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国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第53回】「サンリオ事件-外国子会社合算税制における適用除外規定の適用-(地判令3.2.26、高判令3.11.24)(その2)」~法人税法69条15項、(旧)租税特別措置法66条の6第3項(現行2項)、7項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第53回】 「サンリオ事件 -外国子会社合算税制における適用除外規定の適用- (地判令3.2.26、高判令3.11.24)(その2)」 ~法人税法69条15項、(旧)租税特別措置法66条の6第3項(現行2項)、7項~   税理士 吉村 優     5 考察 (1) A社及びB社の主たる事業が「著作権の提供」に該当し、外国子会社合算税制の適用除外要件を満たさないか否か(主たる争点①) 裁判所は「その余については判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと判断する。」と判示し、実体審理を行わなかった。 外国子会社合算税制の適用除外要件該当性については、次の主たる争点②において考察するが、結論としては「適用除外記載書面の添付漏れ」という状況により外国子会社合算税制の適用除外要件を満たさないことが確定する。したがって、A社及びB社の主たる事業がいかなるものであれ、外国子会社合算税制の適用に関する判断が変わることはなく、裁判所の判断は妥当なものであると考える。 (2) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していなくても、外国子会社合算税制の各適用除外規定の適用を受けられるか否か(主たる争点②) 原告はこの争点について以下の主張を行っている。 私見として、当時の措置法66条の6第7項(※1)を文理解釈すると、「確定申告書への適用除外記載書面の添付が本件各適用除外規定の適用要件とされていることは明らかといえる。」という裁判所の判断は正しいと考える。 (※1) 平成29年度税制改正により外国子会社合算税制は大幅に改正されている。この改正により適用除外記載書面の確定申告書への添付義務は廃止されている。 Xは上記主張のほか、香港子会社A社及びB社に係る申告及び納税スケジュールを踏まえると税負担割合の算定ができなかったとことにつき「やむを得ない事情」があったと主張しているが、この主張は却下されている。平成27年度税制改正により宥恕規定が制定されているが、宥恕規定における「やむを得ない事情」に、香港子会社に係る申告及び納税スケジュールがXの申告期限と合わないことが該当するとは考え難い(※2)。また宥恕規定を、過去にさかのぼって適用することが許されないことは明らかである。 (※2) 控訴審判決では、「平成27年度税制改正後の措置法66条の6第8項所定の『やむを得ない事情』は、一般的に『天災等、本人の責めに帰さない突発的事情』と理解されており、『特定外国子会社等の所在地国が賦課課税制度を採用していることにより内国法人の確定申告時までに正確な租税負担割合を算定できないこと』は、一般的に『やむを得ない事情』に当たらない。」と判示されている。 ただし、適用除外記載書面の添付漏れという理由のみにより適用除外要件の対象外となってしまうということは、本来外国子会社合算税制の適用を受ける必要がない納税者に対してまで課税を拡大することとなり、国際的二重課税を助長し、納税者に不当な負担を生じさせるという一面もある。外国子会社合算税制の趣旨を鑑みれば、法の建付けそのものが納税者に対して厳しすぎるものであるように感じられる。 (3) 確定申告書に適用除外記載書面を添付していない旨のYの主張は違法な理由の差し替えであって許されるか否か(主たる争点③) 裁判所は、この争点について、理由付記が求められる趣旨との関係で検討する必要があるとし、「上記追加主張を許すことによって、課税庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制する機能が害され、又は、相手方に不服の申立てに便宜を与える機能が害されたりするとまではいえない。」、「上記追加主張を許すことにより、理由付記が求められる趣旨が没却されるということはできない。」と述べ、追加主張を認めることにより、理由付記が求められている趣旨が阻害されていることにはならないと判断している。この判断は妥当なものであると考える。 (4) A社及びB社が納付した外国法人税の額について、外国税額控除が適用されるか否か(主たる争点④) 原告はこの争点について以下の主張を行っている。 上記の納税者の主張に対し、裁判所は、こちらも確定申告書への明細書の添付漏れを理由として外国税額控除の適用を認めなかった。 法人税法69条15項の外国税額控除の手続き規定については、確定申告書への明細書の添付は必要とされており、裁判所の判断は妥当なものであると考える。 納税者が外国子会社合算税制の適用を想定していない場合(又は適用対象外であると判断している場合)、当然外国税額控除の適用に関する書面を添付していない。このような状況の下で、外国子会社合算税制の適用を受けた場合、外国税額控除の適用まで認められないとすれば、国際的二重課税の状態となり、納税者にとって過度の負担が生じることとなるが、制度上はやむを得ないと考える。   6 事業基準における適用除外要件該当性についての検討 岡村忠生氏は、「著作権の提供とは何か」という重要な争点について裁判所が判断を行わなかった点について以下のように述べている(※3)。 (※3) 岡村忠生「サンリオ事件判決への疑問」国際税務42巻4号(2022)47頁 青山慶二氏は、「キャラクタービジネスにおける、相乗効果を伴った3種類の事業活動は、伝統的で静的なライセンス付与・ロイヤルティ収受業務とは異なり、進出先における顧客ニーズを踏まえた積極的な営業活動等と結びついた独自の事業と認定できる余地があると思われる。」と述べ(※4)、事業基準該当の積極認定の可能性を示唆している。 (※4) 青山慶二「外国子会社合算税制における適用除外基準(現行法下では経済活動基準)のうち著作権の提供に適用される事業基準について」TKC税研情報31巻2号(2022)75頁 A社及びB社の主たる事業が「著作権の提供」に該当するのかどうかに関する検証は、一連の問題の重要争点であるにもかかわらず、裁判所は「その余については判断するまでもなく、原告の請求には理由がないと判断する。」と端的に述べ、実体審理を行わなかった。 本件は、平成29年度税制改正前の事案であり、適用除外記載書面の添付漏れという手続き要件不備による外国子会社合算税制の適用は免れないとしても、キャラクタービジネス分野における外国子会社合算税制の対象となる「著作権の提供」の範囲について、司法の判断が示されなかったことは心残りである。   (了)
#583(掲載号)
#吉村 優
2024/08/29
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 開示関係

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第26回】「その他の注記③」-企業結合・事業分離に関する注記-

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第26回】 「その他の注記③」 -企業結合・事業分離に関する注記-   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における企業結合・事業分離に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 連結注記表及び個別注記表において、企業結合・事業分離に関する注記は必ず記載しなければならない項目ではなく、その重要性を勘案して、企業集団の財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と判断した場合に注記することになります。 注記する内容は、会計基準で定められている注記事項や有価証券報告書で開示が求められる事項を参考に検討することが一般的です。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、連結注記表、個別注記表どちらも企業結合・事業分離に関する注記について具体的な記載例は示されておらず、次のような記載上の注意が示されています。 【連結注記表】 (※) 個別注記表では、上記の「連結注記表」を「個別注記表」に読み替えた形式で記載上の注意が示されています。   2 注記事項の解説 (1) その他の注記(企業結合・事業分離に関する注記)の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき企業結合・事業分離に関する注記事項の定めは会社計算規則にはなく、次のようなその他の注記として包括的に定められています(会社計算規則第116条)。 (2) 注記事項の解説 企業結合・事業分離に関する注記は、会社計算規則上、必ずしも記載が求められているものではなく、財産又は損益の状態を正確に判断するために必要と企業が判断した場合に注記することになります。 例えば、企業結合に関する注記を記載する場合、「企業結合に関する会計基準」第49項で定める以下の項目を参考に注記することが実務的には多いです。 他にも、企業結合や事業分離では様々な場合に注記を求めていますが、いずれの場合も「企業結合に関する会計基準」や「事業分離等に関する会計基準」で定める注記事項に沿って注記を作成することが考えられます。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [株式会社フジシールインターナショナル 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社フジシールインターナショナル「第66期定時株主総会の招集に際しての電子提供措置事項」15~16頁より抜粋。 [株式会社セブン銀行 2024年3月期 連結注記表] ※株式会社セブン銀行「第23回定時株主総会招集ご通知交付書面への記載を省略した事項」19頁より抜粋。 [SBテクノロジー株式会社 2024年3月期 連結注記表] ※SBテクノロジー株式会社「第36期定時株主総会招集ご通知」70~71頁より抜粋。 *  *  * 次回の第27回は、「その他の注記(資産除去債務に関する注記)」をテーマに解説します。   (了)
#583(掲載号)
#竹本 泰明
2024/08/29
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 開示関係

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第5回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第5回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、第一部【企業情報】第3【設備の状況】の作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 【設備投資等の概要】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の1【設備投資等の概要】では、当連結会計年度の設備投資の目的、内容及び投資金額をセグメント情報に関連付けて概括的に記載する。また、重要な設備の除却、売却等があった場合には、その内容及び金額をセグメント情報に関連付けて記載する。 【事例:ヤマトホールディングス(株)2024年3月期の有価証券報告書】   2 【主要な設備の状況】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の2【主要な設備の状況】では、当連結会計年度末における主要な設備(連結会社以外の者から賃借しているものを含む)について、提出会社、国内子会社、在外子会社の別に、会社名(提出会社の場合を除く)、事業所名、所在地、設備の内容、設備の種類別の帳簿価額(土地については、面積も記載)及び従業員数を、セグメント情報に関連付けて記載する 【事例:フリービット(株)2024年4月期の有価証券報告書】   3 【設備の新設、除却等の計画】の作成実務ポイント 第3【設備の状況】の3【設備の新設、除却等の計画】では、連結会社において当連結会計年度末に重要な設備の新設、拡充、改修、除却、売却等の計画がある場合には、その内容(例えば、事業所名、所在地、設備の内容、投資予定金額(総額及び既支払額)、資金調達方法(増資資金、社債発行資金、自己資金、借入金等の別をいう)、着手及び完了予定年月、完成後における増加能力等)を、セグメント情報に関連付けて記載する。 【事例:(株)デサント 2024年3月期の有価証券報告書】 (了)
#583(掲載号)
#西田 友洋
2024/08/29
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

税理士事務所の労務管理Q&A 【第21回】「就業規則の作成義務」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第21回】 「就業規則の作成義務」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   就業規則とは、労働時間や賃金、休暇等の労働条件について規定したものですが、常時10人以上の労働者を雇用する事業所には、作成・届出義務があります。今回は、就業規則の作成等に関する留意点について解説します。 * * 解 説 * * 1 就業規則の作成・届出義務 常時10人以上の労働者を雇用している事業所は、就業規則の作成義務と労働基準監督署に届け出る義務があります(労働基準法第89条)。常時10人以上というのは正規・非正規労働者を問いません。 ご質問のように、正職員5人でパート職員が5人であれば、合計10人になり、就業規則を作成して届け出る義務が生じます。   2 就業規則の記載内容 就業規則には、主に労働時間や賃金等の労働条件を記載しますが、必ず記載しなければならない事項(絶対的記載事項)と事業所にその定めがあれば記載しなければならない事項(相対的記載事項)があります。   3 就業規則の作成手続き 使用者は、就業規則の作成又は変更については、過半数を代表する者(※)の意見を聴かなければなりません(労働基準法第90条第1項)。 (※) 過半数を代表する者とは、その事業所に労働者の過半数を代表する労働組合がある場合にはその労働組合、ない場合には労働者の過半数を代表する者をいいます。 労働基準監督署には、就業規則(本体)と就業規則届 (〈記載例1〉参照)に意見書(〈記載例2〉参照))を添付して、届出をします。それぞれ2部作成し、受付印が押された就業規則の控えを受け取ります。 〈記載例1〉 〈記載例2〉   4 就業規則の周知義務 使用者には、就業規則を周知する義務が課せられています(労働基準法第106条第1項)。労働者に就業規則の内容を知らせなければなりません。 就業規則の周知方法は、労働基準法施行規則第52条の2に定められており、次の3つの方法のいずれかを行う必要があります。   5 留意点 労働基準法第2条では、「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」と規定されています。就業規則は、労働者及び使用者それぞれに遵守義務があります。 したがって、使用者が就業規則を守らない場合は、労働基準法違反になり、逆に労働者が就業規則を守らない場合は、就業規則の定めにより服務規律違反等の処分の対象になります。 (了)
#583(掲載号)
#佐竹 康男
2024/08/29
労務・法務・経営 経営

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例96】ENECHANGE株式会社「公認会計士等の異動に関するお知らせ」(2024.7.5)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例96】 ENECHANGE株式会社 「公認会計士等の異動に関するお知らせ」 (2024.7.5)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ENECHANGE株式会社(以下「エネチェンジ」という)が2024年7月5日に開示した「公認会計士等の異動に関するお知らせ」である。同社の会計監査を担当する有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」という)が退任することになったのだが(この時点で後任は未定。同年7月30日に「一時会計監査人の選任に関するお知らせ」を開示)、その「異動に至った理由及び経緯」の記載は次のとおりである(下線は筆者による)。 あずさ監査法人は、エネチェンジによる不正を理由として退任することになったのだが、その不正は、エネチェンジがSPCを「意図的に」連結子会社から外していたことである(意図的でなければ誤りで済むが、意図的であれば不正となる)。   2 外部調査委員会の見解 エネチェンジは、2024年3月27日に「外部調査委員会の設置及び2023年12月期有価証券報告書の提出期限延長申請の検討に関するお知らせ」を開示し、あずさ監査法人から「SPCの連結要否の検討に必要な情報が当社取締役会等に適時かつ十分に報告又は共有がされていなかった等の内部統制上の問題点があるのではないかとの指摘を受け」、外部調査委員会を設置したとしていた。 そして、その調査報告書を同年6月21日に受領した後(同日開示「外部調査委員会の調査報告書の受領に関するお知らせ」)、同年6月27日に公表した(同日開示「外部調査委員会の調査報告書の公表に関するお知らせ」)。調査報告書によると、SPCを連結子会社とするか否かを判断するにあたり必要な以下の4点の情報について、エネチェンジからあずさ監査法人に対して説明されていなかったり、説明と事実が異なっていたりしたという(「城口氏」は当時の代表取締役の城口洋平氏、「X氏」はSPCの最大出資者、「ENE社」はエネチェンジ)。 上述のとおり、説明されていなかったり、説明と事実が異なっていたりしたことが意図的であれば、不正となるのだが、調査報告書は、意図的であるという事実は認められなかったと結論付けている。 ただし、調査報告書はエネチェンジにおける様々な問題点を指摘している。意図的であるという事実は認められなかったとしても、説明されていなかったり、説明と事実が異なっていたりしたのである。第6章の「本調査において認められた問題点に係る原因分析」では、その原因として主に内部統制上の問題があげられているのだが、その中に「株価の上昇を強く志向する一方でコンプライアンスを軽視した経営トップらの姿勢」として次のような記載がある。 外部調査委員会としては、調査した限り不正ではないという認定に至ったわけだが、エネチェンジは不正が極めて生じやすい状況にあったといえる(不正リスク要因は揃っている)。   3 監査法人の見解 あずさ監査法人は、「外部調査委員会の調査結果を踏まえてもなお、財務諸表の重要な虚偽表示の原因となる経営者による不正があったと判断した」ため、退任することにしたのだが、今回の開示の4日後の2024年7月9日に提出された第9期有価証券報告書に添付された監査報告書の「監査上の主要な検討事項」いわゆるKAMには、「経営者による内部統制の無効化リスクへの対応」があげられており、それへの「監査上の対応」の中には次のような記載がある(下線は筆者による)。 あずさ監査法人は、監査手続の結果、不正が存在したと判断し、エネチェンジに対して「見解書」を提出している(過去に不正が存在していたということであり、この監査報告書における意見は無限定適正)。不正は存在しなかったと判断する外部調査委員会による調査報告書のみ公表され、不正が存在したと判断するあずさ監査法人による「見解書」が公表されないのは妥当なのだろうか。不正の有無を判断するのは本来あくまで監査法人であるし、投資家にとっても投資判断上重要な情報であるように思われる。エネチェンジは、あずさ監査法人による「見解書」を公表すべきかと思われるのだが。 (了)
#583(掲載号)
#鈴木 広樹
2024/08/29
読み物 連載

プラス思考の経済効果 【第27回】「2024年祇園祭の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第27回】 「2024年祇園祭の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 京都の祇園祭は八坂神社の祭礼で、大阪の天神祭、東京の山王祭と並んで日本三大祭の1つです。そして、9世紀の貞観年間より続く京都の夏の風物詩で、毎年大勢の観光客が楽しみにしている歴史的行事の1つでもあります。昨年は新型コロナが5類に移行し、さらに行動制限がなくなって、今年は日本人の旅行客、また訪日外国人の観光客が急増してきているので、大勢の観光客が祇園祭に詰めかけたであろうと予想されています。今回は今年の祇園祭の経済効果を推計しました。   2 祇園祭の直接効果 (1) 観光客数 まず、今年の観光客数を予測しましょう。京都府警の発表による、過去の祇園祭の前祭(4日間)と後祭(4日間)の観光客数は以下の通りです。 〈最近の祇園祭の観客数〉 国土交通省観光庁の2024年5月15日発表の「旅行・観光消費動向調査 2024年1-3月期(速報)」によると、今年の1-3月の日本人国内延べ旅行者数は対前年比で+9.6%でした。また、訪日外国人の2024年の1-5月の対前年比の伸び率は+69.5%でした。(日本政府観光局、2024年6月19日発表)。それらの数値を考慮して、2024年の祇園祭の観客数は対前年比で少なくとも約10%は増加すると仮定します。そうすると、2024年の祇園祭の観客数は約90万2,000人となります。 まず、この観光客の内訳を分析します。「令和元年京都観光総合調査」によると、新型コロナ前の2019年の京都市内の総観光客の約83.4%は日本人、約16.6%は訪日外国人でした。この比率を用いると、今年の祇園祭の日本人観光客は約75万2,268人、訪日外国人観光客は約14万9,732人となります。 次に、これらの日本人観光客と訪日外国人観光客について、日帰り客数と宿泊客数を推計します。前述の京都市の「令和元年京都観光総合調査」によると、2019年の京都市内の日本人観光客のうち日帰り客は約79.0%、宿泊客は約21.0%でしたので、今年の日本人の日帰り観光客は約59万4,292人、宿泊客は約15万7,976人となります。 また、前述「令和元年京都観光総合調査」によると、2019年の京都市内の外国人観光客のうち日帰り客は約57.1%、宿泊客は約42.9%でしたので、日帰り客は約8万5,497人、宿泊客は約6万4,235人となります。 (2) 観光客の消費金額 ① 日本人観光客の消費金額 令和4年の京都市の「観光客の動向等に係る調査」によると、諸物価の高騰などにより2022年の京都市内の日本人観光客の日帰り客1人当たりの消費額は1万2,244円、宿泊客1人当たりの消費額は5万9,490円でした。さらに、総務省の令和6年1月19日発表の「2020年基準消費者物価指数」によると、2023年の総合物価指数は対前年比で3.2%の上昇率でしたので、2024年もほぼ同様(3.2%)の上昇率と仮定すると、2024年の京都市内の日本人観光客の日帰り客1人当たりの消費額は約1万3,040円、宿泊客1人当たりの消費額は約6万3,358円になると推定されます。 計算の結果、日帰り日本人観光客の消費額は約77億4,957万円、宿泊客の消費額は約100億904万円、日本人観光客の消費総額は約177億5,861万円となります。 ② 外国人観光客の消費金額 次に、外国人観光客の消費額を推計します。京都市の「令和元年京都観光総合調査」によると、2019年の京都市内における日本人の日帰り観光客1人当たりの消費額は約1万1,054円、宿泊客1人当たりの消費額は約5万4,970円で、他方外国人観光客の日帰り客1人当たりの消費額は約1万9,766円、宿泊客1人当たりの消費額は約6万991円でした。 そこで、日本人の2019年から2024年までの観光客の上昇率を訪日外国人に適用すると、次のように2024年の外国人観光客で日帰り客の1人当たり消費額は約2万3,317円、宿泊客の1人当たりの消費額は約7万298円となりました。 〈日帰り外国人観光客の1人当たり消費額〉 〈宿泊外国人観光客の1人当たり消費額〉 この値を用いると、訪日外国人観光客の日帰り客の消費額は約19億9,353万円、宿泊客の消費額は約45億1,559万円、訪日外国人観光客の消費総額は約65億912万円となります。 ③ 観光客の消費総額 これまでの計算の結果、今年の祇園祭の日本人観光客と外国人観光客の消費総額は約242億6,773万となります。   3 祇園祭の経済効果 今年の祇園祭に関する直接効果、つまり観光客の消費総額の約242億6,773万円を基準にして、京都府の2015年の「京都府産業連関表」を用いて経済効果(経済波及効果)を計算した結果は、以下の通り約203億1,209万円となりました。この金額は、近年では祇園祭の経済効果の最高額であると推定されます。 〈祇園祭の経済効果〉   4 まとめ 2024年の祇園祭の経済効果が近年では最高額の約203億1,209万円となった理由として、以下のことが考えられます。 祇園祭の最近の経済効果は以下に示されています。 〈最近の祇園祭の経済効果〉 京都の祇園祭は京都・関西地域のみならず日本中の人たちが楽しみにしている祭の1つです。最近は訪日観光客数も増加してきています。上記の表を見ると、祇園祭がいかに京都のまちにとって大きな経済効果をもたらしているかがよくわかります。ただ、祇園祭は神事であり、観光のための行事ではありません。これからも神事としての伝統を守り、また地元の経済発展に貢献するように、バランスをとって祇園祭が発展していくことを願っています。 (了)
#583(掲載号)
#宮本 勝浩
2024/08/29
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 税務・会計 財務会計 速報解説一覧 開示関係

《速報解説》 GM課税制度に係る法人税等の会計処理等の取扱いに対応した「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令」等が公布・施行される

《速報解説》 GM課税制度に係る法人税等の会計処理等の取扱いに対応した 「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令」等が公布・施行される   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024(令和6)年8月22日、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第70号)が公布された。これにより、2024年6月14日から意見募集されていた内閣府令(案)等が確定することになる。内閣府令(案)等に対するパブリックコメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方も公表されている。 これは、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 財務諸表等規則について次のように改正する(連結財務諸表規則も基本的に同様に改正する)。 財務諸表等規則ガイドライン及び連結財務諸表規則ガイドラインも改正する。   Ⅲ 施行日等 公布の日(2024年8月22日)から施行する(経過措置に注意)。 (了)
#阿部 光成
2024/08/26
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.582が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年8月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.582を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2024/08/22
税務 税務・会計 解説 解説一覧

日本の企業税制 【第130回】「スタートアップ育成をめぐる制度整備」

日本の企業税制 【第130回】 「スタートアップ育成をめぐる制度整備」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   わが国にスタートアップを生み育てるエコシステムを創出し、第2の創業ブームを実現するため、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」(以下「5か年計画」という)が閣議決定されてから2年が経過しようとしている。   〇税制改正 スタートアップの起業数・投資額を5年で10倍(10万社・10兆円)にすることを目標に掲げた5か年計画を背景に、令和5年度税制改正、令和6年度税制改正と連続して、スタートアップ育成に向けた多くの税制措置が講じられてきた。 直近の令和6年度税制改正では、次のような措置が講じられている。   〇産業競争力強化法等の改正 また、先の通常国会で可決成立した「新たな事業の創出及び産業への投資を促進するための産業競争力強化法等の一部を改正する法律」では、スタートアップ関連措置として産業競争力強化法と投資事業有限責任組合契約に関する法律(投資有責法)の改正が盛り込まれている。 産業競争力強化法においては、ストックオプションを柔軟かつ機動的に発行できる仕組み、いわゆるストックオプションプールを可能にする手当がなされた。この結果、設立から15年未満のスタートアップで、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けたものは、株主総会の委任決議から1年経過後も、取締役会の判断で権利行使価額や権利行使期間を定めることが可能となった。 一方、投資有責法においては、投資事業有限責任組合が取得及び保有することができる資産として暗号資産が追加されるとともに、外国法人への投資に関する規制が緩和された。   〇新しい資本主義実行計画改訂版での課題提起 本年6月の政府の「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2024年改訂版」では、「海外投資家を含むスタートアップへの投資資金の流動化」の一環として、「海外投資家の外国組合員特例税制について、海外LP(Limited Partner:有限責任組合員)から国内GP(General Partner:無限責任組合員)への投資を促す上での税制の在り方等について、政策ニーズや課題を踏まえつつ、検討を行う」とされている。   〇外国組合員特例税制とは 本来、国内にある恒久的施設を通じて事業を行う組合の組合員である非居住者・外国法人は、国内に恒久的施設を有する非居住者・外国法人に該当することから、組合の事業から生じる国内源泉所得について申告納税の義務がある。 ただし、投資有責法に基づいて組成される投資事業有限責任組合の有限責任組合員は、組合に対して金銭出資を行うのみで組合の業務を執行しないので、その実態は組合の事業に対して投資を行う投資家に近い。 そこで、平成21年度税制改正で創設された外国組合員の課税所得の特例により、有限責任組合員である非居住者・外国法人のうち、組合としての共同事業性が希薄であると考えることができる「一定の要件」を満たす者については、国内に恒久的施設を有しない非居住者・外国法人とみなすこととされている。 この結果、わが国における課税の対象となる国内源泉所得の範囲が縮小され、多くの場合において申告納税を要しなくなる。なお、この特例の適用を受けるには、特例適用申告書を所轄税務署長に提出する必要がある。 上記の「一定の要件」(措法41の21①一~五)とは、次の5項目である。 なお、「一定の要件」は、原則として組合契約の締結の日から継続して満たしている必要があり、いったん満たさなくなったら再び満たしても適用は認められない。 上記③の要件は、有限責任組合員が投資組合の大部分の持分を保有するような場合には、その投資組合事業に係る業務の執行に対して有限責任組合員が少なからず影響力を有していると考えられることを踏まえ設けられたものであり、特例適用投資組合の組合員が「他の組合」であり、この特例の適用を受けようとする外国組合員がその「他の組合」の組合員である場合、その「他の組合」の特例適用投資組合に係る持分も合算する(措令26の30⑤三)。 ただし、令和3年度税制改正で、「他の組合」が「特定組合契約」(外国組合員の持分割合が25%未満)である場合には、外国組合員以外の者の「特定組合契約」に係る組合財産に係る持分割合を除外して計算することとされている(措令26の30④)。   (了)
#582(掲載号)
#小畑 良晴
2024/08/22
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第64回】「定期同額給与の期首からの改定」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第64回】 「定期同額給与の期首からの改定」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 定期同額給与の要件の確認 これまで本連載で確認してきたように、定期同額給与は役員給与を損金算入できる3類型の中で最も一般的なものであり、「その支給時期が一月以下の一定の期間ごとである給与・・・で当該事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの」であれば(法法34①一)、その要件を満たすこととなる。 国税庁によるQ&A「役員給与に関するQ&A(平成20年12月、平成24年4月改訂)」Q2が示す図に代表されるように、定期同額給与に関するあらゆる解説は、定時株主総会等の時点で役員給与の額の改定を定めることを前提としている。これは、定時株主総会にて決算の承認を行う際に、併せて役員報酬の額の改定を行うことが常であることが背景となっているといえる。 ここで、仮に、定時株主総会の時期ではなく、その法人の事業年度の期首の時点から役員給与の額の改定を行った場合、この定期同額給与の要件を満たすかどうか疑問が浮かぶ。法人税法34条が定める定期同額給与については上記の通りであり、その改定に関して定める法人税法施行令69条1項1号イでは、「当該事業年度開始の日の属する会計期間・・・開始の日から三月・・・を経過する日・・・まで・・・にされた定期給与の額の改定」と示されるのみである。また、通達においても、法人税基本通達9-2-12において「あらかじめ定められた支給基準(慣習によるものを含む。)に基づいて、毎日、毎週、毎月のように月以下の期間を単位として規則的に反復又は継続して支給されるものをいう」と示されているように、期首から改定することについての記載はなく、3月決算法人について3月分までの役員給与の額と4月分からの役員給与の額をそれぞれ同額としても、全く問題がないようにも思えるからである。 そこで、以下に若干の検討をしてみたい。   (2) 期首から改定する是非について言及された情報 一般に、役員の職務執行期間は、定時株主総会から次の定時株主総会までの1年間である。なお、定時株主総会は、会社法296条1項に「毎事業年度の終了後一定の時期に招集しなければならない」と定められていることが根拠となっている。これに対して、臨時株主総会は、同法同条2項にて、「株主総会は、必要がある場合には、いつでも、招集することができる」と定められていることが根拠となっている。したがって、期首から役員給与の額を改定しようとする場合には、定時株主総会ではなく、臨時株主総会を開催することで対応する流れとなる。 ここで、6月に開かれた定時株主総会にて4月からの役員給与の額を遡及して増額した場合には、「役員の職務執行期間開始前にその職務に対する給与の額が定められているなど支給時期、支給金額について『事前』に定められているものに限られています。したがって、既に終了した職務に対して、『事後』に給与の額を増額して支給したものは、損金の額に算入されないこととなります(下線部筆者)」とする国税庁の情報がある(※1)。 (※1) 国税庁「役員給与に関するQ&A(平成18年6月)」Q3、TAINS:法人事例005373。 これに対し、遡及改定ではなく期首時点で改定することについて「改定が認められる『当該事業年度開始の日の属する会計期間開始の日から3ヶ月経過等までにされた定期給与の改定』のケースに該当し、定期同額給与に該当すると判断しがちであるが、その事業年度を通じて毎月の支給時期における支給額が同額なのでもともと定期同額給与の定義に該当すると解釈すべきである」と解説するものもある(※2)。これによると、「本来の役員の職務執行期間は、定時株主総会から翌年の定時株主総会までの約1年間をいうのが一般的なので、本事例のように期首の月の臨時株主総会で定期給与の改定を決議した場合は、その後の同じ年に開催される定時株主総会で、その支給額を据え置く旨の確認決議をしておくべきである」という注意喚起がなされている。 (※2) 東京税理士界平成25年3月1日第674号、TAINS:法人事例東京会010011。   (3) どのように考えるべきか 今回の質問に関しては、明確な答えは存在していないといえる。定時株主総会にて行う決算の承認に合わせて改定を行うと定期同額給与の改定に関するリスクはないため、通常はこちらを採るべきといえよう。 しかし、期首に役員給与の額をどうしても改定しなければならない事情等がある場合には、この論点について検討することとなる。この場合、(2)で触れた国税庁の情報はあくまで遡及改定をすることに関するものではあるが、そのうち下線部筆者部分では役員の職務執行期間開始前に役員給与の額を定めておくべきということを明記しているため、これが当局のスタンスであると考えられる。また、事前確定届出給与に関するものであるが、職務執行期間について触れている法人税基本通達9-2-16が新設された際の解説では、職務執行期間は個々の事情に応じて判断するとしながらも、「一般的には、その会社の定時株主総会において役員に選任されその日にその職務に就任した者や当該定時株主総会の日に現に役員である者については、当該定時株主総会の開催日となると解される」とされており、一般的な認識と相違ないといえる。 このように考えれば、今回の質問は職務執行期間の中途である4月に臨時株主総会を開催して増額改定をすることとなるため、職務執行期間の開始前に定められたとはいえないと思われる。したがって、今回の質問のケースで定期同額給与の要件を満たしているというためには、職務執行期間の開始前に改定をしたといえる事情が必要であると思われるし、上記(2)の肯定する見解にもあるように、最低でも、定時株主総会でその支給額を据え置く旨の確認決議をしておくべきであるといえる。   (了)
#582(掲載号)
#中尾 隼大
2024/08/22

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