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令和8年熊本地震に関する税務・企業経営面の《資料リンク集》(更新)
令和8年熊本地震に関する 税務・企業経営面の《資料リンク集》 このページでは「令和8年熊本地震」に関して各府省庁・主な団体等から公表された情報ページのうち、特に税務・企業経営の面で有用なページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。
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《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表~法人税等に関する会計基準等を受け、規定の削除や定義・一部語句の改正を行う~
《速報解説》 金融庁、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表 ~法人税等に関する会計基準等を受け、規定の削除や定義・一部語句の改正を行う~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2026(令和8)年9月15日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等公表し、意見募集を行っている。 これは、「法人税等に関する会計基準」(改正企業会計基準第27号)等及び「資金決済法における特定の電子決済手段の会計処理及び開示に関する当面の取扱い(案)」(実務対応報告公開草案第74号)等を受けたものである。 意見募集期間は2026年10月16日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 次のように改正する(連結財務諸表規則も基本的に同様)。 Ⅲ 適用時期等 公布の日から施行する予定である。 経過措置に注意する。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.686が公開されました!~今週のお薦め記事~
2026年9月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.686を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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日本の企業税制 【第155回】「令和9年度税制改正に関する提言」
日本の企業税制 【第155回】 「令和9年度税制改正に関する提言」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博 経団連は9月15日、令和9年度税制改正に関する提言を機関決定した。副題として、「投資牽引型経済の実現に向けて」を掲げ、成長力の強化と税・財政・社会保障の一体改革の実現に向けた制度整備を求めている。 〇基本的考え方 本提言ではまず、基本的な考え方を示している。わが国が持続的に発展するためには、国内投資の拡大を図り、「成長と分配の好循環」を通じて、「公正・公平で持続可能な社会」を構築する必要がある。その観点から、成長力の強化と税・財政・社会保障一体改革の推進が不可欠となる。 経済成長の原動力は民間企業の成長力の強化によってもたらされることから、それを後押しするための国際的に競争力のある税制の構築が欠かせない。本提言ではそのような観点から、投資牽引型経済の実現に向けて、国内投資の拡大を促すための税制措置の構築を求めている。具体的には、「強い経済」を実現する観点での法人課税のあり方の整理のほか、サプライヤー等にまたがる人材育成の支援を後押しする仕組みなどの各税制措置の必要性を訴えている。 〇法人税関係 企業による設備投資や人的投資等の拡大を背景に、わが国経済には前向きな変化がみられる。民間設備投資はコロナ禍で一時落ち込んでいるが、その後は増加傾向にある。令和6年度にはバブル期を超え、過去最高の水準に達しており、昨年度はさらに増加している。投資牽引型経済の実現のためには、この流れを来年度以降もさらに継続させる必要がある。 また、春季労使交渉においては高水準の賃金引上げが継続しており、構造的な賃金引上げの定着に向けた動きが広がりつつある。特に、大手企業では、3年連続で5%を超える引上げが実現しており、賃金引上げに関しても、官民が一体となってこの流れを継続させることが重要となる。 税収の推移をみると、近年、一般会計税収および法人税収はともに増加している。これは名目GDPの増加が関係していると言え、企業活動が活発化し、経済成長を遂げることで、財政面にも好影響をもたらしていると言える。 これまでに行われた法人税改革では、税率の引下げと同時に、財源確保のために課税ベースの拡大が行われ、税率引下げの税収への影響は、ほぼ中立となっていた。つまり、企業が法人税率の引下げにより大きな恩恵を得たとは言えないと考えられる。わが国が成長するには、企業による継続的な投資のさらなる拡大が不可欠であり、こうした局面で法人税負担が増加すれば、設備投資を鈍化させ、賃金引上げの動きも停滞することが強く懸念される状況にある。 他方、米国ではトランプ政権が昨年7月、国内での新規投資等を促すためにOBBBA(The One, Big, Beautiful Bill Act)を成立させ、米国内での設備投資に対する優遇税制を拡充している。また、ドイツでは、2028年から5年で5%、法人税率を毎年1%ずつ引き下げる法案が成立しており、各国間で法人税率の高低に加え、様々な措置を組み合わせた総合的な競争が生じている。 こうした中、わが国は以前から、利益に対する税率を示す法人実効税率が主要国の中で高く、2026年4月から防衛特別法人税が施行されたことで、これまで最も法人実効税率の高かったドイツの税率を上回り、実効税率は30%を超えている。OECDの統計で示されているように、実際に支払っている税負担率で見ても、主要国の中で最も高い状況にある。また、法人税が税収全体に占める割合も、わが国が主要国の中で最も高くなっている。これらの点を踏まえ、企業の成長投資を促進する観点から、国際的なイコールフッティングを確保する必要がある。主要国が投資支援を強化する中でさらに税率を引き上げることは、国内投資や研究開発投資の採算性を悪化させ、立地競争力の低下を招きかねない。海外から日本への投資を呼び込むためにも、国際的に魅力ある投資環境の整備が不可欠である。 〇主要項目 令和9年度税制改正要望の主要項目の一つは、人材育成税制である。製造業や建設業における技術の向上や継承、若年人材の育成など、サプライチェーンにおいて産業基盤を支えるための取組みが急務となっているが、このような人材育成の支出が直接的な対価関係を有しないと判断されれば、寄付金として扱われ、支出側でも損金算入できないおそれがある。そのため、人材育成への支援の取組みを積極的に促す税制措置を要望している。 また、企業の「稼ぐ力」を強化し、持続的な賃上げや成長投資の原資を確保するために、事業ポートフォリオの転換・強化を促す税制措置の創設を求めている。 加えて、少額減価償却資産の損金算入基準額や一括償却資産の損金算入基準額について、近年の物価上昇も踏まえて、上限の引上げを行うべきとしている。さらに、償却資産に対する固定資産税の見直しも求めている。 その他、研究開発税制やイノベーション・ボックス税制における活用の促進、自動車関係諸税の総合的な見直し、家事・育児支援支出に係る税制措置の創設、中小企業関連税制、土地・住宅・都市税制、金融関係の税制とあわせて、実務の簡素化・デジタル化の推進の観点から、納税環境整備の必要性についても提言している。 〇税・財政・社会保障一体改革 7月29日に行われた社会保障国民会議における中間とりまとめや、基本方針に関する8月5日の閣議決定を踏まえ、9月14日に与党税制調査会が税制改正大綱をとりまとめ、翌15日には閣議決定が行われた。所得に連動したきめ細かな給付として「就業者負担軽減支援金」が導入されることとなり、消費税減税とあわせた具体的な措置について、10月から始まる国会において、税制改正法案が審議される。ただし、中低所得者の可処分所得の向上および就労促進が引き続き重要であることから、今後も社会保障国民会議において、中福祉・中負担程度の社会保障制度を目指し、検討を継続すべきである。また、受益と負担の状況を正確に把握すべく、マイナンバーの活用および一元的な情報基盤の整備を進めることが肝要である。 一方、今後、所得に連動したきめ細かな給付の導入や飲食料品の消費税率の引下げに関連して、安定財源として法人に負担を求める声が大きくなる懸念があるが、先述した通り、法人税率の引上げは産業の国際競争力を低下させかねず、賛成できない。 〇国際課税 企業のグローバル活動を下支えする税制である国際課税に関して、グローバル・ミニマム課税については、追加的なセーフハーバーの着実な導入等による事務負担の軽減や、外国子会社合算税制との関係で生じる経済的二重課税を排除するよう求めている。また、外国子会社合算税制については、グローバル・ミニマム課税の導入などを踏まえ、過剰課税の解消および事務負担の軽減を図る観点から、早急な見直しが不可欠である。 加えて、カリフォルニア州における法人税の水際選択方式の提案への対応や、カナダなど近時租税条約が改定されていない国との租税条約の改定などについても要望している。 (了)
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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第83回】「役員給与に係る未払金を相殺・債権放棄・供託する場合の源泉徴収義務」
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第83回】 「役員給与に係る未払金を相殺・債権放棄・供託する場合の源泉徴収義務」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 源泉徴収における「支払」の範囲 居住者に対し国内において給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税及び復興特別所得税を徴収し、原則として翌月10日までに国に納付しなければならない(所法183①、復興財確法28①)。 ここにいう「支払」には、現実に金銭を交付する行為だけでなく、元本への組入れ、預金口座への振替その他その支払債務が消滅する一切の行為が含まれる(所基通181~223共-1)(※1)。したがって、役員給与を銀行口座に振り込んだ場合だけでなく、法人が役員に対して有する貸付金債権と役員が法人に対して有する未払役員給与債権とを相殺する場合、役員に代わって第三者に弁済した場合なども、その役員給与の支払債務が消滅する限り、源泉徴収義務における「支払」に該当することとなる。これに対し、役員給与を未払金計上しただけで、現実の支払や債務が消滅する具体的な事由が生じていない場合には、原則として、その時点で源泉徴収義務は生じない(※2)。 (※1) ただし、時効による債務の消滅は支払には該当しないと説かれている。三又修・樫田明・一色広己・石川雅美共編『平成29年度版 所得税法基本通達逐条解説』(大蔵財務協会,2017)1075頁。 (※2) 国税庁HPタックスアンサーNo.2526「給与が一部未払の場合の源泉徴収」。 尤も、法人の「源泉徴収義務が生ずる時期」と、給与を受け取る側である役員の給与所得を「収入すべき時期」は、必ずしも一致しない。というのは、上記の通り法人の源泉徴収義務は原則として現実の支払時に生ずるのに対し、支給日が定められている給与については、役員個人の収入すべき時期はその支給日となるためである(所基通36-9(1))。このため、未払役員給与について、役員個人には給与所得が生じているものの、法人にはまだ源泉徴収義務が生じていないという状態があり得る。これらを前提に、(2)以下で、質問における具体的な取扱いを検討することとしたい。 (2) 相殺・債権放棄・供託をした場合 まず、法人が役員に対して有する貸付金債権と、役員が法人に対して有する未払役員給与債権とを相殺した場合には、双方の債権が消滅する。この場合には、相殺によって消滅した役員給与の額については、相殺時に支払があったものとして源泉徴収を行う必要がある。 なお、役員に対する債権と役員借入金を相殺する方法は、本連載において、役員借入金を解消する方法の1つとして取り上げている(【第34回】参照)。尤も、今回取り上げているのは、役員から法人への金銭貸付けによって生じた役員借入金ではなく、役員の職務執行の対価として生じた役員給与のうち未払となったものである。そのため、相殺によって法人の債務が消滅することに加え、その相殺が源泉徴収義務における「支払」に該当する点に留意が必要となる。この場合には、役員給与額から源泉所得税等の控除額を差し引いた手取額を役員貸付金と相殺し、源泉所得税等に相当する金額は預り金として処理することが考えられる。 次に、役員が未払役員給与として生じた債権を放棄した場合である。役員から法人に対する債権放棄について、本連載では、役員借入金の解消方法として取り上げている(【第34回】参照)。役員借入金の債務免除を受けた法人には、原則として債務免除益が発生するほか、債務免除によって法人の株式価値が増加した場合には、他の株主についてみなし贈与の問題が生じ得る(相法9、相基通9-2(3))。この場合には、上記と同様に、その債務が役員給与の支払債務であることから、法人税や相続税だけでなく、源泉徴収義務の論点が加わることとなる。給与等その他の源泉徴収の対象となる未払金について、支払者がその支払債務の免除を受けた場合には、債権放棄によって役員給与の支払債務が消滅するため、原則として、その債務免除を受けた時に支払があったものとして源泉徴収を行うこととされている(※3)。 (※3) ただし、その債務免除が、法人の債務超過の状態が相当期間継続し、その支払いをすることができないと認められる場合に行われたものであるときは、債務免除時に支払いがあったものとする取扱いの対象外とされている(所基通181~223共-2但書)。 なお、役員が、法人の特別清算、破産、民事再生若しくは会社更生又はこれらに準ずる会社整理の場面において、一般債権者の損失を軽減するため、その立場上やむを得ず未払賞与等の受領を辞退した場合には、その辞退部分について源泉徴収をしなくても差し支えないとされている(所基通181~223共-3)。つまり、源泉徴収義務がないと判断するには、単に役員と法人との合意によって未払給与を放棄すれば足りるのではなく、法人の財務状況、会社整理の状況、一般債権者との関係及び放棄に至った経緯等を明らかにしておく必要があるといえるだろう。 最後に、役員給与債権について差押えの対象となった場合について、実務上あまり生じないと思われるが、触れておくこととする。この場合には(※4)、役員への本来の弁済が禁止となるため、法人が供託を行うことも想定される(民事執行法156①)。その場合には、供託によって法人の役員給与債務が消滅するため、その供託時に支払があったものとして源泉徴収を行う必要がある。この点において国税庁は、債権者の受領拒否を理由とする賃借料の弁済供託について、供託により支払債務が消滅することから、供託時に源泉徴収が必要になるとの考え方を示している(※5)。なお、この質疑応答事例は弁済供託(民法494)に関するものであり、執行供託(民事執行法156)を直接取り扱ったものではない。しかし、供託によって支払債務が消滅する範囲について源泉徴収上の「支払」があったと捉える点は、執行供託についても同様に捉えることができると思われる。そして、実際の供託額については、源泉所得税等を控除した後の金額を前提に、差押命令の内容及び供託原因を確認する必要がある。 (※4) 民事執行法152条1項2号により、一般の給与債権については、原則として支払期に受けるべき給付の4分の3に相当する部分が差押禁止とされる。これに対し、取締役の報酬債権は、原則として同号の給与債権には該当せず、同項による差押禁止の対象とはならないと解されている。 (※5) 国税庁HP質疑応答事例「弁済供託する場合の源泉徴収義務」 (3) 現金が動かないからこそ生ずる注意点 相殺、債権放棄又は供託を行う場合の実務上の問題は、役員に現金が交付されないにもかかわらず、法人に源泉徴収義務が生じ得る点にある。 特に、未払役員給与と役員貸付金をそれぞれ総額で相殺してしまうと、法人が役員から源泉所得税等を徴収すべき税額の原資を確保できない。法人が源泉所得税等を立替納付した場合には、実務上、役員に対する求償権が生じるため、貸付金として処理することになるだろう。そして、法人がその部分を最終的に負担することとした場合には、いわゆるグロスアップ計算にて、手取額から額面金額を逆算して源泉徴収税額を計算する必要があり、その法人負担額自体が追加的な役員給与となる(所基通181~223共-4)。その追加的な給与は法人税法34条1項に掲げる3類型のいずれにも該当しないことが想定されるため、法人側ではその額が損金不算入となる点にも留意が必要となる。 また、未払役員給与を役員借入金勘定へ振り替えたからといって、直ちに「支払」があったとは限らない。しかし、役員との合意により未払役員給与債務を消滅させ、同額の金銭消費貸借に基づく債務を新たに成立させた場合や、役員がその金額を自由に引き出すことができる状態となった場合には、その振替時に支払があったものとみる余地もあると考えられる。これに対し、法人が決算整理として勘定科目を一方的に付け替えただけであれば、役員給与債務の法的性質は変わっていない可能性もある。特に中小企業においては、会計上の勘定科目を変更したことと、法律上の債務が消滅したことは、必ずしも同じではないという実態があるのではないだろうか。 したがって、厳密には、会計仕訳だけを見て源泉徴収の時期を判断するのではなく、相殺契約書、債務承認書、債権放棄通知書、取締役会議事録及び供託書等により、いつ、どのような法律関係によって役員給与債務が消滅したのかを確認する必要があると考えられる。 なお、役員に対する賞与については、その支払が確定した日から1年を経過した日までに支払われない場合、その1年を経過した日に支払があったものとみなされる(所法183②)。ここからは、未払役員賞与については、相殺も債権放棄も行わず未払金として残しておきさえすれば、源泉徴収義務が生じないままとなるわけではない。これに対して、この1年経過によるみなし支払の規定は、法人の役員に対する「賞与」を対象とするものであり、毎月定額で支給される通常の役員給与に一律に適用されるものではない。したがって、未払役員給与を検討する際には、それが定期的な報酬であるのか、役員賞与であるのかを区分する必要がある。 なお、資金繰りが悪化した法人が特に見落としやすい論点として、1年経過によって既に支払があったものとみなされた未払役員賞与につき、その後、法人の支払不能を理由として債権放棄が行われても、法人が納付した源泉所得税額は過誤納金として還付されない(所基通181~223共-2(注))。債権放棄を検討するのであれば、1年経過前に、法人の財務状況及び受領辞退の要件を確認しておく必要がある。 また、未払役員給与の放棄によって法人に生ずる債務免除益については、法人税基本通達4-2-3に具体的取扱いが示されている。同通達は、法人税法34条1項により損金不算入とされた未払給与について、取締役会等の決議に基づき、その全部又は大部分を会社整理、事業再建又は業況不振を理由として支払わないこととし、かつ、その支払わない金額が各人の受給額に応じて計算されるなど、一定の基準により決定されている場合には、一定額を益金の額に算入しないことができるとしている。役員借入金の債権放棄に伴う債務免除益についても【第34回】で取り上げたが、未払役員給与については、法人税法34条1項による損金不算入と債務免除益との重複を調整するための取扱いが設けられている点で異なっている。 このように、役員給与を現金で支払わない場合、「現金が動いていない」という事実だけから源泉徴収義務がないと判断することは早計である。相殺、債権放棄、供託又は勘定振替によって、役員給与の支払債務がいつ、どの範囲で消滅したのかを確認することが重要である。 (了)
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【特別編:第3回】「総合課税ルートと経路選択」
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【特別編:第3回】 (最終回) 「総合課税ルートと経路選択」 東洋大学法学部教授 泉 絢也 1 総合課税ルートは消えない 第2回でみたとおり、分離課税が適用されるのは、居住者等が特定暗号資産を暗号資産取引業者への売委託又は暗号資産取引業者に対する譲渡により譲渡した場合に限られる。 裏返せば、次のものはいずれも総合課税のままである。 これらの範囲は決して狭くない。DeFiで取得したガバナンストークンやエアドロップで受け取ったトークンなど、登録簿に名称が登録されていない暗号資産は多数存在する。 しかも、納税者は取引経路を選ぶことによって、容易に総合課税を選択できる。国内取引所にある特定暗号資産を海外取引所やウォレットに移し、そこで譲渡すればよいからである。 したがって、改正後の実務では、分離課税ルートと総合課税ルートの双方を理解しておく必要がある。 2 総合課税側でも所得税法本法が改正された 分離課税の陰に隠れがちであるが、今回の改正では所得税法本法にも手が入っている。 まず、譲渡所得の区分に「暗号資産の譲渡による所得」が新設された(所法33③三)。従来、国税庁は、暗号資産について、譲渡所得の基因となる資産には該当しないという立場をとっていたから、これは長年の論争に立法的な決着をつけるものである。 もっとも、これによって暗号資産の売却益が一律に譲渡所得になるわけではない。営利を目的として継続的に行われる資産の譲渡による所得は譲渡所得から除かれるため(所法33②一)、実務上は引き続き雑所得(又は事業所得)に区分される可能性は残る。 そのうえで、新設された暗号資産譲渡所得は、他の譲渡所得とは異なる扱いを受ける。 【譲渡所得の3区分】 区分 対象 50万円 特別控除 2分の1 課税 短期譲渡所得 (所法33③一) 暗号資産以外の資産の譲渡による所得で 取得の日以後5年以内のもの あり なし 長期譲渡所得 (所法33③二) 暗号資産以外の資産の譲渡による所得で 上記以外のもの あり あり 暗号資産 譲渡所得 (所法33③三) 暗号資産の譲渡による所得(保有期間の 長短を問わない) なし なし そして、暗号資産の譲渡益からは最大50万円の特別控除が排除され(所法33④⑤)、2分の1課税の適用対象からも除外されている(所法22②)。 ここで注意を要するのは、この2つの制限が所得税法本法の改正によって行われているという点である。 上場株式等や先物取引の分離課税では、措置法の中で本法の計算規定を読み替えることによって50万円特別控除を排除している。これに対し、暗号資産については本法そのものを改正しているため、制限は分離課税ルートか総合課税ルートかを問わず及ぶ。 「総合課税を選べば譲渡所得として特別控除が使える」「5年超保有だから2分の1課税が使える」という理解は誤りである。経路選択によっても、この2つの制限からは逃れられない。 これに対し、損失の取扱いは根拠条文がルートによって分かれる。総合課税ルートでは、暗号資産で譲渡所得の基因となるものに係る損失が、損益通算の段階で生じなかったものとみなされる(所法69②)。分離課税ルートの隔離は、第2回でみたとおり、措置法により損益通算の計算から切り離される(措法38の2①後段・②二)。 両者の違いは事業所得に現れる。総合課税ルートでは、暗号資産取引が事業所得に区分される場合の損失は従来どおり損益通算できるのに対し、分離課税ルートでは事業所得の損失も損益通算に使えない。 逆にいえば、この3つの制限のうち経路選択によって変わりうるのは、損失の取扱いだけである。 なお、譲渡所得に区分されることによって新たに適用の余地が生じる規定もある。相続財産に係る取得費加算の特例(措法39)や、保証債務を履行するために資産を譲渡した場合の特例(所法64②)がその例である。 【改正前後の取扱いの比較】(税率は復興特別所得税等を含まない) 項目 改正前 改正後(特定暗号資産・国内取引所) 改正後(それ以外) 課税方式 総合課税 分離課税 総合課税 税率 累進 15~55% 比例 20% 累進 15~55% 損益通算 雑所得は不可、事業所得は可 不可(完全隔離) 雑所得・譲渡所得は不可、事業所得は可 損失の 繰越控除 不可(青色の事業所得を除く) 3年間可 不可(青色の事業所得を除く) 50万円 特別控除 ー(譲渡所得該当性が否定されていた) 不適用 不適用 2分の1 課税 ー 不適用 不適用 3 経路選択という新しい論点 同じ種類の暗号資産であっても、どこで売るかによって課税方式が変わる。ここから、従来は存在しなかった「経路選択」という論点が生じる。 前提として押さえておきたいのは、取得価額の計算が分離課税と総合課税を通じて統一されている点である。 暗号資産の評価は種類ごとに行われ(所令119の2①)、譲渡の場や課税方式によって取得価額を区分して計算する定めはない。したがって、同じビットコインであれば、国内取引所で売っても海外取引所で売っても、1単位当たりの取得価額は同一である。 経路選択によって納税者が決められるのは、その譲渡から生じた損益を分離課税と総合課税のどちらで処理するかということだけである。取得価額まで選べるわけではないから、同一時点で「含み益のあるビットコインは国内で、含み損のあるビットコインは海外で」というような選り分けはできない。 そのうえで、経路選択の着眼点は大きく2つある。 第1に、利益局面での税率の比較である。 【税率の比較】(復興特別所得税等・住民税を含む) 課税所得金額 総合課税 分離課税 195万円以下 15.105% 20.315% 195万円超 330万円以下 20.21% 20.315% 330万円超 695万円以下 30.42% 20.315% 暗号資産の譲渡以外に所得がない場合であれば、課税所得金額330万円までは総合課税、超過分は分離課税とするほうが、税負担は小さくなる。 もっとも、給与所得等がある場合は事情が異なる。総合課税ルートを選べば暗号資産の利益は他の所得と合算されるため、税負担の増加分は他の所得の水準に左右される。暗号資産の利益を除いた課税総所得金額が既に330万円を超えている場合、暗号資産の利益を加えたことによる税額の増加分は、その利益の30.42%以上となる。 第2に、損失局面での損失の使い道である。 分離課税ルートでは、損失は箱の中で3類型間の通算に用いられ、控除しきれない額は3年間繰り越せる(措法38の3)。他方、箱の外に持ち出して給与所得等と損益通算することはできない。 総合課税ルートでは、事業所得に区分される場合に限り、損失を給与所得等と損益通算できる(所法69①)。青色申告者であれば純損失の繰越控除(所法70)も使える。 したがって、暗号資産取引を事業として行う者が大きな損失を出した年には、総合課税ルートのほうが有利となる場合がある。翌年以後に分離課税の対象となる特定暗号資産の利益が見込めなければ、繰越控除は3年の期限切れで切り捨てられてしまうからである。 逆に、雑所得や譲渡所得に区分される場合には、総合課税ルートでも損益通算はできず、繰越控除の制度もない。この場合は、分離課税ルートで繰越控除に回すほうが有利となりやすい。 なお、損失局面の判断は、翌年以後の相場の見通しに左右される。分離課税の繰越控除は翌年以後の特定暗号資産の利益からしか使えないため、市場の低迷が続けば3年の期限切れで切り捨てられる。もっとも、相場を見通すことは容易ではなく、想定が外れれば損失の使い道を失う。ここが経路選択の限界である。 4 経路選択にあたっての留意点 経路選択は合法的な制度の利用であるが、実行にあたっては次の点に注意したい。 第1に、評価方法の選択が実行可能性を左右する。 移動平均法であれば売却時点で1単位当たりの取得価額が確定するため、年の途中で「ここまでを総合課税、ここから先を分離課税」と数量を配分できる。これに対し、法定評価方法である総平均法では、年末まで取得価額が確定しないため、年の途中での振り分けは確定できない。 移動平均法を選ぶには、その種類の暗号資産を初めて取得した年分の確定申告期限までに届出をする必要がある(所令119の3①②)。届出をしなければ、法定評価方法である総平均法が適用される(所法48の2①、所令119の5①)。 既に総平均法によっている場合は、変更しようとする年の3月15日までに承認申請を行う(所令119の4)。ただし、現在の評価方法を採用してから相当期間(おおむね3年)を経過していないときなどは、申請が却下されることがある(所令119の4②、所基通47-14、48の2-3)。 第2に、移管の過程が課税イベントを生まないかを確認する必要がある。 自己のウォレット間・口座間の移管そのものは譲渡ではない。しかし、その過程でラップトークン化やクロスチェーンブリッジ、ステーブルコインへの交換が挟まれば、それぞれが暗号資産同士の交換として独立した課税イベントとなりうる。 第3に、取引は課税当局に把握されうる。 第2回で述べた特定暗号資産年間取引報告書には移出数量が記載されるため、課税当局は移出先での取引が適正に総合課税として申告されているかを確認できる。また、CARF(暗号資産等報告枠組み)により、参加国に所在する取引所での取引情報も国際的に交換される。 第4に、いずれのルートを選んでも、利益は合計所得金額に算入される。 配偶者控除・扶養控除・基礎控除・住宅ローン控除等の適用判定に影響が及ぶ点は、第2回で述べたとおりである。 第5に、特定暗号資産に該当するかどうかは固定的ではない。 登録簿への登録の有無や財務省令による除外・追加は、制度の運用開始後も変動しうる。判断は売却を実行する時点の該当性に基づいて行う必要がある。 第6に、税以外のコストとリスクがある。 経路選択は、多くの場合、国内取引所と海外取引所やウォレットとの間で暗号資産を移管することを伴う。送金(出庫)手数料やネットワーク手数料(ガス代)、各取引所の売買手数料やスプレッドの差、海外取引所で取引した場合の円換算の手間は、そのまま経路選択のコストとなる。 また、送金先アドレスの誤りやネットワークの取違えによって暗号資産を失うリスク、プライベートウォレットで保管する場合の秘密鍵の紛失や漏えいのリスクも無視できない。秘密鍵を失えば、税負担の多寡以前に資産そのものを失う。 税率差だけを見て経路を決めるのではなく、これらの負担を含めて総合的に判断する必要がある。 5 消費税でも位置付けが変わる 最後に、所得税以外の改正にも触れておきたい。 消費税法施行令の改正により、暗号資産の譲渡は「支払手段に類するもの」から「有価証券に類するもの」の譲渡へと再分類される(消令9①一)。非課税であるという結論自体は変わらない。 実務上の影響が大きいのは、課税売上割合の計算である。改正前は分母にも分子にも算入されなかったが、改正後は譲渡対価の5%相当額が分母に算入される(消令48⑤)。 暗号資産の譲渡額が大きい事業者ほど課税売上割合が低下し、仕入税額控除が制限されることになる。暗号資産取引業者や、暗号資産を決済手段として日常的に用いるweb3事業者は、「課税売上割合に準ずる割合」(消法30③)の承認申請の要否を含め、適用開始前に試算しておくべきである。 あわせて、暗号資産の貸付け(レンディング)の利用料が非課税とされた(消令10③十一)。ただし、この利用料は譲渡対価とは異なり、課税売上割合の分母に全額が算入される点に注意を要する。 6 令和8年度税制改正を振り返って 3回にわたり、令和8年度税制改正による暗号資産の分離課税の全体像を紹介した。 改正の中心は20%の申告分離課税と3年間の繰越控除であり、これは長年の要望が実現したものである。 しかし、その対象は特定暗号資産を、暗号資産取引業者を通じて譲渡した場合に限られ、それ以外は総合課税のまま残された。改正後の暗号資産税制は、分離課税と総合課税が併存する二重の構造をとる。 「分離課税になった」という一言で片づけず、自分の取引がどちらのルートに乗るのかを一件ごとに判定すること。これが、改正後の実務の出発点となる。 (了) 本連載の筆者による新刊 暗号資産の税金はこう変わる -分離課税の仕組みと実務- 泉絢也 著/清文社 令和8年度税制改正で創設された特定暗号資産の申告分離課税(措法38の2)と譲渡損失の繰越控除(措法38の3)を、適用要件・計算・経路選択まで条文に沿って解説しています。 書籍の詳細をみる ▶
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所得税
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税務・会計
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税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 【第5回】「従業員用の借上げ社宅⑤」~付随的論点と特殊ケースへの対応~
税理士が押さえておきたい「社宅」の税務と周辺知識 第5回 従業員用の借上げ社宅⑤ ~付随的論点と特殊ケースへの対応~ 公認会計士・税理士 桝井康弘 〇駐車場付物件の取扱い 〇家具・家電付住宅の賃貸料相当額 (※) 「社員に家具等を貸与した場合の経済的利益」(国税庁質疑応答事例) 〇社宅の管理費の取扱い (※) 「役員に貸与したマンションの管理費」(国税庁質疑応答事例) 〇火災保険・家財保険の取扱いと費用負担 借家人賠償責任 補償特約 火災、破裂・爆発、水ぬれなどで借家人が大家さんに対し損害賠償責任を負った場合に補償を受けられるもの 個人賠償責任特約 洗濯中にホースが外れ下の階の住人に水漏れ被害を与えてしまうなど、入居者が他人に対し損害賠償責任を負った場合に補償を受けられるもの 〇結婚した場合の取扱い 〇広い社宅の一部を使用しているにすぎない場合 (次回に続く)
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所得税
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給与計算の質問箱 【第80回】「令和9年分源泉徴収税額表の変更点」
給与計算の質問箱 【第80回】 「令和9年分源泉徴収税額表の変更点」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 令和9年分源泉徴収税額表は、令和8年分源泉徴収税額表と比較して変更点はあるでしょうか。 A 給与と賞与の源泉徴収税額表は一部変更されたが、退職所得の源泉徴収税額表は変更がなかった。具体的には、以下のとおりである。 * * 解 説 * * 防衛特別所得税が令和9年1月1日から適用されることに伴う文言の追加や令和8年度税制改正により基礎控除(本則)が4万円引き上げられたことにあわせた扶養親族などの所得要件の変更(58万円→62万円)が反映されている。 1 表紙の変更点 令和9年分から「防衛特別所得税」の文言の追加等が行われている。赤枠が変更点である(以下同様)。 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」より抜粋 《令和9年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和9年分源泉徴収税額表」より抜粋のうえ筆者作成 2 「税額表の使い方の注意書き」の変更点 〈19~20頁〉 令和8年分では所得の見積額が58万円であったが、令和8年度税制改正により基礎控除(本則)が4万円引き上げられたことに伴い、令和9年分では所得の見積額が62万円に変更されている。 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」19~20頁より抜粋のうえ筆者作成 《令和9年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和9年分源泉徴収税額表」19~20頁より抜粋のうえ筆者作成 3 「扶養親族等の数の算定方法」の変更点 〈20~21頁〉 上記2と同様の理由から「扶養親族等の数の算定方法」について「58万円」の記載が「62万円」に変更されている。 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」20~21頁より抜粋のうえ筆者作成 《令和9年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和9年分源泉徴収税額表」20~21頁より抜粋のうえ筆者作成 4 「納付書の記載のしかた」の変更点 〈25頁〉 令和8年分では左上に「年度」欄があったが、令和9年分では右下になった。令和8年分では「整理番号」欄があったが、令和9年分では「整理番号」欄はなくなり、「お問い合わせ番号」欄になった。 《令和8年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和8年分源泉徴収税額表」25頁より抜粋のうえ筆者作成 《令和9年分》 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (※) 国税庁「令和9年分源泉徴収税額表」25頁より抜粋のうえ筆者作成 (了)
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相続税・贈与税
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相続税の実務問答 【第123回】「共同相続人の一人に失踪宣告の申立てを行う場合」
相続税の実務問答 【第123回】 「共同相続人の一人に失踪宣告の申立てを行う場合」 税理士 梶野 研二 [答] 相続税の申告書の提出期限までに、叔父様の失踪宣告の審判が確定しない場合には、あなた方姉妹と叔父様を伯母様の相続人とし、法定相続分の割合により伯母様の財産を取得したものとして相続税の計算をして相続税の申告をする必要があります。その後、叔父様の失踪宣告の審判が確定し、叔父様が死亡したとみなされた日が伯母様の相続開始より前であるときには、伯母様の相続人はあなた方2人となり、相続人の数が減ることとなりますので、相続税の再計算を行い、相続税の修正申告をすることとなります。 なお、叔父様が有する財産がある場合には、叔父様の財産について相続税の申告が必要となる場合があります。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 被相続人に配偶者、子及び直系尊属がいない場合の相続人 亡くなった者に、子(代襲相続人を含みます)がなく、直系尊属もいない場合には、その者の兄弟姉妹が相続人になります(民法889①)。兄弟姉妹のうちに既に亡くなっている者がいれば、その子(亡くなった者の甥・姪)が代襲して相続人となります(民法889②、887②)。なお、亡くなった者に配偶者がいれば、その配偶者も相続人になります(民法890)。 2 不在者の失踪宣告 7年間以上生死不明の者(その者を、本稿において「不在者」といいます。)がある場合には、家庭裁判所は、利害関係人からの請求により失踪宣告をすることができます(普通失踪の場合)(民法30①)。失踪宣告がされると、失踪宣告を受けた不在者は、最後に生存が確認された時から7年間が経過した時に死亡したものとみなされます(民法31)。 3 相続税の申告 相続人及び受遺者(以下「相続人等」といいます。)のうちの一人が不在者でその生死が不明であっても、その不在者以外の相続人等は、被相続人に相続の開始があったことを知った日の翌日から起算して10か月以内に、被相続人の財産について相続税の申告をしなければなりません。この場合の相続税については、その不在者が当該相続開始時に生存していたものとして、相続税の基礎控除額の計算、相続税の総額の計算及び生命保険金や退職手当金の非課税金額の計算を行うこととなります。 (注) 通常、当該不在者は、被相続人の相続開始の事実を知らないと思われますので、当該不在者については相続税の申告期限は到来しませんが、不在者であった者又はその財産管理人が、被相続人に相続が開始したことを知った場合には、被相続人に相続が開始したことを知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告をする必要があります(【第122回】「共同相続人中に不在者がいる場合」参照)。 なお、一部の相続人が不在者であることを理由として他の相続人等の相続税の申告期限が延長されることはありません。 4 相続税の申告期限後に失踪宣告が行われた場合 (1) 不在者について失踪宣告がされるとその不在者は、最後に生存が確認された時から7年間が経過した時に死亡したものとみなされます。不在者が死亡したものとみなされた時が被相続人の相続開始前であるとすると、失踪宣告を受けた者は、その被相続人の相続人ではなかったこととなります。そのため、被相続人の相続人であるものとして当該被相続人に係る相続税の申告手続き等が行われていた場合には、その申告等の是正が必要となります。 失踪宣告を受けた者は相続人ではなくなったことから、その者を除いて相続税額の再計算をした結果、他の相続人等の相続税額が減ることとなるときには、相続税法第32条第1項第2号の規定に基づき更正の請求をすることができます。一方、当該者を相続人から除くことにより、他の相続人等の相続税額が増えることとなる時には、相続税の修正申告をすることができます。修正申告がされないときには、税務署長が更正をします。 (注) 不在者が失踪宣告を受け、相続人ではなくなった場合、相続税法第15条第2項に規定する相続人の数が減ることから、そのことが相続税額の基礎控除額や相続税額の計算、さらには生命保険金や退職手当金の非課税金額の計算に影響し、他の相続人等の相続税額が増加することが多いと思います。ただし、相続人の失踪宣告があったことにより後順位の者が相続人となるようなケース(例えば、唯一の子が失踪宣告を受け、第一順位の相続人が存在しないこととなった場合において、第二順位の相続人又は第三順位の者が相続人となったときにおいて、これらの者が複数名いるケースなど)では、遺産の遺贈を受けた受遺者の相続税額が減少することがあり得ます。 (2) 失踪宣告がされると、通常、その者は、最後に生存が確認された時から7年間が経過した時に死亡したものとみなされます。そうしますと、その者が財産を保有していた場合には、その失踪宣告がされた者の相続人が失踪宣告をされた者を被相続人とする相続税の申告をする必要があります。その場合の申告書の提出期限は、失踪宣告に関する審判の確定したことを知った日の翌日から10か月以内となります(相法27①、相基通27-4(1))。 5 ご質問の場合 (1) あなた方姉妹は、伯母様の相続人として伯母様の相続開始を知った日の翌日から10か月以内に相続税の申告書を提出しなければなりません。この時点で叔父様の失踪宣告がされていないとすれば、叔父様も伯母様の相続人に含めて、各相続人が法定相続分の割合で伯母様の財産を取得したものとして相続税を計算することとなります。 伯母様の遺産の中に賃貸物件がある場合など小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例(以下「小規模宅地等の特例」といいます。)を適用できる可能性がある場合には、「申告期限後3年以内の分割見込書」を相続税の期限内申告書に添付しておきます。 (2) 叔父様の失踪宣告がされたときには、叔父様を相続人から除いて相続税額を再計算することとなります。戸籍上、叔父様には子がないと認められますので、相続人の数が減少することとなり、あなた方の相続税額は増加しますので、相続税の修正申告をします。 その後、あなたと妹さんとの間で遺産分割が調い、小規模宅地等の特例の適用が可能となった場合には、更正の請求をすることができます。 (注) 叔父様に帰属する財産(叔父様の名義となっている不動産など)があるとすれば、あなた方姉妹は、叔父様の相続人として、必要に応じて叔父様の失踪宣告の審判の確定した日の翌日から10か月以内に被相続人を叔父様とする相続税の申告をします。 (了)
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国際課税
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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第104回】「IHI事件 -取引単位営業利益法(TNMM)に準ずる方法と同等の方法による課税処分が取り消された事例-(地判令5.12.7、高判令6.12.11)(その1)」~租税特別措置法66条の4第1項等~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第104回】 「IHI事件 -取引単位営業利益法(TNMM)に準ずる方法と同等の方法による課税処分が取り消された事例- (地判令5.12.7、高判令6.12.11)(その1)」 ~租税特別措置法66条の4第1項等~ 税理士 中野 洋 1 制度の概要 (1) 申告調整型 租税特別措置法(以下「措置法」)66条の4第1項では、国外関連取引により法人の所得が国外に移転しているとき、その取引は独立企業間価格(以下「ALP」)で行われたものとみなすとしている。つまり、法人は、国外関連取引について、ALPにより行われたものとして所得を計算しなければならず、先ずは法人の判断により、申告調整を行うべき規定である。また、わが国の移転価格税制のモデルとなった米国の内国歳入法(IRC)482条は、課税庁の権限において、国内外を通じて、関連者間の所得を配分する規定である。したがって、わが国の移転価格税制は「支払いを受ける対価の額がALPに満たないとき」及び「支払う対価の額がALPを超えるとき」のみを課税対象とすべきこととなる。 (2) 内部取引を外部取引に引き直す制度 移転価格税制は、関連者間の取引を非関連者間の取引に引き直す制度である。しかしながら、非関連者間において成立する取引価格の算定には困難を伴う。ALPは、比較法により算定することから、比較対象取引が必要となるところ、それが容易には見つからない。国外関連取引のすべてについて、比較可能な取引を見つけ出し、比較することができるのか。この問題に対する現実的な回答は、データベースを参照し、営業利益で比較するという方法であった。比較に際しては、内部市場にある取引(関連者間の取引)を外部市場の尺度(非関連者間の取引)で図ることになるため、特に無形資産が関係する取引については限界が指摘されている(※1)。 (※1) 「外部市場において比準すべき独立当事者間の取引を懸命に探索しても、実際には見つからないことが多い。しかも、理論的に見ても、高度に統合された企業は、規模の利益や取引費用の節減により、独立の当事者がただ集まっただけよりも高い収益率を享受しうる。特に、・・・多国籍企業は、無形資産(intangibles)にかかる市場の失敗を内部組織化によって補っている。であるから、無形資産に帰せられる超過収益は、組織外部の取引との比準によってはとらえることができない。こうして、独立当事者間基準には、執行上も、理論上も、ほころびが指摘されるようになった。」-増井良啓・宮崎裕子『国際租税法[第4版]』東京大学出版会(令1.12)198~199頁 (3) 「価格・粗利益」から「営業利益」へ 伝統的なALPの算定方法は、非関連者間で成立する「価格」又は「粗利率」との比較において算定する基本三法である。しかしながら、内部取引(※2)で比較可能な取引がある場合を除き、現実の市場取引の中から、国外関連取引と同種の比較対象取引を見つけ出すことは極めて困難である。措置法66条の4第2項柱書では、ALPの算定に際して、同項1号から4号に掲げる方法のうち最も適切な方法(ベスト・メソッド)によるべきこととしているが、1号から3号の基本三法との比較では、比較可能な取引を見つけ出すことができず、消去法的に、4号における営業利益ベースでの比較とならざるを得ない。 (※2) とはいえ、同一市場に子会社を設立しておきながら、同様の第三者間取引を行うことは、経済合理性の観点からは考え難い。 また、価格又は粗利率との比較では、機能・リスク・無形資産(以下、これらを「機能等」)の影響を直接受けることから、これらの影響による差異を調整する必要がある。しかしながら、このような差異を調整するためには、比較対象取引に関する詳細な情報が必要となる上、そもそも無形資産について比較対象取引を見つけ出すのは困難である。一方で、機能等の差異の多くは販売費及び一般管理費(以下「販管費」)に反映されることから、営業利益率で比較することとすれば、このような差異が販管費の中で調整され、重要な差異が生じる可能性が低くなる。 (4) 本件算定方法 ① データベースによる法人単位の比較 比較対象取引の存在を前提としたALPの算定では、殆どのケースで企業情報データベースに依拠せざるを得ない。しかしながら、データベースに掲載されている情報は、「取引単位」ではなく「法人単位」の情報である。したがって、情報の入手可能性により殆どのケースで、消去法的に、法人単位、かつ、営業利益指標を使用した比較・検討が行われることになる。本件においても、比較対象取引の売上高営業利益率(以下「OPM」)を指標とする取引単位営業利益法(以下「TNMM」)に準ずる方法と同等の方法による課税処分の適否が争点となったが、当該算定方法では国外関連取引の当事者のうち、単純な機能を有する側(換言すれば、無形資産などの重要な機能を有さない側)のみを検証対象とすることから、無形資産の評価問題が解消される。本件では、検証対象法人と比較対象取引(法人)との間で生じる機能等に関する差異は、営業利益率に重大な影響を与えない旨の判示がなされている。 ② 売上高営業利益率によるTNMM TNMMでは、国外関連取引の当事者のうち比較的単純な機能を有する側(本件のようなアウトバウンド取引の場合、通常は国外関連者)を検証対象法人とし、検証対象取引と同種又は類似の比較対象取引(実際には、殆どのケースで比較対象法人)を選定し(※3)、比較可能性を検証する。このようなケースで使用されている営業利益指標の一つがOPM(※4)であり、検証対象法人の営業利益率を比較対象法人の営業利益率に引き直す。この方法では、国外関連者に割当てられる利益は、単純な機能等を有する比較対象法人の営業利益となることから、残りの超過利益はすべて国内の親会社に割当てられる。したがって、営業利益指標を使用するTNMMには、税収面での理由がある。しかも、データベースを使用した(単純な機能を有する側の)片側検証であることから、執行上も容易である。 (※3) 複数の取引が密接に関係し、一体・不可分の関係にあることのみをもって、法人単位の比較を正当化することはできないであろう。企業は、様々な事業を行っていることから、比較対象法人が類似の事業のみを行っているとは限らず、したがって、結局は、情報の入手可能性という理由に行き着くことになるであろう。 (※4) 本件事案の当時の措置法施行令39条の12第8項には、2つの営業利益指標が規定されていた。同2号にOPMを営業利益指標とするTNMMが、同3号に総費用営業利益率を営業利益指標とするTNMMもあったが、本稿におけるTNMMは当時の2号TNMMを指すものとする。判決文においてはTNMMの後に(2号)と付記するが、本稿においてはこれも省略する。 ③ 利益指標の分母は非関連者との取引 TNMMの適用に際して使用する営業利益指標は、関連者間取引と非関連者間取引の組合せにより決まり、営業利益指標の分母は非関連者との取引の数字を使用する。また、国外関連取引の単純な機能等を有する側(本件では、国外関連取引の買手)が検証対象法人となり、概ね、これらの要素にもとづき営業利益指標を決定する。本件のようなアウトバウンド取引においては、買手の営業利益に着目することとなり、営業利益指標としてはOPMを使用することとなる。この場合、国外関連取引の買手における再販売取引が分母の数字となることから、当該再販売取引は非関連者間との取引でなければならない。 本件においては、分母の数字(国外関連取引の買手における再販売取引)は非関連者との取引であるべきところ、関連者への販売取引が混ざっており、逆に、本件国外関連取引の中にも、非関連者との取引(現地サプライヤーからの部材の調達。以下「非関連購入取引」)が混ざっていた。 ≪図1≫(※5) (※5) 信成国際税理士法人『移転価格文書の作成のしかた』中央経済社(平30.12)38頁より引用 2 事案の概要 (1) 取引関係図≪図2≫ (2) 事案の経緯 IHIターボタイランド社(以下「S」)は、平成14年2月、(株)IHI(旧社名:石川島播磨重工業。以下「X」)から直接又は間接に計90%の出資を受けてタイに設立された法人であり、Xに係る措置法66条の4第1項所定の国外関連者である。取引の概要は≪図2≫のとおりであり、Sは、車両過給機の部品又は部材をX又は現地サプライヤーから購入し、車両過給機を製造した上で、主として日系自動車メーカーに販売するほか、その一部完成品や部品をXの関係会社に販売していた。課税庁(以下「Y」)が選定した比較対象法人は、タイの上場企業2社(C1・C2)であるが、いずれも自動車部品を製造し、日系自動車メーカーに販売していた(以下「本件比較対象取引」)。また、タイにおける車輛過給機の製造に際して、X・S間では≪図2≫のとおり「部品の輸出取引」「無形資産の供与」「役務提供」の取引が行われていた(以下「本件国外関連取引」)。 Yは、Xが支払を受けた対価の額が、TNMMに準ずる方法と同等の方法で算定したALPに満たないとして、法人税等の更正処分等を行った(※6)。ALPの算定方法については、Xの平成25年3月期から平成28年3月連結期までの各事業年度とSの平成24年12月期から平成27年12月期までの各事業年度をそれぞれ対応させた上で、(a)Sの各事業年度における売上高から、(b)同売上高にSの各事業年度に対応する事業年度の比較対象法人のOPMの単純平均値(為替及び会計処理方法による差異調整)を乗じた額、(c)Sの各事業年度の売上原価並びに(d)販管費の合計額を減算し、(e)本件国外関連取引の対価の額を加算して算定(以下「本件算定方法」)した。これを算式で表すと次のとおり。 (※6) 更正処分に伴う具体的な金額は訴訟資料に掲載されていない。令和3年1月25日付の日本経済新聞によると、申告漏れ所得金額は約100億円、追徴税額は25億円とのこと。 3 争点 本件における争点は以下のとおり。 地裁は、争点(1)を検討しこれを否定した。したがって、争点(2)から争点(4)については『その余の争点について判断するまでもなく』として判示せず、高裁も地裁の判示を踏襲している。 4 地裁の判示 地裁は、争点(1)の判示に際して「判断枠組み」を以下のとおり述べる。 TNMMに準ずる方法の趣旨・解釈について 『実際に行われている取引の複雑性を考慮し、個々の取引の態様等により同項1号から3号までに掲げる方法が適用できない場合であっても、これらの方法から乖離しない限りにおいて、取引内容に適合した合理的な方法を採用し得る余地を残すことにあるものと解される・・・TNMMに準ずる方法と同等の方法とは、棚卸資産の売買取引以外の取引において、当該取引内容に適合し、TNMMの考え方から乖離しない合理的な方法をいうものと解するのが相当である。』 解釈に当たって、OECDガイドライン(※7)の内容を考慮に入れること 『我が国の移転価格税制は、国家間の課税権の適切な調整の観点から導入されたものであるから、・・・TNMMの規定を解釈するに当たっては、諸外国の移転価格税制との間の整合性を図るという点から、ガイドラインの内容を考慮に入れるのが相当である。』 (※7) 以下、単に「ガイドライン」とする。また、断りのない限りガイドラインは(2010年版)を指す。また、以下では、ガイドラインのパラグラフを単に「パラ」とする。 機能やリスクを殊更に重要視するものではない。 『国外関連者及び比較対象法人の「それぞれが果たす機能や負担するリスク」に差異がないことは、両者に比較可能性があることを裏付ける判断要素の一つにとどまり・・・TNMMはこれらの差異による影響を比較的受けにくいものといえる。そうすると、国外関連取引に対応する取引から離れて国外関連者と比較対象法人の「それぞれが果たす機能や負担するリスク」を殊更に重要視することはできない。』 次いで、[1]取引単位の問題、[2]損益単位の問題、[3]比較可能性の問題、に各々区分して判示した。 [1] 取引単位の問題 準ずる方法については、簡潔で抽象的な規定ぶりであることから、その解釈については、最終的に裁判所の判断を仰がざるを得ない。この点については『国外関連者が内国法人との取引(国外関連取引)によって得た資産及び同資産に国外関連者が付加した価値をすべて包含するものであれば、TNMMの考え方から乖離するものではないというべき』と述べた。 また、再販売価格基準法(以下「RP法」)やOPMによるTNMMのように、その適用範囲については「棚卸資産」としていないことから、国外関連取引と同種の取引として限定的に解すべきではなく(※8)、したがって、「準ずる方法」という文言の『拡張解釈や類推解釈には当たらない』とし、さらに、Sの再販売取引に関連者との取引が含まれている点については『国外関連取引に対応する取引のうち、特殊の関係にある者を相手方とする取引が一部にとどまるのであれば(※9)、その全体の取引価格は、自由市場における価格と乖離するものではない』とした。 (※8) ガイドラインでは「準ずる方法」についての規定がなく、RP法やTNMMにおける「取引」の範囲を限定的に解していないことから、わが国の準ずる方法と同様であると判示している。 (※9) 訴訟資料では、具体的な数字が黒塗りされているものの「・・・にすぎず」や「・・・にとどまる」という表現となっていることから、関連者に対する再販売取引が占める割合は低いと考えられる。 個々の国外関連取引を一体評価する点については、『内国法人と国外関連者との間の複数の取引が相互に密接に結び付いており、個別の取引ごとに評価するのでは適正にALPを算定することができないような場合において、複数の取引を一体の国外関連取引として取り扱って、これに対応する取引価格をもってALPを算定する方法は、取引内容に適合し、TNMMの考え方から乖離しない合理的な方法であるということができる』とした。 [2] 損益単位の問題 (1) 本件算定方法について 本件算定方法についてXは、本件算定方法は『国外関連取引に係る資産と非関連購入取引に係る資産の総体に対して国外関連者の事業活動によって付加された価値(営業利益)を、市場における各資産の価格の比率をもって、各資産に割り付けようとするものである』と批判するが、判示は『国外関連者の購入取引において非関連購入取引が占める割合が小さい場合には・・・ALPとの相違は僅少なものとなる。また、国外関連取引に係る資産と非関連購入取引に係る資産が同種類似のものである場合には・・・外的条件が相違する程度や・・・国外関連者にとっての価値と市場における価格が相違する程度は、小さいものになると考えられる』とし、さらに非関連購入取引に係る原価や販管費を控除することにより、非関連購入取引に対応する売上高の増加分が一定程度控除されることから、『非関連購入取引を包括しALPを算定した影響は相当程度減殺されている』と述べる。 (2) 本件算定方法により算定することの是非 しかしながら、本件国外関連取引への適用に際しては『本件国外関連者の購入取引において非関連購入取引が占める割合が小さいとはいえず(※10)、また、本件国外関連取引に係る資産と非関連購入取引に係る資産が同種類似の資産であるということもできない。したがって、・・・取引内容に適合し、TNMMの考え方から乖離しない合理的な方法であるということはできない』とした。 (※10) 訴訟資料においては具体的な数字は明らかにされていない。 (3) 本件算定方法によって算定した価格との比較 一方で、課税処分の違法性の観点からは『本件国外関連取引に係る資産は希少性のあるものであるが、非関連購入取引に係る資産は汎用性のあるものである。」したがって「本件国外関連者の事業活動によって各資産の総体に付加される価値(営業利益)は・・・より加重して割り付けられるべきものと解される。ところが、本件算定方法は、市場における各資産の価格の比率をもって当該価値を割り付けようとするものであるから、本件国外関連取引に係る資産への割り付け分が本来よりも小さくなり、結果として、本件国外関連取引のALPが本来よりも小さく算出されることになる。そうすると・・・本件各更正処分の基礎とされた所得金額が本件各事業年度の所得金額よりも過大になっているということはできない』ことから、本件算定方法は『取引内容に適合し、TNMMの考え方から乖離しない合理的な方法であるということはできないものの、このことは、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分の違法性を惹起するものとはいえない』とした。 [3] 比較可能性の問題 先ず、比較可能性の判断要素として、ガイドラインパラ1.36の指摘や、措置法関係通達(法人税編)66の4(3)-3の規定を踏まえ、事業の内容、製品の特徴、当事者の遂行する機能、市場の状況、経営の効率性を挙げ、次に、SとC1・C2の事業内容について各々検討した上で、いずれも日系自動車メーカーに自動車部品を製造・販売する一次サプライヤーであり、売上規模も類似していることから、事業内容は類似しているとした。 製品の特徴については、Sが製造販売する車両過給機については、『車両過給機の製造には相当の技術力が必要であるとはいえる』とし、構造や動作内容、製造許容誤差の相違を認め、これらの相違は各取引の価格に影響を及ぼすとしながらも『性能による差別化が取引の対価に影響を与える程度は大きなものということはできない』とした。 (1) 当事者の遂行する機能 製造活動 Sにおける部材の現地調達化、Sの生産技術の改良、部品の内製化製造活動の比較における差異は、Sと本件比較対象法人のOPMの相違に重要な影響を与えないものといえるとした(※11)。 (※11) Xのこのような主張は、差異調整の必要性を主張するものである。ちなみに、本件課税処分においては、為替差損益及び会計処理方法に関する差異調整を除き、差異調整は行われていない。また、本件はTNMMの適用に関する最初の訴訟であるが、TNMMに関する過去の裁決事例においても、課税庁は、為替差損益及び会計処理方法の差異調整は行うが、それ以外の差異調整を行っていないとの指摘がある。-中村信行「取引単位営業利益法(TNMM)の展望―訴訟事例からの検討―」税法学591号(令6.5)95頁 無形資産 Sが保有する無形資産については、『国外関連者が国外関連取引によって保有するに至った無形資産を使用して事業活動を行っていたとしても、当該無形資産を通常使用するような方法で使用するにとどまり、無形資産の価値を増大させていない場合には、当該国外関連者は重要な無形資産を有しているとはいえない』などとした。一方で、C1・C2が保有する無形資産については、両社が重要な価値を有する特許権・技術ノウハウなどを保有することを示す証拠はないとし(※12)、いずれにおいても『自動車部品製造に係るタイの上場企業が通常有する程度の無形資産を保有するものであるから、それぞれが保有する無形資産の差異は、Sと本件比較対象法人のOPMの相違に重要な影響を与えない』とした。 (※12) C1・C2に関しては、相対的に信頼性に疑問がある事実に基づいており、重要な無形資産の保有については、事実が不明である(証拠がない)ことを根拠としている。国外の比較対象法人に関する情報入手が困難であることが背景にあろうが、全体的に、比較対象法人の認定事実は根拠が薄いようにもみえ、検証対象法人のそれとの間には温度差を感じる。 リスク 判示は、S及びC1・C2が、各々の買い手側企業との間で引受けたリスク分担割合について『OPMの相違に重要な影響を与えるような差異があることを示す的確な証拠はない(※13)』とした。さらに、判示は『Yは、本件国外関連取引においてX及びSが負担するリスクの多寡について主張するところ、これは、本件国外関連取引に対応する取引において売り手側(S)が負っていたリスクの検討に関係するものではない』と付言している。 (※13) 無形資産の認定においても同様だが、このような判示(証拠はない)は、比較・分析が十分に行われていないことが伺われる。課税処分取消訴訟における立証責任は、基本的には課税庁が負うことになるが、今治造船事件(高松高判平18.10.13 訟務月報54巻4号875頁)では「調整の対象となる差異には「対価の額の差」を生じさせ得るものすべてを含むものとは解すべきではなく、対価の額に影響を及ぼすことが客観的に明らかであるものに限られる」としている。 (2) 市場の状況 市場占有率の比較 タイでは、Sが設立された平成14年当時、有力な競合他社が進出しておらず、タイの車両過給機市場における市場占有率を高めていったが、平成27年以降は有力企業の関係会社が同市場に参入するようになり、同年以降は発注を失いその市場占有率が急落した。これらの状況を踏まえ『市場占有率は、事業の収益性を決定する主要因の一つであり、市場占有率が高ければ、自動車メーカーから受注を獲得する際に、競争業者を意識して価格を引き下げる必要性が小さいから、価格競争力が高まる」とし、「Sの市場占有率の低下が営業利益率の低下に影響しているということができる』とした。 さらに『本件比較対象法人が製造販売する自動車部品のタイにおける市場占有率は明らかではないものの、これらの自動車部品の製造の難易度は、車両過給機と比較すると、構造や動作内容、製造許容誤差からみて低いといえるから、本件比較対象法人が当該自動車部品市場において高い市場占有率を有していたとは考えにくい』として、本件の市場占有率の差異は、OPMの相違に重要な影響を与えるものというべきであるとした。 需要の比較 タイにおいては、平成24年から排気ガスの規制が強化され、規制基準をクリアするためには車両過給機を搭載することによりエンジン性能を向上させる必要があり、本件各事業年度において、車両過給機の需要は高まっていた。この点について『Sの車両過給機の販売台数は、本件各事業年度の1年目である平成24年度に特に増加し、本件各事業年度中も概ね微減するにとどまっている。本件各事業年度におけるSが製造販売する車両過給機の需要の増大により、Sの価格競争力が高まり、ひいては営業利益率の上昇に影響したものと解される。一方、本件比較対象法人が製造販売する自動車部品については、排気ガスの規制強化などの環境規制による需要の増大は想定されない』ことから、本件における需要の差異は、OPMの相違に重要な影響を与えるものというべきであると判示した。 (3) 所得移転の蓋然性 Yは、X及びSの機能等を分析すれば、Xの貢献の程度が高く、XからSに所得移転が生じている蓋然性が高いと主張する。しかしながら、『国外関連取引の当事者(本件ではXとS)が果たす機能等の勘案を求めるのは・・・ALPを算定する複数の方法の中から最適方法を選択するため』とし、『比較可能性を検討するに当たり、国外関連取引の当事者が果たす機能等を勘案することを求めるものではない』とし『ALPの算定に当たり、所得移転の蓋然性を考慮することはできない』とした。さらに、Yが主張するように国外関連者の機能等に内国法人が貢献している場合においては、『内国法人の貢献を考慮して国外関連者の機能等を分析し、比較可能性を検討することになる』とし、本件においては、上記「当事者の遂行する機能」及び「市場の状況」においても、Xの貢献を斟酌した旨判示した(※14)。 (※14) 判示は、Sの「機能」及び「市場の状況」の評価にあたり、SのみならずXの貢献をも斟酌していると述べる。しかしながら、Sの市場占有率の高さについて、Sの活動を評価し、Xの貢献は限定的とも述べている。この点からは、SとXの各々の貢献を切り分けて、個別に評価・勘案しているようにみえる。因みに、審判所においては、市場占有率の高さをXの貢献によるものとして、SとC1・C2間の比較可能性の検討要素から外している。 (4) まとめ 比較可能性の問題については、上記のとおり述べ『Sと本件比較対象法人の差異のうち、市場の状況に関する差異は、OPMの相違に重要な影響を与えるものであって、当該差異が与える影響を取り除くための相当程度正確な調整ができないものであるから、本件算定方法において当該差異の調整が実際にされているか否かについて検討するまでもなく、Sと本件比較対象法人との間に比較可能性があるということはできない』とした。 [4] 総括 結論として『タイの車両過給機市場におけるSの市場占有率の高さや、Sが製造販売する車両過給機に対する需要の大きさを考慮すれば、本件各事業年度におけるSの営業利益率は、本件比較対象法人の営業利益率よりも高いものと認められる。そうすると、本件比較対象法人の営業利益率をもって本件国外関連取引のALPを算定した本件算定方法は、本件国外関連取引に対応する取引の対価から、適正な営業利益額よりも過少な金額しか控除しておらず(※15)、これによりALPが過大に算定されていることになるから、当該ALPに基づき計算された本件各事業年度の法人税の各所得金額は、いずれも過大なものといわざるを得ない』とした。 (※15) 2(2)本件算定方法の計算式参照。 5 高裁の判示 高裁は、概ね、地裁の判示を踏襲しているが、C1・C2の市場占有率については、地裁と異なり、具体的な数値に基づいている。Yは、『比較対象法人についての「市場占有率」や「需要」という入手困難な要素について厳格な比較可能性を求めることは、ALPの算定を困難にし、移転価格税制の適正・公平な執行も困難となるから、そもそも妥当ではない(※16)』など主張し『車両過給機のタイにおける市場占有率と本件比較対象法人の製造販売する主要な自動車部品(アスクルシャフト、コントロールケーブル)のタイ市場における占有率(いずれも70%以上)との間には、有意な差異はない』とする。一方、Xは、『本件比較対象法人は、多様な製品(部品)を製造しており、製品ごとにその市場占有率は異なっている上、自動車部品事業全体として見ると、タイ市場における占有率(加重平均値)は、本件各事業年度において、高い時でも約60%程度にとどまっていた(特に・・・は平均約40%にとどまる)』などとする。 (※16) この点について、ガイドラインパラ2.70においては「営業利益指標は、競争上の地位のように粗利益及び価格にも影響を及ぼす要因によって影響を受けることがある」と指摘している。 YとXの計算結果の違いは、Yが主要部品のみで市場占有率を算定したのに対して、Xは自動車部品ごとの売上構成比率に市場占有率を乗じた数値を加重平均して算定した点にある。判示は、Xの計算方法を支持したが、具体的な計算は以下のとおり。また、Sの市場占有率は、地裁・高裁の訴訟資料では明らかにされていないが、審判所において7割とされており、これをもって本件における占有率の乖離幅が確認できる。 ≪表1≫比較対象法人の市場占有率の計算 また、Yは、地裁から一貫してSの『高い市場占有率は、専らXの貢献によるものであるから、比較可能性の検討においてこれを別途考慮すべきではない』と主張するが、この点についても、地裁の判示を踏襲しつつ『当該市場における取引の成否という結果自体はXではなく』Sが引き受けることとなることから、『本件の比較可能性の検討において市場占有率を別途勘案すべきでないか、少なくとも営業利益率に重要な影響を与えるものではないと断ずることはできない』とした。 ((その2)へ続く)
