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会計 税務・会計 解説 解説一覧

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2025年1月】第3四半期決算(2024年12月31日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2025年1月】 第3四半期決算(2024年12月31日)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第3四半期決算(2024年12月31日)に関連する速報解説のポイントについて、改めて紹介する。基本的に2024年10月1日から12月31日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 会計関係 企業会計基準委員会は次のものを公表している。 〇 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正(内容:「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)など多くのものを修正している)   Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公表されている。 ① 「企業内容等の開示に関する留意事項について(企業内容等開示ガイドライン)」の改正(内容:「有価証券報告書等の提出期限の承認の取扱い」について改正するもの) ② 「記述情報の開示の好事例集2024(第1弾)」(内容:サステナビリティに関する考え方及び取組の開示①(全般的要求事項、個別テーマ)に関する好事例集。金融庁) ③ 「記述情報の開示の好事例集2024(第2弾)」(内容:サステナビリティに関する考え方及び取組の開示②(気候変動関連等)に関する好事例集。金融庁)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 中小事務所等施策調査会研究報告第9号「第1種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリスト」の改正(内容:「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)について記載) ② 中小事務所等施策調査会研究報告第12号「第2種中間連結財務諸表等を含む半期報告書に関する表示のチェックリスト」の公表(内容:表示の確認を実施する際の参考となるチェックリスト) ③ 監査基準報告書700研究文書第1号「監査法人の計算書類及び監査報告書の文例に関する研究文書」(内容:監査法人が作成する年次報告書「業務及び財産の状況に関する説明書類」に含まれる計算書類の作成及び開示に当たり、参考となる内容を取りまとめたもの)   Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「監査役会の実効性向上に向けた監査役スタッフの業務-社外監査役の活動及び三様監査会議の視点から-」(内容:監査役会の実効性の向上に向けた監査役スタッフの業務について、社外監査役の活動と三様監査会議の視点で研究したもの) ② 「『監査役会等の実効性評価』の実施と開示の状況」(内容:監査役会等の実効性評価を実施している企業の実態を把握し、今後の監査役会等の実効性評価の取組みに関して提言している)   Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2024年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(2022年10月28日、改正企業会計基準第27号)等(内容:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)及びグループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果についての取扱いを示すもの。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2023年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) ② 実務対応報告第46号「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」等(内容:グローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税の会計処理及び開示の取扱いを示すもの。補足文書がある。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用) ③ 企業会計基準第33号「中間財務諸表に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第32号「中間財務諸表に関する会計基準の適用指針」(内容:改正後の金融商品取引法上、半期報告書において中間連結財務諸表又は中間個別財務諸表が開示されることに対応するもの。「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(令和5年法律第79号)の附則3条に基づき、同法により改正された金融商品取引法24条の5第1項の規定による半期報告書の提出が求められる最初の中間会計期間から適用する) ④ 会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正(内容:「中間財務諸表に関する会計基準」等を受けた改正) (了)
#603(掲載号)
#阿部 光成
2025/01/23
労務・法務・経営 法務

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第61回】「PCBの使用と建物価格への影響」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第61回】 「PCBの使用と建物価格への影響」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 不動産鑑定評価基準では、建物の価格に影響する個別的要因として、「有害な物質の使用の有無及びその状態」をあげています(総論第3章第3節Ⅱ)。また、不動産鑑定評価基準運用上の留意事項では、「建設資材としてのアスベストの使用の有無及び飛散防止等の措置の実施状況並びにポリ塩化ビフェニル(PCB)の使用状況及び保管状況に特に留意する必要がある」と規定しています(留意事項Ⅱ.2.(1))。 「有害な物質の使用の有無及びその状態」を確認することは、建物の価格にも影響するため非常に重要です。そこで、今回はPCBの性格や特徴をはじめとする基礎知識及び調査の要領(使用の有無を確認するためにどこでどのような事項を調査すればよいか)等について取り上げてみたいと思います。   2 PCBとは PCBとは、ポリ塩化ビフェニル(Polychlorinated Biphenyl)の略称であり、水に溶けにくく燃えにくい、電気を通しにくい、熱により分解されにくい、金属をほとんど腐食しない等の性質を持つ油の一種です(炭素、水素、塩素から構成されています)。 PCBはこのような利点を持つことから幅広い用途に使用されてきました。例えば、工場やビルのトランス(送られてきた電気の電圧を変える装置)やコンデンサ(蓄電器)用の絶縁油、業務用蛍光灯などに用いられた安定器、感圧複写紙等が代表的なものです。また、製鋼用電気炉、各種工業における加熱及び冷却用媒体とも密接な関わりがあります。 しかし、昭和43年に至って人体への影響が社会問題化され、昭和47年に製造が中止されています。また、PCBは製造工程や使用過程によって排出されても容易に分解されないことから、水中、土壌等に蓄積して人体に吸収されるなどの危険性が指摘されています。 その毒性としては、これを直接摂取(飲んだり触れたりすること)しない限り、近くにあるというだけで直ちに影響があるというわけではないものの、PCBがいったん外に放出されると人体に影響を及ぼすといわれています(爪の変形、関節の腫れ、肝機能障害等)。 そのため、ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法では、PCB廃棄物を保管する事業者に一定期間内に処分すること、保管状況の届出(毎年度)をすることを義務付けています(下線は筆者によります)。また、保管及び処分状況については、公表制度も設けられています。   3 PCB等の有害物質の有無 PCB等の有害物質の有無を調査しその結果を判定することは、専門的色彩の強い性格のものといえます。そのため、これらの詳細を調査分析することはむしろ不動産鑑定士以外の専門家の領域に属するといえます。したがって、不動産鑑定士としては他の専門家の作成した報告書(エンジニアリングレポート等)があればその内容を確認するほか、都道府県知事への届出状況の調査や実地調査及び建物所有者(使用者)への聴取を通じて可能な限りその有無を確認しておくように努めています。 不動産の鑑定評価に当たり、不動産鑑定士の通常の調査の範囲では対象不動産の価格への影響の程度を判断するための事実の確認が困難な特定の価格形成要因が存する場合には、これを価格形成要因から除外することも可能とされており、これを「調査範囲等条件」(※)と呼んでいます(詳細は【第41回】にて解説しました)。ただし、このような条件を付して鑑定評価を行うためには、鑑定評価書の利用者の利益を害するおそれがないと判断される場合に限られています。 (※) 「有害な物質の使用の有無及びその状態」も調査範囲等条件の対象とされています。 さらに、不動産鑑定士としては、仮に調査範囲等条件を設定して鑑定評価を行う場合でも、都道府県知事への届出状況の調査(都道府県の担当窓口にて)や実地調査及び建物所有者(使用者)への聴取等、必要最低限の調査を省略することはできません。調査範囲等条件を設定する場合、「本件鑑定評価はPCB等の有害物質の価格への影響は考慮しておらず、別途調査の結果、有害物質の存在が判明した場合は、本件鑑定評価額からその処理費用を控除すべき」旨を依頼者に明確に説明した上で鑑定評価を実施しています。   4 PCB等の有害物質の価格への影響 不動産鑑定評価基準ではPCB等の有害物質の存在を重要な価格形成要因の1つにあげていますが、これが存在することによる減価率査定の考え方については示されていません。 しかし、実務においては、例えば次のような手順で建物価格への影響を可能な限り把握するように努めています。 (1) PCB含有機器が存在しないと判断した場合 不動産鑑定士として実施可能な調査を行い、その結果、PCB含有機器が存在しないと判断した場合には鑑定評価書にその旨記載します。この場合の記載例は以下のとおりです。 〈鑑定評価書の記載例〉 (2) PCB含有物質が含まれており、処理が必要と認められる場合 建物内にPCBが保管されている場合、そのような状況にない建物と比べて減価要因として捉える必要があります。その際、専門機関にPCB廃棄物の処理料金を照会する等の方法が考えられます。 なお、現時点では、PCB使用建物の価格への影響度について定量的に示された減価率の指標は存在しませんが、処理費用相当額を見積もり、これを考慮しない場合の建物価格から控除する方法が合理的であると思われます(土壌汚染物質を含む場合に適用される原価法と同様の考え方です)。仮に、調査範囲等条件を設定して鑑定評価を実施した場合でも、(既に述べたとおり)別途調査の結果、PCB含有物質の存在が判明したときには鑑定評価書記載金額から当該処理費用を控除すべき旨の記載をする等の方法により依頼者への注意喚起が必要です。 PCBの存在が推認される建物に対しPCB対策を講じているか否かは、建物の維持管理の良否にも密接に関連し、建物価格に重要な影響を与える要素となります。 (了)
#603(掲載号)
#黒沢 泰
2025/01/23
労務・法務・経営 法務

《税理士のための》登記情報分析術 【第20回】「休眠担保権の抹消方法」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第20回】 「休眠担保権の抹消方法」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   前回は抵当権や根抵当権などの担保権の抹消登記について取り上げ、不動産の活用がしやすいように早期に抹消登記を行う重要性について解説をした。しかしながら、実務では長期間にわたり担保権の抹消登記がされないままになった「休眠担保権」が問題になることが少なくない。本稿では、休眠担保権のやっかいな点や抹消方法について解説を行う。   1 休眠担保権の問題点 休眠担保権とは、明治時代や大正時代のようにかなり昔に設定されたまま、抹消されていない担保権のことである。休眠担保権が登記記録に残っている限り、実際には債務が完済されていたとしても売却等が進まないため、活用するためには抹消登記をする必要がある。 【休眠担保権の登記記録例】 ただし、休眠担保権の抹消登記を行うことは容易ではない。その主な理由は以下のとおりである。 (1) 担保権者の所在や生死が不明 休眠担保権の抹消登記も通常の担保権抹消登記と同様に、登記権利者となる不動産所有者と登記義務者となる担保権者が共同して申請をすることが原則である(不動産登記法60条)。しかし、休眠担保権の場合は担保権者の所在や生死が不明であることが多い。 このため、休眠担保権の抹消を進めるにあたっては登記記録に記載された担保権者の住所や氏名の情報から、住民票や戸籍証明書等を取得し所在や生死を調査することになる。調査結果としては、担保権の設定からかなりの時間が経過しているため、担保権者が死亡していることがほとんどである。その場合は相続人を調査することになるが、相続が何度も生じ、相続人が多数にのぼるため相続人やその所在が判明しても全員の協力を取り付けることは困難である場合が多い。 (2) 事実関係が不明 担保権の設定から長期間が経過しているため、当事者の死亡や関係書類の散逸により、なぜ担保権の設定を行ったのか、債務を完済しているのかなどの事実関係が不明となっていることがほとんどである。所有者、担保権者ともに事実関係が不明であると交渉を進められないことにもつながる。   2 休眠担保権の抹消方法 休眠担保権の抹消方法はいくつかあり、まとめたものが以下の図表である。 【休眠担保権の抹消の流れ】 休眠担保権を抹消するには、図表中のA~Dに記載があるとおり以下のような方法がある。 A.共同申請により抹消する方法(不動産登記法60条) 休眠担保権も通常の担保権と同様に登記権利者(不動産所有者)と登記義務者(担保権者)の共同申請により抹消できる。ただし、既に解説したとおり担保権者が死亡しており、相続人全員の協力を取り付けることが困難である場合が多い。 B.担保権抹消の判決を得て抹消する方法(不動産登記法63条) 担保権者(その相続人を含む)に対して担保権抹消を求める訴訟を起こし、登記権利者(不動産所有者)からの単独申請により抹消登記を行う方法(不動産登記法63条)が、実務上最もよく利用される。訴訟において担保権抹消が認められれば、担保権者の協力を得られなくても抹消登記を行うことができる。担保権抹消を求める根拠としては、休眠担保権の被担保債権が消滅時効にかかっているということを主張することが多い。 C.不動産登記法70条に基づく手続により抹消する方法 担保権者の所在が不明となっている場合の担保権の抹消登記手続については、不動産登記法70条に定められており具体的には以下の方法がある。 ①、②については手続的な煩雑さ等により選択されることは少ないが、③については、明治時代や大正時代に設定された休眠担保権では債権額が数十円から数百円であることが多く現在の価値に換算する必要もないため、金銭的な負担が少なく有力な選択肢となっている。 D.不動産登記法70条の2に基づく手続により抹消する方法 令和5年4月1日から不動産登記法の改正により認められた休眠担保権の抹消方法であり、休眠担保権の被担保債権が弁済期から30年を経過した債権であり、かつ担保債権者が解散してから30年を経過した法人でかつ清算人の所在が不明である場合には、当該休眠担保権の抹消を登記権利者が単独で申請できるとされている。 C.の不動産登記法70条に基づく休眠担保権の抹消方法がいずれも担保権者が「所在不明」であることが求められるところ、法人の場合は登記簿が解散・清算結了後も長期間保存される傾向があり、「所在不明」にあたらず適用できないとされていたために認められた規定である。休眠担保権者が法人である事例は少なくないため、有力な選択肢となり得るであろう。   3 早期の担保権抹消が重要 本稿で解説したとおり休眠担保権の抹消方法は整備されているが、多大な費用や時間がかかることになる。例えば、B.担保権抹消の判決を得て抹消する方法を選択した場合には弁護士費用等で100万円程度、期間として半年から1年程度かかることもある。また、休眠担保権の抹消の負担を嫌って、相続人間で押し付け合いになるなど、様々なトラブルを巻き起こすこともある。そのため、担保権の抹消が可能となった時点で早期に手続きをすることが望ましいであろう。 (了)
#603(掲載号)
#北詰 健太郎
2025/01/23
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《顧問先にも教えたくなる!》資産づくりの基礎知識 【第20回】「こんなはずじゃなかった! 早すぎた相続対策」

《顧問先にも教えたくなる!》 資産づくりの基礎知識 【第20回】 「こんなはずじゃなかった! 早すぎた相続対策」   株式会社アセット・アドバンテージ 代表取締役 一般社団法人公的保険アドバイザー協会 理事 日本FP協会認定ファイナンシャルプランナー(CFP®) 山中 伸枝   「備えあれば憂いなし」と言いますが、相続対策においては必ずしもそれだけが正解ではないようです。相続ではできるだけ税負担を圧縮したいと考えていらっしゃるかもしれませんが、それにはいくつか注意点がありますので、本稿を参考にしていただければ幸いです。   〇相続税の基礎控除 2015年に相続税における基礎控除額が縮小されました。それ以前の基礎控除額は、5,000万円+(1,000万円x法定相続人の数)で計算されていましたが、3,000万円+(600万円x法定相続人の数)に変更されました。 例えば、夫婦に子どもが2人という世帯で相続が発生したとします。ここでは父親が亡くなったと仮定すると、法定相続人は母親と子ども2人の合計3名です。この条件で改正前後の基礎控除額を比較してみると、以下のとおりになります。 基礎控除額は、これまでも何度か変更されてきましたが、前回の改正までは拡大方向だったものが、先述の改正により大幅に縮小されたため、多くの方が相続税の支払いを心配するようになりました。   〇相続税額のシミュレーション 具体的な相続税額も計算してみましょう。「〇相続税の基礎控除」の世帯において、相続財産が1億円あったとします。 改正前であれば、基礎控除が8,000万円ですから、課税対象は2,000万円です。法定相続分に準じて資産を受け取ったとして(母親1,000万円、子ども各500万円)、税率10%を用いて仮の税額を計算すると、母親は100万円、子ども2人は50万円となります。このうち母親については、配偶者控除である1億6,000万円あるいは法定相続分相当額以下であれば税金はかかりませんから、実際の相続税は0円です。子ども2人については、計算のとおりそれぞれ50万円の負担となり、合計100万円が相続税額ということになります。 一方、改正後はどうなるのかというと、基礎控除後に同様の計算を行うと、合計315万円の相続税が発生します。基礎控除縮小と、課税される相続財産が1,000万円までであれば税率は10%ですが、1,000万円から3,000万円までの場合は税率が15%になることが理由です。 もちろん相続財産が大きくなればなるほど基礎控除縮小のインパクトは大きくなります。税率も最低10%から最高で55%と段階的に上がっていくので、資産家であればあるほど相続対策に関心が高まるのは当然です。   〇生前贈与の方法 基礎控除額の改正後に注目が高まったのが生前贈与です。特に年間110万円までは贈与税がかからないことを活用した暦年贈与は利用される方も多いようです。しかし、この方法でさえも2023年度の税制改正により変更されました。 これまでは、生前贈与も亡くなる「3年以内」のものは「相続時」に加算して相続税の計算対象に含めるというルールでしたが、「7年以内」に延長されたのです。これにより、亡くなる7年以内に贈与を受けたものも相続税の対象となることになりました。 2024年1月以降の贈与からその対象になるということで、これからの寿命が7年以上あるうちに生前贈与を完了させなければと「早めの生前贈与」をお勧めするような広告も見受けられるようになりました。 もちろん、相続税の対策は早くから取り組む方が選択肢も増えますし、効果は高いといえます。生前贈与には暦年贈与以外にも、相続時精算課税制度、夫婦間における不動産贈与、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与、住宅取得等資金の贈与など検討してみる価値がある制度は複数あります。 とはいえ、相続対策の最も難しい点は、寿命がいつ尽きるか分からないことです。適正な対策時期が分からないがために、「早すぎた」対策が後悔を招くことにもつながるようです。   〇相続対策の失敗例 古典的な相続対策として、孫などを養子にして法定相続人の数を増やすという方法があります。相続人が増えればその分基礎控除額が増えますので、確かに効果的です。 しかし、この方法について、筆者は少なくとも2つの失敗例をお客様から伺いました。 1つ目の失敗例は、相続対策のため孫を養子にしたところ、息子の方が先に亡くなってしまったケースです。お父様が自分の亡き後、妻や息子たちの相続税の負担が重くならないようにと対策をとったものの、ご自身がご存命中に息子さんが亡くなってしまったのです。お父様90代、息子さん70代でした。 2つ目の失敗例は、娘の夫を養子に迎えたケースでした。娘夫婦はしばらくして離婚したのですが、養子縁組の解消をしていなかったために、もはや他人となった娘の元夫が法定相続人として存在しており、トラブルが生じてしまいました。養子縁組は離婚により自動的に解消されているものと思っていたようで、とても後悔されていました。 養子以外の例としては、「長男夫婦にいずれは介護などもお願いしたい」とせっせと生前贈与をしていたのに、その後関係性が悪くなり介護はおろか会いにも来なくなったと後悔されている方がいらっしゃいました。また、生前贈与をしすぎて、いざご自身が介護施設に入ろうとした際に、ご自身の資産が少なすぎて思ったような施設に入れなかったというお話も伺いました。 不確実な将来に備えるための対策に完璧はないのかもしれませんが、少なくとも「税負担を圧縮する」ことにフォーカスしすぎると、全体としてのバランスが崩れやすくなるということはあり得ると考えます。 *  *  * 筆者はファイナンシャルプランナーとして長年お客様の「人生とお金」に携わっていますが、お金は増やすより使う方が難しいと感じることがあります。 税金もいずれは私たちの暮らしに還元されるものなので、納税を極端に避けるのもどうかと思いますし、使い道に意志を持ちたいのであれば、志に共感できる団体へ遺贈するという方法もあります。生前贈与にこだわらずとも、家族が喜ぶことにお金を使う、自分の楽しみのためにお金を使う、世の中が豊になるためにお金を使うこともできそうです。 今回の記事が、皆様のお金との向き合い方に少しでも参考になりましたら幸いです。 (了)
#603(掲載号)
#山中 伸枝
2025/01/23
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 制度会計 税務・会計 財務会計 速報解説一覧

《速報解説》 経産省から「会社法の改正に関する報告書」が公表される~従業員・子会社の役職員に対する株式の無償交付や事業報告等と有報の一体開示等に関し検討~

《速報解説》 経産省から「会社法の改正に関する報告書」が公表される ~従業員・子会社の役職員に対する株式の無償交付や 事業報告等と有報の一体開示等に関し検討~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年1月17日、経済産業省に設置された「「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会」から、「会社法の改正に関する報告書」が公表された。 報告書は、企業の成長投資を後押しする会社法の改正の方向性を述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 主な内容は次のとおりである。 上記の事項に関して、例えば、次のことを述べている。 (了)
#阿部 光成
2025/01/20
お知らせ 会計 会計情報の速報解説 監査 税務・会計 速報解説一覧

《速報解説》 会計士協会が「監査報告書に係るQ&A」の改正案を公表~報酬依存度に関する取扱いの理解促進のための補足等行う~

《速報解説》 会計士協会が「監査報告書に係るQ&A」の改正案を公表 ~報酬依存度に関する取扱いの理解促進のための補足等行う~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2025年1月17日、日本公認会計士協会は、監査基準報告書700実務ガイダンス第1号「監査報告書に係るQ&A(実務ガイダンス)」の改正(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、報酬依存度に関する取扱いが十分に理解されていないことなどについて補足するものである。 意見募集期間は2025年1月31日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は次のとおりである。 (了)
#阿部 光成
2025/01/20
お知らせ 法人税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 会計検査院、賃上げ促進税制の上乗せ措置に関し見直しを求める報告書を公表~教育訓練増加額を上回る税額控除を受ける法人が9,812社にのぼる~

《速報解説》 会計検査院、賃上げ促進税制の上乗せ措置に関し見直しを求める報告書を公表 ~教育訓練増加額を上回る税額控除を受ける法人が9,812社にのぼる~   Profession Journal編集部   会計検査院は1月15日(水)、会計検査院法第30条の2に基づき、国会及び内閣へ下記の随時報告を行った。 今回検証の対象となったのは、平成25年度税制改正における創設後も延長・見直しが繰り返され本誌でもたびたび解説記事を掲載してきた「給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除」、いわゆる賃上げ促進税制(措法42の12の5)のうち、教育訓練費の増加割合に応じた税額控除率の上乗せ措置に係る部分。本制度は令和6年度税制改正における令和9年3月31日までの3年延長に伴い、中堅企業枠の新設や中小企業向けの繰越控除、税額控除率の見直しに加え、新たに両立支援(くるみん)・女性活躍(えるぼし)認定ごとの上乗せを設けるなど大幅な見直しが行われた(詳しくは下記連載を参照されたい)。 報告書で対象とされた事業年度は上記改正前の「平成30事業年度から令和3事業年度」であり、この3事業年度に賃上げ促進税制を適用し電子申告を行った法人のうち、教育訓練費に係る上乗せ税額控除を適用した12,861法人(大企業:2,180法人、中小企業者等:10,681法人)を調査したところ、その76.2%にあたる9,812法人(大企業:1,456法人、中小企業者等:8,356法人)が教育訓練費増加額を上回る税額控除を受けており、さらにこの9,812法人のうち8,130法人については、教育訓練費支出額自体を上回る税額控除を受けていたとしている。 報告書によると財務省は、教育訓練費に係る上乗せ税額控除について、政策目的に波及効果があるとされる支出額があることなどを適用要件として政策目的に直接関連した支出額の一部を税額控除できる他に例のない仕組みであり、上記のような状況については想定されるものの、教育訓練により生産性を向上させ、給与等を増加させることが政策目的であるとしていた。 このため会計検査院が「教育訓練費の増加が給与等の増加に及ぼす影響」について検証するため、経済産業省及び中小企業庁がその論拠とする各研究と実際の申告に係る数値とを比較したところ、教育訓練費が増加した場合の給与等支給増加額については研究に基づく結果が実際の額に比べて小さく、実際の上乗せ税額控除の額の合計額は研究に基づく結果に比べて大きく157億円の開差があるとした。 また、政策評価法に基づく評価や税制改正要望の際の検証にあたり、効果がどの程度あるかについて評価されていない、検証可能な数値目標及び要望措置の妥当性についての記載がないこと等を指摘した上で、次の点に留意して、その効果及び要望措置の妥当性を検証して、その検証結果を基に経済産業省等において見直しを検討することが重要であると結論付けた。 その上で会計検査院としては、今後とも本制度の適用状況、経済産業省等及び財務省による検証状況等について引き続き注視していくとしている。 なお、教育訓練費に係る上乗せ税額控除については、令和6年度税制改正において「教育訓練費が国内雇用者に対する給与等支給額の0.05%以上である場合に限り適用可能」とする条件が追加されているが、今回調査対象となった12,861法人について、仮に同条件が追加されていたとしても、教育訓練費に係る上乗せ税額控除が適用できなくなるものは大企業延べ196法人(8.9%)及び中小企業者等延べ1,484法人(13.8%)にとどまっていたとしている。 (了) ↓お薦め連載記事↓
#Profession Journal 編集部
2025/01/17
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.602が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年1月16日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.602を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2025/01/16
国税通則 税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第33回】「国税通則法74条の2《補論》」-国税通則法上の「納税義務」と消費税法上の「納税義務」-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第33回】 「国税通則法74条の2《補論》」 -国税通則法上の「納税義務」と消費税法上の「納税義務」-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法74条の2(当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権)   1 はじめに 国税通則法74条の2は「当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権」という見出しの下、所得税、法人税又は地方法人税及び消費税に関する税務職員の調査に係る質問検査権を規定しているが、第28回の1では、「消費税は、『課税標準等又は税額等』の計算において[課税売上げと課税仕入れとの]差引計算を要素とする点で、所得税や法人税と共通の性格をもつといえよう。」と述べた上で、次のとおり述べた。 上の叙述では、消費税を「営業利益税的な性格をもつ一種の企業税」として捉えて、消費税に関する質問検査手続が所得税や法人税と類似ないし概ね同様の手続とされていることに対する理解を述べたが、ただ、それは、消費税の「課税標準等又は税額等」の計算構造に着目して示した理解であって、「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)の負担内容、、、、に着目して示した理解ではなかった。そこで、今回は、第28回に関する「補論」として、後者の理解を中心に消費税に関する質問検査手続について検討することにする。   2 国税通則法上の「納税義務」 消費税法は消費税の課税要件について、同法4条1項が「国内において事業者が行つた資産の譲渡等及び特定仕入れ」を課税の対象(課税物件)として、同法5条1項が「事業者」を納税義務者として、同法28条1項及び2項が「課税資産の譲渡等の対価の額」及び「特定課税仕入れに係る支払対価の額」を上記の課税の対象に係る課税標準としてそれぞれ定め、そして同法29条が税率を定めている。課税要件のうち帰属については、同法4条1項が課税の対象を、事業者「が行つた」資産の譲渡等及び特定仕入れとして規定するという形で、課税の対象を納税義務者と結びつけることによって、定めている。 以上の課税要件が全て充足されると消費税の納税義務が成立するが(税通15条1項参照)、「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)は、上記の成立した納税義務について仕入税額控除等の税額控除(消税30条以下)という「成立した納税義務の消滅原因の1つである免除のうち、納税義務の成立と連動する特殊な形態の免除」(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【95】)を行った後の「納付すべき税額」(税通2条6号ニ)を意味する、あくまでも国税通則法(租税手続法)上の「消費税の納税義務」、すなわち、「納付すべき税額の確定」の対象となる納税義務(同15条1項、16条参照)であると考えるところである。 つまり、国税通則法が消費税を営業利益税的な性格をもつ一種の企業税として捉えた上で消費税に関する質問検査手続を所得税や法人税と類似ないし概ね同様の手続として定めていることについて第28回で述べた理解は、国税通則法上の「消費税の納税義務」について述べたものである。   3 消費税法上の「納税義務」 では、国税通則法(租税手続法)上の「消費税の納税義務」の基礎にある消費税法(租税実体法)上の「納税義務」に着目すると、消費税に関する質問検査手続をどのように理解すべきであろうか。この問題を検討するに当たっては、消費税の納税義務者としての「事業者」が消費税を「負担」することを消費税法の立法者が「予定」していないことをどのように考えるかが重要な意味をもつように思われる。 消費税法上の消費税も、他の「消費税(一般概念としての)」すなわち「物品やサービスの消費に担税力を認めて課される租税」(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)801頁)の多く(ゴルフ場利用税のような直接消費税以外の消費税)と同じく、間接税すなわち「法律上の納税義務者と租税の実際の負担者とが一致しないことを立法者が予定する租税」(清永敬次『税法〔新装版〕』(ミネルヴァ書房・2013年)8頁)であるが、消費税法上の消費税は、立法者がそのような租税負担の転嫁を単に黙示的に「予定」するにとどまるのではなく、その「予定」を「法律」で明示的に定め、かつ、その「予定」を具体化するための措置を講ずることを「法律」で定めた点で、他の現行税法上の間接税と顕著に異なる間接税である。その「法律」が、消費税法(昭和63年12月30日法律第108号)と同時に制定された税制改革法(昭和63年12月31日法律第107号)である。 税制改革法は消費税について下記の定めを置いている(下線筆者)。 税制改革法のこれらの規定の趣旨及び内容を理解する上で、同法制定当時の大蔵省主税局長の次の回想録(水野勝『主税局長の1300日 税制抜本改革への歩み』(大蔵財務協会税のしるべ総局・1993年)246-247頁。下線筆者)は有益である。 また、同じ論者は別の論文でも次のとおり述べている(水野勝「わが国における一般的な消費課税の展開」碓井光明ほか編『金子宏先生古稀祝賀 公法学の法と政策 上巻』(有斐閣・2000年)189頁、214頁。下線筆者)。 以上でみてきた税制改革法の規定やその趣旨及び内容からすると、消費税法上の「納税義務」は、消費税の「負担」(租税負担)を内容とする実体的負担を伴わない「納税義務」というべきものである。もっとも、その「納税義務」には、消費税に係る納税事務の「負担」(事務負担)は伴うが、これは、税法の観点からすると、手続的負担である。 要するに、消費税法上の「納税義務」は、所得税法や法人税法が定める所得税や法人税の「負担」を内容とする実体的負担を伴う納税義務ではなく、消費税に係る納税事務の「負担」という手続的負担を伴う「納税義務」であり、その意味では、質問検査手続も消費税に係る納税事務の一環を成す以上、国税通則法上の「消費税の納税義務」すなわち「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)と内容上整合的に接合し得るといえよう。したがって、質問検査の相手方のうち「消費税法の規定による消費税の納税義務がある者若しくは納税義務があると認められる者」(税通74条の2第1項3号イ)については、「税務調査受忍義務」(清永・前掲書64頁)というような事務負担を伴う一種の協力義務を措定する必要はないことになろう。消費税法上の「納税義務」については、納付義務それ自体が「納税代行機関となる事業者」(水野・前掲論文214頁)にとって同じく一種の協力義務というべきものである。   4 憲法30条の「納税の義務」 以上において、国税通則法上の「消費税の納税義務」のほか消費税法上の「納税義務」も、租税負担(実体的負担)を伴わず事務負担(手続的負担)のみを伴う「納税義務」であることを明らかにしてきた。最後に、そのような「納税義務」が憲法30条の「納税の義務」に該当するかどうか検討しておくことにする。 憲法30条の「納税の義務」について大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(以下「大嶋訴訟・最大判」という)は次のとおり判示している。 この判示にいう「およそ民主主義国家にあつては、国家の維持及び活動に必要な経費は、主権者たる国民が共同の費用として代表者を通じて定めるところにより自ら負担すべきものであ[る]」という「見地」は、「民主主義的租税観」(金子・前掲書22頁、前掲拙著【14】)と呼ばれるが、大嶋訴訟・最大判は、民主主義的租税観の下で憲法30条及び84条を捉えている。その後に「それゆえ」で接続された「課税要件及び租税の賦課徴収の手続は、法律で明確に定めることが必要である」との判示は租税法律主義(ここでは課税要件法定主義・課税要件明確主義)を意味するものである。したがって、以上の2つの判示は、憲法が租税法律主義を財政民主主義(83条)の収入面での具体化として定めているという理解(租税法律主義の民主主義的再構成。これについては拙著『税法創造論』(清文社・2022年)10頁以下[初出・2020年]参照)に基づくものと解される。 前記の1つ目の判示によれば、憲法30条の「納税の義務」も民主主義的に再構成された義務であるということになろう。このことを「納税の義務の民主主義的再構成」ということにすると、それは、憲法は租税法律主義を課税権者たる国家の側から(84条)だけでなく被課税者たる国民の側からも(30条)定めているという理解(前掲拙著『税法基本講義』【10】参照)からもいえることである。 納税の義務の民主主義的再構成を明治憲法からの「法律」の意義の転換に照らしていえば、明治憲法21条の「納税ノ義務」を定める「法律」が、「臣民義務ノ性質ハ忠誠奉公ノ精神ヲ以テ国家ノ命スル所ニ従順ナルニ在リ。」(穂積八束『憲法提要 上巻〔4版〕』(有斐閣書房・1912年)385頁)といわれる天皇主権下の臣民義務を定める「法律」であったのに対して、憲法30条の「納税の義務」を定める「法律」は、国民主権下の国民の義務を定める「法律」であり「その[=国民の]総意を反映する租税立法」(大嶋訴訟・最大判)である。 このように民主主義的に再構成された「納税の義務」は、大嶋訴訟・最大判によれば、民主主義的租税観の下では、「国家の維持及び活動に必要な経費」を「租税」として「自ら負担すべきもの」という実体的負担(租税負担)を伴う「納税義務」であると考えられる。 そうすると、消費税法上の「納税義務」は、憲法上の国民主権・民主主義原理の観点からは、憲法30条の「納税の義務」には該当しないというべきであろう。消費税については、国民の「総意」が、消費者への「転嫁」を前提にして事業者に「納税義務」を課すことにある以上、憲法原理上は、憲法30条の「納税の義務」を負うのは消費者とすべきであろう。そうすると、消費税について事業者だけでなく広く消費者一般が強い関心を持っていると考えられる現状は、憲法30条の理念からみて好ましい状況として肯定的に評価すべきであろう。 ただし、憲法30条の「納税の義務」については、「憲法自体は、その内容について特に定めることをせず、これを法律の定めるところにゆだねている」(大嶋訴訟・最大判)と解される以上、立法者が、民主主義的租税観の下に税制改革の理念・基本政策を定める税制改革法という「基本法」を制定し、消費税について、その実体的負担(租税負担)を事業者による消費者への「円滑かつ適正な転嫁」に委ね(税制改革法11条1項)、かつ、「国は、消費税の円滑かつ適正な転嫁に寄与するため、前項の規定を踏まえ、消費税の仕組み等の周知徹底を図る等必要な施策を講ずるものとする。」(同条2項)と宣明するとともに、消費税法という「通常の法律」に基づいて、事業者に消費税に係る手続的負担(納税事務負担)を伴う「納税義務」を課す、というような方法で憲法30条の「納税の義務」を具体化することも、立法裁量の範囲内にあり許容されると考えられる。 例えば、立法者は、消費税法上の「納税義務」が実体的負担(租税負担)を伴う納税義務でないが故に、上記の立法裁量の範囲内で難なく、リバースチャージ方式を採用し、もって特定仕入れを課税の対象(課税物件)とし(消税4条1項)特定課税仕入れを行った事業者を納税義務者とする(同5条1項)ことができたものと考えられる。ここに、消費税の課税要件の徴税技術性・便宜性が現れているように思われる(前掲拙著『税法創造論』703-704頁[初出・2017年]参照)。 要するに、前記のような立法裁量の範囲内で、立法者は消費税法上の「納税義務」を定め、これと同じ性質の義務(一種の協力義務)として国税通則法上の「消費税の納税義務」すなわち質問検査手続との関係では「消費税法の規定による消費税の納税義務」(税通74条の2第1項3号イ)を定めたものと考えられ、したがって、いずれの「納税義務」も正しく法律の創造物であるといえよう。 (了)
#602(掲載号)
#谷口 勢津夫
2025/01/16
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国際課税レポート 【第10回】「令和7年度税制改正・国際課税関係の主要項目」

国際課税レポート 【第10回】 「令和7年度税制改正・国際課税関係の主要項目」   税理士 岡 直樹 (公財)東京財団政策研究所主任研究員   令和7年度税制改正では、OECD「第2の柱」の措置の法制化など、デジタル国際課税に関して重要な改正が行われる見込みだ。現時点での情報は限られているほか、法案審議も残されているが、関心が高いテーマであることから、本稿では主な項目についてポイントを説明することとしたい。また、諸外国の議論を紹介し、参考として供したい。   国際課税関係主要項目 ◆与党税制改正大綱 令和6年12月20日に自由民主党・公明党がとりまとめた「令和7年度税制改正大綱」(以下「与党大綱」という)は、具体的には次について述べている。 〈令和7年度税制改正・国際課税関係の主な項目(与党大綱による)〉 (注) 「項目」「考え方」は、便宜上筆者が整理したもので与党大綱における記述ではない。「」内は大綱からの引用を示す。 (出所) 自由民主党ホームページ「令和7年度税制改正大綱」(令和6年12月20日)より抜粋の上、筆者作成。 ◆税制改正大綱 令和6年12月27日に閣議決定された「令和7年度税制改正大綱」では、主に次のとおり述べている。 ① UTPR、QDMTTの創設 ② CFC税制の見直し   諸外国の議論等 令和7年度税制改正で検討されている項目について、諸外国ではどのような議論があるか、簡単に紹介することとしたい。 ◆UTPR UTPR(国際最低課税残余額に対する法人税)は第2の柱の15%のグローバルミニマム課税を構成する3つの構成要素(※1)の1つであり、わが国は令和5年度改正で所得合算ルール(IIR)を導入し、UTPRとQDMTTは令和6年度改正以降の法制化を検討するとしていたものである。 (※1) 所得合算ルール(IIR)、軽課税所得ルール(UTPR)、国内ミニマム課税(QDMTT)のこと。わが国は令和5年度改正でIIRを導入済み。 EUでは2024年12月31日以降開始する事業年度からUTPRの適用を開始する方針だ。しかし、UTPRはネクサスや支配関係がなくても“域外適用”されることから、ポリシーの問題に加え、法的な問題が顕在化している。 ベルギーは、2023年12月にEU指令に従ってUTPRを国内法に導入し、2025年に適用することとした。これに対し、アメリカ商工会議所等(複数の団体が訴訟参加)はUTPRが憲法やEU基本法等に反する違法な立法であるとして訴訟を提起している(ベルギーでは、新法について、憲法適合性等についての訴訟を提起する制度がある)。 議会多数派である米国共和党議員はこの訴訟に支持を表明し、UTPRを課している国に対して報復することを目的とした法案を提出するにまで至っている。 シンガポール、マレーシア、スイスはUTPRを国内法に導入しないこととしており、スイスはその理由について潜在的な法的リスクをあげている。 ◆利益B 利益Bは、単純な販売子会社との取引について移転価格税制の適用の簡素化を目指したものであり、2024年2月にOECD移転価格ガイドラインの一部となっている(※2)。 (※2) 本連載【第3回】「OECD声明と米・伊財務相発言から読み解く利益Aと利益B」参照 ポイントは、TNMMによる独立企業間価格の算定を前提とし、販売子会社について、産業区分、売上高の営業費用に対する比率、売上高の営業資産に対する比率、といった要素からなるマトリクスが示す「売上高利益率」(Return on Sales)を独立企業間価格とすることを認めるというものである。 〈利益B移転価格プライシング・マトリクスの概要(売上高利益率%)〉 (注) 関連者から有形財を仕入れ、非関連者に卸売販売等する取引が対象。サービス(デジタルサービスを含む)は含まない。 (出所) 「利益Bレポート」Inclusive Framework on BEPS「Pillar One -Amount B」Table 5.1 「Pricing Matrix (return on sales %) derived from the global dataset」を一部改変して筆者作成。 2024年2月に公表されたOECD移転価格ガイドラインは、利益Bの扱いは各国の任意であり、各国は①導入しない、②納税者の選択適用、③強制適用の3つのオプションから選択できる。1つに絞り切れなかったのは、加盟国間の意見対立があったためと伝えられる。 企業の立場からは、移転価格税制の簡素化に資するものとして期待がある。このことは、近年のOECDのデジタル国際課税改革に反発することの多かった米国、そして米国企業が、利益Bを支持し、むしろ利益Bを適用できる事業の範囲の拡大を訴えていたことにも表れている。 各国の反応はどうか。ニュージーランド、オランダ等は、この枠組みを採用する予定がないことを明らかにしてきている。米国の租税専門誌(2025年1月6日)は、日本も利益Bを採用しない国として報じている。 一方、米国は利益Bの採用に積極的だ。IRSは今後、利益Bについての規則を制定する予定でるあることを明らかにしている。また、当面の間、米国企業は利益BについてのOECD移転価格ガイドラインに依拠できることとしている(2024年12月18日IRS通達2024-05)。   感想 ◆UTPR 米国の租税専門誌(2025年1月6日)は、「UTPR に対する疑念があるにもかかわらず、日本を含むいくつかの管轄区域では、この措置を推進する動きが続いている」と伝えている。 UTPRによる課税はネクサス(恒久的施設や支配)を必要としないことなどから、従来の租税条約や国際課税原則の枠組みで正当化できるか疑問があることについてはこれまでも指摘があった。ここへきて地政学的な不確実性(米国の反発)、法的な不確実性(ベルギーでの訴訟提起)が改めて顕在化しているようにも見える。 不確実性の背景の1つには、OECDからの情報不足もある。OECDは「GloBEルールは租税条約に適合するように設計されている」と“宣言” (※3)するだけにとどまり、具体的な根拠や議論が十分に示されないまま今日まできているように思われる。 (※3) OECDが2023年2月に公表した第2の柱執行ガイドライン6頁。 OECDがこれまでに公表してきた膨大な量のガイドラインに従ってUTPRを国内法で立法した国や、そうした国の企業が法的リスクにさらされないようにするためにも、このタイミングで法的な懸念についてはOECDからもう1歩踏み込んだ対応が検討されてもよいのではないだろうか。 ◆利益B 利益Bについては、世界一の多国籍企業の母国である米国の企業・政府(バイデン政権は、利益Bを利益A多国間条約署名の必須条件と主張した)の反応や対応をみても、予測可能性や紛争解決・回避の観点からメリットが期待できることがわかる。日本に投資を呼び込む観点から、海外の投資家に安心感を与える上でメリットもあるだろう。 利益Bを導入する際、強制適用と企業の選択適用のオプションがあるが、IRSが2024年12月18日に公表した通達(Notice 2024-5)は、企業の選択適用を認める内容であり(強制適用については引き続き検討中としている)、2025年1月から適用されている。この方向性は、企業にとって自由度があり、歓迎できるものだ。通達の内容はコメントを踏まえ、今後財務省規則に反映される予定だ。今後の展開を期待をもって注視しておきたい。 OECDは、2024年12月に利益Bの「あらまし」(fact sheet)及び、関連する計算を援助するためのエクセルシートの提供をホームページでするなど、利益Bの制度の理解と活用を促進する努力を積極的に行っており、こちらも歓迎できる。 日本は米国に次ぐ多国籍企業大国であり、米国の判断は参考になるはずだ。本連載【第3回】では、金銭的な損得はマトリクスの率を高いとみるか低いとみるかに左右されうることを指摘した。資本輸出国の場合、低いほうが有利になりうる。しかし、今回公表されたIRSの通達(今後の財務省規則案)は強制適用ではなく企業の選択を認めるものであり、米国(IRS)は自国の金銭的な得失より制度の簡素や予測可能性・紛争回避に重点をおいたと理解できないだろうか。そうであれば、国際課税制度の議論をけん引してきた国として、責任ある態度といってよいようにも感じる。 利益Bは簡素化されているとはいえ、れっきとした独立企業間利益でもある。米国の動きを参照し、今後前向きに検討される機会が訪れることを期待しておきたい。 (注) 本稿で取り上げた内容は、今後情報が集積されるのを待って、機会があれば改めて整理することとしたい。 (了)
#602(掲載号)
#岡 直樹
2025/01/16

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