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法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例146(法人税)】 「換算が認められない債務免除を行わない長期貸付金まで換算換えをして税額計算を行っていたため、税務調査を受け、為替差損の誤計上を指摘され、修正税額が発生してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例146(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆外貨建取引の換算(法法61の8①) 内国法人が外貨建取引(外国通貨で支払が行われる資産の販売及び購入、役務の提供、金銭の貸付け及び借入れ、剰余金の配当その他の取引をいう。以下同じ)を行った場合には、外貨建取引の金額の円換算額(外国通貨で表示された金額を本邦通貨表示の金額に換算した金額をいう。以下同じ)は、外貨建取引を行った時における外国為替の売買相場により換算した金額とする。 ◆外貨建資産等の期末換算差益又は期末換算差損の益金又は損金算入等(法法61の9①) 内国法人が事業年度終了の時において次に掲げる資産及び負債(以下「外貨建資産等」という)を有する場合には、その時における外貨建資産等の金額の円換算額は、外貨建資産等の区分に応じ以下に定める方法により換算した金額とする。       (了)
#620(掲載号)
#齋藤 和助
2025/05/29
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

学会(学術団体)の税務Q&A 【第17回】「オンライン展示会(法人税)」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第17回】 「オンライン展示会(法人税)」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 学会がオンラインで学術集会を開催する際、実開催の場合と同様、企業の展示会(オンライン展示会)を行い、展示収入を受け取っている例はよくある。実開催の学術集会における展示収入は、原則として席貸業(法令5①十四)に該当すると考えられるが、他方で、オンラインで学術集会を開催する場合におけるオンライン展示会の展示収入が、法人税法上の収益事業に該当するか否かについては議論がある。   1 34事業の判定 席貸業とは、一定の場所を有償で貸す事業である。そのため、一定の場所が存在しないオンラインにおける展示収入は、席貸業には該当しないものと考える。 法人税法施行令に掲げられている34事業の収益事業の中には、通信業が含まれているが、通信業とは、「他人の通信を媒介若しくは介助し、又は通信設備を他人の通信の用に供する事業及び多数の者によって直接受信される通信の送信を行う事業」(法基通15-1-24)であるため、通信の手段を使っている事業自体(オンライン展示会)が、通信業に該当することはないと考える。 オンライン展示会とは、展示企業に対して、ネット空間上の展示会場を利用させるサービスであると考える。税務大学校論叢第89号「デジタルコンテンツの提供事業等と収益事業の判定について」(平成29年6月)によれば、サービス提供事業者がクラウド上に用意したサーバー等に保存されるデジタルコンテンツを様々な電子端末等において利用できるようにするサービスについては、「事務処理の委託を受ける業」として請負業に該当するという考え方が示されている。 そのため、オンライン展示会の展示収入については、ネット空間上の展示会場を利用させるという業務を請け負ったものとして、請負業に該当するものと考える。   2 公益法人の学会が公益目的事業の一環として実施する場合 上記の通り、オンライン展示会については、原則として請負業に該当すると考えられるが、公益法人の学会が公益目的事業の一環としてオンライン展示会を実施する場合は、法人税法上の収益事業から除外される(法令5②一)。   (了)
#620(掲載号)
#岡部 正義
2025/05/29
固定資産税・都市計画税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第49回】「特別償却の対象となる機械及び装置の範囲を拡大解釈して特別償却を行うことは認められないとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第49回】 「特別償却の対象となる機械及び装置の範囲を拡大解釈して特別償却を行うことは認められないとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷減価償却資産としての「機械及び装置」 法人税においては、減価償却資産についてその種類を定めている(法法2二十三、法令13)。減価償却費として損金算入できるのは、法人が償却費として損金経理をした金額のうち、償却限度額に達するまでの金額である(法令31)。この償却限度額の計算は、その資産について定められた償却方法に基づく耐用年数によって行うが、この耐用年数は耐用年数省令で定められている。 この減価償却資産の「種類の名称」は条文で定められているものの、どのような物であるかは条文で具体的に定義されていない。 例えば、国語辞典である『大辞林第三版』によると、「機械」「装置」は以下の通りである。 (※1) 松村明編『大辞林第三版』(2006、三省堂)586頁 (※2) 松村編 前掲 1455頁。 しかし、これらの定義に基づいて、資産の種類を「機械及び装置」と特定するのは困難な場合が多い。 「機械及び装置」か「器具備品」かで争われた裁判において、「機械及び装置」といえるためには標準設備(モデルプラント)を形成していなければならず、設置箇所が同一かどうかにかかわらず、資産の集合体が集団的に生産手段やサービスを行っていなければならないとされた(東京高等裁判所平成21年7月1日判決(TAINSコード:Z259-11237))。 このように考えると、「機械及び装置」は、1つの資産だけで、生産手段等として事業の用に供されているのではなく、集合体として機能することで事業の用に供されるという性質があると考えられる。 租税特別措置法における特別償却の適用が、一定の「機械及び装置」に限定されている場合には、集合体として機能する資産を正確に他の資産と区分して、特別償却の計算を行う必要がある。納税者は、より広い範囲の資産を「機械及び装置」として特別償却の対象に含めたいと考えがちである。 今回は、特別償却の対象となる「機械及び装置」の範囲について、納税者による拡大解釈が争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か(争点) 水産食料品製造業を営む納税者が、取得した減価償却資産について、「機械及び装置」に適用される租税特別措置法の規定による特別償却を適用できるものとして申告した。これに対し、課税庁は、当該資産を、「建物」、「建物附属設備」等と区分して、それらの部分については特別償却の適用が認められないとして更正処分を行った。納税者は、これらの資産は一体として「機械及び装置」とみるべきであると主張し、審査請求を行った。 争点は、当該資産を「建物」、「建物附属設備」「機械及び装置」に区分して償却限度額を計算すべきか。それとも、資産全体を一体とみて、特別償却の対象となる租税特別措置法42条の6第1項第1号に規定する「機械及び装置」として償却限度額を計算すべきか、という点にあった。   ▷裁決内容 審査請求はいずれも棄却された。 裁決では、資産のうちクーリングシステム、オゾンシステムは「機械及び装置」のうち「食料品製造業用設備」に該当すると認定されたが、それ以外の資産については、以下のように判断された。 納税者は、「魚体の乾燥」という共通目的で使用されることを根拠に、当該資産全体を一体の「機械及び装置」として特別償却の対象に含めるべきと主張したが、裁決では、減価償却資産とその耐用年数については法人税法施行令13条により資産の種類を判定する必要があるとして、本件各資産が相互に関連しあうことによって、魚体の乾燥という目的を達しているからといって、直ちに、これらを一体とみて措置法42条の6第1項第1号に規定する「機械及び装置」に該当する旨の主張は採用できないとされた。 *   *   * 今回の事例は、「特別償却を多く取りたい」という納税者の意図のもと、「機械及び装置」の範囲を拡大解釈しようとした点が根底にあると考えられる。 本裁決では、「建物」については、資産の機能等から検討して「機械及び装置」ではないと判断されている。特に「建物附属設備」については、裁決上では検討過程は示されていないものの、資産区分の正確な判定が減価償却を行う上で重要であるとうかがえる。 今後も本連載では、資産区分で争われた事案を取り上げ、「どこがキーポイントであったのか」に焦点を当てて検討していきたい。 (了)
#620(掲載号)
#菅野 真美
2025/05/29
税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第68回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第68回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   (3) 暗号資産(トークン)の含み損益の課税イベント 本稿では、DeFi取引に関連する暗号資産の移転がその含み損益に係る課税イベントであるかを検討する。 その際、前回示した実現の意義に関する様々な見解と所得税法36条等の規定内容を踏まえて、次の①及び②のとおり、「譲渡及びこれに基因する収入」に着目した理解を前提として考察を進める。 以下、説明を補足しよう。 前回確認した実現の意義に関する見解のうち、いまだ実現に至らない未実現の状態の第二類型(贈与や相続による財産の移転などで資産を手放すが、その代わりに取得した物がないケース)との関連では、暗号資産を手放した、あるいは暗号資産に係る権利の保有者が変わったからといって(上記①➊)、直ちにその暗号資産に係る含み損益の課税イベントとみなされるわけではなく、所得税法36条の収入といえるものがなければならない(上記①➋)。 この場合の収入は、金銭のみならず、金銭以外の物又は権利その他経済的な利益でもよい(所法36①)。これらをもって収入する場合の収入すべき金額は、「当該物若しくは権利を取得し、又は当該利益を享受する時における価額」となる(所法36②)。 これらの規定により、一定の場合を除き(※1)、資産の交換(基本的には、「当事者が互いに金銭の所有権以外の財産権を移転すること」(民法586))、本稿との関係では暗号資産同士の交換の場合も課税イベントになることを理解しておく必要がある。 (※1) 一定の固定資産の交換の場合については、実質的ないし経済的な観点からは同一の資産を継続して保有していること、あるいは金銭の流入がないため納税資金の問題があることを考慮して、含み損益を「認識」しない(譲渡がなかったものとみなす)などの規定も用意されている(所法58等)。 他方、何らかの収入が認められるからといって、直ちにその暗号資産に係る含み損益の課税イベントとみなされるわけではない。例えば、含み損益のある暗号資産をステーキング(暗号資産を預けて、取引の妥当性を検証するプロセスに参加し、報酬を得ること)のために移転して報酬を得たとしても、その報酬に係る収入は、通常、暗号資産の値上がり部分に係るものではない。 暗号資産の移転に伴い、その値上がり部分に対する所得が課税の対象となるには、原則として、暗号資産の保有者(処分権者)がこれを譲渡し(上記①➊)、その譲渡したことに対する対価として(その譲渡に基因として)、その者に収入があることを要する(上記①➋)。 このような理解は、一般に、含み損益は処分権者に帰属し、処分権の移転の対価のうちに具体化されて実現すること(最判昭和43年10月31日集民92号797頁)を前提としている。 資産の値上がり益が所有権者に帰属すること及び売買交換等の場合にその値上がり益は対価のうちに具体化されることについて、基本的には、所得税法33条の譲渡所得の基因となる資産(キャピタルゲイン・ロスを生み出す資産)のみならず、棚卸資産等の資産に対しても当てはまるであろう。 所有権者は、特段の事情のない限り、その所有する資産を自由に処分する権利を有し(民法206)、対価を得ることができる。この場合の処分とは、財産権の移転その他財産権について変動を与えることや、財産の現状、性質等に消費、廃棄その他事実上の変更を加えることを含む広い意味を有する用語法であるが(大森政輔ほか編『法令用語辞典〔第11次改訂版〕』439頁(学陽書房2024))、本稿との関係で重要であるのは、基本的にはその資産を譲渡する権利である。 ここでいう譲渡とは、「権利、財産、法律上の地位等を、その同一性を保持させつつ、他人に移転すること」を意味すると解されている(大森ほか編・前掲書415頁)。 もちろん、暗号資産について処分権をどのように観念できるかは私法上の議論に委ねられる。 また、所得税法の文脈でいうところの譲渡(所法33、48の2、所令119の6②二等)も基本的に上記と同じ意味に理解することができるとしても、両者が完全に同一の概念であるかという問題は残されている。 ところで、無体物は所有権の対象にならないという理解を前提とするならば(※2)、本稿で考察の対象とする暗号資産の場合は、基本的に、これを他者に譲渡する権利(差し当たり、これを「処分権」と呼ぶが、本稿では他の処分行為との関係性には踏み込まない(※3))に着目することになろう。ただし、暗号資産を含むトークンに対する処分権の存在、内容、帰属、移転の時期、支配や(準)占有のあり方、権利が侵害された場合の救済方法等に関する私法上の議論が固まっているわけではない。 (※2) テクノロジーによって、その排他的支配ができるのであれば、暗号資産も電気などと同様に、所有権の客体と扱うことができるはずであるという見解もある。磯村保編『注釈民法(8)債権(1)』139頁 (有斐閣2022)〔北居功〕参照。 (※3) 国税庁「暗号資産等に関する税務上の取扱いについて(FAQ)」(令和6年12月最終改訂)の「3-1-8 借入れをした暗号資産の期末時価評価」の回答においても「処分権」という語が使われている。 なお、暗号資産の保有者がこれを譲渡(処分権を移転)し、これに対する対価として(このことに基因して)、その者に収入があると認められる場合を含み損益に係る課税イベントであると解するが、本連載第67回で確認した実現の意義に関する見解のうち、いまだ実現に至らない未実現の状態の第三類型(一定の譲渡担保など、資産を手放してそれと実質的に異ならない物を取得するケース)との関連では、暗号資産の処分権の移転があるとしても、含み損益を課税所得に反映すべきではない例外的なケースも想定しておかねばならない。 これは、一般的には消費貸借契約、譲渡担保、リース取引の課税上の取扱いが想起される場面であり、暗号資産の消費貸借の課税上の取扱いを考察する際に有益な視点である。   (了)
#620(掲載号)
#泉 絢也
2025/05/29
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第72回】「塩野義製薬事件-現物出資による国外への資産移転-(地判令2.3.11、高判令3.4.14)(その2)」~旧法人税法施行令4条の3第9項(平成28年度改正前)~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第72回】 「塩野義製薬事件 -現物出資による国外への資産移転- (地判令2.3.11、高判令3.4.14)(その2)」 ~旧法人税法施行令4条の3第9項(平成28年度改正前)~   滋賀大学准教授・税理士 金山 知明   (4) 東京地裁の判断 東京地裁は、大要以下のように判示してXの請求を認容し、Yによる更正処分を取り消した。 ① 本件現物出資の対象資産について ELPS法上、パートナーシップ持分とは、パートナーが、パートナーシップ契約又は同法に基づき保有する利益、資本及び議決その他の権利、恩恵又は義務に関する持分をいうとされ、同法にはLPの持分を譲渡した場合の権利義務の承継に関する規定や、持分を譲渡抵当に入れることができる旨の規定がある。また他のパートナーの同意があれば、GP及びLPの持分につき売却、質入れ、担保権の設定その他の移転が可能であるとされる。これらのことから、CILPのパートナーシップ持分は譲渡可能な資産として位置付けられている。 本件現物出資契約においては、「本件リミテッド・パートナーシップ持分」が現物出資の対象資産とされていたのであるから、本件現物出資の対象資産はCILP持分であったと解するのが相当である。 もっとも、CILPは、わが国の組合に類似した事業体であり、ELPS法及び本件パートナーシップ契約においても、CILPの事業用財産の共有持分と切り離された契約上の地位のみが他に移転することは想定されていない。本件現物出資の対象資産となったCILP持分は、その内実は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合されたものと捉えられなければならない。 ② 本件現物出資の対象資産の経常的な管理が行われていた事業所について 法人税基本通達1-4-12が示す判断基準は、まず、その資産の経常的な管理がどの事業所において行われていたかを判定し、その判定に当たっては当該資産が当該事業所の帳簿に記帳されていたか否かを重要な考慮要素とし、次いで、当該資産の経常的な管理が行われていたと認められる事業所が国内にある事業所に当たるか否かを判定し、それが肯定された場合に「国内にある事業所に属する資産」に該当すると認める旨をいう趣旨に理解することが可能である。 本件CILP持分は、CILPの事業用財産の共有持分とLPとしての契約上の地位とが不可分に結合された資産であるから、これらが全て結合された1個の資産とみてその管理が行われていた事業所を特定するのが相当である。 パートナーがCILPの事業に参加する目的は、その出資に由来する事業用財産の運用により利益を得ることであり、CILP持分の価値の源泉はCILPの事業用財産の共有持分にあるということができる。 CILPの事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位との関係は、前者を主とする主物と従たる権利義務との関係に類似する関係にあるものと捉えることが可能である。したがって、本件CILP持分を1個の資産とみた場合のその経常的な管理が行われていた事業所は、CILPの事業用財産、中でもその主要なものの経常的な管理が行われていた事業所とみるのが相当である。 CILPの事業用財産は、①現金、②知的財産のライセンス、③治験データ等の無形資産、④USOpCoへの出資等で構成されている。そして、このうち、現金は、米国で開設されたCILP又はUSOpCo名義の預金口座に入金され、また、CILPの事業に係る記帳、会計処理、税務申告等の経理業務は、GSK/ViiV側が有する米国の事業所において行われ、知的財産のライセンスも、CILP及びUSOpCoの連結財務諸表に記録されていた。 さらに、治験データは、GSK/ViiV側に保管され、Xにはそのデータベースへのアクセス権が付与されていなかった。そうすると、CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理は、わが国以外の地域に有する事業所において行われていたということができる。 GSK/ViiVの米国等における事業所は、CILPの事業所に当たり、それはXにとってもCILPの事業活動を行うXの事業所であったということができる。CILPの事業用財産のうち主要なものの経常的な管理が行われていた事業所は、前記米国等に所在していたから、Xの国内にある事業所においてそれら資産の管理が行われていたとはいえない。 (5) 控訴審におけるYの主張 Yは地裁判決を受けて、控訴審について要旨次のように追加主張を行った。 本件CILP持分は、XがELPS法により保有し又は服する利益、資本及び議決権その他の権利、恩恵又は義務といった各種権利義務が一体となった法的地位であり、そのような法的地位を管理していた事業所がどこかをみなければならない。 また、CILP持分についてはX本社で意思決定が行われていたこと、CILPの事業に拠出金を支払うのも、利益の配分を受けるのも、帳簿に記載するのもX本社であること、そしてCILP持分の保有等によるリスクを負うのはX本社であったことからも、CILP持分は「国内にある事業所に属する資産」であった。 原判決がなぜ、CILPの財産のうち現金、知的財産のライセンス及び治験データを「主要なもの」というのか不明であり、それら以外の営業権やノウハウなどの無形資産の管理は、X本社において経常的に管理されていたといえる。 さらに、LPはCILPの事業に関して限られた権限を有するのみで、Xが他の外国のパートナーの事業所において事業活動を行うとはみられない。 (6) 東京高裁の判断 控訴審におけるYの追加主張について、高裁は概略として次のように判示してこれを退けている。 CILP持分の性質については、CILPがわが国民法上の組合に類似する法人格のない事業体であることから、あたかも株式会社における株式のように、事業体の事業用財産から独立して譲渡対象となる法的根拠はない。 Xはパートナーとして、CILPの財産全体について、共有持分類似の持分を保有しており、本件パートナーシップ契約における契約上の地位は事業用財産と不可分に結合されたものである。 Xが有価証券台帳にCILP持分を投資有価証券として記帳していることについて、その記帳はCILPへの出資があったことやその持分を現物出資した結果を経理的に記録したに過ぎず、CILP持分の管理を行っていたとはいえない。 新薬開発という事業内容に照らせば、知的財産のライセンス、治験データ等は主要な財産である。仮にそうでないとしても、CILPの主要な事業用財産が国内事業所において経常的に管理されていた証拠はない。 営業権やノウハウなどの無形資産について、CILPの事業を離れてXの事業所において経常的に管理されていたと解することは困難である。 原判決は、CILPの事業用財産の管理をCILPの事業活動の一部と捉え、その共有持分を有するXにとっても、CILPの事業所をもってCILPの事業活動の管理を行う事業所であるとしたのであり、GSK/ViiV側の米国等の事業所において、X自らが実際に事業活動を行っているとの判示をしたのではない。   4 検討 (1) クロスボーダー現物出資と租税回避 法人税法2条12の14が外国法人に対する国内資産の現物出資を除外しているのは、国内にある資産を海外に移転させることによる租税回避を防止するためであり、平成13年までは旧法人税法51条《特定の現物出資により取得した有価証券の圧縮記帳》に定められていたものを引き継いだものである(※14)。 (※14) 武田・前掲(※7)623の14頁。 旧法人税法51条では、平成10年に至るまで国内資産の外国法人への現物出資を特例から除外する規定を置いていなかったが、このような規制を行うきっかけとなったのは、オウブンシャホールディング事件(※15)のように、現物出資を利用して含み益のある財産を持ち出し、それを外国で実現させることで日本での課税を免れる租税回避スキームが顕在化したことであるといわれる(※16)。 (※15) 最高裁平成18年1月24日第三小法廷判決(訟月53巻10号2946頁)。 (※16) 小林淳子「国外取引に対する租税法の適用と外国法人の分割に関する諸問題」税大論叢45号(2004年)350頁。品川芳宣「パートナーシップ持分を外国法人に現物出資した場合の適格現物出資該当性-塩野義製薬事件-」税研214号(2020年)92頁。「平成10年版改正税法のすべて」大蔵財務協会(1998年)310頁では、この改正の理由について、内国法人がその有する資産を現物出資して海外子会社を設立する場合、これに圧縮記帳の特例制度を適用すると、現物出資した資産の含み益に対する課税が行われなくなるといった問題があることとしている。 本件における一連の取引の背景に、Xの租税回避目的がどの程度あったかは定かでないが、もしもXがCILP持分を外国子会社に移さないままにCILPに実際の利益が生じた場合、それはパススルーされてXのわが国法人税法上の課税所得となるはずであるし、またCILP持分を第三者に譲渡すれば、そのキャピタルゲインも日本で課税されていたといえるため、税務戦略としてそれを回避する目的が存在したと推測することはできる。このように日本で課税される予定であった所得ないしキャピタルゲインが無税で外国に転出する結果を想像すれば、その課税権を放棄する理由に乏しいという面もある(※17)。 (※17) 品川・前掲(※16)92頁は、このような結果を招く本件判決に対する疑問を呈する。ただし、地裁判決は、本件JVの組成については、新薬の開発に当たりXの弱みを克服するため欧米の製薬会社と連携する必要性があったこと、本件現物出資については、子会社を通じてViiVの株式を保有することによる収益性の向上という目的があったことを認定しており、正当な事業目的の存在について指摘している。 とはいえ、仮に租税回避の意図があったとしても、それを否認するには法的根拠が必要であることはいうまでもない。法が適格性を否定しているのは外国法人に国内資産を現物出資するケースであることから、他の適格要件をすべて満たす本件において、適格現物出資に該当しない(Yの主張)とするためには、CILP持分が国内資産であると解釈する以外にないことになる。CILP持分の所在が最大の争点となったのはこのためである。 (2) CILP持分の帰属事業所 本件現物出資の対象資産が何かという問題について、XはCILPが所有する事業用財産であると主張したのに対し、裁判所はYの主張を採用して、CILPの持分そのものであるとしている。これは、現物出資契約上、現物出資資産が「リミテッド・パートナー持分」とされており、かつ、ELPS法上もELPSの持分を譲渡可能な資産と定義していることから、自然な判断であると考える。 しかし裁判所は、この持分の性質について、CILPの事業用財産に対する共有持分を主物として捉え、これに従物たる契約上の地位が結合した一体的資産とみた。このようにCILP持分の本質を、それが表象するCILPの事業用財産と捉えるのは、CILP自体が透明事業体であることから導かれる論理である。 一方で、XのCILP持分が、Xの帳簿に記帳されていることについてどうみるかという問題がある。まず最初にいえることとして、XがCILP設立時に出資した金銭について、それが出資の当事者としてのXの帳簿に記帳されることは当然であろう。重要な論点は、その記帳された投資有価証券に、国内にある事業所に属する資産といえる実態があるかどうかである。 この点につき法人税基本通達1-4-12は、ある資産が国内事業所の帳簿に記帳されていればこれを国内資産とし、国外事業所の帳簿に記帳されている場合のみ、実質的な管理場所を問うような書きぶりとなっている。しかし、「国内事業所の帳簿に記帳されている資産」のすべてが、法人税法施行令4条の3第9項にいう「国内にある事業所に属する資産」にあたると捉えるのは無理があり(※18)、その記帳があるという理由のみでXのCILP持分が国内財産であると認定するのは相当ではない(※19)。 (※18) 谷口勝司『法人税基本通達逐条解説(2訂版)』税務研究会出版局(2002年)36頁は、この通達ただし書きの趣旨について、国内事業所に記帳されている資産をいったん国外事業所に移記したうえで国外子会社に現物出資をするような場合においては、その資産が経常的に管理されていた場所をもって判断する趣旨であると述べるが、そうであれば、国内事業所に記帳されている資産についても、実際の管理場所を考慮すると捉えなければ均衡を欠くと考え得る。 (※19) 林幸一「組合財産の所在-塩野義製薬事件-」税理65巻8号(2022年)240頁は、事業所の帳簿に記帳している事実は、管理場所についての目安に過ぎないとする。岡村・前掲(※5)48頁では、このような記帳アプローチを採れば、外国の非法人組織を法人化するとすべて非適格となる不合理を指摘する。 裁判所はそのことを認識したうえで、CILP持分について、それを実際に管理していた事業所がどこであるかを分析している。判決においては、新薬の開発プロセスについて、①新規化合物の合成と取捨選択、②動物や培養細胞を用いた非臨床試験、③人に投与して有効性及び安全性を更に検証する治験(臨床試験)といった手順に通常でも6年から15年を要すると述べるなど、かなり詳細な認定を行っている。そのうえで、これらのプロセスがXの国内事業所でなく、GSK/ViiV側の米国等の事業所において管理されていたことを指摘した。 その指摘について、たしかにCILPの事業を管理運営する米国等の事業所があったのであれば、Xは透明事業体たるCILPを通じて、その事業所を有していたという解釈は可能であると思われる(※20)。このような透明事業体について、LPがLPSの事業に直接関与していない場合においても、そのLPSの恒久的施設を、当該LPの恒久的施設とみる有力な考え方があるからである(※21)。 (※20) 仮に日本において透明事業体が行う事業に、非居住者がパートナーとして参加する場合、その透明事業体が日本に事業所を有していれば、その事業所は、その非居住者にとっても恒久的施設となり得る(所得税基本通達164-4)。 (※21) 高橋祐介「国外パートナーシップ投資と事業税」法政論集231号(2009年)54頁では、OECDモデル租税条約のコメンタリーにおいてもこのような解釈が示されていることを挙げている(現行のOECDモデル租税条約2017では5条に関するコメンタリーpara.56, p131)。 (3) LPの地位に基づく検討 しかし、最後に残る疑問は、CILPの事業用財産の帰属に関する判示が、ケイマン法におけるXのLPたる地位を踏まえても、正しいといえるかどうかである。Xの立場が、有限責任しか負わずその経営に従事しない単なる出資者又は受益者に近いLPであったことを重視すれば、仮に米国等にCILPの事業所が存在し、それをXの事業所ないし恒久的施設とみなす解釈が存在するとしても、そこでXのCILP持分が管理され、帰属していたとまでいえるだろうか。 裁判所は、CILPがわが国の任意組合に類似する組織であることから、その事業用財産はXらパートナーの共有に属するとの見解に基づいてCILP持分に関する内外判定をしているが、ELPS法7条(8)によれば、ELPSに帰属する資産は共有でなく、委託により(upon trust)GPのみが保有するものであるとされる。この点は、組合財産を総組合員の共有と規定するわが国の民法668条と大きく異なる。そうすると、XのようなLPは、損益の分配や資本の払戻しを受ける権利はあるにしても、CILPの資産の共有持分を直接有するわけではないと解釈できる余地もあるだろう。 この点に関し、別件の名古屋高裁平成19年3月8日判決(税資257-38順号10647)は、ケイマン法における「委託によりGPが保有(1991年ELPS法)」との規定につき、「受託して管理する」という意味に過ぎないとし、LPの共有持分自体は確保されていると判示している。しかし、この事件は究極的にはLPSからの損益分配の性質と帰属が問われたものであり、LPS財産自体が誰の帰属と管理に服するかを争点とするものではなかった。 たしかにCILPはパススルー課税が適用される透明事業体であるため、毎年度の損益については各パートナーに直接帰属する所得又は損失として配分されることに相違ない。しかし、そのような損益配分の考え方を、事業用財産の帰属や管理場所の判定にまで採用するとすれば、それは妥当であろうか。ここでも、XがLPであることを十分に考慮する必要があると考える。 Xは東京地裁における主張のなかで、X自身がCILPの資産を管理していなかったことの根拠として、CILPの治験データベースへのアクセス権すら与えられていなかったことを挙げている。判決はこのことも決め手の1つとして、CILPの資産が国内事業所に帰属しないと認定しているが、Xがアクセス権すら有していない治験データベースを、Xが共有しているとみるところに、論理的難点は残ると考えられる。 そうした点を踏まえると、Xが所有するCILPの持分はCILPの所有に属する事業用資産に直接支配を及ぼすわけではなく、CILPが稼得する所得について、その持分割合に応じて配分を受ける権利を表象するに過ぎないともいえる。そうであれば、その権利たるCILP持分は有価証券に近い性質となるため(※22)、それを所有するXの居住地、つまり日本の事業所に属するという解釈も説得力を帯びる。しかし、本件については、Yが上告をしなかったため高裁判決に止まっている。 (※22) 参考になる国内の法規定として、金融商品取引法2条2項5号及び同施行令1条の3の2では、任意組合の業務執行がすべての出資者の同意を得て行われること、すべての出資者が組合事業に常時従事することという条件を満たさない場合、その任意組合の出資持分は「有価証券」とみなす旨規定する。   5 おわりに 本件において両裁判所が、海外のパートナーシップ持分の所在を判定するにあたり、その事業用財産と価値創造過程との関係から、パートナーシップ自体の事業所に属するものとの判断を示したことは重要であったといえるだろう(※23)。また、パートナーシップ持分について、事業用財産の共有持分とパートナーとしての契約上の地位が不可分に結合したものであることを明確にした点でも先例的価値をもつと考えられる(※24)。 (※23) 宮本十至子「適格現物出資と国内事業所の判定」TKCローライブラリー新・判例解説Watch租税法No.159(2020年)4頁は、事業用財産とパートナーシップ所得の源泉を結び付けて事業所の所在を明らかにした地裁判決の意義を認めつつ、事業用資産が複数の事業所で管理され、また不動産が含まれる場合などを想定して判決の射程と普遍性に問題が残ることを指摘している。 (※24) 岡村・前掲(※5)46頁。 ただ上述のように、ケイマンのELPS法に関しては、その資産(property)をGPが保有するものとする規定がある点で、他国のパートナーシップ(例えば、米国デラウェア州におけるパートナーシップ(※25))とは異なる特徴がある。これについて、その保有とは、GPがパートナーシップに代わって資産を受託者として管理するという意味(※26)であるとしても、少なくともわが国民法上の任意組合のように、その財産を出資者全員による共有とする規定とは相違するといえる。 (※25) 米国デラウェア州のパートナーシップ法(Delaware Revised Uniform Partnership Act)ではパートナーシップは法的に独立した主体(separate legal entity)とされ(15-201条)、パートナーシップの資産はパートナーシップ自体が所有するとされる(15-203条)。 (※26) 名古屋高裁平成19年3月8日判決・前掲(※4)。 特に、Xのように経営権がなく、しかもCILPの事業用財産を直接支配するわけではないケイマン法上のLPに対して、わが国民法上の任意組合における財産共有と同様の解釈により、事業用財産の共有持分を認めることが相当か否か、さらなる検証が必要であると思われる。 なお、本件で問題となった適格現物出資対象資産については、令和6年度に改正が行われ、国内にある事業所に属するかどうかでなく、「国内事業所を通じて行う事業に係る資産」であるか否かにより内外判定がなされることとなった(法人税法2条12号の14)。これに伴い、記帳状況による判断を先行させる法人税基本通達1-4-12は廃止された。より実質的な判断に移行するものであろうが、本件のように外国法によるLPSの組成にLPとして関わる場合、そのLPSの持分と資産についての内外判定にはなお論点が残ると考える。 (了)
#620(掲載号)
#金山 知明
2025/05/29
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 開示関係

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第11回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第11回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】(リース取引関係)から(デリバティブ関係)までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2025年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 リース取引関係 リース取引に関して、ファイナンス・リース、オペレーティング・リース、転リースの注記が求められている。なお、いずれも財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 (1) ファイナンス・リース取引 (2) オペレーティング・リース取引 (3) 転リース 【事例:積水ハウス(株) 2025年1月期の有価証券報告書】   2 金融商品関係 金融商品に関して、時価情報等の注記が求められている。財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 【事例:岡野バルブ製造(株) 2024年11月期の有価証券報告書】   3 有価証券関係 有価証券に関して、時価、売却、保有目的変更、減損の注記が求められている。財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 【事例:(株)マネーフォワード 2024年11月期の有価証券報告書】 【事例:(株)エイチ・アイ・エス 2024年10月期の有価証券報告書】   4 デリバティブ関係 デリバティブに関して、時価等の注記が求められている。財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、個別財務諸表においては注記不要である。 【事例:古野電気(株) 2025年2月期の有価証券報告書】 (了)
#620(掲載号)
#西田 友洋
2025/05/29
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第4回】「工場閉鎖に伴って人員整理が必要となった場合の対応のポイント」

〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第4回】 〈製造業〉 〔Q4〕 「工場閉鎖に伴って人員整理が必要となった場合の対応のポイント」   弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 中野 博和   【Q】 当社では、不採算製品の製造販売中止に伴い、一部の工場を閉鎖することになりました。整理解雇など、人員整理が必要となりますが、どのような点に注意すればよいでしょうか。 【A】 整理解雇の有効性は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性といった要素を総合的に考慮して判断されますので、各要素を十分に満たすように対応する必要があります。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 整理解雇とは 整理解雇とは、企業が経営上必要とされる人員削減のために行う解雇をいう(菅野和夫・山川隆一『労働法〔第13版〕』(弘文堂、2024年)758頁)。 整理解雇が法的に有効であるか否かは、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、③人選の合理性、④手続の相当性などを総合的に考慮して判断される(CSFBセキュリティーズ・ジャパン・リミテッド東京高判平成18年12月26日労判931号30頁など)。   2 人員削減の必要性 人員削減の必要性については、かつては以下のように見解の対立があった。 現在では、人員削減の必要性については、基本的に経営陣の判断が尊重される傾向にある。たとえば、新規採用等の整理解雇と矛盾する行動が認められる場合(みくに工業事件・長野地諏訪支判平成23年9月29日労判1038号5頁など)などを除き、人員削減の必要性自体は認められることが多いといえる。 ただし、上記のとおり、整理解雇の有効性は、①から④までの事情等を総合的に考慮して判断されるため、人員削減の必要性が低ければ、解雇回避努力は最大限の措置を講じることが求められることになる。   3 解雇回避努力 解雇回避努力の具体的な内容としては、以下のような措置が挙げられる。 必ずしもこれら全てを実施する必要はないが、整理解雇が労働者に帰責性がない解雇である以上、可能な限り、実施することが必要となる。 特に不採算部門の閉鎖といった場合では、配転命令の検討は実質不可欠といえる。 ただし、配転にあたっては、職種や勤務地を限定する合意をしている労働者との関係が問題となる。 職種や勤務地を限定する合意をしている労働者に対しては、当該合意を超える範囲での配転を使用者が一方的に実施することはできない。 それでも、当該労働者が配転に同意すれば、当該労働者を整理解雇することなく、雇用を維持することができるので、当該労働者の能力や他部署での受け入れの可否等の事情を勘案し、配転が現実的に不可能であるといえない限り、少なくとも配転の打診を行うことは求められる(学校法人奈良学園事件・奈良地判令和2年7月21日労判1231号56頁など参照)。   4 人選の合理性 整理解雇を行う際は、合理的な選定基準を設け、それを公正に適用しなければならない。 基準の内容については、基本的に使用者の裁量に委ねられるが、一般的には以下のような項目が考慮される。 もっとも、全く基準を設定することなく整理解雇を実施した場合(タチカワ事件・津地決昭和46年12月21日労判150号67頁)や、「適格性の有無」、「将来の活用可能性」といった抽象的で曖昧な基準を設定した場合(労働大学(本訴)事件・東京地判平成14年12月17日労判846号49頁、ジャパンエナジー事件・東京地決平成15年7月10日労判862号66頁)などは、人選の合理性が認められないので、注意が必要である。   5 手続の相当性 まず、労働組合等との間で解雇に先立って組合等との協議を義務付けるような労働協約を締結している場合には、これに基づき、整理解雇に先立って組合等との間で協議を行わなければ、整理解雇は無効となる。 また、形式的には協議を行ったとしても、使用者が、説明資料を提示せず、抽象的な説明をするのみとなっているような場合にも、整理解雇は無効となり得る。このことは、解雇に先立って組合等との協議を義務付けるような労働協約がない場合でも同様である。 加えて、労働組合等との間で解雇に先立って組合等との協議を義務付けるような労働協約を締結していない場合であっても、使用者には、労働組合または労働者に対して以下の事項を説明し、誠意をもって協議する信義則上の義務が課される。 なお、整理解雇の対象者が、協議を行う労働組合の組合員であれば問題ないが、当該労働組合の組合員ではない労働者も整理解雇の対象者となっている場合、当該労働者に対して直接、協議ないし説明を行わない場合には、手続の相当性が認められないため、注意が必要である(赤阪鉄工所事件・静岡地判昭和57年7月16日労判392号25頁参照)。 (了)
#620(掲載号)
#中野 博和
2025/05/29
労務・法務・経営 経営

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例105】株式会社フジ・メディア・ホールディングス「第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」(2025.3.31)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例105】 株式会社フジ・メディア・ホールディングス 「第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」 (2025.3.31)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社フジ・メディア・ホールディングス(以下「フジ・メディア・ホールディングス」という)が2025年3月31日に開示した「第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」である。 同社は2025年1月23日に第三者委員会の設置を決定し、「第三者委員会の設置について」を開示している(その後、委員の交代があり、2025年1月23日に「第三者委員会の設置について」を開示)。その「第三者委員会の設置目的」の記載は次のとおりである。 今回の開示は、この第三者委員会の調査報告書を受領したというものである。   2 読まれたくないのか? この「第三者委員会の調査報告書受領に関するお知らせ」は、開示資料と添付の調査報告書を合わせると実に394頁にもなる。一般の方は読むのを躊躇するのではないだろうか。第三者委員会の調査報告書は100頁ほどのものが多いが、内容が内容だけに、それでも気軽に読めるものではない。さすがにこの分量になると、なかなか読む気にはならないかもしれない。 そのため、第三者委員会は調査報告書の「要約版」を用意している。その要約版は51頁であり、それならば、多くの方に読んでもらえそうな分量だといえる。しかし、その要約版がどこにあるのかが非常にわかりにくい。調査報告書の目次を見ても、要約版については書かれていない。実は調査報告書は273頁で終わり、その後に要約版が添付されている。その存在に気付く方は少ないだろう。 最初の1頁だけの開示資料には、一応「第三者委員会の調査結果につきましては、添付の『調査報告書』(公表版・要約版)をご覧ください」と書かれており、それに気付けば要約版を探すだろうが、それに気付かず、2頁以降の調査報告書に目をやる方がほとんどではないだろうか。 もしかすると、フジ・メディア・ホールディングスはそれを狙ったのかもしれない。調査報告書には、同社にとって読んでほしくない内容が書かれている。意図的に要約版を気付きにくくしたのだとすれば、悪質である。しかし、そうでないとしても、このようにわかりにくい開示を行うのは、情報を伝えることを事業とする会社としていかがなものだろうか。 なお、調査報告書に訂正が必要な箇所があったため、同社は2025年4月30日に「『第三者委員会調査報告書受領に関するお知らせ』の一部訂正について」を開示している(第三者委員会は短期間であれだけの調査報告書をまとめたのだから、一部訂正が生じてもやむを得ないだろう)。その際は「調査報告書(公表版)」と「調査報告書(要約版)」を別々に開示している。要約版の開示方法について、同社に批判の声が届いたのかもしれない。   3 第三者委員会をどう考えているか? フジ・メディア・ホールディングスは、調査報告書を受領する3日前の2025年3月27日に「代表取締役の異動並びに当社及びフジテレビの役員体制の変更について」を開示し、経営体制を見直すとしている。その「経営体制の見直しの考え方」の記載は次のとおりである(一部省略)。 こうした考え方に基づく経営体制の見直しをなぜ第三者委員会の調査報告書を受領する前に行うのだろうか。第三者委員会による原因分析と再発防止に向けた提言を踏まえた上で実施すべきではないだろうか。 また、同社は、2025年3月31日、今回の開示と同時に「人権・コンプライアンスに関する対応の強化策について」を開示している。「当社グループにおける人権・コンプライアンスに関する対応の強化の方針をとりまとめましたので、今後、速やかに対応策を実施してまいります」と記載されているが、受領した調査報告書の内容を踏まえて、その日のうちに考えたとは考えにくい。 「本日第三者委員会から受領した調査報告の内容を十分に検討のうえ、さらに必要な対応を進めてまいります」とも書かれており、調査報告書の内容を踏まえることなく独自に考えたのだろう。同社は第三者委員会を何だと思っているのだろうか。   4 自分で変われるのか? 今度は、調査報告書を踏まえて考えたのだろう。フジ・メディア・ホールディングスは、2025年4月30日に「当社および株式会社フジテレビジョンの抜本的改革施策について」を開示した。別添資料として「フジテレビの再生・改革に向けた8つの具体的強化策及び進捗状況-第三者委員会の調査報告書を受けて組織としての反省と再生への誓い―」と「フジ・メディア・ホールディングス グループ改革に向けて」も開示している。 「フジテレビの再生・改革に向けた8つの具体的強化策及び進捗状況-第三者委員会の調査報告書を受けて組織としての反省と再生への誓い―」の「はじめに:フジテレビの再生・改革に向けて-組織としての反省と再生への誓い―」の冒頭には次のように記されている。ここから、「人権・コンプライアンスに関する対応の強化策について」は、甘い自己認識のもと策定されたものであり、開示すべきではなかったことがうかがえる。 同社の経営者たちは、これまで企業統治や内部統制の重要性を十分に理解しないまま同社を経営してきたのだろう。そのような経営陣が打ち出す改善策に果たして実効性があるのだろうか。一応、表向きは立派な改善策が並べられているものの、疑問は残る。 同社は、同じく2025年4月30日に「(開示事項の経過・変更)代表取締役の異動並びに当社及びフジテレビの役員体制の変更について」も開示している。「代表取締役の異動並びに当社及びフジテレビの役員体制の変更について」においては6月開催予定の定時株主総会後も続投予定だった取締役4名が定時株主総会終結をもって退任することになったとしている。これも調査報告書を踏まえてなのかもしれないが、株主提案も踏まえた対応の可能性もある。 同社は2025年4月17日に「株主提案に関する書面受領について」を開示し、株主であるNIPPON ACTIVE VALUE FUNDから取締役選任に関する株主提案書を受領したとしている(2025年4月23日に「株主提案の差替えに関する書面受領について」を、同年5月8日に「株主提案に関する追加書面受領について」を開示)。なお、提案の詳細も記載した方が望ましいと思われるが、記載されていない。 「本株主提案に対する当社取締役会の意見は、今後、真摯な検討を経て、決定次第、速やかに公表いたします」とされており、本稿執筆時点(2025年5月8日)ではまだ開示されていないが、「より適切な取締役構成についての検討を進めております」として、「(開示事項の経過・変更)代表取締役の異動並びに当社及びフジテレビの役員体制の変更について」を開示していることから、反対する可能性もある。そもそも同社は自分で変われるのだろうか、それとも、他者に変革を委ねたほうがより良い結果を生むのだろうか。 (了)
#620(掲載号)
#鈴木 広樹
2025/05/29
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.619が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年5月22日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.619を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2025/05/22
税務 税務・会計 解説 解説一覧

日本の企業税制 【第139回】「自公維三党協議の継続」-ガソリン暫定税率廃止のための財源問題-

日本の企業税制 【第139回】 「自公維三党協議の継続」 -ガソリン暫定税率廃止のための財源問題-   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部副本部長 魚住 康博   〇スケジュール 自由民主党、公明党、日本維新の会による「ガソリンの暫定税率」に関する三党協議は未だ結論を見出せる状況までには至っていない。4月11日の第2回協議以降、4月24日、5月9日、5月16日と検討を重ねているものの、与野党間の溝は埋まっていない。 仮に日本維新の会の主張通り、今夏からのなるべく早いタイミングでの暫定税率廃止を念頭にすると、今通常国会での法改正が必要となることから、今夏に予定される参議院議員選挙も見据えた国会スケジュールを勘案して、今月中には結論を得る必要があると考えられる。 暫定税率の廃止そのものは、昨年12月11日の自由民主党、公明党、国民民主党の三党幹事長合意により決まっているものの、実際にいつから施行されるという明確な定めはない。具体的な実施方法等については、引き続き関係者間で誠実に協議を進めることとされており、自公維による三党協議もまだ検討が続く見込みである。   〇財源の考え方 日本維新の会は、一時的な財源を使って最初に暫定税率を一時的に廃止し、12月に向けて与党で恒久財源を含めた税制改正の議論を行うことを提案している。つまり、暫定財源と恒久財源を区分する考え方である。一方、自由民主党としては、恒久税制を廃止するという限りにおいて、やはり恒久財源をきちんと議論した上で全体として制度をどうするかということを決めていくべきと考えている。今年1年分だけで暫定税率を廃止するとマーケットが不安定になる懸念もあり、将来の財源、将来の税制のあり方を含めて、暫定税率を廃止するという議論の必要性を主張している。 また、暫定税率を廃止することで国と地方を合わせて年間で約1.5兆円の財源が必要とされていることに対して、日本維新の会からは、例えば、今年7月から暫定税率を廃止した場合、第1四半期が既に経過していることから、年間約1.5兆円の4分の3である約1.1兆円の財源で済むとの指摘が出ている。   〇財源候補項目 日本維新の会からは、これまでの三党協議において、複数の財源候補が示されている。具体的には、税収の上振れ、決算剰余金、燃料油価格激変緩和対策基金、外国為替資金特別会計(外為特会)、国債発行、日銀ETFの活用が提案されており、協議の場では、各項目の制度概要や国会質疑についての資料が政府から提出されている。自由民主党としては、提案をしっかりと受け止めて議論した上で、全額を賄うことはできないものの、一部使えるような一時的な財源は含まれていることから、全部を否定はしないと回答している。しかし、前述の通り、これらを一時的な財源として、まず暫定税率を一時的に廃止してみるという議論には賛同していない。 決算剰余金については、財政法の規定に基づいて2分の1を国債償還の財源に充てることとされている。自由民主党としては、残りも防衛財源に使うものとして使い道の色が付いているとの認識である。 燃料油価格激変緩和対策基金については、本年3月補助分までの支払い後の同基金残高見込みが1.1兆円あり、短期あるいは暫定的な財源として使えるのではないかとの考えも出されている。 そのほか日本維新の会が注目しているのは、外為特会の剰余金である。外為特会は、歳入に外貨資産の利子収入等を、歳出に政府短期証券の利払い等を、それぞれ計上し、毎年度の利益の一部を外国為替資金に組み入れ、残りを一般会計に繰入れる仕組みである。令和7年度予算では、外為特会で約4.6兆円の利益が出ており、そのうち3.2兆円を一般会計に繰入れ、1.4兆円を外為特会に留保しているが、日本維新の会では、この留保している1.4兆円の活用を考えている。留保水準は財務省の省内ルールに基づいているが、近年の留保額が下表の通りである中で、何故1.4兆円が留保されているのか、次回の三党協議で運用のルールや実態が丁寧に説明される予定である。日本維新の会としては、これまでの議論で財源の問題も概ね片付いたと考えている。 【表:外為特会剰余金の一般会計繰入額の推移】 (※) 令和6年度予算の外為特会の利益及び一般会計繰入額には、令和5年度決算剰余金として確実に発生が見込まれた1.2兆円について、防衛財源確保法(令和5年法第69号)による臨時措置により、令和5年度に進行年度繰入れした分を含む。 これに対して政府としては、法律上のルールではないが、資産である外貨が増えた時に為替リスクや金利リスクを担保するため、剰余金の3割を積立金の留保分として充てることが外為特会の健全性のために必要であると考えている。   〇執行上の問題 実際に暫定税率を廃止する場合に、手持品控除等の執行上の問題を解決する必要がある。例えば、納税者ではない全国のサービスステーションにおける仕入先と価格の管理、ルールの確立などのほか、ガソリンの元売や小売が在庫を抱えていて、高い値段で仕入れて安い値段で売ることになってしまう場合の差損補填といった問題もある。自由民主党からは、問題の解決に時間を要するとの説明が行われている一方で、日本維新の会からは、「トリガー条項」が制定された際に準備期間として想定された期間内で対応可能なはずであるとの意見が出されている。 「トリガー条項」は平成22年度税制改正で創設された制度で、連続3ヶ月間にわたって揮発油の平均小売価格が160円/ℓを超える時には、翌月10日に告示を行うことでトリガー条項が発動して、当分の間税率(53.8円/ℓ=本則税率28.7円/ℓ+上乗せ税率25.1円/ℓ)の適用を停止し、本則税率(28.7円/ℓ)を適用するものである。逆にその後、連続3ヶ月間にわたって揮発油の平均小売価格が130円/ℓを下回る時には、トリガー条項が解除され、翌月以降、当分の間税率に復元される。ただし、制度創設の翌年に発生した東日本大震災からの復興に向けた税収確保の観点から、トリガー条項は発動することなく適用が凍結され、現在まで続いている。 次回の自公維三党協議では、何が検討課題として残っていて、少なくともどの程度の準備期間があれば実際に控除ができるのか、精緻に示されて検討される予定である。 (了)
#619(掲載号)
#魚住 康博
2025/05/22

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