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能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス
【第3回】
「被災により納品ができない場合における不可抗力条項の活用(2)」
~不可抗力が生じた場合の対応と活用しやすい条項への見直し~
弁護士法人飛翔法律事務所
弁護士 濱永 健太
前回は、不可抗力とは何かを述べるとともに、不可抗力による免責を求めるための要件、不可抗力条項がない場合の対応を検討した。
今回は、実際に不可抗力が生じた場合の対応と今後の見直しに関するアドバイスを行った上で、それを踏まえたモデル条項を提案したい。
1 不可抗力条項による免責と契約解除
実際に不可抗力によって履行遅滞や履行不能が生じた場合には、不可抗力条項に従った処理がなされることになるが、一般的な不可抗力条項においては、不可抗力によってこれらが生じた場合に「責任を負わない。」という免責の規定に留まっており、その後の処理については何ら定められていない場合が多い。
そうすると、例えば不可抗力によって納期に間に合わないことが判明した際に、納期の変更によって対応するのか、代替手段を取ることによって納期に間に合わせるように対応するのか、あるいは契約解除によって契約の拘束力から解放することで処理するのかについては、当事者双方の協議によって決めることになる。
しかしながら、この場合に円満に協議が整えばよいが(実際、今回の地震のような場合には受注者の窮状に配慮して柔軟に対応される場合も多いと思われるが、以前の新型コロナウイルスを原因とする場合には発注者自身も多大な影響を受けており、柔軟に対応するにも余力がないという状況もあった)、意見が合致しない場合には、結局は双方とも責任を負わない状況(受注者は遅延の責任を負わず、発注者は代金の支払義務を負わない)のままで膠着してしまうことになることも懸念される。
なお、不可抗力によって全部又は一部の履行が「不能」(不可能)という状態であれば、発注者から民法542条に基づく契約解除が選択されることはありうる。
そのため、不可抗力による履行遅滞が生じた場合に備えて、どのように処理するのか(納期の延長による対応を基本とするのか、当事者に契約解除まで認めるのか、認めるとしてもどのような条件でそれを認めるのかなど)については、予め不可抗力条項の中に規定すべきである。
2 今後の不可抗力条項の見直しについて
今後の新たな不可抗力の発生に備えて不可抗力条項を見直す際には、以下の点を意識すべきであろう。
まず、不可抗力として列挙すべき事由に関しては、受注者としては想定しうる限りの事象を漏れなく列挙すべきである。なぜなら、念のため「その他の事象」というバスケット条項を設けていたとしても、契約解釈上は列挙した事由に準じるものに限定される場合が多いため、不可抗力に該当する事由として認められないという場合もありうるからである(新型コロナウイルスの蔓延に際しては、不可抗力に該当するかは大いに議論が生じた)。
また、受注者側としては、不可抗力によって直接的に生じた影響だけでなく、間接的かつ関連して生じた影響による場合にも不可抗力条項が適用できるようにすべきである。
その上で受注者が不可抗力による影響で納期に間に合わないという因果関係の立証を容易にするために以下のような対応も有用である。つまり、因果関係の立証に関して更に踏み込んで言えば、「以下の事由が生じた場合には、履行遅延又は履行不能は不可抗力によって生じたものとみなす。」とした上で、例えば「通常の輸送手段が5日以上の遅延、停止したために材料の仕入れが遅延した場合」など懸念される状況を細分化し、受注者による因果関係の立証を更に容易にすることも考えられる。
このように不可抗力に該当する事象を十分に列挙した上で、因果関係の立証についても配慮した後は、上述の通り、不可抗力によって納期通りに履行できない場合の対応方法についても規定すべきである。
つまり、まずは納期や納品の数量について協議することで対応するのか、契約解除によって処理をするのか、どのような場合に契約解除を認めるか等について規定することになるが、仮に協議すると規定する場合には、協議がまとまらなかった場合の処理についても意識した条項にすることが、実務上非常に重要である。
他方、発注者の視点からみれば、受注者の状況(どの程度の影響を受けており、実際にどの範囲に関して履行が困難であるのか、それがいつまで続くのかなど)が分からない場合も多いため、不可抗力によって納期の遅延等が生じた場合やその可能性がある場合、以降の見込みについては、受注者からの通知(情報共有)を要求したいと考えるであろう。また、不可抗力で納期の遅延が生じるとしても、受注者に影響を最小限に抑えるための代替措置やその他の努力を行って欲しいと考えるであろう。そのため、発注者側からは、そのような情報提供のための通知や影響を軽減すべき義務を設けること、あるいは日常よりBCPプランを策定しておく義務を提案することが考えられる。
なお、発注者側としては、「第〇項の免責を受けるための条件として、受注者は以下の対応を行わなければならない。」として、これらの対応が免責を受けるための条件とする場合も考えられる。
以上を意識したモデル条項例を後述の「4 モデル条項例」に記載する。
3 契約の継続を意識した視点
以前に筆者が平成28年に起きた熊本地震にて被災した経験を持つ事業者の方と話をした際に非常に印象に残っているのが、発注者との協議によって円満に契約(個別契約)の解除が行えたとしても、発注者側が他の業者に一度でも変更してしまうと、たとえ設備が復旧して生産が可能となったとしても、再度発注をもらうことが非常に難しくなると仰っていたことである。
確かに、契約を解除することによって納期遅延による責任(損害賠償など)を回避できたとしても、一旦契約関係が解消されてしまえば、受注者がよほど特殊な技術を有していて代替できない場合を除いて、発注者は他の事業者への発注を行うことも想定され、それを機に当該別業者への発注を継続してしまうという懸念は大いにあるところである。
そのため、今後の発注を継続してもらうことを考えるのであれば、契約解除による処理ではなく、受注者側から納期や納品数の変更を請求できるようにして、契約の継続や維持を図るという視点も重要であると思われる。
下記においては受注者の立場から、不可抗力が生じた場合に納期や数量の変更を求めることができるという条項の例も示したい。
4 モデル条項例
第〇条(不可抗力)
1 地震、津波、暴風雨、洪水、戦争(宣戦布告の有無を問わない。)、侵攻(調達先の国を含む。)、暴動、内乱、反乱、革命、テロ、大規模火災、ストライキ、ロックアウト、法令の制定・改廃、経済制裁、疫病又は感染症の蔓延(蔓延防止も含む。)、政府又は政府機関の行為、行政による自粛要請、適切な労働力、原材料、部品、設備又は輸送手段の確保の不能・不足・遅延その他の当事者の合理的支配を超えた偶発的事象(以下「不可抗力」という。)によって直接的又は間接的に関連して生じた本契約上の義務の履行遅滞、履行不能について、受注者はその限度で責任を負わない。但し、代金の支払債務に関してはこの限りでない。
2 受注者は、不可抗力が発生又は発生する可能性を認識した場合には、発注者に対して直ちにその旨を通知するとともに、以下の措置を行うことによって、不可抗力による影響が軽減されるよう合理的なあらゆる努力を尽くさなければならない。
3 第1項の事由が発生した場合には、発注者及び受注者は、納期及び数量の変更について協議するものとし、発注者は正当な理由のない限り合理的な範囲でこれらに応じるものとする。
4 不可抗力による本契約の全部又は一部の履行遅滞あるいは履行不能が、60日を超えて継続する場合又はそれが見込まれる場合、あるいは前項の協議によっても合意が成立しない場合には、各当事者は、相手方に書面で通知することにより本契約を解除することができる。
第〇条(納期等の変更)
受注者は、第〇条に定める事由が発生し、又は、それが生じる可能性によって、個別契約において定めた納期における納品ができないと認められるときは、発注者に対し、納期又は納品する目的物の数量について合理的な範囲で変更することを請求することができる。変更後の納期及び納品する目的物の数量その他代替手段の可否については、売主及び買主が協議の上で決定するものとし、協議が整わない場合には受注者が請求した内容に変更されるものとする。
※「協議が整わない場合には、納期について2ヶ月間延長されるものとする。」と定めることも考えられる。
5 まとめ
以上、全2回にわたって不可抗力条項をテーマに検討してきたが、今後も大規模地震や新規の感染症の蔓延の可能性も懸念される。また、自然災害に限らず、台湾有事による影響も排除できない時代である。
今回の能登半島地震にて被災された方々の一刻も早い復興を心からお祈りするとともに、今後発生しうる未曽有の事態にも対応できるような活きた不可抗力条項への見直しを行っていただくことを願う次第である。
(了)
「能登半島地震の被災地で必要な法務アドバイス」は、不定期の掲載となります。