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平成24年分 確定申告実務の留意点 【第3回】「平成24年分の申告から適用される改正事項②」
平成24年分 確定申告実務の留意点 【第3回】 「平成24年分の申告から適用される 改正事項②」 公認会計士・税理士 篠藤 敦子 前回に引き続き、平成24年分の所得税から適用される改正事項について解説する。 今回は譲渡所得関係(土地建物の譲渡)、その他の改正について主な項目を取り上げることとする。 【1】 譲渡所得関係(土地建物の譲渡) (1) 居住用財産の譲渡に関する特例の改正(買換え・交換) 「特定の居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例」及び「特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例」について、譲渡対価の要件が引き下げられ、適用期限が2年延長された。 所有期間10年以上の居住用財産で一定の要件を満たすものを、一定の日までに買換え又は交換した場合には、その居住用財産を譲渡した年において譲渡益に対する課税は行われない。買換えや交換により新たに取得した居住用財産を譲渡するまで課税が繰り延べられる(措法36の2、36の5)。 この特例に係る譲渡資産の譲渡対価の要件が1億5,000万円以下(改正前は2億円以下)とされ、適用期間が平成25年12月31日まで2年延長された。 なお、譲渡対価の要件の引下げは、平成24年1月1日以後に行う居住用財産の譲渡に適用される(平24改措法等附12③)。 (2) 居住用財産の譲渡に関する特例の改正(譲渡損失の損益通算、繰越控除) 「居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」及び「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除」について、適用期限が2年延長された。 次の各場合において、その年の合計所得金額が3,000万円以下であれば、譲渡損失を給与所得等の他の所得と損益通算することができる。 また、損益通算を行っても控除しきれない譲渡損失は、譲渡の年の翌年以後3年内(合計所得金額が3,000万円を超える年は除く)に繰越控除することもできる(措法41の5、41の5の2)。 ① 居住用財産を買い換えたときに、旧居住用財産の譲渡について一定の譲渡損失が生じた場合 ② 住宅借入金等のある特定の居住用財産を住宅借入金等の債務残高を下回る譲渡対価で売却し、一定の譲渡損失が生じた場合 この特例の適用期間が、平成25年12月31日まで2年間延長された。 (3) 特定事業用資産の買換えの特例の改正 「特定の事業用資産の買換えの場合の譲渡所得の課税の特例」の対象となる買換資産の要件が見直され、適用期限が3年延長された。 譲渡の日の属する年の1月1日において所有期間が10年を超える事業用の土地等、建物又は構築物を譲渡し、別の事業用の土地等、建物、構築物、機械装置に買い換えた場合には、一定の条件を満たした事業用資産の買換えに係る譲渡である限り、譲渡益の80%部分について課税を繰り延べることができる(措法37①九)。 この特例について、買換資産の土地等の範囲が、事務所等の一定の施設の敷地の用又は一定の駐車場の用に供されるもので、面積が300㎡以上のものに限定された(改正前は、国内にある土地等であれば用途や面積等に制限はなかった)。また、この適用期限が平成26年12月31日まで3年延長された。 なお、この改正は、平成24年1月1日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、買換資産の取得をする場合におけるその譲渡について適用される。同日前に譲渡資産の譲渡をした場合及び同日以後に譲渡資産の譲渡をし、かつ、同日前に買換資産の取得をした場合については、改正前の取扱いとなる(平24改措法等附12④)。 【2】 その他の改正 (1) 減価償却(定率法)の改正 定率法の償却率が、定額法償却率を2倍(改正前2.5倍)した割合とされた。 平成24年4月1日以後に取得する減価償却資産の定率法の償却率が、定額法償却率を2倍した割合とされた(所令120の2)。 この改正には、定率法を選定している場合における実務上の煩雑さを回避するために、次の経過措置が設けられている。 ① 平成24年1月1日から同年12月31日までに取得した減価償却資産については、平成24年3月31日以前に取得したものとみなして、改正前の償却率により償却費の計算をすることができる(平成23年12月改所令附2②)。 ② 平成24年分の確定申告期限までに所定の届出書を所轄税務署長に提出したときは、平成24年分又は平成25年分以後の各年分の償却費計算を改正後の償却率により行うことができる(平成23年12月改所令附2③)。 (2) 資本的支出をした場合の取得価額の特例の改正 減価償却資産と資本的支出の金額を合計して一の減価償却資産を取得したものとする特例の適用ができなくなった。 平成19年4月1日以後に行った資本的支出は、原則として資本的支出の対象となった減価償却資産と種類及び耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして減価償却を行う(原則法)。 特例として、平成19年4月1日以後に取得した定率法を選定している減価償却資産に同日以後資本的支出を行った場合には、資本的支出を行った翌年1月1日において、資本的支出の対象となった減価償却資産の期首未償却残高と原則法により新たに取得したものとされた減価償却資産(資本的支出部分)の期首未償却残高の合計額を取得価額とする一の減価償却資産を新たに取得したものとして減価償却を行うことができる。 【2】(1)の改正により、平成24年3月31日以前に取得した減価償却資産には250%定率法、平成24年4月1日以後に取得した減価償却資産には200%定率法が適用されることから、平成24年3月31日以前に取得した減価償却資産に平成24年4月1日以後に資本的支出を行った場合には、減価償却資産と資本的支出部分の金額を合算する特例の適用はできないものとされた(所令127)。 (3) 雇用者数が増加した場合の所得税額の特別控除の創設 一定の事業を行う青色申告書を提出する個人について、基準雇用者数、基準雇用者割合等の条件を満たした場合には、20万円に基準雇用者数を乗じた金額を特別税額控除できることとなった。 青色申告書を提出する個人(一定の事業を行っている者に限る)で、本年及び前年において離職者がいないことを証明され、平成24年から平成26年までの各年において、基準雇用者数が5人以上(中小企業者は2人以上)及び基準雇用者割合が10%以上であり、給与等支払額が比較給与等支給額以上である場合には、20万円に基準雇用者数を乗じた金額を所得税から控除できることとされた。ただし、その年分の事業所得に係る所得税額の10%(中小企業者は20%)相当額が限度とされる(措法10の5)。 【基準雇用者数】 適用年の12月31日における雇用者数から当該適用年の前年12月31日における雇用者数を減算したもの 【基準雇用者割合】 当該適用年の前年12月31日における雇用者数に対する基準雇用者数の割合 (4) 先物取引に係る雑所得等の課税の特例の改正 「先物取引に係る雑所得等の課税の特例」及び「先物取引の差金等決済に係る損失の繰越控除」の適用対象が追加された。 先物取引に係る雑所得等の課税の特例及び損失の繰越控除の適用対象に、次のものが追加された。これにより、改正前は総合課税の対象となっていた店頭デリバティブ取引も取引所取引と同様に特例(所得税率15%の申告分離課税、損失の3年間繰越控除)の対象となった(措法41の14)。 ① 商品先物取引法2条14項1号から5号までに掲げる取引で同法に規定する店頭商品デリバティブ取引の差金等決済 ② 金融商品取引法2条22項1号から4号までに掲げる取引で同法に規定する店頭デリバティブ取引の差金等決済 ③ 金融商品取引所に上場されていない金融商品取引法2条1項19号に掲げる有価証券に表示される権利の行使若しくは放棄又はその有価証券の譲渡 この改正は、平成24年1月1日以後に行われる先物取引に係る差金等決済に適用される(平成23年6月改所法等附43)。 次回は所得金額の計算について、実務上の誤りやすい点を解説する予定である。 (了)
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小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第3話】「留置き」
小説 『法人課税第三部門にて。』 ─新税務調査制度を予測する─ 【第3話】 「留置き」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「ごくろうさん」 渕崎統括官が山口調査官に声をかける。 山口調査官は軽く会釈して、自分の机の上に、分厚く膨らんだ鞄を置いた。 山口調査官は、疲れ切った表情で、黒い鞄の中から書類を無造作に出している。 「今日の調査は・・・どうだった?」 渕崎統括官は、調査から帰ってきた山口調査官の机の傍までやってきて尋ねる。 山口調査官は、曖昧な笑みを浮かべている。 「・・・最悪ですよ・・・納税者が・・・極めて・・・税務調査に非協力で・・・」 顔は微笑んでいるが、ゆっくり話す言葉には怒りが含まれていた。 「・・・私が・・・提示を求める書類について、いちいちその理由を聞くため、時間がかかって、調査が一向に進まないし、おまけに税理士も納税者と一緒になって、こちらの依頼することをすぐにやってくれない・・・本当に、腹立たしいですよ!」 山口調査官の顔からは、既に、笑みは消えていた。 「・・・そりゃあ、この世の中、税務調査に協力的な納税者ばかりいるわけでもないからな」 今度は、渕崎統括官が苦笑いする。 「本当に、あんな対応をされたら、1ヶ月間ぶっ続けて税務調査をするため、会社に臨場しようかとも思いますよ・・・」 山口調査官の眼差は鋭くなる。 「まあ、落ち着け。こちらが先に興奮したら負けだ。ここは、冷静に税務調査をしなけば、是正事項を発見することはできないよ」 渕崎統括官は、若い頃、ベテランの調査官から「税務調査では納税者を興奮させて、興奮した納税者の言葉の端々から不正を発見しなければならない」と教わったことを思い出した。 「それで、今日の調査の感触は?」 渕崎統括官が、少し落ち着いた山口調査官の横顔を覗きながら尋ねる。 「ええ・・・、外注費が前年に比べて、かなり増加してまして、それは売上と比較してもかなり多いので、外注費を中心に、今日調べたんですが・・・」 法人課税第三部門は、業種として、建設業を担当している。 今日、山口調査官が税務調査をした会社も、土木を中心(80%)とした建設業である。他に、建築(20%)を行っている中堅規模の会社である。 「そうだったな、準備調査の時に、その旨を、僕も指示事項の箇所に書いていたな・・・」 渕崎統括官は、調査における指示事項を思い出した。 「・・・それで、どうだった?」 渕崎統括官が聞く。 「・・・ええ、外注費の件数が多くて、その請負契約とか支払明細書とか領収書などの提示を求めても、なかなか持ってこなかったので、時間がとてもかかり・・・」 山口調査官は、今日の税務調査の状況を思い出したのか、再び言葉のトーンが高くなってきた。 「結局、全部の外注費を調べることができなくて・・・それで、外注費関係の書類を預かろうとしたのですが・・・それを相手がひどく拒否しましてね」 山口調査官のテンションは、さらに高くなる。 「留置きか?」 渕崎統括官が呟く。 「改正の国税通則法74条の7では、質問検査権の中に、必要があるときは当該調査において提出された物件を留置くことができるとされたのですよね」 山口調査官は、しっかりとした口調で渕崎統括官に確認する。 「その・・・必要があるときは、当然ながら、その調査をしている私が判断をするということですよね」 自信のある言葉だった。 「まあ、この留置きは、従来、慣行として行われていた、税務調査官が納税者の許可を得て帳簿書類等を税務署に持ち帰るということなんだが・・・」 渕崎統括官が付け加える。 「しかし、納税者が留置きを拒否した場合、どうなるんです?」 山口調査官は、質問をしながら、言葉を続ける。 「・・・国税通則法74条の7の条文をそのまま読むと、税務調査官が、留置きを必要と認めた場合には、できることになっているのだから、仮に、納税者が留置きを拒否しても税務調査官の判断によって、留置きすることが可能だということなんですよね・・・」 山口調査官は、机の上に置かれている鞄の柄を強く握りしめる。 「そりゃ、そうだが・・・」 渕崎統括官の声が小さくなる。 「・・・ただし、『必要と認めるとき』の解釈だけれど・・・「調査官が主観的に必要と考えるだけでは足りず、合理的な理由が必要である」とされ、税務調査官が当該物件を留置きする場合には合理的な理由がなければならない・・・」 渕崎統括官の声が再び大きくなる。 「もちろんてす」 山口調査官は、大きく頷く。 「それに・・・これについては、別に、罰則規定があるんですよね。たしか、納税者が税務職員の物件の提示や提出要求に対して、正当な理由がなく拒否した場合、又は、虚偽記載の帳簿書類その他の物件を提示・提出した者に対しては、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せさせられることになっている。この規定は・・・国税通則法127条3号に書かれていますね」 山口調査官が、机の上に置かれている鞄から取り出した書類は、調査対象会社の外注費関係のものだった。 「統括官・・・今日中にこの外注費を調べたいので、帰るのが少し遅れます・・・」 山口調査官は、机の上に上積みされた外注費の資料を整理し始めた。 「ともかく、預かった書類はきちんと管理し、決して紛失などしないように・・・」 渕崎統括官は、そう言うと、自分の席に、ゆっくりと戻った。 (つづく)
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法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第3回】
法人税の解釈をめぐる論点整理 《役員給与》編 【第3回】 弁護士 木村 浩之 3 定期同額給与 (1) 定期同額給与の意義 役員に対する一般的な給与(報酬)について損金に算入するためには、その給与が ⅰ) 定期同額給与 ⅱ) 事前確定届出給与 ⅲ) 利益連動給与 のいずれかに該当する必要があるが、多くの法人では、役員に対して毎月定期的な報酬が支払われるのが通常である。したがって、この毎月の定期報酬が「定期同額給与」の要件に該当するか否かがもっとも重要な問題となる。 毎月の定期報酬が「定期同額給与」の要件に該当するためには、原則として、法人の事業年度中に支払われる毎月の支給額が常に同額で固定されている必要がある。ただし、次のとおり、一定の場合には、法人税法上も、事業年度の途中に支給額を増減額する「給与改定」が認められている。 これらのいずれかに該当する給与改定の場合には、その給与改定がなされた前後で区分し、改定前後の各支給時期における支給額が定期同額であれば、それぞれ定期同額給与に該当することになる。また、上記の要件を満たすものである限り、複数回の給与改定がなされたとしても、定期同額給与に該当し得ることになる。 以上を具体的なイメージにすると次のとおりである。 ※ ①②③のそれぞれの期間ごとに、定期同額の支給がなされているかどうかを判断する。 以下では、この「給与改定」をめぐる問題を中心として、定期同額給与に関する論点について整理し、検討することとしたい。 (2) 3ヶ月経過後の通常改定 ア 通常改定の趣旨 定期同額給与は、支給される金額が固定され、支給額が事前に明確に定められたものとして、恣意性が排除されていると考えられることから、法人税法上、損金算入が認められている。そして、事業年度の途中になされる役員給与の改定であっても、事業年度開始から3ヶ月以内の改定であれば、定時株主総会の開催時期や役員の任期などの関係から、通常の改定時期になされる定期的な改定とみられることから、特段、恣意性は認められない。 そこで、3ヶ月内改定については、通常改定として、その前後において支給される給与が定期同額のものである限り、それぞれ定期同額給与に該当するとされている。 この趣旨をさらに広げて、事業年度開始から3ヶ月経過後になされる給与改定であったとしても、それが継続して毎年所定の時期になされる改定であり、その時期に改定がなされることについてやむを得ないと認められる「特別の事情」がある場合には、そのような改定については、特段、恣意的な改定を企図するものではないと考えられることから、これも通常改定の範囲に含まれるものとされている。 イ 「特別の事情」に該当する事由 3ヶ月経過後の給与改定が認められる「特別の事情」とは、上記趣旨に照らし、定期的な給与改定の時期がその時期にならざるを得ないことをもっともとさせる、組織面、予算面、人事面などからの継続的な制約を意味する。 なお、通達では、この「特別の事情」に該当する事由として、次のものが挙げられている(法基通9-2-12の2)。 全国組織の協同組合連合会等でその役員が下部組織である協同組合等の役員から構成されるものであるため、当該協同組合等の定時総会の終了後でなければ当該協同組合連合会等の定時総会が開催できないこと 監督官庁の決算承認を要すること等のため、3ヶ月経過日後でなければ定時総会が開催できないこと 法人の役員給与の額がその親会社の役員給与の額を参酌して決定されるなどの常況にあるため、当該親会社の定時株主総会の終了後でなければ当該法人の役員の定期給与の額の改定に係る決議ができないこと これらは、いずれも3ヶ月経過後に定期的な給与改定がなされることについてやむを得ない制約があるものといえるが、これら以外のものであっても、毎年その時期に給与改定がなされることについて、組織面、予算面、人事面などからの継続的な制約があると認められる場合には、「特別の事情」がある場合に該当し、3ヶ月経過後の給与改定が認められる。 (3) 臨時改定事由 ア 臨時改定の趣旨 以上のような定期的な改定としての通常改定に該当しないものであっても、「役員の職制上の地位の変更、その役員の職務の内容の重大な変更その他これらに類するやむを得ない事情」(臨時改定事由)がある場合には、臨時の給与改定が認められている。 これは、通常改定においては反映させることが困難な給与の改定を必要とする事情が事後的に生じた際に、臨時に給与改定をすることがその役員と法人との関係においてやむを得ないと認められる場合には、利益調整等の恣意性があるとは必ずしもいえないことから、3ヶ月経過後の給与改定が認められているものである。 イ 臨時改定事由に該当する場合 臨時改定事由として認められるためには、上記の趣旨から、その役員についての給与改定の必要性をある程度強く基礎付ける事情が必要である。 この点、法令が規定する「職制上の地位の変更」の典型例は、社長に就任して代表取締役に昇格した場合、あるいは逆に、代表取締役を辞任して平取締役に降格した場合などが挙げられ、「職務の内容の重大な変更」の典型例は、合併・会社分割等の組織再編によって職務内容が変更になった場合などが挙げられる。 そのほか、例えば、役員が何らかの不祥事を起こしたことにより、一時的な給与の減額が必要となる場合、転勤等によって追加の手当の支給が必要となる場合なども、「これらに類するやむを得ない事情」に該当すると解される。 これらはいずれも、通常改定においては反映させることが困難な事後的に生じた事情であり、その役員についての給与改定の必要性をある程度強く基礎付けるものといえる。 以上に対して、役員の分掌変更がなされたものの職務内容には大きな変更がないような場合などは、給与改定の必要性はそれほど強いとはいえず、臨時改定事由には該当しないと解される。 (了)
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税務判例を読むための税法の学び方【2】 〔第2章〕法令の解釈方法(その1)
税務判例を読むための税法の学び方【2】 〔第2章〕法令の解釈方法 (その1) 自由が丘産能短期大学専任講師 税理士 長島 弘 1 法的安定性と具体的妥当性 人々は法令の文言を信頼して行動しているのであるから、法令の文言をそのまま読んで理解される内容を画一的に適用した方が、それを信頼して行動した人々の予測可能性を裏切らないことになる。 法的安定性とは、法や法の適用を安定させ、人々の信頼を保護する原則であるが、この法的安定性の観点からは、法令の文言をそのまま読んで理解される内容を画一的に適用することが望まれる。 しかし条文を、事案の情況等の差異を考慮せず、画一的に適用する場合には、法律全体の目的・趣旨や社会的正義に反するような結論しか出せない場合も起こりうる。 そこで、法令の文言を画一的に適用するのではなく、個々の事案に即した解釈をすべきという具体的妥当性が要請されることになる。 このように、法令解釈にあたっては、法的安定性と具体的妥当性が要請されるが、この両者は基本的には相反する内容となっているため、両者の調和をとることが必要になる。 2 法令解釈の種類 法令の解釈とは、成文法の規範的意味内容を解明する作業をいうが、大別すると法規的解釈(立法(的)解釈、有権(的)解釈)と学理解釈に分けられ、学理解釈はさらに文理解釈と論理解釈に大別される。 法令解釈の方法は、条文の文言をそのまま読んでその文理(文字ないし文章の意味)を解釈するだけではない。その法律全体の目的・趣旨や制度趣旨(その条文が現在期待されている目的・役割)や立法趣旨(その条文が成立した当時の立法目的)等考慮して解釈することになる。 法的安定性の観点からは、法令の文言をそのまま読んで理解される意味内容をその条文解釈とする(これを文理解釈という)ことが望まれる。 しかし、立法当時に想定していなかった事象が起こった場合などに、条文の文言をそのまま読んで適用したのでは、結論が出せない場合も起こりうる。また条文を、事案の情況等の差異を考慮せず、画一的に適用する場合には、法律全体の目的・趣旨や社会的正義に反するような結論しか出せない場合も起こりうる。 このため、法令の文言を手がかりにして、法令の意図を考察しながら、解釈を通じて法令を社会に適応させていく必要が出てくる。そこでは、法文の字句のみならず、道理や筋道に力点を置いて解釈することも必要となってくるが、この解釈方法を論理解釈という。 これら文理解釈・論理解釈は、学問上の立場から各人が法令のもつ意味を判断し解釈を行うことから、共に「学理解釈」に含まれるが、この学理解釈に対し、法令の解釈を法令によって明確に解決してしまおうとするものが法規的解釈である。 3 法規的解釈 法規的解釈は、ある法令の規定の意味を明らかにするために、その法令中の他のところ又は別の法令の中に特別の規定を設け、規定の解釈を示すことで行われる。法令自体が法令の形で自ら解釈を下しているため確定的な権威をもつという点に、この解釈の特色がある。 この解釈規定自体が1つの法令規定であるため、その解釈が、法令の文言の上から、あるいは論理的に多少無理だと思われるような場合であっても、その解釈規定自体が1つの法令だという意味において、裁判所も、これに拘束されるのである。 ただし、解釈規定が置かれているのがその法令自体や同順位の法令ではなく、下位の法令に置かれている場合には、その適用が問題となる(詳細は下記④定義の委任で述べる)。 ① 定義規定 法規的解釈の典型は、定義規定である。税法では、各税法とも第2条において相当多くの用語の定義を定めている。 ② 括弧書による定義付け 具体的な規定の中で、特定の用語の後に括弧書きで定義付けすることも、税法では多く見られる。 例えば、法人税法第64条 において「内国法人が、長期大規模工事(工事(製造及びソフトウエアの開発を含む。以下この条において同じ。)のうち、その着手の日から当該工事に係る契約において定められている目的物の引渡しの期日までの期間が1年以上であること、政令で定める大規模な工事であることその他政令で定める要件に該当するものをいう。以下この条において同じ。)の請負をしたときは、・・」と括弧書きで定義付けしている。 ③ みなし規定 ある事柄をそれとは別の事柄と同視して取り扱うという意味の「みなす」という法令用語を用いて、その用語の意味を確定する方法がある。 なおこれには「・・・とみなす」という規定のものだけではなく、例えば、法人税法第3条のように「人格のない社団等は、法人とみなして、この法律(略)の規定を適用する。」というような書き方のものもある。 ④ 定義の委任 法律の規定を命令で解釈するということも時に行われるが、法規的解釈が裁判所を拘束するのは、法規的解釈を行った法令と解釈された用語や規定をもつ法令とが同順位の形式的効力をもつ法令であるからである。 法律の解釈を命令で行った場合には、法律に委任の根拠があれば格別、それがない限りは、内閣以下の行政機関が下した一種の行政解釈にすぎないことになる。その意味では、訓令や通達の形による解釈と効力において大差はないことになる。 もっとも、訓令や通達は、国家・地方公共団体職員等を規律するものであるのに対し、命令は一般国民をも拘束する。しかし、裁判所に対しては、実施命令による解釈は一種の行政解釈としての効果しかもたない。 ただし法律で、命令によって解釈する旨の委任規定を置いている場合は、その委任が包括的白紙的委任として問題となる場合は格別、有効な法規的解釈として裁判所も拘束することになる。 ⑤ 目的規定・趣旨規定 立法目的や立法趣旨を明らかにすることにより、個々の条文の解釈の基準又は指針としたものをいう。 法令の冒頭に、「(この法律の目的)」又は「(目的)」、あるいは「(この法律の趣旨)又は「(趣旨)」という見出しを掲げて設けられる規定で、立法目的や立法趣旨を明らかにすることにより、個々の条文の解釈の基準又は指針としたものである。 この前者を目的規定、後者を趣旨規定というが、目的規定の方は、その法律がその法律を通じて達成しようとする目的、つまり立法目的を掲げたものをいい、趣旨規定の方は、その法律が定めようとしている事柄を要約して掲げたものをいう。 各税法の第1条において、これが掲げられている。 ⑥ 解釈規定 ある法律全体又はある法律の中の特定の規定について、解釈の方向ないし指針を示した規定であり、その法令の解釈の仕方について、立法者がどのように考えているかを明らかにしたものである。 特に、その法律の解釈の仕方が問題となるような場合に置かれる。 例えば、所得税法234条第2項、法人税法第156条、消費税法第62条第6項、相続税法第60条第6項には、「・・・質問又は検査の権限は、犯罪捜査のために認められたものと解してはならない。」とする規定がある。 これは、各税法の質問検査はあくまでも行政目的上の調査であり、納税者の租税に係る刑事責任追及のための調査ではないことを明らかにしている。 ⑦ 確認(的)規定 なお、これらのほかに、法規的解釈の1つの方法として、確認規定というものが各種の法令に置かれている。 その法令の新設に伴って既存の法令との関係において解釈上の疑義が生じそうな場合や、既存の規定に解釈上の疑義があるときにその疑問を解消する場合に、このような確認規定が置かれる。 (了)
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〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う実務上の注意点 【第7回】税率変更の問題点(6) 「棚卸資産の管理」
〔平成9年4月改正の事例を踏まえた〕 消費税率の引上げに伴う 実務上の注意点 【第7回】 税率変更の問題点(6) 「棚卸資産の管理」 アースタックス税理士法人 税理士 島添 浩 1 在庫管理システムの変更 事業者が仕入れた原材料や商品等の棚卸資産につきその在庫管理をシステム等で処理している場合には、今回の税率改正によりそのシステム等を変更しなければならない。 具体的には、その棚卸資産の仕入れに係る消費税について、施行日前に仕入れたものは旧税率、施行日後に仕入れたものは新税率により課税されることから、その在庫がいつ仕入れたものなのかを明確に区分する必要がある。 また、その棚卸資産につき返品をした場合や値引き等を受けた場合には、『仕入れに係る対価の返還等を受けた場合の仕入れに係る消費税額の控除の特例(消費税法32条1項)』の規定を適用することとなり、仕入れた際の消費税額により調整をしなければならない。 したがって、在庫の管理については、その棚卸資産の金額等の把握をするだけでなく、その在庫の仕入時期も確認しなければならず、従来よりも事務負担が増えることとなる。 さらに、短期間に税率が2段階にわたって引き上げられることから、回転率の悪い商品等については、5%部分、8%部分、10%部分の棚卸資産が存在する可能性があり、さらにその管理が複雑になるため注意が必要である。 また、棚卸資産を海外から輸入する事業者の場合、その輸入した課税貨物を保税地域から引き取る際に支払った消費税額について税額控除を行うこととなるが、その輸入に係る消費税額についても施行日前に輸入したものは旧税率、施行日後に輸入したものは新税率により課税される。 したがって、課税貨物を保税地域から引き取る際に発行されるインボイス(請求書等)に記載されている税率が旧税率なのか新税率なのかを確認し、明確に区分して処理する必要がある。 また、輸入した課税貨物を返品したり、廃棄した場合で税関長から消費税額の還付を受けたときは、『保税地域からの引取りに係る課税貨物に係る消費税額の還付を受ける場合の仕入れに係る消費税の控除の特例(消費税法32条4項)』規定を適用することとなり、その場合の適用税率は、その返品等に係る課税貨物を引き取った際に適用された税率により処理しなければならない。 棚卸資産につき国内仕入れと輸入仕入れの両方を行っている事業者は、国内分と輸入分に区分した上でそれぞれの適用税率の管理を行い、また、その棚卸資産の返品等があった場合には、国内分の課税仕入れの対価の返還等の処理と輸入分の課税貨物に係る消費税額の還付の処理をそれぞれの適用税率により処理しなければならず、在庫管理システムの変更について、その構築に相当の時間がかかり、コストも多額となる可能性がある。 さらに、8%だけではなく10%の税率変更も含めてシステムを構築する場合や在庫管理システムが販売管理システムや会計システムと連動している場合には、さらに時間とコストがかかることとなるため、設備投資資金も踏まえて事前に検討しておく必要がある。 なお、仕入れに係る対価の返還等があった場合及び課税貨物に係る消費税の還付があった場合の仕入税額控除の特例規定については、仕入税額控除の計算方法(全額控除方式、個別対応方式、一括比例配分方式)によってそれぞれ計算式が異なるため、注意しなければならない(下記2参照)。 また、消費税の納税義務の免除を受けていた、いわゆる免税事業者が新たに課税事業者となった場合には、『納税義務の免除を受けないこととなった場合等の棚卸資産に係る消費税額の調整(消費税法36条1項)』の規定により、課税事業者となる課税期間の初日に在庫となっている期首棚卸資産に係る消費税額について、課税事業者となった課税期間において仕入税額控除の対象として処理をすることとなる。 この規定を適用する場合においても、その棚卸資産の仕入れを行った日が施行日前であれば旧税率、施行日後であれば新税率で処理することとなり、棚卸資産の仕入時期を明確に管理する必要がある(下記3参照)。 上記以外にも棚卸資産の会計処理において、税抜経理方式を採用しているのか、税込経理方式を採用しているのかによっても、その処理方法が異なることとなる。 具体的には、税抜経理方式の場合の期首や期末の棚卸高の計算は税抜(本体価格のみ)で処理することとなり、税込経理方式の場合の期首や期末の棚卸高の計算は税込(本体価格+消費税)で処理することとなる。 したがって、税率変更があった場合には、税込の棚卸高と税抜の棚卸高の差額が従来よりも多額となり、損益にも大きく影響することから処理方法を間違えないように注意しなければならない。 このように、在庫管理システムについては、税率変更に伴って留意すべき項目が多く、消費税の計算だけでなく法人税の計算にも影響を及ぼす可能性があり、そのシステム構築にあたっては十分に検討する必要がある。 2 「仕入れに係る対価の返還等を受けた場合」「引取りに係る課税貨物に係る消費税額の還付があった場合」の仕入税額控除の特例規定 商品等を仕入れた事業者が、その取引後に販売業者から値引きや割戻しを受けたり、仕入れた商品等を販売業者へ返品したことにより、買掛金等の全部又は一部の減額を受けた場合、その事業者は、その返還等を受けた日の属する課税期間において仕入れ係る対価の返還等に係る消費税額につき調整しなければならない。 なお、債務免除として事業者が課税仕入れの相手方に対する買掛金その他の債務の全部又は一部につき免除を受けたものは調整不要である。 また、商品等を海外から輸入する事業者が、その取引後に販売業者へ返品したり、その商品等が品違いであるため廃棄したことにより輸徴法(輸入品に対する内国消費税の徴収等に関する法律)の規定に基づいて税関長から課税貨物に係る消費税額の還付を受けた場合、その事業者は、その還付を受けた日の属する課税期間において還付された消費税額につき調整しなければならない。 なお、この規定は、あくまで税関長から消費税額の還付を受けた場合の規定であり、海外の取引先から直接受けた値引きや割戻しについては調整不要である。 上記2つの規定により調整しなければならない具体的な取引は、以下のとおりである。 また、上記規定の適用がある場合には、以下の区分に応じ、それぞれの計算式により算出した金額を控除対象仕入税額として消費税を計算することとなる。 ① 全額控除方式の場合 【課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 -【仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】※1 -【還付を受けた消費税額の合計額】※2 ※1 新税率と旧税率が混在する場合は、以下のように計算する。 ※2 税関長から還付を受けた消費税額の合計額で国税部分に係るもの(旧税率の場合は4%部分、新税率の場合は6.3%部分) ② 個別対応方式の場合 イ + ロの金額 イ 【課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 -【課税資産の譲渡等にのみ要する課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】 -【課税資産の譲渡等にのみ要する課税貨物につき還付を受けた消費税額の合計額】 ロ 【課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要する課税貨物につき還付を受けた消費税額の合計額】 × 課税売上割合 ③ 一括比例配分方式の場合 【課税仕入れ等に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【仕入れに係る対価の返還等を受けた金額に係る消費税額の合計額】 × 課税売上割合 -【還付を受けた消費税額の合計額】 × 課税売上割合 ただし、上記算式によらず、課税仕入れ等の金額からその課税仕入れに係る対価の返還等の金額を直接控除する経理処理(いわゆる純額主義)を継続して行っている場合には、その処理も認めることとしている。 前回で述べたように、この仕入れに係る対価の返還等を受けた場合、相手先である販売業者は、売上げに係る対価の返還等として税額控除を行うこととなり、売上側の適用税率と仕入側の適用税率を一致させなければならず、返品伝票や請求書等にて税率等をどのように明示するかなども含め、当事者間で事前に検討しなければならない可能性があるので注意しなければならない。 3 棚卸資産に係る消費税額の調整 免税事業者が新たに課税事業者となった場合、課税事業者となる日の前日において所有する棚卸資産(いわゆる期首棚卸資産)のうちに、納税義務が免除されていた期間において仕入れた棚卸資産がある場合には、その棚卸資産に係る消費税額を課税事業者になった課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額とみなして仕入税額控除を計算することとしている(消費税法36条1項)。 また、課税事業者が新たに免税事業者となった場合、課税事業者であった課税期間の末日において所有する棚卸資産(いわゆる期末棚卸資産)のうち、その課税期間中に仕入れた棚卸資産がある場合には、その棚卸資産に係る消費税額をその課税期間の仕入れに係る消費税額の計算の基礎となる課税仕入れ等の税額に含めないこととしている(消費税法36条5項)。 この規定の対象となる棚卸資産は、商品、製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵中の消耗品等で現に所有しているものをいい、保税地域からの引取りに係る課税貨物で棚卸資産に該当するものも含むこととしている。また、棚卸資産の取得費用の額には、その棚卸資産の購入金額に引取運賃や荷造費用など、その棚卸資産を購入するために要した費用の額が含まれる。 上記規定の棚卸資産に係る消費税額(調整税額)の計算において、旧税率と新税率が混在する場合には、以下のような計算式となる。 ① 免税事業者が課税事業者となった場合〔加算調整〕 ※棚卸資産の消費税額の調整の計算では、引き取った課税貨物についても国内の課税仕入れと同様に棚卸資産の取得費用の金額に税率を乗じて計算する。 ② 課税事業者が免税事業者となった場合〔減算調整〕 上記のように、この規定を適用する場合においても、その棚卸資産の仕入れを行った日が施行日前であれば旧税率、施行日後であれば新税率で処理することとなり、さらに2段階で税率が変更されることから施行日後については8%部分(国税6.3%)の仕入れと10%部分(国税7.8%)の仕入れに区分しなければならず、棚卸資産の仕入時期については明確に管理しなければならないので注意が必要である。 (了)
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〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載3〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第3回】期限切れ欠損金の損金算入制度における租税債務の取扱い
〔税の街.jp「議論の広場」編集会議 連載3〕 株式会社の解散と法人税申告の実務 【第3回】 期限切れ欠損金の損金算入制度における 租税債務の取扱い 税理士 竹内 陽一 F社は、この度、解散して清算することを検討しています。 F社の解散時に想定される資産・負債の状況は下図のとおりで、諸資産の売却収入(7,000)で諸負債(6,500)を弁済しようと考えています。資産(5,000)には含み益(2,000)があり、利益積立金額▲2,500は、期限切れ欠損金額と考えてよいものです。青色欠損金は、ありません。 F社は、このまま解散して清算すると、未払法人税等(800)が発生してしまうのではないかと思われますが、仮に未払法人税等(800)が発生するということになると、残余財産がなくなり、債務超過となってしまいます。 この場合にも、期限切れ欠損金額を損金に算入することができるのでしょうか。 ただし、上記の資産に関しては、解散時の時価が高くなる可能性がありますので、念のため、時価が8,000(含み益3,000)の場合の取扱いに関しても、併せてご教授下さい。 1 未払法人税等を計上すると残余財産がないこととなるケースの取扱い F社は、解散時に債務超過であり、資産を譲渡した時に債務超過の状態は解消されますが、この場合、未払法人税等を計上すると、債務超過の状態となります。 法人税法59条3項(残余財産がないと見込まれる場合の期限切れ欠損金額の損金算入)においては、残余財産がないと見込まれるときは、その事業年度において、期限切れ欠損金額を、当該所得金額を限度として、損金の額に算入する、とされていますので、F社の場合には、最終事業年度の所得金額が零となり、500(7,000-6,500)の残余財産が残ることとなります。 残余財産がないと見込まれるときの判定は、清算中の各事業年度終了の時の現況によって判定することとされており(法基通12-3-7)、残余財産がないと見込まれることを説明する書類には、例えば、各事業年度末の実態貸借対照表が該当する(法基通12-3-9)、とされています。 この残余財産がないと見込まれるときの判定については、上記通達以外に、国税庁質疑応答事例(法人が解散した場合の設立当初からの欠損金額の損金算入制度(法法59③)における「残余財産がないと見込まれるとき」の判定について)において、次のように説明されています。 上記の説明文からすると、F社の場合には、青色欠損金控除後の所得について法人税額等を未払計上して実態貸借対照表を作成し、残余財産がないと見込まれると判定して、法人税法59条3項により、期限切れ欠損金の損金算入を行うことができる、ということになります。 このため、期限切れ欠損金2,500の内の2,000が損金算入されて、法人税額等が発生しないこととなり、残余財産として500が残って株主に分配されることになります。 この事例では、解散時の簿価純資産価額のマイナス▲1,500は、資本金等の額1,000+利益積立金額▲2,500ですが、仮にこれが資本金等の額▲2,000+利益積立金額500であっても、同様に、資本金等の額のマイナス2,000を損金算入することになります(法令118①一)。 2 未払法人税等を計上しても残余財産があるケースの取扱い 上記1のケースにおいては、未払法人等を計上することにより、残余財産がないこととなり、期限切れ欠損金の損金算入を行うことができましたが、2のケースにおいては、未払法人税等を計上しても、残余財産が残ることとなり、法人税法59条3項を適用することはできません。 このため、2のケースにおいては、最後に残余財産として残って株主に分配することができる金額は、上記1のケースより少ない300(8,000-7,700)となります。 上記1と2のケースを比べると、資産の残高が多い方が株主に分配することができる残余財産が少なくなるという逆転現象が生ずることとなりますが、法令の規定及び国税庁の解釈からすると、このような結論となることになります。 (了)
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過年度遡及修正
〔過年度遡及会計基準〕 売上高の総額・純額表示の変更について
〔過年度遡及会計基準〕 売上高の総額・純額表示の変更について 公認会計士 阿部 光成 平成24年5月15日、日本公認会計士協会は「比較情報の取扱いに関する研究報告(中間報告)」(会計制度委員会研究報告第14号。以下「研究報告」という)を公表している。 これは、「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)及び「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号。以下「過年度遡及適用指針」という)の公表、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」等において、比較情報の作成が規定されたことを受けたものである。 後述するように、過年度遡及会計基準は、会計方針の変更と表示方法の変更を分けて規定しており、また、その区別についても従来の考え方から変更している。 本稿では、会計方針の変更と表示方法の変更の区別について、研究報告のQ7の売上高と売上原価の総額表示・純額表示の変更を用いて述べる。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅰ 会計方針の変更等の定義 過年度遡及会計基準では、会計方針と表示方法を分けて、それぞれの定義が設けられている。これに合わせて、会計方針の変更と表示方法の変更も区別されている。 これらの定義は次のとおりである(過年度遡及会計基準4項(1)、(2)、(5)、(6))。 「会計方針」とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいう。 「表示方法」とは、財務諸表の作成にあたって採用した表示の方法(注記による開示も含む)をいう。 「会計方針の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた会計方針から他の一般に公正妥当と認められた会計方針に変更することをいう。 「表示方法の変更」とは、従来採用していた一般に公正妥当と認められた表示方法から他の一般に公正妥当と認められた表示方法に変更することをいう。 Ⅱ 会計方針の変更と表示方法の変更 1 会計方針の変更と表示方法の変更の区別 表示方法の変更には、財務諸表における同一区分内での科目の独立掲記、統合あるいは科目名の変更及び重要性の増加に伴う表示方法の変更のほか、財務諸表の表示区分を超えた表示方法の変更が含まれる(過年度遡及会計基準4項(6)、過年度遡及適用指針4項)。 過年度遡及適用指針は、会計処理の変更に伴って表示方法の変更が行われた場合は、会計方針の変更として取り扱い、表示区分を超える変更であっても、会計処理の変更を伴うものでない限り表示方法の変更として取り扱うと規定している(過年度遡及適用指針7項、15項、19項)。 ここで、会計処理の変更を伴うという意味は、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について変更が行われる場合である(過年度遡及適用指針19項)。 つまり、「財務諸表の表示区分を超えた表示方法の変更」と「会計方針の変更」の区別については、資産及び負債並びに損益の認識又は測定についての変更があるかどうかによって行うことになる。 2 表示方法の変更のケース 過年度遡及適用指針19項では、ある収益取引について営業外収益から売上高に表示区分を変更する場合、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について何ら変更を伴うものではないときは、表示方法の変更として取り扱うと規定している。 研究報告のQ7でも、例えば、前事業年度まで営業外収益に計上していた賃貸収入について、当事業年度から売上高に表示区分を変更する場合のように、売上総利益及び営業利益という区分を超える変更であったとしても、資産及び負債並びに損益の認識又は測定について変更が行われないときには表示方法の変更として取り扱われると述べている。 3 売上高と売上原価の総額表示・純額表示の変更のケース 研究報告のQ7では、損益計算書の売上高の表示に際して、従来、売上高と売上原価の総額で表示していたが、過年度における当該総額表示が適切であり、また、取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がないという前提において、正当な変更の理由の存在及び変更の適時性が認められる場合に(過年度遡及適用指針6項及び「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第78号)8項)、売上高と売上原価を相殺し、純額で表示する方法への変更は、損益の認識又は測定の変更を伴うものであるので会計方針の変更として取り扱われると述べている。 Ⅲ 実務上の留意点 1 資産及び負債並びに損益の認識又は測定について変更があるかどうかについて慎重に判断すること 会計方針の変更と表示方法の変更の区別に関するポイントになるので、慎重に判断する必要がある。 2 取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がないかどうかについて慎重に判断すること 研究報告のQ7では、「取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がないという前提」を置いて述べている。 取引契約の内容が変更されるなどの事実の変更がある場合には、当該取引契約の内容の実態を反映するように会計処理及び表示に関する方法を選択することになると考えられる。 このような場合には、会計方針の変更ではなく、会計事実の変更に該当すると判断されるものと考えられる。 過年度遡及適用指針8項では、次の事象は会計方針の変更に該当しないと規定しているので、会計方針の変更に該当するかどうかの判断に際しては、注意が必要である。 会計処理の対象となる会計事象等の重要性が増したことに伴う本来の会計処理の原則及び手続への変更 会計処理の対象となる新たな事実の発生に伴う新たな会計処理の原則及び手続の採用 3 「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」 監査上の取扱いとして、「正当な理由による会計方針の変更等に関する監査上の取扱い」(監査・保証実務委員会実務指針第78号。以下「実務指針78号」という)が公表されている。 実務指針78号8項では、監査人は、経営者による会計方針の選択及び適用方法が会計事象や取引を適切に反映するものであるかどうかを評価しなければならないとし、会計方針の変更のための正当な理由があるかどうかの判断に当たっては、以下の事項を総合的に勘案する必要があると規定している。 会計方針の変更が企業の事業内容又は企業内外の経営環境の変化に対応して行われるものであること 会計方針の変更が会計事象等を財務諸表に、より適切に反映するために行われるものであること 変更後の会計方針が一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に照らして妥当であること 会計方針の変更が利益操作等を目的としていないこと 会計方針を当該事業年度に変更することが妥当であること(変更の適時性) このため、会計方針の変更を行う際には、上記の事項について総合的に勘案し、判断する必要がある。 また、実務指針78号9項では、会計方針は、原則として、事業年度を通じて首尾一貫していなければならないと規定している。 四半期決算を行う企業の第2四半期以降における自発的な会計方針の変更は、当該四半期会計期間(第4四半期会計期間を含む)において発生した特殊の事情、例えば、直前の四半期会計期間の末日までには考慮する必要がなかったが、当該四半期会計期間に至って考慮せざるを得ない状況が発生した場合等に限って認められるものとされている(中間決算を行う企業の下期における自発的な会計方針の変更も同様)。 このため、会計方針の変更を行う場合には、原則として、四半期決算を行う企業の第1四半期から行うことになると考えられる。 表示方法の変更については、実務指針78号13項において、同78号12項②の会計事象等を財務諸表により適切に反映するために行う変更であるかどうかを判断するに当たっても、監査人は同78号8項の判断の指針に留意することが必要であると規定されているので、注意が必要である。 (了) 【参考】ASBJ/FASFホームページ ・「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号) ・「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号)
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企業予算編成上のポイント 【第2回】「『予算作成の流れ』を理解する」
企業予算編成上のポイント 【第2回】 「『予算作成の流れ』を理解する」 公認会計士 児玉 厚 会社は「人」である。 次期の目標を実現するためには、社員のベクトルを一本化していかなければならない。 しかし実際は「次期目標を数値化した予算」は十分に理解されていない。 つまり、経営企画室は、予算の大枠は理解しているが、個別の部門予算作成プロセスは理解していない。一方、たとえば、営業マンは売上高予算作成プロセスを理解しているが、予算作成の全体像は理解されていない。 したがって、すべての社員が「予算作成の流れ」を正しく理解していることが重要である。紙幅の関係上制約があるが、以下「予算の流れ」を解説する。 予算作成のポイントは下記の点にある。 予算の内容が中期経営計画と合理的に結び付いていること 予算の内容が全社、部門のみならず担当者レベルの具体的行動計画に結び付くこと すべての予算費目について、金額算定の根拠を示す客観的基礎資料があること 当期に発生した問題点や課題が適切に次期予算に反映されていること 各部門の予算は実状に応じ、公正に評価されること 予算達成に対する従業員のやる気を促す報奨制度があること 部門間の利害調整を適切に行うこと 月次発生主義に基づく厳格な実績管理が行われていること 予算作成の事務作業が適正に、かつ迅速に行われること(「システム化」) 予算がブレるリスクを事前に洗い出し、対応策を事前検討すること 「予算作成の流れ」を図1に従って簡潔に解説する。 図1 予算作成の流れ ※クリックすると画像が拡大されます。 注:製造部門は販売部門へ社内売上を計上している。 【手順1】[12月] 3ヶ年の「中期経営計画」…① を作成する(管理部門) 【手順2】[1月中旬] 3月末の「実績予想の損益計算書、貸借対照表、株主資本等変動計算書及びキャッシュ・フロー計算書」を作成し、予算実績分析を行い、課題を整理する…② 〈留意点〉当期実績は予想値であること 【手順3】[1/25] 上記①・②より、「次期全社予算編成方針(目標売上高、目標利益等)」を作成する…③ 〈留意点〉理想的には、目標営業キャッシュ・フローも明示 併せて「予算編成スケジュール表」を作成する…④ 《販売部門》[1/28~3/17] 【手順4】 上記③・④より、「販売部門予算編成方針」(販売部門予算スケジュール表含む)を作成する…A1 併せて、販売戦略も作成する。 【手順5】 上記①及びA1より、「設備投資・処分等申請書」を作成する…A2 【手順6】 営業マンごとに、「担当者別相手先別販売計画表」を作成する…A3 【手順7】 A3を集計して「製品別販売計画書(売上高・販売数量)」を作成する…A4 【手順8】 A4を実現するための「販売費予算表(販売費)」を作成する…A5 【手順9】 管理部門作成の「C6全社管理費予算表」等より、「販売部門管理費予算表」を作成する…A6 【手順10】 社内振替単価×月次完成品数量=月次社内売上原価の計算式より、「社内振替売上原価予算表」を作成する…A7 【手順11】 管理部門「C4人件費計画表」より、「販売部門人件費予算表」を作成する…A8 【手順12】 管理部門「C13本社費配賦表」より、「販売部門本社費予算表」を作成する…A9 【手順13】 上記A1~A9より、「販売部門予算書(損益計算書)」を作成する…A10 【手順14】 A3より、決済条件(例:末締翌月末振込入金)を基礎として、「担当者別相手先別売上代金回収計画表」を作成する…a1 【手順15】 a1を集計して「売上代金回収計画書」を作成する…a2 【手順16】 A5より、決済条件(例:末締翌月末振込支払)を基礎として、「販売費支払計画表」を作成する…a3 【手順17】 上記a1~a3より、「販売部門資金収支計画書」を作成する…a4 《製造部門》[1/28~3/17] 【手順18】 上記③・④より、「製造部門予算編成方針」(製造部門予算スケジュール表含む)を作成する…B1 併せて、生産戦略も作成する。 【手順19】 上記①及びB1より、「設備投資・処分等申請書」を作成する…B2 【手順20】 歩留率を考慮し、製品1個当たり投入量・単価を示す「製品別単位製造費用予算表」(例:直接材料費=材料2.2㎏×@100千円=220千円など)を作成する…B3 【手順21】 販売部門の「A4製品別販売計画書」の月次販売数量=月次出庫数量になるので適正在庫水準を考慮して「製品別生産計画兼製品在庫計画表」を作成する…B4 【手順22】 B3・B4より、「材料仕入兼在庫計画表」を作成する…B5 【手順23】 B3・B4より、「外注費計画表」を作成する…B6 【手順24】 管理部門「C4人件費計画表」及びB3・B4より、「製造人件費予算表(作業時間・平均賃率)」を作成する…B7 【手順25】 B3~B7より、「製造直接費予算表」を作成する…B8 【手順26】 管理部門作成の「C6全社管理費予算表」及びB3~B7より、「製造間接費予算表」を作成する…B9 【手順27】 B3・B4・B8・B9より、「製品別製造原価計画表」を作成する…B10 【手順28】 社内振替単価×月次完成品数量=月次社内売上高の計算式より、「社内売上予算表」を作成する…B11 【手順29】 管理部門「C13本社費配賦表」より、「製造部門本社費予算表」を作成する…B12 【手順30】 上記B1~B12より、「製造部門予算書(損益計算書)」を作成する…B13 【手順31】 B5より、決済条件(例:末締翌々月末振込支払)を基礎として「材料仕入代金支払計画表」を作成する…b1 【手順32】 B6より、決済条件(例:末締翌月末振込支払)を基礎として「外注費支払計画表」を作成する…b2 【手順33】 B8・B9の個別製造経費について、決済条件(例:末締翌月末振込支払)を基礎として「個別製造経費支払計画表」を作成する…b3 【手順34】 b1~b3より、「製造部門資金収支計画書」を作成する…b4 《管理部門》[1/25~3/17] 【手順35】 上記③・④より、「管理部門予算編成方針」(管理部門予算スケジュール表含む)を作成する…C1 併せて、財務戦略も作成する。 【手順36】 上記①及びC1より、「設備投資・処分等申請書」を作成する…C2 【手順37】 A2・B2・C2より、当期末の「固定資産管理台帳」を基礎として、「固定資産増減兼減価償却費計画表」を作成する…C3 【手順38】 次期の役員・社員の増減を予測し、「人件費計画表」を作成する…C4 「管理部門人件費予算表」を作成する…C5 【手順39】 「全社管理費予算表」を作成する…C6 C6より、「管理部門管理費予算表」を作成する…C7 【手順40】 「借入金等計画表(借入金・支払利息等)」を作成する…C8 【手順41】 「資金運用計画表(金融商品・受取利息等)」を作成する…C9 【手順42】 「消費税等予算表(仮受・仮払消費税等、未払消費税等)」を作成する…C10 【手順43】 「特別損益予算表(固定資産売却損益・除却損等)」を作成する…C11 【手順44】 「税金等予算表(税効果含む)」を作成する…C12 【手順45】 C1~C12より、「管理部門予算書」を作成する…C14 【手順46】 C14より、「本社費配賦表」を作成する…C13 販売部門及び製造部門に賦課する。 【手順47】 C3より、決済条件を基礎として「設備投資・処分等収支計画表」を作成する…c1 【手順48】 C4より、決済条件を基礎として「人件費支払計画表」を作成する…c2 【手順49】 C6より、決済条件を基礎として「全社管理費支払計画表」を作成する…c3 【手順50】 C8より、決済条件を基礎として「借入金等収支計画表」を作成する…c4 【手順51】 C9より、決済条件を基礎として「資金運用等収支計画表」を作成する…c5 【手順52】 C11より、納付期限を基礎として「税金等支払計画表」を作成する…c6 【手順53】 C1より、決済条件を基礎として「剰余金処分等支払計画表」を作成する…c7 【手順54】 c1~c7より、「管理部門資金収支計画書」を作成する…c8 《総合予算書》[3/22~3/27(但し、⑪は4/30)] 【手順55】 「a4販売部門資金収支計画書」「b4製造部門資金収支計画書」「c8管理部門資金収支計画書」より、「月次資金計画書」を作成する…⑤ 【手順56】 「A10販売部門予算書」「B13製造部門予算書」「C14管理部門予算書」を合算し、内部取引(社内売上高・社内売上原価)を消去し、「予算損益計算書」を作成する…⑥ 【手順57】 「B4製品別生産計画兼製品在庫計画表」「B5材料仕入兼在庫計画表」「B10製品別製造原価計画表」「C3固定資産増減兼減価償却費計画表」「C8借入金等計画表」「C9資金運用計画表」「C10消費税等予算表」「C12税金等予算表」「a4 販売部門資金収支計画書」「b4製造部門資金収支計画書」「c8 管理部門資金収支計画書」「⑤月次資金計画書」及び「上記②の実績予想貸借対照表」より、「比較予算貸借対照表」を作成する…⑦ 【手順58】 上記⑥・⑦より、「予算株主資本等変動計算書」を作成する…⑧ 【手順59】 上記⑦の増減差額を予算キャッシュ・フロー科目へ振り替える「予算キャッシュ・フロー組替仕訳(予算C/F組替仕訳)」を作成する…⑨ 【手順60】 上記⑤~⑨より、「予算キャッシュ・フロー計算書」を作成する…⑩ 【手順61】 上記⑥より、「決算短信業績予想」を作成する…⑪ 《月次部門別予算書》[3/31~4/4] 【手順62】 A10より、「販売部門月次予算書(損益計算書)」を作成する…A11 【手順63】 B13より、「製造部門月次予算書(損益計算書)」を作成する…B14 【手順64】 C14より、「管理部門月次予算書(費用予算書)」を作成する…C15 上記A11・B14・C15より、月次部門予算・実績管理を行っていく。 (了)
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〔会計不正調査報告書を読む〕【第4回】オリバー架空・循環取引「社内調査委員会・第三者調査委員会調査報告書」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第4回】 オリバー架空・循環取引 「社内調査委員会・第三者調査委員会 調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【株式会社オリバーの概要】 株式会社オリバー(以下「オリバー」という)は、愛知県岡崎市に本店を置くインテリアの製造・販売会社で、連結売上高20,445百万円、連結経常利益1,938百万円。従業員386名。国内に有線テレビ事業を営む連結子会社1社と、アメリカ、ニュージーランドにそれぞれ連結子会社を有している(数字はいずれも2011年10月期)。名古屋証券取引所上場。 【報告書のポイント】 1 架空・循環取引が発覚した経緯 (1) 取引先C社による債権残高の照会(2012年9月25日) 取引先C社の社長以下がオリバーを訪問し、同社の売掛債権が1億円以上あり、かつ、当該債権について執行役員医療福祉営業部長(以下「元部長」という)が作成した念書があることを説明した。 オリバーのC社に対する買掛債務は100万円であったため、事実関係を確認しようとしたが、元部長は、その前日から出張に出かけ不在であった。 なお、元部長の所在は、現在に至るまで分かっていない。 (2) 社内調査委員会による調査 オリバーは、9月28日の取締役会で、社長を委員長とする調査委員会を設置し、医療福祉営業部員に対するヒアリングを行うとともに、C社を含む取引先との面談及び資料の提供を受けて、C社を含む複数の取引先(以下「特定取引先6社」という)との間で、架空の売上計上、架空の仕入計上の疑いがあることが判明した。 元部長以外の医療福祉営業部員らは、関与を全面的に否定した。 (3) 第三者調査委員会の設置 社内調査の結果、元部長の所在が不明であることから取引の詳細は明らかではないものの、何らかの架空取引があったとの判断から、11月6日、第三者委員会を設置し、翌日、その事実を開示した。 2 調査結果により判明した事実 (1) 納入実体のない架空・循環取引 元部長による、特定取引先6社を巻き込んだ架空・循環取引による売上計上額は2005年12月から2012年10月までの間に2,892百万円に達し、経常利益を363百万円不正に過大計上していた。 不正の手口としては、直送取引(商品が仕入先から設置場所に直送され、オリバーを経由しない取引)を利用し、特定取引先6社の協力を得て証憑書類を作成して、入出金を行い、架空・循環取引であることを隠蔽して行われていた。 (2) 不正な金銭の受領 元部長は、個人口座に振り込ませたり、飲食代金等の肩代わりをさせたりする方法で、特定取引先のうちの1社であるA社から10年間で総額10,946千円を支出させ、同じくE社からは、1年半の間に9,597千円を支出させていた。 (3) 架空・循環取引参加社の対応 最も後から架空・循環取引に参加したE社は、仕入先には現金で支払い、オリバーからは120日手形を受け取る条件で8~10%の利ざやを得ていたが、架空・循環取引の破綻に伴い、オリバーを被告として不法行為に基づく損害賠償請求訴訟(訴額493百万円)を提起した。 一方、特定取引先のうちA社は、2012年10月破産申立手続きを行い、翌月、破産手続の開始が決定している。 3 架空・循環取引を組成するに至った理由 (1) 予算達成のプレッシャー及び昇進・昇給目的 調査報告書は、オリバーの、業績に偏重した成果主義、昇格制度、予算ノルマ達成へのプレッシャーなどが、元部長をして、架空売上・利益の計上を企図させた原因としている。なお、元部長の評価は高く、同期入社のトップで執行役員に昇進している。 社内調査報告書には、2003年10月、元部長が、前年の業績不振により降格されたという記載もあり、降格人事を経験したことがより一層強いプレッシャーを感じる原因となったことが類推できる。 (2) オリバーの企業風土 調査報告書は、オリバーの、コンプライアンス意識の不徹底、社内規定、決裁権限の不備を不正の発生原因とし、内部監査、監査役監査が機能していなかったことを指摘している。 また、人事異動が適切に行われていなかったことが、当該部門を不正の温床とし、取引業者との癒着につながったと批判している。 (3) 利益供与目的 前述のように、元部長は、特定取引の2社から合計2,000万円以上の不正な利得を得ており、自らの遊興費欲しさに、架空・循環取引を組成した面もある。 4 調査報告書の特徴 架空・循環取引がマスコミで報じられるようになったのは、2007年1月のアイ・エックス・アイ社に対する強制捜査、翌年4月のニイウスコー社の破綻などからであろうか。 2010年にはメルシャン社の不正が親会社まで巻き込んだ。本事例は、執行役員営業部長が、長年、架空・循環取引を捏造し、しかも、仕入先から不正に利益供与を受けていた事件である。 第三者調査委員会は、オリバーの取締役の責任について、 としかコメントしていないが、オリバーの取締役・監査役の中には、他社で行われた不正の報道に触れて、「自社は大丈夫だろうか」とか、「もっと厳格な監査が必要ではないか」と心配するメンバーは存在しなかったようである。 第三者委員会は、懲戒解雇にした元部長を刑事告訴すべきと断じ、また、監査法人についても、「監査法人の監査チームが、リスク意識を十分に理解せずに監査業務を遂行していた」から、本件取引に気づかなかったと厳しく指摘しているが、それに引き換え、取締役の責任に対する上記のコメントは歯切れが悪く感じる。 もちろん、不正を働いた元部長が悪いのは間違いない。しかし、有能な社員を不正に走らせ、8年間、その不正を発見できなかったのみならず、失踪にまで追い込んだ社内管理体制の不備、それを放置した経営者の責任はもっと重いのではないだろうか。 内部統制の目的は不正を防止することだけではなく、社内から犯罪者を出さない、社員を刑事被告人にしないことも含まれるはずである。 (了)
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高年齢者の継続雇用を巡る企業対応(最高裁平成24年11月29日判決を受けて)
高年齢者の継続雇用を巡る企業対応 (最高裁平成24年11月29日判決を受けて) 弁護士 薄井 琢磨 1 はじめに 平成16年改正の高年齢者雇用安定法(以下「平成16年改正法」という)の施行を受けて、多くの企業が継続雇用制度を導入した。 ところが、近時、継続雇用制度を巡る紛争が増加し、裁判例が相次いで出されている。 この種の紛争の典型例は、定年を迎えて継続雇用を希望する労働者に対し、企業が継続雇用基準を満たさないなどの理由でこれを拒み、労働者が雇用継続を求めて提訴するというものである。 今般、継続雇用拒否に対する法的救済を認めた最初の最高裁判決(津田電気計器事件・最高裁平成24年11月29日第一小法廷判決)が出された。 本判決は、企業の実務対応を考える上で重要な意義があると思われるので、概要を紹介し、併せて実務対応上の留意点に触れたい。 2 継続雇用制度を巡る状況 (1) 平成16年改正法の概要 平成16年改正法は、企業に対して60歳を下回る定年の定めを禁止したうえで(8条)、65歳未満の定年を定めている企業は、従業員の65歳までの安定した雇用を確保するため、以下の①~③のいずれかの措置を講じなければならないとした(9条1項)。 また、②継続雇用制度について、企業が、過半数代表との書面による協定(労使協定)に対象者の基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、②継続雇用制度の措置を講じたものとみなすとした(9条2項)。 (2) 企業の対応動向 これを受けて、多くの企業は②継続雇用制度を導入し、その割合は上記①~③の措置を講じた企業の8割超にのぼる(平成24年厚生労働省告示第559号)。 継続雇用には、定年までの労働契約を終了させずそのまま延長する勤務延長と、いったん定年で労働契約を終了したうえで改めて有期労働契約を締結する(雇用確保年齢まで契約を更新する)再雇用の2つのタイプがあるが、継続雇用制度を導入した企業の大部分が、賃金をはじめとする労働条件をリセットできる再雇用タイプを選択している。 また、継続雇用制度を導入した企業の6割弱は、継続雇用基準を定めた労使協定を締結し、これをクリアした者を再雇用している。 3 津田電気計器事件・最高裁判決の概要 (1) 事案の概要 X(被上告人)はY社(上告人)に正社員として入社した。 Y社の定年は60歳とされていたが、Y社には高年齢者継続雇用規程(以下「本件規程」という)があった。 XはY社に継続雇用の希望を伝えたが、Y社はXに対し、本件規程の継続雇用基準を満たさないことを理由に、再雇用しない旨を通知した。 そこで、Xが、本件規程に基づき再雇用されたこと等を主張して、Y社を提訴した。 (2) 判旨 (審理の結果、Xが継続雇用基準を満たすことを認定したうえで)Xは本件規程の継続雇用基準を満たしていたから、Xが雇用が継続されると期待することには合理的な理由がある。一方、Y社がXを継続雇用基準を満たしていないとして再雇用しないことは、やむを得ない事情もないため、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とはいえない。したがって、Y社とXとの間には、本件規程に基づき再雇用されたのと同様の雇用関係が続いている。そして、期限や賃金、労働時間等の労働条件は、本件規程の定めに従う。 (下線:筆者) (3) 判決のポイント 継続雇用を拒否された労働者が、実は継続雇用基準を満たすと判断された場合、どこまでの法的救済が認められるのか(損害賠償に止まるのか、それとも継続雇用まで認められるのか)、また、継続雇用が認められるとすればその根拠は何かについて、議論があった。 有期契約労働者の雇止め(更新拒否)のケースについては、判例法理(改正労働契約法19条で条文化された)が確立している。 それは、①契約が反復更新されて期間の定めが有名無実化し、実質的に無期労働契約と同視できる場合、②①とまではいえないが、労働者の雇用継続の期待に合理性がある場合、解雇権濫用法理(労働契約法16条)を類推適用し、雇止めが濫用に当たる場合にはこれを許さず、契約が更新されたのと同様の法律関係になるというものである。 本判決は上記の議論に決着を付け、継続雇用拒否のケースについても、雇用継続の期待に合理性がある場合(上記②の場合)には判例の雇止め法理が妥当し、継続雇用が認められる場合があることを明らかにした。 4 実務対応上の留意点 継続雇用拒否が濫用と判断されると、継続雇用が認められることになるが、その労働条件(特に賃金額)は、継続雇用制度の内容を前提に、裁判所の解釈によって認定される可能性がある。 津田電気計器事件では、労働者から再雇用と併せて再雇用拒否後に生じた未払賃金等も請求されたが、継続雇用制度に関する社内規程(本件規程)に再雇用者の労働条件の大枠が定められていたため、裁判所の解釈によって具体的な未払賃金額が認定された。 これを踏まえて、継続雇用制度を導入する企業は、柔軟な対応ができるように、社内規程に継続雇用後の労働条件(賃金・労働時間)を定めることの是非や、どの程度まで具体的に定めるか等を含めて、規程を見直すことも考えられる。 ところで、労使協定で継続雇用の対象者を限定する仕組みは、平成25年4月1日から施行される改正高年齢者雇用安定法で廃止される。 その結果、継続雇用制度を導入する企業は、希望者全員を対象とする制度に改めければならなくなる。 もっとも、厚生労働省の指針(平成24年厚生労働省告示第560号)によれば、心身の故障のため業務に堪えられないと認められることや、勤務状況が著しく不良で従業員としての職責を果たしえないことなど、就業規則に定める解雇事由や退職事由(年齢に係るものを除く)に当たる場合には、継続雇用しないことができ、これらを継続雇用拒否事由として就業規則等に定めることもできるとされている。 ただし、「解雇事由又は退職基準と異なる運営基準を設けることは改正法の趣旨を没却するおそれがあることに留意する。」「継続雇用しないことについては、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められると考えられることに留意する。」との注意書きが付されている。 高年齢者の継続雇用については、以上の対応についても併せて検討する必要があるだろう。 (了)