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〈解説と対応〉法人役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いの明確化
〈解説と対応〉 法人役員である個人事業主等に係る 被保険者資格の取扱いの明確化 社会保険労務士 富山 直樹 1 はじめに 令和8年3月18日、厚生労働省より「法人の役員である個人事業主等に係る被保険者資格の取扱いについて」という通達が発せられた。 個人事業主の場合、原則的に健康保険は国民健康保険、年金は国民年金に加入することになるが、個人事業主であっても、条件を満たせば法人の役員や従業員として社会保険(健康保険/厚生年金保険)に加入することができる。 しかし令和7年末より、一部の地方議員がこの制度を悪用し、本来支払うべき国民健康保険料の支払いを回避していたことが報道され、令和8年1月には所属政党より関与した議員に対する除名処分が発表され、その後には所属する議会においても辞職勧告決議が可決された。 この問題を受けて厚生労働省も対応に乗り出すことになったと考えられるが、今回発せられたこの通達は、法改正を行うのではなく、行政としての対応、運用を示したものであり、厚生労働省も対応の早さを重視したことが推察できる。 本稿ではこの文書が発せられる契機となった問題点、概要、リスク、対応策について解説する。 2 国保逃れと、その問題点 前項の通り、個人事業主も条件を満たせば社会保険に加入することができる。では「なぜそのようなことをするのか?」、最も大きい理由の1つに、社会保険に加入することで国民健康保険料の高額な支払いを避ける目的が挙げられる。 仮に個人事業主としての収入と、法人の役員報酬とを比べて個人事業主の方が高額であったとしても、社会保険の保険料は役員報酬のみをベースとして計算され、個人事業主としての収入は合算されない(※なお、2箇所以上の法人から報酬を得る場合は、その報酬額が合算される)。 家族がいる場合にも、国民健康保険には扶養の概念がなく、配偶者や子供であっても1人ずつ国民健康保険に加入し保険料を支払う必要があるのに対し、社会保険の場合は扶養要件に該当すれば「被扶養者」として加入することができ、被扶養者には保険料がかからないという違いがある。 また、全額自己負担である国民健康保険に対し、社会保険料は法人との折半であり、法人の負担分も「法定福利費」として経費に扱われる。 こうした費用的なメリットを狙い、個人事業主であっても法人の役員として社会保険に加入するような手法は、あくまで現状は「違法」ではなく、今回の地方議員のケースでも各種報道では「脱法」という言葉が使われている。 報道によると今回の地方議員のケースでは、地方議員は個人事業主と同じく国民健康保険への加入が前提となっているものの、議員という地位を維持しつつ、一般社団法人の理事にも就任していた。また、議員報酬が年間約1,450万円に対し、一般社団法人の理事として受け取っていた報酬が月1万7,000円程度であり、本来の国民健康保険で負担すべき保険料と、その理事としての報酬で計算される社会保険料とでは、年間の保険料におよそ100万円の差が生じていた。 さらに、今回のケースが悪質として問題提起されるに至ったのは、「会費」という名目で毎月3万4,000円という報酬以上の額が、地方議員側から一般社団法人側に支払われていた点である。報酬として受け取る額よりも、支払う「会費」の額の方が多いが、「会費」の支払いを計算しても一般社団法人で理事としての社会保険に加入する方が全体的な費用が抑えられていた。 このような内容が悪質であると判断され、今回の文書が発せられるに至ったと考えられる。 3 今回の文書の概要、およびそれに伴うリスク 今回の文書では「役員としての実態がない者については、社会保険の資格を喪失させる。」としている。 その場合は、過去に遡っての資格喪失を命じられる可能性も考えられる。過去に遡って社会保険の被保険者資格を喪失した上で、その間の個人事業主としての所得に応じた国民健康保険料を支払い、扶養に入っている家族がいる場合はその家族分の国民健康保険料も支払わなければならず、またその間に受診した医療機関での精算手続が発生する可能性も出てくるわけである。 では具体的に、「役員としての実態がない者」とはどういったケースが考えられるのか。今回の報道のような「会費」を徴収するといった悪質なケースは当然として、具体例を含め2つの基準が示されている。 ① その業務が経営参画を内容とする経常的な労務の提供に該当しないと考えられるもの ―具体例― ② その報酬が業務の対価として経常的な支払いに該当しないと考えられるもの ―具体例― 4 実態のない役員と判断されないために 前項で記載した通り、「役員としての実態」がなければ社会保険の資格を喪失するように通達があったわけである。前項の具体例のような内容に該当しないことは大前提として、正しい運用を行っているつもりでも、意図せずに行政側から「不適切な運用」「実態のない役員」と判断されないためにどうすればよいのか。 今回の報道のような悪質なケースでなく、正しく個人事業主としての仕事を主としつつ法人の役員も務める方もいる。 近く行政側も、一般社団法人等へ調査に入る予定という報道がなされているが、そのような方が「実態のない役員」と判断されないために、行政の調査が入った際などに証拠資料とともに説明、証明できるようにしておくことである。 具体的には、 といったものが考えられる。 調査が入った際に「正しく行っている」「役員としての業務の実態がある」「業務に見合った対価を支払っている」ということを「客観的に説明できる」資料を常日頃残しておくことが肝要である。 もちろん、これらを用意したからと言って100%の保証がなされるわけではなく、最終的には総合的な判断を行政側がすることになる。 また、大前提として悪質なスキームはもってのほかであり、筆者もそうした行為を助長、容認する意図はなく、本稿を読まれた方がこれらの手法について悪意ある解釈をなされないことを切に願う次第である。 5 まとめ 「支出を抑えたい」という人間の深層心理はもっともである。しかし、一線を超えてしまうと今回報道されたような問題が発生する。 また、こうした脱法スキームを斡旋するような事業者があることも事実であり、本稿をご覧の皆様の中にも、「代表者様の社会保険料を節約しませんか?」といった内容のダイレクトメールや営業電話を受けたことがある方もいるのではないだろうか(弊所にも営業電話がかかってきたことがあり、「社会保険労務士事務所に電話していることをわかっているのか?」と思った次第である)。 報道によれば、斡旋を行っていた一般社団法人の中には、このスキームを目的に登録されたと思われる理事が600名を超えるようなものもあり、今回の通達を受けて理事に対し「事業終了」を知らせる通知が届いたとされている。 今回は法改正ではなく、通達という形で行政の対応、運用が示されたスピード重視の内容であるが、いずれ法改正が検討され、より厳格化される可能性が大いに考えられる。 令和8年4月分の社会保険料から子ども・子育て支援金が発生するように、急速な少子高齢化が進む中で、現在の社会保険財政は逼迫している。将来にわたっての社会保険制度維持のためにも、適正な運用への寄与を、被保険者である私たちも保険料負担者として考えたいところである。 (了)
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〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第15回】「偽装請負にならないための注意点」
〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第15回】 「偽装請負にならないための注意点」 〈情報通信業・IT〔Q4〕〉 弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 木原 康雄 【Q】 SEが客先で、そのニーズに応じて業務を遂行するケースも多いのですが、注意しないと偽装請負になるおそれがあると聞きました。留意すべき点を教えてください。 【A】 厚生労働省の「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準」及びその疑義応答集に則って請負業務を行うことが必要です。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 偽装請負とは IT企業は、発注者からシステムの開発を請け負い(受注し)、従業員にその開発業務を担当させる。 ここで請負契約とは、受注者が発注者から独立して仕事をして、その完成を約する契約をいう。「独立して」であり、発注者と受注者の労働者との間に指揮命令関係が生じないことが前提となっている。 しかし、発注者のニーズや要望に継続的・適宜に応じながらの作業であり、しかも客先常駐であると、発注者側の担当者が当該受注者側の労働者に直接指揮命令してしまうということが起こり得る。 そうなると、受注者が「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」(労働者派遣法2条1号)と実質的に同じ状態である。 ところが、請負のつもりであったので、労働者派遣法で定められた諸手続き(労働者派遣事業の許可や、様々な手続)は採られていないので、これは労働者派遣法に抵触する違法行為であるということになる。 このように、実質的な労働者派遣であり、請負の形式がいわば「偽装」になってしまっている場合を「偽装請負」という。 2 偽装請負の場合のリスク 「偽装請負」になっている場合、受注者・発注者とも行政指導の対象となる(労働者派遣法48条)。 また、受注者は、改善命令(同法49条1項)のほか、労働者派遣事業の許可がないことを理由に罰則が適用され得る(同法59条2号)。 発注者も、企業名公表(同法49条の2)の対象となり得るほか、派遣先責任者を選任したり、派遣先管理台帳を作成していないため、罰則が適用され得る(同法61条3号)。 さらに、「偽装請負」が労働者派遣法の規制を免れる目的で行われたものと判断された場合、発注者が、受注者側の労働者に対し、受注者・労働者間の労働条件と同一の労働条件を内容とする労働契約の申し込みをしたものとみなされる(同法40条の6第1項第5号)。 この場合、「偽装請負」行為が終了した日から1年以内に労働者が承諾すれば、発注者・労働者との間に直接の労働契約関係が生じることになる(同法40条の6第2項・第3項)。 3 偽装請負にならないよう注意すべき点 IT企業としては、特に客先常駐の場合には、「偽装請負」(実質的な労働者派遣)にならないためのポイントを押さえ、上記リスクを回避しなければならない。 このポイントについては、厚生労働省が「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区別に関する基準」(昭和61年労働省告示第37号、最終改正平成24年厚生労働省告示第518号)及びその疑義応答集によって示している。 以下、それらを見ていく。 (1) 受注者は、次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより、自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用する必要がある。 (2) 受注者は、次のイ、ロ及びハのいずれにも該当することにより、請負契約等により請け負った業務を自己の業務として、発注者から独立して処理する必要がある。 4 アジャイル開発の場合 なお、システムやソフトウェア開発において、「アジャイル開発」が用いられることがある。 アジャイル開発とは、小さな機能(単位)ごとに開発とリリースを繰り返しながら、システムを作り上げていくものをいい、発注者側の開発責任者(プロダクトオーナー)と受注者側の開発担当者等が、それぞれの役割・専門性に基づき協働し、綿密に連携することを特色としている。 「偽装請負」との関係では、この「綿密な連携」が直接の指揮命令関係と評価されてしまわないかが問題となる。 この点については、前記の疑義応答集の第3集が、基本的な考え方を示している。 すなわち、実態として、発注者側の開発責任者等が受注者側の開発担当者に対し、直接、業務の遂行方法や労働時間等に関する指示を行うなど、指揮命令があると認められる場合は「偽装請負」になる。しかし、発注者側と受注者側の開発関係者が相互に密に連携し、随時、情報の共有や、システム開発に関する技術的な助言・提案を行っていたとしても、実態として、発注者と受注者の関係者が対等な関係の下で協働し、受注者側の開発担当者が自律的に判断して開発業務を行っていると認められる場合であれば、「偽装請負」とは判断されない。 その他、上記応答集では、アジャイル開発の様々な場面についての考え方が示されているので、参考にしていただきたい。 5 まとめ 以上のとおり、「偽装請負」と評価されないようにするポイントは、上記「基準」及び疑義応答集によって示されている。 そして、発注者・受注者が協力し合いながら、これらを的確に履践していくことが必要となる。 (了)
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書く論 【第4回】「壮大な序章を書かないために」
〈執筆:編集X〉 書く論 第4回 「壮大な序章を書かないために」 今回のお話は、すでにご自身なりの原稿の書き方を確立している方々には少し退屈かもしれませんので、その点はご容赦ください。 まだ執筆経験の浅い著者の方が、編集者との諸々の打合せを経て、いよいよ『原稿を書く!』という段階まで進んだとします。 ここまでの経緯で膨らんだ構想と熱意をぶつけるべく、パソコンの画面に一文字目を入力し、原稿を書き始めます。 ・・・・そこから時は過ぎ・・・・ 「・・・。よし、原稿を書き終えたっ!」 という状況に至ると思われがちですが、実際には、そのようなケースは意外とまれです。 多くの場合、途中で指が止まってしまい、原稿が書けなくなってしまいます。 それも原稿のはじめあたり、章立てでいうと第1章や第2章の途中で、息切れしてしまいます。 「・・・原稿を書くのがこんなに難しくて、時間がかかるとは思わなかった」 原稿の締め切りを過ぎてから、このようなご連絡をいただきます(その一報を聞いた編集者は、当然ながら汗が止まりません)。 そこで、その時点で書き上がった原稿を見せていただくと、『内容が完璧で、かつ、予定以上にボリュームのある、壮大な序章の原稿』を手渡され、編集者も一緒になって「・・・・」という沈黙が続きます。 実はこのようなケースは、性格のまじめな先生ほどあてはまります(つまり国家資格をお持ちの実務家の方であれば、ほとんどが該当するわけです)。 書籍において序章は、その本の位置づけや存在意義、解説するテーマの根幹にある問題点などが述べられます。 まだ原稿を書き慣れていない方は、序章に思いをぶつけがちで、完璧に仕上げたい(仕上げなければいけない)という使命感や、無事に原稿が書けるだろうかという不安から、同じ箇所を何度も読み返し、原稿を加筆し、詳細なグラフや図表をたくさん作成し・・・ その結果『壮大な序章』を書き終えたところで、気持ちが切れてしまうのです。 ただし、大切なのは原稿を書き上げること、特に実務書にとっては、序章以降(その多くは中盤の章)の解説こそが、その価値の根幹です。そして、原稿の完成が遅れることは、出版時期を遅らせることを意味し、適切な時期に読者へその本を届けられない、結果として出版社としても販売に影響してしまうという、誰にとっても悲しい結果になります。 若かりし頃の編集Xはこのようなケースを何度も経験し、自身も原稿を書かせていただくようになってから、必ず原稿を書いていただく前に、こうお伝えします。 「先生、原稿は冒頭(序章)から書かなくても大丈夫です。先生にとって書きやすい章から、とりあえず書き進めてみてください」 そして 「その書きやすい章も、完璧を目指さず、ある程度のところで止めてもらって他の章を書き進めていただき、まずはざっくりと、書籍全体の原稿を書いてみてください」 さらに 「ざっくりとした書籍全体の原稿ができたら、『書き上げられるか』というご不安も一旦解消されると思いますので、あらためて各章の細部を詰めていただき、原稿を完成させてください。何なら、はしがきや序章の原稿は、原稿全体を俯瞰していただいてから、最後にいただくことでもけっこうです」 個人的には、『原稿を書き始める前』こそがその書籍にとって最も大切な段階と考えており、著者の方々と何度も細かい打合せを重ねることがあります。 ちなみに、多くの原稿を書かれている方は、すでにこのような方法を実践されていたり、達人の域になれば苦労なく、序章から最終章まで順番に書かれる方もおられますので、無用なご助言は控えています。 最後にいくつか、細かい点と同業者への苦言を呈しますと、 実務書の原稿を書きはじめる前には、当然ながら章立て(いわゆる書籍の全体像)を考えていただくと思いますが、できることなら章立てだけではなく、より細かい、各章の中を構成する中見出し・小見出しまで考えていただいてから、書き始めていただくのがよいと思います。さらに一定の分量ごとに、何をどの順番で書くかをメモしてから書き進めると、途中で指が止まることは少ないです。見出しや本文の構成は書きながらどんどん修正・変更していけばよいと思いますが、ないと今回お話したようなケースに陥りやすいと思います。 また、期日までに原稿が仕上げられない場合、その編集者の責任も大きいです。原稿(入稿)が遅れたとき、著者から「原稿を書き進められない(息切れしてしまった)」という相談を受ける関係性が構築できていたか、事前の的確なアドバイスや一定期間ごとのフォローアップができていたか、振り返ってみるとよいでしょう。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)
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《速報解説》 非上場株式評価、大改正へ~第1回有識者会議の論点と総則6項適用事案から読み解く~
《速報解説》 非上場株式評価、大改正へ ~第1回有識者会議の論点と総則6項適用事案から読み解く~ 税理士 柴田 健次 国税庁は令和8年4月20日、「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第1回を開催し、その資料が公開された。 1 はじめに 「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」は、会計検査院の令和5年度決算検査報告における指摘を直接の契機とするもので、財産評価基本通達における非上場株式の評価方式が昭和39年の通達制定以来、最大級の見直しを迎える可能性が高まっている。 改正時期は明らかにされていないが、筆者は、令和9年度税制改正大綱において法人版事業承継税制の見直しと併せて議論がなされ、令和9年中に非上場株式の評価方法が明らかにされ、令和10年の相続・遺贈・贈与から適用されるものと推測している。 2 なぜ改正が必要なのか 会計検査院の調査によれば、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%にとどまる。国税庁の追加調査(令和4年分及び5年分の相続税及び贈与税の申告)でもこの傾向は変わらず、中央値は約26.1%となっており、さらに会社規模別の純資産価額に対する申告評価額の中央値は、大会社0.44倍(検査院0.32倍)、中会社0.50倍(検査院0.50倍)、小会社0.60倍(検査院:0.61倍)となっており、規模が大きいほど評価額が下がる傾向にある。同程度の純資産価額であっても会社規模区分次第で評価額に大きな差が生じており、納税者間の公平性が損なわれている。 この背景には、①昭和47年改正によるしんしゃく率0.7の導入、②平成12年改正のしんしゃく率の引き下げ(中会社0.6、小会社0.5)、③配当の比準要素としての機能不全がある。国税庁の分析対象会社の82.4%が直前2期で配当をまったく行っておらず、配当(Ⓑ)が0の場合、比準要素の係数が実質的に2/3倍となり株価が低下する構造的問題が指摘されている。 3 国税庁が問題視する圧縮スキーム 第1回会議では、以下の3類型の評価額圧縮スキームが明示的に問題視された。 第一に、グループ法人税制を活用した資産移転スキームである。100%グループ内で親会社⇒子会社⇒孫会社へと不動産や株式を移転し、当該資産を保有する子会社・孫会社に類似業種比準方式を適用させることで、親会社株式の評価を圧縮する手法である。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料(2026年4月20日)」12頁より抜粋 第二に、無議決権株式を用いた配当還元方式の濫用である。組織再編等により創業者に無議決権株式を大量保有させ、後継者へ議決権を集約することで、孫世代が配当還元方式を適用できるよう作出するスキームが指摘された。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料(2026年4月20日)」13頁より抜粋 第三に、「所有と経営が分離していない非上場会社等」における株価引き下げ対策の実行である。「所有と経営が分離している上場会社等」に比べて「所有と経営が分離していない非上場会社等」については、役員報酬及び配当は経営陣が自由に意思決定でき、利益の引き下げ、配当の引き下げ、純資産価額の引き下げによる株価の引き下げも容易に行うことができる。 (※) 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)資料(2026年4月20日)」14頁より抜粋 4 総則6項適用事案の増加と裁判例 平成27年から令和6年までの間に評価通達6項の適用件数は27件、うち株式関連は14件と着実に増加している。直近では令和5年に11件(うち株式6件)と単年度で過去最多を記録しており、課税当局による評価通達6項の運用が積極化していることは明らかである。 (1) 令和6年3月25日裁決(直前配当・決算期変更スキームの評価通達6項適用事例) 令和6年3月25日裁決(TAINSコード:J134-4-07)は、被相続人の容態悪化を受け、相続開始の約4ヶ月前に事業年度を12月末から5月末に変更し、5月1日に剰余金配当を実行することで「比準要素数1の会社」の該当を回避した事案について、評価通達6項の適用が認められた。 当初申告約21億円、仮に対策がなければ約34億円のところ、鑑定評価額約40億円での更正処分となった。税理士法人から「株価引下げを目的とした決算期変更とみなされ否認される可能性もあること」の説明を受けた上で実行しており、不服審判所においては、下記の通り判断がなされ、評価通達6項が適用された。 (2) 令和7年6月19日東京高裁判決 (新株発行等スキームの評価通達6項適用事例) 注目すべき直近の判例が、令和7年6月19日東京高裁判決(TAINSコード:Z888-2742)である。本判決は、納税者勝訴の令和7年1月17日東京地裁判決(TAINSコード:Z888-2738)を逆転し、評価通達6項の適用を肯定したものであり、現在(令和8年4月28日時点)、最高裁に上告・上告受理申立てがなされている。 事案の概要は次のとおりである。被相続人は、相続開始の約2ヶ月前である平成25年8月に、資産管理会社A社の第三者割当増資(約36億円)に応じる形で本件出資を行うとともに、A社は同日付で本件配当を決議した。これにより、①被相続人の現預金約36億円が非上場株式に転換され、②A社の資産構成のうち株式等の割合が約89.2%から約26.1%に低下し「株式保有特定会社」の該当を回避、③直前2期に配当が生じ「比準要素数1の会社」の該当も回避した。結果、本件株式は併用方式により1株当たり1,858円で評価され、課税価格は約21億円となった。 これに対し税務署長は、評価通達6項により純資産価額方式(1株当たり3,443円)で評価すべきとして増額更正処分を行い、課税価格は約37億円、納付すべき相続税額は合計約20億円となった。本件新株発行等を行わなかった場合と比較すると、課税価格は約17億円(約44.6%)軽減、納付すべき相続税額は約9.78億円(約48.1%)軽減された計算となる。 東京地裁は、相続税の減少の割合が5割に満たず、その減少は評価通達が純資産価額方式と併用方式の選択を認めていることにもよるものであり、必ずしも本件新株発行等のみによるものではないとし、租税負担の軽減が「著しい」とはいえず評価通達6項の適用要件を欠くと判断し、納税者勝訴の判決を下した。 これに対して、東京高裁は、「被控訴人らが納付すべき相続税額の軽減割合が5割に満たないとしても、軽減される相続税の額を総合的に考慮して判断すると、被控訴人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきであり、被控訴人らの主張は採用できない。」と判示し、相続税の減少の割合のみでは判断ができないことを明らかにした。 そして、租税負担軽減意図の認定について、相続開始の約3ヶ月前に証券会社を訪問し、節税対策として本件スキームの提案を受け、連日のように電話・メールで協議を重ねて実行した事実認定を踏まえ、「本件新株発行等が近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において被控訴人らの相続税の負担を減じさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件新株発行等を行ったことは明らかというべきである」と認定し、評価通達6項を適用した。 (3) 両判決から導かれる実務指針 前述の令和6年3月裁決と令和7年6月東京高裁判決は、「比準要素数1の会社」「株式保有特定会社」の該当を回避するための駆け込み的株価対策を総則6項で打ち抜いたものであり、実務においても贈与や相続直前における「比準要素数1の会社」又は「株式保有特定会社」の該当を回避する行為には、注意が必要となる。その行為自体に経済的合理性がなく、単に贈与税や相続税の負担を免れるものと認定される場合には、評価通達6項の射程範囲となり得る。 もっとも、今後の評価通達の改正において、このような租税回避行為ができないような評価通達の整備が行われるものと思料される。ただし、改正の適用前に行った納税者の行為が評価通達6項の射程範囲になる可能性もあるため、組織再編、種類株式、決算期変更、課税時期直前の配当を活用した株価対策は、評価通達6項適用リスクの観点から再検証が必要となる点については注意が必要となる。 5 見直しの4つの基本観点 第1回会議で示された見直しの基本観点は次の4点である。 具体的には、類似業種比準方式と純資産価額方式のかい離の解消、配当還元方式の還元率10%(昭和39年金利水準のまま据置)の見直し、退職給付債務等の控除可否などが議論される見込みである。 6 筆者予測と実務対応 法人版事業承継税制の特例措置は令和9年12月末で贈与・相続の適用期限を迎える。 法人版事業承継税制と非上場株式評価は不可分の関係にあり、両者は一体で議論されるべき問題である。すなわち、非上場株式の評価は、相続税法22条における時価であるため、時価と評価通達との乖離は是正するべきものである一方で、法人の事業継続性の観点から法人版事業承継税制のような税負担軽減措置の政策的な配慮が必要となる。 筆者は、令和9年度税制改正大綱で法人版事業承継税制及び非上場株式評価の抜本見直しの方向性が示され、通達改正の適用は令和10年から実施されると予測する。 事業承継を予定する経営者・専門家にとっては、現行評価額が今後数年で大きく変動する可能性を前提とした計画の早期見直しが急務である。基本方針としては、令和9年までの贈与を前提に進めるとともに今後の有識者会議の議論を引き続き注視し、改正リスクと評価通達6項のリスクの両面から株式の承継を進める必要がある。 (了)
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《速報解説》 国税庁、「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」を公表~令和8年度税制改正による駐車場等加算措置等の実務上の取扱いを明確化~
《速報解説》 国税庁、「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」を公表 ~令和8年度税制改正による駐車場等加算措置等の実務上の取扱いを明確化~ Profession Journal編集部 Ⅰ はじめに 国税庁は令和8年4月、特設ページ「通勤手当の非課税限度額の改正について」を更新し、「通勤手当の非課税限度額の改正に関するQ&A」を公表した。 本Q&Aは、令和8年度税制改正による通勤手当の非課税限度額の改正に関する実務上の一般的な疑問に回答するものである。 Ⅱ 改正の概要(再確認) 令和8年度税制改正により、自動車などの交通用具を使用して通勤する給与所得者に支給する通勤手当の非課税限度額について、次の2点の改正が行われた。 1 片道65㎞以上の距離区分の新設等 これまで「片道55㎞以上」で一律38,700円とされていた区分が細分化され、新たに片道65㎞以上の距離区分(10㎞刻み)が設けられた。最高額は片道95㎞以上の66,400円となった。 2 駐車場等の料金相当額に係る加算措置の創設 一定の要件を満たす駐車場等を利用し、その料金を負担することを常例とする者については、通勤距離の区分に応じた非課税限度額に、1か月当たりの駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算した金額が新たな非課税限度額となった。 3 適用時期 改正後の非課税限度額は、令和8年4月1日以後に支払われるべき通勤手当(同日前に支払われるべき通勤手当の差額として追加支給するものを除く)について適用される。 Ⅲ Q&Aの主な内容 公表されたQ&Aは、「改正の概要」「非課税の対象となる駐車場等の範囲」「駐車場等の利用がある場合の非課税限度額の計算」「その他」の4項目で構成されている。以下、特に確認しておきたい事項を紹介する。 1 非課税の対象となる「一定の要件を満たす駐車場等」の範囲 加算措置の対象となる「一定の要件を満たす駐車場等」とは、通勤のために使用する交通用具の駐車のための施設のうち、勤務する場所の周辺又は通勤のために利用する交通機関の駅若しくは停留所その他の施設の周辺にあるものをいうとされている(Q2-1)。 主な留意点は以下のとおりである。 2 非課税限度額の計算方法 加算措置の適用がある場合の非課税限度額の計算については、(Q3-1)及び(Q3-2)において、以下の4パターンの設例(ケースA~D)及び交通機関併用型の設例(ケースE)が示されている。 ケース 概要 A 距離分手当と駐車場代を区分支給/支給額が非課税限度額を超過 B 距離分手当と駐車場代を区分支給/支給額が非課税限度額以下 C 駐車場代が5,000円以下のケース D 通勤手当と駐車場代を区分せずに一括支給するケース E 電車(定期代)+自動車+駐車場等の併用ケース(上限150,000円の適用) このうちケースDでは、通勤距離に応じた手当と駐車場代を区分せずに支給した場合であっても、駐車場等の料金相当額(上限5,000円)を加算した金額を非課税限度額として計算する取扱いが示されている点が注目される。 3 「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」の算出方法 (Q3-3)では、駐車場等の料金体系に応じた「1か月当たりの駐車場等の料金相当額」の算出方法が、次の4つの区分に分けて示されている。 特に(3)については、①実費の1か月間の合計額、②1回当たり料金×利用回数、③その他合理的な方法による計算額の3つの計算方法が例示されており、回数券利用や時間貸し駐車場利用の具体的な計算例(端数切上げの取扱いを含む)が示されている。 なお、計算の簡素化のため、回数券の1枚単価×利用日数による概算計算(例:120円×20日=2,400円)も差し支えないとされている。 4 その他の実務上の留意点 駐車場等の料金相当額の通勤手当を非課税として支給するに当たり、契約書や領収書等の書類の提示を受けることは法令上の義務とはされていない。ただし、料金相当額の算出に必要な金額を確認するため、従業員から必要な書類等の提示を受けるなどして金額を確認する必要があるとされている(Q4-1)。 確認は支給の都度行う必要はないが、駐車場等の料金に変更があった場合には、従業員からの申出を受けて確認する必要がある(既に5,000円を超えている場合の値上げを除く)。 また、会社が従業員に代わって駐車場を契約し、駐車場代を負担している場合についても、実態として駐車場代相当額の通勤手当を支給しているものと変わらないとして、加算措置の対象として非課税限度額を計算することとされている(Q4-2)。 Ⅳ おわりに 令和8年度税制改正による通勤手当の非課税限度額の改正は、片道65㎞以上の距離区分の新設に加え、駐車場等の利用実態を反映した加算措置の創設を含むものであり、給与計算実務に直接影響する。 今回公表されたQ&Aでは、駐車場等の範囲、料金相当額の計算方法、書類確認の要否など、実務担当者が判断に迷いやすい論点について、具体的な計算例を交えて解説されている。給与支払者においては、本Q&Aの内容を踏まえ、社内の通勤手当規程や給与計算システム上の取扱いについて、改正内容に沿った整備を進めていくことが望まれる。 (了)
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《速報解説》 改正法人税法施行規則の公布に伴い、R8改正等に対応した法人税申告書(別表)様式が示される~大胆な投資促進税制創設に伴う様式の新設や賃上げ促進税制の見直し等を反映~
《速報解説》 改正法人税法施行規則の公布に伴い、 R8改正等に対応した法人税申告書(別表)様式が示される ~大胆な投資促進税制創設に伴う様式の新設や賃上げ促進税制の見直し等を反映~ Profession Journal編集部 令和8年度税制改正等に対応した法人税申告書(別表)の様式を定めた改正法人税法施行規則(財務省令第39号)が4月14日付官報号外第88号で公布された。改正後の様式は原則、令和8年4月1日以後終了事業年度から適用される(改正法規附則4)。 また、官報同号では防衛特別法人税に関する省令等の一部を改正する省令(財務省令第42号)も公布されており、防衛特別法人税に係る申告書様式の一部見直しが示されている。 その他、地方法人税及び租税特別措置の適用額明細書の様式改正も行われている。 以下、新設された様式及び主な既存様式の改正事項について紹介する。 1 大胆な投資促進税制の創設に伴い新設された様式 まず、令和8年度税制改正で創設された特定生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除(大胆な投資促進税制)に伴い、「別表6(27) 特定生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」が新たに設けられている。なお、本様式については、令和8年4月1日以後に終了する事業年度からの適用ではなく、現在(令和8年4月24日時点)審議中の改正産業競争力強化法の施行の日以後に終了する事業年度からの適用となる(改正法規附則1三、五)。 〈別表6(27) 特定生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 2 主な既存様式の改正 (1) 研究開発税制の見直しに伴う様式の変更 主な既存様式の改正として、令和8年度税制改正で見直しがあった研究開発税制については、一般型の試験研究費の額に係る税額控除制度の控除率及び控除上限の見直しや国外委託試験研究費の対象範囲の見直しに伴い、「別表6(9) 一般試験研究費の額に係る法人税額の特別控除に関する明細書」において記載欄の追加等が行われているほか、「別表6(10) 中小企業者等の試験研究費の額に係る法人税額の特別控除に関する明細書」では、繰越控除制度の導入に伴って「翌期繰越税額控除限度超過額の計算」欄等が新たに設けられた。 〈別表6(9) 一般試験研究費の額に係る法人税額の特別控除に関する明細書〉 〈別表6(10) 中小企業者等の試験研究費の額に係る法人税額の特別控除に関する明細書〉 (2) 賃上げ促進税制の見直しに伴う様式の変更 そのほか、令和8年度税制改正で一部縮減等もあった賃上げ促進税制では、適用要件等の見直し及び全法人向け措置の令和8年3月31日の廃止に伴い、「別表6(24) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書」の「税額控除限度額等の計算」欄において、「令和8年3月31日以前に開始した事業年度の場合」と「令和9年4月1日以降に開始する事業年度の場合」欄が設けられ、場合分けがされている。 〈別表6(24) 給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書〉 (3) その他既存様式の変更 また、前述の大胆な投資促進税制の創設を受け、別表6(7)では、「特定生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除の適用可否の判定」欄の追加等がされたほか、別表6(6)及びその付表でも「特定生産性向上設備等を取得した場合の法人税額の特別控除」欄の追加等がされている。 そのほか、使用頻度の高い既存様式の細かな改正として、別表1付表の表中では「中小通算法人等」を「中小通算法人」と改めているほか、別表4の表中では番号の一部変更が行われている。 なお、令和7年度税制改正で創設された防衛特別法人税に係る申告書様式(令和8年4月1日以後に開始する事業年度から適用)についても別表1及び別表2の表中において番号の一部変更等が行われている。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.666が公開されました!~今週のお薦め記事~
2026年4月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.666を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第91回】
暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第91回】 東洋大学法学部教授 泉 絢也 ウ オンランプ・オフランプという現実世界との接点 暗号資産には分散的な特性があるとしても、法定通貨を暗号資産に交換するプロセス(オンランプ)とその逆のプロセス(オフランプ)では、本人確認規制やマネーロンダリング・テロ資金供与規制に従って中央集権的な機関がサービスを提供していることが多い(※)。 (※) よって、警察庁のJAFIC(Japan Financial Intelligence Center:犯罪収益移転防止対策室)が外国のFIU(Financial Intelligence Unit:資金情報機関)から得たマネーロンダリング及びテロ資金供与に関する疑わしい取引報告に係る情報が一定の法的手続を経て、査察部門に共有される可能性もある。 FIUは、各国のマネーロンダリング・テロ資金供与対策を担う情報収集機関であり、日本ではJAFICがその役割を担っている。国際的な情報交換枠組みにより、国外取引所に関する情報が共有される可能性もある。 オンランプとは、銀行口座等から暗号資産を購入する入口であり、オフランプとは暗号資産を売却して法定通貨に戻す出口である。 これらの場面では、取引所等においてKYC(顧客確認)手続が実施されるのが通常である。このため、これらのプロセスは、ブロックチェーン上の活動と現実世界の身元を結びつける上で重要な接点である。 したがって、ここが税務当局にとって最も重要な情報源となる。 すなわち、ブロックチェーンがいかに分散的であっても、法定通貨との接続点が存在する限り、完全な匿名経済圏として閉じたものとすることは困難である。よって、税務執行の観点からは、この「出入口」に着目することが基本戦略となる。 このような状況は、法定通貨と比較して、何らかの対価として暗号資産を受け取る機会は少なく、また、暗号資産での支払が可能な場面は限られており、暗号資産の多くが主として支払手段以外の用途を持たないことによって維持されている(※)。 (※) ただし、高所得国における典型的な暗号資産の納税者は暗号資産を投資資産として保有し、支払手段としての使用は付随的なものにすぎない一方、低所得国における暗号資産の納税者は、通貨代替として利用しているという見方もある(See Bob Michel & Tatiana Falcão, Cryptoization Through Currency Substitution: Tax Policy Options for Low-Income Countries, 108 TAX NOTES INT’L 973,975(Nov.21,2022))。 すなわち、多くの投資家は最終的に法定通貨に戻したり、暗号資産を実際にモノやサービスと交換する必要があるため、多くの場合において、「どこかで必ずオンランプ又はオフランプを経由する」ことになる。 この点は、暗号資産の経済圏が完全に自律的な閉鎖空間ではなく、現実世界の金融システムと結びついていることを示している。 なお、DEX(分散型取引所)は原則として法定通貨との直接交換機能を持たないが、近年は第三者決済業者やブリッジサービスを介した間接的な法定通貨への接続が存在する場合もあり、「完全に接点がない」とまではいえない。 さらに、ステーブルコインを介した価値移転は、法定通貨との接続を間接化させる機能を持つが、その発行体や償還窓口を通じて再び中央集権的接点が生じるという側面も有する。 オンランプ又はオフランプに含まれるかどうかに関わらず、税務当局としては、暗号資産を他の財産やサービスと交換するためのサービスを提供しているプラットフォーム等を情報源として着目して、調査を展開することが考えられる。 オフランプは、厳密には暗号資産を法定通貨に転換する出口を指す。 しかし、課税実務の観点から重要なのは、法定通貨への転換に限られない。暗号資産を財やサービスと交換する場合も、現実経済との接点が生じる点では同様である。 したがって、税務執行上は、オンランプ・オフランプという法定通貨との接続点に加え、暗号資産が現実の財やサービスと交換される現実経済との接点にも着目する必要がある。 具体例として、CEX、DEX、ウォレット(※1)、暗号資産ATM、暗号資産デビットカード、ピアツーピアプラットフォーム、ブロックチェーンゲーム、Crypto Faucets (※2)、オンラインカジノ、財やサービスの提供サイトなどを挙げることができる。 (※1) ウォレットそのものは中央集権的管理主体を必ずしも伴わないが、ブロックチェーン分析の起点となり、資金移動の出発点又は到達点として、分析上の重要なハブとなる。 (※2) 簡単なタスクやアクティビティ等の報酬として、少額の暗号資産を配付するオンラインプラットフォーム又はアプリケーション。 暗号資産の世界は分散性により、把握困難と考えられがちである。 しかし、実際には分散性と公開性・仮名性(疑似匿名性)が同時に存在し、さらに現実世界の法定通貨や財・サービスとの接点が残存しているという特性を有している。この特性を前提に、どの接点が現実世界と結びついているのかを理解することが、課税実務にとって重要である。 (了)
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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例157(所得税)】 「共同住宅の敷地(宅地)と駐車場用地(その他)の交換に、「交換特例」は適用できると誤った説明をして実行させたため、多額の税負担が発生してしまった事例」
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例157(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆固定資産を交換した場合の課税の特例(「交換特例」)(所法58) (1) 制度の概要 「交換特例」とは、個人が1年以上所有していた特定の資産を、他の者が1年以上所有していた同種の固定資産と交換し、その交換取得資産を交換譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供した場合で、交換取得資産の時価と交換譲渡資産の時価との差額が、これらのうちいずれか高い金額の20%以内のときは、譲渡所得の計算上、交換に伴って受け取った交換差金等の価額に相当する部分を除き、その譲渡がなかったものとみなされるものである。 (2) 適用要件 特例の適用を受けるためには次の要件を満たす必要がある。 ◆取得資産を譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供したかどうかの判定(所通58-6) 資産を交換した場合において、取得資産を譲渡資産の譲渡直前の用途と同一の用途に供したかどうかは、その資産の種類に応じ、おおむね次に掲げる区分により判定する。 したがって、例えば、交換譲渡した土地が宅地として使用されていたものであれば、交換取得した土地も宅地として使用するという場合が資産の種類と用途の区分を同一にすることになる。 交換譲渡資産の種類 区 分 土 地 宅地、田畑、鉱泉地、池沼、山林、牧場又は原野、その他 建 物 居住用、店舗又は事務所用、工場用、倉庫用、その他 機械装置 耐用年数省令別表第2に掲げる設備の種類の区分 船 舶 漁船、運送船、作業船、その他 ◆交換により取得した2以上の同種類の資産のうちに同一の用途に供さないものがある場合(所通58-5) 交換により種類を同じくする2以上の資産を取得した場合において、その取得した資産のうちに譲渡直前の用途と同一の用途に供さなかったものがあるときは、「交換特例」の適用については、その用途に供さなかった資産は、「交換特例」の適用がある取得資産には該当せず、その資産は交換差金等となる。 ◆交換差金等に対する課税 交換に伴って相手方から取得資産とともに金銭その他の資産を取得した場合には、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額に相当する部分は、「交換特例」を適用できる場合であっても、譲渡所得として課税の対象になる。 なお、親族同士の交換である場合には、交換資産の時価の差額であっても贈与税の課税対象となる。 (了)
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固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第59回】「一の収用換地等に係る事業で、2以上の年にわたる資産の譲渡のうち、最初の年以外の資産の譲渡に該当するから、特別控除の適用を受けることはできないとされた事例」
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第59回】 「一の収用換地等に係る事業で、2以上の年にわたる資産の譲渡のうち、最初の年以外の資産の譲渡に該当するから、特別控除の適用を受けることはできないとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷収用の特別控除と一の事業について、資産の譲渡が2年以上にわたったときの適用 収用等は、公共の用に供するため、半ば強制的に資産の譲渡をすることである。譲渡対価として補償金を受け取ることがあるが、迅速な収用を実現させるために一定の条件を満たす場合は、譲渡益のうち5,000万円までの損金算入を認める制度がある(措法65の2)。 要件はいくつもあるが、その一つとして一の収用換地等に係る事業について、2年以上にわたって譲渡が行われたときは、最初の年の譲渡に限られること(措法65の2③二)がある。これは、資産の譲渡を分割して行うことを認めると、迅速な収用が難しくなり、かつ、特別控除の限度額を意図的に増額させることになることから制限を設けた規定である。 とはいっても、収用等に供される状況によっては、やむを得ず、2年以上にわたって資産の譲渡が行われる場合がある。このようなケースに対応するために次の通達がある。 〈租税特別措置法関係通達65の2-10〉 今回は、収用等による資産の譲渡で最初の年以外の譲渡につき収用等の特別控除の適用の可否が争われた事案を検討する。 ▷事案の概要 納税者である法人は、館林市が認可したF土地区画整理事業の施行地区における道路の変更に関する工事の施行のために、所有する建築物等の移転をして補償金を取得することになった。 物件の移転の時期は年度計画に基づき、補償金の支払いは10年間の分割払いである。 移転により受け取った損失補償金等について、納税者は次のように益金に計上した。 これらはいずれも未収入金として計上していたが、収用等の特別控除として損金算入をしたのは、平成19年9月期である。この申告について、課税庁が更正処分等をしたことから、異議申立てをして一部取り消されたが、その後に審査請求を行い、棄却された。 そこで、税務相談における指導にも違法があった等として国家賠償法に基づく損害の賠償又は不当利得の返還等の請求をして訴えたのが本事案である。 ▷税務相談における指導の何が違法と納税者は主張したか 平成17年11月11日に、申告業をしていた会計事務所の職員を通じて、税務署の上席に税務相談した結果、上席が次のような指導を行った。 このように上席は、特例の適用について、市役所に丸投げしており、唯一行った②の指導が誤っていたから違法であると、納税者は主張した。 なぜ②が誤った指導であり違法かというと、この特別控除は、一の収用換地等に係る事業で資産の譲渡が2以上の年に行われているときは、最初の年の譲渡のみ適用があるものである。しかし、「全体で一度限り」というならば、譲渡が複数年にわたって行われた場合、どの年に特例を適用することができるかは選択できるととれるような発言をしたからである。 ▷なぜ、納税者は平成19年9月期に収用の特別控除を申告したのか 平成17年9月期、平成18年9月期において7,000万円弱の補償金の益金算入額があるのに、収用等の特別控除を行わなかったのは、これらの事業年度において未処理欠損金があり、収用等の特別控除により損金算入されると、繰越控除の適用期限を超えた未処理損失が切り捨てられることからである。 納税者としては、まず、繰越欠損金の控除を使い切り、所得が生ずる平成19年9月期に収用等の特別控除を適用することが、節税効果としては一番大きいからと考えられる。 ▷地裁の判断:一の収用換地等に係る事業に該当するか 市町村が施行する土地区画整理事業においては、基本的に、認可に係る事業をもって「一の収益換地等に係る事業」に当たると解するのが相当である。F土地区画整理事業という単一の事業の名称のものとして認可され、その施行地区が事業計画又は施行規定において工区に分けられたことや、施行地区を地域を区分して計画され、この計画に従って地域ごとに時期を異にして事業を施行することとされていたことはうかがわれない。 事業計画が定められた時点で単一の事業として想定されていたのであり、その後に事業計画が変更された等の事情の存在をうかがわせる証拠は見当たらない。納税者の所有する土地に存する建築物等の移転については、事業の施行地区内の道路の整備に関する工事の施行に伴う納税者の事業の継続等への影響等を考慮した上で、複数年に分けて順次そのための手順を踏むことが合意されたものである。各年の建築物等の移転又は工事の施行ごとに実質的に別個の事業と見るべき事情は格別存在しない。よって、一の収用換地等に係る事業に該当すると解するのが相当である。 「事業が1期工事、2期工事等と地域を区分して計画されており、当該計画に従って当該地域ごとに時期を異にして事業を施行する場合」(措通65の2-10(3))は、区分された地域ごとに別個の事業として同号の規定を適用するものとしているが、これは、事業規模が大きく、施行期間が長いいわゆる公共事業にある例で、第1期工事、第2期工事等と地域を区分して順次用地買収が行われる事例を想定して定められたものである。納税者の土地等に存する建築物等の移転について上記定めに当たるというべき事情の存在はうかがわれない。 ▷地裁の判断:税務相談における指導にも違法があったか 措置法65条の2第3項2号は、少なくとも税理士の資格を有する程度の知識等を備えた者においては明白に読み取れように規定してある。 税務相談がされた当時(平成17年11月11日)が上記の規定にいう「最初に当該譲渡があった年」に当たっていたこと及び上席においても上記の規定の内容を理解していたものと推認されることを踏まえると、上席の「全体で一度限りしか使えない」旨の発言については、上記の規定の内容をその時点における事実関係を前提に端的に説明したものと見るのが自然である。以上を超えて、次の年以降にされる納税者の建築物等の移転に伴う補償金についても本件特例の適用を受けることができる旨を積極的に示唆したと解する余地のあるような発言をしたことを裏付ける的確な証拠は見当たらない。 よって、納税者の違法であるという主張は採用できない。 ▷まとめ 本件は、納税者の請求が棄却され確定した。 繰越控除期限の近い未処理欠損金を多額に抱えた顧問先に対して、節税メリットを最大限取りたいために、まず、繰越欠損金を使用し、なくなったところで収用等の特別控除を利用したいという税理士側の思惑が引き起こした裁判だったと考える。 平成19年9月期に関して、収用等の特別控除は適用できない一方で、圧縮記帳の特例の適用は要件を満たせば可能だったかもしれないが、税の繰延べにしかならないことから税理士は選択しなかったのだろう。 なお、本件は、地裁で確定している。 (了)
