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令和8年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)

  令和8年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和8年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/09/04

プロフェッションジャーナル No.684が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年9月3日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.684を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/09/03

monthly TAX views -No.163-「「つなぎ国債」スキームの乱発と責任ある積極財政」

monthly TAX views -No.163- 「「つなぎ国債」スキームの乱発と責任ある積極財政」   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   高市政権の一丁目一番地の成長戦略として、2040年度までに17の戦略分野で累計 370 兆円超の官民投資が予定されている。特に重要な分野については、特別会計で「つなぎ国債」を発行しそれを財源とした政府投資が行われることになっており、その規模は毎年度実質10兆円程度と言われている。 「つなぎ国債」というのは、赤字国債と異なり、将来の償還財源があらかじめ法律で決められたうえで発行される国債である。過去のつなぎ国債の事例としては、以下の例がある。 *  *  * 最初の事例は、1994年の税制改革時に、所得税減税を先行させ3年後の1997年4月から消費税率を3%から5%に引き上げた際のつなぎ(減税)財源の確保だ。筆者は財務省時代これに関与したが、赤でもない黒でもないので「ピンク国債」とうそぶいた記憶がある。 2番目は、2009年の基礎年金国庫負担の引上げと消費税増税である。基礎年金国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げる財源の5.1兆円(2年分)は、2012年の社会保障・税一体改革を経て、消費税8%への引上げが実施された2014年4月までの2年間、「年金特例公債」で賄われた。 3番目は東日本大震災の復興スキームである。所得税・法人税・たばこ税を増税し、11 兆 5,500 億円の復興債の償還(2037年度まで)にあてられている。 *  *  * その後、つなぎ国債スキームの事例は毎年度のように急増する。 2023年度には、グリーン投資支援などを目的として10年間20兆円規模の「GX経済移行債」が発行された。この償還財源には、化石燃料賦課金と特定事業者負担金からなるカーボンプライシングがあてられる。 2024年度には、「子ども・子育て支援特例公債(子ども特例債)」が発行され、償還財源には公的医療保険に上乗せして徴収する「子ども・子育て支援金」などがあてられている。 さらに2025年度には、「先端半導体・人工知能関連技術債(半導体・AI債)」という名目の「つなぎ国債」の発行が始まり、次世代半導体(ラピダス等)やAIインフラ投資への支援が2030年度まで行われる。この償還財源にはNTT株などの政府保有株式の配当金や追加的な税外収入があてられる。 このように近年乱発される「つなぎ国債スキーム」だが、大きな問題がある。 つなぎ国債は、「債務残高対GDP比」や「プライマリーバランス(PB)」といった政府の財政健全化指標の算定から除外され、別枠で管理されるという点だ。 「骨太の方針2026」の注117(26頁)には、以下の記述がある。 (※) 下線筆者 つまり「つなぎ国債」は、財政規律をカモフラージュする手段として使われるという側面を持っている。冒頭の370兆円の官民投資の「つなぎ国債」の財源はいまだ不明だ。年末までには決まる(決まらなければ「つなぎ」にはならない)のだろうが、どのような財源が残されているのだろうか。責任ある積極財政の透明性はますます低下していく。 (了)

#No. 684(掲載号)
#森信 茂樹
2026/09/03

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【特別編:第2回】「分離課税ルート-適用要件と計算」

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【特別編:第2回】 「分離課税ルート-適用要件と計算」   東洋大学法学部教授 泉 絢也   1 4つの関門 第1回で述べたとおり、今回の改正の中核は、特定暗号資産の譲渡による所得に対する20%の申告分離課税である(措法38の2①)。 ただし、この特例が適用されるのは、次の4つの要件をすべて満たす場合に限られる。 【分離課税の適用要件】 内容 根拠 誰が 居住者又は恒久的施設を有する非居住者 (法人は対象外) 措法38の2① 何を 特定暗号資産 措法38の2① 前段括弧書 何をしたか 譲渡 同上 どの経路で 暗号資産取引業者への売委託、又は暗号 資産取引業者に対する譲渡 同上 主体の限定は、上場株式等の分離課税(措法37の11①)や先物取引の分離課税(措法41の14①)と同じであり、特に問題は生じない。 実務上の判断を要するのは、残る3つである。   2 何が「特定暗号資産」か 特定暗号資産の定義は、次の4つの層が積み重なった形をとっている(措法38の2①前段括弧書)。 【特定暗号資産の定義の4層】 層 内容 第1層 (大前提) 金商法2条49項に規定する暗号資産であること。ビットコイン、イーサ、ソラナ、リップル等のメジャーな暗号資産はこれを満たすと考えられる 第2層 (基本) その名称が、金商法29条の2第1項11号イに掲げる事項として、同法29条の3第1項に規定する金融商品取引業者登録簿に登録されていること 第3層 (除外) 登録されているものであっても、取引の状況その他の事情を勘案して財務省令で定めるものは除かれる 第4層 (追加) 上記のほか、「その他の財務省令で定めるもの」も対象となりうる 実務上は、「国内の暗号資産取引業者(国内取引所)が取り扱っている暗号資産」と理解しておけばよい。 除外の例としては、暗号資産取引業者が業務の一部を廃止して取扱いをやめたにもかかわらず、変更届出を遅滞なく提出していないために登録簿に名称が残っている場合のその暗号資産が挙げられている(財務省「令和8年度税制改正の解説」329頁)。 追加の例としては、暗号資産の技術又は仕様の変更により保有者に新たに付与される暗号資産が挙げられている(同解説329頁)。いわゆるハードフォーク等がこれに当たるものと考える。 もっとも、本稿執筆時点で、対応する財務省令は公表されていない。 注意を要するのが、資金決済に関する法律2条5項の電子決済手段(いわゆるステーブルコインの一部)である。 電子決済手段は暗号資産に該当しないため、これを譲渡しても分離課税の対象にはならない。 他方、特定暗号資産を譲渡して電子決済手段を取得する交換取引であれば、譲渡したものは特定暗号資産であるから、他の要件を満たす限り分離課税の対象となる。   3 「譲渡」であること 分離課税の対象となるのは、特定暗号資産の「譲渡」による所得である。 したがって、マイニング、ステーキング、レンディング、エアドロップ等により暗号資産を取得した場合の所得は、暗号資産の譲渡による所得ではないから、取得した暗号資産が特定暗号資産であっても、また国内取引所を通じて行われたものであっても、分離課税の対象にはならない。 これらは従来どおり総合課税の雑所得(事業として行う場合は事業所得)である。 他方、「譲渡」は法定通貨を対価とする売却に限られない。暗号資産同士の交換も譲渡に該当し、交換時の時価により損益を認識する。この点は改正の前後で変わらない。 「円に換えていないから課税されない」という理解は誤りである。 もっとも、暗号資産同士の交換であっても、次に述べる経路の要件を満たさなければ、分離課税ではなく総合課税の対象となる。   4 経路が課税方式を決める 対象となる取引は、①暗号資産取引業者への売委託(暗号資産取引業者を通じて他の者へ売却する取引。いわゆる取引所取引・板取引)と、②暗号資産取引業者に対する譲渡(業者を相手方とする直接の譲渡。いわゆる販売所取引)の2つである。 海外取引所、DEX、プライベートウォレットを用いた個人間の相対取引(P2P取引)は、いずれもこれに該当しない。 ここから、同じビットコインであっても、どこで売るかによって分離課税と総合課税のいずれになるかが決まるという、経路選択の視点が生まれる。 判定は譲渡時の経路で行われ、取得時にどの経路で買ったかは問われない。DEXで購入した特定暗号資産を国内取引所で売却すれば分離課税、国内取引所で購入した特定暗号資産を海外取引所で売却すれば総合課税である。 改正前に取得した暗号資産であっても、適用開始日以後に国内取引所で売却すれば分離課税となる。 この経路による振り分けが、分離課税と総合課税の二重構造の出発点であり、第3回で扱う「経路選択」の前提でもある。   5 税額はどう計算されるか 分離課税が適用される場合の計算は、次の5つの段階に分けて理解すると見通しがよい。 【税額計算の5段階】 段階 内容 根拠 第1段階 事業所得・譲渡所得・雑所得の3類型ごとに所得金額を計算し、3類型間で通算した合計額(特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額)を算出 措法38の2①前段、 措令25の15の2① 第2段階 前年以前3年内の特定暗号資産に係る譲渡損失を控除 措法38の3① 第3段階 総所得金額から控除しきれない所得控除の額を控除 措法38の2②三 第4段階 特定暗号資産に係る課税譲渡所得等の金額に20%(所得税15%+住民税5%)を適用 措法38の2①、地法 附則35の3の6①④ 第5段階 配当控除・外国税額控除・住宅ローン控除等の控除不足額を控除 措法38の2②四等 所得金額そのものの計算は、基本的に所得税法の定めに従う。 取得価額(所令119の6)や評価方法(所令119の2。総平均法又は移動平均法)に関する規定は、分離課税か総合課税かを問わず共通に適用される。分離課税になったからといって計算方法が別物になるわけではない。 分離課税に固有なのは、税率と損失の取扱いである。 なお、税率は復興特別所得税等を含めると20.315%となり、上場株式等(措法37の11)及び先物取引(措法41の14)と同率である。   6 「箱」の中では通算でき、外へは出せない 分離課税に固有の取扱いの第1は、3類型(事業所得、譲渡所得、雑所得)の間で損益を通算できることである。 ある類型で損失が生じた場合、その損失は残りの2類型の利益から控除できる(措令25の15の2①後段)。例えば、事業所得に区分されるビットコインの譲渡損失を、雑所得に区分されるイーサの譲渡益から控除することができる。 総合課税では所得区分をまたぐこのような通算はできないから、これは納税者にとっての利点である。 第2は、その裏返しである。3類型間の通算をしてもなお残る損失は、箱の外へ持ち出せない。 給与所得等の総合課税の所得はもちろん、上場株式等(特定暗号資産ETFを含む)や先物取引(特定暗号資産デリバティブ取引を含む)といった他の分離課税グループの所得とも、損益通算できない。 この遮断は、租税特別措置法38条の2第2項2号の読替え規定と、同条第1項後段の損失を生じなかったものとみなす規定によって実現されている。 【暗号資産の譲渡損失と損益通算の可否】 所得区分 分離課税ルート 総合課税ルート 事業所得の損失 不可 可(所法69①。改正前と同じ) 譲渡所得の損失 不可 不可(所法69②) 雑所得の損失 不可 不可(もともと所法69①の対象外) 注目すべきは事業所得の扱いである。 総合課税ルートであれば、暗号資産取引を事業として行う者の損失は給与所得等と損益通算できるのに対し、分離課税ルートではこれができない。「分離課税のほうが常に有利」とはいえない理由の1つである。 なお、損益通算の計算過程から抜き取られるのは、損失だけではない。利益も抜き取られるため、暗号資産以外の事業の赤字が分離課税の暗号資産の黒字に吸収されて損益通算に使えなくなる、という事態は生じない。   7 3年間の繰越控除と連年申告 生じなかったものとみなされた損失も、そのまま切り捨てられるわけではない。 租税特別措置法38条の3は、これを翌年以後3年間にわたり繰り越し、その年の特定暗号資産に係る譲渡所得等の金額から控除することを認めている。2以上の年に生じた損失があるときは、古い年に生じたものから順次控除する(措令25の15の3①一)。 ただし、控除できるのはあくまで翌年以後の特定暗号資産の利益からであって、給与所得等から控除することはできない。 手続要件は厳格である。次の3つを、すべて満たす必要がある(措法38の3③)。 とりわけ②が実務の落とし穴である。 利益が出なかった年も、特定暗号資産の取引を一切行わなかった年も、申告を途切れさせれば繰越控除の権利を失う可能性がある。 しかも、先物取引の繰越控除に関する裁判例(東京高判平成30年3月8日訟月64巻12号1794頁)は、中間年分の申告をしないまま繰越控除を受けようとする年分の申告書を先に提出し、後から中間年分を期限後申告した事案について、繰越控除を認めなかった。やむを得ない事情があれば救済するという宥恕規定も設けられていない。 なお、青色申告であることは要件ではない。この点は上場株式等(措法37の12の2)や先物取引(措法41の15)の繰越控除と同じである。   8 源泉徴収も申告不要制度もない 最後に、上場株式等の実務との違いを2点確認しておきたい。 第1に、特定口座・源泉徴収に相当する仕組みがない。納税者自身が損益を計算し、確定申告を行う必要がある。 もっとも、暗号資産取引業者は、居住者等との間で行った特定暗号資産の売買等について、その翌年1月31日までに特定暗号資産年間取引報告書を所轄税務署長に提出しなければならない(措法38の2④)。 この報告書には、特定暗号資産の種類ごとの譲渡・取得の対価及び数量のほか、移入数量(他の取引所やウォレットからの受入れ)と移出数量(他の取引所やウォレットへの送金)が記載される。課税当局は「年始数量+購入数量+移入数量=売却数量+移出数量+年末数量」の整合性を検証できることになる。 ただし、第1回で述べたとおり、この報告書制度の開始は分離課税本体より1年遅れる。 第2に、申告不要制度がない。 上場株式等では、源泉徴収選択口座内の所得について申告不要を選択すれば、その所得は合計所得金額に算入されない。特定暗号資産にはこれに相当する仕組みがなく、利益は必ず合計所得金額に算入される。 しかも、繰越控除を適用して税額がゼロとなっても、合計所得金額には繰越控除適用前の金額がそのまま算入される(措法38の3④)。 配偶者控除・扶養控除・基礎控除・住宅ローン控除等の適用判定は合計所得金額を基準とするから、税率が20%に下がった分だけ税負担が軽くなるとは限らない。 *  *  * 次回は、総合課税ルートに残された取扱いと、二重構造が生み出す「経路選択」を扱う。   (了) 【書籍情報】 令和8年度改正に伴う暗号資産の取扱いについて もっと知りたい方のための書籍ができました! 暗号資産の税金はこう変わる-分離課税の仕組みと実務(清文社) 著者:泉 絢也 発行日:2026年8月14日 ISBN:‎978-4-433-72716-1 判型:A5判292頁 定価:3,080円(税込) 詳しくは[こちら]

#No. 684(掲載号)
#泉 絢也
2026/09/03

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例89】「取得後売主にリースバックした後に取り壊した建物の除却損該当性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例89】 「取得後売主にリースバックした後に取り壊した建物の除却損該当性」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、関東地方のとある県庁所在地に本社を置き、関東一円に所在する、いわゆるビジネスホテルを経営している株式会社X(資本金10億円で3月決算)において、経理部長を務めております。 コロナ禍明け後は、円安やインフレ圧力という外的な不確実要素はあるものの、インバウンド需要のみならず、日本人の出張・観光需要ともに旺盛で、東京に比較的近い宿泊施設は高い稼働率を保っており、わが社もその恩恵を大いに受けて業績は堅調です。そのため、ビジネスホテルの新規開業を目指して、ホテル開業適地を探して情報収集をするとともに、適当な物件の情報を得たらすぐに実地調査を行って、その結果を役員会に報告する日々となっているところです。 さて、コロナ禍の時期は少し間が空きましたが、コロナ禍明け後はその間の空白の埋め合わせをするかの如く、わが社も昨年に続き今年も先月から国税局の税務調査を受けています。その中で現在問題となっているのは、取り壊した建物にかかる固定資産除却損の計上の可否です。老朽化した建物を土地とともに取得したものの、約1年間売主にリースバックしましたが、その後わが社としては使用することなく取り壊した当該建物は、再利用しようがないものですから、除却損を計上するほかに経理処理しようがないものと考えておりました。しかし、国税局の主査は、取り壊すことを前提に取得した建物は、たとえすぐに取り壊していなくとも、損失を計上するのではなく新しく取得した土地の取得価額に含めるべきと難癖をつけてきます。この点につき法人税法上、どのように取り扱うのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 土地の取得価額の範囲は、①当該資産の購入代価(引取運賃、購入手数料その他当該資産の購入のために要した費用がある場合にはその費用の額を加算した金額)及び②当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の合計額と解するのが相当ですが、取得時に土地の上に存する建物をその後取り壊した場合におけるその建物にかかる固定資産除却損の計上の可否は、当該土地・建物の取得に至る経緯、当該建物の客観的状況、取得後の当該建物の利用状況、当該建物の取壊しの時期、経緯及び目的等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが妥当であると考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 土地等の非減価償却資産の取得価額 法人税法において、土地等の非減価償却資産の取得価額については、特に明文の規定は存在しない。そうなると、その取扱いについては、いわゆる「別段の定め」が存在しないことから、法人税法第22条第3項及び同条第4項に従って判断することとなる。 中でも、法人税法第22条第4項(公正処理基準)に従うときには、具体的には、企業会計原則第三の五(貸借対照表価額)において、貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、当該資産の取得原価を基礎として計上しなければならないこととし、同Dにおいて、有形固定資産の取得原価には、原則として、当該資産の引取費用等の付随費用を含めることとしているところ、これは、公正妥当な会計慣行を確認的に明文化したものと解されるところである。このような取扱いは、一般に、土地等の非減価償却資産の取得価額にも該当するものと解される。   (2) 建物の存する土地の取得価額 法人税法施行令第54条第1項第1号は、固定資産のうち減価償却資産の取得価額について、以下のとおり規定している。 法人税法施行令の当該規定は、上記(1)で示した「公正妥当な会計慣行」を確認的に明文化したものと解されている。 また、当該規定は「固定資産のうち減価償却資産の取得価額」の規定であるが、土地のような非減価償却資産についても妥当するものと解されている。 なお、法人税基本通達7-3-6は、法人税法施行令の当該規定を受けて、建物の存する土地につき、当初からその建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときには、当該建物の取壊し時の帳簿価額及び取壊費用の合計額は、当該土地の取得価額に算入する旨を示している。   (3) 取得後売主にリースバックした後に取り壊した建物にかかる固定資産除却損の該当性が争われた事例 それでは本件と同様に、取得後売主にリースバックした後に取り壊した建物にかかる固定資産除却損の該当性が争われた事例(東京地裁令和6年11月13日判決・税資274号(順号14040)、TAINSコード:Z274-14040)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 昭和63年5月に設立された、ホテル、旅館、浴場及び喫茶・軽食等の飲食店並びにレジャー産業の経営及び賃貸に関する事業等を目的とする内国法人である原告は、土地及び建物を購入し、本件建物を1年3か月間、売主に賃貸(リースバック)した後、これを取り壊した。その後、原告は、本件土地の上に新たに建物を建築し、ホテルとして開業した。 原告は、平成30年5月1日から平成31年4月30日までの事業年度及び課税事業年度に係る法人税及び地方法人税の各申告において、取り壊した本件建物の帳簿価額を固定資産除却損として損金の額に算入したところ、処分行政庁は、本件建物の帳簿価額は本件土地の取得価額に算入すべきであるとして、当該損金算入を認めず、法人税の更正処分及びそれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分並びに地方法人税の更正処分及びそれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分を行った。 本件は、原告が、本件各更正処分等が違法であるとして、本件法人税更正処分及び本件地方法人税更正処分のうち修正申告による法人税額及び地方法人税額をそれぞれ超える部分並びに本件法人税賦課決定処分及び本件地方法人税賦課決定処分の取消しを求める事案である。 なお、本件建物は、地下2階付き10階建て(登記簿上の延床面積4,785.71㎡)であり、昭和39年頃に建築された鉄筋コンクリート造の建物である。 ② 事案の争点 本件における争点は、本件建物帳簿価額が、本件土地の取得価額に算入すべきものとして、損金の額に算入されるか否かである。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴されたが(東京高裁令和7年9月18日判決・TAINSコード:Z888-2837)、棄却され確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 法人税基本通達7-3-6は、法人税法施行令54条1項1号の規定を受けて、建物の存する土地につき、当初からその建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるときには、当該建物の取壊し時の帳簿価額及び取壊費用の合計額は、当該土地の取得価額に算入する旨を示している。本裁判例は、原告が取得した土地及び建物のうち、リースバックした後に取り壊した建物の帳簿価額が、原告の経理処理のように固定資産除却損に計上されるのか、それとも当該通達が示すように土地の取得価額に算入されるのかが争われた事案である。 本裁判例において裁判所は、当初からその建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるか否かは、「当該土地・建物の取得に至る経緯、当該建物の客観的状況、取得後の当該建物の利用状況、当該建物の取壊しの時期、経緯及び目的等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが相当である」とし、「原告が本件不動産の所有権を取得した平成28年9月30日の時点において、原告は、本件建物を取り壊して本件土地上にホテルを新築することを決め、これに沿った行動をしていたものであり、本件不動産の取得の目的が本件建物を取り壊して本件土地を利用するためであったことは明らかであると認められる」と認定したことから、課税庁の更正処分は適法であると判断した。 そもそも、本件建物は昭和39年頃に建設され、原告が所有権を取得した時点で既に築50年以上が経過しており、それまでホテルではなく診療所として利用されていたこと、老朽化や機能低下がみられる上、アスベスト・PCB等が使用されている可能性があること及び売主はアスベストについて瑕疵担保責任を負わないことが売買契約書や重要事項説明書に明記されていたこと、それにもかかわらず原告が売買契約の締結前も締結後もそれらの使用について調査をしていなかったことからすると、本件建物を改装してホテルとして利用することは、現実的ではなかったと認められる。このような事実関係を前提とすれば、本件の土地・建物の取得について、法人税基本通達7-3-6でいうところの、「当初からその建物を取り壊して土地を利用する目的であることが明らかであると認められるとき」に該当することは明確であると言わざるを得ないであろう。   (4) 本件へのあてはめ 土地の取得価額の範囲は、①当該資産の購入代価(引取運賃、購入手数料その他当該資産の購入のために要した費用がある場合にはその費用の額を加算した金額)及び②当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の合計額と解するのが相当であるが、取得時に土地の上に存する建物をその後取り壊した場合におけるその建物にかかる固定資産除却損の計上の可否は、当該土地・建物の取得に至る経緯、当該建物の客観的状況、取得後の当該建物の利用状況、当該建物の取壊しの時期、経緯及び目的等の諸事情を総合的に考慮して判断するのが妥当であると考えられる。   (了)

#No. 684(掲載号)
#安部 和彦
2026/09/03

令和8年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第10回】

令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第10回】 (最終回)   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   Ⅴ 特定生産性向上設備等投資促進税制の創設 1 改正の概要 国内投資の拡大を通じて、日本企業の「稼ぐ力」を向上させ、賃上げを含めた好循環を形成するため、高付加価値化のための「特定生産性向上設備等投資促進税制(建物を含む即時償却又は税額控除4%、7%)」が創設されている(措法42の12の7、措令27の12の7)。 [特定生産性向上設備等投資促進税制の概要] 対象業種 全ての業種を対象。 対象資産 産業競争力強化法の確認手続きを経た設備投資計画に基づき取得した設備等を対象。 ① 生産等に必要な以下の設備等 ● 機械装置 ● 工具及び器具備品 ● 建物 ● 建物附属設備 ● 構築物 ● ソフトウエア ② 投資下限額:35億円以上(中小企業者等については5億円以上) ③ ROI水準:15%以上 措置内容 ● 即時償却又は税額控除率7%(建物、建物附属設備、構築物は4%) ● 控除上限:法人税額の20% ● 輸出入取引にかかる条件の著しい変化など、事業環境の急激な変化による影響への対応を行うための計画の認定を受けた事業者については、最大3年間の繰越しが可能。 措置期間 産業競争力強化法の改正法の施行日(令和8年7月31日)から令和11年3月31日までの間に設備投資計画につき産業競争力強化法の確認を受けた者が、その確認を受けた日から5年を経過する日までの間に取得等をし、事業の用に供した設備等を対象。 他の設備投資税制の適用 ● 本税制の適用を受ける場合、投資計画期間中は地域未来投資促進税制、中小企業経営強化税制、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制の設備投資税制は適用しない。 ● 戦略分野国内生産促進税制の控除上限となる生産設備の額から、本税制の適用を受けた資産の取得価額を除く。 不適用措置 大企業については、当期の所得が前期の所得を超えているにもかかわらず、賃上げ要件(継続雇用者給与等支給額に係る要件)又は国内設備投資要件(国内設備投資額に係る要件)のいずれかを満たさない場合は、本税制(即時償却を含む。繰越税額控除を除く)は適用できない。 〈賃上げ要件〉 ● 賃上げ率1%以上(超大企業※は、2%以上) 〈国内設備投資要件〉 ● 国内設備投資額が当期の減価償却費の30%超(超大企業※は、40%超) ※超大企業:大企業のうち、以下のいずれかに該当する法人 ① 資本金の額が10億円以上かつ常時使用する従業員数が1,000人以上 ② 常時使用する従業員数が2,000人超 (出典) 財務省「「令和8年度税制改正」(令和8年4月発行)」の5頁の表を筆者一部加工   2 グループ通算制度における取扱い グループ通算制度を適用している場合も、特定生産性向上設備等投資促進税制は、個社ごとに適用され、グループ通算制度を適用していない場合と同様の取扱いとなる。 また、租税特別措置の不適用措置についても、次のように、特定税額控除規定の適用可否の判定(措法42の13⑤)と基本的に同じ取扱いとなる。   (連載了)

#No. 684(掲載号)
#足立 好幸
2026/09/03

金融・投資商品の税務Q&A 【Q107】「譲渡損失の繰越期間中に非居住者期間が含まれる場合の連年申告要件」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q107】 「譲渡損失の繰越期間中に非居住者期間が含まれる場合の連年申告要件」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除 上場株式等に係る譲渡損失について、その年分の上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算上控除してもなお控除しきれない部分の金額は、一定の要件のもと、翌年以降3年間にわたって繰り越し、上場株式等の譲渡所得等の金額及び上場株式等に係る配当所得等の金額の計算上控除するという特例が認められています。この特例の適用を受けるためには申告要件があり、下記の書類の添付がある確定申告書の提出が必要です。   2 連年申告要件と損失申告 (1) 確定申告書の提出ができない場合の損失申告 連年申告要件を充足するための申告(上記1の②)としては、通常の確定申告書、還付申告書(外国税額控除、源泉徴収税額等の還付を受けるための申告書)、確定損失申告書(純損失の金額がある場合などの繰越控除の規定を受けるための申告書)が含まれます。ただし、これらが提出できないことも想定されることから、下記のいずれかの場合には、損失申告書を提出することができる手当が講じられています。 (2) 非居住者期間における申告要件 上記(1)の手当は、法令上、「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」を対象としているように読めるため、非居住者である期間については連年申告要件を充足することはできないのではないかという疑義がありました。 この点、名古屋国税局の文書回答事例「非居住者となった場合の上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用について(恒久的施設を有しない非居住者であった期間における損失申告書の提出の可否)」において、非居住者であっても損失申告書の提出が可能であることが明らかにされました。上場株式等に係る譲渡損失の繰越控除の適用を受ける年において「居住者又は恒久的施設を有する非居住者」であることが求められているのであり、繰越控除の適用を受ける年の前年までの期間において恒久的施設を有しない非居住者であることは、損失申告書の提出の可否に影響しないとのことです。   3 本件へのあてはめ 上場株式等に係る譲渡損失が生じ、その繰越控除の適用を受けるための確定申告をした後に、海外赴任により非居住者となることが予定されているとのことです。非居住者である期間については確定申告書の提出をしないことが見込まれるとのことですが、非居住者であった年分についても上場株式等の譲渡損失に係る損失申告書を提出することで、連年申告要件を充足し、帰国後(3年間の繰越可能期間内である必要があります)に上場株式等の譲渡所得等の金額が生じる場合及び上場株式等に係る配当所得等の金額が生じる場合には、繰越控除の適用を受けることができると考えられます。   (了)

#No. 684(掲載号)
#西川 真由美
2026/09/03

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第67回】「残余利益分割法における重要な無形資産の意義」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第67回】 「残余利益分割法における重要な無形資産の意義」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 残余利益分割法の適用に当たり、国外関連取引の対象製品はコモディティな規格品であり、その品質の優劣は利益率に影響を及ぼさないから、当該製品を国外関連者から購入する内国法人には重要な無形資産は存在しないという主張は認められるのでしょうか。 〔A〕 事例判決ですが、HOYA事件では、「内国法人の有する特許権等により、同法人は、市場における極めて高いシェアを獲得・維持することができたといえる。内国法人の有する技術等は、同法人独自のものであり、これが所得の源泉であると評価し得るから、重要な無形資産ということができ、その存在により内国法人グループに超過利益が発生した」という判断が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 残余利益分割法に係る過去の裁判例等と問題点 過去の移転価格税制に係る裁判例において、独立企業間価格の算定方法につき、残余利益分割法適用の是非が争われた事例は比較的多く、本連載においても、下図のとおり、過去において3事例を取り上げている(※1)。 (※1) 大野雅人「移転価格税制における残余利益分割法の適用-親会社が『重要な無形資産』を有するかどうかが争われた事例―」(TKC税情・2026年6月)76頁参照 事件名 判決日時 判決の概要 バックナンバー 本田技研 工業事件 (第一審) 東京地裁平成26年8月28日 (控訴審) 東京高裁平成27年5月13日 国外関連者の基本的利益の算定に当たり、比較対象法人は比較可能性を有しないとして、課税処分を全部取消し 第5回 第6回 上村工業 事件 (第一審) 東京地裁平成29年11月24日 (控訴審) 東京高裁令和元年7月9日 処分庁による残余利益分割法の適用は適法であるとして課税処分を維持 第3回 第4回 第5回 日本ガイシ 事件 (第一審) 東京地裁令和2年11月26日 (控訴審) 東京高裁令和4年3月10日 国外関連者の超過減価償却費も残余利益の分割要素となるとして、課税処分の一部を取消し 第26回 なお、上記以外にも、残余利益分割法に係る裁決事例として、TDK事件(※2)及び武田薬品工業事件(※3)がある(※4)。 (※2) 国税不服審判所平成22年1月27日裁決(TAINSコード:F0-2-463) (※3) 国税不服審判所平成25年3月18日裁決(TAINSコード:F0-2-503) (※4) 前掲(※1)参照 残余利益分割法は、国外関連取引につき、国外関連取引の両当事者による独自の寄与が認められる場合において、(両当事者の合算後の)分割対象利益等のうち「基本的利益」を国外関連取引の両当事者に配分し、その余について、独自の寄与により発生した部分として、「残余利益」をその寄与した要因に応じてこれらの者に配分し、独立企業間価格を算定する方法である(措令39の12⑧一ハ(1)(2))。ここでいう「寄与した要因に応じて」とは、同施行令では、「発生に寄与した程度を推測するに足りるこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者に係る要因に応じてこれらの者に帰属するものとして計算した金額」を分割要素とする旨規定している。 一方、措置法通達では、「残余利益等を法人及び国外関連者で配分するに当たっては、その配分に用いる要因として、例えば、法人及び国外関連者が無形資産(重要な価値のあるものに限る。以下66の4(5)-4において同じ。)を用いることにより独自の機能を果たしている場合には、当該無形資産による寄与の程度を推測するに足りるものとして、これらの者が有する無形資産の価額、当該無形資産の開発のために支出した費用の額等を用いることができることに留意する。」(措通66の4(5)-4)と規定している。 重要な無形資産の存在を重視する考え方は、米国の移転価格税制及びOECD移転価格ガイドラインの数次の改訂が背景にあり、多国籍企業グループが高い収益力を達成し得ているのは、当該グループが他者にはないユニークな無形資産を有しているからであり、移転価格税制において、企業グループ内の利益を配分するためには、各グループ企業が保有する無形資産の価値に基づいて行うのが合理的であるというものである。 しかし、各グループ企業が保有する無形資産の価値とはいっても、それが各企業の貸借対照表に計上されているわけではないし、概念として理解することはできるとしても、それを具体的にどのように測定するかについては規定上明らかではない。 以下では、残余利益分割法の適用の是非が争われた最近のHOYA事件(※5)を検討する。 (※5) 本件における課税処分の最も古い事業年度は平成19(2007)年3月期であり、国税不服審判所に対する審査請求は平成25(2013)年8月20日、同裁決は平成30(2018)年3月20日と、審査請求だけでも4年7ヶ月を要している。さらに、東京地裁への出訴は同年9月25日であり、地裁判決にも6年9ヶ月を要しており、対象事業年度から足掛け20年近くに及ぶ異例の長期租税事件となっている。   2 裁判例 《東京地裁判決令和7年6月10日(LEX/DB25624206)》 (1) 事案の概要 各種ガラス及びエレクトロニクス関連素材等の製造及び販売等を業とする内国法人X(原告)は、ハードディスクドライブ(HDD)用のガラス製サブストレートの製造及び販売を行うXの国外関連者との間の取引について、①技術開発等の役務提供を行ったことにより支払を受ける対価の額及び②知的財産権等の管理の役務提供を行ったことにより支払を受ける対価の額をそれぞれ益金の額に算入するとともに、③ガラス製サブストレートを購入したことにより支払う対価の額を損金の額に算入して、法人税の確定申告をしたところ、処分行政庁Yは、上記①ないし③の各取引を一の取引とみた場合にXの支払う対価の額が、租税特別措置法にいう独立企業間価格を超えるとして、本件各事業年度の法人税についてそれぞれ各更正処分等をした。 本件は、Yが独立企業間価格を算定するに当たり「残余利益分割法と同等の方法」を採用したことについて、Xが、自らは「重要な無形資産」を有していないから、本件において残余利益分割法と同等の方法を用いて独立企業間価格を算定することは合理性を欠くなどと主張して、本件各更正処分等の取消しを求める事案である。 本件各更正処分等においてYが問題とした取引は、Xのタイ子会社であるA社、ベトナム子会社であるB社、フィリピン子会社であるC社(以下A社、B社及びC社を併せて「本件各国外関連者」という)との取引である。本件各国外関連者は、HDD用部品を自社工場で製造し、これをX等に販売していた。また、本件各国外関連者は、Xとの間で、HDD用部品に係る要素技術(各製品の製造に必要な基本技術)の開発について、各社を委託者、XのMD事業部を受託者とする技術開発委託契約を締結し、要素技術開発の成果は、原則として本件各国外関連者に帰属するものとしていた。 (2) 争点とXの主張 本件の争点は、本件各更正処分等の適法性であり、具体的には、①本件各国外関連取引の独立企業間価格について残余利益分割法と同等の方法を用いて算定したことの適否、②本件各国外関連取引を一の取引として独立企業間価格を算定することの適否、及び③基本的利益の算定方法の適否である。 Xは上記①~③について、要旨次のように主張し、さらにYの主張に応答し、④残余利益の配分の適否について、要旨次のように主張した。 (3) 裁判所の判断 東京地裁は、上記各争点につき、次のように判示し、本件各更正処分等の一部を取消し(※6)、その余の請求を棄却した。その後、Xは本判決を不服として、控訴している(※7)。 (※6) Xのホームページによれば、繰越欠損金控除後の追徴税額は約33億円で、地裁判決による更正処分等の取消額が約13億円とのことである。 (※7) HOYA株式会社「税務訴訟の判決について」 ① Xが有する重要な無形資産と残余利益分割法適用の是非 東京地裁は次のように判示して、X及び本件各国外関連者双方がそれぞれ重要な無形資産を有しているものと認め、Yが残余利益分割法を用いて独立企業間価格を算定したことを適法と結論付けた。 (※8) ガラス製サブストレートの製造に要する超精密研磨、超精密洗浄及び化学強化等に関する技術・ノウハウをいう。 ② 本件各国外関連取引を一の取引として独立企業間価格を算定することの適否 東京地裁は次のように判示して、Yが本件各国外関連取引を一の取引として独立企業間価格を算定したことは適法であるとした。 ③ 基本的利益の算定方法の適否 東京地裁は、Yが本件各国外関連者のうちの1社(ベトナム子会社B社)の比較対象企業として選定した企業が主として製造していた製品は、消費者向けの家電製品であると認められ、本件各国外関連者のような少数の大規模事業者向けの生産財とはその市場が著しく異なるものと解されるとし、Yが本件各更正処分等において同社を比較対象法人として選定し、かつ、利益率について何らの調整も行わなかったことは不適切というべきであると判断した。その結果、特定の事業年度について国外関連者の基本的利益が算定できなくなり、その限度において、Yの課税処分は違法であるとしてその一部を取り消した。 ④ 残余利益の配分の適否について 東京地裁は、「Xは本件技術等という重要な無形資産を有し、本件各国外関連者は本件量産技術等という重要な無形資産を有し、これら重要な無形資産の存在により、超過利益が発生したものと認められる。」とした上で、「Xの重要な無形資産の開発のために支出した費用として、XのMD事業部の開発部及びMD研究開発部における本件各国外関連取引に関する研究開発費の額)をXの分割要因としたことは相当である。」と結論付けた。 (4) 検討 ① 自社に重要な無形資産はないという主張について 1941年に創業したXは、光学レンズ製造を皮切りに、メガネやコンタクトレンズ、医療用内視鏡、白内障用眼内レンズ等を製造する国内トップメーカーであり、光学レンズメーカーとして培った高度な技術力を応用し、半導体やデジタル機器産業などのエレクトロニクス事業を展開する多国籍企業である。そのような企業が本訴訟に当たり、自社に重要な無形資産はない、と主張していたところに、本件の特徴がある。 Xの主張の中心は、「ガラス製サブストレートは顧客の定めた規格を満たす製品であり、競合他社もこの規格を満たす製品を製造することができる(中略)コモディティな規格品であるから、その品質の優劣は利益率に影響を及ぼさない。ガラス製サブストレートの生産方法(製造工程)や生産技術は、一般的で公知なものである。」というものであるが、これに対しYは、「Xは、いち早く意思決定を行って、ガラス製サブストレート事業に参入し、事業計画及び事業方針、それを具体化した目標を設定し、大容量化、高品質化、小型・薄型化など技術革新要求の強い顧客からの品質要求に応えるための開発活動を継続して行うことにより、長年にわたり、ガラス製サブストレートの製造に要する超精密研磨、超精密洗浄及び化学強化等に関する技術・ノウハウ(括弧内略)を形成等させてきた。」と主張している。 東京地裁は、上記(3)①記載のとおりXの主張を排斥し、「本件技術等は、X独自のものであり、これが所得の源泉であると評価し得るから、重要な無形資産ということができ、その存在によりXグループに超過利益が発生した」と結論付けた。 Xがなぜこのような主張をしたのかは定かではないが、残余利益分割法では勝ち目がないと考え、訴訟戦略上の見地から、極端ともいえる主張を展開したのかも知れない。しかし、本件においては、このような主張は無理筋であったといわざるを得ない。 ② 具体的な分割要因について 上記(3)①のとおり、東京地裁は重要な無形資産の存在によって、高い営業利益率が生じ、超過利益が発生したと判断したが、具体的な分割要素として、「(Yが)Xの重要な無形資産の開発のために支出した費用として、XのMD事業部の開発部及びMD研究開発部における本件各国外関連取引に関する研究開発費の額をXの分割要因としたことは相当である。」と結論付けた。 これに先立ち、Xは、日本ガイシ事件にヒントを得てか、本件各国外関連者が大規模設備投資をしたことにより、生産高が伸びるほど製品1個当たりの生産に必要な費用が減少する規模の利益を享受しているから、これを分割要因として考慮すべきであると主張した。 これに対し、東京地裁は、本件各国外関連者側比較対象法人の事業規模の類似性については、本件国外選定基準により、本件各国外関連者の基本的利益の算定において一定程度考慮されており、規模の利益を専ら本件各国外関連者の側の分割要因とすべきものということはできないとし、さらに、日本ガイシ事件と本件とは事実関係が異なるとしてXの主張を斥けた。 すなわち、本件では、残余利益の分割要因を研究開発費に求めるという、従来どおりの解釈を踏襲したものということができる。 ③ 結論の分岐となった比較可能性 本件で、一部取消しという結論の分岐点になったのは、結局、基本的利益の配分における比較対象法人の比較可能性の問題であった。本連載【第46回】IHI事件でも指摘したように、現行規定上、措置法通達66の4(3)-3《比較対象取引の選定に当たって検討すべき諸要素等》の定める5つの要素(※9)の類似性を満たす必要がある。この5つの諸要素のうち1つでも欠け、かつ調整不可能であれば、その企業の比較可能性はないと判定されてしまう。そもそも、リスクと機能が類似する企業といっても、そう簡単に抽出できるものではない。本件及びIHI事件という最近の2事件の結果、移転価格事件において、課税庁側が課税処分を行うことへのハードルが一層上がったということはいえそうである。 (※9) (1)棚卸資産の種類、役務の内容等、(2)売手又は買手の果たす機能、(3)契約条件、(4)市場の状況、(5)売手又は買手の事業戦略の5要素。   (了)

#No. 684(掲載号)
#霞 晴久
2026/09/03

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第191回】株式会社はてな「特別調査委員会調査報告書(開示版)(2026年7月17日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第191回】 株式会社はてな 「特別調査委員会調査報告書(開示版)(2026年7月17日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社はてな特別調査委員会による調査の概要】   【株式会社はてなの概要】 株式会社はてな(以下、「はてな社」と略称する)は、2001年7月設立。設立時の社名は、有限会社はてな。2004年2月、株式会社に改組。2016年2月、東京証券取引所マザーズ市場に上場。インターネット関連事業を主たる事業とする。 売上高3,794百万円、経常利益339百万円、資本金250百万円。従業員数217人。創業者で現取締役(非常勤)の近藤淳也氏が発行済み株式の32.66%を所有している(いずれも2025年7月期有価証券報告書による)。本店所在地は東京都港区。東京証券取引所グロース市場上場。 会計監査人は、2024年10月25日まで有限責任あずさ監査法人東京事務所(以下、「あずさ監査法人」という)、その後、太陽有限責任監査法人東京事務所(以下、「太陽監査法人」という)。   【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 はてな社は、2026年4月21日、取引先銀行から不審な送金が行われているとの連絡を受けて確認したところ、4月20日及び21日に、はてな社従業員のアカウントより、はてな社の銀行預金口座から外部の銀行口座へ最大約11億円の送金が実行されていたこと(以下、「本事案」という)を確認した。 はてな社は、被害確認後、警察に被害を相談するとともに、関係金融機関に対して事故を報告し、被害回復へ向けた措置を講じることと併せて、代表取締役社長である栗栖義臣氏(以下、「栗栖社長」という)を本部長とする対策本部を設置し、捜査機関の捜査に全面的に協力するとともに、はてな社から独立した立場の外部専門家(弁護士等)による事実関係の調査を開始した。 はてな社は、対策本部による社内調査を進めた結果、本事案の流出金額の大きさ及び事案の性質に鑑み、事実関係の解明、原因分析及び再発防止策の策定において、調査の独立性及び客観性を高め、ステークホルダーに対する説明責任を果たすことが不可欠であると判断し、5月7日開催の臨時取締役会で特別調査委員会を設置することを決議した。 2 特別調査委員会の問題意識と調査結果 特別調査委員会は、本事案について先入観を持つことなく、依頼を受けた特殊詐欺による資金流出について、その存否を確認するとともに、念のため一般的に発生可能性が高い経理担当者による横領等の可能性もあることを念頭に調査を行い、特殊詐欺の被害として、金銭以外にもはてな社の情報が流出した可能性があったことから、個人情報その他経営に関する重要情報の流出の有無、という観点からも調査を行っている。 そして、調査の結果、次の結論を得たとしている。 3 特別調査委員会による調査結果の概要――特殊詐欺の手口 特別調査委員会による調査報告書には、約10頁にわたって、特殊詐欺グループからの指示のままに、経理部長H氏が行った資金流出の内容が詳細に説明されているが、本稿では、これをいくつかの段階に区切って、特殊詐欺の手口を見ておきたい。 (1) 詐欺グループとの最初の接触 2026年4月20日午前8時2分、自宅にいたH氏の私用モバイルに、詐欺グループより電話があり、大規模な資金洗浄グループの捜査を進めていること、警察内部にも関係者がいるために捜査員には専用の携帯電話が配布されておりそこから架電していること、さらにH氏自身に資金洗浄への関与疑いがあり逮捕・拘留となるため出頭が必要であることなどが告げられた。家族への口外を禁止され、心理的に孤立したH氏はこれらの話の真偽を確かめる間もないまま詐欺グループの指示に従い、通信アプリアカウントに詐欺グループのアカウントを招待した。 8時29分、H氏は詐欺グループに対して自身の姓名を記載したメッセージを送付。 8時35分、H氏に対して通信アプリのミーティングURLが送付され、詐欺グループは通信アプリのミーティングによるビデオ通話中に「警察手帳」や「検察官証」とされるものを提示し、H氏の氏名、生年月日等の個人情報をあらかじめ把握した上で、H氏がはてな社の従業員であり、経理部長であることなどを言葉巧みに引き出し、栗栖社長や取締役コーポレート本部長である田中慎樹氏(以下、「田中取締役」という)といったはてな社の関係者も資金洗浄への関与疑いから捜査対象であることを告げるとともに、今後H氏に対して行う指示は資金洗浄に係る「捜査協力」であると告げた。 (2) リモートデスクトップの実行と遠隔操作の開始 H氏は、詐欺グループの説明と送付された資料から、作業指示を捜査の一環であると信じ込み、10時38分にPCを起動し、リモートデスクトップを、どのようなアプリケーションであるかを不知のままダウンロードの上で実行して、PCに対して、外部からのリモート接続が確立され、詐欺グループはH氏のPCを遠隔操作することが可能となった。 その後、詐欺グループは11時40分にPCを直接操作してY銀行のWEB振込画面から詐欺グループの口座に対する振込申請を実施し、二段階認証において必要な作業をH氏にさせようとした。H氏は指示された処理を実行すると、振込が実行され、資金が流出してしまうのではないかとの疑問を持ったものの、詐欺グループから、この振込は凍結口座への振込であって、捜査の一環であるから振込に該当せず、後で資金は戻る旨の説明を受けてこれを信用し、二段階認証を行った結果、11時41分にY銀行のメイン口座から9,999万円の不正送金が実行された(最初の資金流出)。 (3) X銀行からY銀行への資金移動指示 複数回の振込によりY銀行のメイン口座の残高が少額となったため、詐欺グループはH氏に対して、X銀行から資金移動を行うように指示し、13時10分、H氏は経理部門チャットルームにおいて、田中取締役あてに、「給与出金の準備にあたり、Y銀行にX銀行から資金移動3億円おこないたいのですが、本日移動してよろしいでしょうか」と依頼したところ、田中取締役は「以前もあったようなことかと思いますので、必要であればお願いします」と返信し、これを了承した。H氏は、A氏に資金の移動をチャットで依頼し、A氏はD氏の確認を受けて、X銀行からY銀行へ3億円の資金を移動した。 資金移動完了後、詐欺グループが主導する形で、Y銀行から不正送金が繰り返される。「X銀行からY銀行への資金移動」→「Y銀行からの不正送金」という行為は、その後、翌21日午前に詐欺被害が発覚するまで複数回行われることとなる。 (4) D氏からの問い合わせ 最初にX銀行からY銀行への資金移動が実行される前である13時34分、D氏は、Y銀行の口座残高が減少していることに気づき、H氏に対して、「口座の残高が少額になり、下記支払分が足りない状況です。何か運用等変わりますでしょうか?〇〇様に資金移動あり」とコメントしており、通例でない支払の存在を認識していたものの、その直後、H氏はD氏に対して、「その件について状況を把握済ですので、後ほど説明します。資金移動のほうを先にお願い致します」と返信したため、D氏はH氏の発言を信用し、その後、不正送金や資金移動について特段の疑義等を呈さなかったということである。 (5) Y銀行から田中取締役への照会 16時29分、田中取締役は、「本件、「9,999万円の入金が3回あったようですがこれは何ですか?」とY銀行Z支店からtelありました。本部からZ支店宛に連絡があったそうです。9,999万円の移動は詐欺の際によくある金額なのでスクリーニングされている、とか。入出金申請権限のためにそうされたのかなと思いますが、次回から金額の工夫をしたほうがいいかもです」と経理部門チャットルームへ投稿した。これに対しH氏は16時32分頃「承知しました。ご連絡ありがとうございます」と回答したのみであった。 なお、田中取締役は、チャットでメッセージを送付する前、Y銀行Z支店の複数の担当者と電話で会話しているが、田中取締役は、担当者に対して同日において億単位の給与支払があることを認識している旨を伝達した上で、Y銀行から指摘された資金の動きは自らが承認したX銀行からY銀行への給与支払のための3億円の資金移動であると考え、資金の動きとして問題ないものと判断し、特に銀行口座の入出金を直接確認することはなかった。 (6) 詐欺被害の発覚 翌日11時、H氏はY銀行問い合わせ窓口に電話をかけ、通話の中で、H氏はY銀行の窓口担当者と話すなどしているうちに冷静さを取り戻し、一連の指示が詐欺である可能性に気づき始めた。その後、H氏は私用モバイルでは詐欺グループが通話状況を監視しているおそれがあると考え、家族の携帯電話を借り、11時8分に110番に通報した。警察はH氏に対し、詐欺グループから説明された捜査プロジェクトは存在しないこと及び一連の指示及び作業は詐欺行為であることを告げ、H氏は前日からの送金行為全てが詐欺に係る不正送金であることを認識した。 (7) 田中取締役による詐欺被害の認識 H氏が不正送金について認識をした時点とほぼ同時刻、田中取締役はY銀行からの電話により、Y銀行の口座から不審な支払が継続しており、支払を停止したとの連絡を受け、その後、Y銀行の口座残高及び入出金明細の確認を実施し、不知の支払先に多額の支払が行われていることを認識した。 田中取締役は11時26分にH氏に電話をしたが、H氏が出なかったため、経理部門チャットルームにおいてH氏あてに、「すみません、Y銀行の昨日~今日の出金があまりに多額で、しかも見たことがない会社であるように思うのですが、これは何ですか?説明してください」と投稿した。11時40分、H氏は家族の携帯電話を利用して、田中取締役に折り返しの電話連絡を行い、不正送金の事実が報告された。 (8) 被害総額 以上のとおり、詐欺グループが指定した口座(はてな社において従前取引のない会社及び個人)への不正送金が確認された。不正送金及び不正な資金移動の金額をまとめると、はてな社のY銀行口座からの不正送金の金額は1,179,810,000円であり、X銀行からY銀行への資金移動は940,000,000円であった。 4 原因分析(調査報告書39頁以下) 特別調査委員会は、特殊詐欺により資金が流出した原因を、大きく4つの側面から評価分析している。 特別調査委員会は、原因分析を上記のとおりの順序でまとめているが、本稿では、はてな社経理部門がどのような状態で職務執行を行っていたのか、経理の体制について、取締役会と監査役会はどのように考えていたのかを論点に、原因分析をまとめたい。 (1) はてな社経理部門の体制とその変遷 本事案発生時のはてな社経理部は以下のメンバーによる職務を執行していた。 氏名 役職 入社年月 経理経験 H氏 経理部長 2024年11月 約19年半 C氏 経理部副部長 2026年3月 約20年 D氏 経理部員 2024年10月 約6年 F氏 経理部員 2025年7月 約4年半 A氏 派遣社員 2025年4月 約15年 B氏 派遣社員 2025年9月 約15年 最も入社が早いD氏でも社歴は2年に満たない。こうした体制となった経緯を時系列でまとめると次のとおりとなる。 2024年8月末日 長年、はてな社の経理実務を担ってきたK氏及びL氏が退職 I氏が後任となるが、K氏らから十分な引継ぎはなし 同年10月 会計監査人を、あずさ監査法人から太陽監査法人に変更 同年10月、11月 D氏及びH氏を採用 2025年2月 I氏による退職の意向を受けて、H氏が経理部長に昇進 同年4月 I氏退職 同年7月以降 2025年7月期決算業務のため、H氏が長時間勤務を続ける 同年9月から H氏休職(2026年2月復職) 同年10月から D氏休職(2026年2月復職) 2025年12月 C氏を経理部副部長として採用することを決定(入社は翌年3月) なお、H氏が休職前と同じ経理部長として復職させた判断について、調査報告書では、次のようにまとめられている。 こうした経理部門の状況について、特別調査委員会は、経理部における頻繁な入退社、経理部長の度重なる交代、十分な経験のない者の部長昇進、部長に加えて1名のスタッフが休職する、といった異常事態が相次ぎ、経理部においては様々なリスクが生じていたことから、「経理体制が脆弱であったこと」「経理部長教育が不十分であったこと」及び「経理部内のコミュニケーションが活発でなかったこと」を原因として挙げている。 さらに、H氏について、経理の体制に関する課題や自身が休職に至るまで追い込まれた業務負荷等について不満を募らせており、会社との信頼関係が欠如していたことを指摘して、詐欺グループからの電話に対して、広報、総務、法務など会社の適切な部署へ事実確認をするために第一報をいれるという行動をとれず、「自身の潔白」を証明することを最優先と考え、単独で捜査協力を行うとの名目で詐欺グループに協力したことの遠因と考えられるとまとめている。 (2) 取締役会・経営会議に対する評価 特別調査委員会は、はてな社取締役会においては、経理部門の頻繁な入退社は報告されていたものの、これに関わるリスクについては指摘されておらず、関心が薄く、経理内部のルールの整備状況について、これを把握しようという議案はもとより、意見や提言もなかったと認定している。 次いで、経営会議について、特別調査委員会は、経理部の頻繁な入退社に関して、議案が適時に上程され、議論がされており、H氏の入社、昇進、休職及び復職に関しても、栗栖社長、田中取締役及び取締役コンプライアンス本部長の大西康裕氏(以下、「大西取締役」という)が関わって議論がされていることを認定している。また、栗栖社長、田中取締役及び大西取締役は、H氏の復職について、経理部長としての重責が過大な負担にならないか等の職務に関する懸念を持っていたものの、休職後の復職に関わるリスクについては、議論がされた形跡は見当たらなかったとのことである。 以上の事実認定から、特別調査委員会は、取締役会及び経営会議においては、経理部の人事、特にH氏の採用、経理部長の2度の交代、H氏の休職及び復職について報告を受け、審議・協議していたものの、経理内部のルールや運用ルールの整備状況等について、リスク識別には至っていなかったと評価している。 (3) 監査役会に対する評価 はてな社では、経理部門に問題が生じるたびに、田中取締役が監査役会に報告しており、特別調査委員会は、本来想定されうるリスクに対しての内部監査の対応状況の適否について監査役会において協議し、内部監査部門と十分な連携を取り、タイムリーかつ適切な深度で内部監査をしてもらい、又は監査役自ら監査を行い、必要な是正を促す必要があったとしたうえで、実際には、異常事態が相次いだ経理部に関して、起こりうるリスクを正しく識別・評価し、リスクに見合った内部監査計画の策定や実施された手続の確認が十分に行われた形跡、監査役が自ら経理部について監査した形跡ともに見当たらなかったと結論づけている。 特別調査委員会による評価としては、監査役会全体として、職務意識の高さ及びリスク感度の高さは感じられなかったこと、こうした監査役会の姿勢が、本事案において、被害を防止しまたは被害をより少ない金額に食い止めることができなかったことの遠因となっていることは否定できないとまとめている。 5 提言(調査報告書48頁以下) 特別調査委員会は、上記の原因分析を踏まえて、「具体的な対策」として、「基本方針」に加えて次の7項目を提言している。 まずは、特別調査委員会による「再発防止の基本方針」の全文を引用しておきたい。 本事案が特殊詐欺による被害であるという特殊性を考慮して、「特殊詐欺に関する教育研修の実施」について、特別調査委員会による提言を、こちらも全文引用したい。   【調査報告書の特徴】 昨年来、上場企業がランサムウエアの被害に遭って、業務を停止せざるを得ない事件が発生している。とくに物流を担っている企業でこうした被害が生じたときには、その影響の範囲は広く、長く継続してしまうことになる。はてな社の経理部長あてにかかってきた警察をかたる電話に端を発した特殊詐欺による被害。流出した資金は、1,179百万円を超え、はてな社は業績見通しの下方修正を行い、当期純損失が767百万円となることを公表している。 特殊詐欺の手口は進化を続けている。とくに生成AIの活用によって、これまでは、「おかしな日本語」「不自然な表現」「誤字」など、詐欺を見抜くための端緒となっていた弱点を克服しているようである。「自分だけは大丈夫」と過信するのではなく、「自分が詐欺のターゲットとなった場合にはどうやって被害を防ぐか」という視点から、経理部門の責任者はもちろん、幹部社員にも、ぜひ、本報告書をお読みいただきたいと思料する。 調査報告書では一切触れられていないが、経理部長H氏の処遇についても気になるところである。はてな社から見れば、同氏は資金流出による被害を招いた張本人であり、複数の社内ルールを逸脱し、または虚偽の連絡を行うなど、その行動には大いに問題があった。ただ、H氏もまた、特殊詐欺の被害者であり、被害者になってしまった背景には、「原因分析」の項で触れたように、はてな社経理部門の運用上の問題やリスクがあり、H氏自身がはてな社に対する信頼を失っていたかもしれないという事情があった。特別調査委員会は、「原因分析」の最初に「経理部長であるH氏本人の原因」を掲げているが、筆者としては、この配置には賛同できない。 1 特別調査委員会による総括 調査報告書の最後に、特別調査委員会は、本事案は、はてな社の経理部長が特殊詐欺グループの手口に乗ってしまったことに端を発するものであることは確かであり、経理部長のリテラシーを問題にする見方もあるが、その一方で、特殊詐欺グループの手口は刻々と変化・進化しており、リテラシーがあっても騙されたという見方もあろうと述べている。そのうえで、特別調査委員会としては、個人のリテラシーだけに依存することは組織の資産を守るという点では不十分であって、従業員の問題ある行為を仕組みで防ぐこと、また、その被害金額を抑えることができたのではないか、という視点を持って調査を行ったということである。 本連載第190回で取り上げた「元CFOによる不正行為」では、元CFOに対する権限集中により、内部統制システムが機能しなかったものであるが、本事案は、経理部門の人員不足や業務フローの不備、経理部長の相次ぐ交代など、複数の要素に起因して、経理部長は上長やメンバーの牽制を受けることなく12億円近い金額を外部流出させる権限を有してしまっていたという、内部統制システムの脆弱さというよりは内部統制システムが存在しなかったことが、特殊詐欺被害に遭った一番の原因であったと思料するところである。 2 特別損失の計上 はてな社は、特別調査委員会による調査が進行中の2026年6月12日、「特別損失及び繰延税金資産の計上、並びに通期業績予想の修正に関するお知らせ」をリリースして、本事案における特殊詐欺による被害の最大額である1,179百万円を特別損失として計上するとともに、特別調査委員会による調査費用等の60百万円についても、特別損失に計上する見込みであることを公表した。 3 はてな社による再発防止策 はてな社は、2026年7月31日、「再発防止策の策定に関するお知らせ」をリリースして、特別調査委員会による提言を真摯に受け止め、同日開催の取締役会において、今後の再発防止策を決議したことを公表した。 はてな社が公表した再発防止策は次のとおりであり、特別調査委員会による提言を踏まえたものとなっている。 はてな社は再発防止策を公表したリリースの最後で、再発防止策の策定・実行は、管理体制および内部統制を見直していくための第一歩であると考えていること、全社一丸となって適切な資金管理体制を構築・運用し、ガバナンスの更なる強化を図ることで、信頼回復と、持続的な企業価値の向上に全力を尽くしていくことを述べている。 (了)

#No. 684(掲載号)
#米澤 勝
2026/09/03

税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A【第4回】「義務を果たす以外のメリット」

税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A第4回 義務を果たす以外のメリット社会保険労務士富山 直樹    QUESTION  法改正によりストレスチェックの実施が義務化されることは分かりましたが、実施することで義務を果たす以外に、何か事務所にとってメリットはあるのでしょうか。  ANSWER  戦略的に活用することで、事務所にとっては人材の定着や生産性、事務所のブランドイメージ向上といったメリットを生じさせる期待があります。以下、項目別に解説いたします。 ― 解 説 ― 1休職・離職の防止(人材の定着) メンタルヘルスの不調は、本人も気づかないうちに悪化することが少なくない。ストレスチェックは「なんとなく疲れた」「元気がない」といった心身の不調を可視化し自認することで、更なる悪化を防ぐ目的が考えられる。 本稿をご覧の皆様は、従業員50人未満の比較的小規模な事務所の方々が多いと考えられるが、今活躍してくれている目の前の従業員1人を採用、育成するのにどれだけの時間やコストを費やしてきただろうか。 その一人が欠けることでかかる負担は、小規模事業所であれば特に重くのしかかる。業務分配や進捗もさることながら、代替要員の採用費や教育コスト、それに費やす時間がかかることも大いに考えられる。 それらを未然に防ぐための予防的投資として、ストレスチェックは大いに活用できると考えられる。 ただし、これはあくまでも一次予防的措置であり、使用者側には各事業場の実態に即して二次的、三次的予防も含めた総合的な取り組みが求められる。   2「集団分析」による組織課題の可視化と改善 ※ただし、10人未満の事業所は不可 個人の結果だけでなく、職場単位でデータを分析・集計する「集団分析」を行うことで、組織の問題を客観的な数値として浮かび上がらせることができる。「特定の部署だけ仕事量への負担感が強い」「上司のサポート不足を感じている従業員が多い」「顧問先とのコミュニケーションに心理的負荷を感じている」といった構造的課題の把握を行うことにより、感覚や噂ではなく数値データに基づいた業務配分見直し、マネジメント研修、配置転換、担当の交代等の対策を事前に打つことが期待できる。 ただし、10人未満の事業所については、個人が特定される恐れがあることから、この集団分析を行うことは禁止されているので注意したい。   3業務効率、生産性向上 メンタルヘルスの不調は、従業員の欠勤や休職による生産性低下もさることながら、「出社はしているが、心身の不調により本来のパフォーマンスが出せない状態」も生じうる。問題が可視化されることにより、職場環境や業務負担を改善させ、従業員のメンタルヘルス不調を改善することで集中力、モチベーションの回復により、ケアレスミスや事故の減少、業務効率、生産性の向上を図ることへの寄与が期待できる。   4 採用力強化と事務所のブランディング(健康経営) 人手不足、採用難が深刻化する昨今において、求職者(特に若年層)が「働きやすさ」や「従業員を大切にする職場」を重視する傾向が高まっている。そのような中で、ストレスチェックを適切に運用し職場環境改善に取り組んでいる姿勢を示し、「安心して働ける」事務所としての信頼を獲得することで、人材の獲得を図ることが期待できる。   5経営リスク回避(労災・損害賠償訴訟) 万が一、従業員がメンタル不調で体調を崩した場合、使用者側に「安全配慮義務違反」が問われ、損害賠償や事務所名の公表といった重大な金銭的な損失、社会的信頼の失墜というダメージを被る恐れがある。ストレスチェックを適切に実施し、事後フォローや改善措置等を行った記録を残しておくことは、事務所としての、法的・経営的防壁(リスクマネジメント)となりうる。 ― ま と め ― ストレスチェックを「受けさせて終わり」にしてしまうと、コストと手間がかかるだけでこれらのメリットは享受できない。義務化と言われると腰が重くなるのももっともではあるが、「ヒト・モノ・カネ」のうち、「ヒト」への投資と考えてはいかがだろうか。 労働者が心身ともに健康的に働ける環境を整えることは、生産性の向上、離職防止、健康経営というブランディング等、事務所の経営戦略と結びつけることも十分可能である。やらされる義務から攻めの経営戦略へ、目を向けてみてはいかがだろうか。 (了)

#No. 684(掲載号)
#富山 直樹
2026/09/03
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