公開日: 2016/04/14 (掲載号:No.165)
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平成28年度税制改正における減価償却制度の改正ポイント 【第1回】「改正概要及び経過措置の確認」

筆者: 新名 貴則

平成28年度税制改正における

減価償却制度の改正ポイント

【第1回】

「改正概要及び経過措置の確認」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成28年3月29日の参議院本会議において、平成28年度税制改正法案が可決され、3月31日には税制改正関連法及び政省令が公布された。施行日は原則として平成28年4月1日である。

この中で、法人税率引下げに伴う財源確保のため、減価償却制度の見直しが行われた。
本連載では、改正法令を踏まえ、その内容について解説していくこととする。

 

1 改正の概要

従来、平成10年4月1日以後に取得した建物については、償却方法が定額法に限定されていたが、建物附属設備や構築物については定率法も選択することができた。しかし、次のような理由から、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備及び構築物については、建物と同様に定率法を廃止し、償却方法を定額法に限定することになった。

▷建物附属設備:建物と一体的に整備されるため

▷構築物:建物と同様に長期安定的に使用されるため

また、同様に平成28年4月1日以後に取得する鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物のみ)についても、定率法を廃止し、定額法又は生産高比例法に限定することになった。

【選択可能な償却方法】
 資産の種類 取得時期 平成28年3月31日以前 平成28年4月1日以後 建物附属設備及び構築物 (鉱業用のものは除く)  定率法 法定(※)  定額法  定額法 鉱業用減価償却資産 (建物、建物附属設備及び構築物のみ)  定率法  定額法  生産高比例法 法定  定額法  生産高比例法 法定

(※) 償却方法の選択について特に届出をしていない場合に適用される、法定償却方法のこと。

なお、ここでいう取得時期とは、正確には「事業供用日」を指すことに注意が必要である。例えば、購入したのは平成28年3月31日以前であっても、事業供用日が4月1日以後であれば、改正後の税法が適用されることになる。

 

2 経過措置

今回の改正に伴い、次の経過措置が設けられている。

◆償却方法の変更手続の時期

通常、償却方法を変更する場合には、新たな償却方法を採用しようとする事業年度の開始日の前日までに、所轄税務署長に届出書を提出する必要がある。

しかし、今回の改正の施行日(平成28年4月1日)以後最初に終了する事業年度において、建物、建物附属設備及び構築物について償却方法を変更する場合には、当該事業年度の確定申告書の提出期限(仮決算による中間申告書を提出する場合はその提出期限)までに、所轄税務署長に届出書を提出すればよい。

◆資本的支出の取扱い

資本的支出を行った場合、原則として、新たに資産を取得したものとして既存資産とは別個に減価償却を行う。ただし、既存資産及び資本的支出に定率法を採用している場合は、資本的支出を行った翌事業年度から、既存資産の帳簿価額と資本的支出の帳簿価額を合算して、1つの新たな資産として償却を行うことができるという特例が設けられている。

今回の改正の施行日(平成28年4月1日)を含む事業年度においては、平成28年3月31日までに行った建物附属設備及び構築物に係る資本的支出については、定率法を採用している場合は上記の特例を適用することができる。平成28年4月1日以後の資本的支出については、新たな資産として定額法で償却する必要があり、上記の特例は適用できない。

 

3 事例に基づく改正前後の減価償却の比較

定率法及び定額法における償却を、事例に基づいて比較すると次の通りである。

これまで建物附属設備や構築物について定率法を選択していた法人では、今後は定額法に限定されるため、償却開始後の数年間は償却額が大幅に少なくなることに注意が必要である。

【 事 例 】

  • 種類:建物附属設備
  • 耐用年数:15年
  • 取得価額:10,000,000円

定率法(償却率0.133) 定額法(償却率0.067) 償却額 簿 価 償却額 簿 価 取得価額 10,000,000 10,000,000 1年目 1,330,000 8,670,000 670,000 9,330,000 2年目 1,153,110 7,516,890 670,000 8,660,000 3年目 999,746 6,517,144 670,000 7,990,000 4年目 866,780 5,650,364 670,000 7,320,000 5年目 751,498 4,898,866 670,000 6,650,000 6年目 651,549 4,247,317 670,000 5,980,000 7年目 564,893 3,682,424 670,000 5,310,000 8年目 489,762 3,192,662 670,000 4,640,000 9年目 (※2) 456,550 2,736,112 670,000 3,970,000 10年目 456,550 2,279,562 670,000 3,300,000 11年目 456,550 1,823,012 670,000 2,630,000 12年目 456,550 1,366,462 670,000 1,960,000 13年目 456,550 909,912 670,000 1,290,000 14年目 456,550 453,362 670,000 620,000 15年目 453,361 1 619,999 1

(※1) 少数点以下の端数は切り捨てている。

(※2) 9年目以降は改定償却率による計算に変わっている。

(了)

次回は4/21に公開されます。

平成28年度税制改正における

減価償却制度の改正ポイント

【第1回】

「改正概要及び経過措置の確認」

 

公認会計士・税理士 新名 貴則

 

平成28年3月29日の参議院本会議において、平成28年度税制改正法案が可決され、3月31日には税制改正関連法及び政省令が公布された。施行日は原則として平成28年4月1日である。

この中で、法人税率引下げに伴う財源確保のため、減価償却制度の見直しが行われた。
本連載では、改正法令を踏まえ、その内容について解説していくこととする。

 

1 改正の概要

従来、平成10年4月1日以後に取得した建物については、償却方法が定額法に限定されていたが、建物附属設備や構築物については定率法も選択することができた。しかし、次のような理由から、平成28年4月1日以後に取得した建物附属設備及び構築物については、建物と同様に定率法を廃止し、償却方法を定額法に限定することになった。

▷建物附属設備:建物と一体的に整備されるため

▷構築物:建物と同様に長期安定的に使用されるため

また、同様に平成28年4月1日以後に取得する鉱業用減価償却資産(建物、建物附属設備及び構築物のみ)についても、定率法を廃止し、定額法又は生産高比例法に限定することになった。

【選択可能な償却方法】
 資産の種類 取得時期 平成28年3月31日以前 平成28年4月1日以後 建物附属設備及び構築物 (鉱業用のものは除く)  定率法 法定(※)  定額法  定額法 鉱業用減価償却資産 (建物、建物附属設備及び構築物のみ)  定率法  定額法  生産高比例法 法定  定額法  生産高比例法 法定

(※) 償却方法の選択について特に届出をしていない場合に適用される、法定償却方法のこと。

なお、ここでいう取得時期とは、正確には「事業供用日」を指すことに注意が必要である。例えば、購入したのは平成28年3月31日以前であっても、事業供用日が4月1日以後であれば、改正後の税法が適用されることになる。

 

2 経過措置

今回の改正に伴い、次の経過措置が設けられている。

◆償却方法の変更手続の時期

通常、償却方法を変更する場合には、新たな償却方法を採用しようとする事業年度の開始日の前日までに、所轄税務署長に届出書を提出する必要がある。

しかし、今回の改正の施行日(平成28年4月1日)以後最初に終了する事業年度において、建物、建物附属設備及び構築物について償却方法を変更する場合には、当該事業年度の確定申告書の提出期限(仮決算による中間申告書を提出する場合はその提出期限)までに、所轄税務署長に届出書を提出すればよい。

◆資本的支出の取扱い

資本的支出を行った場合、原則として、新たに資産を取得したものとして既存資産とは別個に減価償却を行う。ただし、既存資産及び資本的支出に定率法を採用している場合は、資本的支出を行った翌事業年度から、既存資産の帳簿価額と資本的支出の帳簿価額を合算して、1つの新たな資産として償却を行うことができるという特例が設けられている。

今回の改正の施行日(平成28年4月1日)を含む事業年度においては、平成28年3月31日までに行った建物附属設備及び構築物に係る資本的支出については、定率法を採用している場合は上記の特例を適用することができる。平成28年4月1日以後の資本的支出については、新たな資産として定額法で償却する必要があり、上記の特例は適用できない。

 

3 事例に基づく改正前後の減価償却の比較

定率法及び定額法における償却を、事例に基づいて比較すると次の通りである。

これまで建物附属設備や構築物について定率法を選択していた法人では、今後は定額法に限定されるため、償却開始後の数年間は償却額が大幅に少なくなることに注意が必要である。

【 事 例 】

  • 種類:建物附属設備
  • 耐用年数:15年
  • 取得価額:10,000,000円

定率法(償却率0.133) 定額法(償却率0.067) 償却額 簿 価 償却額 簿 価 取得価額 10,000,000 10,000,000 1年目 1,330,000 8,670,000 670,000 9,330,000 2年目 1,153,110 7,516,890 670,000 8,660,000 3年目 999,746 6,517,144 670,000 7,990,000 4年目 866,780 5,650,364 670,000 7,320,000 5年目 751,498 4,898,866 670,000 6,650,000 6年目 651,549 4,247,317 670,000 5,980,000 7年目 564,893 3,682,424 670,000 5,310,000 8年目 489,762 3,192,662 670,000 4,640,000 9年目 (※2) 456,550 2,736,112 670,000 3,970,000 10年目 456,550 2,279,562 670,000 3,300,000 11年目 456,550 1,823,012 670,000 2,630,000 12年目 456,550 1,366,462 670,000 1,960,000 13年目 456,550 909,912 670,000 1,290,000 14年目 456,550 453,362 670,000 620,000 15年目 453,361 1 619,999 1

(※1) 少数点以下の端数は切り捨てている。

(※2) 9年目以降は改定償却率による計算に変わっている。

(了)

次回は4/21に公開されます。

連載目次

「平成28年度税制改正における減価償却制度の改正ポイント」(全2回)

筆者紹介

新名 貴則

(しんみょう・たかのり)

公認会計士・税理士

京都大学経済学部卒。愛媛県松山市出身。
朝日監査法人(現:有限責任あずさ監査法人)にて、主に会計監査と内部統制構築に従事。
日本マネジメント税理士法人にて、個人商店から上場企業まで幅広く顧問先を担当。またM&Aや監査法人対応などのアドバイスも行う。
平成24年10月1日より新名公認会計士・税理士事務所代表。

【著書】
・『新版 退職金をめぐる税務』(清文社)
・『Q&Aでわかる 監査法人対応のコツ』
・『現場の疑問に答える 税効果会計の基本Q&A』
・『148の事例から見た是否認事項の判断ポイント』(共著)
・『消費税申告の実務』(共著)
(以上、税務経理協会)

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