公開日: 2021/05/06 (掲載号:No.418)
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コロナ禍に伴う企業の解雇・雇止めにおける留意点 【第1回】「解雇を行う場合の留意点」

筆者: 岩楯 めぐみ

コロナ禍に伴う企業の解雇雇止めにおける留意点

【第1回】

「解雇を行う場合の留意点」

 

特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ

 

はじめに

2020年1月に日本国内で新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認されてからすでに1年3ヶ月が経過している。この間、収束するかに見えた時期もあったものの、2021年1月には再度の緊急事態宣言が発令され、また、3月以降は変異ウイルス感染者の増加がみられるなど、依然として先行きが不透明な状況が続いている。

厚生労働省がまとめた「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」によれば、新型コロナウイルス感染症に起因する解雇・雇止めの見込み労働者数は累計で102,153人(2021年4月23日時点)であり、この長期混乱の中で、解雇や雇止めを選択せざるを得ない会社が多い状況になっている。しかし、コロナ禍であっても、安易な解雇や雇止めは訴訟などの労務トラブルにつながりかねない。

そこで本稿では、解雇・雇止めについての基本的な考え方やコロナ禍における留意点を2回にわたって確認したい。

第1回は、「解雇」についてその留意点を確認する。

 

1 解雇

労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定している。

解雇は、使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了であるため、容易には認められず、その実施にあたっては客観的合理性と社会通念上の相当性が求められ厳しく制限されている。

 

2 整理解雇

解雇には、大きくわけて「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、また、普通解雇の1つに「整理解雇」がある。

整理解雇は、業績不振などの経営上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、雇用調整の1つである人員削減のために行われる解雇をいうが、裁判例からその有効性は次の4要件(要素)から判断されると解されている。

〈整理解雇の4要件〉

① 人員削減の必要性

人員削減のための解雇が企業経営上の必要性に基づいているか。

② 解雇回避努力

人員削減のための解雇を実施する前に、配置転換、出向、一時休業、希望退職の募集などの手段により解雇を回避するための努力をしたか。

③ 人選の合理性

人員削減のための解雇の対象者の選定基準は、客観的・合理的で、それを公正に適用したか。

④ 解雇手続の妥当性

労働組合や労働者に対して、人員削減のための解雇の必要性やその時期・規模・方法、解雇対象者の選定基準について納得を得るために説明を行い、誠実に協議したか。

 

3 コロナ禍における解雇

コロナ禍における業績不振のため人員削減をせざるを得ない場合に行う解雇は、前述の整理解雇にあたる。したがって、解雇するにあたっては、コロナ禍であっても前述の整理解雇の4要件(要素)を踏まえた対応検討が必要になる。

また、以下の点を補足したい。

  • ①人員削減の必要性」については、コロナ禍で業績が悪化し回復も見込まれない状況にある場合は要件を充たすことが多いと考えるが、阪神・淡路大震災により業績が悪化したとしてなされた整理解雇において人員整理の必要性が認められなかった例(長栄運送事件(注1))もあり、非常時であっても個別状況を踏まえて厳格に判断される。
  • ②解雇回避努力」については、コロナ禍においてもできる限りの努力をすべきであるが、国の助成制度である「雇用調整助成金(注2)」においては、助成率を割り増すなどして新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例措置も設けられているため、解雇回避策としてできる限り雇用調整助成金を活用した検討をすべきで、その検討なく解雇した場合は、解雇回避努力が不十分であると判断される可能性が高くなるといえる。

(注1) 長栄運送事件(神戸地裁平成7年6月26日判決・労判685号60頁):判決理由の中で、「人員整理の必要性について、阪神大震災による道路事情の悪化、港湾施設の甚大な被害による港湾運送業者の業績の悪化を挙げるが、道路事情は震災直後の事情からみれば急速に改善されつつあるし、港湾施設の復旧も急ピッチでなされていることは顕著な事実であり、震災後、(一部省略)解雇までの間に6名が退職している事実もあり、整理解雇の必要性について疎明があるものとはいいがたい」と言及された。

(注2) 雇用調整助成金:事業活動の縮小を余儀なくされた場合に従業員の雇用維持を図るため休業などを実施する事業主に対して休業手当などの一部を国が助成する制度。

 

4 解雇制限など

整理解雇の4要件(要素)を踏まえて解雇する場合であっても、解雇にあたっては次のルールがあるため注意が必要になる。

(1) 解雇制限(労働基準法19条)

業務上の傷病により療養のため休業する期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は解雇することができない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、制限規定が除外される。

(2) 解雇の予告(労働基準法20条)

解雇しようとするときは、30日前に予告を行うか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、予告規定が除外される。

なお、予告の日数は平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができる。

(3) 再就職援助計画(労働施策総合推進法24条)

事業規模の縮小等に伴い、1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者をいい、自己都合による退職者等は含まれない。ただし、事業規模の縮小等に起因する事情による離職者は含まれる)が見込まれる場合、最初の離職者が生じる日の1ヶ月前までに「再就職援助計画」を公共職業安定所に提出して認定を受けなければならない。

(4) 大量雇用変動届(労働施策総合推進法27条)

1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者のほか、自己都合による退職者等も含まれる)が発生する場合、最後の離職が発生する日の1ヶ月前までに「大量雇用変動届」を公共職業安定所に提出しなければならない。

 

*   *   *

次回は、「雇止め」の留意点について確認する。

(了)

次回は5/13に掲載されます。

コロナ禍に伴う企業の解雇雇止めにおける留意点

【第1回】

「解雇を行う場合の留意点」

 

特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ

 

はじめに

2020年1月に日本国内で新型コロナウイルス感染症の陽性者が確認されてからすでに1年3ヶ月が経過している。この間、収束するかに見えた時期もあったものの、2021年1月には再度の緊急事態宣言が発令され、また、3月以降は変異ウイルス感染者の増加がみられるなど、依然として先行きが不透明な状況が続いている。

厚生労働省がまとめた「新型コロナウイルス感染症に起因する雇用への影響に関する情報について」によれば、新型コロナウイルス感染症に起因する解雇・雇止めの見込み労働者数は累計で102,153人(2021年4月23日時点)であり、この長期混乱の中で、解雇や雇止めを選択せざるを得ない会社が多い状況になっている。しかし、コロナ禍であっても、安易な解雇や雇止めは訴訟などの労務トラブルにつながりかねない。

そこで本稿では、解雇・雇止めについての基本的な考え方やコロナ禍における留意点を2回にわたって確認したい。

第1回は、「解雇」についてその留意点を確認する。

 

1 解雇

労働契約法16条では、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と規定している。

解雇は、使用者からの申し出による一方的な労働契約の終了であるため、容易には認められず、その実施にあたっては客観的合理性と社会通念上の相当性が求められ厳しく制限されている。

 

2 整理解雇

解雇には、大きくわけて「普通解雇」と「懲戒解雇」があり、また、普通解雇の1つに「整理解雇」がある。

整理解雇は、業績不振などの経営上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた場合に、雇用調整の1つである人員削減のために行われる解雇をいうが、裁判例からその有効性は次の4要件(要素)から判断されると解されている。

〈整理解雇の4要件〉

① 人員削減の必要性

人員削減のための解雇が企業経営上の必要性に基づいているか。

② 解雇回避努力

人員削減のための解雇を実施する前に、配置転換、出向、一時休業、希望退職の募集などの手段により解雇を回避するための努力をしたか。

③ 人選の合理性

人員削減のための解雇の対象者の選定基準は、客観的・合理的で、それを公正に適用したか。

④ 解雇手続の妥当性

労働組合や労働者に対して、人員削減のための解雇の必要性やその時期・規模・方法、解雇対象者の選定基準について納得を得るために説明を行い、誠実に協議したか。

 

3 コロナ禍における解雇

コロナ禍における業績不振のため人員削減をせざるを得ない場合に行う解雇は、前述の整理解雇にあたる。したがって、解雇するにあたっては、コロナ禍であっても前述の整理解雇の4要件(要素)を踏まえた対応検討が必要になる。

また、以下の点を補足したい。

  • ①人員削減の必要性」については、コロナ禍で業績が悪化し回復も見込まれない状況にある場合は要件を充たすことが多いと考えるが、阪神・淡路大震災により業績が悪化したとしてなされた整理解雇において人員整理の必要性が認められなかった例(長栄運送事件(注1))もあり、非常時であっても個別状況を踏まえて厳格に判断される。
  • ②解雇回避努力」については、コロナ禍においてもできる限りの努力をすべきであるが、国の助成制度である「雇用調整助成金(注2)」においては、助成率を割り増すなどして新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例措置も設けられているため、解雇回避策としてできる限り雇用調整助成金を活用した検討をすべきで、その検討なく解雇した場合は、解雇回避努力が不十分であると判断される可能性が高くなるといえる。

(注1) 長栄運送事件(神戸地裁平成7年6月26日判決・労判685号60頁):判決理由の中で、「人員整理の必要性について、阪神大震災による道路事情の悪化、港湾施設の甚大な被害による港湾運送業者の業績の悪化を挙げるが、道路事情は震災直後の事情からみれば急速に改善されつつあるし、港湾施設の復旧も急ピッチでなされていることは顕著な事実であり、震災後、(一部省略)解雇までの間に6名が退職している事実もあり、整理解雇の必要性について疎明があるものとはいいがたい」と言及された。

(注2) 雇用調整助成金:事業活動の縮小を余儀なくされた場合に従業員の雇用維持を図るため休業などを実施する事業主に対して休業手当などの一部を国が助成する制度。

 

4 解雇制限など

整理解雇の4要件(要素)を踏まえて解雇する場合であっても、解雇にあたっては次のルールがあるため注意が必要になる。

(1) 解雇制限(労働基準法19条)

業務上の傷病により療養のため休業する期間とその後30日間、産前産後の休業期間とその後30日間は解雇することができない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、制限規定が除外される。

(2) 解雇の予告(労働基準法20条)

解雇しようとするときは、30日前に予告を行うか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わなければならない。ただし、天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となり労働基準監督署長の認定を受けた場合等においては、予告規定が除外される。

なお、予告の日数は平均賃金を支払った日数分だけ短縮することができる。

(3) 再就職援助計画(労働施策総合推進法24条)

事業規模の縮小等に伴い、1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者をいい、自己都合による退職者等は含まれない。ただし、事業規模の縮小等に起因する事情による離職者は含まれる)が見込まれる場合、最初の離職者が生じる日の1ヶ月前までに「再就職援助計画」を公共職業安定所に提出して認定を受けなければならない。

(4) 大量雇用変動届(労働施策総合推進法27条)

1つの事業所において、1ヶ月以内に30人以上の離職者(事業規模の縮小等による離職者のほか、自己都合による退職者等も含まれる)が発生する場合、最後の離職が発生する日の1ヶ月前までに「大量雇用変動届」を公共職業安定所に提出しなければならない。

 

*   *   *

次回は、「雇止め」の留意点について確認する。

(了)

次回は5/13に掲載されます。

連載目次

「コロナ禍に伴う企業の解雇・雇止めにおける留意点」(全2回)

筆者紹介

岩楯 めぐみ

(いわだて・めぐみ)

特定社会保険労務士

大手食品メーカーを退職後、監査法人・会計系コンサルティンググループで10年以上人事労務コンサルティングの実施を経て、社会保険労務士事務所岩楯人事労務コンサルティングを開設。

株式上場のための労務整備支援、組織再編における人事労務整備支援、労務調査、労務改善支援、就業規則作成支援、労務アドバイザリー、退職金制度構築支援、人事制度策定支援等の人事労務全般の支援を行う。

【著書】
・「図解でスッキリわかる高年齢者雇用の実務ポイント」(共著/清文社)
・「企業再編・組織再編実践入門」(共著/日本実業出版社)
・「実務Q&Aシリーズ 募集・採用・内定・入社・試用期間」(共著/労務行政) 他

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