《速報解説》 適格請求書等保存方式に係る経過措置の見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 税理士 石川 幸恵 令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」(与党大綱)では、「インボイス制度導入に伴う経過措置」について、小規模事業者への配慮を示しつつ、これを利用した租税回避に対しては厳格に対応する姿勢が示されている。 租税回避の例としては、グローバル企業傘下の日本法人が同傘下の外国法人等(免税事業者)から商品を仕入れるに当たり、日本国内の倉庫に搬入(これにより輸入消費税を回避)されたものを仕入れることで、免税事業者である外国法人等からの国内仕入れとしていわゆる80%控除(28年改正法附則52)を適用する事例があり、税制の公平性の観点から問題視されている。 さらに、「インボイス制度導入に伴う経過措置」により、消費者が負担した消費税相当額の一部が納税されないという実態も踏まえ、各種の経過措置は最終的に終了する方針を堅持しつつ、一方で、個人・中小事業者に配慮した見直しを行うとしている。 1 小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(28年改正法附則51の2①②、いわゆる2割特例)の取扱い いわゆる2割特例は、令和8年9月30日までの日の属する課税期間について適用を受けられる。個人事業者で2割特例の適用を受けてきた事業者は、令和9年中に当年分から簡易課税制度の適用を受ける旨を記載した簡易課税制度選択届出書を提出して、簡易課税に移行することが想定されていた(28年改正法附則51の2⑥)。 今般、事務負担への配慮がより必要と考えられる個人事業者(免税事業者がインボイス発行事業者となったこと等により事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる課税期間に限る。)については、これまで2割特例の対象となっていた個人事業者も含め、令和9年及び10年について納付税額を売上税額の3割とすることができる措置が講じられる。 一方、法人については、同様に免税事業者がインボイス発行事業者となったこと等により事業者免税点制度の適用を受けられないこととなる課税期間であっても、3割の特例適用は想定されていないものと考えられる。これまで2割特例の適用を受けてきた法人についても同特例への移行はないものと考えられるが、今後の改正内容を詳しく確認する必要がある。 また、インボイス制度の導入により新たに課税事業者となった個人事業者の消費税確定申告状況については、インボイス発行事業者全体(申告義務があると考えられる者の95%)と比較すると93%とやや低いものの、概ね順調とされている。今後はさらなる適正な申告・納税を促す方策も検討されるようだ。 2 免税事業者等からの課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置(28年改正法附則52、53、いわゆる80%控除・50%控除)の取扱い (1) 租税回避への厳格な対応 いわゆる80%控除・50%控除については、制度上、適正に適用された場合であっても、消費者が払った消費税相当額の一部が納税されず、事業者の収入となる構造となっている。こうした構造が租税回避等に利用されている実態を踏まえ、当経過措置については令和6年度税制改正において、一のインボイス発行事業者以外の者からの課税仕入れの額の合計額がその年又はその事業年度で10億円を超える場合にはその超えた部分の課税仕入れについて80%控除の経過措置の適用を認めないこととされた(令和6年10月1日以後に開始する課税期間に適用)。 令和8年10月1日以後に開始する課税期間より10億円が1億円とされ、更なる引き下げについても検討されている。 (2) 小規模事業者への配慮 一方で、小規模な国内事業者への配慮として下表のように、適用期限を2年延長したうえで、控除割合を段階的かつより細かく設定する見直しが行われている。 (了)
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和7年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2025(令和7)年12月17日、「令和7年4月から6月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、所得税法関係が4件、国税通則法関係が2件、法人税法関係、相続税法関係及び国税徴収法関係が各1件で、合計9件となっている。公表された裁決は、相続税法関係の1件が「全部取消し」となっている外はすべて「棄却」となっており、前回と同じく、「棄却」された事例の公表が多くなっている。 【表:公表裁決事例令和7年4月から6月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された9件の裁決事例のうち、勤務先から騙取した金員を雑所得として申告しなかったことが隠蔽又は仮装行為であると認定した事例(②)、いわゆるスーパーカーの譲渡にかかる取得費の計算において、売却した車両が「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するとした事例(⑤)及び被相続人の現金として相続財産に該当するとして更正処分を受けた金員は、被相続人(審査請求人の母)の財産ではなく審査請求人の父に係る相続財産であるとして処分が全部取消しとなった事例(⑧)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。 1 勤務先から騙取した金員を雑所得として申告しなかったことが隠蔽又は仮装行為であると認定した事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、勤務先法人H社から騙取した金員について、原処分庁が、当該金員は雑所得として課税の対象となり、また、請求人には、当該金員が自らの所得ではないかのように隠蔽又は仮装した事実が認められるとして、所得税等の決定処分及び重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該金員は、当該〇〇〇〇に対し〇〇〇として〇〇する旨の合意が成立しているため雑所得に係る総収入金額に算入すべきでないから、課税の対象となる所得は生じておらず、また、請求人には隠蔽又は仮装の事実はないなどとして原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、争点②について、重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から課税標準等又は税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたうえ、その意図に基づき、法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当であるという法令解釈を述べた。 そのうえで、国税不服審判所は、審査請求人には当初から騙取した金員を申告する意図はなかったことを指摘したうえで、審査請求人による一連の行為は、単に自己の所得に関し納税申告書を提出しなかったというにとどまらず、当初から騙取によって得た所得を申告しないという確定的な意図の下、勤務先法人という第三者に対して内容虚偽の会計処理等を行い、事情を知らない勤務先法人を手足として利用して、課税機関に対する内容虚偽の確定申告をさせて請求人の所得が発覚しないようにしたといえ、これは、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったものであると評価できるから、勤務先法人による決算確定及び確定申告に結び付き得る審査請求人の行為は、国税通則法第68条第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当すると認められるとの判断を示したうえで、審査請求には理由がないから、これを棄却するという裁決を行った。 2 いわゆるスーパーカーの譲渡にかかる取得費の計算において、売却した車両が「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するとした事例・・・ ⑤ (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が、審査請求人が売却した車両は「使用又は期間の経過により減価する資産」であるから譲渡所得が生じているとして所得税等の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該車両は「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 審査請求人が売却した車両は、所得税法第38条第2項に規定する「使用又は期間の経過により減価する資産」に該当するか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、ある資産が、使用又は期間の経過により減価しない資産(すなわち、所得税法第38条第2項の規定の適用のない資産であり、その範囲は、所得税法施行令第6条に規定する「時の経過によりその価値の減少しない資産」の範囲と同じであるものと解される)に該当するか否かの判断は、その資産が、その属する類型において、社会通念上想定される本来的な目的・効用を前提に、当該目的・効用が期間の経過により減少していくか否かという点から行われるべきであり、ただ、個別の資産につき、その価値が、当該類型の資産に求められる本来的な目的・効用とは異なる面に置かれていることが社会通念上確立しているといえるような例外的な場合に、これと異なる判断がされるにすぎないものと解するべきであるとの判断を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、審査請求人が売却した車両は、自動車であるから、所得税法施行令第6条第6号に掲げる「車両及び運搬具」に該当し、自動車の本来の効用は、人や物を乗せ、原動機の動力によって車輪を回転させて路上を走ることにあるところ、経年や使用によって原動機の性能が低下したり、その構成部品が劣化したりすることによって、その機能は一般的・類型的に逓減していくものであり、逆に、およそ自動車である以上、かかる機能の劣化が一切発生しないとか、使用によってむしろ機能が向上するといった事態が生じ得ないことは、社会通念上明らかであるといえることから、自動車は、原則として「時の経過によりその価値の減少しない資産」には該当しないものというべきであると述べたうえで、審査請求人が売却した車両が、「骨とう」すなわち「古美術品、古文書、出土品、遺物等」に類するといえる程度の長期間を経てもなお確立した高い価値を維持しているような場合に当たると解することはできないから、その価値が、当該類型の資産に求められる本来的な目的・効用とは異なる面に置かれていることが社会通念上確立しているといえるような例外的な場合には該当しないこと、審判所の調査及び審理の結果によっても、「時の経過によりその価値の減少しない資産」であることをうかがわせるような事情は認められないとして、審査請求には理由がないから、これを棄却するという裁決を行った。 3 被相続人の現金として相続財産に該当するとして更正処分を受けた金員は、被相続人(審査請求人の母)の財産ではなく審査請求人の父の相続財産であるとして処分が全部取消しとなった事例・・・ ⑧ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、亡母の相続に係る相続税の申告を行った後、原処分庁が、当該相続に係る遺産分割協議において請求人が取得したとする金員が申告されていないとして更正処分等を行ったことに対し、請求人が、当該金員は当該相続に係る相続財産に該当しないとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 審査請求人が本件相続により取得したとする現金は、審査請求人の母である被相続人の相続に係る相続財産に該当するか否か。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、事実認定の結果、審査請求人が本件相続により取得したとする現金は、相続開始日より前の令和元年5月時点で被相続人及び共同相続人の下で、審査請求人の父の相続に係る追加分の相続財産として整理され、納税や残余財産の清算が行われたと認められ、このような客観的状況を踏まえると、審査請求人が、相続開始日時点において、この現金を管理・所有していたと認めることはできないことから、相続開始日において審査請求人がこの現金の全額を管理・所有していたことを前提とする遺産分割協議書については、その内容が客観的状況と整合しておらず、その内容の真実性については疑義があるというほかないとして、遺産分割協議書に共同相続人3名の署名押印があることをもって、相続開始日にこの現金が存在し、審査請求人が相続に係る相続財産として取得したことを推認することはできないというべきであると結論づけて、原処分庁による更正処分等は違法であるから、その全部を取り消すべきであり、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消す裁決を行った。 (了)
《速報解説》 NISA制度の拡充 ~令和8年度税制改正大綱~ 税理士 廣瀬 周平 令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」(与党大綱)において、NISA制度が拡充されることが明らかとなった。 あらゆる世代の長期・安定的な資産形成の支援を目的として、制度の柔軟性・利便性の向上が図られ、以下の3点が改正された。 1 こどもNISA(未成年者つみたて投資枠) これまで18歳以上とされていた口座開設年齢が撤廃され、子育て世帯の将来設計を応援するために、0歳から17歳までの子どもを対象とした「未成年者つみたて投資枠」が創設された。 【未成年者つみたて投資枠】 この制度は、親が使用している新NISAと併用でき、祖父母から孫への生前贈与(贈与税非課税枠110万円/年)との組み合わせにより、将来の教育資金だけでなく、家族の資産形成を非課税で柔軟に行うことができる。 2 「つみたて投資枠」の投資対象商品の拡充 「つみたて投資枠」では、長期の積立・分散投資に適した金融庁の基準を満たした投資信託が対象となっている。 資産形成を始めたばかりの若年層や高齢層といった低リスクでの運用を望むニーズに応える必要性から、株式に比べてリスクが低く、より安定的なキャッシュフローが望める債券型投資信託等の低リスク商品が、つみたて投資枠の対象商品として認められることとなった。 3 手続きの簡素化 現行では、新NISAの口座開設をした後、10年経過時等に金融機関が郵送等により、利用者の本人確認が必要であり、当該確認ができない場合は、新規買付が停止となる。 この金融機関が行っていた郵送等による「住所等の確認手続き」が廃止され、各金融機関による簡易的な確認を行うことで対応することとなった。 (了)
《速報解説》 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置における 防衛特別所得税の創設 ~令和8年度税制改正大綱~ 辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健 本稿では、令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」(与党大綱)(与党大綱)のうち、防衛力強化に係る財源確保のための税制措置のうち所得税に関する部分について解説する。 1 経緯 我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、安定的な財源を確保する必要があることから、令和5年度税制改正大綱では、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において、1兆円強を確保することが明記され、法人税、所得税及びたばこ税について、一定の措置が講じられることとなった。 具体的には、令和7年度税制改正では、法人税について、税率4%の新たな付加税として、防衛特別法人税が創設され、令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用されることになった。また、たばこ税は、加熱式たばこについて、紙巻たばことの間の税負担差を解消するため、課税方式の適正化が行われ、令和8年4月及び同年10月に実施が予定されている。 2 改正内容 所得税については、税率1%の新たな付加税として、防衛特別所得税(仮称)が創設されることとなった。すなわち、所得税の納税義務者は、基準所得税額につき、防衛特別所得税を納める義務があるとされる。防衛特別所得税額は、その年分の基準所得税額に1%の税率を乗じて計算する。課税期間は、令和9年以後、当分の間とされている。 なお、東日本大震災からの復興のための施策を実施するための財源として、平成25年から25年間、所得税額に2.1%上乗せする復興特別所得税が既に課されているが、納税者の負担を考慮し、復興特別所得税の税率が1%引き下げられることになる。その代わり、復興特別所得税については、復興財源の総額を確実に確保するため、課税期間が10年延長され令和29年までとされる。 (了)
【重要】 会員2万人突破記念! 新連載開始キャンペーンのお知らせ 平素より株式会社プロフェッションネットワークのサービスをご愛用いただき、厚くお礼申し上げます。 既報のとおり、当社が運営しております税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナル(Profession Journal)はおかげさまで会員2万人を突破いたしました。 会員2万人突破に伴い、2025年10月1日(水)より、本誌掲載の連載第1回をすべて無料公開とさせていただいておりますが、今回これに続くキャンペーンの一環として、年明けより複数の新連載を順次開始してまいります。 以下、新連載の概要及び開始時期等をお知らせさせていただきますので、どうぞご期待ください。 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ※下記の新連載のタイトルをクリックすると詳細箇所に遷移します。 ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ◆ ◇ ◆ ※上記新連載の内容は随時更新し、今後も追加を予定しています。 ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ 今後ともプロフェッションジャーナルをご愛読賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。
《速報解説》 金融庁が「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」を公表 ~期中会計基準及び防衛特別法人税に係る当面の取扱い案を受け改正~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025(令和7)年12月19日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。 これは、「期中財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第37号)等及び「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第72号)を受けたものである。 意見募集期間は2026年1月23日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 期中会計基準関係 次の改正を行う。 Ⅲ 防衛特別法人税関係 次の改正を行う。 Ⅳ 施行日等 改正後の規定は公布の日から施行する予定である。 経過措置に注意する。 (了)
令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 特定生産性向上設備等投資促進税制の創設 ~令和8年度税制改正大綱~ 税理士 菅野 真美 令和7年12月19日に与党の令和8年度税制改正大綱が公表された。今回の税制改正の目玉の1つは、「強い経済」を実現するため、国内における高付加価値型の設備投資を促進する特定生産性向上設備等投資促進税制の創設である。本稿では、この制度について解説する。 1 特定生産性向上設備等投資促進税制とは 本制度は、大規模な設備投資を促すための税制で、産業競争力強化法の改正を前提に青色申告書を提出する法人が、生産等設備を構成する一定の規模以上の有形固定資産を取得等し、事業の用に供した場合に、次のいずれかを選択できる。 2 主な要件 この税制の主な適用要件は次のとおりである。 3 税理士として注意すべきこと この制度は、大規模な設備投資ができる企業が対象であり、中小零細企業で適用を受ける可能性は低いかもしれない。しかし、5億円以上の投資可能な中小企業が顧問先の場合、既存の投資促進税制等との有利不利のアドバイスや、本税制の適用に向けて事業計画の策定に関与することが求められるだろう。 さらに、優遇税制であることから厳格な申告手続きが求められる。「税理士職業賠償責任保険 事故事例」(2022年7月1日から2025年6月30日までの公表分)において「中小企業者経営強化税制の添付書類の提出失念」「試験研究費明細書の入力漏れ」「添付すべき別表誤り」により特例が受けられなかった事例が詳解されている。税理士としては、細心の注意を図ってミスのない申告を心掛けたい。 (了)
《速報解説》 [続報・詳報]令和8年度税制改正大綱(与党大綱) ~基礎控除等の物価連動導入と「178万円」への引き上げ、 暗号資産は申告分離課税へ、特定生産性向上設備等投資促進税制の創設~ Profession Journal編集部 既報のとおり、12月19日(金)、自由民主党は「令和8年度税制改正大綱」(いわゆる与党大綱)を公表した。今回の大綱は、自由民主党・日本維新の会による新たな連立の枠組みの下で取りまとめられたものであり、「強い経済」「世界で輝く日本」の実現を目指す高市政権の方針が色濃く反映された内容となっている。 今回の改正の最大の特徴は、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる恒久的な仕組みを創設した点である。さらに三党合意を踏まえた時限措置により、課税最低限を178万円に先取りして引き上げるという2本立ての対応が講じられている。令和8年分の所得税から適用されるため、年末調整を含めた実務対応の準備が急務となる。 法人税制では、「強い経済」の実現に向けて大胆な設備投資促進税制が創設されるとともに、研究開発税制についても戦略技術領域への支援を抜本的に強化する内容となっている。一方で、賃上げ促進税制については大企業向け措置を適用期限前に廃止するなど、メリハリを明確にする方向性が打ち出された。 消費税制では、国境を越えた電子商取引に係る課税の適正化が図られ、少額輸入貨物への課税やプラットフォーム課税の拡大など、国内外の事業者間の競争条件の公平性確保に向けた措置が講じられている。また、インボイス制度の定着に向けて、2割特例終了後の個人事業者に対する激変緩和措置として3割特例が創設されるほか、免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置については段階的な縮減と上限額の引下げが行われる。 以下、主な改正事項を紹介する。例年のとおり重要な改正事項については年末から年始にかけて個別に速報解説を順次公開していくので、そちらを参照いただきたい。 〇物価上昇に連動した基礎控除等引上げの恒久的仕組みを創設 今回の改正における最重要項目として、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる恒久的な仕組みが創設される。この制度は、基礎控除の実質的な価値が物価上昇により減少することへの対応として、今後も定期的に見直しを行う枠組みを確立するものである。 具体的には、見直し前の控除額に、税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を乗じて調整する。令和8年度改正においては、令和5年10月から令和7年10月までの2年間の消費者物価指数の上昇率6.0%を踏まえ、基礎控除の本則については58万円から62万円に、給与所得控除の最低保障額については65万円から69万円にそれぞれ引き上げられる。 さらに、令和6年12月11日の自由民主党・公明党・国民民主党による三党合意の趣旨を踏まえ、課税最低限を「178万円」に先取りして引き上げる時限措置も講じられる。これは基礎控除の特例を拡充することにより実現され、給与収入475万円相当までを対象に最大42万円の特例控除が適用される(給与収入200万円相当までの37万円部分は恒久措置)。この時限措置は令和8年・9年分の2年間の適用とされている。 これらの改正により、全ての納税者の所得税負担開始水準(基礎控除及び給与所得控除の合計額)は178万円以上となる。 また、基礎控除等の引上げに伴い、同一生計配偶者及び扶養親族の合計所得金額要件が62万円以下(現行:58万円以下)に、ひとり親の生計を一にする子の総所得金額等の合計額の要件が62万円以下(現行:58万円以下)に、勤労学生の合計所得金額要件が89万円以下(現行:85万円以下)にそれぞれ引き上げられる。 〇大胆な設備投資促進税制を創設 「強い経済」の実現に向けて、国内における高付加価値化型の設備投資を促進する観点から、特定生産性向上設備等投資促進税制(仮称)が創設される。この制度は、産業競争力強化法の改正を前提としており、全ての業種を対象とした大規模かつ高付加価値の投資を推進するものである。 〇研究開発税制を抜本的に強化 近年のデジタル革命の下、「科学とビジネスの近接化」の時代において、国家戦略として重要な技術領域への企業の研究開発を促す観点から、研究開発税制が抜本的に強化される。 ① 戦略技術領域型の創設 今回の改正の目玉として、研究開発税制において新たに「戦略技術領域型」が創設される。産業技術力強化法の改正を前提に、重点産業技術(仮称)であるAI・先端ロボット、量子、半導体・通信、バイオ・ヘルスケア、フュージョンエネルギー、宇宙に係る試験研究費について、既存の措置と別枠の税額控除率・控除上限が設定される。 具体的には、認定研究開発法人の適用期間内の各事業年度において、重点産業技術試験研究費の額の40%(重点産業技術共同研究開発機関と共同・委託研究を行う場合は50%)の税額控除が認められる。控除税額の上限は当期の法人税額の10%とされ、控除限度超過額については3年間の繰越しが可能とされる。 ② 一般型の見直し 令和9年4月1日以後に開始する各事業年度について、一般型の控除率カーブ及び控除上限の変動措置が見直される。試験研究費を増加させるインセンティブを更に強化する観点から、近年の物価上昇等の状況も踏まえた調整が行われる。 また、海外への委託研究について、諸外国と同様に一定の制限が設けられる。科学技術創造立国実現の礎となる国内の研究人材や研究開発拠点の維持・強化の観点から、海外への委託研究費については段階的に制限され、令和8年度は70%、令和9年度は60%、令和10年度は50%とされる。ただし、国内での試験研究に馴染まない海外での治験については制限の対象外とされる。 ③ 中小企業技術基盤強化税制の拡充 中小企業技術基盤強化税制については、控除限度超過額について3年間の繰越しができることとされる。繰越税額控除制度は、繰越税額控除の適用を受けようとする事業年度において試験研究費の額が比較試験研究費の額を超える場合に限り適用できる。 〇賃上げ促進税制は大企業・中堅企業向けを廃止 物価高に負けない構造的・持続的な賃上げを強化する観点から、令和6年度税制改正において抜本的に強化された賃上げ促進税制であるが、足元の賃金上昇率がバブル期以来の水準となる高い伸びを示していることを踏まえ、大幅な見直しが行われる。 ① 大企業向け措置の廃止 全法人向けの措置については、令和8年3月31日をもって適用期限前に廃止される。企業の賃上げをめぐる状況が令和6年度税制改正当時と大きく様変わりしていることを踏まえた措置である。 ② 中堅企業向け措置の見直し 常時使用する従業員の数が2,000人以下である法人向けの措置については、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度について、要件が大幅に強化される。 原則の税額控除率10%が適用できる場合は、継続雇用者給与等支給額の継続雇用者比較給与等支給額に対する増加割合が4%以上(現行:3%以上)である場合とされる。また、控除率の上乗せ措置についても、増加割合が5%以上である場合に5%(増加割合が6%以上の場合は15%)を加算する措置に見直される。教育訓練費に係る上乗せ措置は廃止される。 中堅企業向け措置については、適用期限である令和9年3月31日をもって廃止される。 ③ 中小企業向け措置の維持 一方、中小企業向け措置については、人材獲得競争の中で防衛的賃上げに取り組む企業にも配慮し、令和8年度は現行制度を維持することとされ、期限到来時に適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討するとされている。 なお、教育訓練費を増加させた場合の上乗せ要件については、教育訓練費の増加額を税額控除額が上回る場合があるという会計検査院の指摘を踏まえ、廃止される。 〇中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額要件の引上げ 中小企業者等の減価償却資産に係る事務負担の軽減を図る観点から、中小企業者等が少額減価償却資産を取得した場合、取得時に取得価額の全額を損金算入可能とする特例について、対象となる減価償却資産の取得価額が30万円未満から40万円未満に引き上げられる。この見直しは、制度が創設された平成15年度以降の主要な対象資産の価格動向等を踏まえたものである。本特例は、令和9年3月31日まで3年延長される。 なお、対象となる法人から常時使用する従業員の数が400人を超える法人が除外されるほか、中小企業投資促進税制や中小企業経営強化税制における工具及び器具備品の取得価額要件も同様に30万円以上から40万円以上に引き上げられる。 〇国境を越えた電子商取引に係る消費税の適正化 物品販売に係る国境を越えた電子商取引の市場が拡大する中、少額輸入貨物に対する免税制度による競争上の不均衡や国外事業者による無申告といった課題に対応するため、消費税の課税対象及び徴収方法が大幅に見直される。 ① 少額輸入貨物への課税 通信販売の方法により国内以外の地域から国内に宛てて発送される資産で、一の資産の対価の額が1万円(税抜き)以下であるものの譲渡(特定少額資産の譲渡(仮称))について、資産の譲渡等に係る消費税の課税の対象とされる。 特定少額資産販売事業者(仮称)として登録を受けた事業者が行った特定少額資産の譲渡に係る課税貨物については、輸入申告書等に登録番号等が付記されている場合、保税地域からの引取りに係る消費税が課税されない。 ② プラットフォーム課税の導入 デジタルプラットフォームを介して行う一定の資産の譲渡のうち、指定を受けたプラットフォーム事業者(第2種プラットフォーム事業者(仮称))を介してその対価を収受するものについては、第2種プラットフォーム事業者が行ったものとみなされる。 プラットフォーム事業者の課税期間において、国外事業者が国内において行う資産の譲渡及び事業者が行う特定少額資産の譲渡に係る対価の額の合計額が50億円(税込み)を超える場合には、そのプラットフォーム事業者に国税庁長官への届出義務を課すとともに、国税庁長官は第2種プラットフォーム事業者として指定する。 ③ 適用時期 これらの改正は、令和10年4月1日以後に国内において事業者が行う資産の譲渡等及び課税仕入れ並びに保税地域から引き取られる課税貨物について適用される。事業者免税点制度に係る特例や、第2種プラットフォーム事業者の指定制度に係る手続については、所要の経過措置が講じられる。 〇インボイス制度の経過措置を見直し 消費者が支払った消費税相当分が全て納税されることが原則であるとの基本的考え方を前提としつつ、インボイス制度導入に係る事業者の事務負担にも配慮し、制度の社会的な定着をより確実なものとする観点から、次の措置が講じられる。 ① 2割特例の後継措置 新たにインボイス発行事業者となった小規模個人事業者について、いわゆる2割特例の終了後は簡易課税制度への移行が原則となるが、個人事業者については課税事業者を選択してインボイス発行事業者になっている場合、納税額を売上税額の3割とすることができる経過措置が2年に限り講じられる。 ② 免税事業者等からの課税仕入れに係る経過措置 免税事業者等からの課税仕入れに係る税額控除に関する経過措置については、本経過措置が租税回避等にも利用されている実態を踏まえ、段階的に縮減することとされる。最終的な適用期限を2年延長した上で、控除ができる割合については、令和8年10月からは7割、令和10年10月からは5割、令和12年10月からは3割と段階的に縮減していき、令和13年9月末をもって適用を終了する。 あわせて、租税回避等の防止を図る観点から、課税期間における一の免税事業者等からの課税仕入れのうち本経過措置の対象とできる上限額を、10億円から1億円に引き下げる。 なお、インボイス制度導入に係る各種経過措置については、今般見直した内容を含め、これまでに決定した措置が期限どおり確実に実施されるよう、関係省庁が連携して必要な対応を実施することとされている。 〇ふるさと納税制度の健全な運用に向けた見直し 寄附受入額が年間1.2兆円を超え、国民に広く浸透したふるさと納税制度について、その本来の趣旨に立ち返るため、次の見直しが行われる。 地方公共団体が実施する事業に活用できる寄附金の割合を高められるよう、その割合を60%以上とするとともに、その使途の公表を求める。現行では、ポータルサイト事業者への手数料等が寄附受入額の13%(1,656億円)にも達しており、税制上の控除を利用して集められた公金が、地域の外に流出している状況を是正するものである。 あわせて、高所得者について所得に応じて上限なく増える特例控除額について、定額上限(給与収入1億円相当)が設けられる。 〇防衛力強化と財源確保 わが国の防衛力の抜本的な強化を行うために安定的な財源を確保する観点から、所得税額に対して税率1%の新たな付加税として、防衛特別所得税(仮称)が課される。防衛特別所得税の課税期間は、令和9年1月からとされる。 併せて、現下の家計を取り巻く状況に配慮し、足下で家計負担が増加しないよう復興特別所得税の税率を1%(現行:2.1%)に引き下げる。同時に、復興事業の着実な実施に影響を与えないよう、復興財源の総額を確実に確保する観点から、課税期間を令和29年までの10年間延長する。 〇その他の主要改正事項 ① 住宅ローン控除の拡充 住宅ローン控除については、適用期限を5年間延長した上で、次の見直しが行われる。既存住宅のうち省エネ性能の高い認定住宅・ZEH水準省エネ住宅に係る借入限度額が引き上げられるとともに、子育て世帯等への上乗せ措置の対象が省エネ基準適合以上の既存住宅にも拡充される。 床面積要件について、40㎡に緩和されている特例の適用範囲が既存住宅にも拡充される。また、安全・安心な住まいの実現の観点から、土砂災害などの災害レッドゾーンでの新築(建替えを除く)は適用対象外とされる。 ② 税制上の基準額の点検・見直し 物価の上昇を踏まえ、税制における長年据え置かれたままの基準額について、省庁横断的・網羅的に行った点検の結果をもとに、見直しが行われる。 使用者からの食事の支給により受ける経済的利益について所得税が非課税とされる当該食事の支給に係る使用者の負担額の上限が、月額3,500円から月額7,500円に引き上げられる。 また、使用者が深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭について所得税が非課税とされる1回の支給額も、300円以下から650円以下に引き上げられる。 さらに、マイカー通勤に係る通勤手当の非課税限度額についても見直しが行われ、通勤距離が片道65km以上の者については、距離に応じて45,700円から66,400円までの非課税限度額が新設される。一定の要件を満たす駐車場等を利用する場合には、通勤距離の区分に応じた非課税限度額に1月当たりの駐車場等の料金相当額(5,000円を上限)を加算した金額が非課税限度額とされる。 ③ セルフメディケーション税制の見直し 特定一般用医薬品等購入費を支払った場合の医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)について、次の見直しが行われる。 スイッチOTC医薬品(医療用から転用された一般用医薬品等)の購入の対価に係る部分については適用期限が撤廃され恒久化される。それ以外の医薬品の購入の対価に係る部分については、適用期限が5年延長される。 対象となる医薬品の範囲については、消化器官用薬や一定の生薬を有効成分として含有する鎮咳去痰薬が対象に加えられる一方、痩身又は美容を目的として使用される可能性がある医薬品が除外される(令和9年分以後の所得税について適用)。 ④ 暗号資産取引に係る分離課税化 暗号資産取引に係る課税については、投資家保護のための説明義務をはじめとする健全な取引環境の構築に向けた法整備等への対応を前提に、国民の資産形成に資する暗号資産に限って、その現物取引、デリバティブ取引及びETFから生ずる所得が分離課税の対象とされる。また国民が安心して暗号資産市場に参加できる環境の構築を図る観点から、3年間の繰越控除制度を創設される。 具体的には、居住者等が、暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して特定暗号資産(金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産等に限る)の譲渡等をした場合には、その譲渡等による譲渡所得等については、他の所得と分離して20%(所得税15%、個人住民税5%)の税率により課税される。 本改正は、金融商品取引法の改正法の施行の日の属する年の翌年の1月1日以後に行う特定暗号資産の譲渡等について適用される。 ⑤ 教育資金一括贈与の廃止 教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、これまでの利用の実態や格差固定化の懸念、教育費の無償化や負担軽減の進展、NISAの拡充等も踏まえ、適用期限(令和8年3月末)は延長しないこととされた。 ⑥ NISA制度の拡充 つみたて投資枠の対象年齢を0歳まで拡充する。口座保有者である子が0~17歳の間については、年間投資枠は60万円、非課税保有限度額は600万円とされる。また、子の年齢が12歳以降、子の同意を得た場合のみ、親権者等による払出しが可能とされる。 つみたて投資枠の対象となる指数について、国内市場を対象とした株式指数のうち一定のものを新たに追加するほか、幅広い世代の資産運用ニーズに応える観点から、債券が運用資産の50%を超える投資信託を対象に加える。 ⑦ 極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し 令和5年度税制改正で導入した極めて高い水準の所得に対する負担の適正化に係る措置について、税負担の公平性の確保を図る観点から見直しが行われる。特別控除額を3.3億円から1.65億円に引き下げ、税率を22.5%から30%に引き上げる。本見直しは、令和9年分の所得税から適用される。 ⑧ 事業承継税制の特例承継計画提出期限の延長 法人版事業承継税制(特例措置)については、特例承継計画の提出期限が令和9年9月末まで1年6ヶ月延長される。また、個人版事業承継税制における個人事業承継計画の提出期限も令和10年9月末まで2年6ヶ月延長される。 これらの措置は、中小企業等の経営者の円滑な世代交代を通じた生産性向上という待ったなしの課題を解決するための時限措置であることから、中小企業経営者及び個人事業者には、適用期限の到来を見据え、早期に事業承継に取り組むことが期待される。 なお、適用期限到来後のあり方については、世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念に加えて、本措置の適用状況や課税の公平性等の観点も踏まえて多角的な検討を行い、令和9年度税制改正において結論を得るとされている。 ⑨ 貸付用不動産の評価方法の見直し 貸付用不動産の市場価格と通達評価額との乖離の利用によって相続税や贈与税の税額が大幅に圧縮されている事例が把握されていることを踏まえ、納税者の予測可能性を確保し、評価の適正化及び課税の公平性を図る観点から、関係団体等の意見を聴きつつ、貸付用不動産の評価方法の見直しが行われる。 具体的には、被相続人等が課税時期前5年以内に対価を伴う取引により取得又は新築をした一定の貸付用不動産については、課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価することとされる。課税上の弊害がない限り、取得価額を基に地価の変動等を考慮して計算した価額の80%相当額によって評価することができることとされている。 本改正は、令和9年1月1日以後に相続等により取得をする財産の評価について適用される。ただし、令和9年1月1日前から所有している土地に新築をした家屋については、一定の経過措置が講じられる。 ⑩ グローバル・ミニマム課税への対応 各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税について、移行対象会計年度前の対象会計年度において計上された一定の繰延税金資産又は繰延税金負債をないものとする等の見直しが行われる。 ⑪ 青色申告特別控除の見直し 青色申告特別控除について、適正な申告を確保する観点から、デジタルデータで処理される仕組みやトレーサビリティが確保された帳簿書類の利用を促進するため、次の見直しが行われる(令和9年分以後の所得税について適用)。 55万円控除については、確定申告書等をe-Taxで提出することを要件に加えた上で、控除額が65万円に引き上げられる。さらに、65万円控除については、上記の要件に加えて仕訳帳及び総勘定元帳について電子帳簿保存法に定める一定の要件を満たす電磁的記録の保存等を行っている場合、控除額が75万円に引き上げられる。 一方、10万円控除の対象者からは、前々年分の不動産所得又は事業所得に係る収入金額が1,000万円を超える者が除外される。 (了)
《速報解説》 〔税制上の基準額の点検・見直し〕食事の支給・深夜勤務に伴う夜食の支給・マイカー通勤に係る通勤手当の非課税限度額の引上げ等 ~令和8年度税制改正大綱~ Profession Journal編集部 令和7年12月13日に閣議決定された令和8年度税制改正大綱では、物価の上昇を踏まえ、税制における長年据え置かれたままの基準額について、省庁横断的・網羅的に行った点検の結果をもとに、見直しを行うこととされた。 本稿では、食事の支給、深夜勤務に伴う夜食、及びマイカー通勤に係る通勤手当の非課税限度額の引上げについて解説する。 1 食事の支給に係る非課税限度額の引上げ 使用者からの食事の支給により受ける経済的利益について所得税が非課税とされる当該食事の支給に係る使用者の負担額の上限が、月額3,500円から月額7,500円に引き上げられる。 現行制度では、役員や使用人に対して食事を支給する場合、次のいずれの要件も満たすときには、食事の価額から役員や使用人が負担している金額を差し引いた金額が給与として課税されないこととされている。 今回の改正により、上記②の要件について、使用者の負担額の上限が月額3,500円(現行)から月額7,500円に引き上げられることとなった。 2 深夜勤務に伴う夜食の支給に係る非課税限度額の引上げ 使用者が深夜勤務に伴う夜食の現物支給に代えて支給する金銭について所得税が非課税とされる1回の支給額が、300円以下から650円以下に引き上げられる。 現行制度では、残業又は宿日直をする場合に支給する食事について、無償で支給するものを除き、その価額が1食当たり300円以下(税抜き)であれば、給与として課税されないこととされている。 今回の改正により、この非課税限度額が、1回当たり300円以下(現行)から650円以下に引き上げられることとなった。 3 マイカー通勤に係る通勤手当の非課税限度額の引上げ 通勤のため自動車その他の交通用具を使用することを常例とする者が受ける通勤手当について、次の措置が講じられる。 (1) 通勤距離が片道65㎞以上の者の1ヶ月当たりの非課税限度額の引上げ 現行制度では、通勤距離が片道55㎞以上の者については、一律38,700円が非課税限度額とされている。今回の改正により、通勤距離が片道65㎞以上の者について、以下のとおり非課税限度額が引き上げられることとなった。 (2) 駐車場利用料の加算措置 一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担することを常例とする者の1ヶ月当たりの非課税限度額については、その通勤距離の区分に応じた非課税限度額に1ヶ月当たりの当該駐車場等の料金相当額(5,000円を上限とする)を加算した金額とすることとされる。 (了)