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〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例80】日本証券金融株式会社「臨時株主総会の開催日時、場所および付議議案ならびに株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」 (2023.1.10)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例80】 日本証券金融株式会社 「臨時株主総会の開催日時、場所および付議議案ならびに 株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」 (2023.1.10) 公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、日本証券金融株式会社(以下「日本証券金融」という)が2023年1月10日に開示した「臨時株主総会の開催日時、場所および付議議案ならびに株主提案に対する当社取締役会の意見に関するお知らせ」である。 同社株主の株式会社ストラテジックキャピタル(以下「ストラテジックキャピタル」という)から臨時株主総会の招集請求があり(2022年11月22日開示「株主による臨時株主総会招集請求に関するお知らせ」、2022年12月6日開示「臨時株主総会招集のための基準日設定に関するお知らせ」)、今回の開示には、その臨時株主総会の日時、場所、付議議案のほか、付議議案に対する日本証券金融取締役会の意見が記載されている。 2 天下り? 臨時株主総会の付議議案は、会社法第316条第2項に定める株式会社の業務及び財産の状況を調査する者として3名の弁護士を選任するというものなのだが、彼らの調査対象は、以下の日本証券金融役員の就任経緯である(同社は指名委員会等設置会社)。 このように、ストラテジックキャピタルは、彼らの役員就任がいわゆる天下りで、適切な評価を経たものではないと考えているため、彼らの就任経緯の調査を求めたのである。 3 外部から多様な人材を この議案に対して、日本証券金融の取締役会は反対している。今回の開示の中の「当社の経営陣の選任についての取組み」において、「経営陣の選任についても、指名委員会を中心に次のとおり実効性の向上に取り組んで」いるとしたうえで(前述のとおり同社は指名委員会等設置会社)、取締役の選任については、「取締役会の構成等に関する考え方および候補者選任のプロセス」に次のように記載している(下線は筆者による)。 外部から多様な人材を受け入れるという方針のようだが、それは執行役の人選においても同様のようである。「執行役の選任に関する考え方および選任プロセス」は次のように記載されている(下線は筆者による)。 4 執行役の構成 取締役に外部から多様な人材を受け入れることは理解できる。コーポレートガバナンス・コードも、「基本原則4」において、取締役会の役割・責務として、「独立した客観的な立場から、経営陣(執行役及びいわゆる執行役員を含む)・取締役に対する実効性の高い監督を行うこと」をあげている。そのため、独立社外取締役の存在が重要になるのである(「原則4-7.独立社外取締役の役割・責務」「原則4-8.独立社外取締役の有効な活用」)。 しかし、執行役にも外部から多様な人材を受け入れることは、果たして適切なのだろうか。指名委員会等設置会社においては、取締役には社外出身者を入れるものの(そもそも取締役会の中に置く指名・監査・報酬の3つの委員会の過半数は社外取締役である必要)、通常、執行役は内部出身者で固める。会社の事業を熟知した内部出身者が経営を行い、外部出身者を入れた取締役会がそれを「独立した客観的な立場から」監督するのである。 いくつか他の指名委員会等設置会社の例をあげると、野村ホールディングス株式会社の場合、12名の取締役のうち社外出身者が8名であるのに対して、7名の執行役のうち社外出身者は0名(同社第118期有価証券報告書)、株式会社三越伊勢丹ホールディングスの場合も、10名の取締役のうち社外出身者が6名であるのに対して、4名の執行役のうち社外出身者は0名(同社第14期有価証券報告書)、本田技研工業株式会社の場合も、11名の取締役のうち社外出身者が5名であるのに対して、5名の執行役のうち社外出身者は0名(同社第98期有価証券報告書)といった感じである。 5 日本証券金融の場合 それに対して、日本証券金融の場合、7名の取締役のうち社外出身者が6名、7名の執行役のうち社外出身者が5名(同社第112期有価証券報告書)と、取締役だけでなく執行役も外部出身者ばかりである。なお、上掲の「取締役会の構成等に関する考え方および候補者選任のプロセス」には「社内2名」と記載されているが、これは、初め監査役に就任していた飯村修也氏を社内出身者としているようである。 執行役にも外部から多様な人材を受け入れるとしているのは、同社が日銀等の植民地と化していて、外部から人材を受け入れなければならないため、それを正当化するためだろうか。そうだとしたら、早急にその実態を明らかにして、同社の独立を果たすべきだろう。 あるいは、本当に内部人材が育っていないのだろうか。そのため、外部から人材を受け入れざるを得ないのだろうか。同社112期有価証券報告書によると、従業員の平均勤続年数は20.93年で、定着率は良いようである。それで人材が育っていないのだとしたら、従業員を飼い殺しにしているブラック企業ということになるだろう。 しかし、2023年2月7日に開催された臨時株主総会において、付議議案は否決された(2023年2月7日開示「臨時株主総会の決議結果に関するお知らせ」)。残念ながら、実態は明らかにされないままである。 (了)
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プラス思考の経済効果 【第12回】「バレンタインデーチョコの経済効果」
プラス思考の経済効果 【第12回】 「バレンタインデーチョコの経済効果」 関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩 1 はじめに 今年のバレンタインデーは2月14日(火)です。日本において、バレンタインデーの日に女性がチョコレート(以下チョコ)をプレゼントする風習はいつごろから始まったのでしょうか。 正確にはわかりませんが、1958(昭和33)年当時、あるチョコレート会社が「バレンタインセール」の広告を出したところ、ほとんど反響はありませんでした。しかし1960年代に入って、いくつかのチョコレート会社がバレンタインチョコの販売企画を開始し、各社がハート型のチョコの販売を始めています。そして、1970年代になりバレンタインチョコをプレゼントする風習が若い人々の間に定着し、大きなビジネスとして盛り上がるようになってきました。 それでは今年のバレンタインチョコの経済効果を推計してみましょう。 2 バレンタインチョコの売上の推移 下表には2017年からのバレンタインチョコの売上の推移が示されています。 〈バレンタインチョコの売上の推移(2023年は推計値)〉 (※) 上表の出所は、調査会社vizualizing.infoによる「バレンタインチョコ市場規模推計(2021年4月10日公表)」です。なお、2人以上の世帯の金額は、総務省「家計調査」におけるチョコレートへの支出データをもとに推計されています。また、単身世帯については、調査会社vizualizing.infoが「チョコレート」への1世帯当たり四半期別支出額をもとにして売上高を推計しています。ただ、同資料に記載のなかった2021年の単身世帯の売上高については、2人以上の世帯の増加率-3%を適用しました。また2022年の2人以上の世帯、単身世帯の売上高については、記念日文化研究所が2022年1月25日に公表した「バレンタインデーの推定市場規模」の「2022年のバレンタインチョコの売上が対前年比約12%増加」の数値を適用しました。そして、2023年の金額は2017年から2022年の6年間の金額の平均値を採用しました。したがって、2021年の単身世帯の金額と2022年、2023年の数値は筆者の推定数値です。バレンタインチョコの売上、市場規模についてはいくつかの調査機関がそれぞれの金額を推計していますが、それらの金額にはかなりの相違が見られます。そこで、本論では信頼のできる総務省統計局のデータに基づいて金額を公表している調査会社vizualizing.infoの数値を参考にしました。 上表よりコロナ禍以前の2018年が売上高最高の年で、最近ではコロナ禍の2021年が最も低調な年でした。これには新型コロナの影響と、バレンタインチョコに対する風習が3でみられるように変化してきたことが原因だと考えられます。ただ、コロナ禍以前でもバレンタインチョコの売上高はかなりの幅で変動しています。つまりバレンタインチョコの売上には波があるのです。コロナ禍の2020年、2021年には売上はかなり落ち込みましたが、2022年にはその反動で売上は急増しました。 そして、今年2023年は行動規制の撤廃で需要が増加すると予想する関係者もいますが、依然として新型コロナが猛威をふるっていることや、インフレによる可処分所得の減少、さらにバレンタインチョコに対する風習の変化などで需要が停滞、減少すると予想する関係者もいます。そこで、本記事では過去6年間の平均値を2023年の予想値と仮定しました。 以上の計算から、2023年の2人以上の世帯による売上高は約355億6,100万円、単身世帯による売上高は約146億1,000万円、合計約501億7,100万円となりました。 この2023年のバレンタインチョコの売上は、全日本菓子協会が2022年3月31日に発表した「令和3年 菓子の生産数量・生産金額等(推定)に係るコメント」を参考にすると、「せんべい」の年間売上約522億円に匹敵するものです。バレンタインチョコの売上は、たった2月の1ヶ月間(実質は2月の初めから2週間程度)でせんべい1年間の売上とほぼ同額であり、ガムの年間売上約755億円の66%にあたります。いかにバレンタインチョコが短期間で大きな売上を記録するお菓子であるかがわかります。 3 バレンタインチョコのプレゼントの相手 一昔前、バレンタインチョコは、自分が好意を持っている異性や同性の友人、そして勤務先や学校の友人仲間(いわゆる義理チョコも含めて)にプレゼントする傾向がありましたが、最近は下記データに見られるように、義理チョコや本命チョコが減少して、身近な人や自分に対してプレゼントする人たちが増えてきています。 下記データは、株式会社インテージが2022年2月4日に公表したアンケート「変化するバレンタイン」(サンプルは女性1,059人)で、バレンタインチョコを贈る相手についてのものです。 〈バレンタインチョコのプレゼントの相手〉 バレンタインチョコを贈る相手は家族や自分、友人が中心で、恋人や好意を持つ異性などへのプレゼントの比率はかなり低くなってきています。また、このアンケートによると、購入予算金額は本命チョコが平均で1,659円、自分チョコは1,584円、家族チョコは1,280円、世話チョコは1,239円、義理チョコは863円、友人チョコは819円でした。 4 経済効果 次に、バレンタインチョコの経済効果を推計します。 (1) 2018年の経済効果 2018年の経済効果は2の表の569億3,400万円を直接効果として、総務省内閣府が作成した最新の「全国産業連関表」(2019年に発表した2015年版の「産業連関表」の修正版)を用いて計算すると、下記のように約1,229億7,744万円となります。 〈2018年の経済効果〉 (2) 2021年の経済効果 2021年の経済効果は2の表の450億600万円を直接効果として、前述の総務省内閣府の「全国産業連関表」を用いて計算すると、下記のように約972億1,296万円となります。 〈2021年の経済効果〉 (3) 2023年の経済効果 2023年の経済効果は2の表の501億7,100万円を直接効果として、前述の総務省内閣府の「全国産業連関表」を用いて計算すると、下記のように約1,083億6,936万円となります。 〈2023年の経済効果〉 5 まとめ 今回は過去6年間のバレンタインチョコの売上の推移と経済効果及び2023年の動向を分析してきました。結果は以下のとおりです。 来年は新型コロナが落ち着き、日本経済も回復基調となって、バレンタインチョコの売上と経済効果が史上最高になることを願っています。 (了)
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《速報解説》 「監査事務所における品質管理」などに従った監査業務実施の際に理解が必要となる事項をまとめたQ&AがJICPAから公表される
《速報解説》 「監査事務所における品質管理」などに従った監査業務実施の際に 理解が必要となる事項をまとめたQ&AがJICPAから公表される 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年2月16日(ホームページ掲載日は2023年2月20日)、日本公認会計士協会は、「品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第3号「監査事務所及び監査業務における品質管理並びに監査業務に係る審査に関するQ&A(実務ガイダンス)」」を公表した。 これにより、2022年10月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対しては特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、「監査事務所における品質管理」(品質管理基準報告書第1号)などに従って監査業務を実施するに際に、理解が必要と思われる事項について解説するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 品質管理基準報告書第1号のQ&A 1 品質管理システムの整備の期限と初回の評価基準日 公開草案から変更されており、次のように記載されている。 2023年7月1日(公認会計士法上の大規模監査法人以外の場合には2024年7月1日)以後最初に開始する被監査会社等の事業年度又は会計期間の開始の日(適用開始日)の前日までに品質管理システムをデザインし適用することとなる。 品質管理システムの評価は、特定の基準日において、少なくとも年に一度実施しなければならない(第53項参照)が、初回の評価に関しては本報告書の適用開始日以後に開始する監査事務所の会計年度の末日までのいずれかの日を評価基準日とすることができる。 2 「最高責任」と「最終的な責任」の相違 「品質管理システムに関する説明責任を含む最終的な責任」は、監査事務所の最高責任者に限定された責任である。 これに対し、「品質管理システムに関する最高責任」は、監査事務所の最高責任者以外の者への割当てが可能であるという点において違いがある。 3 監査業務の検証において他の監査事務所を利用する場合の独立性の確認 監査業務の検証において他の監査事務所を利用する場合には、倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」400-3-1において、当該検証の実施者の独立性の保持について確認することが考えられ、当該検証において他の監査事務所を利用する場合には、当該監査事務所と検証の実施者の双方の独立性の保持について確認することが考えられるとされている。 Ⅲ 品質管理基準報告書第2号のQ&A 1 審査担当者の選任に関する責任者自身が審査担当者となること 審査担当者の選任に関する責任者自身が監査業務の審査担当者となることは禁止されていない。 ただし、審査担当者の選任に当たって、選任される者の適性及び能力を客観的に評価する必要があることに留意する。 2 審査担当者の適格性における適切な権限の留意点 監査責任者が上司で審査担当者が部下という関係がある場合においても、そのことだけで審査担当者としての適切な権限の要件を満たさないということにはならない。 ただし、このような関係がある場合には審査担当者としての権限が弱まることがあり得るため、審査担当者の権限に影響を与える他の事項を考慮の上、審査担当者の権限の適切性について十分な検討を行う必要がある。 Ⅳ 監査基準報告書220のQ&A サービス・プロバイダーは、「監査事務所における品質管理」(品質管理基準報告書第1号)16項(22)において、品質管理システム又は監査業務の実施において利用される資源を提供する監査事務所の外部の個人又は組織をいうと定義されている。 つまり、①品質管理システム又は監査業務の実施において利用される資源を提供する者であって、かつ、②監査事務所の外部の個人又は組織であるという2つの要件を満たす場合に、当該者は品質管理基準報告書におけるサービス・プロバイダーに該当することとなる。 (了)
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《速報解説》 会計士協会が「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」を公表~大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定~
《速報解説》 会計士協会が「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」を公表 ~大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年2月16日付けで(ホームページ掲載日は2023年2月20日)、日本公認会計士協会は、「品質管理基準報告書第1号実務ガイダンス第4号「監査事務所における品質管理に関するツール(実務ガイダンス)」」を公表した。 これにより、2022年10月17日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。なお、公開草案に対しては特段の意見は寄せられなかったとのことである。 これは、2021年11月16日に改訂された「監査に関する品質管理基準」において求められている品質管理システムの構築に当たっての具体的な手順や文書等に関する実務ガイダンスである。様式例も示されている。 公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所の利用を想定して作成されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主要な概念 1 対象範囲 実務ガイダンスは、1つの例示にすぎず、次の事項に注意が必要である。 2 リスク・アプローチ 監査事務所自らが、品質管理システムの項目ごとに達成すべき品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうるリスクを識別して評価を行い、評価したリスクに対処するための方針又は手続を定め、これを実施するという、リスク・アプローチに基づく品質管理システムが導入されている。 3 品質管理システム 品質管理システムとは、以下の合理的な保証を提供するために監査事務所が整備及び運用するシステムである 4 品質管理システムの構成要素 品質管理システムは、以下の9項目の構成要素を対象としている。 5 品質目標の設定 品質目標とは、品質管理システムの構成要素について監査事務所が達成すべき成果である。 6 監査事務所のリスク評価プロセス 品質リスクを識別し評価する際、監査事務所は以下を実施しなければならない。 7 対応のデザインと適用 監査事務所は、品質リスクの評価の根拠に基づき、また当該根拠に応じた方法により、品質リスクに対処するための対応をデザインし適用しなければならない。 8 適用の柔軟性 各監査事務所の品質管理システムの設計は、特にその複雑性や組織化の点において多様なものとなる。 Ⅲ 品質管理システムの構築 各監査事務所は、品質管理システムを整備、運用し、その結果を評価するための体制づくり、審査への対応など様々な対応が求められる。 1 基本的計画の決定 品質管理システムに関する最高責任者は、社員会等の決定を踏まえて、品質管理システムを構築するための基本的計画を定める。 2 品質管理システムの整備状況の把握 品質管理システムの基本的計画が決定された後、監査事務所内では、監査事務所の性質及び状況並びに監査事務所が実施する業務の内容及び状況を踏まえて、特定の側面ごとに、品質目標を設定し、その達成を阻害し得るリスク(品質リスク)の識別と評価を行った上で、当該品質リスクに対処するための対応の整備状況を把握し、その結果を記録・保存する。 3 把握された不備への対応及び是正 品質管理システムの整備状況の把握の過程で把握された品質管理システムの不備には適切な対応が図られなければならない。 4 監査事務所を取り巻く内外の環境変化への対応 時間の経過とともに、想定していなかった監査事務所を取り巻く内外の環境変化によって、品質目標の追加、品質リスクや対応の追加又は修正の必要性が生じることがある。 (了)
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《速報解説》 適用2年目に見られた創意工夫と課題をまとめた「KAMの特徴的な事例と記載のポイント2022」が公表される~ボイラープレート化による監査品質の低下にも言及~
《速報解説》 適用2年目に見られた創意工夫と課題をまとめた 「KAMの特徴的な事例と記載のポイント2022」が公表される ~ボイラープレート化による監査品質の低下にも言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年2月17日、金融庁は、「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント2022」を公表した。 これは、2022年3月4日に公表された「監査上の主要な検討事項(KAM)の特徴的な事例と記載のポイント」に続くものであり、KAMの記載に関する適用2年目に見られた創意工夫と課題についてまとめたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 全体で61ページに及ぶものであり、多くの事例が紹介されている。 以下では、主な内容について述べる。 1 KAMの導入効果(企業側の意見) 企業側の意見として次のものがあった。 2 KAMの導入効果(監査人側の意見) 監査人側の意見として、KAMの導入により、KAMとして選定した項目については特にしっかりと監査を行っており、監査品質の向上という意味でも効果を感じているとのことである。 3 KAMの情報価値の向上 勉強会では、例えば、次のような意見があった。 4 KAMのボイラープレート化 勉強会では、例えば、次のような意見があった。 5 傾向分析等 参考として、KAMの利用及び改善に関する実態調査が記載されている。 アナリストに対する「KAMを読んだことがあるかどうか」という質問(103の回答数)について、次の結果となっている。 KAMの文字数・類似度や、個数などの傾向分析が行われている。 例えば、2022年3月期におけるKAMの1社当たりの平均個数(連結)は約1.3個であり、2021年3月期とほぼ同じとのことである。 なお、連結、単体の両方又はどちらかでKAMの記載がない事例が、純粋持株会社以外にも存在するとのことである。 6 特徴的な事例 次のような事例が紹介されている。また、海外の事例も紹介されている。 7 検討が必要と考えられる事例 次のような指摘が記載されている。 前回公表の「検討が必要と考えられる事例」の改善状況についても検討されており、当期においても、KAMの記載内容に改善が見られていないなどの指摘があるものがある。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.507が公開されました!~今週のお薦め記事~
2023年2月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.507を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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日本の企業税制 【第112回】「新たな国際課税制度の創設」
日本の企業税制 【第112回】 「新たな国際課税制度の創設」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 2月3日、「所得税法等の一部を改正する法律案」が第211回国会に提出された。2月9日の衆議院本会議で法案の趣旨説明が行われ、国会審議が開始した。また、「地方税法等の一部を改正する法律案」も2月7日に国会に提出され、2月14日には衆議院本会議で法案の趣旨説明が行われ、国会審議が開始した。 国際課税に関しては、法人税法の「第二編 内国法人の法人税」の中に「第一章 各事業年度の所得に対する法人税」に続く第二章として「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」が設けられることとされている。 これは、OECD/G20の合意を踏まえ、新たな措置(IIR(income inclusion rule):15%に達するまでの軽課税法域・国における所得への課税)を令和6年4月1日以後に開始する会計年度を対象に創設するものであり、新たな制度は3月決算企業であれば令和6年4月1日に開始する会計年度が適用初年度となり、12月決算企業の場合は令和7年1月1日に開始する会計年度が適用初年度となる。なお、その申告及び納付期限は対象会計年度終了の日の翌日から1年3ヶ月(一定の場合は1年6ヶ月)以内とされている。 〇制度の対象 この制度の対象となる「特定多国籍企業グループ等」は基本的には複数の法域・国に子会社等の拠点をおいて事業活動を行う連結グループ全体の売上高(総収入金額)が日本円で約1,000億円(7億5,000万ユーロ相当額)以上の企業グループに属する内国法人(公共法人を除く)である。この売上高の判定にあたっては、直前の4対象会計年度のうち2以上の対象会計年度においてこの金額以上であることが求められている。 〇税額の計算 今回創設される「各対象会計年度の国際最低課税額に対する法人税」は、そのタイトル通り、課税ベースを「国際最低課税額」とする法人税である。 「国際最低課税額」は「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」と「共同支配会社等に係るグループ国際最低課税額」とを合計した金額である。 「構成会社等」には、連結財務諸表で連結される会社等と連結の範囲から除外される一定の会社等が含まれる。また、本体の会社等の所在法域・国以外のところにある恒久的施設等は別個の構成会社等として扱われる。 「共同支配会社等」とは連結財務諸表上は持分法が適用されるが最終親会社が直接又は間接に所有する持分の割合が50%「以上」の会社等である。共同支配会社等については、いったん共同支配会社等自体を最終親会社のように位置付けてその傘下の会社等について、構成会社等に係るグループ国際最低課税額の計算を行い、それを共同支配会社等に直接又は間接に持分を有する本来最終親会社に取り込むこととなる。したがって、計算のプロセスは「構成会社等に係るグループ国際最低課税額」と同様である。 「国際最低課税額」の計算プロセスは、法域・国別のグループ計算を行った上で個社に配分し、さらに最終親会社において合算するという複雑なものとなっている。具体的には、各法域・国ごとの「国別実効税率」が「基準税率」(15%)を下回っている場合に、15%に達するまでの金額を「当期国別国際最低課税額」とし、これをその法域・国に所在する構成会社等の「個別計算所得金額」の合計額に対する個々の構成会社等の「個別計算所得金額」の割合で按分して構成会社等それぞれの「会社等別国際最低課税額」を計算し、その金額のうち最終親会社の持分割合等による「帰属割合」に応じた金額を合計したものが、課税ベースである「国際最低課税額」となる。 「国別実効税率」は、「国別グループ純所得」に対する「国別調整後対象租税額」の割合で計算される。この計算式の分母・分子とも、同一法域・国に所在する構成会社等の計数の合計額である。分母となる「国別グループ純所得」は、同じ所在地国に所在する各構成会社等の会計上の純損益から一定の受取配当等や国際海運所得等を除外した額(「個別計算所得金額」「個別計算損失金額」)の合計額であり、分子となる「国別調整後対象租税額」は、同じ所在地国に所在する各構成会社等の当期純損益金額に係る対象租税の額及び税効果会計の適用により計上される対象租税の調整額(「調整後対象租税額」)の合計額である。 「当期国別国際最低課税額」は、単に、「国別実効税率」と「基準税率(15%)」との差分を国別グループ純所得に乗じて計算すればいいというわけではない。国別グループ純所得からいわゆる実質ベースの所得除外額を控除した上で、税率の差分を乗じることがポイントである。いわゆる実質ベースの所得除外額は、給与その他の一定の費用の5%相当金額と有形固定資産その他の一定の資産の5%相当金額の合計額である。費用や資産の金額に乗じる割合については導入から10年かけて徐々に減らして最終的に令和15年度に5%となるものである(当初は、費用については9.8%、資産については7.8%)。 このようなプロセスを経て計算された課税ベースに対して1,000分の907の税率で法人税が課税され、法人税額(「特定基準法人税額」という)に対して907分の93の税率で地方法人税が課税される。地方自治体との応益関係がないことから法人住民税・法人事業税の課税は行われない。 〇税効果会計への影響 今回創設されるIIRは、あくまでも法人税・地方法人税であることから、今回の大綱に基づきIIRの創設を含む令和5年度税制改正に係る法案が3月末までに成立すれば、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期決算を含む)において、IIRの適用を前提とした税効果会計の適用を行う必要がある可能性がある。 企業会計基準適用指針第28号「税効果会計に係る会計基準の適用指針」第44項の定めによれば、「繰延税金資産及び繰延税金負債の額は、決算日において国会で成立している税法・・・に規定されている方法に基づき第8項に定める将来の会計期間における減額税金又は増額税金の見積額を計算する。なお、決算日において国会で成立している税法とは、決算日以前に成立した税法を改正するための法律を反映した後の税法をいう。」とされているからである。 しかし、本年3月期における対応については実務上困難であるとの意見が聞かれている。この点、わが国のみならず国際的にも同様であり、IASBにおいては、本年1月9日に、IAS第12号を修正して、IIRの適用から生じる繰延税金を会計処理する要求からの一時的な例外を導入すること、企業が低課税国・法域で営業を行っているか否かの情報開示を行うこと等を内容とするIAS第12号の修正に関する公開草案が公表された(コメント締め切りは3月10日)。IASBは、この修正を本年第2四半期に最終確定することを目指している。 一方、わが国の企業会計基準委員会(ASBJ)も、2月8日、実務対応報告公開草案第64号「グローバル・ミニマム課税に対応する法人税法の改正に係る税効果会計の適用に関する当面の取扱い(案)」を公表した(コメント期間は3月3日まで)。この公開草案は、当面の間、改正法人税法の成立日以後に終了する連結会計年度及び事業年度の決算(四半期(連結)決算を含む)における税効果会計の適用にあたっては、税効果適用指針の定めにかかわらず、グローバル・ミニマム課税制度の影響を反映しないこと、また、企業間の比較可能性等の観点から、原則的な取扱いの適用を認めず、当該特例的な取扱いを一律に適用することを提案している。 (了)
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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第46回】「法人の合併と役員退職給与の勤続年数」
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第46回】 「法人の合併と役員退職給与の勤続年数」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 功績倍率法の再確認 役員退職給与に係る損金算入限度額の計算は、功績倍率法と1年当たり平均額法があることは、本連載でも度々触れている通りである。ここで、その多くは功績倍率法に拠ると思われるため、今回は功績倍率法について改めて確認した上で、功績倍率法を糸口として検討したい。 功績倍率法は、法人税基本通達9-2-27の3(注)で以下のように示されており、これは先般の通達改正にて初めて通達で明記されたものである。 これに対して学説上は、功績倍率法について、同業類似法人を選定した上で、「その功績倍率(退職給与が役員の最終月額報酬に勤続年数を乗じた金額の何倍にあたるかというその倍率)に当該役員の最終月額報酬および勤続年数を乗じて算出する方法であり」、平均功績倍率法(類似法人の功績倍率の平均値を用いる方法)と最高功績倍率法(類似法人の功績倍率の最高値を用いる方法)があると説明されている(※1)。 (※1) 金子宏『租税法 第24版』(弘文堂、2021)410頁。 功績倍率について、実務上は納税者の予測可能性等の観点から、代表取締役であれば功績倍率3倍まで認められるという認識が支配的であり(※2)、翻せば判例や裁決例として存在する事例では、この功績倍率自体について争われたものが多い。 (※2) 詳細は【第12回】参照。 これに対して、勤続年数自体が争点となった事例はあまり存在しない。これは、実務上、法人の履歴事項全部証明書等から容易に役員の勤続年数が把握できるためであると思われる。しかし、今回の【質問】のようにその判断に迷うケースもあると思われるため、筆者が抽出することができた、勤続年数自体が問題となった事例を以下に検討する。 (2) 裁判所が示した勤続年数に係る認識 功績倍率法における勤続年数について、東京地裁平成25年3月22日判決では、功績倍率を「当該退職役員の法人に対する功績や法人の退職給与支払能力など、最終月額報酬及び勤続年数以外の役員退職給与の額に影響を及ぼす一切の事情を総合評価した係数」とし、勤続年数について「施行令70条2号が明文で規定する『当該役員のその内国法人の業務に従事した期間』に相当すること」と示されている(※3)。 (※3) 税務訴訟資料263号順号12178、TAINS:Z263-12178。 これによれば、当該役員の貢献度等は勤続年数に加味するべきではなく、あくまで「法人の業務に従事した期間」をどのように認識すべきかが重要である。その上で、①個人事業から法人成りした場合の個人事業時代の期間、②退職慰労金規程で対象法人の前身の法人の勤続年数の扱いを明記した場合、のそれぞれについて裁判例で示された内容を確認する。 まず①については、個人事業から法人成りした場合において、個人事業時代からの勤続年数が役員退職給与の算定において通算できないことについて、高松地裁平成5年6月29日判決は次の通り判示している(※4)。 (※4) 税務訴訟資料195号709頁、TAINS:Z195-7150。 併せて、通常、役員の個人事業時代の功績は同人の報酬等に反映させるべきである旨も示されている(※5)。 (※5) なお、個人事業時代から使用人であった者が法人成り後に退職した場合において、その退職が設立後相当期間経過後に行われたものであるときは、その支給した退職給与の額を損金の額に算入されるとする通達もある(法基通9-2-39)。当該通達につき、「ここでいう『使用人』には個人事業に係る事業主は含まれ」ず、個人事業主が法人を設立し、その法人から退職した場合には本通達の適用は無い旨が解説されており、①で裁判所が示した通りとなっている。髙橋正朗編著『法人税基本通達逐条解説 十訂版』(税務研究会出版局、2021)926頁。 次に、②については、前身である法人から一切の権利義務を引き継いだ場合の勤続年数につき、役員退職慰労金規程において勤続年数の1/2を役員在任年数に合算する旨の規定がある場合において、東京地裁平成27年2月26日判決では、「原告は、本件有限会社が原告の前身会社であり、原告が本件有限会社・・・の事業を引き継いだことをもって、本件有限会社に対する功績を原告に対する功績と同視しているものと解されるのであり、本件退職慰労金の算定において、原告の本件有限会社における役員勤続年数が考慮されているからといって、本件退職慰労金の一部ないし全部について、労務対価要件が失われるものと解することはできない」等と示し、納税者の主張が認められている(※6)。 (※6) 税務訴訟資料265号順号12613、TAINS:Z265-12613。 この事例は、前身の法人から権利義務の引継ぎがあった場合に、前身の法人の勤続年数を加味することは直ちに否定されるものではないことを示唆したものであるといえる。 (3) 被合併法人における勤続年数の通算の可否 中小企業において合併が行われる場合、そのほとんどが関連グループ内の合併であるため、合併法人と被合併法人の役員が同一であったり、被合併法人の役員が合併を機に合併法人の役員に就任したりというケースが多い。 このような場合において、被合併法人側が役員へ役員退職給与を支給する場合を想定した通達が用意されている(法基通9-2-33及び9-2-34)。 これによれば、上記通達記載の要件を満たす限り、合併を機に被合併法人側で役員退職給与を支給する場合、合理的理由があるとされ、損金算入が可能となる。 しかし、今回の【質問】のように、被合併法人側での対象役員が担っていた業務を引き続き合併法人側の役員として担うこと等に鑑みて、合併時に被合併法人側で役員退職給与を支給しないケースは多いのではないかと推測され、特に合併法人の方が創業歴の短い場合に問題となると思われる。具体的には、将来的には合併法人側で対象役員が退職する際、役員退職給与の適正額の計算において勤続年数が問題となる可能性がある。 この問題に関して、筆者は、ケースバイケースではあるにしろ、勤続年数の通算は認められ得ると考えている。すなわち、上記(2)の①は、個人事業を法人成りした場合において、納税者が実質的経営の一体性や継続性を主張したところ退けられたという事例である。これに対して合併であれば、被合併法人の権利義務の全部が法的根拠を以て合併法人に引き継がれるため(会社法2二十七)、法人成りの事例とは一線を画すこととなるためである。 また、同じく(2)の②の事例にて、退職慰労金規程にて勤続年数の取扱いを定めることで、納税者が、当該役員が現在在籍する法人に対する功績と前身法人への功績とを同視し、それが是認された形となっている。このことから、勤続年数を通算して功績倍率法を用いることにつき、合併承認総会、合併契約書や役員退職慰労金規程等に適正に反映されていれば、税務上の問題は生じない可能性は高いのではないだろうか(※7、8)。 (※7) 別法人の間の勤続年数を通算して役員退職給与を支給することは通常認められないが、合併は実態的に法人格が継続するため、合併承認総会で決議する等の相応の理由があれば差し支えないとする意見として、TKC税務研究所「吸収合併の場合の役員退職給与の支給方法と税務上の取扱いについて」(文献番号43203059、平成31年1月31日収録)がある。 (※8) なお、退職所得控除額の計算の基礎となる勤続年数について示す所得税基本通達30-6は、合併により消滅した法人を含む支払者の下において実際に勤務した期間により計算することが示されている。 (了)
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〔令和5年3月期〕決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】「「交際費等の損金不算入制度の特例の延長」「少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直しと延長」「暗号資産の時価評価」」
〔令和5年3月期〕 決算・申告にあたっての税務上の留意点 【第3回】 (最終回) 「「交際費等の損金不算入制度の特例の延長」 「少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直しと延長」 「暗号資産の時価評価」」 公認会計士・税理士 新名 貴則 令和4年度税制改正における改正事項を中心として、令和5年3月期の決算・申告においては、いくつか留意すべき点がある。本連載では、その中でも主なものを解説する。 【第2回】は、「オープンイノベーション促進税制の拡充と延長」、「大企業に対する租税特別措置の適用除外の見直し」、「みなし配当の額の計算方法等の見直し」及び「寄附金の損金不算入制度の見直し」について解説した。 最終回となる【第3回】は「交際費等の損金不算入制度の特例の延長」、「少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直しと延長」及び「暗号資産の時価評価」について解説する。 1 交際費等の損金不算入制度の特例の延長 令和4年3月31日までに開始する事業年度までの、税務上の交際費等の課税関係は次表の通りである。これが令和4年度税制改正により、2年間(令和6年3月31日までに開始する事業年度まで)延長されている。 【交際費等の課税関係】 (注) 1人当たり5,000円以下の接待飲食費(社内飲食費は除く)は、そもそも「交際費等」から除かれ、損金算入される。 この改正は令和4年4月1日以後に開始する事業年度から適用されるので、令和5年3月期決算申告には適用されることになる。 2 少額減価償却資産の取得価額の損金算入制度等の見直しと延長 中小企業者等の少額減価償却資産の損金算入特例については、令和4年3月31日までの取得等が対象とされていたが、令和4年度税制改正により2年間(令和6年3月31日までの取得等まで)延長されている。 また、これと同時に対象資産の見直しが行われ、範囲が縮小されているので注意が必要である。 ① 制度の概要(令和4年3月期まで) 青色申告書を提出する中小企業者等においては、取得価額10万円以上の減価償却資産であっても、30万円未満であれば少額減価償却資産として取得時に全額損金算入できる。 ただし、次の点に注意が必要である。 ② 改正後の適用対象資産 令和4年度税制改正により、対象資産から貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供したものが除外されることとされた。 さらに、中小企業に限らず、取得価額10万円未満の減価償却資産は即時償却、取得価額20万円未満の減価償却資産は一括償却が可能であるが、これらについても対象資産から貸付け(主要な事業として行われるものを除く)の用に供したものが除外されることとされた。 なお、以下の貸付けは主要な事業として行われるものに該当する。 ③ 適用期間 制度自体の適用期間は2年間(令和6年3月31日までの取得等)延長されているため、令和5年3月期の決算申告においては適用される。また、対象資産の範囲の見直しについても、令和4年4月1日以後に取得等する資産について適用されるため、令和5年3月期の決算申告においては適用されることになる。 3 暗号資産の時価評価 令和5年1月20日に、国税庁は「法人が保有する暗号資産に係る期末時価評価の取扱いについて(情報)」として、暗号資産の期末時価評価の質疑応答事例を公開している。令和5年3月期決算申告においては注意が必要である。 具体的な内容は次の通りである。 ① 暗号資産の期末時価評価 法人が事業年度末に保有する暗号資産(活発な市場が存在する暗号資産(市場暗号資産)に限る)は、時価評価金額をもって評価額とする。なお、当該暗号資産を自己の計算において有する場合は、評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する。評価損益は翌事業年度で洗替処理をする。 時価評価金額は、暗号資産の種類ごとに次のいずれかに数量を乗じて計算する。 ② 期末時価評価の対象となる活発な市場が存在する暗号資産 活発な市場が存在する暗号資産とは、法人が保有する暗号資産で次の全てに該当するものである。 ③ DEX(分散型取引所)で取引される暗号資産 DEXにおいて公表される交換比率が他の取引所において公表される交換比率と著しく異なる等の特殊事情がなく、DEXにおいて継続的に交換取引が成立しているのであれば、②のA~Cの要件を満たす限り、期末時価評価の対象となる。 ④ ステーキングのためロックアップした暗号資産の期末時価評価 ロックアップにより譲渡できない状態ではあるが、ロックアップ期間中もステーキング報酬を得ることができ、将来的な価格変動リスク等を負担するため、自己の計算において暗号資産を有すると考えられる。 したがって、②のA~Cの要件を満たす場合は活発な市場が存在する暗号資産として期末時価評価の対象となり、その評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する。 ⑤ 貸付けをした暗号資産の期末時価評価 保有する暗号資産を貸し付けており、譲渡できない状態にはなっているが、貸付期間中に使用料を得ることができ、また、将来的な価格変動リスク等を負担するため、自己の計算において暗号資産を有すると考えられる。 したがって、②のA~Cの要件を満たす場合は活発な市場が存在する暗号資産として期末時価評価の対象となり、その評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する。 ⑥ 借入れをした暗号資産の期末時価評価 借り入れている暗号資産が②のA~Cの要件を満たす場合は活発な市場が存在する暗号資産となり、さらに暗号資産を「有する」と解される場合においては、期末時価評価の対象となる。 しかし、返還を要する暗号資産の将来的な価格変動リスク等を負担しないことを考慮すると、一般的には自己の計算において暗号資産を有するとは言えないため、その評価損益を事業年度の益金又は損金に算入する必要はない。 (連載了)
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第11回】
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第11回】 「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解②」 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 問2 NFTを組成して知人に贈与した場合(一次流通) 1 贈与した個人の取扱い この問いが想定するのは、デジタルアートを制作し、そのデジタルアートを紐付けたNFTを知人に無償で贈与し、これにより、その知人は、そのデジタルアートを閲覧することができるようになるケースであり、他人が製作したNFTを購入して、誰かに贈与するケースではないことに注意が必要である。 FAQの解説では、「所得税法における所得とは、収入等の形で新たに取得する経済的価値と解されており、ご質問の場合、収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められないことから、所得税の課税関係は生じません。」と説明されている。 収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められないのであれば、FAQに記載はないものの、NFTを問1のように譲渡した場合に算入が認められる必要経費の額は、この問2の場合には控除が認められないと解される。 個人が無償で資産を贈与した場合には、贈与した側は対価すなわち収入(所法36)がないので、所得税は課されないのが原則である。ただし、例外規定がいくつかあって、例えば、次の場合には、たとえ対価の受け取りがなくても、譲渡した側(資産を手放した側)に所得税が課されたり、その他特別な課税関係となったりすることがある。 いずれの適用関係を検討する場合にも、FAQの前提がデジタルアートの製作者であることに注意が必要である。 上記①について、国税庁は、問1で紐付いているデジタルアート自体は移転していないと構成したこと(NFTの売上原価にデジタルアートの制作費を含めていないことから推察)と一次流通については(資産の譲渡ではなく)権利の設定と構成したことを前提として、デジタルアートを紐付けたNFTは棚卸資産・準棚卸資産に該当しないと解している可能性がある。 また、トークンそのものに着目して棚卸資産の贈与と解する見解もありうるが、そうすると、トークンであれば何でも、あるいはトークン化してしまえば何でも、棚卸資産・準棚卸資産の贈与になる可能性があるため採用しなかったのであろうか。 これらの点に関して、FAQのシンプルな記載から国税庁の正確な見解を推測することは難しい。 少なくとも、このFAQによれば、国税庁は、上記のようなデジタルアートの製作者が製作したNFTを贈与する場合については、同人の棚卸資産・準棚卸資産の贈与に該当するとは見ていないことが明らかになったといえよう。 この辺りについては、プロの画家による実物絵画の贈与の場合とデジタル絵画の贈与の場合とを比較させて議論する余地がある。 逆にいえば、仮に二次流通におけるNFTの移転がNFTの利用権ないし利用に係る契約上の地位の「譲渡」として構成される場合には、上記②の規定の適用の有無を検討しなければならない。 NFTの贈与を受けた場合の贈与税の課税関係については、問9参照。 2 贈与した法人の取扱い NFTを贈与したのが法人である場合のその法人の課税関係について、FAQは、次のとおり、解説している。 寄附金の損金不算入規定の適用に関して述べられているが、これはあくまで典型例であって、法人の役員やその関係者等に贈与した場合には定期同額給与等に該当しない役員給与として損金不算入(法法34)、取引先の従業員に贈与した場合には交際費等の損金不算入(措法61の4)、自社制作NFTやコンテンツの販売促進のために贈与した場合には単純損金(法法22③二)該当性などを検討する必要がある。 問3 非居住者がNFTを組成して、日本のマーケットプレイスで譲渡した場合(一次流通) FAQは、次のとおり解説している。 所得税法161条1項11号は、「国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの」が国内源泉所得に該当することを定めており、同号ロは「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価」が上記に含まれることを明らかにしている。 上記について、FAQでは特に触れられていないが、FAQは、「デジタルアートの閲覧に関する権利」は著作物の利用に係る権利ではなく(著作権法63)、上記括弧書の「出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの」にも含まれないと解している可能性がある。 また、NFTは実物絵画などの有体物や不動産などの権利、国内のサーバーに保管されているデータにも紐付けうるため、NFT取引に係る所得の国内源泉所得該当性については、主として、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得や国内にある資産の譲渡により生ずる所得に該当するか(国内にある資産といえるか)、国内においてした行為に伴い取得するものといえるか、という点に関心が向けられる(所法161①二・三・十七、所令281①八、289二・五・六)。 この点について、上記問いは非居住者の有体物ではない「デジタルアートの閲覧に関する権利」の設定に係る取引に該当するためであろうか、踏み込んだ記述はなされていないが、原則として、上記のいずれにも該当しないため、国内源泉所得に該当しないと解している可能性がある。 当該取引から生じた所得は「原則として」国内源泉所得に該当しないと簡潔に述べているにすぎないことからすれば、国税庁内部では詳細な検討が進んでいない(あるいはNFTの課税関係について実務的影響を小さくするため、今回のFAQでは、差し当たり、課税対象外という回答になるような前提事実を設定した)のかもしれないし、あるいは国税庁外部での議論が進展することを待っているのかもしれない。 結局、非居住者や外国法人の課税関係について、NFTにどのような資産や権利が紐付けられているのかなど、個別の事例に応じた検討が必要となる。もちろん、租税条約の適用関係も検討しなければならない。 (了)
