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組織再編税制における不確定概念 【第6回】「意図的な含み損の実現」

組織再編税制における不確定概念 【第6回】 「意図的な含み損の実現」   公認会計士 佐藤 信祐   平成22年度税制改正によりグループ法人税制が導入され、完全支配関係のある内国法人間で資産を譲渡した場合には、譲渡損益が繰り延べられることになった。 そのため、完全支配関係のある内国法人間で含み損のある資産を譲渡することにより譲渡損失を実現する行為については、グループ法人税制の導入により制約を受けることになった。 しかしながら、グループ法人税制は、完全支配関係のある内国法人の間で資産を譲渡した場合にのみ適用されるため、それ以外の者に対する資産の譲渡については適用されない。 本稿では、グループ法人税制が導入された後における資産の含み損の実現について、租税回避行為として認定されるか否かについて解説を行う。   1 基本的な論点 資産の含み損を実現させる目的で、グループ会社に対して資産を譲渡することにより譲渡損失を認識する行為に対応するために、平成22年度税制改正により、グループ法人税制が導入され、完全支配関係のある内国法人間における資産の譲渡については譲渡損益が繰り延べられることになり(法法61の13①)、非適格組織再編成に伴う資産の譲渡についても同様に譲渡損益が繰り延べられることになった。 さらに、完全支配関係のある内国法人間における非適格株式交換や非適格株式移転についても、時価評価課税の対象から除外されることになった(法法62の9)。 そのため、現行法上、含み損を実現させるためだけの資産の譲渡や組織再編成については一定の制約が設けられているものの、50%超100%未満グループ内における内国法人間の資産の譲渡、支配関係又は完全支配関係のある外国法人に対する資産の譲渡、自然人に対する資産の譲渡については、グループ法人税制の対象外となっていることから、資産の含み損を実現させるためだけの資産の譲渡が行われる可能性は否めない。 そのため、そもそも資産の含み損を実現させるためだけの行為について、税務上、租税回避行為に該当するのか否かという点が問題となり得る。 まず、考えられる否認手法としては、形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとして否認する手法が考えられる。具体的には、形式的には資産が移転しているように見えるが、実際には、資産が移転していないとして否認する手法である。 さらに、考えられる手法としては、同族会社等の行為計算の否認により否認する手法である。   2 一般的な否認手法 (1) 形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとして否認する手法 まず、課税当局が否認をするとしたら、形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとして否認をすることになると考えられる。 すなわち、実質主義や私法上の法律構成による否認論を利用した否認である。 しかしながら、金子宏教授がその著書で解説したように、「納税者が行ったと主張する、税負担の免除・軽減をもたらす私法上の行為ないし取引が、私法上の真実の法律関係に合致しているように見える場合であっても、疑問のある場合には私法上の真実の法律関係に立ち入って、その行為が本当に行われたか否か、行われなかったとした場合に真実にはどのような行為が行われたのかを認定しなければならないことはいうまでもない。たとえば、税負担を軽減すると目される行為や取引が仮装行為であって、真実には存在しないと認定される場合には、それに即した法的効果は生じず、したがって税負担の免除ないし軽減の効果も生じない。したがって、この場合には法現象として租税回避の否認と同じ結果が生ずるが、法理論上は、これは私法上の真実の法律関係に即した課税であって、租税回避の否認ではない。ただし、何が私法上の真実の法律関係であるかの認定は、取引当事者の効果意思に即して、きわめて慎重に行われるべきであって、「私法上の法律構成」の名のもとに、仮にも真実の法律関係から離れて、法律関係を構成しなおすことは許されない」(金子宏著『租税法(第17版)』弘文堂、125頁)という点に留意が必要である。 すなわち、登記上だけ資産が移転しており、実際には資産が移転していないのであれば、形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとして否認することは可能であろうが、真実の事実関係として、資産が移転しているのであれば、たとえ、法人税の負担を減少させる目的で行われた取引であっても、実質主義や私法上の法律構成による否認論により否認することはできない。 したがって、税務調査においても、譲渡価額の妥当性については議論になりやすいものの、租税回避行為として否認するという議論は生じにくい。 この点については、会計上、「関係会社間の取引に係る土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い(監査委員会報告第27号)」において、譲渡益の計上が認められるか否かについては、以下の点を総合的に判断すべきであることが明らかにされているため、法人税法上の判断も、これを満たしていれば、形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとして否認を受けることがないと考えることが多い。 (2) 同族会社等の行為計算の否認の検討 形式的な事実関係と真実の事実関係が異なるものとして否認することが困難である場合には、法人税法132条に規定する同族会社等の行為計算の否認が課されるリスクがどのくらいあるのかを検討することになる。 すなわち、経済合理性が認められない資産の譲渡については、経済人として不合理不自然であることから、譲渡損の計上を認めるべきではないという否認がなされるか否かという点である。 しかしながら、形式的な事実関係だけでなく、真実の事実関係においても、資産が移転しているという状態であるにもかかわらず、資産が移転していなかったものとして否認することは可能であろうか。 同族会社等の行為計算の否認については、納税者の法律行為を引き直す(私法上、真正に成立している法律関係を別のものに組み替えた上で、租税法を適用する)効果があるとはいえ、資産が移転しているという事実関係を否定するのであれば、将来において、どのような事実関係が積み重ねられれば資産の移転が行われたものとみなすことができるのか(すなわち、認容減算することができるのか)については、資産を譲り受けた法人が転売した時点と言わざるを得ない。 同族会社等の行為計算の否認が設けられた当初においては、会計制度が未発達であり、かつ、法人税法に係る条文が未整備だったこともあり、そのような否認も考えられたであろうが、現在においては、法人税法に係る裁決事例、判例が積み重ねられてきていることから、それと比較したとしても、このようなケースについてまで経済人として不合理不自然な行為であるとして否認を行うことは難しいと考えられる。 そのため、実務上は、「関係会社間の取引に係る土地・設備等の売却益の計上についての監査上の取扱い」による判断に委ねざるを得なくなるのではないかと考えられる。   3 100%外しに対する否認手法 グループ法人税制は、完全支配関係のある内国法人間における資産の譲渡のみに対して適用されるものであることから、譲渡法人又は譲受法人の発行済株式の一部をグループ外の者に取得させることにより、完全支配関係を外した上で、資産を譲渡するという手法が考えられ、従業員持株会などはその場合に有効に機能すると考えられる。 しかしながら、名義株と認定されてしまった場合には、実際の所有者により判定を行うことになり、結果として否認を受けてしまう可能性があるという点に留意が必要である(法基通1-3の2-1)。 (了)

#No. 15(掲載号)
#佐藤 信祐
2013/04/18

税務判例を読むための税法の学び方【8】 〔第4章〕条文を読むためのコツ(その1)

税務判例を読むための税法の学び方【8】 〔第4章〕条文を読むためのコツ (その1)   自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘   行政法規においては、必要な要件は、法文上において、可能な限り、詳細にかつ明確に定めようとする傾向がある。特に国民の権利義務に関係の深い法令にあっては、複数の解釈が生じる余地が多かったり、官庁の恣意的裁量に大きく依存したりするようでは、基本的人権を保障した憲法の要請にもとることになるため、規定は詳細になりがちである。 特に租税法においては、租税法律主義の要請から、原則、課税要件等は法律で定める必要があり、またできるだけ抽象的で曖昧な規定を避け、具体的に詳細に規定する必要があるため、複雑で長文になり、その結果、一読しただけでは、なかなかその意味が分かり難いということになっている。 というのも、複雑多岐にわたる事象に対し様々な場合を想定した上で、それらに適応しうるように規定しなければならず、また、濫用・悪用を防ぐために、詳細な条件等を規定しなければならないからである。 これらの長く複雑な条文を読むには、どうすれば良いであろうか。 そこでこの章では、この長く複雑な条文を読み、理解するための「コツ」について解説する。   1 まず法令の全体像を把握する 初めて読む法令において、条文1つだけを読んで正確に理解することは難しい。 「森」全体を知ってから「木」を見ることにより、該当する条文が法令全体の中でどのような位置にあるのかが分かり、その結果、その条文が何を規定しようとしているのか、どういう方向で規定しようとしているのかといった条文解釈の前提知識を得ることができる。 だが、条文のすべてを最初から最後まで読むことはとても難しいであろう。そのような場合には、「目次」や「条文見出し」を活用して、法令の全体像を把握するのが良い。 近年の立法では、法令の内容ごとに「編」「章」「款」「目」と段階的に分類されているため、この目次を見ることによりその法令全体の大まかな内容等が確認できる。また読もうとしている条文が、法令全体の中でどのような位置にあるのか把握することができる。 「条文見出し」とは、各条文の右肩(本来は縦書であるが、総務省法令データベースのように横書になっている場合には各条文の直前の行)に括弧書で書かれた条文の内容を簡潔に表したものである。 しかし残念なことに、すべての条文にこの条文見出しがあるわけではない。近年の立法では通常、この条文見出しが付けられているが、古い立法のものは付けられていない。例えば国税犯則取締法は、明治33年に制定されたものであるため、この条文見出しが付けられていない(それどころか目次もなく、条文もカタカナ表記のままである)。 また、例えば法人税法第4条や第159条以下のように、一部の条文にこれが付されていない場合もある。ただし通常こういった場合は、その条文を含む章や節、款等に含まれている条文数が多くないため、章名や節名、款名等が条文見出しの役割を担っている。例に挙げた法人税法第4条は、法人税法の第2章にある条文であるが、この第2章にはこの第4条しかないため、第2章の章名「納税義務者」が条文見出しの役割を担っている。 なお、法令の最後に附則がおかれている場合があるが、これを軽視してはならない。これは付録的なものとして軽視されがちであるが、附則には施行期日に関する規定の他、法令の有効期限や、新旧法の適用関係、その他の関係法令の廃止又は一部改正、そして経過措置などが置かれており、読もうとしている条文に関係する場合もあるからである。   2 定義規定を確認する 本誌No.3に掲載した「第2章法令の解釈方法」の「3 法規的解釈」の「① 定義規定」において、「法規的解釈の典型は、定義規定である。税法では、各税法とも第2条において相当多くの用語の定義を定めている。」と記した(税法以外でも近年の立法では、第2条に定義規定がおかれている例が多い)が、まずこの読もうとしている条文の中に、定義規定により定義付けされている語句がないか確認し、ある場合には、その定義を確認する必要がある。 なお、ここまでは、どのような条文を読む場合でも必要な事項を書いたが、以下に長く複雑な条文を読む場合のコツを書いていく。   3 条文の主要素を確認する どのような法令においても、一条項は一文で完結することを原則としている。 2つの文がある場合には、主文の他に、「但し書」や「後段」等が付け加わったものに過ぎない。したがってどんなに複雑な条文も、結局は、主語と述語に目的語や条件句、修飾句、定義や例外を示した括弧書、但し書、後段などが付け加わったものに過ぎない。 「但し書」は、「ただし、・・・したときは、この限りでない」などと本文の効果を一部打ち消す場合などに用いられる。 「後段」は、「この場合において、・・・ものとする」などと前段の規定の趣旨を補足的・付加的に説明する場合などに用いられる。しかし補足的・付加的な説明だけではなく、課税要件に関する場合もある点は注意を要する。 例えば法人税法第23条の2は、外国子会社から受ける配当等の益金不算入に関する規定であるが、その第3項に「第1項の規定は、確定申告書、修正申告書又は更正請求書に益金の額に算入されない剰余金の配当等の額及びその計算に関する明細を記載した書類の添付があり、かつ、財務省令で定める書類を保存している場合に限り、適用する。この場合において、同項の規定により益金の額に算入されない金額は、当該金額として記載された金額を限度とする。」と後段において、益金不算入となる金額の上限を規定している。 とはいえ、まずは但し書や後段、条件等の従文や括弧書を除いた主文の主要素を見極めることが肝要である。 次回以降では、この主文の主要素を見極める方法について確認していく。 (了)

#No. 15(掲載号)
#長島 弘
2013/04/18

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載15〕 事業承継税制と認定(贈与)承継会社の合併

〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載15〕 事業承継税制と 認定(贈与)承継会社の合併   税理士 内藤 忠大   事業承継税制(措法70の7から70の7の4)は、会社の経営権を委譲するために、現経営者から後継者へ非上場株式を移転したときに課税される贈与税・相続税の納税を猶予する制度である。 事業承継の円滑化に資すること、事業の継続・発展を通じた雇用の確保と地域経済の活力を維持することという政策目的を達成するため、制度適用時以後、納税が免除されるまで、多くの要件が定められている。一つでも要件を満たさなければ納税猶予の期限が確定、つまり納税猶予は打ち切られ、猶予中贈与税額・猶予中相続税額を納税することになる。 認定(贈与)承継会社が消滅することは納税猶予の打切り事由であるが、これには合併による消滅も含まれる。合併により納税猶予が打ち切られれば、認定(贈与)承継会社は合併を躊躇することにもなり、結果的に雇用確保や地域経済の活力維持という目的も達成できなくなることもありえる。 そこで、合併後も経営承継受贈者・経営承継相続人等が合併法人の株主として合併法人の経営に従事している場合には、認定(贈与)承継会社は経営を継続していると考えることもできるため、合併法人が合併効力発生日において一定の要件に該当することについての経済産業大臣の確認を受けたときは、その合併効力発生日に特別贈与認定中小企業者又は特別相続認定中小企業者の地位の承継(認定の承継)をしたものとみなされ(円滑化規10(1)ただし書、(2)ただし書)、「認定の承継」がされた場合は、税務上も納税猶予を継続させる制度設計になっている。 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下「円滑化法」)における「認定の承継」を受けるためには、合併対価は合併法人株式のみであることが必要である。 例外は、剰余金の配当等として交付される金銭その他の資産及び経営承継受贈者・経営承継相続人等以外の株主であって合併に反対するものに対するその買取請求に基づく対価として交付される金銭その他の資産だけである(円滑化規10(1)二、(2)二)。いわゆる端株の売却代金の交付金も、剰余金の配当等として交付される金銭に含まれる(「中小企業経営承継円滑化法申請マニュアル(平成25年4月改訂)」P170)。 本稿は、認定(贈与)承継会社が合併により消滅した場合の事業承継税制の取扱いを確認する。税制の取扱いは、合併対価の種類等と合併が経営(贈与)承継期間内かどうかにより異なることとなる。   (1) 合併対価が株式のみの場合 経営承継受贈者・経営承継相続人等が受ける合併対価が合併法人株式のみである場合(端株に対する交付金がある場合は(3)参照)は、納税猶予は継続される(措法70の7(4)十三、(6)三、70の7の2(3)十三、(5)三)。 ただし、合併が経営(贈与)承継期間内の場合で、合併法人において経済産業大臣の認定を受けていないときは、贈与・相続時に満たす必要がある認定(贈与)承継会社に該当する要件を、合併効力発生日を基準日として満たす必要がある(措法70の7(2)一、70の7の2(2)一、措規23の9(18)、23の10(17))。 合併後は、経営(贈与)承継期間内の継続要件、その後の継続要件、納税猶予期限の確定や猶予税額の免除の取扱いは、基本的に合併をしていない認定(贈与)承継会社と同じである。 合併独特の取扱いとしては、経営(贈与)承継期間内の雇用継続要件(8割雇用)の判定となる分母の数は、贈与・相続時の合併法人と被合併法人の常時使用従業員の数の合計になることである(措法70の7(4)柱書、70の7の2(3)柱書、措規23の9(9)、23の10(10)、23の9(16)、23の10(15))。   (2) 合併対価が金銭等のみの場合 経営承継受贈者・経営承継相続人等が受ける合併対価が合併法人株式以外の金銭その他の資産(金銭等)のみである場合は、納税猶予は打ち切られ、猶予中贈与税額・猶予中相続税額は全額納税しなければならない(措法70の7(4)十三、(6)三、70の7の2(3)十三、(5)三)。 ただし、合併が経営(贈与)承継期間後であり、合併法人が経営承継受贈者・経営承継相続人等の支配法人(議決権50%超)でなければ、経営承継受贈者・経営承継相続人等の申請により、次の算式で計算した贈与税・相続税の免除申請ができる。つまり、免除申請できるのは、享受利益額が猶予中贈与税額・猶予中相続税額に満たない場合に限られ、享受利益額相当額の猶予税額は納税することになる(措法70の7(17)三、70の7の2(17)三、措令40の8(21)(28)、40の8の2(26)(45))。   (3) 合併対価が株式と金銭等の場合 経営承継受贈者・経営承継相続人等が受ける合併対価が合併法人株式と金銭等の両方である場合は、金銭等が①端株に対して交付されるものと、②それ以外の事由によるものとによって取扱いが異なる。 ① 端株に対して交付される金銭等の場合 この場合は、金銭等に相当する猶予中贈与税額・猶予中相続税額については納税猶予が打ち切られるが、それ以外の猶予中贈与税額・猶予中相続税額の納税猶予は継続される(措法70の7(5)、(6)三、70の7の2(4)、(5)三)。 いわゆる端株に対して交付される金銭等については、法人税法における適格判定では交付金銭等はないものとして適格判定が行われる(法基通1-4-2)が、納税猶予の期限確定の適用については、端株に対する金銭等部分については納税猶予の打切り対象になる。 納税猶予が打ち切られる猶予中贈与税額・猶予中相続税額は、次の算式により計算する(措令40の8(28)、40の8の2(32)、措通70の7-29、70の7の2-30)。 ※合併効力発生日の属する年の前年12月31日における認定(贈与)承継会社の資産の額から負債の額を控除した残額(措令40の8(17)一ロ、(18)、40の8の2(22)一ロ、(23))。   この計算は、割合計算(分数部分)は会社全体で行う。仮に経営承継受贈者・経営承継相続人等の金銭等が1円であっても他の株主の金銭等が1,000であれば分子は1,001になり、経営承継受贈者・経営承継相続人等は相対的に大きな金額が納税猶予の打切りとなる。 なお、合併法人の「認定の承継」、経営(贈与)承継期間内の継続要件及びその後の継続要件の適用については、(1)と同様である。 ② ①以外の事由による金銭等の場合 この場合は、合併が経営(贈与)承継期間内かどうかにかかわらず、納税猶予は全部打ち切られる。また、経営(贈与)承継期間後であっても、合併法人株式を取得しているため、免除申請はできない(措法70の7(17)三、措法70の7の2(17)三)。   (4) 無対価合併の場合 経営承継受贈者・経営承継相続人等が受ける合併対価がない合併というのは、認定(贈与)承継会社が債務超過状態にあるときの救済合併が考えられる。 合併が経営(贈与)承継期間内の場合は、認定(贈与)承継会社に相当する合併法人株式を取得していないので、猶予中贈与税額・猶予中相続税額の全額の納税猶予が打ち切られる(措法70の7(6)三、(17)三、70の7の2(5)三、(17)三)。ただし、経営(贈与)承継期間後の合併で、合併法人が経営承継受贈者・経営承継相続人等の支配法人(議決権50%超)でなければ上記(2)準じて免除申請ができる。 経営承継受贈者・経営承継相続人等が100%株主である会社同士(兄弟会社)の合併も無対価合併が可能である(法令4の3(2))が、この場合も猶予中贈与税額・猶予中相続税額の全額の納税猶予が打ち切られる。また、経営(贈与)承継期間後の合併であっても、合併法人の株主が経営承継受贈者・経営承継相続人等であるため、免除申請はできない(措法70の7(17)三、70の7の2(17)三)。 この兄弟会社の合併は、無対価合併でなければ猶予が継続できるので、無対価合併を選択してはいけない。   (5) 三角合併の場合 三角合併は、合併対価に合併法人の親法人株式が使われる場合の合併である。合併法人の親会社株式は合併法人の株式には該当しないため、金銭等と扱われる。 したがって、たとえ法人税法上の適格三角合併であったとしても事業承継税制では(2)に該当し、猶予中贈与税額・猶予中相続税額は納税猶予が打切りになる。   (6) 認定(贈与)承継会社が合併法人となった場合等 認定(贈与)承継会社を合併法人とする合併があった場合は、合併後の事実に基づき事業継続要件等を使って、納税猶予の打切りや免除の規定が適用される。雇用継続要件は認定(贈与)承継会社の贈与・相続時の常時使用従業員を基準に判定するため雇用継続要件は満たしやすくなるが、経営承継受贈者・経営承継相続人等のグループ50%超要件やグループ内筆頭株主要件には注意が必要になる。 また、認定(贈与)承継会社同士が合併した場合には、経営承継受贈者・経営承継相続人等が同一人であれば、他要件を満たすことによって納税猶予が継続される。同一人でない場合、それぞれの者が納税猶予の要件を同時に満たすことは希であろうが、仮に満たしていたとすれば、同一会社につき1人しか納税猶予は受けられないので、どちらかは納税猶予が打ち切られることになる。   (7) まとめ 以上の(1)から(5)までの取扱いをまとめると、次表のようになる。 なお、(1)から(6)の取扱いは、経営相続承継受贈者についても準用される。 会社を合併させるときは、法人税の適格合併となるように、合併対価は合併法人株式とすることが一般的であろう。これは、被合併法人が認定(贈与)承継会社である場合についても必須事項である。さらに、端株に対する金銭等に対する猶予税額については納税猶予が打ち切られること、また、合併法人において厳しい継続要件を満たさないと納税猶予が打ち切られることを念頭において合併を実行する必要がある。 (了)

#No. 15(掲載号)
#内藤 忠大
2013/04/18

監査基準の改訂・不正リスク対応基準の設定について~平成25年3月26日付 “意見書”のポイント~

監査基準の改訂・ 不正リスク対応基準の設定について ~平成25年3月26日付 “意見書”のポイント~   公認会計士 阿部 光成   平成25年3月26日、企業会計審議会は「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」(以下「意見書」という)を公表した。これにより、平成24年12月21日に、公開草案を公表し、意見募集を行っていたものが確定したことになる。 公開草案では、「監査における不正リスク対応基準(仮称)の設定及び監査基準の改訂について(公開草案)」の表題であったが、意見書では「監査基準の改訂及び監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」の表題となり、「監査基準の改訂に関する意見書」と「監査における不正リスク対応基準の設定に関する意見書」(以下、「監査における不正リスク対応基準」を含め、「不正リスク対応基準」という)から構成されている。 本稿では、意見書の主なポイントについて解説を行う。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅰ 不正リスク対応基準の考え方 不正リスク対応基準は、次の基本的な考え方に基づいている。 ④に関して、公開草案では「正当な注意を払って監査を行った場合には、基本的には、監査人は責任を問われることはない」とされていた。 これについて、「基本的には」が記載されていると正当な注意を払ってもなお責任を問われることを想定しているように読めるという公開草案へのコメントに対応し、また、最終的に監査人の責任かどうかについては裁判所で判断される事項と考えられることから、上記のように修正されている。   Ⅱ 不正リスク対応基準の適用対象 不正リスク対応基準は、すべての監査において実施されるのではなく、主として、財務諸表及び監査報告について広範囲な利用者が存在する金融商品取引法に基づいて開示を行っている企業(非上場企業のうち資本金5億円未満又は売上高10 億円未満かつ負債総額200 億円未満の企業は除く)に対する監査において実施することを念頭においている。 具体的な適用対象は、関係法令において明確化されることが予定されている。   Ⅲ 不正リスク対応基準と中間監査及び四半期レビューとの関係 不正リスク対応基準は、年度監査のみではなく、基準上不正に関する実証手続が定められている中間監査にも準用される。 四半期レビューについては、年度監査と同様の合理的保証を得ることを目的としているものではないことから、不正リスク対応基準は四半期レビューには適用されない。 なお、四半期レビューの過程において、四半期財務諸表に不正リスク対応基準に規定している不正による重要な虚偽の表示の疑義に相当するものがあると判断した場合など、四半期財務諸表に重要な点において適正に表示していない事項が存在する可能性が高い場合には、監査人は、四半期レビュー基準に従って、追加的手続を実施することになる。   Ⅳ 不正リスク対応基準の主な内容 1 職業的懐疑心の強調 監査基準では「職業的懐疑心の保持」が規定されている。 本来、この職業的懐疑心の保持は、正当な注意義務に含まれるものであり、監査人が職業的懐疑心を常に保持して監査を行うことこそが重要な虚偽の表示の指摘につながることを特に強調するために、監査基準では、正当な注意と共に列記されていると述べられている。 意見書の前文では職業的懐疑心が特に重要であると述べられており、不正リスク対応基準では「職業的懐疑心の強調」を冒頭に掲記し、次の3つを述べている。 上記のように、職業的懐疑心については、「保持・発揮・高めること」について規定している。 職業的懐疑心の保持や発揮が適切であったか否かは、具体的な状況において監査人の行った監査手続の内容で判断されるものと考えられており、監査人は不正リスク対応基準に基づいて監査の各段階で必要とされる職業的懐疑心を保持又は発揮し、具体的な監査手続を実施することが求められている。 このため、職業的懐疑心の程度が示されるように、監査人は行った監査手続を明確にする必要があると考えられる。 2 不正リスクに対応した監査の実施 監査の各段階における不正リスクに対応した監査手続等を規定している。 公開草案の前文では、抜打ちの監査手続の実施が述べられていた。 意見書では、予告なしに往査することなど、企業が想定しない要素を監査計画に組み込むことと記載している。これは、監査基準等において使用されていない用語であって、その内容が明確ではないという批判があったためである。 また、監査人が、不正リスクに対応する監査手続として、照会事項の内容の正否にかかわらず回答を求める積極的確認を実施する場合には、回答がない又は回答が不十分なときには、代替的な手続により十分かつ適切な監査証拠を入手できるか否か慎重に判断しなければならないことを明確にしている。 特に、不正リスクが存在する場合の確認状に回答が得られない又は回答が不十分な場合には(例えば、担保差入その他引出制限のある資産の状況等)、すべての記載事項についての回答を入手できるよう留意し、代替的な手続に移行する場合には慎重に判断する必要があると述べられている。 公開草案では、「安易に代替的な手続に移行してはならない」と述べられていたが、どのような状況を指しているのかが明確でないというコメントに対応したものである。 3 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況 監査実施の過程において、不正リスク対応基準の付録2に例示されているような「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況」を識別した場合には、「不正による重要な虚偽の表示の疑義」が存在していないかどうかを判断するために、適切な階層の経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならないこととしている。 付録2に例示されている状況は、現行の監査基準に基づく現在の実務においても、監査人としては、重要な虚偽の表示の可能性が高いものとして、特に注意すべき状況を念頭に記載されている。 付録2は例示であり、監査実施の過程においてそのような状況に遭遇した場合に、「不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況」として追加的な監査手続を求めているものである。 したがって、付録2に記載されている状況の有無について網羅的に監査証拠をもって確かめなければならないということではなく、必ずしも付録2をチェック・リストとして取り扱うことを意図したものではないと述べられているので、注意が必要であると思われる。 (次ページへ続く) 4 不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合の監査手続 不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況について、関連して入手した監査証拠に基づいて経営者の説明に合理性がないと判断した場合や、識別した不正リスクに対応して追加的な監査手続を実施してもなお十分かつ適切な監査証拠を入手できない場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑いがより強くなると述べられている。 このため、不正リスク対応基準は、上記について不正による重要な虚偽の表示の疑義として扱わなければならないものとしている。 5 不正リスクに関連する審査 不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合には、監査事務所として適切な監査意見を形成するため、審査についてもより慎重な対応が求められている。そして、監査事務所の方針と手続に従って、適切な審査の担当者による審査が完了するまでは意見の表明ができないことが述べられている。 6 監査役等との連携 監査人は、監査の各段階において、監査役等との連携を図らなければならないことについて述べられている。 これは、不正による重要な虚偽の表示の疑義があると判断した場合や経営者の関与が疑われる不正を発見した場合には、取締役の職務の執行を監査する監査役や監査委員会と連携を図ることが有効であると考えられているためである。 また、意見書の「一経緯 1審議の背景」では、不正に関しては、財務諸表作成者である経営者に責任があると述べ、監査人は、企業における内部統制の取組みを考慮するとともに、取締役の職務の執行を監査する監査役等と適切に連携を図っていくことが重要であると述べられている。 不正リスク対応基準では、監査人は、監査実施の過程において、不正による重要な虚偽の表示を示唆する状況を識別した場合には、不正による重要な虚偽の表示の疑義が存在していないかどうかを判断するために、経営者に質問し説明を求めるとともに、追加的な監査手続を実施しなければならないとしている。   Ⅴ 不正リスクに対応した監査事務所の品質管理 不正リスク対応基準は、監査実施の各段階における不正リスクに対応した監査手続を実施するための監査事務所としての品質管理を規定している。これは、現在各監査事務所で行っている品質管理のシステムに加えて、新たな品質管理のシステムの導入を求めているものではなく、監査事務所が整備すべき品質管理のシステムにおいて、不正リスクに対応する観点から特に留意すべき点を明記したものである。 1 監査事務所間の引継ぎ 監査事務所交代時において、前任監査事務所は、後任の監査事務所に対して、不正リスクへの対応状況を含め、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項を伝達するとともに、後任監査事務所から要請のあったそれらに関連する監査調書の閲覧に応じるように、引継ぎに関する方針と手続に定めなければならない。 後任監査事務所は、前任監査事務所に対して、監査事務所の交代理由のほか、不正リスクへの対応状況、企業との間の重要な意見の相違等の監査上の重要な事項について質問するように、引継ぎに関する方針及び手続に定めなければならない。 2 監査実施の責任者間の引継ぎ 監査事務所内において、同一の企業の監査業務を担当する監査実施の責任者が全員交代する場合(監査実施の責任者が1人である場合の交代を含む)は、監査上の重要な事項が適切に伝達されなければならない。   Ⅵ 監査基準の改訂 監査基準について、次の事項を改訂している。   Ⅶ その他の公開草案からの主な修正事項 1 監査契約の新規の締結及び更新 監査契約の新規の締結及び更新に関する方針及び手続に、不正リスクを考慮して監査契約の締結及び更新に伴うリスクを評価することを含めるとともに、監査契約の新規の締結及び更新の判断に際して(更新時はリスクの程度に応じ)、監査事務所としての検討を求めている。 更新の際の判断については、「更新時はリスクの程度に応じ」と、カッコ書が追加されている。 2 経済合理性から事業上の合理性への変更 公開草案では、「監査の過程で発見した経済合理性等に疑問を抱かせる特異な取引」などのように経済合理性の用語が用いられていた。 意見書では、事業上の合理性の用語が用いられている。 これは用語の統一を行うこと、事業上の合理性の用語のほうが、経済合理性よりもやや広い範囲をカバーする用語と考えられることから、変更を行ったものと考えられる。   Ⅷ 実施時期等 1 監査基準の改訂 改訂監査基準は、平成26年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。 2 不正リスク対応基準 (了)

#No. 15(掲載号)
#阿部 光成
2013/04/18

経理担当者のためのベーシック会計Q&A 【第3回】金融商品会計③「割引手形の会計処理」―割引料を売買損益として捉えるか、金利として捉えるか

経理担当者のための ベーシック会計Q&A 【第3回】 金融商品会計③ 「割引手形の会計処理」 ─割引料を売買損益として捉えるか、金利として捉えるか   仰星監査法人 公認会計士 石川 理一   〈事例による解説〉 平成25年4月1日にA社振出の手形10,000(支払日:平成25年9月30日)を、割引料500を差し引かれた9,500で割り引いた。 〈会計処理〉 〈会計処理の解説〉 手形割引は、手形の所持人が銀行等に手形を譲渡し、その対価として譲渡の日以後満期に至るまでの金利相当額を差し引いた金額を受け取る取引ですが、銀行取引約定書のひな型には、法的には手形の売買取引であることが明示されています。このため、手形割引料については手形売却損として捉えられることになります。 金融商品会計実務指針136項によると、手形割引の際には、割引時点における保証債務(手形遡及義務)を評価して認識することになります。割引した手形に不渡りが発生すると、振出人に代わって支払う義務が生じるためです。これは、金融商品会計基準がとる財務構成要素アプローチという考え方に基づいた処理です。 手形割引については、受取手形の額面金額を受け取る権利の譲渡と保証債務の発生という2つの要素に分けて会計処理します。 今回の事例で二次的責任である保証債務が150と評価されたとすると、手形の売却の会計処理に加えて、以下の会計処理が必要になります。   (借)保証債務費用     150 / (貸)保証債務    150      (又は手形売却損) (了) ※5月は退職給付会計を取り上げます。

#No. 15(掲載号)
#石川 理一
2013/04/18

会社が取り組む社員の健康管理【第7回】「過重労働に伴う健康障害の防止」

会社が取り組む 社員の健康管理 【第7回】 「過重労働に伴う健康障害の防止」   社会保険労務士 佐藤 信   1 はじめに 長時間にわたる過重な労働は、疲労の蓄積をもたらす最も重要な要因と考えられている。 労働者が疲労を回復することができないような長時間にわたる過重労働を排除していくとともに、労働者に疲労の蓄積を生じさせないようにするため、時間外・休日労働時間の削減、年次有給休暇の取得促進等のほか、事業場における健康管理体制の整備や健康診断の実施等、労働者の健康管理に係る措置の徹底が重要である。 今回は、過重労働による健康障害の防止措置について触れていくこととする。   2 長時間労働に基づく健康障害 くも膜下出血などの「脳血管疾患」や、心筋梗塞などの「心臓疾患」は、過重な仕事が原因で発症する場合があり、それに基づく死亡は「過労死」とも呼ばれる。 働き方の多様化が進む中で、長時間労働に伴う健康障害の増加など労働者の生命や生活に関わる問題が深刻化し、これに的確に対処するため、必要な施策を整備充実する労働安全衛生法等の改正(平成18年:長時間労働者への医師による面接指導の実施など)が行われた。 ところが、その後においても脳・心臓疾患の労災補償状況(【参考】を参照)をみると改善には至っておらず、むしろ直近の公表値では、労災補償の請求件数・支給決定件数とも前年より増加となっている現状である。 このようなことから、よりいっそう過重労働による健康障害の防止措置に取り組んでいく必要があるといえる。   3 業務上災害の認定基準 長時間労働による健康問題のうち、致命的なものには脳・心臓疾患があり、労働災害として取り扱われている。 2001(平成13)年に公表された脳・心臓疾患の労災認定基準では、業務の過重性を評価する具体的な負荷要因(労働時間、交替制勤務・深夜勤務、精神的緊張を伴う業務など7つの項目)が示され、長期間の過重業務の負荷要因としては、労働時間が最も重要であると判断された。 時間外労働時間と脳・心臓疾患の発症との関連を評価する目安は次のとおりである。 詳細については、【参考】の資料を参照していただきたい。   4 労働時間管理・働き方の改善 過重労働による労働者の健康障害を防止するために事業者が講ずべき措置には、次のようなものがある。 (1) 時間外・休日労働時間の削減 前述のとおり、時間外・休日労働時間が「月45時間」を超えて長くなるほど、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強まるとされていることを踏まえ、毎月の勤怠記録から45時間を超えることのある部門・労働者の業務内容や業務量、作業方法などの見直しを行う。 なお、仕事の具体的な進め方や時間配分を従業員に委ねる裁量労働制の対象労働者や、労働基準法において労働時間の計算の適用除外とされる管理・監督者についても、健康確保の必要があることに十分留意し、当該労働者に対し、過重労働とならないよう十分な注意喚起を行うなどの措置を講ずるよう努めていきたい。 (2) 年次有給休暇の取得 年次有給休暇を取得しやすい職場環境作り(例:グループ内に設けた休暇予定表に1~数ヶ月先の各自の休暇希望日の印を付けさせ作業の調整をしやすくする、上司が率先して休暇を取得しグループ全体の取得率を上げていく等)、計画的付与制度の活用等により年次有給休暇の取得促進を図る。 (3) 健康診断・健康管理体制の整備 これまで触れてきた健康診断と事後措置(第2回、第3回)、健康保持増進措置(第4回、第5回)の実施にあたっては、長時間労働者の健康管理や過重労働の防止にも配慮しながら進める。 (4) 過重労働による業務上疾病発生時の措置 過重労働による業務上の疾病を発生させた場合には、産業医等の助言を受け、原因の究明及び再発防止の徹底を図る。 ① 原因の究明 労働時間の適正管理、労働時間及び勤務の不規則性、拘束時間の状況、出張業務の状況、交替制勤務・深夜勤務の状況、作業環境の状況、精神的緊張を伴う勤務の状況、健康診断及び面接指導等の結果等について、多角的に原因の究明を行う。 ② 再発防止 上記①の結果に基づき、衛生委員会等の調査審議を踏まえ、再発防止対策を樹立し、対策を実施する。   5 おわりに 長時間にわたる過重な労働は、過労死に至らない場合であっても、メンタルヘルス不調(第6回参照)、長期の欠勤や配置・作業内容の変更を余儀なくされるなど、労使双方にとって様々な弊害を引き起こすことがある。 労働者から体調不良の申告を受けてから対応を始めるのではなく、日々の労働時間の管理や労働者の様子に気を配ることを通じて予防に力を入れておきたい。 本連載の最終回となる次回は、安全衛生管理体制及び業務上傷病への補償について触れる。 (了)

#No. 15(掲載号)
#佐藤 信
2013/04/18

改正労働契約法──各企業への適用に当たっての注意点 【第3回】「雇止め法理に関する実務対応」

改正労働契約法 ──各企業への適用に当たっての注意点 【第3回】 「雇止め法理に関する実務対応」   特定社会保険労務士 奥田 エリカ   第1回、第2回では、有期労働契約の反復更新によって無期労働契約へ転換される場合の問題について、その説明と対応を検討した。 第3回となる本稿では、改正ポイントの2つ目「「雇止め法理」の法定化」を取り上げ、有期労働契約の終了にあたって留意しなくてはならない点を検討する。 [改正ポイント②] 「雇止め法理」の法定化 (改正労働契約法19条) 雇止め法理とは、有期労働契約の労働者が、引き続き有期労働契約の申込みをした場合には、使用者が申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、従前の有期労働契約と同一の労働条件で申込みを承諾したものとみなされるというものである。 つまり、雇止めが無効となってしまうのである。 この場合、対象となる有期労働契約は、次のとおりである。 (1)は、反復更新が無制限に行われ、実質的に無期労働契約と変わらず、また、(2)は労働者が更新を当然に期待する状況があるため、一方的かつ不合理な雇止めはできないという論理である。 (1)又は(2)に該当するかどうかは、有期労働契約における雇用の臨時性、常用性、更新の回数、雇用の通算期間、契約期間管理の状況、雇用継続の期待性などの要素を総合的に考慮した上で、個々の事案について判断される。 ◆過去に反復更新された有期労働契約は終了することができない? 上記(1)については、東芝柳町工場事件(最判昭49.7.22)が代表的な判例である。 このケースでは、有期労働契約における期間満了、契約更新の手続がずさんであり、労働者にすれば、契約更新が自動的に行われ継続雇用されるものと信じており、その点において契約期間満了による雇止めは無効と判断されたのである。 (2)については、日立メディコ事件(最判昭61.12.4)で「更新を期待することについて合理的な理由がある」ものと認められるかどうかについてが争われた。本ケースでは、有期労働契約の管理は厳格に行われていたが、更新の回数や雇用の通算期間、職種などから雇用継続の期待が認められると判断された。 上記をまとめると、次のとおりである。 つまり、反復更新された有期労働契約については、解雇権の濫用法理が類推適用され、期間満了をもって終了することは容易ではないといえる。 しかし、有期労働契約は、期間が満了すれば雇用終了であることが原則である。本来の原則を貫くためには、結局、会社として適正な契約期間の管理が極めて重要である。自動更新や口約束といった安易な管理をせず、都度、契約更新の可否や労働条件を確認することで、無期労働契約と実質的に同じとみなされることは一定程度、防げよう。 なお、労働契約法の改正に伴い、労働基準法施行規則でも改正が行われ、労働条件の明示事項に「期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準」に関する事項が追加となった。 会社として雇止めを考慮するときには、契約締結・更新前に明示した更新基準に照らし、労働者との信義誠実の原則を踏まえて、更新しない場合の理由を説明することとなる。 一方、難しいのは、上記(2)の雇用継続の期待が認められる場合である。 上記のように雇用期間の管理を適正に行っていたとしても、労働者が更新期待を有するかどうかは主観の問題もある。例えば、有期労働契約について過去に1人も雇止めの実績がないときなどは、契約更新の期待性が認められることとなる。 仮に、契約書に「更新しない」や「更新は3回までとする」と記載しても、更新期待が認められると、雇止めには、解雇権濫用法理が類推適用されることになる。 雇止め法理については個々の事案によって判断され、一般化することは難しい。 「有期労働契約の労働者だから、簡単に雇用関係を終了できる」と考える経営者、人事担当者は今なお多いが、契約更新が反復されれば(あるいは反復されていないとしても)、その終了には注意が必要な点を改めて認識する必要がある。有期労働契約による雇用は、原則として、それが臨時的な業務であるために行われるというのが行政、司法の考えである。人件費の削減や雇用調整をも意図する会社側とその点で齟齬が生じる。しかし、契約期間が長期にわたるのであれば、会社側も正社員登用へのキャリアパスなど考慮に入れるべきだろう。 なお、雇止め法理の法定化におけるもう1つのポイントは、契約期間が満了するまでに労働者が、当該有期労働契約の更新を申込みした場合、又は有期労働契約期間の満了後、遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合に限り、従前の有期労働契約の内容である労働条件を承諾したとみなされる点である。反対に言えば、労働者から申込みがなければ、更新等の申込みを承諾したとみなされることはない。 「労働者からの申込み」とは、雇止めの意思表示があったときに、労働者が「嫌だ」「困る」という労働者の反対の意思表示が会社に伝わるものでもよいとされている。 もし紛争になった場合には、「申込みがあったかどうかの主張・立証責任は労働者側にあるとされ、直接的に会社に伝えているほか、訴訟提起や団体交渉、関係機関への申立てなどによって、申込みの意思あるいは雇止めへの拒否が会社に伝わっていることが必要となる。 現実的に有期労働契約の雇止め・更新にあたってはトラブルが多いところであり、実務面からいえば、当該労働者との話合い、適正な雇用管理がより求められるところである。 本連載の最終回となる次回は、3つ目の改正ポイントである「期間の定めのあることによる不合理な労働条件の禁止」について検討したい。 (了)

#No. 15(掲載号)
#奥田 エリカ
2013/04/18

会計事務所の事業承継~事務所を売るという選択肢~ 【第4回】「会計事務所の譲渡契約」

会計事務所の事業承継 ~事務所を売るという選択肢~ 【第4回】 「会計事務所の譲渡契約」   公認会計士・税理士 岸田 康雄    1 譲渡契約書 今回は開業税理士個人の会計事務所を売り手、税理士法人を買い手とするM&Aを前提として、譲渡契約書の記載内容を検討する。 個人の税理士であれば、税理士業務以外のサービスも提供することができる。しかし、税理士法人は税理士業務以外のサービスを提供することができない。 それゆえ、買い手が税理士法人の場合は、税理士法2条1項及び2項以外の業務(例えば、保険代理店、経営コンサルティング、M&Aアドバイザリー業務など)を承継することができない。 譲渡契約書において財産及び契約関係を明示しなければならない。譲渡対象となる資産(什器備品など)の明細書を別紙として添付すればわかりやすい。 会計事務所の経営権が移転し、売り手の所長が退職すると、所長に帰属していた顧客が流出するリスクが顕在化する。 そこで、そのリスクを売り手に負担させるため、譲渡対価の一部の支払いを留保しておき、一定期間経過後に顧客の減少に応じて対価の払戻しを行う方法が採用されることが多い。 税理士は、商法で規定する「商人」に該当しないため、競業避止義務(商法16条)を負うことはない。競業避止義務を定める場合には、譲渡契約書において個別に規定することとなる。 税理士の場合、会計事務所を売却した後に既存顧客を引き抜き、新たに会計事務所を一から立ち上げる売り手も稀に存在することから、買い手にとって競業避止義務は必要不可欠である。 買い手は競業避止義務をできるだけ長くしたいと考えるだろう。しかし、無期限の義務とする規定は、売り手に厳しすぎるとしてその効力を否定される可能性がある。そこで、通常は3年間から5年間と規定されるケースが多い。 また、併せて顧客勧誘禁止義務(顧客に顧問契約の切替えを斡旋することを禁止するもの)や職員勧誘禁止義務(職員の転職を斡旋することを禁止するもの)が規定されることがある。 これらも売り手が既存顧客の引抜きを防止する趣旨である。 ここでも売り手の顧客引抜きを防止するための措置が講じらている。売り手が、クロージング日以降に買い手の会計事務所の職員として勤務を続け、既存顧客との関係性維持に努める義務を負わされるのである。これにより、慎重に顧客を買い手所長へ承継させることができる。 このような引継ぎ期間の役務提供の対価として、売り手は職員としての給与と退職金を受け取ることになる(これは譲渡対価の一部を構成するものと考える)。 表明保証、クロージングの前提条件、契約解除、損害賠償(補償)については、事業会社のM&Aとほぼ同じである。M&Aの譲渡契約は停止条件付きの契約であるため、クロージングの前提条件をすべて充たさなければ取引は実行されない。条件の一つでも充たされなければ、相手方は取引を実行する義務を負わないのである。 M&Aに失敗するリスクは、売っておしまいという売り手よりも、買った後に投資回収を行う買い手の方が大きい。それゆえ、買い手は、損失が発生する要因は、譲渡契約書の中で可能な限り排除しなければならない。 リスク要因は幅広く存在し、想定できなかったリスクが顕在化して驚くケースが多々存在する。多少のコストを負担してでも、ケース経験豊富なM&Aアドバイザー及び弁護士を雇い、専門家のアドバイスを得る方が結果的には安上がりになるであろう。自分は税理士だからと過信すべきではない。 (了)

#No. 15(掲載号)
#岸田 康雄
2013/04/18

〔税理士・会計士が知っておくべき〕情報システムと情報セキュリティ 【第2回】「IT サービス(クラウド、SaaS、ASP)とは」

〔税理士・会計士が知っておくべき〕 情報システムと情報セキュリティ 【第2回】 「IT サービス(クラウド、SaaS、ASP)とは」   公認会計士 坂尾 栄治   クラウドとは クラウド(cloud)という言葉は2009年頃から頻繁に使われるようになったが、正確には「クラウド・コンピューティング」の略である。 システムの絵を書くときにネットワークを雲のマークで表すのが一般的であるため、ネットワークの向こう側にデータを置いたり、ネットワークの向こう側のソフトウエアを利用したりすること、すなわち、データやソフトウエアの所在を意識することなく、アクセスしあるいは利用することをこのクラウド(雲)という言葉で表すようになった。 2006年8月にグーグルのCEOであるエリック・シュミットが唱えたところから、世間に広く知られるようになったといわれている。 クラウド・コンピューティングと呼ばれるサービスには、具体的には以下のようなものがある。 データやファイルを保存するストレージサービスとしては、sugar syncやEverNoteなどが、また、メール・サービスとしてはGmailやYahooMailなどがある。さらに、エコポイントで日本国内での認知度を一気に上昇させたSalesforce.comによるアプリケーションの提供や、amazonは、よりクラウドの概念を定着させ、また普及に弾みをつけたと思われる。   パブリック・クラウドとプライベート・クラウド パブリック・クラウドとは、不特定多数の利用者を対象に提供されるクラウドを指す。通常、クラウド・コンピューティングといった場合は、このパブリック・クラウドを指す。 これに対して、プライベート・クラウドとは、特定の利用者を対象にしたものを指す。例えば、自社のサーバをデータセンターに集約して、当該サーバにWebを介してアクセスする場合が、このプライベート・クラウドに該当する。 この例でわかるように、プライベート・クラウドは決して新しいサービスではなく、またデータセンターが雲の向こう側といえるのかという点からも、クラウドに含まれるか否かといった議論になるところではあるが、データやソフトウエアがネットワークの向こう側にあるという意味では、クラウド的なものとして捉えられている。   SaaSとは クラウドに含まれるものの一つとして、SaaSと呼ばれるサービスがある。 SaaS(Software as a Service、サース)とは、ソフトウエア提供者(プロバイダ)がユーザにソフトウエアを提供し、ユーザの使用した期間・量に応じてサービス料を徴収する形態のサービスで、提供するソフトウエアがプロバイダ側のコンピュータで稼働するものをいう。 SaaSは、自社でソフトウエアを購入し自社側のコンピュータに導入する場合に比べて、短期的には費用を抑えられる場合が多い。 また、自社内にITの専門家がいなくても、ソフトウエアの導入・運用が行えるため、IT部門の縮小化傾向にある企業を中心にSaaSによるソフトウエアの導入が増加する傾向にある。 しかしながら、個人情報や会計情報といった重要な情報をクラウド上に置くことへの懸念があるため、SaaSに二の足を踏む企業があるのも事実である。 SaaSと階層をなす概念としてPaaS(Platform as a Service、パース)、IaaS(Infrastructure as a Service、イアース)などがある。 PaaSとは、ソフトウエアの実行基盤として利用するプラットフォームをネットワークを通じて提供するサービスであり、IaaSとは、コンピュータシステムを構築及び稼動させるためのハードウエアや回線・ネットワーク等のITインフラそのものをネットワークを通じて提供するサービスである。   ASPとは ASP(Application Service Provider)とは、正確にはソフトウエアの機能をネットワークを通じて顧客に提供する事業者のこと、すなわちSaaSを提供するプロバイダのことをいうが、実務的にはソフトウエアの機能をネットワークを通じて顧客に提供するサービス自体をASPという場合が多い。   クラウドのメリット サーバやソフトウエアを購入しないので、初期費用を抑えることができるとともに、保有、設計、開発の手間がなくなり、システムの運用までの期間を大幅に短縮できる場合があり、さらにシステムの規模の変更や使用の中止が容易である。また、サーバやソフトウエアの保守管理をする必要がなく、ソフトウエアのバージョンの更新作業から解放される。 クラウド上にソフトウエアがあるため、特定のPC以外からも当該ソフトウエアを使うことができ、クラウド上のストレージを利用するサービスの場合には、使用するPCのディスク容量の制約を受けず、ディスクの故障によるデータの破損も避けることができる。   クラウドのデメリット クラウドを利用することにより、初期費用を抑えることができる反面、長期間利用すると、購入した場合に比べてかえって費用がかかる場合がある。ソフトウエアの仕様変更や設定変更を容易に行えない場合があり、システムが柔軟性を失う場合がある。また、自社でサーバやソフトウエアを保持し運用管理する場合に比べて、システムがブラックボックス化する可能性が高くなる。 さらに、以下のようなクラウド提供者側の影響を受けることとなる。   まとめ ネットワークが電気や水道のように、基本的な社会インフラとなったといえる今日、クラウドによる新しいサービスは日々生まれ続けている。 ネットワークの向こう側であるクラウド(雲)によるサービスの多くは、大きくパラダイムを変換するものであり、固定観念にとらわれると、拒否反応を示してしまう場合も決して少なくない。 確かにクラウドにはシステムの柔軟性が失われるとともに、自社でコントロールしえないクラウド提供者の影響を受けるというリスクもある。しかしその反面、初期費用が少なく、短期間でシステムを使えるなど多くのメリットもある。 そのため、クラウドを検討する場合には、当該リスクとどのように向き合うかが重要となる。 リスクを受け入れられる業務、例えば基幹業務以外でのみクラウドを利用するといった保守的な方法ももちろんあるが、さらに一歩進んで、リスクを低減するためにクラウド提供者の選定や契約内容を十分に検討することにより、リスクを上回るメリットを享受できるようにすることもできるだろう。 今後より一層普及していくであろうクラウドを避けて通るのではなく、前向きに受け止めて、有効に活用していくべきではないだろうか。 (了)

#No. 15(掲載号)
#坂尾 栄治
2013/04/18

〔知っておきたいプロの視点〕病院・医院の経営改善─ポイントはここだ!─ 【第6回】「DPCⅡ群病院の意義」

〔知っておきたいプロの視点〕 病院・医院の経営改善 ─ポイントはここだ!─ 【第6回】 「DPCⅡ群病院の意義」   東京医科歯科大学医学部附属病院 特任講師 井上 貴裕   1 基礎係数による新たな評価 2012年度診療報酬改定によって、DPC/PDPSにおける医療機関別係数に変更が加えられた。 従来の「機能評価係数Ⅰ+機能評価係数Ⅱ+調整係数」による評価から、「機能評価係数Ⅰ+機能評価係数Ⅱ+暫定調整係数+基礎係数」とされた。特に基礎係数という新たな評価が始まったことは新たな一歩を踏み出したことになる。 基礎係数は、病院の基礎体力を評価したものであり、3つの病院群が設定され、各群ごとに係数の設定が行われた。Ⅰ群は大学病院本院であり(全国80病院、基礎係数:1.1565)、Ⅱ群は高診療密度病院群(全国約80病院、基礎係数:1.0840)、その他がⅢ群とされた(全国約1,300病院、基礎係数:1.0422)。このような格付けによる係数設定は、史上初めてのことである。 従来も地域医療支援病院やがん診療連携拠点病院などの評価は存在したが、その承認にあたっては政策的な意味合いもあり地域格差などもあり必ずしも公平なものではなかった。しかし、基礎係数はDPC参加病院が同じフォーマットのデータを提出し、全国一律の基準で評価が行われたことは注目に値する。   2 Ⅱ群病院の特徴 2012年度診療報酬改定によるⅡ群とⅢ群の基礎係数は4%程度の違いであり、暫定調整係数も存在するため、必ずしもⅡ群が係数全体で有利になるとは限らない。むしろⅡ群で下の方にいるよりは、Ⅲ群で上位に位置した方が経済的には有利になることもありえる。しかしながら、今後、2018年に向けて暫定調整係数は段階的に廃止されると、基礎係数の重みは増すことが予想される。 図表1 Ⅱ群病院の一覧    ※画像をクリックすると、別ウィンドウで拡大表示されます。 Ⅱ群病院は、診療密度、医師研修の実施、高度な医療技術の実施(手術1件当たり外保連指数、DPC算定病床当たりの同指数、手術件数)、重症患者に対する診療の実施の4項目によって評価される(図表2)。 図表2 調整係数の見直しに係る対応と経過措置 手術件数についてはDPC病院の平均である3,200件が要件とされ、その他は大学病院本院の最低値(外れ値を除く)をすべてクリアすることが求められている。これら要件のうち、高度な医療技術の実施、特に手術1件当たり外保連指数を満たせなかった病院が非常に多い。これは、図表3に示すように、外保連の第8版で行われている手術難易度、協力医師数及び手術時間が考慮されて決定されたものである。 図表3 保連手術試案(第8版)  ※画像をクリックすると、別ウィンドウで拡大表示されます。 手術1件当たりの外保連手術指数の基準値:14.69 簡単に言えば、高難易度手術の割合が多い病院が有利になる傾向がある。つまり、がんセンターや大学病院の分院などの医師が多く、高度な医療提供を行う病院が多くを占めている。この外保連手術指数によって、白内障手術などを外来化する病院が多くなってきており、このことは中長期的には、急性期病院に甚大な影響をもたらすものと予想される。   3 Ⅱ群に入るためには Ⅱ群に入るためには、高難易度手術の割合を高める必要がある。特に、全身麻酔手術の多い病院がⅡ群に分類されている傾向が強い(図表4)。 図表4 100床当たりの全身麻酔件数の月平均 手術室の機能を重視した病院運営を行い、手術室の稼働率を高めるべく、重点的に人員配置を行うことが求められる。そのためには、外来の縮小なども視野に入れる必要があるだろう。 Ⅱ群かⅢ群かは、病院にとってはプライドをかけた戦いでもあり、経済性だけでは語れないのも事実である。将来的には基礎係数の重み付けにより、様々な制度設計が可能となる。また、高診療密度を有するⅡ群に今後、優秀なスタッフが集中するようなこともありえるかもしれない。必ずしもⅡ群に入ることばかりが目標ではないが、まずは、自院のポジショニングを明確にすることが求められている。 (了)

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2013/04/18
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