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実務家による実務家のための
ブックガイド
-No.5-
竹村彰通 著
『データサイエンス入門』
〈評者〉
Sansan(株)シニアアドバイザー
安井 肇
AI(人工知能)によって将来代替される可能性の高い仕事の一つとして会計士が挙げられてから数年が経つ。現に監査業務へのAI導入が大手監査法人では研究が進められている。期末監査で膨大な事務量をこなす現場からは、これを歓迎する意見も聞かれるが、反面、自らの将来に不安を禁じえない会計士も少なくないと思う。
そんな会計士に、本書の著者は「はじめに」において、「データから有用な情報を引き出し、それを意思決定につなげていくような仕事は人間の仕事として残るであろう」と語る。同時に、「データの見方を学びデータサイエンスの動向を理解することは、将来の仕事のあり方を考えるためにも重要なことである」と言う。
この“データサイエンス”とは、データに基づく意思決定を支える科学を指す。そして著者は、僅か160頁余の中に、データサイエンスのエッセンスを難しい数学を使わずに述べているので、評者のような文科系人材でも短時間かつ容易に読破可能である。
本書の構成は、次のようになっている。
Ⅰ ビッグデータの時代
Ⅱ データとは何か
Ⅲ データに語らせる―発見の科学へ向けたスキル
冒頭に述べたAIの脅威は、コンピュータ容量の制約が事実上なくなり、ビッグデータ時代に突入したことから生じている。その制約があった過去には、データは最初から数値で表現されたものに限られていたが、今やテキスト(文字)データ、さらに音声や画像もデータとしてコンピュータによる分析が可能となった。
換言すれば、ビッグデータとAIがセットとなり、データサイエンスの重要性を高めている。
翻って、会計士の基本業務である監査は、企業の財務情報というアサーションの適切性をアシュアする仕事である。これまでの数十年間は、主にパソコンを使ってその業務に当たってきた。これまで人海戦術を必要とした部分をAIに任せることが可能となる時代、会計士は何をビジネスとしていけばよいのであろうか?
今後は、ビッグデータとAIが創り出すエコシステムの適切性を検証してほしいというニーズが出てくるかもしれない。例えば、AIを動かすアルゴリズムに対するアシュアランスなどである。
これまで会計士は、ともすればマニュアルに従って手際よく定型化した仕事を効率良くこなすことに心血を注いできた。しかし、今後は、現在発展途上のデータサイエンスを前提に、自らの未来を考え、切り開いていく必要がある。
その第一歩として、本書によってデータサイエンスの基礎を学ぶことは、大変意義のあることであろう。
(了)
〔書籍情報〕
- データサイエンス入門(岩波新書)
- 著者:竹村彰通(滋賀大学データサイエンス学部長)
- 出版社:岩波書店
- 発行日:2018年4月20日
- ISBN:978-4004317135
- 判型:新書判・192頁
- 定価:本体760円+税
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