公開日: 2014/05/29 (掲載号:No.71)
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所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる「従業者」に関する要件整理~雇用形態による適用関係の差異を検討する~ 【第1回】「雇用者等の用語定義を整理」

筆者: 鯨岡 健太郎

所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる

「従業者」に関する要件整理

~雇用形態による適用関係の差異を検討する~

【第1回】

「雇用者等の用語定義を整理」

 

公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎

 

1 はじめに

我が国経済の積年の課題であるデフレ脱却からの安定的な経済成長の達成に向け、現政権は様々な経済活性化政策を打ち出している。特に、雇用対策については非常に重視されており、雇用環境および個人所得の改善を通じた経済活性化が期待される。

既に本誌にも数回にわたり寄稿したところであるが、こういった雇用対策を税制面からサポートするための租税特別措置として、雇用促進税制(雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除:措法42の12)および所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除:措法42の12の4)が設けられている。

特に所得拡大促進税制は、平成25年度税制改正で創設されたものであるにもかかわらず、直後の平成26年度税制改正(民間投資活性化のための税制改正大綱)において適用要件の緩和を行い、本税制の一層の適用促進の姿勢を見せたことは記憶に新しく、非常に特異的であった。

所得拡大促進税制の改正事項については多くの解説記事が出そろいつつあり、読者各位におかれても適用要件について一定の理解を得られていることと思う。

そこで今回は少し切り口を変え、それぞれの税制の適用対象となる「従業者」の雇用形態に着目し、いかなる雇用形態の従業者がそれぞれの税制の適用対象に含まれるのかを整理することとした。

本稿は原則として、平成26年3月31日に公布された平成26年度改正税法に基づいているが、必要に応じ、改正前の制度にも言及することとする。

なお、所得拡大促進税制に係る平成26年度改正事項については、『〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載58〕所得拡大促進税制の平成26年度改正事項と別表6(20)新様式の変更点』(竹内陽一氏)において詳細に述べられているため、そちらの記事を参照されたい。

 

2 所得拡大促進税制・雇用促進税制における「雇用者」概念の整理

(1) 所得拡大促進税制

本税制は、「国内雇用者」に対する給与等支給増加額の10%相当額の税額控除を認めるものであるから、「国内雇用者」の範囲を理解する必要がある。

「国内雇用者」とは、法人の使用人(当該法人の役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く)のうち、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者をいう(措法42の12の4②一、措令27の12の4①②)。

労働基準法第108条には、

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調整し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払いの都度遅滞なく記入しなければならない

との定めがあり、これを受けた労働基準法施行規則第54条では、

使用者は、法第108条の規定によって、次に掲げる事項(筆者注:省略)を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない

と定めている。

ここで「労働者」とは何かが問題となるが、労働基準法における労働者は

職業の種類を問わず、事業又は事業に使用される者で、賃金を支払われる者

と定義されている(9条)ことから、賃金台帳は、雇用形態にかかわらず、すべての労働者について作成する義務を負っているということになる。

したがって「国内雇用者」という概念は、基本的には雇用形態とは無関係の、比較的幅広く捉えられるものであるといえる。

他方で、適用要件の一つである「平均給与等支給額」の算定に当たっては、「継続雇用者給与等支給額」という概念が登場する。

継続雇用者の概念は、平成26年度税制改正によって新たに導入されたものであり、平成26年3月期決算法人の税務申告に当たっては、従前の平均給与等支給額の算定方法が適用されるので留意されたい(日雇い者に係る金額及び支給人数を控除して算定。ただし翌期に上乗せ控除する場合の適用要件の検討に当たっては、継続雇用者給与等支給額を用いて判断することとなる)。

「継続雇用者」とは、当該適用年度及び当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者をいい、継続雇用者給与等支給額は、継続雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対して支給する額に限り、一定の継続雇用制度対象者に対して支給された額を除くものとされている(措法42の12の4②六、措令27の12の4⑪)。

要するに継続雇用者とは、前期と当期の2期にわたり給与等の支給対象となった雇用保険一般被保険者(継続雇用制度の適用対象者を除く)ということである。

よって以下のケースのように、2期にわたり給与等支給対象たる雇用保険一般被保険者となっていない(1期しか支給対象になっていない)者については、平均給与等支給額の算定対象となる継続雇用者には含まれないこととなる。

  • 当年度に新規入社した社員(新入社員)
  • 前年度中に退職した社員
  • 前期は雇用保険一般被保険者だったが、当期首から継続雇用制度の適用を受けることとなった社員
  • 前期は雇用保険一般被保険者だったが、当期首から高年齢継続被保険者となった社員

継続雇用者の範囲から除外される「一定の継続雇用制度対象者」は、当該法人の就業規則において継続雇用制度を導入している旨の記載があり、かつ、雇用契約書又は賃金台帳のいずれかに当該継続雇用制度に基づき雇用されているものである者である旨の記載がある場合の当該者をいう(措規20の9)。

「継続雇用制度」とは、現に雇用している高年齢者(55歳以上)が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて65歳まで雇用する制度をいう(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9①)。

本制度の適用を受ける上では、引き続き雇用保険の一般被保険者の立場を維持することができるが、65歳を迎えた段階で本制度の適用が終了するとともに、一般被保険者としての資格を喪失する(年齢制限)。

ただし、継続雇用制度の適用を受けている中で企業との別段の合意のもと、65歳を超えても引き続き雇用が維持される状況になったときは、雇用保険の高年齢継続被保険者の資格を取得することとなる。

このように、継続雇用者と雇用保険の高年齢継続被保険者(以下参照)とは直接関連しないので、念のため申し添える。

(2) 雇用促進税制

本税制は、「基準雇用者数」1人あたり40万円の税額控除を認めるものであり、「基準雇用者数」は「高年齢雇用者を除いた雇用者」の数を期間比較して算定される(措法42の12②四)ものであるから、「雇用者」及び「高年齢雇用者」の範囲を理解する必要がある。

「雇用者」とは、法人の使用人(当該法人の役員、特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)のうち、雇用保険の一般被保険者に該当する者をいう(措法42の12②二)。

これに対して「高年齢雇用者」とは、法人の使用人のうち雇用保険の高年齢継続被保険者に該当する者をいう(措法42の12②三)。なお「高年齢継続被保険者」とは、被保険者であって、同一の事業主の適用事業に65歳に達した日の前日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されているもの(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く)をいう(雇用保険法37の2)。

 

3 本稿の検討対象とする雇用形態

以上を踏まえ、次回(2014/6/5公開)では、以下の雇用形態ごとに、それぞれの制度適用の可否を検討していくこととする。ただし説明の都合上、60歳定年制を前提とする。

60歳未満の正社員(定年退職前)

60歳で定年退職後、65歳まで継続雇用制度の適用を受けている正社員

65歳以降も勤務している正社員

在籍出向者(出向元で正社員、出向先で役員又は使用人兼務役員)

在籍出向者(出向元で正社員、出向先でも正社員)

嘱託社員・契約社員

派遣社員

海外勤務社員

パート、アルバイト

日雇い労働者

〔凡例〕
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
(例)措法42の12の4②一・・・租税特別措置法第42条の12の4第2項第1号

(了)

所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる

「従業者」に関する要件整理

~雇用形態による適用関係の差異を検討する~

【第1回】

「雇用者等の用語定義を整理」

 

公認会計士・税理士 鯨岡 健太郎

 

1 はじめに

我が国経済の積年の課題であるデフレ脱却からの安定的な経済成長の達成に向け、現政権は様々な経済活性化政策を打ち出している。特に、雇用対策については非常に重視されており、雇用環境および個人所得の改善を通じた経済活性化が期待される。

既に本誌にも数回にわたり寄稿したところであるが、こういった雇用対策を税制面からサポートするための租税特別措置として、雇用促進税制(雇用者の数が増加した場合の法人税額の特別控除:措法42の12)および所得拡大促進税制(雇用者給与等支給額が増加した場合の法人税額の特別控除:措法42の12の4)が設けられている。

特に所得拡大促進税制は、平成25年度税制改正で創設されたものであるにもかかわらず、直後の平成26年度税制改正(民間投資活性化のための税制改正大綱)において適用要件の緩和を行い、本税制の一層の適用促進の姿勢を見せたことは記憶に新しく、非常に特異的であった。

所得拡大促進税制の改正事項については多くの解説記事が出そろいつつあり、読者各位におかれても適用要件について一定の理解を得られていることと思う。

そこで今回は少し切り口を変え、それぞれの税制の適用対象となる「従業者」の雇用形態に着目し、いかなる雇用形態の従業者がそれぞれの税制の適用対象に含まれるのかを整理することとした。

本稿は原則として、平成26年3月31日に公布された平成26年度改正税法に基づいているが、必要に応じ、改正前の制度にも言及することとする。

なお、所得拡大促進税制に係る平成26年度改正事項については、『〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載58〕所得拡大促進税制の平成26年度改正事項と別表6(20)新様式の変更点』(竹内陽一氏)において詳細に述べられているため、そちらの記事を参照されたい。

 

2 所得拡大促進税制・雇用促進税制における「雇用者」概念の整理

(1) 所得拡大促進税制

本税制は、「国内雇用者」に対する給与等支給増加額の10%相当額の税額控除を認めるものであるから、「国内雇用者」の範囲を理解する必要がある。

「国内雇用者」とは、法人の使用人(当該法人の役員、役員の特殊関係者、使用人兼務役員を除く)のうち、当該法人の国内に所在する事業所につき作成された労働基準法第108条に規定する賃金台帳に記載された者をいう(措法42の12の4②一、措令27の12の4①②)。

労働基準法第108条には、

使用者は、各事業場ごとに賃金台帳を調整し、賃金計算の基礎となる事項及び賃金の額その他厚生労働省令で定める事項を賃金支払いの都度遅滞なく記入しなければならない

との定めがあり、これを受けた労働基準法施行規則第54条では、

使用者は、法第108条の規定によって、次に掲げる事項(筆者注:省略)を労働者各人別に賃金台帳に記入しなければならない

と定めている。

ここで「労働者」とは何かが問題となるが、労働基準法における労働者は

職業の種類を問わず、事業又は事業に使用される者で、賃金を支払われる者

と定義されている(9条)ことから、賃金台帳は、雇用形態にかかわらず、すべての労働者について作成する義務を負っているということになる。

したがって「国内雇用者」という概念は、基本的には雇用形態とは無関係の、比較的幅広く捉えられるものであるといえる。

他方で、適用要件の一つである「平均給与等支給額」の算定に当たっては、「継続雇用者給与等支給額」という概念が登場する。

継続雇用者の概念は、平成26年度税制改正によって新たに導入されたものであり、平成26年3月期決算法人の税務申告に当たっては、従前の平均給与等支給額の算定方法が適用されるので留意されたい(日雇い者に係る金額及び支給人数を控除して算定。ただし翌期に上乗せ控除する場合の適用要件の検討に当たっては、継続雇用者給与等支給額を用いて判断することとなる)。

「継続雇用者」とは、当該適用年度及び当該適用年度開始の日の前日を含む事業年度において給与等の支給を受けた国内雇用者をいい、継続雇用者給与等支給額は、継続雇用者のうち雇用保険の一般被保険者に対して支給する額に限り、一定の継続雇用制度対象者に対して支給された額を除くものとされている(措法42の12の4②六、措令27の12の4⑪)。

要するに継続雇用者とは、前期と当期の2期にわたり給与等の支給対象となった雇用保険一般被保険者(継続雇用制度の適用対象者を除く)ということである。

よって以下のケースのように、2期にわたり給与等支給対象たる雇用保険一般被保険者となっていない(1期しか支給対象になっていない)者については、平均給与等支給額の算定対象となる継続雇用者には含まれないこととなる。

  • 当年度に新規入社した社員(新入社員)
  • 前年度中に退職した社員
  • 前期は雇用保険一般被保険者だったが、当期首から継続雇用制度の適用を受けることとなった社員
  • 前期は雇用保険一般被保険者だったが、当期首から高年齢継続被保険者となった社員

継続雇用者の範囲から除外される「一定の継続雇用制度対象者」は、当該法人の就業規則において継続雇用制度を導入している旨の記載があり、かつ、雇用契約書又は賃金台帳のいずれかに当該継続雇用制度に基づき雇用されているものである者である旨の記載がある場合の当該者をいう(措規20の9)。

「継続雇用制度」とは、現に雇用している高年齢者(55歳以上)が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて65歳まで雇用する制度をいう(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律9①)。

本制度の適用を受ける上では、引き続き雇用保険の一般被保険者の立場を維持することができるが、65歳を迎えた段階で本制度の適用が終了するとともに、一般被保険者としての資格を喪失する(年齢制限)。

ただし、継続雇用制度の適用を受けている中で企業との別段の合意のもと、65歳を超えても引き続き雇用が維持される状況になったときは、雇用保険の高年齢継続被保険者の資格を取得することとなる。

このように、継続雇用者と雇用保険の高年齢継続被保険者(以下参照)とは直接関連しないので、念のため申し添える。

(2) 雇用促進税制

本税制は、「基準雇用者数」1人あたり40万円の税額控除を認めるものであり、「基準雇用者数」は「高年齢雇用者を除いた雇用者」の数を期間比較して算定される(措法42の12②四)ものであるから、「雇用者」及び「高年齢雇用者」の範囲を理解する必要がある。

「雇用者」とは、法人の使用人(当該法人の役員、特殊関係者及び使用人兼務役員を除く)のうち、雇用保険の一般被保険者に該当する者をいう(措法42の12②二)。

これに対して「高年齢雇用者」とは、法人の使用人のうち雇用保険の高年齢継続被保険者に該当する者をいう(措法42の12②三)。なお「高年齢継続被保険者」とは、被保険者であって、同一の事業主の適用事業に65歳に達した日の前日から引き続いて65歳に達した日以後の日において雇用されているもの(短期雇用特例被保険者及び日雇労働被保険者を除く)をいう(雇用保険法37の2)。

 

3 本稿の検討対象とする雇用形態

以上を踏まえ、次回(2014/6/5公開)では、以下の雇用形態ごとに、それぞれの制度適用の可否を検討していくこととする。ただし説明の都合上、60歳定年制を前提とする。

60歳未満の正社員(定年退職前)

60歳で定年退職後、65歳まで継続雇用制度の適用を受けている正社員

65歳以降も勤務している正社員

在籍出向者(出向元で正社員、出向先で役員又は使用人兼務役員)

在籍出向者(出向元で正社員、出向先でも正社員)

嘱託社員・契約社員

派遣社員

海外勤務社員

パート、アルバイト

日雇い労働者

〔凡例〕
措法・・・租税特別措置法
措令・・・租税特別措置法施行令
措規・・・租税特別措置法施行規則
措通・・・租税特別措置法関係通達
(例)措法42の12の4②一・・・租税特別措置法第42条の12の4第2項第1号

(了)

連載目次

「所得拡大促進税制・雇用促進税制の対象となる「従業者」に関する要件整理~雇用形態による適用関係の差異を検討する~」(全2回)

 

筆者紹介

鯨岡 健太郎

( くじらおか・けんたろう )

公認会計士・税理士
税理士法人ファシオ・コンサルティング パートナー

1998(平成10)年公認会計士試験合格後に大手監査法人に入社。主に国内上場企業に対する法定監査業務及び株式公開支援業務に従事。2002(平成14)年に公認会計士登録。
その後、2003(平成15)年に大手税理士法人に転籍し、主に国内外の法人に対する税務コンプライアンス業務及び税務コンサルティングサービスに従事したほか、M&Aにおける税務デューデリジェンス業務、ストラクチャリング業務等のM&Aアドバイザリー業務にも関与。2005(平成17)年に税理士登録。

2008(平成20)年に独立開業。現在は税理士法人のパートナー税理士として、中小企業の経営支援業務や連結納税導入支援業務等に従事している。

【著書】
中小企業の繰越控除にも対応!詳解 賃上げ促進税制』2024年、清文社
中小企業の判定をめぐる税務』2021年、清文社

 

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