〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第87回】 「オウブンシャホールディング事件 (地判平13.11.9、高判平16.1.28、最判平18.1.24)(その3)」 ~法人税法22条2項の「取引」の解釈~ 税理士 中野 洋 10 評釈 本件でいう既存株主から移転した価値とは何か。それを「資産」と捉える場合、実現主義による制約を受ける。本件においても、事実上は、含み益に対して課税しているのであるから、それは「資産」であるという理解が一般的ではないか。このような立場からは「株主(旧株主)に帰属していた株式の含み益が株式引受人に移転することになるが、その含み益は、現実に株式を「譲渡」したものではないから未実現ということになる・・・現行の法人税法は、未実現利益に対して課税しないことを前提としていることから、増資時点での旧株主に対する課税は放棄している・・・現行法の下で未実現利益に課税するには、みなし規定か別段の定めが必要であり、そのためには、法改正が必要である。そのような法的手当がない中での課税は、租税法律主義に違背すると考えられる(※5)」という見方になろう。 (※5) 小池正明「旺文社事件/第三者割当による含み益の移動」『租税訴訟第5号』財経詳報社(平24)251~252 頁。 吉村は、本件控訴審判決について「株式の含み益自体が独立して評価し流通することができない以上、本判決のように株式含み益自体を資産と解し難い。それ故、本件株式の含み益のB社への移転が法22条2項の「資産の譲渡」に該当するとした本判決は問題であると言わざるを得ないであろう(※6)」と述べ、本件の株式含み益の移転が「無償による役務の提供」に該当しうるとする。これは「取引の一体的把握を前提として、X社は、その当時自身が発行済株式の100%を所有していたA社の株主総会において・・・決議を承認することによって・・・含み益の一部を自由に使用・収益・処分できる経済的利益を、B社に対して無償で供与したとみることが可能なのではないだろうか(※7)」(下線筆者)というものであるが、既存株主と新株引受人の特別な関係性の存在が、そのような一体的把握の前提となるように思われる。 (※6) 吉村典久「100%子会社にかかる第三者有利発行割当増資を通じた親会社保有株式の資産的価値喪失と法人税の課税」『平成16年 行政関係判例解説』ぎょうせい(平18)107~108頁。 (※7) 吉村・前掲(※6)108頁。 このような吉村の解釈は、次のような見解と軌を一にすると思われる。中里は「個別の契約を超えた「合意」というものが認定ないし擬制されており、それにもとづいて課税関係が構築されている・・・そこで、この東京高裁判決に示された考え方を、「合意の認定・擬制による否認」と呼ぶことが可能なのではなかろうかと思われる。確かに、この判決の述べるように、課税逃れスキーム等に関しては、取引の全体を観察しなければ、当事者が真に意図したことが何であるか不明確な場合が多いのだろうから、一定の範囲内において、取引の全体を一体として考察するという観察法が必要なことは否定できない。むしろ、問題は、そのような観察方法が裁判所によりどの範囲で許容されるかという点である(※8)」(下線筆者)と述べている。 (※8) 中里実「「租税法と私法」論再考」税研19巻5号、日本税務研究センター(平16)79頁。 一方、これに反する見解として、占部は「同項にいう「取引」を「関係者間の意思の合意の合致に基づいて生じた法的及び経済的な結果を把握する概念」としての理解を示しているがこのような解釈には誤りが存するとともに、本件スキームを事実認定の名のもとで当事者の意思の合意を擬制するものであり、これまでの実質主義(経済的な観察法)と実態は変わらないといえよう・・・司法の枠を超えた新たな法創造を行っているといえよう(※9)」と述べ、批判している。これは控訴審判決の評釈ではあるが、同様の判示をしている最高裁にもあてはまる。 (※9) 占部裕典「法人税法22条2項の適用範囲について」税法学第551号(平16)36頁。 また、本件については、私法上の法律概念にもとづいて「取引」を判定し、私法上の法律関係に即して「合意」を判定すべきとする見解がある。このような見方によれば、X社とB社間に事実上の合意を認定したところで、それは私法上の合意ではないため、取引ではないということになる。本判決について、金子は「この判決の最も重要な問題点は「取引」という用語をどう解釈するかである。・・・同法が取引という用語を簿記会計におけるように法的取引以外の行為や事実を広く含む意味で用いているとは思われない・・・X社とA社の間に本件新株発行について合意が存在し・・・しかし、この合意は、法令用語としての取引には該当しないと考える(法人間の取引であれば、文書が交わされ、記録が残るのが普通である)(※10)」と述べた上で、法22条2項の問題とするのではなく、法132条の問題とすべきであったとする。曰く「本件一連の行為は、きわめて異常かつ変則的である。また、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的は存在していなかったと認定される可能性が極めて大きい。なぜ、Yが、途中から主位的主張として、法22条2項該当性をもち出したのかはわからないが、本件の解決としては、法132条の適用の有無の問題として争う方がオーソドックスであったと思われる(※11)」と述べる。 (※10) 金子宏「租税法解釈論序説-若干の最高裁判決を通して見た租税法の解釈のあり方-」『租税法と市場』有斐閣(平26)23~24頁。 (※11) 金子・前掲(※10)24頁。 岡村は、本件課税について「損益取引として構成されていることに問題はあるが、持分の移転という株主法人間取引に特有の事象をとらえている点は評価すべきである。ただし、こうした持分の移転を直接対象とする課税は、所得課税・・・として行われる場合、実現主義による制約を受ける。そのことは株主法人間取引として構成した場合にも当てはまる。何ら取引を行っていない株主の保有株式が値上がりや値下がりしただけでは、別段の規定がない限り、課税することはできない。そうすると・・・課税は、株主間での持分の移転があり、かつ、経済的利益の実現とみられる事象が生じた場合に行われうることになる(※12)」と述べる。 (※12) 岡村・前掲(※1)327頁。 11 検討 非按分的有利発行増資が行われた場合の課税については、法施行令119条1項4号において、新株引受人に対する課税規定(有利な部分の受贈益課税)が規定されているが、これは法22条2項に規定する「無償による資産の譲受け」の委任を受けた規定と解される。このほかには、法人税法に関する法令上に、同増資が行われた場合の具体的な委任規定は存在しない。また、発行法人側では、資本等取引であるため、時価と発行価額の差額に対する課税もないとする見解(※13)と、平成18年度の会社法制定前においては、当該差額に対して、発行法人において寄附金課税が行われていたとする見解がある。 (※13) 小池・前掲(※5)251 頁。 前者の見解の根拠は、資本等取引からは損益が生じないこと(法22条2項及び3項)、株式の発行に関する法令8条1項1号のみを根拠に、発行法人に当該差額の課税ができないと解されるからであろう。後者の見解は、自己株式の資産性が否定される上記会社法改正前までは、自己株式の譲渡に関して時価との差額が認識されていたことから、新株発行においてもこれと同様と解するものである(※14)。 (※14) 岡村・前掲(※1)323~324頁。 ところで、法37条は損金の別段の定めであるが、適用の効果として益金を生じさせることから、損金のみならず、益金に対する別段の定めでもあると解せば、本件「持分の移転」について明確な整理ができる(※15)。すなわち、法22条2項が「別段の定めがあるものを除き、・・・資本等取引以外のものに係る・・・収益の額」としていることから、用語の前後関係から22条2項に列挙する「取引」とは関係なく、別段の定めである法37条が適用されるからである。 (※15) 岡村、高橋、田中・前掲(※4)274~275頁。「益金を発生させなければならない点で、寄附金規定は益金に関する法22条2項に対する別段の定めでもある。・・・この益金は、別段の定めによるものであるから、同条同項に規定する「収益」である必要はない。したがって、有利発行による持分の減少が、同条同項に規定する「取引」に基づく必要はない」として、本稿と同様の検討を行っている。本件のように、関連者間の「持分の移転」に課税する場合、「経済的利益の無償の供与」に課税する、と説明する方が理解しやすい。さらに、本件で問題となっている実現原則の制約も緩和されよう。 ここで重要なのは、法37条が「経済的利益の無償の供与」をした場合と規定しており、「持分の移転」は、この「経済的利益の無償の供与」という広い概念に含まれると解されることである。一方、法22条2項の無償による「資産の譲渡」や「役務の提供」では、持分の移転を「資産」と解すれば、実現原則の制約を受け、「役務提供」と解する場合にも、具体的な課税額の算定においては、時価と払込金額の差額とすることから、それが役務提供の対価といえるのか疑問である。さらに、資産でも役務でもなく「その他の取引」と解釈してみても、一般的な法令用語の意味内容に沿って考えれば、やはり違和感がある。というのも、法22条2項にいう「その他の取引」とは、先に例示した項目(資産の販売、資産の譲渡、役務の提供、資産の譲受け)を包含する、より広い概念と解されてはいるが、異質なものまで含めてよいとは解されない。この「取引」が、法的取引に限定されると考えるのであれば、私法上の取引の当事者ではない既存株主との合意は取引とはいえず(※16)、一方、より広く簿記上の取引と解した場合においても、「既存株主が有利発行により収益の発生を記帳することは通常あり得ないので、取引には該当しない」と解される(※17)。 (※16) 「仮にX社・B社間の取引を想定するとしたら・・・そのような構成は、法22条2項が列挙している取引類型とは異質のものである。・・・その意味で、本件判決の「取引」という用語の解釈は一種の拡大解釈であると考える」(金子・前掲(※10)24頁) (※17) 岡村、高橋、田中・前掲(※4)277頁。なお、法22条2項の「取引」について立法時の資料を確認すると、「なお、取引は簿記上の取引を指すものと解されます」と簡単にではあるが説明がなされている。-『昭和40年 改正税法のすべて』(大蔵財務協会)102頁。さらに、同103頁では、「実現」という用語が主として企業会計の用語であることから、同項においては、あえて「実現」という用語の使用を避けた点を説明している。この点を踏まえると、益金の計上に際しては、必ずしも実現原則による縛りを受けるわけではない、と解すべき余地も残されているのではないか。 このように考えれば、本件のような「資産」でも「役務」でも「取引」でもない、「持分」の移転については、法22条2項が適用されると解するのではなく、法37条(あるいは、経済的利益の無償の供与)によって課税する、とすることで明快な整理ができる。但し、法37条を益金の別段の定めと解すること、法22条2項の無償取引の範囲を広げる解釈となる点には批判があろう。 そもそも、一般的な用語の意味内容に従えば「収益」という用語は、経済的利益の流入を伴うものである。にもかかわらず、本法上に定義規定を設けることなく、法22条2項に規定する「収益の額」には、本件のような持分の移転(換言すれば、経済的利益の流出)も含まれると解する。このような、まったく異質なもの(経済的利益の「流入」と「流出」)を同様に規定することは、好ましくないのではないか。「流出した利益」に対する課税は、関連当事者間の取引を射程とする。第三者間の取引には適用されない。その意味では、損益法による課税所得算定の基本規定の中に、関連者間に特有の規定を含めることが原因であり、同項における「収益の額」は利益の流入のみとし、一方で関連当事者間においては、恣意的な利益移転を防止する必要があることから、別途「流出した利益」を益金とする「別段の定め」を設けるべきではなかったか。 金子は、本件判示について、法22条2項の「取引」の解釈に「異質な」取引類型を含めることを批判しているが、同項において根本的に異なるもの(「第三者間取引」と「関連者間取引」)を規定している点については、これを適正所得算出のためと解し(※18)、通説化している。 (※18) 金子宏「無償取引と法人税-法人税法22条2項を中心として-」『所得課税の法と政策』有斐閣(平8)345頁。 12 終わりに わが国の法人税法においては「持分の移転」を補足する規定が整備されていない。本件についても、法人と株主という関係性に沿って取引を整理できれば、法22条2項の解釈問題とすることもなかったであろう。岡村は「この取引は、持分を移転させる取引であるため、株主法人間取引としての課税が行われるべきである」と述べる。金子も、本件は「損益取引には当たらないのではなかろうか(※19)」と述べている。 (※19) 金子・前掲(※10)24頁。 法人・株主間取引とするのであれば、親会社から子会社への持分の移転は「出資」、子会社から親会社への持分の移転は「分配」として、整理すべきことになる(※20)。 (※20) 岡村は「有利発行が、出資であると同時に、分配としての要素を持つこと」を指摘する(岡村・前掲(※1)322頁)。本件において、これを当てはめれば、時価と払込価額の差額については、A社からB社への分配となる。 しかしながら、わが国では、昭和40年改正以降、法人・株主間の取引が、法37条と法22条2項の組合せにより、損益取引として課税されてきた(※21)。 (※21) この点につき、岡村は「日本の法人税法では、配当の概念が旧商法に依存しており、出資だけでなく配当についても、資本等取引の範囲が狭いこと、また、贈与としての課税(寄附金課税)が非正常取引全般を支配してきたことを指摘できる」と述べている(岡村・前掲(※1)323頁)。このような指摘は、「移転した利益」を、出資・分配として「資本等取引」と構成するか、あるいは、法37条と法22条2項の組合せにより「損益取引」として課税するかは、表裏の関係にあることを示唆している。 現行法人税の法体系が整備されて、実に60年を経過しているが、関連当事者間の租税回避的な利益移転について、資本等取引とする整理は、ほぼ行われてこなかったと思われる。このような状況を踏まえると、今後も法22条2項の解釈で解決をはかるのではなく、法人株主間取引に対する別段の定めを設けるなど、立法措置が必要であろう(※22)。 (※22) 平成22年度改正で導入されたグループ法人税制における完全支配関係グループ間の寄附金処理(法37条2項)に伴う受贈益の益金不算入(法25条の2)とその後の寄附修正(法令9条1項7 号)の取扱いは、法37条と法22条2項の組合せで対応してきたわが国なりの法人株主間取引に対する規定の整備の第一歩といえよう。 (了)
有価証券報告書における作成実務のポイント 【第18回】 史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋 今回は、有価証券報告書のうち、特例財務諸表提出会社の附属明細表等の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。 1 附属明細表 附属明細表として、上場会社の連結財務諸表作成会社(別記事業を営む会社は除く)の場合、「有形固定資産等明細表」、「引当金明細表」を記載する。 (1) 有形固定資産等明細表 (2) 引当金明細表 【事例:(株)And Doホールディングス 2025年6月期の有価証券報告書】 2 主な資産及び負債の内容 連結財務諸表を作成している場合、主な資産及び負債の内容は記載を省略することができる。この場合、項目ごと省略することはできないため、記載を省略している旨を記載する。 3 その他 その他の事項として、以下を記載する。 (了)
税理士事務所の労務管理Q&A 【第29回】 「休職者の退職理由」 特定社会保険労務士 佐竹 康男 うつ病などメンタル不調により休職が長期にわたる場合があります。休職期間満了後も復帰できずに退職に至ったときに、退職理由が休職期間満了による自然退職になるのか、会社都合による退職になるのか、しばしば問題になることがあります。 今回は休職者の退職理由について解説します。 * * 解 説 * * 休職者の退職理由がどのようになるのかは、 就業規則の規定によります。 1 就業規則の規定内容の確認 (1) 休職期間満了による退職になる場合 私傷病により就労できなくなった場合、就業規則で、一定期間の休職制度が設けられていることが多いと思いますが、就業規則に「休職期間満了までに復職できない場合は、自然退職とする」と規定されていれば、退職理由は休職期間満了による自然退職になります。 〈就業規則(例)〉 (2) 会社都合による退職になる場合 就業規則の解雇に関する規定に、「休職期間満了後も復帰できないとき」と記載されている場合は「解雇」扱いになる可能性が高いため、会社都合退職となります。 〈就業規則(例)〉 2 雇用保険の手続き 退職理由は、雇用保険の失業給付の内容に影響を与えます。 会社都合の場合は、助成金の受給について制限を受ける可能性もあるため、就業規則に自然退職の規定を設けておくことが大切です。 (1) 自然退職の場合 離職票上の離職理由は「休職期間満了」になります。 この場合、給付制限(1ヶ月から3ヶ月)無しで、失業給付を受けることができます。 手続きは、就業規則の自然退職の規定が記載されている箇所の写しと休職期間満了通知書(後述3の②を参照)の写しを被保険者資格喪失手続き時に添付します。 (2) 会社都合(解雇)の場合 離職票上の離職理由は、会社都合(休職期間満了)になります。 この場合、離職者は特定受給資格者に該当する可能性が高く、給付制限(1ヶ月から3ヶ月)無しで失業給付を受けることができ、かつ給付日数について優遇されます。 手続きは、就業規則の普通解雇の規定が記載されている箇所の写しと解雇通知書の写しを被保険者資格喪失手続き時に添付します。 3 休職者への通知 退職理由によるトラブルを防止するために、休職に関する通知を発しておくことが大切です。下記通知例を参考にしてください。 ① 休職通知書 ② 休職期間満了通知書 (了)
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第11回】 「経営悪化に伴うアルバイトの雇止め」 〈流通・小売業・卸売業〔Q6〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 織田 康嗣 【Q】 当店では、多くのアルバイトを雇用しています。近隣に競合店舗ができたため、売り上げが急速に悪化しました。アルバイトの一部の契約を更新しないか、直ちに打ち切りたいと考えていますが、留意すべき点はありますか。 【A】 契約を更新しない場合には、労働契約法19条1号及び2号の適用を検討したうえで、整理解雇の4要素(人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性、手続きの相当性)を充足する必要があります。その一方で、契約期間途中に直ちに契約を打ち切るには、「やむを得ない事由」(労働契約法17条1項)の充足が必要であり、極めてハードルが高いです。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 雇止め法理 契約期間を1年として労働契約を締結しているなど、有期雇用契約を締結している場合、同契約を更新せず終了させることを雇止めという。 雇止めに関しては、雇止め法理(労働契約法19条)の適用があり、①有期労働契約が反復して更新されたことにより、雇止めをすることが解雇と社会通念上同視できると認められる場合であるか(同条1号)、または、労働者が有期労働契約の契約期間の満了時にその有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由が認められるか否か(同条2号)、②使用者が当該申込みを拒絶すること(雇止め)が客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められるか否か、という2段階の審査が行われる。なお、雇止め法理の適用を主張するには、労働者が契約期間の満了までに更新の申込みをしたか、または契約期間の満了後遅滞なく締結の申込みをすることが必要である。 2 整理解雇的雇止め 上記の雇止め法理の第1段階の審査(上記①)において、労働契約法19条1号または2号に該当するとしてクリアした場合、適法に雇止めをするためには、客観的合理的理由と社会通念上の相当性の要件という第二段階の審査に移ることになる。 この点、使用者の経営上の理由に基づく解雇においては、整理解雇の4要素(人員削減の必要性、解雇回避努力、被解雇者選定の合理性、手続きの相当性)の充足が求められるが、使用者の経営上の理由により、雇止めがなされる場合であっても、上記4要素に準じた検討が求められる。 ただし、柔軟な雇用調整を期待して有期雇用労働者を採用し、一方、有期雇用労働者の側においても、こうした雇用形態を選択した以上、柔軟な雇用調整の対象となりうることを認識して労働契約を締結したといえる。したがって正社員に対する整理解雇と同程度の理由までは求められず、長期雇用が期待される正社員との間に雇用保障に関して合理的差異が生ずることはやむを得ないとされる。 日立メディコ事件(最判昭和61・12・4労判486号6頁)においても、常用的臨時工の雇止めについて、臨時工は比較的簡易な採用手続で雇用されるため、雇止めの判断基準は、期間の定めのない労働契約を締結している本工の解雇とは「自ずから合理的な差異がある」と述べた上、臨時工の雇止めに先立つ本工の希望退職募集を不要と解し、また本工の希望退職者募集に先立ち臨時工の雇止めが行われてもやむを得ないと判断している。 このように、正社員と同一のハードルが求められるわけではないが、整理解雇の4要素に即した整理は当然必要である。雇止めを行う場合においては、経営悪化や組織上の理由など、人員削減の必要性が認められなければならず、雇止め回避のために措置を講じたのか否か、雇止め対象となっている従業員の人選の合理性、従業員に対する説明、協議を尽くしたのかが問題とされる。 特に、雇用契約を多数更新し、更新手続も形骸化するなどして、実質的に期間の定めのない雇用契約と同視できる場合には注意が必要である(労働契約法19条1号)。裁判例においても、期間1年または3か月の雇用契約を約17回更新し、被告Y社の恒常的・基幹的業務である電話番号案内業務(104業務)に従事してきたパートタイム社員に対する雇止めは、期間の定めのない雇用契約における解雇と社会通念上同視できると認めるのが相当としたうえで、実質的な整理解雇があったと認め、人員削減の必要性の点において客観的に合理的な理由あるいは社会通念上の相当性の要件充足性の程度が弱く、これを補完するに足りる程度の手厚い雇止め回避努力がされたとはいえず、人選の合理性、手続きの相当性も不十分であった等として、雇止めを不適法とした事例がある(エヌ・ティ・ティ・ソルコ事件・横浜地判平成27・10・15労判1126号5頁)。 3 期間途中の解雇 上記のような契約更新時の更新拒絶ではなく、有期雇用労働者を契約期間途中に解雇するためには、「やむを得ない事由」の充足が必要となる(労働契約法17条1項)。これは、契約期間満了を待つことなく直ちに解雇しなければならないほどの事由が求められ、正社員の解雇よりも厳格な判断が求められる。 近時、新型コロナウイルス感染症の拡大により、大幅に売上が減少した飲食店等も少なくない。もっとも、当時は、雇用調整助成金の受給要件が緩和されるなどして、こうした助成金の支給を受けることで、一定の雇用維持も可能な状況にあった。こうした場合には、「やむを得ない事由」があったと認定するハードルが高く、期間途中の解雇に踏み切ることは大きなリスクが残ることになる。 4 小売業における整理解雇的雇止め 小売業の事業者における売上が減少するなどして、資金繰りの観点から、人員整理に踏み切らざるを得ない場面が想定される。 (1) 雇止め以外の措置の検討 正社員とは一定の区別がなされるにしても、雇止めを行うには、上記整理解雇の要素を充足する必要があり、個別具体的な判断が求められる。上記のように、感染症拡大の場面において、国から助成金が拡充されている状況においては、助成金の受給によって、雇用継続できないか、雇止め回避努力の観点から検討が必要となる。 経営悪化の状況が深刻であり、雇止めに踏み切らざるを得ない場合であっても、まずは退職勧奨を行い、合意退職の余地がないか検討するべきである。また、従前の契約期間での更新が難しいとしても、短期間での更新を行い、当該契約が最終である旨の合意(不更新特約付きの合意)をすることも考えられる。もっとも、この場合には、本来従前と同様の契約期間で更新し得たところを短期間の契約期間での合意を求められるという状況から、その同意が労働者の自由意思に基づいた合意であることが求められる(本田技研工業事件・東京高判平成24・9・20労経速2162号3頁)。 (2) 雇止めの検討を行う場合 やむなく雇止めの検討を行う場合であっても、まずは雇止め法理の第1段階の要件を充足するか否かを確認するべきである。 整理解雇的な場面ではないが、小売業(飲食店)における雇止め事案において、第1段階の審査を経たうえで、雇止めが適法と判断された事例を紹介する。 〇東京地判令和6・12・5判例秘書L07932247 カフェチェーン店で13回にわたって契約が更新された結果、契約期間が4年7か月に及んだ労働者の雇止めが争われた事件である。なお、契約更新の合理的期待の程度はさほど高くないと認定されているが、仮に期待が認められるとしても、当該労働者の勤務成績や勤務態度は不良であったこと等から、雇止めは適法と判断している。 雇止めを行う場合には、労働契約法19条1号及び2号の適用についても入念に検討をするべきである。 (了)
《速報解説》 「賃上げ促進税制」の廃止を含む見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 税理士法人ファシオ・コンサルティング 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 令和7年12月19日、与党(自由民主党および日本維新の会)より令和8年度税制改正大綱が公表され、いわゆる「賃上げ促進税制」(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除、措法42の12の5)の見直しが盛り込まれた。本税制は、わが国が長期にわたり直面してきたデフレから脱却すべく、賃上げを契機とした経済成長を促すための措置として平成25(2013)年度より講じられていたものであるが、近年の「賃上げ」をめぐる状況の変化等をふまえ、廃止を含む見直しが行われることとなった。 本稿では、こうした「賃上げ」をめぐる状況変化等を概観しつつ、改正内容について整理することとしたい。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であって、所属するいかなる組織・団体の公式見解ではないことをあらかじめ申し添える。 2 「賃上げ」をめぐる現状 厚生労働省より公表されている「令和7(2025)年賃金引き上げ等の実態に関する調査の概況」によれば、(賃上げ促進税制が創設された翌年の)平成26(2014)年調査における1人平均賃金の改定率は1.8%であり、以降令和元(2019)年調査までは毎年2.0%ほどの緩やかな上昇・横ばい傾向が続いていた。コロナ禍の令和2(2020)年および令和3(2021)年調査では改定率が減少したが、令和4(2022)年調査以降は増加に転じている。 特に、令和5(2023)年調査以降の改定率は著しく増加していることがわかる。最新の令和7(2025)年調査における改定率は4.4%に達しており、本税制の適用要件となる水準(3%以上)を大きく上回る状況にある。 とはいえ、持続的な賃上げを実施できるかどうかについては不安定さも残るところである。東京商工リサーチが令和7(2025)年2月20日に公表した「2025年2月「賃上げ」に関するアンケート調査」によれば、2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%に達するものの、持続的な賃上げの見通しが立っていない企業は34.6%にのぼることが明らかとなった。また、2025年度に賃上げを実施すると回答した企業に対して、その理由を問うたところ、最も多かったのが「従業員の離職防止」(中小企業77.5%、大企業84.56%、全企業78.06%)であった。すなわち、高水準な賃上げ実施の背景には、近時の物価上昇への対応のみならず、「従業員の離職防止」といった防衛的な要素が大きく作用しており、もはや減税メリットが賃上げのインセンティブとして機能していないのではないかと考えられる。 3 コーポレートガバナンス改革 金融庁が2025年6月30日に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」によれば、企業の「稼ぐ力」の向上に資するコーポレートガバナンス改革を推進することが重要であるとしたうえで、持続的な成長の実現に向けた経営資源の最適な配分の実現のため、人的資本への投資促進も要請されているところである。 このように、コーポレートガバナンス改革の観点からも賃上げが要請されていることからすれば、賃上げ促進税制の存在意義が相対的に低下しているといえよう。 4 教育訓練費に係る上乗せ控除措置に関する会計検査院指摘 会計検査院が令和7年1月15日に公表した「租税特別措置(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除制度)における教育訓練費に係る上乗せ税額控除の適用状況、検証状況等について」によれば、平成30事業年度から令和3事業年度までの3事業年度にわたり、教育訓練費にかかる上乗せ税額控除適用法人の数は延べ12,861法人、その税額控除額は313億3,381万余円となっていた。 この上乗せ税額控除措置は、その適用要件となっている事項と税額控除額の計算基礎となっている事項が異なる仕組みとなっており、税額控除額が教育訓練費増加額を上回る額の税負担を軽減している状況が見受けられたこと等を踏まえ、経済産業省等において教育訓練費にかかる上乗せ税額控除を見直す場合には、特別措置の効果を検証することができる分析等を基に要望することが適切であるとの指摘がなされた。 5 令和8年度税制改正の概要 以上のような現況認識を踏まえ、賃上げ促進税制については令和8年度の税制改正によって以下のように改正される。 (1) 全法人向けの措置(措法42の12の5①) 適用期限(令和9年3月31日)の到来を待たず、令和8年3月31日をもって廃止する。 ⇒ 令和8年4月1日以後開始事業年度からは本税制の適用はないということである。 (2) 中堅企業(特定法人)向けの措置(措法42の12の5②) 物価を上回る安定的な賃上げに向け、適切なインセンティブ機能を発揮する観点から、要件を見直しつつ、適用期限(令和9年3月31日)の到来をもって廃止する。 また、令和8年4月1日から令和9年3月31日までの間に開始する事業年度について、適用要件等について下表のとおり見直される。 なお、厚生労働省の認定制度(プラチナくるみん認定、プラチナえるぼし認定等)の適用を受けた場合の上乗せ税額控除については維持される。 (3) 中小企業者等向けの措置(措法42の12の5③) 人材獲得競争の中で防衛的賃上げに取り組む企業にも配慮し、令和8年度は現行制度を維持することとされるが、教育訓練費の額の増加に応じた上乗せ税額控除は廃止される(下表参照)ほか、令和9年3月31日の期限到来時において、適用状況等を踏まえ、必要な見直しを検討することとされた。 (了)
令和7年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和7年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。 - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。
《速報解説》 環境性能割の廃止等含む自動車関係諸税の見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 公認会計士・税理士 菊地 弘 令和7年12月19日(金)、与党(自由民主党及び日本維新の会)が「令和8年度税制改正大綱」(与党大綱)を公表した。 大綱に示された自動車関係諸税についての主な改正事項等は、次のとおりである。 1 自動車重量税(国税) 「自動車重量税のエコカー減税」(排出ガス性能及び燃費性能の優れた環境負荷の小さい自動車に係る自動車重量税の免税等の特例措置)について、次の見直しを行った上、その適用期限が2年延長される。 (1) 乗用自動車 ① 燃費性能に関する要件の見直し ② 新車に係る新規検査の際に納付すべき自動車重量税の軽減 (2) トラック(車両総重量が2.5t以下の揮発油自動車に限る) 平成30年排出ガス規制に適合し、かつ、平成30年排出ガス基準値より50%以上窒素酸化物の排出量が少ない自動車に係る燃費性能に関する要件を次のとおりとする。 (3) トラック(車両総重量が2.5tを超え3.5t以下の揮発油自動車及び軽油自動車に限る) 揮発油自動車のうち、平成30年排出ガス規制に適合し、かつ、平成30年排出ガス基準値より50%以上窒素酸化物の排出量が少ないもの及び軽油自動車のうち平成30年排出ガス規制に適合するものについての自動車に係る燃費性能に関する要件を次のとおりとする。 (4) バス・トラック(車両総重量が3.5tを超えるものに限る) 2 自動車税環境性能割等(地方税) (1) 自動車税環境性能割等の廃止 自動車税環境性能割、軽自動車税環境性能割が、令和8年3月31日をもって廃止される。 これに伴い、現行の自動車税種別割を自動車税とし、現行の軽自動車税種別割を軽自動車税とするなど所要の措置を講ずる。 (2) 「グリーン化特例」の適用期限延長等 「グリーン化特例」(自動車税及び軽自動車税において講じている燃費性能等の優れた自動車の税率を軽減し、一定年数を経過した自動車の税率を重くする特例措置)について、適用期限が2年延長される。 「グリーン化特例」について、次の措置を講ずる。 (3) 軽油取引税の当分の間税率の廃止(都道府県税) 軽油取引税の当分の間税率(注)を令和8年4月1日に廃止するほか、所要の措置を講ずる。 (注) 地方税法附則による当分の間税率(1キロリットルにつき、32,100円)。〔参考:本則税率は1キロリットルにつき、15,000円〕 (了)
《速報解説》 事業承継税制の見直し(相続税・贈与税) ~令和8年度税制改正大綱~ 太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子 令和7年12月19日に公表された「令和8年度税制改正大綱」において、中小企業等の経営者の円滑な世代交代を通じた生産性の向上・成長を支援する観点から、事業承継税制の特例措置(贈与税・相続税ともに100%納税猶予)に係る承継計画の提出期限が延長された。 この制度に係る承継期限の延長は予定されていないため、実施スケジュールを含めた計画の策定に早期に取り組む方が望ましい。 措置の適用期限到来後の制度については、世代交代の停滞や地域経済の成長への影響に係る懸念に加えて、本措置の適用状況や課税の公平性の観点を踏まえて多角的に検討するとされている。 (了)
《速報解説》 分離課税の導入含めた暗号資産取引等に係る課税の見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 弁護士 下尾 裕 令和7年12月19日に与党(自由民主党・日本維新の会)から公表された令和8年度税制改正大綱においては、暗号資産取引等に関する課税の見直しが盛り込まれている。 これらの改正は、現在、議論が進んでいる暗号資産に関する金融規制の見直し、具体的には、現在、資金決済法において規制されている暗号資産が新たに金融商品取引法において規制されることになることを前提としている。 1 所得課税 所得課税において一番大きな改正は、暗号資産を新たに規制対象とする金融商品取引法(改正金融商品取引法)の下、暗号資産取引業(仮称)を行う者に対して、金融商品取引業者登録簿に登録されている暗号資産(特定暗号資産)を譲渡等した場合について、税率20%(所得税15%、個人住民税5%)による申告分離課税の対象とされた点である。 また、税制改正大綱の文言からは、税制改正以降における暗号資産の譲渡による所得は雑所得ではなく、原則として、譲渡所得として整理されることが読み取れる。 主な改正の内容は以下のとおりである(令和8年度税制改正大綱52~53頁)。 2 消費課税 現行の消費税法においては、暗号資産の譲渡は支払手段に類するものとして非課税である一方、暗号資産の貸付けは課税取引になっている。 これに対し、令和8年度税制改正においては、改正金融商品取引法の施行を前提に、暗号資産の譲渡を有価証券に類するものとして引き続き非課税とするとともに、暗号資産の貸付けについても、新たに非課税となる(令和8年度税制改正大綱130頁)。 また、消費税の課税売上割合の計算上、暗号資産の譲渡については、その譲渡に係る対価の額の5%相当額を資産の譲渡等の対価の額に算入するとされている。 これらの改正は、上記適用開始日以降に行われる取引について適用される。 3 まとめ 今回の改正は、従前から自由民主党デジタル社会推進本部Web3プロジェクトチームの「ホワイトペーパー2024」等において提言がなされ、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)や日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)等の業界団体からの税制改正要望が出ていた暗号資産に係る申告分離課税等について、対象を「特定暗号資産」に限定しつつ結実した内容になっている。これにより、個人の暗号資産税制は一歩前進したこととなる。 また、上記改正のうち、一般株式等における申告分離課税の対象に、「特定暗号資産を投資の対象とする投資信託の受益権」を追加したのは、特定暗号資産に係る暗号資産ETFの課税関係を同様に申告分離課税の対象とすることで、現物である暗号資産との課税関係の均衡を維持しようとしたものと理解される。 一方、具体的にどの暗号資産が申告分離課税の対象となる「特定暗号資産」となるのか、暗号資産の「譲渡」以外の取引に関する税務上の取扱い等、税制改正大綱からは読み取れない部分も多く、今後の議論を注視する必要がある。 (了)
《速報解説》 青色申告特別控除の見直し ~令和8年度税制改正大綱~ 税理士 油谷 景子 令和7年12月19日(金)に公表された「令和8年度税制改正大綱」(与党大綱)において令和9年分以後の所得税に係る青色申告特別控除の見直しが明記された。 以下、本稿ではその見直し内容について解説を行う。 1 改正内容 改正案では、青色申告特別控除は、次の区分に従ってそれぞれ次の控除額とされる。 55万円の青色申告特別控除について、その年分の所得税の確定申告書、貸借対照表及び損益計算書等の提出を、提出期限までに e-Taxを使用して行うことが要件とされ、控除額が「65万円」に引き上げられる。 上記に加えて、その年分の事業に係る仕訳帳及び総勘定元帳について、電子計算機を使用して作成する国税帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律(「電子帳簿保存法」)に定めるところにより電磁的記録の保存等を行っていること(次のいずれかに限る)の要件を満たす場合には、控除額が「75万円」に引き上げられる。 (注1) 「特定電子計算機処理システム」とは、国税庁長官の定める基準に適合する電子計算機処理システムをいう。 (注2) 「特定電磁的記録」とは、次の電磁的記録をいう。 ① 保存要件に従って保存が行われている電子取引の取引情報に係る電磁的記録 ② 災害その他やむを得ない事情により、保存要件に従って電子取引の取引情報に係る電磁的記録の保存をすることができなかったことを証明した場合又は納税地等の所轄税務署長が保存要件に従ってその電磁的記録の保存をすることができなかったことについて相当の理由があると認めた一定の場合に、保存要件にかかわらず保存が行われているその電磁的記録 また、青色申告の承認を受け、簡易方式又は現金主義により取引の記録を行っている個人に対する「10万円の青色申告特別控除」は、所得要件が追加され、事業所得又は不動産所得に係る前々年の収入が1,000万円を超える納税者は対象から除かれる。この場合の所得判定は、前々年の収入、、、、、、で行うことに留意する。 2 改正前と改正後の比較と影響 改正前後を比較すると、次のとおりである。 65万円控除を受けるためには、提出期限までにe-Taxによる申告が必須となる。したがって、e-Taxを使用せず書面申告を行う場合には、令和8年分の所得税までは55万円の控除であるが、令和9年分以後の所得税においては、「10万円」の控除となる。 また、事業所得又は不動産所得に係る前々年の収入が1,000万円超の場合は、簡易簿記による「10万円控除」の対象外とされる。 なお、優良な電子帳簿等を行う場合には、「75万円」の控除が可能となる。 本改正は、①より一層の電子申告の促進、②帳簿の電子化の推進、③一定規模以上の所得者に対して簡易簿記から「複式簿記」へ移行を促す趣旨があると考えられる。 なお、本改正は、令和9年分以後の所得税から適用が予定される。 (了)