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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第178回】株式会社旅工房「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年8月29日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第178回】 株式会社旅工房 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2025年8月29日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社旅工房外部調査委員会の概要】   【株式会社旅工房の概要】 株式会社旅工房(報告書上は「TBK社」、以下「旅工房」と略称する)は、1994(平成6)年4月設立の旅行代理店。 設立当初は海外航空券の取扱いを目的としていたが、2004年11月から国内旅行の取扱いも開始。新型コロナウイルス感染症の影響を受けていない 2020年3月期の売上高は33,355百万円、経常利益は138百万円であったが、その後、2021年3月期から2024年6月期(決算変更により15ヶ月決算)まで、4期連続して経常損失となっている。2024年6月期の売上高は3,342百万円、経常損失353百万円、資本金3,358百万円、従業員数96名(いずれも訂正前の2024年6月期連結実績)。 本店所在地は東京都豊島区。2017年4月、東京証券取引所マザーズ市場上場、2022年4月グロース市場へ移行。 会計監査人は2022年3月期まで、EY新日本有限責任監査法人東京事務所(以下、「新日本監査法人」と略称する)。2023年3月期及び2024年6月期はやまと監査法人。2024年9月25日付で、太陽有限責任監査法人が会計監査人に就任。   【調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 旅工房は、東京労働局から、2025年3月11日付で、「雇用調整助成金及び緊急雇用安定助成金受給事業主様への自主調査のお願い」と題する書面を受領したことを契機として、自主的に社内調査を開始したところ、その過程において、実際の勤務状況と受給申請の内容に齟齬が生じており、旅工房が受給した雇用調整助成金及び緊急雇用安定助成金(以下「雇用調整助成金等」という)累計802,230,837円(判定基礎期間は、2020年3月16日から2022年11月30日まで)に関して、受給申請の内容について精査を要する疑義(以下「本件事案」という)が判明したことから、旅工房は、より客観性と信頼性の高い調査を行う必要があると判断し、2025年6月5日開催の取締役会の決議により、外部専門家を中心とした特別調査委員会を設置したものである。   2 本件事案に係る事実関係 (1) 旅工房による社内調査の結果 旅工房の社内調査では、雇用調整助成金等を申請した休業日と各従業員が旅行手配の予約管理等の業務に使用していた予約登録システム及びOffice365のログ、交通費申請等を突合して齟齬の有無・状況を確認したところ、雇用調整助成金を申請した休業日にログ等が存在する齟齬が認められ、雇用調整助成金の申請休業日数が合計68,523日であるのに対して、各従業員の休業日にログ等が存在する日数は24,088日であり、全体で35.2%もの齟齬が発生していることが判明した。 一方、緊急雇用安定助成金については申請休業日数自体が僅少であり(合計850日)、齟齬もほとんど確認されなかった(齟齬の割合:約0.47%)。 (2) 雇用調整助成金の受給申請に至る経緯 旅工房では、新型コロナウイルス感染症に起因する2020年3月期第4四半期以降の急激な業績悪化や財政状態の悪化を背景として、2020年2月20日、元代表取締役社長兼会長の高山泰仁氏(2023年2月辞任。報告書上の表記は「A前社長」。以下、「高山元代表取締役」と略称する)が元取締役菊地直俊氏(報告書上の表記は「D元取締役」。以下、「菊地元取締役」)に対して、雇用調整助成金について、労働局への相談を指示したことがきっかけとなり、コーポレート本部人事セクションが中心となって受給申請に関する検討が開始された。社内での検討会議や、労働局への相談等を経て、社内で雇用調整助成金等の受給申請を行う方針が固まり、2020年3月16日から各従業員の休業日の設定が開始された。 なお、旅工房では、当時、雇用調整助成金等の制度趣旨や不正受給とならないための留意事項等がコーポレート本部から社内に周知された形跡はない。 (3) 高山元代表取締役による休業中の稼働に関する指示 旅工房では、高山元代表取締役の指示を受けて、各部門において、休業中の読書及びレポート提出が指示されていたところ、2020年3月27日、高山元代表取締役は、雇用調整助成金等について、「もっと過激に書くと、出勤は自由。ただし休み扱いで助成金を貰う、という議論をしたいと思います。」という内容のメールを送信し、業績に貢献できる役職員以外は自由出勤にしつつ出勤日は休業日に設定して雇用調整助成金等を受給するという明らかに不正受給に該当する発案がされている。 特別調査委員会は、これが全社的な方針として採用された形跡はないものの、業績に貢献する事業部門として高山元代表取締役の直接的な影響を強く受けていた法人営業部門とレジャー部門で休業中の稼働指示(読書や読書レポート提出の指示ではなく通常業務の指示)が出されていたことを示唆する複数のメールを確認している。 (4) 不正受給に関する内部通報 2021年1月12日、法人営業部門の従業員から、外部通報窓口を務めるQ弁護士に対して、法人営業部門における幹部2名からのパワーハラスメント及び休業日の稼働指示に関する内部通報が行われた。 旅工房では、同年1月18日から同年4月19日にかけて、コーポレート本部長であった岩田前代表取締役、人事セクション統括マネージャであったL氏、人事セクションリーダーであったN氏、Q弁護士による調査が実施された。通報対象者2名は通報内容を否定したものの、岩田前代表取締役らによる通報者との面談により、法人営業部門全体で休業日における稼働指示が出ていたことや、直近でも従業員が忖度して稼働することもある等の情報に加え、通報者との面談議事録によると、「2020年の4月位から、コロナの猛威により、緊急事態宣言が発せられ、会社から休業指示がでた中、勤怠システム上は休業と入力させられながら、外出営業をさせられた。これは雇用調整助成金の不正受給になると思う」という申告を受けた。 調査結果は、監査役会、リスク・コンプライアンス委員会へ報告され、同年4月30日開催の懲罰委員会では、内部通報の調査結果が報告されるとともに、法人営業部門の通報対象者2名及び管理職4名に対する懲戒処分が決定され、資料として、厳重に対処すべきとのコーポレート部門の見解をまとめた「総括」が記載されていた。   3 本件事案に対する評価 特別調査委員会は、結論として、旅工房が受給した本件事案の判定基礎期間の雇用調整助成金は、不正の行為により本来受けることのできない助成金の支給を受けた不正受給に該当するという判断を示している。 その理由としては、まず、受給申請上の休業日にログ等がある割合が高いこと(齟齬の発生割合が35.2%)、判定基礎期間の全期間を通じて高い割合で推移していることも踏まえると、旅工房では休業日における従業員の稼働が常態化していたことがうかがえ、旅工房の受給申請書にはこうした実態と異なる虚偽の記載があったと認められることを挙げた。 次に、旅工房の役職員に故意が認められるかが問題となるが、2021年1月の内部通報を契機とした社内調査によって、法人営業部門内での休業中の稼働実態について具体的に把握し、2021年4月30日に開催された懲罰委員会では相当規模の不正受給である旨の報告がなされたことから、高山元代表取締役や受給申請の実務を担当するコーポレート部門の菊地元取締役、前代表取締役社長の岩田静絵氏(報告書上の表記は「G氏」。以下、「岩田前代表取締役」と略称する)及びL氏は、遅くともこの時点では雇用調整助成金の不正受給の可能性を明確に認識していたと認められると指摘した。   4 発生原因の分析(報告書61頁以下) 特別調査委員会は、調査で確認した雇用調整助成金の不正受給と不適切なソフトウェア資産計上、U氏による旅行手配ミスによる損失の先送りの発生原因を個別に分析したうえで、共通する発生原因についての分析を行っている。 (1) 雇用調整助成金の不正受給の直接的な発生原因 特別調査委員会は、雇用調整助成金の不正受給の直接的な発生原因として次の3項目を挙げている。 特別調査委員会が発生原因として挙げた「内部通報制度の問題」について、その指摘内容を確認しておきたい。特別調査委員会は、2021年1月の内部通報における通報内容には、法人営業部門の幹部や管理職によるパワーハラスメントなどに限らず、勤怠システム上は休業と入力させられながら外出営業をさせられており、「これは雇用調整助成金の不正受給になると思う」との会社としての雇用調整助成金の不正受給が含まれていたのであるから、この問題についても正面から取り上げて調査を行うべきであったにもかかわらず、コーポレート部門による調査の過程で同部門と法人営業部門の部門間の対立関係が激化し、コーポレート部門は、懲戒処分を優先し、それが雇用調整助成金の不正受給の外部リークを阻止することにつながるというスタンスで対応していると批判して、こうした状況からすると、組織的な違法行為等を速やかに認識して是正する観点での内部通報制度は適切に機能せず、雇用調整助成金の不正受給の早期発見・是正が遅れた要因となったと考えられるとまとめている。 (2) 不適切なソフトウェア資産の計上の直接的な発生原因 特別調査委員会は、調査の過程で、2022年3月期第2四半期における不適切なソフトウェア資産の計上を検出している。これは、旅工房の予約登録システムに異常が発生して、そのデータ復旧のために支出した費用を2022年3月期第2四半期においてソフトウェアとして資産計上したものを、2022年3月期の期末決算で全額減損損失を行ったものであり、その直接的な発生原因として、次の2項目を挙げている。 (3) U氏による旅行手配ミスによる損失の先送りの直接的な発生原因 法人営業を担当していたU氏は、旅行手配ミスによる損失の先送りを目的として、以下の手法により、不正を繰り返していた。 特別調査委員会は、U氏による不正が長く発覚しなかったことも含めて、旅工房が、2020年6月に公表した外部調査チームによる調査報告書に記載された原因分析をもとに次のようにまとめている。 (4) 共通する発生原因 発生原因の分析の最後に、特別調査委員会は、共通する発生原因として、次の4項目を挙げている。   5 再発防止策の提言(報告書70頁以下) 特別調査委員会は、発生原因の分析を踏まえて、次のとおり再発防止策の提言を行った。 特別調査委員会による再発防止策の中で、まず、「内部通報制度の運用改善」について見ておきたい。 特別調査委員会は、旅工房において、2021年1月以降の内部通報事案の調査により関係者の懲戒処分にまで至っており、内部通報制度は一定程度機能したものの、雇用調整助成金の不正受給の問題を正面から取り上げなかったことに加え、懲戒処分の対象者から不服申立てを受けるなどの混乱が生じていること、内部通報実績が2件しかないことなどから、内部通報制度が積極的利用されない理由を把握して運用の改善に取り組むべきであり、対応については、リスク・コンプライアンス委員会との連携をさらに強化し、外部専門家の指導を受けながら対応実績を積み上げて適切な調査対応が実施できるように改善する必要があると指摘すると同時に、リスク情報が適切な会議体等に上程されるまでにことさらに時間を要し、経営陣の関与を示唆する不正の通報もあり得ることからすると、内部通報窓口としてコーポレート本部長や外部通報窓口である弁護士に通報があった際に、直ちに通報があった事実と通報内容が監査役に情報共有されるように内部通報制度の整備・運用について必要な見直しを行うべきであるとしている。 次いで、特別調査委員会による「適正な開示や健全な事業運営に必要な誠実性及び倫理観の醸成」の提言を見ておきたい。 特別調査委員会は、旅工房が今後上場会社として事業運営を継続するのであれば、適正な開示を行うため及び健全な事業運営を行うために必要な基礎的な誠実性や倫理観を醸成することが必須であるとしながら、教育・研修のみでの改善では不十分であると述べ、健全なコンプライアンス意識やガバナンス意識を持つ経営トップによるトップマネジメントの下、役員及び従業員全体で企業風土の変革を行い、不正や不祥事や過年度決算訂正を繰り返す企業から健全な上場企業に生まれ変わるため、名実ともに第2の創業のような取組みを行って会計監査人と積極的にコミュニケーションをとって信頼関係を構築し、市場からの信頼回復を図ることが肝要と思われるとまとめている。   【調査報告書の特徴】 本連載で旅工房が設置した調査委員会報告書を取り上げるのは3回目である。従業員の不正に関する外部調査チームによる報告書の公表が2020年6月。Go Toトラベル事業に基づく給付金の不正受給問題に関する外部調査委員会による報告書の公表が2022年3月。そして、今回の雇用調整助成金の不正受給に関する調査。気になるのは、2022年の外部調査委員会による調査時期には、本件の雇用調整助成金の不正受給はすでに行われていたという点であろう。 2021年3月期の営業外収益には、「助成金収入」として623百万円が、「受取補償金」として57百万円がそれぞれ計上されており、Go Toトラベル事業に基づく給付金の不正受給の影響で財務諸表を訂正し、「受取補償金」は23百万円に減額されたものの、多額の「助成金収入」は今回の調査結果が判明するまで計上されたままになっていた。 もちろん、外部調査委員会による調査のスコープはGo Toトラベル事業に基づく給付金の不正受給問題に限定されており、財務諸表に関しては、当時の会計監査人である新日本監査法人が適正意見を表明していること、外部調査委員会の調査結果が、「不適切とは言えない」「旅工房に何らかの責任が生ずるものではない」という結論であったこと、外部調査委員会に公認会計士が含まれておらず、弁護士だけで組成されていたことなど考慮すべき事情はあるものの、不正受給であることを認識していた取締役や社員は多かったはずなので、調査時に何らかの端緒を把握していれば、ここまで事態が長引くことはなかったと思料する。   1 代表取締役の異動 旅工房では、Go Toトラベル事業に基づく給付金の不正受給問題を受けて、2023年2月28日付で、創業メンバーであった高山泰仁元代表取締役が取締役を辞任し、取締役コーポレート本部長であった岩田静絵氏が代表取締役社長に就任していたが、特別調査委員会による報告書でも明らかなとおり、取締役又は執行役員コーポレート本部長の地位にあった岩田氏は、高山泰仁元代表取締役が主導した雇用調整助成金の不正受給を止めさせることはできなかった。 2025年9月1日、旅工房は、「代表取締役の異動に関するお知らせ」をリリースして、岩田静絵代表取締役社長が同日付で取締役を辞任すること、後任には、取締役の朝居宏文氏がいったん就任するが、その後、9月25日開催予定の定時株主総会で新たに取締役として小林祐樹氏の選任を諮ったうえで、小林氏を新たな代表取締役として選任する予定であることを公表した。リリースでは、岩田氏の辞任理由を次のように説明している。 なお、特別調査委員会は、岩田前代表取締役に関して、次のように指摘している。   2 旅工房による再発防止策と関係者の処分 2025年10月31日、旅工房は、「再発防止策の策定に関するお知らせ」をリリースして、これまでの不祥事の根本原因を真摯に受け止めるべきであるとの共通認識に至り、特に当時の経営トップに対して過度な忖度が行われ、第2線として本来果たすべき第1線のリスク管理に対する監督・支援・牽制機能を十分に発揮できなかった当時のコーポレート部門の責任は重大であると判断したことを述べるとともに、次の再発防止策を公表した。 また、関係者の処分について、旅工房は、朝居宏文取締役から、過年度決算の発表および再発防止策の決議を一区切りとして、2025年10月31日付で取締役を辞任する旨申し出があり、これを受諾したこと、当時からコーポレート部門に在籍している従業員1名につき、コーポレート部門からの異動を発令したことを公表している。   3 元代表取締役に対する損害賠償請求訴訟の提起 2025年11月7日、旅工房は、「当社の元代表取締役に対する損害賠償請求等訴訟の提起および当該元代表取締役が保有する当社株式等についての仮差押決定に関するお知らせ」をリリースして、高山泰仁元代表取締役に対し、雇用調整助成金の受給にあたり、休業中の対象従業員を稼働させることを発案し、実行させていたにもかかわらず、雇用調整助成金の受給申請を行うことが不正受給に該当することを認識していながら、実態と異なる虚偽の受給申請を行い、これを承認し続けていたものであり、会社法第423条第1項に基づく任務懈怠責任が認められると判断し、当社が被った損害について損害賠償請求訴訟を提起することを公表した。 また、同リリースでは、訴訟の提起に先立ち、損害賠償請求に関連して仮差押決定を受けており、仮差押決定に基づき、高山泰仁元代表取締役が保有する旅工房株式合計1,373,900株(数値は各証券会社提出の陳述書による)等について仮差押えが完了したことも説明されている。   4 特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求 2025年11月21日、東京証券取引所は、「特別注意銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求について」をリリースして、旅工房に対して、株式を特別注意銘柄に指定するとともに、上場契約違約金960万円を徴求することを公表した。 その理由は次のとおりである(一部抜粋)。 (了)

#No. 648(掲載号)
#米澤 勝
2025/12/11

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2025年11月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2025年11月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年11月1日から11月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、四半期ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。   Ⅱ 新会計基準関係 次のものが公表されている。 ① 「非化石価値の特定の購入取引における需要家の会計処理に関する当面の取扱い」(実務対応報告第47号) (内容:いわゆるバーチャル電力購入契約(Virtual Power Purchase Agreement(バーチャルPPA))に関する会計上の取扱いを示すもの) ② 「防衛特別法人税の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第72号) (内容:防衛特別法人税の取扱いについて、法人税等会計基準等の見直しに係る改正後の会計基準等とは別に、実務対応報告を公表することで短期的な対応を行うもの。意見募集期間は2026年1月20日まで)   Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 〇 「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(案)等 (内容:サステナビリティ開示基準の適用、人的資本開示に関する制度見直し、株主総会前の有価証券報告書の開示などについて規定するもの。意見募集期間は2025年12月26日まで)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正に関する公開草案(タックス・プランニング業務及びサステナビリティ) (内容:タックス・プランニング業務及びサステナビリティ保証業務に係るQ&Aの改正の公開草案。意見募集期間は2025年12月18日まで)   Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「グループ・ガバナンスと監査役等の監査について」 (内容:グループ・ガバナンスの監査に向けた提言。日本監査役協会 ケース・スタディ委員会) ② 「会計監査人評価の現状と今後の在り方」 (内容:会計監査人の評価を効率化し、実効性向上を目的として研究したもの。日本監査役協会関西支部 監査役スタッフ研究会) ③ 「監査役等の引継ぎ手引書」 (内容:現任の監査役等が監査活動を実施する中で積み上げてきたものなどを引き継ぐためのツールとして取りまとめたもの。日本監査役協会関西支部事務局) (了)

#No. 648(掲載号)
#阿部 光成
2025/12/11

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第16回】「私生活上の非違行為と懲戒解雇」

従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第16回】 「私生活上の非違行為と懲戒解雇」   弁護士 柳田 忍   【Question】 当社は事務用品のメーカーですが、当社の内勤の従業員Aが電車内で痴漢行為を行い、迷惑防止条例違反で略式起訴されて20万円の罰金刑となりました。 報道等はなされていませんが、社内では噂になっており、特に女性従業員から、痴漢のような卑劣な行為をする者とは一緒に仕事をしたくない、辞めさせてほしいという苦情が出ています。 Aを懲戒解雇または諭旨解雇にすることはできるでしょうか。 【Answer】 痴漢行為の態様や、Aの前科前歴の有無、過去の懲戒処分歴、被害者との示談の成否等にもよりますが、Aを懲戒解雇等にして、裁判所で有効性が争われたときは、無効と評価される可能性が高いのではないかと思います。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 1 はじめに 従業員の私生活は基本的に従業員の自由である。しかし、従業員は勤務時間外であってもみだりに企業秩序を乱さず、会社の名誉や信用を毀損しない義務(労働契約法3条4項)を負うことなどから、その私生活上の非違行為によって会社の社会的信用や業務運営に重大な悪影響が生じる場合に、例外的に私生活上の非違行為に対する懲戒処分が法的に認められる可能性がある。 私生活上の非違行為(特に、本件のようなわいせつ行為)に基づく懲戒解雇や諭旨解雇(以下「懲戒解雇等」という)処分の相当性についてしばしば相談を受けることから、本稿においては私生活上の非違行為と懲戒処分について論ずるものとする。   2 私生活上の非行と懲戒処分の判断基準 (1) 懲戒処分が認められるケース 上記のとおり、従業員の私生活上の非違行為は、例外的に、その私生活上の非違行為によって会社の社会的信用や業務運営に重大な悪影響が生じる場合であれば懲戒の対象とし得るとされているが、過去の裁判例等に照らすと、「会社の社会的信用や業務運営に重大な悪影響が生じる場合」とは、主に以下のとおりである。 (2) 「企業の社会的評価に重大な影響を与える場合」とは 企業秩序と直接関係がある非違行為(①)とは、車両を事業に使用する企業(バス・タクシー等の旅客運送事業者や宅配便等の貨物運送事業者など)の従業員による飲酒運転のケース、鉄道事業の従業員による電車内での痴漢行為などを指すところ、本件行為はこのような行為には当たらないと思われる。 そこで、従業員Aの懲戒解雇の根拠となり得るとすれば、当該非違行為が企業の社会的評価に重大な影響を与える場合(②)となるが、どのような場合に②の場合に当たり、懲戒解雇等が相当であるといえるのか。極論すれば、従業員が犯罪行為(特にわいせつ行為)に及び、そのことが報道等で公になったり、取引先に知られて非難されたりした場合には、もれなく社会的評価が低下したと感じる使用者が多いのではないかと思われる。 しかし、懲戒処分の重さが非違行為の内容・悪影響の程度に比して重過ぎる場合には当該処分が相当性を欠くものとして無効となるおそれがあるため(労働契約法15条)、当該事案が公表された場合には解雇に相当するレベルで企業の社会的評価が低下する重大なものでなければ、懲戒解雇を正当化しないと思われる。 また、当該非違行為が報道等により公になるか否かは偶然に過ぎない側面もあるため(※)、少なくとも報道等の対象にされてもおかしくない事案については懲戒解雇の対象となり得ると考えるべきであるが、報道等の対象になる事案は相当程度重大なものであるはずであるから、結局のところ、当該非違行為が企業の社会的評価に重大な影響を与える場合か否か(②)は、当該非違行為の態様(刑法違反に当たるか否かを含む)や結果(起訴・不起訴か、懲役刑か罰金刑かなど)等に照らして重大なものといえるか否かにより判断することになろう。 (※) 覚せい剤の所持及び使用で有罪となり懲戒解雇された鉄道会社の従業員Xが(懲戒解雇の無効ではなく、これに伴う)退職金不支給の違法性を争った事案ではあるが、裁判所において、車掌や運転手等の鉄道会社やバス会社の従業員の薬物犯罪が報道され、社会的反響を呼んだ例は珍しくないのであって、本件が報道等により社会に知られるには至っていないことは偶然の結果というほかなく、これをXに有利に斟酌すべき事情として重視することはできないとされた事案(小田急電鉄(懲戒解雇)事件・東京地判令和5年12月19日)が参考になる。 わいせつ行為については、以下の裁判例等に照らすと、あくまで目安ではあるが、不同意わいせつ罪(刑法176条)や不同意性交等罪(同法177条)等の刑法違反に該当する場合や迷惑防止条例違反に該当する場合であっても懲役刑が課されるような悪質な場合などであれば、報道等の対象となり得ると思われ、社会的評価への影響が重大であり懲戒解雇等に相当するといえるのではないかと思われる。 一方、迷惑防止条例違反であり罰金刑が相当である場合であれば、前科前歴があるなどの特段の事情がない限りは、懲戒解雇に相当するほどの社会的評価への影響は認められない可能性が高いように思われる(なお、以下の日本郵便事件は迷惑防止条例違反行為が対象となったものであり、その行為時には盗撮行為は迷惑防止条例違反となるに過ぎなかったが、当時、盗撮行為等については「性的な姿態を撮影する行為等の処罰及び押収物に記録された性的な姿態の影像に係る電磁的記録の消去等に関する法律」が制定され、厳罰化が図られており、当該行為の翌日から施行されていたという事情があり、この点が懲戒解雇の相当性の判断において考慮されている)。 (了)

#No. 648(掲載号)
#柳田 忍
2025/12/11

〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第25回】「任意後見人に付与すべき代理権の検討」

〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第25回】 「任意後見人に付与すべき代理権の検討」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   【Q】 顧客の任意後見人に就任することが予定されていますが、「代理権目録」にどのような権限を記載するか迷っています。どのような事例があるのでしょうか。 【A】 包括的な代理権が与えられる法定後見制度と異なり、任意後見制度の場合は任意後見契約に定めた代理権が任意後見人に与えられることになります。 公証人役場等が公表しているひな形を利用すれば必要な代理権の大部分はフォローできますが、本当に必要な権限か、対外的にスムーズに通用するかなども考慮して記載ぶりを工夫する余地もあります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 任意後見人の権限 法定後見人に包括的な代理権が与えられるのに対して、任意後見人には任意後見契約で定めた範囲で代理権が与えられます。任意後見人にどのような権限を与えるかは、原則として当事者の契約により自由に決定することができます。 公証人役場等が公表している任意後見契約のひな形を利用すればおおむね必要な権限は網羅することができます。しかし、1つ理解しておかなければならないのは、権限が与えられた以上は任意後見人には権限を行使して本人のために活動を行う義務が生じるということです。 任意後見契約のひな形によく記載されている権限の例としては次のものがあります。 税理士が任意後見人に就任するケースを考えると、本人の親族と協力してサポートをしていくことも多いと思われます。日常的な生活のサポ―トは親族が行い、財産や契約等に係る部分については任意後見人となった税理士が担うようなケースです。 ひな形に記載されている代理権の記載ぶりはいずれも概括的ですが、もう少し具体的に権限を記載したほうが実情にマッチすることもあるかと思います。 例えば、上記の代理権目録では「1.不動産、動産等全ての財産の保存、管理及び処分に関する事項」とありますが、「動産」の管理や処分の権限が、近くでサポートをする親族が存在するなかで、果たして任意後見人に必要なのかについては検討の余地があるでしょう。 また、医療契約や要介護の認定の申請まで任意後見人となった税理士が担うとすると、想定よりも負担が重くなることも考えられます。契約締結にあたってはひな形を参考にしつつ、どのような権限を持つのか慎重な検討が必要になります。   2 重要な財産の処分について 任意後見制度の活用事例として、株式会社のオーナーが認知症の進行や突然の事故・病気により判断能力を喪失した場合に備えて、任意後見契約を締結しておくというものがあります。オーナーが判断能力を喪失した場合、株式の売買を任意後見人が本人に代わって行うというものです。 このようなケースでは、代理権目録の記載のあり方として以下のような記載を行うことも考えられます。 任意後見人が持つ代理権は「登記事項証明書」にも記載され、任意後見人が自らの権限を第三者に証明したいときは、登記事項証明書を提示することになります。概括的な記載方法よりも、上記のように記載したほうが取引の相手方も任意後見人の権限が確認しやすいといえます。   3 代理権の範囲の拡張 いったん任意後見契約を締結したあとに代理権の範囲を拡張したい場合は、任意後見契約を解除して、新たに任意後見契約を締結する必要があります。もし本人が判断能力を喪失している場合には、任意後見契約を締結することはできないことに注意する必要があります。 また、任意後見人には法定後見人に認められている同意権・取消権がありません。もし本人が任意後見人の知らないところで勝手に財産の処分をしていても取り消すことはできません。本人が判断能力を喪失しているが権限を拡張したい場合や、同意権や取消権が必要な場合には、任意後見制度の利用を終了させて法定後見制度に移行する必要があります。 なお、現在行われている成年後見制度の改正議論では、任意後見制度を利用しつつ法定後見制度の利用を可能とする案も検討されています。これが認められると任意後見制度がより利用しやすいものとなるでしょう。 (了)

#No. 648(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/12/11

《速報解説》 国税庁が質疑応答事例を更新~贈答に係る送料の交際費等該当性など12事例を追加~

《速報解説》 国税庁が質疑応答事例を更新 ~贈答に係る送料の交際費等該当性など12事例を追加~   Profession Journal編集部   国税庁は12月3日付けで質疑応答事例を更新し、新規掲載事例一覧を公表した。税目等は、所得税、源泉所得税、譲渡所得、相続税、法人税、消費税、印紙税の7項目で新たに12事例を掲載している。 なお、新規掲載の12事例は以下の通り。 (了)

#Profession Journal 編集部
2025/12/04

プロフェッションジャーナル No.647が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年12月4日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.647を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2025/12/04

monthly TAX views -No.154-「繰り返される金利・成長率論争」

monthly TAX views -No.154- 「繰り返される金利・成長率論争」   東京財団 シニア政策オフィサー 森信 茂樹   高市総理は、衆議院予算委員会での答弁で、単年度プライマリーバランス(PB)黒字化目標の見直しを明言し、目標の確認サイクルを複数年度に変える旨発言した。 背景には「名目成長率(g)が国債金利(r)を上回る状況を維持できれば、債務残高の対GDP比は自然に安定する」という考え方がある。事実、高市総理は記者会見で、「名目成長率が金利より高ければ(g >r)財政は自然に安定するので破綻はしない」と発言している。これはリフレ派の主張でもある。 問題は、「そのような前提が現実に続くのか」という点である。 *  *  * 名目成長率と金利の関係を論じたのは米国の経済学者ドーマーである。金利(r)と名目成長率(g)が同水準であれば、PBがバランスした状況では債務残高GDP比は一定になる。一方、rがgを上回る状況では、PBはバランスしていても債務残高GDP比は増加し財政リスクは拡大し、逆にgがrを上回る状況ではPBが多少赤字でも債務残高GDP比は一定値に収束する(財政の持続可能性は維持できる)。これがいわゆるドーマー定理である。 わが国のように債務残高のGDP比が2倍を超える状況下で、rがgを上回る状況が生じると大きな財政リスク(長期金利の上昇)が生じかねない。そこで、金利と成長率の差がどうなるのかは極めて重要なポイントとなる。 *  *  * 実は同じことが20年前にも経済財政諮問会議で議論されている。2005年(平成17年)12月26日の竹中平蔵氏(当時総務大臣)と吉川洋氏 (当時東京大学教授)の「成長率・金利論争」で、2006年(平成18年)2月1日の同会議でも同じメンバーで議論された。後者は、小泉純一郎総理(当時)が「マンキューだがサンキューだが知らんが興味深い議論だった」とコメントしたので、「マンキュー・サンキュー論争」と揶揄されている。 竹中氏が「現実に長期で見ると、マンキューやサマーズの議論は常に名目成長率の方が名目金利より高かったという歴史的なファクトからの主張だ」と述べたのに対して、吉川氏は「経済理論では長期金利はマーケットで決まるもの、理論の世界では金利の方が成長率よりも高いというのが通常の理解だ」と反論した。 *  *  * 「成長率・金利論争」は、PBの黒字化の達成だけでは財政再建は不十分で、GDP比2%程度の財政黒字が必要という「財政規律派」と、成長率が長期金利を上回るドーマー条件を満たせば、増税なくして財政再建は可能だとする「上げ潮派」の論争であるが、各国の事例を長期にわたり観察すると、長期金利と名目経済成長率の関係は多様である。1980年から2024年のG7諸国の推移を見ると、rがgを上回った例が60%、わが国では64%となっており、いずれも多数となっている。 わが国でコロナ後の直近3年間を調べてみると、成長率が長期金利を大きく上回る状況が続いているが、これは日銀の金融緩和が大きく影響していると考えられる。日銀の金融政策の正常化が進み、物価上昇への期待が生じてくれば、長期金利は今後も上昇傾向が続く可能性が高い。 *  *  * いずれにしてもrとgの関係は経済学でも理論的に解明されておらず、ほぼ同水準で推移すると考えて財政運営をすることが望ましい。その上で地道にPB黒字を続け、それを利払い返済に充てて債務残高GDP比を引き下げていく財政政策を行い、国家の信認を保っていくことが必要ではないか。 楽観過ぎる見通しは、市場から手痛いしっぺ返しを食らう可能性がある。 (了)

#No. 647(掲載号)
#森信 茂樹
2025/12/04

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例81】「外国為替の売買相場が著しく変動した場合の外国為替換算差損の損金性」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例81】 「外国為替の売買相場が著しく変動した場合の 外国為替換算差損の損金性」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、アメリカ国内に本店を有する保険会社の東京支店において、10年前から経理部門を統括するディレクターを務めております。日本人は保有する金融資産のうちに保険商品が占める割合が高く、保険好きの国民であると称されることがありますが、私の勤務する外資系の保険会社にとっては、なかなか厳しいマーケットであると認識しております。 どういうことかと言えば、外資系保険会社は、クライアントの要望に沿った保険内容を一から組み立てて商品として提案するのが通例ですが、実際のところクライアントは、保険商品に関する知識に乏しいことが一般的であり、日系保険会社が提供するような、誰にでも「わかりやすい」保険商品を求めている傾向にあります。そのため、外資系保険会社の営業担当者は、自社が提供できる保険の内容を丁寧に説明しながら、相手のニーズに合ったプランを作っていくよう努めますが、このような営業スタイルが「ハマる」クライアントは、いまだ限定的というのが正直なところです。 以上のような経営環境の中、わが東京支店は懸命な営業努力により一定のクライアント層をつかむことができましたが、アメリカの親会社の経営陣を納得させるような水準には達していなかったようで、残念ながら一昨年に業務の大幅な縮小を実施しました。 さて、今般、その際に行った外貨建社債の円換算により生じた損失の損金計上につき、現在受けている国税局の税務調査で問題となっております。すなわち、当該外貨建社債については、外国為替の売買相場が著しく変動したため、わが社は期末換算差損につき損金算入を行ったのですが、調査官は、当該外貨建社債については、デリバティブ取引により繰延ヘッジ処理がされており、為替変動のリスクがヘッジされていることから、損金算入は認められないと主張しております。損失が生じているのに損金算入されないという主張は理解できないのですが、税法上どう考えるのが妥当なのでしょうか、教えてください。 【A】 外貨建社債のような外貨建有価証券については、外国為替の売買相場が著しく変動した場合、期末換算差損につき損金算入が認められるのが原則ですが、例外として、有効な繰延ヘッジ処理又は時価ヘッジ処理により為替変動のリスクがヘッジされている場合には、損金算入が認められないこととされています。 したがって、デリバティブ取引により繰延ヘッジ処理がされており、為替変動のリスクがヘッジされているという実態がある場合には、期末換算差損につき損金算入が認められない可能性があるものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) デリバティブ取引に係る損益相当額の取扱いについて 法人税法上、デリバティブ取引とは、金利、通貨の価格、商品の価格その他の指標の数値として、あらかじめ当事者間で約定された数値と将来の一定の時期における現実の当該指標の数値との差に基づいて算出される金銭の授受を約する取引又はこれに類似する取引をいうものとされている(法法61の5①)。 また、内国法人がこのようなデリバティブ取引を行った場合において、当該デリバティブ取引のうち事業年度終了の時において決済されていないもの(未決済デリバティブ取引)があるときは、その時において当該未決済デリバティブ取引を決済したものとみなして財務省令で定めたところにより算出した利益の額又は損失の額に相当する金額(みなし決済損益額)は、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額又は損金の額に算入するという旨が定められている(法法61の5①)。 上記規定を受け、同法施行規則においては、法人税法61条の5第1項にいう「デリバティブ取引」には、金融商品取引法2条20項に規定するデリバティブ取引、すなわち、市場デリバティブ取引、店頭デリバティブ取引又は外国市場デリバティブ取引が、これに当たる旨が定められている(法規27の7①一)。 また、店頭デリバティブ取引のうち金融商品取引法2条22項3号に該当する取引(当事者の一方の意思表示により当事者間において金融商品の売買等を成立させることができる権利を相手方が当事者の一方に付与し、当事者の一方がこれに対して対価を支払うことを約する取引)に係る法人税法61条の5第1項に規定する「みなし決済損益額」とは、当該取引につき、その取引に係る権利の行使により当事者間で授受することを約した金額、事業年度終了の時の当該権利の行使に係る指標の数値及び当該指標の予想される変動率を用いた合理的な方法により算出した金額をいう旨が定められている(法規27の7③三)。   (2) 事業年度終了時における外貨建資産等の円換算について 法人税法61条の9第1項は、内国法人が事業年度終了の時において有する外貨建資産等(外貨建債権、外貨建有価証券、外貨預金及び外国通貨をいう)のその時における当該外貨建資産等の円換算の方法について定めているところ、同項2号ロは、外貨建有価証券のうち売買目的外有価証券(売買目的有価証券(法法61の3①一)以外の有価証券をいう、法法61の3①二)については、その取得等の基因となった外貨建取引の金額の円換算額への換算に用いた外国為替の売買相場により換算した金額をもって期末時の円換算額とする方法(発生時換算法、法法61の9①一イ)又は当該事業年度終了の時の外国為替の売買相場により換算した金額をもって円換算額とする方法(期末時換算法、法法61の9①一ロ)のうち内国法人が選定した方法とし、その方法を選定しなかった場合には、政令で定める方法による旨が定められている(同項柱書)。 また、上記規定を受け、法人税法施行令は、内国法人が売買目的外有価証券について換算方法を選定しなかった場合の換算方法は、「発生時換算法」とする旨が定められている(法令122の7二)。 さらに、外貨建資産等については、期末時換算法により換算した金額とその帳簿価額との差額(為替換算差額)について、益金又は損金の額に算入することとなる(法法61の9②)。   (3) 外国為替の売買相場が著しく変動した場合の外国為替換算差損についてその損金性が争われた事例 それでは本件と同様に、外国為替の売買相場が著しく変動した場合の外国為替換算差損につき、その損金性が争われた事例(東京地裁平成24年12月7日判決・判時2190号3頁(TAINSコード:Z262-12108)、アリコジャパン事件)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、アメリカ合衆国に本店を置き、日本国内に支店を有して保険業を営んでいた外国法人である原告が、平成19年4月1日から平成20年3月31日までの事業年度終了の時に保有する外貨建有価証券について、本件事業年度において外国為替の売買相場が著しく変動したとして、本件事業年度終了の時の外国為替の売買相場により円換算した金額とその時の帳簿価額との差額に相当する金額を損金の額に算入し、本件事業年度の法人税の確定申告を行ったところ、麹町税務署長が、原告が損金の額に算入した上記差額に相当する金額のうち一部の外貨建社債に係るものについては、その外国為替の変動に伴って生ずるおそれのある損失の額を減少させるためにデリバティブ取引(買建オプション取引と売建オプション取引)が行われており、損金の額に算入されないなどとして、本件事業年度の法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたことから、本件更正処分等の一部の取消しを求めた事案である。 なお、原告は、日本国内の支店において、日本国内で保険業を営む外国法人であったが、平成24年6月1日、日本国内の支店を閉鎖している。 ② 事案の争点 通貨オプション取引について、法人税法施行令121条1項1号に定められた方法により「有効性判定」を行った場合、基礎商品比較法(金融商品会計に関する実務指針156項に定める、オプションの基礎商品の時価変動額とヘッジ対象の時価変動額を比較する方法)が同号に規定する方法として認められるか否か。 ③ 裁判所の判断 なお、本件は控訴され(東京高裁平成25年10月24日判決・税資263号-197(順号12321)、TAINSコード:Z263-12321)、原判決が一部取り消されて確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 外貨建有価証券については、外国為替の売買相場が著しく変動した場合、期末換算差損につき損金算入が認められるのが原則であるが(法法61の9④(旧③)、法令122の3①)、例外として、法人税法施行令122条の2カッコ書により、有効な繰延ヘッジ処理(法法61の6)又は時価ヘッジ処理(法法61の7)により為替変動のリスクがヘッジされている場合には、損金算入が認められないこととされている。 本裁判例においては、納税者は米ドル建社債のヘッジ手段として、買建オプション取引を行っていたところ、これが法人税法の規定に照らして有効といえるかどうかが争われたが、法人税法施行令121条1項1号の規定ぶりに従えば、有効性判定の手法として納税者側が主張した「デリバティブ比較法」が採用され、課税庁側が主張した「基礎商品比較法」は採用できないと判断されたところである。 そのような判断をするに至った理由として、裁判所は、「租税法規は侵害規範であって、法的安定性の要請が強く働くものであるから、みだりに規定の文言を離れて解釈すべきではない(最高裁判所平成22年3月2日第三小法廷判決・民集64巻2号420頁参照)ところ、基礎商品比較法にいう「オプションの基礎商品の時価変動額」が、その文言上、施行令121条1項1号にいう「デリバティブ取引等に係る法61条の6第1項に規定する利益額又は損失額」に該当しないことは上記(中略)のとおりであって、上記のような実務指針156項及び法61条の6の趣旨を考慮してもなお、施行令121条1項1号の文言を離れ、明らかに同号に規定する有効性判定の方法には当たらない基礎商品比較法を、同号に規定する有効性判定の方法として取り扱うべきであると解すべき合理的理由は見出すことができない。(下線部筆者)」としている。 これは租税法規解釈の原則につき最高裁判決(ホステス報酬源泉徴収事件)を引いて示したもので、それ自体は妥当であるが、一方で、一審では米ドル建社債のヘッジ手段として、買建オプション取引のみが問題とされたが、控訴審では合わせて売建オプション取引をも取り上げ、そこから生じるみなし決済に係る利益の額を益金に算入すべき点が指摘されており、一審ではこの点がそもそも取り上げられていないのは奇異であるとも言え、その観点から検討すると、一審の判断は形式主義にとらわれバランスに欠けるのではという批判(※)は、傾聴に値するものと考えられる。 (※) 例えば、中里実「デリバティブ取引の有効性判定と、租税法の解釈」『最新租税基本判例70』税研178号145-148頁参照。 条文の理解は文理解釈が原則とはいえ、それが硬直的な形式主義に陥る場合には、必ずしも妥当な結論には達しない可能性があることを示唆している事案と言えよう。   (4) 本件へのあてはめ 外貨建社債のような外貨建有価証券については、外国為替の売買相場が著しく変動した場合、期末換算差損につき損金算入が認められるのが原則であるが、例外として、有効な繰延ヘッジ処理又は時価ヘッジ処理により為替変動のリスクがヘッジされている場合には、損金算入が認められないこととされている。 したがって、デリバティブ取引により繰延ヘッジ処理がされており、為替変動のリスクがヘッジされているという実態がある場合には、期末換算差損につき損金算入が認められない可能性があるものと考えられる。   (了)

#No. 647(掲載号)
#安部 和彦
2025/12/04

《税務必敗法》 【第7回】「振替伝票を削除した」

《税務必敗法》 【第7回】 「振替伝票を削除した」   公認会計士・税理士 森 智幸   【事例】 X会計事務所は、顧問先であるA社の記帳代行を行っている。ある日、所轄税務署の税務調査が入った。所轄税務署は、会計帳簿について電子データでの提示を希望したため、担当税理士はA社の同意をとったうえで会計ソフトのバックアップデータを提出した。なお、A社の帳簿は「優良な電子帳簿」には該当していない。 後日、調査官から連絡があった。内容は「振替伝票の一部が削除されているが、その理由を教えてほしい」ということであった。 X会計事務所内で調査したところ、入力担当職員が、仕訳を訂正する際、誤った仕訳が入力された振替伝票を削除し、新しい振替伝票に正しい仕訳を入力していたことが発覚した。   1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「振替伝票を削除した」である。 会計ソフトによっては、仕訳修正時に振替伝票を容易に削除できるものもある。削除すること自体は税理士法には抵触しないが、もし削除したことが見つかると税務当局から隠蔽又は仮装を疑われる可能性もある。 そこで、今回は仕訳の修正に伴う振替伝票の削除(仕訳の削除を含む)及び上書き修正(仕訳の直接修正)の問題点と防止策を解説する。また、国税庁が2025年9月以降進めている「税務行政におけるオンラインツールの利用」についても触れることにする。今後、「オンライン税務調査」が普及すると、帳簿書類等を電子データで受渡しする機会も増えると予想されるからである。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。   2 振替伝票の削除事例 あくまで聞いた話だが、税務調査において、会計ソフトのバックアップデータを提出したところ、削除した振替伝票の中から売上除外が見つかり指摘された事例があるという。 発見の経緯は不明だが、削除したデータは復元することが可能である。売上除外は論外だが、仕訳修正の際に振替伝票の削除を行うと、見つかった場合、不正を疑われる可能性があるので注意する必要がある。   3 振替伝票の削除や上書き修正をした場合の問題点 会計事務所・顧問先を問わず、仕訳修正時に振替伝票を削除して新しい振替伝票に入力した、あるいは上書き修正をした、という入力担当者は少なくないのではないだろうか。しかし、振替伝票の削除や上書き修正は以下の問題点がある。なお、「優良な電子帳簿」ではないことを前提として説明する。 (1) 隠蔽又は仮装の疑義の発生 前述2の通り、電子データは復元可能である。また、帳簿書類をExcelやCSVで提出した場合でも、連番チェックにより欠番を見つけることが可能である。 もし税務調査において、振替伝票を削除したことが判明すると、仮に仕訳の修正であっても、税務当局から隠蔽又は仮装を疑われる可能性もある。この点は、上書き修正でも同様である。 (2) 修正過程や修正理由が不明となる 振替伝票の削除や上書き修正をしてしまうと、修正前の仕訳の内容が不明となってしまい、どのような理由で、どの仕訳をどのように修正したのか、その過程が不明になってしまう。 (3) 過去の試算表との不整合 例えば、金融機関に試算表を提出した後、振替伝票の削除や上書き修正を行うと、提出した時点の数値が整合しなくなってしまう。このようなことがあると、情報の信頼性を損なうことになり、もし発覚した場合、金融機関とトラブルになる可能性がある。 (4) 顧問先からの信用を失う 会計事務所が記帳代行を行っている場合、前記2(3)のように、金融機関などとトラブルになると顧問先からは信用を失う可能性がある。場合によっては顧問契約の解除となる可能性もある。 (5) 不正の温床となる 振替伝票の削除や上書き修正を認めると、入力担当者はそのような行為をしても問題はないという誤った認識を持ってしまい、会計・税務の不正につながる恐れもある。   4 振替伝票の削除や上書き修正の対策 (1) スタッフや顧問先への指導の徹底 会計事務所は、所内研修などで事務所職員に対して、仕訳を修正する際、振替伝票の削除や上書き修正を行ってはならないことを指導する必要がある。そうしないと、多くの事務所職員は、振替伝票の削除や上書き修正が重大な問題であることを認識しないまま業務を進めてしまうからである。 また、仕訳を修正するときは必ず反対仕訳を計上して取り消したうえで、修正後の仕訳を計上することを指導することも必要である。 この点は、顧問先が記帳をしている場合でも同様である。 (2) ロック機能がある会計ソフトの導入 会計ソフトにはロック機能がついているものがある。このロック機能を使って、月次決算の締後は仕訳を修正できなくなるようにすると有効である。 なお、ロック機能を設定できても、入力者が解除できてしまうと効果がない。そのため、ロックできる権限者を定め、入力者が解除できない仕組みとする必要がある。 (3) 優良な電子帳簿への移行の検討 優良な電子帳簿に移行し、振替伝票の削除や上書き修正の記録がすべて残るようにすれば、仕訳の修正過程がすべて明らかとなる。 ただし、この場合、修正履歴が残るということであって、振替伝票の削除や上書き修正を防止するものではないという点は注意する必要がある。   5 「オンライン税務調査」の到来に向けて (1) オンラインツールの利用とは 国税庁は「税務行政におけるオンラインツールの利用について」を公表し、税務調査等においても、必要に応じてオンラインツールを利用するとした。 この「オンラインツールの利用」とは、具体的には、インターネットメール、Web会議システム(Microsoft Teams)、オンラインストレージサービス(PrimeDrive)及びアンケート作成ツール(Microsoft Forms)を税務調査等の業務に利用するというものである。また、大規模法人で行われてきた「オンライン税務調査」も対象が拡大される予定である。 なお、オンラインツールの利用は、税務署及び国税局の担当者と利用者双方の合意の下で利用するとされており、利用するかどうかは納税者の希望による。 (2) 帳簿書類等は紙とデータのどちらで出すか 会計ソフトを使用していても、税務調査において提出する帳簿書類等は、電子データでないといけないという法令上の定めはない(国税通則法74条の2)。なお、国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」問5では、帳簿書類等が電磁的記録である場合の提示・提出方法が記載されているので参照されたい。 ちなみに、筆者の周囲では、税務調査で帳簿書類等を電子データで提出することを求められても、紙で提出しているという税理士が圧倒的に多い。 しかし、今後、「オンライン税務調査」が普及すると、帳簿書類等も電子データでの提供が進むと予測される。なぜかというと、オンラインツールを使っているにもかかわらず、帳簿書類等だけ紙で提出するのは合理的でないからである。   6 おわりに 今回は、仕訳の修正に伴う振替伝票の削除及び上書き修正の問題点について説明した。電子データは復元可能であり、連番チェックも行いやすい。 また、国税庁は、今後オンラインツールの利用を促進することを公表しているため、帳簿書類等を電子データで受渡しする方向に進んでいくと予測される。振替伝票の削除や上書き修正をすると、悪意はなくとも隠蔽又は仮装を疑われる可能性もあることに注意していただきたい。 これらの点は、会計事務所・顧問先にとって共通の注意点である。 本稿が実務の参考になれば幸いである。 (了)

#No. 647(掲載号)
#森 智幸
2025/12/04

金融・投資商品の税務Q&A 【Q100】「不動産セキュリティトークンからの配当金」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q100】 「不動産セキュリティトークンからの配当金」   PwC税理士法人 金融部 パートナー 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○●   1 不動産セキュリティトークンの税務上の区分 (1) 特定受益証券発行信託とは 不動産セキュリティトークンの税務上の取扱いを考える際には、その不動産セキュリティトークンがどのような法形式で組成されているのかを確認することが必要ですが、現状、流通しているものは、主に、受益証券発行信託を利用して組成されています。 日本の信託法上、受益証券を発行する旨の定めのある信託を受益証券発行信託といいますが、そのうち次に掲げる要件のすべてに該当するものは、税務上、特定受益証券発行信託として区分され、集団投資信託に分類されています。 (2) 特定受益証券発行信託に係る配当の課税関係 不動産セキュリティトークンが特定受益証券発行信託の受益権であり、その信託契約の締結時において委託者が取得する受益権の募集が公募により行われたものである場合は、上場株式等として取り扱われることになります。 上場株式等の配当等は、20.315%(所得税及び復興特別所得税 15.315%、地方税 5%)の税率で源泉徴収されます。原則として、総合課税(最高税率約56%)または申告分離課税(所得税及び復興特別所得税 15.315%、地方税 5%)の対象として確定申告するか、申告不要制度を選択することもできます。   2 本件へのあてはめ 税務上、特定受益証券発行信託に該当する不動産セキュリティトークンとのことですので、受益権の募集が公募により行われたものである場合には、上場株式等として取り扱われることになります。 当該不動産セキュリティトークンに係る配当は、申告不要制度を選択することができますが、総合課税または申告分離課税の対象として確定申告することも可能です。 〇不動産セキュリティトークンとは   (了)

#No. 647(掲載号)
#西川 真由美
2025/12/04
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