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〔会計不正調査報告書を読む〕【第6回】ネットワンシステムズ株式会社・元社員による不正行為「特別調査委員会調査報告書」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第6回】 ネットワンシステムズ株式会社・ 元社員による不正行為 「特別調査委員会調査報告書」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【概要】 【ネットワンシステムズ株式会社の概要】 ネットワンシステムズ株式会社(以下「NOS」という)は東京都に本店を置くネットワーク関連企業で、特定のメーカーの系列にはない。連結売上高157,633百万円、連結経常利益15,470百万円。従業員2,023名(数字はいずれも2012年3月期)。東証1部上場。 【報告書のポイント】 1 元社員と共犯関係にある者の所属会社との共同調査 NOSでは、国税局による税務調査をきっかけに、社員Aが、取引先である金融機関の行員B、システム会社の社員Cと共謀して、金融機関との商談の原価として、NOSに対し、架空外注費を支払わせ、これを騙取した疑いが生じた。外部の弁護士も参加したNOS調査チームは、社内調査だけでは限界があると判断し、金融機関に共同して調査を進めることを申し入れて、調査を進めた。 その結果、NOSが調査結果を公表した日に、株式会社十六銀行(以下「十六銀行」という)は、自行の元行員が関与していることを認めるリリースを出し、ITホールディングス株式会社は、子会社であるTIS株式会社の元社員が関与していたことを認め、どちらも特別調査委員会により調査中であるとコメントしている。 2 第三者委員会ガイドラインに準拠した調査 社内調査の段階で、内部通報制度の外部窓口を担当している弁護士2名が参加していることから、特別調査委員会は、ガイドラインが規定する「第三者委員会」には該当しない可能性があるが、独立した調査の実質を確保するために、「第三者委員会ガイドライン」に準拠して調査を行うことを確認する契約書を取り交わしたうえで、調査を実施している。 今後も、内部通報を受けた外部窓口の弁護士を中心に社内調査を進め、ある程度、不正の存在の確証を得てから、第三者委員会へ移行をする必要が生じるケースは増えることが予想されるので、本件は、そうした事案の先駆けとなるものである。 3 調査結果により判明した事実 (1) NOSから金銭を騙取するに至った事情 NOS元社員Aは、十六銀行でBと共にシステム部門に属していた。発注先の一つであるTISのCは業務を通じて両者と親密さを深め、Aが十六銀行在籍時から、十六銀行が発注し、TISが直接又は間接に受注する案件において、不正行為を行っていた模様である(詳細はNOS特別調査委員会では把握できていない)。 2000年10月、AがNOSに入社し、2004年4月部長、2006年4月本部長と、NOS社内の発言力を強めていく中で、十六銀行が発注し、NOSが直接又は間接に受注する案件についても、不正を重ねていく(NOSにおける最初の不正は2005年4月であった)。 不正の手口としては、TIS元社員Dが設立したZ社を架空の発注先として使い、Bが不正行為の原資となる商談を銀行内で確実に実行させるよう手を尽くし、AがNOS社内手続を行わせて、Z社に対して架空発注と支払いを行わせ、Cが騙取した金銭を現金化して配分する役目を分担していた。 特別調査委員会が認定したZ社への支払金額は、7億8,900万円余りであった。 (2) 元社員Aに対する社内の特別扱い 元社員Aは、NOSに入社以来、金融機関のネットワークビジネスに詳しい「優秀な営業マン」として評価を高め、中部支店から東京に転勤となってからも、十六銀行との商談では転勤前と変わらない役割を果たし、大きな売上・利益をもとに強い支配力を持つに至った。 周囲は、Z社の実態に疑問を抱きつつも、「治外法権の聖域化」している十六銀行との商談については、「ハンコを押すだけ」の役割に徹し、あるいは意見を言えないまま、思考停止状態に陥っていた。 (3) 国税局による税務調査 2012年2月から国税局による税務調査が始まり、Z社に対する外注費に実態がない(原価性が認められない)のではないかという疑いが争点となった。 元社員Aは、対応に当たる財務経理部門、中部支店の営業担当者に対し、シナリオに沿った回答をするよう指示し、自らは、Z社が納入した「成果物」と称するDVDを捏造し、変換ソフトを用いてファイルのプロパティを書き換えることにより、Z社が納入したものであるかのように偽装して提出した。 長引く税務調査の重大性を経営陣が認識したのは同年11月、税務調査対応メンバーではない業務管理グループの担当者が、強い懸念を担当役員に報告したことをきっかけに、外部弁護士を加えた調査チームが設置されることとなった。 4 原因分析と責任の所在 (1) 機能していない購買部門による統制 購買部門によるチェックは、外注先が登録されているかどうか、書類に整合性があるかどうかを確認する形式的なものであり、営業手配の外注に対する牽制としては不十分であった。 登録時に「多額の仕入はリスクあり」とされたZ社であるが、業者登録には承認基準がなく、いったん承認されれば更新も行われないため、継続的な発注が可能であった。外注管理規程には一定の牽制効果がある条項が定められていたが、Z社への発注については規程に基づく管理は行われておらず、規程自体も2001年以降改正されていないなど、有名無実化していた。 (2) 社風 現社長は、就任後、個人商店的発想(属人的な企業風土)や過度の営業重視などの古い企業体質に危機意識をもって、行動指針を策定、企業風土の変革に取り組んでいる。 しかし、調査委員会のヒアリングでは、こうした行動指針は単なる「タテマエ」に過ぎない実態が残ってしまっており、それは本件について「内部通報制度」が機能していなかったことにもつながっている。 (3) 内部監査 2011年7月、Z社との異常取引を発見して、問題点を把握し、調査に着手した時点までの内部監査部門の対応は適切であったが、元社員Aが準備したDVDの検証も不十分なまま、その説明を鵜呑みにして監査を終了させたことには大いに疑問が残るところだ。 まして、信用調査で「代表1名、売上高約5,000万円」という情報を事前に得ておきながら、Z社を訪問すらしていない点、元社員Aの存在がいかに聖域になっていたとはいえ、監査部門の対応としては不十分であった。 5 調査報告書の特徴 報告書自体の読みやすさ、興味を惹く記述に驚かされる。時系列に沿った事件の解明、差し挟まれる従業員の肉声。まるでノンフィクション作品を読んでいるかのようであり、これまで数多くリリースされてきた調査報告書とは一線を画するものとなっている。 また、元社員Aの税務調査対策の模様もリアルに描かれている。 口裏合わせのための打合せ。証拠の捏造。中でも出色だったのは、元社員Aが、国税局の調査において自らの意に沿わない経理財務部門の関係者を恫喝し、「おまえたちを殺すことなど、おれは何とも思わない。」とか「駅のホームでおまえたちに何かあっても気づく人はいない。」と脅迫した場面である。 元銀行マンで、営業担当の本部長という要職を占めている人の発言とも思えないが、こうした発言にただうつむく管理職ばかりで、発言を諌める人、こうした行為を経営トップに伝える人が社内にいなかったことが、最大の問題であったように感じる。 ただ、調査報告書の最後に「NOS社員の大多数は、このような真面目な社員であることを付言しておく」というコメントを入れたことについて、筆者は、違和感を禁じ得ない。そのようなことは言うまでもないことであり、連結経常利益150億円以上、東証1部上場企業に対するコメントとしては、かえって失礼なものではないだろうか。 (了)
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改正高年齢者雇用安定法の実務上の留意点 【第4回】「継続雇用制度の対象者を雇用する企業範囲の拡大」
改正高年齢者雇用安定法の 実務上の留意点 【第4回】 「継続雇用制度の対象者を雇用する 企業範囲の拡大」 社会保険労務士 平澤 貞三 グループ企業の範囲 これまで継続雇用対象者の受入企業の範囲は、親子会社までとなっていたが、今回の改正により、特殊関係事業主(当該事業主の経営を実質的に支配することが可能となる関係にある事業主その他の当該事業主と特殊の関係のある事業主として厚生労働省令で定める事業主)まで拡大された。 この特殊関係事業主の範囲を整理すると、以下のようになる。 (東京労働局ホームページ「改正高年齢者雇用安定法の概要」より) グループ企業で継続雇用させる場合の留意点 元の雇用主、継続雇用対象者、及びその対象者が継続雇用されるグループ会社との関係性が重要となるが、厚生労働省のホームページでは、今後想定される質問・相談について「高年齢者雇用安定法Q&A」として問答集を公開している。 いくつか重要と思われる点について整理すると、以下のようになる。 (連載了)
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会社が取り組む社員の健康管理【第4回】「健康の保持増進対策と安全衛生教育の実施」
会社が取り組む 社員の健康管理 【第4回】 「健康の保持増進対策と 安全衛生教育の実施」 社会保険労務士 佐藤 信 1 はじめに 高齢化社会の到来、就業意識や働き方の変化に伴い、定期健康診断の有所見率は増加し、仕事に関して不安やストレスを感じている労働者の割合が高い水準で推移している。 職場における労働者の心身の健康問題に対処するためには、健康の保持増進を図ることが重要である。 今回は、健康の保持増進へ向けた対策及び労働者の安全衛生教育について触れていくこととする。 2 健康の保持増進策 (1) 健康保持増進対策の概要 労働者の健康の保持増進には、労働者が自主的、自発的に取り組むことが重要である。 しかし、職場には労働者自身の力だけでは取り除くことができない健康障害要因、ストレス要因などが存在するため、労働者の自助努力に加えて、事業者の行う健康管理の積極的推進が必要である。 労働者の健康を保持増進するための具体的措置として、次のものがある。 これらの事項は、それぞれに対応したスタッフの緊密な連携により推進していきたい。 スタッフは、それぞれの専門分野における十分な知識・技能を有していることが必要であると同時に、労働衛生、労働生理などについての知識を有していることが不可欠であるが、事業規模によっては、すべての該当者を確保することが困難なケースも多いと思われる。 その場合は、外部の労働者健康保持増進サービス機関に委託して実施することが適当であろう。 【参考】 中央労働災害防止協会ホームページ ・都道府県別労働者健康保持増進サービス機関リスト (中央労働災害防止協会は、事業主の自主的な労働災害防止活動の促進を通じて、安全衛生の向上を図り、労働災害を絶滅することを目的として労働大臣(現:厚生労働大臣)の認可により設立された公益目的の法人。事業主の自主的な労働災害防止活動を促進し、労働者の安全と健康を確保するための総合的活動が行われている。) (2) 健康保持増進措置の内容 会社は、次に掲げる項目を実施し、労働者の個別の要請に基づき相談に応ずるように努めることが必要である。 ① 健康測定 健康測定とは、原則として産業医が中心となって行い、労働者の健康状態を把握し、運動指導、保健指導等を行うために実施される生活状況調査や医学的検査等のことをいう。疾病の早期発見に重点をおいた従来の健康診断とは、その目的が異なる。 健康測定後は、その結果に基づき各労働者の健康状態に応じた指導票を作成し、指導票により、以下に述べる②運動指導、③メンタルヘルスケア、④栄養指導、⑤保健指導等の健康指導を行う。 ② 運動指導 健康測定の結果及び産業医の指導票に基づいて、運動指導担当者が労働者個人について、実行可能な運動プログラムを作成し、運動実践を行うに当たっての指導を行う。 労働者が自主的、積極的に取り組むよう配慮することが必要である。 ③ メンタルヘルスケア 健康測定の結果、メンタルヘルスケアが必要と判断された場合又は問診の際に労働者自身が希望する場合には、心理相談担当者が産業医の指示のもとにメンタルヘルスケアを行う。 ※メンタルヘルスについては、当連載の第6回目において予防等を中心に再度触れる予定である。 ④ 栄養指導 健康測定の結果、食生活上問題が認められた労働者に対して、産業栄養指導担当者が、健康測定の結果及び産業医の指導票に基づいて、栄養の摂取量にとどまらず、食習慣や食行動の評価とその改善に向けて指導を行う。 ⑤ 保健指導 勤務形態や生活習慣からくる健康上の問題を解決するために、産業保健指導担当者が、健康測定の結果及び産業医の指導票に基づいて、睡眠、喫煙、飲酒、口腔保健等の健康的な生活への指導及び教育を、職場生活を通して行う。 3 安全衛生教育 労働者の健康を維持するには、会社の実施する健康診断や健康保持増進措置だけではなく、労働者自身も正しい知識を持ち、自ら努力しなくてはその効果が期待できない。 そこで、労働者に対する教育を行いながら、疾病の予防や健康保持増進を労使双方の協力により実施していきたい。 安全衛生教育は、年間計画を立て、対象者に応じた具体的な教育内容を定めながら実施していくことが望ましい。 計画の立て方の例は、次のとおりである。 (1) 対象者の選定 まずは、教育の対象者の選定から始める。対象者により教育の内容、教材、講師などを決めていくこととなる。 なお、対象者については「臨時の労働者」を含むか否かに注意を要する。 当連載第2回、第3回で取り上げた「一般健康診断」は、常時使用する労働者が対象とされ、臨時の労働者(1年以上使用されることが見込まれる者を除く)については実施しない場合であっても法令違反とならない点を触れた。 一方「安全衛生教育」は、安全・健康障害の防止のために、臨時の労働者であっても対象者から除かれておらず、雇入れ又は作業内容の変更等を行ったときは教育を実施しなければならない。 (2) 教育内容 労働安全衛生法による安全衛生教育のうち、雇入れ時や作業内容変更時の教育内容を例に掲げると、次の項目が定められている。 ※上記項目のうち、①~④については安全衛生法施行令2条3号に該当する事業場では省略をすることができる。 ※上記項目の全部又は一部に関し十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該事項についての教育を省略することができる。 例えば、長時間の屋外作業による熱中症その他労働者の健康障害を引き起こす可能性がある作業については、上記「⑤ 当該業務に関して発生するおそれのある疾病の原因及び予防」など安全衛生教育が行われていることで重大な事故・健康障害を回避することにつながることもある。 逆に、これらの措置がとられていないために労働者が傷病を患った場合は会社の安全配慮義務違反が問われ、労働安全衛生法の罰則のみならず、被災者又は遺族から損害賠償を請求されるおそれもあるため、おろそかにすることはできない。 なお、安全衛生法に定められた教育以外のものであっても、職場の働き方に応じたものや現に生じている健康障害を回避するため必要なものがあるときは積極的に講じていくことが望ましい。 (3) 教育時間 雇入れ時や作業内容変更時の教育について何時間費やすかは、教育対象者や教育事項に応じ決めていくこととなる(法令の定めなし)。 ※危険有害業務や職長教育については、確保する教育時間の定めがある。 安全衛生教育は所定時間内に行われるのが原則であり、教育時間は労働時間と解され賃金の支払いを要する。また、法定時間外に行われた場合には割増賃金を支払わなければならない。 ※この点も一般健康診断とは扱いの異なる点である(前回述べたように、一般健康診断の時間は賃金の支払いを義務付けられていない)。 (4) 講師・教材の選定 講師の選定は、事業場内に適切な人材がいる場合はその者とし、適任者不在のときや専門的な知識を要する場合は外部講師を招く等の方法がある。 教材については市販の教材の活用をしていくことのほか、各職場独自の危険・健康障害防止のため、職場内の写真やビデオを活用した視覚的な教育を行っていくと、より効果的であろう。 教育したことを業務の中で活かしていくためには、実施後のフォローも重要である。 正しい手順や方法で行われていない場面に遭遇したときは、指摘、是正しながら重大な災害・健康障害に発展することを防いでいきたい。 次回は快適な職場環境作りについて触れていくこととする。 (了)
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誤りやすい[給与計算]事例解説〈第12回〉-賞与計算(3)-【事例③】源泉所得税① ・ 【事例④】源泉所得税②
誤りやすい [給与計算] 事例解説 〈第12回〉 -賞与計算(3)- 税理士・社会保険労務士 安田 大 【事例③】―源泉所得税①― 〔正しい処理〕 〔解 説〕 1 賞与から控除する源泉徴収税額 賞与から控除する源泉徴収税額(所得税額と復興特別所得税額の合計額)については、「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて、次の手順で計算することになっている。この表は、直接源泉徴収税額を求めるための表ではなく、適用する税率を求める表なので注意する必要がある。 2 事例への適用 事例の場合については、12月5日支給の給与を用いて計算することも可能ではあるが、給与の支給日にかかわらず、前月分の給与により算定することが義務付けられているため、12月5日支給の給与ではなく、11月5日支給の給与等の金額から社会保険料等の金額を控除した額を用いて、源泉徴収税率を算定することになる。 【事例④】―源泉所得税②― 〔正しい処理〕 〔解 説〕 1 特別な計算方法 「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」は、年間賞与が給与の5ヶ月分と仮定して、給与の場合と同様に、年末調整により算定される扶養控除等を考慮して作成されている。 賞与に対する源泉徴収税額は、原則として、この「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」を用いて計算することになるが、次のような特別な賞与の場合には、この表を使用しないで毎月の給与計算の際に使用する「源泉徴収税額表(月額表)」を用いて計算することになっている。 2 前月中に普通給与の支払いがない人に支払った賞与 前月中に普通給与の支払いがない人に支払った賞与から控除する源泉徴収税額は、「源泉徴収税額表(月額表)」を用いて、次のとおり計算する。 3 前月中の普通給与の10倍を超える賞与 賞与の額(社会保険料等の金額を控除した額)が、前月中の普通給与の額(社会保険料等の金額を控除した額)の10倍を超える場合の賞与から控除する源泉徴収税額は、「源泉徴収税額表(月額表)」を用いて、次のとおり計算する。 事例の場合については、賞与の額(社会保険料等の金額を控除した額)が500万円であり、前月分の給与の額(社会保険料等の金額を控除した額)の10倍(30万円×10=300万円)を超えているため、上記の方法により源泉徴収税額を計算することになる。 (連載了)
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「石原産業役員責任追及訴訟第一審判決」から読む会社経営者としての責任の分水嶺【1】
「石原産業役員責任追及訴訟 第一審判決」から読む 会社経営者としての責任の分水嶺 【1】 弁護士 中西 和幸 1 はじめに 近年、株主代表訴訟において役員責任が認められる判決が目立つようになってきた。 本判決では、大和銀行判決(7億7,500万ドル(当時のレートで約830億円))や蛇の目ミシン判決(約580億円)に次ぐ約489億円という多額の損害賠償額が取締役に言い渡された。 しかし、その金額もさることながら、監査役が責任追及訴訟を自主的に提起したこと、株主が訴訟参加したこと等の訴訟の構造、責任が認められた取締役と認められなかった取締役の差異等、注目すべき点が複数ある。 2 フェロシルト事件の概要 本件は、会社が各地に販売した土壌埋戻材(商品名:フェロシルト)が環境を汚染する物質であったこと、すなわち実質的には産業廃棄物であったことが問題となり、これを販売・搬出等したことに対する取締役の責任が問題となった事件である。 会社は、主力製品である酸化チタンの生成過程において発生する産業廃棄物である汚泥(アイアンクレー)を有効活用しようと加工し、土壌埋戻材として各地に販売した。 しかし、平成13年8月頃、搬出先の依頼により検査がなされ、フェロシルトから、発ガン性有害物質である六価クロム等有害物質が土壌環境基準値を超えて検出された。そして、会社が自社で保管しているフェロシルトを検査したところ、同様に六価クロムが検出された。それにもかかわらず、担当者が検出結果を隠匿したこともあり、会社は子会社を通じてフェロシルトを顧客に販売・搬出した。 その約3年後、埋設されたフェロシルトが溶け出した赤い液体が河川を汚染するようになるなどのトラブルが発生し、平成17年7月頃、地方公共団体からフェロシルトを撤去するよう要請され、会社は何百億円もの費用をかけてフェロシルトを撤去した。 これらの行為が産業廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反に問われ、会社については罰金5,000万円、管掌取締役Y1について懲役2年の実刑、取締役ではない環境保安部長について懲役1年4月(執行猶予5年)の刑事罰が下された。 3 訴訟の構造 最初は、会社の監査役が、本件の直接の責任者としてフェロシルトを生産していた四日市工場副工場長(平成9年6月27日~平成17年6月29日)である取締役Y1(在任期間は平成9年6月27日から平成11年6月29日及び平成15年6月29日から平成17年6月29日である。平成11年6月29日から平成15年6月29日までは常務執行役員であって取締役ではなかった。)に対して10億円の損害賠償請求(一部請求)をした。 その後、当該訴訟について株主が共同訴訟参加したうえで、取締役Y1に対する請求額を489億円に増額した。さらに、当該株主が、他の取締役18名に対して株主代表訴訟を提起し、489億円の損害賠償を求めた。 以上の3つの請求がなされた案件であり、本判決では、順に甲事件、乙事件、丙事件と呼ばれている。 4 明暗の分かれた損害賠償義務 (1) 判決の概要 本判決では、Y1に対して回収費用相当額として10億円(監査役請求)及び475億8,400万円(共同訴訟参加分)が認められており、Y1は控訴しなかったため、Y1に対する判決は確定している。 一方、株主代表訴訟のうち、取締役Y23の相続人であるY2、Y3、Y4に対して合計約101億8,020万円(ただし、相続については限定承認をしている)、取締役Y5に対して254億5,050万円の損害賠償義務を認め、他の取締役16名については損害賠償義務がないものと認定した。 (2) Y1について Y1については、損害の全額について損害賠償義務が認められている。 この点、Y1は、フェロシルトが実質的には産業廃棄物であり有害物質が含まれ溶出することを知りながら顧客に販売したことの責任者であったことから、取締役として搬出中止をするべきであったこと、フェロシルトの回収をすべきであったこと、また、刑事事件が先行して実刑判決が言い渡され、証拠関係もそろっていることから、合理的な結論と評価することができる。 (3) Y1以外の取締役 そして、その他の取締役としては、他の取締役又は従業員に対する監視・監督等の義務違反が認められるか否かが争点となったのであるが、ここで明暗が分かれたのである。 例えば、取締役四日市工場長としての地位、すなわち、副工場長であったY1の上司であったことについて見てみると、平成11年6月から平成15年4月までY1の上司として取締役四日市工場長の地位にあったY5については、当該期間中Y1は常務執行役員であり取締役ではなかったことから、フェロシルトの開発、生産、管理、搬出を担当する唯一の担当取締役であったところ、責任が認められている。 また、Y23については、平成9年6月から平成11年6月の間、取締役四日市工場長としてY1の上司であったが、その在任期間中にはフェロシルトが販売されていないこと等を理由として、四日市工場長としての責任は認められていない(もっとも、他の理由に基づき責任が認められている)。 そして、Y6については、取締役四日市工場長であっても、平成15年4月1日から平成19年6月28日までの在任期間中であったが、責任が認められていない。 このように、Y1の上司として取締役四日市工場長の地位にあったY5、Y6、Y23では明暗が分かれている。 この他に、本判決では、 等に分類して検討し、Y5及びY23について責任を認める一方、その他の取締役については、いずれも責任を認めていない。 本判決では、このように、事実関係の整理のために役職や合議体を用いてはいるが、取締役が特定の役職に就いていたり特定の合議体の構成員であったとしても、それが故に責任を認定しているのではなく、責任の有無を取締役ごとに個別に認定している。 5 善管注意義務違反の根拠 本判決においては、Y1以外の取締役について、善管注意義務違反の根拠を、 に求め、その役職と属性及びフェロシルトに関する認識及び産業廃棄物であることの認識等に基づき、Y5及びY23はこれに違反したとして責任を認めているが、その他の取締役については、責任を認めていない。 抽象的には、この点について責任の有無について明暗を分けた差異が存在することがわかる。 6 損害賠償額 (1) Y1について 本件の実行者であるY1については、回収費用全額485億8,400万円(甲事件につき10億円、乙事件につき残り475億8,400万円)の全額を賠償すべき損害として認定している。 (2) Y5及びY23について ア QMS違反について Y5及びY23については、まず、QMS違反に関する調査・確認義務を怠ったとして責任が認められているが、本件の根本的な原因が、Y1の隠匿、品質保証体制が機能しない状態となっていたこと等を認定した上で、Y5については、485億8,400万円のうち50%を損害賠償額として認定し、Y23については同額のうち20%を損害賠償額として認定している。 イ 産業廃棄物の不法投棄に関する監視義務違反 Y5及びY23については、産業廃棄物の不法投棄に関する監視義務違反も認められ、その損害額が、運搬費等23億2,600万円及び産業廃棄物処理法違反の罰金5,000万円を損害として認定し、Y5については、合計23億7,600万円のうち50%を、Y23については同額のうち20%を、それぞれ損害賠償額として認定している。 7 小括 以上が、石原産業フェロシルト事件の損害賠償請求事件第一審判決の概要である。 本判決は、合計19名の取締役を被告としていること、責任の根拠となる事実関係が多数主張されていることなどから、長い判決文となっている。 実務的に注目したい点は、損害額よりも、むしろ取締役Y5及びY23に責任が認められ、その他の取締役には責任が認められなかった点である。 次回は、その分水嶺について詳しく説明したい。 本解説記事は、裁判所が公表した判決文 http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20121119105409.pdf の記号を使用しています。 参考文献 資料版商事法務342号131頁以下(但し、上記判決文と記号が一部異なる) (了)
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鵜野和夫 平成25年度税制改正を読む② 「住宅購入をめぐる悩みは多い」
鵜野和夫 平成25年度税制改正を読む② 「住宅購入をめぐる悩みは多い」 ~消費税率引上げと住宅ローン控除の拡大~ 税理士・不動産鑑定士 鵜野 和夫 (一) (二) (三) (四) (五) (了)
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女性会計士の奮闘記 【第3話】「会社の将来を見よう」
女性会計士の奮闘記 【第3話】 「会社の将来を見よう」 公認会計士・税理士 小長谷 敦子 〈ワンポントアドバイス〉 お客様は、常に明日のことを気にしておられます。 そのため、将来のことをお客様と一緒になって考える経営計画表のようなツールを用意しましょう。 (了)
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《速報解説》 産業経理協会 退職給付に関するアンケート調査研究を公表~未認識債務の現状が明らかに!
《速報解説》 産業経理協会 「退職給付に関するアンケート調査研究」を公表 ~未認識債務の現状が明らかに! Profession Journal編集部 3月22日、財団法人産業経理協会は、2012年12月に実施した「2012年退職給付に関するアンケート調査研究」の結果・分析を公表した。アンケート対象会社は469社、回答会社は143社(回答率30.5%)。有効回答会社140社(上場112社、非上場28社)、無回答会社2社であった。報告は、東京理科大学・吉岡正道教授、福井県立大学・徳前元信教授、創価女子短期大学・大野智弘教授、東京理科大学・野口教子講師が行った。 「退職給付に関する会計基準」及び「退職給付に関する会計基準の適用指針」が2012年5月に改正され、これまでオフバランスとされていた未認識数理計算上の差異や未認識過去勤務費用の未認識債務について、連結貸借対照表上、発生時にオンバランスされることになった。これにより退職給付債務から年金資産を控除した積立不足額が即時に認識されることになり、いわゆる「隠れ債務」が膨らみ、純資産が急減する企業が出てくる恐れがある。改正退職給付会計基準は、本年(2013年)4月1日以降に適用される。 今回の調査研究は上記の論点を前提に、退職給付制度の現状と改正会計基準に対する準備状況を把握することを目的に、下記の2仮説の検証を行うためのアンケート調査を行った。 アンケートの分析の結果(こちらを参照)、仮説1については、退職給付債務と数理債務の差は、将来的には収斂されるので合理性があるという企業が、有効回答132社の内80社(60.6%)で支持されたが、仮説2は、支持されなかった。また、その他の包括利益の開示の重要性は低く、退職給付債務はバーチャルの数値であるとともに、リスクの塊であるが、その一方で、未認識債務の組替調整によって当期の費用として計上することは容認するという、企業の現状認識が明らかになった。 アンケートの集計で特に注目されるのは、退職給付債務に対する未認識債務の割合(平均)が16.3%で低い数値にとどまっていること、年金の期待運用収益率(平均)が2.43%に対して、実際の運用成果率(平均)が0.86%と非常に低い実績であることが挙げられる。 (アンケートの詳細資料は(一般財団法人)産業経理協会発行『産業経理』第73巻第1号に掲載予定) (了)
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《速報解説》 「消費税法施行令の一部を改正する政令」(3/13公布)のうち経過措置に係る事項について
《速報解説》 「消費税法施行令の一部を改正する政令」 (3/13公布)のうち 経過措置に係る事項について 公認会計士・税理士 新名 貴則 平成24年8月10日に可決・成立した「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法の一部を改正する等の法律」(以下「改正消費税法」)の施行に伴い、平成25年3月13日付で「消費税法施行令の一部を改正する政令(政令第56号)」(以下「政令」)が公布された。 本誌の創刊準備1号(2012年10月9日公開)に寄稿した拙稿「改正消費税法 経過措置を検証する」において、経過措置の中でも特に影響が大きそうなものについて解説したが、本稿ではその内容の再確認と、今回の政令で明確になった事項を併せて解説する。上記拙稿と共にご覧いただきたい。 1 「工事の請負契約」に関する経過措置 工事の請負契約(これに類する政令で定める契約を含む)について、その譲渡等が行われる時期が改正法の施行日以後であれば、本来であれば改正後の税率を適用することになる。 しかし、金額的影響が大きいなどの理由から、経過措置が設けられている。 具体的には、平成25年10月1日【指定日①】より前に締結された契約については、平成26年4月1日以後の譲渡等であっても旧税率(5%)が適用される(改正消費税法附則5条3項)。 また、平成25年10月1日以後で平成27年4月1日【指定日②】より前に締結された契約については、平成27年10月1日以後の譲渡等であっても、旧税率(8%)が適用される(改正消費税法附則16条1項)。 今回の政令において、この経過措置の対象となる工事の請負契約に類する契約について、以下のとおり明記された(政令附則4条5項)。 2 資産の貸付契約に関する経過措置 資産の貸付契約についても、経過措置が定められている。 具体的には、平成25年10月1日【指定日①】より前に締結された契約に基づいて、平成26年4月1日【施行日①】より前から同日以後にかけて、引き続き資産の貸付けを行っている場合、平成26年4月1日以後も旧税率(5%)が適用される(改正消費税法附則5条4項)。 また、平成25年10月1日以後で平成27年4月1日【指定日②】より前に締結された契約に基づいて、平成27年10月1日【施行日②】より前から同日以後にかけて、引き続き資産の貸付けを行っている場合、平成27年10月1日以後も旧税率(8%)が適用される。 ただし、契約の内容が以下の要件を満たしている必要がある(改正消費税法附則16条1項)。 今回の政令において、この経過措置の対象となる対価に関する契約内容について、以下のとおり明記された(政令附則4条6項)。 3 旅客運賃等に関する経過措置 旅客運賃や映画等の入場料など、不特定多数の者に対する課税資産の譲渡等の対価で政令で定めるものを平成26年4月1日【施行日①】より前に領収しており、同日以後に譲渡等が行われる場合には、旧税率(5%)が適用される(改正消費税法附則5条1項)。 また、平成26年4月1日以後で平成27年10月1日【施行日②】より前に領収しており、平成27年10月1日以後に譲渡が行われる場合にも、旧税率(8%)が適用される(改正消費税法附則16条1項)。 今回の政令において、この経過措置の対象となる課税資産の譲渡等の対価について、以下のとおり明記された(政令附則4条1項)。 (了) 最新の連載記事はこちら↓↓
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資本関係が生ずる前の欠損金額の外国子会社合算税制における取扱い
資本関係が生ずる前の欠損金額の 外国子会社合算税制における取扱い 税理士 郭 曙光 【問】 当社(3月決算)は、平成24年5月に、他の内国法人A社から外国法人S社の持分(100%)を取得しました。 外国法人S社(12月決算)は、外国子会社合算税制における特定外国子会社等に該当し、当社の平成25年3月期において、合算課税がされる見込みです。 S社には、当社との資本関係が生ずる前の事業年度に生じた欠損金額(下図①・②)があります。 外国子会社合算税制において、この資本関係が生ずる前の欠損金額は、当社の平成25年3月期に合算課税されるべき金額の計算において、控除されることになるのか否か、ご教示下さい。 【回答(要旨)】 外国子会社合算税制によって合算課税されるべき金額の計算においては、特定外国子会社等の「過去7年間の欠損金額」は、繰越控除されることとなっている。 しかし、本件のように、内国法人との資本関係が生ずる前の事業年度に生じた欠損金額がある場合には、この金額を合算課税されるべき金額の計算上、控除するのか否かという疑問が生ずることとなる。 先に結論を要約して述べると、たとえ過去7年間において自己と資本関係がなかったとしても、特定外国子会社等に該当した事業年度において生じた欠損金額であれば、合算課税されるべき金額の計算から控除されることになる、と考える。 1 合算課税されるべき金額 外国子会社合算税制において合算課税すべき金額は、「課税対象金額」と呼ばれ、「適用対象金額」に請求権勘案保有株式等の割合を乗じて計算することとされている。 その計算基礎となる「適用対象金額」は、特定外国子会社等のその事業年度の「基準所得金額」から、「過去7年間の欠損金額」と「その事業年度において納付をすることとなる法人所得税の額」とを控除した残額とされている(措令39の15⑤)。 本件における欠損金額は、適用対象金額の計算上控除される「過去7年間の欠損金額」に該当するのか否かがポイントとなる。 2 合算課税されるべき金額から控除される欠損金額 適用対象金額の計算上控除される「過去7年間の欠損金額」については、租税特別措置法施行令39条の15第5項1号において次のように定められている。 上記の規定の「事業年度」の括弧書き中においては、「特定外国子会社等に該当しなかった事業年度」において生じた欠損金額は、この「過去7年間の欠損金額」から除かれている。 これは、特定外国子会社等に該当しない事業年度に所得があっても合算課税されないため、欠損金額があっても控除させないこととしているものと考えられるが、例えば、下図では、特定外国子会社等に該当する事業年度において生じた欠損金額AとBは、適用対象金額の計算において控除されるが、特定外国子会社等に該当しなかった事業年度に生じた欠損金額Cは、「過去7年間の欠損金額」から除かれ、適用対象金額の計算において控除できないこととなるわけである。 3 「特定外国子会社等」に該当する事業年度に生じた欠損金額 上記2で述べたとおり、適用対象金額の計算から控除できる「過去7年間の欠損金額」であるのか否かは、その欠損金額が特定外国子会社等に該当する事業年度において生じたものであるか否かによって判定することとなる。 「特定外国子会社等」については、租税特別措置法66条の6第1項では、次のとおりに定義されている。 この規定のとおり、「特定外国子会社等」は、外国子会社合算税制の納税義務者となる内国法人に係る外国関係会社とされているため、内国法人との資本関係が要求されている。 ところで、上記2の租税特別措置法施行令39条の15第5項1号の括弧書き中の「特定外国子会社等」に関しては、当該内国法人の特定外国子会社等でなければならないのか否か、という疑問が生ずることとなる。 改めて租税特別措置法施行令39条の15第5項1号の規定を見ると、その括弧書き中の「特定外国子会社等」に関しては、その括弧書きの前の「当該特定外国子会社等」を指す場合に用いられる「当該」又は「その」という文言が用いられていない。 このため、法令の規定の正しい解釈という観点からすると、この括弧書き中の「特定外国子会社等」は、括弧書きの前の「当該特定外国子会社等」に限定されない、ということになる。 括弧書きの前の「当該特定外国子会社等」は、租税特別措置法66条の6第1項により納税義務者となる内国法人に係る特定外国子会社等を指すこととなるが、括弧書き中の「特定外国子会社等」は、必ずしも特定の内国法人に係る特定外国子会社等に限定されているわけではない。 このため、租税特別措置法施行令39条の15第5項1号の「欠損金額」は、特定外国子会社等が当該内国法人に係る特定外国子会社等であったときに生じた欠損金額でなければならないということにはならない。 ところで、本制度における欠損金の取扱いに関しては、「軽課税国に所在する外国関係会社であったとしても、その外国関係会社に係る納税義務者(原則として10%以上保有する居住者又は内国法人)が存在しなかった事業年度の欠損金が控除されない」※という指摘がなされることがあるが、これに関しても、欠損金が生じた過去の事業年度においてその外国関係会社がいずれかの内国法人に係る外国関係会社となっていなければならないということを言うものであり、当該内国法人に係る外国関係会社でなければならないということではない、ということを確認しておくこととする。 ※大蔵省主税局長 高橋元監修『タックス・ヘイブン対策税制の解説』117頁(清文社)昭和54年1月10日 4 結論 本制度において、適用対象金額の計算から控除する「過去7年間の欠損金額」は、いずれかの内国法人に係る特定外国子会社等に該当した事業年度において生じた欠損金額であることが必要となる。 そして、その「過去7年間の欠損金額」は、その外国法人が当該内国法人に係る特定外国子会社等であった事業年度において生じた欠損金額に限られるわけではなく、他の内国法人に係る特定外国子会社等であった事業年度において生じた欠損金額も含まれることとなる。 このため、本件のように、事業年度の中途において特定外国子会社等を買収した場合におけるその特定外国子会社等S社の過去7年間の欠損金額については、その特定外国子会社等S社がたとえその過去7年間において貴社と資本関係がなく貴社に係る特定外国子会社等ではなかったとしても、いずれかの内国法人に係る特定外国子会社等に該当した事業年度において生じたものであれば、適用対象金額の計算から控除することとなる、と考えられる。 ご質問の図においては、例えば、外国法人S社は、欠損金額①が生じた事業年度においては「特定外国子会社等」に該当しないが、欠損金額②が生じた事業年度において他の内国法人A社に係る特定外国子会社等に該当する、という場合には、貴社の平成25年3月期における適用対象金額の計算上、欠損金額①は控除できないが、欠損金額②は控除できる、ということとなる。 (了)