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〔書評〕
酒井克彦 著
『「正当な理由」をめぐる認定判断と税務解釈
~判断に迷う《加算税免除規定》の解釈』
(清文社・2015年7月刊・A5判・224頁・定価=本体2,200円+税)
〈評者〉
東京福祉大学准教授
ABC税理士法人
税理士 平 仁
税務調査に対する対応に迷いを抱える税理士は多い。
税務調査の結果、増差税額が生じたため、クライアントに追徴税額の支払いを依頼しなければならないだけではなく、追加的に延滞税・加算税の支払いを依頼しなければならないからである。
また、税務調査の際に税務署との見解の相違が明らかとなり、修正申告を余儀なくされる場合に課される加算税の負担をクライアントに求める場合に、クライアントとの間にトラブルになる場合も多いからであろう。
本書は、税理士とクライアントとの間のトラブルに発展しがちな加算税について、加算税を課さない「正当な理由」について、条文解釈とともに判例研究を通じて、その認定判断基準を明確にすることにチャレンジした意欲作である。
加算税は申告納税制度の下における適法性を確保するために設けられたものであり、「①法に基づく正確性や、②申告期限が守られない場合のペナルティ」(12頁)であると定義した上で、判例は、「①当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図ること、②過少申告による納税義務違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図ること」(15頁)との趣旨を明らかにしている。
一方で、加算税を課さないことに対する政策的合理性のある根拠として、加算税通達を公表することが必要であることを明言し、加算税通達が例示する免除理由が明確になっているからこそ、その反対解釈から加算税を課す根拠が明確になるのである。その上で、通説である「不当・酷説」に基づき、加算税免除の判断基準として行政訴訟において採用される「クリーンハンドの原則」(自ら不正に関与した者は裁判所の救済を受けることができないというイギリス法の原則)が租税法においても前提されていることを明らかにしている(72頁以下)。
また、租税争訟における立証責任は原則として課税庁側に求められるが、「法律要件分類説に立って考えれば、課税権の発生に対する権利障害規定は、納税者側が主張・立証責任を負うと解すべき」(65頁)であり、「多くの裁判例において、「正当な理由」の主張・立証責任は納税者側にあると判断されており、学説上も通説である」(66頁)とする。しかし「不当性判断が行政上の措置としての妥当性に根拠を有するとするならば、不当性判断による「正当な理由」要件を納税者の側で主張・立証することに困難が伴うこともありえる」(70頁)から、我々実務家を悩ませることになるのである。だからこそ、クリーンハンドの原則が整合性をもつのである。
本書を通じ、税理士が、加算税を課さない「正当な理由」の判断基準を己のものにすることは、クライアントの責任ではない加算税の支払いを要求させないようになる、ということであり、納税者の権利を擁護する税理士の役割そのものと言えるであろう。ひいては課税権力の透明性を高めることにもつながり、適正な税務行政の実現を図ることになるものと思われる。
そういう意味では、国税庁OBである筆者が「正当な理由」の判断基準を明確にしようとしたチャレンジは、税務行政と納税者とを結ぶ懸け橋としての役割を果たすものであると言えよう。
(了)