令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 JICPAがサステナビリティ能力開発シラバスを改訂 ~2026年の開始を目指す専門プログラムに関する報告書も公表~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月17日(ホームページ掲載日)、日本公認会計士協会は、「JICPAサステナビリティ能力開発シラバスの改訂について」と、「サステナビリティ能力開発協議会報告書「JICPAサステナビリティ専門プログラムの開始に向けて」」を公表した。 これらは、公認会計士のサステナビリティ能力開発に関する施策に関するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ JICPAサステナビリティ能力開発シラバス シラバスは、公認会計士に求められるサステナビリティ関連の能力開発に関する包括的な指針である。 今回、サステナビリティに関する新たな基準の反映に加え、日本公認会計士協会及び監査法人におけるシラバス運用との整合性を図る観点から、一部内容の更新を行っている。例えば、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)のサステナビリティ開示基準、国際サステナビリティ保証基準(ISSA)5000「サステナビリティ保証業務の一般的要求事項」について記載されている。 Ⅲ JICPAサステナビリティ専門プログラムの開始に向けて 「JICPAサステナビリティ能力開発シラバス」に沿って、「JICPAサステナビリティ専門プログラム」を開発することについて記載している。 サステナビリティ保証業務において中心的役割を担う公認会計士には、サステナビリティ情報の開示・保証に関する十分な専門性を保持することが求められる。 専門プログラムは、公認会計士のうち、特にサステナビリティに関する専門性確保についての社会的要請が高いサステナビリティ保証業務従事者を主たる対象として想定している。 ただし、サステナビリティ情報を作成する役割を担う組織内会計士やサステナビリティに関する経営及び開示を監督する役割を担う社外役員会計士においても、サステナビリティに関する専門性確保のニーズは高まっており、そのような要請も踏まえた内容となるよう設計する。 日本公認会計士協会は、専門プログラムに対応した研修を開発し、会員に対して提供するとのことである。 サステナビリティ能力開発協議会は、研修提供主体が提供する専門プログラム(コアコース・マスターコース)に対応した研修のすべてを受講完了した公認会計士に対し、修了の申請に基づき各コースを修了したことを証明する修了証を交付する。 専門プログラムは2026年に開始することを目指しているとのことである。 (了)
《速報解説》 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関する中間論点整理等が公表される ~第三者保証制度の導入時期や当初の保証範囲等の大きな方向性を整理~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月17日、金融庁の金融審議会から、「金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」中間論点整理」が公表された。 これは、サステナビリティ情報の開示と保証のあり方について検討したものであり、なお引き続き検討を続けるべき事項が残されているものの、サステナビリティ開示基準の適用開始時期、第三者保証制度の導入時期や当初の保証範囲等大きな方向性についてはメンバー間の賛同が得られたとのことである。 また、同日、日本公認会計士協会から、「会長声明「金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ中間論点整理の公表に当たって」が発出されるとともに、サステナビリティ情報開示・保証業務特別委員会「サステナビリティ情報開示・保証のあるべき姿の検討-サステナビリティ情報の信頼性確保に向けて-」も公表された。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 中間論点整理 主な内容は以下のとおりである。 全体像については、「サステナビリティ開示基準の適用及び保証制度の導入に向けたロードマップ」が公表されている。 1 適用対象企業及び開始時期 サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の公表したサステナビリティに関する開示基準(SSBJ基準)の適用は、企業等の準備期間を考慮し、次のようなスケジュールによる適用開始を基本とし、③の適用時期は、国内外の動向等を注視しつつ、引き続き検討していく。 時価総額5,000億円未満の企業へのSSBJ基準の適用については、企業の開示状況や投資家のニーズ等を踏まえて、今後検討する。 時価総額の算定方法については、流通市場における株式時価総額の過去5年間の平均等を参考としつつ、例えば、プライム市場上場後5年を経過していない場合、組織再編があった場合、5事業年度の株式時価総額の平均値が5,000億円を下回った場合等においても的確に対応できるような株式時価総額の算定方法について、金融庁において検討を行うべきであるとしている。 経過措置としての二段階開示は、「半期報告書の提出期限までに」訂正報告書により二段階目の開示を行うこととすることが適当であるとされており、その適用期間は適用開始から2年間とすることが適当であるとされている。 現行制度上の有価証券報告書の提出期限は事業年度経過後3月以内とされているが、財務諸表監査に加えてサステナビリティ情報の第三者保証への対応が必要になることを踏まえれば、諸外国の年次報告書の公表期限を参考に、事業年度経過後4月以内に延長することも考えられるが、有価証券報告書の提出期限の延長については引き続き検討していく。 2 第三者保証制度の導入時期及び保証範囲 開示基準の適用開始時期の翌年から、第三者保証を義務付ける。 第三者保証制度の適用開始時期から2年間は、有価証券報告書におけるサステナビリティ関連財務開示のうち、Scope1及びScope2のGHG排出量に関する情報、ガバナンス並びにリスク管理に対する第三者保証を義務付けることとし、3年目以降については国際動向等を踏まえ、今後検討することが適当である。 保証の水準は限定的保証とし、合理的保証への移行の検討は行わないことが適当である。 保証の担い手については引き続き検討していく。 Ⅲ サステナビリティ情報開示・保証業務特別委員会の報告書 サステナビリティ情報開示、サステナビリティ保証業務に関する論点について検討している。 保証品質の確保を達成するに当たっては、高品質な保証業務を提供するプロフェッショナルである監査法人が、保証業務実施者として重要な役割を担っていくと考えられるとしている。 (了)
《速報解説》 会計士協会、6/30時点施行の法令・会計基準等に基づき 「第1四半期又は第3四半期の四半期決算短信に含まれる四半期連結財務諸表等に関する表示のチェックリスト」を改正 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年7月17日、日本公認会計士協会は、「第1四半期又は第3四半期の四半期決算短信に含まれる四半期連結財務諸表等に関する表示のチェックリスト」(中小事務所等施策調査会研究報告第10号)の改正を公表した。 これは、監査事務所が期中レビューにおいて、表示の確認を実施する際の参考となるチェックリストである。 研究報告は監査事務所における利用を想定しているが、財務諸表の作成者も利用可能である。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 研究報告は、2025年6月30日時点で施行されている法令や会計基準等に基づいて作成している。 このため、法令や会計基準等の改正が実施された場合には、その改正事項を考慮した上で使用する必要がある。 また、2025年6月6日に、金融庁から「『財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)』等の公表について」が公表されているが、2025年6月30日時点では確定していないため、研究報告には反映していない。 「金融商品会計に関する実務指針」(移管指針第9号。2025年3月11日改正)、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を早期適用する場合には、上記の公開草案の動向に留意する。 (了)
2025年7月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.627を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第141回】 「日本企業の海外展開動向を踏まえた国際課税制度のあり方」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 〇経済産業省研究会が報告書公表 経済産業省は6月30日、「日本企業の海外展開動向を踏まえた国際課税制度のあり方に関する研究会」の最終報告書を公表した。同研究会は、経済産業政策局投資促進課が主管し、学者、実務専門家、企業関係者が参加して、昨年11月から5月までの合計4回に及ぶ会合開催を経て、報告書を取りまとめた。 昨今の経済のグローバル化やデジタル化の進展により日本企業の海外展開が加速し、直接投資による収益が拡大している。これを背景として、外国子会社合算税制(CFC税制)とグローバル・ミニマム課税をはじめとした国際課税制度について、日本企業の国際競争力の維持・向上の阻害要因とならないよう、改めて課題等を整理し、今後のあり方を検討したものである。 特に、CFC 税制における主な課題として、制度趣旨の不明確さ、合理的な経済活動の実体がある外国子会社への過剰課税、グローバル・ミニマム課税とCFC税制の併存による膨大な事務負担を整理した上で、各課題の解決のためのCFC税制の見直しの方向性が示されている。また、諸外国の税制措置とグローバル・ミニマム課税の関係についても、現状が整理されている。 〇制度の変遷 わが国のCFC税制は、外国子会社等を利用した租税回避を防止するため、外国子会社等の活動実体に基づかない所得を日本親会社等の所得に合算して法人税を課税する制度で、制度創設は昭和53年度税制改正に遡る。 当時、いわゆるタックスヘイブンに子会社等を設立し、これを利用して税負担の不当な軽減を図る事例が見受けられたため、所要の立法措置が必要であったことが理由である。当初は指定された軽課税国等に所在する外国子会社等を対象として合算課税する制度であったが、平成4年度税制改正において、個々の外国子会社が合算対象に該当するか否かを租税負担割合(トリガー税率)で判定する制度に変更された。その後も幾度となく制度変更が加えられており、主な改正内容は下記【表1】のとおりである。 制度目的としては、内国法人に配当せずに外国子会社等に利益を留保することによる課税繰延の防止であったものの、平成21年度税制改正により、外国子会社配当益金不算入制度が導入されたことから、CFC税制の目的を課税繰延の防止と捉えることは困難となった。そのため、令和5年6月の税制調査会答申では、CFC税制は軽課税国への所得移転を租税回避として、それに対応するという意義を持つようになった。 つまり、CFC税制は経済的な実体の乏しい子会社等を用いた租税回避に対処することを目的とする。これに対して、グローバル・ミニマム課税は、各国共通の最低税率の導入により法人税引下げ競争に歯止めをかけることを目的とするものであり、両者は目的を異にする別個の仕組みであると整理され、国際的なルールにおいても、両制度は併存するものと位置づけられている。 【表1:主なCFC税制の改正内容(報告書より抜粋)】 〇CFC税制の課題と見直しの方向性 報告書では、日本企業の外国子会社数や外国子会社における売上高及び経常利益は増加傾向にあることから、合理的な経済活動の実体のある外国子会社の所得が、日本親会社においてCFC税制の合算課税の対象となるケースが生じていること、平成29年度税制改正に伴い制度判定の対象となった外国子会社数の増加により、CFC税制に係る企業の事務負担が増大していること、グローバル・ミニマム課税の導入による膨大なコンプライアンスコストが生じていることを背景として、制度見直しの必要性が指摘されている。主な課題と見直しの方向性については、それぞれ次のとおりである。 (1) 制度趣旨が不明確 近年の最高裁判決では、租税回避防止に加え、法的安定性や予測可能性の確保を重視する考えが示されているが、制度上で設定された判定基準等とビジネスの現状に乖離が生じているとすれば、当該判定基準等に基づき形式的に課税対象が判定されることにより、本来の制度趣旨に反して課税されることが懸念される。 現在のCFC税制は、経済的な実体の乏しい子会社等を用いた租税回避に対処することを目的とし、基本的には軽課税国への所得移転による日本の課税ベースの浸食を防止するものと整理できると考えられる。そのため、日本の課税ベースを浸食していないことが明らかであるにもかかわらず、合算対象となっているケースについては、優先的に取扱いの見直しを検討する必要がある。 例えば、海外M&Aにより取得した外国関係会社において、買収完了前に既に生じていた所得が買収後に実現したと考えられる場合については、明らかに日本の課税ベースを浸食していない。 他方で、買収価格にはその所得分も織り込まれていると考えられるため、その所得分にも合算課税がなされれば、二重で支出が生じる結果となりかねない。実際に、日本企業が海外M&Aを行う場合において、買収に伴い生じるCFC課税が要因となって買収を断念したケースが報じられている。 (2) 過剰課税の発生 企業からは、特に現地進出・撤退時の取扱いや経済活動基準等の判定において、海外での事業活動が阻害されている可能性が指摘されている。例えば、海外M&Aによる現地企業の取得におけるPMI特例について、買収後資本関係の整理に着手するまでに長期間を要し、さらに整理の際に現地で必要な手続にも時間を要すること等から、ペーパーカンパニー等の整理にあたって生じる株式譲渡益の控除が認められる買収日等から原則として2年以内の事業年度という期間要件を満たせないケースが多いなど、厳格な要件の見直しが求められる。 また、現地事業からの撤退時において、通常は清算手続により外国子会社を解散し、法人格が消滅するのが一般的であるが、現地法令上必要とされる手続に長期間を要することも多い。この点、清算中の外国関係会社について、清算前は事業を行っていて経済実体を有しCFC税制の適用対象外であったものの、清算プロセスの過程における事業用資産の売却や従業員の解雇等により経済実体を失い、清算事業年度においてCFC税制上のペーパーカンパニーと判定され、清算事業年度に生じたあらゆる所得が全部合算の対象となるケースがある。 加えて、清算事業年度前の事業年度において生じた欠損金額を控除することは認められないほか、最終局面において日本親会社等による債務免除が行われる場合に、外国子会社に形式的に生じる債務免除益が、経済的な実質が乏しいにもかかわらず、CFC税制の下で合算対象となるケースがある。このため、清算中の外国関係会社の取扱いや適切な課税範囲について見直しを行う必要があると考えられる。 経済活動基準等については、グループ単位では合理的な経済活動を行っているにもかかわらず、また、日本からの所得移転といった問題は生じていないにもかかわらず、独立した企業としての実体が厳格に求められることで管理支配基準を満たせない場合には、合算課税の対象となる可能性が生ずる。現地統括会社傘下に複数国の子会社が存在するケースや、国・地域単位ではなく事業セグメント単位等で経営を行うケースなど、ビジネスの実態と制度に乖離が見られることから、合理性が客観的に認められる場合については、管理支配基準の充足を認める取扱いを明確にすることが考えられる。 さらに、中間SPCなどを含め、ペーパーカンパニー特例が認められる範囲の拡大や、形式的に事実上のキャッシュ・ボックスと判定されるケースに対する措置を検討することも考えられる。 (3) 事務負担の増大 判定対象となる外国関係会社数が大幅に増加する中、CFC税制に係る業務プロセスにおいて、サブ連結子会社(孫会社)まで含めた必要情報の入手、現地税法への理解などに相当な負担が生じている現状がある。また、合算所得が生じない外国関係会社についても申告書作成や書類添付等に膨大な作業を強いられている。 例えば、大規模な海外展開を行っている企業や、事業上の必要性からペーパーカンパニーを活用した海外展開を行っている企業の多くはグローバル・ミニマム課税の適用対象企業であるが、これらの企業では、特に事務負担が大きく、判定対象となる外国関係会社の絞り込みによる事務負担の軽減が必要であると考えられる。 現在の本邦法人税の実効税率約30%の半分であることや、グローバル・ミニマム課税において基準税率が15%と国際的に合意されたこと等を踏まえ、適用免除税率を現行の20%以上から15%以上に引き下げることにより、大幅な実務負担の軽減が見込まれる。 加えて、グローバル・ミニマム課税(IIR)とCFC税制は、目的を異にする別個の仕組みであると整理されている一方で、親会社等において外国子会社等の所得に対して課税するという点で類似する性質を有することから、可能な限り両制度の共通化を図ることも考えられる。 報告書では、その他に内国法人の取扱いの整合性や他国のCFC課税との二重適用の問題、機動的なグループ内再編の阻害防止、税務調査における課題なども列挙されている。 グローバル・ミニマム課税の導入も背景に、諸外国での制度改正を含めて、日本企業を取り巻く国際課税環境に大きな変化が生じていることから、CFC制度の重要性を再認識しつつも、国際課税制度が日本企業の国際競争力を阻害することのないよう、ビジネスの実態を踏まえてCFC税制の見直しを行い、過剰課税や過度なコンプライアンスコストを軽減することが必要である。 (了)
令和7年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 Ⅱ スピンオフ等に伴うグループ通算離脱時の分配割合等の計算の見直し 1 改正の概要 通算法人の株主がその通算法人の行った株式分配により完全子法人の株式等の交付を受けた場合の所有株式の譲渡損益の計算の基礎となる完全子法人株式対応帳簿価額等について、株式分配の直前の所有株式の帳簿価額に乗ずる割合等につき、その分母及び分子に簿価修正相当額の金額を加減算する等の見直しを行う(分割型分割に係る分割割合の計算についても同様の見直しを行う。法令8①十五・十七・②、23①二・三・②、119の8、119の8の2、法規8の2の3②、8の5の2②)。 [スピンオフ等に伴うグループ通算離脱時の分配割合等の計算の見直し] [グループ通算離脱を伴うスピンアウトの分配割合計算上の課題と改正の目的] ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 これは、次の【ケース1】【ケース2】【ケース3】のように、通算子法人のスピンオフのために行われる株式分配又は分割型分割で適用される取扱いとなる。 【ケース1】通算親法人が通算子法人株式を株式分配(スピンオフ)するケース ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【ケース2】通算親法人が通算子法人株式を分割型分割(スピンオフ)するケース ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【ケース3】通算子法人が他の通算子法人株式を分割型分割(スピンオフ)するケース ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【ケース1】の株式分配によるスピンオフが行われる場合、通算親法人の株主において、スピンオフ後の完全子法人株式の取得価額及び通算親法人株式の取得価額の計算や通算親法人株式の譲渡損益の計算(金銭等交付株式分配の場合に発生する)を行う際に、その計算要素として、通算親法人から通知される分配割合が必要となる。 ただし、通算親法人が分配割合を計算するためには、投資簿価修正後の完全子法人株式の帳簿価額を計算する必要がある。 しかし、その完全子法人(離脱法人)において離脱直前事業年度(離脱日の前日を終了日とする事業年度)に係る確定申告書の作成が完了しない限り、通算親法人において完全子法人株式(離脱法人株式)の投資簿価修正額は計算できない。 そのため、スピンオフが行われた日である離脱日から相当の期間が経過してから、通算親法人はその株主に分配割合を通知することとなるため、結果、通算親法人の株主において、スピンオフに係る課税関係の確定や確定申告が速やかにできない、あるいは、いったん確定申告をしておいて分配割合が通知された後に修正申告を行わざるを得ないという問題が生じていた。 そこで、令和7年度税制改正において、分配割合の計算において、投資簿価修正額ではなく、それに相当する金額(簿価修正相当額)を使用することとし、その簿価修正相当額を離脱法人の前期末の簿価純資産価額に基づき計算できるように改正が行われることとなった。 また、【ケース2】【ケース3】の分割型分割によるスピンオフにおける分割割合の計算についても同様の改正が行われた。 この改正は、令和7年4月1日以後に行われる分割型分割及び株式分配について適用される(令7改法令附5、6)。 (続く)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第73回】 「課税要件明確主義と『不相当に高額な部分の金額』」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 課税要件明確主義 租税法律主義とは憲法84条を根源とする考え方であり、「法律の根拠に基づくことなしには、国家は租税を賦課・徴収することはできず、国民は租税の納付を要求されることはない」と説明されている。そして租税法律主義の内容として「『課税要件法定主義』、『課税要件明確主義』、『合法性原則』および『手続的保障原則』の4つ」があり、このうち課税要件明確主義は、「法律またはその委任のもとに政令や省令において課税要件および租税の賦課・徴収の手続に関する定めをなす場合に、その定めはなるべく一義的で明確でなければならない」という内容であるとされている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)77頁、80頁、84頁。 役員給与の論点においてこれを考える場合、法人税法34条2項の「不相当に高額な部分の金額」という部分は、課税要件明確主義に反しているかどうかということが問題となると思われる。 なお、この点に関して、「中間目的ないし経験概念を内容とする不確定概念であって、これは一見不明確に見えても、法の趣旨・目的にてらしてその意義を明確になしうるもの」であれば、法の解釈の問題であり課税要件明確主義に反しないと整理されることもあるため(※2)、役員給与に関して争われた裁判例に触れながらみていこう。 (※2) 金子・前掲(※1)85頁。 (2) 法人税法34条2項の合憲性が争われた事例 法人税法34条2項の合憲性の判断を裁判所が示した最近の事例として、東京地裁平成28年4月22日判決がある(※3)。いわゆる残波事件と呼ばれる著名裁判例であり、本連載でも時折触れている。本稿では、合憲性の論点に絞ってこの裁判例の概要を紹介する。 (※3) 税務訴訟資料266号順号12849。なお、控訴及び上告がなされているが、納税者の違憲の主張に関しては、高裁は地裁判決の判断を支持し、最高裁は上告を棄却等しているため、ここでは地裁判決を取り上げている。東京高裁平成29年2月23日判決(税務訴訟資料267号順号12981)、最高裁平成30年1月25日決定(税務訴訟資料268号順号13118)。 この裁判例は、法人税法34条2項の合憲性について裁判所が正面から示したという意味でも意義があるといえる。納税者は、同業類似法人における役員給与の支給状況を用いなければ職務対価相当額が導かれないのであれば、納税者の予測可能性が害された違憲の課税である旨を主張したが、上記の通りこの主張は退けられている。 なお、本件裁判例に関しては、「課税要件明確主義違反になるかどうかの判断をこのような議論ですましてよいのか、検証過程に疑問なしといえない」とする批判がある(※4)。 (※4) 木山泰嗣「判決から読む憲法解釈第41回 過大役員給与規定と租税法律主義」税理60巻(2017)6号105頁。 他にも、同様に憲法84条が争点となった裁判例として、名古屋地裁平成6年6月15日判決がある(※5)。こちらも同様に「不相当に高額な部分の金額」について違憲か否かが争点となっているため、この点に絞って概要を紹介する。 (※5) 税務訴訟資料201号485頁。なお、控訴及び上告がなされているが、納税者の違憲の主張に関しては、高裁は地裁判決の判断を支持し、最高裁は上告を棄却しているため、ここでは地裁判決を取り上げている。名古屋高裁平成7年3月30日判決(税務訴訟資料208号1081頁)、最高裁平成9年3月25日判決(税務訴訟資料222号1226頁)。 この裁判例も、裁判所によって納税者の違憲主張が退けられている。納税者は、法人税法34条1項に規定する「不相当に高額な部分の金額」という要件は、納税者が具体的に判断できるだけの明確性を備えていなければならないが、積極的に定義づけることが困難な概念である等と主張した。しかし、結果は上記の通りであり、納税者が判断し難いと主張したことに対しては、申告時において納税者が判断可能であるとして切り捨てられている。 なお、この裁判例に関する評釈において、現在の法人税法34条2項について、「職務執行の対価として相当かどうかのみで判定されるべきである」と指摘した上で「税法典から排除すべきである」という批判的意見がある(※6)。 (※6) 齋藤滋「不相当に高額な役員給与に関する公正基準」租税訴訟9巻(2016)386頁。 (3) 裁判所の姿勢と実務上の対応 これらの裁判例は、いずれも、納税者が予見可能性の困難さから違憲であると主張したところ、納税者の予見可能性がある程度担保されている等として退けられている。また、不相当に高額な役員給与の論点が争点となった事例において、納税者が違憲性の主張まで行うケースは他にもみられるが、同旨の内容が示されている(※7)。 (※7) 例えば、札幌地裁平成11年12月10日判決(税務訴訟資料245号703頁)、東京地裁平成29年10月13日判決(税務訴訟資料267号順号13076)等がある。 役員給与の論点以外にも、納税者と課税庁との間で争いとなり、それが憲法問題となるケースは存在しており、例えば、最高裁昭和60年3月27日判決では(※8)、「租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである」と判示している。そして、この最高裁判決が現れたことで、「それが判例法として機能し、各裁判所は違憲判断について極めて慎重になっている」という指摘があり(※9)、役員給与の論点においても同様となっていると思われる。 (※8) 税務訴訟資料144号936頁。この事例は、給与所得者と事業所得者等との間における取扱いの差が不平等ではないかという納税者の主張がなされ、所得税法28条について憲法14条違反の有無が争われた事例である。 (※9) 品川芳宣「役員報酬(給与)・役員退職給与の相当額(過大額)の認定」T&A master 2016年9月26日号。 この問題に関しては、上記批判的意見の他にも「課税要件明確主義からすると法人税法34条及び同法施行令69条1号自体が違憲と解される」という指摘等があり(※10)、引き続き議論の発展が待たれるところである。納税者においては、同業類似法人の実情を事前に完全に把握することは難しいという実情があると思われるが(※11)、実務上は当該実情を踏まえた対応が行われている。特に、「不相当に高額な部分の金額」の論点が問題となる場合、役員退職給与の損金算入の可否について争う場面が多いと思われるが、この場合には功績倍率法による妥当な水準で支給することが標準的な対応となっているだろう。 (※10) 三木義一『現代税法と人権』(勁草書房、1992)222頁。 (※11) この点について、「有価証券報告書などでデータを知りうる公開会社などは別として、競争会社に『御社の役員報酬はいくらですか』ときくようなことは非常識であろう。まして、類似企業のない、あるいは遠隔の地にしかないというような事業の場合、企業の立場としては無理な場合が多いのである」という、中小企業における実態の核心を突くような批判も古くから存在している。平石雄一郎「経営対価の過大認定化傾向とその対抗理論」税理30巻(1987)14号38頁。 (了)
給与計算の質問箱 【第67回】 「事前確定届出給与を2回以上支給する場合の注意点」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 事前確定届出給与を2回以上支給する場合の注意点についてご教示ください。 A 以下に解説する。 * * 解 説 * * 1 同一事業年度に2回以上支給する場合 1回でも不支給や一部支給があれば、事前確定届出給与に関する届出書通りに支給した事前確定届出給与も含めて損金不算入になる。 〈具体例〉 2 事業年度をまたいで2回以上支給する場合 当期において事前確定届出給与に関する届出書通りに支給すれば、翌期に不支給や一部支給であっても、当期の事前確定届出給与だけは損金算入できる。 一方、当期において不支給や一部支給があれば、翌期に事前確定届出給与に関する届出書通りに支給しても、翌期も含め損金不算入になる。 〈具体例〉 (了)
相続税の実務問答 【第109回】 「遺産分割期限の延長が認められるやむを得ない事情の承認申請者」 税理士 梶野 研二 [答] あなたは、相続税の申告期限から3年が経過する日の翌日から2ヶ月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出しておらず、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割ができなかったやむを得ない事由について税務署長の承認を受けていません。たとえ、妹さんがやむを得ない事由の承認を受けており、そのやむを得ない事由があなたと共通のものであったとしても、あなたの特例の適用に関して税務署長の承認を得ているわけではありませんので、あなたが審判の確定により取得することとなった自宅建物の敷地について小規模宅地等の特例を適用することはできません。 なお、妹さんは、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出し、税務署長の承認を受けていることから、審判があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることによりアパートの敷地について小規模宅地等の特例を適用することができます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 未分割の宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用 (1) 申告期限において、宅地等の分割がされていない場合 被相続人又は被相続人と生計を一にしていた当該被相続人の親族の居住の用又は事業の用に供されていた宅地等(以下「特例対象宅地等」といいます)であっても、相続税の申告書の提出期限(以下「申告期限」といいます)までに共同相続人又は包括受遺者によって分割されていないものについては、租税特別措置法第69条の4第1項に規定する「小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例」(以下「小規模宅地等の特例」といいます)を適用することはできません(措法69の4④本文)。 ただし、その分割されていない宅地等が、申告期限から3年以内に分割された場合には、その分割された宅地等については、この特例を適用することができます(措法69の4④ただし書き)。申告期限において未分割の宅地等について、3年以内に分割し、小規模宅地等の特例を適用しようとする場合には、相続税の申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付しておきます(措法69の4⑦、措規23の2⑧六)。 (2) 申告期限から3年以内に宅地等の分割がされていない場合 相続税の申告期限から3年が経過するまでに分割されていない特例対象宅地等については、上記(1)のとおり、原則として、小規模宅地等の特例を適用することができません。 しかしながら、特例対象宅地等が申告期限から3年を経過するまでに分割されなかったことについて一定のやむを得ない事情がある場合に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」(以下「承認申請書」といいます)を所轄税務署長に提出し、その承認を受けたときには、未分割であった特例対象宅地等の分割ができることとなった日から4ヶ月以内に分割がされれば、その特例対象宅地等について小規模宅地等の特例を適用することができることとされています(措法69の4④ただし書きのかっこ)。 2 遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書 上記1の承認申請は、相続税の申告期限から3年を経過する日の翌日から2ヶ月以内に、遺産分割により取得することとなる特例対象宅地等について小規模宅地等の特例を適用する可能性のある相続人等が、それぞれ提出します(措令40の2㉓、相令4の2)。相続税の申告期限から3年を経過した後に行われた遺産分割により、小規模宅地等の特例の適用要件を満たす宅地等を取得することができたとしても、この承認申請を行わなかった者は、小規模宅地等の特例を適用することはできません。 なお、同特例の適用を受ける相続人等が2人以上いるときは、実務的には、「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の様式(国税庁ホームページ)の「〇相続人等申請者の住所・氏名等」欄に各相続人等が連署して、税務署長に申請することが多いと思われますが、他の相続人等と共同して提出することができない場合は、各相続人等が別々に申請書を提出することとなります。 3 ご質問の場合 あなたは、相続税の申告書の提出期限から3年を経過した日の翌日から2ヶ月以内に承認申請書を提出していませんし、妹さんが提出した承認申請書にもあなたの住所氏名の記載はなかったとのことです(※)。そうしますと、たとえ、妹さんが税務署長の承認を受けたやむを得ない事由があなたと共通のものであったとしても、あなたの特例の適用に関して、あなたがやむを得ない事由がある旨の税務署長の承認を得ているわけではありませんので、あなたが審判の確定により取得した自宅建物の敷地について小規模宅地等の特例を適用することはできません。 なお、妹さんは、承認申請書を提出し、税務署長の承認を受けていることから、取得したアパートの敷地が貸付事業用宅地等に該当すれば、審判があったことを知った日の翌日から4ヶ月以内に更正の請求をすることにより小規模宅地等の特例を適用することができます。 (※) 妹さんが提出した「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」の「〇相続人等申請者の住所・氏名等」欄にあなたの住所氏名が記載されていたならば、あなたも妹さんとともに承認申請を行ったこととなります。ただし、この場合、あなたの承認申請の意思が前提であり、明示又は黙示によるあなたの意思がなく、同欄にあなたの住所氏名が記載されていた場合については、厳密にいえば、あなたの承認申請が有効ではないといえます。なお、令和3年度の税制改正(税務関係書類における押印義務の見直し)を受けて、令和3年4月1日付課資6-11による資産税事務提要(様式編)の改正により、同様式の「相続人等申請者の住所・氏名等」欄の押印が廃止されました。この結果、主たる申請者以外の相続人等の連署の認識が希薄になったのではないかと思われます。 (了)