「税理士損害賠償請求」
頻出事例に見る
原因・予防策のポイント
【事例147(法人税)】
令和6年4月1日以後の譲渡について「特定資産の買換えの圧縮記帳」の適用を受けるためには、同一年中の買換えであっても届出書の提出が必要になったことを知らなかったため、圧縮記帳の適用ができなくなってしまった事例
税理士 齋藤 和助
《事例の概要》
令和7年3月期の法人税につき、所有期間10年超の事業用宅地を令和6年8月に売却し、「特定の資産の買換えの場合の課税の特例」(以下単に「特定資産の買換えの圧縮記帳」という。)を適用すべく、買換要件を満たした土地を令和6年9月に取得したが、期限までに「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出書」の提出を失念したため、「特定資産の買換えの圧縮記帳」の適用ができなくなってしまった。
これにより、計上できなくなった圧縮損に係る法人税等につき損害が発生したとして賠償請求を受けたものである。
《賠償請求の経緯》
- 令和5年4月
関与開始。 - 令和6年5月
「特定資産の買換えの圧縮記帳」の相談を受ける。 - 令和6年8月
所有期間10年超の事業用宅地を売却。土地売買契約書を入手。 - 令和6年9月
買換資産(土地)に係る売買契約締結。 - 令和6年11月
「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出書」の提出期限(提出失念)。 - 令和7年2月
上記届出書の提出期限が経過していたことが発覚。 - 令和7年2月
依頼者に上記届出書の提出もれを報告。 - 令和7年5月
計上不能となった圧縮損に係る法人税等の税額について説明。損害賠償請求を受ける。
《基礎知識》
◆特定の資産の買換えの場合の課税の特例(措法65の7)
法人が、昭和45年4月1日から令和8年3月31日までの間に、その所有する棚卸資産以外の特定の資産(譲渡資産)を譲渡し、譲渡の日を含む事業年度において特定の資産(買換資産)を取得し、かつ、その取得の日から1年以内に買換資産を事業の用に供した場合または供する見込みである場合に、買換資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができる。
◆買換資産を取得すべき時期
特定資産の買換えの圧縮記帳の適用を受けるためには、原則として買換資産を譲渡した日を含む事業年度において取得する必要があるが、特例として買換資産を先行取得した場合、又は翌事業年度以後に取得した場合にも適用が認められる。
◆「特定の事業用資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出書」の提出
(1) 譲渡した年中に取得した場合(措法65の7①⑨、措令39の7②)
譲渡資産を譲渡した日又は買換資産を取得した日のいずれか早い日を含む3月期間(事業年度をその開始の日以後3か月ごとに区分した各期間(最後の3か月未満の期間を生じたときは、その3か月未満の期間)をいう。)の末日の翌日から2か月以内に、課税の特例の規定の適用受けること及び次の事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
① 届出者の名称、納税地及び法人番号
② 譲渡資産及び買換資産の種類等
③ 適用を受ける措置の区分
④ その他参考事項
【参考】3月決算の場合
(※) 提出期限が土・日曜・祝日等に当たる場合は、これらの日の翌日が期限となる。
(2) 譲渡した年の前年に取得した場合(措法65の7③、措令39の7⑩)
先行取得した資産を買換資産として「特定資産の買替えの圧縮記帳」の適用を受ける場合には、その先行取得した資産を取得した事業年度終了の日の翌日から2か月以内に課税の特例の規定の適用受けること及び次の事項を記載した届出書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない。
① 届出者の名称、納税地及び法人番号
② 譲渡見込資産の種類等
③ 適用を受ける措置の区分
④ その他参考事項
《税理士の落とし穴》
令和6年4月1日以後の譲渡について「特定資産の買換えの圧縮記帳」の適用を受けるためには、同一年中の買換えであっても届出書の提出が必要になったことを知らなかった。
《税理士の責任》
税理士は依頼者より、所有期間10年超の事業用宅地を売却し、「特定資産の買換えの圧縮記帳」の適用を受けて、買換資産を取得したい旨の相談を受けていた。依頼者は令和6年8月に事業用宅地を売却し、特例の適用要件を満たしている土地を令和6年9月に取得した。したがって、税理士は、令和6年11月末日までに「特定の資産の買換えの場合の課税の特例の適用に関する届出書」を提出しなければならなかった。
しかし、税理士は改正を知らず、同一年中の買換えであれば届出書の提出は不要であると思い、提出しなかった。これを、提出期限後の令和7年2月に、今回の買換えを仲介した不動産会社に指摘され、「特定資産の買換えの圧縮記帳」の適用ができなくなってしまった。これにより、計上できなくなった圧縮損に係る法人税等につき損害が発生したとして賠償請求を受けた。
依頼者から、「特定資産の買換えの圧縮記帳」の相談を受けた際に、適用要件を確認していれば、期限までの届出書の提出は可能であったことから、税理士に責任がある。
《予防策》
[ポイント①]
税制改正は必ず確認
今回の届出書の改正は、「特定資産の買換えの圧縮記帳」は、特定の地域からの転出や誘致の促進、土地の有効利用等のために政策的に認められた特例であるところ、土地等の売買取引を多く行う大企業においては、申告時にその売買取引を並べた上で、買換え要件に合致する組み合わせを事後的に創出し、特例の適用を受けるといった行為が行われており、これを防止するために行われたものである。
一般の中小企業においては、改正の意図が分かりづらいものではあるが、全ての企業に対して適用されることから、主な税制改正項目については把握しておかなければならない。
[ポイント②]
圧縮記帳は課税の繰延べ
「特定資産の買換えの圧縮記帳」は課税の繰延べであり、土地は売却により、建物は減価償却により損害が回復する。したがって、原則として税賠保険の対象にはならないことを確認しておきたい。
(了)
次回は7/24に公開予定です。
























