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資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情【第1回】─世界の富裕層が集まる国、その理由とは─
資産の海外移転をめぐる シンガポール最新事情 【第1回】 ─世界の富裕層が集まる国、その理由とは─ Advance Business Support Pte. Ltd. 代表 大曽根 貴子 ■世界の富裕層が集まる国、シンガポール 「シンガポールに資産を移転したい」という依頼が、金融機関やコンサルタントの元に相次いでいる。 東日本大震災以降、資産だけでなく、生活の拠点を移したい、本社機能を移転したいという相談も増えつつある。 シンガポールには、世界から資金が流入し、富裕層が生活拠点を移している。 ボストン・コンサルティングが行った世界財産調査によれば、2011年時点において全世帯における富裕世帯(富裕世帯とは、金融資産100万米ドル超を保有する世帯のことをいう)の割合が最も高いのは、シンガポールの17.1%であった。 シンガポールでは、6世帯に1世帯が富裕世帯なのである。 ジョージ・ソロス氏と共にクォンタム・ファンドを設立した投資家のジム・ロジャース氏や、フェイスブックの共同創設者であるエドアルド・サヴェリン氏などもシンガポールに移住している。 ■シンガポール税制の魅力 世界中から富裕層がシンガポールに住まいを移すのはなぜか。 その理由には、魅力的な税制が挙げられる。 シンガポール税制の概要をまとめると、以下のとおりである。 ■富裕層課税が強化される日本 一方、日本の税制は今、どうなっているのか。 2013年1月24日に公表された平成25年度税制改正大綱では、所得税の最高税率を2015年から課税所得4,000万円超について45%に引き上げること、相続税の基礎控除額を削減し、最高税率を55%に引き上げることなどが盛り込まれている。 富裕層にとって、日本はさらに住みづらい国となってしまう。 税負担の増加を懸念し、資産を海外に移転する個人及び法人が年々増加している。 また、海外移住を検討する起業家や投資家は、限定的であるものの増加している。 このような流れから、課税当局は2013年より国外財産調書の提出制度を導入し、課税逃れ行為の監視体制を強化している。 また、外国に移住した後、キャピタル・ゲインや国内源泉所得について申告漏れを指摘され、課税当局と訴訟となったケースもある。 このため、移住や相当額の資産を海外移転する場合には、事前に税務リスクを洗い出し、対策を検討した上で実行することをお勧めする。 (了)
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《速報解説》 贈与税関連の改正事項(教育資金贈与以外)─平成25年度税制改正大綱─
《速報解説》 贈与税関連の改正事項 (教育資金贈与以外) ─平成25年度税制改正大綱─ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 平成25年1月24日に、与党から平成25年度税制改正大綱が公表された。 本稿では、平成25年度税制改正大綱に含まれる贈与税関連(教育資金贈与以外)の改正について、その内容を概観し、改正の影響を検討していく。 1 平成25年度税制改正の内容 ―贈与税関連(教育資金贈与以外) (1) 贈与税(暦年課税)の税率構造の見直し 【改正前】 【改正後】20歳以上の者が直系尊属から贈与を受ける場合 【改正後】上記以外 相続税の最高税率が50%から55%に改正されることに併せて、贈与税の最高税率も50%から55%に改正される。 また、20歳以上の者が直系尊属から贈与を受ける場合には、改正により贈与税の税率が緩和される。 この改正は、平成27年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。 (2) 相続時精算課税制度 改正により、相続時精算課税制度が適用される受贈者の範囲に、20歳以上である孫が追加される。また、贈与者の年齢要件が60歳以上に緩和される。 この改正は、平成27年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用される。 (3) その他 この改正は、平成25年4月1日以後に贈与により取得する国外財産に係る贈与税について適用される。 2 平成25年度税制改正の影響 ―贈与税関連(教育資金贈与以外) 平成25年度税制改正で相続税が増税となる一方、贈与税は減税の方向で改正が行われる。 具体的には、20歳以上の子供・孫が贈与を受ける場合、改正前と比較して、改正後は適用される贈与税率が緩和される。また、改正後は、相続時精算課税制度の適用範囲が拡大し、受贈者に20歳以上の孫が追加され、贈与者の年齢要件が60歳以上に引き下げられる。 相続税増税が実施されることに伴い相続税対策の必要性が増加すると考えられるが、その対策の1つである生前贈与は、この贈与税改正もあり、より実行されるケースが増加すると考えられる。 なお、平成25年度税制改正により、贈与税の課税財産の範囲が拡大している(相続税も同様)。 改正前では、受贈者を海外に居住させ、かつ日本国籍を持たない場合、国内財産のみが贈与税の対象となるが、改正後は、贈与者が日本に住所をもつ場合、国外財産も贈与税の対象となる。 富裕層の相続税対策を行う場合には、この改正点についても留意する必要がある。 (了)
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《速報解説》 雇用促進税制の拡充について─平成25年度税制改正大綱─
《速報解説》 雇用促進税制の拡充について ─平成25年度税制改正大綱─ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成25年1月24日、与党の平成25年度税制改正大綱が決定され、同29日には閣議決定された。 平成25年度税制改正では、民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく政策税制措置を講じることとされており、特に雇用の拡大・所得の増大を念頭に置いた税制措置として「所得拡大促進税制」が創設されたほか、従来の雇用促進税制の拡充が盛り込まれた。 本稿では「雇用促進税制」について解説を行う。なお、所得拡大促進税制の創設についてはこちらをご参照いただきたい。 2 改正前の雇用促進税制の概要 青色申告法人が平成23年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度(以下「適用年度」という)において、雇用者を5人以上(中小企業においては2人以上)増加させ、かつ、雇用者増加割合が10%以上である等の一定の要件を満たす場合には、増加雇用者1名当たり20万円を法人税額から控除することができる(措法42の12)。ただし、控除税額は法人税額の10%(中小企業は20%)を限度とする。 この制度における「雇用者」とは、法人の使用人のうち雇用保険の一般被保険者であるものをいう(役員の特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)。 (1) 適用要件 雇用促進税制の適用を受けるためには、各適用年度において、以下に示す要件を満たす必要がある。 そしてこの制度の適用を受ける場合には、適用事業年度開始後2ヶ月以内に、主たる事業所を所轄する公共職業安定所(ハローワーク)に「雇用促進計画」の提出を行い、都道府県労働局又は公共職業安定所で上記の①~③のまでの要件について確認を受け、その際交付される雇用促進計画の達成状況を確認した旨を記載した書類の写しを確定申告書に添付する必要がある(措法42の12①、措令27の12①②、措規20の7①)。 (2) 税額控除限度額 20万円×基準雇用者数(法人税額の10%【中小企業者等は20%】を限度とする) 3 改正の概要 税額控除限度額を増加雇用者数1人当たり40万円(現行20万円)に引き上げるほか、適用要件の判定の基礎となる雇用者の範囲について所要の措置を講ずる。 今回の改正では適用要件そのものは変更されていないものの、雇用者の範囲の見直しについては、「雇用保険の一般被保険者」という定義が見直されるのかどうか、引き続き留意したい。 (了)
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《速報解説》 所得拡大促進税制の創設について─平成25年度税制改正大綱─
《速報解説》 所得拡大促進税制の創設について ─平成25年度税制改正大綱─ 公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎 1 はじめに 平成25年1月24日、与党の平成25年度税制改正大綱が決定され、同29日には閣議決定された。 平成25年度税制改正では、民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく政策税制措置を講じることとされている。 本稿では、その一環として創設された「所得拡大促進税制」について解説を行う。 2 所得拡大促進税制の概要 青色申告書を提出する法人が国内雇用者に対して給与等を支給する場合において、以下の①~③の要件を満たすときには、その給与等支給増加額の10%の税額控除(法人税額の10%(中小企業者等については20%)を限度)ができる。 なおこの制度は、雇用促進税制、復興特区等に係る雇用促進税制との選択適用となる。 3 各用語の意義 (1) 国内雇用者 法人の使用人(法人の役員及びその役員の特殊関係者を除く)のうち、法人の有する国内の事業所に勤務する雇用者をいう。 ここで「雇用者」の定義については現段階では明らかとなっていないが、雇用促進税制との選択適用となることを考慮すると、雇用促進税制における「雇用者」の定義(措法42の12②二)と同様、「雇用保険の一般被保険者」に該当するものに限られると考えられる。パートタイマーやアルバイトの取扱いについては留意が必要である。 (2) 給与等支給額 各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入される国内雇用者に対する給与等の支給額をいう。 (3) 基準事業年度 平成25年4月1日以後に開始する各事業年度のうち最も古い事業年度の直前の事業年度をいう。 4 適用関係 平成25年4月1日から平成28年3月31日までの間に開始する事業年度について適用される。 5 数値による設例 (了)
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《速報解説》 相続税関連の改正事項(小規模宅地特例・事業承継税制以外)─平成25年度税制改正大綱─
《速報解説》 相続税関連の改正事項 (小規模宅地特例・事業承継税制以外) ─平成25年度税制改正大綱─ 税理士法人ネクスト 公認会計士・税理士 根岸 二良 平成25年1月24日に、与党から平成25年度税制改正大綱が公表された。 本稿では、平成25年度税制改正大綱に含まれる相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外)の改正について、その内容を概観し、改正の影響を検討していく。 1 平成25年度税制改正の内容 ―相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外) (1) 相続税の基礎控除の引下げ 基礎控除は、改正前の金額と比較して、改正後は40%マイナスした金額に引き下げられる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (2) 相続税の税率構造の見直し 相続税の税率構造が見直され、上記表における2億円以下までの部分については税率の変更はないが、2億円超3億円以下、及び6億円超、の部分については税率がアップしている。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (3) 未成年者控除と障害者控除の引上げ 未成年控除、障害者控除の金額は、税制改正により引き上げられる。 この改正は、平成27年1月1日以後に相続又は遺贈により取得される財産に係る相続税について適用される。 (4) その他 平成24年度税制改正大綱では、相続税の計算における死亡保険金の非課税枠について圧縮することが示されていたが、平成25年度税制改正大綱では改正が行われておらず、現行の取扱いが継続される。 2 平成25年度税制改正の影響 ―相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外) 平成25年度税制改正の相続税関連(小規模宅地特例・事業承継税制以外)で一番大きな影響がある部分は、基礎控除の引下げといえる。 国税庁が公表している統計年報(平成22年)によれば、相続税が生じた相続については、法定相続人の数は3人が一番多く、次いで2人、3人となっている(税額が生じる相続税申告全体に占める割合78.3%)。 したがって、相続税申告(税額が生じるもの)を行う場合の基礎控除は、7,000万円、8,000万円、9,000万円が約8割を占めていることになる。 これが改正後は、これらの基礎控除が4,200万円、4,800万円、5,400万円に引き下げられることから、相続税の対象者が大幅に増加することが予測される。 また、10億円以上の財産を所有する富裕層にとっては、基礎控除の引下げ及び相続税の税率構造の見直しは、共に相続税の税額を増加させるものであり、従前以上に相続税対策の必要性が高まると考えられる。 (了)
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《速報解説》 延滞税等の見直し─平成25年度税制改正大綱─
《速報解説》 延滞税等の見直し ─平成25年度税制改正大綱─ 弁護士 木村 浩之 1 はじめに 与党である自民党・公明党が策定した平成25年度税制改正大綱(平成25年1月24日公表)において、納税環境整備の一環として、延滞税等の見直しが盛り込まれた。 以前より、延滞税等の割合については、市中金利に比べて高すぎるとの批判があったところである。 そこで、今回、平成26年4月からの消費税率の引上げに伴い、消費税等の長期滞納が懸念される企業の税負担の緩和策として、延滞税の割合(税率)の引下げが図られたものである。また、それに合わせて、利子税、還付加算金などの割合(利率)も引き下げられることになる。 以下では、延滞税等の見直しに関する改正の概要につき、主に国税に関して述べるが、地方税(延滞金、還付加算金)についても同様の改正がなされる予定である。 2 延滞税の税率の引下げ 延滞税は、期限内に国税の納付がなされない場合に課されるものであり、遅延利息(履行遅滞に基づく損害賠償)の性質を有するものと解されている。 現行の制度では、納期限から2ヶ月(地方税については1ヶ月)を経過するまでの間は、未納税額に特例基準割合(現在、年4.3%)を乗じて計算される額の延滞税が課されることになる。この期間を超えると、未納税額に年14.6%を乗じて計算される額の延滞税が課されることになる。 今回の改正では、特例基準割合を現行の「日本銀行が定める基準割引率+4%」から「銀行の貸出約定平均金利(新規・短期)+1%)」に改めた上で、延滞税の税率について、以下のとおり実質的な引下げがなされる予定である。 なお、これに合わせて、納税の猶予等がなされた場合の延滞税の税率についても、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的な引下げがなされる予定である。 3 利子税・還付加算金の利率の引下げ 利子税は、延納等の場合に課されるものであるが、延滞税の税率の引下げに合わせて、原則的な利子税の利率も、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的に引き下げられる予定である。 また、同様に、還付金等に付される還付加算金の利率についても、今回の延滞税の割合の引下げに合わせて、現行の特例基準割合(年4.3%)から新たな特例基準割合(年2%程度)に、実質的に引き下げられる予定である。 4 適用時期など 以上の改正は、平成26年1月1日以後の期間に対応する延滞税等について適用されることが予定されている。 いずれの改正も、税法に規定される利息の性質を有するものの利息割合を市中金利に近づけようとするものであり、基本的に妥当なものといえることから、改正が実現する見込みは高いと考えられる。 (了)
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「平成25年度税制改正」はこう読む 【第1回】
「平成25年度税制改正」はこう読む 【第1回】 一般社団法人 日本経済団体連合会 経済基盤本部長 阿部 泰久 はじめに 1月24日、自民・公明の新政権は、異例の年明けの税制改正で、実質18日間という短期間で、極めて重要な内容を含む平成25年度税制改正大綱(以下「大綱」)を決定した。 本稿では、大綱の概要を紹介しながら、その背後にある政治的な課題、経済・社会よりの要請を考察し、なぜ、平成25年度税制改正がこのような内容となったのかを解説していきたい。 いわば、大綱の深読みをしていくが、あくまで筆者の個人的な読み方であり、経団連の公式な見解ではないことを、まずお断りしておく。 1 税制の決定メカニズム 税制改正の中身に入る前に、まず、民主党から自民党・公明党連立への政権交代により、税制改正の決め方がどのように変わったのかを見ておきたい。 これは、税制改正の決定メカニズム=誰がどのように税制改正を決めるのかということ自体が、税制改正そのものの性格を形成するからである。 (1) 民主党政権下の税制改正決定 民主党政権下では、都合3回の年次改正が行われたが(このほか東日本大震災の関連税制措置が2回に分けて講じられている)、その決定方法はすべて異なっていた。 22年度改正では与党内に税制を審議する場を置かず、すべてを政府税制調査会で決めようとしたが、最後は小沢幹事長「裁定」の出番となった。23年度改正では民主党税制調査会が復活したが、これは与党の意見をまとめて政府税調に伝えるための組織と説明されていた。 24年度税制改正は、実質的に民主党税制調査会が「政治主導」で仕切った。民主党政権下の政府税調は財務大臣を会長、総務大臣を会長代理として、各省の副大臣クラスをメンバーとしていたが、所詮各省の代弁者でしかなく、相互に矛盾・対立する税制改正要望を整理し、税制改正を決定することはできなかった。 税は政治であり、税制改正は政治メカニズムの中でしか決められないことが、改めて確認されたとしか言いようがない。 (2) 自民党税制調査会の復活 自公政権は、最初から与党内で税制改正を決めることとして、政府税制調査会は実質的に廃止された。 最初に復活したのは自民党税制調査会の「インナー」であり、総選挙の結果判明後翌々日、12月19日に開催されていることは注目すべきである。 なお、当初のインナーメンバー7人のうち、伊吹文明氏が衆議院議長に、石原伸晃、林芳正の両氏が入閣していることは、インナーの顔触れ*の重要さを示唆している。この場で、平成25年度税制改正のスケジュールと、公明党との与党税制協議会の設置、一体改革関連は民主党を含めた3党で協議することを確認している。 さらには安倍新政権発足前、12月21日には最初の正副顧問幹事会を開き自民党税制調査会は動き出した。その後、12月27日に、抜けた3氏を除く4人でインナーを開催し、税制改正の具体的な検討項目と手順を確認し、財務省・総務省に準備を指示している。 年明けの1月7日の自民党税制調査会総会では、正副顧問幹事会の幹部人事、検討項目、与党としての大綱を1月末までに取りまとめることを決定した。 以降、正副顧問幹事会、国会議員であれば参加自由の小委員会、インナーや与党協議を含めば、12日、13日以外の全ての日に何らかの会合を設定し、24日の大綱決定に持ち込んでいる。 年次税制改正を決定する場として自民党税制調査会は完全に復活し、中でもインナーの位置付けは、旧来以上に高まっている。 もともとインナーは、正副顧問幹事会、小委員会の前に議論を整理する場であったが、今回のインナーは、実質的な決定機関として機能している。 インナーの役割の高まりは、短期決戦での大綱とりまとめが必要であったこと、与党税制協議会、さらには、民主党を含めた3党協議会によって決すべき事項がある中で、速やかに自民党としての意見集約を必要としたことが理由として挙げられる。 *インナーメンバー:野田毅会長、額賀福志郎小委員長、高村雅彦顧問、町村信孝顧問、宮沢洋一参議院議員、石田真敏衆議院議員の6氏、このうち、町村氏を除く5名が与党税制協議会の自民党側メンバー。 (3) 短期間での大綱とりまとめ それでは、なぜ、極めて短期間での大綱とりまとめを必要としたのか。 1月24日の大綱とりまとめは、1月末までの平成25年度政府予算案の決定から逆算された日程でしかない。 歳入予算である税制改正案決定から政府予算案決定まで、1週間は必要である。また、緊急経済対策関連を重要な内容とする平成25年度税制改正法案を年度内に成立させることは、参議院選挙前までに景気回復を図るためにも不可欠である。 そのためには、たとえ自公で衆議院の3分の2を超える議席を有し再議決が可能であるとしても、例年通り2月初旬には法案を提出し、できるだけ早く衆議院を通過させ、参議院に送らなくてはならない。 逆に、短期間で取りまとめができたのは、次章で述べるように、25年度税制改正でやるべきことが予め決まっており、自民党内での重大な対決案件は車体課税ぐらいでしかなかったことが大きい。 (4) 与党協議と3党協議 前の自公連立政権でも、与党としての税制改正の決定は、双方の税制調査会の代表者からなる与党税制協議会で決しており、自民党税制調査会の審議と並行して、頻繁に与党税制協議会が開催されたことは当然でもある。 しかし、今回、与党税制協議の性格を大きく変えたのは、一体改革の積み残し課題については民主党を含む3党協議の前の与党内調整の場となったからである。 民主党政権下では、2010年参議院選挙後のねじれ国会での一体改革関連法案成立のため、消費税率引上げを政策として掲げる自民党、公明党との協力が不可欠となった。「社会保障・税一体改革大綱(2012年2月17日閣議決定)」以降、2012年6月の3党合意を経て、同年8月の一体改革法成立に至る過程は、3党協議がメインの場となった。 その中で、積み残された所得税最高税率引上げ、相続税・贈与税見直し、消費税率引上げに伴う住宅対策、車体課税等の課題は、引き続き3党間で協議して成案を得ることとされていたが、自公が衆議院で絶対多数を得たことでその扱いが注目されていた。 しかし、野田会長は与野党立場を変えても3党合意の結果を誠実に尊重することを繰り返し言明し、実際に3党協議はそれなりに有効に機能し続けた。 これは、できれば参議院で民主党の協力を得て円滑に税制改正法案を処理したいとの立場からは当然でもあるが、自公間での意見の相違がある項目を3党協議に持ち込むことで、公明党をけん制する意図があったものと思われる。現に、所得税最高税率引上げ、相続税・贈与税見直しは、公明党の主張を抑え込む形で、旧民主党政府案に近い形で決着をみている。 2 平成25年度税制改正の全体像 平成25年度税制改正が何であるのか、その全体像は大綱の前書きである「第一 平成25年度税制改正の基本的考え方」の1ページ目に尽くされている。 (1) 緊急経済対策 25年度税制改正の第1の姿は、緊急経済対策の一環としての税制措置である。 大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略の「三本の矢」を税制から補強するための「民間投資や雇用を喚起し持続的成長を可能とする成長戦略に基づく政策税制措置を大胆に講ずる」とされており、政策税制を不公平税制として縮小しようとしていた民主党政権からの180度の転換である。 さらに、民主党政権の分配政策重視との決別、経済成長=パイの拡大重視への宣言である。これは、7月の参議院選挙対策のような矮小な話ではなく、今後の自民党中心の政権の政策の柱の大きな一つとなるべきものである。 具体的には、大綱2~3頁に「1 成長による富の創出に向けた税制措置」として掲げられた、生産等設備投資促進税制、研究開発促進税制の拡充、所得拡大促進税制、雇用促進税制の拡充、中小企業対策としての交際費課税の軽減、相続税強化の緩和策としての事業承継税制、教育資金の一括贈与の非課税措置の創設などが盛り込まれている。 (2) 一体改革の積み残し課題 25年度税制改正の第2の姿は、税制抜本改革としての一体改革の積み残し課題の実現である。 具体的には、大綱3頁以降の「2 社会保障・税一体改革の着実な実施」として掲げられた、所得税最高税率の引上げ、相続税・贈与税の見直し、消費税引上げに伴う住宅取得への負担軽減措置、車体課税の見直し、低所得者対策としての軽減税率の導入である。 ここでは、所得税最高税率の引上げ、相続税・贈与税の見直しについて旧民主党政府案を尊重した決着となったことが、今後の国会審議の中で民主党の賛成までは得られないとしても、何らかの協力を得る足掛かりになるという点を重視したい。 また、積み残しとなった、車体課税や軽減税率の導入をめぐっては、さらなる3党協議の可能性もあり、これは特に参議院選挙後に、自公を軸としながらも、さらなる連立の組み合わせとしての民主党の余地を残すことにもつながろう。 (了)
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蛍光灯からLED照明への変更費用の取扱い
蛍光灯からLED照明への 変更費用の取扱い 公認会計士・税理士 武田 雅比人 Answer 1 国税庁から公表されている取扱い 蛍光灯型LEDランプは、消費電力が少なく使用可能期間が長いというメリットがあるため、節電対策として、蛍光灯から蛍光灯型LEDランプに変更するケースも多いものと思われる。 固定資産の修理や改良のために支出する金額は、基本的には、修繕費とされるが、固定資産の価値を高めたり使用可能期間を延長させる部分に対応する金額は、資本的支出とすることとされており(法令132)、国税庁からは、用途変更のための模様替え等改造又は改装に直接要した費用の額は原則として資本的支出となる(法基通7-8-1)という解釈が示されている。 そして、更に、国税庁から、蛍光型LEDランプへの変更に関して、「自社の事務室の蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えた場合の取替費用の取扱いについて」という照会回答事例が公表されている。 この照会回答事例の取扱いは、「この取替えに当たっては、建物の天井のピットに装着された照明設備(建物附属設備)については、特に工事は行われていない」ということを前提として、「蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに取り替えることで、節電効果や使用可能期間などが向上している事実をもって、その有する固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増しているとして資本的支出に該当するのではないかとも考えられますが、蛍光灯(又は蛍光灯型LEDランプ)は、照明設備(建物附属設備)がその効用を発揮するための一つの部品であり、かつ、その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえないと考えられますので、修繕費として処理することが相当です。」というものである。 この取扱いのポイントは、下記の2点にあると思われる。 2 蛍光灯から蛍光灯型LEDランプへの変更方法 蛍光灯には安定器という器具が必要だが、蛍光灯型LEDランプには蛍光灯で使用する安定器は不要である。蛍光灯を取り外して蛍光灯型LEDランプに取り替えただけで支障なく使用できる場合もあるが、既存の蛍光灯を使用する照明器具で蛍光灯型LEDランプを安全に使用するためには、蛍光灯の安定器を経由せずに電源を供給することが望ましいとされている。 LEDランプには、LEDを点灯させるための電源回路が内蔵されている電源回路内蔵型のものと、LEDを点灯させるための電源回路部品とLED管とを別々のものとする電源回路外付型のものがある。 100ボルトの電流は、電源回路内蔵型では直接にLEDランプに供給され、電源回路外付型では電源回路部品を経由してLEDランプに供給される。 また、蛍光灯型LEDランプの口金の形状には、従来の蛍光灯と同一のものと新たに蛍光灯型LEDランプのために定められたものがある。 このため、蛍光灯型LEDランプへの変更方法は、次の4通りとなる。 上記の国税庁の照会回答事例の取扱いでは、「照明設備(建物附属設備)については、特に工事は行われていない」とされているため、この照会事例は、既存の照明設備の変更工事をしなくとも点灯することとなる上記のAパターンを採っているということになる。 しかし、現実には、蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに変更する際には、安全性の観点から、照明器具の変更工事を実施することが通例となっているため、この変更工事の取扱いについての検討が必要となる。 3 照明器具の変更工事の取扱いの検討 (1) Aパターン Aパターンを採るものにおいては、LEDランプに点灯用電源回路が組み込まれているため、100ボルトの電流を蛍光灯用の安定器を経由させないで既存の口金に供給する工事を行うことになる。この工事内容は、安定器を経由させないで電流を流すようにするだけの工事であり、従来の照明器具に物理的に装置等を付加するようなものはない。 このため、国税庁の取扱いにあるように、工事によって照明器具の価値が高まったとは考えられず、工事のために支出した金額は資本的支出には該当しないものと考えられる。 (2) Bパターン Bパターンを採るものにおいては、LEDランプに点灯用電源回路が組み込まれているため、既存の口金を新規格の口金に変更し、100ボルトの電流を蛍光灯用の安定器を経由させないで新規格の口金に供給する工事を行うこととなる。Aパターンと比較すると、口金変更工事が行われる点が異なる。 このBパターンにおいては、新規格の口金に交換するわけであるが、口金は蛍光灯型LEDランプを保持して電流を伝達する機能を有するもので照明設備の一部品であり、国税庁の取扱いで示されたポイントから判断しても、照明器具の価値が高まったとは考えられず、資本的支出には該当しないものと考えられる。 蛍光灯の安定器を経由させない工事は、Aパターンと同様であり、その工事のために支出する金額は、資本的支出とはならないものと考えられる。 (3) Cパターン Cパターンを採るものにおいては、既存の口金を使用するが、LEDランプを点灯させるための電源回路部分がLEDランプとは別に照明器具に取り付けられる。 この方式のメリットは、LEDランプ部分に電源回路の熱が伝わりにくいためLEDランプの劣化が少ないことである。この場合には、電源回路部品が物理的に付加されるため、資本的支出に該当するか否かを慎重に検討する必要がある。 蛍光灯の安定器の耐用年数は現実には10年程度とされ、古いものは効率が低下して安全上も問題が多いとされており、照明器具の耐用年数である15年の期間内には、安定器は少なくとも1回は取り替えられることが想定されているものと思われる。 この安定器交換に際し、安定器をLEDランプ用の電源回路部品に取り替えるとすれば、この取替えは部品の交換に該当するものと考えることができるものであり、「その部品の性能が高まったことをもって、建物附属設備として価値等が高まったとまではいえない」という考え方からすれば、この取換工事のために支出する金額は、資本的支出には該当しないものと考える。 これは、電源内蔵型LEDランプを資本的支出としないこととのバランスからも妥当なものと考える。 (4) Dパターン Dパターンを採るものにおいては、口金の変更工事とLEDを点灯させるための電源回路部品の取付工事が行われるが、上記のBパターンとCパターンで検討したとおり、この2つの工事は共に照明器具の部品工事であり、この2つの工事が同時に実施されたことをもって、BパターンやCパターンと異なる取扱いをすべき理由はないことから、この2つの工事のために支出する金額は資本的支出には該当しないと考える。 4 結論 上記のとおり、既存の照明器具を利用して蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに変更した場合の照明器具の変更工事のために支出する金額は、資本的支出には該当しないものと考えられ、また、蛍光灯型LEDランプ自体の取替えのために支出する金額も資本的支出に該当しないとされていることから、結果的には、蛍光灯を蛍光灯型LEDランプに変更した場合の変更費用は、すべて資本的支出には該当しない、ということになるものと考える。 (了)
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法人の破産をめぐる税務 【その2】欠損金の繰戻し還付・仮装経理による過大納付の還付
法人の破産をめぐる税務 【その2】 ―欠損金の繰戻し還付・仮装経理による過大納付の還付― 税理士法人エムワイパートナーズ 代表社員 税理士 安井 孝徳 はじめに 前回は、破産にかかる税務のうち、事業年度及び期限切れ欠損金について解説した。今回2回目は、引き続き破産会社の特有の税務のうち、欠損金の繰戻し還付及び仮装経理による過大納付の還付について解説する。 1 欠損金の繰戻し還付 ① 取扱い 法人税の課税所得計算は、事業年度単位課税をとっている。 しかし、納税者である法人は、毎事業年度定額の所得金額を算出するわけでなく、市場の状況又は経営戦略等により、ある事業年度によっては著しく大きい課税所得が発生し、また、ある事業年度においては欠損が発生することも考えられる。 そのために、事業年度単位課税の救済措置として、欠損金の繰越控除及び欠損金の繰戻し還付制度がある。 欠損金の繰戻し還付制度は、原則として平成26年3月31日までに終了する事業年度においては、以下の「中小企業者等」を除き停止されている(措法66の13)。 普通法人のうち、その事業年度終了の時において資本金の額若しくは出資金の額が1億円以下であるもの(資本金の額若しくは出資金の額が5億円以上の法人又は相互会社の100%子法人等を除く)又は資本若しくは出資を有しないもの(保険業法に規定する相互会社及び外国相互会社を除く) 公益法人等又は協同組合等 法人税法以外の法律によって公益法人等とみなされる次の法人 認可地縁団体、管理組合法人、団地管理組合法人、法人である政党等、防災街区整備事業組合、特定非営利活動法人及びマンション建替組合 人格のない社団等 しかし、法人が破産した場合を含めて、解散があった場合には、特例として繰戻し還付制度が適用できることとなる。 具体的には、法人が手続に入った場合において、破産開始決定の日前1年以内に終了したいずれかの事業年度又は破産開始決定の日の属する事業年度(以下「欠損事業年度」という)において欠損金額が生じており、その欠損金額の生じた事業年度開始の日前1年以内に開始した事業年度(以下「還付所得事業年度」という)において法人税額が発生している場合には、還付所得事業年度から欠損事業年度までの各事業年度について、連続して青色申告書である確定申告書を提出している場合に限り、以下の金額の還付請求をすることができる(法法80①④)。 なお、道府県民税、市町村民税及び事業税においては、このような規定はなく、その後の法人税と道府県民税、市町村民税及び事業税とにおいて、繰越欠損金額にずれが生じることとなる。 【還付請求額の計算式】 なお、仮に中小企業者等に該当しない法人が解散した場合でも、当該規定は適用できることとなる。したがって、資本金の額5億円以上の法人の100%子法人が解散した場合にも、当然のことながら当該規定は適用されることに留意が必要である。 2 仮装経理に基づく過大申告の場合の更正に伴う法人税額の還付・控除の特例 ① 原則的取扱い 過去に取引先や金融機関等に対する信用力の強化の面から、粉飾決算を仮にしていた場合、結果として本来納税すべきより過大な法人税額を納めているケースが少なくない。 このようなこと自体本来あってはならないが、法人税法上はこのような処理に対して、仮装経理に基づく過大申告の法人税額の控除及び還付制度による救済措置がある。 具体的には、仮装した事実を修正経理し、その修正経理をした事業年度の確定申告書を提出すると同時に、所轄税務署長に対し嘆願書を提出し、所轄税務署長の職権で更正を行ってもらうこととなる(法法129①)。 なお、所轄税務署長の職権による更正は法定申告期限から5年(純損失等の金額に係るものは9年)を経過する日まですることができる(国通法70②)。 また、原則として、仮装経理による法人税の過大納付部分については、その全額が即座に還付されるのではなく、更正の日の属する事業年度開始の日から1年前以内に開始する各事業年度の法人税額に達するまで還付し、残りについては、その後更正の日の属する事業年度開始の日から5年以内に開始する各事業年度の所得に対する法人税額から控除され、その後当該還付及び控除しきれなかった部分が残っている場合には、その5年を経過する日の属する法人税確定申告書の提出期限の到来をもって、還付されることとなる(法法70、135①②③)。 ② 破産開始決定の場合の特例 法人が、破産開始の決定を受けた場合には、上記控除期間の5年を経過することなく、その破産開始決定の日の属する事業年度、すなわち解散事業年度の確定申告書の提出期限が到来したことをもって、還付されることとなる。 なお、仮装経理に基づく過大申告の場合の更正は、道府県民税、市町村民税及び事業税においても対象となる。 【原則】 まず、①の事業年度の法人税額まで還付し、その後②から⑥の事業年度の法人税額から順次控除する。⑥を控除した時点でまだ減額更正による過大納付額が残っている場合には、⑥の事業年度の確定申告書の提出期限である⑦の事業年度において還付される。 【破産開始の場合】 まず、①の事業年度の法人税額まで還付し、その後②の事業年度の法人税額から順次控除する。③を控除した時点でまだ減額更正による過大納付額が残っている場合には、④の事業年度の確定申告書の提出期限である④のタイミングで還付される。 ③ その他 仮装経理に基づく過大申告の場合の還付又は控除は、税務調査を伴うことが多い(法法135⑦)。還付手続を行うということは、それだけ税務当局も慎重になることが予想される。 また、更正事業年度においては、仮装経理部分のみならず、その他の全般的な取引や処理についても当然のことながら対象となることがあり、場合によっては、更正事業年度以外も税務調査の対象になることもあるため、還付手続のみならず、調査に備えた慎重な対応が必要となると考えられる。 ※次回より、甲田義典税理士が執筆を担当する。 (了)
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平成24年分 確定申告実務の留意点 【第4回】「各所得計算における留意点」
平成24年分 確定申告実務の留意点 【第4回】 「各所得計算における留意点」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 今回は、所得計算上の留意点のうち、給与所得者が直面することが多いと思われるものを取り上げることとする。 【1】 配当所得 (1) 配当所得の計算と課税の原則(総合課税) 配当所得には、法律上の配当等に係る所得と、法律的に配当ではないが配当とみなして課税される所得(みなし配当)がある。 法律上の配当等は、株主の地位に基づいて支払いを受ける剰余金の配当や出資者として支払いを受ける投資信託の収益の分配等であり(所法24①)、みなし配当は、適格合併以外の合併、資本や出資の払戻し、解散による残余財産の分配、証券市場以外からの自己株式の取得等に伴って発生する(所法25)。 みなし配当は、法律上の配当等と実質的に同じ経済的効果をもたらすため、配当とみなして課税される。なお、会社法は資本剰余金からの配当も認めているが、資本剰余金からの配当は資本の払戻しの性格を持つものであるため、配当所得には該当しない。 配当所得は、収入金額から株式等を取得するために要した借入金の利子を差し引いて計算する。このとき収入金額から差し引く借入金の利子には、譲渡した株式に係るものや申告不要制度の対象とした配当等(下記(2)参照)に係るものは含まれない(措法37の10⑥三、措通8の5-2)。 配当所得は、原則として総合課税の対象となる(所法22②一)。 総合課税の対象とした配当所得については、配当控除の適用を受けることができる(所法92)。 (2) 申告不要の配当所得 次の①、②に該当する配当所得は、確定申告に含める必要がない(措法8の5)。 この制度を適用するかどうかは、支払いを受ける配当等1回ごとに選択することができる(源泉徴収を選択した特定口座内の配当等は口座ごと)。 ① 上場株式等の配当等以外(未上場株式等) 内国法人から支払いを受ける配当等で、1回に支払いを受ける金額が10万円に配当計算期間の月数を乗じ、これを12で除して計算した金額以下である場合 この基準により確定申告をしないことを選択した配当所得であっても、住民税では総合課税の対象となる。 そのため、確定申告書の住民税に関する事項「配当に関する住民税の特例」欄に住民税の課税対象となる配当所得の金額を記入する必要がある。 ※確定申告書A(第二表)の一部抜粋 ② 上場株式等の配当等(大口株主*が支払いを受けるものは除く) 配当等の金額にかかわらず、確定申告は不要である。 *大口株主:その配当等に係る事業年度終了の日においてその内国法人の発行済株式総数の3%以上(平成23年9月30日以前は5%以上)の株式を有する株主 (3) 上場株式等の配当所得に係る申告分離課税 平成21年1月1日以後支払いを受ける上場株式等の配当等については、総合課税と申告不要制度の他に申告分離課税を選択することができる(措法8の4①)。 申告分離課税を適用する場合は、申告する上場株式等の配当等のすべてについて適用しなければならず、一部を総合課税、一部を申告分離課税の対象とすることはできない(措法8の4②)。 また、申告分離課税の対象とした配当所得については、配当控除の適用を受けることもできない(措法8の4①)。 適用される税率は15%(他に住民税5%)であるが、平成25年12月31日までは7%(他に住民税3%)の軽減税率が適用される。 なお、申告分離課税の対象とした上場株式等の配当所得は、上場株式等の譲渡損失と損益通算することができる(措法37の12の2①)。 【2】 株式の譲渡所得 (1) 課税の原則(申告分離課税) 平成16年1月1日以後の株式等の譲渡による所得は、15%(他に住民税5%)の税率による申告分離課税の対象とされている(措法37の10①)。ただし、平成25年12月31日までに行う上場株式等の譲渡に係る所得については、7%(他に住民税3%)の軽減税率が適用される(平20改所法等附43②)。 軽減税率が適用されるのは、証券業者等を通じた譲渡の場合に限られる。たとえ上場株式等の譲渡であっても、証券業者等を通さない相対取引による場合には15%の税率で課税される。 (2) 譲渡損失が生じた場合 ① 内部通算 株式等の譲渡損失は、原則として株式等の譲渡益との間でのみ通算することができる(措法37の10①)。 上場株式等と未上場株式等の譲渡損益を通算する場合には、次のようになる。 ② 上場株式等の譲渡損失と上場株式等の配当所得との損益通算 上場株式等の譲渡損失は、申告分離課税を選択した上場株式等に係る配当所得と損益通算することができる(措法37の12の2①)。 この制度の適用を受けるには、確定申告書に適用を受ける旨の記載をし、一定の書類を添付しなければならない(措規18の14の2②)(【1】(3)参照)。 ③ 上場株式等の譲渡損失の繰越控除 上場株式等の譲渡損失(証券業者等を通じた譲渡等により生じたもの)で、申告分離課税を適用した上場株式等の配当所得の金額と損益通算してもなお控除しきれない金額がある場合には、翌年以後3年にわたって株式等に係る譲渡所得の金額及び上場株式等の配当所得の金額(申告分離課税の対象としたもの)から繰越控除することができる(措法37の12の2)。 繰越控除の順序についての留意点は、次の通りである。 この制度の適用を受けるためには、次のすべての要件を満たさなければならない(措法37の12の2⑧)。 【3】 土地建物の譲渡所得 土地等や建物を譲渡したことによる所得は、他の所得と分離して課税することとされ、次の場合を除き、他の所得との損益通算及び譲渡損失の繰越控除は認められていない(措法31、32)。 【4】 不動産所得 不動産所得は、総合課税の対象となる(所法22②一)。不動産所得の金額の計算上損失が生じた場合には、他の所得と損益通算ができる(所法69)。 ただし、必要経費の中に不動産所得を生ずるための土地等を取得するために要した借入金の利子がある場合には、その利子相当額は生じなかったものとみなされ、当該金額は損益通算の対象とならない(措法41の4)。 具体的には次のようになる(措令26の6①)。 ① 総収入金額-土地等を取得するために要した借入金利子以外の必要経費 > 0 の場合 ② 総収入金額-土地等を取得するために要した借入金利子以外の必要経費 < 0 の場合 また、不動産の貸付けが事業的規模であるかどうかによって、所得計算上異なる取扱いがある。 ① 固定資産の取壊し、除却、滅失等による資産損失(所法51) 事業的規模の場合:全額必要経費算入 それ以外の場合 :資産損失を差し引く前の不動産所得の金額を限度に必要経費に算入 ② 回収不能による貸倒損失(所法51、64) 事業的規模の場合:回収不能となった年分の必要経費に算入 それ以外の場合 :収入計上した年分にさかのぼり、その回収不能額がなかったものとみなして所得計算をやり直す ③ 白色専従者控除、青色事業専従者給与(所法57) 事業的規模の場合:適用あり それ以外の場合 :適用なし ④ 青色申告特別控除(措法25の2) 事業的規模の場合:最高65万円 それ以外の場合 :最高10万円 【5】 その他 (1) 満期保険金を受け取った場合 満期保険金を受け取った場合、保険料負担者と保険金受取人が同じであれば、一時所得又は雑所得(一時金で受け取った場合は一時所得、年金で受け取った場合は雑所得)として課税され、保険料負担者と保険金受取人が異なる場合は贈与税の課税対象となる(所法34、35、所基通34-1)。 保険に係る所得であっても、保険期間が5年以下のものや保険期間は5年を超えていても5年以内に解約したものに係る一時払いの保険等の差益については、金融類似商品として税率15%(他に住民税5%)の源泉分離課税の対象となり、源泉徴収だけで課税関係は終了する(所法174、措法41の10、措通41の10・41の12共-1)。 (2) 東日本大震災関連 福島原子力発電所の事故により被害を受け、賠償金の支払いを受けた場合の所得税法上の取扱いについては、平成23年11月30日付国税庁文書回答で明らかにされている。 その後、平成24年11月29日付で「財物価値の喪失又は減少等」に対する賠償金の所得税法上の取扱いについても文書回答にて明らかにされた。 また、東日本大震災で被害を受けた場合の税制上の取扱いは、以下の国税庁ホームページにまとめられている。 次回は、所得控除の留意点について解説を行う予定である。 (了)