税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第52回】 「不動産鑑定評価基準に定義のない「述語」の意味」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 はじめに 不動産鑑定評価基準(以下、「基準」と呼びます)には様々な専門用語についてその定義が置かれていますが、そこに使用されている「述語」については格別の説明はなされていません。 例えば、鑑定評価額の決定に至るまでには複数の価格(又は賃料)が試算されますが、それぞれの試算結果にウェイトを付けながら(あるいは勘案しながら)最終結論を導くに当たり、各々の価格を「関連づけて」や「比較考量して」、あるいは「標準として」という述語が必ずといってよいほど用いられています。 しかし、基準にはこれらの述語の定義が直接登場してこないため、改めてその意味を確認しておく必要があります。 そこで、今回はこれらの述語についての一般的な解釈と、鑑定評価に即した解釈を比較しつつ解説を進めていきます。 2 鑑定評価に登場する「述語」の解釈 上記1で述べた3つの述語につき、一般的な解釈と鑑定評価に即した解釈を比較すれば以下のとおりです(以下、価格を対象として述べていきます)。 3 基準の規定とそこに登場する「述語」の一例 それでは、これらの述語は基準のなかにどのように登場してくるのでしょうか。 以下、具体例を掲げておきます(太字は筆者によります)。 (1) 更地価格を求める場合 (※1) 筆者注。建物及びその敷地を一体とした取引価格(取引事例)のなかから建物部分を除いた残額を土地の取引価格として査定し、これを基に諸要因の比較を行って求めた対象地の価格を意味します。 (※2) 筆者注。開発法とは、対象地を戸建住宅の敷地として分割し、又は分譲マンションの敷地として捉え(どちらに該当するかの判断は近隣地域における標準的な使用状況のいかんによります)、これを前提として試算される開発業者の採算可能な土地購入限度額を試算する手法です。開発法に関連した解説は【第30回】でも行っています。 ここでは、「関連づけて」と「比較考量して」という述語が登場します。それぞれの意味は上記2で述べたとおりですが、実務においては必ずしも上記価格の試算に必要な資料が十分に収集できるとは限りません。 その結果、理論上は「関連づけて」という意味合いをもつ価格であっても、精度が相対的に低くならざるを得ないケースもあり得ます。その反対に、現実の市場の状況から「比較考量して」という意味合いをもつ価格が相応のウェイトを有することもあり得ます(例えば、規模の大きな土地の場合、購入者は開発業者に限られるケースが多くあります)。 理論と実務との間に乖離が生じるケースもありますが、更地価格の鑑定評価に当たり基準に掲げられている述語の意味は以上のとおりです。 (2) 建物及びその敷地の価格を求める場合 ① 自用の建物及びその敷地の価格 ここでは、「関連づけて」という述語のみ登場しています。すなわち、理論上は上記の3つの試算価格に等しくウェイトを置いて決定すべきものといえます。 ただし、更地価格のところでも述べたとおり、実務においては必ずしも上記価格の試算に必要な資料が十分に収集できるとは限りません(例えば、周辺に賃貸物件がほとんど見当たらず、賃貸市場が形成されていない地域では、仮に収益価格を試算したとしてもその精度は相対的に劣るものとならざるを得ません)。 ② 貸家及びその敷地の価格 ここでは、「標準とし」という述語のほか、「比較考量して」という述語が登場しています。そこで、収益価格を「標準とし」ということばの意味ですが、対象物件が貸家であり、収益(家賃)のいかんが重要な要素を占めるため、他の試算価格に比べて収益価格が重視されることを表しています。 4 基準改正による位置付けの変化 基準は過去に何度か改正されていますが、改正に伴い、従前の基準では「比較考量して」という意味合いをもつ価格であったところ、改正後に「関連づけて」という位置付けに変更されたケースがあります。その反対に、従前の基準では「関連づけて」という意味合いをもつ価格であったところ、改正後に「比較考量して」という位置付けに変更されたケースもあります。 それぞれの改正の背景には、その時々の市場環境の変化や不動産取引の慣行の変化等があるものと推測されます。 不動産鑑定士のなかには、このような位置付けの変化を捉えて、以下のように呼ぶ人も少なからず見受けられます。 基準の中には格別定義のなされていない「述語」も、このようにして意味を捉えていくと興味深いものがあります。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第11回】 「登記の優先順位」 ~別区における優先順位~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 1 「受付年月日・受付番号」がポイント 不動産に関する登記記録の権利部の「甲区」には主に所有権に関する事項が登記され、「乙区」には担保権などの所有権以外の権利に関する事項が登記される。甲区に登記された権利と、乙区に登記された権利が対立した場合、どちらの権利が優先されるかを判断する必要がある。 「登記は早い者勝ち」と言われるとおり、別区に記録された権利についても、先に登記された権利が優先されることになる。 ただし、同一区で登記された権利とは異なり、「順位番号」では先に登記された権利を判断することができない。別区で登記された権利の優先順位は、登記された「受付年月日・受付番号」で判断することになる。 2 別区において権利が対立するケース 別区において権利が対立するケースとしては、次のようなものがある。 【差押の登記後に賃借権の登記がされているケース】 このケースでは、甲区の順位番号2番で差押の登記がなされてから、1日遅れて乙区の順位番号1番で賃借権の設定登記がされている。 賃借権の登記原因を見ると、賃借権設定契約自体は令和6年5月10日になされているが、賃借権の登記が差押の登記より遅れているため、もし競売が実行された場合には賃借権の登記は抹消されることになる。 【所有権移転請求権仮登記後に抵当権の登記がされているケース】 このケースでは、甲区2番で登記された所有権移転請求権仮登記と同じ日付で、乙区1番において抵当権の登記がなされているものの、受付番号については抵当権の登記が後の番号になっている。 この場合、甲区2番で登記された所有権移転請求権仮登記が優先されることになるため、仮登記に基づく本登記がなされると抵当権の登記は抹消される結果となる。 3 まずは登記記録をしっかり見ることが重要 別区に登記された権利が対立することがあるということについては、あまり知られていない印象がある。思わぬ不利益を被ることがないように、「登記は早い者勝ちである」ということを念頭に登記記録を読む癖をつけるとよいだろう。 (了)
《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第11回】 「手軽な不動産投資? REITを知ろう」 株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝 〇不動産投資のハードル 不動産投資と聞くと、家賃収入で悠々自適といったイメージを持たれる方も多いようですが、実際は手軽なものではありません。例えばワンルームマンションであれば、空室リスクに加え、リフォームやメンテナンス、災害への備えなど様々な費用が利益を圧迫してしまいます。また、管理会社を挟めば、さらに費用がかさみます。 加えて、投資金額が大きいというのも、チャレンジしにくいハードルです。物件を購入するためにはまとまったお金が必要ですし、ローンを組むにしても住宅ローンと異なり厳しい条件下での借入れになります。 〇「REIT」とは 「うーん、それでも不動産投資をしてみたい!」という方には、不動産を対象とした投資信託「REIT(リート)」がよいかもしれません。「REIT」とは、多くの投資家が資金を出し合って、専門家(投資法人)に不動産への投資等をお願いし、その利益を受け取る仕組みです。 REITは、不動産がその投資先です。一般に「投資信託」と言えば、複数の株式等に投資をすることで資産の分散を図りますが、REITの場合は複数の不動産物件に投資をすることで資産の分散を図ります。具体的には、オフィスビル、住居、倉庫、商業施設などが投資先です。 もともと、REITという仕組みはアメリカで生まれたもので、日本版のREITは、「JAPAN」の「J」をつけて「J-REIT」と呼ばれています。J-REITは投資信託の仲間ですが、証券取引所に上場しており、株式と同様に証券会社を通じて売買が可能です。 〇REITのメリット 不動産の利益と言えば、まず家賃収入です。REITの場合は、巨額の資金で複数のビル等を所有し、その家賃収入を利益とします。株価と異なり、家賃は契約により一定の収益を安定して見込めます。安定した家賃収入が利益の源ですから、高い配当利回りを期待できることが魅力です。また、ある程度景気に連動しますので、状況により家賃収入の上昇も期待できます。 複数の物件に投資していれば、空室リスクを抑えられますし、リフォームなどの様々なリスクもスケールメリットを活かして低減させることが可能です。 たくさんの投資家が資金を出し合うため、1人1人の投資額は少額で構いません。数万円で複数の不動産を持てるわけですから、合理的な投資方法とも言えるでしょう。 また、J-REITは証券取引所に上場しているため、いつでも売却が可能です。不動産オーナーにありがちな、売りたい時に物件が売れずに、不動産が“負動産”になってしまったという、笑えない話もなくなります。 もちろん、購入時や売却時には手数料がかかりますが、それぞれの物件の管理などのコストをすべて含んだ金額だと考えると、かなりリーズナブルなのではないでしょうか。また、REITの購入を借入れしてまで行う人はまずいないでしょうから、費用面での負担感も全く違います。 〇REITとNISA REITへはNISA制度を利用して投資できるので、利益に対して税金を取られることなく資産形成ができるという点も、大きなメリットです。NISAとはご存じのとおり、少額投資非課税制度で、投資から得られた利益に対し通常かかる20.315%の税金が非課税になる仕組みです。 2024年1月からは新NISAとしてその制度が拡充されました(【第2回】参照)。年間で投資できる金額は最大360万円、非課税で運用できる期間は無期限ですから、この仕組みの中で投資ができるREITの魅力がさらにアップすると言えます。 実際のマンションやビルに投資をしている不動産オーナーであれば、家賃収入あるいは不動産売却時の利益に当然税金がかかります。一方REITは小口から投資ができ、さらにその投資方法を意識することで税金も抑えられます。投資対象として検討してみるのもよいのではないでしょうか。 〇REITに投資すると・・・ 例えば、あるREITを運用する投資法人のウェブサイトを見ると、その投資法人がどのような物件を所有しているのか確認できます。それによると、オフィスビル、住宅、ホテル・旅館、物流施設や商業施設、そして病院などといった物件を実際に所有していることがわかります。 さらにサイトを見ていくと、マップ上に物件の場所が示されていたり、物件の詳細を知ることができるページに続いていたりします。中には、ご存じのビルがあったりすることもあり、ほんの一部ではあるけれど「ここに投資をしているのだ」と思うと、ちょっとした不動産王の気分が味わえるかもしれません。 * * * 投資の醍醐味は、自らのお金を使って経済とつながることなのではないでしょうか。そうすると、株式とはまた異なった視点で具体的な投資先を知ることができるREITに興味を持つ方もいらっしゃるのではないかと考えます。 現物投資にこだわる方は、「大家さん業」を味わいたいのかもしれませんが、少額で家賃収入が得られる投資先をご自身のポートフォリオに加えたいという方であれば、REITも検討してみてください。 (了)
《速報解説》 改正法人税法施行規則の公布により、 令和6年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)様式が明らかに ~中堅企業区分・繰越税額控除制度の創設に伴い賃上げ促進税制に係る様式が改正~ Profession Journal編集部 令和6年度税制改正に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則(財務省令第36号)が、4月12日付官報号外第94号で公布された。これら改正後の様式は原則、令和6年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則3)。官報同号では地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われている。 以下、新設された様式を中心に紹介する。 令和6年度改正においては賃上げ促進税制が拡充されており、今回の様式改正では同税制に係る従来の様式である別表6(26)及び別表6(26)付表1が削除されたうえで、新たな様式となる別表6(24)及び別表6(24)付表1が新設されている(※)。 (※) 賃上げ促進税制に係る従来の様式である「別表6(26)付表2」は、「別表6(24)付表2」に別表番号のみ変更。 賃上げ促進税制は、従来、大企業(資本金1億円超)と中小企業(資本金1億円以下)の2つに分けて要件が規定されていたところ、令和6年度改正で新たに中堅企業(特定法人:常時使用従業員2,000人以下)の区分が設けられたことに対応し、新様式である別表6(24)では、「税額控除限度額等の計算」欄に「令和6年4月1日以後に開始する事業年度の場合」を置いたうえで「第1項適用の場合」(大企業の場合)、「第2項適用の場合」(中堅企業の場合)、「第3項適用の場合」(中小企業の場合)の3つの欄が設けられた(措法42の12の5①~③)。 また、令和6年度改正では、赤字の中小企業でも賃上げ促進税制の恩恵が受けられるよう、令和6年4月1日以後開始事業年度に同税制を適用しても控除しきれない金額を5年間繰り越せる繰越税額控除制度が創設されており、この制度に対応して別表6(24)では「前期繰越分」を記載する欄が新たに設けられているほか、この「前期繰越分」算出のために別表6(24)付表1では、「翌期繰越税額控除限度超過額の計算」欄が新たに用意されている。 〈別表6(24) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 〈別表6(24)付表1 給与等支給額、比較教育訓練費の額及び翌期繰越税額控除限度超過額の計算に関する明細書〉 次に、GX・DX・経済安全保障の戦略分野における国内投資を促進するため、生産・販売量に応じて減税を行う新たな制度として戦略分野国内生産促進税制が令和6年度改正で創設されたところ、この税制に係る様式として、「別表6(27) 産業競争力基盤強化商品生産用資産を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」が新設されている。 なお、同じく令和6年度改正で創設されたイノベーションボックス税制(特許権等の譲渡等による所得の課税の特例)については、令和7年4月1日施行のため、今回の様式改正では対応した別表は織り込まれていない。 〈別表6(27) 産業競争力基盤強化商品生産用資産を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 さらに、令和5年度改正で導入されたグローバル・ミニマム課税のうち「所得合算ルール」が令和6年4月1日以降に開始する事業年度から適用されることに伴い、関係様式が下記のとおり新設されている。 ちなみに、令和6年度改正において交際費等の損金不算入制度の見直しがされているが、その内容は損金不算入となる交際費等の範囲から除外される一定の飲食費に係る金額基準の引上げ(1人当たり5,000円 ⇒ 10,000円)であり、あくまで交際費等の範囲に係る改正となるため、「別表15 交際費等の損金算入に関する明細書」に影響はなく、様式の改正は行われていない。 そのほか、別表5(1)の表中の「未納法人税等(退職年金等積立金に対するものを除く。)」が「未納法人税等(各事業年度の所得に対するものに限る。)」に改められるなど、既存様式に係る細かな改正も行われている。 (了)
《速報解説》 JICPAが「監査及びレビュー等の契約書の作成例」を改正 ~期中レビュー導入への対応や守秘義務条項を一部追加~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年3月18日付けで(ホームページ掲載日は2024年4月12日)、日本公認会計士協会は、「法規・制度委員会研究報告第1号「監査及びレビュー等の契約書の作成例」の改正」を公表した。 これは、四半期開示制度の見直しに伴う改正などに対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「テクノロジーを活用した循環取引への対応に関する研究文書」を公表 ~循環取引の兆候や端緒の発見に役立つ情報を提供~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 日本公認会計士協会監査・保証基準委員会は、2024年4月8日付で、「テクノロジーを活用した循環取引への対応に関する研究文書」(監査基準報告書240研究文書第1号、監査・保証基準委員会研究文書第13号、以下、「研究文書」と略称する)を公表した。 これは、同日に、公益社団法人日本監査役協会、一般社団法人日本内部監査協会及び日本公認会計士協会が公開した「循環取引に対する内部統制に関する共同研究報告」(以下、「研究報告」と略称する)を、循環取引の防止や発見に資するテクノロジーの活用という観点から補完する内容となっている。 本稿では、研究文書の概要を紹介したい。 1 研究文書の内容 研究文書の目次は、次のとおりである(大項目だけを列挙している)。 2 研究文書の目的 研究文書は、目次の末尾でその性格について、「一般に公正妥当と認められる監査の基準を構成するものではなく、会員が遵守すべき基準等にも該当しない」と明記している。 その目的は、循環取引による財務諸表に現れる特徴を、テクノロジーを活用して循環取引の兆候や端緒の発見に役立つような情報を提供することにあるとしている。 3 循環取引の定義 研究文書では、「循環取引」を次のように定義している。 この定義は、当然のことながら研究報告と同じである。 4 個社ごとの監査におけるデータ分析活用の方法 研究文書の中心的な項目である「監査におけるデータ分析の活用」について、研究文書では、9ページにわたりグラフやイメージを交えて解説している。 ここでは、それぞれのデータ分析手法の名称を中心に項目名を列挙しておきたい。 データ分析手法については、研究報告の説明を読んだうえで、自社で、実行可能な手法を検討することが求められている。 最後の「4.監査におけるデータ分析の活用に向けて」の項目で、環境整備の筆頭に挙げられているのは、「被監査会社へのコミュニケーション」である。ここでのポイントは、「被監査会社との」コミュニケーションではなく、「被監査会社への」と表現されていることである。 研究文書では、監査人に対して、「被監査会社に対して指導的機能を発揮すること」「防止的統制の構築を被監査会社に指導すること」を求めたうえで、「機会の低減策の一つとしてデータの整備を行い、データ分析を活用したモニタリングを行うよう促すこと」と締め括っている。 5 Peppolなど電子インボイスの活用 研究文書では、電子文書をネットワーク上でやり取りするための「文書仕様」、「ネットワーク」及び「運用ルール」に関するグローバルな標準仕様であるPeppol(Pan European Public Procurement Online)と、これをベースに日本における電子インボイス(デジタルインボイス)の標準仕様としてJP PINTが策定されたことを説明し、JP PINTが2023年10月から開始したインボイス制度(適格請求書等保存方式)の要件に対応できることから、今後JP PINTに準拠した電子インボイスの利用が広まることが想定されるとして、その活用策をまとめている。 具体的には、会計データに記録されている情報とその証跡となる電子インボイスを照合するソフトウェアを構築することで、電子インボイスに基づき計上された会計データの証憑突合を行うことが可能となり、JP PINTに準拠した電子インボイスの利用が広まることで監査において証憑突合を自動化する難易度が下がると予想している。 6 全取引情報に基づく取引関係の全体像の理解 研究文書の最後では、現在の技術的な制約やデータの取扱いに関する法的な整理を度外視したうえで、将来的な新しい監査のアプローチの1つとして、被監査会社の取引データのみならず被監査会社の取引相手を含む全ての取引主体の取引データを基に取引関係の全体像を分析する試みについて、以下のような項目が説明されている。 研究文書は、「監査人が被監査会社から入手できる情報のみをもって循環取引を発見し、循環取引であることの確証を得ることは、通常、困難である」ものの、「商流に含まれる多数の企業や当事者から広く情報を入手すること」ができれば、循環取引を発見できる可能性があると説明しているが、残念ながら「商流に含まれる全ての取引データを被監査会社外部から広く収集できる共通のデータプラットフォーム」は存在しないため、上記「2.クラウド共有された電子インボイスの活用」以下で例示された方法により、「どのようにすれば商流に含まれる多数の企業の取引情報をできる限り広く入手することができるか」を検討している。 7 まとめ 「まとめ」では、研究文書は、「循環取引の兆候や端緒の発見に資するテクノロジーの活用の一つとして、統計的な手法を中心にデータ分析手法」を紹介したものであること、現在では制約がある、「監査人間での情報共有や電子インボイスの活用、さらに取引プラットフォーム上の全ての取引データを分析し循環取引となっている商流を検知するというアプローチについても議論を行った」ことが説明された後、今回は、「機械学習を用いた予測分析や生成AI」を活用方法として紹介する機会はなかったが、「今後監査へ活用され高度化や効率化につながるものと期待している」と、研究文書を締め括っている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 監査役協会等が「循環取引に対応する内部統制に関する共同研究報告」を確定 ~公開草案へのコメント受け、「内部統制による循環取引への対応」など一部修正へ~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 公益社団法人日本監査役協会、一般社団法人日本内部監査協会及び日本公認会計士協会は、2023年11月27日付で、「循環取引に対応する内部統制に関する共同研究報告」を公開草案(以下、2023年11月27日付の研究報告を「公開草案」と略称する)という形でリリースし、12月27日を期限に、意見の募集を行っていたところ、2024年4月8日、公開草案に対して寄せられたコメントとともに、コメントにより修正した後の「循環取引に対応する内部統制に関する共同研究報告」(以下、2024年4月8日付の研究報告を「研究報告」と略称する)を公表した。 本稿では、公開草案に対するコメントと修正箇所を中心に研究報告を紹介したい。 1 研究報告の内容 研究報告の目次にある項目については、公開草案からの修正はなく、次のとおりである。 2 公開草案に対するコメントによる研究報告の修正内容 公開草案に対するコメントとして公表されたものは全部で11件あり、そのうち、公開草案の修正につながったものが8件、修正には至らなかったものが3件であった。 公開草案の修正箇所は次のとおりである。 (1) 第1項「本研究報告の目的及び範囲」 コメントNo.3「本研究報告は3団体の会員向けだけではないため、表現は工夫したほうが良いのではないか」という趣旨のコメントを受けて、第1項の最終段落が次のように改められている。 〈公開草案〉 〈研究報告〉 (2) 第4項「循環取引を示唆する状況・兆候の具体的事例」 コメントNo.4「循環取引はニッチな部門や子会社でも起きている」、コメントNo.5「原価修正や原価付け替えに関する論点が記述されていない」という2つの指摘に対して、研究報告では、第4項「(3)特定担当者への権限の集中」の最後に、次の文章が追記され、 さらに、同項「(4)財務諸表上の数字に表れる特徴」の最後にも、同じく、「なお書き」が追記されている。 (3) 第8項「内部統制による循環取引への対応」 コメントNo.1「内部統制の限界を強調した方が良い」、コメントNo.2「循環取引を内部統制の構築だけで防げると受け止められる」という懸念などを踏まえて、第8項は次のように大幅な修正が行われている。 〈公開草案〉 〈研究報告〉 (4) 第9項「経営者不正への対応」 上記(3)と同じく、コメントNo.2「循環取引を内部統制の構築だけで防げると受け止められる」という懸念の表明を踏まえて、第9項は、経営者による不正の発見には、「内部統制の限界が存在する」ことを強調する形に修正されている。 〈公開草案〉 〈研究報告〉 (5) 第10項「経営者不正への対応」 こちらも(3)及び(4)と同じく、コメントNo.2「循環取引を内部統制の構築だけで防げると受け止められる」という懸念の表明を踏まえた格好で、第10項は、経営者による不正と内部統制の関係について、説明を加えるという形で修正されている。 〈公開草案〉 〈研究報告〉 (6) 第51項「監査役等」 コメントNo.6「監査役等には、不正行為等の報告義務があるから調査権等の権限がある」と記述するのではなく、「監査役等には、会社法上報告請求や調査権等があり、それらの権限に基づいて監査を実施する中で不正行為等を認めた場合に報告義務がある」とすべきではないかという指摘を踏まえ、第51項は、5行目「さらに」以下の文章が、次のように修正されている。 〈公開草案〉 〈研究報告〉 (7) 第63項「会社のビジネスに照らした循環取引リスクの検討」 コメントNo.7「シナリオ分析における外部監査人等の役割を追記した方がいい」という指摘を踏まえて、第63項における「シナリオ分析」の説明が次のように修正されている。 〈公開草案〉 〈研究報告〉 (8) 第73項「循環取引のリスクが高い取引に対応する内部統制」 コメントNo.8「発見的統制についてもう少し踏み込んだ報告が必要」という指摘を踏まえて、第73項「④循環取引のリスクが高い取引に対応する内部統制」の最後に、次の文章が追記されている。 (9) 第75項「循環取引のリスクが高い取引に対応する内部統制」 さらに、第75項「④項循環取引のリスクが高い取引に対応する内部統制」についても、上記(8)と同じコメントNo.8を踏まえて、最後に、次の文章が追記されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税庁「定額減税Q&A」(令和6年4月改訂版)が公表される ~新設11問のうち2問は給付金関連~ Profession Journal 編集部 国税庁は4月11日(木)付けで「令和6年分所得税の定額減税Q&A」を改訂、先月に続き設問の追加及び修正を行った。 今回追加されたのは以下の設問。 まず1-9(定額減税の実施方法(公的年金等))は公的年金等に係る定額減税の実施方法について解説しているが、本問は1-7(定額減税の実施方法(給与所得以外))の改訂前の解説における該当部分を別問として切り出したもの。続く1-10では源泉徴収で定額減税が行われる公的年金等が箇条書きで示されている。 次に2-8では、「令和6年分の合計所得金額が1,805 万円を超えることが明らかなので月次減税を行わないでほしい」という申出を従業員から受けた場合の対応が問われ、「控除対象者は一律に減税額の控除を受けることになるため、控除対象者自身が定額減税の適用を受けるか受けないかを選択することはできない」と回答されている。 また、2-9では青色事業専従者の定額減税について、主たる給与の支払者のもとで月額減税・年調減税等が行われるが、納税者の同一生計配偶者や扶養親族とはされないことから、納税者と生計を一にしていたとしても、(その納税者の)定額減税の計算には含めないとしている。 さらに9-3では、本年1月に公表された「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」(P13)において源泉徴収簿の「余白」を使用して年調減税額の控除計算の内容を記載すると説明されている点につき、国税庁ホームページに掲載されている源泉徴収簿は源泉徴収事務の便宜を考慮して作成したものであり、その記載方法も含めて法令で定められたものではないことから、「別紙」を使用して年調減税額の控除計算の内容を記載しても差し支えないとしている。 その他、令和6年6月1日時点での休職者の取扱い(3-5)や、「給与以外の収入があり所得制限を超える人(10-2)」・「租税条約が適用される外国人技能実習生(10-3)」・「同一生計配偶者や扶養親族(年末調整で合計所得金額が48万円以下になった場合)(10-6)」それぞれのケースにおける源泉徴収票の「(摘要)」欄の記載方法について解説されているほか、源泉徴収票の「控除外額(定額減税額のうち控除しきれなかった金額)」と支給される給付金の額は必ずしも一致しないとする設問(10-7)、定額減税の実施に併せて行われる各種給付措置により支給される給付金は所得税等を課されないとする設問(12-2)など、給付金に関する内容が2問、新設されている。 なおQ&A以外の新たな資料として、「《記載例》源泉徴収に係る定額減税のための申告書」及び「《記載例》年末調整に係る定額減税のための申告書」がそれぞれ公表されている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 国税庁、昨年10月ぶりに「インボイスQ&A」を改訂 ~「多く寄せられるご質問」からの取込みに加えR6改正に伴う設問を追加~ Profession Journal編集部 国税庁は4月8日付けで、昨年10月以来となる「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(インボイスQ&A)の改訂を行った。 今回の改訂にあたっては、既存問答27問を改訂するとともに、新たに23問が追加されている(全130問)。 今回追加された23問のうち22問は、既報のとおり毎月のペースで設問が追加されているもう1つの設問集「多く寄せられるご質問(全26問)」掲載分をインボイスQ&Aへ取り込み再構成したもので、まったくの新規として追加されたのは、令和6年度税制改正に関する下記1問のみ。 上記の問いに対し と回答した上で、判定の例示や帳簿の記載イメージが示されている。 また、上記「多く寄せられるご質問」26問のうち残り4問についても、それぞれ既存問答の中へ解説内容が織り込まれていることから、3月時点までの「多く寄せられるご質問」の内容は、インボイスQ&Aへ実質的に移行されたと見てよいだろう。 その他、既存問答の一部についても、令和6年度税制改正に伴う追記(問106、問113など)や記載例の追加(問59など)のほか、年表記の更新等が行われている。 一方で国税庁は、今回の改訂の2日後(4月10日)に令和6年4月以降版として「多く寄せられるご質問」を更新しインボイスQ&Aへ取り込まれた全26問を削除するとともに、「問ⓐ 予約サイトで事前決済した宿泊予約者に対する適格簡易請求書の交付」を新たに追加している。 この問ⓐはインボイスQ&Aの問 49-2(適格請求書を再交付する場合)(もとは「多く寄せられるご質問」に掲載されていたもの)に続く内容であり、予約サイトで事前決済した宿泊予約者へ簡易インボイスを交付する際の様式(記載事項等)について説明されている。 ここで注意したいのは、「多く寄せられるご質問」は4月8日付の更新でも「令和5年10月~令和6年3月版」というバージョンが公表されており、上記4月10日付更新の「令和6年4月以降版」との2つのバージョンが閲覧可能となっている点だ(今後はこの「令和6年4月以降版」が随時更新されていくと考えられる)。 情報をまとめると、今回の各情報更新で新規情報として公表されたのは、インボイスQ&Aの「問110-2」及び「よくあるご質問」の「問ⓐ 予約サイトで事前決済した宿泊予約者に対する適格簡易請求書の交付」ということになろう。 なお各設問集へのリンクはこちら。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 令和6年度税制改正に伴う消費税法基本通達等の改正が公表される ~プラットフォーム課税導入の取扱いや届出書の様式等示す~ 税理士 石川 幸恵 令和6年度税制改正では、プラットフォーム課税の導入等や国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の見直し等が図られた(改正の背景や概要は、下記拙稿も参照されたい)。 これらの改正に伴い、国税庁より「消費税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達)」及び「「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する申請書等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)」が4月1日付で公表されたため、以下に概説する。 1 消費税法基本通達等の一部改正について(法令解釈通達) 主な改正は、次の(1)~(4)の4点に関するものである。 (1) プラットフォーム課税の導入等 国外事業者がデジタルプラットフォームを介して行う、いわゆる「消費者向け電気通信利用役務の提供」のうち、一定規模を超えるプラットフォーム事業者を介して対価を収受するものについては、そのプラットフォーム事業者が行ったものとみなして、国外事業者に代わり納税義務が課される(消法15の2)。 新設された消基通5-8-8、5-8-9及び改正された11-2-13は、国外事業者等の範囲の確認や特定プラットフォーム事業者の仕入税額控除額の計算について確認するためのものと考えられる。 また、プラットフォーム課税の導入に伴い、「特定プラットフォーム事業者の指定届出書」などの届出書、申請書の様式が新設された。 なお、(1)に係る通達の適用時期は、令和7年4月1日である。 (2) 国外事業者に係る事業者免税点制度の特例の見直し等 事業者免税点制度については、次の4点の見直しが図られた。 消基通1-4-2、1-5-15、1-5-15の2、1-5-21の3、1-5-23、3-2-2は、元からあった通達に上記の見直しを追加するための改正である。 また、消基通13-1-3、13-1-4の改正及び13-1-3の5の新設は、恒久的施設を有しない国外事業者には簡易課税制度が適用されないことを確認するためのものである。 なお、(2)に係る通達の適用時期は、令和6年10月1日である。 (3) 一課税期間中の金地金等の仕入等が200万円以上となった場合のいわゆる「3年縛り」の新設 高額特定資産を取得した場合の事業者免税点制度及び簡易課税制度の適用を制限する措置の対象に、その課税期間において取得した金又は白金の地金等の額の合計額が200万円以上である場合が加えられた(消法12の4③、37③五)。 消基通1-4-6、1-5-18、1-5-19、1-5-22の2、13-1-4の3は、元からあった通達に金地金等の取得を追加するための改正である。 この改正に伴って消費税簡易課税制度選択届出書の様式が変更され、金地金等の仕入れ等が200万円以上でないことに関するチェックが追加された。 なお、(3)に係る通達の適用時期は、令和6年4月1日である。 (4) 登録国外事業者関係 登録国外事業者制度が廃止され、インボイス制度に移行したことに伴い、「登録国外事業者の登録申請書」等が削除された。 2 「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関する申請書等の様式の制定について」の一部改正について(法令解釈通達) 適格請求書発行事業者の登録申請書等について、記載事項の簡略化が行われた。 (了) ↓お勧め連載記事↓