「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例11(事業所税)】 税理士 齋藤 和助 《事例の概要》 平成X5年から平成Y5年分の事業所税につき、対象とならない月極駐車場の床面積を課税対象に含めて計算していたところ、課税団体である横浜市から連絡があり、更正期限までの平成Y1年から平成Y5年分の過大納付税額が還付されることになった。 このため、更正が受けられなかった平成X5年から平成Y0年分の事業所税の過大納付税額850万円につき損害賠償請求を受けた。 《賠償請求の経緯》 依頼者は横浜市で貸ビルと月極駐車場を所有し、不動産賃貸管理業を営んでいた。 平成X5年から平成Y5年分の事業所税につき、課税対象外の月極駐車場を課税対象に含めて申告書を提出。 申告書は依頼者が作成し、税理士は署名押印だけを行った。 横浜市より上記期間中、平成Y1年から平成Y5年分の事業所税過大納付分が還付となる。 《基礎知識》 ◆事業所税の納税義務者等(地法701の32他 ) 事業所税は、事業所等において法人又は個人の行う事業に対し、当該事業所等所在の指定都市等において、当該事業を行う者に資産割額及び従業者割額の合計額によって課する。この場合、いわゆる貸ビル等にあっては、その所有者ではなく、その全部又は一部を借りて現実にそこで事業を行っている者(テナント)が納税義務者となる。ただし、貸ビル等の貸主がビルの管理を行っている場合、管理のための施設は当該貸主が納税義務者となる。 ◆事業所税の課税標準(地法701の40 ) 事業所税の課税標準は、資産割にあっては、課税標準の算定期間の末日現在における事業所床面積とし、従業者割にあっては、課税標準の算定期間中に支払われた従業者給与総額とする。 ◆駐車場の取扱いについて(「事業所税貸付申告の手引き」横浜市) 貸ビル等内の駐車場について使用者が特定されている場合は、当該使用者の事業所床面積として算定する。 (1) 月極貸し、年貸し等の駐車場の場合 月極駐車場のように特定の者が専用借りする場合の駐車場に係る床面積は、当該専用借りする者の事業所床面積として算定する。 この場合、駐車場を専用借りする者が、貸ビル等の入居者(=テナント)であるかどうかは問わない。 (2) 時間貸し等の駐車場である場合 時間貸し駐車場のように不特定多数の者が使用する場合の駐車場に係る床面積は、当該駐車場を管理・運営する者の事業所床面積として算定する。 ◆更正、決定等の期間制限(地法17の5 ) 更正又は決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過した日以後においては、することができない。 賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して3年を経過した日以後においては、することができない。ただし、地方税の課税標準又は税額を減少させる賦課決定は、法定納期限の翌日から起算して5年を経過する日まですることができる。 《税理士の落とし穴》 《税理士の責任》 不動産賃貸管理業を営む依頼者は貸ビルと月極駐車場を所有しており、貸ビルの自社使用部分と月極駐車場の床面積を合計して事業所税の申告をしていた。しかし課税団体である横浜市においては、月極駐車場は専用使用するものの事業所床面積に算入されるため、依頼者の事業所床面積には含まれなかった。税理士は長年にわたってこれに気づかず、横浜市より更正決定の連絡があってはじめてその事実に気づいている。事業所税の申告を依頼された際に課税対象となる床面積の範囲を確認していれば過大納付は防げたことから、税理士に責任がある。 《予防策》 [ポイント①] 根拠となる資料を提出してもらい、変更があったら連絡をもらう 事業所税の申告は本事例のように依頼者が作成して税理士が確認し、署名押印するケースがほとんどであろう。なぜなら、事業所床面積まで税理士が把握することは困難だからである。しかし、署名押印をするのであれば、課税標準が適正であるか、税額が正しく計算されているかどうか等を確認する義務がある。 提出初年度に、根拠となる図面等の提出を受け、変更がある都度、報告を受けるような仕組みを作る必要がある。 [ポイント②] 地方税の課税標準には注意する 地方税の場合、課税団体側で課税標準が異なる場合がある。本事例も、目的税たる事業所税の趣旨からすれば、月極駐車場は貸し手側の床面積に算入するのが通常であろう。実際に貸し手側の床面積に算入して事業所税を計算している課税団体は少なくない。 したがって、地方税の申告の際には、このような場合を想定し、課税団体の発行する「申告の手引き」に目を通し、場合によっては、市税条例、市条例施行規則等を確認する必要がある。 (了)
居住用財産の譲渡所得 3,000万円特別控除 [一問一答] 【第20問】 「居住の用に供されなくなった後、敷地の贈与を受けて譲渡した場合」 -居住用財産の範囲- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは父親(生計は別)から土地を無償で借り受け、昨年3月まで居住していました。 本年7月に父親から敷地の贈与を受け、同年10月にその土地建物を売却しました。 この場合、Xの譲渡所得の全部について「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができるでしょうか? A 建物部分については「3,000万円特別控除」の特例の適用を受けることができるが、土地部分については同特例の適用を受けることができない。 〈解説〉 建物部分については、居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに譲渡しているので、「特例」を受けることができる。 しかし、土地部分については、Xが所有者となってからXが居住の用に供した事実がないことから、「特例」の適用を受けることはできない。 (了)
〔しっかり身に付けたい!〕 はじめての相続税申告業務 【第16回】 「課税対象となる生前贈与財産に注意する」 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 相続税の課税対象となるのは、原則的には、他界した人(被相続人)の相続財産であるが、前回説明した、「死亡保険金」や「死亡退職金」は、法律上相続財産に該当しなくとも、相続税の計算においては「みなし相続財産」として相続税の対象となる(相続税法3条)(*1)。 これ以外にも、法律上は相続財産ではないが、相続税の対象となる財産として、一定の生前贈与財産がある。 そこで今回は、この生前贈与財産について、説明を行う。 * * * 生前贈与財産は、贈与を行った後は、被相続人の所有財産でなく、贈与を受けた者(受贈者)の所有財産になる。贈与があると、受贈者は贈与税を申告・納税する必要が生じる(*2)。贈与税は、原則、暦年課税制度により計算される。ただし、一定の条件を満たす場合には、相続時精算課税制度を適用して贈与税を計算することもできる(相続税法21条の9)。 これらは、法律上は、贈与を行った後は、受贈者の所有財産となるため、贈与者が他界した場合、贈与者(被相続人)の相続財産には、法律上該当しない。ただし、以下の贈与財産については相続税の対象となり、また、支払った贈与税がある場合には、相続税から控除されることとなる。 (1) 相続時精算課税制度を適用した贈与財産(相続税法21条の15) 相続時精算課税制度を適用して贈与を行った財産については、法律上は相続財産ではないが、相続税の課税対象となる。なお、相続税の計算を行う際、贈与財産の評価は、相続時の時価ではなく、贈与時の評価額となる(相続税法21条の15)。 (2) 暦年課税制度を適用した贈与財産のうち、相続開始前3年以内に、相続・遺贈で財産を取得した者が贈与を受けた財産(相続税法19条) 暦年課税制度を適用して贈与を行った場合には、原則として、贈与者(被相続人)の他界時には、相続税の対象とはならない。ただし、贈与者(被相続人)から受贈者へ、相続前に駆け込みで贈与を行った場合(相続前3年以内に)、受贈者が、相続・遺贈で財産を取得した者である場合には、(贈与税の基礎控除以下、つまり110万円以下の贈与で贈与税が課税されていなくても)相続税の対象となる。 なお、この場合も、相続税の計算上、贈与財産の評価は、相続時の時価ではなく、贈与時の評価額となる(相続税法19条)。 少しわかりづらいので、具体的なケースで説明を行う。 父親が子供へ110万円の現金を贈与した場合、贈与税の基礎控除以下であり、贈与税はかからない(他に贈与がない前提、以下同じ)。 ただし、贈与後3年以内に父親が他界した場合で、子供が父親から相続で他の財産(土地など)を取得する場合、この生前贈与された現金110万円も相続税の対象となる。 父親が子供へ110万円の現金を贈与した場合、贈与税の基礎控除以下であり、贈与税はかからない。贈与後3年以内に父親が他界した場合で、子供が父親から相続・遺贈で全く財産を取得しない場合(死亡保険金・死亡退職金も取得しない場合)、この生前贈与された現金110万円は相続税の対象にはならない。 これは、相続税の対象となる贈与財産(暦年課税制度)は、相続・遺贈で財産を取得した者に対して贈与したものに限定されているためである。 なお、ここでの相続・遺贈は、法律上の相続・遺贈ではなく、相続税法における相続・遺贈であるため、みなし相続・みなし遺贈として取り扱われる場合も含まれるので注意が必要である。 父親が他人へ110万円の現金を贈与した場合、贈与税の基礎控除以下であり、贈与税はかからない。贈与後3年以内に父親が他界した場合で、他人は父親の相続人ではないが、遺言で財産を取得した場合、この生前贈与財産である現金110万円は、相続税の対象となる。 これは、相続税の対象となる贈与財産(暦年課税制度)は、相続・遺贈で財産を取得した者に対して贈与したものであり、相続人に対するものに限定されているわけでなく、相続人以外の者が遺贈で取得した場合も含まれているためである。 相続税申告書作成の前段階に行う、遺産分割協議の参考資料として、担当税理士は、相続人に対して財産目録を作成し提出することが一般的である。この財産目録には、法律上の相続財産だけでなく、参考情報として、死亡保険金、死亡退職金、生前贈与財産についても、(担当税理士が把握できている範囲で記載している旨の注釈は必要かもしれないが)記載しておいたほうが良いと思われる。 (了)
経理担当者のための ベーシック税務Q&A 【第12回】 「グループ内合併と税金(その2)」 ―特定資産譲渡等損失額の損金算入制限― 仰星税理士法人 公認会計士・税理士 草薙 信久 1 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限 合併法人又は被合併法人が有する資産等に係る含み損を実現させないまま適格合併を行った場合には、この含み損を適格合併後の合併法人において実現させ、合併法人の他の所得と通算することで恣意的に合併法人の課税所得を圧縮し、潜在的な欠損金(含み損)を利用した不当な租税回避行為がなされ、被合併法人からの未処理欠損金の引継制限や合併法人の自社繰越欠損金の控除制限の抜け道となる可能性があります。 そのため、同一グループ内の適格合併においては、一定の場合には適格合併後の特定資産に係る含み損の実現損失について、損金不算入とする制度が設けられています。 (1) 適用されるケース 支配関係が発生した後5年以内に特定適格組織再編成等が行われた場合には、資産の譲受法人の特定適格組織再編成等事業年度開始の日以後一定の期間までに生じる特定保有資産又は特定引継資産に係る譲渡等損失額等(譲渡損、評価損、貸倒損失、除却損等)は、損金不算入とされます。 ※特定適格組織再編成等とは、グループ内の適格合併、完全支配関係がある法人間の非適格合併でグループ法人税制の適用により譲渡損益が繰り延べられるもの、適格分割、適格現物出資又は適格現物分配のうち、みなし共同事業要件を満たさないものをいいます(法法62の7①)。 (2) 制限の対象となる資産 特定資産譲渡等損失額の損金算入制限の対象となる資産を特定資産といい、次の特定引継資産又は特定保有資産のいずれかの資産をいいます(法法62の7②、法令123の8③⑬)。 (3) 制限を受ける期間 特定資産譲渡等損失額が損金不算入の制限対象となる期間は、資産の譲受法人の特定適格組織再編成等事業年度開始の日から、次のうち、いずれか早い日までとされています(法法62の7①)。 以上の特定資産譲渡等損失額の損金算入制限の用件をフローチャートにすると、次のようになります。 (4) 特定資産譲渡等損失額の計算 損金算入制限を受ける特定資産譲渡等損失額は、事業年度毎に計算した特定引継資産及び特定保有資産に係る譲渡、評価替え、貸倒れ、除却等の事由による損益をネットしたそれぞれの純損失額をいいます(法令123の8)。 また、特定引継資産譲渡等損失額と特定保有資産譲渡等損失額は、特定適格組織再編成等によって資産を譲り受けた法人においてそれぞれ別に計算します。 つまり、特定引継資産と特定保有資産の譲渡等損益額の相殺はできず、例えば、合併法人が有していた特定保有資産譲渡等損失額と適格合併によって被合併法人から引き継いだ特定引継資産譲渡等利益額の相殺はできません。なお、譲渡等損失額がマイナス(譲渡等利益)となった場合には、ゼロとします。 したがって、含み益を有する特定引継資産又は特定保有資産の譲渡等による実現利益が発生することが見込まれる場合には、含み損を有する特定引継資産又は特定保有資産の同一事業年度における譲渡等を実行する等のタックス・プランニングが必要となります。 ご質問のケースでは、この計算方法に従って特定資産譲渡等損失額の計算を行った場合には、以下のとおりになります。 2 特定資産譲渡等損失額の算入制限における特例計算 合併法人と被合併法人との間に、5年前の日から継続して支配関係がない場合や、適格合併がみなし共同事業要件を満たしてない場合でも、合併当事法人の資産等に含み益がある場合には、潜在的な欠損金(含み損)を不当に利用した不当な租税回避行為には該当せず、特定資産に係る含み損の損金算入が可能となるケースがあります(法令123の9①④)。 この場合、時価純資産額と簿価純資産額の大小関係により、損金算入が可能となる金額が相違します。 (1) 時価純資産額≧簿価純資産額の場合(法令123の9①一) 支配関係が成立した事業年度の直前事業年度末の時点で、資産の移転法人(本件の場合は被合併法人)の時価純資産額が簿価純資産額以上(時価純資産超過額)の場合には、特定引継資産譲渡損失額はすべて損金算入が可能となります。 (2) 時価純資産額<簿価純資産額の場合(法令123の9①二) 支配関係が成立した事業年度の直前事業年度末の時点で、資産の移転法人の簿価純資産額が時価純資産額を超過(簿価純資産超過額)する場合には、簿価純資産超過額に達するまでの特定引継資産譲渡等損失額のみの損金算入が可能となり、具体的には以下の算式により計算します。 したがって、制限を受ける期間での特定資産譲渡等損失額の損金不算入額の累計は、支配関係が成立した事業年度の直前事業年度末の時点での資産の移転法人の純含み損の額を超えることはありません。 また、同様の趣旨で、支配関係が成立した事業年度の直前事業年度末において資産を譲り受けた法人に含み益がある場合にも、特定資産に係る含み損の損金算入が可能となる規定があります(法令123の9④)。 なお、被合併法人の支配関係前未処理欠損金の引継制限が緩和される特例(法令113①②③)や、合併法人の支配関係前自社繰越欠損金の控除制限が緩和される特例(法令113①②③④)にも上記と同様の規定があります。 (了)
貸倒損失における税務上の取扱い 【第12回】 「子会社支援のための無償取引⑧」 公認会計士 佐藤 信祐 第11回では、平和事件にかかわる第1審判決についての解説を行った。 第12回目である本号においては、控訴審判決、最高裁判決について触れたうえで、無利息貸付けについての所得税法上の考え方について考察を行うこととする。 (2) 控訴審・東京高裁平成11年5月31日判決(訟月51巻9号2135頁、税資243号127頁、東高民時報50巻1~12号8頁) 第一審判決とほぼ同じ判断が下されている。 なお、雑所得の計算方法や、国税通則法第65条第4項にいう正当な理由の有無について異なる判断が下されているが、本連載における論点とは異なるため、ここでは解説を省略する。 (3) 最高裁平成16年7月20日判決(訟月51巻8号2126頁、裁時1368号1頁、判時1873号123頁、判タ1163号131頁、税資254号順号9700、集民214号1071頁) 最高裁においては、前職及び現職の東京国税局の職員が編集した書籍において、会社が代表者から運転資金として無利息で金銭を借り受けた事例について、所得税の課税対象とならない旨の記載があることを理由として、国税通則法第65条第4項にいう正当な理由があるか否かが争われたが、本連載における論点とは異なるため、ここでは解説を省略する。 (4) 本事件についての評釈 平和事件においては、個人が法人に無利息貸付けを行った場合に、所得税法第36条第1項に規定する「収入すべき金額」に該当するか否かが争われた事件であり、所得税法第157条を適用して、同族会社等の行為計算の否認を適用したという点で、法人税法の取扱いとの間に大きな違いが見受けられる。 本事件の特徴としては、所得税法の改正により、株式の譲渡に係る譲渡所得が課税されることに対応して、その前に個人が保有する上場会社株式を自社が経営する非上場会社に対して譲渡を行い、そのための資金を無償で貸し付けており、税制改正に対応した動きであることや、金額が巨額であることが挙げられる。そのため、実務上、本事件は特殊事案であり、判例の射程距離もかなり狭いものであるという見解も少なくない。 本事件のうち、無利息貸付けについて所得税の課税対象とすることができるか否かという点に限って言えば、最大の争点は、外部からの経済的価値の流入の事実がない場合であっても、所得税法第157条に規定する同族会社等の行為計算の否認を適用することができるか否かという点である。 この点につき、品川芳宣教授は と述べられており、前職及び現職の東京国税局の職員が編集した書籍において、会社が代表者から運転資金として無利息で金銭を借り受けた事例について、所得税の課税対象とならない旨の記載があることを納税者が主張していることからも、それは明らかである。 また、法人税法第22条第2項が確認規定であるのか、創設規定であるのかという点も議論があるところである。 清水惣事件の解説においては割愛したが、法人税法第22条第2項は昭和40年度税制改正で定められたところ、清水惣事件においては、本規定が適用される前の昭和39年度と、適用された後の昭和40年度の両方が対象となっていたが、確認規定と位置付けることにより、昭和39年度についても無利息貸付けに係る利息収益について課税対象としている。 そうであるならば、平和事件においても、同族会社等の行為計算の否認を適用するまでもなく、所得税法第36条を直接的に適用する余地があったのではないかという疑問を感じる。 この点につき、大淵博義教授は、 としている。 また、所得税法第36条における「収入すべき金額」の解釈として、佐藤英明教授は、 としており、品川芳宣教授は、 としている。さらに、品川芳宣教授は時価の2分の1に満たない金額で譲渡した場合についてのみ時価で譲渡したものとして課税することとしている所得税法第59条を例に挙げ、法人税法との違いを説明されている。 なお、所得税法第59条については、時価の2分の1以上の金額で譲渡したとしても、所得税法第157条に規定する同族会社等の行為計算の否認を適用することができる場合が存在することが明示されている所得税基本通達59-3が存在し、それが故に、本事件においては、法人税法第22条第2項に相当する規定がないことを理由として、同族会社等の行為計算の否認が適用されたことが推測される。 この点についても、 としている。 このように、無利息貸付けについては、法人税法上の取扱いと所得税法上の取扱いとで基本的に異なっており、法人税法上は、法人税法第22条第2項の規定により、当然に利息収益を認識したうえで、それに相当する金額を寄附金として損金不算入とし、所得税法上は、同族会社等の行為計算の否認が適用される場合に限定して、利息収益を課税対象にすることになる。 平和事件について、同族会社等の行為計算の否認を適用すべき事案であったのか否か、判例の射程距離がどの範囲まで及ぶのかという点については議論があるところである。 しかしながら、本連載はあくまでも貸倒損失についての解説をすることを目的としているため、本連載においては、法人税法と所得税法における無利息貸付けについての基本的な考え方の違いを説明するに留め、平和事件についてのさらなる詳細な分析は、いずれ別の機会にさせていただきたい。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第2回】 「固定資産の減損」 仰星監査法人 公認会計士 西田 友洋 固定資産の減損とは、「固定資産の収益性の低下により投資額の回収が見込めなくなった状態が相当程度確実な場合に限って、回収可能性を反映させるように固定資産の帳簿価額を減額(減損損失を計上)する会計処理」をいう(固定資産の減損に係る会計基準の設定に関する意見書(以下「意見書」という)三3、固定資産の減損に係る会計基準の適用指針(以下「適用指針」という)134)。 言い換えると、固定資産を使って、固定資産の帳簿価額以上のキャッシュ・フローの獲得ができない場合、その状況(収益性の低下の状況)を表す会計処理である。 また、固定資産の減損は時価評価ではなく、収益性の低下を固定資産の帳簿価額に反映させるものであるため、取得原価主義のもとで行われる帳簿価額の臨時的な減額である(意見書三1)。 固定資産には、金融資産、繰延税金資産、市場販売目的のソフトウェア、退職給付に係る資産(前払年金費用)等は含まれない(適用指針6)。ただし、資産計上しているファイナンス・リースはもちろん、賃貸借処理しているファイナンス・リース取引も含まれる(適用指針143)。 固定資産の減損の会計処理は大きく、以下の4つのステップに分けることができる。 この4つのステップをフロー・チャートにすると、以下のようになる。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 全体の流れを確認しながら、以下ステップごとの解説をご覧いただきたい。 なお、本解説では共用資産(※)または、のれんがある場合については言及していない。 (※)共用資産とは、複数の資産の将来キャッシュ・フローの発生に貢献する資産をいう(固定資産の減損に係る会計基準(以下、「基準」という)(注1)5)。例えば、本社の建物及び土地や複数の資産に係る福利厚生施設、動力・修繕・運搬等を行う設備などが該当する(意見書四2(7)①)。 【STEP1】では、資産のグルーピングを行う。 グルーピングは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位で行う(基準二6(1))。 任意にグルーピングの単位を大きくすると、収益性の低いものと収益性の高いものが1つのグループになってしまい、結果として減損損失を認識しなくても済む可能性が高くなる。 そのため、最小の単位でグルーピングを行う必要がある。 実務的には、管理会計上の区分や投資の意思決定(資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を含む)を行う際の単位等を考慮して、経営の実態が適切に反映されるようグルーピングの方法を定める(意見書四2(6)①)。 具体的には、個別財務諸表と連結財務諸表のそれぞれで以下の検討が必要となる。 ※クリックすると大きな画像が開きます。 (1) 個別財務諸表におけるグルーピング 個別財務諸表におけるグルーピングでは、「使用している(使用する見込みのある)固定資産」とそれ以外の「処分予定資産、遊休資産」に分けて検討する。 ① 使用している(使用する見込みのある)固定資産のグルーピング 現在、事業に使用している(使用する見込みのある)固定資産のグルーピングは、具体的には、以下の手順で行うことが考えられる。 まず、継続的に収支の把握がされている単位を識別し、それをグルーピングの単位の基礎とする。次に、グルーピングの単位を決定する基礎から生ずるキャッシュ・イン・フローが、他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的であるかどうかの検討を行う(適用指針7)。 (ⅰ) 継続的な収支把握の単位の識別 賃貸ビルや小売店舗のように、資産の利用とキャッシュ・フローが直接的に関連づけられやすい資産については、当該資産ごとを継続的な収支の把握が行われている単位(グルーピングの単位の基礎)とすることが多いと考えられる(適用指針70)。 その他にも業種や企業によって異なるが、支店ごと、営業所ごと、地域ごと等を継続的な収支の把握が行われている単位(グルーピングの単位の基礎)とすることが考えられる。 (ⅱ) 相互補完性の検討 (ⅰ)のグルーピングの単位を決定する基礎から生ずるキャッシュ・イン・フローが、製品やサービスの性質、市場などの類似性等によって、他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的であり、当該単位を切り離したときには他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローに大きな影響(プラスの影響又はマイナスの影響)を及ぼすと考えられる場合、当該他の単位とグルーピングを行う(適用指針7)。言い換えると、大きな影響(プラスの影響又はマイナスの影響)を及ぼすと考えられない場合には、異なるグルーピングとなる。 なお、グルーピングの単位を決定する基礎において内部取引が存在し、合理的な内部振替価額(例えば、企業が外部からの収入価額に基づく適切な内部振替価額)により管理会計上、キャッシュ・イン・フローが発生している場合であっても、それをもって相互補完的とはならない。 内部取引であっても、他の単位から生ずるキャッシュ・イン・フローと相互補完的でなければ他の単位とグルーピングを行わない(適用指針70)。 ② 処分予定資産、遊休資産のグルーピング (ⅰ) 処分予定資産のグルーピング 処分予定資産とは、取締役会等において資産の処分や事業の廃止に関する意思決定を行い、その代替的な投資も予定されていないときなど、これらの資産を切り離しても他の資産又は資産グループの使用にほとんど影響を与えない資産をいう。 処分予定資産のうち重要なものは、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う(適用指針8)。 なお、重要性の乏しい資産は、他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う必要はなく、資産グループに含めて取り扱うことができる(適用指針71)。 したがって、処分予定資産がある場合、重要性の基準を定める必要がある。 (ⅱ) 遊休資産のグルーピング 遊休資産とは、企業活動にほとんど使用されない状態であって、過去の利用実績や将来の用途の定めには関係がない状態にある資産のことをいう(適用指針72)。 将来の使用が見込まれていない遊休資産のうち重要なものは、処分予定資産と同様に他の資産又は資産グループのキャッシュ・フローから概ね独立したキャッシュ・フローを生み出す最小の単位として取り扱う(適用指針8)。なお、将来の使用が見込まれていない遊休資産のうち重要性の乏しい資産も、処分予定資産と同様に、他の資産グループに含めて取り扱うことができる(適用指針72)。 したがって、将来の使用が見込まれない遊休資産がある場合についても、重要性の基準を定める必要がある。 反対に将来の使用を見込んでいる遊休資産は、その使用見込みに沿って、グルーピングを行う(適用指針8)。 (2) 連結財務諸表におけるグルーピング -連結財務諸表におけるグルーピングの見直し 連結財務諸表は、個別財務諸表をもとに作成されるため、原則、個別財務諸表におけるグルーピングを連結財務諸表でも用いる(適用指針75)。 しかし、以下の①及び②に該当する場合、連結財務諸表において資産のグルーピングの単位を見直す(適用指針10)。 連結財務諸表における資産グループは、どんなに大きくとも、事業の種類別セグメント情報における開示対象セグメントの基礎となる事業区分よりも大きくなることはないと考えられる(適用指針73)。 連結財務諸表におけるグルーピングの見直しは、連結財務諸表上、固定資産が計上される連結子会社が対象である。したがって、持分法が適用されている非連結子会社や関連会社は対象とはならない(適用指針75)。 (次ページ【STEP2】へ進む) (前ページ【STEP1】へ戻る) 【STEP2】では、減損の兆候の有無について検討する。 減損の兆候とは、資産又は資産グループに減損が生じている「可能性」を示す事象をいう(適用指針11)。以下の4つのいずれかに該当する場合、減損の兆候ありと判断する。 ※クリックすると大きな画像が開きます。 上記の減損の兆候の有無の判定は、通常の企業活動において実務的に入手可能なタイミングにおいて利用可能な情報に基づき行う(適用指針76)。 減損の兆候ありと判断された場合には、【STEP3】を検討する。減損の兆候なしと判断された場合は、【STEP3】以降の検討は不要である。 (1) 営業活動から生ずる損益又はキャッシュ・フローが継続してマイナス、又は、継続してマイナスとなる見込みの場合 営業活動から生ずる損益には、本社費等の間接的に生ずる費用も含まれる。 また、「継続してマイナス」とは、概ね過去2期がマイナスであることをいう。ただし、当期の見込みが明らかにプラスとなる場合は該当しない。「継続してマイナスとなる見込み」とは、前期と当期「以降」が明らかにマイナスとなる見込みの場合をいう(適用指針12(2))。 なお、事業の立上げ時など、当初より継続して営業損益がマイナスとなることが予定されている場合、予め合理的な事業計画(当該事業計画の中で投資額以上のキャッシュ・フローを生み出すことが実行可能なもの)が策定されており、実際のマイナスの額が当該事業計画にて予定されていたマイナスの額よりも著しく下方に乖離していないときには、減損の兆候には該当しない(適用指針12(4))。 ただし、長期(例えば、10年間)にわたって営業損益がマイナスの場合、事業計画どおりに進んでいたとしても、安易に減損の兆候に該当しないと判断してよいわけではない。形式的な検討ではなく、本質的に検討する必要がある。 (2) 資産又は資産グループが使用されている範囲又は方法について、回収可能価額を著しく低下させる変化が生じたか、又は、生ずる見込みである場合 回収可能価額を著しく低下させる変化とは、以下のような変化が該当する(適用指針13)。 また、回収可能価額を著しく低下させる変化が生ずると見込まれる時点とは、取締役会等の意思決定時点である(適用指針82)。したがって、変化が実際に生じた場合のみならず、取締役会等で変化について意思決定した場合も減損の兆候に該当する。 (3) 経営環境が著しく悪化したか、又は、悪化する見込みである場合 経営環境の著しい悪化とは、「市場環境の著しい悪化(価格の高騰や大幅な下落等)」、「技術的環境の著しい悪化」、「法律的環境の著しい悪化(重要な法律改正、規制緩和、規制強化等)」が該当する(適用指針14)。 (4) (市場価格がある資産で) 市場価格が著しく下落している場合 市場価格が著しく下落している場合とは、少なくとも市場価格が帳簿価額から50%程度以上下落した場合が該当する(適用指針15)。 ただし、50%程度以上下落していない場合でも、例えば、処分が予定されている資産で、市場価格の下落により、減損が生じている可能性が高いと見込まれる(重要な売却損失の発生が見込まれる)場合には、減損の兆候ありと判断することもある(適用指針89)。 市場価格とは、市場において形成されている取引価格等であるが、固定資産には、市場価格が観察可能な場合は多くない。したがって、一定の評価額や適切に市場価格を反映していると考えられる指標が容易に入手できる場合(容易に入手できる評価額や指標を合理的に調整したものも含まれる)には、これらを、減損の兆候を把握するための市場価格とみなして使用する(適用指針15)。 容易に入手できる土地の価格指標としては、以下がある(適用指針90)。 (次ページ【STEP3】へ進む) (前ページ【STEP2】へ戻る) 【STEP3】では、減損損失の認識について検討する。減損損失の認識では、以下の3つの検討が必要である。 ※クリックすると大きな画像が開きます。 (1) 将来キャッシュ・フローの見積り期間の設定 将来キャッシュ・フローの見積り期間は、①主要な資産(キャッシュ・フロー生成にとって最も重要な構成資産)の経済的残存使用年数か、②20年のいずれか短い方で設定する。土地の使用期間は無限であること等から、見積り期間に上限が設けられている。 経済的残存使用年数(税法の耐用年数ではない)とは、その資産が経済的に使用可能と予測される残りの年数である(適用指針21)。ただし、税法の耐用年数に不合理がなければ、税法の耐用年数に基づく残存耐用年数を経済的残存使用年数として用いることができる(適用指針100)。 (2) 割引「前」将来キャッシュ・フローの見積り 見積り期間を設定したら、これに対応する将来キャッシュ・フローを見積もる。将来キャッシュ・フローは、以下の①と②の合計で求める。 正味売却価額及び回収可能価額については【STEP4】で解説する。 また、将来キャッシュ・フローを見積もる際には、取締役会等で承認された中長期計画が存在する場合と存在しない場合で留意点がある(適用指針36)。 (ⅰ) 取締役会等で承認された中長期計画が存在する場合 取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値を、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報(例えば、予算、業績評価の基礎データ、売上見込みなど)と整合的に修正し、資産の現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して、将来キャッシュ・フローを見積もる。 中長期計画の見積期間を超える期間の将来キャッシュ・フローを算定する場合、原則として、取締役会等の承認を得た中長期計画の前提となった数値(経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報と整合的に修正した後のもの)に、合理的な反証がない限り、それまでの計画に基づく趨勢を踏まえた一定又は逓減する成長率(ゼロやマイナスになる場合もある)の仮定をおいて見積もる。一定又は低減する成長率の仮定をおいて見積もる必要があるため、逓増する成長率(例えば、来年は2%、2年後は3%、3年後は4%・・・)の仮定をおくことはできない。 (ⅱ) 取締役会等で承認された中長期計画が存在しない場合 中長期計画が存在しない場合、経営環境などの企業の外部要因に関する情報や企業が用いている内部の情報に基づき、資産の現在の使用状況や合理的な使用計画等を考慮して、将来キャッシュ・フローを合理的に見積もる。 (3) 割引「前」将来キャッシュ・フローと固定資産の帳簿価額との比較 将来キャッシュ・フローを見積もったら、その金額を割り引くことなく、そのまま、固定資産の帳簿価額と比較して、実際に減損損失の認識が必要かどうか検討する。 割引「前」将来キャッシュ・フローが固定資産の帳簿価額を下回る場合、減損損失を認識する(適用指針18)。下回らない場合は減損損失の認識は不要となる。 減損損失の認識が不要の場合、【STEP4】の検討は不要である。 (次ページ【STEP4】へ進む) (前ページ【STEP3】へ戻る) 減損損失の認識が認められたら、減損損失を測定する(適用指針25)。 減損損失の測定(減損損失額の算定)の際には、固定資産の帳簿価額をどこまで減額するかを決めるため、その減額の基準となる回収可能価額を決定する必要がある。ここで、回収可能価額とは、使用価値と現在時点の正味売却価額の高い方の金額をいう。また、使用価値は割引「後」将来キャッシュ・フローのため、割引率の算定が必要となる。 したがって、減損損失の測定の際には、以下の4つの検討が必要である。 ※クリックすると大きな画像が開きます。 (1) 使用価値の算定 ① 割引率の算定 使用価値は、将来キャッシュ・フローを割引計算することにより求められる。そのため、まず割引率の算定を行う。 割引率の算定方法は複数あるが、実務上は「加重平均資本コスト」を用いることが多い。 加重平均資本コストは、以下のように算定される。 他人資本コストは、長期の借入の追加借入率や長期社債の利回り(社債を発行していない場合、同等の格付の他の企業が発行している長期社債の利回り)を用いることが考えられる。 自己資本コストは、CAPMというモデルを用いて算定することが一般的である。 算定式は以下のとおりである。 リスクフリー・レートとは、貨幣の時間価値のみを反映した収益率であり、長期国債の利回りを用いる。将来キャッシュ・フローが得られるまでの期間に対応した長期国債の利回りを用いる(適用指針46)。長期国債の利回りは、財務省のホームページ等から入手可能である。 β値とは、株式市場の全体の株価の変動に対する自社の株価の変動がどの程度であるかという数値である。東京証券取引所、日本経済新聞社、ロイター、ブルームバーグ等から有料で入手することが可能である。また、過去の株価データをもとに自社でエクセルを用いて算定することも考えられる。 非上場会社の場合、株価がないためβ値を入手できないが、事業内容や収益状況等が類似した会社のβ値を参考にして、算定することも考えられる。 株式市場のリスク・プレミアムは、Ibbotson社等から有料で入手することが可能である。また、以下のように簡便的に株式市場の期待収益率を算出し、そこからリスクフリー・レートを控除して自社で算出することも考えられる。 ② 使用価値の算定 次に使用価値を算定する。使用価値とは、割引「後」将来キャッシュ・フローをいう。 まず、将来キャッシュ・フローを見積もる必要がある。使用価値算定の際の将来キャッシュ・フローは、以下の合計で求める(適用指針31)。 上記(ⅰ)及び(ⅱ)から求めた将来キャッシュ・フローを①の割引率で割引計算した金額が使用価値である。 なお、ここでの将来キャッシュ・フロー見積りの際にも、【STEP3】(2)(ⅰ)(ⅱ)について留意する必要がある。 (2) 現在時点の正味売却価額の算定 現在時点の正味売却価額は以下のとおり算定する。 現在時点の時価は以下のように算定する(適用指針28)。 なお、下記(3)では、使用価値と現在時点の正味売却価額の高い方の金額を回収可能価額する(詳細は、下記(3)参照)が、固定資産を保有している以上、通常は使用価値の方が現在時点の正味売却価額よりも高いと考えられる。 そのため、①明らかに現在時点の正味売却価額が使用価値よりも高いと想定される場合や、②処分がすぐに予定されている場合などを除き、必ずしも現在時点の正味売却価額を算定する必要はない(適用指針28)。したがって、①や②のような場合でなければ、現在時点の正味売却価額の算定は不要となる。 (3) 回収可能価額の決定 回収可能価額とは、使用価値と現在時点の正味売却価額の高い方の金額である(適用指針28)。 現在時点の正味売却価額を上回るキャッシュ・フローを獲得できるなら、通常、企業は固定資産を利用し続けるため、使用価値が回収可能価額となる。 他方、現在時点の正味売却価額を下回るキャッシュ・フローしか獲得できないなら、通常、企業は固定資産を利用しないで売却するため、現在時点の正味売却価額が回収可能価額となる。 (4) 減損損失の測定 最後に減損損失を測定する。減損損失は(資産グループの)固定資産の帳簿価額合計から回収可能価額を控除した金額となる。 算定した減損損失は各固定資産の帳簿価額による比例配分等、合理的であると認められる方法により、各固定資産に配分する(適用指針26)。 会計処理の例は以下のとおりである。 【会計処理(税効果は除く)】 なお、減損損失を計上した後に、時価が回復したり、将来キャッシュ・フローが減損損失を計上した時よりも獲得できたとしても、減損損失の戻入れ処理を行うことはできない(意見書四3(2))。 また、重要な減損損失を計上した場合、損益計算書(特別損失)に係る注記として、以下の注記をする(適用指針58)。なお、計算書類では当該注記は必ずしも求められていない。 * * * 以上、4つのステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (了)
過年度遡及会計基準の気になる実務Q&A 【第4回】 「臨時償却」 公認会計士 阿部 光成 《解 説》 過年度遡及会計基準及び過年度遡及適用指針に基づいて解説を行う。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 臨時償却 臨時償却は、耐用年数の変更等に関する影響額を、その変更期間で一時に認識する方法である(過年度遡及会計基準57項)。 「企業会計原則と関係諸法令との調整に関する連続意見書 第三『有形固定資産の減価償却について』」の第一、三において、減価償却計画の設定に当たって予見することのできなかった新技術の発明等の外的事情により、固定資産が機能的に著しく減価した場合には、この事実に対応して臨時に減価償却を行う必要があると述べられている。 さらに、この場合生ずる臨時償却費は、所定の計画に基づいて規則的に計上される減価償却費と異なり原価性を有しないとともに、過年度の償却不足に対する修正項目としての性質を有するので、これを(剰余金計算書における)前期損益修正項目として処理すると述べられている。 Ⅱ 臨時償却の廃止 過年度遡及会計基準は、臨時償却を廃止し、固定資産の耐用年数の変更等については、当期以降の費用配分に影響させる方法のみを規定している(過年度遡及会計基準57項)。 このため、例えば、耐用年数の変更が行われた場合、過年度に計上された減価償却費の修正は行われず、将来に向かって、見直された耐用年数に基づいて減価償却計算が行われることになる。 会社は当事業年度(X4年3月期)において、保有する備品X の耐用年数について、新たに得られた情報に基づき、従来の10 年を6 年に見直す会計上の見積りの変更を行った。 Ⅲ 実務上の留意点 上記設例のとおり、耐用年数の見直しが行われた場合には、見直し以降の年度の減価償却費が変動することになる。 設例では平成X4年3月期の減価償却費が従来の500百万円から1,000百万円に増額されており、それだけ利益が減少することになる。 従来の臨時償却のもとでは、過年度の償却不足に対する修正項目としての性質を有するので、これを前期損益修正項目として処理することができた。 過年度遡及会計基準適用後は、耐用年数の見直しは、当期以降の費用配分に影響させることになるので(過年度遡及会計基準57項)、損益への影響に注意が必要と考えられる。 また、過年度遡及会計基準は、会計上の見積りの変更の事例として、有形固定資産に関する減価償却期間(耐用年数)について、生産性向上のための合理化や改善策が策定された結果、従来の減価償却期間と使用可能予測期間との乖離が明らかとなったことに伴い、新たな耐用年数を採用した場合などが考えられると述べている(過年度遡及会計基準40項)。 耐用年数は会計上の見積りであるので、耐用年数の見直しのタイミングについては、会社の実態に基づき、適切に判断する必要があると考えられる。 (了)
林總の 管理会計[超]入門講座 【第21回】 「原価計算の具体例(その2)」 -病院の原価計算とは- 公認会計士 林 總 病院経営を維持する原価計算 入院患者の採算が病院経営を左右する (了)
人的側面から見た「事業承継」のポイント 【第4回】 (最終回) 「事業承継を成功させるポイント」 社会保険労務士法人スマイング 代表社員 特定社会保険労務士 成澤 紀美 1 様々な手法を組み合わせる 中小企業において、円滑な事業承継がいかに大切か。 何も対策を立てないままに事業承継が発生してしまうと、相続財産の分配をめぐり親族内での争いが起こってしまうなど、後継者や会社で働く役員・従業員にとって大きな負担が生じてしまうのは必至である。 これまで見てきたとおり、事業承継を円滑にするための対策として、様々な手法を選択することができ、各分野での中小企業の事業承継を助けるサポート役も存在する。これらサポート役の力も借り、様々な手法を組み合わせて計画的に対策を実行すれば、事業承継は成功するはずである。 既に述べたとおり、いつかは必ず訪れるのが事業承継問題である。また、後継者教育、経営体制の整備、計画的な経営権の委譲、事業承継に向けた債務の圧縮、会社の実力の「磨きあげ」など、事業承継対策は長い期間を要するものである。 このことを考えると、今すぐにでも事業承継計画の作成に向けた検討を始め、対策を実施していくべきである。 2 成功のポイント 本連載のまとめとして、事業承継を成功させるためのポイントを以下に示す。 [ポイント1] 事業承継の方針を明確にする 事業承継を成功させるためには、引継ぎをする会社の状況を把握し、いつ、誰に事業を承継するのか、どのような承継方法を選択するのかを明確にすることが重要である。 いったん決めた方針については、親族間での争いを引き起こしたり、従業員や取引先の信頼を失うことのないように、合理的な理由がない限りは変更しないようにし、着実に進めていく。 [ポイント2] 「引き継いだ会社を維持発展させる」という 強い意思のある後継者に承継する インターネットの普及、グローバリゼーションの進展により、企業経営を取り巻く環境が短期間で大きく変化している中で、経営をし続けていくためには、 相応の努力をして会社を維持発展させるという強い意思が求められる。 このような強い意思の持ち主に対して会社を引き継ぐようにすることが重要である。 [ポイント3] 現経営者と後継者・承継先との信頼関係がある 事業承継を成功させるためには、現経営者と後継者・承継先との信頼関係がしっかり構築されることが重要である。 現経営者が大事にしてきた経営理念等の価値観や経営方針、経営ビジョン等を後継者が理解せず現経営者との間で信頼関係が構築されない場合には、会社運営がうまく回らなくなるばかりか、従業員や取引先等の関係者との関係もギクシャクし出すことになる。 [ポイント4] できるだけ早くから取り組む 事業承継は、後継者・承継先の選定をした後、後継者候補の教育や幹部人材の育成、従業員や取引先等の関係者との信頼関係の醸成など、円滑な承継を行うための準備が必要である。また、法務上の対策や税務上の対策など、財産承継を行うための準備も必要となる。 これらは一定期間をかけて進めていく必要があることから、事業承継の準備はできるだけ早くから取り組むべきである。 ◆ ◆ ◆ 以上、本連載では事業承継の人的側面に重点を置いて、その問題と対策についてお伝えしてきた。 後継者の育成や次世代の仕組みつくりは、一朝一夕にできるものではない。 時間をかけて、承継後に一緒に会社を運営していく仲間との関係性を構築するという意識をもって臨んでいただきたい。 (連載了)
現代金融用語の基礎知識 【第3回】 「JPX日経インデックス400」 事業創造大学院大学 准教授 鈴木 広樹 1 株価指数とは 今回取り上げる「JPX日経インデックス400」とは、株価指数の名称である。 株価指数とは、株式市場の動向を示す統計指数であり、日本の株式市場の動向を示す株価指数のうち代表的なものとしては、TOPIX(東証株価指数)と日経平均株価がある。それらは日頃よく見聞きしているはずである。 TOPIXとは、東京証券取引所(以下「東証」という)が算出している株価指数であり、東証市場第一部に上場する内国普通株式全銘柄の時価総額の増減を示すものである。 それに対して、日経平均株価とは、日本経済新聞社が算出している株価指数であり、その名のとおり対象銘柄の株価を平均したものなのだが、対象銘柄がTOPIXと異なり、東証市場第一部上場銘柄のすべてではなく、その中から選定された225銘柄となる。 この2つを比較すると、以下のようになる。 2 JPX日経インデックス400とは TOPIXや日経平均株価と比べると、JPX日経インデックス400の認知度は現在のところそれほど高くないだろう。本稿の読者の中には、初めて聞いたという方もいるのではないだろうか。 それは当然のことで、JPX日経インデックス400は、平成26年1月6日から算出が開始されたばかりの株価指数なのである。 JPX日経インデックス400は、日本取引所グループ、東証、日本経済新聞社の3社が共同で算出しているのだが、銘柄選定方法に特徴がある。 東証上場銘柄の中から400銘柄を選定するのだが(市場第一部からだけでなく、市場第二部、マザーズ、JASDAQからも)、まず売買代金や時価総額をもとに1,000銘柄を選定したうえで、その中から、ROE(自己資本利益率)、営業利益、時価総額の3点を評価し、さらに社外取締役の選任状況など定性的評価も加味して選定するというものである。 3 JPX日経インデックス400の可能性 ここまでの解説を読んで、これまで日本には「TOPIX」と「日経平均株価」という株価指数があり、そこに新たに「JPX日経インデックス400」が加わったのかと思われた方がいるかもしれない。しかし、実はそうではなく、日本には既に多くの株価指数があり、東証が算出しているものだけでも70を超える。JPX日経インデックス400が、TOPIXや日経平均株価のような株価指数として定着するかどうか、あるいは、既に存在する多くの株価指数の中に埋没してしまうかどうか、現時点では判断が難しい。 しかし、その可能性に期待したい。JPX日経インデックス400は、その銘柄選定方法の特徴からわかるように、投資魅力の高い上場会社で構成される株価指数として開発された。上場会社がJPX日経インデックス400の対象銘柄に選定されるように努力すれば、その株式の投資魅力が高まることになる。そうした意識が上場会社に共有されるようになれば、日本の株式市場全体の活性化につながるはずである。 そうしたJPX日経インデックス400の持つ可能性に期待したい。 【参考】比較表 (了)