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会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 開示関係

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第30回】「連結配当規制適用会社に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第30回】 (最終回) 「連結配当規制適用会社に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。個別注記表における連結配当規制適用会社に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 当該会社が連結配当規制適用会社となる場合、その旨を個別注記表で記載する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、個別注記表において次のような注記が考えられます。 【個別注記表】 なお、連結配当規制適用会社に関する注記は、個別注記表にのみ求められ、連結注記表では求められません。   2 注記事項の解説 (1) 連結配当規制適用会社に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、個別注記表で記載すべき連結配当規制適用会社に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第115条)。 (※1) 会社計算規則第98条第2項第4号において、連結注記表では、連結配当規制適用会社に関する注記を表示することを要しないと規定されています。 (2) 注記事項の解説 まず、連結配当規制適用会社とは何かを見ていきましょう。連結配当規制適用会社の定義は、会社計算規則第2条第3項第55号で定められています。 (※) 朱記は筆者による。 定義中の「第158条第4号」は会社計算規則の規定で、分配可能額を定める章の中にあり、簡単に言うと、“計算書類上の分配可能額よりも連結計算書類に基づく分配可能額の方が少ない場合、連結計算書類に基づき分配可能額を算定する”という旨の規定です。 そのため、分配可能額の算定に当たって、“計算書類上の分配可能額よりも連結計算書類に基づく分配可能額の方が少ない場合、連結計算書類に基づき分配可能額を算定する”ということを自社で定めた株式会社が、連結配当規制適用会社となります。 連結配当規制適用会社では、株主が分配可能額を計算する際に情報として必要なことから、個別注記表で連結配当規制適用会社である旨を注記しなければなりません(分配可能額は、個別の計算書類を見て計算するため、個別注記表でのみ注記が求められていると解されます)。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [品川リフラクトリーズ株式会社 2024年3月期 個別注記表] ※品川リフラクトリーズ株式会社「第190回定時株主総会招集ご通知に関しての電子提供措置事項のうち法令及び定款に基づく書面交付請求による交付書面に記載しない事項」29頁より抜粋。 [大和工業株式会社 2024年3月期 個別注記表] ※大和工業株式会社「第105回定時株主総会その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」17頁より抜粋。   ◆連載終了にあたって◆ 2022年7月から連載スタートした「開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A」も、今回で最終回となります。 計算書類における注記は、注記する事項は定められており、経団連からひな型が公表されているものの、実際に記載する場合の文章や開示内容の詳細さ・明瞭さは企業によって差があり、それだけに実務担当者は困ってしまう分野だと思います。そのような方に本連載が少しでもお役に立てば、筆者としてこれ以上ない喜びです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。   (連載了)
#600(掲載号)
#竹本 泰明
2024/12/26
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有価証券報告書における作成実務のポイント 【第9回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第9回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】(会計方針の変更)から(表示方法の変更)までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 会計方針の変更に関する注記 会計方針の変更があった場合、会計方針の変更に関する注記を記載する。記載すべき事項がない場合は、項目ごと、記載は不要である。 (1) 会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記 会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更があった場合、以下のとおり注記する。なお、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 【事例:日揮ホールディングス(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 (2) 会計基準等の改正等以外の正当な理由による会計方針の変更に関する注記 会計基準等の改正等以外の正当な理由による会計方針の変更があった場合、以下のとおり注記する。なお、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 【事例:かどや製油(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 【事例:(株)山善 2024年3月期の有価証券報告書】 (3) 会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記 会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合、以下を注記する。例えば、減価償却方法の変更が該当する。 ただし、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 【事例:一正蒲鉾(株) 2024年6月期の有価証券報告書】   2 未適用の会計基準等に関する注記 既に公表されている会計基準等のうち、適用していないものがある場合、未適用の会計基準等に関する注記を行う。ただし、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 また、記載すべき事項がない場合は、項目ごと、記載は不要である。 【事例:(株)ノエビアホールディングス 2024年9月期の有価証券報告書】   3 会計上の見積りの変更に関する注記 会計上の見積りの変更を行った場合、会計上の見積りの変更に関する注記を行う。ただし、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 また、記載すべき事項がない場合は項目ごと、記載は不要である。 【事例:(株)京進 2024年5月期の有価証券報告書】 【事例:日本トムソン(株) 2024年3月期の有価証券報告書】   4 表示方法の変更に関する注記 表示方法の変更を行った場合、表示方法の変更に関する注記を行う。なお、表示方法の変更は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書のみならず、注記についても表示方法の変更があった場合、注記を行う。なお、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 また、記載すべき事項がない場合は、項目ごと、記載は不要である。 【事例:(株)ノエビアホールディングス 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:粧美堂(株) 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:飯野海運(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 (了)
#600(掲載号)
#西田 友洋
2024/12/26
労務 労務・法務・経営 社会保険

税理士事務所の労務管理Q&A 【第23回】「106万円と130万円の壁」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第23回】 「106万円と130万円の壁」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   話題になっている「年収の壁」には、103万円、106万円、130万円等の段階がありますが、今回は、社会保険の壁である106万円と130万円の壁の現状について解説します。 * * 解 説 * * 1 「年収の壁」とは 会社員の配偶者などで一定の収入未満の人は、健康保険の被扶養者及び国民年金第3号被保険者(60歳未満の場合)となり、社会保険料を負担していません。 しかし、一定の収入を超えた場合、健康保険と厚生年金保険(以下「社会保険」といいます)への加入が義務付けられるため、社会保険料の負担が生じ、結果として手取り収入が減少します。手取り収入が減らないように、年収を抑えようと意識する金額のボーダーラインが、いわゆる「年収の壁」です。   2 106万円の壁 106万円は、主にパートタイム労働者(労働時間及び労働日数が正社員より短い者)の社会保険の適用要件の1つです。 (1) パートタイム労働者の社会保険の加入要件 パートタイム労働者は、1週間の所定労働時間及び1ヶ月間の所定労働日数が、同一の事業所で働く正社員の4分の3以上である場合に、社会保険の加入者(以下「被保険者」といいます)になります。 しかし、この要件を満たさないパートタイム労働者でも、被保険者の数が50人を超える事業所に勤務しており、下記の要件を満たした場合には、社会保険への加入が義務付けられます。 上記③の賃金の月額8万8,000円は、年額にすると105万6,000円(約106万円)になるため、「106万円の壁」と言われています。 時給1,016円で1ヶ月に週20時間働くと、月額8万8,000円(1,016円×20時間×52週/12ヶ月)を超えます。 (2) 質問の場合  質問の場合は、所員が8名であり、被保険者の数が50人を超える事業所には該当しませんので、パート所員については特に対応の必要がありません。しかし、所員の配偶者が健康保険の被扶養者になっている場合、その配偶者が(1)の要件に該当したときは、健康保険の被扶養者から外さなければなりません。   3 130万円の壁 (1) 健康保険の被扶養者要件 130万円(60歳以上又は一定の障害者は180万円、以下同様)は、配偶者(前記2の(1)に該当する人を除く)が社会保険の扶養から外れる年収のラインです。 健康保険の被保険者の配偶者は、年収130万円未満であれば、健康保険の被扶養者及び国民年金第3号被保険者(60歳未満の場合)となり、保険料の負担がありません。しかし、年収130万円を超えると、扶養から外れ、国民健康保険の被保険者及び国民年金第1号被保険者(60歳未満の場合)、もしくは勤務先の社会保険の被保険者となるため、「130万円の壁」と言われています。 (2) 質問の場合 パート所員の年収が130万円(前記2の(1)に該当する人を除く)を超える場合は、社会保険への加入手続きが必要になり、また、所員の配偶者の年収が130万円を超える場合は、健康保険の被扶養者から外さなければなりません(※1)。 (※1) 年収が130万円を超えたとしても、一時的な収入変動であれば、パートタイム労働者等の勤務先が発行した事業主の証明により、継続して配偶者の被扶養者になることができます。   4 社会保険料の負担 社会保険に加入した場合のおおよその保険料額(本人負担額)を確認しましょう。 月給10万円であれば約1.5万円、月給12万円であれば約1.8万円の負担になります。 〈被保険者本人の月額社会保険料(令和6年度/東京都(※2))〉 (※2)  協会けんぽの保険料率は、都道府県ごとに設定されています。   5 社会保険加入のメリット 社会保険に加入すると、保険料の負担が生じ手取り収入が減少するため、デメリットが強調されますが、以下のとおり、メリットも大きいことを理解しておくことが大切です。また、配偶者の職業(自営業者等)によっては、保険料が軽減される場合があります。 〈社会保険加入のメリット〉 (※3) 自営業者の配偶者は、国民年金保険料として月額1万6,980円(令和6年度価額)を支払っていますが、社会保険に加入した場合の保険料(10万円の報酬の場合は約1.5万円)は、国民年金保険料にも満たないため、保険料負担の軽減になります。 (了)
#600(掲載号)
#佐竹 康男
2024/12/26
労務・法務・経営 経営

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例100】株式会社タムラ製作所「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」(2024.11.14)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例100】 株式会社タムラ製作所 「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」 (2024.11.14)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社タムラ製作所(以下「タムラ製作所」という)が2024年11月14日に開示した「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」である。 同社は同年9月13日に「外部調査チームの設置に関するお知らせ」を開示し、中国の連結子会社2社において購入部品在庫の会計処理が社内ルールに照らし適切に行われていなかった疑義が判明したため、外部の専門家による調査の実施を決定したとしていた。その調査報告書を受領したというのである。 調査報告書によると、購入部品在庫に対する不適切な会計処理と利益調整を目的とした仕訳操作とがあり、それらを訂正すると、合計330百万円の利益減額になるとのことである。同社は、当初同年11月8日に2025年3月期第2四半期(中間期)決算発表を行う予定だったが、この件のために延期し(同年10月11日に「2025 年3月期第2四半期(中間期)決算発表の延期に関するお知らせ」を開示)、「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」と同日に、訂正を反映させた「2025年3月期第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」を開示している。   2 中国子会社特有の不正会計 やはり日本企業の海外子会社は中国にあるものが多いということもあるが、海外子会社における不正会計も、タムラ製作所に限らず中国子会社におけるものが多い。 次の表は、2018年以降に判明した、中国子会社における主要な不正会計事例をまとめたものである。なお、2020年から2022年までの間に判明した事例が少ないのは、コロナ禍の影響かと思われる。 日本国内における不正会計事例と比べると、横領の比率が高い。例えば、日本郵船の事例では、中国子会社の総経理が取引先に架空請求をさせて約8.3億円の費用を支出していた。そして、おそらくその一部を自身が取得していたのだろうと思われる。 また、理研ビタミンの事例は粉飾だが、架空循環取引である。架空循環取引は、業績を良く見せるために行われる通常の粉飾と異なり、取引先に資金を融通するためという目的で行われる可能性がある。中国の景気低迷も、こうした横領や架空循環取引が中国子会社において発生するリスクを高めているといえる。   3 中国子会社特有というわけではない不正会計 上述の中国子会社特有の不正会計といえるものは、親会社の目が届かなかったために発生している。タムラ製作所の中国子会社における不正会計も、そうした事情によるものなのかと思われたのだが、そうではなかった。目は届いていた。 同社の場合、日本人スタッフが不正に関与している場合もあったほか、直接関与していない場合でも不正を認識していた。そして、何と経営者も不正を認識していたのだが、適切な対応を行わなかったのである。 調査報告書の「第8 原因分析 2 エイジング回避行為の背景・原因(5)当社においても、TDC及びTDSの経理に関し十分なモニタリングやコミュニケーションがなされていない上、適切な会計処理の重要性について理解と意識が不足していたと認められること」の中に次のような記載がある(下線は筆者による)。 同社はプライム市場上場会社だけあり、企業統治や内部統制は形式的にはきちんとしているようである。しかし、内部監査や監査等委員会による監査は一応行われているが、そこで今回の不正が明らかになることはなかった。今回の不正は、ICT(情報通信技術)所管部署がその可能性を認識したことで発覚している。なお、不正が行われた中国子会社の会計監査は、中国の監査法人が行っている。   4 タムラ製作所に必要なこと 中国子会社特有の不正会計といえるものに対しては、定期的な人事ローテーションや内部監査の充実のほか、ある業務を現地採用スタッフのみに任せるのではなく、必ず日本人スタッフを介在させ、チェックを行うようにするといった内部統制上の対応が必要になるかと思われる。 それに対して、タムラ製作所に必要とされるものはまったく異なる。同社の場合、企業統治も内部統制も表面的にはきちんとしている(同社に限らず、そうした会社はとても多いのかもしれないが)。日本人スタッフはむしろしっかり業務に関与しているし、経営者に情報も届いている。 調査報告書の最後の「第10 結語」の中には次のような記載がある。同社に必要なのは、ここでいわれている経営者の「本気」だろう(これが必要とされるのも、同社に限らないかもしれない)。形だけで終わっていては、また別の問題が生じるはずである。 (了)
#600(掲載号)
#鈴木 広樹
2024/12/26
読み物 連載

プラス思考の経済効果 【第31回】「2024年度市民マラソン大会の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第31回】 「2024年度市民マラソン大会の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 2024年3月3日に開催された「東京マラソン2024」の経済効果は、経済効果の情報サイト「経済効果.NET」において、東京都内で約375億7,700万円であったと発表されています。また、筆者の研究室が2020年2月12日に計算した「第9回大阪マラソン(2019年12月1日開催)」の経済効果は約177億円でした。 このように、大都市での「市民マラソン大会」は大きな経済効果をもたらし、地元経済の活性化と地域の知名度の向上に寄与するため、各地域で市民マラソン大会が開催されるようになってきていました。しかし、大都市と比べて人口の少ない地方では、市民マラソン大会を開催していたものの、新型コロナの流行を境にして中止、廃止する都市が発生しています。今回は、「曲がり角にきた市民マラソン大会」の経済効果について分析してみます。 人口の少ない都市や集客力の弱い大会の中には、毎年のように中止や廃止が発生していますので、データの収集が困難になってきています。そこで、本稿では、資料の揃っている日本陸上競技連盟(以下「日本陸連」といいます)が公認している市民マラソン大会の経済効果について分析します。日本陸連公認の市民マラソン大会は全国で約70大会あります。   2 平均的な市民マラソン大会の直接効果 (1) 直接効果 市民マラソン大会の直接効果として、次の4項目を考察します。 (2) ランナーの消費支出額 日本陸連が公認している約70の大会のうち、今年度に中止となった大会が3大会、データが明確でない大会が4大会ありますので、分析可能な大会は63大会になります。そして、63大会のランナーの定員は61万6,420人でしたので、1大会当たりの定員は約9,784人となります。 また、63大会の参加総費用は約79億4,492万円でしたので、1人当たりの参加費用は約1万2,889円になります。 ① 宿泊ランナーの消費支出 ランナーの消費額を宿泊ランナーと日帰りランナーに分けて考えてみます。大阪マラソンを例にとると、宿泊ランナーは約30%、日帰りランナーは約70%でしたので、9,784人のうち約2,935人は宿泊ランナー、約6,849人は日帰りランナーと仮定します。 国土交通省観光庁の「旅行・観光消費動向調査 2023年年間値(確報)」(2024年4月30日)によると、国内宿泊旅行の1人当たり旅行支出は6万3,253円、日帰り旅行は1万9,027円です。宿泊旅行の1人当たり旅行支出からランナーの参加費用1万2,889円を差し引くと、5万364円となります。そして、一般の観光旅行と異なりマラソン大会への参加のため、この5万364円を観光に支出しないと考えて、交通費、宿泊費、食事代だけで、8割程度の金額4万291円で済むと仮定します。 ② 日帰りランナーの消費支出 日帰りのランナーについても、同様に1人当たり旅行支出1万9,027円から参加費用を支払った残額の約8割を必要な消費支出と仮定すると、1人4,910円となります。 ③ ランナーの消費支出の総額 この結果、ランナーの消費支出の総額は約1億5,188万円となります。 (3) 観客・応援者の消費支出 次に、観客・応援者の消費支出を推計します。本稿では過去の経験から、ランナーが9,784人の大会での観客・応援者はランナーの約10倍の約10万人と仮定します。 ① 宿泊する観客・応援者の消費支出 遠方から来て宿泊するランナーには、平均1人の家族、友人などが宿泊で応援に来ると仮定すると、約2,935人が宿泊応援者となります。宿泊する観客・応援者は観光に来ているのではなく、マラソンの応援に来ているので、観光などの消費はほとんどしないと考え、消費支出はランナーと同額の約4万291円と仮定します。その結果、遠方から来て宿泊する観客・応援者の消費支出の総額は約1億1,825万円となります。 ② 日帰りの観客・応援者の消費支出 日帰りの観客・応援者は、徒歩、自転車、車、バス、電車等を用いて大会に来ると考えられます。彼らは日帰りランナーのほぼ6割(約2,946円)の支出をすると仮定しますと、9万7,065人の日帰り観客・応援者の消費支出の総額は約2億8,595万円となります。 ③ 観客・応援者の消費支出の総額 以上の計算より、観客・応援者の消費支出の総額は約4億420万円となります。 (4) 主催者・支援者の消費支出 これまでは少ない経費で大きな経済効果が得られて、地元経済の活性化に繋がっていたので、市民マラソン大会が全国で開催されていました。しかし、最近は財政難で運営が苦しい大会が増えてきています。本稿では、自治体の予算、地元の有力企業、商店街、自治会などの支援を得て、合計約2億円の予算で開催していると想定します。 (5) ボランティアの消費支出 大会を支えるボランティアの数は数百人から数万人まで様々ですが、ランナーが約1万人規模の大会では、1,000人程度の人数が必要となります。ボランティアは交通費、飲食費、雑費など1人当たり約3,500円の出費と仮定しますと、ボランティアの消費支出は総額約350万円となります。 (6) 直接効果の合計 以上の計算より、平均的な市民マラソン大会の直接効果の合計は約7億5,958万円となります。   3 経済効果 次に、日本陸連公認の市民マラソン大会で平均的な大会の経済効果を計算してみましょう。 日本陸連が公認している市民マラソン大会のうち、63大会の平均値をとった1大会当たりの直接効果は約7億5,958万円となりました。総務省内閣府が作成した最新の「全国の産業連関表」(2024年に発表した2020年版の「全国の産業連関表」の修正版)を用いて経済効果を分析すると、経済効果は以下のように約16億4,069万円となります。 〈2024年度の市民マラソン大会の1大会当たりの経済効果〉 2024年度に日本陸連が公認している市民マラソンの67大会(データのある63大会とデータはないが開催予定の4大会)の2024年度の経済効果は、約1,099億2,623万円となりました。   4 まとめ 日本全体での市民マラソン大会数は、数百とも千数百ともいわれていますが、毎年中止や廃止が相次ぎ正確な数値は不明です。株式会社計測工房が2020年3月30日に更新した資料によると、参加者5,000人以上の市民マラソン大会は164大会でした。全国のその他のフルマラソン、ハーフマラソン、10キロマラソンなどを含めるとさらに数は多くなります。 本分析の結論は以下の通りです。 (了)
#600(掲載号)
#宮本 勝浩
2024/12/26
お知らせ 相続税・贈与税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長~令和7年度税制改正大綱~

《速報解説》 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長 ~令和7年度税制改正大綱~   税理士 徳田 敏彦   令和6年12月20日(金)に与党(自由民主党・公明党)より「令和7年年度税制改正大綱」が公表された。 本稿では、令和7年年度税制改正大綱において明らかとなった結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の改正点及び今後の動向等について解説する。   1 制度の概要 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、平成27年4月1日から令和7年3月31日までの間に、父母、祖父母等の直系尊属が18歳以上50歳未満の子、孫等へ結婚・子育て資金を信託等により一括して拠出した場合に、受贈者ごと1,000万円(うち、結婚に際して支払う金銭は300万円)まで贈与税が非課税となる制度である。 なお、贈与者が死亡した場合には、死亡日における非課税拠出金額から支出した金額を控除した管理残額を、贈与者から相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税価格に算入する。 また、契約期間が終了した場合(例:受贈者が50歳に達したこと、口座残高が0円になったこと、受贈者が死亡したこと)に、管理残額がある場合には、その管理残額が受贈者の贈与税の課税価格に算入される制度である。   2 改正点 適用期限を2年延長し、令和9年3月31日までとする。   3 利用件数 財務省資料によると、令和5年3月末時点の本制度の利用実績は契約件数:7,591件(令和4年3月末:7,363件)、信託財産設定額:約236億円(令和4年3月末:約224億円)である。 9年間で利用件数の1年当たりの平均件数は843件であるが、令和4年から令和5年までの1年間での利用件数の増加は228件に留まっている。   4 今後の動向 令和5年度税制改正大綱の「基本的な考え方」で「令和3年度税制改正で『制度の廃止も含め、改めて検討』とされた後も利用件数は低迷している状況にあり、次の期限到来時には利用件数、利用実態を踏まえ、制度の廃止も含め、改めて検討する」と記載されていた。 そして、今回の令和7年度税制改正大綱の「基本的考え方」では、令和5年度税制改正以後においても利用件数が低迷する状況を鑑み、「子育てを巡る給付と負担のあり方や真に必要な対応策について改めて検討すべきである。他方、現在『こども未来戦略』の集中取組期間(令和8年度まで)の最中にあり、こども・子育て政策を総動員する時期にある。このため、本措置を特に集中取組期間であることを勘案し、適用期限を2年延長する」としている。 上記の通り、令和7年3月31日で廃止されることが予想されていたが、国全体の政策と合わせることを重視し、2年延長となった模様である。   5 これまでの改正の推移 改正の推移を一覧表にすると以下となる。 (出典) 国税庁発表資料を一部加工   6 相続税申告での留意点 税理士業務として相続税申告を受託した場合には、管理残額の相続税の課税価格への加算があるため、過去の本制度の利用を必ず確認する必要があることに留意したい。 納税者自身は贈与税が非課税扱いのため、すべての税目に影響しないと考え、相続税申告の際に税理士へ本制度を利用していることを伝達し忘れることも想定される。 (了)
#徳田 敏彦
2024/12/25
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《速報解説》 新リース会計基準に伴うリース取引に係る所要の整備~令和7年度税制改正大綱~

《速報解説》 新リース会計基準に伴うリース取引に係る所要の整備 ~令和7年度税制改正大綱~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024(令和6)年12月20日、自由民主党と公明党は、「令和7年度税制改正大綱」を決定した。 本稿では税制改正大綱のうち、リース取引に関連する部分について取り上げる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 リースに関する取引について、次の整備を行う。 なお、下記の「オペレーティング・リース取引」とは、資産の賃貸借のうちリース取引(ファイナンス・リース取引)以外のものをいう。 (了)
#阿部 光成
2024/12/24
お知らせ 登録免許税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の延長等、登録免許税に係る主な改正事項~令和7年度税制改正大綱~

《速報解説》 土地の所有権移転登記等に係る登録免許税の特例措置の延長等、 登録免許税に係る主な改正事項 ~令和7年度税制改正大綱~   税理士・行政書士・AFP 山端 美德   令和6年12月20日(金)、与党(自由民主党と公明党)による「令和7年度税制改正大綱」が公表された。 登録免許税に係る主な改正事項は、以下のとおりである。   1 所有者不明土地等問題の解決のための登録免許税の特例措置の延長 所有権の登記名義人が死亡した後も相続登記がされていない土地の発生原因の1つとして相続登記の費用の負担が指摘されている。このことから、相続登記を促進することを目的として登録免許税の特例措置が設けられており、特例措置を令和9年3月31日まで2年延長する。 ① 相続(遺贈を含む)により土地を取得した方が相続登記をしないで死亡した場合には令和9年3月31日までに、その死亡した方をその土地の所有権の登記名義人とするために受ける登記については、登録免許税を課さない。 ② 個人が令和9年3月31日までに、表題部所有者の相続人が土地の所有権の保存登記又は相続による所有権の移転登記を受ける場合において、不動産の価額が100万円以下であるときは、その土地の所有権の保存登記又はその土地の相続による所有権の移転登記については、登録免許税を課さない。   2 リート及び特定目的会社に係る登録免許税の特例措置の延長 不動産証券化市場の発展を促進することを目的として、投資法人、投資信託及び特定目的会社が取得する不動産に係る所有権の移転登記に対する登録免許税の税率の軽減措置の適用期限を令和9年3月31日まで2年延長する。   3 不動産特定共同事業法上の特例事業者に係る登録免許税の特例措置の延長等 特例事業者等が不動産特定共同事業契約により、一定の建設又は改修を行うために不動産を取得した場合の所有権の移転登記等に対する登録免許税の税率の軽減措置について、次の措置を講じたうえ、適用期限を令和9年3月31日まで2年延長する。 ① 特例事業者等が不動産の取得後に新築又は特定増築等に着するまでの期間要件を不動産の取得後3年以内(現行は2年以内)とする。 ② 特例事業者等が取得する建替え又は特定増築等をすることが必要な建築物の築年数要件を、新築の日から 15年(現行は10年)を経過したこととする。 (了)
#山端 美德
2024/12/23
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《速報解説》 防衛特別法人税の創設及び中小法人等の軽減税率の特例に伴う法人税率の見直し~令和7年度税制改正大綱~

 《速報解説》 防衛特別法人税の創設及び 中小法人等の軽減税率の特例に伴う法人税率の見直し ~令和7年度税制改正大綱~   辻・本郷税理士法人 税理士 安積 健   本稿では、令和6年12月20日(金)に公表された令和7年度税制改正大綱のうち、法人税率に関する改正、具体的には、「中小法人等の軽減税率の特例」及び「防衛力強化に係る財源確保のための税制措置のうち法人税に関する部分」について解説する。   1 中小法人等の軽減税率の特例 (1) 改正前 現在、内国法人である普通法人に係る法人税率は、原則として23.2%である。ただし、普通法人のうち、資本金1億円以下であるものは、各事業年度の所得金額のうち年800万円以下の金額について、19%となっており、さらに、租税特別措置法(以下、「措置法」という)により令和7年3月31日までの間に開始する各事業年度については15%に軽減されている。 措置法による特例税率は、平成21年度の改正において、リーマンショック後の金融不安や景気後退の影響を受けやすい中小企業が安心して意欲的に企業活動を営めるよう当時の法人税法の軽減税率22%を18%まで引き下げる時限措置として導入され、その後平成23年度の改正では、法人税法の基本税率及び軽減税率の引下げに伴い15%まで引き下げられ現在に至っている。 これに対して、平成26年6月の税制調査会では、中小法人課税の見直しの一環として、リーマンショック後の対応として設けられた時限的な上記特例税率はその役割を終えていると指摘されていた。 (2) 改正後 措置法による特例税率は、賃上げや物価高への対応に迫られている中小法人の状況を踏まえ、極めて所得が高い中小法人等についての見直しを行った上で、適用期限が2年延長されることになった。なお、時限的に設けられた措置であること等を踏まえ、次の適用期限の到来時においてその存否が改めて検討されることになっている。 具体的には、次の3点が今回の改正内容である。 上記②及び③の見直しの対象は、改正前の軽減税率の適用者の0.3%、中小法人全体の0.1%と想定されている。 〈通算法人以外〉 (※1) 普通法人のうち各事業年度終了の時の資本金(出資金)の額が1億円以下であるもの又は資本(出資)を有しないもの(ただし、相互会社、大法人による完全支配関係がある法人、投資法人、特定目的会社、受託法人を除く) (※2) 適用除外事業者は15%(17%)の適用なし 〈通算法人〉   2 防衛力強化に係る財源確保のための税制措置のうち法人税に関する部分 (1) 経緯 我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、安定的な財源を確保するため、令和5年度税制改正大綱では、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、令和9年度において1兆円強を確保することが明記された。そして、法人税については、法人税額に対し、税率4~4.5%の新たな付加税を課すこと、及び課税標準となる法人税額から500万円を控除するとされた。 (2) 改正内容 令和7年度税制改正により、法人税については、下記の点が措置されることとなった。 改正前後の実効税率は以下の通りである。 (了)
#安積 健
2024/12/23
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《速報解説》 生命保険料控除の拡充等の子育て支援に係る税制措置~令和7年度税制改正大綱~

 《速報解説》 生命保険料控除の拡充等の子育て支援に係る税制措置 ~令和7年度税制改正大綱~   税理士 菅野 真美   少子高齢化による日本の生産人口の減少は日本経済の衰退を招きかねない。出生率を増やすためには安心安全に子育てができるための政府の支援が不可欠である。こういった背景をもとに、令和7年度税制改正大綱において盛り込まれた子育て支援に係る3つの税制措置について、本稿で解説する。   1 ⼦育て世帯に対する⽣命保険料控除の拡充 生命保険料控除のうち一般保険料控除額の控除限度額は4万円であるが、改正により、年齢23歳未満の扶養親族を有する場合は、適用限度額を6万円まで増額する予定である。 〈控除額の計算表(改正後)〉 ただし、一般生命保険料控除、介護医療保険料控除及び個人年金保険料控除の合計適用限度額は12万円で現行のままである。 なお、大綱によると 一時払生命保険については、2万円の上乗せ措置を時限的に講じている間は控除の適用対象から除外しない予定である。   2 ⼦育て世帯等に対する住宅ローン控除の拡充 これは、令和6年限りの措置として 特例対象個人(※)が認定住宅等の新築等をして居住の用に供した場合には、住宅ローン控除の借入限度額の上乗せ等ができるものであったが、令和7年限りの措置として継続する。 (※) 特例対象個人とは、次のいずれかの条件を満たす個人 ① 年齢40歳未満であって配偶者を有する者 ② 年齢40歳以上であって年齢40歳未満の配偶者を有する者 ③ 年齢19歳未満の扶養親族を有する者   3 ⼦育て世帯等に対する住宅リフォーム税制の拡充 これも、令和6年限りの措置として 特例対象個人が持家の子育て対応改修工事をして居住した場合には税額控除が適用できるものであったが、令和7年限りの措置として継続する。   4 適用関係 上記の税制措置の適用時期であるが、生命保険料控除の改正は、令和8年分以後の所得税について適用される予定である。住宅ローン控除の改正は、特例対象個人が、認定住宅等の新築等をして令和7年中に居住の用に供した場合に適用され、住宅リフォーム税制の改正は、特例対象個人が子育て対応改修工事をした家屋に令和7年中に居住の用に供した場合に適用される予定である。 (了)
#菅野 真美
2024/12/23

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