令和7年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和7年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 期中財務諸表に関する会計基準(案)及び同適用指針(案)が公表される ~中間会計基準及び四半期会計基準等を統合、意見募集は6月30日まで~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年4月23日、企業会計基準委員会は、「期中財務諸表に関する会計基準(案)(以下「期中会計基準(案)」という)」(企業会計基準公開草案第83号)等を公表し、意見募集を行っている。 上場会社及び財務諸表利用者から中間決算と四半期決算は同じ会計基準等に基づいて行うべきであるとの意見が聞かれていたことから、「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)と「四半期財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第12号)などについて、統合した会計基準等とし、「期中財務諸表に関する会計基準(案)」及び「期中財務諸表に関する会計基準の適用指針(案)」などとして開発するものである。 意見募集期間は2025年6月30日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針 同じ企業が作成する期中財務諸表であるにもかかわらず金融商品取引法と金融商品取引所の定める規則のいずれに基づくかにより会計処理に不整合が生じることは適切ではないと考えられることから、次の考え方を採用している(期中会計基準(案)BC14項~BC18項)。 Ⅲ 範囲 期中会計基準(案)は、期中財務諸表を作成する場合に適用する(期中会計基準(案)3項)。 ただし、第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表については、「中間連結財務諸表作成基準」、「中間連結財務諸表作成基準注解」、「中間財務諸表作成基準」及び「中間財務諸表作成基準注解」を適用する。 金融商品取引法に基づく半期報告書において開示される第二種中間連結財務諸表及び第二種中間財務諸表については、従前より中間作成基準等が適用されており、引き続き中間作成基準等が適用される(期中会計基準(案)3項)ため、期中会計基準(案)の適用対象となる期中財務諸表には含まれない(期中会計基準(案)BC22項)。 また、臨時計算書類については、期中会計基準(案)の適用対象とする期中財務諸表には含まれないと考えられている(期中会計基準(案)BC22項)。 Ⅳ 定義 例えば、次の定義が規定されている(期中会計基準(案)4項)。 Ⅴ 期中連結財務諸表の範囲 期中連結財務諸表の範囲は、「包括利益の表示に関する会計基準」(企業会計基準第25号)に従って、1計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益及び包括利益計算書、並びに期中連結キャッシュ・フロー計算書とする(期中会計基準(案)5項)。 また、2計算書方式による場合、期中連結貸借対照表、期中連結損益計算書、期中連結包括利益計算書及び期中連結キャッシュ・フロー計算書とする。 期中個別財務諸表の範囲は期中会計基準(案)6項に規定されている。 Ⅵ 会計処理 次のように規定されている(期中会計基準(案)9項、10項、14項)。 Ⅶ 有価証券の減損処理などの個別の項目 前述の「Ⅱ 開発にあたっての基本的な方針」で述べた原則に照らして、個別に検討を行った項目は次のとおりである(期中会計基準(案)BC16項)。 有価証券の減損処理及び棚卸資産の簿価切下げに係る方法については、洗替え法が原則とされている(期中適用指針(案)4項、7項)。 ただし、期中適用指針(案)の適用前に「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第32号)又は「四半期財務諸表に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第14号)に基づき切放し法を適用していた場合には、継続して切放し法を適用することができる(切放し法を適用する場合には、その旨を注記する)。 期中会計基準(案)は、上記の個別に検討を行ったものを除いて、基本的に「四半期財務諸表に関する会計基準」等と「中間財務諸表に関する会計基準」等の定め及び考え方を引き継いでいる(期中会計基準(案)BC17項)。 このため、期中会計基準(案)の開発にあたり再検討を実施せずに考え方を引き継いでいるものについては、「四半期財務諸表に関する会計基準」等及び「中間財務諸表に関する会計基準」等の結論の背景をそのまま引用することが考えられる(期中会計基準(案)BC17項)。 Ⅷ 期中財務諸表の科目の表示 次のように規定されている(期中会計基準(案)21項、22項)。 Ⅸ 注記事項 重要な会計方針について変更を行った場合に関する事項、セグメント情報等に関する事項、収益の分解情報に関する事項などについて規定されている(期中会計基準(案)24項)。 Ⅹ 6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合 第一種中間財務諸表及び四半期財務諸表に共通の取扱いと、四半期財務諸表のみに適用される取扱い(6ヶ月ごとより高い頻度で期中財務諸表を作成する場合の固有の取扱い)を区分し、6ヶ月ごとより高い頻度で期中会計基準(案)に従い期中財務諸表を作成する場合には、期中会計基準(案)28項から33項に定める事項を除いて、期中会計基準(案)9項から26項を適用するとされている(期中会計基準(案)27項、BC18項(1))。 例えば、期中キャッシュ・フロー計算書の開示の省略について規定されている(期中会計基準(案)33項)。 Ⅺ 適用時期等 20XX年4月1日[公表後最初に到来する年の4月1日を想定している]以後開始する連結会計年度及び事業年度の最初の期中会計期間から適用する(期中会計基準(案)34項)。 期中会計基準(案)の適用初年度において、期中会計基準(案)の定めに従い会計方針を変更する場合には、新たな会計方針を適用初年度の最初の期中会計期間から将来にわたって適用する(期中会計基準(案)35項)。 (了)
2025年4月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.616を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第48回】 「所得税法56条の解釈適用に関する2つのアプローチ」 -所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件に係る各審級裁判所の判断の比較検討- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 今回は、所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件を取り上げ、所得税法56条の解釈適用について、同事件の第一審・東京地判平成15年7月16日判時1891号44頁(以下「平成15年東京地判」という。なお、同判決は「国破山河在」(杜甫)に擬えて「国敗れて[東京地裁民事]三部あり」といわれた藤山判決(藤山雅行裁判官)の1つである)と、控訴審・東京高判平成16年6月9日判時1891号18頁(以下「平成16年東京高判」という)及びこれを是認した上告審・最判平成17年7月5日税資255号順号10070(以下「平成17年最判」という)とを比較検討することにする。平成17年最判は、所得税法56条の解釈適用については所得税法56条弁護士「夫婦」事件・最判平成16年11月2日訟月51巻10号2615頁(以下「別件平成16年最判」という)を参照しているので、この判決も上記の比較検討において考察の対象とすることにする。 上記の2つの事件で争点となったのは、所得税法56条が「居住者と生計を一にする配偶者その他の親族」として定める要件(以下「家族同一生計要件」という)と、「その居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合」として定める要件(以下「家族事業稼得要件」という)という2つの要件の解釈適用である。 これらの要件は所得税の課税単位とも関連する内容をもつので、前記各判決の比較検討に入る前に、ここで、課税単位に関して家族同一生計要件と家族事業稼得要件の位置づけを行っておくことにする。 課税単位とは、所得税の場合には、「税額算定の基礎となる人的単位あるいは担税力の測定単位」(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【202】)をいうが、所得税における課税単位の制度設計については、大別すると、個人単位主義、夫婦単位主義及び家族単位主義という3つの類型が従来から議論されてきた(わが国における代表的な研究として、金子宏「所得税における課税単位の研究」同『課税単位及び譲渡所得の研究 所得課税の基礎理論 中巻』(有斐閣・1996年)1頁[初出・1977年]参照)。また、課税単位の類型は、所得概念論の観点から、取得型所得概念を前提として稼得単位主義と、所得の使途のうち「消費」に着目して消費単位主義とに分類されることもある(ただ、後者は夫婦単位主義及び家族単位主義と結びつけて論じられることが多いが、この点については金子・前掲論文4-6頁、前掲拙著【203】参照)。 わが国の所得税は、明治20年(1887年)の創設以来、家族単位主義を採用してきたが、第二次世界大戦後、昭和24年(1949年)のシャウプ勧告を受けて翌年の所得税法改正によって個人単位主義を採用し今日に至っている(所税2条1項3号~5号参照)。ただし、所得税法56条は個人単位主義の例外として一種の家族単位主義を採用したものと解される(前掲拙著【205】参照。金子・前掲論文42頁は「わが国の制度は、個人単位主義をとりつつも、・・・・・・家族に支払う対価の必要経費不算入(所得税法56条)によって、家族単位主義の要素を加味したものとなっている。」とする)。このような理解は、岡山地判平成12年9月19日税資248号749頁(以下「平成12年岡山地判」という)の次の判示(下線・傍点筆者)でも示されているところである。 ところで、個人単位主義については、稼得単位主義と消費単位主義のいずれによっても、課税単位の制度設計に違いが生ずることはないのに対して、夫婦単位主義や家族単位主義については、稼得単位主義と消費単位主義のいずれによるかで課税単位の制度設計に違いが生ずる場合があり得る。所得税法56条の適用場面はまさにそのような場合である。所得税法56条が採用する家族単位主義について、(1)稼得単位主義の観点から解釈適用を行うか又は(2)消費単位主義の観点から解釈適用を行うかで、同条の解釈適用の結果に違いが生ずるのである。その違いが平成15年東京地判と平成16年東京高判及び平成17年最判との結論の違いに帰結したと考えるところであるが、以下では、このことを本件各審級裁判所の判断の比較検討を通じて明らかにすることとする。 その際、所得税法56条において消費単位主義は家族同一生計要件として、稼得単位主義は家族事業稼得要件として具体化され要件化されているとの理解の下に、上記(1)を「家族事業稼得要件重視アプローチ」、上記(2)を「家族同一生計要件重視アプローチ」とそれぞれ呼ぶことにする(田中治「親族が事業から受ける対価」税務事例研究77号(2004年)25頁は家族事業稼得要件を単に「事業要件」、家族同一生計要件を単に「生計要件」と呼び、両要件は「法56条の解釈適用においてその比重が違うというべきである」(36頁)と述べているが、結論はともかく着眼点には本稿と共通するところがある)。 Ⅱ 家族事業稼得要件重視アプローチと家族同一生計要件重視アプローチ 1 伝統的アプローチ 所得税法56条の解釈適用に関する平成15年東京地判以前の裁判例の傾向について、次のような指摘がされている(品川芳宣「判批」税研113号(2004年)103頁、105頁。傍点筆者)。なお、次の引用文中にいう「旧法」について「昭和25年シャウプ税制改正後の所得税法」という補足説明を加えたが、それ以降の叙述では「旧法」という略称をそのまま用いることにする。 そのような裁判例の「代表例」(品川芳宣「判批」TKC税研情報13巻1号(2004年)38頁、44頁)とされる東京地判平成2年11月28日税資181号417頁は次のとおり判示している(下線・傍点筆者。以下「平成2年東京地判」という。所得税法56条の趣旨について同様の理解を示すものとして、東京高判平成3年5月22日税資183号799頁、東京高判平成12年6月29日税資247号1428頁等参照。ほかに、家族同一生計要件に該当する事実の認定だけで所得税法56条の適用を肯定するものとして、京都地判昭和58年9月9日シュトイエル262号40頁、高松高判平成10年2月26日税資230号844頁等参照)。 平成15年東京地判の直前に示された、別件平成16年最判の原々審・東京地判平成15年6月27日税資253号順号9382も、次のとおり判示している(下線筆者)。 このように、従来の裁判例は、家族同一生計要件の「一律」適用によって、家族事業稼得要件に関する個別的判断なしに、所得税法56条の適用を肯定する傾向にあったとみてよく、その意味で、裁判例の伝統的アプローチは家族同一生計要件重視アプローチであったといえよう。 ただ、従来の裁判例が判示した所得税法56条の趣旨は、「支払われた対価をそのまま必要経費として認めることとすると、個人事業者がその所得を恣意的に家族に分散して不当に税負担の軽減を図るおそれが生じ、また、適正な対価の認定を行うことも実際上困難であることから、そのような方法による税負担の回避という事態を防止するために設けられたもの」(平成2年東京地判)というようなものであるが、これは、個人事業者(事業主)の所得稼得に着目し稼得所得に対する所得税負担の回避を防止することを意味することから、家族事業稼得要件の正当根拠としては妥当であるとしても、それ自体では家族同一生計要件の「一律」適用を正当化することはできないように思われる。むしろ、平成15年東京地判の次の判示(下線・傍点筆者。以下「平成15年東京地判㋐判示」という)と結び付いて初めて、家族同一生計要件の「一律」適用を正当化することができるように思われる。 つまり、家族同一生計要件の「一律」適用は、上記の判示にいう「それが家計費、すなわち法45条にいう家事関連費との区別が困難であること」の考慮すなわち所得税法における「家事費排除の原則」(前掲拙著【316】。税制調査会『所得税法及び法人税法の整備に関する答申』(昭和38年12月)43頁は「家事費を除外する所得計算の建前から所得計算の純化を図るためには家事費との区分が困難な経費等はできるだけこれを排除すべしとする考え方」とする)に基づき正当化することができるように思われるのである。このことは、平成15年東京地判㋐判示の直前の次の判示(下線・傍点筆者)からも読み取ることができるように思われる。 この判示とりわけ下線部からは、旧法11条の2は、事業主の支出それ自体について直ちに家事費該当性を認める規定ではなく、事業主にとって「本来必要経費と認めるべき労務の対価等」(平成15年東京地判㋐判示)が生計を一にする親族等に支払われ当該親族等がこれをその生計の資に充てることを想定した上で、そのいわば「反射的効果」として事業主の当該支出について家事費該当性を認める規定であるという解釈論(以下「支払対価の反射的性質決定論」という)が成立する可能性を読み取ることができるように思われる。平成15年東京地判㋐判示がその末尾で「この限度で正当」と認めた「被告らの主張」については、同判決の中で別途次の説示がされているが(下線筆者)、これは支払対価の反射的性質決定論に基づいて行われた主張であると解される。 ともかく、支払対価の反射的性質決定論は、所得税法56条の解釈適用に当たって、家族同一生計要件重視アプローチに立脚し、家族事業稼得要件の解釈においても家族同一生計要件重視の考え方を貫徹するための解釈論であるといってよかろうが、これによれば、事業主から生計を一にする親族等に支払われた労務の対価等のうちその親族等が当該生計の資に充てるものは、結局、「親族等が受ける所得」には含まれない(平成12年岡山地判の表現を借りると、事業主が「自己の所得として内部留保する」)ことになると考えられるのである。 2 平成15年東京地判のアプローチ ところが、支払対価の反射的性質決定論は、平成15年東京地判㋐判示に続く次の判示(下線筆者。以下「平成15年東京地判㋑判示」という)によって否定された。 なお、この判示中の下線部に関連して、平成15年東京地判は前記の「被告らの主張」に対して次のとおり説示している(下線筆者)。この説示は、傍論的な説示ではあるものの、支払対価の反射的性質決定論を否定する論拠を示そうとするものであるから、長くなるがそのまま引用しておこう。 ただ、この説示は、支払対価の反射的性質決定論が所得税法56条の定める家族同一生計要件の解釈論として主張される一種の租税回避否認論(後記Ⅲ参照)であることを必ずしも正解しているようには思われない。 いずれにせよ、平成15年東京地判は、平成15年東京地判㋑判示に加えて、所得税法56条の立法経緯及び立法趣旨に関する検討に先立って行った家族事業稼得要件中の「Aその他のB」タイプの文言に係る「文理、、」解釈(「その他の」という法令用語の通例の用法に従って行われる解釈)をも踏まえて、次のとおり判示した。 要するに、平成15年東京地判は、家族事業稼得要件重視アプローチに立脚し、同要件を限定解釈することによって、結果的には、家族同一生計要件の「一律」適用を否定したのである。 3 平成16年東京高判及び平成17年最判のアプローチ これに対して、平成16年東京高判は、平成15年東京地判㋐判示及びその直前の前記判示と基本的には同じ内容の判示を行いつつも、これらの判示に続く判断を、平成15年東京地判㋑判示の冒頭の「しかし」で始めるのではなく、「以上を踏まえて」で始めて「以上を踏まえて、法56条にいう『事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合』の解釈を明らかにする。」として、旧法11条の2の立法趣旨等及び同条中の「Aその他のB」タイプの文言に係る趣旨、、解釈を行い、その解釈の結果を次のとおり判示している。 このように、平成16年東京高判は、平成15年東京地判以前の裁判例と同じ立場(伝統的アプローチ)に立ち戻ったのであるが、平成17年最判も次のとおり判示してこれを支持した。 ここで参照されている別件平成16年最判は次のとおり判示している(下線筆者)。 Ⅲ 家族同一生計要件の租税回避否認要件としての意義 以上で検討してきたように、平成15年東京地判と平成16年東京高判及び平成17年最判とは所得税法56条の解釈適用の立脚点を異にするものであること、すなわち、前者が家族事業稼得要件重視アプローチに立脚し、後二者が家族同一生計要件重視アプローチに立脚したことが、前者と後二者との結論の違いに帰結したと考えるところである。 ただ、平成15年東京地判㋐判示及びその直前の前記判示については、前述のとおり、平成16年東京高判も基本的にはこれと同じ内容の判示を行っていることからすると、平成15年東京地判と平成16年東京高判との「判断の分かれ目」は、結局、支払対価の反射的性質決定論(に基づく前記の「被告らの主張」)を認めるか否かにある、といってよかろう。 既に述べたとおり、平成15年東京地判㋐判示からは、支払対価の反射的性質決定論を認めることができるように思われるが、平成15年東京地判は、この判示に「しかし」で逆接し、したがって、支払対価の反射的性質決定論を否定した上で、「同条のうちシャウプ勧告と異なる部分については、当時の所管官庁の理解からしても親族等が事業自体に参加又は雇用されて得た対価に限定されるものと解すべきであるし、その立法理由もそれらの支払は家事関連費との区別が困難であるという点に尽きるのである」(平成15年東京地判㋑判示の冒頭)と判示し、もって家族同一生計要件の「一律」適用を否定したのに対して、平成16年東京高判は、「以上を踏まえて」で順接し、したがって、支払対価の反射的性質決定論を踏まえて、家族事業稼得要件を特に限定解釈することなく、家族同一生計要件の「一律」適用を肯定したのである。 平成15年東京地判については、これを基本的に支持する見解(肯定説)も多い(田中・前掲税務事例研究42頁、三木義一「判批」税理46巻14号(2003年)10頁、14頁、増田英敏「判批」月刊税務事例35巻12号(2003年)1頁、4頁、渡辺充「判批」税務弘報53巻11号(2005年)8頁、13頁等参照。なお、反対する見解としては、品川・前掲「判批」TKC税研情報46頁以下及び税研105-106頁、伊藤義一「判批」TKC税研情報13巻3号(2004年)1頁、11頁以下、久乗哲「判批」税研114号(2004年)87頁、90頁等参照)。 それらの見解(肯定説)のうち特に注目されるのは、家族同一生計要件と家族事業稼得要件との関係を「所得の稼得面における居住者[=事業主]の支配力が、所得の消費面においても貫徹する関係」(田中・前掲税務事例研究35頁)とみて次のとおり説く見解(同36頁。以下「田中説」という)である。 田中説は、家族事業稼得要件重視アプローチに立脚し同要件を限定解釈し、もって家族同一生計要件の「一律」適用を否定するものであるが、同時に、「居住者が事業からその親族に対して対価を支払うことは、居住者が自らの所得から直接生計維持費用を支出することと同じである、とする家事費混同論」(田中・前掲税務事例研究39頁。下線筆者)を、「当該対価と事業との関係を切断する点において相当ではない」(同頁)として否定するものでもある。 田中説は、家族事業稼得要件重視アプローチを所得税法56条の解釈適用の立脚点とする以上、「家事費混同論」を「当該対価と事業との関係を切断する点において相当ではない」として否定するのは論理一貫しており、その意味では、平成15年東京地判の妥当性を補強するものであるといえよう。ただ、田中説が平成15年東京地判㋐判示、とりわけそこでいう「シャウプ勧告の内容とは異なるもの」をどのように理解しているかは必ずしも明らかでない。とはいえ、田中説が「家事費混同論」を一種の租税回避否認論として捉えていることは確かであろう。 つまり、「家事費混同論」は、①「居住者が事業からその親族に対して対価を支払うこと」を②「居住者が自らの所得から直接生計維持費用を支出すること」と「同じ」とみる考え方であるから、①を異常な法形式による支出、②を通常の法形式による支出とみることを前提にすれば、「家事費混同論」は①を②に引き直して家事費の支出として擬制し、もって①の支出を必要経費に算入することを否認する考え方であるといえ、したがって一種の租税回避否認論であるといえるのである(租税回避の否認の意味については前掲拙著【69】参照)。 そうすると、「家事費混同論」を否定する田中説によれば、「シャウプ勧告のいう『要領のよい納税者』の行う租税回避的な行為を封ずる」(平成15年東京地判㋐判示)という目的は、専ら家族事業稼得要件によって実現される、ということになろうが、その場合、同要件は、「わが国の個人事業は、基本的に、事業主(世帯主)の支配的影響力のもとにあり、個々の家族による労務提供、財産の提供などは、対価関係という事実がないか、たとえ対価関係という事実がある場合でも、その対価は恣意的に定められる可能性が大きい、という基本認識」(田中・前掲税務事例研究29頁)に立って、解釈適用されることになろう。 しかし、「対価関係という事実がない」場合や「たとえ対価関係という事実がある場合でも、その対価は恣意的に定められる可能性が大きい」場合には、事業主の当該支払それ自体について直ちに家事費及びこれに関連する経費(家事関連費)として必要経費算入が否認される(所税45条1項1号)のであるから、所得税法56条が家族事業稼得要件を定める必要はなく、また、そもそも、家族同一生計要件を定める必要は尚更ないと考えられる。そうすると、それらの場合については、そもそも、所得税法56条を定めること自体が必要なかったことになり、また、その解釈適用を問題にする意味もないことになろう。 そうすると、所得税法56条は、それらの場合以外の場合、例えば事業主Aがその事業上の取引先の事業主Bと生計を一にする家族であるような場合(今回取り上げている2つの事件はこの場合に当たる)において、家族同一生計要件の下で、支払対価の反射的性質決定論に基づき、Aが事業上の取引に基づきBに支払う対価について家事費該当性を認めその必要経費算入を否認する規定として、性格づけることができることになろう。所得税法56条のこのような性格づけによれば、支払対価の反射的性質決定論は、前記の見解のいう「家事費混同論」と同じく、一種の租税回避否認論とみることができようが、同条の目的は、同条の規定上は、家族同一生計要件の「一律」適用によって達成されるのである。 要するに、家族同一生計要件は、支払対価の反射的性質決定論に基づく租税回避否認要件としての意義を有すると考えるところである。 Ⅳ おわりに 今回は、所得税法56条弁護士「夫」税理士「妻」事件に係る各審級裁判所の判断を、所得税法56条の解釈適用に関する家族事業稼得要件重視アプローチと家族同一生計要件重視アプローチの観点から比較検討することによって、平成15年東京地判(いわゆる藤山判決)と平成16年東京高判及び平成17年最判との異同を明らかにした。 学説では、家族事業稼得要件重視アプローチを採用した平成15年東京地判を支持する見解も多いが、家族同一生計要件重視アプローチを採用した平成16年東京高判及びこれを是認した平成17年最判の考え方も十分に成り立つと考えるところである。所得税法56条の目的や家族同一生計要件に関する明文の定めからすると、むしろ、平成16年東京高判及び平成17年最判の方が同条の解釈適用上それらを適切に考慮するものとして妥当であると考えるところである。 ただ、家族同一生計要件が支払対価の反射的性質決定論に基づく租税回避否認要件としての意義を有することはいえるとしても、家族同一生計要件の「一律」適用が具体的な事案においてオーバー・インクルージョン(過剰包摂)の問題を惹起する場合があるかどうかについては慎重に検討すべきである。その際、租税回避否認規定のオーバー・インクルージョン問題に対して異なる判断を示した東京高判令和4年3月10日訟月70巻6号719頁とその上告審・最判令和5年11月6日民集77巻8号1933頁(草野耕一裁判官の補足意見)の比較検討は有益な示唆を与えてくれるように思われる。 (了)
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第66回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 (4) Uniswap 著名なDEXの1つであるUniswapを例に本稿で検討の対象とする取引等を確認する。 Uniswapプロトコルは、イーサリアムブロックチェーン上のERC-20(トークンの共通規格)に準拠したトークンの流動性を提供し、取引するためのオープンソースプロトコルである。 これは、イーサリアムブロックチェーンが存続する限り、永続的に稼働・機能し、基本的にはアップグレード不可能なスマートコントラクトのセットとして実装されるものであり、交換レートを自動的に決定する市場を作り、ブロックチェーン上でピアツーピアの市場の創出とERC-20トークンの交換を容易にし、仲介者なしで機能するように設計されたプロトコルである(※1)。 (※1) Uniswap Docs「Uniswap Overview」参照 Uniswapプロトコルの開発とエコシステムをサポートするツールの構築はUniswap Labsによってなされている。ガバナンスはガバナンストークン(コミュニティの意思決定の際に使用される投票権付トークン)であるUNIトークンを利用して実現されている。 DeFiプロトコルの機能修正、追加や利率などのパラメータ変更、コミュニティ資金の使用などについて、ガバナンストークン保有者が保有量に応じて決められたルールに従って投票を行い、可決したものを実行する仕組みはガバナンス投票と呼ばれることが多い(株式会社クニエ「分散型金融システムのトラストチェーンにおける技術リスクに関する研究 研究結果報告書」13頁参照)。 ウォレットとインターネット環境さえあれば、誰でもUniswapを利用して、暗号資産の取引を行うことができる。規制によるサービスの利用の遮断などの心配はないが、ユーザーは自身でトークンを管理し、取引手数料やハッキング等のリスクを負担する。 Uniswapでは、スマートコントラクトが流動性プールに預けられている暗号資産の量から取引価格(交換レート)を自動的に計算する仕組みである自動マーケットメーカー(Automated Market Maker)が採用されている(クニエ・前掲報告書36頁参照)。 仲介者がいない中で、交換レートはどのように決まるのかというと、交換レートは、プール内のトークンペアの残高の積が、取引の前後で一定になるように自動計算される。一方の資産が他方の資産と交換されると、ペアとなる2つの暗号資産の相対価格が変動し、両方の暗号資産の新しい市場レートが自動的に決定される仕組みであり、ユーザーは、互いに相対的に評価された2つの暗号資産の流動性プールと直接取引することになる。ただし、UniswapV3以降はより柔軟にレートを決定できるような仕組みが採用されている(※2)。 (※2) Uniswap Docsトップページ参照 次の点を考慮すると、Uniswapには交換対象のペアとなる暗号資産2種類が備蓄されている必要があることがわかるであろう。 そうすると、金融機関等が不在であるのに誰が交換用の2種類の暗号資産を用意するのかという点が問題になる。 Uniswapでその役割を果たしているのは不特定多数のユーザーである。つまり、暗号資産の流動性を供給する不特定多数のユーザーによって交換(スワップ)用のトークンがUniswapにプールされる。 このように保有する暗号資産をDEXのプールに移転し、流動性を供給しているユーザーは「LP(Liquidity Provider)」、トークンを交換するユーザーは「スワップユーザー」と呼ばれる。 スワップユーザーは、プールに流動性を供給したユーザーであるLPと直接取引をするのではなく、スマートコントラクトという自動販売機のようなものに、保有する暗号資産を送付し、その代わりに取得したい暗号資産の送付を受けることになる。 よって、どのユーザーとどのユーザーが取引を行っているかを特定することはできない状態である。 この際、レートも自動的に計算されるため、まさに第三者の仲介なしに、トークンの交換が実現する。 上述のとおり、このような仕組みで交換が実現するためには、プールにトークンのペアが十分に用意されている必要がある。 流動性を供給するユーザーであるLPは、例えば、暗号資産Aと暗号資産Bといったように任意のトークンペアのプールを選び、保有するトークンをプールに移転して、流動性を供給する。 LPは、プールに供給したトークンの数量の相対的な割合を追跡するためのLPトークンを受領する。 LPトークンは、暗号資産(代替性のあるファンジブルトークン)であったり、代替性のないNFT(ノンファンジブルトークン)であったりする。 LPは、スワップユーザーが支払う交換手数料を原資とした報酬を受け取ることができる。 かくして、 LPは、LPトークンの発行を受けた上で、スワップユーザーから支払われる交換手数料の分配を受ける権利を取得すると説明される(斎藤創=浅野真平「Uniswap/DEX/AMM と日本法」3頁(2020.11.5改訂))。 ただし、何らかのトラブルで分配を受けることができない場合に、具体的に誰に対してどのような請求をできるのか、どのような法的救済を受けることができるのかという問題がある。 LPは、いつでも流動性を解除すること、すなわちLPトークンを再度移転することと引き換えに提供していたペアの暗号資産を引き出すことができる。また、LPトークンの市場があれば、これを売却することで同様の経済的効果を享受することができる。 上記のとおり、LPトークンを解除することで、提供していたペアの暗号資産がLPの手元に戻ってくるが、その際、提供したトークンと異なる数量の各暗号資産が戻ってくることが通常である。 これは、 LPが流動性を供給することにより取得する権利は、プールに提供されている各暗号資産の総数量に対する割合的持分を表章するものであることによる。 プールの中に存在する各暗号資産の総数量はスワップユーザーによる交換が行われることで日々変化している。よって、流動性を供給した各暗号資産の数量と、流動性を解除した時に戻ってくる各暗号資産の数量は異なっている。 流動性供給時と解除時における各暗号資産の市場レートも当然ながら異なる。このことは、市場の変動や裁定取引によって価値が失われる可能性(いわゆるインパーマネントロスと呼ばれるもの)があることを意味している(※3)。 (※3) Uniswap Docs「What is Impermanent Loss?」参照 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例145(消費税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆特定期間における納税義務の免除の特例(消法9の2①) 法人のその事業年度の基準期間における課税売上高が1,000万円以下である場合において、その法人のその事業年度に係る特定期間(その事業年度の前事業年度開始の日から6月間をいう)の課税売上高が1,000万円超であり、かつ、給与等支払額の合計額が1,000万円超であるときは、その法人のその事業年度における課税資産の譲渡等については、納税義務が免除されない。 ◆簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例(28年改正法附則44④、消基通21-1-1、インボイスQ&A問9) 免税事業者が令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間に適格請求書発行事業者の登録を受け、登録を受けた日から課税事業者となる場合は、その課税期間中に「簡易課税制度選択届出書」を提出すれば、その課税期間から簡易課税制度の適用を受けることができる。 (了)
学会(学術団体)の税務Q&A 【第16回】 「オンラインセミナーを開催する場合の税務上の留意点」 公認会計士・税理士 岡部 正義 ▲▼▲[解説]▲▼▲ 近年、学会においては、オンラインでセミナーを開催するケースがよく見受けられるが、その際における税務上の留意点は、次の通りである。 1 法人税 法人税に関しては、オンラインセミナーが収益事業に含まれるか否かが論点となる。法人税法施行令に掲げられている34事業の収益事業の中には、通信業が含まれているが、通信業とは、「他人の通信を媒介若しくは介助し、又は通信設備を他人の通信の用に供する事業及び多数の者によって直接受信される通信の送信を行う事業」(法基通15-1-24)であるため、通信の手段を使っている事業自体(オンラインセミナー)が、通信業に該当することはないと考える。 一方で、有料の動画配信に関しては、デジタルコンテンツという物品を販売(又は貸付)していると考えると、物品販売業又は物品貸付業に該当する可能性が出てくる。しかしながら、通常、オンラインセミナーは、現地開催との同時視聴や一定期間のアーカイブ視聴を前提としているものであり、学会において、オンラインセミナーというデジタルコンテンツを販売(又は貸付)している例はあまり想定されない。 学会のオンラインセミナーに関しては、現地参加とオンライン参加のハイブリットで行う例も多いが、現地参加者に対しては役務の提供と考え、オンライン参加者に対してはデジタルコンテンツの物品販売(又は貸付)と考えるのは現実的ではないと考える。 そのため、現地参加かオンライン参加か否かに関係なく、オンラインセミナーとは、あくまでセミナーという役務を提供している事業であり、オンラインセミナーが収益事業に該当するか否かに関しては、セミナーの内容が技芸教授業に該当するか否かで判断するのが妥当であると考える。 なお、たとえ技芸教授業に該当する内容であっても、公益法人の学会が公益目的事業の一環として実施する場合は、法人税法上の収益事業から除外される(法令5②一)。 〈セミナーの収益事業判定〉 2 消費税 国内の学会が国内で現地開催のセミナーを実施する場合、その参加料は課税売上となる。他方で、オンラインセミナーの場合は、参加料がすべて課税売上になるとは限らない。なぜなら、オンラインセミナーは、インターネットを介して役務の提供を行うものであるため、消費税法上、電気通信利用役務の提供に該当すると考えられるためである。 そのため、電気通信利用役務の提供に該当するオンラインセミナーに関しては、参加者の住所が国内にあるかどうかで内外判定を行い、仮に国外からの参加者がいる場合、当該参加者の参加料は、国外売上(不課税)とする必要がある。そして、学会の消費税の計算においては、特定収入に係る仕入税額控除の調整計算が必要になる例が多いが、特定収入割合及び調整割合の計算の際は、当該国外売上を分母に含める点に留意する必要がある。 〈オンラインセミナーの参加料の消費税の取扱い〉 なお、厳密には上記のような取扱いになると考えられるが、国外からの参加人数が少ないことが想定されるようなオンラインセミナーの場合、参加者の住所の違いによって、事務処理のオペレーション(インボイス交付の有無)や、課税区分判定(課税売上か、国外売上か)を分けるのは煩雑であるため、参加者の住所を判定せずに、一律、課税売上としている例も実務では見受けられる。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第48回】 「約17年間放置していた家屋について損耗減点補正率を使って評価しなかったことは違法であるとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷固定資産評価基準で定める家屋の評価額 固定資産税の課税標準となる家屋の評価額は、賦課期日において、価格として家屋課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に登録されたものに基づく(地方税法349①)。この価格は、固定資産評価基準に基づいて評価することになる(地方税法388、403)。 家屋の評価方法は、木造家屋及び木造家屋以外の家屋(以下「非木造家屋」という)の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとされている(固定資産評価基準第2章第1節一)。非木造家屋の評点数については次のような算式で計算する。 評点数 = 再建築費評点数 × 経過年数に応ずる減点補正率(経過年数に応ずる減点補正率(以下「経年減点補正率」という)によることが、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合にあっては、評点数 =(部分別再建築費評点数 × 損耗の程度に応ずる減点補正率(以下「損耗減点補正率」という))の合計)とされている(固定資産評価基準第2章第3節一)。 この「天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合」については、天災、火災以外で認められる可能性は極めて低いといわれているが、認められた事例もある。 今回は、天災、火災のような突発的な災害が原因ではなく、約17年間放置されたことを原因として、家屋について損耗減点補正率を用いて評価しなかったことは違法であると裁判所が判断した事例を検討する。 ▷どのような事例か これは、納税者が平成30年度の市の公売により建物を含む不動産を8,900万円で取得したが、令和3年度の本件家屋についての土地・家屋課税台帳の登録価格が3億1,556万7,800円であった。この価格に不服な納税者が小樽市の固定資産評価審査委員会(以下「裁決庁」という)に審査の申出をしたところ棄却する旨の決定がなされた。この家屋は、評価減点事情があるにもかかわらずこれらの事情を考慮せずに登録価格が決定されたことは違法であるとして取消しを求めて訴えたのが本事例である。 ▷争点は この裁判における争点は以下の2つである。 ▷地裁判決は 地裁判決は、損耗の程度に応ずる減点補正を行わなかった違法があるとしたが、本来決定されるべき登録価格を具体的に算出することが困難であるとして、登録価格につき裁決庁で審査をやり直させるとして決定を取り消した。 なお、需給事情による減点補正を行わなかったことについては、違法があるとはいえないとした。 以下では上記2つの争点に対する裁判所の判示内容を確認する。 〈損耗の状況による減点補正において損耗の程度に応ずる減点補正を行わなかった違法があるか〉 〈需給事情による減点補正を行わなかった違法があるか〉 * * * この判決に不服な小樽市は控訴したが、高裁で棄却され、上告したが不受理となり確定した。 この裁判では、損耗減点補正率を使った評価が認められた。行政側は、損耗減点補正率が認められるのは、天災、火災等に類するような家屋の著しい減価を招く特段の事由が存在することが必要であると主張したが、裁判所はその主張を認めず、通常の維持管理を行う場合に生じる損耗を超えた損耗が明らかに生じているにもかかわらず、損耗減点補正率を使った評価を行わなかったから違法だと判断したのである。 固定資産評価基準では、「経過年数に応ずる減点補正率によることが、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて適当でないと認められる場合」と定められている。法律用語で「その他の」と定められている場合は、その他の前の単語は包含的例示を表しているが、その例示のもとになる損耗の範囲が行政庁側と納税者側で大きく異なっており、今回は納税者側の主張を裁判所が支持した。今後、この判決のような判断基準が続くかどうかは未知数である。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第70回】 「「技術上の役務に対する料金」の該当性が問題となった事例 (審裁令5.8.15)(その2)」 ~日印租税条約12条4項~ 井上 眞一 〈非居住者・外国法人の日本国内での事業活動に対する国内税法と租税条約の適用の流れ〉 3 検討 (1) インドLLPのわが国租税法上における外国法人該当性 わが国事業体が関連する国際的商取引の場合、わが国と取引先国の法律関係が問題となる。審判所は、当該裁決において、インド法に準拠して設立され、インドに所在する事業体J社を「インドLLP法に基づき設立された法人」であるとし、わが国租税法上の法人に該当するとしている。まず、わが国及びインド租税法における法人及びLLPの相違について検討をする。 わが国租税法については、所得税法2条1項6・7号及び法人税法2条1項3・4号で内国法人は「国内に本店又は主たる事務所を有する法人をいう。」及び外国法人は「内国法人以外の法人をいう。」と定義し、「法人の内外区別を法人の本拠地(本店又は主たる事務所)により行っている」(※5)だけで、「法人」についての定義がない。租税法上「法人」という文言は借用概念である。 (※5) 岡村忠生「米国デラウェア州法に基づいて組織されたリミテッド・パートナーシップの法人性」ジュリスト1466号(2015年)10頁。この中で岡村教授は、デラウェア州法LLP事件の最高裁判決について、本判決は、「租税法上の外国法人の意義について、明白な誤りをおかしている。」とし、「外国法に準拠する法人も内国法人となる場合があるし、逆もある。租税法の定義規定は『内国法人』と『外国法人』に共通する用語として『法人』を用いているから、最高裁は、両社に通ずる租税法上の『法人』の意味を探らなければならなかったはずである。」と批判している。 借用概念は「他の法分野におけると同じ意義に解釈するのが、租税法律主義=法的安定性の要請に合致している」(※6)と解し、「憲法を頂点におく同一法体系の下においては、同一用語は格別の理由がない限り同一の意味に解する」(※7)という統一説(※8)がほぼ定着している。しかし、「借用概念についても、合理的理由が存するかぎり、借用先の私法と異なる意味に解しうる余地が残されていることは当然のことである」(※9)と考えられる。 (※6) 金子宏『租税法〔第24版〕』弘文堂(2021年)127頁。 (※7) 村井正「『租税法における借用概念』の問題点」『現代租税法の課題』東洋経済新報社(1973年)60頁。最高裁第二小法廷昭和35年10月7日判決の原審からの引用。 (※8) 統一説・独立説・目的適合説の3つの見解がある。独立説は、「租税法の解釈にあたり、民法や商法の概念を借用したものであるとしても、その解釈は租税法独自に行うべきであるとする考え方」で、「独立説や統一説を理論的立場の表明であり、具体的解釈論のあり方を示すものとして、ティプケの目的適合説が主張される。」水野忠恒『所得税法の制度と理論-「租税法と私法」論の再検討』有斐閣(2006年)38頁。 (※9) 村井正『租税法と私法』大蔵省印刷局(1982年)127頁。 法人は、民法33条1項において「法人は、この法律その他の法律の規定によらなければ、成立しない」と規定され、外国法人は、同法35条1項において、「外国法人は、国、国の行政区画及び外国会社を除き、その成立を認許しない。ただし、法律又は条約の規定により認許された外国法人は、この限りでない。」と規定する。条文中の「認許」は、「外国法によって法人格を付与された社団又は財団に対して、国内において法人としての活動を承認することと解されている」(※10)。会社法においても1条で「会社の設立、組織、運営及び管理については、他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、この法律の定めるところによる。」、3条で「会社は、法人とする。」と規定される。すなわち、法人は民法や会社法によってのみ設立が認められる。 (※10) 日本公認会計士協会「外国事業体課税のあり方について」租税調査会研究報告第6号(中間報告)(2002年)3頁。したがって、外国で設立された法人格を有しない組織は、日本法においても法人格を有しないことになる。LLCがわが国私法上外国法人として取り扱われるかどうかは、「認許」の考え方に照らせば、LLCが(ア)外国の法律に基づいて設立されているか、(イ)法人格が付与されているか、(ウ)商事会社であるか、が判定基準となる。中里実『金融取引と課税-金融革命下の租税法-』有斐閣(1998年)第6節「セキュリタイゼイションと課税」2「租税法中心の議論と民法36条を前提とした議論」に同様の説明がある。 また、外国会社については会社法2条1項2号で「外国の法令に準拠して設立された法人その他の外国の団体であって、会社と同種のもの又は会社に類似するものをいう。」、同項1号で、会社は、「株式会社、合名会社、合資会社又は合同会社をいう。」と定義する。同法5条において「会社(外国会社を含む。次条第1項、第8条及び第9条において同じ。)がその事業としてする行為及びその事業のためにする行為は、商行為とする。」と規定する。会社は法人とされ、「民法の認許の考え方にしたがえば、外国の民事会社は商事会社ではないから、当然に『認許』されるものではなく、法人格を付与されないことになる」(※11)。したがって、統一説における外国法人は、外国の法律に準拠して設立され、その外国法によって法人格が付与された商事会社ということになる。 (※11) 前掲(※9)3頁 次に判例から検討をすると、外国の法令に準拠して設立されたLLPのような事業体(判例には「組織体」という文言が使用されているが、以下「事業体」という)が、わが国法人税法上の外国法人に該当するか否かの問題について取り扱った事件に米国デラウェア州のInvestment Limited Partnership(投資事業有限責任会社、以下「LPS」という)の最高裁判決(平成27年7月17日民集69巻5号1253頁)がある。 最高裁平成27年7月17日判決に至るまでの、東京地裁平成23年7月19日判決及び東京高裁平成25年3月13日判決、大阪地裁平成22年12月17日判決及び大阪高裁平成25年4月25日判決、最高裁判決の第1審名古屋地裁平成23年12月14日及び原審名古屋高裁平成25年1月24日判決において、外国事業体がわが国において法人に該当するか否かの問題について分類すれば、①外国私法準拠法と②内国私法準拠法に分かれる(※12)。 (※12) 加藤友佳「米国リミテッド・パートナーシップの租税法上の「法人」該当性」ジュリスト1496号(2016年)112頁 最高裁判決は、原審である名古屋高裁判決での外国事業体判断を変更し、「外国法に基づいて設立された組織体が所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するか否かを判断するに当たっては、まず、より客観的かつ一義的な判定が可能である」観点から「①当該組織体に係る設立根拠法令の規定の文言や法制の仕組みから、当該組織体が当該外国の法令において日本法上の法人に相当する地位を付与されていること又は付与されていないことが疑義のない程度に明白であるか否かを検討する」こととし、これができない場合には、次に、当該組織体の属性に係る観点から、「②当該組織体が権利義務の帰属主体であると認められるか否かを検討して判断すべきものであり、具体的には、当該組織体の設立根拠法令の規定の内容や趣旨等から当該組織体が自ら法律行為の当事者となることができ、かつ、その法律効果が当該組織体に帰属すると認められるか否かという点を検討する」ことになると判示し、米国デラウェア州改正統一リミテッド・パートナーシップ法(“DELAWARE REVISED UNIFORM LIMITED PARTNERSHIP ACT”(2025年3月現在は“DELAWARE REVISED UNIFORM PARTNERSHIP ACT”))に準拠して設立されたLPSについて、所得税法2条1項7号等に定める外国法人に該当するとした(※13)。 (※13) 金子宏教授は、前掲(※6)書553頁において、「LLPについては、設立地の法律によって法人格を与えられても、法人該当性の有無については、法人格の有無のほかに、その活動によって得られる損益の帰属主体であることがその本質的要素(本質的属性)であると解すべきところ(デラウェア州法がパートナーシップに法主体性を認めたのは、パートナーシップをめぐる取引の安定性・安全性を確保するためであると解される)、たとえば、デラウェア州のパートナーシップは損益の帰属主体ではなく、損益はパートナーにパススルーするから、法人には当たらないと解するべきである。」と述べている。 ただし、この後2017年2月に国税庁は、英文のみで「日本居住者がパートナーとなっている米国LPに支払われる所得は、米国LPからの配当にかかわらず、日本居住者のパートナーによって取得され、パートナーの手元にある現在の課税対象として扱われ、米国LPが米国連邦所得税の目的で法人として課税される団体として分類されることを選択しない限り、日本のパートナーの手元にある所得の性質と源泉は、当該所得が米国LPによって取得された源泉から直接取得されたかのように決定され」るとして、当該判決とは矛盾する通知を公表している。 推定ではあるが、この通知の背景として、2003年に改訂された「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約」(以下「日米租税条約」という)の締結の存在があったのではないだろうか。日米租税条約は4条6項においてentity classificationを規定している。すなわち、4条6項 において「a 日本(米国)から取得される所得で、米国(日本)において組織された団体(例えば、LLC、Partnership)を通じて取得され、米国(日本)の税法上、当該団体がいわゆるパススルーとして取り扱われる場合、受益者、構成員等である米国(日本)の居住者が受領する所得の部分にのみ租税条約の適用があり得る。 b 日本(米国)から取得される所得で、米国(日本)において組織された団体(例えば、LLC、Partnership)を通じて取得され、米国(日本)の税法上、当該団体が課税主体として取り扱われる場合、米国(日本)の団体が受領する所得の部分に租税条約の適用がありうる。」と、日米両締約国の間で課税上の取扱いが異なる事業体について、これらの事業体又はその構成員等の取得する所得に対して、一定の要件の下、条約の特典が与えられることを定めている。つまり、日米租税条約4条6項aが適用されるための変更であると考える。 次に、J社の法人該当性を検討すると、2005年に創設された、わが国の「有限責任会社事業組合契約に基づく法律」に準拠して設立されたLLP(有限責任事業組合)は、民法上の組合と同じ課税関係で取り扱われる。したがって、構成員課税(パススルー課税)となり、組織段階では課税せず、出資者に直接課税する仕組みで、LLPの事業で利益が出たときには、LLP段階で法人課税は課されず、出資者への利益分配に直接課税される。これに対して、インド法(THE LIMITED LIABILITY PARTNERSHIP ACT, 2008、以下「インドLLP」という)上のLLPは、第2章有限責任パートナーシップの性質の第3条で「有限責任パートナーシップは法人となる。」と定められ、第1項「有限責任パートナーシップは、この法律に基づいて設立され、法人化された団体であり、そのパートナーとは別の法的実体である。」と規定される。また、インドLLPは、法人税法において30%の法人税が課され、パススルー税制の制度はない。 統一説から見れば、J社はインドの法律に準拠して設立され、その法律によって法人格が付与された商事会社ということになる。インド国内では法人税が課税される。商事会社については、「商行為(絶対的商行為及び営業的商行為)を営業として行うことを目的として設立された会社」(※14)で、J社はX社とソフトウエア開発等の商行為をしているので商事会社に該当する。したがって、J社はわが国において外国法人として扱われる。 (※14) 法令研究会『法律用語辞典 第2版』有斐閣(2000年)722頁 次に、最高裁平成27年7月17日判決から検討しても、インド法条文により、外国法人に該当する。したがってJ社は外国法人に該当する。また、日印租税条約3条2項(f)は「『法人』とは、法人格を有する団体又は租税に関し法人格を有する団体として取り扱われる団体をいう。」とし、インドLLPはインドLLP法3条からも法人としての扱いが租税条約からも導ける。ただし、日印租税条約には、日米租税条約4条6項のentity classificationに関する条項が規定されていないが、このような条項があれば、双方の国の事業体が、どちらの国の法律に従うのかの判断が迅速かつ明確になる可能性がある。 (2) J社がX社の支店である可能性 インドLLP法3条で、「LLPは法人(body corporate)とする。(1)LLPは、この法律に基づいて設立され、法人化された法人である」ので、J社は法人である。したがって、X社とは別法人であり、支店の可能性はないだろう。それでは、J社が、X社の子会社の可能性はどうであろう。 わが国会社法における子会社は、2条3号で「会社がその総株主の議決権の過半数を有する株式会社その他の当該会社がその経営を支配している法人として法務省令で定めるものをいう。」、そして、同条3号の2で子会社等について「イ 子会社、ロ 株式会社の経営を支配している者(法人であるものを除く。)として法務省令で定めるもの」と、子会社の判断基準を実質的な支配関係の有無で判断することになっている。法人税法においても、法人税基本通達9-4-1の(注)で「子会社等には、当該法人と資本関係を有する者のほか、取引関係、人的関係、資金関係等において事業関連性を有する者が含まれる。」と定義し、資本関係以外の実質的な要素によっても子会社になることが示され実質判定基準を示している。 インド会社法の「THE COMPANIES ACT, 2013」は、2条20項において、「会社」の定義を「会社とは、この法律または以前の会社法に基づいて設立された会社を意味する。」と規定する。同条87項において「『子会社(subsidiary company)』または『子会社(subsidiary)』とは、他の会社(つまり、親会社)との関係において、親会社が以下のいずれかの会社をいう」として、 ①取締役会の構成を支配している、又は②自己又は1社以上の子会社と共同で、総株式資本の半分以上を行使又は支配している。この条項の説明で、「会社」という表現には、あらゆる法人が含まれるとする。また、インドLLP法によれば、LLPには6条で少なくとも2名の個人のパートナー(partner)が必要とされる。7条において、パートナーのうち指定パートナー(designated partner)が2名必要で、うち1名はインド居住者(会計年度中に120日以上インドに滞在した者)でなければならないとされる。すべてのパートナーが法人である場合、又は1名以上のパートナーが個人と法人を兼ねるLLPの場合は、そのようなLLPのパートナー又はそのような法人の指名人である少なくとも2名の個人が指定パートナーとして行動することが規定されている。 わが国及びインドの法律から判断すると、J社はX社の子会社である。X社のJ社に対する出資割合は99.9%であり、J社と実質的支配関係にあると考えられる。インド法人税の税率は30%であるが、外国子会社合算税制における税負担割合の計算結果によっては、当該税制適用が該当する場合も考えられる。 (3) 日印租税条約12条条文からのアプローチ X社とJ社の間には契約関係がなく、成果物も不明である。日印租税条約は、12条6項において、「『技術上の役務に対する料金』とは、技術者その他の人員によって提供される役務を含む経営的若しくは技術的性質の役務又はコンサルタントの役務の対価としてのすべての支払金をいう。」とし、「技術上の役務に対する料金」にコンサルタント役務対価が含まれる。 日印租税条約12条7項に「使用料又は技術上の役務に対する料金の支払の基因となった使用、権利又は情報について考慮した場合において、使用料若しくは技術上の役務に対する料金の支払者と受益者との間又はその双方と第三者との間の特別の関係により、使用料又は技術上の役務に対する料金の額が、その関係がないとしたならば支払者及び受益者が合意したとみられる額を超えるときは、この条の規定は、その合意したとみられる額についてのみ適用する。この場合には、支払われた額のうち当該超過分に対し、この条約の他の規定に妥当な考慮を払った上、各締約国の法令に従って租税を課することができる。」と規定される。X社との契約で交わした合意した金額を超える場合、当該超過分に対する課税措置を規定している。 例えば、仮にJ社がX社の子会社に認定されなかった場合(当該裁決のようにJ社をX社とは独立した法人としてとらえた子会社として判断しない場合)、X社とJ社の間に契約がないことから合意金額がないことになり、この条約の他の規定に妥当な考慮を払った上、各締約国の法令に従って租税を課することができる。すなわち、源泉徴収義務はないことになる。 K社については、「付属書A及び付属書Bにおいて既に定義されている範囲を超える作業が生じた場合には、請求人とK社が別途合意した上で、K社が作業を行う旨合意したものと認められる」。次の文言が「そうすると、付属書A及び付属書Bは、請求人とK社との間で、本件プラットフォームの開発におけるK社の業務の範囲を定めたものであると認められる。」と続くことから、業務範囲を確認するための確認で、実際に付属書A及び付属書Bにおいて既に定義されている範囲を超える作業が生じた場合の合意があったか否かの検証が実施されたかは確認されていない。 (4) X社とK社及びL社とのソフトウエア取引について OECD及び米国は、ソフトウエア取引を含むデジタル・コンテンツ取引について規定を設けている。 OECDは、Model Tax Convention on Income and on Capital 2014 (Full Version)(以下「OECDモデル租税条約」という)The Tax Treatment of Software (adopted by the OECD Council on 23 July 1992)において、ソフトウエア取引の貿易が「サービス貿易」に関する作業の大部分を占めることから、国境を越えたソフトウエアの開発と移転に関して問題があるとし、この問題について分析をしている。 主な検討、分析した問題はソフトウエアの権利に関する加盟国の商法と慣行、ソフトウエアに対する支払の性質、加盟国の国内法及び二重課税に関する条約及びOECDモデル条約の適用とその規定の明確化又は修正である。また、ソフトウエアの税務処理に関連するOECDモデル二重課税条約の条項は、第7条:事業利益((Business Profits)、第12条:使用料(Royalties)、第13条:キャピタル・ゲイン、第21条:その他所得(Other Income)(原文は、第14条:独立した個人役務(Independent Personal Services)となっているが、2000年に条文から削除されている)に関連する可能性があるとする。 また、米国において、「デジタル・コンテンツに関連する取引の分類」について、最初1996年11月に最初の財務省規則案が公表され、1998年10月に財務省規則が発行された。当該規則は、その後数度の改定を経て、2025年1月14日には取引の分類についてのルールを変更した財務省規則(※16)「26 CFR Part1 INCOME TAX §1.861-18 Classification of ,and source of gross income from digital content transaction.」(以下「§1861-18」という)及び「§1861-19 Classification of cloud transactions」(以下「§1861-19」という)が規定された。 (※16) 「Federal Register/Vol.90, No8/Tuesday, January 14,2025/Rules and Regulations」2977頁~3003頁(2025年3月15日現在)。 §1861-18(a)で「デジタル・コンテンツ」(※17)と「コンピュータ・プログラム」(※18)の定義を定め、次の§1861-18(b)(1)では、デジタル・コンテンツに関連する一般的な取引を4つに分類する。①デジタル・コンテンツに対する著作権の譲渡、②デジタル・コンテンツのコピー(著作権で保護された複製品)の譲渡、③デジタル・コンテンツの開発又は変更のための役務の提供及び④デジタル・コンテンツの開発に関連するノウハウの提供の4つの取引である。 (※17) 「デジタル・コンテンツ」とは、コンピュータ・プログラムなどのデジタル形式で作成された情報の総称で、①著作権で保護されているもの、②著作権が保護されていない理由が、単に時間の経過によるものや作成者がコンテンツをパブリック・ドメインに提供したものが該当する。 (※18) 「コンピュータ・プログラム」とは、特定の結果をもたらすためにコンピュータ内で直接的又は間接的に使用される一連のステートメント又は命令であり、メディア、ユーザーマニュアル、ドキュメント、データーベース、又は同様のアイテムがコンピュータ・プログラムの操作に付随する場合は、それらすべてが含まれる。 そして、§1861-18(b)において、デジタル・コンテンツに関連する取引に複数要素が含まれる場合、上記の4つの取引のうち、原則として、その取引において顧客が受ける主な利益又は価値を確定することで支配的特徴を判断し、取引の種類を分類すると規定する。 このように米国においては、財務省規則§1861-18でデジタル・コンテンツ取引の分類と総収入の源泉、そして§1861-19においてクラウド取引はサービスの提供として分類することについて追加して規定している。また、OECDモデル租税条約及び米国財務省規則においては、デジタル・コンテンツ取引の具体的な例題が数多く示され、取引の分類や租税法上の扱いの参考になると思われる。 これに対して、2025年3月現在、わが国においては、デジタル・コンテンツに関する規定はない。審判所が決定した、X社とインドの各会社の取引についてまとめると、下記のとおりとなる。すべての取引が「技術上の役務に対する料金」とされている。 ソフトウエアは2種類に分類できる。システム・ソフトウエアとアプリケーション・ソフトウエアである。前者はコンピュータ自体の運用プロセスを目的とし、コンピュータの基本的な機能を提供するもので、後者はコンピュータを使用する場合の特定のタスクを実行するためのプログラムで、アプリケーションの幅広い標準ソフトウエアあるいはユーザーのためにカスタマイズされた特別のソフトウエアによって構成されている。 当該裁決に係るソフトウエアは、J社の場合、ソフトウエア開発業務が主で、成果物についても不明であるため、両方のソフトウエアの問題が考えられ、K社及びL社は、成果物から見ると、アプリケーション・ソフトウエアの問題であると考えられる。ソフトウエアの著作権の有無が取引の分類に影響する。 J社の場合、ソフトの内容が不明で、著作権の有無は判断できない。K社の場合、審判所は当該契約について「K社が、本件プラットフォームの開発に関して、原則として付属書A及び付属書Bにおいて定義された範囲の業務を行い、対価の最終支払までに当該定義された範囲の業務をすべて完了させ、本件プラットフォームに関するすべてのソフトウエア等を請求人に引き渡す旨定めた契約」であるとしている。また、X社が成果物を複製・改変版・派生製品の国内外への再販売が可能になる。したがって、成果物の所有は著作権を含めてX社が持つことになると考えられる。 類似の例として財務省規則§1861-18の参考例14及び15がある。例14は既存プログラムを相手側の要望どおり相手国の会計基準に準拠するように修正して、相手側が使用できるようにする契約がある例である。例15はコンピュータ・プログラムの開発のためのサービスの提供についての例で、新しいプログラムを作成した場合の例である。 修正プログラムが入ったソフトウエアをK社からX社に引き渡す取引が、§1861-18(b)(1)①か②に該当にする。このことから当該ソフトウエアの取引は譲渡と考えられる。しかし、契約により、K社が行った改良ソフトウエアを含む取引は、販売等が自由にできることから著作権がX社にあると思われる。 §1861-18(d)において、「サービスの提供 新しく開発又は変更されたデジタル・コンテンツを含む取引が、このセクションのパラグラフ(b)(1)に記載されているサービスの提供を含むかどうかの判断は、取引すべての事実と状況に基づいて行われ、必要に応じて、当事者の意図(合意と行動によって証明される)を含む、デジタル・コンテンツの著作権をどちらの当事者が所有するのか、及び損失リスクが当事者間でどのように配分されるのかが含まれる。」と規定し、著作権の付与状態で取引が分類される。 したがって、X社とK社の取引全体をデジタル・コンテンツの開発又は変更のための取引とみれば役務提供に該当すると思われる。ただし、既存ソフトウエアの著作権がL社に存在するのであれば、ソフトウエアの譲渡と新しいソフトウエアに係る役務提供の2段階の取引であったとも考えられる。L社については、L社が既成のソフトウエアの改良により成果物を作成したのか、まったく新しいソフトウエア作成したのか、また、その著作権がX社又はL社が所有するのか不明であるため、取引分類の判断は難しいと思われる。 4 おわりに 現代社会は、コンピュータの利用が一般化し、その範囲が驚異的なスピードで大きく拡大してきている。海外では、クレジット・カードなどを使用したネット決済が日常的に行われ、現金を使用する機会が少なくなってきている。また、AIを使用した問題解決及び処理、交通機関の自動運転化、ビジネスの業務効率化まで、様々な分野でコンピュータは現代社会に不可欠な存在となっている。社会のさらなる発展・進歩にはコンピュータ・ソフトウエアを含むデジタル・コンテンツの開発は欠かせない。今後益々、国境を越えたデジタル・コンテンツの開発や取引、移転の問題が大きくなる可能性がある。 わが国においては、ソフトウエアの分類、著作権や商標権等は租税法には定義規定はなく、借用概念により判断をしている状況で、今後、租税法律主義の観点からも改善が望まれる。 現在、各国ソフトウエアの支払の対価の取扱いは、事業所得(Business Profits)、使用料(Royalties)、譲渡所得(Capital Gains)、その他所得(Other Income)等に分かれている。この所得の取扱いの相違が、各国間の税法上の問題に発展する可能性もある。また、関連会社間等では、ソフトウエアを譲渡する場合、無償あるいは低コストで取引し、その後メンテナンス費用やシフトの定期的な改良等の作業料として対価を取得することも考えられる。 このように、ソフトウエアを含むデジタル・コンテンツの問題は、多種多様の問題を含んでいる。私法上の取り扱い、支払の対価の性質の確定及び国内租税法と租税条約等の規定の明確化と新たな事象への迅速な修正等の対応が、わが国を含む各国に必要になると考える。 (了)
2025年3月期決算における会計処理の留意事項 【第5回】 (追補) ~米国の相互関税による会計処理等への影響~ 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 ◎ 米国の相互関税による会計処理等への影響 2025年4月2日に米国のドナルド・トランプ大統領は、相互関税に関する大統領令を公表した。決算に当たって、当該大統領令による影響を検討する必要があるため、本解説では、相互関税による会計処理等への影響を解説する。 1 米国の相互関税 2025年4月2日に米国のドナルド・トランプ大統領は、相互関税に関する大統領令を公表した。主な内容は、以下のとおりである。 その後、ドナルド・トランプ大統領は4月9日に、56ヶ国・地域に対する相互関税を90日間(米国東部時間4月10日午前0時1分から7月9日午前0時1分まで。中国を除く56ヶ国・地域)停止し、中国に対しては税率を引き上げる大統領令に署名した。 主な国・地域の関税税率は以下のとおりである。 2 相互関税による会計処理等への影響 相互関税により、各国のGDPにマイナスの影響を及ぼすという意見が多い。一方、その影響がどれくらい長く続くのかは不明である。また、貿易は各国、米国との間の取引が多いが米国との取引だけで成り立っているものではなく、複雑に関わりあっていることから、実際の影響がどのようになるかは、現時点では不透明である。各国の貿易の流れも変わる可能性がある。また、株価、為替、金利等に与える影響もあると考えられる。 このような状況ではあるが、輸出産業だけでなく、多くの会社の業績等に影響する可能性は高いと考えられるため、決算にあたり、会計処理等の検討を行う必要がある。 (1) 事業計画への影響 固定資産の減損、税効果等の会計処理においては、事業計画をもとに検討する。事業計画は将来のことであるため、相互関税の影響についても、最新の情報を入手して、その影響を反映した上で作成することが必要である。 ここで、相互関税の影響がどれくらいになるかはわからないが、一方で、会計上の見積りは決算時点の情報を入手した上で、最善の見積りを行うということが必要であるため、「影響がよくわからないから検討しない」というのは適切ではない。決算時点で入手している情報をもとに十分に検討をした上で事業計画を作成し、それを元に固定資産の減損、税効果等の会計処理を行うことが必要である。 また、当期の決算だけでなく、翌期以降も影響する可能性があるため、翌期以降の決算においても、逐次、事業計画を見直す必要がある。 【事業計画作成の際のポイント】 (2) 関係会社株式の評価 相互関税により、関係会社(子会社又は関連会社)の業績に影響を及ぼす可能性がある。そのため、業績が良くない関係会社株式の評価は、留意する必要がある。 特に、中国に対する関税税率は高いため、中国への影響は大きいと考えられる。アメリカに輸出していなくても、国全体の景気が悪化し、業績が悪化するといった直接的な影響だけでなく、間接的な影響も大きい可能性がある。そのため、中国の関係会社株式の評価は、慎重に検討する必要がある。 特に、前期以前から実質価額が株式の取得価額の50%を下回っていて、事業計画に基づき回収可能性ありと判断していた場合、当期以降の決算に当たっては、相互関税の影響も考慮した上で、事業計画を作成し、回収可能性を慎重に検討する必要がある。 (3) 棚卸資産の評価 相互関税の直接的又は間接的な影響により、これまでのように棚卸資産を販売できず、棚卸資産の取得原価が正味売却価額を下回る場合には、棚卸資産の評価損を計上する必要がある。そのため、正味売却価額への影響がないか検討する必要がある。 (4) 開示 相互関税が重要な会計上の見積り項目に重要な影響を及ぼす場合、当該影響については、重要な会計上の見積り注記に記載することが考えられる。また、重要度や将来への影響等を考慮して、追加情報等として注記することも考えられる。 さらに、事業報告や有価証券報告書の【経理の状況】より前の【事業等リスク】に相互関税の影響を記載することも考えられる。 (5) 株主総会対策 株主総会で株主から質問されることも考えられるため、相互関税による影響を整理する必要がある。 (6) 内部統制報告制度の評価範囲 相互関税による業績への影響が大きい場合、今後、グループ各社、各事業の売上、利益等が全体に占める割合が変動する可能性がある。その場合、内部統制報告制度の評価範囲の変更の検討が必要となる可能性もある。 (了)