公開日: 2025/07/31 (掲載号:No.629)
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〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第6回】「チェーン店の店長の管理監督者性」

筆者: 織田 康嗣

〔業種別Q&A〕

労使間トラブル事例会社対応

【第6回】

「チェーン店の店長の管理監督者性」

〈流通・小売業・卸売業〔Q1〕〉

 

弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所

パートナー弁護士 織田 康嗣

 

〈流通・小売業・卸売業の特徴と特有の労務問題〉

流通・小売業・卸売業は、生産者から消費者へと商品をつなぐサプライチェーンの中核を担う、社会に不可欠な産業である。必ずしも流通・小売業・卸売業のみで生じる労務問題ではないが、その業界の特徴から、以下のような問題が生じやすい。

(1) 残業代の問題

消費者の利便性の追求や多店舗との競争から、店舗の営業時間が長時間化し、年中無休で営業している店舗も存在している。また、慢性的な人員不足の問題を抱え、十分な人員配置ができなかった結果、長時間労働につながることもある。

労働時間管理が適正に行われていなければ、未払い残業代の問題を生じさせることがある。また、店舗の店長等を管理監督者扱い(深夜残業を除く残業代の支給対象外)にしたものの、その実態は「名ばかり管理職」となっており、管理監督者性に疑義が生じることもある。

(2) シフト制の問題

小売業等においては、シフト制が採用されているケースも少なくない。シフト制の下では、一定期間ごとに作成される勤務表等によって、具体的な労働日や労働時間が確定するが、従前よりシフトが削減された等として紛争が生じるケースがある。所定労働日数(最低限シフトの保障をする日数)の合意があるか否か、仮に合意がないとしても、濫用的な削減ではないかといった点が問題になり得る。

(3) 雇止めの問題

小売業等では、時間帯や曜日によって繁閑の差が大きく、繁忙期に集中的に人員を配置できるよう、アルバイト・パートといった非正規労働者を多く雇用していることがある。
期間の定めのある非正規雇用であるからといって、安易に雇止め(契約不更新)とし、その後に紛争に発展してしまうケースが存在する。

(4) 同一労働同一賃金の問題

前述のとおり、小売業等では、非正規雇用が多く見られるなど、多様な雇用形態が存在しているケースがある。通常の労働者(正社員)と短時間・期間の定めのある従業員・派遣労働者との間で、不合理な待遇の相違や差別的取扱いを解消すべく、同一労働同一賃金が求められているが、自社の給与体系が同一労働同一賃金に反しないか問題になることがある。

(5) ハラスメントの問題

小売業では、顧客との接客業務も伴うところ、顧客とのトラブル(顧客からのクレーム等)が生じることがある。社内のハラスメントだけでなく、顧客によるハラスメント(カスタマーハラスメント)の問題も発生する。

(6) 労災の問題

ハラスメントによるメンタル不調のほか、店舗内で転倒した、商品の納品作業中に怪我をした、腰痛になるなどの労災が発生することがある。

これらが労災といえるか(業務起因性が認められるか)という点に関しては、厚生労働省の労災認定基準をもって判断される。さらに、会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、会社に対する損害賠償の問題に発展することもある。

 

【Q】

当社はチェーン店展開で多店舗を運営しています。各店の店長は管理監督者として取扱い、深夜残業を除く残業代を支給していませんが、問題ないでしょうか。

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〔業種別Q&A〕

労使間トラブル事例会社対応

【第6回】

「チェーン店の店長の管理監督者性」

〈流通・小売業・卸売業〔Q1〕〉

 

弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所

パートナー弁護士 織田 康嗣

 

〈流通・小売業・卸売業の特徴と特有の労務問題〉

流通・小売業・卸売業は、生産者から消費者へと商品をつなぐサプライチェーンの中核を担う、社会に不可欠な産業である。必ずしも流通・小売業・卸売業のみで生じる労務問題ではないが、その業界の特徴から、以下のような問題が生じやすい。

(1) 残業代の問題

消費者の利便性の追求や多店舗との競争から、店舗の営業時間が長時間化し、年中無休で営業している店舗も存在している。また、慢性的な人員不足の問題を抱え、十分な人員配置ができなかった結果、長時間労働につながることもある。

労働時間管理が適正に行われていなければ、未払い残業代の問題を生じさせることがある。また、店舗の店長等を管理監督者扱い(深夜残業を除く残業代の支給対象外)にしたものの、その実態は「名ばかり管理職」となっており、管理監督者性に疑義が生じることもある。

(2) シフト制の問題

小売業等においては、シフト制が採用されているケースも少なくない。シフト制の下では、一定期間ごとに作成される勤務表等によって、具体的な労働日や労働時間が確定するが、従前よりシフトが削減された等として紛争が生じるケースがある。所定労働日数(最低限シフトの保障をする日数)の合意があるか否か、仮に合意がないとしても、濫用的な削減ではないかといった点が問題になり得る。

(3) 雇止めの問題

小売業等では、時間帯や曜日によって繁閑の差が大きく、繁忙期に集中的に人員を配置できるよう、アルバイト・パートといった非正規労働者を多く雇用していることがある。
期間の定めのある非正規雇用であるからといって、安易に雇止め(契約不更新)とし、その後に紛争に発展してしまうケースが存在する。

(4) 同一労働同一賃金の問題

前述のとおり、小売業等では、非正規雇用が多く見られるなど、多様な雇用形態が存在しているケースがある。通常の労働者(正社員)と短時間・期間の定めのある従業員・派遣労働者との間で、不合理な待遇の相違や差別的取扱いを解消すべく、同一労働同一賃金が求められているが、自社の給与体系が同一労働同一賃金に反しないか問題になることがある。

(5) ハラスメントの問題

小売業では、顧客との接客業務も伴うところ、顧客とのトラブル(顧客からのクレーム等)が生じることがある。社内のハラスメントだけでなく、顧客によるハラスメント(カスタマーハラスメント)の問題も発生する。

(6) 労災の問題

ハラスメントによるメンタル不調のほか、店舗内で転倒した、商品の納品作業中に怪我をした、腰痛になるなどの労災が発生することがある。

これらが労災といえるか(業務起因性が認められるか)という点に関しては、厚生労働省の労災認定基準をもって判断される。さらに、会社に安全配慮義務違反が認められる場合には、会社に対する損害賠償の問題に発展することもある。

 

【Q】

当社はチェーン店展開で多店舗を運営しています。各店の店長は管理監督者として取扱い、深夜残業を除く残業代を支給していませんが、問題ないでしょうか。

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連載目次

〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応

▷製造業

  • 【第1回】
    〔Q1〕工場内で労働者に労働災害が生じた場合のリスクと対応
  • 【第2回】
    〔Q2〕製品の情報や製造のノウハウ等の機密情報保護の対応策
  • 【第3回】
    〔Q3〕偽装請負と判断されないためのポイント
  • 【第4回】
    〔Q4〕工場閉鎖に伴って人員整理が必要となった場合の対応のポイント
  • 【第5回】
    〔Q5〕外国人労働者を雇用する際の留意点

▷流通・小売業・卸売業

  • 【第6回】
    〔Q1〕チェーン店の店長の管理監督者性
  • 【第7回】 8/28公開予定
    〔Q2〕アルバイトのシフト削減の可否
  • 【第8回】 9/25公開予定
    〔Q3〕カスタマーハラスメントと企業責任
  • 【第9回】 10/30公開予定
    〔Q4〕コンビニ店主の労働者性
  • 【第10回】 11/27公開予定
    〔Q5〕経営悪化に伴うアルバイトの雇止め
  • 【第11回】 12/25公開予定
    〔Q6〕店舗における転倒事故と安全配慮義務

筆者紹介

織田 康嗣

(おだ・やすつぐ)

弁護士
弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所

愛知県出身。
平成19年:私立東海高等学校卒業
平成24年:中央大学法学部卒業
平成27年:中央大学法科大学院卒業
平成29年:弁護士登録(東京弁護士会)、ロア・ユナイテッド法律事務所入所
平成31年:労働法制特別委員会(東京弁護士会)幹事に就任
令和7年:弁護士法人ロア・ユナイテッド法律事務所パートナー弁護士に就任

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《ロア・ユナイテッド法律事務所》
当事務所では、「依頼者志向の理念」の下に、所員が一体となって「最良の法律サービス」をより早く、より経済的に、かつどこよりも感じ良く親切に提供することを目標に日々行動しております。

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