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固定資産税・都市計画税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第44回】「宗教法人が有する動物の遺骨の保管と供養をしていたロッカーの一部に係る土地と供養塔等に係る固定資産税は課税か非課税かで争われた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第44回】 「宗教法人が有する動物の遺骨の保管と供養をしていたロッカーの一部に係る土地と供養塔等に係る固定資産税は課税か非課税かで争われた事例」   税理士 菅野 真美   ▷固定資産税の非課税 地方税法348条2項3号において、「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地(旧宗教法人令の規定による宗教法人のこれに相当する建物、工作物及び土地を含む。)」については、固定資産税が非課税と定められている。 境内地等の宗教施設を非課税とする趣旨は、民間と同様の活動をするか、あるいは、それにより一定の収益を上げるか否かなどとは無関係に、宗教法人の当該施設が、現実に専らその本来の用に供されている場合において、固定資産税を非課税とするものである。この点において、法人税における収益事業課税の論理とは明確に区別する必要がある(※)。 (※) 田中治「宗教法人に対する固定資産税非課税措置をめぐる紛争例」『田中治 税法著作集 第4巻』(清文社、2021年)467頁 しかし、固定資産税の非課税で争われた事例においても、法人税における収益事業課税の論理が判断に影響を及ぼす場合もある。今回は、宗教法人が有する動物の遺骨の保管と供養をしていたロッカーの一部に係る土地と供養塔等に係る固定資産税が課税か非課税かで争われた事例について検討する。   ▷どのような事例か これは、寺院である宗教法人(納税者)の供養塔等の一部に動物の遺骨を保管しているロッカー部分があり、この部分について、寺院が第三者に貸付を行っていることから東京都が固定資産税の課税対象として賦課決定処分をしたところ、この部分は、地方税法348条2項3号の非課税となる固定資産に該当するとして訴えたのが本事例である。   ▷争点は 争点は、動物の遺骨が保管されているロッカー部分とその敷地部分が「宗教法人が専らその本来の用に供する宗教法人法第3条に規定する境内建物及び境内地」に該当するか否かである。 この訴訟は、地裁と高裁で判断が異なり、最高裁に上告したところ棄却、不受理となった納税者勝訴の事例である。   ▷寺院と供養塔等はどのようなものだったのか この寺院は、江戸時代の開祖以来、動物供養を積極的に行っていた。馬頭観世音菩薩像を取り囲むようにロッカー部分があり、ロッカー部分には個別に馬頭観世音菩薩を描いた位牌を貼付し、毎日、諸動物のために読経し、月一度の動物供養、春秋の彼岸・盆には大々的な法要を行っていた。 遺骨の保管は檀家以外も受け入れたが、浄土宗以外の教義・作法による供養は行っていない。 動物の遺骨は1年間は無償で預かり、その後 合祀(無償)を勧めたが、個別の安置を希望した場合は有償でロッカーに遺骨を保管した。供養料については、3段階の定額制で1年ごとに年間2万円、3万5,000円、5万円を徴収していた。また、広告は行っていなかった。   ▷地裁と高裁の判断の違い 地裁は、納税者の請求を棄却したが、高裁は、地裁判決を取り消すという真逆の判断が行われた。 判断の異なる点は、次のようなものである。 ちなみに、この判決を不服とした東京都は上告したものの棄却され、上告不受理となり確定した。 *   *   * 地裁は、供養料を受け取る行為が、民間事業者の営利事業と類似しているという視点から、宗教活動ではないので固定資産税が課税されると判示したが、もし、これが法人税の収益事業課税が争点であったならば、この判示は合理的である。 しかし、今回の事例は、固定資産税が非課税か否かであり、高裁はまず、納税者の江戸時代から続く動物供養を本来の宗教活動に含めて判断した。そして、その本来の用(動物供養)に供する動物の遺骨が保管されているロッカー部分とその敷地部分は、境内建物や境内地に該当するとして固定資産税の非課税を認めている。供養料を受け取っているという事実をもって、固定資産税の非課税を否定しなかったということは、その場所で本来の宗教活動を行っている場合は、継続的に収益を稼ぐことが難しいから担税力を考慮して非課税とする固定資産税の本質に沿った判断と考える。 (了)
#600(掲載号)
#菅野 真美
2024/12/26
税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第58回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第58回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   (イ) 特定受益証券発行信託とそれ以外の受益証券発行信託で異なる課税方式を採用した趣旨 【第57回】のとおり、法令用語辞典では、証券とは、「財産法上の権利義務に関する記載のされた紙片」であるとされている。他方、同書は、紙片が発行されない証券の存在も認めている。すなわち、外国為替及び外国貿易法6条1項11号において「『証券』とは、券面が発行されていると否とを問わず、公債、社債、株式、出資の持分、公債又は株式に関する権利を与える証書、債券、国庫証券、抵当証券、利潤証券、利札、配当金受領証、利札引換券その他これらに類する証券又は証書として政令で定めるものをいう」とされていることも併記している(大森政輔ほか編『法令用語辞典〔第11次改訂版〕』407頁(学陽書房、2023))。 また、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」について、法人税法2条21号及び同法施行令11条、所得税法2条1項17号及び同法施行令4条とは異なり、紙片が発行されているものを前提とした金融商品取引法2条1項の有価証券を引用するものでもない。 「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」について、紙片が発行されているものを前提とした信託法185条3項を意識した文言であるかのようにみえるが、特定受益証券発行信託を定義する法人税法2条29号ハ柱書とは異なり、信託法185条3項を明示的に引用しているものでもない。 また、平成19年度税制改正の立案担当者の中には、文脈は異なるものの、法人課税信託の定義について、次のとおり、法人税法固有の観点からの解釈を許容するような説明を行う者もいる(佐々木浩「信託の税制について-信託税制の基本的考え方等について-」信託239号114頁)。 以上からすると、規定の文理を尊重しつつも、規定の趣旨ないし法人税法固有の観点から、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」又はこの場合の「証券」の意義を解釈することが直ちに否定されるわけではないという見解もありえよう。 そこで、集団投資信託に該当する特定受益証券発行信託と、それ以外の法人課税信託に該当する「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」とで異なる課税方式を採用した趣旨の議論に目を移してみる。 特定受益証券発行信託について、信託収益の発生時に課税する受益者等課税信託ではなく、信託収益が分配された時に課税する集団投資信託に含める一方、特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託 (「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」)について、信託段階で法人課税を受ける法人課税信託に含めた趣旨について、立案担当者は次のとおり説明している(財務省「平成19年度 税制改正の解説」296~297頁)。 上記説明を補足すると、一定の投資信託のように「課税の繰延べの弊害が比較的少ないと考えられるものを特定受益証券発行信託として集団投資信託に含まれるもの」とし、「受益者に対し分配時課税する」こととする一方、そのような「一定の要件をクリアしない場合には、信託財産から生ずる所得について、信託段階で法人課税すること」とされたのである(小原昇=佐々木浩「平成19年度の法人税関係(含む政省令事項)の改正について」租税研究693号16頁)。 これは、「実務上の観点からは、転々流通することとなるすべての受益証券発行信託についてその受益者に対し発生時課税することとした場合」、すなわち「受益者等課税信託とした場合には、納税者側にも課税当局側にも納税事務遂行上の負担が少なくないことから、これについて現実的な対応を考慮したもの」といえる(小原=佐々木・前掲論稿16頁)。 また、「信託財産に属する資産を受益者が有しているものとみなすことは必ずしも適当でなく、一定の場合には、私法上の信託収益の帰属者たる受託者の段階で課税することが適当である」と考えられる信託(法人課税信託)の1つとして「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」、すなわち「受託者段階で利益が留保されるため受託者段階での課税の必要がある特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託」という類型が設けられ、「その受託者を納税義務者として受託者の固有財産に帰せられる所得とは区分して法人税を課税する」、「受益者が信託財産に属する資産を有するものとみなすのは実態に合致しないため、一義的な所得の帰属主体である受託者に対し各事業年度の所得に対する法人税を課税する」こととされたのである(財務省「平成19年度 税制改正の解説」291、308頁。 このように、「信託財産を受益者が有しているものとみなして課税することやその収益分配時に受益者に対して課税することが適当でないものもあり、このような信託については、その信託財産に係る所得について信託の受託者の段階で課税することが適当」と考えられたため、法人課税信託という信託の区分を設けたのである(財務省「平成19年度 税制改正の解説」79頁)。 また、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」を法人課税信託に含めていることについて、法人に対する課税との公平を確保することが主たる趣旨であると解する見解は次の点を指摘する(佐藤英明『新版 信託と課税』(弘文堂、2020) 468~470頁参照)。 上記の見解は、これらの検討結果を総合すると、このような信託は、法人との課税の公平の観点から、受益者等課税信託の原則ではなく、信託の所得を法人課税の対象とするのと同様の結果となる課税が望ましいといえることになり、これが、受益証券発行信託(受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託)が法人型課税信託の一種として規定されている理由であると論じる(佐藤・前掲書470頁参照)。 他方で、「受益権を表示する証券を発行する旨の定めのある信託」は、特定受益証券発行信託以外の受益証券発行信託を意識したものであることを前提とすると、課税繰延べに対処するものであるという見方も出てくる。 上記見解も、課税繰延べが生じないように厳密な要件を設けた特定受益証券発行信託が、受益者(出資者)段階でのみ課税され、信託(組織体)レベルでの法人課税を受けない類型として定められていることも考え合わせると、信託に帰属する収益全額の現年分配が確保されず、かつ、信託に留保された収益について受益者(受益証券保有者)に課税する実態的な根拠が乏しい信託について、課税繰延べに対応するための、技術的な法人課税であるとの位置づけも十分可能であると、説明を補足している(佐藤・前掲書470頁参照)。   (了)
#600(掲載号)
#泉 絢也
2024/12/26
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

学会(学術団体)の税務Q&A 【第12回】「学術集会の広告(法人税)」

  学会(学術団体)の税務Q&A 【第12回】 「学術集会の広告(法人税)」   公認会計士・税理士 岡部 正義   ▲▼▲[解説]▲▼▲ 1 学会が行う広告業と34の特掲事業(法令5①)との関係 広告業という事業は、34の特掲事業(法令5①)に掲げられてないが、広告が関係してくる可能性がある事業として、問屋業と請負業がある。 (1) 問屋業 問屋業(法令5①二十)の中に広告代理店業が含まれているとされているが(法基通15-1-47)、学会が行う広告は、学会事業に関連して広告を掲載するものであって、広告代理をするわけではない。そのため、学会が行う広告が問屋業に該当することはないと考える。 (2) 請負業 広告は、請負契約の一種であると考えられるため、請負業(法令5①十)に該当するか否かという論点がある。この点に関して、広告を行うこと自体を独立した事業として行っているような場合は、請負業に該当する可能性があると考えられるが、通常、学会が行う広告は、広告自体を目的として事業を行うわけではなく、他の事業に付随して行うのが一般的である。そのため、学会が行う広告が収益事業に該当するか否かに関しては、広告の元となる他の事業自体が特掲事業に該当するか否かにより、収益事業に該当するか否かを判断することになると考える。   2 学術集会における広告 抄録集の広告やポケットプログラムの広告、ホームページにおけるバナー広告など、様々な広告収入があるが、それらの広告収入が法人税法上の収益事業に該当するか否かについては、次の通り考える。 (1) 抄録集の広告 抄録集は、会員には無償配布し、会員以外に対しては有償頒布しているケースが多い。会員以外に対する有償頒布部分は、法人税法上の出版業に該当するものと考えられるが、有償頒布部分は、会員に対する無償配布数と比較すると全額のごく一部に過ぎない。 会員に対する無償配布を前提とした抄録集は出版業(収益事業)に該当しないため、その付随行為である抄録集の広告掲載料についても、法人税法上の収益事業に該当しないと考える(【第5回】「学会誌の広告掲載料(法人税)」参照)。 (2) ポケットプログラムの広告 ポケットプログラムとは、学術集会のプログラムがまとめられた小冊子のことであり、無償配布している場合と、会員以外に対して有償頒布している場合がある。 ① すべて無償配布している場合 フリーペーパーやフリーマガジンなど広告掲載料で出版物の収入を賄うことを前提して出版されるものは、たとえ無償配布であったとしても出版業に含まれる。そのため、無償配布を前提としたポケットプログラムの広告も同様に考えるべきか否かという論点があるが、同様ではないと考える。 なぜなら、ポケットプログラムは、あくまで学術集会に関連して発行されるものであり、フリーペーパーやフリーマガジンのように、それ自体が独立した事業として発行されるものではないからである。そのため、ポケットプログラム自体が出版業に該当することはないと考える。 よって、ポケットプログラムは、学術集会の付随行為と考えられるが、学術集会の主たる収入である参加料が原則として法人税法上の収益事業に該当しない以上(【第9回】「学術集会の参加料(法人税)」参照)、ポケットプログラムの広告についても、法人税法上の収益事業に該当しないと考える。 ② 会員には無償配布し、会員以外に対して有償頒布している場合 ポケットプログラムの広告掲載料に関して、抄録集同様、会員には無償配布し、会員以外に対しては有償頒布している場合は、上記(1)の抄録集の場合と同様に考え、法人税法上の収益事業に該当しないと考える。 (3) 学術集会ホームページにおけるバナー広告 学術集会においては、専用のホームページを開設し、当該ホームページ上においてバナー広告を掲載することがある。 34の特掲事業(法令5①)には通信業(法令5①七)があるが、通信業とは「他人の通信を媒介若しくは介助し、又は通信設備を他人の通信の用に供する事業及び多数の者によって直接受信される通信の送信を行う事業」(法基通15-1-24)であるため、ホームページ上において行うバナー広告は、通信業には該当しないと考える。 バナー広告は、学術集会の付随行為と考えられるが、学術集会の主たる収入である参加料が原則として法人税法上の収益事業に該当しない以上(【第9回】「学術集会の参加料(法人税)」参照)、バナー広告についても、法人税法上の収益事業に該当しないと考える。 (4) 上記以外の広告 上記以外にも学術集会における広告の内容としては、スクリーン幕間広告・メッシュサイン広告・看板広告・その他ネームストラップ等、様々な広告がある。 これらの広告は、独立した広告事業というよりも、学術集会の付随行為と考えられるが、学術集会の主たる収入である参加料が原則として法人税法上の収益事業に該当しない以上(【第9回】「学術集会の参加料(法人税)」参照)、法人税法上の収益事業に該当しないと考える。   (了)
#600(掲載号)
#岡部 正義
2024/12/26
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第62回】「日産自動車事件-外国子会社合算税制の非関連者基準-(地判令4.1.20、高判令4.9.14、最判令6.7.18)(その2)」~旧租税特別措置法68条の90、旧租税特別措置法施行令39条の117第8項5号~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第62回】 「日産自動車事件-外国子会社合算税制の非関連者基準-(地判令4.1.20、高判令4.9.14、最判令6.7.18)(その2)」 ~旧租税特別措置法68条の90、旧租税特別措置法施行令39条の117第8項5号~   税理士 中野 亘     3 判旨 (1) 東京地裁令和4年1月20日判決(令和2年(行ウ)第86号):請求棄却(国側勝訴) (2) 東京高裁令和4年9月14日判決(令和4年(行コ)第36号):原判決取消し(納税者側勝訴) (3) 最高裁(第一小法廷)令和6年7月18日判決(令和4年(行ヒ)第373号):原判決を破棄、被上告人の控訴棄却(国側勝訴)   4 検討(租税特別措置法施行令39条の117第8項5号における本件括弧書きの趣旨からみた非関連者基準の適用の可否について) 第一審では、本件再保険契約に係る収入保険料は「NRFMが有する本件クレジット債権」と判断し、本件括弧書きに規定する収入保険料には該当しないとして原告の請求を棄却した。 控訴審では「保険料の実質的負担者は本件各顧客である」と実質的な負担者を本件各顧客として本件元受保険契約は「本件各顧客の生命、身体等に対する保険危険を担保する保険であるというべきである」と判断し、控訴人である原告の請求を認める判決をしている。 最高裁では①本件クレジット契約を締結した本件各顧客が所定の保険契約を締結しない場合には本件元受保険契約に本件各顧客を加入させ、②本件各顧客から本件クレジット債権の残高に応じて定められる本件元受保険契約の保険料に相当する金額を徴収して保険料をAVMに支払っており、③本件元受保険契約においてはNRFMが優先受益者に指定され、④この指定は取り消すことができないことなど、本件元受保険契約の実質に照らせば、本件再保険契約に係る保険は「NRFMが有する資産である本件クレジット債権に係る経済的不利益を担保するものである」として第一審の判決を正当として高裁を棄却した。 契約内容からみても本件元受保険契約ではNRFMからAVMへの保険料をNRFMが本件各顧客から資金を預かってそれをAVMへ送金しているのではなく、NRFMとAVMを契約当事者としていること(※8)、NRFMとAVMとの間で締結された役務提供契約の契約内容からNRFMが本件各顧客から受け取る保険料とAVMがNRFMから受け取る保険料が一致していなければならないことから、本件再保険契約に係る保険はNGREに係る関連者に当たるNRFMが有する資産であるクレジット債権に係る経済的不利益を担保するものであるとする最高裁の判決は妥当と考える。 (※8) 袴田裕二「外国子会社合算税制の非関連者基準の適用について争われた例」ジュリスト1582号(2023年)124頁では「本件でB社は、本件各顧客の資金を預かってそれをC社に送金しているのではなく、本件元受け保険契約者として同契約に基づく保険料を支払っていることから、タックス・ヘイブンに入ってくる収入保険料の支払者は、本件各顧客(非関連者)ではなく、B社(関連者)である。」としており、更にNRFMから(AVMを介して)NGREへの保険料の支払は外部から稼得してすでにグループ内にあった所得のタックス・ヘイブンへの移転であると指摘している。 また、本件括弧書きは「国内の親会社が実質的には海外子会社に保険料を支払う場合でも、直接の保険契約とするのではなく、いったん非関連者との保険契約を締結することにより、非関連者基準が充足されると解釈され、外国子会社合算税制の潜脱となるおそれがあったことから再保険に係る収入保険料については、その保険の目的が非関連者の有する資産又は非関連者の負う損害賠償責任である保険に係る収入保険料に限り、非関連者からの収入保険料に含めて、非関連者基準の判定を行うこととする判断基準(本件括弧書き)が明示されたもの」として施行令に限定列挙されているため、「このような趣旨は、損害保険に限らず広く保険一般に妥当するというべきであるから、本件括弧書きにいう『資産』や『損害賠償責任』は、単なる例示にすぎないと解される。」とする控訴審の判断には疑問が残る(※9)。 (※9) 辻美枝「外国子会社合算税制の非関連者基準該当性-日産自動車事件」ジュリスト1579号(2023年)11頁でも「本件括弧書きは、外国子会社合算税制の潜脱を防止するため、判断基準を明示したものである。・・・本件括弧書きの限定列挙が弊害となり、特定外国子会社等が行う保険事業活動の経済合理性の有無を適切に判断できないのであれば、立法によって解決すべきである。」と控訴審の判断が本件括弧書きの内容を拡張して解釈・適用するものとして判断基準を限定的に明示した規定の意義を没却するものと示唆している。 一方、本件括弧書きが生命保険を除外した規定ぶりとなっているのは生命保険の再保険自体が損害保険であるとも考えられ、本件括弧書き自体は人保険を排除しておらずとも再保険が生命保険会社の資産を保険の目的とする保険であると考えられる(※10)ため、やはり本件再保険契約に係る保険は「NGREに係る関連者に当たるNRFMが有する資産であるクレジット債権に係る経済的不利益を担保するもの」という解釈は妥当であると考える。 (※10) 袴田・前掲(※8)書124頁参照   (了)
#600(掲載号)
#中野 亘
2024/12/26
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開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第30回】「連結配当規制適用会社に関する注記」

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第30回】 (最終回) 「連結配当規制適用会社に関する注記」   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。個別注記表における連結配当規制適用会社に関する注記について、どのような内容を記載する必要があるか教えてください。 Answer 当該会社が連結配当規制適用会社となる場合、その旨を個別注記表で記載する必要があります。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2022年11月1日)によれば、個別注記表において次のような注記が考えられます。 【個別注記表】 なお、連結配当規制適用会社に関する注記は、個別注記表にのみ求められ、連結注記表では求められません。   2 注記事項の解説 (1) 連結配当規制適用会社に関する注記の全体像 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、個別注記表で記載すべき連結配当規制適用会社に関する注記事項は次のとおりです(会社計算規則第115条)。 (※1) 会社計算規則第98条第2項第4号において、連結注記表では、連結配当規制適用会社に関する注記を表示することを要しないと規定されています。 (2) 注記事項の解説 まず、連結配当規制適用会社とは何かを見ていきましょう。連結配当規制適用会社の定義は、会社計算規則第2条第3項第55号で定められています。 (※) 朱記は筆者による。 定義中の「第158条第4号」は会社計算規則の規定で、分配可能額を定める章の中にあり、簡単に言うと、“計算書類上の分配可能額よりも連結計算書類に基づく分配可能額の方が少ない場合、連結計算書類に基づき分配可能額を算定する”という旨の規定です。 そのため、分配可能額の算定に当たって、“計算書類上の分配可能額よりも連結計算書類に基づく分配可能額の方が少ない場合、連結計算書類に基づき分配可能額を算定する”ということを自社で定めた株式会社が、連結配当規制適用会社となります。 連結配当規制適用会社では、株主が分配可能額を計算する際に情報として必要なことから、個別注記表で連結配当規制適用会社である旨を注記しなければなりません(分配可能額は、個別の計算書類を見て計算するため、個別注記表でのみ注記が求められていると解されます)。 それでは、実際の注記を見ていきましょう。 [品川リフラクトリーズ株式会社 2024年3月期 個別注記表] ※品川リフラクトリーズ株式会社「第190回定時株主総会招集ご通知に関しての電子提供措置事項のうち法令及び定款に基づく書面交付請求による交付書面に記載しない事項」29頁より抜粋。 [大和工業株式会社 2024年3月期 個別注記表] ※大和工業株式会社「第105回定時株主総会その他の電子提供措置事項(交付書面省略事項)」17頁より抜粋。   ◆連載終了にあたって◆ 2022年7月から連載スタートした「開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A」も、今回で最終回となります。 計算書類における注記は、注記する事項は定められており、経団連からひな型が公表されているものの、実際に記載する場合の文章や開示内容の詳細さ・明瞭さは企業によって差があり、それだけに実務担当者は困ってしまう分野だと思います。そのような方に本連載が少しでもお役に立てば、筆者としてこれ以上ない喜びです。 最後までお読みいただき、ありがとうございました。   (連載了)
#600(掲載号)
#竹本 泰明
2024/12/26
会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計 開示関係

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第9回】

有価証券報告書における作成実務のポイント 【第9回】   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   今回は、有価証券報告書のうち、【経理の状況】の【注記事項】(会計方針の変更)から(表示方法の変更)までの作成実務ポイントについて解説する。 なお、本解説では2024年3月期の有価証券報告書(連結あり/特例財務諸表提出会社/日本基準)に原則、適用される法令等に基づき解説している。   1 会計方針の変更に関する注記 会計方針の変更があった場合、会計方針の変更に関する注記を記載する。記載すべき事項がない場合は、項目ごと、記載は不要である。 (1) 会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更に関する注記 会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更があった場合、以下のとおり注記する。なお、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 【事例:日揮ホールディングス(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 (2) 会計基準等の改正等以外の正当な理由による会計方針の変更に関する注記 会計基準等の改正等以外の正当な理由による会計方針の変更があった場合、以下のとおり注記する。なお、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 【事例:かどや製油(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 【事例:(株)山善 2024年3月期の有価証券報告書】 (3) 会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の注記 会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合、以下を注記する。例えば、減価償却方法の変更が該当する。 ただし、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 【事例:一正蒲鉾(株) 2024年6月期の有価証券報告書】   2 未適用の会計基準等に関する注記 既に公表されている会計基準等のうち、適用していないものがある場合、未適用の会計基準等に関する注記を行う。ただし、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 また、記載すべき事項がない場合は、項目ごと、記載は不要である。 【事例:(株)ノエビアホールディングス 2024年9月期の有価証券報告書】   3 会計上の見積りの変更に関する注記 会計上の見積りの変更を行った場合、会計上の見積りの変更に関する注記を行う。ただし、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 また、記載すべき事項がない場合は項目ごと、記載は不要である。 【事例:(株)京進 2024年5月期の有価証券報告書】 【事例:日本トムソン(株) 2024年3月期の有価証券報告書】   4 表示方法の変更に関する注記 表示方法の変更を行った場合、表示方法の変更に関する注記を行う。なお、表示方法の変更は、貸借対照表、損益計算書、キャッシュ・フロー計算書のみならず、注記についても表示方法の変更があった場合、注記を行う。なお、重要性が乏しい場合、注記を省略することができる。 また、記載すべき事項がない場合は、項目ごと、記載は不要である。 【事例:(株)ノエビアホールディングス 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:粧美堂(株) 2024年9月期の有価証券報告書】 【事例:飯野海運(株) 2024年3月期の有価証券報告書】 (了)
#600(掲載号)
#西田 友洋
2024/12/26
労務 労務・法務・経営 社会保険

税理士事務所の労務管理Q&A 【第23回】「106万円と130万円の壁」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第23回】 「106万円と130万円の壁」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   話題になっている「年収の壁」には、103万円、106万円、130万円等の段階がありますが、今回は、社会保険の壁である106万円と130万円の壁の現状について解説します。 * * 解 説 * * 1 「年収の壁」とは 会社員の配偶者などで一定の収入未満の人は、健康保険の被扶養者及び国民年金第3号被保険者(60歳未満の場合)となり、社会保険料を負担していません。 しかし、一定の収入を超えた場合、健康保険と厚生年金保険(以下「社会保険」といいます)への加入が義務付けられるため、社会保険料の負担が生じ、結果として手取り収入が減少します。手取り収入が減らないように、年収を抑えようと意識する金額のボーダーラインが、いわゆる「年収の壁」です。   2 106万円の壁 106万円は、主にパートタイム労働者(労働時間及び労働日数が正社員より短い者)の社会保険の適用要件の1つです。 (1) パートタイム労働者の社会保険の加入要件 パートタイム労働者は、1週間の所定労働時間及び1ヶ月間の所定労働日数が、同一の事業所で働く正社員の4分の3以上である場合に、社会保険の加入者(以下「被保険者」といいます)になります。 しかし、この要件を満たさないパートタイム労働者でも、被保険者の数が50人を超える事業所に勤務しており、下記の要件を満たした場合には、社会保険への加入が義務付けられます。 上記③の賃金の月額8万8,000円は、年額にすると105万6,000円(約106万円)になるため、「106万円の壁」と言われています。 時給1,016円で1ヶ月に週20時間働くと、月額8万8,000円(1,016円×20時間×52週/12ヶ月)を超えます。 (2) 質問の場合  質問の場合は、所員が8名であり、被保険者の数が50人を超える事業所には該当しませんので、パート所員については特に対応の必要がありません。しかし、所員の配偶者が健康保険の被扶養者になっている場合、その配偶者が(1)の要件に該当したときは、健康保険の被扶養者から外さなければなりません。   3 130万円の壁 (1) 健康保険の被扶養者要件 130万円(60歳以上又は一定の障害者は180万円、以下同様)は、配偶者(前記2の(1)に該当する人を除く)が社会保険の扶養から外れる年収のラインです。 健康保険の被保険者の配偶者は、年収130万円未満であれば、健康保険の被扶養者及び国民年金第3号被保険者(60歳未満の場合)となり、保険料の負担がありません。しかし、年収130万円を超えると、扶養から外れ、国民健康保険の被保険者及び国民年金第1号被保険者(60歳未満の場合)、もしくは勤務先の社会保険の被保険者となるため、「130万円の壁」と言われています。 (2) 質問の場合 パート所員の年収が130万円(前記2の(1)に該当する人を除く)を超える場合は、社会保険への加入手続きが必要になり、また、所員の配偶者の年収が130万円を超える場合は、健康保険の被扶養者から外さなければなりません(※1)。 (※1) 年収が130万円を超えたとしても、一時的な収入変動であれば、パートタイム労働者等の勤務先が発行した事業主の証明により、継続して配偶者の被扶養者になることができます。   4 社会保険料の負担 社会保険に加入した場合のおおよその保険料額(本人負担額)を確認しましょう。 月給10万円であれば約1.5万円、月給12万円であれば約1.8万円の負担になります。 〈被保険者本人の月額社会保険料(令和6年度/東京都(※2))〉 (※2)  協会けんぽの保険料率は、都道府県ごとに設定されています。   5 社会保険加入のメリット 社会保険に加入すると、保険料の負担が生じ手取り収入が減少するため、デメリットが強調されますが、以下のとおり、メリットも大きいことを理解しておくことが大切です。また、配偶者の職業(自営業者等)によっては、保険料が軽減される場合があります。 〈社会保険加入のメリット〉 (※3) 自営業者の配偶者は、国民年金保険料として月額1万6,980円(令和6年度価額)を支払っていますが、社会保険に加入した場合の保険料(10万円の報酬の場合は約1.5万円)は、国民年金保険料にも満たないため、保険料負担の軽減になります。 (了)
#600(掲載号)
#佐竹 康男
2024/12/26
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〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例100】株式会社タムラ製作所「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」(2024.11.14)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例100】 株式会社タムラ製作所 「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」 (2024.11.14)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社タムラ製作所(以下「タムラ製作所」という)が2024年11月14日に開示した「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」である。 同社は同年9月13日に「外部調査チームの設置に関するお知らせ」を開示し、中国の連結子会社2社において購入部品在庫の会計処理が社内ルールに照らし適切に行われていなかった疑義が判明したため、外部の専門家による調査の実施を決定したとしていた。その調査報告書を受領したというのである。 調査報告書によると、購入部品在庫に対する不適切な会計処理と利益調整を目的とした仕訳操作とがあり、それらを訂正すると、合計330百万円の利益減額になるとのことである。同社は、当初同年11月8日に2025年3月期第2四半期(中間期)決算発表を行う予定だったが、この件のために延期し(同年10月11日に「2025 年3月期第2四半期(中間期)決算発表の延期に関するお知らせ」を開示)、「外部調査チームの調査報告書受領に関するお知らせ」と同日に、訂正を反映させた「2025年3月期第2四半期(中間期)決算短信〔日本基準〕(連結)」を開示している。   2 中国子会社特有の不正会計 やはり日本企業の海外子会社は中国にあるものが多いということもあるが、海外子会社における不正会計も、タムラ製作所に限らず中国子会社におけるものが多い。 次の表は、2018年以降に判明した、中国子会社における主要な不正会計事例をまとめたものである。なお、2020年から2022年までの間に判明した事例が少ないのは、コロナ禍の影響かと思われる。 日本国内における不正会計事例と比べると、横領の比率が高い。例えば、日本郵船の事例では、中国子会社の総経理が取引先に架空請求をさせて約8.3億円の費用を支出していた。そして、おそらくその一部を自身が取得していたのだろうと思われる。 また、理研ビタミンの事例は粉飾だが、架空循環取引である。架空循環取引は、業績を良く見せるために行われる通常の粉飾と異なり、取引先に資金を融通するためという目的で行われる可能性がある。中国の景気低迷も、こうした横領や架空循環取引が中国子会社において発生するリスクを高めているといえる。   3 中国子会社特有というわけではない不正会計 上述の中国子会社特有の不正会計といえるものは、親会社の目が届かなかったために発生している。タムラ製作所の中国子会社における不正会計も、そうした事情によるものなのかと思われたのだが、そうではなかった。目は届いていた。 同社の場合、日本人スタッフが不正に関与している場合もあったほか、直接関与していない場合でも不正を認識していた。そして、何と経営者も不正を認識していたのだが、適切な対応を行わなかったのである。 調査報告書の「第8 原因分析 2 エイジング回避行為の背景・原因(5)当社においても、TDC及びTDSの経理に関し十分なモニタリングやコミュニケーションがなされていない上、適切な会計処理の重要性について理解と意識が不足していたと認められること」の中に次のような記載がある(下線は筆者による)。 同社はプライム市場上場会社だけあり、企業統治や内部統制は形式的にはきちんとしているようである。しかし、内部監査や監査等委員会による監査は一応行われているが、そこで今回の不正が明らかになることはなかった。今回の不正は、ICT(情報通信技術)所管部署がその可能性を認識したことで発覚している。なお、不正が行われた中国子会社の会計監査は、中国の監査法人が行っている。   4 タムラ製作所に必要なこと 中国子会社特有の不正会計といえるものに対しては、定期的な人事ローテーションや内部監査の充実のほか、ある業務を現地採用スタッフのみに任せるのではなく、必ず日本人スタッフを介在させ、チェックを行うようにするといった内部統制上の対応が必要になるかと思われる。 それに対して、タムラ製作所に必要とされるものはまったく異なる。同社の場合、企業統治も内部統制も表面的にはきちんとしている(同社に限らず、そうした会社はとても多いのかもしれないが)。日本人スタッフはむしろしっかり業務に関与しているし、経営者に情報も届いている。 調査報告書の最後の「第10 結語」の中には次のような記載がある。同社に必要なのは、ここでいわれている経営者の「本気」だろう(これが必要とされるのも、同社に限らないかもしれない)。形だけで終わっていては、また別の問題が生じるはずである。 (了)
#600(掲載号)
#鈴木 広樹
2024/12/26
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プラス思考の経済効果 【第31回】「2024年度市民マラソン大会の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第31回】 「2024年度市民マラソン大会の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 2024年3月3日に開催された「東京マラソン2024」の経済効果は、経済効果の情報サイト「経済効果.NET」において、東京都内で約375億7,700万円であったと発表されています。また、筆者の研究室が2020年2月12日に計算した「第9回大阪マラソン(2019年12月1日開催)」の経済効果は約177億円でした。 このように、大都市での「市民マラソン大会」は大きな経済効果をもたらし、地元経済の活性化と地域の知名度の向上に寄与するため、各地域で市民マラソン大会が開催されるようになってきていました。しかし、大都市と比べて人口の少ない地方では、市民マラソン大会を開催していたものの、新型コロナの流行を境にして中止、廃止する都市が発生しています。今回は、「曲がり角にきた市民マラソン大会」の経済効果について分析してみます。 人口の少ない都市や集客力の弱い大会の中には、毎年のように中止や廃止が発生していますので、データの収集が困難になってきています。そこで、本稿では、資料の揃っている日本陸上競技連盟(以下「日本陸連」といいます)が公認している市民マラソン大会の経済効果について分析します。日本陸連公認の市民マラソン大会は全国で約70大会あります。   2 平均的な市民マラソン大会の直接効果 (1) 直接効果 市民マラソン大会の直接効果として、次の4項目を考察します。 (2) ランナーの消費支出額 日本陸連が公認している約70の大会のうち、今年度に中止となった大会が3大会、データが明確でない大会が4大会ありますので、分析可能な大会は63大会になります。そして、63大会のランナーの定員は61万6,420人でしたので、1大会当たりの定員は約9,784人となります。 また、63大会の参加総費用は約79億4,492万円でしたので、1人当たりの参加費用は約1万2,889円になります。 ① 宿泊ランナーの消費支出 ランナーの消費額を宿泊ランナーと日帰りランナーに分けて考えてみます。大阪マラソンを例にとると、宿泊ランナーは約30%、日帰りランナーは約70%でしたので、9,784人のうち約2,935人は宿泊ランナー、約6,849人は日帰りランナーと仮定します。 国土交通省観光庁の「旅行・観光消費動向調査 2023年年間値(確報)」(2024年4月30日)によると、国内宿泊旅行の1人当たり旅行支出は6万3,253円、日帰り旅行は1万9,027円です。宿泊旅行の1人当たり旅行支出からランナーの参加費用1万2,889円を差し引くと、5万364円となります。そして、一般の観光旅行と異なりマラソン大会への参加のため、この5万364円を観光に支出しないと考えて、交通費、宿泊費、食事代だけで、8割程度の金額4万291円で済むと仮定します。 ② 日帰りランナーの消費支出 日帰りのランナーについても、同様に1人当たり旅行支出1万9,027円から参加費用を支払った残額の約8割を必要な消費支出と仮定すると、1人4,910円となります。 ③ ランナーの消費支出の総額 この結果、ランナーの消費支出の総額は約1億5,188万円となります。 (3) 観客・応援者の消費支出 次に、観客・応援者の消費支出を推計します。本稿では過去の経験から、ランナーが9,784人の大会での観客・応援者はランナーの約10倍の約10万人と仮定します。 ① 宿泊する観客・応援者の消費支出 遠方から来て宿泊するランナーには、平均1人の家族、友人などが宿泊で応援に来ると仮定すると、約2,935人が宿泊応援者となります。宿泊する観客・応援者は観光に来ているのではなく、マラソンの応援に来ているので、観光などの消費はほとんどしないと考え、消費支出はランナーと同額の約4万291円と仮定します。その結果、遠方から来て宿泊する観客・応援者の消費支出の総額は約1億1,825万円となります。 ② 日帰りの観客・応援者の消費支出 日帰りの観客・応援者は、徒歩、自転車、車、バス、電車等を用いて大会に来ると考えられます。彼らは日帰りランナーのほぼ6割(約2,946円)の支出をすると仮定しますと、9万7,065人の日帰り観客・応援者の消費支出の総額は約2億8,595万円となります。 ③ 観客・応援者の消費支出の総額 以上の計算より、観客・応援者の消費支出の総額は約4億420万円となります。 (4) 主催者・支援者の消費支出 これまでは少ない経費で大きな経済効果が得られて、地元経済の活性化に繋がっていたので、市民マラソン大会が全国で開催されていました。しかし、最近は財政難で運営が苦しい大会が増えてきています。本稿では、自治体の予算、地元の有力企業、商店街、自治会などの支援を得て、合計約2億円の予算で開催していると想定します。 (5) ボランティアの消費支出 大会を支えるボランティアの数は数百人から数万人まで様々ですが、ランナーが約1万人規模の大会では、1,000人程度の人数が必要となります。ボランティアは交通費、飲食費、雑費など1人当たり約3,500円の出費と仮定しますと、ボランティアの消費支出は総額約350万円となります。 (6) 直接効果の合計 以上の計算より、平均的な市民マラソン大会の直接効果の合計は約7億5,958万円となります。   3 経済効果 次に、日本陸連公認の市民マラソン大会で平均的な大会の経済効果を計算してみましょう。 日本陸連が公認している市民マラソン大会のうち、63大会の平均値をとった1大会当たりの直接効果は約7億5,958万円となりました。総務省内閣府が作成した最新の「全国の産業連関表」(2024年に発表した2020年版の「全国の産業連関表」の修正版)を用いて経済効果を分析すると、経済効果は以下のように約16億4,069万円となります。 〈2024年度の市民マラソン大会の1大会当たりの経済効果〉 2024年度に日本陸連が公認している市民マラソンの67大会(データのある63大会とデータはないが開催予定の4大会)の2024年度の経済効果は、約1,099億2,623万円となりました。   4 まとめ 日本全体での市民マラソン大会数は、数百とも千数百ともいわれていますが、毎年中止や廃止が相次ぎ正確な数値は不明です。株式会社計測工房が2020年3月30日に更新した資料によると、参加者5,000人以上の市民マラソン大会は164大会でした。全国のその他のフルマラソン、ハーフマラソン、10キロマラソンなどを含めるとさらに数は多くなります。 本分析の結論は以下の通りです。 (了)
#600(掲載号)
#宮本 勝浩
2024/12/26
お知らせ 相続税・贈与税 税務 税務・会計 税務情報の速報解説 速報解説一覧

《速報解説》 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長~令和7年度税制改正大綱~

《速報解説》 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の延長 ~令和7年度税制改正大綱~   税理士 徳田 敏彦   令和6年12月20日(金)に与党(自由民主党・公明党)より「令和7年年度税制改正大綱」が公表された。 本稿では、令和7年年度税制改正大綱において明らかとなった結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置の改正点及び今後の動向等について解説する。   1 制度の概要 結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置は、平成27年4月1日から令和7年3月31日までの間に、父母、祖父母等の直系尊属が18歳以上50歳未満の子、孫等へ結婚・子育て資金を信託等により一括して拠出した場合に、受贈者ごと1,000万円(うち、結婚に際して支払う金銭は300万円)まで贈与税が非課税となる制度である。 なお、贈与者が死亡した場合には、死亡日における非課税拠出金額から支出した金額を控除した管理残額を、贈与者から相続等により取得したものとみなされ、相続税の課税価格に算入する。 また、契約期間が終了した場合(例:受贈者が50歳に達したこと、口座残高が0円になったこと、受贈者が死亡したこと)に、管理残額がある場合には、その管理残額が受贈者の贈与税の課税価格に算入される制度である。   2 改正点 適用期限を2年延長し、令和9年3月31日までとする。   3 利用件数 財務省資料によると、令和5年3月末時点の本制度の利用実績は契約件数:7,591件(令和4年3月末:7,363件)、信託財産設定額:約236億円(令和4年3月末:約224億円)である。 9年間で利用件数の1年当たりの平均件数は843件であるが、令和4年から令和5年までの1年間での利用件数の増加は228件に留まっている。   4 今後の動向 令和5年度税制改正大綱の「基本的な考え方」で「令和3年度税制改正で『制度の廃止も含め、改めて検討』とされた後も利用件数は低迷している状況にあり、次の期限到来時には利用件数、利用実態を踏まえ、制度の廃止も含め、改めて検討する」と記載されていた。 そして、今回の令和7年度税制改正大綱の「基本的考え方」では、令和5年度税制改正以後においても利用件数が低迷する状況を鑑み、「子育てを巡る給付と負担のあり方や真に必要な対応策について改めて検討すべきである。他方、現在『こども未来戦略』の集中取組期間(令和8年度まで)の最中にあり、こども・子育て政策を総動員する時期にある。このため、本措置を特に集中取組期間であることを勘案し、適用期限を2年延長する」としている。 上記の通り、令和7年3月31日で廃止されることが予想されていたが、国全体の政策と合わせることを重視し、2年延長となった模様である。   5 これまでの改正の推移 改正の推移を一覧表にすると以下となる。 (出典) 国税庁発表資料を一部加工   6 相続税申告での留意点 税理士業務として相続税申告を受託した場合には、管理残額の相続税の課税価格への加算があるため、過去の本制度の利用を必ず確認する必要があることに留意したい。 納税者自身は贈与税が非課税扱いのため、すべての税目に影響しないと考え、相続税申告の際に税理士へ本制度を利用していることを伝達し忘れることも想定される。 (了)
#徳田 敏彦
2024/12/25

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