暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務
【第11回】
「NFTに関する税務上の取扱いに係るFAQ詳解②」
千葉商科大学商経学部准教授
泉 絢也
問2 NFTを組成して知人に贈与した場合(一次流通)
(問)私は、デジタルアートを制作し、そのデジタルアートを紐づけたNFTを知人に無償で贈与しました。これにより、当該知人は、当該デジタルアートを閲覧することができるようになります。この場合の所得税の取扱いを教えて下さい。
(答)デジタルアートを制作し、そのデジタルアートを紐づけたNFTを知人に贈与しても、所得税の課税関係は生じません。
【関係法令等】
所法36
法法22、22の2、37
1 贈与した個人の取扱い
この問いが想定するのは、デジタルアートを制作し、そのデジタルアートを紐付けたNFTを知人に無償で贈与し、これにより、その知人は、そのデジタルアートを閲覧することができるようになるケースであり、他人が製作したNFTを購入して、誰かに贈与するケースではないことに注意が必要である。
FAQの解説では、「所得税法における所得とは、収入等の形で新たに取得する経済的価値と解されており、ご質問の場合、収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められないことから、所得税の課税関係は生じません。」と説明されている。
収入等の形で新たに経済的価値を取得したと認められないのであれば、FAQに記載はないものの、NFTを問1のように譲渡した場合に算入が認められる必要経費の額は、この問2の場合には控除が認められないと解される。
個人が無償で資産を贈与した場合には、贈与した側は対価すなわち収入(所法36)がないので、所得税は課されないのが原則である。ただし、例外規定がいくつかあって、例えば、次の場合には、たとえ対価の受け取りがなくても、譲渡した側(資産を手放した側)に所得税が課されたり、その他特別な課税関係となったりすることがある。
① 棚卸資産等や暗号資産の場合(所法40、所令87)
② 譲渡所得の場合(所法59。ただし、基本的には、相手方が法人の場合に適用される規定)
いずれの適用関係を検討する場合にも、FAQの前提がデジタルアートの製作者であることに注意が必要である。
上記①について、国税庁は、問1で紐付いているデジタルアート自体は移転していないと構成したこと(NFTの売上原価にデジタルアートの制作費を含めていないことから推察)と一次流通については(資産の譲渡ではなく)権利の設定と構成したことを前提として、デジタルアートを紐付けたNFTは棚卸資産・準棚卸資産に該当しないと解している可能性がある。
また、トークンそのものに着目して棚卸資産の贈与と解する見解もありうるが、そうすると、トークンであれば何でも、あるいはトークン化してしまえば何でも、棚卸資産・準棚卸資産の贈与になる可能性があるため採用しなかったのであろうか。
これらの点に関して、FAQのシンプルな記載から国税庁の正確な見解を推測することは難しい。
少なくとも、このFAQによれば、国税庁は、上記のようなデジタルアートの製作者が製作したNFTを贈与する場合については、同人の棚卸資産・準棚卸資産の贈与に該当するとは見ていないことが明らかになったといえよう。
この辺りについては、プロの画家による実物絵画の贈与の場合とデジタル絵画の贈与の場合とを比較させて議論する余地がある。
逆にいえば、仮に二次流通におけるNFTの移転がNFTの利用権ないし利用に係る契約上の地位の「譲渡」として構成される場合には、上記②の規定の適用の有無を検討しなければならない。
NFTの贈与を受けた場合の贈与税の課税関係については、問9参照。
2 贈与した法人の取扱い
NFTを贈与したのが法人である場合のその法人の課税関係について、FAQは、次のとおり、解説している。
法人が、デジタルアートを制作して、そのデジタルアートを紐づけたNFTを贈与した場合、法人税の課税対象となります。この場合、法人の所得の金額の計算上、当該事業年度の益金の額に算入すべき金額は、そのNFTの贈与の時における価額(時価)となります。
なお、その贈与は法人税法上寄附となりますので、寄附金の額となるそのNFTの贈与の時における価額(時価)のうち法人税法の規定により計算した一定の金額を超える金額は、法人の所得の金額の計算上、損金の額に算入されません。
寄附金の損金不算入規定の適用に関して述べられているが、これはあくまで典型例であって、法人の役員やその関係者等に贈与した場合には定期同額給与等に該当しない役員給与として損金不算入(法法34)、取引先の従業員に贈与した場合には交際費等の損金不算入(措法61の4)、自社制作NFTやコンテンツの販売促進のために贈与した場合には単純損金(法法22③二)該当性などを検討する必要がある。
問3 非居住者がNFTを組成して、日本のマーケットプレイスで譲渡した場合(一次流通)
(問)私は、アメリカに居住する非居住者です。今般、デジタルアートを制作し、そのデジタルアートを紐づけたNFTを日本のマーケットプレイスを通じて第三者に有償で譲渡しました。これにより、当該第三者は、当該デジタルアートを閲覧することができるようになります。この場合の所得税の取扱いを教えて下さい。
(答)非居住者の方が、日本のマーケットプレイスでNFTを売却したとしても、原則として、日本の所得税の課税対象となりません。
【関係法令等】
所法161
FAQは、次のとおり解説している。
日本の所得税では、日本に居住する方は、全世界で稼得した所得が課税対象となり、日本に居住していない方(非居住者)は、日本で発生した所得(国内源泉所得)が課税対象となります。
ご質問の取引は、「デジタルアートの閲覧に関する権利」の設定に係る取引に該当し、当該取引から生じた所得は、原則として、国内源泉所得に該当せず、所得税の課税対象となりません。
(注)著作権に係る取引についての源泉所得税の取扱いについては、問10を参照ください。
所得税法161条1項11号は、「国内において業務を行う者から受ける次に掲げる使用料又は対価で当該業務に係るもの」が国内源泉所得に該当することを定めており、同号ロは「著作権(出版権及び著作隣接権その他これに準ずるものを含む。)の使用料又はその譲渡による対価」が上記に含まれることを明らかにしている。
上記について、FAQでは特に触れられていないが、FAQは、「デジタルアートの閲覧に関する権利」は著作物の利用に係る権利ではなく(著作権法63)、上記括弧書の「出版権及び著作隣接権その他これに準ずるもの」にも含まれないと解している可能性がある。
また、NFTは実物絵画などの有体物や不動産などの権利、国内のサーバーに保管されているデータにも紐付けうるため、NFT取引に係る所得の国内源泉所得該当性については、主として、国内にある資産の運用又は保有により生ずる所得や国内にある資産の譲渡により生ずる所得に該当するか(国内にある資産といえるか)、国内においてした行為に伴い取得するものといえるか、という点に関心が向けられる(所法161①二・三・十七、所令281①八、289二・五・六)。
この点について、上記問いは非居住者の有体物ではない「デジタルアートの閲覧に関する権利」の設定に係る取引に該当するためであろうか、踏み込んだ記述はなされていないが、原則として、上記のいずれにも該当しないため、国内源泉所得に該当しないと解している可能性がある。
当該取引から生じた所得は「原則として」国内源泉所得に該当しないと簡潔に述べているにすぎないことからすれば、国税庁内部では詳細な検討が進んでいない(あるいはNFTの課税関係について実務的影響を小さくするため、今回のFAQでは、差し当たり、課税対象外という回答になるような前提事実を設定した)のかもしれないし、あるいは国税庁外部での議論が進展することを待っているのかもしれない。
結局、非居住者や外国法人の課税関係について、NFTにどのような資産や権利が紐付けられているのかなど、個別の事例に応じた検討が必要となる。もちろん、租税条約の適用関係も検討しなければならない。
〔凡例〕
通貨・・・通貨の単位及び貨幣の発行等に関する法律
日銀法・・・日本銀行法
信託・・・信託法
所法・・・所得税法
所令・・・所得税法施行令
所基通・・・所得税基本通達
法法・・・法人税法
法令・・・法人税法施行令
消法・・・消費税法
措法・・・租税特別措置法
国税庁FAQ・・・暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)(令和4年12月22日改訂)
(例)所法9①九・・・所得税法9条1項9号
(了)
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