面接・採用・雇用契約までの留意点
【第1回】
「採用の自由とその限界」
社会保険労務士 菅原 由紀
「採用の自由」と「法による規制」
使用者には、広く採用の自由が認められており、いつ、どのような人を、どのような選考基準によって、どのような労働条件で雇うかは原則として使用者の自由である。これは、憲法22条、29条等における「財産権の行使」「営業の自由」などが保障されているからである(昭和48年12月12日三菱樹脂事件最高裁判決)。
しかし、この原則に対してはいくつかの例外があり、「男女雇用機会均等法」、「障害者雇用促進法」、「高年齢者雇用安定法」「雇用対策法」そして「労働組合法」という5つの法律によって禁止事項が定められている。
① 男女雇用機会均等法
性別を理由とした募集・採用差別が禁止されている。応募者の中から男性のみを採用するといった選考基準を設けることは許されない。
② 障害者雇用促進法
事業主に対して一定比率以上の障害者雇用を義務付けている。
③ 高年齢者雇用安定法
事業主に対して65歳までの継続雇用制度等の導入を義務付けている。
④ 雇用対策法
募集・採用についての年齢にかかわりなく雇用の機会を与えるように求めており、採用にあたって年齢制限を禁止している。
⑤ 労働組合法
労働組合から脱退することを雇用条件とすること、あるいは労働組合に加入しないことを約束させて採用することなどを禁止している。
しかしながら、障害者雇用促進法を除いたほとんどの労働法は「機会の平等」を求めているのであって、「結果の平等」までを義務付けしているものではない。障害者雇用促進法においても、一定率の障害者の雇入れを義務付けているだけであり、特定の人を採用することを義務付けているわけではない。
したがって、やはり使用者の採用の自由は広く認められているといえるであろう。
入社試験や面接で“聞いてはいけない”質問
使用者は採用の自由を認められていることから、応募者に関する情報については、選考の合理的な必要性の範囲内であれば、様々な事項についての情報を入手することができるものと解されてきた。
しかし、近年の法令や行政指導においては、次の2点について、採用過程での使用者の情報収集活動に一定の制限を加えられている。
① 業務の目的達成に必要な範囲を超えた個人情報
② 身上、家族状況等に関する質問
ただし、いったん採用した者との使用者側からの雇用契約の解消(解雇)は難しいという状況から、実務上は「雇わない自由」がある面接採用において、採用の可否を決定するために必要な情報を収集することは重要である。
そこで面接にあたっては、収集すべき情報を整理し、応募者に対して合理的な理由を説明した上で、実施する必要があるだろう。
採用選考時に配慮すべき質問事項
〈本人に責任のない事項の把握〉
- 本籍・出生地に関すること
(「戸籍謄(抄)本」や本籍が記載された「住民票(写し)」を提出させることはこれに該当) - 家族に関すること
(職業、続柄、健康、地位、学歴、収入、資産など)(注:家族の仕事の有無・職種・勤務先などや家族構成はこれに該当) - 住宅状況に関すること(間取り、部屋数、住宅の種類、近郊の施設など)
- 生活環境・家庭環境などに関すること
〈本来自由であるべき事項(思想信条にかかわること)の把握〉
- 宗教に関すること
- 支持政党に関すること
- 人生観、生活信条に関すること
- 尊敬する人物に関すること
- 思想に関すること
- 労働組合・学生運動など社会運動に関すること
- 購読新聞・雑誌・愛読書などに関すること
〈採用選考の方法〉
- 身元調査などの実施
(「現住所の略図」は生活環境などを把握したり身元調査につながる可能性があり) - 合理的・客観的に必要性が認められない採用選考時の健康診断の実施
(厚生労働省「公正な採用選考について」)
(了)