〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第3回】 〈製造業〉 〔Q3〕 「偽装請負と判断されないためのポイント」 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 中野 博和 【Q】 当社では、他社から製品の製造を請け負っています。一般に、偽装請負とならないよう注意が必要であると言われていますが、偽装請負とはどのようなものなのでしょうか。また、偽装請負とならないようにするためには、どのような点に注意すればよいでしょうか。 【A】 偽装請負とは、形式的には請負契約や準委任契約などの業務委託としつつも、実態としてはその受託者の労働者に対して指揮監督をしているものをいいます。偽装請負とならないようにするためには、受託者の労働者に対し、指揮監督をしないように注意が必要です。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 偽装請負とは 偽装請負とは、形式的には請負契約や準委任契約などの業務委託としつつも、実態としては、当該業務委託の委託者が受託者の労働者に対して指揮監督をしているものをいう。 製造業においては、例えば、業務委託の委託者が、受託者の製造現場等に赴いて受託者の労働者に対して指揮監督を行ったような場合に偽装請負となる。 2 偽装請負を行った場合のリスク (1) 刑事罰等のリスク ア 受託者のリスク 偽装請負が認められる場合、実態としては労働者派遣を行っていることとなるところ、労働者派遣事業を行うためには、厚生労働大臣の許可を得る必要がある(労働者派遣法5条1項)。 受託者が労働者派遣事業の許可を得ずに偽装請負を行った場合には、労働者派遣法5条1項に違反して労働者派遣事業を行ったものとして、1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処せられる可能性がある(同法59条2号)。 なお、受託者が労働者派遣事業の許可を得ているにもかかわらず偽装請負が行われた場合においても、受託者は、その労働者に対する就業条件等明示義務などに違反していると思われるため、30万円以下の罰金に処せられる可能性がある(同法61条)。 イ 委託者のリスク 委託者は、受託者が労働者派遣事業の許可を得ずに偽装請負を行った場合、労働者派遣事業の許可を得ていない事業主から労働者派遣の役務提供を受けたものとして、労働者派遣法24条の2に違反し、厚生労働大臣から行政指導(同法48条1項)、改善命令(同法49条1項)及び勧告(同法49条の2第1項)がなされる可能性がある。勧告に従わなかった場合、その旨を公表される可能性がある(同法49条の2第2項)。 また、受託者が労働者派遣事業の許可を得ているにもかかわらず偽装請負が行われた場合においても、派遣先責任者(労働者派遣法41条)や派遣先管理台帳作成義務(同法42条)に違反していると思われるため、30万円以下の罰金に処せられる可能性がある(同法61条)。 (2) 労働契約申込みみなしのリスク 委託者が、労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的で、請負その他労働者派遣以外の名目で契約を締結し、かつ、労働者派遣契約において定めなければならないものとして労働者派遣法26条1項各号に掲げられている事項を定めずに労働者派遣の役務の提供を受けた場合、これについて委託者が善意無過失でない限り、その時点において、委託者から、受託者の当該労働者に対し、労働契約の申込みをしたものとみなされる(労働者派遣法40条の6第1項5号、同項ただし書)。もっとも、上記のとおり、労働者派遣法等の規定の適用を免れる目的が認められることが前提であるため、委託者が善意無過失と認められることは、事実上困難であると思われる。 当該労働契約の申込みは、偽装請負行為が終了した日から1年が経過するまでは撤回することができない(同条2項)ため、この期間までに、当該労働者が労働契約の申込みを承諾する旨の意思表示をした場合には、委託者と当該労働者との間で労働契約が成立することになる。 (3) 安全配慮義務のリスク 委託者が受託者の労働者に指揮監督をしていた場合、委託者は当該労働者に対して安全配慮義務を負う可能性がある。当該労働者が怪我を負った場合、委託者に安全配慮義務違反があれば、委託者に対する当該労働者の損害賠償請求が認められる可能性がある。 3 偽装請負に関する区分基準 すでに述べたとおり、偽装請負とは、形式的には請負契約や準委任契約などの業務委託としつつも、実態としては、当該業務委託の委託者が受託者の労働者に対して指揮監督をしているものをいうため、偽装請負に当たらないようにするためには、当該業務委託の委託者が受託者の労働者に対して指揮監督をしないように注意する必要がある。 どのような場合に指揮監督をしているとして偽装請負に該当するのかについては、厚生労働省が「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」(昭和61年4月17日労働省告示第37号)や疑義応答集などを公表しているので参考になる。 特に、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準」からすると、以下の(1)及び(2)のいずれにも該当すれば、偽装請負に当たらないということができる。 (1) 受託者が雇用する労働者の労働力を受託者が自ら直接利用するものであること 具体的には、次のアからウにより判断される。 ア 業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること 具体的には、次の①及び②により判断される。 特に①について、受託者が、一定期間において処理すべき業務の内容や量の注文を委託者から受けるようにし、当該業務を処理するのに必要な労働者数等を自ら決定し、必要な労働者を選定し、請け負った内容に沿った業務を行っていること、受託者が、作業遂行の速度を自らの判断で決定することができること、及び受託者が、作業の割り付け、順序を自らの判断で決定することができることなどが認められれば、受託者が業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであると認められる。 イ 労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること 具体的には、次の①及び②により判断される。 ①については、受託業務の行う具体的な日時(始業及び終業の時刻、休憩時間、休日等)について事前に受託者と委託者とで打ち合わせ、業務中は委託者から直接指示を受けることのないよう書面を作成し、それに基づいて受託者側の現場責任者を通じて具体的に指示を行っていることや、受託業務従事者が実際に業務を行った業務時間については、受託者自らが把握できるような方策を採っていることなどが認められれば、受託者が労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであると認められる。 ②については、受託業務の業務量の増加に伴う受託業務従事者の時間外、休日労働は、受託者側の現場責任者が業務の進捗状況等をみて決定し、指示を行っていることが認められれば、受託者が労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであると認められる。 ウ 企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること 具体的には、次の①及び②により判断される。 特に②については、受託者自らの労働者の委託者の工場内における配置も受託者が決定することや、業務量の緊急の増減がある場合には、前もって委託者から連絡を受ける体制にし、受託者が人員の増減を決定することなどが認められれば、受託者が企業の秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであると認められる。 (2) 請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること 具体的には、次の①から③により判断される。 ③については、具体的には、次の(ⅰ)及び(ⅱ)により判断される。 特に(ⅰ)については、委託者からの原材料、部品等の受取りや受託者から委託者への製品の受渡しについて伝票等による処理体制が確立されていること、委託者の所有する機械、設備等の使用については、請負契約とは別個の双務契約を締結しており、保守及び修理を受託者が行うか、ないしは保守及び修理に要する経費を受託者が負担していることなどが認められれば、受託者が単に肉体的な労働力を提供するものでないと認められる。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第25回】 「年次有給休暇取得日の通勤手当・皆勤手当の取扱い」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 年次有給休暇取得日における賃金の支払いは労働基準法で規定されていますが、通勤手当や皆勤手当の支払いの要否が問題になることがあります。 そこで今回は、年次有給休暇取得日の賃金について解説します。 * * 解 説 * * 1 年次有給休暇取得日の賃金の計算方法 労働者が年次有給休暇(以下「年休」という)を取得した際の賃金については、以下の3つから選択して支払うことになります(労働基準法39条9項)。ただし、事案ごとにその都度計算方法を変更することはできません。 年次有給休暇に関する事項は、就業規則の絶対的必要記載事項とされています。そのため、年次有給休暇に係る賃金の計算方法も、どの方法を選択するかについて、あらかじめ就業規則等に定めておく必要があります。 (1) 通常の賃金を支払う 〈就業規則の規定例〉 「通常の賃金」とは、労働者が通常どおり勤務していれば支払うことになる賃金のことをいいます。 (注1) 時間給制のパートタイム労働者等については、日によって所定労働時間が変わる労働者がいるケースでは、年休付与日の所定労働時間に応じて賃金を支払います。 (注2) 通常の賃金を支払う方法を選択する場合、通常の出勤をしたものとして扱えば十分であり、その都度上記の計算を行う必要はありません(行政解釈 昭和27年9月20日基発675号)。 (2) 平均賃金を支払う 〈就業規則の規定例〉 「平均賃金」とは、労働基準法で定められた休業手当や解雇予告手当等の金額を算定するための賃金額をいい、「3ヶ月間に支払われた賃金総額÷3ヶ月間の総暦日数」で求めます。賃金締切日がある場合は、直前賃金締切日から起算します。 また、日給、時間給等の場合は「3ヶ月間に支払われた賃金総額÷3ヶ月間の「労働日数」×60%相当額」が最低保障されます。 (3) 健康保険法で規定する標準報酬月額の30分の1に相当する額を支払う 〈就業規則の規定例〉 この場合、使用者は、過半数労働組合又は過半数を代表する者と書面による協定の締結が必要になり、この協定を締結した場合は、これにより賃金を支払わなければなりません。 事業所が社会保険未加入の場合には、標準報酬が適用できないため、実務上は他の2つの方法(上記(1)又は(2))が選択されることが一般的です。 2 通勤手当の支払の要否 (1) 「通常の賃金」(上記1(1))を支払っている場合 ① 通勤手当が実費補償的な性格のものである(出勤日のみ実費を支払う)場合 就業規則等で、「通勤手当は、実際に出勤した日についてのみ支給する。」旨を明記しておけば、年休取得日に通勤手当を支給しなくとも問題ありません。 ② 出勤日にかかわらず通勤手当を定額で支払っている場合 実費補償的性格のものとは言い難いため、年休取得日において、通勤手当の日割分を控除することは違法とまでは言えませんが、好ましくありません。通勤手当を支給する方が年休制度の趣旨に沿うことにもなるため、通勤手当はできるだけ控除しない方が妥当です。 ただし、労働者が退職するときに、退職日まで1ヶ月すべて年休を取得して、一切出勤しないケースがありますが、その場合は、通勤に要する費用はゼロですので、その月の通勤手当を不支給にしても問題ありません。 (2) 「平均賃金」(上記1(2))又は「健康保険法で規定する標準報酬月額の30分の1に相当する額」(上記1(3))を支払っている場合 それぞれの算定額に通勤手当が含まれていますので、別途通勤手当を支払う必要はありません。 3 皆勤手当の支払いの要否 皆勤手当を支給している事業所では、年休を取得した労働者に対して、皆勤手当の支給は必要です。 労働基準法附則第136条では、「年休を取得した労働者に対する、賃金の減額その他不利益な取扱い」を禁止しています(努力義務)。 年休取得を理由とした皆勤手当のカットも「不利益な取扱い」にあたり、年休取得の妨げになってしまうことから、禁止されていると解するのが妥当です。 したがって、皆勤手当を支給している事業所で、「年休を取得した場合には皆勤手当を支給しない」という取扱いにしている場合には、トラブルになる可能性もあるため、注意が必要です。 (了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例104】 Japan Eyewear Holdings株式会社 「監査等委員である取締役の辞任及び 仮監査等委員選任の申し立てについて」 (2025.3.10) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、Japan Eyewear Holdings株式会社(以下「Japan Eyewear」という)が2025年3月10日に開示した「監査等委員である取締役の辞任及び仮監査等委員選任の申し立てについて」である。 監査等委員である取締役が「一身上の都合」により辞任して、監査等委員1名の欠員が生じるため、仮監査等委員選任の申し立てを裁判所に行うことにした、という内容である。 2 プライム市場への市場区分変更申請の取下げ スタンダード市場に上場しているJapan Eyewearは、東京証券取引所に対してプライム市場への市場区分変更を申請し(2024年11月28日開示「東京証券取引所プライム市場への市場区分変更申請に関するお知らせ」)、2025年2月10日にその市場区分変更が承認されていた(同日開示「東京証券取引所プライム市場への上場市場区分変更承認に関するお知らせ」)。 しかし、その4日後に、その市場区分変更申請を取り下げている(2025年2月14日開示「株式の売出しの中止及び市場区分の変更申請の取下げに関するお知らせ」)。 「内部管理体制に関連して確認すべき事項が発見された」ため、取り下げたとされているが、その「内部管理体制に関連して確認すべき事項」が何かは、明らかにされていなかった。 3 役員によるインサイダー取引 Japan Eyewearは、市場区分変更申請を取り下げた日から3日経った2025年2月17日、「(開示事項の経過)株式の売出しの中止及び市場区分の変更申請の取下げに関連した内部管理体制に関する確認事項のお知らせ」を開示した。 その「1.中止理由」の記載は次のとおりである。 つまり「内部管理体制に関連して確認すべき事項」とは、同社の役員によるインサイダー取引の疑いだったのである。 4 役員は監査等委員である取締役 Japan Eyewearは、役員によるインサイダー取引の疑いについて外部の弁護士による調査を実施し(2025年2月21日開示「当社役員による当社株式の売買に関する件について」)、今回の開示と同じ2025年3月10日、その調査結果を開示している(「(開示事項の経過)当社役員による当社株式の売買に関する件について」)。 その「1.調査の結果」の記載は次のとおりである(一部省略)。 驚くべき点は、インサイダー取引を行った役員は、監査等委員である取締役であった、というものである。 同開示の「2.再発防止策」には、「本調査結果において、本役員が本株式取得を行うに至った原因は、インサイダー取引規制や当社社内規程についての本役員の理解不足に尽きるとの指摘がなされ」たという記載がある。 なぜ同社はそのような人物を取締役に、しかも監査等委員に選んだのだろうか。筆者の周囲にも、法律や会計をまったく知らないのに、上場会社の監査等委員に就任している方がいるが、就任している方も選んだ会社も、そのリスクを認識していないようである。 5 辞任勧告すべきでは 「(開示事項の経過)当社役員による当社株式の売買に関する件について」の「3.今後の対応等」には「本日、本役員から辞任の申出があり、これを受理いたしました」とある。インサイダー取引を行った監査等委員である取締役は、今回取り上げた開示において「一身上の都合」により辞任したとされる、監査等委員である取締役だったのである。 「(開示事項の経過)株式の売出しの中止及び市場区分の変更申請の取下げに関連した内部管理体制に関する確認事項のお知らせ」の「2.今後の対応等」には、次のような記載がある(下線は筆者による)。 Japan Eyewearは、インサイダー取引を行った監査等委員である取締役が「一身上の都合」により辞任するのを認めるべきではなく、同氏に対して辞任勧告を行ったうえで「インサイダー取引を行ったことの責任をとって」辞任してもらうようにすべきだったのではないだろうか。それとも、そうした人物を監査等委員である取締役に選んでしまった自社の責任を感じているのだろうか。 6 性別掲載の意図に対する疑問 Japan Eyewearは、今回の開示の3日後の2025年3月13日、4月に開催される定時株主総会に付議する取締役候補者を開示している(「取締役候補者の選任及び執行役員の体制に関するお知らせ」)。 新任の監査等委員2名は弁護士と公認会計士であるため、今回の人選は問題ないかと思われるが、記載の仕方において気になる点がある。取締役候補者の性別まで記載されているのである。 役員候補者の性別まで記載する開示は珍しく、その開示を見た方の多くは違和感を覚えるのではないだろうか。これまで同社の取締役には女性がいなかったが、取締役候補者の中には女性が1名だけいる。同社は、新たに女性が取締役になることをアピールする意図でもあるのだろうか。 (了)
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《速報解説》 国税庁、「インボイスQ&A」を約1年ぶりに改訂 ~R7改正のリース税制の整備に伴い一部記載を見直し~ Profession Journal編集部 令和7年4月21日付けで国税庁は、「消費税の仕入税額控除制度における適格請求書等保存方式に関するQ&A」(いわゆる「インボイスQ&A」)を約1年ぶりに改訂した。 今回追加された問答(全10問)は下記のとおり。 ただし、上記の10問はかねてより国税庁ホームページに公表されていたインボイスに関する資料である「多く寄せられるご質問(令和6年7月26日更新)」及び「インボイスの取扱いに関するご質問(令和7年2月25日更新)」に掲載された各問答を取り込んだものであり、新たに公表されたものではない。 また、追加問とは別に一部改訂された問答は全8問あり、注記や一部記載の見直しを行っているほか、海上運送法等の一部を改正する法律の施行に伴う記載の変更(問42)、令和6年度税制改正に係る記載の明確化(問106、問113)や令和7年度税制改正で行われたリース税制の整備に伴う記載の見直し(問40)などが行われている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 JICPA、「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正案を公表 ~倫理規則改正に伴い記載及び関係様式を変更~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年4月21日、日本公認会計士協会は、「監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、倫理規則改正に伴う記載の変更などである。 意見募集期間は2025年5月21日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 次のとおりである(大きく変更している様式)。 (了)
《速報解説》 会計士協会が「事後判明事実への対応に関する周知文書」を公表 ~要求事項等に従った事後判明事実への対応例を5つに区分して説明~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2025年4月17日、日本公認会計士協会は、「事後判明事実への対応に関する周知文書」(監査基準報告書560周知文書第1号)を公表した。 これは、事後判明事実への対応について、日本公認会計士協会の会員の理解に資するために公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 事後判明事実に関しては、「監査意見不表明及び有価証券報告書等に係る訂正報告書の提出時期に関する周知文書」(監査基準報告書705周知文書第2号)が公表されている。 しかしながら、「監査意見不表明及び有価証券報告書等に係る訂正報告書の提出時期に関する周知文書」では、進行年度につき意見不表明とした後において、十分かつ適切な監査証拠が入手できず、過年度の有価証券報告書等を訂正すべき内容が確定できない場合については取り扱っていなかった。 「事後判明事実への対応に関する周知文書」は、事後判明事実に関連する監査基準報告書560「後発事象」の要求事項を概説し、次のように、当該要求事項等に従った事後判明事実への対応例を5つに区分して説明している。 (了)
2025年4月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.615を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第138回】 「ガソリンの暫定税率をめぐる三党協議の行方」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部副本部長 魚住 康博 〇経緯 国会における「所得税法等の一部を改正する法律案」の審議が終盤に差し掛かった令和7年3月27日、自由民主党、公明党、日本維新の会による「ガソリンの暫定税率」に関する三党協議が開始された。 元々、令和7年度税制改正の議論が行われていた昨年12月、自由民主党、公明党、国民民主党の間で三党税調協議が進められ、12月11日には自公国幹事長同士による合意文書が作成されていた。そこでは、「いわゆる『ガソリンの暫定税率』は、廃止する」と明記されるとともに、「具体的な実施方法等については、引き続き関係者間で誠実に協議を進める」ことで合意に至っている。 ここでは、いわゆる「103万円の壁」の問題については令和8年から引き上げる旨が明記された一方で、「ガソリンの暫定税率」の廃止時期については記載されず、与党の令和7年度税制改正大綱では合意文書の引用に続いて、「自由民主党・公明党としては、引き続き、真摯に協議を行っていく」と記載された上で、自動車関係諸税の見直しについては、車体課税・燃料課税を含む総合的な観点から検討し、産業の成長と財政健全化の好循環の形成につなげていく旨とともに、車体課税については令和8年度税制改正において結論を得ることとされていた。 【自由民主党・公明党・国民民主党の幹事長合意文書(2024年12月11日署名)】 〇自公国三党税調協議の再開 このように、「103万円の壁」と「ガソリンの暫定税率」の両論点ともに幹事長合意以上の具体策までは自公国の三党税調で年内合意に至らず、年明けに議論が持ち越されていた。令和7年2月4日には、第217回国会の閣法第1号議案として、与党税制改正大綱を踏まえた「所得税法等の一部を改正する法律案」が衆議院に提出され、税制改正法案と予算の年度内成立を目指す与党は野党の協力を得るために、2月18日から自公国の三党税調協議を再開した。 協議において、国民民主党としては、ガソリンの値段が上がることで手取りを減らし、生活を圧迫する要因になっている状況にあることから、「ガソリン税の暫定税率」について、時期を明示して、できるだけ早く暫定税率を廃止することを主張していた。一方で与党としては、仮に暫定税率を廃止した場合に、国と地方を合わせて約1.5兆円とも言われる財源の手当ても考慮する必要があることから、令和8年度税制改正の自動車関係諸税全体の見直しの議論の中で、あわせて「ガソリンの暫定税率」廃止に向けての課題や解決策を明確にしていくスタンスを維持していた。 その後、2月26日までの短期間で都合5回にわたる自公国三党税調協議が行われたものの、結果的には合意に至らず、今後も協議が継続されることとなった。 〇国会審議 他方、自公国の三党税調協議の中では、壁となる「103万円」を「160万円」に引き上げる修正案を公明党が提示し、これを自由民主党が了承することで3月4日に与党修正案が衆議院に提出された。その後、参議院での審議も経て、3月31日に与党修正案が国会で成立している。 なお、「ガソリンの暫定税率」について国会審議では、「揮発油税及び地方揮発油税の『当分の間税率』は廃止に向けた検討を速やかに行うとともに、その廃止に当たっては、流通への影響や関係事業者の事務負担等に配慮するとともに、国及び地方公共団体の財政に悪影響を及ぼすことがないよう、安定的な財源を確保するなど必要な措置を講ずるものとすること」との附帯決議が行われている。 【揮発油税等の税率と税収】 〇自公維三党協議 その背景として、与党修正案については、自民党と公明党だけでなく、日本維新の会が賛成したことにより、国会での成立に至った。予算を含めて年度内成立を目指した与党としては、国民民主党とは別に日本維新の会との交渉を重ねていた中、教育無償化や社会保険・社会保障改革に加えて、「ガソリンの暫定税率」についても自公維の協議体を設置し、3月27日から三党での協議を正式に開始している。 第1回の自公維三党協議には、自民党から森山裕幹事長、小野寺五典政調会長、宮沢洋一税調会長、後藤茂之税調小委員長、上野賢一郎議員が、公明党から西田実仁幹事長、岡本三成政調会長、赤羽一嘉税調会長、竹内譲税調副会長、杉久武税調事務局長が、日本維新の会から岩谷良平幹事長、青柳仁士政調会長、斎藤アレックス議員、萩原佳議員がそれぞれ参加した。日本維新の会では、責任ある野党として真摯に協議をするためとした上で、今夏を目途にした暫定税率の廃止を主張している。 4月11日には第2回の自公維三党協議が開催され、実務者による建設的な議論を行う主旨で、自民党から後藤税調小委員長と上野議員が、公明党から竹内税調副会長と杉税調事務局長が、日本維新の会から青柳政調会長と萩原議員がそれぞれ参加した。 協議後の与党による説明では、会合ではまず、「ガソリンの暫定税率」が制定された経緯や現状の問題のほか、ガソリンの価格高騰対策について、政府から説明が行われている。その上で三党による議論を行い、地方財政との関係、地球温暖化対策との関係、社会インフラ整備の財源確保の問題のほか、流通に与える影響に関して、手持ち品還付の問題と交付金の問題が検討すべき課題として整理された。 次回以降、これら5つの点について、政府から深く掘り下げた資料が提出される予定である。また、日本維新の会からは、課題についての党としての考え方、あるいは早期に暫定税率を引き下げていくことの可能性について提言が行われる予定である。ただし、当初、4月14日の週にも第3回協議が開催されるとされていたが、先延ばしになりそうな見込みである。 今夏に実施される参議院議員選挙を睨んで、今後も与野党の議論が活発化することが予想される一方で、米国による関税の問題に起因する市場の混乱への対処も含めて補正予算の必要性も指摘されており、今後の自公維三党協議の行方から目が離せない。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第71回】 「法人名義の車両に係る使用料と経済的利益の供与」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 社用車の利用と経済的利益の供与 法人が所有する車両を法人の経営者やその家族がプライベートで使用していたことが、税務調査の場で調査官に指摘されたという話は、しばしば見聞するところである。 税務上の取扱いにおいては、法人が購入等した車両を当該役員らに無償で貸与していたという形となるため、役員に対する経済的利益の供与の有無を検討する必要がある(※1)。この点、実務上はこのような指摘がなされないよう、車両をプライベートで使用するのであれば適正な使用料を収受すべき、又は定期同額給与となるようにすべきである(法令69①二)と助言する場面となり、通常は所得税法施行令84条の2も念頭に置くべきである。 (※1) 役員に対する経済的利益の供与について【第9回】参照。 このような内容について示された裁決例があるので、以下にその概要を紹介する。 (2) 法人所有の車両を代表者の妻が使用していたことが経済的利益の供与とされた事例 このように示された例として、国税不服審判所平成24年11月1日裁決がある(※2)。 (※2) 裁決事例集89集208頁、TAINS:J89-3-12。 本件裁決例で認定された主な事実は、以下の通りである。 上記の点が決め手となり、「本件車両は代表の妻が専属的に利用していたと認められるところ、それは、代表が実質的経営者としての権限を利用して請求人が所有する本件車両を代表の妻に使用させていたと認めるのが相当である。そして、代表は、請求人に対し、本件車両関連費用に相当する金員の支払をしていないのであるから、本件車両は、請求人から代表に対して無償で貸与されていたと認められる」として、本件車両関連費用については役員給与に当たると示されている。そして、あん分取得価額、自動車保険料及び支払利息の額はいずれも継続的に供与される経済的な利益であるため定期同額給与とされたのに対し、自動車税等の額は継続的に供与される経済的な利益ではないため、その全額が損金の額に算入されないとされた。 なお、隠ぺい仮装行為性については否定されている。 (3) 本件裁決例の意義 (2)で確認した内容に加え、本件裁決例で注目すべきは、車両について、役員に対して継続的に供与される経済的利益の算定についてまで言及したことである。 示された具体的な内容は、以下の通りである。 これらをまとめると、 こそが、経済的利益の供与とされる額であると示している。 このような経済的利益の供与に関しては、税務上の定期同額給与となるという整理を行うことが、最も合理的であると考えられる。 法人が有する車両を役員が使用する場合には、このような整理ができるよう、継続性が認められるかどうか及び経済的利益の算定について注意したい。 (了)