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〔会計不正調査報告書を読む〕 【第163回】ブックオフグループホールディングス株式会社「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2024年10月15日付)」
〔会計不正調査報告書を読む〕 【第163回】 ブックオフグループホールディングス株式会社 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2024年10月15日付)」 税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝 【ブックオフグループホールディングス株式会社 特別調査委員会の概要】 【ブックオフグループホールディングス株式会社の概要】 ブックオフグループホールディングス株式会社(以下「BOGH」と略称する)は、1991年8月設立。設立時の社名は株式会社ザ・アール。1992年6月、商号をブックオフコーポレーション株式会社に変更。2018年10月、ブックオフグループホールディングス株式会社を設立して、ブックオフコーポレーション株式会社を完全子会社化。書籍・ソフトメディア等のリユースショップ「BOOKOFF」のチェーン本部としてフランチャイズシステム及び直営店舗の運営を主たる事業とする。 グループ会社は、国内連結子会社(孫会社を含む)9社、海外連結孫会社4社、持分法適用関連会社1社となっている。連結売上高111,657百万円、連結経常利益3,448百万円、資本金100百万円。従業員数1,689名(2024年5月期実績)。本店所在地は神奈川県相模原市南区。東京証券取引所プライム市場上場。会計監査人は、有限責任監査法人トーマツ東京事務所(以下、「監査法人トーマツ」と略称する)。 【特別調査委員会による調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 (1) 社内調査委員会設置の経緯 BOGHでは、2024年5月28日、子会社が運営する店舗(B店)につき、アパレル在庫約3,000万円の帳簿残高と実際の在庫残高の差異(以下、「帳在差異」と略称する)が判明したため、BOGHは同月31日、期末(2024年5月期)の実地棚卸結果の点検を強化することを決定し、ブックオフ事業部へ指示をするとともに、監査法人トーマツに対し、B店に係る前記の事案と、直近で発生したA店に関する不正の疑義がある事案(架空買取による店舗従業員の横領。また、それを隠蔽するための不適切な在庫計上が行われていたというもの)について情報を共有した。 6月3日、BOGHは、監査法人トーマツと協議を行い、前記の各事案に係る今後の対応として、これらの事案に関する調査を行うことを決定し、当該調査については、現時点において代表取締役等の組織上層部がこれらの事案を主導した事実等、いわゆる組織的不正であると評価すべき事実が明らかになっているものではないことから、BOGHの役職員で構成される調査委員会をもってこれを行うこととし、翌日、社内調査委員会を設置した。 (2) 組織的不正の可能性に関する社内調査委員会の調査の限界及び他の複数店舗での不正行為疑義の同時的発覚 6月4日から10日、ブックオフ事業部が実施した期末の実地棚卸結果の点検について、社内調査委員会の主導により、ブックオフ事業部が再点検を実施したところ、新たにC店について帳在差異の発生と架空買取の事実が判明し、同月11日時点までの調査によれば、A店における事案及びC店における一部の事案については、帳在差異が発生した原因が、店舗従業員の架空買取による横領という個人的な動機によるものであると認められるものの、C店における一部の事案及びB店の事案は、必ずしも店舗従業員の個人的な動機によるものであるとは認められず、組織的不正の懸念が払拭できないことが判明した。 組織的不正の存否についての調査には調査主体たる調査委員会の独立性と実効性の担保が必要であるところ、社内調査委員会では、独立性と実効性が担保できない懸念が生じ、さらに、ブックオフ事業部の再点検により、6月13日にE店、17日にD店、19日にG店、H店及びF店の各店舗において不正行為の疑義が認められる事案(いずれも架空在庫計上に関するもの)が順次判明するに至った。これらの状況に鑑み、BOGHは6月18日開催の取締役会において、これらの行為に関し、外部専門家により構成される調査委員会における調査を実施する方向性につき協議を開始した。 (3) 特別調査委員会の設置 以上の経緯を経て、BOGHは、6月25日、外部専門家によって構成される特別調査委員会を設置し、前記各事案について調査することを取締役会により決議し、同日、特別調査委員会が本調査を実施する旨の適時開示を行った。 2 特別調査委員会による重点検証事項 特別調査委員会は、BOGHグループの中核事業である国内ブックオフ事業の業務フローは、大別すると、商品買取、商品管理(棚卸)、販売の3段階に区分することができることから、不正行為を多角的・横断的に調査するために、まずは俯瞰的に業務フローの各段階における不正リスク(内部統制上の問題を内包する不正行為)の洗い出しを行い、BOGHの社内規程(ガイドライン・マニュアル)等の資料、業務フローに関するヒアリング、現地視察等により、国内ブックオフ事業を中心に、各事業の業務の実態を把握したうえで、これまでに発覚した各事案が、業務フローにおけるどの段階で発生したものであるかについて確認・検証し、次のとおり、本調査の重点的検証事項としてまとめている。 〈「商品買取」の段階において想定される不正リスク〉 〈「商品管理(棚卸)」の段階において想定される不正リスク〉 〈「販売」の段階において想定される不正リスク(内部統制上の問題を内包する不正行為)〉 〈商品買取 ➡ 商品管理(棚卸)➡ 販売の3段階における不正リスクの分類に必ずしも馴染まない類型の不正リスク〉 3 特別調査委員会による調査結果の概要 (1) 認定した不正行為等の概要 特別調査委員会は、調査の結果、BOGHグループの26店舗と1事業部(美術骨董グループ)において、次のとおり、不正行為が行われていたことが判明したと報告している。 (2) 組織的不正の存否についての判断の概要 特別調査委員会は、調査の結果、重点的検証事項の1つである組織的不正については、その存在が認められなかったと判断している。 その理由として、特別調査委員会は、「組織的不正」の存否の判断に影響する要素として抽出できる、①不正意図希薄性、②個人利得性及び③権限者不関与性を挙げて、発見された不正行為について、これらの要素を評価した結果、本件事案の全てにつき、組織的不正の存在は認められないものと判断している。 さらに、付言して、本件実行行為については、同じ分類に属する不正行為等でも、それぞれの行為は必ずしも型どおり同一の態様という特徴を示しているものではなく、本件実行行為者がそれぞれの判断により個別事情に応じて実行していることが認められ、事案間又は店舗間で同じ分類の不正行為等を実行することにつき不正な意思の疎通・連携が図られている事実も認められなかったと説明している。 (3) 本件事案の内容及び影響額 BOGHが、10月18日に行った決算説明会の冒頭で、代表取締役社長の堀内康隆氏は、不正の内容について、次のように説明した。 4 特別調査委員会による原因分析(調査報告書150ページ以下) 特別調査委員会は、不正行為等の発生原因を次のようにまとめている。 特別調査委員会は、「不正行為等の防止に対する組織的な対応の不十分さ」の具体例として、BOGHグループでは、複数の店舗で認められた架空買取について、2016年に発覚した架空買取事案を契機として、原則として、買取金額を査定する査定者とレジ登録をして代金支払をする精算者を分離し、査定者は、レジ登録及び代金支払を担当することはできないという精算者分離がルールとして設けられたにもかかわらず、精算者分離が徹底されないことを原因とした不正行為等は複数回生じていたものの、BOGHグループでは、精算者分離を全店舗で徹底するための具体的かつ実効的な措置が講じられていなかったことを挙げている。 本件調査においても、精算者分離が形骸化又は容易に潜脱されたことにより、架空買取、水増し査定による差額横領、セット買取による買取点数の過少申告といった不正行為等が複数件発生していたことが確認されていることから、経営陣が、不正発生を端緒として、適切な時期に適切な指示又は対応を行っていれば、発生を防止、又はより早期に発見し是正することができた可能性が高いものと認められるとして、経営陣の対応を批判している。 5 特別調査委員会による再発防止に係る提言(調査報告書160ページ以下) 特別調査委員会は、再発防止に係る提言を次のようにまとめている。 特別調査委員会による再発防止の提言の特徴をいくつか検証しておきたい。 まず、特別調査委員会が、本件不正が組織的ではないという心証を得ることになった「不正意図希薄性」である。「店舗従業員におけるコンプライアンス意識の改革」のなかで、特別調査委員会は、本件実行行為者たる店舗従業員においてルールを遵守するという意識が欠如又は不足していたことを指摘するとともに、この程度のルール違反であれば構わないといった意識からスタートし、徐々に大きなルール違反に及んでいく事案があったことに言及し、店舗従業員に対して、決められたルールは必ず遵守するという強い意識を植え付けることが必要であると提言している。 さらに、特別調査委員会は、原因分析の項目でも触れたとおり、BOGH取締役会及び監査等委員会並びに内部監査報告会においては、内部監査部から、店舗における不正行為等の発生の報告を受け、再発防止について相当程度の議論がされていたことは認めたものの、今後は、不正発生を端緒として、店舗横断的な同種不正の再発防止策に関し、関係各部門に具体的かつ実効的な対策の検討を指示し、かつ、実際に具体的かつ実効的な対策が講じられたか否かの確認の実施等のフォローアップを行う仕組みを構築し、実践していくことの必要性を強調している。 【調査報告書の特徴】 株式会社エコノスの特別調査委員会調査報告書を取り上げた本連載【第157回】で、筆者は、BOGHが6月25日に「特別調査委員会の設置及び2024年5月期決算発表の延期に関するお知らせ」をリリースしたことを受けて、「同業他社への影響」のなかで、次のように述べている。 特別調査委員会による調査報告書には、株式会社エコノスの事案に関する記述は見当たらず、筆者の記述はいささか勇み足であったようだが、BOGHグループ内で度々発覚していた従業員不正が、十分な対策が行われないまま放置されてきたとの報告書の指摘には驚いた。不正による影響額は約81百万円と、過年度決算を修正するほどの金額ではなかったものの、後述するように、調査費用と監査費用は550百万円と見込まれて特別損失に計上されており、経営陣の責任は決して小さくはないものと考える。 期末棚卸における帳簿残高と実地棚卸残高の不一致に端を発した今回の不正は、社内調査を含めて約4ヶ月の時間をかけ、164ページという大部の報告書にまとめられ、公表された。特別調査委員会がまとめた19項目にわたる「不正リスク」は、中古品の買取・販売を行っている店舗を有する企業の全てに応用可能なものであると言えるほど網羅的であり、実務での有用性は高いものと思料する。 1 BOGHによる再発防止策 2024年11月12日、BOGHは、「再発防止策の策定及び役職者の処分に関するお知らせ」をリリースし、特別調査委員会の提言を踏まえて、次のような再発防止策を公表した。 BOGHによる再発防止策は、特別調査委員会による提言を実務レベルでより詳細にしたものであると評価できるが、特別調査委員会が「不正行為等の防止に対する組織的な対応の強化」の中で提言していた、BOGH取締役会及び監査等委員会並びに内部監査報告会の構成員である経営陣が、内部監査部から、不正行為等の発生の報告を受けた際に、不正発生を端緒として、店舗横断的な不正の再発防止策に関し、対策の検討を指示し、かつ、対策が講じられたか否かの確認の実施等のフォローアップを行う仕組みを構築し、実践していくことについては言及がなく、厳しい評価をすれば、経営陣が率先して行うべき再発防止策の柱を欠いたものとなっていると考える。 2 役員報酬の自主返上と役員人事 前項の「再発防止策の策定及び役職者の処分に関するお知らせ」で、BOGHは、「役職者の処分」として、決算発表等の遅延に対する経営責任を明確にするために、2024年5月期にかかる業績連動報酬について減額し、本件事案の発生に対する管理監督責任並びに再発防止策を徹底する観点から、代表取締役、取締役、事業運営を担当する執行役員について、月額報酬を自主返上することを公表した。 なお、不正に関与した店長をはじめとする従業員に対する処分については、本稿執筆時点では、公表されていない。 (1) 業績連動報酬減額 〈ブックオフグループホールディングス株式会社〉 〈ブックオフコーポレーション株式会社〉 (2) 月額報酬の自主返上(報酬返上期間:2024年11月~2025年1月) 〈ブックオフグループホールディングス株式会社〉 3 特別調査費用引当金の繰入れ BOGHが、2024年10月22日に提出した2024年5月期の有価証券報告書には、特別損失として「特別調査費用等引当金繰入額」が550百万円計上されている。連結損益計算書の注記には、次のような説明が記されている。 (了)
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〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2024年11月】
〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2024年11月】 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024年11月1日から11月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 Ⅱ 新会計基準関係 企業会計基準委員会は次のものを公表している。 ① 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の修正(内容:「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)など多くのものを修正している) ② 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正(案)(内容:包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正するもの。意見募集期間は2025年1月20日まで) Ⅲ 企業内容等開示関係 次のものが公表されている。 ① 「記述情報の開示の好事例集2024(第1弾)」(内容:サステナビリティに関する考え方及び取組の開示①(全般的要求事項、個別テーマ)に関する好事例集。金融庁) ② 「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正(案)(内容:政策保有株式の開示について改正するもの。意見募集期間は2024年12月26日まで) Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 「倫理規則」の改正に関する公開草案(内容:タックス・プランニング業務及び関連業務に関して改正するもの。意見募集期間は2025年1月6日まで) ② 「財務報告内部統制監査基準報告書第1号「財務報告に係る内部統制の監査」の改正」(公開草案)(内容:監査基準報告書(序)「監査基準報告書及び関連する公表物の体系及び用語」に基づく要求事項と適用指針の明確化などを行うもの。意見募集期間は2024年12月16日まで) Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 「『監査役会等の実効性評価』の実施と開示の状況」(内容:監査役会等の実効性評価を実施している企業の実態を把握し、今後の監査役会等の実効性評価の取組みに関して提言している) (了)
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従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第4回】「整理解雇の4要素と具体的場面における注意点」
従業員の解雇をめぐる企業対応Q&A 【第4回】 「整理解雇の4要素と具体的場面における注意点」 弁護士 柳田 忍 1 はじめに 整理解雇とは、会社側の経営上の事情等により生じた人員削減としての解雇である。 整理解雇も他の解雇と同様、客観的に合理的な理由と社会的相当性が必要であるが(労契法16条)、その判断は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の相当性、④手続の相当性という4つの要素に基づいてなされることになる。また、会社側の事情による解雇であるから、労働者に理由が存する解雇よりも有効性が認められるハードルは高い。 ①~④全てが満たされなければ客観的に合理的な理由と社会的相当性は認められないとする見解もあるが、近時の裁判例は、①~④のどれか1つが欠けたからといって解雇無効とするのではなく、これらを総合考慮して解雇の有効性を判断する傾向にある。すなわち、1つの要素について十分ではない場合には他の要素に求められるレベルがより高くなる可能性がある。 また、①~③については使用者が、④については労働者が主張立証責任を負うと考えられている。 2 整理解雇の4要素のポイント 上記①~④の要素のポイントは以下のとおりである。 ① 人員削減の必要性 整理解雇に際しては、人員削減を行う経営上の必要性が求められるが、人員削減をしなければ企業が倒産するとか、経営が赤字であるといった事態に至っていなくても、経営合理化のために行う人員削減に必要性が認められる場合もある。人員削減の必要性の有無に関しては、裁判所は経営のプロである使用者の判断を尊重する傾向にあるといわれているが、先述のとおり、要素①~③については使用者が主張立証責任を負うわけであるから、人員削減の必要性を具体的に説明できるようにしておくべきである。 また、人員削減の必要性が肯定されたとしても、認められる必要性の程度によっては②解雇回避努力等の他の要素についてより求められるレベルが高まる可能性があることにも注意が必要である。 ② 解雇回避努力 解雇回避努力としては、新規採用の停止、役員報酬・賃金のカット、配転・出向・転籍、一時帰休、希望退職者募集等が考えられる。これら全ての解雇回避措置を実施しなければならないというわけではないが、当該企業の体力や規模・業種等に照らして実現可能な措置を尽くす必要がある。 なお、「新規採用」については、解雇回避努力の他、①人員削減の必要性を否定する方向に働き得る事情であるが、新たに人材を採用する場合であっても、業績回復を図って業態転換や新規事業参入等のために外部から専門性を有する人材を採用するような場合には、これらの要素が否定されない可能性がある。 また、対象従業員に対して割増退職金を提案して退職勧奨を行うことも解雇回避努力(ないし④手続の相当性等)として評価される可能性がある。 ③ 人選の相当性 整理解雇に際しては、客観的合理的かつ公平な基準を設定し、これに基づき公正に選定することが求められる。勤務成績・勤務態度、雇用形態(正規従業員か否か)、年齢等が基準とされる場合が多いが、基準として妥当かどうかは個別の事案ごとに判断されるものであり、どの基準が客観的合理的かつ公平といえるかは一概にはいえない。もっとも、労働組合の組合員であることを選定基準とする場合、合理性を否定されることが多い。 例えば、ある支店や部門を閉鎖する場合、当該支店や部門に在籍する従業員が対象とされることがあるが、当該従業員が当該支店や部門において高度な専門性を要する業務に従事するために採用されたにもかかわらず、かかる業務の必要性が失われたような場合は別として、そのような選定基準には合理性がないとされる可能性がある。当該従業員はたまたまその支店や部門に配転されただけであり、当該従業員を他の支店や部門に異動させて代わりに他の支店や部門の従業員を解雇の対象とすることも可能であるためである。 ④ 手続の相当性 使用者は、労働者や労働組合に対して、整理解雇の必要性やその時期・規模・方法、補償内容等について、誠実に説明を行い、協議に応じる必要がある。就業規則や労働協約にその旨の定めがない場合であっても、手続の相当性を欠く場合には、整理解雇が無効になり得る。 3 整理解雇の注意点 (1) 対象の従業員に帰責事由がある場合 勤務成績・勤務態度に問題があるなど、整理解雇の対象従業員に帰責事由がある場合、上記のとおり、③人選の合理性が認められる一事情とはなり得るが、対象従業員に帰責事由があることにより整理解雇の有効性の判断が緩和されるということはない。労働者の帰責事由に基づく解雇と整理解雇のそれぞれが客観的に合理的な理由と社会的相当性を満たす必要があることに注意が必要である。 (2) 会社解散に伴う解雇の場合 会社解散に伴う解雇については、(i)整理解雇法理が適用されるとする見解と、(ii)事業廃止の必要性及び手続の相当性(説明・協議等)を総合考慮して、解雇に客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当な場合、解雇は有効となるとする見解がある。 仮に(i)に拠るとしても、会社解散により全従業員を解雇する場合には、基本的に②解雇回避努力の措置を講じる余地はなく、③人選の相当性も問題にならないことから、①人員削減の必要性と④手続の相当性により判断されることになる。そして、会社解散に伴う解雇においては、原則として人員削減・事業廃止の必要性は認められることから、(i)と(ii)のいずれに拠るとしても、手続の相当性を満たすかどうかがポイントになる。 また、会社解散に伴う解雇が有効となるためには割増退職金を支給する必要があるかについては、月額給与1~4ヶ月程度の割増退職金の支給がなされたケースがある一方、割増退職金の提案なしに解雇が有効とされた裁判例も存在することから(※1)、必須とはいえないと思われる。 (※1) 静岡フジカラーほか2社事件(静岡地判平成16年5月20日)、三陸ハーネス事件(仙台地決平成17年12月15日)、帝産キャブ奈良(解雇)事件(奈良地判平成26年7月17日) なお、いわゆる偽装解散(事業の廃止を装って、別の法人で事業を継続する場合)に伴う解雇については、客観的に合理的な理由・社会的相当性が認められず、無効となる。 (3) グローバル企業における整理解雇の場合 グローバル企業において、本社の決定によりグローバル規模で人員削減が行われることになり、日本子会社においても当該方針に従って人員削減が行われる場合、①人員削減の必要性をグローバル単位・当該日本子会社単体のいずれで判断するのかが問題となり得る。仮にグローバル単位で人員削減の必要性が認められるとしても、日本子会社単体ではその必要性が認められないような場合には、①人員削減の必要性が認められない可能性があるため、日本子会社単体で見ても人員削減の必要性がある旨説明できるようにしておくべきである。 また、②解雇回避努力のための措置として配転を検討する場合、日本国内会社のみを対象として検討がなされる場合が多いと思われるが、グループ内異動の実例がある場合など、日本国外のグループ会社への異動に現実的可能性があるような場合には、これを検討しなければ②解雇回避努力を尽くしたと認められない可能性がある(※2)。 (※2) クレディ・スイス証券事件(東京高判平成24年10月31日、東京地判平成24年4月20日) (了)
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〈Q&A〉税理士のための成年後見実務 【第13回】「身元保証人になってほしいと言われた場合の対応」
〈Q&A〉 税理士のための成年後見実務 【第13回】 「身元保証人になってほしいと言われた場合の対応」 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 成年後見人として活動していますが、本人が施設に入居することになりました。 入居にあたって施設側から「身元保証人」になってほしいと言われています。身元保証人とは何でしょうか。 【A】 身元保証人とは、本人が負担する金銭債務を保証するとともに、本人に関して何らかの連絡や処置が必要になった場合に、対応を引き受ける人のことです。成年後見人は、身元保証人となることはできないとされています。身元保証人となった成年後見人が、本人に代わって施設の費用を支払った場合に、本人と成年後見人との間で利益相反が生じるなどの問題があるためです。 身元保証人は、高齢者施設への入居時以外にも、病院への入院や賃貸アパートへの入居などの際にも求められることがあり、成年後見人としてはよく直面する問題です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 施設入居時には身元保証人が求められる 成年被後見人が自分1人では生活することが困難になった場合には、成年後見人としては老人ホームなどの高齢者施設へ入居してもらうことを検討することになります。高齢者施設への入居にあたっては、身元保証人が求められる場合があります。 身元保証人は、本人の施設への金銭債務の支払いを保証し、本人に関して何らかの処置が必要になった場合に対応を引き受けることになります。施設側としても、施設の費用は高額になりがちで、本人が施設で生活をするうえではさまざまな連絡事項が生じることから、身元保証人がいないと施設入居を受け入れにくいといえます。 【身元保証契約の関係図】 2 成年後見人は身元保証人となれるのか 成年被後見人の親族が身元保証人を引き受けてくれる場合もありますが、身近に頼れる親族がいないというケースも少なくありません。そうした場合には、施設側から成年後見人に対して身元保証人となってほしいという打診がされることがあります。 成年後見人としては、身元保証人となることはできないとされていますが、身元保証人がいないと施設入居自体ができなくなることもあるため、非常に悩ましい問題です。実務の現場では、成年後見人の職務内容や、必要な範囲で成年被後見人の資産状況を説明するなどして、なんとか身元保証人を不要とする方向で調整をしているようです。 近年では身寄りがない高齢者が増加していることから、身元保証人を引き受けてくれる企業や団体も増えてきています。そうした企業等に依頼することも1つの選択肢ですが、悪質な事業者も存在することが問題視されており、しっかりと選定をすることが求められます。 3 「身元保証ニ関スル法律」について 成年後見人として活動していくと、成年被後見人のために非常に多くの書類に署名等を行うことになりますが、身元保証人のように、成年後見人にとって対応に注意を要する契約が存在するため、よく内容を理解したうえで署名等をすることが大切です。 なお、身元保証人について調べていくと、「身元保証ニ関スル法律」(昭和8年法律42号)に関する情報を目にすることがあると思いますが、この法律は雇用関係を対象にしたものであり、高齢者施設への入居の際に求められる身元保証人とは直接的な関係はありません。 (了)
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《速報解説》 石川県七尾市及び羽咋郡志賀町につき延長されていた令和6年能登半島地震に係る国税の申告期限が確定~期限は令和7年1月31日~
《速報解説》 石川県七尾市及び羽咋郡志賀町につき 延長されていた令和6年能登半島地震に係る国税の申告期限が確定 ~期限は令和7年1月31日~ Profession Journal編集部 国税庁は、令和6年能登半島地震の発生を受け、石川県及び富山県に納税地のある個人・法人を対象とした令和6年1月1日以降に到来する国税の申告・納付等の期限を延長する措置を公表しているが、既報のとおり、富山県及び石川県の一部地域についてはすでに延長措置を終了し、引き続き延長措置が講じられている地域は、石川県七尾市、輪島市、珠洲市、羽咋郡志賀町、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町とされていた。 これら地域における具体的な延長期限については、被災者の状況に十分配慮しつつ検討するとしていたところ、12月9日付けの官報にて上記地域のうち石川県七尾市及び羽咋郡志賀町に納税地がある個人・法人については、令和7年1月31日を期限とする旨が告示された。 また、今回対象とされていない石川県輪島市、珠洲市、鳳珠郡穴水町及び鳳珠郡能登町については引き続き延長措置を継続するとしているほか、令和6年能登半島地震の影響により期日までに申告・納付等ができない場合には、所轄税務署長に申請して承認を受けることにより、引き続き期限延長措置を受けることは可能であること、また、申告は可能であっても、令和6年能登半島地震により財産に相当な損失を受けた場合や、国税を一時に納付することが困難な場合、所轄税務署長に申請することにより、原則として1年以内の範囲で、納税の猶予を受けることができるとする措置も引き続き行う。 なお、同じく12月9日付けで石川県七尾市及び羽咋郡志賀町における令和6年能登半島地震に係る審査請求の期限延長措置についても令和7年1月31日を期限とすること及び労働保険料、障害者雇用納付金などの申告・納期限の延長後の期限も同日とすることが、下記のとおり公表されている。 そのほか、上記告示に伴い地方税に係る申告等の期限の延長等についても総務省より下記のとおり通知が行われている。 * * * (了)
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《速報解説》 「外国税額控除に関する明細書」の記載に誤りがあったとして国税庁より注意喚起~分配時調整外国税相当額控除適用者について外国税額控除額が過大に算出されるケースあり~
《速報解説》 「外国税額控除に関する明細書」の記載に誤りがあったとして 国税庁より注意喚起 ~分配時調整外国税相当額控除適用者について 外国税額控除額が過大に算出されるケースあり~ Profession Journal 編集部 国税庁は「外国税額控除に関する明細書」の記載に誤りがあったとして、12月6日付で下記ページを公表し注意喚起を行っている。 今回公表されたのは、分配時調整外国税相当額控除の適用を受ける者の外国税額控除の控除限度額の計算の基礎となる所得税及び復興特別所得税の金額について、それぞれ分配時調整外国税相当額控除額を控除した後の金額となるにもかかわらず、従前の「外国税額控除に関する明細書(居住者用)(令和2年分以降用)」の「3 所得税及び復興特別所得税の控除限度額の計算」欄の「所得税額」(①)欄及び「復興特別所得税額」(②)欄の記載方法の説明(控用の裏面の「書き方」)に誤りがあったというもの(「外国税額控除に関する明細書(非居住者用)(令和2年分以降用)」も同様)。 具体的な上記①欄及び②欄の「書き方」における正誤内容は、それぞれ次の通り(下線部が変更箇所)。 上記誤りにより、分配時調整外国税相当額控除の適用を受ける者がこの明細書に沿って外国税額控除の金額を計算すると、外国税額控除額が過大に算出される場合がある。また、国税庁ホームページ「確定申告書等作成コーナー」においても、同様の誤りがある明細書が作成されるプログラムとなっていた、としている。 このため国税庁では、誤りのあった様式を改訂し「確定申告書等作成コーナー」のプログラムを修正するほか、国税庁ホームページにおける関係箇所を改訂するとしている。 なお、今回の様式誤り等により申告内容の是正を要すると見込まれる納税者に対しては、所轄税務署より内容是正と不足税額の納付をお願いするとしており、同ページでは正しい外国税額控除額を算出するツール(Excelデータ)や修正申告の要否の判断ができるフローチャート、修正申告書の書き方等も公表されている。 ただし、外国税額控除のほか分配時調整外国税相当額控除の適用がある令和2年分から令和5年分の所得税等の確定申告等の手続をする者は、令和7年1月5日までの間は「確定申告書等作成コーナー」が利用できないため注意が必要だ。 (了) ↓お勧め連載記事↓
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《速報解説》 法務省、GM課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱いを受け、「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表
《速報解説》 法務省、GM課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱いを受け、「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024(令和6)年12月6日、法務省は、「会社計算規則の一部を改正する省令案」を公表し、意見募集を行っている。 これは、「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)を受けたものなどである。 意見募集期間は2025年1月17日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 Ⅲ 施行期日等 公布の日から施行する予定である。 改正後の会社計算規則の規定は、2024(令和6)年4月1日以後開始する事業年度に係る計算書類及び連結計算書類について適用し、同日前に開始する事業年度に係るものについては、なお従前の例によるものとする予定である。 (了)
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《速報解説》 金融庁から「記述情報の開示の好事例集2024」の第2弾が公表される~気候変動関連等の好事例のポイント等を新たに記載~
《速報解説》 金融庁から「記述情報の開示の好事例集2024」の第2弾が公表される ~気候変動関連等の好事例のポイント等を新たに記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2024(令和6)年12月5日、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集2024(第2弾)」を公表した。 これは、2024年11月8日の「記述情報の開示の好事例集2024(第1弾)」に続くものであり、サステナビリティに関する考え方及び取組の開示②(気候変動関連等)について議論したものである。 今後、第3回勉強会以降のテーマを追加して、公表、更新することを予定しているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 投資家・アナリスト・有識者が期待する開示を充実化させるための取組み 次のことを追加している。 Ⅲ 有価証券報告書のサステナビリティに関する考え方及び取組の全般的な開示のポイント 参考になる主な開示例等を追加している。 Ⅳ 気候変動関連等の開示例 主な開示のポイントとして、サステナビリティ情報と財務情報とのつながりがある開示、シナリオ分析においては、一般的なシナリオだけでなく、自社の置かれている経営環境等を踏まえた独自のシナリオを反映した分析を行うことが有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(図表や画像を用いて、読み手に対して端的で明快な情報開示を意識したことなど)。 「気候変動」の好事例のポイントとして次のことが記載されている。 「自然資本(水リスク、生物多様性等)」の好事例のポイントとして次のことが記載されている。 (了)
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《速報解説》 国税庁、概要・源泉所得税関係の定額減税Q&Aを改訂し外国人技能実習生の源泉徴収票の記載事項を追加
《速報解説》 国税庁、概要・源泉所得税関係の定額減税Q&Aを改訂し 外国人技能実習生の源泉徴収票の記載事項を追加 Profession Journal 編集部 令和6年分の年末調整は年調減税への対応が必要となる中、国税庁は12月5日付で「令和6年分所得税の定額減税Q&A(概要・源泉所得税関係)」を改訂、外国人技能実習生の源泉徴収票の記載方法について内容の見直しを行った(既報の通り前回の改訂は9月)。 今回の改訂で見直されたのは「Q10-3 外国人技能実習生の源泉徴収票の記載方法」のみ(新問の追加なし)。定額減税の対象となる外国人技能実習生(居住者であり、扶養控除等申告書を提出している)で、租税条約に基づき源泉所得税及び復興特別所得税の免除を受ける人の場合、改訂前は「給与所得の源泉徴収票」の「(摘要)」欄に定額減税に関する事項を記載するとの内容であったが、改訂後は租税条約に基づいて課税の免除を受ける給与について免除対象額及び該当条項「日〇租税条約〇〇条該当」についても記載(書面作成の場合は赤書き)する必要があるとした。 改訂前後のQ10-3は以下の通り(下線が変更箇所)。 (了) ↓お勧め連載記事↓
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2024年12月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.597を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。