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〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第10回】「遺産分割協議が必要になった場合の注意点」
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第10回】 「遺産分割協議が必要になった場合の注意点」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 顧客の家族に相続が発生し、遺産分割協議が必要になりました。相続人のなかに認知症を患っている方がおり、遺産分割協議を進めるために成年後見人の選任を進めることになりました。私が成年後見人候補者となる可能性もありますが、どのような点に注意すべきでしょうか。 【A】 相続が発生し、遺産分割協議を進めるために成年後見制度を利用するケースがあります。遺産分割協議は相続人全員が参加して合意をする必要がありますが、合意をするには意思能力が必要になるためです。成年後見人としては、成年被後見人となった本人の相続分については遺産分割協議において権利を主張していくことになります。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 遺産分割協議が制度利用のきっかけに 筆者の実務上の経験では、遺産分割協議を行うことになったが相続人のうちに認知症を患っている方が存在するため、成年後見制度を利用することになるケースが増えているように思われます。特に高齢かつ子がいない方が被相続人である場合には、その方の親やきょうだいが相続人となるため、認知症を患っている方が相続人に存在する確率は高くなるようです。 遺産分割協議を進めるためには相続人全員が参加して遺産の分け方について合意をする必要がありますが、認知症により意思能力を喪失されている方については、有効な合意を行うことができません。そのため成年後見制度の利用を検討することになるのです。 2 成年後見人としては本人の権利を主張することになる 成年後見人が選任された場合、本人に代わって成年後見人が遺産分割協議に参加することになります。成年後見人としては、本人の相続分に相当する財産については、権利を主張していくことが求められます。 成年後見人の役割は被後見人の権利を守っていくことであるため、遺産分割協議においても本人の権利を主張していくのは当然のことではありますが、時として他の相続人が不満を持ってしまう場合があるようです。具体的な例として、以下のようなケースで考えてみます。 【配偶者のきょうだいが相続人であるケースの相続関係図】 この相続関係では被相続人の配偶者と、兄、姉(成年被後見人)が相続人となりますが、全員高齢です。このようなケースでは、きょうだいといえどもお互い独立して何十年も経過しており、きょうだいとしては被相続人の遺産の受取りを希望しないことが多い印象があります。 この場合でも、姉の成年後見人としては姉の相続分を主張していくことが基本的なスタンスとなります。配偶者としては、被相続人と自分が時間をかけて築き上げた財産に対して権利を主張されることに不満を覚えることもあるようです。予定していた資金計画に影響が出てしまうこともあるかもしれません。 税理士としても、成年後見人として遺産分割協議に参加する場合には、このような事態が生じうることは認識しておくべきでしょう。顧客との利害対立が起きる可能性もあることは十分に説明をしておく必要がありますし、トラブルになりそうな場合には就任を辞退することも選択肢の1つです。 3 遺言書の活用が重要 配偶者ときょうだいが相続人となるケースに実務で遭遇するたびに、遺言書作成の重要性を認識します。遺言書さえ作成しておけば遺産分割協議を行う必要がなくなり、きょうだいには遺留分もないため、配偶者に円滑に全財産を残すことが可能となるからです。 税理士としても遺産分割協議が難航しそうな顧客がいる場合には、遺言書の作成を提案していくとよいでしょう。 (了)
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《速報解説》 国税庁、予定納税・確定申告に係る定額減税Q&Aを更新~青色事業専従者等に係る定額減税の適用についての問答を追加~
《速報解説》 国税庁、予定納税・確定申告に係る定額減税Q&Aを更新 ~青色事業専従者等に係る定額減税の適用についての問答を追加~ Profession Journal 編集部 既報のとおり、令和6年4月30日に国税庁は令和6年分所得税の定額減税のうち予定納税・確定申告に関するQ&Aを公表していたところ、8月30日に本Q&Aが改訂され、新たに1問が追加されたほか、既存問答2問が修正された。 今回追加された問答「1-5-2 青色事業専従者等に係る定額減税の適用」では、青色事業専従者等につき同一生計配偶者等として定額減税の対象にならないのかという問いに対し、青色事業専従者等は定額減税の対象となる同一生計配偶者等には含まれないため、定額減税の適用を受けることはできないとしたうえで、青色事業専従者等が所得控除の合計額以上の所得金額であることなどにより、定額減税前の所得税額がある場合には、青色事業専従者等が自身で定額減税の適用を受ける必要があることを明らかにしている。 また、既存問答のうち「1-1 令和6年分の所得税に係る納期等の特例」と「2-5 令和6年5月31日以前に準確定申告書を提出している場合の定額減税」の2問が修正されている。 問1-1では、令和6年分の所得税に係る予定納税の納期やその減額申請期限等をまとめた表が修正され、新たに「(第1期分及び第2期分の)振替日」の項目が追記されたほか、問2-5では、改訂前は「令和6年5月31日以前に準確定申告書を提出した方は、同年6月1日から令和11年6月1日(月)までに更正の請求を行うことにより、定額減税の適用を受けることができる」(下線部は編集部による)としていたところ、下線部の曜日につき正しくは金曜日だったことから、「令和11年6月1日(金)」に修正されている。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.584が公開されました!~今週のお薦め記事~
2024年9月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.584を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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monthly TAX views -No.139-「わが国でも「タックス・ギャップ」の本格的な議論を」
monthly TAX views -No.139- 「わが国でも「タックス・ギャップ」の本格的な議論を」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 わが国の税制に関し、諸外国と比較して少ないと感じるのが「タックス・ギャップ」をめぐる議論である。そもそも「タックス・ギャップ」という言葉自体に対する定番の日本語訳が存在しないことが、その現状を物語っているといえよう。 * * * 政府は2015年2月に、「タックス・ギャップ」の推計を求める野党議員からの質問状に対し、要旨以下のとおり答弁書を提出している。 その理由として、下記の答弁が行われている。 (※) 第189回国会参議院答弁(答弁書第32号)(平成27年2月27日)より この答弁から10年が経過し、経済取引はグローバル化・デジタル化によってきわめて複雑化した。経済価値の多くを占める無形資産の評価の困難性、プラットフォームを経由した取引の増加、暗号資産(仮想通貨)の普及、Web3.0等の技術による経済変革など、変化を挙げればきりがない。それに伴い「タックス・ギャップ」も飛躍的に拡大していると考えられる。 * * * 筆者が数年前、欧州諸国の税務当局者を訪れ、意見交換をした際に、彼らの最大関心事の1つが、デジタル経済発達に伴う「タックス・ギャップ」であった。 また、OECDにおいて最も力を入れているプロジェクトの1つが、「タックス・ギャップ」防止のための方策である。 2020年にはOECD租税委員会で、不動産賃貸と個人サービスを対象として、シェアリングエコノミーやギグエコノミーにおいて売主となるプラットフォーム事業者による報告のモデルルールが公表され、2021年にはモデルルールに基づく自動的情報交換の実現に向けた国際的な情報交換のルール及び対象の拡大が公表された。これを受けEUでは2021年に指令(DAC7)が採択され、加盟各国で順次国内法が制定されている。 * * * わが国でも「こうした諸外国の取組みも踏まえつつ、検討を進めていく」(政府税制調査会答申「わが国税制の現状と課題-令和時代の構造変化と税制のあり方-」(令和5年6月30日)P255)とされているが、国民の理解を得てこのような改正を行うには、国税庁・財務省は、わが国のタックス・ギャップの状況を推計で示し、国民に現状を示す努力を行うことが必要だ。 先の政府答弁にある、「無作為に抽出した多数の納税者に対して『タックス・ギャップ』を推計する目的で調査等を行うことについては、そのコストや調査を受ける納税者の負担にも配慮する必要がある」という点については、2022年3月より国税庁の指導の下、申告所得税データを利用した学術研究が始まっており、「日本の所得税制に関する税務データに基づく分析の意義」(國枝繁樹、米田泰隆)という論文も公表されている。 条件は整いつつあるので、タックス・ギャップに関する本格的な議論を進めていく必要がある。 (了)
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法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例66】「中古資産を事業の用に供した後においてその耐用年数を変更することの可否」
法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例66】 「中古資産を事業の用に供した後においてその耐用年数を変更することの可否」 拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦 【Q】 私は、中部地方のある県庁所在地に本社を構え不動産賃貸業を営む株式会社X(資本金3,000万円で3月決算法人)において、経理部長を務めております。 よく知られている通り、わが国の経済は1980年代後半から1990年代前半にかけてのいわゆる「バブル経済」でピークを迎え、株式市場も不動産市場も大いに湧き立ったものですが、バブル崩壊後は長期不況に突入し、現在に至っております。それでも株式市場はバブル崩壊後何度か上昇機運に乗る時期がありましたが、不動産市場は全くもって鳴かず飛ばずで、ジリジリと下がり続ける厳しい時期が続きました。ようやくアベノミクスの効果が出て、株式市場のみならず不動産市場も上昇に転じ、地域的なバラつきはあるものの、都市部やインバウンド人気のリゾート地は不動産取引が活発となり、バブル期を上回る価格をつけるところも見られるようになってきました。 当社が保有する不動産は名古屋市内を中心に中部地方の県庁所在地や政令指定都市に立地しており、ここ数年は地価の上昇を背景に賃貸料についての値上げ交渉が可能となっているため、借入金利息の負担が依然重いものの、業績は持ち直しております。そんな中、先月から税務署の調査を受けており、当社が保有する賃貸物件(建物)の減価償却費について、議論のすれ違いが生じております。すなわち、当社が保有する建物の減価償却については、耐用年数を39年として定額法で計算しておりましたが、そのうち数棟は既存の建物を取得して賃貸物件として事業の用に供したことに気付いたことから、それ以後の事業年度については中古資産の耐用年数(簡便法)の適用により減価償却を行いました。 しかし、税務署の調査官は、中古資産の耐用年数の算定は、その中古資産を事業の用に供した事業年度において行うことができるものであり、その事業年度において耐用年数の算定をしなかったときは、その後の事業年度において耐用年数の算定をすることはできないと言い張っております。調査官の当該主張は不当であると考えるのですが、税法上はどのように考えるのでしょうか、教えてください。 【A】 企業の有する固定資産については、費用収益対応の原則から、その取得費につき減価償却費の計上を行うこととなりますが、当該固定資産が中古資産である場合には、その耐用年数は法定耐用年数ではなく、その事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によるか、又はその見積りが困難であるときは、簡便法により算定した年数によることができます。ただし、中古資産の耐用年数の算定は、その中古資産を事業の用に供した事業年度においてすることができるもので、仮にその事業年度において法定耐用年数で減価償却を行った場合には、その後の事業年度において中古資産の耐用年数の算定をすることはできません。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 減価償却費と損金経理 企業等の有する固定資産のうち、使用又は時間の経過によって価値の減少するものを減価償却資産という。そのような減価償却資産は、当該企業において長期にわたり収益を生み出す源泉であるため、費用収益対応の原則から、その取得費につき使用又は時間の経過によって価値の減少する度合いに応じて徐々に費用化すべきといえる(※1)。このような企業会計の考え方に則って、資産の取得価額を一時の費用とするのではなく、徐々に費用化する手続きが減価償却である。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂・2021年)389頁参照。 減価償却費の計上は基本的に上記のような企業会計の考え方に準拠しているが、法人税法においては、納税者が選択した償却方法で計算した金額は償却限度額であり、減価償却費として損金に計上されるのは、法人が確定した決算において費用として経理した金額のうち、償却限度額に達するまでの金額(損金経理した金額)である(法法31①)。 (2) 中古資産の耐用年数 中古資産を取得して事業の用に供した場合には、その中古資産の減価償却に係る耐用年数は、法定耐用年数ではなく、その事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によることができる(耐用年数省令3①一)。また、使用可能期間の見積りが困難であるときは、以下で示す「簡便法」により算定した年数によることができる(耐用年数省令3①二)。 〈簡便法による耐用年数の算定方法〉 ただし、その中古資産を事業の用に供するために支出した資本的支出の金額がその中古資産の再取得価額(中古資産と同じ新品のものを取得する場合のその取得価額をいう)の50%に相当する金額を超える場合には、使用可能期間の見積りや簡便法による耐用年数の算定をすることはできず、法定耐用年数を適用することになる(耐用年数省令3①)。 (3) 中古資産を事業の用に供した後においてその耐用年数を変更することの可否が争われた事例 それでは本件と同様に、中古資産を事業の用に供した後において、取得当初に見積もった耐用年数を変更することの可否が争われた事例(那覇地裁平成27年3月3日判決・税資265号-33(順号12616)、TAINSコード:Z265-12616)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、不動産賃貸業を営む原告が、法人税の申告に当たり、当初は、中古で取得した建物についても新築建物に係る法定耐用年数を適用して減価償却費の計算をしていたが、平成24年3月期になって、耐用年数を短縮して減価償却費の計算をしたところ、処分行政庁が、原告が適用した耐用年数には誤りがあるとして、平成24年12月25日付けで、原告に対し、法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたため、その取消しを求める事案である。 原告は平成20年3月期、平成21年3月期及び平成23年3月期の各事業年度に関する当初申告においては、中古建物につき、いずれも法定耐用年数39年で減価償却を行っていた。しかし、平成24年3月期においては、当該中古建物の耐用年数を変更(短縮)して減価償却費の計算を行い、その償却限度額の金額を損金の額に算入した。当該経緯を示したものが以下の表である。 〇 各事業年度の建物の減価償却費の金額(一部抜粋) ところで、原告の主張によれば、本件各中古建物について、中古資産に係る見積耐用年数を適用して申告し直したいと考えて、税務相談室に相談したところ、 1)過去3年にわたって申告し直すことができる旨の回答を得、また、 2)原告は、北那覇税務署法人課税第二部門の統括国税調査官から、平成24年3月期以降の事業年度においては、中古資産に係る見積耐用年数を適用して損金経理をすることができる旨の回答を得た。 したがって、原告は、このような各回答に反して行われた本件各更正処分等は、信義則に反する違法なものとして取り消されるべきである、としている。 なお、原告は、本件各建物について、いずれも法人税法施行令第57条に規定する耐用年数の短縮に係る承認を受けていない。 ② 事案の争点 ③ 裁判所の判断 争点(1) 争点(2) なお、本件は控訴されず確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと まず本裁判例の争点(1)において、中古資産の減価償却は法定耐用年数によることが原則であり、例外的に見積耐用年数又は簡便法によることができるという点が問われている。減価償却に関しては法人税法施行令で償却方法の変更手続き(法令52)が定められているのであるから、取得年度に選択した方法と異なる方法により償却を行いたいのであれば、その手続きを経るべきであり、それによらず納税者が任意に変更することはできないという点を確認した裁判所の判断は妥当といえよう。 次に、本裁判例の 争点(2)において、「各更正処分等は信義則に反する違法なもの」か否かが問われたが、そもそも信義則は、民法第1条第2項の信義誠実の原則ないし禁反言の原則(法理)を指し、誤った言動を信じて行動した者の期待や信頼を保護する趣旨のもので、私法のみならず公法(租税法)でも適用されると解されている(※2)。 (※2) 金子前掲(※1)書143頁参照。 本裁判例において納税者側が問題にした信義則とは、「本件各中古建物について、中古資産に係る見積耐用年数を適用して申告し直したいと考えて、税務相談室に相談したところ、 1)過去3年にわたって申告し直すことができる旨の回答を得、また、 2)原告は、北那覇税務署法人課税第二部門の統括国税調査官から、平成24年3月期以降の事業年度においては、中古資産に係る見積耐用年数を適用して損金経理をすることができる旨の回答を得た」にもかかわらず、課税庁が当該回答に反するような更正処分を行ったことであり、納税者は、税務相談室等に相談しそこから得た回答に反するような処分を行うことは信義則に反する違法なものとして取り消されるべきであると主張したところである。 裁判所は、税務署が税務相談室等の回答に反するような処分を行うことについて、その是非につき直接言及しているわけではないが、「租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の法理の適用については慎重でなければならず」という最高裁判例(最高裁昭和62年10月30日・訟月34巻4号853頁)に依拠して、本件は「租税法規の適用における納税者間の平等や公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存在する場合」に該当しないとして、納税者の主張を斥けている。 学説では、租税法律関係において信義則が適用されるためには、第1に、租税行政庁が納税者に対して信頼の対象となる公の見解を表示したこと、第2に、納税者の信頼が保護に値する場合でなければならないこと、第3に、納税者が表示を信頼しそれに基づいてなんらかの行為をしたこと、の3要件すべてが満たされることが必要とされている(※3)。本件に即してみれば、税務相談室等の回答は、第1の「信頼の対象となる一定の責任ある立場の者の(公の)正式な見解の表示」とは解されていないようである(※4)。 (※3) 金子前掲(※1)書145-147頁参照。 (※4) 金子前掲(※1)書145頁参照。 (4) 本件へのあてはめ 企業の有する固定資産については、費用収益対応の原則から、その取得費につき減価償却費の計上を行うこととなるが、当該固定資産が中古資産である場合には、その耐用年数は法定耐用年数ではなく、その事業の用に供した時以後の使用可能期間として見積もられる年数によるか、又はその見積りが困難であるときは、簡便法により算定した年数によることができる。ただし、中古資産の耐用年数の算定は、その中古資産を事業の用に供した事業年度においてすることができるもので、仮にその事業年度において法定耐用年数で減価償却を行った場合には、その後の事業年度において耐用年数の短縮に係る国税局長の承認を受けたケースを除き、中古資産の耐用年数の算定をすることはできないと解される。 (了)
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〈令和6年度税制改正〉暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し
〈令和6年度税制改正〉 暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し 弁護士 下尾 裕 令和6年度税制改正においては、活発な市場を有する暗号資産(市場暗号資産)の期末時価評価課税について、令和5年度税制改正で導入された「特定自己発行暗号資産」に加え、新たに「特定譲渡制限付暗号資産」に該当する類型が期末時価評価課税の対象から除外された。 本稿は、この暗号資産の期末時価評価課税に係る見直し(以下「本改正」という)について、解説を行うものである。 1 本改正に至る経緯 法人(外国法人については恒久的施設を有するもの。以下「内国法人等」という)が事業年度終了の時において有する市場暗号資産については、時価法に基づき、時価評価金額をもって、その時における評価額とするとともに(法法61②)、その暗号資産が自己の計算に基づく場合は、評価損益を損金又は益金に算入するのが原則とされている(いわゆる「期末時価評価課税」、法法61③)。 市場暗号資産において期末時価評価課税が適用されるのは、企業会計において、市場暗号資産の主な保有目的が「時価の変動により売却利益を得ることや決済手段として利用すること」であることを前提に、「活発な市場が存在する暗号資産は、いずれも暗号資産の時価の変動により保有者が価格変動リスクを負うものであり、時価の変動により利益を得ることを目的として保有するものに分類することが適当と考えられる」(「資金決済法における暗号資産の会計処理等に関する当面の取扱い」(平成30年3月14日企業会計基準委員会実務対応報告第38号)第36項)と整理されていたことによるものである。 その後、令和5年度税制改正において、市場暗号資産のうち自らが発行する暗号資産のうち一定の要件を満たす「特定自己発行暗号資産」に該当するものが除外されたが、自由民主党デジタル社会推進本部web3プロジェクトチーム「web3 ホワイトペーパー~誰もがデジタル資産を利活用する時代へ~」(2023年4月)においては、第三者発行暗号資産についても、短期売買目的であるもの以外は期末時価評価課税から除外するよう提言がなされ(6頁~7頁)、経済産業省からもこれに沿った税制改正要望がなされるなど(38-1参照)、さらなる改正が要望されていた。 本改正は、暗号資産について、当初想定された時価の変動により売却利益を得ることや決済手段として利用すること以外の目的が想定されるようになったことに加え、一定の移転制限が付された暗号資産について、暗号資産交換業者に情報提供義務及び公表義務を課すこととなったことも考慮して、これらの情報提供義務等が課される市場暗号資産についても、新たに期末時価評価課税の対象から除外したものとして説明されている。 2 本改正の枠組み (1) 「特定譲渡制限付暗号資産」の意義 「特定譲渡制限付暗号資産」とは、以下の要件にすべて該当する暗号資産を意味する。 実務的には、❶で定められた移転制限の具体的内容は「移転制限が付された暗号資産の情報提供及び公表に関する規則」(一般社団法人日本暗号資産取引業協会=JVCEA)に定められており、大綱、以下の2つの要件を充足するものとされている(同規則第3条及び同規則ガイドライン第3条関係)。 また、❷の具体的手続については、以下の図のとおり、自らが保有する暗号資産に当該規則に沿った移転制限を附した旨を暗号資産取引業者を通じて認定資金決済事業者協会(具体的にはJVCEA)に提供することで、公表等が行われることになる。 (財務省「令和6年度 税制改正の解説」337頁より抜粋) (2) 本改正を踏まえた暗号資産の評価方法 本改正を踏まえた暗号資産の事業年度末における評価方法は以下のとおりである。 内国法人等は、「特定譲渡制限付暗号資産」の取得をした場合、その時点で市場暗号資産であるかどうかにかかわらず、取得をした日の属する事業年度に係る確定申告書の提出期限までに、評価方法を書面により納税地の所轄税務署長に届け出なければならない(法令118の6⑤、118の9①)。 なお、本改正は第三者発行の暗号資産を一定の要件の下に期末時価評価から除外することを念頭においた改正であるが、第三者発行の場合のみならず、自己発行の場合でも前述の要件(2(1))を充足する限りは「特定譲渡制限付暗号資産」に該当することになる。また、仮に自己発行の市場暗号資産が特定自己発行暗号資産及び特定譲渡制限付暗号資産の両方に該当する場合は、後者に該当するものとして取り扱うこととなる(法令118の7④)。 (3) 暗号資産の区分変更等によるみなし譲渡 内国法人等の保有する暗号資産につき、区分の変更等が生じた場合には原則としてみなし譲渡が生じ、変更前後の区分に沿って、帳簿価格又はその時点での時価で譲渡したものとして譲渡損益を計算するものとされている(法法61⑥)。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 (※1) 二号暗号資産とは、その事業年度開始の時から上記2の事実の生ずる直前の時(上記2(3)の事実である場合には、その事業年度終了の時)までの期間内のいずれかの時において市場暗号資産に該当するものをいう(法令118の11①二)。 (※2) 時価法選定特定譲渡制限付暗号資産とは、時価法により評価した金額をもって期末時における評価額とする特定譲渡制限付暗号資産をいう(法令118の11①二ロ)。 (※3) その事業年度において2以上の事実が生じた場合には、その生じた時のうち最も遅い時となる(法令118の11①四)。 (国税庁「令和6年度法人税関係法令の改正の概要」44頁を基に一部筆者改変) 3 適用関係 本改正は、内国法人等の令和6年4月1日以後に終了する事業年度の所得に対する法人税について適用し、法人の同日前に終了した事業年度の所得に対する法人税については、従前どおりである(改正法附則9①、改正法令附則6①②)。 なお、令和5年度税制改正におけるみなし特定自己発行暗号資産(令和5年改正事業年度終了の時において有する暗号資産でその時においてその全てに譲渡についての制限その他の条件が付されているものに該当するものとして、令和5年改正法附則第12条第2項の規定により特定自己発行暗号資産に該当するものとみなされた暗号資産)を継続保有している場合、当該暗号資産は引き続き特定自己発行暗号資産とみなされる(改正法附則9②、改正法令附則6③)。 (了)
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第50回】
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第50回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 20 ビットコインETFと分離課税(その4):本信託の概要 ビットコインETFの概要と仕組みについて具体性のある議論を行うために、【第47回】で紹介した11銘柄のうちBitwise Bitcoin ETF(銘柄又はファンドの名称であるとともに、信託の名称でもある。以下「本信託」という)を中心的に取り上げる。 以下の記述は、本信託の目論見書(2024.1.10)及び第1回修正リステイト信託契約(2023.12.27)に基づく。 なお、本信託が租税法上の信託に該当するか否かという論点もあることについては後述する。 (1) 本信託と本件持分 (2) 本信託の設立 (3) 本信託の投資目的等 (※) CME CF Bitcoin Reference Rate -New York Variant。ドル建てのビットコインのパフォーマンスを反映するように設計された標準化された参照レート (4) 本信託とビットコイン等 (5) その他 (了)
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〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第44回】「保険業に係る非関連者基準適用の可否」~日産自動車事件(最高裁令和6年7月18日判決)~
〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第44回】 「保険業に係る非関連者基準適用の可否」 ~日産自動車事件(最高裁令和6年7月18日判決)~ 公認会計士・税理士 霞 晴久 〔Q〕 本連載【第32回】で取り上げた「日産自動車事件」の最高裁判決が出たとのことですが、その概要を教えてください。 〔A〕 令和6年7月18日の最高裁第1小法廷判決では、再保険契約に係る保険は、関連者が有する資産である債権に係る経済的不利益を担保するものであるということができ、上記保険は、「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険」には当たらないから、非関連者基準を満たさず、租税特別措置法68条の90第1項の適用が除外されることとはならないという判断が示され、控訴審判決は棄却されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 日産自動車事件 (1) 事案の概要 連結法人である原告Xは、平成28年4月1日から平成29年3月31日までの連結事業年度及び課税事業年度(本件事業年度)に係る法人税等の確定申告をしたところ、処分行政庁から、Xがその株式の全てを間接保有する外国法人であるA社の個別課税対象金額に相当する金額が、当時の租税特別措置法施行令39条の117第8項5号括弧書き(本件括弧書き)にいう「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」に該当せず、外国子会社合算税制の適用除外要件のうちいわゆる非関連者基準を満たさないことから、Xの本件事業年度の連結所得の金額の計算上、益金の額に算入されるなどとして、上記法人税等の各増額再更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を受けた。本件は、Xが、国を相手に、上記各処分の取消しを求める事案である。 A社は、英領バミューダ諸島で設立された保険業を主たる事業とする外国法人であり、本件事業年度におけるXに係る特定外国子会社等に当たる。一方、メキシコで金融業を営むXの関連者であるB社(※1)は、Xのグループ企業が製造する自動車を割賦で購入する顧客(本件各顧客)とクレジット契約(本件クレジット契約)を締結し、同契約には、B社を最優先の受益者(※2)とする保険契約を締結しなければならないとされており、B社は、メキシコの保険会社C社(非関連者)との間で「債務者の死亡と失業に関する保険契約(本件元受保険契約)」を締結し、本件各顧客が他の保険に加入しない場合は本件元受保険契約に加入させ、本件各顧客からは本件元受保険契約に係る保険料に相当する金額を徴収し、その保険料をC社に支払っていた。一方、C社は、A社との間で、本件元受保険契約で引き受ける全保険リスクの70%をB社が引き受ける内容の保険(本件再保険契約)を締結していた。 (※1) Xは、B社の発行済株式総数を間接保有していた。 (※2) 未回収のクレジット債権に係る損失を優先的に補填することを意味していると思われる。 2016年3月期のA社の収入保険料の総額は5億2,521万米ドル余であったところ、C社から受領した再保険契約に基づく収入保険料の総額(1,149万米ドル余)を、仮に関連者からのものとした場合には、A社の収入保険料(※3)のうちに占める非関連者からの収入保険料の割合は50%を下回り、非関連者基準を満たさないという状況であった。 (※3) A社のバミューダにおける所得に対する租税の負担割合は0%であった。 (2) 第一審及び控訴審の判決の要旨 ① 第一審 本件第一審である東京地裁(※4)は、主に以下のように判示して、本件再保険契約に係る収入保険料は「関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料」には該当しないとして、課税庁の処分を適法と判断した。 (※4) 東京地裁令和4年1月20日判決(令和2年(行ウ)第86号)、TAINSコード:Z272-13661 ② 控訴審の判断 上記の地裁判決を受け、これを不服としてXが控訴したところ、主に以下のとおり、東京高裁(※5)は一転、本件各処分は違法であるとしてXの請求を認容した。 (※5) 東京高裁令和4年9月14日判決(令和4年(行コ)第36号)、TAINSコード:Z272-13755 2 最高裁判決 《最高裁一小令和6年7月18日判決(令和4年(行ヒ)第373号)》(※6) (※6) TAINSコード:Z888-2623 (1) 法令解釈 (2) 当てはめ (3) 結論 3 検討 筆者は、本連載【第32回】の解説において、控訴審が保険料の実質的負担者は本件各顧客であると認定し、本件元受保険契約は、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険であると判断したことにつき、「そもそもB社がC社と本件元受保険契約を締結した目的は、B社の債権回収リスクをカバーするためであって、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険というのは、本件元受保険契約に基づき、その給付が実行されるきっかけに過ぎないというべきである。したがって、控訴審の判旨はやや無理筋かと思われる。」と批判したが、最高裁も同様の判断をしたものと思われる。 控訴審のいう、「本件元受保険契約は、本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険である」が事実ならば、保険金の給付は、本件各顧客及びその親族に対しなされることとなるが、本件はそのような契約とはならないのは明白であり、控訴審の事実誤認という他はない。 (了)
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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第159回】学校法人東京女子医科大学「第三者委員会調査報告書(公表版)(2024年8月2日付)」(前編)
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第159回】 学校法人東京女子医科大学 「第三者委員会調査報告書(公表版)(2024年8月2日付)」 (前編) 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【学校法人東京女子医科大学第三者委員会の概要】 【学校法人東京女子医科大学の概要】 学校法人東京女子医科大学(以下、「女子医大」と略称する)は、1900年、創立者である吉岡彌生によって、東京女醫學校として創立され、1951年に学校法人東京女子医科大学として認可された。教育機関として、大学及び大学院のほか、看護専門学校を持つとともに、東京女子医科大学病院のほか4箇所の医療センター等を傘下に有している。日本で唯一の女子医科大学である。調査報告書公表時点の理事長は岩本絹子氏(以下「岩本理事長」と略称する)。公表されている「令和5年度事業報告書」によれば、教育活動収入82,459百万円に対して教育活動支出は88,571百万円で、収支差額は△6,112百万円。2023年度収支差額についても△9,301百万円と、一般事業会社でいうところの「赤字経営」となっている。2023年5月1日現在の学生数は1,363人に対し、教員数は1,877人、職員数は3,327人(うち医療系職員が2,752人)となっている。 一般社団法人至誠会(以下「至誠会」と略称する)は、女子医大の同窓会組織であり、前身である社団法人至誠会は、東京女醫學校創立者吉岡彌生により寄贈された資産を基に、「社会事業・公衆衛生に関する諸般の施設及び運営をなし、国民福祉の増進を図ること」を目的とし、東京女醫學校、東京女子医学専門学校、女子医大の卒業生を会員とした同窓会組織として、1926年に公益法人として登録され、2011年、一般社団法人に移行したものである。2024年3月末現在、女子医大同窓会として47都道府県に支部を有し、正会員約4,600名、準会員668名を有している。 【第三者委員会による調査報告書の概要】 1 第三者委員会設置の経緯 2024年3月29日、女子医大は、「本学関係者の皆様へ」というお知らせをリリースして、警視庁による捜索が行われたことを公表した。報道によれば、女子医大の同窓会組織である至誠会から、勤務実態が認められない職員に対し給与が支払われていた、又は、職員が別の会社で働き始めた後も二重に給与が支払われていたなどという容疑で、警視庁が、女子医大などの関係各所に一斉捜索(強制捜査)を行ったとのことであった。 また、同月31日には、読売新聞が、女子医大が発注した工事の代金の一部が元請業者を介し、岩本理事長が経営している産婦人科の関係者に不正に流されていると報じた。 文部科学省は、これらの報道を受け、4月2日までに、女子医大に対し、上記の給与の不正支給を含め、報道されている一連の不正行為の有無、内部締制ないしガバナンスの状況について徹底した調査を実施するよう指導した。 こうした動きを受け、女子医大は、同月10日開催の理事会において、大学法人ガバナンス及び不正調査について高い知見を有する女子医大から独立した立場の複数の第三者による第三者委員会を設置することとしたうえで、山上秀明弁護士を委員長として選任し、委員長以外の委員の人選については、同委員長に一任することを決議した。 山上委員長は、同月19日までに、竹内朗弁護士を副委員長とし、三木義一弁護士及び清水真一郎弁護士を委員とする第三者委員会を構成して女子医大に通知し、女子医大は、同日付で「第三者委員会の設置について」をリリースして、第三者委員会の調査に全面的かつ真摯に協力する旨を公表した。 2 第三者委員会による調査対象事案の概要 第三者委員会は、「第4章 岩本氏及び経営統括部による資金の不正支出・利益相反行為の疑義(調査報告書42ページ以下)」の中で、調査の対象である資金の不正支出・利益相反行為を類型化するとともに、問題意識をまとめているので、以下で確認しておきたい。 (1) 資金の不正支出・利益相反行為の類型化 第三者委員会は、岩本理事長及び経営統括部による資金の不正支出・利益相反行為を以下の5つに類型化した。 なお、第三者委員会は、下記の①から⑤の個別問題は、岩本理事長が2015年に女子医大副理事長に就任した時期に設置された経営統括部(岩本理事長は同時に経営統括理事にも就任)を舞台とし、特に岩本理事長に近しい間柄であったE氏とF氏を中心とする同部員の一部が主体的に実行し、岩本理事長自身も一部関与したことが疑われるものであり、女子医大等から至誠会又は外部業者に資金が不正に支出され、その資金の一部が岩本理事長に近しい関係者らに還流し、不正に利益を得ていたという利益相反行為が疑われるものであると説明している。 (2) 資金の不正支出・利益相反行為に対する第三者委員会の問題意識 第三者委員会は、調査対象とした上記(1)の事案について、女子医大等から支出された資金の一部が不適切な方法で岩本理事長に近しい関係者らに還流されていたとすれば、女子医大の資金支出元の担当部署(担当者)が女子医大の行う取引の機会を利用して個人的に利益を得ていたというものであり、女子医大の利益を犠牲にして自身又は関係者の利益を図ろうとする「利益相反行為」と評価できるし、岩本理事長のほか経営統括部員が、利益相反行為を行うという情を秘し、女子医大等の内部手続において、あたかも適正な取引であるように装って取引を実行していたのであれば、利益相反行為に対する女子医大等による内部統制・ガバナンスを無効化させた不正行為と評価しなければならないという問題意識を示した。 そのうえで、第三者委員会は、岩本理事長が経営していた産婦人科で事務員として勤務していたE氏や、岩本理事長が個人的に声を掛けて至誠会から出向させたF氏らは、岩本理事長の意向で経営統括部員として重要な役職に就いた一方、経営統括部が所掌する取引を担当する経営統括理事には岩本理事長自らが就任していたことから、岩本理事長以外の者が同部へ監督の目を十分に効かせることが難しいという仕組みができあがっていたと指摘し、調査の結果、岩本理事長及びE氏、F氏ら経営統括部員が、不適切な方法で、岩本理事長に近しい関係者の利益を図る利益相反行為を行っていたという疑義が認められたうえ、女子医大等から資金を支出する手続は、適切・公正とは言えないものであったとまとめている。 (3) その他の問題 第三者委員会は、「その他の問題」として、各種メディア報道で、東京女子医科大学病院のICUにおいて、法令で定められた条件を満たすべき、医師の勤務体制が整っていなかったにもかかわらず、診療報酬の支給を受けていたのではないかという疑義が呈されたことを受けて、当時の診療報酬請求手続の公正・公平性についても調査を行った(診療報酬不正請求問題)。 また、第三者委員会は、調査を進める過程において、岩本理事長らが、至誠会内で適切な手続を経ずに、至誠会から特別な報酬を得ていたという事象が明らかとなったことから、女子医大における不適切行為ではないものの、この事象が岩本理事長の金銭感覚、利益相反行為に対するガバナンスに関する考え方や姿勢を示す事象の1つであると捉えて、調査報告書にまとめている(岩本理事長らの至誠会からの特別報酬問題)。 3 第三者委員会による調査結果(調査報告書45ページ以下) 第三者委員会は、上記2で取り上げた7項目の問題について、詳細な事実認定に基づき、判断を示している。 (1) 岩本副理事長による不正支出疑義問題 第三者委員会は、調査の結果、岩本理事長が女子医大の副理事長に就任して間もない2015年2月、女子医大は、会社アと業務改善を目的とするコンサルティング業務委託契約を締結し、契約期間を2015年2月1日から2016年3月31日までとし、月額報酬300万円(消費税抜き)及び経費削滅の実績に応じた成功報酬を支払うこととしていたところ、2015年4月、わずか2ヶ月半で会社アからの業務により十分な経費削減効果が得られたとして、会社アとの業務委託契約の解約を稟議により決定し、同契約に基づき、女子医大から会社アに対して、2015年4月6日及び5月29日、それぞれ300万円(消費税込324万円)を支払ったことを認定した。 さらに、第三者委員会は、会社アは、岩本理事長が経営していた産婦人科の当時の副院長であり、現院長であるK氏の弟で建築士のL氏が代表取締役に就任していた会社であるが、2015年当時、会社アには何ら稼働実態がなく、岩本理事長が、L氏に対し、会社アを貸してほしいと依頼し、L氏はこれに同意して、代表印、同社名義の銀行預金通帳等を貸し渡し、会社アを岩本理事長側で使用させており、2015年2月に女子医大と会社アが前記契約を締結した当時、会社アは、岩本理事長及びその関係者が自由に利用することができる会社であったと認定した。 こうした事実認定から、第三者委員会は、岩本理事長及び女子医大側に関係資料の提出を求めても明確な回答を得られていないうえ、当初1年2ヶ月間の継続的取引であったにもかかわらずわずか2ヶ月間で解約となった経緯や理由も不明であるものの、岩本理事長の関与のもと、女子医大から会社アに支払われた業務委託費名目の資金が、E氏をはじめとする岩本理事長に近しい人物の管理下に還流した可能性が高いと認定した。 (2) 出向者人件費等問題 第三者委員会は、本件の問題点として、2013年6月に至誠会の代表理事となった岩本理事長は、2014年12月に女子医大の副理事長に就任し、2015年2月以降、女子医大は、岩本理事長が同月に設置した経営統括部の業務支援のため、①至誠会から出向契約に基づく人材の受入れ、②会社エに対する業務委託、③至誠会への業務委託、④特定の個人への業務委託、⑤至誠会からの出向者であったF氏の雇入れ等の形態で、同業務に従事する人材の確保を行っており、一連の事案によって明らかとなったのは、女子医大の副理事長ないし理事長と至誠会の代表理事の双方を兼務していた岩本理事長らによって、取引の時期と形態によっては、女子医大が支出した資金の一部が取引先を経由して岩本理事長に近しい関係者に人件費として過大に還流した疑義があったことであるとの整理を行った。 第三者委員会は、調査の結果、この問題について、一連の経緯において、岩本理事長が、自らが女子医大と至誠会双方の代表であることを利用して、自らに近しいE氏及びF氏らに過大な報酬を与えた疑義があることを認定し、さらに、岩本理事長は、至誠会及び会社エといった自らの自由になる道具を使って、他の理事にこうした疑義が発覚しづらい状況を作出し、また、決済手続においても実態について十分な説明をせず、あるいは、理事会の決議を経ずに行っていたこともあり、こうした岩本理事長の行為は、理事会によるガバナンス機能が無効化されたことを示すものであると指摘した。 (3) 工事費等還流疑義問題 2024年3月31日、読売新聞(※1)は、次のとおり報じた。 (※1) 読売新聞「東京女子医大理事長の元側近関係3社に1.4億円・・・病棟工事、5業者から」 第三者委員会は、調査の結果、女子医大は、2015年から2023年にかけて、工事の元請業者4社に対して合計140件・総額約33億円の設計・監理・工事等を発注しており、元請4社から、E氏が関与した3社に対して1億数千万円の資金が還流していた疑いが生じているものであると問題点を指摘した。 さらに、第三者委員会は、E氏が、自身の関与する3社を利用して、元請4社のうち少なくとも3社から工事費等の還流を受けていた(その可能性がある)という調査結果から、E氏が元請4社に対し、還流させる資金の原資を確保させるため、女子医大に対して工事費等の水増し請求をさせていたことも疑われるとの問題点も指摘した。 第三者委員会は、調査の結果、E氏が元請4社に水増し請求させたと疑わせるような事情までは認定するに至らなかったが、E氏が、2016年頃から2023年頃にかけて、自身の関与する3社を利用して、元請4社のうち少なくとも3社から工事費等の還流を受け、合計1億数千万円もの多額の金銭を受け取っていた可能性があると認定したうえで、これら一連の行為は、女子医大から支出された資金が経営統括部の幹部であった者に還流する利益相反行為があったことを示すものであると結論づけた。 さらに、こうしたE氏による工事費等の還流について、第三者委員会によるヒアリングに対して、岩本理事長は「知らなかった」と回答しているものの、第三者委員会は、E氏が岩本理事長に重用されていた経営統括部幹部であり、また、還流に利用した3社の代表取締役が岩本理事長の経営する産婦人科の事務員であったことなどから、一連の還流に岩本理事長が全く関与していなかったとは認めがたく、仮に岩本理事長が知らなかったとしても、経営統括理事として重大な管理責任が認められると判断した。 (4) 建築士報酬問題 第三者委員会は、女子医大が、2016年4月に一級建築士の資格を有するH氏を非常勤嘱託職員として雇用し、同年5月から2019年11月までの間、給与を支払う一方で、2018年7月から2022年2月までの間、給与とは別に合計3億円余りの建築アドバイザー業務報酬を同氏に対して支払っていたことについて、過大(二重)報酬の疑義があるとの報道がされていたことから、前記各支払に係る違法・不当の有無について調査を行った。 調査の結果、第三者委員会は、女子医大からH氏に対して支払われた給与及び建築アドバイザー報酬については、いずれも金額が不当に高額であるとまでは認められず、また、H氏に支払われた報酬等の一部が、岩本理事長、E氏らに還流した事実も認められなかったと判断した。 一方、第三者委員会は、建築アドバイザー報酬に関してはいずれも形式的に決裁規程に従って理事会等の承認を経ていただけで、その実質を見ると、金額の根拠や業務内容等の重要事項について経営統括部からの具体的な説明や議論がなされないまま報酬支払が決定されていたものであり、経営統括部のブラックボックス化、ひいてはガバナンスの無効化を示すものであったと指摘するとともに、経営統括部の業務の妥当性を後からモニタリングする基礎となる資料すら存在しなかったことは、女子医大の内部統制の基盤が整っていなかったことを示すものであったと述べている。 (5) 不動産売買仲介手数料額の妥当性及びその還流疑義問題 女子医大は、2019年4月、経営統括部が携わっていた職員寮「博友寮」跡地の売却にあたり、不動産仲介業者である会社セに対して仲介手数料として約1,600万円を支払っているが、第三者委員会は、報道により、この仲介手数料が業務内容等に照らして過大である疑いがあり、また、不動産仲介業者から女子医大関係者へ資金が還流されている疑いがあるとされていたことから、仲介手数料額の妥当性及びその一部が女子医大関係者に還流された可能性について調査を行った。 調査の結果、第三者委員会は、不動産仲介業者について、業務実態がないにもかかわらず、女子医大が報酬を支払ったとは認められないとしたものの、同社が、博友寮跡地売却の成約に向けた、不動産仲介業者としての中核的な業務を行っていなかったと評価できるとして、法令上受け取ることができる仲介手数料報酬上限とほぼ同じ金額が支払われていることが、仲介手数料報酬としてふさわしかったかどうかについては疑問があるという評価を行った。 さらに、不動産仲介業者から、E氏が関与した3社(上記(3)に記載した工事費等還流の受け皿となった会社と同一)のうちいずれかの会社に資金が還流した可能性について、第三者委員会は、E氏が関与した3社の代表取締役であったO氏が「不動産仲介業者から3社のうちいずれかの会社に振込入金があった」と供述していること、不動産仲介業者と女子医大との取引は、E氏の紹介によって開始したこと、不動産仲介業者が預金取引明細等の提出について頑なに拒否し続けたこと等の事実を踏まえて、不動産仲介業者からE氏が関与した3社のいずれかに資金を還流させた可能性があると認定した。 (6) 診療報酬不正請求問題 東京女子医科大学病院は、2023年1月30日、関東信越厚生局から、健康保険法に基づく個別指導及び適時検査を受け、同年3月29日付けでその結果の通知を受けた。同通知には「診療内容及び診療報酬の請求に関して適性を欠く部分が認められました」、「特定集中治療室管理科3 専任の医師が常時、特定集中治療室内に勤務していない期間が認められた」との指摘がされていた。 また、株式会社文藝春秋が運営するウェブサイト「文春オンライン」の2023年3月10日付けの記事(※2)では、特定集中治療室に医師が常駐していない疑いがあると報じられており、第三者委員会は、特定集中治療室内に専任の医師が勤務していない状態が発生していたか否か、また診療報酬の請求手続は妥当であったか等について調査した。 (※2) 文春オンライン「《深層スクープ》東京女子医大に“診療報酬の不正請求”疑惑!「ICU死亡事故で厚労省が“緊急調査”」」 調査の結果、第三者委員会は、集中治療科への医師の常駐の有無については、常駐していたか、非常駐であったかについて認定するに至らなかったとしたうえで、常駐していたことを裏付ける客観的な資料が残されておらず、診療報酬請求をした東京女子医科大学病院の手続の正当性を裏付ける資料が作成、保存されていなかったことを確認したとしている。 (7) 岩本理事長らの至誠会からの特別報酬問題 第三者委員会は、岩本理事長が、2013年6月に至誠会の代表理事就任後から、社員総会で定められた役員報酬月額15万円を職務の対価として受領しているが、それ以外にも、至誠会から顧問料名目で2011年4月から2019年9月までの間、月額で手取り25万円を受領し、また、現金賞与として、2013年から2019年上期までの間、最大で年額300万円の賞与を受給していたことを認定した。 顧問料について、第三者委員会は、至誠会の代表理事である岩本理事長が、至誠会から顧問料を受領する取引を行う場合には、一般社団法人法84条及び92条に基づき、利益相反取引に関する理事会の承認を得る必要があるにもかかわらず、岩本理事長は当該顧問料の受領に係る取引について至誠会の理事会による承認を得ていなかったことを認定した。 また、現金賞与とは、至誠会において、理事会の決議を経ることなく、功績のある職員に賞与の時期に特別に現金で支払われていた賞与(岩本理事長が代表理事を解任された2023年以降は廃止) であるが、第三者委員会の調査の結果、その基準や決定権者を示す規則は至誠会においては見当たらなかったうえ、岩本理事長に対する賞与は、一般の職員(使用人)に対する賞与と異なり、一般社団法人法89条に基づき社員総会で決定する必要があるにもかかわらず、岩本理事長が代表理事となった2013年以降、社員総会で認められた理事の報酬は上記の月額15万円のみであり、それ以上の理事に対する賞与の決議は存在しなかったことが確認されている。 さらに、岩本理事長は、中元及び歳暮として、至誠会から商品券を受領していたが、第三者委員会は、そもそも自らが代表を務める組織から自らに中元、歳暮を贈るということは必要性において疑問があるとしたうえで、仮に中元・歳暮を贈るのであれば、利益相反取引又は理事が職務執行の対価として一般社団法人から受ける財産上の利益に該当し得るので、社員総会決議又は理事会決議を経るべきであったと指摘している。 (8) 総括 第三者委員会は、調査結果のうち、(1)、(2)、(3)及び(7)は、いずれも岩本理事長、E氏及びF氏ら経営統括部の者が自身の意のままに自由に使える存在(至誠会や関与している会社など)や「経営統括理事」「経営統括部次長」という地位を利用して、岩本理事長及びその関係者が女子医大等の資金を還流させていたという事案であるとしたうえで、(5)では不動産仲介業者を利用することによって、実際に女子医大の資金を還流させていたことまでは確認できなかったものの、その可能性は払拭できなかったと総括を行った。そのうえで、岩本理事長が至誠会から顧問料や現金賞与等の名目で利益を享受していたことに鑑みると、岩本理事長の金銭に対する強い執着心の一端をうかがうことができるとして、一連の疑義に関する調査結果を締め括っている。 以下、次回(後編)に続く。 (後編に続く)
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決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第6回】「配当金総額の集計方法」
◆◇◆◇◆ 決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第6回】 「配当金総額の集計方法」 公認会計士 石王丸 周夫 今回は、「配当の状況」の誤記載を取り上げます。 「配当の状況」は投資家にとって特に関心の高い項目です。企業としても、できれば誤記載を避けたい箇所でしょう。しかし、ここは、なぜか誤りが発生しやすいのです。 この項目は、決算短信の1ページ目に当たるサマリー情報に記載されます。「決算短信〔日本基準〕(連結)」の場合は、次のような表形式で示されます。 (出所) 日本取引所グループホームページ「決算短信作成要領・四半期決算短信作成要領」「決算短信(サマリー情報)の参考様式/通期第1号参考様式【日本基準】(連結)」 以下では、「配当の状況」のうち配当金総額の欄の金額の誤記載を取り上げます。それはちょっとした勘違いによるミスの可能性もありますが、そもそもどのように集計すべきなのかという、基本的な確認が必要な部分であるともいえます。 訂正事例の概要 以下に示すのは、「配当の状況」のうち配当金総額の金額が間違っていた事例をもとにしたイメージ図です。 訂正前の配当金総額は45,982と記載されていましたが、訂正後は44,945に修正されました。数字の並び順を間違えた等、単純な数字の入力ミスではなさそうですね。では、訂正前の45,982とは、一体何の数値なのでしょうか。 〈訂正事例をもとにした誤記載のイメージ〉 (※) 決算期は架空の年度とし、配当金総額以外の列は記載を省略しています。 配当金総額とはどのような数値か 「配当の状況」の配当金総額にどのような数値を記載すべきなのかを確認しておきます。 株式会社東京証券取引所「決算短信・四半期決算短信作成要領等」(2024年4月)の16頁によると、「配当の状況」の記載について、次のような注意喚起があります。 「配当の状況」は基準日による区分に従うと書いてありますが、少しわかりにくいので解説します。 まず、基準日というのは、株主の権利を確定するために企業が設定する一定の日のことです。配当に関しては、基準日時点の株主が配当の権利を得ることになります。3月決算企業であれば、中間配当の基準日は9月30日、期末配当の基準日は3月31日とすることが通常です。 次に、「基準日による区分に従う」の意味ですが、これは、X2年3月期については、X1年4月1日からX2年3月31日の期間に基準日が属する配当について記載するという意味です。 中間、期末の年2回の配当を実施している企業であれば、X2年3月期の配当金総額の欄には、X1年9月30日を基準日とする中間配当とX2年3月31日を基準日とする期末配当の合計を記載することになります。どちらも基準日がX2年3月期に属しています。 配当原資に着目した集計 ある会計年度の配当金総額は、その会計年度に基準日が属する配当を集計することで算定されるとわかりました。しかし、そのような集計の仕方について、なぜ「ご注意ください」とまで言わなければならないのか、よくわからなかったのではないでしょうか。 その趣旨を明らかにするため、見方を変えてみましょう。配当原資に注目します。 たとえば、X2年3月期の配当金総額といった場合、年2回配当であれば、X1年9月30日を基準日とする中間配当(①とする)とX2年3月31日を基準日とする期末配当(②とする)の合計になりますが、実は、①と②の配当原資は異なっています。 ①の配当原資は、前期末であるX1年3月期末のその他利益剰余金等をベースにしていますが、②の配当原資は、当期末であるX2年3月期末のその他利益剰余金等をベースにしているのです。つまり、配当金総額という数値は、配当原資の異なる配当を合算してできあがっているのです。 では、配当原資が同じものを集計した場合は、どのような額になるでしょうか。 上の例であれば、X2年3月期の前期であるX1年3月31日を基準日とする前期の期末配当(⓪とする)と上記①の中間配当については、いずれもX1年3月期末のその他利益剰余金等をベースにした配当原資です。これらを合計すると、配当原資が同じ配当を集計したことになります。 この⓪+①という集計額は、X2年3月期の期間に配当支払日(効力発生日)が属する配当の合計でもあります。つまり、その年度の配当金支払額です。配当金総額といった場合に、①+②なのか⓪+①なのかは用語そのものからは判断できません。人によっては、配当金支払額の方を思い浮かべてしまう可能性があるので、「ご注意ください」と言っているのでしょう。 開示前のチェックポイント さて、ここで訂正事例に戻ります。 実は訂正前の配当金総額の数値は、⓪+①の額(配当金支払額)でした。そのため訂正が必要になってしまい、①+②の額に修正したのです。 決算短信では連結株主資本等変動計算書(連結財務諸表作成会社の場合)が開示されますが、そこには利益剰余金の減少項目として配当金支払額が表示されます。基本的に、その額は⓪+①の額と同額になるので、「配当の状況」の配当金総額がそれと一致していないことを確かめるというのが、チェックポイントということになります。 (了)