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〈実務家が知っておきたい〉空家をめぐる法律上の諸問題【後編】

筆者:羽柴 研吾

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〈実務家が知っておきたい〉

空家をめぐる法律上の諸問題

【後編】

 

弁護士法人東町法律事務所
弁護士 羽柴 研吾

 

4 空家に係る行政上の問題

空家については、様々な行政法規が関連するところ、行政上の問題として以下のような責任が想定される。

(1) 建築基準法上の責任

建築当時から長期間経過し、老朽化している空家は物理的な問題が生じていることが多く、このような空家はいわゆる既存不適格建築物(※)であることが想定される。

(※) 「既存不適格建築物」とは、既存の適法な建築物が法令の改正等により違反建築物とならないように、新法の適用を除外することとし、原則として増改築等を実施する機会に新法の基準に適合させることとされている建築物をいう。

既存不適格建築物が修繕等されることなく放置され、「著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合」には、当該空家の所有権者に対して、当該空家の除却等が命じられ(建築基準法第10条第3項)、行政代執行の対象ともなる(同条第4項)。

(2) 空家特措法上の責任

空家等対策の推進に関する法律(以下「空家特措法」という)は、空家等(建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む)、同法第2条第1項)のうち、以下の4類型の状態にあるものを「特定空家等」と定義して、特定空家等に対する措置を規定している(第2条第2項、第14条)。

 そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態

 そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態

 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態

 その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態

特定空家等に認定されると、特定空家等の所有権者は、市町村長から、助言又は指導(同法第14条第1項)及び勧告(同条第2項)、修繕・除却命令(同条第3項)、代執行(同条第9項)、過失がなくて必要な措置を命ぜられるべき者を確知することができないときの略式代執行(同条第10項)を受ける可能性がある。また、同条の勧告の対象となった場合には、地方税法上、固定資産税や都市計画税の住宅用地の特例の適用を受けることができなくなる。

上記(1)の建築基準法第10条第3項に基づく除却等の措置命令は、「著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合」に行われるのに対して、空家特措法の場合は、建築基準法の規定する事象の「おそれのある場合」でも権限行使を可能としており、特定空家等の所有権者は、建築基準法より早い段階で勧告や命令等を受けることになる点に留意が必要である。

-参考-
「特定空家等に対する措置の施行状況」

平成29年3月31日時点における特定空家等に対する措置の実績は、以下のとおりである。
平成27年度 平成28年度 合 計 市区町村数 措置件数 市区町村数 措置件数 市区町村数 措置件数 助言 指導 168 2,895 220 3,561 * 6,456 勧告 25 57 72 208 * 265 命令 3 4 17 19 19 23 代執行 1 1 10 10 11 11 略式代執行 8 8 21 26 28 34

平成29年3月31日時点 国土交通省・総務省調査(速報値)
*・・・集計中のため未公表

特定空家等に対する措置は平成27年5月26日に施行されていることから、平成27年度と平成28年度を単純に比較することは難しいが、代執行も含めて各手段が積極的に活用されている。特に「勧告」については、固定資産税及び都市計画税の住宅用地の特例の適用がされるかどうかの分水嶺となるものであるが、積極的に活用されていることが注目される。

(3) 消防法上の責任

空家の窓ガラスが割れるなどして建物内の残置物等が敷地内にあふれ出ているような場合、当該空家の所有権者は消防法第3条に基づく措置命令を、また、空家自体が火災の予防に危険であると認められる場合等には、同法第5条に基づく空家自体の除却等の措置命令を受ける可能性がある。

(4) 道路法上の責任

何人もみだりに道路上に道路の構造や交通に支障を及ぼすおそれのある行為をしてはならないところ(道路法第43条第2号)、空家の敷地に植えられた立木等が道路上に倒れているような場合には、正当な権限や正当な事由に基づいていないのが通常であることから、立木等の所有権者は、道路管理者から同法第71条第1項に基づく措置命令を受ける可能性がある。

また、立木等が道路区域外に留まっているものの、当該区域外が沿道区域に指定されている場合は、立木等が道路の構造に及ぼす損害や交通に及ぼす危険を防止する義務を負い、必要に応じて措置命令を受ける可能性がある(道路法第44条)。

 

5 空家の有効活用策

ここで、空家の有効活用をめぐる動向について紹介しておきたい。

空家特措法は、空家等の適切な管理等の他に、空家等の活用を目的としている。この点に関して、空家特措法の施行前から、各地方公共団体が空家バンクを運営し、マッチング等のサービスを行ってきた。しかしながら、各地方公共団体ごとの取り組みであることから一覧性がなく、また掲載数にも差があったことから、国土交通省において、市場のマッチング機能を強化するため、全国版の空家バンクを構築することが検討されているところである(平成29年度予算1.1億円)。

また、空家等の流通を中心とした活用の促進のためには、空家対策部局と宅地建物取引業者等の民間事業者との連携が重要である。この点に関して、空家特措法により、空家対策部局が税務部局の保有する課税情報を利用できることになったが、課税情報を含む空家所有者情報を民間事業者等に提供できるかについては、地方税法、個人情報保護条例、地方公務員法との関係が問題となっていた。

そこで、国土交通省においては、平成29年3月に、空家所有者情報の外部提供に関する法制的整理や外部提供に関する運用の方法及びその留意点を記載した「空き家所有者情報の外部提供に関するガイドライン(試案)」を公表している。

当該ガイドラインによれば、空家対策部局が外部提供をしても、空家対策部局は税務部局ではないため地方税法第22条(秘密漏えいに関する罪)に違反せず、個人情報保護条例上、本人の同意があれば目的外利用として外部提供することは可能であり、その同意の範囲内であれば、外部提供をしたとしても地方公務員法第34条(秘密を守る義務)に違反しないものとして整理されている。

当該ガイドラインは、平成29年度内に更に充実を図る予定とのことであり、今後の動向を注視しておくべきである。

その他の空家活用に向けた動向としては、不動産特定共同事業の活用をより一層促進するため、小規模な不動産特定共同事業に係る特例を創設するとともに、クラウドファンディングに対応するための環境整備を行うための不動産特定共同事業法の一部改正が行われている。

 

6 おわりに

空家の所有権者となる背景には、別居の被相続人の住居を相続する場合や新規に住居を購入した場合など想定されるところ、空家の所有権者は、上記のような民事上及び行政上の法的リスクを十分に認識しておくべきである。

空家の所有権者は、法的リスクに備えて、たとえば火災保険に加入することが考えられるが、空家が住居ではないことから加入できない場合があることが指摘されていたところである。

もっとも、近時は、空家の管理事業者向けの空家賠償責任保険も発売されており、空家の適正管理の方法や法的リスクへの対応手段の観点から注目されるところである。

(連載了)

連載目次

「〈実務家が知っておきたい〉空家をめぐる法律上の諸問題」(全2回)

【 前 編 】

1 はじめに

2 空家の発生理由と不適正管理から生じる問題

(1) 空家の発生理由

(2) 空家の不適正管理から生じる問題

3 空家に係る民事上の問題

(1) 相隣関係上の責任

(2) 不法行為法上の責任

(3) 空家が火遊び等により火災の被害に遭った場合

(4) 相続放棄後の留意点

【 後 編 】

4 空家に係る行政上の問題

(1) 建築基準法上の責任

(2) 空家特措法上の責任

(3) 消防法上の責任

(4) 道路法上の責任

5 空家の有効活用策

6 おわりに

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筆者紹介

  • 羽柴 研吾

    (はしば・けんご)

    弁護士
    弁護士法人東町法律事務所(神戸事務所所属)

    企業法務、金融法務、自治体法務(固定資産税含む)を中心に一般個人案件にも従事。
    現在は、企業の事業承継問題、研究開発税制、不動産投資を含む空家対策問題に関心を寄せる。

    【略歴】
    京都府出身
    平成17年 立命館大学法学部卒業
    平成19年 立命館大学法科大学院修了、新司法試験合格
    平成20年 弁護士登録
    平成24年 仙台国税不服審判所(国税審判官)
    平成27年 東京国税不服審判所(国税審判官)
    平成28年 日弁連法務研究財団「国税不服審査制度に関する研究」研究員(現在)

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