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今回は、原稿を書く時に必ず考えなければならない「読者」の考え方についてお話しましょう。
書籍の出版企画について著者の方と打合せをするとき、当然ながらその本の読者対象について意見交換します。
そのような時、数々の著作歴のある方を除いて、イメージが曖昧なケースが意外と多いものです。
例えば、「税理士に向けて書きたい」「中小企業の社長に向けた本だ」「会社の経理の人に読んでもらいたい」などの意見をいただくことがありますが、税理士の方々でも個人の資産税に特化したサービスなのか、法人を顧問にしているのか、さらにその法人はどの程度の規模感なのかで、それぞれの興味の対象は大きく異なります。
またひと言で「中小企業」と言っても、国内のほとんどの会社が中小企業とされていて、昨今では「中堅企業」などと言われるほとんど大企業のようなところもあれば、一般にイメージされるような中小企業まで、とても幅広いです。「会社の経理」の方も、企業規模によって求められる知識やスキルがまったく異なります。
そこをあまり考えずに、とりあえず「税理士向け」や「中小企業向け」などと設定してしまうと、原稿を書き始めたあと、事あるごとに指(筆)が止まってしまうのです。
それは「対象者の範囲が広すぎて、どこまで書けばいいか」が分からなくなってしまうからです。
特に執筆経験の少ない方はこの沼に陥りやすく、不安からか、原稿を書きすぎてしまいます。
1つエピソードを。
とある方が編集Xのところへ原稿をお持ちいただき、本にしたいとおっしゃいました。
その方は「わかりやすい解説を、一般の方に広く読んでいただきたい」と言って、打合せの長テーブルに山積みの原稿を乗せました。一般的な実務書であるA5サイズの本で見積もると、どう考えても軽く500ページを超える量です。
こちらの力不足で説得が奏功せず、結果的に600ページを超えて発刊されたその本は、販売的に厳しいものでした。想定された一般の方が読むには内容が専門的過ぎ、かつ、ページが多いということは、制作にかかる費用も増えるわけですから、やむを得ず本の価格も上がります。一般の方が町の本屋さんで購入するにはハードルの高いお値段。適切ではない原稿の量というのは、そういう齟齬も生んでしまうのです。
ではどうすれば、届けたい読者対象を明確に想像できるのか。
このようなとき、こちらからはこのようなお話をします。
「その本の読者対象としてお一人、お知り合いなどで具体的に想像できる方はおられますか?
『その方だけに伝えたい』というイメージで、原稿を書いてみてください」
そうすると固かった表情がパッと明るくなり、解説すべき内容について話が一気に進むことがとても多いです。そして、制度通りの解説ではなく、ちょっとした読者への気遣いが文面に表れ、伝え方、図表などの見せ方もどんどん良くなってきます。
誰か特定の人に向けて書いたものが、広く受け入れられるのかというご指摘もあるかと思いますが、その特定の人(点)の周りには、似たような課題を抱え困った人がたくさんおられますので、点が面へ広がっていくように、良書も普及していくと思います。
中小企業の社長に向けた本ではなく、お知り合いの○○社長さんへこの本を届けたい。
税理士向けではなく、独立開業したばかりの○代の税理士さんへこの話を伝えたい。
もし、何を書けばいいか分からなくなって筆が止まってしまったら、一度その読者を具体的な誰かに設定してみると、書くべきことが、伝えるべき内容やレベルが、明確になるのではないでしょうか。
(注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)>
(つづく)
「書く論」は、不定期の掲載となります。






















