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【新基準対応版】〈一から学ぶ〉リースの会計と税務 【第4回】「リースの識別とリース期間」

【新基準対応版】 〈一から学ぶ〉 リースの会計と税務 【第4回】 「リースの識別とリース期間」   公認会計士・税理士 喜多 弘美   【第3回】では、一般的なリース取引の流れについて整理しました。今回は、リース会計の出発点となる「リースの識別」と「リース期間」について見ていきます。   1 新リース会計基準への改正 従来のリース会計基準では、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類していました。ファイナンス・リースのみ資産・負債を計上する一方、オペレーティング・リースは資産・負債を計上せず、リース料を費用として処理するオフバランス処理が認められていたのです。 しかし、2016年にIFRS・米国会計基準がともに、借手のリースについて、原則として資産・負債として計上する新しい会計基準が公表されました。日本でも、これに合わせて、2024年9月に新しいリース会計基準が公表され、借手は原則として、すべてのリースについて資産・負債を計上することになりました。 【第1回】でも確認しましたが、「リース」とは「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約又は契約の一部分」をいいます(会計基準第6項)。 簡単に言うと、リースは「一定期間、お金と引き換えに、ものを使う権利をもらう/あげる約束」でした。ポイントは、「もの」そのものではなく、「ものを使う権利」に着目していることです。リースに該当する場合は、借りている「ものを使う権利」を資産として計上します。 また、新しいリース会計基準は、契約の名前に関係なく、契約内容に基づいて適用されます。例えば、事務所等の不動産賃貸借契約、ネットワーク・サービスの利用契約であっても、契約の中にリースが含まれている可能性があります。そのため、契約を締結したときは、契約内容にリースが含まれるか判断する必要があります。これが「リースの識別」です。   2 リースの識別 「契約が特定された資産の使用を支配する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する場合」、その契約にリースを含むとされています(会計基準第26項)。 具体的には、次の2つの条件をどちらも満たす場合です。 次に、上記2つの条件について、具体的にみていきましょう。 ① 資産が特定されていること リースでは、まず「どの資産を使うのか」が決まっている必要があります。通常は、具体的なシリアルナンバーなどが契約に明記されています。たとえば、営業車やコピー機を借りるときは、車名や型番、ナンバーなどが決められていると、特定された資産といえるでしょう。一方、借手が使うときに、貸手の空いている車を借りる場合は、特定された資産とはいえません。 なお、以下2つにあたるときは、特定された資産に該当しないとされています。 【例外】 (1)のように、借手に貸している営業車を貸手の都合で、別の車にいつでも交換できる場合は、資産が特定されているとはいえず、リースには該当しません。 また、(2)は、たとえば、借手が貸手の指定する貯蔵タンクの容量の70%までガスを保管できる契約の場合、残り30%部分は貸手や他の借手がガスを貯蔵することができるため、借手が使用できるのは資産の稼働能力の一部分となり、資産は特定されていないと判断されます。一方、容量の99.9%まで保管できる場合は、資産の稼働能力のほとんどすべてとなり、特定された資産として扱うことになります。 ② 資産の使用を支配する権利が移転していること 簡単に言うと、借手が契約期間中に、借りているものを自由に使うことができるか?ということです。具体的には、以下2点をどちらも満たす場合、資産の使用を支配する権利が移転しているとされています(適用指針第5項)。 (1)の借りているものから生じる経済的利益とは、借りているものを使うことで得られるメリットということです。たとえば、営業車を1台借りた場合、その営業車を使って、営業活動を行ったり、取引先を訪問したりすることで得られるメリットは、借手だけが受けることになります。 (2)は言い換えると、契約の範囲内で、借手が「いつ」「どのように」使うかを決められるということです。たとえば、特定の1台の営業車を借りる場合、使用期間中は、使う時間やルートを借手が自由に決められたら、資産の使用を支配する権利は借手に移転しているといえるでしょう。また、資産の使用方法が事前に決められている場合で、使用期間を通じて、借手だけが資産を使うことができたり、借手が資産の使用方法を事前に決めるように資産の設計が行われたりするときも、(2)に該当することになります(適用指針第8項)。 このように、「資産が特定されていること」と「資産の使用を支配する権利が借手に移転していること」の2つを満たす場合、その契約にはリースが含まれていると判断します。 以下に簡単なリースの識別フローを記載します。もっと詳細なフローを確認したい場合は、適用指針(設例1)をご参考ください(なお、契約によっては、契約内容をより詳細に確認しなければならない場合もありますが、本連載では理解のしやすさを優先し、基本的な考え方を中心に説明しています)。   3 リース期間 契約にリースを含むと判断したら、次は「何年間リースとして会計処理するか」を決めます。これがリース期間です。リース期間は、契約書に書かれている契約期間と必ずしも一致するとは限りません。 まず、リース期間は、契約上、途中で解約できない期間(解約不能期間)を基礎とし、次の2つを考慮して決定します(会計基準第31項)。 オプションとは「選ぶ権利」のことで、延長オプションは契約を延長する権利、解約オプションは契約を途中で終了する権利です。 たとえば、契約上、借手も貸手も5年は途中解約できない場合、解約不能期間は5年になります。それに、「希望すればさらに3年間延長できる」と契約で定められており、その延長オプションを行使することが合理的に確実と判断した場合、リース期間に3年を追加します。 「合理的に確実」とは、ある事象が起きることは絶対ではないけれど、ほぼ間違いなくそうすると考えられる状態といえそうです。つまり、100%確実という意味ではありませんが、「たぶんそうする」程度よりも高い可能性が求められます。 「合理的に確実」かどうかは、次のような事情を考慮して判断します(適用指針第17項)。 このような事情は経済的インセンティブといい、簡単にいうと「その行動をする方が、お金の面で有利になる理由」のことです。たとえば、延長後の賃料が周辺相場よりかなり割安な場合は「延長する方が得」と考えられるため、延長する経済的インセンティブがあるといえ、延長オプションを行使する可能性は高いと判断できます。一方、途中解約をすると多額の違約金が発生する場合は「契約を続ける方が得」と考えられるため、解約オプションを行使する可能性は低いと考えられます。 また、(2)大幅な賃借設備の改良の有無とは、たとえば、リース開始時に多額の設備投資を行っており、リース契約終了時には設備を除却する必要がある場合、延長オプションを行使する可能性は高くなるといえるでしょう。(4)企業の事業内容に照らした原資産の重要性とは、借りているものが企業の事業活動において重要か、また、代替資産があるかなどを検討することになります。 このように、リース期間は契約期間だけで決まるものではありません。解約不能期間を基礎として、延長オプションと解約オプションを考慮して決定します。 最後に、借手が延長オプションを行使することが合理的に確実な場合と借手が解約オプションを行使しないことが合理的に確実な場合のリース期間を図で表すと以下のようになります。 (了)

#No. 678(掲載号)
#喜多 弘美
2026/07/23

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例117】東芝テック株式会社「親会社の異動等に関するお知らせ(開示遅延)」(2026.6.8)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例117】 東芝テック株式会社 「親会社の異動等に関するお知らせ(開示遅延)」 (2026.6.8)   公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、東芝テック株式会社(以下「東芝テック」という)が2026年6月8日に開示した「親会社の異動等に関するお知らせ(開示遅延)」である。 同社は、社名からわかるとおり、株式会社東芝(以下「東芝」という)の子会社である。東芝は2023年12月20日をもって上場廃止になっているのだが(2023年12月19日開示「当社株式の上場廃止に関するお知らせ」)、社名に「東芝」が付く東芝テックはまだ上場している。 なお、東芝は、本連載で最も多く取り上げた企業であり、【事例1】、【事例11】、【事例16】、【事例21】、【事例61】と合計で5回取り上げている(ちなみに、次に多いのは、【事例85】、【事例94】、【事例106】、【事例113】と合計4回取り上げたニデック株式会社)。もちろんそれらは望ましい内容ではなかった。今回取り上げる東芝テックの開示も、望ましい内容ではない。   2 2023年9月21日に行うべきだった開示 今回の開示は、親会社の異動に関する開示なのだが、タイトルの最後に「(開示遅延)」と付されているとおり、遅延開示である。その主文の記載は次のとおりである。 親会社が東芝ではなくなったのかと思ったのだが、そうではなかった。東芝がTBJH株式会社(以下「TBJH」という)の子会社となったため、TBJHとその親会社のTBJホールディングス株式会社(以下「TBJホールディングス」という)が、新たに東芝テックの親会社になったのである。 また、遅延も、数日の遅延かと思ったのだが、そうではなかった。TBJHとTBJホールディングスが東芝の親会社になったのは2023年9月27日とされている。今回の開示が行われたのは2026年6月8日である。3年近くの遅延であり、筆者がこれまで目にした開示遅延の中では最長である。 さらにいえば、この開示が行われるべきだったのは、2023年9月27日ではなく同年9月21日である。東芝は、2023年9月21日に「TBJH合同会社による当社株式に対する公開買付けの結果並びに親会社及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」を開示している。その主文の記載は次のとおりである。 発生事実に関しては、発生後速やかにではなく、発生を認識できた時点で速やかに開示する必要がある。TBJHとTBJホールディングスが東芝テックの親会社になることも、当然、2023年9月21日にわかっており、今回の開示は同日に行われるべきだったのである。   3 なぜ遅延したのか? なぜ今回の開示は遅延したのだろうか。その「適時開示が遅延した理由及び再発防止策」の記載は次のとおりである。なお、「本来は、当社の親会社である(株)東芝が2023年9月27日をもってTBJH(株)の子会社となった後速やかに適時開示を実施すべきでしたが」と記載されているが、上述のとおり、実施すべきだったのは2023年9月21日である。 「当時の確認が不十分であったため、適時開示を実施しておりませんでした」と記載されているが、親会社である東芝との間で十分な確認が取れていなかったため、開示が漏れてしまったのだろうか。果たしてそんなことがあるだろうか。当時、TBJH(当時は「TBJH合同会社」)が東芝に対して株式公開買付けを行っていたこと、そして、それが成立して、TBJHとTBJホールディングスが東芝の親会社となることは、東芝が開示しており、東芝との間で十分な確認など取れなくても、東芝テックは認識できたはずである。 おそらく、当時、東芝テックは、東芝の親会社となるTBJHとTBJホールディングスが自社の親会社にもなることを認識していなかったのだと思われる。自社の議決権を直接所有して、自社を支配している会社だけでなく、子会社を通じて自社を支配している会社、すなわち親会社の親会社も自社の親会社になる(会社法2条4号、会社法施行規則3条2項・3項1号)。そんな常識的なことを、プライム市場上場会社である東芝テックが認識していなかったというのは、にわかには信じがたいが、そうなのだろう。当時、同社の開示担当者も役員も皆、認識していなかったようである。   4 なぜ今指摘? 今回の開示の「適時開示が遅延した理由及び再発防止策」には、「今般、東京証券取引所より適時開示が未了であることを指摘されたことから、本日の適時開示に至りました」と記載されている。なぜ東京証券取引所(以下「東証」という)は、当時(2023年9月21日)ではなく、今になって指摘したのだろうか。 当時、既に東芝は上場廃止になっていて、TBJHとTBJホールディングスが東芝の親会社となることに関する開示を東芝が行っていなかったのならば、東証としても、その事実を認識することが難しかったかもしれない。しかし、そうではなく、上述のとおり、当時、東芝はまだ上場しており、TBJHとTBJホールディングスが親会社となることに関する開示を行っていた。そのため、東芝の子会社である東芝テックにおいても同様の開示が必要になることを、東証は認識していた。少なくとも容易に認識できたはずである。遅延開示の責任はあくまで東芝テックにあるものの、東証の指摘はなぜ今になってしまったのだろうか。 (了)

#No. 678(掲載号)
#鈴木 広樹
2026/07/23

書く論 【第7回】「校正には種類が(≒人には限界が)ある」

〈執筆:編集X〉 書く論 第7回 「校正には種類が(≒人には限界が)ある」 今回は「書く」から少し離れ、その先にあるお話を。 書き上げた原稿を依頼先(出版社など)に送って安心していると、ほどなく編集者から校正紙(ゲラ刷り)が送られてきます。 そして、こうお願いされます。 「先生、○○日までに校正をお願いします」 この際、具体的にどのような作業をお願いしたいのか、出版社などから細かい説明がある場合は良いのですが、意外となかったりします。 このため「校正?・・・そうか、間違いがないか読めばいいのか」と考えるのですが、いろいろな誤解から著者校正が機能しないことも多く、その後に大きな問題となることもあります。 では著者の方々は、どのような誤解をされやすいのでしょうか。 まずよくあるのが、図表に関するものです。「原稿段階で完璧に仕上げた図表だから、修正(校正)するような箇所はない」と思われがちですが、WordやExcel、PowerPointなどでいただいた原稿データと、出版に使用するDTPシステムには、以前より改善されたとはいえ完全な親和性はありませんので、基本的には印刷会社などで一から制作(作図)し直します。 また、図表データ内の文字(テキスト)データを流用することもありますが、使用しやすいデータになっているかなどデータの作り込みや仕様によって異なりますので、必ず流用されるとは限りません(そこは印刷会社などの現場で判断されます)。 このため、どうしても人為的なミスが発生したり、著者のこだわりに気づけないこともあり、校正紙の図表は「原稿段階で完璧に仕上げた図表」通りにはなりません(もちろん、著者のこだわりをすべて把握した担当編集者が隙のない指定をすれば完璧に近くはなりますが、リスクはゼロではありません)。 このため、図表についてもしっかり校正していただく必要があるのです。 ちなみに、解像度などの条件をみたせば、いただいた原稿データをそのまま画像として載せる(使用する)こともできますが、その後に文字や罫線、アミ掛けなどの修正を行わないことが前提であり、やむを得ず(画像を)修正した場合は見た目の違和感を生じさせることが多いです。そういうこともあって、基本的には一からの作図が前提になります(申告書・申請書の様式など、公官庁から公表された(追加訂正リスクのない)データであれば、そのまま掲載することもあります)。 次に、図表だけでなく文章についても、いくらしっかり書き上げた自信がおありでも、校正紙として客観的に見ると、いろいろな問題に気づき、直したい箇所が出てくるものです。この点も認識していないと、1回目の校正でさっと読んだ後、2回目以降の校正でその点に気づき大幅な修正を行った結果、スケジュール含むもろもろに影響が出てしまうことも(すごくよく)あります。 3つ目の誤解が、「出版社側(編集者や校正者)がしっかり校正してくれるから大丈夫」というものです。もちろん、それぞれプロの立場からしっかりした校正が行われますが、特に専門的な内容については100%の校正が難しい。そして、誤字脱字などの校正についても、人為的なミスがある限り、校正する人(目)の数は多い方がいい(実際に複数人が何度チェックしても、びっくりするような誤植は起こり得ます)。 なのでやはり、文章部分についても校正をしていただく必要があります。 ここで、ひとことで「校正」と言っても、巷に業界関係者による関連書籍がいくつかあるように(ドラマや小説などのテーマにも取り上げられるように)、その内容はとても深いものがあります。 では校正によって発見され、修正されるべきものは、何でしょうか? それは「誤字脱字」だけでなく、「字句の不統一」「計算の誤り(=検算を行う)」「日本語としての表記の誤り」「日本語としてより分かりやすくする」「文脈のつながり(前後の内容の矛盾など)」「見出しの構成(番号飛ばしなど)」「図表の体裁のズレや見やすさを調整」「法令の正しさ(改正のアップデート)」等々、非常に多岐にわたります。 さらに校正を行う作業は、当然ながら集中する必要がありますが、不安やストレス、恐怖心と向き合う時間でもあります。 そのような中で、かつ、限られた時間で、上記で列挙したような「発見され、修正されるべきもの」を同時並行的にチェックできるのか。 あえて言えば、人にはできません。 つまり、字句の統一を行っていると字句の統一しか目に入らず、法令の誤りには気づけません。日本語としての分かりやすさに終始していると、前半と後半で違うことを主張しているのにスルーしてしまいます。 意外とこの事実に気づかず、「『校正』という作業で一度にやれる」と考えている人は、同業者にも多いと感じます。 現場頻出の悪い事例を1つ。 最初の校正紙(初校)というのは、上述したように図表などが原稿通りになっておらず、編集者による朱書き(訂正の指示)も多く入っています。著者から見ると、それら体裁の朱書きばかりに目が向いてしまい、完璧に仕上げた図表がその通りになっていない動揺もあって、とにかく体裁のチェックばかりを行い、それで「校正できた」と納得してしまう。 そこに、著者だから気づける内容の誤り(≒編集者としてはそのチェックを重点的にお願いしたい)があったとしても、見逃されてしまうのです。 もしくは、発刊に向けた最終段階の校正で字句の不統一が気になり、その作業に大切な時間を取られた結果、解説内容の大きな穴や矛盾に気づかないまま発刊してしまう。 ではどうすればいいのか? 編集Xは、校正作業には種類があると考えています。 ・誤字脱字、字句統一の校正 ・校正紙が原稿通りになっているかという校正 ・文章や図表をより分かりやすくできないかという校正 ・文脈に矛盾がないかという校正 ・法令等の誤りはないか(アップデートしているか)という校正 ・他に、ページ番号に抜けはないか、柱に誤りはないか 等々 実際にはもう少し細かい区分けもできますが、校正を行う前には「今からこのチェックを行う」と決めて、何度かに分けて取り掛かるのがよいでしょう。このようにタスクごとに行う方が、すべてを同時並行で行うよりも、結果として作業を早く確実に終わらせることができます。 さらに、著者と編集者が二人三脚で、これらのリスクを共有し分担して取り組めば、より校正の精度と効率性は上がり、リスクを1つずつ抑えることができると思います。 最後に、発刊直前の最終段階での、時間がなく、かつ、高ストレス下で行う校正は、体裁や字句統一は置いておき、人名や組織名・法令名などの固有名詞の誤り、数値(計算式含む)の誤り、明らかな内容の誤りのチェックに注力すべきでしょう。これらを見逃すことは、その実務書にとって大きな痛手となるためです。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)

#No. 678(掲載号)
#編集X
2026/07/23

《速報解説》 金融庁等がコーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定を公表~各原則の実効的な実施支援のための「解釈指針」を新設~

《速報解説》 金融庁等がコーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定を公表 ~各原則の実効的な実施支援のための「解釈指針」を新設~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年7月21日、金融庁、東京証券取引所から、コーポレートガバナンス・コード(2026年改訂版)の確定が公表された。 これにより、2026年4月10日から意見募集されていた改訂案が確定することになる。改訂案に対するご意見の概要及びそれに対する考え方も公表されており、表紙などを含めて454ページに及ぶものである。また、「取締役会の機能強化の取組みに関する事例集2026」も公表されている。 今般の改訂は、コーポレートガバナンス・コード策定時のプリンシプルベースの精神に立ち返るためのいわば「コードの実質化」を狙いとしているとのことである。「コンプライ・オア・エクスプレイン」の対象となる原則の内容を抽象的かつ概念的なものに限定し、各原則の実効的な実施を支援するための具体的な内容や趣旨・背景を記載した「解釈指針」が新設されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 成長投資の促進 改訂版コーポレートガバナンス・コードは、取締役会の役割・責務として、成長投資等に向けた取組みの重要性を明記している。 例えば以下のことである。 現預金等の金融資産や実物資産等の経営資源を成長投資等に有効活用できているかを含め、不断に検証を行うべきであることなどが記載されている。   Ⅲ 取締役会の機能強化 改訂版コーポレートガバナンス・コードは、取締役会における独立社外取締役が占める割合が増加し、独立社外取締役の主たる役割・責務である監督機能をより効果的に果たすための環境が整いつつあることも踏まえ、特に独立社外取締役の実効性向上に向け、独立社外取締役の果たすべき役割・責務、質・数の確保、独立性確保の重要性を強調している。   Ⅳ 有価証券報告書の定時株主総会前の開示 改訂版コーポレートガバナンス・コードの原則において、有価証券報告書を株主総会前に提出することを、株主総会における権利行使に係る適切な環境整備の重要な例として記載している(【原則1-2.株主総会における権利行使】)。   Ⅴ 改訂版コーポレートガバナンス・コードの適用 上場会社は、遅くとも2027年7月までに、改訂版コーポレートガバナンス・コードに関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出する。 (了)

#阿部 光成
2026/07/22

プロフェッションジャーナル No.677が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年7月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.677を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/07/16

日本の企業税制 【第153回】「カリフォルニア州の税制改正による日系企業への影響」

日本の企業税制 【第153回】 「カリフォルニア州の税制改正による日系企業への影響」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博   カリフォルニア州の税制改正に関する懸念は続いている。6月末までに州議会で議論されている法案にはWater‘s Edge Election(水際選択方式)の廃止提案は含まれず、ひとまずの懸念は後退したと言える。しかし、将来的に同様の改正提案が出てくる可能性も十分に考えられることから、今年11月に予定される州知事選を含めて、引き続き動向に注視が必要な状況は続くと考えられる。 こうした中、現地の日本経済界である北カリフォルニア日本商工会議所(JCCNC)と南カリフォルニア日系企業協会(JBA)は共同で会員に対してアンケート調査を行い、その結果を集計した上で、6月に連名で意見書を作成した。「AB 1790:世界規模の統合報告 カリフォルニア州の日系ビジネスコミュニティからの視点」と題し、その概要は以下の通りである。   〇概要 日本とカリフォルニア州は強固な経済的結びつきを有している。2026年の最新データによると、日本はカリフォルニア州における外資系企業の雇用創出源として最大規模で、130,008人の雇用を生み出しており、この数字は2023年以降、数万人規模で増加している。外資系企業全体では、カリフォルニア州民を100万人近く雇用している。日本は、カリフォルニア州における外資系企業の事業所数で第1位を占めており、3,501の事業所が推定156億ドルの賃金を生み出している。また、日本はカリフォルニア州にとって第4位の輸出相手国でもある。本意見書では、AB 1790が日・カリフォルニア州のビジネス環境に及ぼす潜在的な影響を検証した調査について考察する。   〇調査データ 2026年3月27日から5月29日にかけて、JCCNC及びJBAは、カリフォルニア州で事業を展開する103社の日系企業を対象に調査を実施した。回答企業の事業体制はさまざまで、日本本社の下にカリフォルニア州に拠点を置く企業もあれば、米国内に複数の拠点や海外子会社を持つ企業もある。本調査では、回答者に対し、AB 1790が自社の税務及び事業運営に与える影響について推定するよう依頼した。 〈図1:予想される税制への影響〉 このグラフは、法案による税制への影響に関する回答を示している。回答者のほぼ半数が、自身の税負担が「中程度から大幅」に増加すると予測している。回答者の約6分の1は影響が「限定的」または「ごくわずか」であると予測しており、残りの回答者は「わからない」と回答した。 *  *  * 〈図2:予想される事業への影響〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 この図は、同法案が事業に及ぼすと予想される影響について尋ねた際の回答状況を示したもので、回答者は複数の回答を選択可能であった。予想される影響の上位三つには、「税額予測の不確実性の高まり」、「コンプライアンスコストの大幅な増加」及び「本社における報告負担の増加」が含まれていた。その他の潜在的な影響としては、カリフォルニア州への投資の減少、採用や人員配置計画の変更、及び州外への移転の可能性などが挙げられる。 *  *  * 自動車、食品・飲料、及び半導体分野の日本の大手企業の代表者らは、AB 1790法案が、カリフォルニア州におけるこれらの企業の事業継続において考慮すべき要素となるだろうと回答した41の回答者に含まれていた。一方、日本の大手航空会社やIT企業の代表者らは、同法案により本社への報告負担が増大すると予測した。さまざまな業界を代表する計36社の回答者が、同法案によりカリフォルニア州への投資が減少する可能性があると指摘した。 また、本調査では、調査時点における同法案に関する主な懸念事項について回答者に記述を求めた。上位三つの懸念事項には、コンプライアンス負担の増加、同法案の影響に関する不確実性、及び二重課税のリスクが含まれていた。AB 1790に関連するコンプライアンスコストの詳細については、下記「付録A」を参照。   〇調査結果 本調査は、カリフォルニア州における日本のビジネスコミュニティ全体に懸念が広がっている実態を浮き彫りにしている。貿易や投資をめぐる国際情勢が不確実性に満ちている中、このデータは、AB 1790法案が、同州への進出や投資拡大を検討している企業にとって、さらなる障壁となることを示している。増税や二重課税の可能性に加え、コンプライアンスコストなどの負担が、特に中小企業にとって大きな懸念材料となっている。 このデータは、カリフォルニア州の国際的なビジネス関係の全容を反映しているわけではない。同州の最大のパートナーの一つであり、州内で12万人以上の雇用を創出している日系企業から寄せられた懸念は、広範な国際ビジネスコミュニティの一部に過ぎない。しかし、これらのデータは、AB 1790法案が、すでに世界的な不確実性に直面している企業にとって不確実性をさらに高めるだけでなく、企業が他州へ移転する可能性も生じさせることを示唆している。   〇付録A 〈図3:コンプライアンスのプロセス〉 この図は、AB 1790に基づき、税額計算プロセスで必要となる新たな手順を詳細に示している。 *  *  * 〈図4:コンプライアンス負担の増加〉 このグラフは、事業体の数と年間コンプライアンスコストの関係を示している。1事業体あたり年間50,000米ドルの基本コストを想定すると、世界中に50の事業体を持つ企業の場合、コンプライアンスコストだけで約250万米ドルとなり、コストはリニアに増加する。200の事業体を持つ企業では、コンプライアンスコストとして約1,000万米ドルを支払うことになる。 *  *  * カリフォルニア州の日系企業界が負担するこれらのコストの総額はおよそ4,000万ドルに上り、州内の約800の日系関連団体から毎年その資金が流出することになる。この圧力により、コンプライアンス関連の破産リスクが高まり、小規模なカリフォルニア州の子会社でさえ、突然、年間500万~1,000万ドルの費用が発生する可能性がある。また、これらのコンプライアンスコストは、調査で指摘された移転などの他の懸念事項にもつながっている。納税義務を証明するためのコストが税額そのものを上回る場合、過度なコンプライアンス負担を課さない州への移転は、カリフォルニア州での事業継続の可否を検討する企業にとって、合理的な措置となる。 (了)

#No. 677(掲載号)
#魚住 康博
2026/07/16

税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 【第3回】「従業員用の借上げ社宅③」~固定資産税と使用料徴収の実務管理~

税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 第3回 従業員用の借上げ社宅③ ~固定資産税と使用料徴収の実務管理~ 公認会計士・税理士 桝井康弘   〇固定資産税額の確認 【参考】新築建物課税標準価格認定基準表   〇固定資産税額の変動への対応 【負担調整措置】 (※) 令和6年、令和9年など3の倍数年に行われます。   〇使用料の給与天引きについて   〇プール計算の活用   (次回に続く)  

#No. 677(掲載号)
#桝井 康弘
2026/07/16

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第82回】「役員個人所有住宅を借り上げて役員社宅とすることの可否」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第82回】 「役員個人所有住宅を借り上げて役員社宅とすることの可否」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 社宅家賃の設定 法人が居住用不動産を所有又は借り上げて、社宅として従業員に対して貸与することで、法人側では減価償却費や借上げ家賃等を損金算入でき、従業員側では福利厚生にもなるということは、一般によく知られている。 同様に、当該法人の役員に対して貸与することで、役員社宅として運用することも一般に行われているだろう。この場合において、以下の計算式にて計算した賃貸料相当額を、役員から受け取っていれば、給与として課税されない(所法36、所令84の2、所基通36-15、36-40~41)(※1)。 (※1) 床面積が240平方メートルを超えるもののうち、取得価額、支払賃貸料の額、内外装の状況等各種の要素を総合勘案して豪華社宅と判定されれば、通常支払うべき使用料に相当する額が賃貸料相当額となる。 このうち、小規模な住宅でない場合の賃貸料相当額の計算における②では、法人が他者から借り受けた住宅等を貸与する場合に、法人が家主に払う家賃の50%の金額(又は自己所有の場合の賃貸料相当額の多い方)を受け取れば、給与として課税されないとされている。   (2) 借上げと賃貸を同時に行うことの是非 上記の取扱いの利用を想定したのが、今回の質問である。具体的な金額を当てはめると、役員が元々所有して居住している住宅につき、法人が借り上げて相場家賃30万円を支払い、その支払家賃の50%である15万円を役員から収受すること等が想定される。この場合、事実上はその差額である15万円を法人が負担する家賃として所得の圧縮ができるようにも思われる。これが叶うのであれば、役員にとっても住宅維持費が軽減されることとなる。 このようなことを実行した場合に、税務上の取扱いはどのようになるのだろうか。筆者が調査した限り、直接これを示す法令、通達又は裁決例や裁判例を確認することができないため、社宅の趣旨や沿革を確認し、そのリスクを検討する。 福利厚生としての社宅の起源を確定的に示すものはないものの、「いつの時代も、何らかの事業を進めようとする者がその働き手の衣食住などを用意するのは自然なこと」として、身分制社会の時代からそれがみられるとした上で、戦前から戦後、そして現在に至るまで、寄宿舎や住宅の存在感が大きいことを示唆する見解がある(※2)。また、戦後の困窮を背景に「企業の福利厚生も衣食住の最低水準をどう確保するかが大きな課題」と指摘し、「福利厚生は基本的に企業の正規従業員にだけ与えられるので、退職すればその便益を享受できなくなる。したがって福利厚生はそれ自体として労働者の企業への定着を促すことになり、企業が必要とする人材の安定的確保をひとつの課題とする雇用管理の一環を形成する。この点は特に生活の基礎的条件を成す・・・住宅について顕著にあらわれる」として、社宅の有用性を指摘するものがある(※3)。 (※2) 榎一江「福利厚生の起源」日本労働研究雑誌No780(2025)4頁以下。 (※3) 能塚正義「福利厚生の起業福祉への展開と労働者生活」同志社大学經濟學論叢45巻3号(1994)253・256頁。 これらに鑑みれば、社宅の趣旨としては、法人が役員や従業員の住環境を維持して居住の安定を図ることであり、法人にとっての利があるとして実施されていると思われる。この前提に立てば、役員自身で既に住宅を有しており、それを法人に賃貸した上で、同物件を役員が法人から賃借することは、従来から浸透する社宅の趣旨に合致する適用場面とはいい難いと思われる。何より、上記(1)で確認した賃貸料相当額の計算は、住宅を提供する経済的利益を受ける役員が、給与として課税されない水準を示すものであるため、役員が自己所有住宅を法人に貸し付けることまで予定したものではない。そのため、実質的には役員が従前どおり自己所有住宅に居住している状態に変化はなく、法人が住宅を確保して役員に提供しているという実態にも乏しいと考えられる。以上から、税務上は社宅としての非課税の取扱いの適用について慎重に判断すべきであり、否認される可能性は相応に高いものと考えられる。 つまり、本件のようなスキームでは、法人は役員の居住の便宜を図るために住宅を確保しているのではなく、役員が既に所有している住宅を形式的に借り上げているにすぎない。この点で、所得税基本通達36-40及び同通達36-41が予定する社宅の運用とは事実関係を異にすると思われる。 この場合において、差額部分については給与課税の対象と判断される可能性があり、また、その支給形態によっては定期同額給与等に該当せず、損金不算入となるリスクもある。なお、当該役員が住宅ローンを負っている場合において、金融機関との契約違反によって一括返済を求められる等のリスクも考えられる。   (3) 購入して賃貸する これに対し、一般的に社宅を活用した節税策として散見するのは、役員が有する住宅を法人が購入し、その上で、当該役員の社宅扱いとする方法である。この場合には、役員から法人に所有権が移動することから、上記(2)のような問題は生じにくいものと思われる。 この場合においても、法人が役員から住宅を購入するという取引が前提となるので、利益相反取引に関する会社法上の手当て、適切な家賃の設定、社内規程や賃貸契約書の整備等を行うべきといえる。また、豪華社宅に該当する物件は別途問題となる。 さらに、この場合には家具やカーテン、食器等の生活用品を既に役員自身が購入しているはずであるため、これら家具等まで法人所有とすることには慎重であるべきである。仮に家具等も法人所有となれば、居住する役員が家具等を使用することによる経済的利益の問題も生じるからである。この点について争点となったのが、国税不服審判所平成21年10月28日裁決である(※4)。この事例では、役員は本件家具等の使用料名目での金員の支払はしていないため、経済的利益の供与があったとして納税者の主張が退けられている。 (※4) 裁決事例集78巻237頁。 実際に役員所有住宅を法人が取得して社宅とする場合には、住宅だけでなく家具等の取扱いについても十分留意すべきである。 (了)

#No. 677(掲載号)
#中尾 隼大
2026/07/16

令和8年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】

令和8年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第3回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   2 通算法人の試験研究費の税額控除額の計算方法 通算法人の試験研究費の税額控除額(税額控除可能分配額)の計算方法は、次のとおりとなる(措法42の4①④⑦⑧一・二・三・八・九・十一・十二・十三・十七・⑲、42の4の2①②③、措令27の4㉝㊲、27の5①②③)。 なお、「重点産業技術試験研究費に係る税額控除制度(戦略技術領域型)」については、「Ⅱ 戦略技術領域型の研究開発税制の創設」(【第7回】)で解説する。 (1) 一般試験研究費に係る税額控除制度(一般型) ① 通算グループ全体の税額控除可能額の計算方法 ② 各通算法人の税額控除可能分配額の計算方法 各通算法人は、次の算式により計算した税額控除可能分配額を税額控除限度額(税額控除額)とします。 (※) 以降、「控除分配割合」という。   (続く)

#No. 677(掲載号)
#足立 好幸
2026/07/16

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第43回】「国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討の観点(その1)」-租税債権の本質的要素-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第43回】 「国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討の観点(その1)」 -租税債権の本質的要素-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   1 はじめに 前回、本連載の今後の方針として、国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察により、納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続とを接合し、かつ、後者の最終段階の手続として国税徴収法による滞納処分手続を検討し(「国税通則法と国税徴収法との『一体的』観察・検討」に基づく「納税者主導型租税手続と税務官庁主導型租税手続との接合論」)、その検討内容・結果をコンメンタール的「読み物」として述べていくことにした(前回6参照)。 そのような方針は、昭和30年代に始まった国税徴収法の改正論議が十分に応えるものではなかった「租税基本法的要請」(中川一郎=清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(税法研究所・加除式[1989年追録第5号加除済])E16頁[須貝脩一=清永敬次執筆]。太字筆者。なお、同頁ではこの要請は国税通則法との関係で論じられている)に応えようとする筆者の問題意識に基づくものである。ここで「租税基本法的要請」とは、「納税義務に関する基本的租税債権債務の法律関係が、行政手続によるという他の特徴によつておおいかくされてはならない。その意味において、租税法律関係の明確化が納税者の権利利益の保護に資し、また、行政官庁の手続きを誤りなからしめるために、要請される。」(中川=清永編・前掲書E13頁[須貝=清永執筆])と説かれる場合におけるその「要請」をいうのである。 そうすると、国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討は、「租税法律関係の明確化」の観点から行うべきであるということになろうが、その前提として、まず、租税法律関係の意義ないし特色を明らかにしておく必要があると考えられる。この点に関して、次の見解の説くところは示唆に富むものである。 その見解は、租税及び租税法について、「租税は、私的部門で生産された冨の一部を、公共サービスの資金の調達のために、強制的に国家の手に移す手段であるから、それに関する法である租税法も、それに対応して、他の法の分野(特に私法)とは異なる種々の特色をもっている。」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)29頁)と述べ、これを「租税法律関係の特色」について次のとおり述べる見解(同29-30頁)である。 この見解は、「租税法律関係の中心」を「国家と納税義務者との間の債権・債務の関係」として捉え、そこでいう「国家」、「納税義務者」をそれぞれ「租税債権者」、「租税債務[者]」として捉えた上で、「租税債権者である国家」の手に留保されている種々の「特権」を、「租税法律関係の本質的要素」ではなく、「租税の徴収を確保し、かつ納税者相互間の公平を維持するため」の「立法政策」の構成要素(以下では「立法政策的要素」という)とみるものと解される。 前記の見解がそのような「特権」として挙げる制度、すなわち、「更正・決定を通じて租税債務の内容を確定する権限、更正・決定の補助手段としての質問・検査権、裁判所の手を借りずに自らの手で徴収を図るための自力執行権、滞納処分に際して租税債権に認められる一般的優先権等」の各制度は、租税法律関係の立法政策的要素であり、国税通則法と国税徴収法との「一体的」観察・検討においては、租税法律関係の明確化という租税基本法的要請の観点から検討すべきものであるから、次回以降、国税徴収法に則して検討していくことにする。 ただ、今回は、租税法律関係のうち国税徴収法の第一次的規律対象としての租税債権の本質的要素について検討しておくことにしたい。それは、以上では、前記の見解に従い租税法律関係を租税債権債務関係として捉えた上で、今後の検討の進め方やその観点を整理してきたが、よく考えてみると、その前に、租税の賦課徴収に関する国家権力の行使を租税債権の行使として構成するのは、そもそも、どのような考え方に基づくのかという根本問題(以下では「租税賦課徴収権の租税債権構成問題」という)を検討しておく必要があるように思われるからである。 そのような根本問題の検討を通じて租税債権の本質的要素を明らかにすることができれば、そのことは、租税法律関係の明確化という租税基本法的要請の観点から租税法律関係の立法政策的要素を検討するに当たっても、重要な意味をもつことになろう。   2 国家財産の代替物としての租税 ところで、租税の賦課徴収に関する国家権力も課税権の概念に含まれるが、課税権の多義性(谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第1回Ⅱ1参照)を目の前にすると、前記の根本問題(租税賦課徴収権の租税債権構成問題)を検討するには、課税権の多義性に目を奪われることなく、国家が課税権の主体として行っている租税に関する根本決定を直視して検討する必要があるように思われる。 そのような検討に関しては、「租税国家の基礎概念」に関する検討において租税国家の本質を見据えながら「租税の概念」に関する問題のうち「租税の歴史性」について「租税と私有財産の前提」という見出しの下で下記のとおり論ずる見解(大畑文七『租税国家論』(有斐閣・1934年)49-51頁。旧漢字は改めた。下線筆者)が、有益な示唆を与えてくれるように思われる。 この見解は、「租税」を「一定条件に繋属する歴史的存在」すなわち「常に経済社会の発展と共に歴史的に変動する[存在]」とみた上で、現代の経済社会の基本原理である「自由主義」の下では、「国家の経済生活」の存在及びこれに伴う「経済生活の対象たる財貨」の必要性と「私有財産制度」及びこれに基づき「個人の自由」を旨とする「国民経済」の存在とを「大前提」にして、「租税」が成り立つと説くものである(筆者はこの見解について、特に租税国家における課税と財産権保障との関係を中心に、検討したことがある。拙稿「遡及課税と財産権の遡及的制約―課税と財産権保障との関係に関する一考察―」同志社法学429号(74巻3号・2022年)145頁、159-162頁参照)。 この見解に係る前記の引用文のうち租税賦課徴収権の租税債権構成問題の検討において特に重要と思われるのは、①「租税は個人の自由と所有権が認められて後初めて存在し得る現象である。」、②「例へば私有財産制度が無くなつた場合、即ち社会生産物が一応共同団体の所有となり、管理者の手によつて―其の経験的知識又は科学的統計的基礎に基き―再び各社会構成員の必要に応じて分配される如き場合に於ては租税は最早や其の存在を認め得ない。」、及び③「自由主義によつて国家財産を完全に払下げた無産国家が最も良く租税国家たり得る訳である。」の各文である。 これらにおいて述べられている内容を要約すると、国家は「自由主義によつて国家財産を完全に払下げた無産国家」(③)となることを選択した場合(②参照)、「私有財産制度」(②)を採用して初めて「租税」(①)の存在を前提として成立する国家すなわち「租税国家」(③)となる、といえよう。このことを「無産国家」としての「租税国家」の側からみると、「租税」は「無産国家」が「国家財産」と引き換えに手に入れたいわば「国有財産」である(国家財産の代替物としての租税)、ということができるように思われ、ここに、租税債権の本質的要素を見出すことができるように思われる。つまり、租税債権は、国家が「国家財産」を完全に払い下げ「無産国家」となりその「国家財産」と引き換えに手に入れた「国有財産」である、という点にその本質的要素を見出すことができるように思われるのである。   3 憲法30条=29条「4項」論 以上でみてきたような「一定条件に繋属する歴史的存在」としての租税の概念を「当然の前提」として、現行憲法も「納税の義務」(30条)及び「租税法律主義」(84条)を規定していると解される。このような理解は次の見解(法学協会編『註解日本国憲法 上巻』(有斐閣・1948年)295頁。旧漢字は改めた。下線・傍点筆者)の述べるところである。 ここで述べられている理解と同様の理解を筆者は従来から「憲法30条=29条『4項』論」として次のとおり説いてきた(拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【24】。太字原文。筆者のこの見解については、石川健治「納税の義務」増井良啓ほか編『市場・国家と法―中里実先生古稀祝賀論文集』(有斐閣・2024年)487頁、519-522頁参照)。 以上のような理解によれば、「一定条件に繋属する歴史的存在」としての租税の概念を「当然の前提」として、現行憲法は租税に関する規律(「納税の義務」及び「租税法律主義」)を定め(30条、84条)、しかもそれらを根拠とする租税侵害を中核的内容とする私有財産制を保障していることからすると、「一定条件に繋属する歴史的存在」としての租税は、現行憲法下では、そのような歴史的存在にとどまらず、憲法上の地位を獲得した法的存在(憲法上の概念としての租税)として位置づけられることになろう。 ただ、租税が憲法上の概念としての法的地位を獲得したとしても、租税の本質的要素は変わることなく、租税は国家財産の代替物としての「国有財産」である。そのような憲法上の租税概念を前提にして、税法は租税の賦課徴収に関する国家権力の行使を、財産権の一種である債権(租税債権)の行使として構成し規定することにしたものと解される。 以上を要するに、歴史的存在としての租税であれ、憲法上の概念としての租税であれ、租税は国家財産の代替物としての「国有財産」であり、その法的性質としては債権(租税債権)であると解される。このことこそが、租税債権の本質的要素であると考えるところである。 (了)

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#谷口 勢津夫
2026/07/16
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