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プロフェッションジャーナル No.628が公開されました!~今週のお薦め記事~

2025年7月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.628を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2025/07/24
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

令和7年度税制改正の基礎控除の見直し等による源泉徴収事務への影響

令和7年度税制改正の基礎控除の見直し等による 源泉徴収事務への影響   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   令和7年度税制改正では、所得税の基礎控除及び給与所得控除に関する見直し、特定親族特別控除の創設等が行われた。これらの改正は、源泉徴収事務(月々の給与・賞与からの源泉徴収及び年末調整)に大きく影響する。 本稿では、改正事項の源泉徴収事務に対する影響を実務的な観点から解説する。 (※) 本稿では、給与の源泉徴収事務に関連する各申告書を次のとおり表記する。   【1】 令和7年度税制改正の概要 令和7年度は、所得税について、源泉徴収事務に関係する以下の改正が行われた。 各改正の詳細については、以下の記事をご参照いただきたい。   【2】 源泉徴収事務への影響 【1】①~④の改正(基礎控除、給与所得控除、特定親族特別控除、扶養親族等の所得要件)は、令和7年分の所得税から適用される。しかし、改正後の法律は、令和7年12月1日に施行される。よって、令和7年11月までの源泉徴収事務は改正前の法律に基づいて行い、令和7年12月以後の源泉徴収事務、具体的には令和7年12月以後に実施される年末調整の際に、改正後の基礎控除等を適用し、税額の精算を行うこととなる。 なお、【1】⑤の改正(生命保険料控除の特例)は、令和8年分の所得税に限り適用される。よって、令和7年分の源泉徴収事務には影響しない。   【3】 令和7年分の給与・賞与からの源泉徴収における留意事項 【1】①~④の改正は、令和7年分の所得税から適用されるが、改正後の法律の施行日は令和7年12月1日である。よって、令和7年11月までの給与・賞与及び公的年金等の源泉徴収事務に変更は生じない。給与・賞与について改正内容を反映するのは、令和7年12月1日以後に行う年末調整からとなる(※)。 (※) 公的年金等の源泉徴収事務においては、基礎控除について改正前と改正後の控除額に基づいて令和7年12月の支払の際に精算が行われる。公的年金等の受給者が、令和7年分の所得税について、特定親族特別控除の適用を受ける場合や、扶養親族等の所得要件の改正により扶養控除等の適用を受けることができることとなった場合には、原則として確定申告をする必要がある。   【4】 令和7年分の年末調整における留意事項 令和7年12月1日以後に行う年末調整における留意事項は、以下のとおりである。 (※) 特定親族特別控除申告書は、基礎控除申告書、配偶者控除等申告書及び所得金額調整控除申告書との兼用様式とされている。 なお、海外転勤等の理由により、令和7年11月30日以前に年末調整を行う場合には、改正前の法律に基づいた計算を行うことになる。   【5】 令和8年分以後の給与・賞与からの源泉徴収における留意事項 令和8年分以後の給与・賞与からの源泉徴収における留意事項は、以下のとおりである。 (※) 国税庁ホームページに、令和7年8月末頃掲載される予定である。 特定親族特別控除の創設に伴い、令和8年分以後の扶養控除等(異動)申告書には、源泉控除対象親族を記載することとなった(所法194①五)。源泉控除対象親族とは、次の①又は②のいずれかに該当する人をいう(所法2①三十四の五)。 【参考:親族の範囲】 (出典) 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)」の7頁より抜粋 なお、給与や賞与からの源泉徴収税額は、扶養控除等(異動)申告書に記載された扶養親族等の数により求めることとされている。令和8年分以後における扶養親族等の数は、源泉控除対象配偶者及び源泉控除対象親族の数に基づいて算定する(所法185①、186①②)。   (了)
#628(掲載号)
#篠藤 敦子
2025/07/24
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正-防衛特別法人税等の企業への影響- 【第1回】

国家安全保障から見る令和7年度及び近年の税制改正 -防衛特別法人税等の企業への影響- 【第1回】   公認会計士・税理士 荒井 優美子   1 地政学リスクの増大と経済安全保障を確保する経済政策 我が国の安全保障確保への対応は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻前では、我が国周辺の安全保障環境の変化への対応に必要な防衛力を大幅に強化し、多次元統合防衛力を構築する、として具体的な計画のタイムスケジュールは明記されていなかった(経済財政運営と改革の基本方針2021)。 その後、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、新たな「中期防衛力整備計画」を策定し、防衛力を5年以内に抜本的に強化する(経済財政運営と改革の基本方針2022)ことが明記されるに至った。与党の令和5年度税制改正大綱は、この方針を受けて、税制による財源確保の対応を明確にしたものである。 ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、我が国の安全保障確保を担保する防衛力強化の方針が明確にされただけではなく、エネルギー安全保障の強化や金属鉱物資源等の安定確保、国内外のサプライチェーンの強靱化等の経済安全保障政策についても更なる見直しを行い、税制措置の検討も行われている。 本稿では、11回にわたり国家安全保障に関連する税制措置について、防衛特別法人税を中心に政策税制の解説を行い、企業活動への影響を検討する。   2 防衛力の抜本的強化の財源としての防衛特別法人税の創設 2025年6月13日に、「経済財政運営と改革の基本方針2025 ~「今日より明日はよくなる」と実感できる社会へ~」(骨太方針2025)が閣議決定された。 骨太方針2025では、当面のリスクへの対応として米国による一連の関税措置を掲げているが、今後の経済政策の柱として掲げる、賃上げの普及・定着、地方創生2.0の推進、「投資立国」及び「資産運用立国」等は、2024年の骨太方針(「経済財政運営と改革の基本方針2024 ~賃上げと投資がけん引する成長型経済の実現~」)や2024年11月23日に閣議決定された総合経済対策(「国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策」、以下、「総合経済対策」)における経済政策を踏襲するものである。 令和7年度税制改正は、総合経済対策の第1の柱とされた、賃上げ環境の整備としての中堅・中小企業の生産性向上や地方創生2.0の方針を受け、政策税制の中心は中小・中堅企業支援の措置とされ、大企業向けの政策税制として注目すべきものは見られない。 その一方で、「我が国の防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源の確保に関する特別措置法」の改正により創設された防衛特別法人税は、増税による将来のキャッシュフローへの影響や、2025年3月31日以後に事業年度の末日を迎える企業の財務諸表への影響(税率変更に伴う繰延税金資産、繰延税金負債の積み増し)等、令和7年度税制改正の中でも企業の関心が高い項目の1つである。 防衛特別法人税の創設については、与党の令和5年度税制改正大綱において、我が国の防衛力の抜本的な強化を行うに当たり、歳出・歳入両面から安定的な財源を確保するために、税制部分については、令和9年度に向けて複数年かけて段階的に実施することとし、法人税、所得税、たばこ税を対象に令和6年以降の適切な時期に実施することが明記された。 そして、令和6年度に成立した、所得税法等の一部を改正する法律附則第74条において、所得税、法人税及びたばこ税について所要の検討を加え、適当な時期に必要な法制上の措置を講ずることが、明記されていた。令和7年度税制改正により、法人の2026年4月1日以後に開始する各事業年度を課税事業年度とする、防衛特別法人税が導入され、たばこ税は加熱式たばこの課税方式の見直しが行われたが、所得税は引き続き検討することとされている 。   3 経済安全保障政策と税制措置 サプライチェーンの強靭化が経済政策として提唱されたのは、パンデミックが発生した2020年の総合経済対策においてである。 コロナ危機を契機に浮き彫りとなった海外での生産拠点の集中度が高いサプライチェーンの脆弱性に対処するべく、国内外でサプライチェーンの強靱化支援(国内増産等に寄与する設備投資(サプライチェーン対策のための国内投資促進事業)や、海外生産拠点の多元化に資する設備投資に対して支援を実施)が補助金制度により手当された。この経済政策は、ロシアによるウクライナ侵攻と円安の進行により、一層加速されることとなった。 令和7年度税制改正では、エネルギーサプライチェーンの強靱化のための税制支援として、減耗控除制度(探鉱準備金又は海外探鉱準備金、新鉱床探鉱費又は海外鉱床探鉱費の特別控除)の拡充及び延長が行われた。 減耗控除制度は、「民間企業による継続的かつ安定的な探鉱活動を下支えし、持続的な鉱山経営を後押しすることにより、エネルギー・鉱物資源の安定供給確保に着実に寄与してきた」(経済産業省の令和7年度税制改正要望)税制措置であり、「鉱物資源不足によるDX、GX本格化への制約と中長期的権益確保の必要性」や、今後の供給量不足が見込まれる、石油・天然ガスの上流投資の必要性から税制改正要望に盛り込まれたものである。 令和6年度税制改正では海外投資等損失準備金の見直し及び延長も行われている。海外投資等損失準備金制度は、石油・天然ガスや鉱山における探鉱・開発を行う際、必要な資金の一部を準備金として積み立て、損金算入を認めることで、手元に資金を残し、さらなる投資を促進する税制措置として60年以上前に導入された海外投資支援措置である。 令和6年度税制改正で創設された戦略分野国内生産促進税制は、経済安全保障の確立及び国内生産基盤の強化に係るインフラ整備を目的とするアメリカの「インフレ削減法(Inflation Reduction Act)」(2022年8月16日に成立)に倣い、立法化された。 戦略分野国内生産促進税制は、国として特段に戦略的な長期投資が不可欠となるGX・DX・経済安全保障の戦略分野における国内投資を促進するため、産業競争力基盤強化商品の生産設備の新設等を行った場合に、産業競争力基盤強化商品生産・販売量に応じて法人税額の控除を認めるもので、戦略分野への投資を自国内に誘導する政策税制として位置付けられる。 改正後の産業競争力強化法の施行日(2024年9月2日)から2027年3月31日までに産業競争力強化法の認定を受けた事業者(認定産業競争力基盤強化商品生産販売事業者)が適用の対象とされる。産業競争力基盤強化商品とは、電気自動車等(蓄電池)、グリーンスチール、グリーンケミカル、SAF(持続可能な航空燃料)、半導体である。 (続く)
#628(掲載号)
#荒井 優美子
2025/07/24
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

令和7年度税制改正における『グループ通算制度』改正事項の解説 【第4回】

令和7年度税制改正における 『グループ通算制度』改正事項の解説 【第4回】   公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸   2 グループ通算制度における取扱い (1) 改正後の分割割合及び分配割合の計算方法 改正後の分割割合及び分配割合の計算方法は次のとおりとなる(法令8①十五・十七・②、23①二・三・②、119の8、119の8の2、法規8の2の3②、8の5の2②)。 ① 分割割合 [分割割合の計算方法] (注1) 分割法人の移転簿価純資産価額とは、分割法人の分割直前の移転資産の帳簿価額(※1)から移転負債の帳簿価額を控除した金額(その金額が分母の金額を超える場合(分母の金額が0に満たない場合を除く)には、分母の金額)をいう。 (注2) 分割法人の簿価純資産総額とは、分割法人の分割日の属する事業年度の前事業年度(その分割日以前6ヶ月以内に仮決算による中間申告書を提出し、かつ、その提出日からその分割日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、その中間申告書に係る期間)終了の時の資産の帳簿価額から負債(新株予約権及び株式引受権に係る義務を含む)の帳簿価額を減算した金額(その終了の時からその分割の直前の時までの間に資本金等の額又は利益積立金額(当期の所得金額等に基づく留保金額に係るもの及び投資簿価修正額を除く)が増加し、又は減少した場合には、その増加した金額を加算し、又はその減少した金額を減算した金額(※2))をいう。 (※1) 調整対象通算法人の株式にあっては、その株式の修正帳簿価額を分割法人がその分割の直前に有していた調整対象通算法人の株式の数で除し、これにその分割により分割法人から分割承継法人に移転をした調整対象通算法人の株式の数を乗じて計算した金額とする。 (※2) その分割の直前の時において調整対象通算法人の株式を有する場合にはその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額に満たないときにおけるその満たない部分の金額を加算し、又はその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額を超えるときにおけるその超える部分の金額を減算した金額とする。 ② 分配割合 [分配割合の計算方法] (注1) 株式分配法人の株式分配の直前の完全子法人の株式の帳簿価額(※1)(その金額が0以下である場合には0とし、その金額が分母の金額を超える場合(分母の金額が0に満たない場合を除く)には分母の金額)とする。 (注2) 株式分配法人の簿価純資産総額とは、株式分配法人の株式分配の日の属する事業年度の前事業年度(その株式分配の日以前6ヶ月以内に仮決算による中間申告書を提出し、かつ、その提出日からその株式分配の日までの間に確定申告書を提出していなかった場合には、その中間申告書に係る期間)終了の時の資産の帳簿価額から負債(新株予約権及び株式引受権に係る義務を含む)の帳簿価額を減算した金額(その終了の時からその株式分配の直前の時までの間に資本金等の額又は利益積立金額(当期の所得金額等に基づく留保金額に係るもの及び投資簿価修正額を除く)が増加し、又は減少した場合には、その増加した金額を加算し、又はその減少した金額を減算した金額(※2))をいう。 (※1) 調整対象通算法人の株式にあっては、その株式の修正帳簿価額とする。 (※2) その株式分配の直前の時において調整対象通算法人の株式を有する場合にはその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額に満たないときにおけるその満たない部分の金額を加算し、又はその株式の修正前帳簿価額が修正帳簿価額を超えるときにおけるその超える部分の金額を減算した金額とする。 ③ 調整対象通算法人・修正前帳簿価額・修正帳簿価額の定義 [定義]   (続く)
#628(掲載号)
#足立 好幸
2025/07/24
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例148(法人税)】 「代替資産を資産計上して「収用等の特別控除」を適用すべきところ、修繕費として譲渡経費に計上したため、税務調査で指摘を受け、修正申告で修繕費を資産計上したが、当初申告で資産計上していなかったため、「収用等の特別控除」も「代替資産の圧縮記帳」も適用できなくなってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例148(法人税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆収用換地等の場合の所得の特別控除(措法65の2) 所有する資産が土地収用法等の規定により収用されたとき、又は買取り申出を拒めば収用されることとなる場合において買い取られたときで、その収用等が次の全ての要件に該当しているときは、その資産の譲渡益(補償金等の額から譲渡直前の帳簿価額及び譲渡経費の額の合計額を控除した金額)と5,000万円とのいずれか低い金額をその譲渡の日を含む事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入することができる。 ◆収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例(措法64) (1) 内容 法人の所有する資産が収用等され、交付を受けた補償金等(対価補償金および移転補償金などで対価補償金として取り扱うものに限る。)により代わりの資産(以下「代替資産」という。)を取得した場合には、代替資産について圧縮限度額の範囲内で帳簿価額を損金経理により減額するなどの一定の方法で経理したときは、その減額した金額を損金の額に算入する圧縮記帳の適用を受けることができる。 (2) 適用要件 この特例の適用を受けるためには、次のいずれの条件も満たすことが必要である。 (3) 特例を受けるための経理方法 この特例を受けるためには、次のいずれかの経理方法を採用する必要がある。 (4) 圧縮限度額 圧縮限度額は次の算式により計算する。 (5) 手続き この特例を受けるためには、確定申告書等に損金の額に算入される金額を記載するとともに収用換地等に伴い取得した資産の圧縮額等の損金算入に関する明細書(別表13(4))など一定の書類を添付し、かつ、一定の書類を保存することが必要である。 (6) 選択適用 法人が収用等の補償金等についてこの特例を受けない場合には、一定の要件を満たすときに限り、「収用換地等の場合の所得の特別控除」の規定を適用することができる。       (了)
#628(掲載号)
#齋藤 和助
2025/07/24
固定資産税・都市計画税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第51回】「食堂の冷房のために設置されたクーラーは簡単に取り外すことができ、7組の室内機と室外機が各々稼働又は休止しているから建物附属設備ではなく、単体の冷房用機器(器具及び備品)の集合体とされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第51回】 「食堂の冷房のために設置されたクーラーは簡単に取り外すことができ、7組の室内機と室外機が各々稼働又は休止しているから建物附属設備ではなく、単体の冷房用機器(器具及び備品)の集合体とされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷建物附属設備と器具及び備品 建物附属設備とは、暖冷房設備、照明設備、通風設備、昇降機その他建物に附属する設備(法令13一)と法人税法上定義されている。この中の冷暖房設備であるが、耐用年数省令の別表によると冷暖房設備(冷凍機の出力が22キロワット以下のもの)の耐用年数は13年であり、その他のものは15年とされている。 他方、工具、器具及び備品の中においても冷房用又は暖房用機器があり、この耐用年数は6年である。 冷暖房設備と冷房用又は暖房用機器の違いについて耐用年数通達では「冷却装置、冷風装置等が1つのキャビネットに組み合わされたパッケージドタイプのエアーコンディショナーであっても、ダクトを通じて相当広範囲にわたって冷房するものは、「器具及び備品」に掲げる「冷房用機器」に該当せず、「建物附属設備」の冷房設備に該当する(耐用年数通達2-2-4)とされている。 では、大きなスペースを冷房するためにいくつもの冷房装置があり、室内機は天吊り式であり、配管が天井内を伝わっているものは建物附属設備に該当するのか、それとも、器具及び備品となるのか。この件で争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か 日用品の供給及び食堂事業等を行う生活協同組合である納税者が、食堂ホールの冷房のために設置したクーラーを主たる減価償却資産における器具及び備品として申告したところ、課税庁が、大部分は建物附属設備として更正処分をしたことから不服な納税者が審査請求したのが本事案である。 なお、更正の理由として「ダクトを通じて相当広範囲にわたって冷房をするものに該当するから建物附属設備の冷暖房設備に該当する」とされていたが、ダクトは、冷媒配管の屋外を通る部分を隠すための化粧用ダクトであり冷風を通すためのものではないことが確認されたため、「①7組の各冷房設備が相互に結合して1つの設備として機能している。②大学会館の建物本体に固着しているから建物附属設備に該当する。」として更正処分を維持する異議決定がなされた。   ▷争点 争点は、課税庁の行った上記減価償却に係る更正処分は取り消されるべきかである。   ▷裁決 裁決は、課税庁の更正処分を全部取り消すとした。理由は要旨以下のとおりである。 本事例では、納税者の主張が全面的に認められた。 これは、各設備が相互に結合して1つの冷房設備として機能しているのではなく、1組の室内機と室外機で冷房として機能し、それが7組あったと認められたこと、簡易に取り外しができることから、建物に固着しているとはいえないこと、以上から建物附属設備ではないとされたからである。 クーラーが建物附属設備に該当するか器具及び備品に該当するかを判断する際には、書類だけでなく実際に現物を見て、上記のポイント等を確認することが重要であることをこの事例は語っている。 (了)
#628(掲載号)
#菅野 真美
2025/07/24
税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第72回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第72回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   イ カストディアンがいるケース ニューヨーク州法曹協会(NYSBA)のレポート38頁は、連邦所得税法上、納税者は、次の場合に限り、ラップ、アンラップ又はラップドトークンの保有者が市場取引によりそのラップドトークンと原トークンの交換を行う場合の交換取引に関する損益を認識しなければならない(財務省規則1.1001-1(a)参照)とする。 その上で、カストディアンその他の原トークンの保有者がその原トークンをいかなる他者に対しても譲渡する権利を有しておらず、かつ、ラップドトークンの保有者がいつでもこれを原トークンと交換することができる場合に限り、連邦所得税法上、ラップドトークンの保有者が原トークンのownerとして扱われることを米国内国歳入庁(IRS)はガイダンスで明確にすべきであると提言している(NYSBA・前掲レポート40~41頁)。 このような見解をそのまま我が国における課税関係の議論に持ち込むことは難しいとしても、いくばくかの示唆を得ることができよう。 本稿では、カストディアンがいるケースにおけるラップによるトークンの移転は、その処分権の移転を伴わず、ラップ後においても原トークンの処分権は依然として元の保有者に帰属するため、課税イベントではないという見解を示す。 BTCをWBTCにラップする場合、BTC保有者は、マーチャント経由でカストディアンにBTCを移転し、代わりにWBTCを受領するが、その後においては、ラップとは正反対の手順でWBTCと引き換えに同量のBTCの返還を受けることができる。 カストディアンは、マーチャント経由でアンラップの依頼があるまで、自身の分別管理されたウォレットでBTCを保管した上で、外部監査を実施してそのことを公に検証できる状態にしている。 事実関係及び法律関係を精査する余地はあるかもしれないが、ユーザーは、BTCを移転したことに伴い、当該BTCの処分権までもカストディアンに移転したわけではなく、カストディアンはユーザーのBTCを預かっているにすぎず、(処分権以外の権利の移転を受けている可能性は否定しないが)移転を受けたBTCを自由に処分することは認められないと解される。 そうであるとすれば、原トークンの処分権の移転がないのであるから、ラップは原トークンの含み損益に係る課税イベントではない。 また、所得税法36条の収入等との関係では、BTCをラップすることにより、BTCのままではアクセスできなかったアプリケーションにアクセスできるようになることから、ラップによって「実質的に異なる法的権利が得られる」(Miles Brooks, The Taxability of Wrapping Digital Assets, 176 Tax Notes Federal 201, 202(2022))、「発生している所得が別のもの(または具体的な何か)に形を変えて所得の大きさを計れるようにな」った、あるいは「資産を手放して、それと実質的に異なる資産を取得」したなどとして、所得が実現しているとか、少なくともトークン同士の交換という譲渡があったとか、これにより収入があったと解すべきであると論じる見解が考えられる(実現の意義について、本連載第67回の27(2)参照)。 もっとも、ユーザーのBTCがカストディアンのアドレスに移転され、カストディアンはそのBTCを保管しなければならず、ユーザーはいつでも好きなときにWBTCを戻すことでそのBTCの返還を受けることができるという仕組みを前提とすれば、DEXにBTCを預けたユーザーにとってWBTCはDEXが発行した預かり証のようなものであって、多少のディペグがあるとしても、1対1でペグされているBTCとWBTCの価値はほぼ同額になるはずであり、その価値はその預託されたBTCの経済的価値を表章しているといえる。 WBTCは、BTCと同一の価値を有し、互いに容易に交換可能なものであり、BTCと実質的に同一の資産であるという議論もありうる(Jason Schwartz, The Taxation of Decentralized Finance, 174 TAX NOTES FEDERAL 767, 769-770.(2022))。 ユーザーからすれば、このようなWBTCの受領をもって、外部から経済的価値が入ってきたとはいい難く、純資産の増加はないとして、収入があったとはいえないという見解やBTCを譲渡していないという見解が考えられる。 結局、カストディアンがいる場合のBTCからWBTCへのラップは、ユーザーがマーチャント経由でBTCをカストディアンに預託し、その預託されたBTCの経済的価値を表章し、かつ、移転(預託)したBTCと同数量のBTCの返還を受ける権利を表章するWBTCを得る取引であるといえる。 (※) Napkin AIを利用して筆者作成 この場合のトークンの移転は、預託、(トークンが寄託の対象たる物であるか、受寄者が存在するかなど議論すべき点はあるが)寄託(民法657)、混合寄託(民法665の2)ないしこれらに準じるものとして検討する余地があるように思われるが、いずれも所得税法上の譲渡や収入はない。 よって、WBTCのようなカストディアンがいる場合のラップは、処分権の移転としての譲渡はなく、あるいは収入はないため、移転したトークンの含み損益に係る課税イベントではないと解される。 ウ カストディアンがいないケース トークンの移転によって、そのトークンの処分権がその移転先に移転するためには、移転先が権利義務の帰属主体でなければならないが、スマートコントラクトを利用するにすぎず、カストディアンがいないラップの場合には、そもそも相手方として権利義務の帰属主体になり得る者が存在せず、譲渡を観念できない。 ユーザーによるトークンの移転は、外部との取引や権利移転のやりとりのない単独行為であり、せいぜい自己取引にすぎない。よって、課税イベントではないという見解が考えられる。 例えば、ETHをWETHにラップすることがある。WETHは、高速かつ安価な取引実行を可能にするイーサリアム互換ネットワーク(いわゆる「レイヤー2ネットワーク」など)へのブリッジのために広く利用されているトークンである。 ETHをWETHにラップする場合を考えてみると、例えば、Uniswapでこれを行うときは、カストディアンは存在せず、単にスマートコントラクトにETHを移転することで自動的にWETHがミントされる。 相手方として権利義務の帰属主体は存在せず、ETHの移転に伴い、ユーザーが有するETHの処分権が誰かに移転するわけではない。ただし、WETHをそのコントラクトアドレスに送付しない限りは、ETHは戻ってこない、自由に処分できないという意味での制限は付されている(コントラクトアドレスの意義については本連載第69回の27(5)参照)。 ユーザーが上記コントラクトアドレスにETHを移転し、そこにETHがロックされ、その代わりにユーザーはETHと1対1でペグされているWETHを受領し、以後、ユーザーはいつでも好きなときにWETHを戻すことでそのETHの返還を受けることができるという仕組みを前提とすれば、上記WBTCの場合とほぼ同様の理屈により、WETHの受領をもって、収入があったとはいえないという見解があり得る。 つまり、WETHは、ETHと同一の価値を有し、互いに容易に交換可能なものであり、ETHと実質的に同一の資産であり、ユーザーからすれば、このようなWETHの受領をもって、外部から経済的価値が入ってきたとはいい難く、純資産の増加はないとして、収入があったとはいえないという見解やETHを譲渡していないという見解が考えられる。 以上のとおり、カストディアンがおらず、単独行為又は自己取引のようなものとして、スマートコントラクトを利用する場合のラップは、処分権の移転としての譲渡はなく、あるいは収入はないため、移転したトークンの含み損益に係る課税イベントではないと解される。 なお、UniswapでETHと他のトークンをペアにして流動性供給等する場合、(多くのユーザーは意識又は認識していないかもしれないが)スマートコントラクト内部ではETHがWETHに交換される。 この場合、ETHが上記のコントラクトアドレスに送付されている点で変わりはないが、ユーザーはこの取引を認識していない場合もあるし、WETHはユーザーのウォレットに移転されるわけではないことなどから、そもそもユーザーがWETHを取得したものとは取り扱うべきではないという議論がある。   (了)
#628(掲載号)
#泉 絢也
2025/07/24
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第75回】「外国証券会社への売委託による株式譲渡損失に関する繰越控除の適用可否(地判平27.7.3、高判平28.3.17)(その1)」~租税特別措置法37条の12の2、日本国憲法13条・14条・84条・98条2項、 日米租税条約1条2項(a)~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第75回】 「外国証券会社への売委託による株式譲渡損失に関する繰越控除の適用可否(地判平27.7.3、高判平28.3.17)(その1)」 ~租税特別措置法37条の12の2、日本国憲法13条・14条・84条・98条2項、 日米租税条約1条2項(a)~   公認会計士・税理士 西川 浩史     1 はじめに 本件は、確定申告において外国証券会社への売委託により生じた株式譲渡損失の繰越処理を行った納税者に対して、課税庁が当該処理を適用するための要件を満たしていないとして更正処分を行った事案である。 納税者は、憲法違反、日米租税条約違反、規定の解釈及び適用の誤りを主張したが、地裁・高裁ともに納税者の主張を認めず、最高裁も上告を棄却したため、課税庁の勝訴が確定した。 本件の背景には、「貯蓄から投資へ」の政策目的のための税制改正や「投資交流促進」等を目的とした日米租税条約の改正があり、これらの内容の理解が前提になる。また、株式譲渡損失の繰越控除制度の本質についても検討が必要と考える。 本件の争点である憲法14条(平等原則)違反か否かに関して、裁判所はサラリーマン税金訴訟(大島訴訟)(以下「大島訴訟」)(※1)の最高裁判決での判断基準をもとに違憲審査を行い、違憲ではないとの結論を出した。租税立法に対する違憲審査基準のあり方についても検討をしたい。 (※1) 大島訴訟とは、事業所得者に比べて給与所得者は著しく不公平な税負担をしているとして、憲法14条1項違反を争った訴訟である。金子宏教授は「本件判決は、裁判所の租税立法に対する違憲審査の基準、租税法律主義、および租税公平主義と給与所得の課税の3つの問題に関する判例として重要な位置を占めている。租税法の判例の中でも最も重要で興味ぶかい判例の1つである。」と述べられている。金子宏「憲法と租税法-大島訴訟」『租税判例百選[第6版]』別冊ジュリスト228号(2016.6)6頁。   2 事案の概要 国内に住所を有する青色申告者である納税者(原告、控訴人)(※2)は、平成23年中に、米国証券会社への売委託により行った株式譲渡損失について、平成24年法律第16号による改正前の租税特別措置法(以下「租税特別措置法」)37条の12の2が規定する特例(上場株式等に係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除(※3))(以下「本件特例」)が適用されるとして平成23年分の所得税の確定申告をした。 (※2) 地裁の判決文の別紙「課税の経緯」によれば、納税者は株式譲渡所得以外に配当所得や先物取引に係る事業所得(分離課税)等を有しており日本人の個人投資家と推測する。 (※3) 本件事案では、「繰越控除」の適用有無のみが問題になっているが、本来ならば、先に適用される「損益通算」の適用有無も含めた議論が行われるべきであったのではないかと考える。 課税庁(被告、被控訴人)は、納税者に対し、平成24年11月28日付けで、本件米国証券会社への売委託により生じた株式譲渡損失の金額について本件特例の適用がなく、翌年以後に繰り越すことができないなどとして、翌年以後に繰り越す株式譲渡損失の金額を納税者の申告に係る31,968,863円から8,139,478円と更正をした。 なお、本件米国証券会社は、本件特例の対象業者(以下「本件特例対象業者」)に該当しないことには争いはない。   3 地裁及び高裁の判断(判決文の一部及び要約。下線及び注記は筆者追加) 裁判での争点は以下の4点である。高裁は、争点①については地裁の判断に追加を行っているが、争点②・争点③・争点④については、地裁の判断をそのまま採用している。本稿では、争点①・争点③・争点④を検討対象とする。 (1) 有価証券の譲渡による所得税課税に関する税制改正の経緯 地裁及び高裁では、有価証券の譲渡による所得税課税に関する税制改正の経緯を以下のように説明している。 (※4) この繰越控除制度が、租税特別措置法37条の12の2による本件特例である。なお、一般株式等に係る譲渡所得の計算上生じた損失は、生じていなかったものとみなされるため、繰越控除の適用はない(租税特別措置法37条の10第1項)。 (2) 本件特例は憲法13条ないし14条に違反するか(争点①) 地裁は、大島訴訟の最高裁判決での違憲審査の判断基準に従い、以下の検討を行い、憲法13条ないし14条には違反しないと判断した。 高裁は、下記のように控訴人の主張に対する判断を付加し、地裁と同様の結論としている。 (3) 本件特例は日米租税条約ないし憲法98条2項に違反するか(争点③) (4) 本件特例の解釈・適用に関する違法性の有無(争点④) ((その2)へ続く)
#628(掲載号)
#西川 浩史
2025/07/24
会計 税務・会計 解説 解説一覧

〔まとめて確認〕会計情報の四半期速報解説 【2025年7月】第1四半期決算(2025年6月30日)

〔まとめて確認〕 会計情報の四半期速報解説 【2025年7月】 第1四半期決算(2025年6月30日)   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 3月決算会社を想定し、第1四半期決算(2025年6月30日)に関連する速報解説のポイントについて、基本的に2025年4月1日から6月30日までに公開した速報解説を対象としている。 公開草案及び適用時期が将来のものは、基本的に記載の対象外としている。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。 なお、月ごとの速報解説のポイントについては、下記の連載を参照されたい。   Ⅱ 会計関係 次のものが公表されている。 〇 会計制度委員会研究報告第18号「補助金等の会計処理及び開示に関する研究報告」 (内容:補助金等に関する会計処理及び開示について研究したもの。日本公認会計士協会)   Ⅲ 金融商品取引法関係 次のものが公布・公表されている。 ① 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則及び連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第31号) (内容:「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」(企業会計基準第27号)の改正を受けたもの) ② 「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等 (内容:「金融商品会計に関する実務指針」(改正移管指針第9号)、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等の修正を公表したこと等を受けたもの。意見募集期間は2025年7月7日まで) ③ 「特定目的信託財産の計算に関する規則等の一部を改正する内閣府令」(内閣府令第62号) (内容:「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたもの)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 ① 監査基準報告書560周知文書第1号「事後判明事実への対応に関する周知文書」 (内容:事後判明事実への対応について、日本公認会計士協会の会員の理解に資するために公表するもの) ② 監査基準報告書300実務ガイダンス第1号「監査ツール(実務ガイダンス)」の改正 (内容:倫理規則改正に伴う記載の変更など) ③ 「上場会社等の監査を行う監査事務所の適格性の確認のためのガイドライン」の改正 (内容:監査ファイルの最終的な整理期間中の改竄防止策に関する改正など) ④ 「倫理規則」の改正(定期総会に付議する予定の改正案の公表) (内容:タックス・プランニング業務及び関連業務に関して改正するもの)   Ⅴ 監査役等の監査関係 監査役等の実施する監査などに関連して、次のものが公表されている。 〇 改定版「監査役監査実施要領」 (内容:2024年4月の金融商品取引法における四半期開示制度の改正などの各種制度改正を反映したもの)   Ⅵ 過年度に公表されている会計基準等 過年度に公表されている会計基準等のうち、2025年4月1日以後に適用されるもの(早期適用を含む)として、次の会計基準等がある。 ① 「グローバル・ミニマム課税制度に係る法人税等の会計処理及び開示に関する取扱い」(実務対応報告第46号)等 (内容:グローバル・ミニマム課税について、法人税及び地方法人税の会計処理及び開示の取扱いを示すもの。補足文書がある。2024年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号14項)。ただし、実務対応報告第46号13項の四半期財務諸表及び中間財務諸表における注記の定めについては、実務対応報告第46号14項の定めにかかわらず、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する(実務対応報告第46号15項)) ② 2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正 (内容:包括利益の表示、特別法人事業税及び種類株式の取扱いについて改正するもの。早期適用の可否については、各会計基準等をお読みいただきたい。改正包括利益会計基準及び改正株主資本適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度の期首から適用する。改正法人税等会計基準及び改正税効果適用指針は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。改正「種類株式の貸借対照表価額に関する実務上の取扱い」(実務対応報告第10号)は、2025年4月1日以後最初に開始する連結会計年度及び事業年度の期首以後取得する種類株式について適用する) ③ 改正移管指針第9号「金融商品会計に関する実務指針」 (内容:ベンチャーキャピタルファンドに相当する組合等の構成資産である市場価格のない株式の時価評価に関するもの。2026年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) ④ 企業会計基準第34号「リースに関する会計基準」等 (内容:借手のすべてのリースについて資産及び負債を計上するリースに関する会計基準。2027年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用する。ただし、2025年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度の期首から適用することができる) (了)
#628(掲載号)
#阿部 光成
2025/07/24
労務・法務・経営 法務

〈2026年1月施行〉下請法改正と企業対応のポイント【前編】「下請法改正の概要」

〈2026年1月施行〉 下請法改正と企業対応のポイント 【前編】 「下請法改正の概要」   弁護士法人東町法律事務所 弁護士 木下 雅之   1 はじめに 2025年5月16日、下請法の改正法案が衆議院本会議において可決、成立した。 改正の主な目的は、近年の急激な労務費、原材料費、エネルギーコストの上昇を背景に、中小企業をはじめとする事業者が物価上昇を上回る賃上げを実現するためには、サプライチェーン全体で適切な価格転嫁を定着させる「構造的な価格転嫁」の実現を図っていくことが重要だという点にある。かかる改正法の目的から、2026年の春闘を見据えた中小企業の賃上げ原資の確保につなげるため、改正法の施行日は2026年1月1日とされており、事業者は早急な対応が必要となるが、改正法は下請法の適用範囲を拡大するとともに、親事業者による禁止行為も拡充するなど、実務への影響は小さくない。 なお、「下請」という用語は発注者と受注者が対等な関係ではないという語感を与えること、時代の変化に伴い発注者である親事業者の側においても「下請」という用語は使われなくなっていることなどの理由から、改正法では、「下請」等の用語が見直されており、「親事業者」を「委託事業者」、「下請事業者」を「中小受託事業者」、「下請代金」を「製造委託等代金」等に改めるとともに、法律の名称も「下請代金支払遅延等防止法」から「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」に改められることとなった。以下では、かかる用語の見直しに倣うこととし、便宜上、改正法を「中小受託取引適正化法」、現行下請法を単に「現行法」という。   2 協議を適切に行わない代金額の決定の禁止(禁止行為の拡充) 上述した改正の目的に照らし、適切な価格転嫁の円滑化は重要なテーマの1つであるところ、中小受託取引適正化法は、委託事業者の新たな禁止行為類型として、「協議を適切に行わない一方的な代金額の決定」を追加した。 具体的には、中小受託事業者の給付に関するコストが上昇しているなどの場合において、中小受託事業者から価格協議の求めがあったにもかかわらず、当該協議に応じなかったり、当該協議において中小受託事業者が求めた事項について委託事業者が必要な説明もしくは情報の提供を行わなかったりするなど、一方的に代金を決定して、中小受託事業者の利益を不当に害する行為は禁止される(中小受託取引適正化法5条2項4号)。 これまで、コストが上昇しているにもかかわらず価格を据え置く行為については、「買いたたき」(現行法4条1項5号)に該当するものとして、対処がなされてきた。しかしながら、従来の「買いたたき」は、「市価」の把握が困難な場合に、「従前の対価」をもって「通常支払われる対価」として取り扱い、「従前の対価」に比して著しく低い下請代金の額を不当に定めることを「買いたたき」にあたるものと解釈しており、基本的には、従前の対価を引き下げる場面を想定した規定であった。 そのため、コストの上昇局面において当該上昇分を対価に反映しない行為についても、「買いたたき」に該当するものとして対処することが適当であるかどうかは疑問の残るところであったが、中小受託取引適正化法は、一方的ではない実質的かつ実効的な価格協議が確保されることで適正な価格転嫁が実現されるという考えの下、「対価」ではなく「交渉プロセス」に着目した禁止行為類型を新設したものである。   3 手形払い等の禁止(禁止行為の拡充) 現行法上、委託事業者は、受領日から60日以内のできる限り短い期間内において支払期日を定めた上(現行法2条の2)、その支払期日までに製造委託等代金を支払わなければならない(現行法4条1項2号)。 もっとも、支払手段については、現金払いを原則としつつも、手形やその他の支払手段(電子記録債権、ファクタリングなどの一括決済方式)による支払も認められており、例えば、受領日から60日以内の支払期日に手形を交付すれば、委託事業者は支払遅延とならないものの、中小受託事業者は、そこから手形サイトに相当する期間を待たなければ現金を受領することができず、手形等による支払いは、実質的に資金繰りの負担を中小受託事業者にしわ寄せする結果となっていた(手形を割り引くことによって満期日よりも前に現金化することは可能であるが、手形の割引には手数料がかかるため、この場合、製造委託等代金の満額を受領することはできない。)。 このような状況に対して、公正取引委員会および中小企業庁は指導基準を変更し、2024年11月1日以降は、手形サイトが60日を超える手形は割引困難手形(現行法4条2項2号)に該当するものとして取り扱ってきたが、中小受託取引適正化法は、これを一段進め、同法上の支払手段として、手形サイトに関係なく、手形払いを一切認めないこととした(中小受託取引適正化法5条1項2号)。また、電子記録債権やファクタリングなどの一括決済方式についても、支払期日までに代金に相当する金銭(手数料等を含む満額)を得ることが困難であるものについては認めないこととしている(同号)。   4 適用対象取引への「特定運送委託」の追加(適用範囲の拡大) 現行法上、運送委託は「役務提供委託」(現行法2条4項)に該当するところ、いわゆる自家使用役務(委託事業者が自ら用いる役務)は役務提供委託に含まれないこととされている(同項にいう「提供の目的たる役務」にあたらない。)。 そのため、例えば、売買契約の売主である発荷主(例:卸売業者)が、買主である着荷主(例:小売業者)に対して、売買の目的物の引渡しを履行するため、運送事業者Aに運送を委託し、さらに運送事業者Aが当該運送業務を運送事業者Bに再委託するような場合、発荷主と運送事業者Aとの間の運送委託は、発荷主が引渡しの履行のために自ら用いる役務として自家使用役務にあたり、現行法の適用対象外とされていた(独占禁止法の物流特殊指定で対応)。一方、運送事業者Aと運送事業者Bとの間の再委託は、自家使用役務ではなく、役務提供委託に該当するため、現行法が適用される。 しかしながら、このような住み分けは事業者にとってわかりにくいばかりか、自家使用役務にあたる運送取引においても、立場の弱い物流事業者が長時間の荷待ちや契約にない荷役などの附帯作業を無償で行わされているなどの実態があり、下請法による機動的な対応の必要性が指摘されていた。 そこで、中小受託取引適正化法では、上記の例でいう発荷主と運送事業者Aとの間の運送取引についても、「特定運送委託」として、新たに同法の適用対象取引に追加されることとなった(中小受託取引適正化法2条5項、同6項)。 ただし、条文上、「事業者が業として行う販売・・・の目的物たる物品・・・の当該販売・・・に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」とされていることから(中小受託取引適正化法2条5項)、あらゆる運送委託が対象となったわけではなく、「特定運送委託」に該当する取引は、あくまでも「取引の目的物を顧客へ運送する場合の運送委託」に限定されている点は、留意が必要である。   5 従業員基準の追加(適用範囲の拡大) 現行法は、委託取引の内容(委託取引基準)と資本金の区分(資本金基準)によってその適用範囲を形式的・機械的に画している。 しかしながら、資本金基準については、資本金制度の柔軟化や減資手続の緩和などの影響もあり、実質的には事業規模は大きいものの当初の資本金が少額である事業者や、減資によって下請法の適用を意図的に潜脱する事業者の例などが見られた。 そこで、中小受託取引適正化法は、その適用範囲を画する基準として、従来の資本金基準に加えて、新たに従業員数の基準を追加することとした。具体的には、常時使用する従業員の数が300人を超える事業者が、常時使用する従業員の数が300人以下の事業者に対して製造委託等をする場合(役務提供委託等では100人が基準)には、資本金基準を満たすか否かにかかわらず、中小受託取引適正化法の適用対象となる(中小受託取引適正化法2条8項5号、同6号、同条9項5号、同6号)。   6 その他の改正事項 以上のほか、その他の改正事項の内容は、以下のとおりである。 (了)
#628(掲載号)
#木下 雅之
2025/07/24

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