金融・投資商品の税務Q&A 【Q2】 「上場株式を譲渡し譲渡損が出た場合の損益通算の範囲」 PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 箱田 晶子 ●○ 検 討 ○● 1 上場株式等の譲渡に係る所得区分 上場株式等の譲渡から生じる所得については、他の所得と区分し、上場株式等の譲渡による事業所得、譲渡所得及び雑所得(以下、「上場株式等に係る譲渡所得等」)として、申告分離課税(所得税15.315%、地方税5%)が適用されます。 上場株式等が証券会社等の特定口座内の源泉徴収選択口座で保管されており譲渡益について証券会社等により源泉徴収がなされる場合を除き、原則として申告が必要となります。 上場株式等の譲渡について譲渡損が生じた場合、上場株式等に係る譲渡所得等の範囲内で損益通算が可能です。しかしながら、この損失については、下記2に記載する場合を除き、他の所得(例えば給与所得等)との損益通算を行うことはできません。 なお、平成27年12月31日以前は、上場株式等かそれ以外の株式等(一般株式等)の区別はなく、株式等の譲渡に係る譲渡所得等の範囲内での損益通算が可能でしたが、平成28年1月1日以後は、株式等を上場株式等又は一般株式等に区分し、それぞれの所得内でのみ損益通算が可能となりますので注意が必要です。 すなわち、上場株式等の譲渡損について、非上場株式の配当や譲渡益との損益通算はできません。 2 上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除 上場株式等に係る譲渡損失について、その年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額は、一定の要件のもと、(1)上場株式等に係る配当所得等との損益通算及び(2)翌年以降3年間の繰越しといった特例が認められています。 本特例の対象となる上場株式等の譲渡は、主に以下に掲げる譲渡とされています。 したがって、相対取引や外国の証券会社に対して直接譲渡した場合等は本特例の対象とはなりません。 (1) 配当所得等との損益通算 上場株式等の譲渡により生じた譲渡損失のうちその譲渡日の属する年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除しきれない金額については、申告を要件に、当該損失をその年分の上場株式等に係る配当所得等の金額(申告分離課税を選択したものに限る)から控除することが認められます。 平成28年1月1日以後、損益通算の対象となる上場株式等に係る配当所得等には、申告分離課税を適用した上場株式等の配当のほか、申告分離課税を適用した特定公社債の利子等が含まれます。 この上場株式等の譲渡損失と上場株式等に係る配当所得等の金額との損益通算は、損益通算の適用を受けようとする年分の確定申告書に、規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書その他の書類の添付がある場合に限り適用されます。 (2) 損失の繰越控除 上場株式等の譲渡により生じた譲渡損失のうちその譲渡日の属する年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除しきれない金額((1)の適用を受けて控除されたものを除く)は、一定の条件のもと、その年の翌年以後3年内の各年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額からの繰越控除が認められます。 この上場株式等の譲渡損失の繰越控除については、①上場株式等の譲渡損失が生じた年分について、その上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算明細書などが添付されている確定申告書を提出し、②その翌年以降、連続して確定申告書を提出し、③繰越控除の適用を受けようとする年分の確定申告書に、この規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、上場株式等に係る譲渡損失の金額の計算に関する明細書その他の書類の添付がある場合に限り適用されます。 上記をまとめると、上場株式等の譲渡損失の控除の順序としては以下の通りとなります。 3 本件へのあてはめ おたずねの上場株式の譲渡により生じた譲渡損は、上場株式等に係る譲渡所得等の範囲内で、他の上場株式等の譲渡により生じた譲渡益から控除することが可能です。また、上場株式は国内証券会社への売委託により売却したとのことですので、上記2の特例の対象となります。 すなわち、他の上場株式等の譲渡益からの控除後、なお上場株式等の譲渡に係る譲渡所得等が損失となる場合は、申告を要件に、申告分離課税を選択した上場株式等の配当等(特定公社債等の利子等を含む)との損益通算や損失の繰越控除を行うことができます。それ以外の所得との通算はできません。 (了)
連結納税適用法人のための 平成28年度税制改正 【第3回】 「減価償却制度の見直し」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト パートナー 足立 好幸 [5] 減価償却制度の見直し 1 改正内容 平成28年4月1日以後に取得をする建物附属設備及び構築物並びに鉱業用の建物の償却の方法について、定率法を廃止し、これらの資産の償却の方法を次のとおりとする(法令48の2①)。 2 平成28年4月1日以後の資本的支出の取扱い 既存の減価償却資産に対する資本的支出については、原則、新たな減価償却資産が取得されたものとして、減価償却制度が適用される(法令55①⑤)。 ただし、平成19年3月31日以前に取得された減価償却資産(旧定額法又は旧定率法が適用されるもの)に対する資本的支出については、既存の減価償却資産の取得価額に加算して、旧定額法又は旧定率法を適用することができる(法令55②)。 また、平成24年4月1日以後に取得された減価償却資産(200%定率法又は250%定率法が適用されるもの)に対する資本的支出については、既存の減価償却資産と資本的支出について定率法を適用している場合、資本的支出を行った翌事業年度の開始時に、既存の減価償却資産の帳簿価額と資本的支出の帳簿価額を合算した金額を取得価額とした新たな減価償却資産を取得したものとして減価償却制度を適用することができる(法令55④)。 したがって、既存の建物附属設備・構築物(以下、建物附属設備等という)に対して、平成28年4月1日以後に行われた資本的支出については、既存の建物附属設備等が平成19年3月31日以前に取得された減価償却資産(旧定額法又は旧定率法が適用されるもの)である場合は、当該資本的支出を既存の減価償却資産の取得価額に加算して、旧定額法又は旧定率法を適用することができるが、それ以外の場合には、新たな減価償却資産が取得されたものとして定額法が適用される(法令55①②④、平成28年法令改正法令附則6③)。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFファイルが開きます。 《平成28年4月1日以後に支出した資本的支出の取扱い》 3 平成28年度税制改正に伴う償却方法の変更は「正当な理由に基づく会計方針の変更」に該当するか? 平成28年度税制改正に合わせ、平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備及び構築物から減価償却方法を定額法に変更する場合、当該減価償却方法の変更が正当な理由に基づく会計方針の変更に該当するかが問題となる。 この点、企業会計基準委員会は、平成28年6月17日に『平成28年度税制改正に係る減価償却方法の変更に関する実務上の取扱い(実務対応報告第32号)』(以下、「本実務対応報告」という)を公表し、従来、法人税法の償却限度額を減価償却費として処理している企業において、建物附属設備、構築物又はその両方に係る減価償却方法について定率法を採用している場合、平成28年4月1日以後に取得する当該減価償却資産に係る減価償却方法を定額法に変更するときは、法令等の改正に準じたものとし、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱うものとした(本実務対応報告第2項)。 そして、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱う場合、『会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準(企業会計基準第24号)』第19項及び第20項の定めにかかわらず、次の事項を注記することとした(本実務対応報告第4項)。 また、本実務対応報告は、公表日(H28.6.17)以後最初に終了する事業年度のみに適用されることとされた。ただし、平成28年4月1日以後最初に終了する事業年度が本実務対応報告の公表日前に終了している場合には、当該事業年度に本実務対応報告を適用することができるとしている(本実務対応報告第5項)。 なお、この取扱いは、平成28年度税制改正に係る減価償却方法の改正に限定して緊急に対応したものであり、今回に限られたものとしている(本実務対応報告第15項)。 4 適用時期 平成28年4月1日以後に取得する建物附属設備、構築物、鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物に限る)について適用される(法令48の2①、平成28年法令改正法令附則1・6①)。 (了)
~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第10回】 「調査期間中に修正申告書を提出したが、 更正があるべきことを予知してされたものではないとして 加算税賦課決定処分が取り消された事例」 税理士 佐藤 善恵 (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 原告の法人(X社)は、米国の100%子会社で半導体基盤の製造及び設計開発等を主な事業としている。X社は、機械及び装置の増加償却の特例の適用要件である増加償却の「届出書」(本件届出書)を提出していないにもかかわらず、増加償却の特例の適用があるものとして法人税の申告書を提出した。 X社の担当者は、税務調査の初日の朝、本件届出書の提出を失念した可能性に気づいた。その後、X社は、調査期間中に修正申告書を提出し、過少申告加算税が賦課されたため、国税通則法第65条第5項が適用されるべきであるとして、賦課決定処分の取消しを求めて争った。 〔調査開始までの状況〕 (1) 大阪国税局の調査担当者(職員A)は、平成21年7月3日、X社に対し、同月21日から法人税及び消費税の調査を行う旨の電話連絡をした。 (2) 職員Aは、平成21年7月15日、X社を訪問し、経理部課長の乙及びその部下の丙に対して、調査当日までに準備を依頼する趣旨で、書類のリスト(本件依頼書)及び調査時に確認する事項を例示列挙した書面(本件確認事項書面)を交付した。 (3) 丙は平成21年7月21日(調査初日)の朝、職員Aが臨場する前に、準備した書類ファイルを確認していたところ、中に綴られているはずの本件届出書の控えが綴られていないことに気づき、乙にそのことを伝えた。 〔調査開始から修正申告書提出までの経緯〕 (1) 7月22日(水)及び23日(木)、丙は、調査に対応しつつ本件届出書の控えを探したが、発見することができなかった。 (2) 7月24日(金)、乙は、顧問税理士である税理士法人から、本件届出書の追加提出は認められないこと等の説明を受けた。 (3) 7月25日(土)、乙は、社内の財務担当部長に、本件届出書提出の失念の可能性が高いことを説明したところ、親会社から、税理士法人と相談の上、対応方針を決定するとの連絡を受けた。 (4) 7月26日(日)、乙は、社内の資金管理担当者に、修正申告をした場合の納税資金の手配が可能であるかを確認したところ、可能である旨の回答を受けた。 (5) 7月27日(月)朝、丙は、市役所に行き、償却資産申告書に本件届出書が添付されていないことを確認した。その後、乙、丙、税理士法人等が参加して親会社の担当者と電話会議が開かれ方針が検討された。 電話会議終了後、丙は、修正申告書を作成して代表者に署名してもらった。 (6) 7月28日(火)未明、親会社は乙に対し、電子メールで修正申告をすること及び追加納税を指示した。同日午前、丙は、修正申告書を税務署に提出し、約10億6,000万円の追加納税をした。 (7) 職員Aは、7月27日(月)までの間に、増加償却の特例が要件を満たしているかに関する具体的調査は行っていなかった。 〔結論〕 職員Aの調査により、本件届出書の不提出が発見されるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達する前に修正申告書が提出されたものと認められる。 国税通則法第65条第5項の適用により、過少申告加算税は取消し。 〔判断の分水嶺〕 本件の判断の分水嶺は、「本件届出書の不提出が発見されるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達していたか」ということが判断基準にされた点にある。これを、より大雑把にいうと、職員Aが過少申告の原因たる本件届出書提出の失念という具体的な事実に気づき得る段階であったかどうかである。 職員Aの行っていた調査の具体的内容は、減価償却計算の適否などであったが、裁判所は、それをもって、本件届出書の確認に関して客観的確実時期に達していたとはいえず、「単に一般的抽象的可能性があったに過ぎない状況」にあったというべきであると述べて原処分庁の主張を排斥した。 〔本判決が示唆するもの〕 本件では、X社は、修正申告書を提出した後に、職員Aにその旨を伝えている。興味深いのは、その際、職員AにICレコーダで会話を録音する旨告げて、本件届出書不提出に気づいていたかどうかといった趣旨の質問や、減価償却方法についてまだ調査していないことを確認する旨の質問もしたが、職員Aからは明確な回答が得られなかったという事実が認められていることである。 このような客観的証拠があったため、裁判所は、職員Aが本件届出書の提出に関して「調査しようと考えるに至っていたことをうかがわせる証拠も存在しない」とまで判断することができたのだろう。証拠がいかに重要かということである。 なお、本論点については、平成28年度税制改正によって、平成29年1月1日以後に法定申告期限が到来する国税に関して、調査の事前通知後は更正を予知したものでなくとも5%の加算税が課されることとなったため、同法施行後は、本件のようなケースについては、加算税が免除されるのではなく5%でかかることとなる。 なお、課税庁の判決情報のコメントを一部紹介する。 (了)
包括的租税回避防止規定の 理論と解釈 【第18回】 「役員、従業員との取引」 公認会計士 佐藤 信祐 前回は、争点10(同族非同族対比基準)として紹介されている東京高裁昭和49年6月17日判決について解説を行った。 さらに、矢内一好著『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』(財経詳報社、平成27年)123頁では、争点11から争点14として、役員、従業員との取引について紹介されており、本稿では、これらの判例について解説を行うこととする。 13 役員、従業員との取引 (1) 高松高裁昭和62年1月26日判決(TAINSコード:Z157-5859) ① 事実関係 原告が、退職した従業員・訴外森本照子、同岸みどりの両名に支払った退職金各2,250万円、合計4,500万円を損金として計上したところ、被告は、右退職金の算定及び支給の根拠が不自然かつ不合理であるとして、被告において独自に右両名に対する退職金適正額を各184万1,000円、合計368万2,000円と算定し、右退職金のうちこの限度においてのみの損金計上を認め、法人税法132条1項により残余の4,131万8,000円の損金計上が否認された事件である。 ② 原審(徳島地裁昭和61年3月12日判決・TAINSコード:Z151-5689) ③ 裁判所の判断 高松高裁は、第一審の判断を踏襲している。 ④ 評釈 このように、裁判所は、役員の親族である従業員に対して支払った退職金が過大であるとして同族会社等の行為計算の否認を適用した。他の従業員に対する退職金の支給実績がなかったことを含めて考えると、裁判所の判断は相当であったと考えられる。 なお、現行法であれば、過大役員給与として否認されるため、個別否認規定で対応されるべきものである。 (2) 最高裁昭和60年6月18日判決(TAINSコード:Z145-5556) ① 事実関係 原告会社は、原告幸作、同貞子の養父大河原房次郎から同人所有の宅地を合計214万円で買い受けたが、房次郎死亡後に、その相続人の原告幸作、同貞子との間で右売買契約を合意解除し、右買受代金相当額の214万円の返還を受け、原告会社に対する本件土地の所有権移転登記の抹消登記をした。そして、原告幸作、同貞子は、右同日同土地につき房次郎からの相続を登記原因とする所有権移転登記を行った。 これに対し、中野税務署長は、原告会社が同族会社であり、また、本件土地の時価が4,605万円であったから、右合意解除による行為計算をそのまま認容すると原告会社の法人税の負担を不当に減少させる結果になるので、旧法人税法31条の3第1項によりこれを否認し、時価をもって売買されたものとして、その時価たる4,605万円を不動産売却収入とした。さらに、国税徴収法に規定する第二次納税義務が、原告幸作、同貞子に課されることになり、これらを不服として争われた事件である。 ② 第一審(東京地裁昭和54年9月26日判決・TAINSコード:Z106-4469) ③ 控訴審(東京高裁昭和56年6月10日判決・TAINSコード:Z117-4807) 東京高裁は、東京地裁の判断を踏襲している。 ④ 裁判所の判断 最高裁は、上告理由がないものとして棄却している。 ⑤ 評釈 本事件の発端は、原告会社が実態のない会社であったことから、重なる地代値上げや更新料支払いの要求を受けた賃借人の一部が、静岡地方裁判所沼津支部に対して原告会社の解散命令を求める申立てをしたことにある。 そして、訴訟が進行するにしたがって、原告会社が実体のない会社であると認定され裁判所から解散命令を受けるのは必至となり、代々大河原家の財産であった本件土地が清算手続によって第三者の手に渡らないようにするために、房次郎の相続人である原告幸作、同貞子と原告会社との間で本件土地についての前記売買契約を合意解除してその所有権を原告幸作、同貞子に移し、その後に原告会社が自ら解散しようとしたことにある。 しかしながら、このような合意解除によって、原告会社に譲渡益が生じないようにする手法が容認されるはずがないため、裁判所の判断は相当であったと考えられる。 (3) 最高裁平成11年1月29日判決(TAINSコード:Z240-8327) ① 事実関係 本事件は、原告西村昭孝(以下「原告昭孝」という)を代表取締役とし、その就学中の子女らを取締役ないし監査役として登記していた原告日拓デベロップメント株式会社(以下「原告会社」という)が、この子女らに役員報酬を支給したとして、右役員報酬額を損金に算入して法人税の申告をしたところ、被告新宿税務署長から、右役員報酬は原告昭孝に支払われたものであるなどとして損金算入を否定される更正を受け、右役員報酬額等を収入に計上せずに所得税の申告をした原告昭孝も、被告玉川税務署長から、右役員報酬額等を収入に計上される更正を受けたために、原告らが右各更正等の取消しを求めて出訴した事案である。 本連載は、同族会社等の行為計算の否認についての連載であるため、後者の原告昭孝については割愛し、前者の原告会社における役員報酬の損金不算入についてのみ解説を行うこととする。 ② 第一審(東京地裁平成8年11月29日判決・TAINSコード:Z221-7824) ③ 控訴審(東京高裁平成10年4月28日判決・TAINSコード:Z231-8155) 東京高裁は、東京地裁の判断を踏襲している。 ④ 裁判所の判断 最高裁は、上告理由がないものとして棄却している。 ⑤ 評釈 このように、過大役員報酬に係る損金不算入(法法34)ではなく、同族会社等の行為計算の否認(法法132)が適用されている。 この点につき、東京地裁は と判示しているが、勤務実態がないのであれば、過大役員報酬に係る損金不算入が適用することができるため、あえて同族会社等の行為計算の否認を適用する必要は無かったように思われる。 これは、本事件において、役員報酬が原告昭孝に支払われたものであるとして、原告昭孝の所得税についてまで否認されたがために、同族会社等の行為計算の否認(法法132)が争いになったが故の特徴であると思われる。 全体としてみると、勤務実態のない親族に対して役員報酬を支払ったのであるから、原告会社の訴えを認めなかった裁判所の判断は相当であったと考えられる。 本稿で紹介した事案のほか、酒井克彦著『裁判例からみる法人税法』(大蔵財務協会、平成24年)699-704頁でも、過大役員報酬として争われた事件が紹介されているため、興味がある読者は一読されたい。 矢内一好著『一般否認規定と租税回避判例の各国比較』(財経詳報社、平成27年)123頁では、争点15以降も紹介されているが、筆者が本誌に寄稿した他の連載(「貸倒損失における税務上の取扱い」、「組織再編・資本等取引に関する最近の裁判例・裁決例について」)で紹介した裁判例や、逆さ合併のように現行法上では論点とならない裁判例であることから、本稿では解説を省略することとする。 次回以降では、今まで紹介した裁判例を踏まえて、同族会社等の行為計算の否認に関する論点について分析することとする。 (了)
〈Q&A〉 印紙税の取扱いをめぐる事例解説 【第31回】 「国等と締結した清掃業務委託契約書」 税理士・行政書士・AFP 山端 美德 当社は、清掃業者です。地方公共団体から日常定期清掃の受注を受け、清掃業務委託契約書を共同で2通作成することとなりました。地方公共団体の作成する契約書は非課税とのことですが、印紙税が課税される文書は、地方公共団体が所持するものまたは当社で所持するもののどちらですか。 契約書の内容は報酬を得て清掃を行う業務を定めており、第2号文書(請負契約書)に該当します。また、清掃業務を継続的に行う契約で、清掃業務の範囲、代金、代金の支払方法等を定めていますが第7号文書(継続的取引の基本となる契約書)にも該当するのでしょうか。 地方公共団体が所持する文書は国等以外の者が作成したものとみなされて課税の対象とされ、当社が所持する文書は非課税となる。 また、第7号文書に該当するかどうかについては、地方公共団体は営業者に当たらないため、第7号文書には該当しない。 [検討1] 国等と国等以外の者が共同作成した課税文書 国等(国、地方公共団体、法別表第2に掲げる者)が作成した課税文書については、非課税になる(法第5条)。 また、国等と国等以外の者が共同作成した課税文書については、国等が保存するものは国等以外の者が作成されたとみなし、国等以外の者が保存するものは国等が作成したものとみなす(法第4条第5項)。 [検討2] 第7号文書に該当するか 国等は営業者には該当しないため、継続的取引の基本となる契約書の範囲を定めた令26条第1項に規定する「営業者の間」の取引とはならないため、国等との間で定めた文書は、7号文書にはあたらない。 (※) 印紙税法上の営業者に該当するかどうかについては、第17号文書(金銭または有価証券の受取書)の非課税物件欄に規定する営業を行うものをいう。 ▷ まとめ (了)
ストーリーで学ぶ IFRS入門 【第6話】 「IFRSに基づいた5つの財務諸表」 仰星監査法人 公認会計士 関根 智美 桜井は大きな欠伸をした。朝型の人間にとって残業は辛いだけではなく、眠気との戦いになる。外はとっぷりと暮れ、窓ガラスに煌々と映し出された自分の疲れた顔を見つめ返していた。 気がつけば7月。経理部にとっては第一四半期決算の真っ盛りだ。後輩ができたとはいえ、入社3年目、まだまだ下っ端の桜井は、監査対応に自分の担当業務、さらに後輩のフォローと慣れない仕事に追われ、連日大忙しだった。日課の早朝勉強も今は休止状態で、朝残業に取って代わっている。 「お疲れさん。どんな調子だ?」 桜井の2年先輩の藤原が給湯室から2人分のコーヒー持ってきて桜井を労う。コーヒーは夕方淹れたものらしい。数時間保温され続けたことで生じる独特の匂いが鼻につく。 「ありがとうございます。日程通り順調に進んでいますよ。」 桜井は、煮詰まって酸味の増したコーヒーを一息に飲んで、眠気を飛ばそうと試みた。 「今年は監査対応をお前がやってくれているから、助かってるんだ。結構大変だろ?しかも山口の仕事のフォローもあるからな。」 藤原もコーヒーを一口飲んで、顔をしかめた。山口とは、今年2年ぶりに経理部に配属された新人で、桜井の初めて後輩だ。 「そういえば、IFRSの件で打ち合わせの日程調整をしたいって監査法人の吉田さんが帰り際に言っていましたよ。」 「了解。別件で相談があったから、ちょうど良かった。」 「IFRS導入の方は、もう本決まりですか?」 「ああ。この間の経営会議で承認されたから、これから本格的にスタートだな。」 「じゃあ、いよいよですね。最近は忙しくて勉強どころじゃないですが、僕もIFRS任意適用会社の有報をいくつか見たりはしていますよ。」 「ほう。頑張ってるじゃないか。そういえば、IFRSの財務諸表と日本基準の財務諸表との違いを説明する約束だったよな。」 藤原は残りのコーヒーをぐいっと飲み干すと、「コホン」と咳払いをした。 「まず、財務諸表の表示について定めている基準は知っているな?」 「えーと、たしかIAS第1号『財務諸表の表示』ですよね?」 「そうだ。財務諸表の表示に関する全般的な要求事項や、その構成に関する指針について最小限の要求事項を定めているのがIAS第1号だ。この基準では、財務諸表の目的や一般的特性の規定、各計算書の構成及び内容が定められているんだ。」 「一般的特性って・・・また〇〇性というやつですか?」 桜井はあからさまに嫌そうな顔をした。よほど概念フレームワークの時に懲りたらしい。藤原は苦笑しながら、桜井をなだめた。 「落ち着け。基本的な内容は日本基準とそう変わらない。一般的特性として挙げられている項目を読み上げてやろう。①適正な表示とIFRSへの準拠、②継続企業、③発生主義会計、④重要性と集約、⑤相殺、⑥報告の頻度、⑦比較情報、そして⑧表示の継続性、の8つだ。 な?表題からも日本基準で聞いたことある項目ばかりだろう?内容も然りだ。」 桜井は頷いた。確かに今まで知っている言葉ばかりで、初めて聞いたものはない。 「これらの特性を概念フレームワークのように一つひとつ解説はしない。日本基準を知っていれば対応できるからな。」 「それを聞いて安心しました。」 IFRSからの離脱規定 「ただ、この中で変わっている規定については簡単に教えておこう。『①適正な表示とIFRSへの準拠』の項目で触れられている離脱規定だ。」 「離脱規定?何ですか、それは?」 「IFRSの中のある要求事項に従うことが『フレームワーク』に示されている財務諸表の目的に反するほどに誤解を招くと経営者が判断した場合で、かつ関連する規制上の枠組みがそのような離脱を要求しているか、またはそのような離脱を禁じていない場合には、企業はIFRSの要求事項から離脱しなければならない、という規定だ。 とは言っても、このような事例は極めて稀なケースだと限定されている。」 「へぇ。そんな規定があるんですね。先輩、そういう会計処理をした場合にどのようなことを開示するのか、予想できますよ。」 桜井は得意そうに言った。 「ほう?」 「利用者へ理解を促すために、注記でその旨や内容、理由、影響等を説明することになるんですよね?」 「概ねその通りだ。正確には、経営者が離脱して作成された財務諸表が適正に表示していると結論づけた旨、特定の規定を除きIFRSに準拠している旨、離脱対象基準とそれが本来求めていた内容、離脱内容、理由及び影響等などを開示することになるんだ。」 「ところで、IFRSでは単に財務諸表とは言わず、『完全な一組の財務諸表』と言うんだが、この『完全な一組の財務諸表』が何を指すのか、分かるか?」 「それくらい分かりますよ。」と、桜井は自信満々で答えた。 「財政状態計算書、純損益及びその他の包括利益計算書、持分変動計算書、キャッシュ・フロー計算書の4つですよね?」 「惜しい。プラス注記の5つだ。」 「あ、そうか。忘れていました。」 「これらの計算書は基本的に日本基準と変わらない。だから、この項目順に日本基準と違う点に着目して説明していこうと思う。」 そう言うと藤原は、紙にペンを走らせた。 財務諸表全般に関する相違点 「分かりました。まず財務諸表全般に関する違いから始めていくんですね。」 「その通りだ。財務諸表全般に関する相違点は大きく3点ある。」 ◆IFRSに基づく財務諸表の表示項目 「さっきIFRS基準の有報を見たと言っていたが、財務諸表本表が日本基準の計算書に比べてシンプルじゃなかったか?」 「はい。全体的にすっきりした印象を持ちました。」 「まずは、その表示項目が1つ目の違いだ。日本基準では、連結財務諸表規則及び連結財務諸表規則ガイドラインで表示項目に関して詳細に定められている。一方IFRSでは、比較的限られた項目について区分表示することを求めているのみなんだ。」 「なるほど。だから表示している科目数が少ないんですね。」 ◆IFRSに別掲の数値基準はない 「2つ目に異なる点は、IFRSでは表示項目について、日本基準のような数値による別掲基準はない、ということだ。」 「別掲基準というと、〇〇合計額の〇%超の科目はその他に含めず別掲する、というルールですよね。」 「そうだ。日本基準と違い、IFRSでは、重要性のある項目は区分表示しなければならない、とだけ規定されているんだ。」 その言葉を聞いて、桜井は以前藤原に教えてもらったことを思い出した。 「IFRSは原則主義を採っているからですね。たしか、数値基準を極力排除してるんですよね。」 「よく覚えていたな。」藤原は桜井を褒めると、さらに説明を続けた。 ◆各財務諸表の名称も変更可能 「3つ目の相違点は、IFRSでは各財務諸表の名称を基準での名称以外のものを使ってもいい、というものだ。例えば、『純損益及びその他の包括利益計算書』に代えて、『包括利益計算書』という表題を使用してもいいんだ。」 桜井は目を丸くした。 「日本基準では、考えられないですね。」 「面白いだろ?」 財政状態計算書(statement of financial position) 「次に、各計算書の相違点に入っていこう。まずは、財政状態計算書(statement of financial position)だ。これがIFRS基準に基づく財政状態計算書の表示例だ。」 【財政状態計算書の表示例(固定性配列)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 桜井は財政状態計算書に目を移した。 「財務諸表全般の相違点で先輩が言った通り、日本基準よりも表示されている科目数が少ないことが分かりますね。」 「そうだな。じゃあ具体的に中身を見ていこう。」 ◆流動・非流動区分 「ここで押さえるポイントは、流動・非流動の区分だ。日本基準では、原則として流動性配列だが、IFRSでは固定性配列でも流動性配列でも基本的に構わない。中には流動・非流動を区分せずに、流動性が高い順に表示している会社もあるんだ。」 「へぇ。たしか、流動性配列って、流動項目、固定項目の順に流動性の高い項目から配列する方法ですよね。言われてみればこの財政状態計算書、非流動資産・負債が流動資産・負債よりも先に来ている固定性配列になっていますね。」 「その通りだ」と藤原は頷いて、先を続けた。 「また、IFRSでは流動資産または流動負債をはじめに定義し、それに該当しないものはすべて非流動資産または非流動負債として分類することになる。」 ふと疑問に思い、桜井は藤原に確認した。 「先輩、流動資産または流動負債に該当するものは、日本基準と違いはあるんでしょうか?」 「そこは基本的に日本基準とは変わらないから、安心していいぞ。ただし、繰延税金資産・負債はすべて非流動項目に分類される点に注意が必要だ。」 「分かりました。実は、なぜIFRSでは固定資産・負債ではなく、非流動資産・負債と言うのか不思議だったんです。先に流動資産・負債を定義して、残りを流動資産・負債以外とするからなんですね。」 純損益及びその他の包括利益計算書(statement of profit or loss and other comprehensive income) 「次に純損益及びその他の包括利益計算書(statement of profit or loss and other comprehensive income)だ。これが一計算書方式で作成された表示例だ。」 【純損益及びその他の包括利益計算書の表示例(一計算書方式)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 ◆特別損益区分の禁止 「まず、IFRSでは、純損益及び当期包括利益以外の段階損益の表示は強制されないという点が日本基準とは違う。」 「強制されないということは、表示しても問題はないんですよね?」 「もちろん、売上総利益や営業損益を表示することはできる。ただし、損益項目を異常項目(extraordinary items)として計算書にも注記にも表示することは禁止されている。つまり、特別損益は計上できないということだ。」 「なんでダメなんですか?だって、毎期発生しない異常項目は別に分かるように表示しておいた方が、利用者にも役立つと思うんですが・・・」 桜井は納得できないらしく、藤原に異を唱えた。 「確かにそういう考え方はある。しかし、IFRSでは、異常項目は臨時的なものではあるが、他の収益や費用と同様に企業が直面する通常の事業リスクにより生じたものであると捉えているんだ。そのため、異常項目だけを他の項目から切り出して、個別に表示をするものではないと考えている。したがって、表示は頻度によってではなく、取引の性質や機能によって決定されるべきであると基準では説明されているんだ。」 「確かにそう説明されると、異常項目を区分して表示しないということにも一理ありますね。」 藤原の説明にしぶしぶ頷き、桜井は引き下がることにした。 ◆その他の相違点 「また、表示に関しては次の2つの点が日本基準と異なる。 1つが、その他の包括利益をリサイクリングの有無で区分して表示すること。 もう1つが、非継続事業(discontinued operation)に係る損益については区分して表示する必要があること、だ。」 「確かに、その2つに関する表示規定は日本基準にはありませんね。ところで、非継続事業って何ですか?」 「非継続事業とは、すでに処分されたか、または売却目的保有に分類された企業の構成単位のことだ。なぜ、非継続事業に係る損益が区分表示されるのか、分かるか?」 藤原は片眉を上げて、桜井に質問した。 「あ、そうか。財務諸表の利用者が、企業の将来業績を予測する際にこの非継続事業に係る損益を除いて予測できるようにするためですね。」 その答えを聞いた藤原は満足そうに頷いた。 「その通りだ。ここは問題なさそうだから、次へ進もうか。」 持分変動計算書(statement of changes in equity) 「続いて、持分変動計算書ですね。これは、株主資本等変動計算書のことですよね。」 「そうだ。持分変動計算書(statement of changes in equity) がどんなものかはこれを見てくれ。」 桜井は、藤原が差し出した持分変動計算書の表示例に目を移した。 【持分変動計算書の表示例】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 「日本基準では株主資本やその他の包括利益累計額の合計欄がある、という些細な違いはありますけど、他に日本基準と違う点はあるんでしょうか。」 「喜べ。持分変動計算書は日本基準と重要な相違点はないんだ。」 藤原はニヤリと桜井の方を見る。桜井は心の中で小さくガッツポーズをした。誰だって覚えることは少ない方が嬉しいに決まっている。 キャッシュ・フロー計算書(statement of cash flows) 「やっと4つ目のキャッシュ・フロー計算書ですね。」 「そうだ。これが表示例だ。ちなみに、キャッシュ・フロー計算書(statement of cash flows)については、IAS第1号ではなく、IAS第7号『キャッシュ・フロー計算書』で表示及び開示についての要求事項を規定しているんだ。」 【キャッシュ・フロー計算書の表示例(間接法)】 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 「表示例を見たところ、日本基準と同じように思うんですけど・・・」 桜井は期待を込めた目で藤原を見つめる。 「そんな目で見るなよ。そうだな。基本的には日本基準と変わる所はないが、異なる点が2つあるんだ。」 それを聞いて、桜井はうなだれた。 「やっぱり違いがあるんですね・・・」 ◆非継続事業に係るキャッシュ・フローの区分 「1つ目は、非継続事業に係る営業活動、投資活動、及び財務活動の各区分の正味キャッシュ・フローを区別して開示する必要があるという点だ。」 「そういえば、純損益及びその他の包括利益計算書でも同じでしたね。」 「そうだ。区分開示の理由も、純損益及びその他の包括利益計算書の時と同じだ。」 ◆利息・配当金の表示区分 「2つ目は、受取利息と受取配当金、支払利息と支払配当金の計上区分の違いだ。桜井、日本基準ではどこに計上するのか、覚えているか?」 「えーと、ウチの会社では、受取利息と受取配当金、そして支払利息は営業活動によるキャッシュ・フローに計上していて、配当の支払いのみ、財務活動によるキャッシュ・フローに計上していますよね。」 桜井は、前回の決算で作ったキャッシュ・フロー計算書を思い出しながら答えた。 「その通り。日本基準では、もう一通り計上方法がある。受取利息及び受取配当金は投資活動によるキャッシュ・フローに計上し、支払利息及び支払配当金は財務活動によるキャッシュ・フローに計上する方法もあるんだ。」 「あ、そうでしたね。」 「一方のIFRSでは、受取利息及び受取配当金は営業活動または投資活動によるキャッシュ・フロー区分し、支払利息及び支払配当金は営業活動または財務活動のいずれかに区分するとされている。」 「へぇ。・・・ん?」桜井は少し考え込んだ。 「どうした?」 「とすると、IFRSを適用したとしても、これらの4つの科目は日本基準で計上していた時と計上区分を変える必要はないってことですか?」 「そういうことになるな。規定としては日本基準と違うが、実務には影響がないと言える。」 藤原はニヤリと笑った。 注記(notes) 「最後に注記(notes)に関してだが、先月教えたように、日本基準より多いということはもう分かっているな。」 「はい。確かIFRSを適用すると、注記が20ページ増えるんでしたよね・・・」 桜井は先月の集中講義で藤原が見せてくれたIFRS適用会社の注記を思い出した。 「それは適用初年度だからだ。IFRSを初めて適用する企業は、開示する事項が多いからな。その翌年度以降は少しページ数が減っていただろう?」 「それでも、日本基準よりも多くなるんですよね・・・?」 「もちろんだ。それが『IFRSの特徴』の1つだからな。 ただ、ここで具体的に日本基準との違いを羅列すると量が膨大になるから、個々の会計処理を学ぶときに何を注記するのか、一つひとつ押さえていくほうが理解しやすいと思う。」 「分かりました。それぞれの会計基準を勉強するときに注記項目も確認していくことにします。」 「それがいい。注記のボリュームや順番も会社によって様々だから、実際の開示を読み比べてみると、その会社の特色が分かって結構面白いぞ。」 「へぇ、そうなんですか。」 「ああ、それから2016年3月31日付で金融庁から新しい『IFRSに基づく連結財務諸表の開示例』が出されたんだ。今日は財務諸表の本表部分を例示で見たが、注記についてはこの開示例をみるのも勉強になるだろう。」 「わかりました。では、今度落ち着いた時に見てみることにします。」 * * * 「おっと、もうこんな時間だ。明日も早いし、今日はもう上がろうぜ。」 桜井は時計をちらりと見た。睡眠時間を逆算すると、確かにそろそろ帰ったほうがいい。睡眠時間を削ると作業効率も悪くなるし、ちょうど作業もひと段落したところだ。 「駅前に新しくできたラーメン屋がなかなか美味いんだ。飯食って帰ろうぜ。」 藤原は桜井の返事を待たずに、帰り支度を始めている。 「いいですね。最近野菜不足だから、タンメンにしようかな。あ、でも暑いから冷麺も捨てがたいですね。」 それを聞いた藤原が片眉を上げて、桜井を見る。 「まだまだだな、桜井。暑い時は熱いものを食べるのがいいんだっ!」 「えー。僕、ゆとり世代なんでぇ、そういう根性論は無理ですぅ。」 「何だ、その理由は。俺だってゆとりだぞ。」と、2人は軽口を叩き合いながら、オフィスを後にした。 (了)
金融商品会計を学ぶ 【第24回】 「ヘッジ会計⑤」 公認会計士 阿部 光成 引き続き、「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)及び「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号。以下「金融商品実務指針」という)におけるヘッジ会計について述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ ヘッジ有効性の評価に係る具体的検討事項 1 ヘッジの有効性の評価方法の明確化 ヘッジの有効性の評価方法を明確化する際には、各ヘッジ取引の特性に応じて、次のことをあらかじめ決めなければならない(金融商品実務指針157項)。 2 高い有効性があるとみなされる場合 一般的にヘッジ手段とヘッジ対象の資産・負債又は予定取引に関する重要な条件が同一である場合には、ヘッジ開始時及びその後も継続して、相場変動又はキャッシュ・フロー変動を完全に相殺するものと想定できる(金融商品実務指針158項)。 例えば、次のすべてに該当するような先渡契約によってヘッジされた予定購入取引は、ヘッジに高い有効性があるということができ、金融商品実務指針156項による有効性の判定は省略することができる。 金利スワップについては、金融商品実務指針178項の特例処理の要件に該当すると判定される場合、その判定をもって有効性の判定に代えることができる(金融商品実務指針158項)。 3 ヘッジ有効性の評価が複雑であり、非有効部分がある場合 次のような場合、ヘッジ非有効部分が存在する可能性があるのでヘッジの有効性評価は複雑であり、十分な検討が必要になる(金融商品実務指針159項)。 Ⅱ その他有価証券の価格変動リスクのヘッジ その他有価証券をヘッジ対象とするヘッジ取引の会計処理方法については、繰延ヘッジ又は時価ヘッジのいずれかを選択できる(金融商品実務指針160項)。 Ⅲ 満期保有目的の債券のヘッジ対象としての適格性 満期保有目的の債券は、原則として金利変動リスク(相場変動リスク又はキャッシュ・フロー変動リスク)に関するヘッジ対象とすることはできない(金融商品実務指針161項)。 これは、満期保有目的の債券は「満期までの間の金利変動による価格変動のリスクを認める必要がない」ものであり、「時価が算定できるものであっても、(中略)償却原価法に基づいて算定された価額をもって貸借対照表価額とする」とされた趣旨に基づいたものである(金融商品実務指針325項)。 ただし、債券取得の当初から金利スワップの特例処理の要件(金融商品実務指針178項)に該当する場合にはヘッジ対象とすることができる(金融商品実務指針161項、325項)。ヘッジ会計を適用するためには、ほぼ満期日まで金利スワップが締結されていなければならないことに注意が必要である。 もし、債券の満期日の前にスワップを解約した場合には、満期保有目的の債券の売却があった場合と同様に、金融商品実務指針83項に準じて、当該債券を含む満期保有目的の債券全体を他の保有目的区分に振り替えなければならない(金融商品実務指針161項、325項)。 次のことに注意が必要である(金融商品実務指針325項、326項)。 (了)
経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第118回】 ソフトウェア会計④ 「自社利用ソフトウェアにおける耐用年数の変更」 仰星監査法人 公認会計士 上村 治 〈事例による解説〉 〈会計処理〉(単位:千円) ① ×1年3月期、×2年3月期 (※1) 取得原価200,000千円÷耐用年数5年=40,000千円 ② ×3年3月期、×4年3月期 (※2) ×3年3月期期首未償却残高:200,000千円-(40,000千円+40,000千円)=120,000千円 120,000千円÷残存耐用年数2年=60,000千円 〈会計処理の解説〉 1 ソフトウェアの計上 自社利用のソフトウェアを資産計上するに際しては、そのソフトウェアの利用により将来の収益獲得または費用削減が確実であると認められる必要があります(研究開発費等に係る会計基準四3)。 本事例の在庫管理システムの導入は、業務改善及び人件費の削減を目的としたものであり、将来の収益獲得または費用削減が確実であるため、ソフトウェアに計上することができます。 2 ソフトウェアの償却方法と耐用年数 自社利用のソフトウェアの償却は、企業の実態に応じて最も合理的と考えられる減価償却方法を採用すべきですが、一般的には定額法による償却が行われます(実務指針21項)。 また、償却期間はソフトウェアの利用可能期間によるべきですが、合理的な根拠がない限り、原則として5年以内の年数とします(実務指針21項)。 3 利用可能期間の見直と耐用年数の変更 利用可能期間については、適宜見直しを行います。利用可能期間の見直しの結果、新たに入手可能となった情報に基づいて当事業年度末において耐用年数を変更した場合には、以下の計算式により当事業年度及び翌事業年度の減価償却額を算定します(実務指針21項)。 各年度の減価償却費は以下のように計算されます。 【各年度の減価償却費】 なお、耐用年数の変更について、過去に設定した耐用年数がその時点の合理的な見積りに基づくものではなく、これを事後的に合理的な見積りに基づいたものに変更する場合には過去の誤謬の訂正に該当します(実務指針21項)。この場合には、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準に基づいて会計処理が行われることになります。 * * * 次回は、市場販売目的のソフトウェアの減価償却方法について解説します。 (了)
商業登記申請時の株主リスト添付義務化について 【第1回】 「改正内容と登記実務への影響」 司法書士法人F&Partners 司法書士 本橋 寛樹 【改正の概要】 平成28年4月20日「商業登記規則等の一部を改正する省令」(平成28年法務省令第32号)が公布された。施行日は平成28年10月1日となる。本改正により、登記すべき事項で株主総会の決議を要する場合、登記申請の際に、株主総会議事録に加え、主要株主のリスト(以下、「株主リスト」という)を法務局に提出することが義務づけられる。例えば、取締役の変更や定款変更に係る目的変更、商号変更登記手続で株主リストが求められることになる。 改正の背景の1つに、株式会社の主要株主等の情報を商業登記所に提出することにより、不実の株主総会議事録が作成されるなどして真実でない登記がされるのを防止することができ、登記の真実性の確保につながることが挙げられる。 【株主リストとは】 株主リストとは、 である(改正商業登記規則61条3項)(下線部、記号は筆者)。 上記条文中、(A)又は(B)それぞれの内容について詳しく見ていく。 (A)は、1人あたりの株主がそれぞれ有する議決権数が少ない場合、(B)は、全体からみて大多数を占める議決権を有する株主が存在する場合が想定される。 以下、事例に即する書式を示した。なお、今後法務省から書式例が公開される可能性がある旨を付記しておく。 【(A)証明書例】 議決権の割合が多い株主Aから順に加算しても、総株主の議決権に対する割合が3分の2に達しないが、株主数が10名に達したので、条文の要件を満たす。その他保有株式数1株の株主数35名が存在するが、株主リストに記載しなくても足りる。 【(B)証明書例】 議決権の割合が多い順の株主Aと株式会社Bの議決権数により、総株主の議決権数に対する割合が3分の2に達するため、条文の要件を満たす。その他保有株式数10株の株主Cが存在するが、株主リストに記載しなくても足りる。 【株主リスト作成のためには】 株主リストを作成するにあたっては、株主名簿で記載されている情報が基礎となる。 株主名簿には、原則として以下の事項を記載する必要がある(会社法121条)。 【株主名簿の記載例】 表中、アミカケの箇所は、株主名簿と(B)の株主リストの記載事項が重複するところである。株主リストの記載事項中、議決権数、総株主の議決権数に対するその保有株式の割合は、株主名簿の記載事項を参照して導くことができる。 したがって、株主リストの作成に株主名簿は欠かせない資料といえる。 【株主名簿を整備する必要性】 従来、登記手続の添付書面として株主名簿が求められるのは、株券を発行する旨の定めの廃止の登記において、株式の全部について株券を発行していないことを証する書面(商業登記法63条)として株主名簿を添付する場面等に限定されていた。また、株主に関する情報として、株主総会議事録に出席株主数や議決権数等を記載することがあるが、株主の具体的な住所、氏名まで求められることは通常なかった。すなわち、株主の具体的な情報を記載した株主名簿を外部に提出する機会がほとんどなかったといえる。 しかし、株主リストの提供に係る改正商業登記規則施行後においては、登記事項で株主総会決議を前提とする取締役や監査役の選任をはじめとして、定款変更を伴う本店移転、目的変更、商号変更等の登記手続において、株主の住所や氏名といった具体的な情報が記載されたものを提供しなければならない。特に役員の任期満了による改選は定期的に行う必要があるため、株主総会議事録とあわせて株主リストも定期的に作成することになる。 つまるところ、役員の任期管理に加え、株主変動の管理についてもより忠実に行わなければならないことを意味する。 株主名簿の整備が進んでいない会社においては、まず株主リストの提出を要する登記手続に備え、株主名簿の整備が急がれる。 株主名簿を整備することにより、登記手続に対応しやすくなるだけではなく、株主構成の把握による会社のリスクマネジメントにつながる。 * * * 次回(2016/7/21公開)は、株主名簿整備の方法と、会社のリスクマネジメントについて述べていく。 (了)
〔誤解しやすい〕 各種法人の法制度と 税務・会計上の留意点 【第7回】 「医療法人(前編)」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 公認会計士・税理士 濱田 康宏 ▷ 法制度について 1 医療法人とは 医療法人とは、医療法の規定に基づき設立された病院、診療所または介護老人保険施設の所有・運営を目的とする法人である。 医療法人は、その行う事業の公共性から、社員に対する剰余金の配当を目的としない非営利法人とされ、継続性・安定性も強く要求されており、設立、定款変更や解散等の重要事項にあたっては所轄庁(原則として主たる事務所の所在する都道府県知事)の認可が必要とされる(医療法44条1項・50条1項・55条6項)。 2 分類 医療法人は、社団であるか財団であるかでまず分類でき、社団にあっては持分の定めの有無により、分類することができる。 【医療法人の分類】 社団医療法人において持分の定めの有無とは、社員からの出資の有無を意味しており、持分の定めのない社団医療法人においては、社員からの出資の制度自体が存在しない。したがって資金の調達は、債務である基金の募集(医療法施行規則30条の37)や寄附等によってすることになる。 持分の定めのある社団医療法人においては、社員は出資をすることができる。この出資に応じた残余財産の分配を受けることができるのが、通常の「持分の定めのある社団医療法人」である。この法人は、定款において残余財産の分配額を出資した額に限定することもでき、そのような定めのある社団医療法人を「出資額限度法人」という。 医療法の改正により、持分の定めのある法人は、平成19年4月1日以降は設立することができない。 医療法人はその分類により、細かい異同があるが、本稿では実務上多数を占める「社団医療法人」を念頭に、解説するものとする。 3 設立手続 医療法人の設立手続の一般的な流れは、以下のとおりである。 医療法人は、登記によって成立する(医療法46条)。 4 機関 (1) 機関構成 医療法人は、①最高意思決定機関である社員総会と②3人以上の理事、③1人以上の監事が最低限必要な機関である(医療法46条の2)。 法令上の規定はないが、定款の定めにより、理事会を設置することができる。 理事および監事は、定款に定めた方法によって選任され(医療法44条2項6号)、その任期は、2年内の定款で定める期間をとされる(医療法46条の2第3項)。 (2) 構成員 医療法人の構成員は社員である。社員となる資格は自然人に限定され、医療法人や株式会社等の法人は、出資することはできるが、社員となることはできない。社員は社員総会において1人1個の議決権を有する(医療法48条の4第1項)。 なお、社員は財産の出資や拠出により社員となるのではなく、社員総会の承認により社員となる。よって、社員には出資を行った社員と行っていない社員が存在しうる。 (3) 業務執行および代表 医療法人の業務は、原則として理事の過半数の決定により、各理事が執行する(医療法46条の4第3項)。 医療法人を代表するのは、定款に定める方法によって理事の中から選定された理事長である(医療法46条の4第1項)。ただし、理事長は原則として医師または歯科医師である理事の中から選出しなければならない(医療法46条の3)。 5 第7次医療法改正 地域医療連携推進法人制度や医療法人のガバナンス強化を目的とした第7次医療法改正が、平成28年9月1日から順次施行される予定となっている。 理事会の設置、理事や監事の選任等の決議については、社員総会で行う旨の明記など所要の改正がなされており、担当する税理士としても、早めに要点を押さえておく必要がある。 ▷ 税務・会計について 1 株式会社との異同を確認する (1) 医療法人の出資は、株式会社の株式の出資とは、実は微妙に違う 医療法人は、以下に説明するように、何通りかに分かれる。そして、その種類によっては、株式会社と類似したものもあれば、全く異なる部分もある。 通称「出資持分あり」といわれるものは、社員が出資を行うことで、法人は出資金を受け入れすることから、株式会社に近い構造であり、会計・税務もそれを前提で処理可能であるため、以下でもそのように説明を行っている。 しかし、実は、医療法人の出資は、株式会社の場合と根本的に異なる部分がある。 株式会社の場合、株主というオーナーの地位と株主総会における構成員であるという議決権所有者の立場が、密接に結びついている。医療法人では、社員総会の構成員たる社員であっても出資は不要であり、逆に現在社員ではないが出資者であるという状態もあり得る。 さらに、議決権も、株式会社の資本多数決とは異なり、一人一議決権となる。頭数基準で決まるということであり、これらは多くの税理士が誤解しているようである。 (2) 定時総会の開催が2回ある 定款の定め次第ではあるが、医療法人には通常、定時総会が年2回ある。3月決算法人であれば、3月と5月との2回開催されるのが通常である。また、役員任期を事業年度と揃えている場合もあるので、注意が必要である。この点、役員報酬の改定時期の問題とも繋がってくる。 (3) 役員の就任・退任登記と都道府県への定期報告 理事長以外の理事・監事については、就任・退任の登記がない。登記では、理事長以外の役員が把握できない。ただし、登記を行わない役員も、都道府県への改選届出だけは必要になるので、失念しないようにする必要がある。 また、毎年決算終了後3月以内に都道府県に定期報告を行う必要があり、そこには要約財務諸表のみならず、役員の状況も開示されている。この定期報告は、一般に閲覧の対象とされているため、余事記載などには充分な注意が必要である。 (4) 総資産の額の登記 毎年決算終了後に、純資産の額を登記することが義務づけられており、登記終了後に都道府県へ登記事項証明書とともに報告することとされている。 2 医療法人固有の注意点を確認する (1) 医療法人の類型を意識して、処理の入り口を間違えない ① 法制レベルの違い 法制度の項で述べた通り、医療法人と一言で言っても、実は、基本3通りが存在する。株式会社のように、単に機関設計の違いを知っておけばよいわけではない。 【医療法における医療法人の類型分類】 まず、大きく分けて、医療法人は、人の集まりに法人格を付与された社団医療法人と財産の塊に法人格を付与された財団医療法人が存在している。財団医療法人は、財産の塊なので、そもそも出資持分の概念はないが、社団医療法人については、従前、出資持分の概念が認められていた。 ところが、平成19年施行の改正医療法施行時に、従来認められていた、通称「持分ありの医療法人」こと「出資持分の定めのある医療法人」は、新設が認められなくなっている。このため、現状では、従前から存在する出資持分ありの医療法人が大多数であるが、徐々に、新設法人の増加を通じて、出資持分の定めのない医療法人が増えつつある。 このため、関与先の医療法人が、どのような医療法人の類型に該当するかを見極めることが、会計・税務を考える上での基本になる。 出資持分のある医療法人は、株式会社の会計・税務と極めて近い処理が行われることになる。極論すれば、資本金勘定が出資金勘定になるだけと言ってもよい。 ただし、「会社」ではないことから、「同族会社」が前提となる留保金課税が行われないことや、法人税申告書で別表2が作成されない点などに違いを生じることになる。 これに対して、出資持分のない医療法人では、文字通り、出資持分が存在しないわけである。そのため、出資金に相当する勘定は存在しないことになる。 そして、出資持分のない医療法人は、へき地医療などの救急医療等確保事業その他の要件を充たしていると都道府県の認定を受けることで、社会医療法人に昇格することが可能である。この社会医療法人は、税制上は、公益法人としての優遇を受けることが可能になる。 ② 特定医療法人という類型は税制でのみ生じる 社会医療法人、つまり公益法人等にならない社団医療法人あるいは財団医療法人は、法人税法上では、普通法人となる。この場合に、救急医療など一定の要件を具備していると国税庁の承認を受けることで、特定医療法人(措法67の2)として、法人税率の優遇を受けることが可能になる。 この特定医療法人は、あくまでも、法人税法における類型であり、法制上は、社団医療法人あるいは財団医療法人に過ぎない。ただし、出資持分はなしであることが条件となっている。 また、社会医療法人も同様の仕組みがあるが、同族関係者の支配による利益供与が行われないような組織的な仕組み・運営及び報告を求めている。そのため、特定医療法人であり続けることは、いわば経営上の息苦しさと、それなりの事務運営コストを必要とする点は充分な認識が必要である。 (2) 医療法の規制と定款準拠の厳しさを認識する 医療法人は、株式会社と異なり、業務範囲が厳しく制限されている。このため、会計・税務上の処理について質問を受けた場合、前提として、「そもそも、それは医療法上許容される行為か」「許容される場合、当法人における定款ではどのような位置づけになるか」を確認することが、最も重要である。 (医療法人会計基準より) 株式会社と異なり、医療法人は、法律上許容され、定款で定められた業務範囲以外については、法人格として権利義務の帰属点になることができない。端的に言えば、業務範囲外の行為は、法律的には無効となってしまうのである。 このため、不動産賃貸などを迂闊に行うことには充分な注意が必要になる。 (上記「医療法人の業務範囲」より) もっとも、近年、遊休資産の賃貸については、厚労省が運営管理指導要綱を改正し(平成27年5月21日付医政局長通知)、一定条件の下での遊休資産賃貸を認めた。ただし、これはあくまでも例外扱いであるため、条件の確認に充分な注意が必要である。 例えば、最近増えた太陽光発電についても、全量売電は基本できないし、余剰売電も、規模によってはアウトとなる。この点は、事務連絡「医療法人における太陽光発電の取り扱いについて」(厚生労働省医政局指導課 平成25年1月10日)で示されている。 例えば、下記のサイトを参照されたい。 この業務範囲の区分は、決算書でも必要とされている。ただし、多くの医療法人は、本来業務を1つ行っているに過ぎないので、この区分が重要になるのは、病院の場合や附帯事業を行っている場合になる。とは言いつつつも、株式会社の感覚で、安易に本来業務以外に手を出さないよう、経営者には注意喚起が必要であろう。 また、この業務範囲の理解は、特に、社会医療法人の収益事業課税の範囲を考える際に重要となる。この点は、既に本誌に掲載された下記において取り扱っているため、そちらを参照されたい。 なお、医療法人の定款変更は、都道府県知事の認可がなければ有効とならない(医療法50条1項)。株式会社のように安易な変更は、事実上できないことも、実務上は重要なポイントである。 なお、下記の厚労省のホームページは、医療法人にとってのポータルサイトである。 定期的な確認をお勧めしたい。 (3) 各都道府県による指導監督の運営にかなり違いがある 医療法人の指導監督は、都道府県により、かなり差異があるのが普通である。例えば、使用人兼務役員賞与について、東京都では手引で禁止している。ところが、この点には、全く触れない県もある。また、顧問税理士が監事になることを禁じる県もあれば、むしろ推奨する県もある。税理士としては、気を付けておくべき点だろう。 * * * 次回も医療法人について、基金及び税務を中心に解説する。 (了)