可視化を通じた人的投資の推進に向けて 多くの投資家が、企業が将来の成長・収益力を確保するためにどのような人材を必要としていて、具体的にどのような取組を行っているか、人材戦略に関する経営者からの説明を期待している。 人材戦略が取締役会やCEO・CXOレベルで議論され、コミットされているか、かつ現場従業員の共感を得て浸透しているかは、企業にとっては戦略の強靱性を高める上で重要であり、投資家にとっては戦略の実現可能性を評価する重要な判断軸となる。 2 人的資本の可視化の方法 人的資本の可視化について、企業・経営者には、次のことが期待されている。 人的資本可視化指針は、投資家の関心が開示事項と長期的な業績や競争力との関連性にあることを踏まえ、まず、原則主義のフレームワークを参照し、自社の経営戦略と人的資本への投資や人材戦略の関係性(統合的なストーリー)を描くことを推奨しており、その上で、統合的なストーリーに沿って具体的な事項(定性的事項、目標、指標)を開示することが望ましいとしている。 「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」の4つの要素は有価証券報告書に新設が予定されるサステナビリティ情報の記載欄においても採用される方向となっており、人的資本についてもこの4つの要素を検討することが効率的である。 具体的開示事項の検討は、大きく、次の2つの類型に整理される。 3 可視化に向けたステップ 基盤・体制確立(取締役会・経営層レベルの議論、従業員との対話など)、可視化戦略構築(価値協創ガイダンスに沿った人的資本への投資や人材戦略の統合的ストーリーの検討など)について記載されている。 4 有価証券報告書における対応 金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告(2022年6月)において、次のことが示されている。今後、開示府令の改正を経て、有価証券報告書の記載事項として上場会社等の開示が求められていくこととなる。 人的資本可視化指針で示されたことを踏まえ、積極的に開示していくことが期待されている。 (了)

#阿部 光成
2022/09/02

《速報解説》 経産省、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」及び「価値協創ガイダンス2.0」を公表~SX実現に向け、企業の長期的価値向上のための目標設定、戦略構築など具体的な取組示す~

 《速報解説》 経産省、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」 及び「価値協創ガイダンス2.0」を公表 ~SX実現に向け、企業の長期的価値向上のための目標設定、戦略構築など具体的な取組示す~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年8月30日付けで(ホームページ掲載日は2022年8月31日)、経済産業省の「サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会)」は、次の報告書を公表した。 「サステナビリティ」(S)への対応は、企業が対処すべきリスクであることを超えて、長期的かつ持続的な価値創造に向けた経営戦略の根幹をなす要素となりつつあるとし、「トランスフォーメーション」(X)とあわせて、「サステナビリティ・ トランスフォーメーション」(SX)の実践の重要性及びSXの実現に向けた具体的な取組、ガイダンスについて述べている。 SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させていくこと、及びそのために必要な経営・事業変革(トランスフォーメーション)を指している。 社会のサステナビリティとは、持続可能な社会に対する要請への対応である。 企業のサステナビリティとは、企業が長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の維持・強化である。 「同期化」とは、社会の持続可能性に資する長期的な価値提供を行うことを通じて、社会の持続可能性の向上を図るとともに、自社の長期的かつ持続的に成長原資を生み出す力(稼ぐ力)の向上と更なる価値創出へとつなげていくことを意味している。 「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」がいわば「理論編」であり、「実践編」たる「価値協創ガイダンス2.0(2022年) 」、「人材版伊藤レポート2.0(2022年)」、「人的資本可視化指針(2022年)」などと併せて参照することで、これらの レポート・フレームワーク全体を、一体的かつ整合的に活用することが推奨されるとしている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)の主な内容 SXを実現するための具体的な取組として、次の事項について述べている。 1 社会のサステナビリティを踏まえた目指す姿の明確化 企業には、社会への長期的かつ持続的な価値提供に向けて判断軸となる価値観を明確化し、それに基づき、自社の事業活動を通じて解決する重要課題を特定することが求められる。 その上で、それら自社の価値観や重要課題とも整合的な形で、どのように社会に価値を提供していくか、それによってどのように長期的な価値向上を達成するかという、目指す姿を設定することが重要である。 2 目指す姿に基づく長期価値創造を実現するための戦略の構築 企業には、目指す姿に基づき具体的にどのように価値創造を実現していくか、 企業全体の長期価値創造の在り方を示す長期戦略を構築するとともに、 その具体化に向けた短・中・長期別の戦略を組み立てることが求められる。 3 長期価値創造を実効的に推進するためのKPI・ガバナンスと、実質的な対話を通じた更なる磨き上げ 長期的かつ持続的な企業価値向上を実効的に推進するためには、KPIの設定とガバナンス体制の整備が有効である。 これらを通じて、企業には、目指す姿とそれに基づく戦略を着実に構築・実行するとともに、外部環境の変化等に応じて適切な見直しを図ることが求められる。   Ⅲ 価値協創ガイダンス2.0 現行価値協創ガイダンスを「価値協創ガイダンス2.0」として改訂するものである。改訂により、SX実現のフレームワークとしての位置づけの明確化が行われている。 改訂の主なポイントは次のとおりである。   Ⅳ SXの加速に向けた更なる検討課題 SXの加速に向けた更なる検討課題として、次の事項が記載されている。 (了)

#阿部 光成
2022/09/01

プロフェッションジャーナル No.484が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年9月1日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.484を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/09/01

monthly TAX views -No.116-「「認定クラウド」とデジタル・セーフティーネット」

monthly TAX views -No.116- 「「認定クラウド」とデジタル・セーフティーネット」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   令和4年1月から、法定調書は「認定クラウド」を利用して提出できるようになった。「認定クラウド」というのは、国税庁告示で定める要件に適合する旨国税庁長官の認定を受けているクラウドサービスで、現在は株式会社野村総合研究所の「e-私書箱法定調書提出クラウドサービス」が該当している。 令和5年1月より、企業によりクラウド提出されたデータについては、各個人(従業員やフリーランスの方々)が確定申告にて利活用する「データポータビリティ」が可能となる予定で、今後の広がりが期待される。 (※) 国税庁「クラウドサービス等を利用した法定調書の提出について」より抜粋。 実は、このクラウドサービスは、将来的に、法定調書提出の利便性向上という国税庁のスキームを超えて、よりはるかに大きな意義を持つ可能性がある。それは以下のようなことである。 *  *  * 下図は、筆者が構成員を務めるデジタル庁の「マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤抜本改善ワーキンググループ」(第5回)(平成4年8月25日開催)に提出された資料に記載されている。 図の右側を見ると、真ん中に描かれた「民間クラウド」に企業が雇用者の所得情報をデータとして提供し、それを国税の確定申告だけでなく、さまざまな行政機関、つまり社会保障官庁や地方自治体などがそれぞれの行政に活用できるという仕組みが描かれている。 《社保税OSSの全体像》 (※) デジタル庁「資料2:マイナポータルAPI(情報取得系)の現在地と将来像~Appendix:マイナンバーカードの普及利活用について~」10頁より抜粋。 これは、将来的に、厚生労働省や地方自治体などが、企業側から提供された個人の所得情報を活用して、さまざまな給付申請の審査や給付に活用するという構想に発展するのではないかと考えている。 そのためには、情報収集の範囲を拡大する必要がある。個人事業者が自ら「民間クラウド」に所得データを入力したり、ギグワーカーについては仲介プラットフォーマーから、フリーランスについては仕事の発注者から、支払金額などのデータを提供させる仕組みが必要であり、そのためには、法定調書制度の拡充を進めていかなければならない。 このようにすれば、より迅速に、多くの国民の所得情報を集め、それに基づき各種の給付を行う仕組みができあがる。国・自治体が、給付の必要ない所得の多い家庭などを効率的に選別できることにもなる。 英国では、ユニバーサルクレジット(給付付き税額控除)という制度がある。企業から月ごとに税務当局に報告される所得情報が社会保障官庁に情報連携で共有され、子育て支援(児童税額控除)、求職者給付、低所得者の雇用支援などの対象者の把握や給付に活用されている(住宅手当、所得補助、求職者給付、雇用支援給付、勤労税額控除、児童税額控除の6種類)。この制度は、国民のセーフティーネットとして大きな役割を果たしている。 *  *  * 今回、将来像とはいえ、所得情報(税務情報)と社会保障給付をつなぐ仕組みが示されたことは、きわめて重要である。このような情報連携がマイナンバー制度の下でスムーズに行われるようになれば、多様な社会保障給付の対象者の判別も容易になり、全世代型社会保障に対応した効果的で効率的なセーフティーネット(筆者の言う「デジタル・セーフティーネット」)の導入が可能になる。またコロナ給付、子ども・子育て支援、高等教育支援なども、所得に応じて給付を変える対応が可能になる。 さらには、国や自治体が資格を判定し、申請なしで各種サービスが受けられる「プッシュ型行政」も可能になる。 将来像の実現には、認定クラウドを利用する企業を増やし、プラットフォーマーなどに法定調書の提出を義務付け、源泉徴収制度の拡充を図るなど多くの課題が残されている。デジタル行政の音頭をとるデジタル庁、さらには官邸の強いリーダーシップを期待したい。 (了)

#No. 484(掲載号)
#森信 茂樹
2022/09/01

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例44】「減価償却資産の判定単位とその損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例44】 「減価償却資産の判定単位とその損金性」   国際医療福祉大学大学院教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、神奈川県内において鉄道関連を中心とした模型や物品等を販売する株式会社X(資本金1,000万円、従業員10名の3月決算法人)を経営しております。私は元々製薬関連企業で営業職を務めていましたが、40歳を過ぎて、自分の時間を切り売りするだけのサラリーマン生活に疑問を感じ、子供のころから慣れ親しんできた鉄道模型を細々と扱う商店を開いて、残りの人生を謳歌したいという思いが募り、10年前に私鉄の駅前の商店街に現在の店を開業しました。私のこだわりである、国内外の珍しい鉄道模型を収集し販売しているためか、素人が始めた店の割には顧客がついて、お陰様で店の床面積を2倍に拡大するほどの売上となっております。 ところで、私の店舗で最近力を入れているのは、鉄道模型のジオラマを作成して、その上に実際に模型を走らせるという取り組みです。鉄道模型には軌間によりいくつかの種類がありますが、私の店舗ではそのうち、わが国で最も人気があるNゲージ(軌間9ミリ)とHOゲージ(軌間16.5ミリ)の2種類の模型を走らせることができるレイアウトを常設しております。特にNゲージの方は、地元の子供たちや愛好家が、自分の模型を持ち込んで走らせたりしており、好評をいただいております。一方、HOゲージの方は比較的高額であるため、当社が保有する模型を有償で貸し出して、レイアウト上の運転を楽しんでもらうケースがほとんどです。 さて、そのような貸出し用のHOゲージにつき、先日の税務調査で問題とされました。調査官が言うには、当社が貸し出しているHOゲージの機関車(1台20万円)は、3連となっており、3台で1組の編成となっているのだから、少額減価償却資産(措法67の5)には該当しないとのことです。確かに、わが社のレイアウト上を走らせるのに、蒸気機関車3連運転は非常に迫力があり、多くの愛好家がそれを目当てに訪れているのは事実ですが、1台ずつでも走行可能であり、3台で一編成ということはありません。3台1組だと取得価額が60万円と30万円を大きく超えてしまうため、一時の損金算入はできないということなのでしょうが、使用・貸出の実態に即しておらず、納得がいかないのですが、調査官の言うことが正しいのでしょうか、教えてください。 【A】 少額減価償却資産の判定に当たっては、対象となる資産につき「通常の取引単位」ごとか、又は「その機能を発揮できる単位」ごとに検討することとなりますが、本件の場合、そのいずれの判定基準においても、たとえ対象となるHOゲージの機関車は使用する際に3台1組とするケースが多いとしても、1台ずつで判断するのが妥当であると考えられることから、中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)の適用は可能であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 減価償却資産の意義 減価償却資産は、複数年度(耐用年数+α)にわたってそれを事業の用に供する企業の収益獲得に貢献する資産であるから、その取得に要した金額(取得価額)は、取得年度に一括して費用化するのではなく、将来獲得する収益に対する費用との対応関係(費用収益対応の原則)により、使用又は時間の経過によりそれが減価するのに応じて徐々に費用化するのが妥当といえる(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)389頁。 また、法人の減価償却費として損金に算入されるのは、当該償却費として損金経理をした金額、すなわち、その確定した決算において費用として経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額である(法法31①)(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書390頁。 なお、法人が上記減価償却資産の減価償却費を各事業年度の損金に算入するためには、その事業年度の終了より前にそれを取得しているとともに、事業の用に供していることが必要となる(法令13)。   (2) 少額減価償却資産等の意義と種類 減価償却資産のうち、以下のものは、課税上、減価償却による原価配分の手続の対象とするほどの重要性がないものと判断されるため(※3)、事業の用に供した事業年度に損金経理した場合、減価償却を行わずにその取得価額の全額を損金に算入することができる(即時償却、法令133)。 (※3) 岡村忠生『法人税法講義』(成文堂・2004年)86-87頁。 (※4) この金額は平成10年度の税制改正で20万円から引き下げられている。 また、平成18年度の税制改正で、中小企業者たる一定の法人(常時使用する従業員数が500人以下の場合)に関し、取得価額が30万円未満のものについては、合計300万円を超える部分を除き、事業の用に供した事業年度に損金経理した場合、その取得価額の全額を損金に算入することができることとされた(措法67の5、措令39の28①) さらに、取得価額が20万円未満の減価償却資産については、3年間の一括償却が認められている(法令133の2)。   (3) 少額減価償却資産の判断基準 即時償却が可能な少額減価償却資産等に該当するかどうかは、その取得価額がいくらであるのかが問題となるが、その判断基準としては一般に、対象資産につきその本来の機能を発揮し得る最小取引単位ごとに判定すべきである、と解されている(※5)。この点につき争われた著名な裁判例として、最高裁平成20年9月16日判決・民集62巻8号2089頁(TAINSコード:Z258-11032、NTTドコモ中央事件)があるので、以下でみていきたい。 (※5) 金子前掲(※1)書395頁。 ① 事案の概要 本件は、被上告人(納税者)の平成10年4月1日から同13年3月31日までの3事業年度の法人税に関し、その減価償却資産である電気通信施設利用権に当たるエントランス回線利用権が法人税法施行令第133条所定のいわゆる少額減価償却資産(取得価額が10万円未満であるもの)に当たるかどうかが争われた事案である。 〇 取引関係図 (※)  TAINSコード:Z258-11032より抜粋。 被上告人は、平成10年12月1日、B株式会社から簡易型携帯電話(PHS)事業の営業譲渡を受け、同事業を開始した。被上告人のPHS事業は、C株式会社(同社の事業のうち本件に関係する部分は、平成11年7月1日にD株式会社が承継)の設置するPHS接続装置、電話網等の機能及びデータベースを活用する方式(いわゆるC網依存型の方式)によるものであり、この方式における通信経路をみると、例えばPHS事業者との契約により同事業による電気通信役務の提供を受ける利用者がCの固定電話利用者、携帯電話利用者等と通話等をする場合、そのPHS端末から発信された音声等の情報は、無線電信により当該PHS事業者の設置する基地局において受信され、Cの設置するエントランス回線(基地局とCの設置するPHS接続装置との間を接続する有線伝送路設備)、PHS接続装置及び電話網等を介して、固定電話や携帯電話等に送信されるという経路をたどる(Cの固定電話や携帯電話等からPHS端末に向けて発信される情報は、上記と逆の経路をたどる)。 エントランス回線が1回線あれば、その回線が接続する基地局のエリア内のPHS端末とCの固定電話又は携帯電話等との間で、以上にみたような双方向の通話等が可能になる。 Cは、平成10年当時、その設置する電気通信設備につき電気通信事業法第38条の2第1項による郵政大臣の指定を受けており、同条2項に基づき、上記の指定電気通信設備と他の電気通信事業者の電気通信設備との接続に関して取得する接続料及び接続条件につき実施日を平成10年3月24日とする接続約款を定めて郵政大臣の認可を受けた。本件接続約款においては、これに基づいてCとの間でその指定電気通信設備との接続に関する協定を締結したC網依存型PHS事業者は、Cに対しエントランス回線の設置の申込みをし、Cがこれを承諾したときは、Cに対し設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2,800円を支払うこととされていた。 被上告人は、上記平成10年12月1日付の営業譲渡に伴い、Bからエントランス回線利用権を1回線に係る権利1つにつき7万2,800円の価格で合計15万3,178回線分譲り受け(その譲受価格の総額は111億5,135万8,400円である)、その後、本件接続約款に基づくCの指定電気通信設備と被上告人の電気通信設備との接続に関する協定に従って、必要に応じて、1回線単位でエントランス回線の設置の申込みをし、Cがこれを承諾して設置工事をするごとに設置工事及び手続に関する費用として1回線当たり合計7万2,800円を支払って、新設された回線に係るエントランス回線利用権を取得した。被上告人は、以上のとおり取得したエントランス回線利用権を、そのPHS事業の用に供した。 ② 事案の争点 被上告人の保有するエントランス回線利用権が少額減価償却資産(取得価額が10万円未満であるもの)に当たるかどうか。 ③ 裁判所の判断 ④ 本裁判例からいえること 本裁判例の争点は、少額減価償却資産の判定に当たり、エントランス回線利用権の取得価額は、1回線に係る権利1つずつ(7万2,800円)で判断されるのか、それとも納税者が保有することとなったエントランス回線利用権全体(15万3,178回線分で合計111億5,135万8,400円)で判断されるのか、という点である。いずれを採用するかで、損金算入額が大きく異なるため、注目された事案である。 当該判定基準については、実務上、通達の規定に依拠しており、それによれば、「通常1単位として取引されるその単位、例えば、機械及び装置については1台又は1基ごとに、工具、器具及び備品については1個、1組又は1そろいごとに判定し、構築物のうち例えば枕木、電柱等単体では機能を発揮できないものについては一の工事等ごとに判定する」こととされている(法基通7-1-11)。これにつき法令解釈の指針を示したのが、今回の最高裁判決であり、先例としての意義が認められる。 最高裁は、少額減価償却資産の判定に当たり、まず「エントランス回線1回線に係る権利一つを1単位として取引されている」というように、「通常の取引単位」を重視しているように見える。一方で、課税庁の主張にこたえる形で、「その用途に応じた本来の機能を発揮する」単位についても検討している。結論として、「エントランス回線が1回線あれば、当該基地局のエリア内のPHS端末からCの固定電話又は携帯電話への通話等、固定電話又は携帯電話から当該エリア内のPHS端末への通話等が可能であるというのであるから、本件権利は、エントランス回線1回線に係る権利一つでもって、被上告人のPHS事業において、上記の機能を発揮することができ、収益の獲得に寄与するものということができる」として、「エントランス回線1回線」がその単位であることを認めている。 学説上は、「その用途に応じた本来の機能を発揮する単位」は、通常、「取引の単位」に一致すると解しており(※6)、両者を分ける意義・実益については疑問が呈されている(※7)。「取引の単位」を分割することによる租税回避も想定されるが、具体的な事例となると、そう簡単に提示できるものでもない。仮にそのような事態が生じたときには、個別の否認規定を導入して対処するよりほかないであろう。 (※6) 谷口勢津夫『税法基本講義(第7版)』(弘文堂・2021年)438頁。 (※7) 安井栄二「減価償却資産の判定単位」『租税判例百選(第7版)』(有斐閣・2021年)113頁。   (4) 本件へのあてはめ 少額減価償却資産の判定に当たっては、対象となる資産につき「通常の取引単位」ごとか、又は「その機能を発揮できる単位」ごとに検討することとなるが、本件の場合、そのいずれの判定基準に照らしても、たとえ対象となるHOゲージの機関車は実際に使用する際に3台1組とするケースが多いとしても、1台ずつで判断するのが妥当であると考えられることから、中小企業等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例(措法67の5)の適用は可能であると考えられる。 (了)

#No. 484(掲載号)
#安部 和彦
2022/09/01

令和4年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】

令和4年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第5回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   (4) 資産調整勘定等対応金額の計算方法 ① 「資産調整勘定等対応金額」とは、離脱法人の通算開始・加入前に通算法人が時価取得したその離脱法人の株式の取得価額のうち、その取得価額を合併対価としてその取得時にその離脱法人を被合併法人とする非適格合併を行うものとした場合に資産調整勘定又は負債調整勘定(以下「資産調整勘定等」という)として計算される金額に相当する金額をいう。 〈図表6〉 資産調整勘定等対応金額の計算方法(一の通算法人が一括で株式を取得している場合) 〈図表7〉 一の通算法人が一括で株式を取得している場合 【ケース】 通算子法人C社が離脱するケース 1.離脱法人C社の株式の異動状況 2.離脱法人C社の株式の取得価額の状況 3.離脱法人株式に係る資産調整勘定等対応金額及び投資簿価修正額の計算 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ② 「資産調整勘定等対応金額」は、その離脱法人の株式の時価取得が段階的に行われていた場合には、各取得時における資産調整勘定対応金額の合計額から負債調整勘定対応金額の合計額を減算した金額とする。各取得時における資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の100%相当額に取得割合を乗じて計算した金額とする。 ③ 「資産調整勘定等対応金額」は、離脱法人の株式の時価取得が通算グループ内の複数の法人により行われていた場合には、各通算法人の各取得時における資産調整勘定対応金額の合計額から各通算法人の各取得時における負債調整勘定対応金額の合計額を減算した金額(通算グループ全体の資産調整勘定等対応金額)とする。 〈図表8〉 資産調整勘定等対応金額の計算方法(複数の通算法人が段階的に株式を取得している場合) A:資産調整勘定対応金額(通算法人ごと、かつ、取得時ごとに計算) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 B:負債調整勘定対応金額(通算法人ごと、かつ、取得時ごとに計算) ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) その取得時の離脱法人株式の取得価額(100%相当額)とは、その取得時の離脱法人株式の取得価額を取得株式の数で除し、これにその離脱法人のその取得時の発行済株式等の総数を乗じて計算した金額となる(以下同じ)。 (※2) 離脱法人のその取得時の発行済株式等の総数のうちにその取得株式の数の占める割合(以下「取得割合」という)となる。 〈図表9〉 複数の通算法人が段階的に株式を取得している場合 【ケース】通算子法人C社が離脱するケース 1.離脱法人C社の株式の異動状況 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 2.離脱法人C社の株式の取得価額の状況 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 3.離脱法人株式に係る資産調整勘定等対応金額及び投資簿価修正額の計算 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ④ 上記③の通算グループ全体の資産調整勘定等対応金額は、その離脱法人の通算開始・加入日においてその離脱法人の株式を有する通算法人が計算し、その通算開始・加入日において有する株式数に対応する金額を計算する。 ⑤ 上記③の通算グループ全体の資産調整勘定等対応金額に保有割合を乗じて計算した金額について、離脱直前にその離脱法人の株式を有する通算法人で加算措置が適用される。なお、通算開始・加入後の通算グループ内での株式の移動により、通算開始・加入日にその離脱法人の株式を有する通算法人(資産調整勘定等対応金額を計算する通算法人)と離脱直前にその離脱法人の株式を有する通算法人(投資簿価修正を行う法人)が異なる場合がある(法通2-3-21の5)。 ⑥ 通算開始・加入日おいて離脱法人の株式を有する通算法人が、その離脱法人の株式の取得後、通算開始・加入日以前にその一部を譲渡した場合には、その譲渡の直前のときまでに生じている「各取得時の資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の合計額」からその譲渡分(譲渡割合を乗じて計算)を控除した金額を「各取得時の資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額の合計額」とする。ここで「譲渡割合」とは、その譲渡の直前の時においてその通算法人が有する離脱法人の株式の数のうち、その譲渡をした株式の数の占める割合をいう。 〈図表10〉 通算完全支配関係発生日後に通算グループ内で離脱法人の株式の譲渡をした場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈図表11〉 通算完全支配関係発生日以前に離脱法人の株式の譲渡をした場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 〈図表12〉 増資により離脱法人の株式を取得した場合の取扱い ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ⑦ 対象株式の取得後におけるその対象株式の保有割合が低い又はその取得の時期が古いなどの理由により、その取得の時における資産調整勘定対応金額等の計算が困難であると認められる場合において、その取得の時において計算される資産調整勘定対応金額等を0とし、その後に追加取得した対象株式について各追加取得の時における資産調整勘定対応金額等を計算し、その計算の基礎となる事項を記載した書類を保存しているときは、課税上弊害がない限り、加算措置の適用を受けることができる(法通2-3-21の4「資産調整勘定対応金額等の計算が困難な場合の取扱い」)。ただし、負債調整勘定対応金額が計算されることが見込まれる場合に、その計算が困難であるとして、これを0としているときには、課税上弊害があるため、この取扱いの適用はない(法通2-3-21の4)。 ⑧ 資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる対象株式の取得価額は、法人税法施行令第119条第1項第1号(有価証券の取得価額)の規定により計算することとなるため、「その購入の代価(購入手数料その他その有価証券の購入のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額)」となり、付随費用を含めて計算する(法通2-3-21の8「資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる対象株式の取得価額」)。この場合において、その対象株式の取得の時期が古いなどの理由により、付随費用の把握が困難なときには、その購入の代価をその対象株式の取得価額として資産調整勘定対応金額等を計算することができる(法通2-3-21の8)。 (5) 時価純資産価額の計算 時価純資産価額の計算上の留意点は次のとおりである。 ① 資産調整勘定対応金額等の計算における負債調整勘定の金額の取扱い 資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、他の通算法人の対象株式の取得の時において、当該他の通算法人を被合併法人とし、その取得をした法人を合併法人とする非適格合併が行われたものとみなして法人税法第62条の8第1項の規定を適用する場合に資産調整勘定の金額として計算される金額又は負債調整勘定の金額(差額負債調整勘定の金額)として計算される金額を基礎として計算するが、これらの金額の計算上、時価純資産価額の計算の基礎となる負債の額には、退職給与債務引受額及び短期重要債務見込額の金額を含まない(法通2-3-21の6)。 ② 独立取引営業権の取扱い 営業権のうち独立した資産として取引される慣習のあるもの(独立取引営業権)は資産に含まれる(法法62の8①)。 ③ その取得時に離脱法人が資産調整勘定の金額、負債調整勘定の金額、営業権を有する場合の取扱い 資産調整勘定対応金額等の計算上、離脱法人の株式の取得時において、その離脱法人が次に掲げる資産又は負債を有する場合、次に定める金額の合計額(その合計額が0に満たない場合には、その満たない部分の金額)を資産の取得価額の合計額(その満たない場合には、負債の額の合計額)に加算して計算する(法令119の3⑦三・四)。 ④ 資産調整勘定対応金額等の計算の基礎となる資産及び負債 資産調整勘定対応金額又は負債調整勘定対応金額は、原則として、他の通算法人の対象株式を取得した時に当該他の通算法人が有する資産及び負債の価額を基礎として計算するのであるが、例えば、その取得した時の直前の月次決算期間又は会計期間の終了の日(以下「直前終了日」という)に当該他の通算法人が有する資産及び負債の同日における価額を基礎として計算している場合には、同日に有する資産及び負債の内訳とその対象株式の取得時に有する資産及び負債の内訳に著しい差異があるなどの課税上弊害がない限り、これが認められる(法通2-3-21の7)。 なお、ここで言う課税上の弊害については、例えば、直前終了日の翌日から株式取得時までの期間で獲得した利益相当額又はその期間に実施した旧株主の増資額の分だけ資産が増加した場合(つまり、その期間に資産だけが増えて負債が増えていない場合)に、直前終了日に離脱法人が有する資産及び負債で時価純資産価額を計算すると、その期間に増加した資産は時価純資産価額に含まれず、その分、資産調整勘定等対応金額が膨らむことになるが、その期間に増加した資産は簿価純資産価額にも含まれているため、結果的にその期間に増加した資産は資産調整勘定等対応金額及び簿価純資産価額の両方に含まれることとなる。このような場合、直前終了日に有する資産及び負債の内訳と株式取得時に有する資産及び負債の内訳に著しい差異がある場合として課税上弊害があるものとみなされる可能性がある。 また、ある資産について直前終了日の含み益よりも株式取得時の含み益の方が大きい場合に、直前終了日に離脱法人が有する資産及び負債で時価純資産価額を計算すると、その含み益が時価純資産価額に含まれず、その分、資産調整勘定等対応金額が膨らむことになるが、株式取得後にその含み益が実現益となり簿価純資産価額も膨らむことになる場合、結果的に含み益が資産調整勘定等対応金額及び簿価純資産価額の両方に含まれることとなる。このような場合も、直前終了日に有する資産及び負債の時価と株式取得時に有する資産及び負債の時価に著しい差異がある場合として課税上弊害があるものとみなされる可能性がある。 ⑤ 移行通算子法人が連結納税制度の開始・加入に伴う時価評価課税の適用を受けていた場合の取扱い 離脱法人が連結納税制度からグループ通算制度に移行した通算子法人(移行通算子法人)である場合で、移行通算子法人が連結完全支配関係発生日の前日の属する事業年度(平成29年10月1日前に終了したものに限る)において連結納税制度の開始・加入に伴う時価評価課税の適用を受けていた場合には、その移行通算子法人の株式に係る資産調整勘定等対応金額は、その連結完全支配関係発生日においてその移行通算子法人が有する一定の営業権の価額を減算した金額とする。この場合、その営業権の価額等を明らかにする書類等を保存しておくことが必要となる。これは、平成29年10月1日前に終了した事業年度においては連結納税制度の開始・加入に伴う時価評価課税において自己創設の営業権が時価評価の対象となっているため、それが資産調整勘定等対応金額に含まれないため(二重加算にならないため)の調整となる。 ⑥ 時価の意義 資産調整勘定等対応金額の基礎となる時価純資産価額を計算するための時価については、非適格合併において資産調整勘定等を計算する場合の考え方に従えばよいこととなる。 つまり、各資産の取得価額は、株式取得の時(合併の時)において譲渡される場合に通常付される価額による。 ただし、非適格合併において資産調整勘定等を計算する場合の合併の時において譲渡される場合に通常付される価額については、法令や通達で具体的には定義はされていない。 そのため、実務上は、固定資産、土地(土地の上に存する権利を含み、固定資産に該当するものを除く)、有価証券、金銭債権及び繰延資産については、課税上弊害がない場合、法人税基本通達12の7-3-1(通算制度の開始に伴う時価評価資産等に係る時価の意義)を準用することが考えられる。 また、企業会計においては、連結子会社化に際し子会社の個別財務諸表上の資産及び負債の評価換えが必要となるが、この際の価額は通常の保存書類(【第8回】2(8)②参照)の一号のロの価額に該当し、その評価方法等を記載した書類は通常の保存書類(【第8回】2(8)②参照)の一号のハに該当するものと考えられるため([法人税等]令和4年度税制改正の解説299頁)、実務上は、連結子会社化に際し子会社の個別財務諸表上の資産及び負債の評価換えが行われた場合のその時価の基礎となる財務デューデリジェンス等で算定された資産及び負債の価額も課税上弊害がない限り適用できるものと考えられる。 ここで、時価の算定における課税上の弊害については、例えば、株式取得時に既に売却することが決まっている土地について、売却見込み価額よりも著しく低い金額を時価として時価純資産価額を計算した場合、その評価不足額が時価純資産価額に含まれず、資産調整勘定等対応金額が膨らむとともに、株式取得後に土地を売却することでその評価不足額が簿価純資産価額に含まれることになる場合、結果的に評価不足額が資産調整勘定等対応金額及び簿価純資産価額の両方に含まれることとなり、このような場合、課税上弊害があるものとみなされる可能性がある。   (続く)

#No. 484(掲載号)
#足立 好幸
2022/09/01

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第22回】「匿名組合分配金はどのように取り扱われるのか」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第22回】 「匿名組合分配金はどのように取り扱われるのか」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 その構成員が外国の事業体である我が国匿名組合の収益分配金は、我が国課税上どのように取り扱われるのでしょうか。 〔A〕 外国の匿名組合員が、日本において事業を行う者との間で締結する匿名組合契約に基づき収受する利益の分配金は、我が国の所得税法の規定に基づき、源泉所得税が課税されます。 ●●●〔解説〕●●● 1 匿名組合とは (1) 匿名組合の法的性質 匿名組合は、商法を準拠法とし、我が国が誇る(?)節税スキーム“TK”として、世界的にも有名である。匿名組合は、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資し、相手方がその営業より生ずる利益を分配する契約(商法535)をいい、商人がその営業のためにする付属的商行為の1つであるとされる(商法503)。 匿名組合によって営まれる事業は、法的には営業者の単独事業であって、匿名組合員の出資は営業者の財産に属する(商法536①)。匿名組合員は、利益の分配を受ける権利を有するが、通常は出資額を限度として損失分担義務を負い(有限責任)、出資が損失により減少した時は、これを補てんした後でなければ、利益の分配を請求することができない(商法538)。匿名組合員は、自らが業務を執行する権利や営業を代表する権利はないが、契約の定めに従い営業を継続続行すべきことを請求する権利、営業者の業務及び財産状況を検査する権利が認められている(商法539)。 (2) 匿名組合の課税関係 匿名組合契約に基づく組合事業から生ずる所得に対する課税は法人税基本通達でのみ規定されており、任意組合の場合と異なり(※1)、匿名組合員に直接帰属せず、いったんは営業者に帰属することとなる(※2)。法人が匿名組合員である場合におけるその匿名組合営業について生じた利益の額又は損失の額については、現実に利益の分配を受け、又は損失の負担をしていない場合であっても、分配を受け又は負担をすべき部分の金額をその事業年度の益金の額又は損金の額に算入する(法基通14-1-3前段)。なお、個人が匿名組合員の場合、分配を受ける利益の所得分類は事業所得とされる(※3)。 (※1) 任意組合等において営まれる事業から生ずる利益金額又は損失金額については、各組合員に直接帰属する(法基通14-1-1)。 (※2) 法人が営業者である場合における当該法人の所得金額の計算に当たっては、匿名組合契約により匿名組合員に分配すべき利益の額又は負担させるべき損失の額を損金の額又は益金の額に算入する(法基通14-1-1の2)。また、営業者が個人の場合、匿名組合員に分配する利益の額は、当該営業者の所得の計算上必要経費に算入する(所基通36・37共-21の2)。 (※3) もっとも、航空機リース事件(最判平成27年6月12日)では、匿名組合員が契約上事業に関与できず、また実際に一切関与していない場合に分配された損失は、不動産所得に係る損失ではなく、雑所得に係る損失であって損益通算の対象とならないとされた。 (3) 外国の匿名組合員の課税関係 外国の事業体が匿名組合契約に基づき国内において事業を行う者に出資する場合、当該組合から支払われる利益の分配は国内源泉所得とされ、20.42%(復興特別所得税を含む)の税率で所得税が源泉徴収される(所法161①十六、所令288)。 租税条約の解釈上、一方の締約国の営業者との匿名組合契約により他方の締約国の居住者である匿名組合員が受ける利益の分配金の所得分類が問題となるが、匿名組合の共同事業性及び組合的性質から、その所得区分は事業所得に該当すると解されている(※4)。 (※4) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)555頁参照。 他方、OECDモデル租税条約21条「その他の所得」(※5)は、同条約6条(「不動産所得」)から20条(「学生」)までにおいて取り扱われない所得については、原則として、居住地国課税であることを定めているため、租税条約の規定により事業所得とされない場合、匿名組合の利益の分配金が「その他の所得」に区分され、上記国内法の規定にかかわらず、利益の分配金に課税されない可能性がある。 (※5) OECDモデル租税条約21条は、「一方の締約国の居住者の所得(源泉地を問わない。)であって前各条に規定がないものに対しては、当該一方の締約国においてのみ租税を課すことができる。」と規定している。 以下では、旧日蘭租税条約23条「その他条項」の適用の是非が争われた日本ガイダント事件について検討する。   2 過去の裁判例 《日本ガイダント事件》(※6) (※6) (第一審) 東京地裁平成17年9月30日判決・TAINSコード:Z255-10151 (控訴審) 東京高裁平成19年6月28日判決・TAINSコード:Z257-10741 (1) 事案の概要 医療機器事業を営む米国ガイダント社の100%子会社である日本ガイダント社(※7)は、同一グループ内のオランダ法人(原告X)との間で匿名組合契約(本件契約)を締結し、Xが同契約分配金名目で受領した金員(本件金員)について、処分行政庁は、本件契約はその名称にかかわらず実際には任意組合契約であり、本件金員は、Xが日本国内に有する恒久的施設(PE)を通じて行う事業から生じた所得であるため、「国内源泉所得」(旧法法138一)及び「企業の利得」(旧日蘭租税条約8①)に当たるとして、決定及び無申告加算税賦課決定(決定等)をしたため、Xが、本件金員は、旧日蘭租税条約23条に規定する「一方の居住者の所得で前諸条に明文の規定がないもの」に当たるから、我が国には課税権がない、また、仮に、本件金員が「企業の利得」に当たるとしても、Xは日本国内にPEを有しないから、我が国には課税権がなく、したがって、上記決定等は違法であるなどと主張して、同決定等の取消しを求めた事案である。 (※7) 日本ガイダント社の直接の親会社は、Xとは別のオランダ法人(GIBV)であり、XもGIBVも共通の親会社GBV(オランダ法人)に持分を保有されていた。この間の事情につき、藤枝純・角田伸広『租税条約の実務詳解』(中央経済社、2018年)118頁脚注16は、「当初、GBVが匿名組合の地位も日本ガイダントの親会社も兼ねていましたが、不自然であると指摘されるリスクを減らすために、別法人である原告が匿名組合員の地位を承継したものと推察されます。もし親会社が匿名組合契約を締結していた場合(支配株主でもあり、また匿名組合員でもある場合)には、日本ガイダントが必要とする事業資金は増資又は貸付によっても供与できるのに、どうしてわざわざ匿名組合契約を締結したのかという疑問を惹起させることが懸念されたのではないかと思われます。」と述べている。 本件の争点は、①本件契約が匿名組合契約であるか任意組合契約であるか、②Xが国内にPEを有するか、③本件契約に基づく分配金には租税条約上のどの所得条項が適用されるかである。 (2) 裁判所の判断 ① 第一審の判示 第一審である東京地裁は、以下のように判示して、Xの主張を容認した(争点2は省略)。 (a) 争点1について (b) 争点3について ② 控訴審の判示 第一審に対し、国側Yは、これを不服として控訴したところ、東京高裁は次のように判示して控訴を棄却した。 (※8) 控訴審においてYは、匿名組合契約の締結により、同組合の分配金が日本においても、またオランダにおいても課税されない「二重非課税」の結果となっている点を主張した。 (3) 控訴審判決による日蘭租税条約の改正 東京高裁による上記説示を受け、2010年(平成22年)8月25日署名(※9)の改正日蘭租税条約議定書では、その9項で、日本国が、匿名組合契約に基づいて取得される所得及び収益に対して、日本国の法令に従って源泉課税することを妨げない旨が明記された。この結果、オランダの匿名組合員が日本において事業を行う者と締結する匿名組合契約に基づき受領する所得の分配金は、上記1(3)のとおり、源泉所得税の対象とされることとなった。 (※9) 改正条約は2012(平成24年)年1月1日に発効している。 (4) BEPS防止措置実施条約 Xが匿名組合分配金を収受した当時の旧日米租税条約には「その他条項」はなく、したがって米国ガイダント社が直接匿名組合契約を締結していれば、当該契約の分配金については、我が国国内法の規定によって課税されていた可能性がある。その意味で、本事案は、所謂トリーティーショッピング(条約漁り)(※10)の可能性があったと考えられる(※11)。 (※10) 多国間の租税条約に含まれた課税上の優遇措置を、本来ならその条約を利用できないはずの第三国の居住者が濫用して、自らが支払うべき税額を減免しようとする租税回避行為(国税庁企画課長編『税務・会計用語辞典(9訂版)』財経詳報社、1998年)。 (※11) 前掲(※4)119頁。 トリーティーショッピングへの国際的な対応については、G20及びOECDによるBEPSプロジェクト(※12)において議論され、その結果、租税条約関係の抜け穴を防止するため、2016年11月、『BEPS防止措置実施条約(多国間協定)』が策定された(※13)。同条約は、既存の二国間租税条約の上位に位置付けられたことで、既存の条約を改正することなく、同条約に参加する国や地域は、当該国(地域)の個人や法人が関係する国際的租税回避を一定程度防止することができるという特徴を有する。 (※12) Base Erosion and Profit Shifting(税源浸食と利益移転)。2015年10月5日に最終報告書が公表された。 (※13) BEPS防止措置実施条約は、2019(平成31年)年1月1日に発効している。本連載【第7回】を参照。 租税条約の濫用への対応については、同条約6条から11条において規定しており、その中で、最低限必要な措置として、①租税条約のタイトル・前文に、租税回避・脱税(条約漁りを含む)を通じた二重非課税又は税負担軽減の機会を創出することを意図したものではないことを明記、②一般的乱用防止規定として、(イ)主要目的テスト(Principal Purpose Test:PPT)、又は(ロ)特典制限規定(Limitation of Benefit:LOB)のいずれか及びその併用を選択することを求めている。 ここでいうPPTとは、租税条約の濫用を主たる目的とする取引から生ずる所得に対する租税条約の特典を否認する規定をいい、LOBとは、租税条約の適用を受けることができる者を一定の適格者に制限する規定をいう(※14)。我が国とオランダは既にPPTを選択している(※15)ため、仮に本件事案が現行の法的枠組みの中で審議されたとしたら、裁判所の判断は異なっていた可能性が高い(※16)と思われる。 (※14) 1980年代以降米国はLOBの導入を各国に働きかけており、我が国では、2003年の改正日米租税条約22条で初めて採用された。 (※15) 財務省HP「我が国とオランダとの間の租税条約に対する本条約の適用関係の概要」参照。 (※16) 前掲(※4)121頁。 (了)

#No. 484(掲載号)
#霞 晴久
2022/09/01

〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第1回】「リース取引の定義」~“レンタル”や“購入”との違い~

〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第1回】 「リース取引の定義」 ~“レンタル”や“購入”との違い~   公認会計士・税理士 喜多 弘美   ◆「リース」ってなに? 経理の仕事をしていると、「リース」という言葉を聞くことがありませんか? 「これはリースだから会計処理に注意してね。」 筆者が新卒で経理の仕事をしていた時、資料を持った上司からそう声をかけられました。 当時、筆者は固定資産の担当で、固定資産台帳の登録や固定資産に関する会計伝票を作成する必要がありました。 この記事を読んでくださっている方には、同じような経験をされている方がいらっしゃると思います。 本連載では、当時の筆者のようにまだリース取引になじみのない経理実務担当者の方やリース取引について一から学びたい方を対象に、リース取引の会計と税務の基礎を解説していく連載となっています。 【第1回】となる今回は、リース取引の定義を確認し、レンタルや購入との違いを具体的に見ていきます。 (1) リース取引の定義 企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」の第4項では、リース取引を以下のとおり定義しています。 レッサー? レッシー・・・? 難しく書いてありますが、簡単に言うと、リース取引は「貸手と借手が約束した期間にわたり、物件を賃貸借する取引」です。 一般的に英語のリース(lease)は「賃貸借」を意味し、上記のリース取引よりも意味が大きくなります。つまり、リース(lease)の中にリース取引が入っているイメージです。 《リース取引の定義のイメージ》 (2) リース取引とレンタルの違い 「リース」と「レンタル」は、一見すると同じ意味のように思えます。 確かにリース取引もレンタルも賃貸借取引になりますが、実は以下のような違いがあります。 このように、リース取引とレンタルの大きな違いは、「物件を誰が選ぶか」と「契約期間の長短」です。 特にリース取引は借手が物件を選択するため、借手以外の人が必要としない特殊な機械装置などが対象になることがあります。そうすると借手以外の人が必要としないため、リース契約満了時に借手が安く買い取る権利を最初からつけている場合もあります。 一方で、レンタルの場合は汎用性が高いものが多く、借手が使った後も他の人が必要としている場合が多いです。レンタカーやレンタルCD・DVDがイメージしやすいでしょう。 (3) リース取引と購入(銀行借入、割賦販売)の違い 次に、リース取引と購入の違いを見ていきましょう。両者の一番大きな違いは所有権が誰にあるかです。リース取引はリース会社に、購入は買主に、それぞれ所有権があります。 特にリース取引とよく似ている購入方法は、割賦販売と銀行借入した資金で物件を購入する場合です。この3つはどれも、物件の耐用年数の全期間にわたり、物件使用者が対象物件を使用する可能性が高いです。また、支払いが一括ではなく一定期間にわたります。 具体的には、リース取引はリース会社に毎月定額を支払い、割賦販売では販売会社へ特定の金額を分割して支払い、銀行借入の場合は銀行から全額借入をした後に一定期間にわたり、銀行と決めた支払い方法で借入金を銀行へ返済することがほとんどです。 割賦販売の場合、所有権は買主にありますが、一般的に代金完済までは売主に所有権が留保されるので、所有権がリース会社にあるリース取引と少し近しいものになります。ただ一方で、契約満了時の処理については、リース取引が物件をリース会社へ返還するのに対し、割賦販売では所有権の留保が解除されて、所有権が買主に変わることになります。 また、銀行借入した資金で購入した場合とリース取引の大きな違いは担保の設定です。銀行借入の場合は、銀行に担保を提供するのが一般的ですが、リース取引でリース会社に担保を設定することはほとんどありません。そのため、銀行借入の場合は担保物件の調査などで契約を締結するまでに時間がかかる一方、リース取引は比較的短時間で契約を締結することが可能です。 リース取引・割賦販売・銀行借入した資金で購入する場合は、上記のとおり、それぞれ違いがありますが、三者が似ているのはどれもファイナンス(資金調達)の意味合いが強いからです。どれも自己資金で一括購入することが厳しい、又は、資金に余裕を持たせるためなど、資金繰りのために採用されることが多くなっています。 (了)

#No. 484(掲載号)
#喜多 弘美
2022/09/01
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