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改正労働者派遣法への実務対応《派遣先企業編》~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第1回】「期間制限への対応①」

改正労働者派遣法への実務対応 《派遣先企業編》 ~派遣社員を受け入れている企業は「いつまでに」「何をすべきか」~ 【第1回】 「期間制限への対応①」   特定社会保険労務士 岩楯 めぐみ   【第1回】及び【第2回】は、改正により新しい考え方が導入された期間制限への対応について検討したい。なお「新しい期間制限の考え方」については下記の拙稿を参照されたい。   1 「事業所」「組織単位」の特定 (1) 「事業所」の特定 「事業所」単位の期間制限では、「事業所」毎に派遣可能期間が制限され、その期間は原則3年となる。そこで、「事業所」単位の期間制限に対応するためには、ここでいう「事業所」が、自社の組織にあてはめるとどの範囲になるのかについて整理が必要となる。 「事業所」とは、以下の観点等から実態に即して判断することとされている。 上記について補足すると、以下の通りとなる。 ① 場所的に独立していること 「事業所」の基本的な考え方となり、住所地毎に捉えることを意味する。つまり、住所地が同じであれば1つの「事業所」とし、住所地が異なれば別の「事業所」とする。 なお、同じビルの複数のフロアに入居している場合も、住所地はすべて同じと捉え、同じビルに入居している組織全体を1つの「事業所」として捉える。 ② 経営の単位として人事、経理、指揮監督、労働の態様等においてある程度の独立性を有すること 指揮命令等がある程度完結している単位を意味する。この点については、逆の視点で、経営の単位として独立性がない場合を除外する方がわかりやすい。 「経営の単位として独立性がない場合」とは、例えば、出張所やサテライトオフィス等で、規模が小さく、直属の上司は直近上位の組織に所属し、直近上位の組織にいる上司から指揮命令を受ける場合が該当する。 この場合は、直近上位の組織と出張所等の住所地は異なるが、出張所等は直近上位の「事業所」の一部として捉える。 ③ 一定期間継続し、施設としての持続性を有すること この点についても②と同様に、逆の視点で、施設としての持続性がない場合を除外する方がわかりやすい。 「施設としての持続性がない場合」とは、例えば、臨時的に事業所を設置する場合が該当し、この場合もその事業所は直近上位の「事業所」の一部として捉える。 *  *  * つまり、「事業所」とは、一部の例外(②③で除外されたもの)を除けば、住所地基準の組織グループであり、「事業所」単位の期間制限では、このグループ毎に派遣可能期間を管理することになる。 (2) 「組織単位」の特定 「個人」単位の期間制限では、派遣労働者「個人」毎に派遣可能期間が制限され、その期間は派遣労働者「個人」毎に同一の「組織単位」において3年となる。「組織単位」が変われば、派遣先は同じ派遣労働者を引き続き受け入れることが可能となるため、「個人」単位の期間制限に対応するためには、「組織単位」の考え方について整理が必要となる。 「組織単位」については、労働者派遣事業関係業務取扱要領で以下の考え方が示されているため、これらに照らして検討することとなる。 つまり、「個人」単位の期間制限では、基本的には指揮監督権限を有する組織の長を基準とするグループ毎に派遣可能期間を管理することになる。   2 意見聴取の手続き 「事業所」単位の期間制限では、「事業所」毎に派遣可能期間が制限され、その期間は原則3年となるが、意見聴取の手続きを行うことによって、派遣可能期間は3年を上限として何度でも延長することができる。 (1) 手続きの流れ 意見聴取は、事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(以下、過半数労働組合)に対して、過半数労働組合がない事業所では労働者の過半数を代表する者(以下、過半数代表者)(過半数労働組合と過半数代表者を合わせて、以下、過半数労働組合等)に対して行う必要があるが、その手続きの流れは以下の通りとなる。 (2) 留意点 ① 手続きの実施時期 上記[Step2]については「事業所」単位の期間制限の抵触日の1ヶ月前の日(例:派遣可能期間が9月30日までであれば、抵触日は10月1日となるため、その1ヶ月前の9月1日)までに、[Step3]については「事業所」単位の期間制限の抵触日の前日(例:派遣可能期間が9月30日までであれば、抵触日は10月1日となるためその前日の9月30日)までに実施する必要がある。 なお、労働者派遣契約においては、期間制限の抵触日以降の期間を派遣期間として定めることはできないため、労働者派遣契約の更新手続き時期を考慮すると、意見聴取の手続きは、期間制限の抵触日の1ヶ月前の日までに手続き完了を目指すのではなく、かなり早い段階で手続きを行うことになるだろう。 ② 異議 [Step3]における異議とは、派遣可能期間を延長することに反対する意見だけでなく、以下の意見も含まれるため、注意が必要となる。 また、2回目以降の意見聴取の際に、再度、過半数労働組合等から異議が述べられた場合は、その意見を十分に尊重し、派遣可能期間の延長の中止や延長期間の短縮、延長しようとする派遣労働者数の減少等の対応を検討した上で、その検討結果をより一層丁寧に過半数労働組合等に説明することが必要とされている。 ③ 事前準備 手続きの流れを確認した上で、意見聴取の際に必要となるものについては、準備しておくとよい。[Step1]や[Step2]で使用する書式は、労働局によってはサイト上で書式を例示しているので参考にしたい。 また、[Step5]の従業員への周知方法についても事前に決めておきたい。周知方法については上記のように法令で定めた方法による必要があるが、就業規則や労使協定等の周知でも法令に同様の定めがあるため、同じ対応をすればよいであろう。 ④ 延長の必要性 意見聴取をする前に、そもそも派遣可能期間を延長する必要があるのか、検討が必要となる。つまり、派遣労働の利用は臨時的・一時的なものが原則であるという考え方を踏まえて、自社において派遣労働者の受け入れを継続すべきか、派遣労働者の受け入れをやめて新しく従業員を採用すべきか、検討した上で方針を決定する必要がある。 なお、意見聴取により異議が述べられた場合は、ここで検討した内容を過半数労働組合等に説明することになる。 *  *  * 【第1回】は、派遣可能期間を管理する単位の整理と、「事業所」単位の派遣可能期間を延長する場合に必要な意見聴取の手続きを確認した。 次回は、過半数労働組合がない場合に意見聴取の当事者となる過半数代表者の選出等についてみていく。 (了)
#152(掲載号)
#岩楯 めぐみ
2016/01/14
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税理士ができる『中小企業の資金調達』支援実務 【第11回】「金融機関提出書類の作成ポイント(その3 貸借対照表)」~債務超過は避ける~

税理士ができる 『中小企業の資金調達』支援実務 【第11回】 「金融機関提出書類の作成ポイント(その3 貸借対照表)」 ~債務超過は避ける~   公認会計士・中小企業診断士・税理士 西田 恭隆   融資における決算書のポイントとして、今回は貸借対照表について述べる。   貸借対照表のポイント①:債務超過は避ける 避けるといって避けられるものではなく、この意味は「債務超過に陥る前に融資を申し込むよう社長に助言する」ということである。債務超過の状態だと、可能性はゼロではないけれども、融資獲得は難しくなる。繰越利益剰余金が大幅なマイナスとなっている会社は、「借金をして事業を続けてきたものの、毎年毎年赤字を積み重ね、お金を生み出す能力の無い会社」とみなされてしまう。金融機関は、債権回収見込みのない会社に融資することはできない。 債務超過に陥る前に、融資を申し込むかどうか、申し込みタイミングや金額について社長に提案、助言すべきである。 前回損益計算書のポイントと同様、前期末決算が債務超過の状態であっても、直近現在の状態が良好なのであれば、直近月までの残高試算表を積極的に提出する。最近は売上と利益が出ていることをアピールすれば融資可能性は高まる。売上の証拠として、通帳記録なども見せる。現在の債務返済能力の範囲内で、融資に応じてくれる場合がある。   貸借対照表のポイント②:仮勘定を整理する 債務超過かどうかは貸借対照表で判断される。その前提として、まず金融機関は貸借対照表項目に問題がないかチェックを行う。資産の過大計上や負債の過少計上があるとみなされると、科目修正と共に、繰越利益剰余金も切り下げられてしまう。修正によっては、決算上資産超過であった貸借対照表が、実質債務超過に逆転するおそれがある。繰越利益剰余金のうち、当期純利益が下方修正されれば、借金返済能力(当期純利益+減価償却費)にも不利な影響がでる。 以上の点を踏まえると、資産性に疑問を持たれるような、不明瞭な項目は貸借対照表に表示しない方が良い。具体的には、仮払金や仮受金などの仮勘定は残さないようにする。決算にあたっては、最初から別の勘定科目に振り替えておく。残してしまうと「本来経費計上すべきものを仮払金に入れて利益を水増ししているのではないか」、「仮受金を使って何か資産項目や負債項目の調整を行っているのではないか」等の誤解を招くおそれがあるからである。 やむを得ず多額の仮勘定が残る場合は、貸借対照表を提出する際、あらかじめ勘定内訳書や総勘定元帳を使って説明しておく。資産性に問題がないことをアピールする。   貸借対照表のポイント③:社長に対する貸付金を整理する 社長個人への貸付金がある場合、決算前に整理しておいた方が良い。社長への貸付金はいつ回収されるか不明なため、金融機関側は「資産性なし」と判断する。貸付金の金額によっては、資産が大きく目減りし、資産超過だと思っていた貸借対照表が、実質債務超過に逆転するおそれがある。 このため、社長にはできるだけ決算前にお金を返済するよう助言する。もしくは、社長に対する借入金や未払債務がある場合、決算整理で相殺し、貸付金勘定を消しておく。 やむを得ず多額の貸付金が残った場合は、貸付理由と、返済予定を合わせて金融機関に説明する。翌期にすでに回収済みであれば、証拠として、合計残高試算表や通帳記録を提出する。回収済みの事実が認められれば、遡って資産性があると判断してもらえる。 上記のとおり、社長への貸付金に対する金融機関の印象は良くない。将来、資金調達を考えるのであれば、普段から貸し付けは控えておいた方が良い。貸し付けるとしても一時的、金額は少額とし、決算前に返済できるようにしておく。社長に対する貸付金が膨らんでしまうと、融資申し込みの前に整理しきれないおそれがあるからである。 反対の勘定科目、社長からの借入金についても述べておく。金融機関の取り扱いも反対となり、融資判断に有利である。返済不要の借入金=実質資本金とみなされる。決算上、仮に債務超過であったとしても、社長からの借入金がそれを上回っていれば、実質資産超過と判断してもらえる。勘定科目表示の長短分類はどちらでも良い。   貸借対照表のポイント④:金額が大きい勘定科目は分かりやすく表示 金額が大きい勘定科目は、金融機関から質問を受ける可能性が高い。あらかじめ内容がひと目で分かるよう科目名を工夫したり、科目を複数に分けて表示しておくのが親切である。 例えば、上記のとおり、社長個人からの借入金は印象が良い。そこで、他の借入金とは区別して「代表者借入金」と表示すればひと目で分かりやすくなる。また、税務上の繰延資産を長期前払費用として処理している場合、金額の大きいものは、「〇〇団体入会金」等、内容が分かる勘定科目にする。ひと目で内容を理解しやすく、不要な誤解を避けることができる。ただし、細分化しすぎるとかえって内容が把握しづらくなるので、科目は絞る。この点は、前回損益計算書のポイントと同様である。注記表を用いて説明しても良い。 「申告書一式を提出しているのであるから、別表や勘定科目内訳明細書を見れば分かるだろう」と思われるかもしれない。確かにその通りである。しかし、金融機関の担当者は税務の専門家ではない。決算書以外の書類の見方に慣れていない方もいる。実際、別表や内訳書にそのまま書いてある内容について、質問を受けることは多い。できるだけ決算書のみで会社の実態が伝わるよう、工夫した方が良い。 細かい点であるけれども、別表や内訳書にそのまま書いてある内容について質問をうけた場合の対応について述べておく。「申告書に書いてある」とだけ回答するのは、金融機関や社長に冷たい印象を与えてしまう。筆者の場合、内容を改めて説明し、申告書の記載個所も併せて回答するようにしている。詳細説明として、自主的に総勘定元帳等を提出するよう会社に助言することもある。税理士は仲介者として、社長と金融機関が気持ちよく融資交渉できるように立ち回るべきである。 *   *   * 以上、金融機関に提出する書類の作成ポイントとして、決算書のポイントを説明した。次回は合計残高試算表について説明する。決算後、半年以上経過してから融資を申し込む場合、決算書に加え、直近の合計残高試算表の提出を求められる。 (了)
#152(掲載号)
#西田 恭隆
2016/01/14
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《速報解説》 国税関係書類のスキャナ保存、デジカメ・スマホも使用可能に~平成28年度税制改正大綱~

《速報解説》 国税関係書類のスキャナ保存、デジカメ・スマホも使用可能に ~平成28年度税制改正大綱~   税理士 佐藤 善恵   はじめに 国税関係書類のスキャナ保存制度は、平成17年の電子帳簿保存法改正に伴い認められたものである。それから既に10年が経過しているが、まだ一般的に利用されているとは言い難い。 このスキャナ保存制度について、昨年度(平成27年度)の改正では、対象とされる一定の書類についての3万円未満の金額基準撤廃など、様々な要件緩和がされたところであるが、平成28年度の改正においても、さらに手続要件等の見直しが行われることとなった。 平成28年度の要件緩和により、スキャナ保存の制度面は整ったといえる。今後は、承認を受けた民間企業に対してより利用しやすいタイムスタンプが提供されることで、制度利用が促進されるであろう。 これらの改正は、平成28年9月30日以後に行う承認申請について適用される。   1 固定型スキャナ以外も使用可能となる 現在、書類の電子化にあたっては、固定型スキャナ(原稿台と一体となったスキャナ)を利用することが要件とされているが、改正後は、デジタルカメラやスマートフォン等の機器の使用が認められる。 これによって、領収証等を事業所に持ち帰って電子化する必要がなくなり、領収証を受領した者はスマホの写真機能を使って、いつでも、どこでも、電子化して社内のパソコン等に転送し経費精算をするなどといったことも可能となる。【参考図①】 【参考図①】 (※) 経済産業省ホームページより なお、国税関係書類(契約書、領収書等の重要書類に限る)の受領等をした後、その受領等をした者は、その国税関係書類に署名を行った上で、特に速やか(3日以内)にタイムスタンプを付すこととされる。   2 適正事務処理要件の緩和 国税関係書類の作成又は受領からスキャナ読み取りまでの各事務について、平成27年度税制改正では、その適正な実施を確保するための一定の事務処理要件が創設された(電子帳簿保存法規則3⑤四)。平成28年度税制改正では、この事務処理要件に関して「相互けん制要件」と「定期検査要件」が緩和される。 【参考図②】 (※) 経済産業省ホームページより 【参考図③】 現行と改正案(全体イメージ) (※) 経済産業省ホームページより さらに、記録する国税関係書類が日本工業規格A列4番以下の大きさである場合には、国税関係書類の大きさに関する情報の保存を要しないとされる。 (了)
#151(掲載号)
#佐藤 善恵
2016/01/13
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《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(平成27年4月~6月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(平成27年4月~6月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、平成27年12月17日、「平成27年4月から6月分までの裁決事例の追加等」を公表した。今回追加されたのは下表のとおり、全17件であり、前回(平成27年1月分~3月分)は6件と少なかったが、これまでの水準に復した感がある。 今回の公表裁決では、国税不服審判所によって課税処分等が全部又は一部が取り消された事例が6件、棄却又は却下された事例が11件と、原処分庁の主張が認められた事例が目立つ。税法・税目としては、国税通則法が5件、所得税法が4件、相続税法と法人税法が各2件、ほかに、消費税法、登録免許税法、国税徴収法及び租税特別措置法関係が各1件であった。 【公表裁決事例平成27年4月~6月分の一覧】 ※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、税務調査手続の違法性と理由付記に関する国税不服審判所の考えが示された事例を紹介したい。 なお、毎回のことであるが、論点を簡素化するため、複数の争点がある裁決については、その一部を割愛させていただいていることを、あらかじめお断りしておきたい。   1 調査結果の説明の瑕疵と原処分の取消し(前掲表③) (1) 争点 本件の争点は、次の2点であるが、本稿では[争点1]に絞って、審判所の裁決を検討したい。 (2) 審査請求人の主張 審査請求人は、本件調査に当たって、調査の事前通知及び調査結果の説明を欠いており、調査手続に違法があることから、原処分の取消事由がある、と主張した。 (3) 審判所の判断 審判所は、調査担当職員が平成25年9月9日に請求人に対する事前通知を行ったとする主張を、「調査経過記録という職務上機械的に作成されたものにより客観的に裏付けられている上に、答述内容も、実際に体験した者でなければ語ることのできない迫真性を備えたもの」と評価し、同職員が平成25年9月9日に請求人に対する事前通知を行った事実を認めることができる、と判断した。 さらに、 調査手続の違法が課税処分の取消事由になる場合について次のように説明して、調査結果の説明に瑕疵があったとしても、原処分の取消事由にはならないことを明確にした。   2 一時所得の収入を得るために支出した金額(前掲表⑨) (1) 争点 本件の争点は、解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上、法人支払保険料の額を控除することができるか否か、である。 (2) 審査請求人の主張 請求人は、以下のように主張して、解約払戻金に係る一時所得の金額の計算上、法人が支払った保険料の額を控除すべきである、とした。 (3) 審判所の判断 こうした請求人の主張について、審判所はまず、「支出した額」について、次のように述べる。 そのうえで、「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには、それが収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないとして、請求人の主張を退けた。 さらに、請求人の「最高裁判決によって政令や通達が改正され、解釈が変更された」という主張については、「最高裁判決は、所得税法第34条第2項に規定する「その収入を得るために支出した金額」の解釈を公権的に確定したもの」であり、同項の「その収入を得るために支出した金額」についての課税庁の解釈は、最高裁判決の前から一貫していたものであったと認められる」として、確定申告当時、これと異なる解釈がされていたとする「請求人の主張には理由がない」と判断した。   3 競売により一括で取得した土地及び建物等の取得価額の区分(前掲表⑩) (1) 争点 本件の争点は、請求人が競売によって一括取得した土地及び建物の取得価額の算出はどのような方法により行い、また、当該取得価額はそれぞれいくらであるか、である。 (2) 審査請求人の主張 請求人は、一括取得した土地及び建物の価額が区分されていない場合は、第三者である不動産鑑定士の鑑定評価による土地及び建物の評価額の比率により区分を行うことが客観的であり、かつ、合理的である、と主張する。 (3) 審判所の判断 これに対して、審判所は、まず、競売で取得した資産の譲渡価額については、各資産の価額は「あん分法」により区分すべきであるとしたうえで、「あん分法」を採用する際の価額については、請求人の主張する「落札金額を不動産鑑定士の鑑定評価による土地と建物の評価額による比率により区分する」方法を「一応の合理性が認められる」としながらも、以下の点から、本件の鑑定評価そのものの合理性を否定した。 一方、原処分庁が主張する「固定資産税評価額の比率による区分」については、その合理性を次のように説明する。 以上のことから、請求人が用いた不動産鑑定士の評価額の計算が必ずしも合理性のある算出方法となっていない一方、原処分庁が用いた土地及び家屋の固定資産税評価額は合理性があるというべきである。よって、固定資産税評価額の比率によってあん分することが相当である、と結論づけた。 (了)
#151(掲載号)
#米澤 勝
2016/01/13
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《速報解説》 修正国際基準及び改正会社法に係る「会社法施行規則・会社計算規則」の一部改正が公布、同日施行~経過措置に留意~

《速報解説》 修正国際基準及び改正会社法に係る 「会社法施行規則・会社計算規則」の一部改正が公布、同日施行 ~経過措置に留意~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 平成28年1月8日、法務省は「会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令」(平成28年法務省令第1号)を公表した。これにより、平成27年11月6日付で意見募集されていた公開草案が確定することとなる。 これは、平成27年6月30日に、 企業会計基準委員会から公表された「修正国際基準(国際会計基準と企業会計基準委員会による修正会計基準によって構成される会計基準)」を受けた会社計算規則の改正及び、会社法の一部を改正する法律(平成26年法律第90号)の施行に伴う会社法施行規則の改正を追加的に行うものである。 なお、修正国際基準を受けた連結財務諸表規則等の改正は、平成27年9月4日付で、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第52号)として公布されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 会社計算規則の改正 「修正国際基準で作成する連結計算書類に関する特則」(61条、120条の2)として、次の規定が設けられた。 「米国基準で作成する連結計算書類に関する特則」は、会社計算規則120条の3として規定された。   Ⅲ 会社法施行規則の改正 平成27年5月1日に施行された改正会社法を受け、以下の改正が行われた。   Ⅳ 適用時期等 公布の日(平成28年1月8日)から施行する。 次の経過措置が設けられている。 (了)
#151(掲載号)
#阿部 光成
2016/01/12
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.151が公開されました!~今週のお薦め記事~

2016年1月7日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.151を公開! プロフェッションジャーナルのリーフレットは 全国のTAC校舎で配布しています! -「イケプロが実践するPJの活用術」「第一線で活躍するプロフェッションからPJに寄せられた声」を掲載!-   - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2016/01/07
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

monthly TAX views -No.36-「本年の焦点は『1兆円の社会保障財源』の確保」

monthly TAX views -No.36- 「本年の焦点は『1兆円の社会保障財源』の確保」   中央大学法科大学院教授 東京財団上席研究員 森信 茂樹   2017年4月の消費税率10%引上げ時に、食料品や新聞への軽減税率の導入が決まり、1兆円の社会保障財源に穴が空くこととなった。 これについては、「平成28年度末までに安定的な恒久財源を確保する」という与党間の合意がなされているので、今年の税制議論の焦点は、『1兆円の財源を具体的にどのような形で決めるのか』という点になる。 すでに、民主党政権で導入が予定されていた総合合算制度の取りやめにより4,000億円を確保するということが言われているが、「社会保障のための恒久財源を社会保障の廃止により手当てする」ということは、どのような意味を持つのであろうか。論理矛盾のような感じがしないでもないが、それでもまだ6,000億円の恒久財源が必要となる。 ◆  ◆  ◆ 具体案の検討の前に確認すべき点がある。 消費税は全額社会保障財源となっているので、軽減税率で空いた穴を埋めるための財源は、社会保障とリンクさせる必要があるということである。 このための最も確実な方法は、「全額社会保障財源に充てられる消費税の標準税率を1兆円の減税分だけ引き上げること」である。その場合、消費税の標準税率は10.5%前後になる。 しかし、消費税増税を嫌う現政権の下では、このような選択肢は採りえないだろう。そこで、早くも自然増収論や埋蔵金での穴埋めといった議論が出ている。埋蔵金については、仮にそのようなへそくりが見つかったら、莫大な借金の穴埋めに使うのが本筋であり、それを軽減税率の財源にすることは筋違いだ。 では、自然増収論はどうだろうか。 たしかに安倍政権発足前の平成23年度(2011年度)から平成28年度(2016年度)までの5年間を見ると、税収は42.3兆円から57.6兆円(予算)と15兆円強増えており、一見大変な増収があるように見える。 しかし、リーマンショック前の07年度税収は51兆円であった。これが平時の税収とすると、16年度予算の税収である57.6兆円は、6兆円強の伸びということになる。 実はその間、消費税率は5%から8%へと引き上げられており、その増収額は6兆円程度である。そこでこれを除くと、税収は平時とトントン、つまりアベノミクスによりわが国経済が、リーマンショック前の平時に戻ったというだけの話である。決して、自然増収が恒常的に生じているという状況にはなく、これをもって恒久財源ということにはならないだろう。 ◆  ◆  ◆ わが国経済は、金融政策の手詰まりや外部経済環境の不安などから踊り場にある。要因の1つに、雇用者報酬の回復に比べて個人消費の伸びがみられないことが挙げられる。 筆者は、この背景には、「今は中流だがいつ下流に陥るかもしれない」という将来不安があるのではないかと考えている。社会保障財源に穴を空けることは、この不安をますます拡大させ、経済にマイナスの影響を与える。 最後に一言付け加えたい。 「1兆円の財源の具体論は選挙後に議論」ということのようだが、このような考え方は国民を愚弄していないだろうか。 選択肢だけでも選挙前に国民に示すべきではないか。 (了)
#151(掲載号)
#森信 茂樹
2016/01/07
税務 税務・会計 解説 解説一覧

マイナンバーの会社実務Q&A 【第1回】「行政手続書類のマイナンバー対応スケジュール」

マイナンバーの会社実務 Q&A 【第1回】 「行政手続書類のマイナンバー対応スケジュール」   税理士・社会保険労務士 上前 剛   〈Q〉 行政手続書類に関するマイナンバーへの対応について、今後のスケジュールを教えてください。   〈A〉 平成28年1月以降で対応が求められるもののスケジュールは、以下の通りである。 (了)
#151(掲載号)
#上前 剛
2016/01/07
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第3回】「最近の注目裁判例・裁決例②(大阪高裁平成25年1月18日判決)」~収益事業に該当すると判断した理由は?~

理由付記の不備をめぐる事例研究 【第3回】 「最近の注目裁判例・裁決例② (大阪高裁平成25年1月18日判決)」 ~収益事業に該当すると判断した理由は?~   中央大学大学院商学研究科 博士後期課程 (酒井克彦研究室所属) 泉 絢也   今回は、最近注目の裁判例を取り上げてみたい。 1 事案の概要 法人税法2条6号、別表第2(平成20年法律第23号による改正前のもの)に該当する公益法人等で、青色申告の承認を受けている財団法人X(原告・控訴人)は、自ら営む事業のうち、公益事業会計等に区分して経理していた各事業(以下「本件各事業」という)について、法人税法2条13号に規定する収益事業に含めずに法人税の申告を行っていた。 これに対して、課税庁は、本件各事業は収益事業に該当するものとして、これに係る収入を法人税の課税所得に加算する更正処分(以下「本件更正処分」という)を行ったところ、Xは、本件各事業は収益事業に該当しない又は更正通知書に記載された理由付記に不備があるなどとして、課税庁が所属する国Yを相手取り、処分の取消しを求めた。 原審大阪地裁平成24年2月2日判決(税資262号順号11870)は、Xの上記主張をいずれも排斥し、処分を維持したが、大阪高裁平成25年1月18日判決(判時2203号25頁。以下「本件高裁判決」という)は、本件各事業が収益事業に該当するか否かについては判断することなく、本件理由付記(本件高裁判決は、「本件各付記理由」と表現していることに注意)には不備があるとして、課税処分を取り消した。   2 更正通知書に記載された更正の理由の一例(本件理由付記) (注) 実際の理由付記には、上記加算部分に対応する費用等の項目の記載があったが掲載を省略しており、また、実際の理由付記の一部を筆者が加工している。   3 関係法令等 まず、関係法令等を確認しておきたい。 本件理由付記を一読してみると、本件更正処分の理由は、本件理由付記において摘示されている委託料、受託料及び補助金(以下「本件委託料等」という)について、法人税法2条13号に規定する収益事業の収入に該当すると認められるにもかかわらず、Xがこれを収益事業の収入として計上していなかったことであることがわかる。 そこで、当時における収益事業に係る法人税法の規定を整理しておこう。   4 本件高裁判決の判断 本件高裁判決は、次のとおり、本件理由付記に不備があると判断し、課税処分を取り消した。 (1) 求められる理由付記の程度 (2) 理由付記の十分性 本件高裁判決は、 とした上で、次のとおり、本件理由付記は、法人税法130条の求める理由付記として不備があると判断した。   5 考察 (1) 本件高裁判決の注目点① 上記4(2)の判示を整理してみると、本件高裁判決は、【1】関係法令等の定め(上記4(2)(ア))、【2】本件訴訟におけるYの主張等(上記4(2)(イ))、【3】Xのこれまでの申告状況、過去及び今回の税務調査の状況(上記4(2)(ウ))を参照することで、【4】(上記3の法令及び実費弁償通達に関する判断を記載すべきであったにもかかわらず)本件理由付記には法令等の適用関係やその判断過程に関する記載がなく、【5】理由付記に不備があるという結論へと到達していることがわかる。 とりわけ、上記【3】、すなわち本件高裁判決は、Xのこれまでの申告状況、過去及び今回の税務調査の状況を参照することで、行政処分庁の恣意抑制と不服申立ての便宜のために理由付記を要するのは、主として、本件各事業が実費弁償により行われているといえるのか、実費弁償通達が適用されるのかという点であることを導き出しているが、このようなロジックが今後、定着するかどうか注目に値すると考える。 これまで、課税実務においては、納税者の過去の申告状況や税務調査の状況といった事情(課税処分の適法性を肯定するために調査において把握した事実等に関するものは除く)と理由付記に記載すべき内容とを、直接的に結び付けて、理由付記を行ってきたようには思われないからである。 そして、本件高裁判決が用いたこのようなロジックによれば、 というような主張も有効となる可能性があり、理由付記を見据えた税務調査の対応の必要性も視界に入り込んでくる。 (2) 本件高裁判決の注目点② 本件高裁判決は、上記4で示した判示の後において、あくまでYの主張を排斥する文脈ではあるが、次のような判断を示している。 いずれの判示も、帳簿書類の記載の程度の十分性を検討する際に重要なものであり、今後、このような理解が定着するかどうか、注目に値する。 *  *  * 次回は、法人の事業部名義の簿外口座に振り込まれた100万円を法人の売上計上漏れ(従業員に対する損害賠償請求権に係る雑収入計上漏れ)と認定した法人税更正処分の理由付記の事例を取り上げる。 (了)
#151(掲載号)
#泉 絢也
2016/01/07
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~税務争訟における判断の分水嶺~課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第7回】「事業に必要な海外旅行であったとの納税者の主張が認められず旅行費用は「給与等」に当たるとされた事例」

~税務争訟における判断の分水嶺~ 課税庁(審理室・訟務官室)の判決情報等掲載事例から 【第7回】 「事業に必要な海外旅行であったとの納税者の主張が認められず 旅行費用は「給与等」に当たるとされた事例」   税理士 佐藤 善恵     (※) ( )内の青色文字は、略称設定であり、以下その略称を使用する。 〔概要等〕 土木建築工事の請負業を営む法人(甲社)は、自社及び外注先の従業員31名を2泊3日のマカオ旅行(本件旅行)に参加させて、その費用総額800万円を損金に算入した。これに対して課税庁は、本件旅行の甲社従業員分は、所得税法28条1項の「給与等」に当たるから甲社には源泉徴収義務があるとして、源泉所得税に係る納付告知及び不納付加算税の賦課決定処分を行った。 争点は、本件旅行の甲社従業員分の負担額が所得税法28条1項の「給与等」の支払に該当するか否かである。   〔双方の主張(要旨)〕   〔裁判所が主に着目した事実関係〕 裁判所は、判断をするために次のような事実(要旨)を認定した。   〔裁判所の判断〕 東京地裁は、上記事実の(ウ)、(エ)、(オ)の事実から、従業員が本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたということを認めた。また、上記事実の(ア)、(イ)、(ウ)、(エ)の事実から、本件旅行は専ら従業員ほかのレクリエーションのための観光を目的とする慰安旅行であり、従業員は、雇用契約に基づき甲社の指揮命令に服して提供した非独立的な労務の対価として、本件旅行に係る経済的な利益の供与を受けたものと認めた。そして、このようなことから、甲社は、所得税法28条1項の「給与等」の支払をしたものと判断した。 さらに、東京地裁は、念のために、本件旅行が所得税基本通達36-30(本件通達)にいう「役員又は使用人のレクリエーションのために社会通念上一般的に行われていると認められる」行事に当たるかを判断し、本件旅行から享受する経済的な利益の額が少額であるとは認められないとして、非課税の扱いが認められないことを判断している。   〔判断の分水嶺〕 本件は、本件旅行が甲社の業務の一環として行われたものか否かに判断の分水嶺がある。 社員旅行に関しては、慰安旅行が社会通念上一般的に行われるようなものであって一定の条件を満たす場合には、少額不追求の趣旨から課税しないという扱いはあるが(本件通達参照)、この裁判における甲社の主張はそこではなく、本件旅行が業務に資するものであること、つまり業務上の海外渡航であったことを示唆する点にある。これに対して東京地裁は、事実関係を踏まえて本件旅行は慰安旅行であって、その経済的利益は、「給与等」に当たると結論づけた。   〔本判決が示唆するもの〕 甲社は、不服申立段階では、本件通達の該当性についても主張していたようであるが、裁判では主張していなかった。主張の経緯や経理処理内容(上記事実関係の(オ))をみると、もともと甲社は、本件通達を意識した少額不追求による非課税を念頭においており、事業上の経費としての損金算入(参照:海外渡航費の取扱いについて(法令解釈通達))は考えていなかったと思われる。福利厚生費としての損金算入(本件通達)から事業上の経費としての損金算入へと、あえて主張を変更したのは、本件通達に該当するのは難しいと判断したからであろうか。 主張の変更は自由であるが、東京地裁は、上記((ア)から(オ))の事実以外に、甲社の異議申立書の記載、異議調査における代表者の供述及び審査請求書の記載に着目し、その当時、甲社が「本件旅行の目的が強固な指揮命令系統を更に強化することにあった」という主張をしていなかったこと、さらに、代表者が異議調査段階で「慰安と親睦のための旅行である」と供述したという事実に着目して甲社の主張を排斥する材料としている。争訟になれば、主張の変遷自体が判断の材料になり得る点は押さえておきたい。 なお、「判決速報」では、「本件通達の金額面についての一定の基準を示した事案として実務の参考となる」として紹介されている。本件では1人当たり24万1,300円という額が少額には当たらないことを裁判所は明言している。 その他、国税庁タックスアンサーNo.2603では、従業員負担額7万円及び10万円の事例については、少額不追求の趣旨を満たすと述べている。金額だけでなく、その他の要件も確認する必要はあるが、具体的金額が示されたという点では実務上の1つの指針となろう。 (了)
#151(掲載号)
#佐藤 善恵
2016/01/07
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