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〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例120】株式会社ツインバード「株式会社ジャパネットホールディングスによる当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する反対の意見表明のお知らせ」(2026.8.31)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例120】 株式会社ツインバード 「株式会社ジャパネットホールディングスによる当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する反対の意見表明のお知らせ」 (2026.8.31)   公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社ツインバード(以下「ツインバード」という)が2026年8月31日に開示した「株式会社ジャパネットホールディングスによる当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する反対の意見表明のお知らせ」である。 2026年6月19日に株式会社ジャパネットホールディングス(以下「ジャパネット」という)は「株式会社ツインバード(証券コード:6897)に対する公開買付けの開始予定に関するお知らせ」(以下「公開買付けの開始予定に関するお知らせ」という)を発表し(同社は非上場会社であるため、同社の発表資料はホームページに掲載)、ツインバードに対してTOB(株式公開買付け)を行う予定であるとしていた。今回の開示は、そのTOBに対して反対意見を表明するという内容である。   2 反対されたら実施しないTOBの予定を発表 ジャパネットによる「公開買付けの開始予定に関するお知らせ」には、「本公開買付けは、対象者取締役会の賛同なく実施されることはありません」と記載されている。相手側に反対されたら実施しないTOBの予定を発表するというのは珍しい。反対されたら実施しないというのであれば、通常、両社の話し合いにおいて決着し、表に出てこないはずである。ジャパネットは、なぜあえてこうした発表を行ったのだろうか。 ジャパネットによる「公開買付けの開始予定に関するお知らせ」には、ツインバードとのやり取りについて、次のような記載がある(「公開買付者」はジャパネット、「対象者」はツインバード)。 これに対して、ツインバードによる今回の開示には、次のような記載がある。 両社の間に少し食い違いはあるが、ツインバードは、ジャパネットの提案にまったく応じようとしていなかったようである。門前払いで、検討すらしてもらえない状況であったため、ジャパネットは、何とかツインバードに検討してもらえるように「公開買付けの開始予定に関するお知らせ」を発表したのだと思われる。   3 ディスシナジーは回避不可能なものなのか? ツインバードは、今回の開示において、ジャパネットがツインバードを完全子会社化した場合、「資本関係の変化により生じ得る事業構造上のリスク」と「経営方針の相違により生じ得るリスク」が存在し、ツインバードの事業に重大なディスシナジーが生じ得るため、ジャパネットによるTOBに反対するとしている。 2つのリスクのうち、まず「資本関係の変化により生じ得る事業構造上のリスク」は、取引先の量販店が離反する可能性があるというものである。確かにそうしたリスクはあるかもしれないが、それは絶対的なもので、回避不可能なものなのだろうか。 ジャパネットは2026年9月2日に「株式会社ツインバードの2026年8月31日付『株式会社ジャパネットホールディングスによる当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する反対の意見表明のお知らせ』を踏まえた当社見解のお知らせ」(以下「当社見解のお知らせ」という)を発表しているが、そこには次のような記載がある。 次に「経営方針の相違により生じ得るリスク」は、既存ユーザー(消費者)の離反のリスク、当社の成長領域であるB2B事業等が停滞するリスク、役職員の離反等に係るリスク、地域におけるサプライチェーン等の毀損のリスクというものである。これらも絶対的なもので、回避不可能なものなのだろうか。ジャパネットによる「当社見解のお知らせ」には、次のような記載がある。 なお、ツインバードは減収減益が続いており、2025年2月期と2026年2月期は2期連続最終赤字、2026年2月期は営業損失を計上している(2026年4月14日開示「2026年2月期 決算短信〔日本基準〕(非連結)」)。また、2期連続で繰延税金資産を取り崩してもいる(2025年4月14日開示「繰延税金資産の取り崩し及び業績予想の修正に関するお知らせ」、2026年4月10日開示「特別損失の計上、繰延税金資産の取り崩し及び業績予想の修正、並びに役員報酬減額に関するお知らせ」)。同社の製品が売れなくなってきているなかで、現在の取引先である量販店や消費者が離反するリスクを懸念することは適切なのだろうか。   4 シナジーの客観的な検証は困難だが ツインバードは、今回の開示において、反対意見を表明する理由として、ジャパネットが主張するシナジーの実現可能性や効果を具体的に基礎づける根拠がないこともあげている。ジャパネットが主張するシナジーとしては、①チャネルミックスでの当社製品の販売拡大、②既存事業の製造移管、③ブランド力の飛躍的向上、④共同商品企画による商品開発力強化、⑤物流センター・コールセンターの統合及び業務効率化、⑥上場維持コスト及びバックオフィス業務負荷の低減、⑦B2B・B2Cの役割分担及び経営基盤の強化、があげられている。 それらのうち、「③ブランド力の飛躍的向上」については、「当社が構築してきた高付加価値ブランドとしての位置付けが毀損する可能性もございます」、「⑥上場維持コスト及びバックオフィス業務負荷の低減」については、「上場を維持し続けること」には「重要なメリットがある」、「ジャパネットのリソースを活用したバックオフィス業務のサポートに関しては、具体的な実施方法等も本取引後の協議事項とされているにとどまります」、「これらの削減効果は限定的又は中長期的な企業価値を毀損する可能性もある」として、反対意見表明の理由としているが、ほかについては、客観的に検証できないことを反対意見表明の理由としている。 「①チャネルミックスでの当社製品の販売拡大」については、「具体的な実現可能性及び当社の売上・利益への純増効果を現時点で客観的に検証することは困難」および「確実かつ大規模な売上高又は利益への貢献が見込まれることを客観的に確認することはできず」、「②既存事業の製造移管」については、「確実かつ大規模な売上高又は利益への貢献が見込まれることを客観的に確認することはできない」、「④共同商品企画による商品開発力強化」については、「当社の既存の商品開発力の向上にどの程度寄与するかは明らかではございません」、「⑤物流センター・コールセンターの統合及び業務効率化」については、「具体的な効果を検証することは困難」、「⑦B2B・B2Cの役割分担及び経営基盤の強化」については、「当社の既存の成長戦略を阻害することなく企業価値の向上につながるかについては不明」としている。 しかし、そもそも経営統合後のシナジーをすべて客観的に検証することは困難である。上述のディスシナジーが回避不可能であることの客観的検証が困難であることと同じである。確かにジャパネットは、ツインバードが求める情報のすべてを提供できていなかったのかもしれないが、逆にツインバードは、ジャパネットに対して、事前にジャパネットが検討するために必要な情報を提供できていたといえるのだろうか。   5 中期経営計画に説得力は ツインバードは、今回の開示と同じ2026年8月31日に「新 中期経営計画2026-2030の策定に関するお知らせ」を開示している。そして、今回の開示には、「本取引を実施せず、本中期経営計画に基づいて事業運営を継続することは、当社の企業価値向上に資するものであり、株主共同の利益の観点からも合理的であると判断しました」という記載がある(「本取引」は、TOBなど、ジャパネットがツインバードを完全子会社化することを目的とした一連の取引)。 しかし、その中期経営計画が上手くいくかは、シナジーと同様に不確実だろう。ツインバードは、2023年4月11日に「業績予想の修正に関するお知らせ」、2024年4月5日に「業績予想の修正に関するお知らせ」、2025年4月14日に「繰延税金資産の取り崩し及び業績予想の修正に関するお知らせ」、2026年4月10日に「特別損失の計上、繰延税金資産の取り崩し及び業績予想の修正、並びに役員報酬減額に関するお知らせ」と、実に4期連続で通期業績予想を下方修正している。少なくとも現時点では、そうした会社の経営計画に説得力があるとはいえないだろう。 なお、経営トップ主導で無理な計画を押し進めようとすると、不正会計発生のリスクが高まることになる。そうならなければいいのだが。   6 反対ありき ジャパネットとの話し合いに応じようとしなかったツインバードの当初の態度と、反対意見の内容からすると、ツインバードとしては、最初から反対ありきだったように思われる。確かにジャパネット側の情報提供不足があったのかもしれないが、提供されていたら、変わったのだろうか。そもそもツインバードからジャパネットに対して必要な情報が提供されていたとはいい難いし、ジャパネットがツインバードにどんなに情報を提供しても、「具体性がない」などと切り捨てられていたのではないだろうか。 ツインバードは、同社の社外取締役で構成される特別委員会を設置し、同委員会は、同社に対して、ジャパネットによるTOBについて反対の答申を行っている。しかし、第三者委員会とは異なり、社外取締役といえども、ツインバードの意向から本当に独立して意見を述べていると信じることは困難である。ツインバードは「独立性に問題がないことを確認した」としているが、何を確認したのかは不明である。また、「独立したファイナンシャル・アドバイザー及び第三者算定機関」と「独立したリーガル・アドバイザー」も選任したとしているが、その「独立」は、同社とこれまで取引等がなかっただけで、同社の意向から独立しているという意味ではないだろう。 ツインバードの第64期有価証券報告書の「沿革」によると、同社は1962年に野水電化株式会社として設立されているが、同社の現在の代表取締役は野水重明氏(以下「野水氏」という)である。同社は同氏の祖父が設立した会社であり、同氏は三代目にあたる(同有価証券報告書の「大株主の状況」によると、野水氏が代表を務める会社、野水姓の方、ツインバード従業員持株会によって、同社の株式の20%以上が保有されている)。野水氏にとって、同社は親から受け継いだ自分の会社であり、他者のものになるなどあり得ないのだろう。そうであるならば、最初から、同じ同族企業であるジャパネットに対して、その思いを率直に伝えておくべきだったのではないだろうか。そうしておけば、今回のような事態にはならなかったのではないだろうか。 今回のツインバードによる一連の対応と最終的な選択は、同社にプラスにはならないように思われる。同社は、「上場を維持し続けること」には「重要なメリットがある」としているが、今後、大変な困難が待ち受けているだろう。中期経営計画を達成し、業績を向上させて、株価も、ジャパネットが提示した買付価格以上にできるのだろうか。今回の件でアクティビストの目にとまってしまったかもしれないが、彼らはジャパネットのように紳士的ではない。後悔することにならなければいいのだが。 (了)

#No. 691(掲載号)
#鈴木 広樹
2026/10/22

書く論 【第10回】「じっと編集者を見る」

〈執筆:編集X〉 書く論 第10回 「じっと編集者を見る」 今回のお話、同業者の方々にはお聞き苦しい点がありますことをお許しください。 最初に結論から申し上げますと、すでに原稿を書かれている方も含め、著者の方々は 「編集者にはアタリ・ハズレがある」 という事実を受け止めていただきたいと思います。 ただしそれは、「その方にとっての」アタリ・ハズレであるということです。 要は「ご自身と合う・合わない」ともいえます。 執筆経験の浅い著者の方は、企画から原稿執筆、校正、書籍などの成果物が出来上がるまで、様々な場面で編集者に頼ることが多いでしょう。その編集者が何となく自分に合わないというのは、けっこうなストレスだと思います。ただ、著作歴のある方を除いて、なかなか著者の方から版元に対して「担当を変えてほしい」とは言いづらい。 そういう問題について、いくつかのアドバイスをお伝えします。 ポイントは「編集者のことを知る」です。 編集者の仕事を簡単にご説明すると、「ミルフィーユのように積み重なった、膨大な数の雑務」だと思います。 例えば、1冊の書籍を発刊するには、著者と編集者のほかに、印刷会社(営業担当者・現場担当者)、デザイナー、イラストレータ、カメラマン、編集部(上長)、編集部以外(営業担当者・経理担当者)、場合によってはクライアントなど、複数の人物が関わります。 そして一般的に、それら関係者とすべて接点があるのは編集者だけです。 つまり編集者は、これら複数の人間関係の蝶番(ちょうつがい)のような立場にあり、著者を中心とした円の中で、四方八方に飛びまわり、連絡・交渉を重ねていく。そのため、常にバタバタとしていて、細かい仕事をたくさん抱えています。 そのような仕事をしている編集者も、当然ながらヒトであり、それぞれ性格が異なります。ドラマなどでよくある、熱血漢、コミュニケーション能力が高い、センスが良い、お酒が好き、オタク気質といったイメージではない編集者もたくさんいます。逆に世間のイメージ通りの編集者の方が少ないくらいです。 余談ですが、かつてドラマにもなった編集者が主人公のマンガで、一見ひどい性格のような編集者が、実は過去の辛い経験から確実に売上実績を上げ出版という事業を下支えしている事実があることを読んだとき、リアル過ぎて編集Xは鳥肌が立ちました。本当に編集者も多種多様なのです。 次に忘れられがちなのは、フリーランスでない限り、編集者は会社員であるということです。いくら著者の方と編集者が意気投合し「この方向で行こう」と考えても、会社がGOを出さなければ、(少なくともその版元では)その案は実現しません。もちろん編集者としてはその案が実現するよう著者の方の見えない場面も含め様々な取組みを行うのですが、NOと言われてしまえばその判断に従うしかない。 その結果、やむを得ず両者の信頼関係が崩れることもあるのですが、個人的にはぜひ、編集者も会社員であることを知っておいていただきたいと思います。 また、編集者にも技術職のような側面があり、知識や経験によって出来上がる書籍の良し悪しが変わります。そしてそれは、その編集者がどのような努力を行ってきたかが如実に表れます。 ここまでお伝えしてきた通り、もともとの性格、経験年数、知識などによって100人いれば100タイプの編集者が存在する中で、その著者の方にとって合う・合わないがあるのも当然だと、お分かりいただけたでしょうか。 そして、もしご自身と合う編集者が見つかった場合、その関係は編集者が会社員としての立場を終えるまで、あるいはその後も長く続くことがあります。お互いの言いたいことや能力の過不足まで把握しつくしているので、ストレスを感じることも少ないでしょう。 一方で、どうしても合わない編集者と仕事を続けなければいけない状況になったら、どうすればよいでしょうか。 以下、かなり私見が含まれます。 まず、その版元の管理職に相談してみるのが一案です。具体的にどのようなサポートができる編集者がよいのかを伝えれば、対応してもらえるかもしれません。ただその結果、著者からの指名の多い編集者が担当に就くことになった場合、編集側のキャパの関係で出版まで時間がかかってしまうリスクはあります。 あるいは、思いきって版元を変えるのもよいと思います。同じ出版社とはいえ、そこにも性格(事業形態)の違いはありますので、編集者だけでなく環境も大きく変えることで、ストレスも無くなり希望したとおりの書籍が発刊できるかもしれません。 ここで、よく出版界隈では「著者を囲い込む」ことが謳われますが、個人的には書き手の方たちには、いろんな版元で経験を積んでいただきたいと考えています。その結果、自分たちからその著者が離れてしまったとしたら、それは編集者(≒版元)の責任でしかありません。 ここで、編集者を変える行動を移す前に、ご対応いただきたいことがあります。それは本当に合わない(思ったことをやってくれない)編集者かどうか、一度よく見てみるということです。 例えば、口数が少なくコミュニケーションが苦手そうな編集者であっても、内容のチェックは完璧で、見えないところで細かいレイアウトや文字バランスの調整、的確なデザインの指示を行っているかもしれません。また、知識が不足しているように見え不安を感じるような編集者が、実は交渉力に長け著者のアイデアを確実に実現できるよう社内外を説得してまわっているかもしれません。 そういった、編集者が対応している点をよく確認されたうえで、判断されるのがよいように思います。 ちなみに、編集者に対してドラマで登場するような編集者のイメージを押しつけたり、他の編集者と比べた発言をされたりするのは、ぜひお控えください。彼ら彼女らのモチベーションを著しく落とすことになり、先に述べたミルフィーユのように重なった雑務が崩れやすくなると、望むべき書籍の発刊が危うくなってしまいます。 最後に、もし今後、執筆の経験を積まれ、まだ経験の浅い編集者と一緒にお仕事をするようになったら、その人物が努力を惜しまない人であれば、時にはチャレンジングな提案も受け入れていただくなど、温かく見守っていただきたい。そこで受け入れてもらえた経験は、その編集者が成長することで、その著者だけでなく、これから書き始める方々にも恩恵があると思います。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)

#No. 691(掲載号)
#編集X
2026/10/22

《編集部レポート》 第52回日税連公開研究討論会が神戸で開催される

《編集部レポート》 第52回日税連公開研究討論会が神戸で開催される Profession Journal 編集部   2026年10月16日(金)、日本税理士会連合会(太田直樹会長)は、第52回日税連公開研究討論会を神戸で開催した。 本年も会場での開催と同時にライブ配信も行うことで、遠方からも視聴可能なハイブリッド形式となった。 公開研究討論会は、税理士による研究成果の発表、討論の過程を通じて、税制・税務行政及び税理士業務の改善・進歩並びに税理士の資質の向上を図るとともに、本会が行う研修事業に資することを目的として実施する、との理念の下、毎年開催されているもの。 第52回となる今回は、北陸税理士会、近畿税理士会による合同開催となった。 まず、北陸税理士会が担当した第1部「税理士の持続可能性と地方創生―創業と事業承継を中心に」では、第1幕として、福井県グループが「税理士の事業承継を巡る課題」、第2幕として、石川県グループが「損害賠償責任」、第3幕として、富山県グループが「所属税理士の働き方の多様性と地方創生」について、再現ドラマやアニメーションなども交えながら発表が行われた。 第2部の近畿税理士会「われわれは租税回避とどう向き合うべきか」では、ライブアンケートも活用しながら、①アンケートから見た租税回避に関する分析や財務省主税局・国税庁・リース会社インタビュー報告が行われ、②個別事案における事実の見方・捉え方、③「伝家の宝刀」行為計算否認規定への税理士の向き合い方、そして、④租税回避とどう向き合うべきかについて、発表と白熱した議論がそれぞれ展開された。 研究発表後は田中治大阪府立大学名誉教授、谷口勢津夫大阪学院大学法学部教授・大阪大学名誉教授より、それぞれ講評がなされた。 当日は全国から税理士が集い、研究発表の成果に耳を傾けた。また、来賓として齋藤元彦兵庫県知事、岩元達弘大阪国税局長が来場、祝辞を述べられた。 (北陸会の発表の様子) (近畿会の発表の様子) (了)

#No. 691(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2026/10/22

《速報解説》ASBJが「金融商品に関する会計基準」等を改正~「予想信用損失モデル」を日本基準においても導入~

《速報解説》 ASBJが「金融商品に関する会計基準」等を改正 ~「予想信用損失モデル」を日本基準においても導入~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年10月16日、企業会計基準委員会は、「金融商品に関する会計基準」(改正企業会計基準第10号。以下「金融商品会計基準」という)等を公表した。これにより、2025年10月29日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、IFRS第9号「金融商品」の予想信用損失モデルを基礎として、金融資産の減損に予想信用損失モデルを導入するものである。 企業会計基準公開草案第89号「金融商品に関する会計基準(案)」等に対する主なコメントの概要とその対応も公表されており、全体で400ページに及ぶものとなっている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 債権、満期保有目的の債券 金融商品会計基準14項、16項では、次のように規定する。   Ⅲ 予想信用損失、貸付金代替性私募債 予想信用損失とは、信用損失を確率加重したものをいう(金融商品会計基準(注5-2))。 信用損失とは、企業に支払われるべきすべての契約上のキャッシュ・フローと、企業が受け取ると見込んでいるすべてのキャッシュ・フローとの差額(すなわち、すべてのキャッシュ・フローの不足額)を現在価値に割り引いたものをいう。 貸付金代替性私募債とは、貸付金の代替として銀行が引き受けて保有する私募債をいう(金融商品会計基準(注5-3))。   Ⅳ 金融保証契約 金融保証契約の規定を新設する(金融商品会計基準26―2項)。 金融保証契約とは、特定の債務者が金銭債務の当初又は変更後の条件に従って期日の到来時に所定の支払を行わないことにより契約保有者に発生する損失等を補償するために、当該保有者に対して所定の支払を行うことを契約発行者に要求する契約をいう。ただし、デリバティブに該当するものは除く(金融商品会計基準(注8-2))。   Ⅴ 予想信用損失の算定方法 予想信用損失の算定にあたっては、期末において、債権、満期保有目的の債券、金融保証契約及び貸出コミットメント等(「債権等」という)の発生の認識以降におけるデフォルト発生リスクの変動に基づいて債権等に係る信用リスクが著しく増大しているかどうか判定する(金融商品会計基準27項)。 予想信用損失は、以下を反映する方法により算定する(金融商品会計基準27-2項)。 「金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いに関する適用指針」(企業会計基準適用指針第36号。以下「予想信用損失適用指針」という)において、詳細な規定及び設例が設けられている。 一般事業会社の通常の営業取引から生じる受取手形及び売掛金等、並びにリースにより生じた債権については、IFRS第9号において定められている営業債権、契約資産及びリース債権についての単純化したアプローチに関する定めを取り入れる。   Ⅵ 注記事項 信用リスクに関する情報として、次の事項を注記する(予想信用損失適用指針71項)。 予想信用損失適用指針では開示例が示されている。   Ⅶ 補足文書 「<補足文書>金融資産の予想信用損失に係る会計上の取扱いについて」において、実務に資するように、信用リスクの著しい増大に関する判定、簡素化された予想信用損失の算定方法における信用リスクの著しい増大に関する判定などについて記載している。   Ⅷ 適用時期等 2030年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。 上記にかかわらず、2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる。この場合には、同時に公表又は改正された一連の会計基準等についても同時に適用する必要がある。 経過措置に注意する。 (了)

#阿部 光成
2026/10/20

《速報解説》 会計士協会、「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正を公表~用語の一般性、有限責任事業組合(LLP)との区別のため「有責組合」を「LPS」に変更~

《速報解説》 会計士協会、「投資事業有限責任組合における 会計上及び監査上の取扱い」の改正を公表 ~用語の一般性、有限責任事業組合(LLP)との区別のため「有責組合」を「LPS」に変更~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年10月7日付けで(ホームページ掲載日は2026年10月16日)、日本公認会計士協会は、「業種別委員会実務指針第38号「投資事業有限責任組合における会計上及び監査上の取扱い」の改正」を公表した。これにより、2026年8月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、2025年3月11日公表の改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」、2025年6月23日公表の「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」(経済産業省 新たなモデルLPAの作成等のための有識者検討会)に対応するものである。 公開草案に対する主なコメントの概要とその対応も公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 用語の一般性や有限責任事業組合(LLP)と区別するため「有責組合」を「LPS」に変更している。 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」では、特定の要件を満たした場合に、組合員はその出資する組合等の構成資産に含まれるすべての市場価格のない株式(出資者である企業の子会社株式及び関連会社株式を除く)について時価をもって評価し、組合等への出資者の会計処理の基礎とすることが認められている。 また、「投資事業有限責任組合契約書例及びその解説(令和7年版)」が公表され、その25条4項では、「無限責任組合員は、本組合が保有する投資証券等の評価を、[時価/IFRS会計基準で定める公正価値/米国において一般に公正妥当と認められる会計基準で定める公正価値/International Private Equity and Venture Capital Valuation Guidelinesで定める公正価値測定のガイドラインに準拠した方法]を用いて実施するものとする」と記載されている。 上記を受けて、次のように改正する。 監査報告書の文例なども改正する。   Ⅲ 適用時期等 2027年1月1日以後開始する事業年度又は会計期間に係る監査から適用する。 ただし、2026年12月31日以後終了する事業年度又は会計期間に係る監査から適用することを妨げない。 適用初年度の取扱いに注意する。 (了)

#阿部 光成
2026/10/19

《速報解説》 金融庁が監査基準の改訂案を公表~継続企業の前提及び不正に関する監査基準等のあり方を検討~

《速報解説》 金融庁が監査基準の改訂案を公表 ~継続企業の前提及び不正に関する監査基準等のあり方を検討~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年10月16日、企業会計審議会監査部会は、「監査基準の改訂について(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、継続企業の前提及び不正に関する監査基準等のあり方について検討したものである。 意見募集期間は2026年11月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 継続企業の前提 次のように改正する(アンダーラインが改正箇所)。   Ⅲ 不正対応 我が国の監査基準等において、国際監査基準に先駆けて、改訂された不正に係る国際監査基準で新たに設けられた不正又は不正の疑いが識別された場合の対応等を取り入れていることから、監査基準等の改訂は行わない。   Ⅳ 実施時期等 改訂監査基準は、2028(令和10)年3月決算に係る財務諸表の監査から実施する。 (了)

#阿部 光成
2026/10/19

《速報解説》 会計士協会、「デジタル監査証拠に関する研究文書」を公表~スキャナ保存、電子契約からブロックチェーンまで8項目の事例と留意事項~

《速報解説》 会計士協会、「デジタル監査証拠に関する研究文書」を公表 ~スキャナ保存、電子契約からブロックチェーンまで8項目の事例と留意事項 ~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年10月7日付で(ホームページ掲載日は2026年10月13日)、日本公認会計士協会は、「デジタル監査証拠に関する研究文書」(テクノロジー委員会研究文書第15号)を公表した。 これは、デジタル化の進む企業の業務には、財務報告に関連する内部統制も含まれることが想定され、財務諸表監査、内部統制監査への影響が併せて想定されることから、デジタル化された監査証拠に関連する具体的な事例等を示すものである。 なお、「電子的監査証拠に係る研究文書」(監査基準報告書500研究文書第1号)は廃止されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 研究文書は、デジタル監査証拠を、「監査人がデジタル情報に対し監査手続を適用した情報」と定義している(Ⅱ、1)。 デジタル情報には、請求書など証憑書類といった物質的な情報をPDFなどのデジタル形式に変換したものから、ワークフローシステム内の情報といった個別の業務・製造プロセスをデジタル化したものが考えられる(Ⅱ、1)。 デジタル情報の特性として、一般的に改竄が容易であることを記載している(Ⅱ、2)。 次の事項について、事例、留意すべき事項、参照すべき基準(実務指針、研究報告等を含む)などについて記載している。 (了)

#阿部 光成
2026/10/15

プロフェッションジャーナル No.690が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年10月15日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.690を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2026/10/15

日本の企業税制 【第156回】「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金法案の国会提出」

日本の企業税制 【第156回】 「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金法案の国会提出」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博   政府は2026年10月9日、「租税及び社会保険料による負担の軽減のための飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の支給に関する法律案」を閣議決定し、同日、同法案を第222回国会に提出した。 同法案は、近年の物価上昇によって国民生活が大きな影響を受ける中で、家計負担の軽減と就業意欲の向上を図ることを目的としている。特に食料品価格の上昇が家計を圧迫している状況を踏まえ、飲食料品に係る消費税率を2年間引き下げる措置と、働く人が負担する税金や社会保険料の軽減を支援する新たな給付制度として「就業者負担軽減支援金」を創設する。2027年度から両施策を当面の「つなぎ」として先行実施し、2029年度には消費税率を元に戻すとともに、支援金制度を本格導入する。 本法案は、飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げ、就業者負担軽減支援金の支給、支援金制度の本格導入に向けた検討等の三つの柱で構成されている。   〇第一の柱 第一の柱である飲食料品に係る消費税率の臨時的な引下げについては、2027年4月1日から2029年3月31日まで、現在8%の軽減税率が適用されている飲食料品について、地方消費税を含む税率を1%とする。国の消費税率は0.78%となり、地方消費税分と合わせて1%になる仕組みである。 この措置については所得制限を設けず、飲食料品を購入する幅広い消費者に負担軽減が及ぶ。飲食料品は所得水準にかかわらず購入が必要な生活必需品であり、食料価格上昇の影響は低所得世帯ほど大きい。 2年間の終了後は税率を8%に戻すこととなり、恒久的な税率変更ではない。地方消費税の減収については、地方特例交付金により補塡する。なお、対象となる範囲は現行の軽減税率対象品目と同じであり、飲食料品の範囲そのものは変更されない。一方で、軽減税率の対象となっている新聞の定期購読料については今回の引下げ対象から除外される。 また、税率変更に伴う事業者の対応にも配慮する。消費税率の大幅な変更は事業者の会計処理やレジシステムに大きな影響を与えるため、円滑な移行のための特例措置が設けられる。例えば、簡易課税制度から本則課税への移行を容易にするための届出期限の特例や、いわゆる「2年縛り」を解除する措置が含まれている。また、飲食料品販売に関しては、簡易課税制度において実質的に税負担が発生しないようにする特例も導入される。店舗における価格表示への対応として総額表示義務の特例も設けられる。事業者が短期間で価格表示を全面的に変更することは困難であるため、税率変更前後の一定期間については柔軟な表示方法が認められる。加えて、中間申告制度の特例や予約販売・通信販売に関する経過措置も整備される。税率の変更は、販売価格だけでなく、仕入税額控除や申告・納付にも影響するため、こうした措置によって実務上の移行を円滑にする考えである。   〇第二の柱 第二の柱である「就業者負担軽減支援金」については、税や社会保険料の負担がある中低所得の就業者に着目し、所得に応じた給付によって手取りを増やすとともに、働き控えの緩和を図る。全国民への一律給付とは異なり、勤労所得、所得全体、税・社会保険料の負担、扶養する子どもの人数などを踏まえて支援額が異なる制度である。政府は、当該支援金制度の創設を本格的な給付付き税額控除の導入に向けた第一歩と位置付けている。 対象者には、基本的に四つの要件を設ける。第一に、勤労所得が政令で定める額を超えること。第二に、合計所得金額が政令で定める上限以下であること。第三に、税・社会保険料負担額から公的年金等収入額を控除した額が、政令で定める額を超えること。第四に、配偶者がいる場合、その配偶者の合計所得金額が政令で定める上限以下であることである。ただし、2027年度と2028年度の先行実施では、配偶者の所得に関する要件を適用しない。 ここでいう勤労所得は、給与収入に応じて算定した額に、一定額を超える事業所得と業務に係る雑所得を加えたものである。このため、給与所得者だけでなく、要件を満たす個人事業主やフリーランスも対象になり得る。一方、公的年金等の収入も考慮するため、働いていることだけをもって受給が決まるわけではない。各所得基準の具体額は法案自体には示されておらず、税制・社会保険制度の状況や就業促進の効果などを考慮して政令で定めることとなる。 支援額も一律ではなく、前年の所得額と扶養児童の有無・人数などに応じて決定する。扶養児童は原則として19歳未満の国内居住の扶養親族とするが、2027年度と2028年度は16歳未満の扶養親族を対象とする。また、当分の間、社会保険料控除額も支援額の算定に加味する。これは、社会保険への加入に伴う保険料負担で手取りが減る、いわゆる「年収の壁」に配慮した就業促進特例加算に関係する措置である。子どもを扶養する負担と就業に伴う負担を、給付に反映する考え方が採用されている。 先行実施期間の支援金は、飲食料品に係る消費税1%相当の収入見込額を超えないようにすることを考慮して設計する。ただし、2028年度分については、2029年度の本格導入への移行に備える加算分を、この枠の対象から除く。したがって、支援金は各人が実際に支払った食料品の消費税を精算して払い戻す仕組みではなく、所得や扶養状況などによって別途算定される給付である。 支給は実際の支援金額が決定してから2月以内に当該年度分がまとめて支払われる。税率引下げが終了する2029年4月にも支給し、その後の通常の給付へつなげる。法案では、2028年度分に、本格的な制度導入による2029年度分の支援額の2分の1相当額を基本とする額を加算する。また、2029年度分も、年間支援額の2分の1相当額を基本として定める。消費税率が8%に戻る時期と給付の時期が大きく離れないよう、移行時の支援を組み込んでいる。 支給事務は市区町村が担い、公金受取口座を登録している人については、市区町村長が職権で支給認定することを可能とする。本人からの請求を待たずに認定できる仕組みにより、受給者と自治体双方の手続負担を軽減する狙いがある。国は、支給事務を効率化する情報システムの整備や、制度の広報、相談窓口の整備などを進める。所得などに応じた給付を実施するには、必要な情報を正確に把握し、自治体が円滑に算定・支給できる体制が不可欠である。 費用面では、支援金の支給に要する費用の3分の2以上を国が負担し、残りを都道府県と市区町村がそれぞれ半分ずつ負担する。普通交付税の交付を受けないと見込まれる市区町村には、当分の間、特別交付金を交付し、2027年度と2028年度は全市区町村を交付対象とする。   〇第三の柱 同法案は、制度導入後の検討事項も掲げる。金融所得等の勘案、税額控除と給付を組み合わせる仕組み、国と地方の役割分担、支援金の対象とならない人への措置に加え、第3号被保険者制度の見直しや被用者保険の適用拡大、医療・介護などの社会保障制度、雇用制度、人的控除を含む所得税改革を検討する。内閣府には、支援金を担当する「租税・社会保険料負担に関する総合調整本部」を設置する。財源は、特例公債に頼ることなく、歳出・歳入全般の見直しにより確保する。また、国・地方 の役割分担を踏まえつつ、地方財政に支障が生じないよう措置する。 今後は国会審議に加え、政令で定める所得基準や支給額、財源確保の具体化が、制度の効果と家計への影響を判断するうえで焦点となる。同法案の意義は、単なる消費税減税にとどまらず、税制と社会保障制度を一体的に見直しながら、将来の給付付き税額控除制度へ接続する点にある。 (了)

#No. 690(掲載号)
#魚住 康博
2026/10/15

[音声記事]令和9年食料品減税、ここが困りそう─税理士が語る消費税実務 【第2回】「費用は誰が被るのか」

音声記事令和9年食料品減税、ここが困りそう──税理士が語る消費税実務【第2回】費用は誰が被るのか 収録時点の情報について 本記事は、2026年9月15日に公表された「飲食料品消費税率の臨時的な引下げ及び就業者負担軽減支援金の導入に関する大綱」の内容を前提に収録しています(収録日:2026年9月26日)。その後の法案審議等により、制度の内容が変わる場合があります。 出席者(※発言者順) 出席三木 孝夫税理士 司会八ッ尾 順一公認会計士・税理士 出席日髙 真帆税理士 出席廣瀬 周平税理士 この連載について 軽減税率が始まった令和元年10月、レジの入れ替えや請求書の様式変更に追われた方も多いと思います。令和9年からの実施が検討されている飲食料品の消費税減税でも、同じような対応に追われることになるかもしれません。 この連載は、税理士が集まり、減税が始まったら実務のどこで困りそうかを話し合った内容を音声にしたものです。顧問先からどんな問い合わせが来そうか、システム改修は間に合うのかといった、解説記事ではなかなか取り上げられない話が中心となっています。 音声記事  再生時間 約11分 CHAPTER 00:06飲食店の現場では01:00総額表示と減る現金04:50仕入れの値上がりの転嫁06:07中間申告の特例09:26第1表のみ提出 (了)

#No. 690(掲載号)
#八ッ尾 順一、日髙 真帆、廣瀬 周平、三木 孝夫
2026/10/15
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