〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第91回】 「株式譲渡と株式交換による買収スキームにおける 低額譲渡による課税処分取消事件(東地令3.10.29)(その2)」 ~法人税法22条2項、25条の2、37条、130条~ 税理士 青木 幹 7 争点1に関する裁判所の判断 (1) 法人税法22条2項は、内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、無償による資産の譲受けも収益の発生原因となるものと規定しているところ、その趣旨は、法人が資産を無償で譲り受ける場合には、譲受時における適正な価額(時価)に相当する収益があると認識すべきものであることを明らかにしたものであると解される。 譲受時における適正な価額より低い対価をもってする資産の低額譲受けの場合にも、当該資産には譲受時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるところ、たまたまそのうちの一部のみについて対価を現に支出したからといってその額と適正な価額との差額部分の収益が認識され得ないものとすれば、無償譲受けの場合との間で公平を欠くことになるから、その趣旨からして、その場合に益金の額に算入すべき収益の額は、当該資産の譲受けの対価の額と同資産の譲渡時における適正な価額との差額であると解される(※1)。 (※1) 最高裁平成7年12月19日第三小法廷判決(平成6年(行ツ)第75号)・民集49巻10号3121頁を引用して説示。 (2) 本件法人税更正処分は、平成27年3月30日付けで本件株式譲渡契約に基づき、D社からC社に対してされた本件株式譲受けに係る本件対価の額と本件株式の適正な価額との差額を受贈益の額と認定して、法人税法22条2項に基づき本件事業年度の益金の額に算入したものであるところ、本件株式の適正な価額が25億2,538万2,600円であることについては当事者間に争いはなく、また、前記前提事実によれば、本件株式譲渡契約に係る本件株式の対価は12億1,000万円(本件対価の額)と認められる。前記説示したとおり本件対価の額と適正な価額との差額13億1,538万2,600円を受贈益の額と認定して益金の額に算入するのが相当である。 (3) これに対して原告は、受贈益の額は資産の対価と適正な価額の差額のうち「実質的に贈与を受けたと認められる金額」に限られると主張する。しかしながら、前記説示したとおり、法人税法22条2項によれば、資産の低額譲受けの場合にも、当該資産には譲受時における適正な価額に相当する経済的価値が認められるため、当該資産の譲受けの対価の額と譲受時における資産の適正な価額との差額に相当する収益があると認識すべきであると解されることからすれば、これを「実質的に贈与を受けたと認められる金額」に限定する理由はないというべきである。 この点について、原告は、法人税法22条2項の立案過程から、資産の低額譲受けの場合、常に資産の対価と適正な価額との差額の全額が受贈益の額とされるのではなく、その差額のうち贈与を受けたと認められる金額があるときに限り、その金額が受贈益の額とされることが確認できると主張する。しかしながら、昭和40年度税制改正によって制定された現行の法人税法22条2項については、その法案の国会へ提出前の立案過程において、昭和38年B案42条として、著しく低い価格の対価により資産を譲渡した場合に、当該資産の時価と当該対価の差額のうちに贈与したと認められる部分の金額があると認められるときは、当該贈与したものと認められる部分の金額を益金の額に算入する旨の規定が検討されたことが認められるが、同案は、あくまで立法過程での一案にとどまり、実際には同案で検討された文言が現行法人税法22条2項に反映されなかったのであるから、これをもって同項の解釈とすることはできない。 また、法人税法37条8項が、内国法人が資産の譲渡等をした場合において、その譲渡等の対価の額が当該資産の譲渡の時における価額に比して低いときは、当該対価の額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与をしたと認められる金額は、寄附金の額に含まれるものとする旨を規定していることをもって、資産の低額譲受けの場合にも、同法22条2項の解釈として受贈益の額となる金額が、資産の対価と適正な価額との差額のうちの「実質的に贈与を受けたと認められる金額」に限られる旨主張する。 しかしながら、法人税法にいう寄附金の額の認定に関し、同法37条7項は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産を贈与した場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与時における価額によるものとするが、このうち広告宣伝費及び見本品の費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費等とされるべきものを除くと規定しており、贈与をした側においては、金銭その他の資産の贈与であっても上記の交際費等とされるべきものは寄附金の額に含まれないのに対し、同法22条2項の収益の額は、前記のとおり資産の譲渡時の適正な価額をもって認識されるべきものであるから、贈与を受けた側においては、贈与をした側の寄附金であっても、収益の額となることに何ら変わりがないものとされている。 そうすると、同法22条2項に基づく収益の額の認定問題は、基本的に別個のものというべきであるから、同法37条8項を根拠とする原告の上記主張は採用することができない。 さらに、原告は、法人税法25条の2第3項は、資産の対価とその適正な価額との差額のうち「実質的に贈与(中略)を受けたと認められる金額」のみが受贈益の額となると規定していることをもって、資産の低額譲受けの場合も、同法22条2項の解釈として受贈益となるのが資産の対価と適正な価額の差額のうち「実質的に贈与(中略)を受けたと認められる金額」に限る旨主張する。 しかしながら、法人税法25条の2第3項は、あくまで内国法人が他の内国法人との間に完全支配関係がある場合に限定して、同条1項において益金不算入とされる受贈益についてその額を定めている規定であり、同条3項は、同法22条2項にいう「別段の定め」に該当するものである。 前記前提事実によれば、本件株式譲渡の時点において、D社とC社とが完全支配関係になかったと認められるのであるから、本件において法人税法25条の2第3項が適用される余地はないというべきであるし、同項が同法22条2項にいう「別段の定め」に該当する以上、このような特則規定から溯って益金算入に関する一般規定である同項を解釈する根拠とすることは妥当ではない。 したがって、法人税法25条の2第3項を根拠とする原告の前記主張は採用することができない。 なお、C社は、本件株式を取得するに当たり、本件対価と同額の12億1,000万円を借り入れていることが認められ、本件株式以外に資産がなく、その時点の純資産額は資本金と同額の1,000万円であったことが認められる(※2)。しかるに、本件株式譲渡後にされた本件交換では、H社株式88万3,400株(本件株式譲渡日における時価相場相当額13億1,538万2,600円)がC社の株式の交換対価として、C社の株主Fらに対して交付されていることが認められるが、上記のとおりC社の純資産額は1,000万円しかなかったのであるから、H社の株式88万3,400株がFらへ本件株式交換の対価とされたことは、本件株式譲受けにおいて、C社が本件対価の額を12億1,000万円と本件株式の適正な価額25億2,538万2,600円との差額13億1,538万2,600円も含めてD社から実質的に贈与を受けたことを示しているというべきである。 (※2) ここで裁判所が言っている純資産額1,000万円は簿価純資産額であると考えられる。判示で、本件E社株式の適正な価額を25億2,538万2,600円であると認定しているのであるから、時価純資産額は有価証券の適正な価額25億2,538万2,600円から借入金を引いた12億1,000万円を引いた残額13億1,538万2,600円に裁判所が判示している資本金相当額の純資産1,000万円を加えた金額である13億2,538万2,600円であったと計算される。C社においては創立費などの経費が発生しているから、この金額より時価純資産額は若干少ないと考えられる。 そうすると、仮に、受贈益の額は、資産の対価と適正な時価との差額のうち「実質的に贈与を受けたと認められる金額」に限られると解される余地があるとしても、上記事実関係からすれば、本件株式譲受けにより、C社は本件対価の額と本件株式の適正な価額との差額13億1,538万2,600円を「実質的に贈与を受けたと認められる」から、原告の主張は、この点からも採用できない。 (4) 原告は、受贈益の額となる資産の対価の額と適正な価額との差額のうち「実質的に贈与を受けたと認められる金額」は、「全契約内容」に照らして本件株式譲受けに当てはめる限り、本件株式交換がされたから「実質的に贈与を受けたと認められる金額」がどこにもなく、したがって、本件株式譲受けにおいて、C社には受贈益の額はない旨主張をする。 原告の主張は、判然としない部分があるが、本件における法人税法22条2項の収益の額の認定に当たっては、本件スキームに係る全契約内容に照らし、本件株式譲受け対価には、本件対価の額である12億1,000万円に限らず、その後行われた本件株式交換契約に基づきFらに交付されたH社株式88万3,400株(本件株式譲渡時の時価相当額13億1,538万2,600円)も含まれると主張すると解される。 しかしながら、法人税法22条2項の収益の額として、資産の対価と適正な価額との差額のうち「実質的に贈与を受けたと認められる金額」のみが受贈益の額となるものではないことは前記説示のとおりであり、原告の上記主張は、その前提を誤っているというべきである。 法人税法22条2項の収益の額の認定にあたり、契約内容全体に照らして解釈すべきであるとしても、法人税の取扱いにおいては、資産の販売等に係る収益の額の認定は、同一の相手方又はこれとの間に支配関係がある者との間で締結した複数の契約について、一定の場合に結合したものを一つの契約とみなし収益を認定する場合もあるが、このような場合を除き、個々の契約ごとに計上するのが原則であると解される(法人税基本通達2-1-1参照)。 前記前提事実によれば、本件株式譲渡契約と本件株式交換契約は、本件スキームの一環として行われたものであると認めることができるが、これらの契約が締結された時点では、本件各合意当事者は、いまだ支配関係にあるものではなかったと認められる。本件株式譲渡契約は、D社とC社を当事者として、本件株式を本件対価の額で譲渡したものであったのに対し、本件株式交換契約は、C社とH社を当事者として、C社の全株式とH社88万3,400株とを交換するものであり、かつ、本件株式交換契約の対価であるH社の株式の交付を受けたのはFらであったことが認められるところ、これによれば両契約は、取引の当事者、取引対象とする資産及び取引態様を異にする別個の取引であったといわざるを得ない。 法人税法22条2項の収益の額の認定に当たり、本件株式譲渡契約に係る対価として、本件対価の額のほかに、別個の契約である本件株式交換契約に係る対価であるH社の株式88万3,400株を、本件株式譲受けの対価と認めることはできない。 したがって、原告の前記主張は採用することができない。 (5) 本件株式譲受けに係る受贈益の額には、本件対価の額である12億1,000万円と本件株式の適正な価額である25億2,538万2,600円の差額である13億1,538万2,600円であるというべきであるから、これを本件株式譲受けにかかる受贈益の額に算入するのが相当である。したがって、争点1についての原告の主張には理由がない。 8 まとめ及び検討 法人税法22条2項の益金の額について争われたケースである。本件譲渡で支払われた対価の額をC社がD社に支払った対価12億1,000万円で判定するべきか、納税者の主張するようにスキームを一体の取引とみて株式交換で移転したH社株式883,400株(13億1,538万2,600円相当)を加えた25億2,538万2,600円でみるべきかが争点となった。 この点については、判決は法人税基本通達2-1-1を引用して一定の場合は一体とみなして取り扱うこともあるが、本件では、取引の時期、取引の相手、取引の対象となった資産、取引の態様が異なり一体の取引と見ることはできないと判示している。このような結論になることは、全スキーム全体をみても当然の結果であると考えられる。ただし、法人税基本通達2-1-1は課税庁の見解であって法源ではないので、法人税法22条2項の解釈について本通達が合理的であることについて判断した上で、通達を判断指針として採用すべきであったと考えられる。 法人税法22条2項は、「無償による資産の譲受け」について定めているが、低額による資産の譲受けについては明文がない。原告はこの点については主張しておらず、審理の対象になっていないが、判示はこの点についても説示している。学説も低額譲渡の場合の益金算入について積極的に解している(※3)。また、判示においても、この立場である最高裁平成7年の判決を引用して低額譲渡の場合、公平性と経済的な価値が認められることを理由に益金の額に算入されると説示している。この点については、異論はないと思われる。 (※3) 金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂、2021年)346頁 本判決では、法人税法22条2項は所得の計算の本則であって、別段の定めに該当しない限り、本条文に沿って解釈するという立場をとっている。これに対し、反対する論評も存在する。「22条2項は、無償譲渡の場合に当然に時価によって収益を認識すると書いていないが、むしろ法37条7項、8項に規定の適用によって、22条2項は、適正な価額を意識することができると考える。すると、37条8項は、『当該対価の額と当該価額との差額のうち実質的に贈与又は無償の供与と認められる金額は、前項の寄附金の額に含まれるものとする。』と規定しているのであるから、低額譲渡又は高額譲受けにおいて差額が発生することについて、経済合理性が認められ、実際に贈与を受けたと認められない部分があるときは、22条2項の益金の額に算入されないと考えるのである。したがって、東京地裁が、『法人税法における寄附金の額の認定問題と、同法22条2項に基づく収益の額の認定問題は、基本的に別個のものというべきであるから、同法37条8項を根拠とするX社(※4)の上記主張は採用することができない。』とした部分については、筆者は賛成できない(※5)。」という指摘がある。 (※4) 本稿では、X社はE社と表記されている。 (※5) 渡辺充「関係会社間の非上場株式の譲受けと株式交換のスキームについて株式譲受けが低額譲渡に当たるとされた事例」月刊税理(Vol.66 No.6)2023年5月号 この指摘については、確かに受贈益は寄附金の裏返しの概念で、多くの場合において、法人税法37条の寄附金の額と同法22条2項にいう経済的利益の発生は同じ額となるであろうが、経済的利益の供与があった場合でも経済的利益を供与した側にも経済的利益、例えば広告宣伝などの効果が生ずることがあるのであるから、寄附金の概念と同法22条2項にいう有償又は無償(低額譲渡等も含む)取引から生じる益金の概念は、判示されているように同じ概念ではないと考えられる。 仮に本件スキームによらないで、H社が外国法人D社からすべてのE社株式を直接購入すれば、H社の目的は達せられたはずである。一方で、Fらには所得課税が発生することが想定されていたと思われる。Fらが支配していたD社はタックスヘイブン(※6)と考えられるBritish Virgin Islandに存在するので、 外国法人D社に対しては株式の譲渡益が発生しても法人の居住地国の法人税が課税されない可能性が高いと思われる。 (※6) Government of British Virgin Island’s webpage visited on August 30, 2025 : Private company’s webpage visited on August 30, 2025 says “The British Virgin Islands is known for its favorable tax regime, providing businesses with significant advantages. Companies incorporated in the British Virgin Islands are exempt from corporate income tax, capital gains tax, and withholding tax on dividends or interest payments.” Website: https://www.globecapitalist.com/company-formation/british-virgin-islands/ しかし、Fらについては、D社の事業の実態などの情報がないので租税特別措置法40条の4又は同法66条の6によるCFC課税の対象となるかどうかの予測は難しいが、CFC課税の対象になる可能性も否定できない。加えて、「外国法人H社(本稿ではD社)が『事業譲渡類似株式』を譲渡したときは、それは国内源泉所得となり(法人税法施行令178①四ロ)、時価により我が国の法人税法が課税されることになる(※7)。」(※8)と指摘されている。 (※7) 渡辺充「関係会社間の非上場株式の譲受けと株式交換のスキームについて株式譲受けが低額譲渡に当たるとされた事例」月刊税理(Vol.66 No.6)2023年5月号95頁 (※8) 事業譲渡類似株式の譲渡益課税の指摘は、藤岡祐治「法人税法22条2項と低額譲受けによる受贈益の計上――東京地判令和3・10・29」ジュリスト(June 2022 No.1572) 11頁においても指摘されている。 Fらグループで保有していたE社株式のH社へ移転にかかるキャピタルゲイン課税は、Fらグループに関する限りは、本件スキームにより回避されたと考えられる。C社株式の譲渡対価の額がなぜ12億1,000万円に設定されたかを示す資料はないが、上記事業譲渡類似株式の譲渡益が国内所得としてD社に日本の法人税等が課税されないようにE社株式の譲渡が簿価で行われた可能性もある。仮にこの前提に立てば、低額譲受けとしてキャピタルゲインに相当する金額がD社に課税されたこととなる。その後に行われた株式交換は適格株式交換に該当したと考えられるから、Fらに移転されたH社株式については、Fらに課税されていなかったと考えられる。 結局のところ本件スキームにより、本来E社株式を譲渡したFらのグループに本来課税されるべき譲渡益に対応する法人税等は、本件スキームによりH社グループに移転したC社における低額譲受けとして課税され、H社グループが負担するという不条理な結果となったとみることもできる。本件スキームの問題点は、低額譲渡の問題に加えて、税金の負担者が入れ替わってしまった点にもあると思われる。 (了)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第181回】 株式会社アルファクス・フード・システム 「特別調査委員会調査報告書(2025年7月25日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【株式会社アルファクス・フード・システム特別調査委員会の概要】 【株式会社アルファクス・フード・システムの概要】 株式会社アルファクス・フード・システム(報告書上は「AFS社」、以下「アルファクス」と略称する)は、1993(平成5)年12月設立、外食企業向け基幹系システムの提供に係る業務等を目的とする会社である。 売上高1,659百万円、経常利益80百万円、資本金905百万円、従業員数83名(訂正前の2024年9月期実績)。東京証券取引所グロース市場上場(2025年9月6日上場廃止)。 会計監査人は、2024年9月期決算までHLB Meisei有限責任監査法人、2024年12月28日付で、監査法人やまぶきを選任したが、同監査法人は2025年5月7日付で就任を辞退、その後、同年9月30日付で、プログレス監査法人を一時会計監査人に選任している。 【調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 アルファクスは、2025年3月下旬頃、外部の機関から、周辺サービス事業において過去に行った配膳ロボットを始めとする製品の販売取引に関する売上計上時期の妥当性について、疑義を投げかけられたため、過年度の決算に関して検討すべき事態が生じたものと判断し、また、より詳細かつ正確に事実経緯を把握し、かかる会計処理の妥当性等に関する深度ある調査、検証を実施するためには、独立性・中立性・専門性の高い調査委員会を設置する必要があると判断して、2025年5月8日開催の取締役会において、アルファクスとは利害関係を有しない外部の専門家から構成される特別調査委員会を設置することを決定し、会計処理の妥当性等に関する調査を委嘱した。 さらに、特別調査委員会設置後の2025年5月頃、アルファクスは、外部の機関から、2022年11月に売却したホテルに係る不動産の譲受人である法人が、アルファクス及びその関係者との関係性から、本来的には アルファクスの連結の範囲に含まれるものであり、連結の範囲に含まれないことを前提として行った会計処理は不適切だったのではないかとの指摘も受けたため、この会計処理の妥当性等についての調査も特別調査委員会に依頼することにした。 2 不適切な会計処理の概要 特別調査委員会が調査の対象とした取引は、次のとおりである。 (1)から(7)に掲げる販売取引は、特別調査委員会から、いずれも、「売上高の早期計上」と認定されており、商談によって指摘事項に差異はあるものの、未出荷状態での売上を計上したもの、買戻し特約が付されているにもかかわらず全額を売上計上したもの、ソフトウエアが稼働する前に売上を計上したものなど、次項の原因分析でも挙げられている、売上計上に係る適切な業務フローが存在していないことから、恣意的に売上が計上されたものである。 最後の「ホテル(固定資産)売却益」だけは、「早期売上の計上」とは趣が異なり、アルファクスの債務超過状態を解消するために、ナチュラルグリーンパークホテルを第三者に譲渡したように仮装して、固定資産売却益109,512千円を計上したものであり、また、代表取締役会長である田村隆盛氏(以下、「田村会長」と略称する)自ら、この取引を進めて、さらに、事実と異なる説明を行って会計監査人の追及を逃れていたことが、特別調査委員会の調査により判明している。 特別調査委員会が認定した事実関係は次のとおりである。 3 不適切な会計処理が生じた原因の分析(報告書36頁以下) 特別調査委員会は、不適切な会計処理が発生した要因をすべて記載することは現実的 ではないとして、過去の調査における指摘事項のうち適切に取り除かれていなかったものを含め、重要性の高い要因として、次のとおり原因分析を行っている。 特別調査委員会による原因分析のうち、アルファクスに特徴的な事項を見ておきたい。 特別調査委員会は、「代表取締役に対して異を唱えることが難しい社内風土」として、実質的な創業者であり、筆頭株主である田村会長が長年代表取締役を務めているが、田村会長及びその配偶者である藤井由実子氏(※1)(代表取締役社長。以下、「藤井社長」と略称する)に対しては、異を唱えることが難しい雰囲気が社内には広がっており、適切にガバナンスを利かせる土壌が欠けていると指摘したうえで、仮に代表取締役の業務執行に不正がある可能性を役職員が認識したとしても、それが監査等委員会や内部監査にエスカレートされること、または、内部通報制度に基づく通報がされることを期待することが難しい状況であったと分析している。さらに、アルファクスの2名の代表取締役は夫婦の関係にあり、相対的に相互監督を見込める状況にはないとしている。 (※1) なお、アルファクスの有価証券報告書(たとえば、2025年9月期のものであれば44頁)では、2名の関係について、「二親等以内の親族」であると注記がされているが、調査報告書の記述が事実であるとすれば、配偶者には親等はないというべきであるから、注記は誤りとまでは言えないが、「兄弟姉妹」であるとの誤解を招きかねない表記であると指摘しておきたい。 そして、特別調査委員会は、「度重なる監査法人の交代」もまた、不適切な会計処理が見過ごされた原因であるとして、2020年以降、現在に至るまで、一時会計監査人を含めて、五つの監査法人が会計監査人を務めていることを挙げ、一つの監査法人が会計監査人を務める期間はかなり短いものとなることから、信頼関係の構築が十分になされないとともに、アルファクスの事業、財務への理解を深めるための時間が限定的となり、包括的かつ深度ある監査の遂行を困難にしている可能性が否定できないと分析を行っている。 4 再発防止策の提言(報告書39頁以下) 特別調査委員会は、再発防止策について、現在の役職員が今後もその地位にとどまることを前提として記述しているとしたうえで、そのことの是非について何ら見解を述べるものではないと断りを入れてから、次のような再発防止策を提言している。 特別調査委員会による再発防止策の提言のなかでは、「最高財務責任者の招聘」について、気になる記述があったので、とりあげておきたい。 特別調査委員会は、アルファクス社内の役職員には上場会社として必要とされる会計リテラシーが不十分であり、今から教育等を行っても今後の決算業務、監査対応などに適切に対応していくことが困難であるとしたうえで、最高財務責任者として、監査等委員会と連携しながら、社内の役職員への会計指導・相談対応や、適切な経理処理の確立、監査対応の実施などを担える人物を招聘することが望ましいと提言したあとで、アルファクスの本社所在地(山口県山陽小野田市)を考慮すると、最高財務責任者を確保することは非常な困難を伴うことが予想されるとして、日本公認会計士協会山口県部会に 所属する公認会計士は2025年5月31日時点で43人しかいないことを例示している。 【調査報告書の特徴】 アルファクスは、特別調査委員会による調査結果の公表を行い、期日までに半期報告書を提出できなかったことにより上場廃止の処分を受けるとともに、金融庁から課徴金納付命令を受けたあと、同社サイトにおいて、代表取締役社長名の「ごあいさつ」で次のように述べている。 上場していたことで「短期的な利益」にとらわれていたことが、「不適切な会計処理」につながったという言い訳なのかもしれないが、新型コロナウイルスの影響による業績低迷で債務超過に陥った時期に、自ら進んで上場廃止を選ぶことはできなかったのかという疑問が残るし、上場を維持することを目的として不適切な会計処理によって「短期的な利益」の計上にこだわった結果が、課徴金納付命令と上場廃止であったとすれば、株主に対する裏切り行為であり、2名の代表取締役の責任は重いというべきである。 1 社外取締役監査等委員の認識(報告書35頁以下) 特別調査委員会が、関連当事者間取引であると認定した「ナチュラルグリーンパークホテル」の売却をめぐる問題に関する取締役会の認識について、同委員会は、次のように指摘している。 社外取締役監査等委員の不作為については、特別調査委員会による原因分析の中でも次のように指摘がされている。 業務執行取締役3名に対して、4名の社外取締役監査等委員を置き、表面的には、ガバナンスが強化されているように見えるアルファクスであったが、常勤の監査等委員が不在であったこともまた、特別調査委員会が原因の一つに挙げた事項であった。 2 東京証券取引所による上場廃止等の決定 2025年8月5日、東京証券取引所は、アルファクス株式について、整理銘柄指定期間を8月5日(火)から9月5日(金)までとし、上場廃止日を9月6日(土)とすることを公表した。上場廃止の理由については、「株式会社アルファクス・フード・システムは、延長承認を受けた法定提出期限の経過後、休業日を除き8日目の日である本日までに、2025年9月期半期報告書を提出しませんでした」と説明している。 3 証券取引等監視委員会による課徴金納付命令勧告 2025年9月2日、証券取引等監視委員会は、「株式会社アルファクス・フード・システムにおける有価証券報告書等の虚偽記載等に係る課徴金納付命令及び訂正報告書等の提出命令勧告について」をリリースして、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、3,486万円の課徴金納付命令と訂正報告書等の提出命令を発出するよう勧告を行ったことを公表した。 同リリースで、証券取引等監視委員会は、「ホテル売却に係る不適切な会計処理」の事実関係を次のようにまとめている(太字・下線は原文のまま)。 なお、金融庁は、11月6日、アルファクスに対して、納付すべき課徴金の額を3,486万円、納付期限を2026年1月6日とする課徴金納付命令の決定を行った。 4 訂正された過年度の決算内容 アルファクスは、2026年1月5日に提出した有価証券報告書から、過年度決算の修正内容を確認して、本稿を終えたい。まず、株式会社ナチュラルグリーンパークホテルが連結子会社となったことで、2023年9月期から連結経営指標等が公表されていることが大きな変更点であり、表では「修正後」は連結決算の数値を記入している。 ナチュラルグリーンパークホテルの売却により、2023年9月以降は債務超過の状況から脱していたが、修正の結果、純資産額は2022年9月期以降、債務超過の状況にある。 (了)