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《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和5年10月~12月)」~注目事例の紹介~
《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和5年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~ 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 国税不服審判所は、2024(令和6)年6月18日、「令和5年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係5件、所得税法関係、法人税法関係、相続税法関係及び国税徴収法関係が各1件で、合計9件となっている。 【表:公表裁決事例令和5年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された9件の裁決事例のうち、隠蔽又は仮装の事実があったかどうかが争われた事例(前掲表②)、通院費用が医療費に含まれるかどうかが争われた事例(前掲表⑥)及び収益の益金算入基準が争われた事例(前掲表⑦)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。 1 請求人の売上計上漏れが「隠蔽又は仮装」に該当するか否かが争われた事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、建築工事等を目的として設立された法人である審査請求人が、原処分庁所属の職員の調査を受けて、法人税等及び消費税等の修正申告をしたところ、原処分庁が、請求人の売上げの計上漏れについては、隠蔽又は仮装の事実が認められるとして法人税及び消費税等に係る重加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装に該当する事実はないなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、請求人代表者のEが、本件工事代金を請求人に帰属する金員であると認識して受領した上で、その受領につき日計帳や総勘定元帳などの帳簿に記載せず、個人的に費消したと認められ、その費消について、請求人が、本件法人税各修正申告書において、本件工事代金をEに対し役員賞与として支出したとして追認していることからも、これらの行為は故意により行われたと認められると主張した。 これに対して、国税不服審判所は、請求人は、日計帳や領収証の控えなどを1年分まとめて総勘定元帳の作成を委託しているH商工会へ引き渡して作成しているところ、領収証の控えが存在しながら故意に日計帳に記載がされず、総勘定元帳に計上がされなかったことをうかがわせる証拠はないことから、本件工事代金が日計帳に記載されず、総勘定元帳に計上されていなかったのは、通常の場合とは異なり、請求人が、本件工事代金に係る領収証を故意又は過失により発行しなかったか、その控えを故意又は過失により破棄したことによるものと認められると判断した。 そのうえで、本件工事代金は、請求人の本件各事業年度における売上高の0.2%弱にとどまり、それ以外の売上に係る所得は確定申告がされており、ほかの工事代金については領収証の作成や帳簿への記載がなされる一方で、本件工事代金についてのみ領収証の作成や帳簿への記載がなされなかったことが意図的なものであるとうかがい得るような規則性・共通性なども見いだし難いとして、請求人が、本件工事代金について、故意に領収証を発行しなかったこと、あるいは、領収証を作成しながらその控えを故意に破棄したことなどにより、故意に帳簿に記載しなかったことを裏付ける証拠は見当たらないと結論づけた。 さらに、国税不服審判所は、請求人による申立書には、本件工事代金として受領した金員の使途が不明であるためにEが個人的に当該金員を費消したと思われても仕方ない旨の記述があり、また、請求人は、本件法人税各修正申告書において、本件工事代金の処分として社外流出欄に賞与と記載していることからは、Eが、取引先から受領した本件工事代金の使途が不明であることから個人的な費消として取り扱われてもやむを得ない旨を同人が事後的に承諾したことが認められるとしても、Eが、手元にある現金を本件工事代金であると認識した上で個人的に費消したとまで認められるものではなく、Eが、本件工事代金に係る現金の受領後、自らの所持金と混同することなどにより、請求人に帰属する金員との認識を欠いた状態となり、手元にあった本件工事代金の受領に係る現金を個人的用途に費消した可能性を否定できないうえ、そのほか、Eが、本件工事代金を請求人に帰属する金員であると認識した上で、個人的に費消したことを認める証拠はないと判断した。 結論として、国税不服審判所は、請求人が課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、隠匿あるいは故意に脱漏したとまでは認められないことから、本件工事代金が請求人の申告漏れとなったことは、国税通則法第68条第1項に規定する「隠蔽」に該当するとは認められないことから、原処分庁の主張には理由がなく、そのほか当審判所における調査及び審理の結果によっても請求人に国税通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったと認めることはできないとして、本件各賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額については、いずれも違法であり、また、本件各修正申告書について、国税通則法第65条第1項の規定により過少申告加算税の額を計算するといずれも5,000円未満となり、同法第119条第4項の規定により加算税が5,000円未満であるときはその全額を切り捨てることとなるから、本件各賦課決定処分のいずれもその全部を取り消すこととなると裁決した。 2 医療費控除における医療費の範囲が争われた事例・・・⑥ (1) 事案の概要 本件は、審査請求人が、所得税等の確定申告等をした後、病院へ通院するために要したとする自家用車のガソリン代、高速道路利用料金及び駐車場利用料金が医療費控除の対象となる医療費に含まれていなかったとして更正の請求をしたところ、原処分庁が、当該ガソリン代その他利用料金は医療費控除の対象となる医療費に該当しないとして、更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたのに対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、請求人による、所得税法施行令第207条第1号にいう「医師又は歯科医師による診療又は治療」の対価には通院費が含まれると解すべきという主張に対しては、通院費は、病院等へ往復するための旅費や交通費であって、医師又は歯科医師による診療行為又は治療行為に対して支出されるものでも、医療機関に対して直接支払われるものでもないことから、所得税法施行令第207条第1号に規定する「医師又は歯科医師による診療又は治療」の対価に通院費が含まれると解することはできないとして、その主張を斥けている。 さらに、請求人による、所得税基本通達73-3(控除の対象となる医療費の範囲)は、通院費が医療費に含まれる旨定めるのみで、何ら通院手段を限定していないのであるから、通院費であれば人的役務の提供の対価でなくとも医療費に該当する旨の公的見解の表示をしているにもかかわらず、本件各通知処分は、かかる公的見解と異なる見解を前提にしており、信義則に反するという主張については、国税不服審判所は、一般に広く閲覧可能な国税庁ホームページ上において、医療費控除の対象となる通院費は電車賃やバス賃などのように人的役務の提供の対価として支出されるものをいうのであるから、自家用車で通院する場合のガソリン代や駐車場の料金は医療費控除の対象とならない旨の説明がなされていることからすれば、この通達の定めから、請求人の主張するような内容について税務官庁が公的見解の表示をしたと認めることはできないとして、請求人の主張を斥けている。 結論として、国税不服審判所は、通院のためのガソリン代等はこの通達にいう通院費に該当せず、本件各通知処分に信義則に反する違法はないので、本件各更正の請求に対し、更正をすべき理由がないとした本件各通知処分はいずれも適法であるとして、審査請求には理由がないから、これを棄却すると裁決した。 3 収益の益金算入基準が争われた事例・・・⑦ (1) 事案の概要 本件は、部品の製造及び販売等の事業を営む法人である審査請求人が、発注者の依頼により部品を製造するために使用する金型等の製作費用相当額として発注者から支払われた金銭について、部品の量産開始日を含む月から24ヶ月の分割で益金の額に算入していたところ、原処分庁が、請求人が発注者から製作費用相当額を受け取った時点で全額益金の額に算入すべきであるとして法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 原処分庁は、本件一括払費は事後に返還を要するものとはいえず、金型等相当額を請求人がN社から受領した時点で所得の実現があったとみることができるから、請求人がN社から受領した日の属する事業年度において、その全額を益金の額に算入すべきであると主張する。 これに対して、国税不服審判所は、N社と請求人との間に金型等相当額の返還に関する明示の合意は見当たらないものの、支払請求権が確定していない金型等相当額を請求人がN社から受領した後に請求人が金型等を廃却等した場合には、請求人は支払請求権が確定していない金型等相当額をN社に返還するというのが、本件基本契約の合理的な解釈であることから、本件一括払費が返還不要であるとは言い切れず、原処分庁の主張には理由がないとして斥けた。 さらに、国税不服審判所は、原処分庁の主張によれば、請求人による役務が日々継続的に提供され続けている本件残額一括払費の受領時や、本件部品の量産が開始していない本件新規一括払費の受領時において、これらの金額を益金の額に算入すべきこととなるが、これらの金額の受領時においては、役務の全てが請求人からN社に提供されているとはいえないことから、受領時において、これらの金額の全てにつき収入すべき権利が確定しているとはいえず、所得の実現があったとみることもできないとして、原処分庁の主張には理由がないとの判断を示した。 結論として、国税不服審判所は、本件差額は、本件事業年度の法人税の所得の金額の計算上、益金の額に算入されないことから、本件法人税更正処分は違法であり、〔争点2〕について判断するまでもなく、その全部を取り消すべきであり、審査請求には理由があるから、原処分はいずれもその全部を取り消すことと裁決した。 (了)
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《速報解説》 公的年金等に係る定額減税については日本年金機構の特設ページ・Q&Aで確認を~年金振込通知書に減税額は記載されず~
《速報解説》 公的年金等に係る定額減税については 日本年金機構の特設ページ・Q&Aで確認を ~年金振込通知書に減税額は記載されず~ Profession Journal 編集部 今月から給与等の源泉徴収事務に係る定額減税が始まっており、事業所得者に対する定額減税は第1期予定納税額(7月)から実施される。これら実務に関する情報は本誌でも繰り返しお伝えしている通り、国税庁・総務省の各特設ページでQ&Aや様式が公表され、随時更新されている。 一方、公的年金等の受給者に対する定額減税については、5月に日本年金機構の特設ページが公表され、6月17日付で更新されており、制度のあらましのほか、同ページ内にはケースに応じたQ&Aも確認することができる。 公的年金等からの所得税・個人住民税の定額減税に関する留意事項としては、給与等の源泉徴収事務に係る定額減税の場合、給与明細書への定額減税額の記載が必要とされているが(国税庁「令和6年分所得税の定額減税Q&A(概要・源泉所得税関係)」問10-8)、下記年金機構のQ&A[問12]の通り、年金振込通知書には定額減税額は記載されていない点や、公的年金等からの所得税の定額減税は本年6月に支払われる年金の源泉徴収税額から控除されるものの、個人住民税の定額減税は本年10月に支払われる年金の特別徴収額から控除されるため、開始時期に差異がある点等といえよう。 その他、年金機構のQ&Aでは令和6年中に海外から日本に転入した場合又は海外へ転出した場合の適用関係などが説明されている。今後の情報更新についても留意されたい。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.574が公開されました!~今週のお薦め記事~
2024年6月20日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.574を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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日本の企業税制 【第128回】「実行計画2024年改訂版案等で示された“事業承継税制の見直し”」
日本の企業税制 【第128回】 「実行計画2024年改訂版案等で示された “事業承継税制の見直し”」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 6月7日、政府の新しい資本主義実現会議(第28回)では、新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版案(以下「実行計画2024年改訂版案」という)が取りまとめられた。 また、政府の経済財政諮問会議(第8回)でも、6月11日に、経済財政運営と改革の基本方針 2024(原案)(以下「骨太方針原案」という)が提示された。 実行計画2024年改訂版案では、新たな官民連携、社会的課題解決と経済成長の実現を掲げ、物価高を乗り越えるために、今年、物価上昇を上回る所得を実現し、来年以降に、物価上昇を上回る賃上げを定着させるべく、①中小・小規模企業で働く労働者の賃上げ、②三位一体の労働市場改革の早期実行、③企業の参入・退出の円滑化、④コンテンツ産業活性化戦略、⑤国内投資の推進、⑥2040年を視野に入れたGX国家戦略の策定、⑦資産運用立国の推進の7本柱を掲げた。 特に、3本目の柱の「企業の参入・退出の円滑化」の具体的な課題としては、スタートアップ育成5か年計画の強化とともに、中小・小規模企業の事業承継やM&A(買収と合併)・グループ化を進めるため、仲介事業者の手数料の開示や、M&Aの際に経営者保証を見直す枠組みの導入、事業承継税制の要件緩和の検討を図ることが盛り込まれており、令和7年度税制改正に関連する事項が含まれている。 〇事業承継税制の変遷 事業承継税制は、後継者である受贈者・相続人等が、経営承継円滑化法の認定を受けている非上場会社の株式等(議決権を行使することができない株式を除く)を贈与又は相続等により取得した場合において、その非上場株式等に係る贈与税・相続税について、一定の要件のもと、その納税を猶予し、後継者の死亡等により、納税が猶予されている贈与税・相続税の納付が免除される制度である。 この制度は平成21年度税制改正により創設され、平成25年度税制改正と平成29年度税制改正による適用要件の緩和等が行われてきた。 例えば、雇用維持要件について、平成25年度税制改正では、「承継後5年間、毎年8割の雇用を維持」することとされていたのを「承継後5年間平均で8割の雇用を維持」することに緩和され、さらに、平成29年度税制改正では、従業員数の要件(8割維持)の計算上、端数を切り捨てることとするとともに、災害等の場合の要件緩和が措置された。このほか、平成25年度税制改正では、親族に限定されていた後継者について、親族外でもよいこととし、また、承継後、先代経営者は役員を退くことが求められていたところ、代表権のない役員としてとどまることも認められるようになった。 〇事業承継税制の特例措置の創設 上記のような累次の要件緩和にもかかわらず、事業承継税制の適用件数は年間500件程度にとどまる一方、当時の中小企業庁の推計によると、2025年までの10年間に70歳を超える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人に達し、その約半数の127万人が後継者未定で、この状況を放置すれば中小企業等の廃業の急増により、10年間で約650万人の雇用と約22兆円のGDPが失われる可能性があるとされた。 こうした状況を踏まえ、平成30年度税制改正では、上記の措置(一般措置)に加え、10年間(平成30年1月1日~平成39年(=令和9年)12月31日)の期間限定の特例措置が講じられた。 特例措置では、納税猶予の対象となる非上場株式等の制限(総株式数の最大3分の2まで)の撤廃や、納税猶予割合の引上げ(80% ⇒ 100%)、雇用維持要件の弾力化(承継後5年間平均8割の雇用を維持できなかった場合でも、一定の場合には猶予を継続)等がなされた。 特例措置の適⽤を受けるためには、認定経営革新等支援機関の指導及び助言を受けて特例承継計画を策定し都道府県庁に提出しその「確認」を受けた上で、経営承継円滑化法に基づく都道府県知事の 「認定」を受け、報告期間中(原則として贈与税・相続税の申告期限から5年間)は後継者が代表として経営を行う等の要件を満たす必要があり、その後は、後継者が対象株式等を継続保有すること等が求められている。 特例承継計画の提出期限については、特例措置の創設当初は平成35年(=令和5年)3月31日とされていたが、令和4年度税制改正で、新型コロナウイルス感染症の影響等により特例承継計画の策定に時間を要する中小企業者等があることを考慮し、令和6年3月31日まで1年延長され、さらに令和6年度税制改正では、令和8年3月31日まで2年間延長されている。 〇M&Aによる事業承継 M&Aによる事業承継に関しては、令和3年度税制改正において中小企業事業再編投資損失準備金制度が創設されている。この制度は、経営資源の集約化によって生産性向上等を目指すための中小企業等経営強化法の経営力向上計画の認定を受けた中小企業者が、簿外債務など中小企業の株式取得後に顕在化する投資リスクに備えるための準備金(株式取得価額の70%相当額を限度とする)を積み立てたときに、損金算入を認める措置である。 この制度は、令和6年度税制改正において拡充・延長(3年間)されたところであり、認定からM&A実施までの期間を短縮できるよう認定プロセスを見直すとともに、中堅・中小企業によるグループ化に向けた複数回のM&Aを集中的に後押しするため、産業競争力強化法において新設する認定を受けた法人に対しては、損金算入される積立率の拡大(2回目90%・3回目以降100%)や益金算入開始までの据置期間の長期化(10年間)が措置された。 〇事業承継税制の見直し 今回の実行計画2024年改訂版案においては、「事業承継税制の役員就任要件の検討」について次のように記載されている。 また、第三者への事業承継に関しても、次のような記載が見られる。 骨太方針原案でも、「事業承継及びM&Aの環境整備に取り組む。事業承継税制の特例措置について、役員就任要件の見直しを検討する。第三者への承継を促進する税制の在り方の検討を深める」とされている。 (了)
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給与計算の質問箱 【第54回】「定額減税しきれないと見込まれる方への給付金(調整給付金)」
給与計算の質問箱 【第54回】 「定額減税しきれないと見込まれる方への給付金(調整給付金)」 税理士・特定社会保険労務士 上前 剛 Q 定額減税しきれないと見込まれる方への給付金(調整給付金)についてご教示ください。 A 調整給付金の概要、対象者、支給額、支給時期等は以下のとおりである。 * * 解 説 * * 1 調整給付金の概要 納税者、同一生計配偶者、扶養親族1人につき40,000円(所得税30,000円+住民税10,000円)の定額減税が行われるが、定額減税しきれないと見込まれる方に対しては調整給付金が支給される。 (1) 当初給付 令和6年度の個人住民税を課税した市区町村から令和5年の所得状況(所得税・個人住民税)に基づいて定額減税しきれないと見込まれるおおむねの額が支給される。 (2) 不足額給付 令和7年度の個人住民税を課税する市区町村から令和6年分の所得税と定額減税が確定した後、当初給付で不足する金額があった場合に支給される。 2 調整給付金の対象者 所得税と個人住民税の所得割の少なくとも一方を納付し、かつ、定額減税しきれないと見込まれる方が対象である。 3 調整給付金の支給額 当初給付の調整給付金の計算方法は、以下のとおりである。 ※画像をクリックすると別ページ(内閣官房ホームページ)のPDFが開きます。 (出典) 内閣官房ホームページ「よくあるご質問」の「Q 定額減税で引ききれないと見込まれる方への給付(調整給付)の額の具体的な算定方法について教えてください。」 〈具体例〉 4 調整給付金の支給時期 当初給付の調整給付金の支給時期は令和6年の夏以降、不足額給付の支給時期は来年以降である。 5 会社の手続き 市区町村が行うので、給料計算などの会社の手続きはない。 (了)
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〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第62回】「みなし役員と実質的な退職」
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第62回】 「みなし役員と実質的な退職」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) みなし役員と実質的な退職 本連載【第1回】では、みなし役員の概要を紹介している。このみなし役員に該当すれば、該当者へ支給される給与等が、税務上の役員給与として取り扱われることになる。そして、このみなし役員に該当するかどうかの判定は、「法人の経営に従事している」かどうかという点が肝となるため、この判断は事実認定の問題となる。 また、本連載【第2回】では、税務上の役員退職給与を支給する場面において、実質的な退職の判断について触れている。こちらは、退職後も退任前と同様の勤務実態があるような場合は、実質的な退職とはいえないために役員退職給与の額の損金算入が認められないという内容であり、その勤務実態の判断についても、やはり事実認定の問題となる。 これらは、通常の役員給与と役員退職給与の判断でそれぞれ検討することになる論点であるが、「みなし役員に該当するために退職の事実なし」として役員退職給与の額の損金算入が課税庁により否認され、国税不服審判所に持ち込まれた事例があるため、以下にその概要を紹介する。 (2) みなし役員に該当しないため役員退職給与の損金算入が認められた事例 このような事例として、国税不服審判所令和2年12月15日裁決がある(※1)。 (※1) 裁決事例集等未登載、TAINS:F0-2-1010。 本件裁決例は、税務上の役員退職給与の損金算入の是非について、その対象となった役員が法的な地位を有さない場合でも、「法人の経営に従事している者」、つまりみなし役員であると認定できるために実質的な退職がなく、役員退職給与として損金算入が認められないとして更正処分等がなされたことが注目される。 みなし役員となるかどうかの判断につき、国税不服審判所の判断は以下の通りである。 ① 経営会議への出席及び指示命令 「経営会議において、本件各法人それぞれの経営方針・予算・人事等の事業運営上の重要事項につき、具体的な指示や経営に関する決定をしたこと及びその内容や方法を示す客観的証拠はなく、・・・いつどのような内容の指示や決定を行ったかという具体的な状況については明らかとはいえない。したがって、・・・経営会議における、甲による本件各法人の事業運営上の重要事項に係る具体的な指示等の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない」。 ② 経営会議以外での指示命令 課税庁は、甲がLINE等を活用して様々な指示ともとれるようなやりとりがみられる旨を主張していたが、「甲が本件各法人の業務に関して具体的な指示等をしたこと及びその内容や方法を示す客観的な証拠はない」。 ③ 金融機関等との交渉 本件各法人が、対象期間中に新規融資を受けていないことに注目し、「実際に新規融資に向けた具体的な交渉が行われたことを認めるに足りる証拠もないことから、少なくとも、甲がこれらの期間において、金融機関から本件各法人が新規融資を受けるという判断をしたとは認められ」ない。 ④ 新規事業の決定等 「本件各法人が太陽光発電事業を新規事業として開始したという事実はない」。 (3) 本件裁決例の意義 通常、支給した役員退職給与の額が損金不算入であると判断される理由は、不相当に高額であるとされるためである(法法34②)。その具体的な損金算入限度額の計算方法として功績倍率法等があることはいうまでもない。 ここで、本件裁決例では、損金算入限度額の計算やその基礎となる最終報酬月額に関して言及されている箇所はない。したがって、功績倍率法等による損金算入限度額が、それぞれ甲に支給した額を超えるといったような事情があったのかもしれず、その上で課税庁が否認しようとしたとも推察される。このように考えれば、役員退職給与の支給を受けた甲が、退任前と同様の勤務実態があったことを立証しようとしてみなし役員の概念を持ち出したとも思われる。 なお、本件裁決例について、課税庁の事実認定の甘さを指摘した上で、今後はみなし役員に該当するかの判断についてSNSで立証されるという点が重要となると指摘するものがある(※2)。本件裁決例は、甲が役員を退任していたことが立証されたために納税者の主張が認められた事例であるといえるため、役員退職給与について損金算入の判断を行うためには、退任前と同様の勤務実態が認められるという点が無いようにしたい。 (※2) 渡辺充「退任の約5か月前に海外に住所を移転した元代表者と“みなし役員”」税理65巻15号(2022)190頁。 (了)
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基礎から身につく組織再編税制 【第65回】「適格株式移転(支配関係)」
基礎から身につく組織再編税制 【第65回】 「適格株式移転(支配関係)」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 前回は「完全支配関係がある場合」の適格株式移転の要件を確認しました。今回は、「支配関係がある場合」の適格株式移転の要件について解説します。 なお、支配関係の定義については、本連載の【第3回】を参照してください。 1 支配関係がある場合の適格株式移転の要件 支配関係がある場合の適格株式移転の要件は次の4つです。 2 金銭等不交付要件 「金銭等不交付要件」とは、株式移転完全子法人の株主に株式移転完全親法人株式以外の資産が交付されないことをいいます(法法2十二の十八)。 ただし、下記の①又は②を交付しても金銭等不交付要件に抵触しません。 ①から②の内容は、前回解説した「完全支配関係がある場合の適格要件」と同様のため解説を省略いたします。 3 支配関係継続要件 支配関係継続要件とは、支配関係がある法人同士の株式移転の場合に、再編後においても支配関係が継続する見込みがあることをいいます(法令4の3㉓)。 (1) 当事者間の支配関係 株式移転前に株式移転完全子法人と他の株式移転完全子法人との間にいずれか一方の法人による支配関係がある場合には、株式移転後に株式移転完全子法人と他の株式移転完全子法人との間に株式移転完全親法人による支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式移転後は、C社(株式移転完全子法人)とB社(他の株式移転完全子法人)との間にA社(株式移転完全親法人)による支配関係が継続することが求められます。 (2) 同一の者による完全支配関係 株式移転前に株式移転完全子法人と他の株式移転完全子法人との間に同一の者による支配関係がある場合には、株式移転後に株式移転完全子法人と他の株式移転完全子法人と株式移転完全親法人との間に同一の者による支配関係が継続する見込みがあることが求められています。 上図の株式移転後は、B社(株式移転完全子法人)とC社(他の株式移転完全子法人)とD社(株式移転完全親法人)の間にA社(同一の者)による支配関係が継続することが求められます。 (3) 株式移転後に適格合併が予定されている場合の要件 「支配関係がある場合の適格株式移転」があった場合も「完全支配関係がある場合の適格株式移転」と同様に、株式移転完全子法人、株式移転完全親法人、同一の者が適格合併で解散することが見込まれている場合の特例が設けられています。 4 従業者継続要件 (1) 従業者継続要件とは 「従業者継続要件」とは、株式移転直前の株式移転完全子法人の従業者のうち、その総数のおおむね80%以上に相当する数の者が株式移転後に株式移転完全子法人の業務((2)参照)に引き続き従事することが見込まれていることをいいます(法法2十二の十八ロ(1))。 (2) 「株式移転完全子法人の業務」について ① 株式移転完全子法人と完全支配関係にある法人がある場合 株式移転完全子法人の業務には、株式移転完全子法人との間に完全支配関係がある他の法人の業務も含まれます。 上図のように、従業者が株式移転完全子法人の業務だけでなく100%グループ内の法人(A社、B社)の業務に従事していれば80%判定に含めてもよいとされています。 ② 株式移転後に適格合併等を行うことが見込まれている場合 株式移転後に行われる適格合併により、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業がその適格合併に係る合併法人に移転することが見込まれている場合には、その適格合併に係る合併法人の業務も含まれます。 株式移転完全子法人を分割法人又は現物出資法人とする適格分割又は適格現物出資により、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業がその適格分割又は適格現物出資に係る分割承継法人又は被現物出資法人に移転することが見込まれている場合には、その適格分割又は適格現物出資に係る分割承継法人又は被現物出資法人の業務についても含まれます。 上図のC社の業務に従事していれば、80%判定に含めてよいとされています。 (3) 従業者とは 従業者継続要件における「従業者」とは、役員、使用人その他の者で、株式移転の直前において株式移転完全子法人の株式移転前に行う事業に現に従事する者をいいます。 ただし、日々雇い入れられる者で従事した日ごとに給与等の支払を受ける者については、法人が選択により従業者の数に含めないことができます。 ① 出向により受け入れた者 出向により受け入れている者であっても、株式移転完全子法人の株式移転前に行う事業に現に従事する者であれば従業者に含まれます。 ② 下請先の従業員 下請先の従業員は、自己の工場内でその業務の特定部分を継続的に請け負っている企業の従業員であっても、従業者には該当しません。 5 事業継続要件 (1) 事業継続要件とは 「事業継続要件」とは、株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業が株式移転後に株式移転完全子法人において引き続き行われることが見込まれていることをいいます(法法2十二の十八ロ(2))。 ① 株式移転完全子法人と完全支配関係にある法人がある場合 株式移転完全子法人の株式移転前に行う主要な事業が、株式移転完全子法人との間に完全支配関係がある法人において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 ② 株式移転後に適格合併等を行うことが見込まれている場合 株式移転後に行われる適格合併等により、主要な事業がその適格合併等に係る合併法人等に移転することが見込まれる場合には、その適格合併等に係る合併法人等において引き続き行われることが見込まれる場合も含まれます。 (2) 「主要な事業」とは 株式移転完全子法人の株式移転前に行う事業が2以上ある場合には、そのいずれが主要な事業に該当するかは、それぞれの事業に属する収入金額又は損益の状況、従業者の数、固定資産の状況等を総合的に勘案して判定します。 ◆支配関係がある場合の適格株式移転の要件のポイント◆ 原則として、株式以外の対価を交付しないことが求められています(金銭等不交付要件)。 支配関係継続要件については、合併と異なり株式移転完全子法人は消滅しないため、当事者間の支配関係がある場合でも求められます。 株式移転完全子法人の株式移転直前の従業者の総数のおおむね80%以上に相当する者が、引き続き株式移転完全子法人の業務に従事することが見込まれているかを確認します。 株式移転完全子法人の主要な事業が、株式移転後に株式移転完全子法人において引き続き営まれることが見込まれるかを確認します。 従業者継続要件、事業継続要件については、合併や分割と異なり、株式移転後に適格分割や適格現物出資があった場合の特例が設けられています。 (了)
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相続税の実務問答 【第96回】「相続時精算課税選択届出書の提出(贈与税の申告義務がない場合)」
相続税の実務問答 【第96回】 「相続時精算課税選択届出書の提出(贈与税の申告義務がない場合)」 税理士 梶野 研二 [答] 令和6年1月1日以後に相続時精算課税の適用を受ける財産の贈与を受けた場合には、相続時精算課税の適用を受ける財産の価額の合計額が基礎控除額である110万円以下であれば、贈与税の申告書の提出義務はありませんが、相続時精算課税を選択するための「相続時精算課税選択届出書」をあなたの住所地の税務署長に提出しなければなりません。 なお、相続税の課税価格に加算又は算入される価額は、その財産の価額から相続時精算課税に係る基礎控除の額を控除した残額となりますので、令和6年中に贈与を受け相続時精算課税の適用を受けた財産が100万円だけであれば、お父様の相続開始があった場合に相続税の課税価格に加算又は算入される金額はありません。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 相続時精算課税に係る基礎控除 贈与税の課税方法には、いわゆる暦年課税と相続時精算課税の2つの方法があります。暦年課税と相続時精算課税の概要は次のとおりです。 (注) 加算対象期間は、相続開始日により次のとおりとなります。なお、相続の開始前3年以内に取得した財産以外の財産については、当該財産の価額の合計額から100万円を控除した残額が相続又は遺贈により財産を取得した者の相続税の課税価格に加算されることとなります。 (1) 相続時精算課税を適用した場合の贈与税 令和5年度の税制改正により、令和6年1月1日以後に相続時精算課税を適用する贈与により取得した財産については、その年に贈与を受けた財産の価額の合計額から相続時精算課税に係る基礎控除額110万円(注)を控除し、その残額(特別控除を適用することができる場合には、さらに特別控除の額を控除した残額)に対して贈与税が課されることとなりました。相続時精算課税に係る基礎控除の額の控除後の残額がない場合には、贈与税の申告書の提出義務はありません(相法28①)。 (注) 相続税法第21条の11の2第1項では、相続時精算課税に係る基礎控除額は60万円とされていますが、租税特別措置法第70条の3の2第1項の規定により、相続税法の規定による「60万円」は「110万円」に読み替えられています。 (2) 相続時精算課税を適用した場合の相続税 これまで相続時精算課税に係る贈与については、贈与者に相続が開始した際には、その全額(特別控除を適用した場合であっても特別控除の額を控除する前の金額)が、相続税の課税価格に加算又は算入されることとなっていましたが、令和5年度の税制改正により、贈与者に相続が開始した際の相続税については、贈与を受けた金額から基礎控除額を控除した残額(特別控除を適用した場合であっても特別控除の額を控除する前の金額)が相続税の課税価格に加算又は算入されることとなりました。 2 相続時精算課税選択届出書の提出 相続時精算課税を適用するためには、相続時精算課税の選択の手続きが必要です。この選択が行われない限り、暦年課税が適用されます。 相続時精算課税を選択する場合には、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの間に、相続時精算課税の適用を受ける受贈者の納税地の所轄税務署長に「相続時精算課税選択届出書」を提出しなければなりません(相法21の9②、相令5①前段)。贈与税の申告書の提出義務がある場合には、相続時精算課税選択届出書は贈与税の申告書に添付して提出します(相令5①後段)。提出期限までに「相続時精算課税選択届出書」を提出できなかった場合には、それがやむを得ない理由によるものであったとしても、相続時精算課税を選択することはできません(相基通21の9-3)ので、その場合には、暦年課税が適用されることとなります。 なお、一度、相続時精算課税を選択すると、その翌年以降に、同じ者から贈与を受けた財産については、相続時精算課税が適用されます(相法21の9③)。相続時精算課税の選択は撤回することはできませんから、相続時精算課税の選択は慎重に行う必要があります(相法21の9⑥)。 3 ご質問の場合 令和6年分のお父様からの贈与について相続時精算課税を選択しない場合には、いわゆる暦年課税が適用されますので、令和6年中に贈与を受けた財産の価額の合計額が100万円だけであれば、暦年課税に係る基礎控除を適用することにより贈与税の申告の必要はありません。しかし、お父様がお亡くなりになったときに、お父様からの贈与が暦年贈与の加算対象期間内の贈与であれば、基礎控除額を控除する前の贈与を受けた財産の価額(ただし、その贈与がお父様の相続開始前3年より前に受けたものであれば、その総額から100万円を控除した残額)を相続税の課税価格に加算することとなります。 一方、相続時精算課税を選択した場合には、令和6年中に贈与を受けた財産の価額の合計額が100万円だけであれば、相続時精算課税に係る基礎控除を適用することにより贈与税の申告の必要がなくなる点は、暦年課税の場合と同じです。ただし、お父様がお亡くなりになったときに、お父様から贈与を受けた相続時精算課税を適用した財産については、基礎控除額を控除した残額のみが相続税の課税価格に加算又は算入されることとなります。この点が暦年課税の場合とは異なります。 したがって、贈与税課税の観点からは、相続時精算課税を選択する必要はないかもしれませんが、相続税課税を考慮すれば、令和6年中のお父様からの贈与について相続時精算課税を選択する意味があるといえます。 あなたがお父様からの100万円の現金の贈与について相続時精算課税を選択する場合には、贈与税の申告書の提出義務はありませんので、相続時精算課税選択届出書のみを来年の2月1日から3月15日までの間に、あなたの住所地の所轄税務署長に提出してください。 なお、令和6年中のお父様からの贈与について、相続時精算課税選択届出書を提出しますと、令和7年以降のお父様からの贈与については、相続時精算課税が適用され続けることとなります。基礎控除額の範囲内でお父様から贈与を受ける場合には、相続税の課税価格に加算又は算入される金額はありませんが、相続時精算課税に係る基礎控除額を超える金額(特別控除を適用した場合であっても、特別控除の額を控除する前の金額)の贈与を受けた場合には、それがお父様のお亡くなりになる何年も前のものであったとしても、その金額は相続税の課税価格に加算又は算入されますのでご注意ください。 (了)
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第45回】
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第45回】 東洋大学法学部准教授 泉 絢也 16 暗号資産の損失と立証責任 暗号資産の取引に係る所得を申告に含めていなかったとして、所得税等と過少申告加算税の課税処分を受けた納税者が、取引所を介していない個人間取引や海外取引所における取引において生じた損失があると主張して処分を争った国税不服審判所令和5年6月15日裁決(裁決事例集未登載・高裁(所)令4第13号)を確認する。 (1) 事案の概要 原処分庁は、請求人(個人である納税者)が、平成29年分及び平成30年分の所得税について、暗号資産の取引に係る所得を申告に含めていなかったとして、所得税及び復興特別所得税の各更正処分と過少申告加算税の賦課決定処分を行った。 これに対して、請求人は、原処分庁が算定した暗号資産取引に係る雑所得の金額に誤りがあるとして、原処分の全部の取消しを求めた。 (2) 基礎事実 (3) 争点 原処分庁が算定した各年分の暗号資産取引に係る雑所得の金額に誤りがあるか否か。 (4) 争点についての当事者の主張 請求人は、本件各年分の暗号資産に係る雑所得の金額は、国内の暗号資産取引所を介した取引(以下「国内取引所取引」という)では利益が出たが、個人間取引で多額の損失が出ており、原処分庁が算定した各年分の暗号資産取引に係る雑所得の金額に誤りがある旨を主張している。 これに対して、原処分庁は、本件各年分の暗号資産に係る雑所得の金額は、国内取引所取引に係るもののみであり、本件各更正処分の額と同額である旨主張している。 ア 国内取引所取引について イ 個人間取引について ウ 海外取引について エ 立証責任について (了)
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〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第48回】「日本圧着端子事件(高判平22.1.27)(その1)」~国税通則法77条1項及び2項、104条2項、租税特別措置法66条の4、同施行令39条の12~
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第48回】 「日本圧着端子事件 (高判平22.1.27)(その1)」 ~国税通則法77条1項及び2項、104条2項、租税特別措置法66条の4、同施行令39条の12~ 税理士 青木 幹 1 更正処分の対象事業年度・裁決及び一審の時系列 南税務署長が平成11年5月31日付けでした第一次更正処分について、納税者は不服申立期間に不服申立てをしなかった。さらに南税務署長は、平成12年6月28日付けで下記各事業年度についての第二次更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定をした。納税者はこれを不服として、平成16年7月5日付けの国税不服審判所の裁決(※1)及び大阪地方裁判所の一審判決(※2)を経て、大阪高等裁判所に控訴したものである。 (※1) TAINSコード:F0-2-228、大裁(法)平16第2号。国税不服審判所では、第一次更正処分と第二次更正処分について、国税通則法104条2項により併せて審理された。 (※2) TAINSコード:Z258-10989、大阪地方裁判所平成16年(行ウ)第152号ないし第155号 更正処分の対象となった各事業年度は以下のとおりである。 2 事案の概要 控訴人(以下「A社」という)である日本圧着端子製造株式会社は、1957年に設立され、圧着端子、圧着接続子、各種コネクタなど、多種多品目の電気回路用の圧着端子・圧着接続子及び電気回路及び電子回路用のコネクタの製造卸販売を行っている会社である。 A社は、第一次更正処分については不服申立てをしておらず、不服申立期間を徒過している。しかし、国税不服審判所で第二次更正処分に対する審判において、第一次更正処分についても併合審理(※3)が行われたため、納税者は第一次更正処分についても不服申立ての前置等(※4)の要件を満たしていると主張して争ったが、判決において当該主張は認められなかった。この点については、移転価格税制とは別の問題であり、今回は検討しない。 (※3) 国税通則法104条2項 (※4) 国税通則法115条 本題の移転価格税制に戻ると、A社のシンガポールにある100%子会社(J.S.T. COMPONENTS(S)PTE. LTD. 以下「B社」という) 及び香港にある100%子会社(J.S.T.(H.K.)CO., LTD. 以下「C社」という)とA社との取引価格について、租税特別措置法66条の4に定める移転価格税制を適用して南税務署長が行った第二次更正処分の取消しを求めた事案である。 A社は、B社及びC社(B社及びC社はいずれも商社)に、圧着端子及び圧着接続子、コネクタ類を輸出販売しているが、その価格は工場仕切価格(原価)を0.909で除した金額、すなわち、約10%の利益を加算した金額であった。課税庁は、内部コンパラブルとして、非関連者である台湾法人グループ6社(D社、E社、F社、G社、H社、I社)(※5)の取引を選定し、台湾法人グループの平均で原価基準法を適用して独立企業間価格を算定して移転価格否認の更正処分をした。 (※5) 太田洋=手塚崇史「日本圧着端子移転価格課税事件」(国際税務Vol. 29 No.10)76頁以下によると、台湾法人グループ6社は、Tokutsu Terminal Co., Ltd.(原告(A社)との取引は平成9年3月期~平成11年3月期)、Masamichi Electronics Co., Ltd.(原告との取引は、平成8年3月期、平成9年3月期、平成11年3月期)、Huei Tong Terminal Co., Ltd. (原告との取引は平成8年3月期~平成10年3月期)、Gero Chang Co., Ltd.(原告との取引は、平成8年3月期、平成9年3月期)、J.S.T. Taiwan Co., Ltd.(平成10年3月期、平成11年3月期)、Chia Soon Electronics Co., Ltd.(原告との取引は、平成8年3月期~平成11年3月期)であるとされている。 3 争点と裁判所の判断 (1) 比較対象取引 ① 比較対象取引は単独か複数をまとめたものか 納税者は、租税特別措置法施行令39条の12第7項にいう「非関連者」は単独の法人又は事業者を想定しており、複数と解してよいとの判断も法文上の根拠がない。原価基準法における比較対象取引との差異調整も、調整事項が錯綜し、混濁し、調整すべき事項の存否、内容が不明確になり、内容検討が事実上不可能になる。また、税務当局が都合の良いように取引先を組み合わせることが容易になり公平・公正な移転価格税制の適用ができなくなると主張する。 裁判所は、租税特別措置法施行令39条の12第7項にいう「非関連者」が単独法人又は事業者を想定していると解さなければならない法文上の根拠は見当たらないと判示する。独立企業間価格の算定を単独の非関連者の取引を基にするか、複数の非関連者との取引を一体として行うかは、いずれが合理的であるかの問題にすぎず、原判決が説示しているとおり、複数の非関連者をまとめて比較対象取引の相手方とすることで各法人ないし事業者に存在する差異が相殺されて利益率が平準化され、より適切に行うことが想定されるのであって、合理性があり、公平・公正な移転価格税制の趣旨にも何ら反するものではないとして、納税者の主張を退けている。 ② 販売代理店契約書と本体価格表による判定 納税者が締結した販売代理店契約は、台湾法人グループに対して販売手数料の支払を約することを定めただけのものである旨の納税者の主張に対して、裁判所は、本件販売代理店契約は台湾法人グループ各社に独占的に販売権限を付与する販売代理店契約として有効に成立しているものと認められ、納税者の主張は失当である旨判示している。 販売代理店契約は、台湾法人グループ各社を台湾における独占的な販売代理店として指定した上で、取扱商品を裸圧着端子及びその他電子コネクタ製品とし、製品合計につきその購入額を定めただけで、その取引規模や各社が商社かハーネスメーカーかにかかわらず、台湾法人グループ各社との間で、本件販売代理店契約及びこれに基づくほぼ同一内容の本体価格表に基づいて取引を行っていたことに照らすと、独立企業間価格の算定に当たって、台湾法人グループ各社間に存在する差異を重視するのは相当ではなく、むしろ台湾法人グループを一体として比較対象取引とすることが、差異が相殺されて利益率が平準化され、より適切な比較を行うことができ、合理的であり、公平・公正の原則にも反しないと裁判所は判示している。 ③ グループ化する場合の公正な第三者機関による通常の利益率の確認の必要性 納税者は、法人又は事業者をグループ化して比較対象取引とする場合には、当該グループ化が恣意的か否かの判断や当該グループ化を行っても「通常の利益率」について問題ないと認めることができるか否かの判断を課税庁と異なる公正中立な第三者機関が行う必要があるが、そのような第三者機関は存在しないから、複数の法人又は事業者をグループ化することをできない旨主張する。しかし、このような必要があるとする理由は明らかでなく、そのように解すべき根拠もないと裁判所は判示している。 ④ 圧着端子類とコネクタ類は別物であるとする主張について 納税者は、圧着端子類とコネクタ類とは、性状、構造、機能等の面からみると差異があるため、利益率が定性的に異なっているし、圧着端子類については、台湾グループ企業との取引数量とB社及びC社との取引数量とでは25.7倍から140.2倍もの開きがあり、比較対象とはなり得ないから、圧着端子類とコネクタ類とを一括りにして、これを本件国外取引と比較することは相当でないと主張する。 しかしながら、租税特別措置法施行令39条の12第7項所定の「同種又は類似の棚卸資産」は「国外関連取引に係る棚卸資産と性状、構造、機能等の面において同種又は類似である棚卸資産」と解されるところ(租税特別措置法関係通達66の4(2)-(2)(当時))、端子及びコネクタはともに電気機械、電気器具の電流の出入口や他の電気器具につなぐ箇所を接続するための製品であり、圧着端子類及びコネクタ類に属する納税者の製品は、性状、構造、機能等の面からみて「同種又は類似の棚卸資産」に該当することは明らかであると裁判所は判示している。 また、納税者とB社及びC社との取引は、製品群の区分に関係なく行われているものであるし、納税者と台湾法人グループとの取引も、本件販売代理店契約によれば、取扱商品を「裸圧着端子及びその他電子コネクタ製品」とし、台湾法人グループ各社が購入すべき最低購入数量もこのような製品合計額について定められたものであることに照らすと、取引規模の比較は、圧着端子類及びコネクタ類の取引全体で行うべきものであるとし、「圧着端子類」の取引数量のみ取り上げることは、租税特別措置法施行令39条の12第7項の「同種又は類似の棚卸資産」と規定した趣旨に沿わないものであって、相当でないと裁判所は判示している。 ⑤ 結論 以上のとおり、台湾に所在する非関連者各社をグループ化し、圧着端子類・コネクタ類を一括りにして比較対象取引とすることは相当でない旨の納税者の主張は、採用できないと裁判所は判示している。 ((その2)へ続く)