日本の企業税制 【第130回】 「スタートアップ育成をめぐる制度整備」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 わが国にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、第2の創業ブームを実現するため、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」(以下「5か年計画」という)が閣議決定されてから2年が経過しようとしている。 〇税制改正 スタートアップの起業数・投資額を5年で10倍(10万社・10兆円)にすることを目標に掲げた5か年計画を背景に、令和5年度税制改正、令和6年度税制改正と連続して、スタートアップ育成に向けた多くの税制措置が講じられてきた。 直近の令和6年度税制改正では、次のような措置が講じられている。 〇産業競争力強化法等の改正 また、先の通常国会で可決成立した「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」では、スタートアップ関連措置として産業競争力強化法と投資事業有限責任組合契約に関する法律(投資有責法)の改正が盛り込まれている。 産業競争力強化法においては、ストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できる仕組み、いわゆるストックオプションプールを可能にする手当がなされた。この結果、設立から15年未満のスタートアップで、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けたものは、株主総会の委任決議から1年経過後も、取締役会の判断で権利行使価額や権利行使期間を定めることが可能となった。 一方、投資有責法においては、投資事業有限責任組合が取得及び保有することができる資産として暗号資産が追加されるとともに、外国法人への投資に関する規制が緩和された。 〇新しい資本主義実行計画改訂版での課題提起 本年6月の政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」では、「海外投資家を含むスタートアップへの投資資金の流動化」の一環として、「海外投資家の外国組合員特例税制について、海外LP(Limited Partner:有限責任組合員)から国内GP(General Partner:無限責任組合員)への投資を促す上での税制の在り方等について、政策ニーズや課題を踏まえつつ、検討を行う」とされている。 〇外国組合員特例税制とは 本来、国内にある恒久的施設を通じて事業を行う組合の組合員である非居住者・外国法人は、国内に恒久的施設を有する非居住者・外国法人に該当することから、組合の事業から生じる国内源泉所得について申告納税の義務がある。 ただし、投資有責法に基づいて組成される投資事業有限責任組合の有限責任組合員は、組合に対して金銭出資を行うのみで組合の業務を執行しないので、その実態は組合の事業に対して投資を行う投資家に近い。 そこで、平成21年度税制改正で創設された外国組合員の課税所得の特例により、有限責任組合員である非居住者・外国法人のうち、組合としての共同事業性が希薄であると考えることができる「一定の要件」を満たす者については、国内に恒久的施設を有しない非居住者・外国法人とみなすこととされている。 この結果、わが国における課税の対象となる国内源泉所得の範囲が縮小され、多くの場合において申告納税を要しなくなる。なお、この特例の適用を受けるには、特例適用申告書を所轄税務署長に提出する必要がある。 上記の「一定の要件」(措法41の21①一~五)とは、次の5項目である。 なお、「一定の要件」は、原則として組合契約の締結の日から継続して満たしている必要があり、いったん満たさなくなったら再び満たしても適用は認められない。 上記③の要件は、有限責任組合員が投資組合の大部分の持分を保有するような場合には、その投資組合事業に係る業務の執行に対して有限責任組合員が少なからず影響力を有していると考えられることを踏まえ設けられたものであり、特例適用投資組合の組合員が「他の組合」であり、この特例の適用を受けようとする外国組合員がその「他の組合」の組合員である場合、その「他の組合」の特例適用投資組合に係る持分も合算する(措令26の30⑤三)。 ただし、令和3年度税制改正で、「他の組合」が「特定組合契約」(外国組合員の持分割合が25%未満)である場合には、外国組合員以外の者の「特定組合契約」に係る組合財産に係る持分割合を除外して計算することとされている(措令26の30④)。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第64回】 「定期同額給与の期首からの改定」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 定期同額給与の要件の確認 これまで本連載で確認してきたように、定期同額給与は役員給与を損金算入できる3類型の中で最も一般的なものであり、「その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与・・・で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」であれば(法法34①一)、その要件を満たすこととなる。 国税庁によるQ&A「役員給与に関するQ&A(平成20年12月、平成24年4月改訂)」Q2が示す図に代表されるように、定期同額給与に関するあらゆる解説は、定時株主総会等の時点で役員給与の額の改定を定めることを前提としている。これは、定時株主総会にて決算の承認を行う際に、併せて役員報酬の額の改定を行うことが常であることが背景となっているといえる。 ここで、仮に、定時株主総会の時期ではなく、その法人の事業年度の期首の時点から役員給与の額の改定を行った場合、この定期同額給与の要件を満たすかどうか疑問が浮かぶ。法人税法34条が定める定期同額給与については上記の通りであり、その改定に関して定める法人税法施行令69条1項1号イでは、「当該事業年度開始の日の属する会計期間・・・開始の日から三月・・・を経過する日・・・まで・・・にされた定期給与の額の改定」と示されるのみである。また、通達においても、法人税基本通達9-2-12において「あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいう」と示されているように、期首から改定することについての記載はなく、3月決算法人について3月分までの役員給与の額と4月分からの役員給与の額をそれぞれ同額としても、全く問題がないようにも思えるからである。 そこで、以下に若干の検討をしてみたい。 (2) 期首から改定する是非について言及された情報 一般に、役員の職務執行期間は、定時株主総会から次の定時株主総会までの1年間である。なお、定時株主総会は、会社法296条1項に「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と定められていることが根拠となっている。これに対して、臨時株主総会は、同法同条2項にて、「株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる」と定められていることが根拠となっている。したがって、期首から役員給与の額を改定しようとする場合には、定時株主総会ではなく、臨時株主総会を開催することで対応する流れとなる。 ここで、6月に開かれた定時株主総会にて4月からの役員給与の額を遡及して増額した場合には、「役員の職務執行期間開始前にその職務に対する給与の額が定められているなど支給時期、支給金額について『事前』に定められているものに限られています。したがって、既に終了した職務に対して、『事後』に給与の額を増額して支給したものは、損金の額に算入されないこととなります(下線部筆者)」とする国税庁の情報がある(※1)。 (※1) 国税庁「役員給与に関するQ&A(平成18年6月)」Q3、TAINS:法人事例005373。 これに対し、遡及改定ではなく期首時点で改定することについて「改定が認められる『当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3ヶ月経過等までにされた定期給与の改定』のケースに該当し、定期同額給与に該当すると判断しがちであるが、その事業年度を通じて毎月の支給時期における支給額が同額なのでもともと定期同額給与の定義に該当すると解釈すべきである」と解説するものもある(※2)。これによると、「本来の役員の職務執行期間は、定時株主総会から翌年の定時株主総会までの約1年間をいうのが一般的なので、本事例のように期首の月の臨時株主総会で定期給与の改定を決議した場合は、その後の同じ年に開催される定時株主総会で、その支給額を据え置く旨の確認決議をしておくべきである」という注意喚起がなされている。 (※2) 東京税理士界平成25年3月1日第674号、TAINS:法人事例東京会010011。 (3) どのように考えるべきか 今回の質問に関しては、明確な答えは存在していないといえる。定時株主総会にて行う決算の承認に合わせて改定を行うと定期同額給与の改定に関するリスクはないため、通常はこちらを採るべきといえよう。 しかし、期首に役員給与の額をどうしても改定しなければならない事情等がある場合には、この論点について検討することとなる。この場合、(2)で触れた国税庁の情報はあくまで遡及改定をすることに関するものではあるが、そのうち下線部筆者部分では役員の職務執行期間開始前に役員給与の額を定めておくべきということを明記しているため、これが当局のスタンスであると考えられる。また、事前確定届出給与に関するものであるが、職務執行期間について触れている法人税基本通達9-2-16が新設された際の解説では、職務執行期間は個々の事情に応じて判断するとしながらも、「一般的には、その会社の定時株主総会において役員に選任されその日にその職務に就任した者や当該定時株主総会の日に現に役員である者については、当該定時株主総会の開催日となると解される」とされており、一般的な認識と相違ないといえる。 このように考えれば、今回の質問は職務執行期間の中途である4月に臨時株主総会を開催して増額改定をすることとなるため、職務執行期間の開始前に定められたとはいえないと思われる。したがって、今回の質問のケースで定期同額給与の要件を満たしているというためには、職務執行期間の開始前に改定をしたといえる事情が必要であると思われるし、上記(2)の肯定する見解にもあるように、最低でも、定時株主総会でその支給額を据え置く旨の確認決議をしておくべきであるといえる。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第67回】 「適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人、株式移転完全子法人、株式移転完全子法人の株主の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人、株式移転完全子法人、株式移転完全子法人の株主の取扱いについて解説します。 1 適格株式移転があった場合の株式移転完全親法人の取扱い (1) 株式移転完全子法人株式の取得価額 適格株式移転により株式移転完全親法人が取得する株式移転完全子法人株式の取得価額は、次のとおりです(法令119①十二)。 ① 株式移転の直前において株式移転完全子法人の株主が50人未満の場合 株式移転完全子法人の株主が有していた株式移転完全子法人株式の株式移転直前の帳簿価額相当額の合計額(取得のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額) ② 株式移転の直前において株式移転完全子法人の株主が50人以上の場合 株式移転完全子法人の前期末の簿価純資産価額相当額(取得のために要した費用がある場合には、その費用の額を加算した金額) (2) 適格株式移転により増加する資本金等の額 株式移転完全親法人において、株式移転により増加する資本金等の額は、株式移転完全子法人株式の取得価額(取得のために要した費用を除く)から交付金銭等の価額を減算した金額となります(法令8①十一)。 (3) 適格株式移転により増加する利益積立金額 適格株式移転の場合には、株式移転完全親法人の利益積立金額は増加しません。 (4) 具体例1(株式移転の直前において株式移転完全子法人の株主が50人未満の場合) ① 前提 【B社の株式移転直前のBS】 ② 株式移転完全親法人の仕訳 (5) 具体例2(株式移転の直前において株式移転完全子法人の株主が50人以上の場合) ① 前提 【B社の株式移転直前のBS】 ② 株式移転完全親法人の仕訳 2 適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の取扱い 適格株式移転を行った場合には、株式移転完全子法人が有する資産について時価評価を行う必要はなく、特段の課税関係は生じません。 3 適格株式移転を行った場合の株式移転完全子法人の株主の取扱い (1) 旧株の譲渡損益 株主については、投資が継続していると認められる場合には、譲渡損益の計上を繰り延べることとされています(法法61の2⑪)。 「投資の継続」とは、株主が金銭等の交付(株式以外の交付)を受けていないことをいいます。 (2) みなし配当 利益積立金額が株主に交付されるときは、みなし配当を計上する必要があります(法法24)。 適格株式移転が行われた場合には、株式移転完全子法人の利益積立金額は、株式移転完全子法人の株主に交付されないため、株式移転完全子法人の株主においてみなし配当を計上する必要はありません。 (3) 株式移転完全親法人株式の取得価額 株式移転完全子法人の株主が、対価として株式移転完全親法人株式のみを交付された場合のその株式移転完全親法人株式の取得価額は、株式移転完全子法人株式の帳簿価額に付随費用を加算した金額とされています(法令119①十一)。 (4) 具体例 ① 前提 ② 株式移転完全子法人の株主の仕訳 ◆適格株式移転を行った場合の株式移転完全親法人、株式移転完全子法人、株式移転完全子法人の株主の取扱いのポイント◆ 適格株式移転があった場合に株式移転完全親法人が取得する株式移転完全子法人株式の取得価額は、株主が50人未満か50人以上かで異なります。 適格株式移転があった場合には、株式移転完全親法人において資本金等の額が増加しますが、利益積立金額は増加しません。 適格株式移転があった場合には、株式移転完全子法人において時価評価を行う必要はありません。 株式移転完全子法人株式の譲渡損益を認識するかどうかは、適格株式移転か非適格株式移転かにかかわらず投資の継続で判定します。 (了)
相続税の実務問答 【第98回】 「各相続人が単独で相続税の申告書を提出する場合の小規模宅地等の選択の同意」 税理士 梶野 研二 [答] あなた方は、相続税について、それぞれ単独で申告書を作成し、提出するとのことです。そうしますと、申告書様式の「第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」の「1 特例の適用にあたっての同意」欄に2人の氏名を記載しただけでは、有効な「選択についての同意を証する書類」の提出があったことにはなりません。 そこで、「選択についての同意を証する書類」として、共同申告における同欄への氏名の記載に代えて、適宜の用紙にあなたとお姉さまの連名で、あなたの取得したS区のアパートの敷地のうち200平方メートルについて小規模宅地等の特例を適用することに同意した旨を記載した書類(同意書)を作成し、それをあなたの相続税の申告書に添付すればよいでしょう。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 小規模宅地等の特例 租税特別措置法第69条の4第1項に規定する「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(以下「小規模宅地等の特例」といいます)は、個人が相続や遺贈によって取得した財産で、その相続開始の直前において被相続人又は被相続人と生計を一にしていた被相続人の親族の事業の用又は居住の用に供されていた宅地等(土地又は土地の上に存する権利をいいます)のうち一定の要件を満たすものがある場合、その宅地等のうち一定の面積(以下「限度面積といいます)までの部分(以下「小規模宅地等」といいます)で相続人等(相続人及び受遺者をいいます)が選択したものについては相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、一定の割合を減額することができる特例制度です。 相続開始の直前において被相続人等の貸付事業、すなわち、不動産貸付業、駐車場業、自転車駐車場業及び準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うものをいいます)の用に供されていた宅地等(その相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等(「3年以内貸付宅地等」といいます)を除きます(注))で、次の①又は②の区分に応じ、それぞれのいずれにも該当する被相続人の親族が相続又は遺贈により取得したものについては、貸付事業用宅地等として、この特例の適用対象となります。 (注) 相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等であっても、相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業(貸付事業のうち準事業以外のものをいいます)を行っていた被相続人等のその特定貸付事業の用に供された宅地等については、3年以内貸付宅地等に該当しません。 貸付事業用宅地等については、その限度面積である200平方メートルまでの部分について、課税価格の計算に算入すべき価額の計算上、その50%を減額することができます。 2 選択の方法 小規模宅地等の特例の対象となり得る宅地等を取得した相続人等が2人以上いる場合には、この小規模宅地等の特例の適用を受けようとする宅地等の選択についてその全員が同意しており、かつ、原則として相続税の申告期限までに分割されていることが必要です。この選択は、次に掲げる書類の全てを相続税の申告書に添付することにより行います(措令40の2⑤)(注)。 (注) 小規模宅地等の特例の適用対象となり得る宅地等のほか、「特定計画山林の特例」(措法69の5①)若しくは「特定受贈同族会社株式等に係る特定事業用資産の特例」(旧措法69の5①)の対象となり得る財産又は「個人の事業用資産についての相続税の納税猶予及び免除」(措法70の6の10①)の対象となり得る宅地等一定の財産を取得した者が2人以上いる場合には、小規模宅地等の特例の適用を受けようとする宅地等の選択についてその全員が同意しており、かつ、原則として相続税の申告期限までに分割されていることが必要です。 相続税実務においては、相続税の申告書の様式のうち「第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」に所要事項を記載し、相続税の申告書の一部としてこれを提出することにより、上記①、②及び③の書類が相続税の申告書に添付されたこととされます。このうち③については、次に示す同様式の「1 特例の適用にあたっての同意」欄に、小規模宅地等の特例の適用対象となり得る宅地等を取得した全ての相続人等の氏名を記載することをもって、同書類の提出がされたことになります。 ただし、この実務は、同一の被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者で、小規模宅地等の特例を適用することが可能な宅地等を取得した者全員が、1つの相続税の申告書を共同して提出することを前提としたものです。 同一の被相続人から小規模宅地等の特例を適用することが可能な宅地等を取得した者が2名以上ある場合において、それらの者が1つの相続税の申告書により共同申告を行わないときには、相続税の申告書の「第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」の「1 特例の適用にあたっての同意」欄に小規模宅地等の特例を適用することが可能な宅地等を取得した者全員の氏名の記載があったとしても、それをもって小規模宅地等の特例の適用対象となり得る宅地等を取得した全ての相続人等の同特例の選択についての同意を証する書類の提出がされたことにはなりません。 このため、同一の被相続人から小規模宅地等の特例を適用することが可能な宅地等を取得した者が2名以上ある場合において、それらの者が1つの相続税の申告書により共同申告を行わないときには、別途、「小規模宅地等の選択に係る同意書」を作成し、相続税の申告書に添付する必要があります。 (注) 小規模宅地等の特例を適用することが可能な宅地等を取得した2名以上の者が共同申告をしていない場合であっても、それぞれの者が提出する相続税の申告書の「第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」の「1 特例の適用にあたっての同意」欄に、小規模宅地等の特例を適用することが可能な宅地等を取得した者全員の氏名が記載されており、その記載どおりに小規模宅地等の特例を適用した課税価格の計算がされている場合には、「選択の同意」があったものと推認できるかもしれません。しかしながら、これをもって、小規模宅地等の特例を適用する場合に求められる添付書類の提出があったと取り扱うことができるかどうかについては、明確ではありませんが、厳密に考えれば、「小規模宅地等の特例の適用対象となり得る宅地等を取得した全ての相続人等の同特例の選択についての同意を証する書類」の提出があったとはいえないのではないかと思われます。 3 ご質問の場合 あなたが遺贈により取得したS区のアパートの敷地250平方メートル及びお姉さまが遺贈により取得したT市のアパートの敷地300平方メートルは、事業承継要件及び保有継続要件を満たす限り、いずれも貸付事業用宅地等として、200平方メートルの限度面積までの部分について小規模宅地等の特例を適用することができます。このため、あなたが取得したS区のアパートの敷地について、小規模宅地等の特例を適用するためには、お姉さまの同意が必要になります。 あなたとお姉さまが相続税について共同申告をするのであれば、相続税の申告書の「第11・11の2表の付表1 小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」の「1 特例の適用にあたっての同意」欄に、2人の氏名を記載すれば、選択の同意を証する書類が提出されたことになります。しかしながら、あなた方は、共同申告をせずに、それぞれ単独で相続税の申告書を作成し、それを提出するとのことです。そうしますと、同欄に2人の氏名を記載しただけでは、有効な「選択についての同意を証する書類」の提出があったことにはなりません。 そこで、「選択についての同意を証する書類」として、共同申告における同欄への氏名の記載に代えて、適宜の用紙にあなたとお姉さまの連名で、あなたとお姉さまがあなたの取得したS区のアパートの敷地のうち200平方メートルについて小規模宅地等の特例を適用することに同意した旨を記載した書類(同意書)を作成し、それをあなたの相続税の申告書に添付すればよいでしょう。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第49回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 19 ビットコインETFと分離課税(その3):問題意識② 以下では、暗号資産現物ETFが分離課税の議論に影響を与える可能性について、前回見た2つのルートとは異なる第3のルートからの考察を行う。すなわち、日本の居住者(所法2①三)が米国のビットコインETFを米国の市場で購入し、譲渡した場合の所得について、日本において分離課税の適用があるかという点を取り上げる。 この第3のルートの課税関係については、既に、分離課税の適用の可能性を肯定する見解が示されている(斎藤創=水嶋優「米国の暗号資産ETFの日本での取り扱いについて(第1.2稿)」(2024.2.28)。 この見解は、様々な留保を付しているものの、ビットコインETFの譲渡に係る所得について、法人税法上の法人課税信託に係る規定の適用を経て、分離課税の根拠規定となる租税特別措置法(以下「措置法」という)37条の11の上場株式等に係る譲渡所得等の課税の特例(以下「本件分離課税特例」という)の適用の可能性を認めている。 このように、上記見解においては、法人課税信託に係る規定の適用があることを前提として考察が進められている そこで、現行の信託税制について簡単に述べておく。 現行の信託税制は、大きく分けて、3つの課税方法に分けることができる。本格的に各要件や後述する本信託への当てはめを検討する前の段階であり、非常に大雑把な記述になるが、3つの課税方法について、本信託や本件分離課税特例との関係も含めて、簡単に整理しておく。 米国のビットコインETFは信託を利用しているし、これによれば、ビットコインを直接保有しているのと同じような経済的なポジション、ビットコインないしその価格変動に対するエクスポージャーを得ることができる。そうであれば、ビットコインを直接保有している場合の課税関係との整合性をとるべきであり、上記❶の受益者等課税信託に接近するのではないかという見解があるかもしれない。 この場合、信託の受益者である居住者は、信託財産であるビットコインを直接保有し、これに係る収益及び費用は居住者の収益及び費用とみなされる(所法13①本文)。 本件分離課税特例の適用はない。 米国のビットコインETFは、株式を運用対象とするものではないが、上場投資信託の一種であり、転々流通し、受益者が多数となるから、上記❷の集団投資信託に該当するという見解があるかもしれない。 この場合、本件分離課税特例の適用はない。 なお、上記❷の集団投資信託と同様に、受益者に対して、信託収益の受領時に課税するものとして、退職年金等信託(所法13③二、法法12④一)や特定公益信託(法法12④二)がある。 米国のビットコインETFは投資信託の一種ではあるが法人への投資に類似し、集団投資信託に該当しない投資信託の受け皿としての側面を有する法人課税信託に該当するという見解があるかもしれない。 この場合、受益者は株式会社の株主、信託の受益証券は株式会社の株式(株券)のような取扱いを受けることになるから、ビットコインETFを譲渡した場合には、上場株式等を譲渡したものとして本件分離課税特例の適用がある(詳細は後述)。 ただし、上記の記述は大雑把なものであり、今後の考察の理解の助けとなるものの、確定的なものではない。詳細な検討は後で行う。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第52回】 「サンリオ事件 -外国子会社合算税制における適用除外規定の適用- (地判令3.2.26、高判令3.11.24)(その1)」 ~法人税法69条15項、(旧)租税特別措置法66条の6第3項(現行2項)、7項~ 税理士 吉村 優 1 事実の概要 原告Xは、自社キャラクターを使用した商品の企画・販売、著作権の許諾・管理等を行っている内国法人かつ連結法人である。Xが、平成25年度3月期から平成28年度3月期までの各事業年度に係る法人税等の確定申告において、香港に設立されたXの子会社A社(発行済株式の95%をC社を通じて保有)、及びB社(発行済株式の100%をD社を通じて保有)の課税対象金額又は個別課税対象金額が、Xの各事業年度の所得金額の計算上益金の額に算入されるなどとして、処分行政庁より法人税等に係る更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けた。このことから、Xは被告Y(国)に対し、更正処分等のうちXが主張する金額を超える部分の取消しを求めた事案である。 Xは、法人税等の確定申告書に外国子会社合算税制の適用除外記載書面を添付していなかったことから、適用除外規定の適用を受けられないうえ、外国税額控除に関する明細書を添付していなかったため、A社及びB社が納付した外国法人税の額については、外国税額控除が適用されないとして、本件更正処分等に係る取消請求を棄却した事案である。 2 前提事実 〈関係図〉 3 主たる争点 なお、更正処分に関する通知が行政処分に該当するかが、本案前の争点となっている。 控訴審判決は、若干の追加判断があったものの第一審判決とほぼ同じ内容のため、本稿では第一審判決について検証することとする。 4 判旨 請求棄却。 (1) A社及びB社の主たる事業が「著作権の提供」に該当し、外国子会社合算税制の適用除外要件を満たさないか否か(主たる争点①) 裁判所は「その余については判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと判断する。」と述べて、判断を示さなかった。 (2) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していなくても、外国子会社合算税制の各適用除外規定の適用を受けられるか否か(主たる争点②) 裁判所は次のとおり判事した(下線は筆者挿入。以下同様)。 (3) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していない旨のYの主張は違法な理由の差し替えであって許されるか否か(主たる争点③) (4) A社及びB社が納付した外国法人税の額について、外国税額控除が適用されるか否か(主たる争点④) ((その2)へ続く)
〈経理部が知っておきたい〉 炭素と会計の基礎知識 【第5回】 「Scope2の算定のしくみ」 公認会計士 石王丸 香菜子 〔PNパッケージ社の登場人物〕 * * * 2023年の夏は、記録にも記憶にも残る酷暑となりました。 日本における2023年の夏の平均気温は、統計が開始されて以来、最も高い値を記録。日本の夏の平均気温は長期的に見ても上昇傾向にあり、100年あたり1.25℃の割合で上昇しています(※1)。 (※1) 気象庁「日本の季節平均気温」 IPCC(気候変動に関する政府間パネル)(※2)の第6次評価報告書によれば、2011~2020年の世界平均気温は1850~1900年と比べ1.09℃高くなっており、人間の活動による温室効果ガスの排出が地球温暖化を引き起こしてきたことに疑う余地はないとされています(※3)。 (※2) 世界気象機関(WMO)及び国連環境計画(UNEP)により設立された政府間組織。各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えることを目的に、世界中の科学者が協力して定期的に報告書を作成し公表している。 (※3) 環境省「IPCC第6次評価報告書の概要-統合報告書-」 * * * * * * 温室効果ガスのサプライチェーン排出量は、「Scope1」・「Scope2」・「Scope3」の3つに区分けして算定します(【第3回】参照)。 Scope2は、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、自社が間接的に排出する温室効果ガスを指します。 * * * * * * Scope2の温室効果ガス排出量も、【第4回】で見た基本式にあてはめて計算します。 * * * * * * Scope2排出量の算定方法には次の2つがあります。 電気は火力発電や水力発電、太陽光発電などさまざまな方法で発電されており、それぞれの温室効果ガスの排出係数は異なります。 ロケーション基準は、その国(地域)で発電される電力の平均的な排出係数を利用してScope2排出量を算定する方法です。一方、自社が小売電気事業者と実際に契約している内容に基づいて、その固有の排出係数を把握し、これを利用してScope2排出量を算定する方法をマーケット基準といいます。 全国平均排出係数、電気事業者別の各メニューの排出係数は、環境省から公表されています(※4)。 (※4) 環境省「温室効果ガス排出量算定・報告・公表制度/算定方法・排出係数一覧」 * * * (※5) 上表の全国平均排出係数は令和4年度実績値を使用。 * * * 太陽光や風力、地熱といった自然界に存在するエネルギーを再生可能エネルギーと呼びます。石油や石炭、ガスのような化石燃料を用いる発電と異なり、再生可能エネルギーを用いる発電は二酸化炭素を排出しません。すなわち、再生可能エネルギーによる発電の排出係数はゼロと考えることができます。 * * * 【ロケーション基準】 【マーケット基準】 * * * 財務会計では、複数の会計方針が認められる場合にはいずれか1つを選択しますが、GHGプロトコルでは、Scope2排出量についてロケーション基準の値とマーケット基準の値の両方を開示すること(二元報告)が求められています。 ロケーション基準によった場合、平均排出係数は大きな変動をしないため、Scope2排出量について経年での比較がしやすいと考えられます。一方、再生可能エネルギーによって発電される電気の契約プランを積極的に選択するといった取組みが、排出量の算定結果に反映されるのは、マーケット基準です。 * * * * * * 再エネ電力証書(再生可能エネルギー電力証書)とは、再生可能エネルギーから生産された電力の環境価値(温室効果ガスを排出しないという価値)を、電気そのものの価値から切り離し、証書化したものです。詳細は割愛しますが、「非化石証書(※6)」・「グリーン電力証書(※7)」・「再エネ電力由来J-クレジット(※8)」があります。 (※6) 非化石電源(再生可能エネルギーや原子力など)で発電された電力が持つ環境価値を証書化したもの。FIT非化石証書(再エネ指定)・非FIT非化石証書(再エネ指定)・非FIT非化石証書(再エネ指定なし)の3種類があり、種類によって対象電源や証書の売買参加者等が異なる。 資源エネルギー庁「非化石価値取引について―再エネ価値取引市場を中心に―」 (※7) 再生可能エネルギーによって発電された電気の環境価値を、証書発行事業者が第三者認証機関の認証を得て証書化したもの。 一般財団法人日本品質保証機構「グリーン電力証書の概要について」 (※8) J-クレジット制度は、省エネルギー設備の導入や再生可能エネルギーの利用による二酸化炭素等の排出削減量、適切な森林管理による二酸化炭素等の吸収量を「クレジット」として国が認証する制度。再エネ電力由来J-クレジットは、再エネ発電プロジェクトで発電・消費された電力量に応じて温室効果ガス削減量を計算しクレジットとして認証したもので、再エネ属性が証明される。 J-クレジット制度「J-クレジット制度について」 * * * * * * 近年におけるこうした取引の拡大を受けて、日本公認会計士協会からは「環境価値取引の会計処理に関する研究報告」が公表されています。研究報告では、非化石証書等の会計処理に関する考え方が整理されるとともに、実務上の処理にばらつきが生じている可能性が指摘されています。ただし、こうした取引はそれ自体が新しいものであり、2024年8月時点で環境価値取引に固有の会計基準はありません。 * * * (※9) GHGプロトコルは、改訂に関する主な論点の意見とりまとめ資料(Detailed Summary of Responses from Scope2 Guidance Stakeholder Survey)を2023年11月に発表している。 * * * Q Scope2はどのように算定するの? A Scope2は、他社から供給された電気・熱・蒸気を使うことで、自社が間接的に排出する温室効果ガスです。算定方法には、ロケーション基準とマーケット基準の2つがあります。 (了)
給与計算の質問箱 【第56回】 「令和6年10月からのパート・アルバイトの社会保険適用拡大」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和6年10月からのパート・アルバイトの社会保険の適用拡大についてご教示ください。 A 以下、適用拡大の対象企業や対象者、社会保険への加入手続、給与計算について解説する。 * * 解 説 * * 1 適用拡大の対象企業 厚生年金保険の被保険者数(正社員、週30時間以上勤務のパート、アルバイトの数)が51人~100人の企業が対象である。新たに適用拡大の対象となることが見込まれる場合には、「特定適用事業所該当事前のお知らせ」が9月上旬までに送付される予定である。 〈図表1〉社会保険の適用拡大のイメージ (出典) 厚生労働省・日本年金機構「社会保険適用拡大ガイドブック」 2 適用拡大の対象者 以下の①~④の全てを満たすパート・アルバイトが対象である。 3 社会保険への加入手続 令和6年10月以降に、会社は被保険者資格取得届を年金事務所へ提出する。 4 給与計算 月末締め翌月25日払いの会社の従業員が令和6年10月1日に社会保険に加入した場合、11月25日支給の10月分の給与から10月分の社会保険料を天引きする。 時給1,200円のパート、アルバイトの手取り額がどの程度減少するかを試算した(〈図表2〉参照)。色分けしてある箇所は、例えば、令和6年9月までは週17時間勤務すれば手取り81,600円であったが、令和6年10月から社会保険に加入する場合は、同程度の手取りを得るためには週20時間勤務が必要となることを意味する。 〈図表2〉手取りの減少額 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 手取りが減るというデメリットはあるが、健康保険からの給付や将来の年金額の増加といったメリットがあることは言うまでもない。 (了)
税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第56回】 「「建物等が未完成でも鑑定評価を行うことができる場合」とは」 不動産鑑定士 黒沢 泰 1 背景と趣旨 【第41回】では、対象不動産を確定するための条件(例えば、対象不動産が土地と建物からなる場合に、そのままの状態を前提として鑑定評価を行うのか、建物が存在しないものとして更地の鑑定評価を行うのか等いくつかのケースがあります)について述べました。 そこでは、その1つに「未竣工建物等鑑定評価」(=土地造成が未了又は未完成の建物につき工事の完了を前提として鑑定評価をすること)がある旨も紹介しましたが、具体的な解説は加えていませんでした。 不動産鑑定士が鑑定評価をする場合、その対象が土地であれば既に宅地として利用されているもの(=造成済みのもの)又は造成前の素地そのものの価格を求めているのが通常です。また、建物が対象であれば完成後の新築建物又は築年数の経過した中古建物の価格を求めているのが通常です。 しかし、不動産鑑定評価基準(以下、「基準」と呼びます)の平成26年5月1日付一部改正(同年11月1日施行)により、一定の条件を備える場合には、以下の状態でも、工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすることができることとされています。 筆者はこのような鑑定評価の案件を実際に手掛けたことはありませんが、(仮に実施する場合でも)工事完了前のものを完了したものとみなして価格を求めるだけに、安易な対応はリスクを高めるものといえます。 鑑定評価をめぐる従来の常識が変化しつつあるなかで、今回は「未竣工建物等鑑定評価」について、どのような条件を備えればこれが認められるのか、その際不動産鑑定士が留意すべき事項は何か等について述べていきます。 2 「未竣工建物等鑑定評価」とは 基準では、「未竣工建物等鑑定評価」を、「造成に関する工事が完了していない土地又は建築に係る工事(建物を新築するもののほか、増改築等を含む。)が完了していない建物について、当該工事の完了を前提として鑑定評価の対象とすること」と定義しています(総論第5章第1節Ⅰ.1.(5))。すなわち、建物だけでなく、土地についても造成工事完了前のものを含むことから、「建物等」という表現がなされています(そのため、今回のタイトルも「建物等が・・・」としてあります)。 なお、平成26年の基準の一部改正に伴い、従来の基準には存在しなかった「未竣工建物等鑑定評価」の規定が追加されたのは、国際的な評価基準との整合性を図るためであるとされています。 3 「未竣工建物等鑑定評価」を行う際の留意点 基準には以下の規定が置かれており、不動産鑑定士にとっては細心の留意が必要とされています(下線は筆者によります。以下同様)。 また、不動産鑑定評価基準運用上の留意事項(Ⅲ.1.(2)①)には、鑑定評価書の利用者の立場に立った次のような保護規定も置かれています。 上記のとおり、対象不動産が未竣工の状態でも鑑定評価を行うことができるとはいっても、そのためには様々な前提条件があります。さらに、このような状態で鑑定評価を行うことが鑑定評価書の利用者の利益を害する(=その結果を利用する者を誤った判断に導き損失を与える)おそれがある場合には、「未竣工建物等鑑定評価」という条件を付した鑑定評価を行うことは避けなければなりません。 なお、少々紛らわしくなりますが、上記の条件を付した鑑定評価ができる場合とは「評価を行う現在の時点を価格時点として、その時点で竣工しているもの」という前提付きのものであって、いまだ「不動産と認められない状態である建築中の建物について、建築中の状態を所与として」鑑定評価を行うことはできないということです(「不動産鑑定評価基準に関する実務指針」(総論第5章A.b)の趣旨によります)。その理由は、建築の途上では状況が刻々と変化し、鑑定評価の対象不動産として明瞭に確定できないことからしても明らかです(造成中の土地についても同じことがいえます)。 4 まとめ 上記2でも述べたとおり、現在施行されている基準に「未竣工建物等鑑定評価」の規定が追加されたのは、国際的な評価基準との整合性を図るためであるといわれています。その背景として、不動産市場がグローバル化するなかで、平成26年の基準改正当時、不動産の評価基準についても国際的な基準との整合性を高めることが求められていたという事情があったことも指摘されています。 このような状況変化を踏まえると、不動産鑑定士にも従来の常識にとらわれないものの見方、考え方が一段と要求される時代となってきたことを思い知らされます。 (了)
《税理士のための》 登記情報分析術 【第15回】 「登記事項等に関する改正」 ~外国人の氏名についてのローマ字氏名の登記事項化~ 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 本連載【第12回】でも解説をしたが、いわゆる所有者不明土地問題や空き家問題に対応するために行われた民法等の一部改正により、不動産登記法等も改正され、令和6年4月1日から新しい登記事項が加わるなどの改正が行われた。今回は改正内容のうち、「外国人の氏名についてのローマ字氏名の登記事項化」について解説を行う。 1 外国人の氏名はカタカナ等で登記されていた 外国人であっても原則として日本の不動産を購入することができる。近年は投資目的でのマンションやリゾート地の購入に留まらず、居住用として住宅を購入する事例も見られるようになってきている。 外国人が日本の不動産を購入する場合でも、所有権の保全のために登記を行うことになる。氏名がアルファベットで表記される人の場合は、カタカナに置き換えて登記され、中国や韓国の人のように氏名に漢字が用いられている場合は、日本で使用できる漢字に置き換えて登記がなされていた。 2 従来の取扱いの問題点 不動産を購入した外国人の氏名をカタカナや日本で使用する漢字に置き換える場合、どのようなカタカナや漢字を使用するかについて、外国人である不動産購入者自身で決めることは難しい。そのため仲介に入っている不動産会社や登記を担当する司法書士が相応しい表記を考えて登記を行うことになる。 このような取扱いであると、外国人が複数の日本の不動産を購入した場合、不動産ごとに異なる表記で氏名が登記され、所有者の特定の妨げになることなどが問題として指摘されていた。 3 外国人の氏名についてはローマ字表記を併記することに こうした問題を解決するため、令和6年4月1日以降に外国人が不動産の所有権を取得する登記や、既に所有している不動産について氏名の変更登記を行う場合には、外国人氏名についてローマ字表記を併記することになった。 【ローマ字氏名が併記された登記記録例】 登記申請にあたっては、登記をしようとする外国人の氏名の正しいローマ字表記を証明するために、住民票の写し(住民基本台帳に記録されている外国人の場合)や、パスポートの写しなどを添付することになる。 4 外国人の不動産取得は司法書士に事前確認を 外国人の不動産取得に関する登記手続については、本稿で解説した以外にも、本連載【第14回】で解説したとおり、当該外国人が海外居住者である場合には、国内連絡先を登記する必要があるなどの変更がされている。筆者も司法書士として外国人の登記に関わることがあるが、準備に思いのほか手間がかかることが少なくない。税理士も外国人投資家の国内不動産の取得に関わることがあるかもしれないが、事前に司法書士にどのような準備が必要か確認をするとよいだろう。 (了)