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会計 税務・会計 解説 解説一覧

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第52回】「売り手企業の価額はどうやって決まるか・決めるか(前編)」~妥当な価額を求める手法~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第52回】 「売り手企業の価額はどうやって決まるか・決めるか(前編)」 ~妥当な価額を求める手法~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの価額を前提に売り手を見る際の手がかりを得る。 売り手企業 ⇒M&Aの価額を前提にM&Aに備えた企業活動をする際のヒントを得る。 支援機関(第三者) ⇒M&Aの価額の視点を頼りに買い手・売り手に対する助言に活かす。 その他の対象者 ⇒M&Aの価額の視点から買い手・売り手の見方を知る。   今回から2回にわたって、中小企業庁が2023年9月に改訂版を公表した「中小M&Aガイドライン(第2版)」(以下、「ガイドライン」といいます)の内容を参考にしながら、中小M&Aの「価額」視点で、相手の見方・見られ方を考えます。   1 中小M&Aの典型的な手法 中小M&Aにおいて、価額の論点は、主に、M&A仲介会社、金融機関、士業などの専門家といった第三者機関が、企業の価値や事業の価値を評価する段階で登場します。 中小M&Aには様々な手法がありますが、最も典型的なのは株式譲渡です。株式譲渡では、通常、創業家が保有する売り手企業の株式を買い手企業が取得して、買い手の子会社にします(〈株式譲渡のイメージ〉参照)。この過程で売買される株式の値段を決めるために、第三者機関は様々な手法を駆使して、売買に妥当な価額を算定します。 〈株式譲渡のイメージ〉 これ以降、特段の断りがない限り、株式譲渡によるM&Aを前提に解説します。   2 妥当な価額を求める手法 では、妥当な価額が「いくら」かは、どうやって決めているのでしょうか。ガイドラインでは、「簿価純資産法」、「時価純資産法」、「マルチプル法(類似会社比較法)」が紹介されていますので、これらの手法を簡単に説明します。 (1) 簿価純資産法 簿価純資産法は、売り手企業のバランスシート(貸借対照表)の純資産の帳簿価額をそのまま譲渡価額にする手法です。中小M&Aでは、第三者機関は、通常、複数期間の決算書を予め入手して、過去の決算の推移や、異常な状況の有無を確認しつつ、主に、最近の決算期の決算書の数字を使って妥当な価額を求めます。 決算書を入手すれば、純資産は容易に把握できます。なので、売り手企業の経営者にしても、おおよそこれくらいの価額になると納得感が得やすい価額といわれています。 〈簿価純資産法のイメージ〉 (出典) 「中小M&Aガイドライン(第2版)参考資料」 上図の場合は、バランスシート上の純資産が400なので、株式価値(≒譲渡価額≒売値)も400となります。非常にシンプルな手法です。 (2) 時価純資産法 時価純資産法は、バランスシート上の純資産も使いますが、帳簿価額の純資産を時価に換算替えした価額になるように計算し直して、時価にもとづく譲渡価額を出す計算手法です。この中には、すでにバランスシートに計上された資産や負債の価額を時価に置き換える工程が含まれます。帳簿価額を時価に置き換える際には、有価証券、保険、不動産など、価額が変動しやすい資産がよく対象とされます。 また、バランスシートに計上していないが(これを「簿外ぼがい」といいます)、反映させるべき内容も、バランスシートに計上したとみなして計算する場合があります。 〈時価純資産を求める過程のイメージ〉 上図のように、帳簿価額の純資産を起点にして、バランスシートの時価のマイナスとプラス分を加味して時価に置き換えてから、簿外の内容を計上して、時価の純資産を求めます。簿外はバランスシートに元々計上されていなかった金額ですが、多くは時価のマイナスを伴いますので、簿外の項目があるほど、帳簿価額よりも時価の方が低くなるケースが実務上は多いです。 ただし、実際には、「時価を求めてから、簿外に進む」というように手順が分かれているわけではなく、時価の計上分の価額も、簿外の価額も同時に求めています。 上図の場合は、帳簿価額の純資産よりも最終的な時価の純資産の方が低くなっています。 〈時価純資産法のイメージ〉 (出典) 「中小M&Aガイドライン(第2版)参考資料」 上図では、元々の簿価純資産は400でしたが、土地には含み損があるのでマイナス、保険には解約返戻金があったのでプラス(時価評価とも捉えられますし、簿外の評価額があったとも捉えられます)、役員退職金を払う可能性がある点で簿外の純資産マイナス要因(詳細は割愛しますが、役員退職金の計上によって利益のマイナス≒純資産のマイナス要因になります)、繰延税金資産(税務上と会計上のバランスシートの違いを調整する、というイメージです)はプラスという内容を計上した結果、時価純資産が314になりました。元々の簿価純資産400から86の純資産が計算上、目減りしています。結果的に、314が、見直し後、修正後の純資産(≒譲渡価額≒売値)となりました。 (3) マルチプル法 マルチプル法は、別名、類似会社比較法ともいわれます。ガイドラインによると、株式価値の算定手法は以下のとおりです。 まず、売り手企業に類似している上場会社、つまり、同業他社や類似企業の企業価値(EV:エンタープライズバリューの略)と、決算書などから求めたEBITDAなどの財務指標を使って、EV/EBITDA倍率といわれる評価倍率(EV÷EBITDA)を求めます。そして、売り手企業のEBITDAに、先に求めたEV/EBITDA倍率をかければ、売り手企業のEVが求められます。最後に、売り手企業の株式価値を求めるために、現預金と有利子負債の調整による純有利子負債を差し引きます。 EBITDAには様々な求め方がありますが、ガイドラインでは、営業利益に減価償却費を加えた額をEBITDAとして紹介しています。 ここで、「EV÷EBITDA」が何を表しているかというと、企業価値(=EV)を何年間のEBITDAで回収できるかの程度、スピード感を表しています。 そして、EBITDAを用いたマルチプル法による株式価値の計算式は次のとおりです。 (出典) 「中小M&Aガイドライン(第2版)参考資料」をもとに筆者加工 〈EV/EBITDA 倍率法のイメージ〉 (出典) 「中小M&Aガイドライン(第2版)参考資料」 上図のように、①まず、売り手企業の類似上場会社を探します。ただし、実務上は、売り手企業にぴったりの類似上場会社を探すのは思うほどには簡単ではありません。②次いで、類似上場会社の企業価値を求めます。株式価値は上場会社の株価からわかりますし、有利子負債と現預金は決算書から数字を拾えますので、算数の問題を解く要領で求めることが可能です。③その次に、EBITDAであれば、たとえば、類似上場会社の「営業利益+減価償却費」でEBITDAを求めたら、④「EV÷EBITDA」でEV/EBITDA倍率を求めることができます。 これら①から④が類似上場会社側の計算です。 続いて、売り手企業の株式価値を求めますが、これは、先に示した計算式のとおりですので、「株式価値 = 売り手企業のEBITDA × EV/EBITDA倍率 - 純有利子負債(有利子負債 - 現預金)」で求めれば、売り手企業の株式価値(≒譲渡価額≒売値)がわかるわけです。「-純有利子負債」は、結局のところ、「+現預金-有利子負債」という意味になります。 (了)
#584(掲載号)
#荻窪 輝明
2024/09/05
労務・法務・経営 法務

電子書類の法律実務Q&A 【第22回】「従業員の承諾なしに給与明細を電子化できるのか」

電子書類の法律実務Q&A 【第22回】 「従業員の承諾なしに給与明細を電子化できるのか」   弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕   〔Q〕 業務効率化のため、これまで紙で手渡ししていた給与明細を電子化しようと思います。その際に、従業員の承諾は必要でしょうか。 〔A〕 所得税法により、給与明細を電子化する場合、従業員の承諾が必要とされています。 ただし、令和5年度税制改正により、従業員に対して「支払者が定める期限までに承諾に係る回答がないときは承諾があったものとみなす」旨の通知をし、期限までに従業員から回答がない場合、従業員の承諾があったとみなされることになりました。給与明細については、電子化を進める環境が整ったといえるでしょう。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 そもそも法律上、給与明細の交付義務があるのか 給与明細については、所得税法により、交付義務がある(所得税法231条1項、所得税法施行規則100条1項)。 所得税法により、給与明細に記載しなければならないのは、以下の3つの事項だ。 所得税法242条7号により、給与明細を交付しなかった場合や虚偽の記載をした給与明細を交付した場合は、罰則もある(1年以下の懲役又は50万円以下の罰金)。ただし、給与明細を交付しなかったことを理由とする賠償請求については、否定した裁判例がある(大阪地判令和3年6月28日)。   2 給与明細は電子化できるか 給与明細については、所得税法により、原則書面で交付しなければならないとされており、電子化する場合、従業員の承諾が必要だ(所得税法231条2項)。所得税法との関係で、承諾が必要とされているので、給与明細の電子化を就業規則に定めても、承諾なしに電子化することはできない。ただし、1度承諾を得た場合、その都度承諾を得る必要はない。 承諾以外にも条件がある。電子化する場合、以下の4つの条件を全て充たす必要がある。条件②との関係で「書面への出力」が条件とされているので、PDFファイルにするのがよい。   3 令和5年度税制改正によりみなし承諾も可能に 令和5年度税制改正により、「給与所得の源泉徴収票」及び「給与等の支払明細書」については、支払者が受給者から電子交付の承諾を得ようとする際に、「支払者が定める期限までに承諾に係る回答がないときは承諾があったものとみなす」旨の通知をあらかじめ従業員に行い、上記期限までに受給者からの回答がなかった場合には、電子交付の承諾があったものとみなされることになった(所得税法施行規則95条の2第2項)。 つまり、従業員から個別に承諾書を取得しなくてもよくなったということだ。 回答期限を切って、承諾に係る回答がないときは承諾があったものとみなす旨を電子メールで通知して、承諾を求めるのがよい。   (了)
#584(掲載号)
#池内 康裕
2024/09/05
読み物 連載

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第84話】「隠蔽・仮装と更正の請求書の提出」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第84話】 「隠蔽・仮装と更正の請求書の提出」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・分からないなあ・・・」 浅田調査官は、呟きながら、令和6年度の税制改正の本を読んでいる。 机上には、財務省の「令和6年度税制改正の解説」がある。 「・・・隠蔽・仮装の更正の請求書を提出したら・・・重加算税が課されるというけれど・・・具体的にどのようにするのだろう・・・」 解説書では、「申告後に仮装・隠蔽が行われた事例」として、次のケースが紹介されている。 浅田調査官は、解説書に描かれている図を参考に、自分で具体的な数字を入れて、もう1度、整理してみる。 「何を熱心に描いているの?」 中尾統括官が、浅田調査官の描いている図を覗く。 浅田調査官は、上記の図を描きながら、「更正の請求書に係る隠蔽・仮装行為に対する加算税の図なのですが・・・」と言う。 浅田調査官は、顔を上げる。 「・・・当初、調査対象法人が税金100で申告していたところ、その後、税金50が正しいので、更正の請求で50の還付を申請したとします・・・そして、税務署は、書面調査で50の減額更正を職権で行いましたが、その後の税務調査で隠蔽・仮装が発見されたという事例です・・・このケースでは、改正前であれば過少申告加算税が課され、改正後であれば重加算税が課されるという説明がなされています・・・」 浅田調査官が、図の説明をする。 中尾統括官は、頷きながら、浅田調査官の説明を聞いている。 「この事例では、一旦、税務署が減額更正を行い、納税者に還付しています・・・そして、その後の税務調査において、隠蔽・仮装が発見され、加算税が賦課決定されるという流れです・・・」 浅田調査官の言葉は続く。 「もし、この事例の③の書面調査において、隠蔽・仮装が仮に発見されたら、当然、更正の請求は認められず、納税者には、『更正をすべき理由がない旨』を通知し、そうすると、重加算税は課されないのではないでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「もちろん、このケースでは、過少申告加算税も課されないから・・・」 中尾統括官は、付け足す。 「しかし、この解説では、隠蔽・仮装に基づく更正の請求書を提出したら、重加算税が課されるような書き方をしています・・・もっとも、『対象』という表現になっていますが・・・納税者に対して誤解を招くような書き方だ」 浅田調査官は、下記の図を見ながら、不満そうに言う。 中尾統括官は、解説書(833頁)を見ながら、改正の背景を読み上げる。 「・・・改正の趣旨は、理解できるのですが・・・更正の請求そのものの意味なんですが・・・これは、確定申告や修正申告と異なって、税額自体、自動的に確定するものではない・・・有利な税額変更のお願いに過ぎない・・・そして、最終的には、税務署長が減額更正処分を行うことによって、税額が減額される・・・そうすると、法的効果のない更正の請求書を提出することに対して、重加算税を課すことはおかしいと思うのです・・・」 中尾統括官は、再び、解説書(834頁)を読む。 「・・・しかし、更正の請求は、納税者の税務署に対する減額のお願いであって、国と納税者の間の租税債権に、何の変動も生じない・・・更正の請求に基づいて、税務署が減額更正をすることによって、はじめて、租税債権が変更される・・・それは、あくまでも税務署の権限で行われるもので、更正の請求の背景に隠蔽・仮装があるから『重加算税を課すことは理論的に問題はない』というのはおかしいと思います・・・」 「それに、改正国税通則法68条で『隠蔽し、又は仮装したところに基づき更正請求書を提出していたとき』の文言が追加されたが、重加算税が課される具体的なケースがもう1つハッキリしない」 浅田調査官は、不満そうに言う。 (つづく)
#584(掲載号)
#八ッ尾 順一
2024/09/05
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《速報解説》 R6改正に係る改正産強法、令和6年9月2日付けで施行~戦略分野国内生産促進税制や中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充措置が適用開始~

 《速報解説》 R6改正に係る改正産強法、令和6年9月2日付けで施行 ~戦略分野国内生産促進税制や中小企業事業再編投資損失準備金制度の拡充措置が適用開始~   Profession Journal 編集部   令和6年度税制改正のうち、主に法人税関係の特例措置に関係する「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律(令和6年法律第45号)」(以下「改正産強法」という)が本日付けで施行された。 改正産強法の公布自体は6月7日付けの官報号外第138号にてされていたが、税制に係る特例措置(改正産強法附則第1条本文に定める施行期日)については、公布日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日とされていたところ、8月27日に施行日を「令和6年9月2日」とする政令(新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行期日を定める政令(令和6年政令第267号))が閣議決定され、同月30日付けの官報号外第202号において公布されていた。 なお官報同号では、「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備に関する政令」のほか、同日付けの官報第1296号では、改正産強法等に関連する省令として「租税特別措置法施行規則等の一部を改正する省令(財務省令第52号)」も公布されている。 また今回の施行に伴い、令和6年度税制改正で創設された「戦略分野国内生産促進税制」の適用が開始される。同税制は、民間として事業採算性に乗りにくいものの、国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となるGX・DX・経済安全保障の戦略分野における国内投資を促進するため、生産・販売量に応じて減税を行う制度(措法42の12の7⑦~⑫)。適用対象となる法人は、青色申告書を提出する法人で改正産強法の施行日から令和9年3月31日までの間にされた産競法の事業適応計画の認定に係る産競法の認定事業適応事業者とされている(措法42の12の7⑦⑩)。 そのほか関係する税制として、令和3年度税制改正で創設された中小企業事業再編投資損失準備金制度(措法56)がある。同税制は、一定の認定等を受けた中小企業者が株式譲渡によってM&Aを実施する場合に、株式等の取得価額として計上する金額の一定割合の金額を準備金として積み立てたときは、その事業年度に損金算入できる制度。令和6年度税制改正では、新たに中堅・中小企業が複数回のM&Aを実施する場合の拡充措置(措法56①の表の第2号)が創設され(詳細は下記参照)、今回の施行に伴い適用が開始されている。 *  *  * (了)
#Profession Journal 編集部
2024/09/02
お知らせ 消費税・地方消費税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 国税庁、令和7年4月施行に向け「プラットフォーム課税」の特設ページを開設~国外事業者及びプラットフォーム事業者向けのQ&A等を掲載~

 《速報解説》 国税庁、令和7年4月施行に向け 「プラットフォーム課税」の特設ページを開設 ~国外事業者及びプラットフォーム事業者向けのQ&A等を掲載~   Profession Journal 編集部   令和6年度税制改正では、国外事業者がプラットフォームを介して行う消費者向け電気通信利用役務の提供のうち、一定の規模を有するプラットフォーム事業者を介して対価を収受するものについては、そのプラットフォーム事業者が行ったものとみなして、国外事業者に代わり納税義務が課される制度(プラットフォーム課税)が導入された(令和7年4月1日以後に行われる電気通信利用役務の提供について適用)。 このほど国税庁ホームページ内に消費税のプラットフォーム課税に係る特設ページが設けられ、令和6年度税制改正で手当てされたプラットフォーム課税の導入等に対応した「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A」(「国外事業者用」及び「プラットフォーム事業者用」)等が掲載されている。 特設ページでは「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A」のほかプラットフォーム課税に係るリーフレットや、国外事業者等に向けた英語等による情報も掲載されている。今後、プラットフォーム課税に係る情報については本ページに集約されることが想定されるため、情報更新に注視しておきたい。 また、プラットフォーム課税の導入及び昨年10月から開始されたインボイス制度の開始を受け、上記「消費税のプラットフォーム課税に関するQ&A」の公表と同じくして、「国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A」の他、リーフレットの改訂が行われている。 なお、既報のとおりプラットフォーム課税導入の取扱いや届出書の様式等を示した消費税法基本通達等の改正については、今年4月に公表されている。 (了)
#Profession Journal 編集部
2024/08/29
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.583が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年8月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.583を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2024/08/29
税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第41回】「源泉徴収の法律関係に関する判例法理」-最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁による「源泉徴収法」の創造-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第41回】 「源泉徴収の法律関係に関する判例法理」 -最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁による「源泉徴収法」の創造-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 所得税の源泉徴収は所得税法と国税通則法で規定されている。すなわち、所得税法は第4編(源泉徴収)において、居住者に対する利子所得に係る利子等及び配当所得に係る配当等(第1章)、給与所得に係る給与等(第2章)、退職所得に係る退職手当等(第3章)、公的年金等(第3章の2)及び報酬、料金等(第4章)の支払、並びに非居住者又は外国法人に対する一定の国内源泉所得及び内国法人に対する一定の所得の支払(第5章)について源泉徴収義務を中心に規定を設けるほか、所得税の納期の特例(第6章)並びに所得税の納付及び徴収(第7章)を定め、また、国税通則法は源泉徴収義務を「納税義務」としてその成立及び確定に関する規定の中に取り込み(15条1項・2項2号・3項2号)、その上で所得税の源泉徴収を、納税の告知(36条1項2号)を起点として国税の徴収(第3章第2節)等の手続に組み込んでいる。 このように所得税の源泉徴収については所得税法及び国税通則法で規定が整備されているが、ただ、それらの規定は源泉徴収制度を自己完結的な制度(いわば「閉じた制度」)として定めるものではない。わが国の所得税は総合課税を原則とし、その納税義務の確定及び履行について納税者の自主性・自発性に依拠・依存する申告納税制度を基本としているため、これのみでは税務行政の負担軽減及び租税の効率的な賦課徴収という同制度の趣旨の実現は期待できないことから、源泉徴収制度は、申告納税制度の上記の趣旨を実現しこれを補完する制度(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【121】【151】参照)という意味で、原則として(租税特別措置法が定める源泉分離課税を除き)、申告納税制度に対していわば「開かれた制度」となっている。つまり、源泉徴収をめぐる紛争の解決は申告納税制度の枠内で図られることを建前とする制度となっているのである(ただし、その建前を貫徹するための規定が税法上整備されているわけでない)。 その結果、源泉徴収制度は、その側面において、源泉徴収の当事者(国・支払者・受給者)の間で意見の対立ないし紛争が生じた場合これを自己完結的に解決するための規定を備えていない制度となっており、その意味で「法の欠缺」を内包した制度となっているのである。そのような「法の欠缺」を「判例による法の創造」(中野次雄編『判例とその読み方〔三訂版〕』(有斐閣・2009年)219頁)によって補充したのが、最判昭和45年12月24日民集24巻13号2243頁(以下「本判決」という)である。 本判決は、「裁判例・学説とも比較的乏しく、判例としてなお未開拓の分野に属する・・・・・・源泉徴収に関する法律関係についての、やや異例ともいうべき長文の見解」(可部恒雄「判解」最判解民事篇(昭和45年度(下))1093頁、1097頁。下線筆者)をもって、源泉徴収の当事者間での意見対立・紛争の解決のための規定を備えたいわば「源泉徴収法」ともいうべき法を創造したといえる。つまり、法の支配の要請において裁判所による紛争解決ルールの確立は法が備えるべき不可欠の要素の1つであると考えられるが(長谷部恭男『憲法〔第7版〕』(新世社・2018年)19頁参照)、本判決はその要素を源泉徴収制度に組み込み「源泉徴収法」を創造したといえるのである。 今回は、本判決が創造した「源泉徴収法」の内容を整理し検討することにするが(Ⅲ)、その前に、「源泉徴収法」の創造に関する判断の過程に即して、本判決の内容を整理しておくことにする(Ⅱ)。本判決は、前述のとおり、「源泉徴収に関する法律関係についての、やや異例ともいうべき長文の見解」を示したものであるが、「源泉徴収法」の創造に関する判断の過程及び内容を明らかにするために、やや長くなるとはいえ、本判決の判示をできるだけそのまま引用しておくことにしよう。   Ⅱ 本判決の内容 1 支払者・受給者間の紛争 本判決の事案(金員支払請求事件)は次のとおりである。すなわち、法人X(原告・被控訴人・被上告人)の役員Y1及びY2(被告・控訴人・上告人)がXから簿外定期預金の払出しを受け(Y1)、また、X所有不動産の譲渡を受けた(Y2)ことにつき、所轄税務署長NがY1及びY2の退任後、Xの過年度分の所得調査に当たり、昭和39年3月10日、払い出された本件簿外定期預金相当額をY1の所得として、本件不動産の譲渡を低廉譲渡とみてこれによる売却損に相当する経済的利益をY2の所得としてそれぞれY1及びY2に対する役員賞与を認定した上で、当該認定賞与に係る所得税の源泉徴収・納付がされていなかったとして、源泉徴収義務者たるXに対し、旧所得税法(昭和22年法律第27号)43条1項(現行所得税法221条1項)に基づき源泉徴収による所得税の本税並びに不納付加算税及び旧利子税の支払を請求し、その旨の納税の告知をしたところ、Xは上記各税の全額を期限内に納付した上で、Nによる役員賞与の認定に対して不服申立てをしたものの不首尾に終わったので、それまで以上の事実をY1及びY2に知らせることがなかったものの、昭和40年3月8日頃、内容証明郵便をもって上記不服申立ての結果を通知するとともに、旧所得税法43条2項(現行所得税法222条)に基づき上記納付税額の支払をY1及びY2に請求し、その後その請求に係る本訴を提起した。 本訴におけるY1及びY2の抗弁について、本判決は次のとおり要約している。 上記の抗弁のうち抗弁(一)は、本件簿外定期預金の払出し及び本件所有不動産の譲渡に係るY1及びY2の納税義務の不存在を前提としたものであるが、その納税義務の不存在は、本件簿外定期預金の払出し及び本件所有不動産の譲渡に係るY1に対する所轄税務署長Hの一時所得認定処分が、Y1による異議申立てを受けて昭和39年4月1日、Hにより全部取り消されたことによって、確定されていたことを理由とするものである(上告理由民集24巻13号2257頁、原々審・名古屋地判昭和41年12月22日民集24巻13号2260頁におけるY1及びY2の主張参照)。また、抗弁(二)(三)は、本件納税の告知を受け期限内に全額を納付したXによるY1及びY2に対する求償権行使の適否とY1及びY2による支払拒絶の適否をめぐるものである。 前記の抗弁(一)(二)(三)はいずれも上記名古屋地判及び原審・名古屋高判昭和42年12月18日民集24巻13号2269頁によって排斥されたが、本判決は「論旨は、前記抗弁(二)(三)を排斥した原判決の判断を非難するものである」として、前記抗弁(二)(三)の当否について次の2でみる順に判断した。 2 源泉徴収の法律関係とこれをめぐる意見対立・紛争の解決 本判決は、「本件においては、論旨の検討に先だつて、源泉徴収の法律関係を考察する必要がある。」と述べ、まず、所得税法に基づく源泉徴収義務を前提として、その成立及び確定に関する国税通則法の規定内容について次のとおり判示し(下線筆者。以下「判旨A」という)、源泉徴収の基本的法律関係に関する理解を明らかにした。 本判決は上記の理解を前提にして、「この場合、納税義務の存否またはその範囲いかんにつき、支払者と税務署長との間に意見の対立があるときは、支払者はいかなる手続によりこれを争うべきかの問題を生ずる。」(下線筆者)と述べ、この問題に関する判断の決め手として「納税の告知」の法律的な性質について次のとおり判示した(下線筆者。以下「判旨B」という)。 本判決は、判旨Bを受けて、支払者の納税義務(源泉徴収義務)と受給者の源泉納税義務との関係を、「5、以上のとおり、源泉徴収による所得税についての納税の告知は、課税処分ではなく徴収処分であつて、支払者の納税義務の存否・範囲は右処分の前提問題たるにすぎないから、支払者においてこれに対する不服申立てをせず、または不服申立てをしてそれが排斥されたとしても、受給者の源泉納税義務の存否・範囲にはいかなる影響も及ぼしうるものではない。」(下線筆者)と整理した上で、これに「したがつて」で接続して、受給者と支払者との対立調整について争訟方法を含め次のとおり判示した(以下「判旨C」という)。 以上の判示に基づき、本判決は、次のとおり判示して抗弁(二)(三)を「失当」と判断した(下線筆者。以下「判旨D」という)。 なお、本判決は判旨Dの判示に先立ち、判旨Bに照らして次のとおり本件における納税の告知の法律的性質に関する原判決の「誤解」を指摘している。   Ⅲ 「源泉徴収法」の内容 1 法律関係二分法 源泉徴収の法律関係を理解するには、まず、源泉徴収制度が補完する申告納税制度に立ち返って、受給者(ここでは居住者を想定して検討を進める)の納税義務の意味を明らかにする必要がある。受給者は、給与所得(所税28条1項)に係る課税要件の充足をもって給与所得に係る所得税の納税義務を負うとともに、給与所得に該当する給与等の支払を受ける場合(同183条1項)に源泉徴収との関係で当該給与等に係る所得税の納税義務を負う。後者の納税義務を本判決は「源泉納税義務」と呼び、前者の納税義務(以下では最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁の用語法に従い「申告所得税の納税義務」という)と区別して、源泉徴収制度において給与等の支払者が負担する「徴収義務」と「表裏をなす関係」にある納税義務と観念している(判旨B参照)。この両者(源泉納税義務と申告所得税の納税義務)の区別については、「ここ[=本判決]にいわゆる『源泉納税義務』とは、もとより、都度計算主義による当該源泉徴収かぎりでの、租税負担義務にほかならず、期間計算主義による所得税一般の『納税義務』[=申告所得税の納税義務]を意味するものでないことは、改めていうまでもないところである。」(可部・前掲「判解」1101頁。下線筆者)という説明もみられる。 このように、受給者の納税義務について、所得税法においては2種類のものが定められていることになるが、明文の規定で定められているのは申告所得税の納税義務だけであり、源泉納税義務は、支払者の徴収義務(源泉徴収義務)と「表裏をなす関係」において源泉徴収制度の枠内でのみ通用する「不文の納税義務」ともいうべきものである。なお、受給者の源泉納税義務は従来「単に源泉徴収されることを受忍する受忍義務」と観念されていたところ、「源泉徴収義務者である支払者において徴収義務を負担するのは、受給者においてまず源泉納税義務を負うことが前提となっており、両者は表裏の関係にあることを明らかにし」、「源泉徴収制度の法構造を明確ならしめた」という点は、本判決の「重要な意義」の1つである(以上の引用は村上義弘「判批」別冊ジュリスト120号(租税判例百選〔第3版〕・1992年)170頁、171頁。可部・前掲「判解」1114頁(注8)も参照)。 本判決は、源泉徴収制度の枠内で、以上で述べたようなその「表」にある支払者の源泉徴収義務とその「裏」にある受給者の源泉納税義務を前提にして、国税通則法に則して、その「表」の義務(支払者の源泉徴収義務)の方を、国(課税権者)に対する義務という意味で「納税義務」と称した上で、その成立及び確定をいわゆる自動確定方式(前掲拙著【119】参照)により観念することとし(15条)その履行の実現を税務署長による納税の告知(36条)という「徴収処分」によって図ることとする公法上の義務として、構成したものと解される(判旨A・B参照)。 他方、本判決は、納税の告知が徴収処分であり、支払者の納税義務の存否・範囲はこれにより公定力をもって確定されるものではなく徴収処分の前提問題にすぎないと判示するが(判旨B・C参照)、そうである以上、「支払者の『徴収すべき税額』と受給者の『徴収されるべき税額』との一致は、法が自明の前提として予定するところ」(可部・前掲「判解」1102頁)という場合の「自明の前提」は、支払者の源泉徴収義務と受給者の源泉納税義務との「表裏をなす関係」が私法上の求償関係を成立させるための「自明の前提」であることを意味するものと解される。なお、支払者による求償権の行使について所得税法が規定(222条)を置いているのは、賃金全額払の原則(労基24条1項本文)との関係で求償権行使に強制力を付与するためであって、私法上の求償関係の性格を変更するものではない(前掲拙著【152】参照)。 本判決は、以上のような法律関係二分法(公法上の法律関係と私法上の法律関係)によって「源泉徴収に関する法律関係の基本構造」(可部・前掲「判解」1098頁)を明らかにしたものと解される(前掲拙著【152】、金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)1022頁等参照)。 2 源泉徴収に関する紛争解決方法 本判決は、源泉徴収に関する紛争解決方法を、前記の法律関係二分法に基づく①支払者と国との法律関係と②支払者と受給者との法律関係との区分に応じて、提示している。 まず、①支払者と国との法律関係においては、源泉徴収義務を全部又は一部しか履行しなかったとして支払者に対して納税の告知がされる場合が問題となるが、その場合、支払者は納税の告知に対して不服申立て及び抗告訴訟を提起することができるものとされている(判旨B)。 納税の告知は「課税処分」ではなく「徴収処分」であるが、「前記により[いわば自動(働)的に]確定した税額がいくばくであるかについての税務署長の意見が初めて公にされるものであるから、支払者がこれと意見を異にするときは、当該税額による所得税の徴収を防止するため」、不服申立て及び抗告訴訟の対象とされたのである。その意味で、納税の告知は形式的行政処分に属する行為であると考えてよかろう(芝池義一『行政救済法』(有斐閣・2022年)52頁参照)。 次に、②支払者と受給者との法律関係において、㋐未徴収又は過少徴収の場合は、支払者からの求償を受給者が拒絶することができるかが問題になるが、この問題については、それが私法上の求償関係の問題であることを前提にして、受給者は源泉納税義務の存否又は範囲を争って、支払者の請求を全部又は一部拒絶することができるものとされ、他方、㋑過大徴収の場合は、受給者は過大徴収税額相当額の控除後の残額の支払につき債務の一部不履行として当該控除額に相当する債務の履行を請求することができるかが問題になるが、この問題についても、同様に私法上の求償関係において、その請求をすることができるものとされている(判旨C前段落)。 以上に関連して、前記の①及び②のいずれにおいても当事者となる支払者がいずれの訴訟においても敗訴した場合を想定して、本判決は、「支払者は、かかる不利益を避けるため、右の抗告訴訟にあわせて、またはこれと別個に、納税の告知を受けた納税義務の全部または一部の不存在の確認の訴えを提起し、受給者に訴訟告知をして、自己の納税義務(受給者の源泉納税義務)の存否・範囲の確認について、受給者とその責任を分かつことができる。」(判旨C後段落)と判示している。受給者に対する訴訟告知に関するこの判示は、支払者の源泉徴収義務と受給者の源泉納税義務とが「表裏をなす関係」にあることを前提にして、前者に係る不存在確認の訴えにおいて「紛争の一回的解決」を図ることを考慮した判示であると解される。   Ⅳ おわりに 今回は、本判決による「源泉徴収法」の創造について、その判断の過程及び内容を整理し検討した。 「源泉徴収法」の創造に関する本判決の立場は、「(a)制度に従った処理を原則として認めつつ、しかし(b)その制度が権利救済に欠けるものであれば、制度に従った処理からの逸脱を辞さないという最高裁の立場」(高橋祐介「源泉徴収過程における過誤の是正に関する一考察」税法学571号(2014年)183頁、190頁)の現れといえるかもしれないが、少なくとも司法的救済保障原則(前掲拙著【27】参照)の観点からは肯定的に評価すべきであろう。ただ、それは「まがりなりにも、権利救済の途が存すること」(村上・前掲「判批」171頁)を示したにすぎないとの評価を受けても致し方ない面があることも認めざるを得ない。 本判決の問題点は、このように、源泉徴収をめぐる紛争の解決方法にもあるが(この点については差し当たり原田大樹「判批」別冊ジュリスト253号(租税判例百選〔第7版〕・2021年)220頁、221頁等参照)、そもそも、本判決が源泉徴収制度を申告納税制度と切り離して自己完結的な制度(いわば「閉じた制度」)として措定し「源泉徴収法」を創造したことそれ自体にあるように思われる。この問題点は、本判決に関する次の解説(可部・前掲「判解」1098-1099頁。下線筆者)からも窺われる。 上記の「その一」の場合には、本判決の創造した「源泉徴収法」によれば、当該支払者が過大徴収していた場合における受給者の権利救済もされないことになる。また、上記の「その二」の場合に関する「源泉徴収法」は、最判平成4年2月18日民集46巻2号77頁で明示的に確認された。 更に根本的には、源泉徴収制度それ自体が紛争を惹起しやすい構造をもつ制度であることも、本判決の問題点を検討する上では忘れてはならない。本判決の事案で問題になった認定賞与とりわけ低廉譲渡に係る認定賞与について次のように述べられているところである(可部・前掲「判解」1112頁(注5)。下線筆者)。 以上のように考えてくると、本判決が判例法理として創造した「源泉徴収法」は、申告納税制度との関係も含め所得税法及び国税通則法の全体構造の中で整合的な紛争解決・権利救済ルールとして、立法によって明文の規定をもって整序・修正すべきであろう。その際、源泉徴収義務者の納税義務について、いわば「納税義務の成立を二重写しにするだけ」(忠佐市『租税法の基本原理 租税法律主義論・租税法律関係論』(大蔵財務協会・1979年)209-210頁)の自動確定の観念を用いることが妥当か否か、どの範囲で用いるのが妥当かという問題も併せて検討すべきであろう。本判決が「源泉徴収法」を創造するに当たって納税義務の自動確定を所与の前提としていることも問題であると考えるところである。 (了)
#583(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/08/29
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例137(法人税)】 「分割があった場合の「試験研究費の認定申請書」の提出を失念したため、試験研究費の特別控除につき「調整計算の特例」の適用ができなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例137(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆分割が行われた場合の調整計算の原則 分割を行った法人が「試験研究費の特別控除」の適用を受ける場合には、分割前の事業年度に係る分割法人の比較試験研究費の額及び平均売上金額は、その全額を分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算する。 ◆分割が行われた場合の調整計算の特例 分割を行った法人が分割の日以後2ヶ月以内に、移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額及び売上金額とを区分する合理的な方法について納税地の所轄税務署に「試験研究費の認定申請書」を提出し、分割法人及び分割承継法人が納税地の所轄税務署にこの規定の適用を受ける旨の「試験研究費の届出書」を提出したときは、その移転事業に係る試験研究費の額及び売上金額を、分割法人の試験研究費の額及び売上金額から控除するとともに、分割承継法人の試験研究費の額及び売上金額に加算することができる。 ◆分割が行われた場合の調整計算の見直し(措令27の4⑭) (1) 改正の内容 令和5年度の税制改正により、分割が行われた場合の「調整計算の特例」について、分割法人による移転事業に係る試験研究費の額と移転事業以外の事業に係る試験研究費の額とを区分する合理的な方法について税務署長の承認を受ける「試験研究費の認定申請書」の提出及び当事者全てによる「試験研究費の届出書」の提出が不要とされ、特例を受ける法人がその適用を受ける事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより適用を受けることができることとされた。 (2) 適用時期 上記改正は令和5年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される。なお、改正前の制度が適用される事業年度において「調整計算の特例」を受けなかった場合には、調整計算の見直しの適用もないが、改正後の制度が適用される事業年度の確定申告書等、修正申告書又は更正請求書に所定の事項を記載した書類を添付することにより、その事業年度において改正後の調整計算の適用を受けることができる。       (了)
#583(掲載号)
#齋藤 和助
2024/08/29
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

学会(学術団体)の税務Q&A 【第8回】「講習会事業・資格事業(法人税)」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第8回】 「講習会事業・資格事業(法人税)」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 講習会事業と収益事業 講習会事業が収益事業に該当するか否かにあたっては、まず、法人税法施行令が掲げる34の特掲事業(法令5①)のうち、技芸教授業(法令5①三十)に該当するか否かで判断することになる。 技芸教授業とは、技芸の教授、学力の教授及び公開模試学力試験を行う事業をいう。そして、技芸教授業における技芸とは、具体的に次の22種類をいう(法令5①三十)。 〈技芸22種類〉 上記22種類の技芸に該当する講習会の場合は、原則として収益事業(技芸教授業)に該当するが、上記22種類の技芸に該当しない講習会の場合は収益事業(技芸教授業)に該当しない。学会が行う講習会の場合、上記22種類の技芸に該当しているケースは多くないと思われるため、学会の講習会が収益事業に該当するケースは少ないと思われる。   2 資格事業と収益事業 技芸教授業に関しては、「技芸に関する免許の付与その他これに類する行為を含む」とされているため(法令5①三十かっこ書き)、資格事業が収益事業に該当するか否かの判断は、講習会と同様、その内容が22種類の技芸に該当するか否かで行うことになる。 そのため、上記22種類の技芸に該当する資格の場合は、原則として収益事業(技芸教授業)に該当するが、上記22種類の技芸に該当しない資格の場合は、収益事業(技芸教授業)に該当しない(法基通15-1-66)。学会が行う資格事業の場合、上記22種類の技芸に該当しているケースは多くないと思われるため、学会の資格事業が収益事業に該当するケースは少ないと思われる。 ◆法人税基本通達15-1-66(技芸教授業の範囲)   3 公益法人の学会が公益目的事業の一環として実施する場合 上記22種類の技芸に該当する講習会や資格の場合は、技芸教授業に該当することになるが、たとえ技芸教授業に該当するような場合であっても、公益法人の学会が、公益目的事業の一環として、講習会事業や資格事業を実施する場合は、法人税法上の収益事業から除外される(法令5②一)。   (了)
#583(掲載号)
#岡部 正義
2024/08/29
固定資産税・都市計画税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第40回】「相続開始日の前日に持分放棄をした場合、相続人は不動産を承継しないからその相続人に対する賦課決定処分は違法であるとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第40回】 「相続開始日の前日に持分放棄をした場合、相続人は不動産を承継しないからその相続人に対する賦課決定処分は違法であるとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷課税台帳主義とその例外 固定資産税は、賦課期日に固定資産を有している者に対して課されるものである(地法343①、359)。この場合の固定資産の所有者というのは、土地又は家屋については、登記簿又は土地補充課税台帳若しくは家屋補充課税台帳に所有者(区分所有に係る家屋については、当該家屋に係る建物の区分所有等に関する法律2条2項の区分所有者とする)として登記又は登録がされている者(地法343②前段)とされる。つまり、固定資産の所有者であっても、固定資産課税台帳に所有者として登録されない限り、固定資産税を課されることはない(※1)。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)771頁 また、賦課期日である1月1日に売買して所有権が移転したとしても、固定資産課税台帳に所有者として名前が記載されている限り固定資産税の納税義務を免れることはない(本連載【第36回】「1月1日に売却した家屋のその年の固定資産税等の納税義務者は売主であるとされた事例」参照)。 しかし、納税義務者が死亡した場合、死者に課税することはできない。そこで、所有者として登記又は登録がされている個人が賦課期日前に死亡しているとき、若しくは所有者として登記又は登録がされている法人が同日前に消滅しているとき、又は所有者として登記されている地方税法348条1項の者が同日前に所有者でなくなっているときは、同日において当該土地又は家屋を現に所有している者をいうものとされている(地法343②後段)。 土地又は、建物の所有者が死亡したが、登記名義はそのままになっていた場合において、その土地又は建物が複数の相続人の共有に属している場合には、各共有相続人は、その土地又は建物に対する固定資産税の全額について納税義務を負うことになる(※2)。 (※2) 金子・前掲(※1)書、777頁 では、共有不動産の持分所有者が死亡日の前日に共有持分を放棄した場合は、その持分に係る固定資産税の納税義務者は、死亡した者の相続人になるのだろうか。今回は、この件で争われた事例を検討する。   ▷どのような事例か この事例は、平成30年1月25日に亡くなった者が共有の不動産(以下「本件不動産」)を有していたが、死亡日の前日に本件不動産の持分を放棄する旨の意思表示をしていた。なお、放棄に基づく持分移転の登記はなされていなかった。 相続により相続人(子)(以下「審査請求人」)は単純承認をしていた。 処分庁は、平成31年1月1日時点における本件不動産の所有者は、相続人代表者指定届を提出した相続人である子であるとして賦課決定処分を行った。 これに対して審査請求人は、賦課期日である平成31年1月1日時点において、現に所有している者に該当しないから、不動産に係る固定資産税等の納税義務を負わないとして審査請求を行ったのが本事例である。   ▷争点及び審査請求人・処分庁の主張 争点は2つあったが、今回は、固定資産税等の賦課期日において、地方税法343条2項後段の「現に所有している者」は、登記名義人の相続人であるか否かの争点のみを検討する。また、本事例は、固定資産税だけでなく、都市計画税についても争われたが、固定資産税の論点に絞って検討する。 審査請求人は、不動産共有持分は被相続人の死亡する日の前日をもって共有持分の放棄の意思表示を行っており、民法255条の規定により、不動産に係る被相続人の共有持分は、死去の前日に、他の共有者に帰属することになったため、審査請求人は、本件不動産に係る賦課期日(平成31年1月1日)において、不動産の所有者でないから固定資産税の納税義務を負わないと主張した。 一方、処分庁は、本件不動産について、登記簿上、被相続人が共有者として登記されたままであって、被相続人の持分について移転登記されていないことから、その相続人代表者である審査請求人が本件不動産を現に所有している者であると主張した。   ▷答申書の審理員意見書と裁決 審査請求があった場合、審査庁に属する職員が審理手続きを行う審理員に指名され、処分について審理した上で、審理員意見書を作成提出する。その後、行政不服審査会へ諮問し、その答申を受け、裁決が行われる。 本事例の意見書の要旨は以下のとおりである。 答申書の結論は、審査請求人の主張に関する部分については認容すべきであるとし、裁決ではこれを受けて処分を取り消すとした。   ▷処分庁の主張に対する審査庁の判断 処分庁は、平成27年7月17日最高裁判所第二小法廷判決(平成26年(行ヒ)第190号固定資産税等賦課徴収懈怠違法確認等請求事件(TAINSコード:Z999-8352)、以下「平成27年最高裁判決」という)に基づき、租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきではなく、平成27年最高裁判決の事案においても地方税法343条2項後段の類推適用が否定されたと主張するが、平成27年最高裁判決において、「現に所有している者」というためには、当該土地の所有権が当該者に現に帰属していることが必要であるとし、所有権の帰属を確定する必要がある旨判示している。 地方税法343条2項後段の「現に所有している者」という規定を文言に基づいて解釈すれば、実体法上所有権を有している者と解することが相当であり、同項前段から「登記簿(中略)に所有者として登記されている者」である相続人をもって、本件不動産を「現に所有している者」と解することは困難と言わざるを得ない。 処分庁は、審査請求人らが本件不動産の持分移転登記をなし得たこと、持分放棄により登記名義人が納税義務を免れるとすれば課税事務に多大な影響を及ぼすこと等を主張するが、たとえ処分庁が主張するような課税又は徴収上の不都合が生ずることがあったとしても、平成27年最高裁判決にもあるとおり、租税法律主義の原則に照らすと、租税法規はみだりに規定の文言を離れた解釈をするべきではなく、課税実務上の不都合の存在を理由として、規定の文言から離れた解釈をすることは許されないものと解することが相当であると判断した。 *   *   * 登記名義人が生存している場合は、不動産等を売却したとしても賦課期日現在の課税台帳の名義人という形式で納税義務者が決まるが、死亡している場合は、真の所有者が納税義務者となる。本事例では、登記名義人が死亡したのは平成30年1月25日で、賦課期日が平成31年1月1日であることから、持分放棄の登記をするための時間的な余裕は十分にあった。それにもかかわらず、登記なく持分放棄が認められたことに対する処分庁の主張は納得できる。しかし、法が改正されない限り、同じような事例で悪用されても処分庁の主張が認められる可能性は低いのだろうか。 (了)
#583(掲載号)
#菅野 真美
2024/08/29

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