検索結果

詳細検索絞り込み

ジャンル

公開日

  • #
  • #

筆者

並び順

検索範囲

検索結果の表示

検索結果 10361 件 / 21 ~ 30 件目を表示

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第49回】「事業所得と給与所得の区分と契約「解釈(創造)」による否認論」-りんご生産組合事件・最判平成13年7月13日訟月48巻7号1831頁の意義-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第49回】 「事業所得と給与所得の区分と契約「解釈(創造)」による否認論」 -りんご生産組合事件・最判平成13年7月13日訟月48巻7号1831頁の意義-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、所得税法上の事業所得(27条1項)と給与所得(28条1項)の区分が直接の争点となったりんご生産組合事件を取り上げ、国税不服審判所平成8年9月25日裁決・裁決事例集52集56頁(以下「平成8年裁決」という)、盛岡地判平成11年4月16日判タ1026号157頁(以下「平成11年盛岡地判」という)、仙台高判平成11年10月27日訟月46巻9号3700頁(以下「平成11年仙台高判」という)及び最判平成13年7月13日訟月48巻7号1831頁(以下「平成13年最判」という)の各判断の整理ないし比較検討を通じて、特に「組合課税構造の特殊性」(以下でこの概念を用いる場合それは高橋祐介「判批」税法学548号(2002年)111頁、116頁からの引用であることをお断りしておく)の捉え方に着目しながら、平成13年最判の意義を明らかにすることにする。その際には本件の事実関係が重要な意味をもつと考えられるので、以下ではまず本件の事案の概要を比較的詳しく述べておくことにする。 本件組合は、りんご生産等を行うことを目的として昭和51年に設立された民法上の組合であり、設立当初から、組合員又はその家族が出資口数に従ってりんご生産作業に出役する責任出役義務制を採用し、出役に対して対価を支払うことはなく出役の過不足は現金で精算することによって調整していたが、その後、りんごの木が成木になるにつれて出資1口当たりの必要出役日数が増え、これに伴い出役不足日数が増加する等の不都合が生じてきたため、雇用労力を用いる方が合理的であることが認識されるようになり、昭和59年の組合総会において、責任出役義務制を廃止し、りんご生産作業は管理者、専従者及び一般作業員が行い、これらの者の労賃は組合が負担する旨の決定がされた。 管理者は、りんご栽培の経験が比較的豊富である者から選任され、りんご生産作業につき様々な熟練を要する判断を行いその実施を専従者や一般作業員に指示する立場にあったのに対して、専従者は、管理者と一般作業員との間にあって管理者の指示を受けながら管理者を補助する立場にあったものの、その作業内容は、基本的には一般作業員のそれと変わるところはなかった。一般作業員は管理者が必要に応じて主として本件組合の組合員以外の近隣の農家の者から手配しており、本件組合の組合員が一般作業員として雇われる例はごく少なかった。 本件組合におけるりんご生産作業については、日給制を基本として労賃の支払が月単位でされることになっていたが、日給の金額については管理者が、組合全体の所得とは関係なく、農業委員会が示す作業単価を基礎とし作業内容・量、経験年数等を考慮して定額で決定した上で組合長の承認を得ていた。労賃の会計処理については、責任出役義務制の廃止後は、管理者及び専従者の労賃も、一般作業員の労賃と併せ一括して労務費として本件組合の経費に計上されていた。本件組合の収支決算は毎年1回行われることとされていたが、利益について現金配当がされたのは平成3年度だけで、その額は1口当たり6万円であり、その余の毎年の利益は、農機具購入の準備資金や組合の翌年度のりんご園地の管理運営費等に充当されていた。 X(請求人・原告・被控訴人・上告人)は本件組合の設立当初からの組合員であったが、昭和59年の組合総会における上記決定以降は一般作業員として労務に従事し本件組合から労賃の支払を受けていたところ、平成元年の組合総会において、昭和59年の組合総会以降専従者として選任されてきた組合員Mと共に専従者に選任され労賃も増額され、それ以降、毎年の組合総会で専従者に選任されてきた。 Xは、平成3年分、平成4年分及び平成5年分の確定申告に係る事業所得及び不動産所得に、本件組合から上記3ヶ年につき労務費として支払を受けた金額(以下「本件収入」という)を給与所得に係る収入として加算し、修正申告(再修正申告)をしたところ、Y税務署長(原処分庁・被告・控訴人・被上告人)は、本件収入がXによる本件組合に対する労務出資の対価として事業所得に該当すると判断して更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という)を行ったので、Xは本件各処分の取消しを求めて審査請求を経て訴えを提起した。 本件においては平成8年裁決から平成13年最判に至るまで原判断が次々と覆されるという極めて興味深い展開がみられたが、次のⅡでは、国税不服審判所及び各審級裁判所の判断をみておくことにする。   Ⅱ 各判断の概観 1 平成8年裁決 平成8年裁決は、まず、所得税法上の事業所得と給与所得の区分について次のとおり一般論を説示した。 この一般論に照らして本件について検討した結果、「請求人とMは、組合員として組合財産に責任ある立場から作業に従事しているものであり、作業の成否は、分配金の多寡という形で、組合員である請求人の所得計算に直接はねかえることを考慮するなら、まさに自己の計算と危険において組合業務に従事しているものというべきである。」(下線筆者)と説示して本件収入の事業所得該当性を認め、本件各処分を適法として審査請求を棄却した。 2 平成11年盛岡地判 これに対して、平成11年盛岡地判は次のとおり判示し(下線筆者)、本件収入が給与所得に該当するとして、Xの請求を認容し本件各処分を取り消した。 なお、この判示中で参照されているのは弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁(以下「昭和56年最判」という)であるが、これが事業所得と給与所得の区分に関して示した「判断の一応の基準」は次のとおりである。 3 平成11年仙台高判 これに対して、平成11年仙台高判は次のとおり説示し(下線筆者)、本件収入が事業所得に該当するとして、平成11年盛岡地判を取り消し本件各処分を適法とした。 4 平成13年最判 これに対して、平成13年最判は次のとおり、まず、所得税法上の事業所得と給与所得の区分について一般論を説示し(【ⓐ】。下線筆者)、その上で、本件収入が給与所得に該当すると判示して(【ⓑ】)、平成11年仙台高判を職権で破棄し平成11年盛岡地判を正当と認め控訴棄却の自判をした。   Ⅲ 平成13年最判の意義-契約「解釈(創造)」による否認の阻止- 1 各判断の整理 以上の各判断は、結論の点では、事業所得該当性を肯定する判断(以下「事業所得該当判断」という)と給与所得該当性を肯定する判断(以下「給与所得該当判断」という)とに大別されるが、それぞれの判断理由で用いられた基準は、事業所得と給与所得の区分に関して昭和56年最判が判示した「判断の一応の基準」に準拠したもの(以下「昭和56年最判基準」という)と、民法上の組合の法律関係を基準とするもの(以下「組合法律関係基準」という)とに大別することができる。これらの区別を前提にすると、前記の各判断はその内容を以下のように整理することができるように思われる。 平成8年裁決は、昭和56年最判基準と組合法律関係基準の併用によって事業所得該当判断を示したものと解される。すなわち、昭和56年最判を明示的には参照していないものの、昭和56年最判基準のうち「自己の計算と危険」という事業所得の要素を組合法律関係基準のうち「組合財産に責任ある立場」や「分配金の多寡」と結びつけることによって、事業所得該当判断を示したものと解されるのである。 平成11年盛岡地判は、昭和56年最判基準を用いて給与所得該当判断を示したものと解される。すなわち、昭和56年最判を明示的に参照しながら、「自己の計算と危険」という事業所得の要素を否認した上で、管理者の「指示」や時間的な「拘束」等の給与所得の要素を認めることによって、給与所得該当判断を示したものと解されるのである。 平成11年仙台高判は、専ら組合法律関係基準を用いて事業所得該当判断を示したものと解される。すなわち、民法上の組合の法律関係から「組合の法的構造」を導き出し、これに照らして本件収入の性質を決定することによって、事業所得該当判断を示したものと解されるのである。 平成13年最判は、実質的には昭和56年最判基準を用いて給与所得該当判断を示したものと解される。すなわち、確かに、昭和56年最判を明示的には参照しておらず、しかも事業所得と給与所得の区分に関する一般論(前掲判示【ⓐ】の下線部)は組合法律関係基準をも考慮するものであるかのようにも読めるが、しかし、本件に関する次の判示(下線筆者)からすると、実質的には昭和56年最判基準を用いて判断したものと解されるのである(高橋・前掲「判批」114頁も「黙示的に従来の判例の立場を踏襲していると考えられる」とする)。 2 平成11年仙台高判と契約「解釈(創造)」による否認論 前記の各判断を以上のように整理してみると、その中で異彩を放っているのは平成11年仙台高判である。これは、昭和56年最判基準を考慮することなく、専ら民法上の「組合の法的構造」 に照らして組合法律関係基準に基づき本件収入の所得区分につき次のとおり判示し(下線筆者)、事業所得該当判断を示した。 上記の判示では、本件収入の「実質」を「組合員の総意に基づき定められた組合所得に関する損益分配の合意に従った組合の事業所得の分配」と解しているが、問題は、本件組合契約について、「組合員の総意に基づき定められた組合所得に関する損益分配の合意」があったと認めることができるかどうかという点にあると考えられる。 この点について、平成11年仙台高判は、前記の判示にいう平成元年の組合総会の決議に基づきXに対する日給を6000円とする「承認」をもって、「被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意」と評価できる旨の判断を示しているが、この判断では、「組合において労務出資を認めるためには、当該労務出資又はその評価の標準を合意しなければならないところ、本件組合においてはそのような合意が存在しない」という控訴審におけるXの主張を、十分に説得力をもって否定し得たとはいえないように思われる。 すなわち、平成11年仙台高判の上記の判断は、次の見解(佐藤英明「判批」ジュリスト1189号(2000年)123頁、124頁。下線筆者)の説くように「速断の誹りを免れえない」であろう。 このことについては、そもそも、「組合総会による報酬額の承認を労務出資に対する利益分配と私法上認定することに無理があった」(岡村忠生「判批」民商法雑誌126巻6号(2002年)908頁、912頁)というべきであろうが、ともかく、平成11年仙台高判の前記の判断には、本件組合契約における労務出資の扱い、とりわけ組合全体の所得と損益分配との関係に関する「当事者の意思等」の探索をしようとする姿勢ないし配慮はほとんどみられないといっても過言ではなかろう。 「損益分配の割合につき、民法は、当事者契約に定めるところに委ねている」(増井良啓「組合損益の出資者への帰属」税務事例研究49号(1999年)47頁、52頁)が故に、なおさら「当事者の意思等」を契約解釈を通じて探索することが必要不可欠であると考えられるが、しかし、平成11年仙台高判の前記の判断は、本件組合契約の解釈に基づく判断ではなく、「被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意」をいわば決め打ちした上で行った、本件組合契約の「行き過ぎた」解釈(許される契約解釈の限界を超えた解釈)に基づく判断とみるべきものであろう。契約解釈の「行き過ぎ」は、契約当事者の意思の「創造」に帰結するといえることから、本件組合契約に関する平成11年仙台高判による解釈を、以下では「解釈(創造)」と表記することにする(本稿でいう契約「解釈(創造)」は、私法上は、契約が当事者間で法的拘束力をもつ「法」であることから、契約当事者を拘束する法の創造(法創造)を意味するが、税法(課税要件法)上は、課税要件に該当する事実(課税要件事実)の創造(事実創造)を意味する)。 では、なぜ平成11年仙台高判は本件組合契約についてそのような「解釈(創造)」を行ったのであろうか。それは、平成11年仙台高判の次の判示(下線筆者)にみられるような所得種類の転換による租税回避の試み(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【248】参照)を否認するためであったと考えられる。 つまり、平成11年仙台高判は、契約解釈による否認論あるいは事実認定による否認論とも呼ばれ租税回避事案に関して当時注目を集め始めていた私法上の法律構成による否認論と同様の発想に基づき、契約「解釈(創造)」による否認論ともいうべき考え方を採用したものと考えられるのである。私法上の法律構成による否認論は、映画フィルムリース[パラツィーナ]事件・大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁等これを採用したものと解される裁判例もあり、2000年代初頭にかけて一世を風靡した考え方である(その代表的論者の見解として今村隆『租税回避と濫用法理-租税回避の基礎的研究-』(大蔵財務協会・2015年)第1編第3章[初出・1999年~2000年]参照。筆者の見解については前掲拙著【73】以下、拙著『租税回避論』(清文社・2014年)第3章[初出・2005年/2009年/2011年]、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第8回・第9回等参照)。 しかしながら、契約「解釈(創造)」による否認論は、契約当事者の意思の解釈を超えて「意思の創造」を認めるものであるが故に、許される契約解釈の限界を超える「解釈(創造)」を前提(小前提)にして税法の適用を行おうとするものといわざるを得ず、したがって税法の誤った適用に帰結することから、租税法律主義に基づく税法の厳格な解釈適用の要請(前掲拙著『税法基本講義』【41】参照)の下では、許容されるべきでないと考えるところである(私法上の法律構成による否認論に関して同【75】参照)。 3 平成13年最判と契約「解釈(創造)」による否認論 ただ、平成11年仙台高判は、「組合課税構造の特殊性」を重視する立場から、次のとおり判示したが(下線筆者)、この判示は、「被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意」の決め打ちを正当化するために行ったものであると解される。 しかし、上記の判示に対して、平成13年最判は、「当該支払に係る組合員の収入が給与等に該当するとすることが直ちに組合と組合員との間に矛盾した法律関係の成立を認めることになるものでもない。」(前掲判示【ⓐ】の後段)と判示して、「組合課税構造の特殊性」を無視する立場を明らかにした。この判示は、次の正当な指摘(佐藤・前掲「判批」124頁)に照らしても、妥当である。 平成13年最判による「組合課税構造の特殊性」の無視については「意図的なものであると感じられる」(高橋・前掲「判批」118頁)との指摘がされているが、「組合課税構造の特殊性」の無視は、平成11年仙台高判が採用したと解される契約「解釈(創造)」による否認論に対する最高裁の否定的な態度の現れであるように思われる。そのような態度は、後に、最高裁が私法上の法律構成による否認論ないし事実認定による否認論について、映画フィルムリース[パラツィーナ]事件・大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁に対する上告審として検討を重ね、同事件・最判18年1月24日民集60巻1項252頁以降示してきた慎重ないし否定的な態度(前掲拙著『租税回避論』210頁以下[初出・2011年]参照)の先駆けとなったものとみてもよさそうである。 いずれにせよ、平成13年最判の意義(の少なくとも1つ)は、「組合課税構造の特殊性」を無視することによって、事業所得から給与所得への所得種類の転換による租税回避の試みに対する契約「解釈(創造)」による否認を阻止したことにあると考えるところである。 最後に、その阻止の結果について若干付言しておくと、組合と組合員との間に、組合契約とは別の「法律関係」が成立することが課税上認められ、組合に一定の「主体性」が課税上認められることになったといってよかろう(前掲拙著『税法基本講義』【225】参照)。そうすると、平成13年最判による「組合課税構造の特殊性」の無視は、皮肉なことに、むしろ「組合課税構造の特殊性」を明らかにし、もって組合課税の構築に寄与することになったともいえよう。   Ⅳ おわりに 平成13年最判は、昭和56年最判基準の適用の可否の側面から検討すべき税法基本判例でもあるが(前掲拙著『税法基本講義』【263】参照)、今回は、組合課税の側面から特に「組合課税構造の特殊性」の捉え方に着目して、主として平成11年仙台高判と平成13年最判との関係ないし両者の考え方の違いを検討してきた。 その検討を通じて、平成11年仙台高判は、「組合課税構造の特殊性」を重視し、事業所得から給与所得への所得種類の転換による租税回避の試みを、契約「解釈(創造)」による否認論ともいうべき考え方に依拠して否認しようとしたのに対して、平成13年最判は、「組合課税構造の特殊性」を無視することによって、そのような考え方に対して否定的な態度を示したと解することができることを明らかにした。 このような考え方の違いないし対立は、「組合課税構造の特殊性」を考慮した法整備がされていないという現行税法の問題に基因すると考えられるが、そうであるからといって、その問題は主として立法によって解決すべき問題であって、契約解釈という(税法の観点からみると)事実認定によって解決すべき問題ではないと考えられる(前掲拙著『租税回避論』40-41頁[初出・2004年]参照)。その意味でも、平成11年仙台高判が契約「解釈(創造)」による否認論に依拠して示した判断は許容されず、これを阻止したものと解される平成13年最判の判断は正当であると考えるところである。 (了)

#No. 620(掲載号)
#谷口 勢津夫
2025/05/29

〈令和7年度税制改正〉新リース会計基準に伴うリース取引に係る所要の措置 【後編】

  〈令和7年度税制改正〉 新リース会計基準に伴う リース取引に係る所要の措置 【後編】   公認会計士・税理士 森 智幸   1 はじめに 本稿の【前編】では、新リース会計基準の概要と、法人税・地方税・消費税に係る改正の概要について確認した。 今回の【後編】では、実務上の影響として、短期リースや少額リースの取扱い、オペレーティング・リース取引にかかる経過措置、外形標準課税の計算における注意点などを解説する。 なお、本稿は私見であることをお断りしておく。   2 実務への影響 (1) 短期リース及び少額リース 新リース会計基準では、原則として、全てのリース資産について使用権資産及びリース負債を計上するとされたが、短期リース及び少額リースについては、使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(適用指針20、22)。 ① 短期リース 短期リースとは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であり、購入オプションを含まないリースをいう(適用指針4(2))。 なお、再リース期間を借手のリース期間に含めていない場合、基準41項及び42項にかかわらず、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことができるとされている(適用指針52)。再リース期間は1年以内が通常であるため、再リースは短期リースとして取り扱うことになる。 ② 少額リース 少額リースは、次の(イ)と(ロ)のいずれかを満たす場合、借手は、基準33項の定めにかかわらず、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって。原則として定額法により費用として計上することができるとするものである(適用指針22)。 《図表1》 なお、前述の通り、短期リース及び少額リースに係る借手のリース料は定額法により費用計上できるが、法人税法上も、賃借人が賃借料その他当該リース資産を賃借するために支出した費用として損金経理をした金額は、償却費として損金経理をした金額に含まれるとされるため、当該費用は、各事業年度の所得の計算上、損金の額に算入することができる(法令131の2③)。 (2) 新リース会計基準適用初年度の経過措置~オペレーティング・リース 【前編】で解説したように、新リース会計基準適用後は、オペレーティング・リース取引についても、借手は使用権資産とリース負債を計上しなければならない(基準33)。 この場合、新リース会計基準適用前に契約したオペレーティング・リース取引の反映方法が問題となる。これは、旧リース会計基準では、オペレーティング・リース取引は賃貸借取引による会計処理を行ってきたので、貸借対照表にはその経済的実態が反映されていないためである。 この点については、まず、適用指針118項においてリース取引全般の経過措置として、《図表2》のように規定されている。 《図表2》 さらに、オペレーティング・リース取引については、適用指針123項から125項において、適用指針118項ただし書きの方法を選択する場合の会計処理について規定されている。 このうち、適用指針123項(2)①②に示された使用権資産の計上方法は《図表3》の通りである(具体的な計算例は、「「リースに関する会計基準の適用指針」(設例)」 の[設例20]に掲載されているので参照されたい)。 《図表3》使用権資産の計上方法 なお、上記2(1)で説明した短期リース資産と少額リース資産については、この経過措置によるリース負債の計上は不要である。 (3) 法人税法 【前編】の3(1)で述べたように、オペレーティング・リース取引については、新リース会計基準では、原則として使用権資産とリース負債を計上することとなった。一方、法人税法上は、債務が確定したリース料は、損金の額に算入するということになった(法法53)。 そのため、会計上の費用と法人税法上の損金の額には次の相違が生じる(《図表4》参照)。 《図表4》 したがって、各事業年度の所得の計算上、①の金額が②の金額を上回る場合は差額を加算することになる。 (4) 地方税 【前編】の3(2)で述べたように、借手にかかる事業税の付加価値割の課税標準の算定において、純支払賃借料を算定する際、支払賃借料のうちオペレーティング・リース取引にかかる賃借料は、法人税法上、所得の計算において損金の額に算入される部分の金額について、その損金の額に算入される事業年度の支払賃借料とするとされた(法法53)。 借手におけるオペレーティング・リース取引においては、《図表4》のとおり、原則として、会計上で計上される費用は、減価償却費と支払利息となるため、法人税法において損金の額に算入される賃借料の額とは乖離が生じる。 したがって、事業税の付加価値割の計算において、支払賃借料を算定するとき、会計上の支払賃借料を集計すると計上漏れが生じることになるため、支払賃借料の集計においては、法人税法における損金の額をベースとして集計する経理体制を整備しておく必要がある。 (5) 消費税 オペレーティング・リース取引に係る消費税の課税関係については、本稿執筆時点では国税庁から見解は出されていない。 「課税仕入の日」の考え方がポイントであり、従来の処理が継続される可能性があるが、今後、国税庁から公式見解が出る可能性もあるので、国税庁のアナウンスに注意されたい。   3 非上場の中小企業への影響 「中小企業の会計に関する指針」及び「中小企業の会計に関する基本要領」については、現時点では、新リース会計基準に伴う改訂は行われていない。そのため、これらを適用する非上場の中小企業においては、新リース会計基準の影響を受けず、従来の会計処理及び税務処理を行うことになる。   4 おわりに 新リース会計基準は、会計や税務の実務にいろいろな影響を及ぼす。特に、適用初年度は現場の実務に負担がかかると予想される。一方、短期リースや少額リースは使用権資産とリース負債を計上することはないので、このようなリース取引を明確に区分管理することは重要である。 本稿が、リース会計に携わる方々の実務の参考になれば幸いである。   (連載了)

#No. 620(掲載号)
#森 智幸
2025/05/29

仕入税額控除制度における用途区分の再検討-ADW事件最高裁判決から考える- 【第4回】

仕入税額控除制度における用途区分の再検討 -ADW事件最高裁判決から考える- 【第4回】   森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士・税理士 栗原 宏幸   6 ADW事件最高裁判決を踏まえた納税者の対応 前回の5で述べた所見によれば、ADW事件最高裁判決を機に、課税庁が課税対応課税仕入れの否認を積極的に行うようになる可能性がある。 そこで、事業者としては、同判決や判例解説の内容を踏まえて、これまでの課税対応の区分が適正であったかを改めて検証することが望ましいと考えられる。 検証の結果、なお課税対応を維持できると判断した課税仕入れについては、必要に応じ、納税者としてのポジションを書面で整理し、来たるべき税務調査に備えることが考えられる。 他方、検証の結果、課税対応を維持することが難しい(共通対応と判断される可能性が相応にある)と判断した課税仕入れについては、共通対応に区分を見直すとともに、必要に応じ、次の①又は②の対応について検討することが考えられる。   7 ADW事件最高裁判決の想定外の(?)副産物 上記6では、課税対応課税仕入れの否認リスクという観点から納税者の対応を検討したが、他方で、既に有識者から指摘されているように、用途区分の判定に用いる対応関係を広く捉えるとすれば、これまで非課税対応に区分してきた課税仕入れの区分を見直し、共通対応に区分すること(つまり、これまで控除を諦めていた当該課税仕入れに係る消費税額の一部を仕入税額控除の対象とすること)も可能なのではないかと考えられる(この点について詳細を検討したものとして、藤谷武史「課税仕入れの用途区分の判定の方法」税研235号68頁がある。)。 「税負担の累積排除」という消費税の理念による用途区分の規範的統制を放棄する以上は、実質的に見て税負担の累積が生じているとはいえない課税仕入れであっても、少しでも課税取引との対応関係が認められるもの(純度100%で非課税取引に対応しているとはいえないもの)については、共通対応への区分を認めざるを得ないというのが、ADW事件最高裁判決から導かれる帰結であろう。 なお、この議論を更に進めると、事実上の対応関係の解釈適用次第では、非課税売上げに対応する課税仕入れに関し、意図的に課税売上げを生じさせ、当該課税仕入れを共通対応に区分する租税回避的な行為も適法とされる可能性がある。かつての自動販売機スキームほどではないものの、今回の最高裁判決は、それに似た納税者と課税庁のイタチごっこを誘発する可能性を内包しているように思われる。 (続く)

#No. 620(掲載号)
#栗原 宏幸
2025/05/29

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例146(法人税)】 「換算が認められない債務免除を行わない長期貸付金まで換算換えをして税額計算を行っていたため、税務調査を受け、為替差損の誤計上を指摘され、修正税額が発生してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例146(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆外貨建取引の換算(法法61の8①) 内国法人が外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れ、剰余金の配当その他の取引をいう。以下同じ)を行った場合には、外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。以下同じ)は、外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額とする。 ◆外貨建資産等の期末換算差益又は期末換算差損の益金又は損金算入等(法法61の9①) 内国法人が事業年度終了の時において次に掲げる資産及び負債(以下「外貨建資産等」という)を有する場合には、その時における外貨建資産等の金額の円換算額は、外貨建資産等の区分に応じ以下に定める方法により換算した金額とする。       (了)

#No. 620(掲載号)
#齋藤 和助
2025/05/29

学会(学術団体)の税務Q&A 【第17回】「オンライン展示会(法人税)」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第17回】 「オンライン展示会(法人税)」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 学会がオンラインで学術集会を開催する際、実開催の場合と同様、企業の展示会(オンライン展示会)を行い、展示収入を受け取っている例はよくある。実開催の学術集会における展示収入は、原則として席貸業(法令5①十四)に該当すると考えられるが、他方で、オンラインで学術集会を開催する場合におけるオンライン展示会の展示収入が、法人税法上の収益事業に該当するか否かについては議論がある。   1 34事業の判定 席貸業とは、一定の場所を有償で貸す事業である。そのため、一定の場所が存在しないオンラインにおける展示収入は、席貸業には該当しないものと考える。 法人税法施行令に掲げられている34事業の収益事業の中には、通信業が含まれているが、通信業とは、「他人の通信を媒介若しくは介助し、又は通信設備を他人の通信の用に供する事業及び多数の者によって直接受信される通信の送信を行う事業」(法基通15-1-24)であるため、通信の手段を使っている事業自体(オンライン展示会)が、通信業に該当することはないと考える。 オンライン展示会とは、展示企業に対して、ネット空間上の展示会場を利用させるサービスであると考える。税務大学校論叢第89号「デジタルコンテンツの提供事業等と収益事業の判定について」(平成29年6月)によれば、サービス提供事業者がクラウド上に用意したサーバー等に保存されるデジタルコンテンツを様々な電子端末等において利用できるようにするサービスについては、「事務処理の委託を受ける業」として請負業に該当するという考え方が示されている。 そのため、オンライン展示会の展示収入については、ネット空間上の展示会場を利用させるという業務を請け負ったものとして、請負業に該当するものと考える。   2 公益法人の学会が公益目的事業の一環として実施する場合 上記の通り、オンライン展示会については、原則として請負業に該当すると考えられるが、公益法人の学会が公益目的事業の一環としてオンライン展示会を実施する場合は、法人税法上の収益事業から除外される(法令5②一)。   (了)

#No. 620(掲載号)
#岡部 正義
2025/05/29

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第49回】「特別償却の対象となる機械及び装置の範囲を拡大解釈して特別償却を行うことは認められないとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第49回】 「特別償却の対象となる機械及び装置の範囲を拡大解釈して特別償却を行うことは認められないとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷減価償却資産としての「機械及び装置」 法人税においては、減価償却資産についてその種類を定めている(法法2二十三、法令13)。減価償却費として損金算入できるのは、法人が償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額である(法令31)。この償却限度額の計算は、その資産について定められた償却方法に基づく耐用年数によって行うが、この耐用年数は耐用年数省令で定められている。 この減価償却資産の「種類の名称」は条文で定められているものの、どのような物であるかは条文で具体的に定義されていない。 例えば、国語辞典である『大辞林第三版』によると、「機械」「装置」は以下の通りである。 (※1) 松村明編『大辞林第三版』(2006、三省堂)586頁 (※2) 松村編 前掲 1455頁。 しかし、これらの定義に基づいて、資産の種類を「機械及び装置」と特定するのは困難な場合が多い。 「機械及び装置」か「器具備品」かで争われた裁判において、「機械及び装置」といえるためには標準設備(モデルプラント)を形成していなければならず、設置箇所が同一かどうかにかかわらず、資産の集合体が集団的に生産手段やサービスを行っていなければならないとされた(東京高等裁判所平成21年7月1日判決(TAINSコード:Z259-11237))。 このように考えると、「機械及び装置」は、1つの資産だけで、生産手段等として事業の用に供されているのではなく、集合体として機能することで事業の用に供されるという性質があると考えられる。 租税特別措置法における特別償却の適用が、一定の「機械及び装置」に限定されている場合には、集合体として機能する資産を正確に他の資産と区分して、特別償却の計算を行う必要がある。納税者は、より広い範囲の資産を「機械及び装置」として特別償却の対象に含めたいと考えがちである。 今回は、特別償却の対象となる「機械及び装置」の範囲について、納税者による拡大解釈が争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か(争点) 水産食料品製造業を営む納税者が、取得した減価償却資産について、「機械及び装置」に適用される租税特別措置法の規定による特別償却を適用できるものとして申告した。これに対し、課税庁は、当該資産を、「建物」、「建物附属設備」等と区分して、それらの部分については特別償却の適用が認められないとして更正処分を行った。納税者は、これらの資産は一体として「機械及び装置」とみるべきであると主張し、審査請求を行った。 争点は、当該資産を「建物」、「建物附属設備」「機械及び装置」に区分して償却限度額を計算すべきか。それとも、資産全体を一体とみて、特別償却の対象となる租税特別措置法42条の6第1項第1号に規定する「機械及び装置」として償却限度額を計算すべきか、という点にあった。   ▷裁決内容 審査請求はいずれも棄却された。 裁決では、資産のうちクーリングシステム、オゾンシステムは「機械及び装置」のうち「食料品製造業用設備」に該当すると認定されたが、それ以外の資産については、以下のように判断された。 納税者は、「魚体の乾燥」という共通目的で使用されることを根拠に、当該資産全体を一体の「機械及び装置」として特別償却の対象に含めるべきと主張したが、裁決では、減価償却資産とその耐用年数については法人税法施行令13条により資産の種類を判定する必要があるとして、本件各資産が相互に関連しあうことによって、魚体の乾燥という目的を達しているからといって、直ちに、これらを一体とみて措置法42条の6第1項第1号に規定する「機械及び装置」に該当する旨の主張は採用できないとされた。 *   *   * 今回の事例は、「特別償却を多く取りたい」という納税者の意図のもと、「機械及び装置」の範囲を拡大解釈しようとした点が根底にあると考えられる。 本裁決では、「建物」については、資産の機能等から検討して「機械及び装置」ではないと判断されている。特に「建物附属設備」については、裁決上では検討過程は示されていないものの、資産区分の正確な判定が減価償却を行う上で重要であるとうかがえる。 今後も本連載では、資産区分で争われた事案を取り上げ、「どこがキーポイントであったのか」に焦点を当てて検討していきたい。 (了)

#No. 620(掲載号)
#菅野 真美
2025/05/29

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第68回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第68回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   (3) 暗号資産(トークン)の含み損益の課税イベント 本稿では、DeFi取引に関連する暗号資産の移転がその含み損益に係る課税イベントであるかを検討する。 その際、前回示した実現の意義に関する様々な見解と所得税法36条等の規定内容を踏まえて、次の①及び②のとおり、「譲渡及びこれに基因する収入」に着目した理解を前提として考察を進める。 以下、説明を補足しよう。 前回確認した実現の意義に関する見解のうち、いまだ実現に至らない未実現の状態の第二類型(贈与や相続による財産の移転などで資産を手放すが、その代わりに取得した物がないケース)との関連では、暗号資産を手放した、あるいは暗号資産に係る権利の保有者が変わったからといって(上記①➊)、直ちにその暗号資産に係る含み損益の課税イベントとみなされるわけではなく、所得税法36条の収入といえるものがなければならない(上記①➋)。 この場合の収入は、金銭のみならず、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益でもよい(所法36①)。これらをもって収入する場合の収入すべき金額は、「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」となる(所法36②)。 これらの規定により、一定の場合を除き(※1)、資産の交換(基本的には、「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転すること」(民法586))、本稿との関係では暗号資産同士の交換の場合も課税イベントになることを理解しておく必要がある。 (※1) 一定の固定資産の交換の場合については、実質的ないし経済的な観点からは同一の資産を継続して保有していること、あるいは金銭の流入がないため納税資金の問題があることを考慮して、含み損益を「認識」しない(譲渡がなかったものとみなす)などの規定も用意されている(所法58等)。 他方、何らかの収入が認められるからといって、直ちにその暗号資産に係る含み損益の課税イベントとみなされるわけではない。例えば、含み損益のある暗号資産をステーキング(暗号資産を預けて、取引の妥当性を検証するプロセスに参加し、報酬を得ること)のために移転して報酬を得たとしても、その報酬に係る収入は、通常、暗号資産の値上がり部分に係るものではない。 暗号資産の移転に伴い、その値上がり部分に対する所得が課税の対象となるには、原則として、暗号資産の保有者(処分権者)がこれを譲渡し(上記①➊)、その譲渡したことに対する対価として(その譲渡に基因として)、その者に収入があることを要する(上記①➋)。 このような理解は、一般に、含み損益は処分権者に帰属し、処分権の移転の対価のうちに具体化されて実現すること(最判昭和43年10月31日集民92号797頁)を前提としている。 資産の値上がり益が所有権者に帰属すること及び売買交換等の場合にその値上がり益は対価のうちに具体化されることについて、基本的には、所得税法33条の譲渡所得の基因となる資産(キャピタルゲイン・ロスを生み出す資産)のみならず、棚卸資産等の資産に対しても当てはまるであろう。 所有権者は、特段の事情のない限り、その所有する資産を自由に処分する権利を有し(民法206)、対価を得ることができる。この場合の処分とは、財産権の移転その他財産権について変動を与えることや、財産の現状、性質等に消費、廃棄その他事実上の変更を加えることを含む広い意味を有する用語法であるが(大森政輔ほか編『法令用語辞典〔第11次改訂版〕』439頁(学陽書房2024))、本稿との関係で重要であるのは、基本的にはその資産を譲渡する権利である。 ここでいう譲渡とは、「権利、財産、法律上の地位等を、その同一性を保持させつつ、他人に移転すること」を意味すると解されている(大森ほか編・前掲書415頁)。 もちろん、暗号資産について処分権をどのように観念できるかは私法上の議論に委ねられる。 また、所得税法の文脈でいうところの譲渡(所法33、48の2、所令119の6②二等)も基本的に上記と同じ意味に理解することができるとしても、両者が完全に同一の概念であるかという問題は残されている。 ところで、無体物は所有権の対象にならないという理解を前提とするならば(※2)、本稿で考察の対象とする暗号資産の場合は、基本的に、これを他者に譲渡する権利(差し当たり、これを「処分権」と呼ぶが、本稿では他の処分行為との関係性には踏み込まない(※3))に着目することになろう。ただし、暗号資産を含むトークンに対する処分権の存在、内容、帰属、移転の時期、支配や(準)占有のあり方、権利が侵害された場合の救済方法等に関する私法上の議論が固まっているわけではない。 (※2) テクノロジーによって、その排他的支配ができるのであれば、暗号資産も電気などと同様に、所有権の客体と扱うことができるはずであるという見解もある。磯村保編『注釈民法(8)債権(1)』139頁 (有斐閣2022)〔北居功〕参照。 (※3) 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和6年12月最終改訂)の「3-1-8 借入れをした暗号資産の期末時価評価」の回答においても「処分権」という語が使われている。 なお、暗号資産の保有者がこれを譲渡(処分権を移転)し、これに対する対価として(このことに基因して)、その者に収入があると認められる場合を含み損益に係る課税イベントであると解するが、本連載第67回で確認した実現の意義に関する見解のうち、いまだ実現に至らない未実現の状態の第三類型(一定の譲渡担保など、資産を手放してそれと実質的に異ならない物を取得するケース)との関連では、暗号資産の処分権の移転があるとしても、含み損益を課税所得に反映すべきではない例外的なケースも想定しておかねばならない。 これは、一般的には消費貸借契約、譲渡担保、リース取引の課税上の取扱いが想起される場面であり、暗号資産の消費貸借の課税上の取扱いを考察する際に有益な視点である。   (了)

#No. 620(掲載号)
#泉 絢也
2025/05/29

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第72回】「塩野義製薬事件-現物出資による国外への資産移転-(地判令2.3.11、高判令3.4.14)(その2)」~旧法人税法施行令4条の3第9項(平成28年度改正前)~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第72回】 「塩野義製薬事件 -現物出資による国外への資産移転- (地判令2.3.11、高判令3.4.14)(その2)」 ~旧法人税法施行令4条の3第9項(平成28年度改正前)~   滋賀大学准教授・税理士 金山 知明   (4) 東京地裁の判断 東京地裁は、大要以下のように判示してXの請求を認容し、Yによる更正処分を取り消した。 ① 本件現物出資の対象資産について ELPS法上、パートナーシップ持分とは、パートナーが、パートナーシップ契約又は同法に基づき保有する利益、資本及び議決その他の権利、恩恵又は義務に関する持分をいうとされ、同法にはLPの持分を譲渡した場合の権利義務の承継に関する規定や、持分を譲渡抵当に入れることができる旨の規定がある。また他のパートナーの同意があれば、GP及びLPの持分につき売却、質入れ、担保権の設定その他の移転が可能であるとされる。これらのことから、CILPのパートナーシップ持分は譲渡可能な資産として位置付けられている。 本件現物出資契約においては、「本件リミテッド・パートナーシップ持分」が現物出資の対象資産とされていたのであるから、本件現物出資の対象資産はCILP持分であったと解するのが相当である。 もっとも、CILPは、わが国の組合に類似した事業体であり、ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても、CILPの事業用財産の共有持分と切り離された契約上の地位のみが他に移転することは想定されていない。本件現物出資の対象資産となったCILP持分は、その内実は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたものと捉えられなければならない。 ② 本件現物出資の対象資産の経常的な管理が行われていた事業所について 法人税基本通達1-4-12が示す判断基準は、まず、その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し、その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし、次いで、当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し、それが肯定された場合に「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。 本件CILP持分は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産であるから、これらが全て結合された1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当である。 パートナーがCILPの事業に参加する目的は、その出資に由来する事業用財産の運用により利益を得ることであり、CILP持分の価値の源泉はCILPの事業用財産の共有持分にあるということができる。 CILPの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にあるものと捉えることが可能である。したがって、本件CILP持分を1個の資産とみた場合のその経常的な管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当である。 CILPの事業用財産は、①現金、②知的財産のライセンス、③治験データ等の無形資産、④USOpCoへの出資等で構成されている。そして、このうち、現金は、米国で開設されたCILP又はUSOpCo名義の預金口座に入金され、また、CILPの事業に係る記帳、会計処理、税務申告等の経理業務は、GSK/ViiV側が有する米国の事業所において行われ、知的財産のライセンスも、CILP及びUSOpCoの連結財務諸表に記録されていた。 さらに、治験データは、GSK/ViiV側に保管され、Xにはそのデータベースへのアクセス権が付与されていなかった。そうすると、CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理は、わが国以外の地域に有する事業所において行われていたということができる。 GSK/ViiVの米国等における事業所は、CILPの事業所に当たり、それはXにとってもCILPの事業活動を行うXの事業所であったということができる。CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理が行われていた事業所は、前記米国等に所在していたから、Xの国内にある事業所においてそれら資産の管理が行われていたとはいえない。 (5) 控訴審におけるYの主張 Yは地裁判決を受けて、控訴審について要旨次のように追加主張を行った。 本件CILP持分は、XがELPS法により保有し又は服する利益、資本及び議決権その他の権利、恩恵又は義務といった各種権利義務が一体となった法的地位であり、そのような法的地位を管理していた事業所がどこかをみなければならない。 また、CILP持分についてはX本社で意思決定が行われていたこと、CILPの事業に拠出金を支払うのも、利益の配分を受けるのも、帳簿に記載するのもX本社であること、そしてCILP持分の保有等によるリスクを負うのはX本社であったことからも、CILP持分は「国内にある事業所に属する資産」であった。 原判決がなぜ、CILPの財産のうち現金、知的財産のライセンス及び治験データを「主要なもの」というのか不明であり、それら以外の営業権やノウハウなどの無形資産の管理は、X本社において経常的に管理されていたといえる。 さらに、LPはCILPの事業に関して限られた権限を有するのみで、Xが他の外国のパートナーの事業所において事業活動を行うとはみられない。 (6) 東京高裁の判断 控訴審におけるYの追加主張について、高裁は概略として次のように判示してこれを退けている。 CILP持分の性質については、CILPがわが国民法上の組合に類似する法人格のない事業体であることから、あたかも株式会社における株式のように、事業体の事業用財産から独立して譲渡対象となる法的根拠はない。 Xはパートナーとして、CILPの財産全体について、共有持分類似の持分を保有しており、本件パートナーシップ契約における契約上の地位は事業用財産と不可分に結合されたものである。 Xが有価証券台帳にCILP持分を投資有価証券として記帳していることについて、その記帳はCILPへの出資があったことやその持分を現物出資した結果を経理的に記録したに過ぎず、CILP持分の管理を行っていたとはいえない。 新薬開発という事業内容に照らせば、知的財産のライセンス、治験データ等は主要な財産である。仮にそうでないとしても、CILPの主要な事業用財産が国内事業所において経常的に管理されていた証拠はない。 営業権やノウハウなどの無形資産について、CILPの事業を離れてXの事業所において経常的に管理されていたと解することは困難である。 原判決は、CILPの事業用財産の管理をCILPの事業活動の一部と捉え、その共有持分を有するXにとっても、CILPの事業所をもってCILPの事業活動の管理を行う事業所であるとしたのであり、GSK/ViiV側の米国等の事業所において、X自らが実際に事業活動を行っているとの判示をしたのではない。   4 検討 (1) クロスボーダー現物出資と租税回避 法人税法2条12の14が外国法人に対する国内資産の現物出資を除外しているのは、国内にある資産を海外に移転させることによる租税回避を防止するためであり、平成13年までは旧法人税法51条《特定の現物出資により取得した有価証券の圧縮記帳》に定められていたものを引き継いだものである(※14)。 (※14) 武田・前掲(※7)623の14頁。 旧法人税法51条では、平成10年に至るまで国内資産の外国法人への現物出資を特例から除外する規定を置いていなかったが、このような規制を行うきっかけとなったのは、オウブンシャホールディング事件(※15)のように、現物出資を利用して含み益のある財産を持ち出し、それを外国で実現させることで日本での課税を免れる租税回避スキームが顕在化したことであるといわれる(※16)。 (※15) 最高裁平成18年1月24日第三小法廷判決(訟月53巻10号2946頁)。 (※16) 小林淳子「国外取引に対する租税法の適用と外国法人の分割に関する諸問題」税大論叢45号(2004年)350頁。品川芳宣「パートナーシップ持分を外国法人に現物出資した場合の適格現物出資該当性-塩野義製薬事件-」税研214号(2020年)92頁。「平成10年版改正税法のすべて」大蔵財務協会(1998年)310頁では、この改正の理由について、内国法人がその有する資産を現物出資して海外子会社を設立する場合、これに圧縮記帳の特例制度を適用すると、現物出資した資産の含み益に対する課税が行われなくなるといった問題があることとしている。 本件における一連の取引の背景に、Xの租税回避目的がどの程度あったかは定かでないが、もしもXがCILP持分を外国子会社に移さないままにCILPに実際の利益が生じた場合、それはパススルーされてXのわが国法人税法上の課税所得となるはずであるし、またCILP持分を第三者に譲渡すれば、そのキャピタルゲインも日本で課税されていたといえるため、税務戦略としてそれを回避する目的が存在したと推測することはできる。このように日本で課税される予定であった所得ないしキャピタルゲインが無税で外国に転出する結果を想像すれば、その課税権を放棄する理由に乏しいという面もある(※17)。 (※17) 品川・前掲(※16)92頁は、このような結果を招く本件判決に対する疑問を呈する。ただし、地裁判決は、本件JVの組成については、新薬の開発に当たりXの弱みを克服するため欧米の製薬会社と連携する必要性があったこと、本件現物出資については、子会社を通じてViiVの株式を保有することによる収益性の向上という目的があったことを認定しており、正当な事業目的の存在について指摘している。 とはいえ、仮に租税回避の意図があったとしても、それを否認するには法的根拠が必要であることはいうまでもない。法が適格性を否定しているのは外国法人に国内資産を現物出資するケースであることから、他の適格要件をすべて満たす本件において、適格現物出資に該当しない(Yの主張)とするためには、CILP持分が国内資産であると解釈する以外にないことになる。CILP持分の所在が最大の争点となったのはこのためである。 (2) CILP持分の帰属事業所 本件現物出資の対象資産が何かという問題について、XはCILPが所有する事業用財産であると主張したのに対し、裁判所はYの主張を採用して、CILPの持分そのものであるとしている。これは、現物出資契約上、現物出資資産が「リミテッド・パートナー持分」とされており、かつ、ELPS法上もELPSの持分を譲渡可能な資産と定義していることから、自然な判断であると考える。 しかし裁判所は、この持分の性質について、CILPの事業用財産に対する共有持分を主物として捉え、これに従物たる契約上の地位が結合した一体的資産とみた。このようにCILP持分の本質を、それが表象するCILPの事業用財産と捉えるのは、CILP自体が透明事業体であることから導かれる論理である。 一方で、XのCILP持分が、Xの帳簿に記帳されていることについてどうみるかという問題がある。まず最初にいえることとして、XがCILP設立時に出資した金銭について、それが出資の当事者としてのXの帳簿に記帳されることは当然であろう。重要な論点は、その記帳された投資有価証券に、国内にある事業所に属する資産といえる実態があるかどうかである。 この点につき法人税基本通達1-4-12は、ある資産が国内事業所の帳簿に記帳されていればこれを国内資産とし、国外事業所の帳簿に記帳されている場合のみ、実質的な管理場所を問うような書きぶりとなっている。しかし、「国内事業所の帳簿に記帳されている資産」のすべてが、法人税法施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」にあたると捉えるのは無理があり(※18)、その記帳があるという理由のみでXのCILP持分が国内財産であると認定するのは相当ではない(※19)。 (※18) 谷口勝司『法人税基本通達逐条解説(2訂版)』税務研究会出版局(2002年)36頁は、この通達ただし書きの趣旨について、国内事業所に記帳されている資産をいったん国外事業所に移記したうえで国外子会社に現物出資をするような場合においては、その資産が経常的に管理されていた場所をもって判断する趣旨であると述べるが、そうであれば、国内事業所に記帳されている資産についても、実際の管理場所を考慮すると捉えなければ均衡を欠くと考え得る。 (※19) 林幸一「組合財産の所在-塩野義製薬事件-」税理65巻8号(2022年)240頁は、事業所の帳簿に記帳している事実は、管理場所についての目安に過ぎないとする。岡村・前掲(※5)48頁では、このような記帳アプローチを採れば、外国の非法人組織を法人化するとすべて非適格となる不合理を指摘する。 裁判所はそのことを認識したうえで、CILP持分について、それを実際に管理していた事業所がどこであるかを分析している。判決においては、新薬の開発プロセスについて、①新規化合物の合成と取捨選択、②動物や培養細胞を用いた非臨床試験、③人に投与して有効性及び安全性を更に検証する治験(臨床試験)といった手順に通常でも6年から15年を要すると述べるなど、かなり詳細な認定を行っている。そのうえで、これらのプロセスがXの国内事業所でなく、GSK/ViiV側の米国等の事業所において管理されていたことを指摘した。 その指摘について、たしかにCILPの事業を管理運営する米国等の事業所があったのであれば、Xは透明事業体たるCILPを通じて、その事業所を有していたという解釈は可能であると思われる(※20)。このような透明事業体について、LPがLPSの事業に直接関与していない場合においても、そのLPSの恒久的施設を、当該LPの恒久的施設とみる有力な考え方があるからである(※21)。 (※20) 仮に日本において透明事業体が行う事業に、非居住者がパートナーとして参加する場合、その透明事業体が日本に事業所を有していれば、その事業所は、その非居住者にとっても恒久的施設となり得る(所得税基本通達164-4)。 (※21) 高橋祐介「国外パートナーシップ投資と事業税」法政論集231号(2009年)54頁では、OECDモデル租税条約のコメンタリーにおいてもこのような解釈が示されていることを挙げている(現行のOECDモデル租税条約2017では5条に関するコメンタリーpara.56, p131)。 (3) LPの地位に基づく検討 しかし、最後に残る疑問は、CILPの事業用財産の帰属に関する判示が、ケイマン法におけるXのLPたる地位を踏まえても、正しいといえるかどうかである。Xの立場が、有限責任しか負わずその経営に従事しない単なる出資者又は受益者に近いLPであったことを重視すれば、仮に米国等にCILPの事業所が存在し、それをXの事業所ないし恒久的施設とみなす解釈が存在するとしても、そこでXのCILP持分が管理され、帰属していたとまでいえるだろうか。 裁判所は、CILPがわが国の任意組合に類似する組織であることから、その事業用財産はXらパートナーの共有に属するとの見解に基づいてCILP持分に関する内外判定をしているが、ELPS法7条(8)によれば、ELPSに帰属する資産は共有でなく、委託により(upon trust)GPのみが保有するものであるとされる。この点は、組合財産を総組合員の共有と規定するわが国の民法668条と大きく異なる。そうすると、XのようなLPは、損益の分配や資本の払戻しを受ける権利はあるにしても、CILPの資産の共有持分を直接有するわけではないと解釈できる余地もあるだろう。 この点に関し、別件の名古屋高裁平成19年3月8日判決(税資257-38順号10647)は、ケイマン法における「委託によりGPが保有(1991年ELPS法)」との規定につき、「受託して管理する」という意味に過ぎないとし、LPの共有持分自体は確保されていると判示している。しかし、この事件は究極的にはLPSからの損益分配の性質と帰属が問われたものであり、LPS財産自体が誰の帰属と管理に服するかを争点とするものではなかった。 たしかにCILPはパススルー課税が適用される透明事業体であるため、毎年度の損益については各パートナーに直接帰属する所得又は損失として配分されることに相違ない。しかし、そのような損益配分の考え方を、事業用財産の帰属や管理場所の判定にまで採用するとすれば、それは妥当であろうか。ここでも、XがLPであることを十分に考慮する必要があると考える。 Xは東京地裁における主張のなかで、X自身がCILPの資産を管理していなかったことの根拠として、CILPの治験データベースへのアクセス権すら与えられていなかったことを挙げている。判決はこのことも決め手の1つとして、CILPの資産が国内事業所に帰属しないと認定しているが、Xがアクセス権すら有していない治験データベースを、Xが共有しているとみるところに、論理的難点は残ると考えられる。 そうした点を踏まえると、Xが所有するCILPの持分はCILPの所有に属する事業用資産に直接支配を及ぼすわけではなく、CILPが稼得する所得について、その持分割合に応じて配分を受ける権利を表象するに過ぎないともいえる。そうであれば、その権利たるCILP持分は有価証券に近い性質となるため(※22)、それを所有するXの居住地、つまり日本の事業所に属するという解釈も説得力を帯びる。しかし、本件については、Yが上告をしなかったため高裁判決に止まっている。 (※22) 参考になる国内の法規定として、金融商品取引法2条2項5号及び同施行令1条の3の2では、任意組合の業務執行がすべての出資者の同意を得て行われること、すべての出資者が組合事業に常時従事することという条件を満たさない場合、その任意組合の出資持分は「有価証券」とみなす旨規定する。   5 おわりに 本件において両裁判所が、海外のパートナーシップ持分の所在を判定するにあたり、その事業用財産と価値創造過程との関係から、パートナーシップ自体の事業所に属するものとの判断を示したことは重要であったといえるだろう(※23)。また、パートナーシップ持分について、事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位が不可分に結合したものであることを明確にした点でも先例的価値をもつと考えられる(※24)。 (※23) 宮本十至子「適格現物出資と国内事業所の判定」TKCローライブラリー新・判例解説Watch租税法No.159(2020年)4頁は、事業用財産とパートナーシップ所得の源泉を結び付けて事業所の所在を明らかにした地裁判決の意義を認めつつ、事業用資産が複数の事業所で管理され、また不動産が含まれる場合などを想定して判決の射程と普遍性に問題が残ることを指摘している。 (※24) 岡村・前掲(※5)46頁。 ただ上述のように、ケイマンのELPS法に関しては、その資産(property)をGPが保有するものとする規定がある点で、他国のパートナーシップ(例えば、米国デラウェア州におけるパートナーシップ(※25))とは異なる特徴がある。これについて、その保有とは、GPがパートナーシップに代わって資産を受託者として管理するという意味(※26)であるとしても、少なくともわが国民法上の任意組合のように、その財産を出資者全員による共有とする規定とは相違するといえる。 (※25) 米国デラウェア州のパートナーシップ法(Delaware Revised Uniform Partnership Act)ではパートナーシップは法的に独立した主体(separate legal entity)とされ(15-201条)、パートナーシップの資産はパートナーシップ自体が所有するとされる(15-203条)。 (※26) 名古屋高裁平成19年3月8日判決・前掲(※4)。 特に、Xのように経営権がなく、しかもCILPの事業用財産を直接支配するわけではないケイマン法上のLPに対して、わが国民法上の任意組合における財産共有と同様の解釈により、事業用財産の共有持分を認めることが相当か否か、さらなる検証が必要であると思われる。 なお、本件で問題となった適格現物出資対象資産については、令和6年度に改正が行われ、国内にある事業所に属するかどうかでなく、「国内事業所を通じて行う事業に係る資産」であるか否かにより内外判定がなされることとなった(法人税法2条12号の14)。これに伴い、記帳状況による判断を先行させる法人税基本通達1-4-12は廃止された。より実質的な判断に移行するものであろうが、本件のように外国法によるLPSの組成にLPとして関わる場合、そのLPSの持分と資産についての内外判定にはなお論点が残ると考える。 (了)

#No. 620(掲載号)
#金山 知明
2025/05/29

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第11回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第11回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】(リース取引関係)から(デリバティブ関係)までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 リース取引関係 リース取引に関して、ファイナンス・リース、オペレーティング・リース、転リースの注記が求められている。なお、いずれも財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 (1) ファイナンス・リース取引 (2) オペレーティング・リース取引 (3) 転リース 【事例:積水ハウス(株) 2025年1月期の有価証券報告書】   2 金融商品関係 金融商品に関して、時価情報等の注記が求められている。財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 【事例:岡野バルブ製造(株) 2024年11月期の有価証券報告書】   3 有価証券関係 有価証券に関して、時価、売却、保有目的変更、減損の注記が求められている。財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 【事例:(株)マネーフォワード 2024年11月期の有価証券報告書】 【事例:(株)エイチ・アイ・エス 2024年10月期の有価証券報告書】   4 デリバティブ関係 デリバティブに関して、時価等の注記が求められている。財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 【事例:古野電気(株) 2025年2月期の有価証券報告書】 (了)

#No. 620(掲載号)
#西田 友洋
2025/05/29

〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第4回】「工場閉鎖に伴って人員整理が必要となった場合の対応のポイント」

〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第4回】 〈製造業〉 〔Q4〕 「工場閉鎖に伴って人員整理が必要となった場合の対応のポイント」   弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 中野 博和   【Q】 当社では、不採算製品の製造販売中止に伴い、一部の工場を閉鎖することになりました。整理解雇など、人員整理が必要となりますが、どのような点に注意すればよいでしょうか。 【A】 整理解雇の有効性は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性といった要素を総合的に考慮して判断されますので、各要素を十分に満たすように対応する必要があります。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 整理解雇とは 整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇をいいます(菅野和夫・山川隆一『労働法〔第13版〕』(弘文堂、2024年)758頁)。 整理解雇が法的に有効であるか否かは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性などを総合的に考慮して判断されます(CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド東京高判平成18年12月26日労判931号30頁など)。   2 人員削減の必要性 人員削減の必要性については、かつては以下のように見解の対立がありました。 現在では、人員削減の必要性については、基本的に経営陣の判断が尊重される傾向にあります。たとえば、新規採用等の整理解雇と矛盾する行動が認められる場合(みくに工業事件・長野地諏訪支判平成23年9月29日労判1038号5頁など)などを除き、人員削減の必要性自体は認められることが多いといえます。 ただし、上記のとおり、整理解雇の有効性は、①から④までの事情等を総合的に考慮して判断されますので、人員削減の必要性が低ければ、解雇回避努力は最大限の措置を講じることが求められることになります。   3 解雇回避努力 解雇回避努力の具体的な内容としては、以下のような措置が挙げられます。 必ずしもこれら全てを実施する必要はありませんが、整理解雇が労働者に帰責性がない解雇である以上、可能な限り、実施することが必要となります。 特に不採算部門の閉鎖といった場合では、配転命令の検討は実質不可欠といえます。 ただし、配転にあたっては、職種や勤務地を限定する合意をしている労働者との関係が問題となります。 職種や勤務地を限定する合意をしている労働者に対しては、当該合意を超える範囲での配転を使用者が一方的に実施することはできません。 それでも、当該労働者が配転に同意すれば、当該労働者を整理解雇することなく、雇用を維持することができますので、当該労働者の能力や他部署での受け入れの可否等の事情を勘案し、配転が現実的に不可能であるといえない限り、少なくとも配転の打診を行うことは求められます(学校法人奈良学園事件・奈良地判令和2年7月21日労判1231号56頁など参照)。   4 人選の合理性 整理解雇を行う際は、合理的な選定基準を設け、それを公正に適用しなければなりません。 基準の内容については、基本的に使用者の裁量に委ねられますが、一般的には以下のような項目が考慮されます。 もっとも、全く基準を設定することなく整理解雇を実施した場合(タチカワ事件・津地決昭和46年12月21日労判150号67頁)や、「適格性の有無」、「将来の活用可能性」といった抽象的で曖昧な基準を設定した場合(労働大学(本訴)事件・東京地判平成14年12月17日労判846号49頁、ジャパンエナジー事件・東京地決平成15年7月10日労判862号66頁)などは、人選の合理性が認められないので、注意が必要です。   5 手続の相当性 まず、労働組合等との間で解雇に先立って組合等との協議を義務付けるような労働協約を締結している場合には、これに基づき、整理解雇に先立って組合等との間で協議を行わなければ、整理解雇は無効となります。 また、形式的には協議を行ったとしても、使用者が、説明資料を提示せず、抽象的な説明をするのみとなっているような場合にも、整理解雇は無効となり得ます。このことは、解雇に先立って組合等との協議を義務付けるような労働協約がない場合でも同様です。 加えて、労働組合等との間で解雇に先立って組合等との協議を義務付けるような労働協約を締結していない場合であっても、使用者には、労働組合または労働者に対して以下の事項を説明し、誠意をもって協議する信義則上の義務が課されます。 なお、整理解雇の対象者が、協議を行う労働組合の組合員であれば問題ありませんが、当該労働組合の組合員ではない労働者も整理解雇の対象者となっている場合、当該労働者に対して直接、協議ないし説明を行わない場合には、手続の相当性が認められませんので、注意が必要です(赤阪鉄工所事件・静岡地判昭和57年7月16日労判392号25頁参照)。 (了)

#No. 620(掲載号)
#中野 博和
2025/05/29
#