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所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第61回】「売主と記載された者が代理人である旨の表示が契約書になくても、不動産の真の売主が非居住者であることを買主は委任状等を通じて知っていたと認められるから、買主に源泉徴収義務があるとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第61回】 「売主と記載された者が代理人である旨の表示が契約書になくても、不動産の真の売主が非居住者であることを買主は委任状等を通じて知っていたと認められるから、買主に源泉徴収義務があるとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷非居住者の不動産の売買と源泉徴収義務 非居住者による日本の不動産の取得が増加している。 国外に住所がある者による東京23区、大阪市、京都市の新築マンションの取得費率(区分所有建物の保存登記において、国外に住所がある者が取得している割合)は次表のとおりである。 地域 2025年 1~6月 2024年 2018年~2023年 での最大値 東京23区 3.5% 1.6% 2.0%(2018) 大阪市 4.3% 5.1% 3.6%(2021) 京都市 2.5% 3.4% 1.6%(2023) さらに都心6区に絞ると次のようになる。 区名 2025年 1~6月 2024年 2018年~2023年 での最大値 千代田区 7.7% 6.2% 11.4%(2023) 中央区 0.0% 2.2% 4.5%(2018) 港区 4.3% 9.7% 8.5%(2019) 新宿区 14.6% 1.7% 3.8%(2023) 文京区 5.0% 1.9% 5.1%(2022) 渋谷区 8.1% 8.6% 10.8%(2018) なお、23区で新築マンションを取得した国外に住所がある者の国・地域について、直近では台湾が最も多くなっている。 (データ引用元:令和7年11月25日 国土交通省「不動産登記情報を活用した新築マンションの取引実態の調査・分析について」) 非居住者が不動産売買契約の当事者である場合に、契約締結の場などに本人が現れるケースは少ない。このような場合は、日本に居住している代理人が立会い、契約書にも代理人として署名押印することが多い。しかし、売主が非居住者の場合、日本の不動産の譲渡対価は国内源泉所得に該当する(所法161①五)。そのため、国内で対価が支払われる場合、原則的には、買主に源泉徴収義務(所法212①)が生ずることになる。税率は10.21%(所法213①二、復興財源確保法28)である。 今回は、不動産の譲渡対価について、買主に源泉徴収義務があるか否か、すなわち、売主が非居住者か内国法人であるかで争われた事案を検討する。   ▷事案の概要 個人Xは、国内にあるマンションを購入して、契約締結をした内国法人のYに対して、譲渡対価を満額支払った。しかし、課税庁がこの対価は、国内源泉所得であり、このマンションの売主はYではなく、非居住者のZであることから、Xには支払い時に源泉徴収義務があるとして、源泉徴収に係る所得税等の納税告知処分を行った。Xは、「マンションの売主は、非居住者Zではなく内国法人Yであることから、源泉徴収義務を負わない」と主張して、処分の全部取消しを求めて審査請求を行ったのが、本件である。 なお、本件は、源泉徴収義務を負わない「個人が自己またはその親族の居住の用に供するために土地等を購入した場合であって、その土地等の譲渡対価が1億円以下である場合(所令281の3)」に該当しない。   ▷争点 争点は、不動産の購入代金を支払う際に買主Xが源泉徴収義務を負うか否かである。具体的には、売主は非居住者か、内国法人のいずれかである。   ▷審判所の判断(裁決) 沖縄国税不服審判所は、以下のように判断して審査請求を棄却した。   ▷まとめ このようにXの請求は棄却された。不動産の譲渡対価に係る追加の税負担について、非居住者の売主Zに請求することは、契約書に定めがない限り困難であると考える。そうなると、買主Xはこれらの追加の税について、身銭を切って納付しなければならない。 非居住者の不動産取引が特別な取引でなくなってきたことから、一般の税理士も関わることが多くなってきている。もし、買主側の税理士が、この件に関して事前に相談を受け、何もアドバイスしなかった場合は、損害賠償請求を受ける可能性が高いので、注意したい。 (了)
#674(掲載号)
#菅野 真美
2026/06/25
税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第95回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第95回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   エ ブロックチェーン分析を利用した大規模選定 (ア) ブロックチェーン分析の選定利用 ブロックチェーンに公開されている膨大なトランザクションデータを活用することにより、個別案件の追跡にとどまらず、過少申告等のリスクを踏まえた大規模な調査選定(リスクスクリーニング)に役立てることができる可能性がある。 従来、国税庁が暗号資産の調査対象者を選定する際には、国内CEXに対する照会を起点として調査対象者を絞り込む方法が中心であった。しかし、ブロックチェーン上の情報を起点とする選定方法も検討すべきである。 具体的には、例えば次のような手法が考えられる。 このような方法を用いれば、国内CEXの情報のみでは把握しきれない海外CEX口座や自己管理型ウォレットを含むアドレス群を割り出すことが可能となり、その結果、調査優先度の高い対象を効率的に絞り込むことができる。 従来のように国内CEXへの照会を起点とした調査選定及び調査では、国内CEX内の取引履歴や国内CEX間の資金移動データが検討対象の中心となるため、海外CEXや自己管理型ウォレットを経由した資金移転の全体像が把握しにくいケースも想定される。 この点、ブロックチェーン上の公開データを横断的に分析することで、国内CEXの情報のみでは把握が困難であったアドレス群との接触関係を抽出することが可能となる場合がある。 もっとも、国内CEX口座と一度でもトランザクションのやりとりがある海外CEX口座やウォレットアドレスをリストアップしたとしても、それが直ちに同一利用者によって管理されていると断定することはできないという問題がある。 例えば、ブロックチェーン上のやりとり(接触)は次のような様々な可能性を含んでいる。 したがって、「やりとりがある」という事実のみでは、資金の帰属先や管理主体を特定することはできない。 また、海外CEXやプライベートウォレットと一度でもやりとりした国内CEX口座を一律に「高リスク」と評価し、調査対象とすることは、行政資源の制約等を踏まえれば現実的ではない。暗号資産利用者の中には、正当な投資目的や資産管理上の理由から海外CEXや自己管理型ウォレットを利用している者も少なくないと考えられるからである。 そのため、調査選定においては、単純な接触の有無ではなく、例えば次のような複数の要素を総合的に検討する必要がある。 このように、大規模選定においては、「一度でも接触がある」という形式的な基準では足りず、取引の態様や資金移動のパターンを踏まえた多面的なリスク評価が求められる。 (イ) データソリューションズ × リアクターによる効率的大規模選定 このような状況下で活躍が期待されるのがChainalysisのデータソリューションズというブロックチェーンデータの集計・フィルタリングを行うツールである。 データソリューションズは、個々のウォレットを1つずつ追跡するためのツールというよりも、ブロックチェーン上の大量のデータをシステム的に検索・集計し、あらかじめ設定した条件に当てはまるトランザクションやアドレスを抽出するためのツールである。 すなわち、個別事案の詳細分析を行うためというよりも、「どの対象を優先的に調査すべきか」を選定するために利用されるものである。 したがって、個別の資金移動経路を可視化するリアクターとは役割が異なる。 例えば、調査選定の場面において、次のような使い方が考えられる。 データソリューションズに設定される「一定の条件」としては、例えば、特定期間内の取引頻度、送金金額の規模、ミキシングサービスや高リスクと評価されるクラスタとの接触履歴、複数ウォレットを経由する移転パターンの有無等が想定される。 つまり、まず広い網をかけて「怪しい動きのあるウォレット」を抽出し、その後に個別に深掘りしていくという二段階の運用が想定される。 このように、①広く抽出する段階(データソリューションズ)と、②個別に追跡する段階(リアクター)を分けて運用することにより、リスクの高い対象を優先的に抽出する効率的な調査選定が可能となる。 さらに、暗号資産に関する税務調査のデータや税務当局の調査経験が蓄積されることにより、不正取引や過少申告の兆候を類型化できる可能性がある。 例えば、次のようなパターンを示すウォレットアドレスは、申告漏れのリスクが高い兆候を有するものとして、重点調査の優先的な選定対象として識別することが考えられる。 AI(人工知能)を活用することのほか、各国の税務当局と知見やデータを共有することも有益である。 筆者がChainalysis Japan株式会社の方々にインタビューしたところによれば、これらのツールを活用することで次のようなことも可能になるようである。 もっとも、把握したアドレス群について、暗号資産の税務申告との照合を行う段階では、暗号資産の損益の推定計算が必要となってくる。後述するが、通常、ブロックチェーンから得られるデータだけで暗号資産の損益計算を行うことは困難である。 よって、これらのツールは過少申告や無申告の違反を断定する装置ではなく、限られた行政資源を効率的に活用するための手段として位置付けるのが妥当である。   (了)
#674(掲載号)
#泉 絢也
2026/06/25
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第99回】「外国法人の事業分割に伴う株式の交付が配当所得に該当するとした事件 (審裁令元.8.1)(その2)」~所得税法24条1項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第99回】 「外国法人の事業分割に伴う株式の交付が配当所得に該当するとした事件 (審裁令元.8.1)(その2)」 ~所得税法24条1項~   井上 眞一     5 解説 (1) 争点1について 行政手続法第14条第1項は、不利益処分をなす場合に示すべき理由の内容・程度について規定していない。しかしながら、判例は、「法が、行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであ」り、「どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らしてこれを決定すべきである」(※2)と判示している。当該裁決の審判所の判断はこのような考え方に一致していると考えられる。 その後最高裁は、「行政手続法14条1項本文が,不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに,処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。そして、同項本文に基づいてどの程度の理由を提示すべきかは、上記のような同項本文の趣旨に照らし、当該処分の根拠法令の規定内容,当該処分に係る処分基準の存否及び内容並びに公表の有無,当該処分の性質及び内容、当該処分の原因となる事実関係の内容等を総合考慮してこれを決定すべきである。」(※3)とどの程度理由を提示する必要があるかを判示している。 本件通知書は最低限現必要であろう根拠となる法令の条項と不利益処分の原因となる事実が示されている。したがって処分理由に不備はないと思われる。 (※2) 所得税青色審査決定処分等取消請求事件(最判昭和38年5月31日民集17巻4号617頁、法人税更正処分取消事件(最判昭和60年4月23日民集39巻3号850頁) (※3) 一級建築士免許取消処分等取消請求事件(最判平成23年6月7日民集65巻4号2081頁) (2) 争点2 会社分割についての問題整理 ① 会社分割制度について 会社分割は、親会社が、現物配当やその他の比例的分配によって、株主に対して、既存子会社や既存事業を切り離すことで新規に設立した取得した子会社の株式を交付し、その結果、子会社は親会社から独立した企業になる事業再編である。我が国では、平成12年(2000年)商法改正により会社分割制度が創設された。 ② 我が国居住者が影響を受けた外国法人の会社分割類似事件判例 当該事件に類似した判例が2つある。1つは、カナダ法人の株主が、2000年に実施された同法人からの株式分配が配当所得に該当するか否かが争われた事件(以下「カナダスピンオフ事件」という。平15.04.09.東裁(所)平14-227、地裁2004年09月17日判決平15(行ウ)246、東京高裁平成17年1月26日判決平16(行コ)336)である。 もう一つは、個人株主が、原告である国内証券会社の外国証券口座等に米国法人の株式を保有し、この米国法人のスピンオフにより個人株主の取得した米国法人株式が、所得税法上の配当所得等に該当するか否かが争われた事件(以下「米国スピンオフ事件」という。東京地裁平21(ワ)第4746号、東京高裁平成22年8月4日判決、最高裁第一小法廷平成22年(オ)1775号、平成22年(受)2148号)である。 (ア) カナダスピンオフ事件 我が国に会社法が制定される前の2000年に発生したカナダ法人(以下「B社」という。)の株式分割に関する事件である。原告ら(以下「Aら」という)は、日本国内に住所を有する居住者で、B社の株主であった。株主として受けたB社の子会社(以下「C社」という。)株式取得は配当所得に当たるとされた所得税の更正処分は「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とカナダ政府との間の条約」に違反するなどと主張した事案で、第一審東京地裁は、「所得税法上の配当所得の概念は、相当に広範なものと考えるべきであって、法人が、その株主等の出資者に対し、出資者としての地位に基づいて分配した利益は、その名目のいかんにかかわらず、所得税法上の配当金に該当する」。「租税条約は、原則として、自国の居住者に対して適用される国内租税法を修正しようとするものではないから、条約に別段の定めがない限り、締結国には、自国の居住者に対し国内租税法に従って課税する権利が留保されることになる。この原則がセービング・クローズであ」る。また、「租税条約は、国際二重課税という税の障壁を可能な限り回避し、国際交流の円滑化に資することなどを主な目的としたもので、国際二重課税回避の方法として、原則的には相手国の居住者であって、自国の非居住者であるものに対する自国の課税権を制限する方法を採用しており、このように相手国の居住者に対する課税権を互いに制限する点において、国際的相互主義に沿ったものというべきであり、自国の居住者に対して適用される国内租税法制のいかんは、それぞれに国家の課税権に関わる事柄であって、国際的相互主義とは関係のない問題といわなければならない」とし、「本件各更正処分及び本件各賦課決定が違法であることをうかがわせる事情は見当らない」と判示した。Aらは、本件株式分配に伴い、B社の資産は分配されたC社の株式分だけ減少し、B社の株価は175CAD(カナダ)ドルから、41CADドルまで下落したことから、経済的利益が全く生じていないと主張したが、「権利落ち」は、「利益配当等の実施に伴い一般的に発生しうる現象である。仮に、留保利益の大半が利益配当として株主に分配されたような場合には、これにより会社の資産が大きく減少し、株価の大きな下落が生ずることになるはずであるが、そのような場合であっても、当該利益配当が配当所得に該当することに何ら変わりがないことは明らかである。このように、利益配当等の実施に伴い株価が下落したことを根拠として、当該利益配当等による経済的利益は存しないと見ることはできない」と、Aらの主張は退けられた。 当該株式分配を時系列に見ると以下のとおりである。B社は、2000年5月5日を基準日として、自社の株主にC社の株式を分配した。B社は、2000年5月8日に、自社の株主に対し、本件株式分配により分配されることとなったC社の株券を発送した。これらに先立ち、日本の公共証券会社は、2000年4月18日付で、顧客に対しB社が発表した本件株式分配に関する計画を書面により通知した。内容は、B社の株主は、分配されたC社株式を源泉徴収税額相当額支払後、取得するか、あるいは売却し現金で受領するかを選択できるものであった。Aらは株式を受領することを選択した。課税対象額の計算は、権利確定日の2000年5月5日のC社株価と株券発送日である2000年5月8日付の円/CADドルの為替レートが使用されている。 控訴審においても「控訴人らの請求はいずれも理由がない」とされ、原判決をほぼそのまま引用して、棄却された。 (イ) 米国スピンオフ事件 もう一つは、2007年の米国法人のスピンオフに起因する事件である。2006年5月の会社法(平成17年法律第86号)及び平成18年度(2006年)所得税法改正(平成18年法律第10号、2006年4月1日施行)施行後の事件である。我が国の個人投資家(以下「D」という。)が米国法人のスピンオフにより取得した米国法人の株式は、我が国所得税法上の配当金又はみなし配当金に該当するか否かについて争われた事案である。第一審の東京地裁は、配当金についてカナダスピンオフ事件の第一審と同じ判旨を引用し、取得した株式は所得税法上の配当金であるとし、「利益剰余金を原資とする部分は、法人がその株主等の出資者に対し出資者としての地位に基づいて分配した利益に当たるから、所得税法第24条第1項に規定する利益の配当として、配当所得に該当するべきである」と判示した。また、Dは、本件スピンオフが実施された前後において、Dに株主資産の増加が生じていない以上所得は発生していないと主張したが、「しかし、法人の資本金の額を減少させると、その金額は、株主に対する分配が可能な剰余金になり、これをスピンオフにより分社化された他の外国法人の株式という資産に転化させて払い戻せば、その実態は利益配当とは異ならず、株主資産の増加が生じたと見ることができるから、これを課税の対象とすることは、何ら不合理ではない。株主に対し、減資を伴うスピンオフにより分社化された他の外国法人の株式を交付することは、会社が、いったん剰余金を株主に分配した上、改めてスピンオフにより分社化された他の外国法人につき資本の払込みをさせるのと同一の効果をもたらす事からも、上記の合理性は裏付けられる」とし、「利益配当等の基準日の経過後株価が当該利益配当等の額に見合った額だけ下落することは、利益配当等の実施に伴い一般的に発生しうる現象」であるとした。当該株式分配を時系列でみると次の通りである。元法人は2007年6月29日にスピンオフを実施した。元法人から株主らに割り当てられる分割株式は、2007年7月6日に米国の証券保管振替機構に入庫された。2007年9月11日分配された株式をBは割り当てられることとなり、これを取得した。日本の証券会社である原告は、2007年9月11日付で、「子会社株式割当に伴う国内源泉税お支払いのお願い」をDに送付し、2007年9月20日までに源泉税額を納付するように求め、2007年9月20日にDの外国証券取引口座に株式を入庫した。所得税額の基礎となる配当所得算定には、米国証券保管振替機構に入庫された2007年7月6日の株価と株式割当日9月11日の円/USドルの為替レートが使用されている。Dは、第一審判決を不服として東京高裁に控訴した。東京高裁平成22年8月4日判決は第一審判決を支持したため、Dは、最高裁に上告及び上告受理申立てを行ったが、最高裁第一小法廷は平成23年4月21日、上告を棄却、上告不受理を決定(平成22年(オ)1775号、平成22年(受)2148号)した。 ③ 三事件に共通する主な論点 上記2つの判例と当該裁決には共通した主な論点が5つあると思われる。(ア)会社分割により分配された利益が配当所得に該当するか否か、(イ)我が国の会社分割制度と米国等のスピンオフ制度の導入目的および会計処理等の相違、(ウ)外国法準拠取引等における我が国租税法への適用、(エ)当該裁決では問題となっていないが、会社分割による所得金額決定日とその所得金額算定方法の決定方法、(オ)配当日と権利落ち日の関係で、権利落ち日に株価が下落することで元々所有する法人株式の株価下落による利益の損失と新株発行による利益の増加の論点である。 (ア) 会社分割により分配された利益が配当所得に該当するか否か (ⅰ) 税法上の会社分割と配当所得 平成12年(2000年)の商法改正を受けて、平成13年度の税制改正により法人税法に組織再編税制が導入された。これに先立ち、平成12年(2000年)7月の税制調査会は、「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」で、「会社分割が行われた場合、会社間の資産の移転、各種引当金などの引継ぎ、株式などの交付といった局面で課税の取扱いが問題となります。(中略)会社分割についての法的構成は、会社分割を合併と同質の事象として組織法的に構成する大陸法と、会社分割を現物出資による財産の譲渡とその対価として取得した株式の株主への分配の組合せとして構成するアメリカ型の2つがあります。このうちアメリカ型の会社分割は、今回わが国商法の改正においては手当てされておらず、わが国に導入される会社分割とは基本的に形態が異なっています。したがって、わが国において、会社分割に係る税制を検討するに当たっては、今回の商法改正により法整備がなされた会社分割制度を念頭に置いて、検討を進めることが適当(※4)」であるとし、判例法主義であるアメリカ型ではなく、法律は議会によって成立する成文法主義を採用するフランスやドイツの大陸型を参考にして会社分割を考えている(※5)。大陸型は、「会社分割は、合併の反対事象と位置付け、これらを類似の法的行為として捉え(※6)」、「今回わが国商法の改正導入された会社分割制度も、基本的考えは同様(※7)」としている。また、同年12月の同調査会「平成13年度の税制改正に関する答申」においても、「この会社分割法制に係る税制のあり方について、当調査会は、(ⅰ)合併・現物出資などの資本等取引と整合性のある課税の在り方(※8)」と大陸型を示唆している。また、同答申が参考文として添付している「会社分割・合併等の企業組織再編成に係る税制の基本的考え方」に「二 みなし配当金の取扱い 分割型の会社分割や合併により、新設・吸収法人や合併法人の新株等の交付を受けた分割法人や被合併法人の株主においては、旧株の譲渡損益の取扱いとともに、分割法人や被合併法人の利益を原資として新株等の交付が行われたと認められる部分、すなわち配当とみなすべき金額の有無等についても検討が必要になる。この点については、分割法人や被合併法人において、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められず、資産の移転が原則どおり時価により処理される場合には、法人が時価による資産の現物出資を行って株式を取得し、その株式の減資の対価として株主に交付した場合と同様に考えて、その法人の利益を原資とする部分があると認められるときは、その部分についてはみなし配当とすべきである。他方、移転資産の譲渡損益の計上の繰延べが認められ、資産の移転が帳簿価額により処理される場合には、利益積立金額が新設・吸収法人や合併法人に引き継がれることから、(中略)配当とみなされる部分はないものと考えるのが適当である」としている。 (※4) 税制調査会「平成12年7月 わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」(2000年)172頁、日本租税研究協会  2026年2月15日。 (※5) 我が国の会社法における会社分割は、「フランス法における「部分分離(apport partiel)やドイツ法における「分離(Ausgliederung)」に類似する。」(森本滋編『会社法コンメンタール17』(商事法務、2010年)238頁 (※6) 税制調査会・前掲(※4)172頁 (※7) 税制調査会・前掲(※4)172頁 (※8) 税制調査会「平成12年12月 平成13年度の税制改正に関する答申」(2000年)3頁、日本租税研究協会  2026年2月15日。 2026年現在、所得税法における「配当所得とは、法人から受ける①剰余金の配当(株式又は出資に係るものに限るものとし、資本剰余金の額の減少に伴うもの並びに分割型分割によるもの及び株式分配を除く。)、②利益の配当、剰余金の分配、(以下省略)(条文中の一部の括弧書を省略した、及び文中の番号及び下線は筆者が付加)」等に係る所得であると所得税法第24条第1項に規定されている。 これは、平成29年度(2017年)所得税法改正(以下「改正所得税法」という。)において、組織再編税制の整備が、会社分割等の円滑な実施を目的として行われたことによる。改正前の所得税法第24条第1項は、剰余金の配当のうち、上記下線部の株式分配が配当所得に含まれていたが、改正後は、「分割法人が行っていた事業の一部を、分割型分割により新たに設立する分割継承法人が独立して行うための分割が適正分割とされるとともに、これと同様の効果があると考えられる親法人がその株主等に対して行う子法人株式の全部の分配について、株式分配として組織再編税制の対象とされ(※9)」、①剰余金の配当及び②利益の配当に含まれていた株式分配が、配当所得から除外されることとなった。 (※9) 藤原智博ほか『改正税制のすべて 平成29年度版』(大蔵財務協会、2017年)128頁 当該事件は、2015年に発生しているため、改正所得税法改正前及び会社法(平成17年法律87号)に沿って検討する必要がある。会社法は会社分割を①吸収分割(第757条~第761条)②新設分割(第762条~第766条)(※10)に区分する。この会社法の下で、我が国で会社分割を実現するための方法としては、新設分割の事業部門会社分割として①「新設分割+当該新会社株式の現物配当」、及び②「現物出資による新会社設立+当該新会社株式の現物配当」、吸収分割の子会社スピンオフとして③「対象となる子会社株式の現物配当」により、実行することが可能となった(※11)。この事件は、「一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割により設立する会社に継承させる(会社法第2条第30号)」ために、M社が新設されていることから新設分割であると考えられ、事業を新しい会社へ移管し組織を再編していることから、②「現物出資による新会社設立+当該新会社株式の現物配当」に該当する分割であると考えられる。仮に、この会社分割が国内取引であった場合、法人税法上では、組織再編成が適格となる要件は、「企業グループ内再編成」と「共同事業再編成」のどちらかに該当する必要がある。 (※10) 吸収分割は、「一又は二以上の株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の(既存の)会社に承継させる」分割である(会社法第2条29)。 (※11) 太田洋「わが国におけるスピンオフに関する法制上・税制上の課題」証券アナリストジャーナル53巻10号(日本証券アナリスト協会、2015年)32頁 【図表2】適格組織再編成の適用(※12) (※12) 当該【図表2】は、岡村忠生『法人税法講義〔第3版〕』(成文堂、2007年)347頁を引用した。 当該事件が、もし我が国の国内取引事件であったならば、法人税法上の分割型分割に該当し、事例内容を参照し勘案すれば、適格分割型分割に該当しないと思われる。分割法人の法人に対しては、その保有資産等に対して譲渡損益課税がなされ、その株主に対しては、みなし配当課税がなされることとなる。新設分割の効力発生日は、会社法第764条第1項により新設分割設立会社の成立の日に生じる。法定の日から2週間以内に、新設分割する会社については変更の登記をし、設立会社については設立の登記を行わなければならない(会社法第924条)(※13)(※14)。よって、M社の場合、2015年11月〇日が設立の日になると思われる。 当該事件と類似事件が我が国国内でも発生している。2002年9月に中外製薬株式会社(以下「中外」という。)が行った、米国企業であるジェン・プローブ・インコーポレイテッド(以下「J社」という。)の分離独立の事例(以下「中外製薬事件」という。)である(※15)。2002年6月27日開催の株主総会において「資本の減少」及び「資本準備金の減少」が承認・可決され、2002年7月31日が割当基準日となり、発行済株式数が確定し、税務計算上の「みなし配当額」が確定している。新聞記事等(※16)によると、中外製薬がJ社を売却したと見なされJ社買収価格である簿価256億円に対し、スピンオフ時の時価を795億円と評価され差額が株式の売却益と判断された。次に、中外の株主へJ社株式を交付したため、株主が株式配当を獲得したと見なされみなし配当課税が生じた。これらの費用は全て中外が負担し、総額は株式譲渡益に対し225億円の法人税等が、みなし配当金に対し125億円(中外が株主に代わりすべて負担)の源泉所得税、合計350億円の税負担が生じている。 (※13) 前掲(※12)371頁 (※14) 米国の会社法は、連邦法ではなく州法である。事業活動の内容・目的に沿って、進出事業体の形態を選択し、州法に従って登記または登録する。独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)「外国企業の会社設立手続き・必要書類」 2026年2月26日 (※15) 西村あさひ法律事務所編『M&A法大全(下)全訂版』(商事法務、2019年)433頁及び前掲(※8)33頁参照 (※16) 中外製薬「ジェン・プローブ社株式の割当・分配についてのお知らせ」(2002年6月27日)、「有償減資等に伴うみなし配当額等に関するお知らせ」(2002年8月5日)、「ジェン・プローブ社「割当通知書」ご送付のご案内」(2002年9月2日)、2002年10月23日付日本経済新聞社朝刊29頁、2003年4月23日付日本経済新聞社朝刊19頁、2003年7月27日付日本経済新聞社朝刊28頁等を参照している。 (イ) 我が国会社分割制度と米国等スピンオフ(以下「Spin-off」という。)の導入目的の相違等 (ⅰ) 会社分割とSpin-offにおける目的の違い 我が国の会社分割は、「株式会社または合同会社が、その事業に関して有する権利義務の全部または一部を、分割後他の会社(以下「承継会社」という。)または分割により設立する会社(以下「設立会社」という。)に承継させることを目的とする会社の行為である(会社法第2条第29号・第30号)(※17)」。会社分割は、事業の買収やグループ企業の再編等に活用されている(なお、会社法制定前は、会社分割の対象は分割会社の「営業の全部又は一部」である必要があったが、何が「営業」に当たるかは必ずしも明確でなく、法的安定性を害するという批判があった。現行法下では「(分割会社の)事業に関して有する権利義務の一部」であればそれ自体が「事業」といえるものでなくても、会社分割の対象にできる(※18))。企業の事業で不採算事業がある場合、その事業を切り離すことで経営資源の効率化を図ることやグループ企業の再編を目的として利用されることが多い。 これに対し、米国等の場合、Black’s Law Dictionaryによると、「Spin-offとは企業の事業分割の一つで、企業の一部門が独立した会社となり、新会社の株式が元の企業の株主に分配されるもの。」とされる。企業内における成長性の高い事業の価値が一事業分問であるという位置付けにあるとき、その成績が企業内で埋もれてしまい、当該事業が証券アナリスト等のカバレッジ(証券・金融分野で、特定の企業や銘柄を専門家が継続的に分析・監視し、投資家に情報提供すること)の限界により、その価値が市場において十分に評価されない結果としての株価の割負けを生じるコングロマリット・ディスカウントを解消する手段として用いられる。 このように、会社分割の主な目的は、我が国では事業再編による不採算事業の解消、米国ではコングロマリット・ディスカウントの解消と正反対の目的で実施されている。また、税制調査会の「わが国税制の現状と課題-21世紀に向けた国民の参加と選択-」で述べているように、我が国では、会社分割を判例主義の米国型ではなく、成文法主義の大陸型を採用し、これをもとに法律等が定められ、実行される。会社分割とSpin-offは、事業部門の分離はほぼ同じ方法で実行されてはいるが、米国では新設会社が株式市場上場を前提に設立され、我が国では、この当時の会社分割は、上場目的ではなく、グループ会社の組織再編の利用が主であると考えられる。実際、米国等の上場市場で評価がある株式の将来の株価と我が国における分割により取得された配当及び株式の将来の評価額を比較すれば、その差は大きく広がるであろうと考えられる。このように会社分割とSpin-offは、異なった目的から計画実行され、会社分割制度としても違った経緯を遂げてきているように思われる。また、上記③(ア)(ⅰ)に記述した税制調査会の「わが国税制の現状と課題」は、米国型のSpin-offは、「今回のわが国商法の改正においては手当てされておらず、わが国に導入される会社分割とは基本的に形態が異な」るとしている。このような状況の中、我が国会社分割と米国のSpin-offを同じ制度と考え、米国法に準拠し、適用することは可能だろうか。 (※17) 江頭憲治郎『株式会社法第7版』(有斐閣、2017年)897頁 (※18) 相澤哲・葉玉匡美・郡谷大輔『論点解説 新・会社法』(商事法務、2006年)668頁~669頁を要約。 (ⅱ) 我が国会社法上の会社分割 平成11年(1999年)商法改正で株式交換、株式移転制度が導入されたのち、平成12年(2000年)商法改正(平成12年法律90号)により、会社分割制度が創設された。我が国商法には平成12年まで会社合併の規定はあったが、会社分割の規定はなかった。会社分割についての法的発想の基本に会社の合併と営業譲渡がある。前者が大陸法における発想であり、後者が米国型における発想である(※19)。したがって合併を会社の分割と同質的にとらえることから大陸法的な会社分割が採用されたと考えられる。我が国において会社分割を立法化するにあたり、会社分割の手続方法、株主保護、会計処理・計算の問題等様々な問題を検討する必要があったが、最も、重要な論点としては会社債権者の利益をどのようにして保護するかという問題があった。米国には、包括的な会社分割法制がない。そのため会社分割に固有の債権者保護規定はなく、新設会社への事業譲渡に関しても債権者保護規定はない。また、資本の減少についても債権者保護規定がなく、債権者に通知することなく資本を剰余金として配当することが可能であった。これとは対照的に当時の我が国商法が債権者保護と資本維持について厳しい規則を置いていた(※20)。また、株主への株式分配に関しても、これを配当であるとすれば、金銭以外の配当が許されるのかといった問題、利益の配当は株主総会の専権事項であり定時株主総会の承認が必要などといった問題があった。 (※19) 田村諄之輔「会社分割法制についての一考察」岩原紳作・神田秀樹編著『商事法の展望』(商事法務、1998年)53頁 (※20) 当該箇所は、日本銀行金融研究所「会社分割の法律問題―債権者の扱いを中心にー」『金融研究』(1993年3月)の16~17頁を参照している。 平成12年改正商法は、第四章第六節ノ三以降に会社分割の規定(※21)が置かれ、第一款が新設合併、第二款が吸収合併となっていた。平成17年(2005年)に会社法(平成17年法律第86号)が制定され、会社分割に関して第2条第1項第29号吸収分割及び第30号新設分割においてその定義、第3章会社分割第757条から第766条で会社分割の規定を定めている。旧商法においては、会社分割により、承継される財産は「営業」に限定され、「有機的一体性のない財産の移転は除外されていると解されていた」(※22)が、会社法第2条の定義において、会社分割で承継の対象となる財産について、「その事業に関して有する権利義務の全部又は一部」と規定し、「客観的意義の事業及び事業活動に関して会社が保有している個別の権利および義務」(※23)とした。 「会社分割の効力が生ずると、承継会社・設立会社は、吸収分割計画・新設分割計画の定めに従い、分割会社の権利義務を承継する(会社法第759条第1項・第761条第1項・第764条第1項・第766条第1項)。この権利義務の承継は、当該権利義務に関する分割会社の地位を承継する一般承継(包括承継)(※24)」である。一般(包括)承継とは、会社が保有する全ての権利義務を一括して引き継ぐ制度である。会社法では、会社分割において、分割会社の権利義務が承継会社に包括的に承継されることが規定されている(会社法第2条第29・30号)。しかし、会社分割でいわれる一般承継と相続や合併における一般承継には、違いがあると思われる(※25)。すなわち、被承継人の死亡や被承継会社の合併による消滅により、被承継人や被承継会社の権利義務の全ては承継人や承継会社に引き継がれる。これに対し、会社分割では被承継会社である分割会社は会社分割後も引き続き存続し、分割会社の権利義務のうちどの部分を承継会社または設立会社が引き継ぐかは吸収分割契約または新設分割計画の内容によって決定され、原則として株主総会の承認を受ける。 (※21) 現在の会社法では、第五編第三章に規律している。 (※22) 前掲(※18)668頁 (※23) 前掲(※18)668頁 (※24) 前掲(※17)925頁 (※25) 神田秀樹『会社法〔第28版〕』(弘文堂、2026年)414頁~415頁に同趣旨の掲載がある。 当該事件は、我が国会社法上に照らした場合、新設分割に該当すると思われる。新設分割計画の記載内容は、①新設分割の効力を生じた日、②分割に反対株主の株式買取請求手続き、新株予約権買取請求手続き及び異議のある債権者保護手続きの経過、③新設分割により設立会社が分割会社から承継した重要な権利義務に関する事項、④前各号に掲げるもののほか、新設分割に関する重要な事項等である(会社法施行規則第209条)。 (ⅲ) 会社分割の会計処理の相違 仮に、H社(のちのN社)及びM社の貸借対照表が仮に下記の状況であった場合の会計処理を考える。ただし、当該裁決には、H社、N社及びM社に関して詳細な財務諸表等の記載がないので、当該諸表等には実際の数値ではなく仮の数値を用いて説明することとする。 【図表3】 H社の貸借対照表(仮定) ● 米国の会計処理 米国GAAPにおける当該事件の会社分割の会計処理を考えると以下の通りとなる。例えば、分割する会社N社の純資産額が、5億ドルとする。 2015年11月〇日 Retained earnings / 利益剰余金 Retained earningsは、設立以来のNet income(またはProfit for the year)が累積されたものであり、企業内部に留保されているもの。純資産を構成する項目のひとつ、Stockholders’ equity(株主資本)の一部であり、分配可能算定額の基礎となる。 【N社から株式を受け取った株主】 スピンオフがIRC§355の対象となる場合、株主は利益を認識しないが、親会社株式の既存の取得原価を保有する親会社株式と新たに受け取る新設された会社の株式に分割する必要がある。IRC§358は、この配分は分割直後の両株式の相対的な公正市場価値に基づいて行われることを義務付けている。 例えば、株主が親会社株式を100ドルの取得原価で保有し、スピンオフ直後に親会社株式が両方の株式を合計した市場価格の80%を占め、Spincoが20%を占めた場合、株主は80ドルの取得原価を親会社株式に、20ドルを新設会社株式に配分する。当該配分によって、最終的にどちらかの株式を売却した場合の損益が決まるため、正確に配分することがすべての株主の税務申告にとって重要となる。 ● 日本の会計処理(簿価引継ぎ法の場合) 当該事件が日本国内で発生した場合、会計処理は以下の通りとなる。上記と同条件で分割する会社N社の純資産額が、5億ドルとする。 M社の株式がN社株主に交付される場合、N社の純資産を減少させる会計処理が行われる。N社の資本構成を比例案分し取り崩す。 【図表4】純資産移転割合計算式(※26) 【N社から株式を受け取った株主】 企業会計基準第7号によれば、「分割型の会社分割における分割会社の株主に係る会計処理」の第49項「受取対価が新設会社又は承継会社の株式のみである場合の分割会社の株主に係る会計処理」において、この場合、これまで保有していた分割会社の株式又は一部と実質的に引き換えられたものとみなし」、これを適用するにあたって、第50項で「分割した部分に係る分割会社の適正な帳簿価格を用いる。これは分割直前の分割会社の株式の適正な帳簿価格のうち、引き換えられたものとみなされる部分を合理的な方法によって按分し、算定する」と規定している。したがって、上記計算で使用した租税特別措置法第37条の10-24の「純資産移転割合」を使い、分割後の旧株式1株当たりの取得価格を計算することも可能となる。 【図表5】分割後の旧株式1株当たりの取得価額計算式 (※26) 『租税特別措置法(株式に係る譲渡所得等関係)の取扱いについて』等の一部改正について(法令解釈通達)」の趣旨説明(情報)及び措置法第37条の10-24を参照。また、企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第10号「企業結合会計基準及び事業分離等会計基準に関する適用指針」を日本公認会計士協会・企業会計基準委員会共編『会計監査六法平成27年度版』(日本公認会計士協会出版局、2005年)、同共編『会計監査六法2026年度』同出版局2026年)によって参照し記載している。 (ウ) 外国法準拠取引等における我が国租税法への適用 (ⅰ) 我が国租税法と外国法準拠取引 租税の法域では、私法域とは異なり、実質課税原則、質問検査権、租税法律主義(法定債権)の如き、税法固有の解釈要素が介在する。このうち、租税法律主義は、「法律の根拠の基づくことなしには、国家は租税を賦課・徴収することはできず、国民は租税の要求をされない」ことであり、内容は、「課税要件法定主義」、「課税要件明確主義」、「合法性原則」及び「手続的保障原則」の4つからなる。「税法と私法の関係が問われるのは、課税要件として、私法からの「借用概念」が用いられている場合」である。「租税法律関係においても、他法域で形成された法理がそのまま適用される必要があるのかが、まず問われるべきである。租税法律関係への私法規定の適用とか、借用概念の場合には、租税法律関係を規定する条件の違いを与件とすれば、他法域における適用との間に乖離が生じたとしてもやむを得ないであろう」。「100%未満の合理性」の行政判断は、個別事例においては妥当性を欠くことがあっても、「限りなく100%の合理性」を求める司法判断へのルートが確保されている限り、一応の合理性を認めることはできるだろう。 当該事件の審判所判断をみると、「所得税法第24条第1項は、配当所得として、法人から受ける剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、投資信託及び投資法人に関する法律第137条の金銭の分配、基金利息並びに投資信託及び特定受益証券発行信託の収益分配に係る所得も含むとしており、配当所得を決算手続きに基づく利益の配当に限定していない。所得税法上の配当所得概念は、法人がその株主等の出資者に対し、出資者としての地位に基づいて分配した利益は、その名目のいかんにかかわらず、所得税法上の配当所得に該当する(下線は筆者が付加)」。この審判所の判断は、株主相互金融会社株主優待券事件(最高裁昭和35年10月7日第二小法廷判決)が、所得税法でいう「利益若しくは利息の配当」の前段の概念が、商法(平成17年法律第86号以前)でいう「利益の配当」と同意に解すべきかどうかの問題と同じ趣旨の文である。判例は、「商法は、取引社会における利益配当の観念(すなわち、損益計算上の利益を株金額の出資に対し株主に支払う金額)を前提として、この配当が適正に行われるよう各種の法的規制を施しているものと解すべきである。そして、所得税法中には、利益の配当の概念として、とくに商法の前提とする、取引社会における利益配当の観念と異なる観念を採用しているものと認むべき規定はないので、所得税もまた、利益配当の概念として、商法の前提とする利益配当の観念と同一観念を採用していると解するのが相当である」とする。「利益配当の観念が借用概念であると断じ、ただその場合にも右の配当が商法上違法なものであるかどうは、無関係で、むしろ租税法上の利益配当概念は、そうした違法配当もカバーすることを明らかにし、その後で、本件の金員のように損益計算と無関係なものは、利益配当概念に含まれないものとした。(中略)商法上利益配当という場合、損益計算上の利益の存在を不可欠の要件とみる考え方が一般的であるとしたならば、(中略)株主優待券も一種の資本の払い戻しと解することもでき、(中略)それが資本取引か、それとも損益取引か、そのいずれに属するものであるか、という点から、判断される問題であろう(※27)」と村井正教授は述べられ、別の文献では、利益配当金という計算上の概念について商法と租税法との間のある程度の相対性の容認(合目的論的解釈論)の所論(※28)も述べられている。 (※27) 村井正『現代租税法の課題』(東洋経済新報社、1973年)57頁 (※28) 村井正『租税法と私法』(大蔵省印刷局、1982年)124頁 当該事件、カナダスピンオフ事件及び米国スピンオフ事件の外国法によって設立され、外国法によって原因事象が発生した外国企業に起因する事件についても、下線部のような同じ趣旨の記載がある。外国法上の概念をほぼそのまま借用概念として適用してよいかという問題があると思われる。 (ⅱ) 日米租税条約等について 米国およびカナダの国内上場企業のSpin-offは、それぞれの国や州の規則に基づいて実行される。確かに、日米租税条約第10条第1項(※29)は、配当を支払う会社は、居住者である源泉地国(当該事件の場合、日本)に課税権を認めており、当該事件では、第2条から、議決権株式を居住者が直接及び間接的に所有する保有割合が10%未満の場合、税率は10%となる。しかし、それぞれの事件について、国境を越えたわが国の居住者が実際に取得しているのは、配当金ではなくて、新設会社の株式である。我が国の会社分割と米国のSpin-offが違った制度と考えれば、次のように考えることはできないだろうか。後で詳細は記述するが、Yは源泉所得税額の計算において、株主への所得額を配当金の金額の評価を使用せず、上場後の株式の市場価値で評価している。これを株式の譲渡としてみた場合、日米租税条約には以下のような記述がある。 (※29) 日米租税条約第10条第1項「一方の締結国の居住者である法人が他方の締結国の居住者に支払う配当に対しては、当方他方の締結国において租税を課すことができる。」 日米租税条約の第13条譲渡収益の第7項は「1から6までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締結国においてのみ租税を課すことができる。」と規定する。本条第3項において国から金融支援を受けた金融機関の株式の譲渡収益について規定する以外の法人の株式、債券、社債等の譲渡からの収益は、その譲渡者が居住者である国においてのみの課税となる。すなわち、当該事件の場合、新設会社の株式を所有していた承継会社からの株式譲渡として考えた場合、承継会社が居住する米国においてのみが課税を課すことができることになる。日本カナダ租税条約第13条第4項にも「1から3までに規定する財産以外の財産の譲渡から生ずる収益に対しては、譲渡者が居住者とされる締結国においてのみ租税を課すことができる。」と規定する。当該規定は、OECDモデル租税条約第13条のパラ30にも同様の規定がある。当該事件等は、米国あるいはカナダにおける企業のSpin-offにより、我が国でいう利益準備金等を利用して、企業の一部門が独立した会社となり、新会社の株式が元の企業の株主に分配されている。実際に、我が国居住する元の企業の株主が手にするのは新設会社の株式である。 (エ) 会社分割による所得金額決定日とその所得金額算定方法の決定方法 (ⅰ) 会社分割による所得金額決定日 3つの事件における株主に対する配当所得の発生日が、下記(【図表6】)のとおり、一定の規則をもって確定されていない。当該3事件のような会社分割の場合に問題はないであろうか。株主が外国企業から株式等を取得したと考えられる日によって、配当所得の金額が大きく異なる場合が生じると可能性があると考えられるからである。株式等に係る譲渡所得等の計算をする場合、株式の取得をした日の判定が少なからずも重要になると考える。 【図表6】所得の確定日、為替レートの確定日と所得金額 我が国の所得税法は、所得税法第36条1項で「各種所得の金額の計算上収入とすべき金額又は総収入金額に参入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入とすべき金額とする。」と定め、「ここに「収入とすべき金額」とは、実現した収益、すなわちまだ収入がなくても「収入すべき権利の確定した金額」のことであり、したがって、この規定は、広義の発生主義のうちいわゆる権利確定主義を採用したものであると、一般に解されている(最決昭和40年9月8日刑集19巻6号630頁、最判昭和49年3月8日民集28巻2号186頁、最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁、最判平成5年11月25日民集47巻9号5278頁(法人税))。第一に、今日の経済取引においては、信用取引が支配的であるから、たとえ現実の収入がなくても、収入すべき権利が確定すれば、その段階で所得の実現があったと考えるのが合理的であること、(中略)にかんがみると、所得の年度帰属については、原則として権利確定主義が妥当と解すべきであろう」(※30)。この権利確定主義は、「企業会計の発生主義の考え方」(※31)に基づいている。 (※30) 金子宏『租税法第二十四版』(弘文堂、2021年)317頁 (※31) 水野忠恒『体系租税法第5版』(中央経済社、2024年)279頁 次に配当等を取得した日がどの時点であるかを検討する。「取得をした日の判定」について租税特別措置法第37条の10・37の11共-18《株式等に係る譲渡所得等の課税の特例》(5)は、「株式の分割又は併合により取得した株式及び株主割当てにより取得(所得税法令第111条第1項に規定する旧株の数に応じて割り当てられた株式を取得した場合をいう。)した株式は、その取得の基因となった「株式の取得した日」による。(下線は筆者が付加)」と規定する。所得税法基本通達第36条(収入金額)関係〔収入金額の収入すべき時期36-4((配当所得の収入金額の収入すべき時期)において、「(1)法第24条第1項(配当所得)に規定する剰余金の配当、利益の配当、剰余金の分配、金銭の分配又は基金利息(以下この項において「剰余金の配当等」という。)については、当該剰余金の配当等について定めたその効力を生ずる日。ただし、その効力を生ずる日を定めていない場合には、当該剰余金の配当等を行う法人の社員総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日。(2)を省く(3)法第25条(配当等とみなす金額)の規定により配当等とみなされる金額については、それぞれ次に掲げる日。(イを省く)ロ 法第25条第1項第2号に掲げる分割型分割によるものについては、その契約において定めたその効力を生ずる日。ただし、新設分割の場合は、新設分割設立会社の設立登記の日。なお、これらの日前に金銭等が交付される場合には、その交付の日。ハ 法第25条第1項第3号に掲げる株式分配によるものについては、当該株式分配について定めたその効力を生ずる日。ただし、その効力を生ずる日を定めていない場合には、当該株式分配を行う法人の社員総会その他正当な権限を有する機関の決議があった日(下線部は筆者が付加)」と規定する。権利確定主義の点から勘案すれば、配当所得が発生した日は、「事業分割が実施された日」で株主へ株式の分配が決定された日と考えられる。そして、我が国の配当等の所得税の徴収については、所得税法第181条1項で「支払する者は、その支払いの際、その利子等又は配当等について所得税を徴収し、その徴収に属する月の10日までに、これを国に納付しなければならない。」と規定され、配当金の支払い確定日に所得税の徴収が決定される。 (ⅱ) 所得金額算定に使用する為替レート 邦貨換算に使用する為替レートについては、①所得税基本通達57の3第2項(※32)の外貨建て取引の円換算によりその取引を計上すべき日における対顧客直物電信売相場(Telegraphic Transfer Selling Buying Rate 略称は「TTS」という。)と対顧客直物電信買相場(Telegraphic Transfer Buying Rate 略称は「TTB」という。)の仲値(Telegraphic Transfer Middle Rate 略称は「TTM」という。)により邦貨に換算した金額、②租税特別措置法関係通達(源泉所得税関係)第9条の2―2(※33)の外国通貨で支払を受けた配当等を外国通貨で交付する場合はTTBにより邦貨換算した金額、③租税特別措置法関係通達(株式等に係る譲渡所得等関係)37の10・37の11共-6(※34)により、譲渡所得等の金額の計算を引用して、原則、支払開始日と定められている日のTTBにより邦貨に換算した金額、④単に外国為替レートと記載し邦貨に換算した金額等が邦貨換算に採用されている。①は当該事件、②は中外製薬事件及び④はカナダ法人スピンオフ事件及び米国法人スピンオフ事件で採用されている。 (※32) (外貨建取引の円換算)法第57条の3第1項((外貨建取引の換算))の規定に基づく円換算(同条第2項の規定の適用を受ける場合の円換算を除く。)は、その取引を計上すべき日(以下この項において「取引日」という。)における対顧客直物電信売相場(以下57の3-6までにおいて「電信売相場」という。)と対顧客直物電信買相場(以下57の3-6までにおいて「電信買相場」という。)の仲値(以下57の3-6までにおいて「電信売買相場の仲値」という。)による。 (※33) (外国通貨で支払を受けた配当等を外国通貨で交付する場合の邦貨換算)措置法第9条の2第1項に規定する支払の取扱者(以下9の2-3において「支払の取扱者」という。)が同項に規定する国外株式の配当等(以下9の2-4までにおいて「国外株式の配当等」という。)の支払をする者又はその支払を代理する機関(以下9の2-3において「支払代理機関等」という。)から外国通貨によって国外株式の配当等の支払を受け、当該国外株式の配当等を居住者又は内国法人に外国通貨で交付する場合には、当該交付をする外国通貨の金額を、次に掲げる国外株式の配当等の区分に応じ、それぞれ次に掲げる日(以下9の2-3までにおいて「邦貨換算日」という。)における当該支払の取扱者の主要取引金融機関(その支払の取扱者がその外国通貨に係る東京外国為替市場の対顧客直物電信買相場を公表している場合には、当該支払の取扱者)の当該外国通貨に係る東京外国為替市場の対顧客直物電信買相場(以下9の2-3までにおいて「電信買相場」という。)により邦貨に換算した金額を同条第2項に規定する「交付をする金額」として同項の規定を適用する。(1)記名の国外株式の配当等 支払開始日と定められている日(2)無記名の国外株式の配当等 現地保管機関等が受領した日(昭和63年3月31日) (※34) (外貨で表示されている株式等に係る譲渡の対価の額等の邦貨換算)37の10・37の11共-6 一般株式等に係る譲渡所得等の金額又は上場株式等に係る譲渡所得等の金額の計算に当たり、株式等の譲渡の対価の額が外貨で表示され当該対価の額を邦貨又は外貨で支払うこととされている場合の当該譲渡の価額は、原則として、外貨で表示されている当該対価の額につき金融商品取引業者と株式等を譲渡する者との間の外国証券の取引に関する外国証券取引口座約款において定められている約定日におけるその支払をする者の主要取引金融機関(その支払をする者がその外貨に係る対顧客直物電信買相場を公表している場合には、当該支払をする者)の当該外貨に係る対顧客直物電信買相場により邦貨に換算した金額による。また、国外において発行された公社債の元本の償還(買入れの方法による償還を除く。)により交付を受ける金銭等の邦貨換算については、記名のものは償還期日における対顧客直物電信買相場により邦貨に換算した金額により、無記名のものは、現地保管機関等が受領した日(現地保管機関等からの受領の通知が著しく遅延して行われる場合を除き、金融商品取引業者が当該通知を受けた日としても差し支えない。)における対顧客直物電信買相場により邦貨に換算した金額による。 外国企業からの配当金支払いを国内証券会社等経由して受けた場合には、権利確定日から数か月後の配当金支払確定日の為替レートを使用して金額が決定されることがある。上記の米国法人スピンオフ事件は、この例である。すなわち、計算に使用される株価は米国で「事業分割が実施された日」あるいは「株式分配日」、使用される為替レートは、我が国における株券発送日が使用されている。時間の経過のため為替レートが変動し、これら要因により時間による邦貨換算に影響を及ぼす可能性がある。上記J社の事例をみると、株式譲渡益やみなし配当額の決定額の計算上、発行済株式数、資本金・資本準備金、利益積立金等使用される数値は、2002年7月31日の割当基準日、すなわち分割の効力を生ずる日をもとにすべての計算がなされている。この計算が基本となるであろう。また、外国企業の我が国内での当該分割事務に際して、株式を取得するのかそれとも売却するのか、事前選択することを株主対してお知らせを送致し確認する必要がある場合、この時間差の影響がもっと広がる恐れがある。その各数値は、効力を生ずる日の数値をもとに計算される。該当する株主は効力の発生した日の株式価値から存続か売却かを判断し決定する。配当された株式を所有する者、あるいは売却し外貨のまま所有する者又は円に換算する者、いろいろなケースが考えられる。会社分割による配当が実行された日の影響をなくすために配当評価額計算の基準となる日が必要となる。外国企業のスピンオフ事案の場合、外国企業の存する国での株主への会社分割による配当金分配日と同日の為替レートを使用することが妥当であろうと筆者は考える。 (ⅲ) 所得金額を決定するための配当金の評価額 これら上記3事件の配当金の評価方法について検討する。これら3つの事件の会社分割は、新設会社の株式が市場に上場されるために、会社分割の実行日に各新設会社の株式に初値が付き、株価がそれ以降時間の経過とともに市場で変動する。当該事件はXの権利確定日(2016年11月〇日)の株価、カナダスピンオフ事件は権利確定日(2000年5月5日)の株価、そして米国スピンオフ事件は株式入庫日(2007年7月6日)の株価が、我が国においての所得税額の計算に使用されている。剰余金を使用した配当金の場合、1株当たりの配当金は資本金及び資本剰余金からの払い戻しとみられる金額、利益剰余金からの払い戻しとみられる金額を基礎として、割当基準日における発行済株式数で除して算定されると考えられる。しかしながら、これら3事件については、配当所得の計算に全て株価を使用している。当然、この配当金額と株価との間には、算定方法の相違、時間の経過等から金額の差額があると思われる。当該事件の場合、N社の利益剰余金が37,296百万USドルの減少し、発行した株式数が1,803,719千株であるので、およそ20.677USドルが1株当たりの配当金額なると考えられる。所得金額計算上の株価がこの金額と同じ金額であれば、問題とはならないだろうが、一般的には上場時に株価が大幅に上昇することが多いと考えられる。配当所得金額の算定に剰余金の配当金額を使用せず、上場時の株価を使用することに問題はないのだろうか。 【図表7】 当該事件に関連する為替レート(※35) (※35) 当該図表は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングの外国為替情報(令和8年6月16日)及び七十七銀行の為替相場情報(令和8年6月16日)を参考に作成した。 (オ) 配当日と権利落ち日の関係で、権利落ち日に株価が下落することで元々所有する法人株式の株価下落による利益の損失と新株発行による利益の増加の論点 会計処理は、会社分割時の旧株式の取得価額の適正な時価額への調整を要求する。確かに、会社分割時に新設会社の株式を受け取らず権利を売却すれば、選択により利益を得る時点もあったと考えられる。米国での事例をみると、良好な事業をSpin-offすることにより、株価が大幅に上昇した例もある。株式市場は、企業の経営状態、経済状況その他の要因により、上下するのが常であり、個人事業主であるXの主張は、当を得ないものであると考える。Xのような個人株主の場合、所得税法上申告分離課税であり、株式等を売却・譲渡したときに初めて利益や損失を認識することができる。これに対して、法人の場合、上記で述べた会計基準等に従った会計処理を行うことは、日常業務で会計仕訳を継続的に記録しており、財務諸表において株式の簿価を示すことは株主に対しても重要なこととなる。 (3) 争点3 審判所の判断は、正しいと思われる。過少申告加算税の賦課が、真に納税者のやむを得ない理由によるものであって、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当若しくは酷になる場合をいうものと解され、それが納税者、当該事件の場合、Xの税法の不知や誤解に基づく場合は、これに当たらない。 6 おわりに 当該事件における裁決において課税の根拠となっている会社分割における剰余金の配当について、①当事者が手中にした配当=株式の評価を、配当金と株価のどちらを取るか、②外国法準拠取引の適用、そして③権利取得日と所得取得日を何時にするか、そしてその為替レートの適用日を何時にするかを主な問題として取り上げた。これらの問題は、平成29年度税制改正により、非適格組織再編成とされていたスピンオフについての課税繰延措置が導入され、米国型のスピンオフを適格分割としたことで解決が図られている。これ以降の税制改正でもスピンオフ税制の拡充が図られている。この状況を受け、上場企業において2020年3月に、(株)コシダカホールディングス(東証一部(当時)上場)、2024年10月に㈱メルコHD:(東証スタンダード上場)、2025年10月にソニーグループ(株)(東証プライム上場)等がスピンオフを実施している。スピンオフにより、経営の独立、資本の独立、上場の独立による企業価値の向上(※36)が期待されるため、今後も実施の動きが加速するであろう。スピンオフ制度には、会社法、租税法のほか、労働法や経済法との関連性が存在する。今回この研究をする中でも、租税法は、法律の施行までの国会での議論や答弁の記録、政府関係者の議事録等を調べて立法の成立過程を知ろうとしても中々資料が集まらなかった。米国等その国の租税規則や租税に関する法律の立法過程や成立過程を調べていくと、規則及び法律成立の根拠となる議事録や資料の多様に驚かされる。我が国においても、立法過程等の詳細な資料があれば、租税の判断や解釈が必要な時や裁判・裁決時に幅広く利用することが可能となるであろう。今後、AIなどの普及により、もっと租税回避等に利用される租税スキームが複雑となる可能性がある。これに対処するためにもこれらの記録がますます必要になると考える。 (※36) 経済産業省 経済産業政策局 産業組織課「スピンオフ」の活用に関する手引(参考事例編)令和7年7月を参照している。 【図表8】会社分割に関する法律等の変遷 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (了)
#674(掲載号)
#井上 眞一
2026/06/25
リース 会計 税務・会計 解説 解説一覧 財務会計

【新基準対応版】〈一から学ぶ〉リースの会計と税務 【第3回】「リース契約の流れ」

【新基準対応版】 〈一から学ぶ〉 リースの会計と税務 【第3回】 「リース契約の流れ」   公認会計士・税理士 喜多 弘美   【第2回】では、リースのメリット・デメリットについて整理しました。設備投資をする際に、自己資金で購入する場合などと比較して、リース契約のメリットが大きい場合は、会社はリースを選択します。 では、リースを選択した後に、実際のリース契約は、どのような流れで行われるのでしょうか。この疑問を解消すべく、今回は一般的なリース契約の流れを整理します。 まず、リース契約の場合、登場人物は以下の3者になります。 リースでなく、物件を購入する場合、登場人物は「売手()」と「買手()」の2者だけですので、それと比べるとリースは少し複雑な印象を受けるかもしれません。これからリースの流れを整理しますが、賃貸と売買のやりとりを組み合わせたイメージを持ちながら、が自社であり、主語が誰かを意識して読み進めていただくと理解しやすいと思います。 それでは、早速はじめていきましょう。 以上が、一般的なリース契約の流れになります。 最後に、3者(・・)の関係をまとめると下図のようになります。 (了)
#674(掲載号)
#喜多 弘美
2026/06/25
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

税理士事務所の労務管理Q&A 【第32回】「標準報酬月額の決定方法(定時決定)」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第32回】 「標準報酬月額の決定方法(定時決定)」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   毎年7月1日に、健康保険・厚生年金保険の標準報酬月額の定時決定が行われます。 定時決定は、4月、5月、6月の3ヶ月に受けた報酬を基に算定しますが、今回は、年間報酬の平均で算定する方法について解説します。 * * 解 説 * * 1 標準報酬月額の定時決定 (1) 定時決定とは 定時決定とは、毎年1回標準報酬月額を見直す制度です。7月1日現在の被保険者を対象にして行われます。事業主は報酬月額を算定し、年金事務所に健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額算定基礎届(以下、算定基礎届という)を提出することによって標準報酬月額が決定されます。 (2) 原則的な報酬月額の算定方法 4月、5月、6月の3ヶ月に受けた報酬の総額をその月数で除して、報酬月額を算定します。報酬支払基礎日数が17日(短時間労働者は11日、以下同じ)以上のある月を対象にしますので、17日未満の月がある場合は、その月を除いて計算します。   2 年平均で算定する保険者決定 (1) 保険者決定とは 原則的な方法だけでは報酬月額が算定できないとき(たとえば、4月、5月、6月ともに報酬支払基礎日数が17日未満のとき等)や、算定した額が著しく不当な額になるときは、保険者が特別な方法で算定して標準報酬月額を決めることになります。これを保険者決定といいます。 (2) 年平均で算定する定時決定 当年の4月から6月の報酬額をもとに通常の定時決定の方法により算出した標準報酬月額と、前年の7月から当年の6月までの報酬の月平均額によって算定した標準報酬月額との間に、2等級以上の差が生じた場合であって、その差が業務の性質上例年発生することが見込まれる場合は、保険者決定によって報酬月額が算定されます。 ◆保険者決定の例〈前年の7月から当年の6月までの報酬の額〉 上記算定例の場合は、①と②を比較して、2等級以上の差が生じたため、前年の7月から当年の6月までの報酬の月平均額によって算定した300,000円が定時決定の際の標準報酬月額となります。 ただし、例えば、4月に基本給等の固定的な賃金の変動があった場合は、随時改定(報酬が著しく変動した場合の標準報酬月額の改定方法)の対象になり、定時決定が行われませんので、注意が必要です。 (3) 年平均で算定する効果 ご質問の場合のように、4月から6月にかけて業務が多忙で、残業代が通常の月よりかなり多く支給されていた場合は、上記保険者決定により、標準報酬月額が低くなり、その結果として保険料の負担が軽減されます。 (4) 事務手続き 事業主が年金事務所に申立を行うことにより、保険者決定の対象とされます。 算定基礎届の備考欄に「年間平均」と記載(〇で囲む)した上で、下記の書類(定型用紙あり)を添付します。   3 留意点 この保険者決定に関する申立を事業主が行うことによって、被保険者に不利益が生じないように被保険者の同意を必要としています。申立をする場合は、被保険者にこの保険者決定の主旨を十分説明することが大切です。 (了)
#674(掲載号)
#佐竹 康男
2026/06/25
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

〔業種別Q&A〕労使間トラブル事例と会社対応 【第17回】「フリーランスと労災保険給付・安全配慮義務」

〔業種別Q&A〕 労使間トラブル事例と会社対応 【第17回】 「フリーランスと労災保険給付・安全配慮義務」 〈情報通信業・IT〔Q6〕〉   弁護士法人 ロア・ユナイテッド法律事務所 パートナー弁護士 木原 康雄   【Q】 システム開発の案件によっては、社外のフリーランスのITエンジニアと業務委託契約を締結する場合があります。フリーランスが業務を遂行する上で傷病に罹患した場合、労災保険給付の対象となるのでしょうか。また、当社が安全配慮義務違反を問われることはあるのでしょうか。 【A】 当該フリーランスが労災保険に任意加入(特別加入)していた場合や、実質的な使用従属性が認められ、当該フリーランスが「労働者」に該当すると判断された場合には、労災保険給付の対象となります。また、当該フリーランスとの間に特別な社会的接触関係があった場合には、安全配慮義務違反を問われ得ます。 ▲ ▼ ▲ 解 説 ▲ ▼ ▲ 1 労災保険の特別加入制度 発注事業者と業務委託契約を締結して業務を遂行しているフリーランスは、原則として、当該発注事業者との間に労働(雇用)契約関係がなく、「労働者」(労災保険法7条)には該当しないため、労災保険給付を受けることはできない。 ただし、ITフリーランスは、特別加入団体を通じて労災保険に任意加入することができる(特別加入制度。なお、令和6年11月1日のフリーランス法の施行に伴い、企業等から業務委託を受けているフリーランス(特定フリーランス事業)について業種・職種を問わず特別加入することができるようになっている)。したがって、特別加入をしている場合は、フリーランスは労災保険給付を受けることができる。   2 フリーランスと「労働者」性 前記のとおり、フリーランスは「労働者」に該当しないのが原則であるが、例外的に、業務委託契約という形式にかかわらず、発注事業者との間に実質的な使用従属性が認められる場合には、フリーランスも「労働者」に該当し、労災保険給付の対象となる。 使用従属性とは、労働が他人の指揮監督下において行われていること、すなわち、他人に従属して労務を提供していること、及び、報酬が「指揮監督下における労働」の対価として支払われていることをいうが、その判断基準については、昭和60年12月19日労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について)が下記のとおり整理している。 また、厚生労働省の下記HP「労働基準法における「労働者」とは」には、フリーランス向けの「働き方の自己診断チェックリスト」も掲載されている。 上記チェックリストは、もちろん発注事業者にとっても有用なものである。業務委託契約という形式を逸脱した関係になっていないか、定期的なチェックをお勧めする。   3 フリーランスに対する安全配慮義務 使用者には、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務があり(安全配慮義務、労働契約法5条)、同義務を怠ったことによる労働者の傷病について、使用者は損害賠償義務を負う。 フリーランスの場合、前記2の実質的な使用従属性が認められないときには、原則として「労働者」に該当せず、したがって発注事業者は安全配慮義務を負わない。 もっとも、①発注事業者の設備等の利用、②事実上の指揮監督、③発注事業者の労働者との作業内容の同一性等の事情があり、雇用契約に準ずるような特別な社会的接触関係にあると認められる場合には、例外的に、発注事業者はフリーランスに対し安全配慮義務を負うものと解される(自衛隊車両整備工場事件・最三小判昭和50年2月25日民集29巻2号143頁、三菱重工業神戸造船所事件・最一小判平成3年4月11日集民162号295頁等)。 実際に、アムール事件・東京地判令和4年5月25日労判1269号15頁では、ウェブサイトの運用等にかかる業務委託契約を締結していたフリーランスに対し、発注事業者の代表者がパワハラ及びセクハラを行ったことについて、発注事業者の安全配慮義務違反に基づく損害賠償責任が認められている。 以上から、業務委託契約関係であったとしても、フリーランスとの間に特別な社会的接触関係がある場合には、発注事業者は安全配慮義務を負い、その懈怠によりフリーランスが傷病に罹患したときは、同義務違反に基づく損害賠償責任を負い得ることになる。 (了)
#674(掲載号)
#木原 康雄
2026/06/25
労務・法務・経営 法務

〈具体事例から見る〉取適法施行に伴う企業対応Q&A【第2回】「運送委託取引への適用の判断と留意点」

▼ ▼ ▼ 解説 ▼ ▼ ▼ 1 特定運送委託の追加 下請法では、発荷主から運送委託を受けた運送事業者が、当該運送業務を別の運送事業者に再委託する場合に、当該再委託に係る運送委託取引(下請取引)については、役務提供委託として下請法が適用されてきた。一方、発荷主が着荷主から発注を受けた物品等について運送事業者に対して運送業務を委託する取引(元請取引)は、発荷主が引渡しの履行のために自ら用いる役務として自家使用役務にあたり、下請法の適用対象外とされてきた。 しかしながら、このような自家使用役務にあたる運送取引においても、立場の弱い運送事業者が長時間の荷待ちや契約にない荷役などの附帯作業を無償で行わされているなどの実態があり、これが深刻な社会問題となっていることなどを背景として、取適法は、自家使用役務にあたる運送取引の一部を、「特定運送委託」として、新たに取適法の適用対象とした。 「特定運送委託」とは、「事業者が業として行う販売、業として行う製造若しくは業として請け負う修理の目的物たる物品又は業として請け負う作成の目的たる情報成果物が記載され、記録され、若しくは化体された物品の当該販売、製造、修理又は作成における取引の相手方(当該相手方が指定する者を含む。)に対する運送の行為の全部又は一部を他の事業者に委託すること」をいい(取適法第2条第5項)、条文上、「特定運送委託」に該当する取引は、「販売等の取引の目的物を取引の相手方に対して運送する場合の運送委託」に限定されている。 このように特定運送委託取引の対象範囲が限定された趣旨は、実質的に運送の再委託にあたるといえるものを対象とする点にある。すなわち、発荷主は、顧客である着荷主との間で取り決められた指定場所に納品する業務を運送事業者に外部委託しているという取引構造に鑑みると、実質的に発荷主は顧客から受託した販売の目的物等の運送業務を運送事業者に対して再委託していると位置付けることも可能であることから、取適法においては、そのような運送委託取引が「特定運送委託」として新たに対象取引に追加されることとなった。 なお、ここにいう「運送」には、運送と一体的に行われる養生作業、固縛、シート掛け等は原則として含まれるものの、運送以外の荷積み、荷下ろし、倉庫内作業等の附帯業務は含まれない(テキスト33頁「Q39」参照)。   2 4条明示と貨物自動車運送事業法の書面交付義務との関係 特定運送委託の導入によって、発荷主である委託事業者は、これまで下請法の適用対象外であった自家使用役務にあたる運送取引の発注においても、規模要件(資本金基準・従業員基準)を満たす限り、取適法の遵守が必要となる。そのため、発注時には、発注内容等の明示義務が課される(4条明示・取適法第4条第1項)。 一方で、貨物自動車運送事業法は、真荷主(自らの事業に関して貨物自動車運送事業者との間で運送契約を締結して貨物の運送を委託する者であって、貨物自動車運送事業者以外のもの)と一般運送事業者が運送契約を締結する際には、当事者は法定の事項が記載された書面を相互に交付しなければならない旨規定している(12条書面・貨物自動車運送事業法第12条第1項)。 12条書面の交付義務の対象は、「特定運送委託」のように、「販売等の取引の目的物を取引の相手方に対して運送する場合の運送委託」といった限定がないことから、「特定運送委託」よりも範囲が広く、通常、「特定運送委託」に該当する場合は、貨物自動車運送事業法第12条第1項の適用がある。 したがって、特定運送委託に該当する取引を発注する際には、通常、取適法に基づく4条通知に加え、貨物自動車運送事業法に基づく12条書面の交付も行う必要がある。4条明示は12条書面を兼ねることができるとされているため(パブコメNo.103)、両者を別個に作成する必要はないが、4条明示の明示事項と12条書面の記載事項は完全には一致しないため、両者の要件を満たす記載をする必要がある点に留意しなければならない。   3 設例の検討 設例①は、「販売等の取引の目的物を取引の相手方に対して運送する場合の運送委託」に該当するため、規模要件(資本金基準・従業員基準)を満たす限り、取適法の適用対象となる。したがって、当社は、当該運送委託取引にあたって、取適法を遵守しなければならない。 設例②のように同一法人の拠点間運送(いわゆる「横持ち」)は、「取引の相手方に対する運送」とはいえず、特定運送委託には該当しないため、取適法の適用対象外となる。ただし、特定の取引先向けに仕分けられた製品を当該取引先に対して運送する際に、自社の拠点をその運送経路の一部として経由するような場合には、自社の拠点間の運送であっても、特定運送委託に該当し、取適法の適用対象となり得る(テキスト33頁「Q38」参照)。 設例③は、「販売等の取引の目的物」の運送とはいえず、特定運送委託には該当しないため、取適法の適用対象外となる。同様に、中元・歳暮等の贈与に係る物品、無償のサンプル品、ダイレクトメール、連絡文書等の運送委託も、「販売等の取引の目的物」の運送とはいえず、特定運送委託には該当しない(テキスト32頁「Q36」参照)。 なお、委託先である運送事業者が、着荷主側の要請によって委託内容にはない荷役または荷待ちを余儀なくされた場合であっても、例えば、着荷主側から要請を受けた運送事業者が、委託事業者である発荷主に対してその対応の要否を確認し、発荷主の指示に基づいて荷役または荷待ちを行った場合など、取引の実態によっては、委託事業者である発荷主が運送事業者に対して不当な経済上の利益を提供させたと評価されて取適法上問題となる可能性もあるため、この点は留意が必要である。 委託事業者としては、着荷主の要請に応じて運送事業者が提供すべき役務があるときは、その内容及び対価等の条件についてあらかじめ明確にし、運送事業者との間で十分に協議をしたうえで、その具体的な内容を発注時点で明示しておくことが望ましい(テキスト34頁「Q42」参照)。   (了)
#674(掲載号)
#木下 雅之
2026/06/25
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〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例116】フクダ電子株式会社「当社代表取締役会長による経費の不適切利用等と再発防止策に関するお知らせ」(2026.5.14)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例116】 フクダ電子株式会社 「当社代表取締役会長による経費の不適切利用等と再発防止策に関するお知らせ」 (2026.5.14)   公認会計士/開志創造大学大学院事業創造研究科教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、フクダ電子株式会社(以下「フクダ電子」という)が2026年5月14日に開示した「当社代表取締役会長による経費の不適切利用等と再発防止策に関するお知らせ」である。同社の代表取締役会長の福田孝太郎氏(以下「福田氏」という)による経費の不適切利用等が判明したため、再発防止策を講じることにしたという内容である。   2 唐突かつシンプルな開示 通常、役員による経費の不適切利用等の疑いがあった場合、その調査の実施(通常は調査委員会を設置)に関する開示を行ったうえで、調査結果を開示するものである。しかし、フクダ電子の場合、何の前触れもなく、いきなり今回の開示が行われた。 しかも、たった2頁のシンプルな開示である。福田氏による経費の不適切利用等の内容については、「本不適切利用等の概要」として1頁の半分ほどの記載で終わっている。   3 なぜ今? 名前からわかるように、福田氏はフクダ電子の創業家出身である。そして、同社の第78期有価証券報告書によると、福田氏は同社の株式を19.40%所有し、筆頭株主である。なお、大株主の中には福田氏の親族と思われる方がいて、その方の所有株式と合わせると、出資比率は20%を超える。 また、福田氏は、1985年から実に40年以上にわたって同社の代表取締役の地位にいる。創業家出身、筆頭株主、代表取締役を40年以上とくれば、会社の中では誰も逆らうことができない絶対的な権力者であろうことは容易に想像できる。 今回の開示の「本不適切利用等の概要」に記載された、福田氏による経費の不適切利用等の概要は、以下のとおりである。 どれも、絶対的な権力者だからこそ行うことができた経費の不適切利用等といえる。会社の中では黙認されていたはずである。なぜ今になって急に明らかにしたのだろう。   4 監査役会による調査 今回の開示の主文には、次の記載がある。「対象者」は福田氏である。なお、「当社から独立した外部専門家」が誰なのかは明らかにされていない。 これまでフクダ電子の監査役の方々は、福田氏による経費の不適切利用等に気付かなかったのだろうか。本当にそうだとしたら、監査役としてぼんやりし過ぎであり、任務懈怠と言われても仕方ないように思われる。 あるいは、新たに就任した監査役の方が気付いて、声を上げたのだろうか。そういうわけでもないようである。同社の第78期有価証券報告書によると、同社の監査役3名のうち、1名は2016年6月、2名は2020年6月に就任である。最近新たに就任した方はいない。   5 穏便な処分 福田氏は、今回の不適切利用等に係る費用をフクダ電子に返納したうえで、6か月間、役員報酬を60%自主返納するとのことである。極めて穏便な処分といえるだろう。通常、今回のような経費の不適切利用等が判明した場合、取締役会は代表取締役を解職したうえで、取締役の辞任を勧告するはずである。この処分の内容からも、福田氏が絶対的な権力者であることがうかがえる。 また、福田氏だけでなく、他の取締役や常勤監査役までもが役員報酬を自主返納するとされている。「『代表取締役会長を含む取締役による公私混同の防止策の構築』が不十分であり、その経営責任を明確化する必要性から」とのことだが、福田氏への配慮のように見えなくもない。   6 ファンドによる追求を回避するため? 2026年5月23日付日本経済新聞の記事「フクダ電子会長 経費不正 米ファンド、再任反対も」によると、米国のファンドのカナメキャピタルが、今回の福田氏による経費の不適切利用等について、フクダ電子に第三者委員会の設置や経営責任の再検討を求めたが、「いずれも予定していない」という回答を受け取ったため、再び第三者委員会の設置などを求めたとのことである。 フクダ電子は、いずれも同じタイトルだが、2023年5月15日に「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を、2024年5月15日に「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を、2025年5月15日に「株主提案に対する当社取締役会意見に関するお知らせ」を開示している。いずれの開示においてもJapan Absolute Value Fund L.P.から行われた株主提案について記載されているが、同ファンドはカナメキャピタルが運用しているものである。添付されている「株主提案書」では、福田氏のフクダ電子における独裁ぶりが批判されている。 おそらく福田氏による経費の不適切利用等については、カナメキャピタルから指摘されたのだろう。今回の開示は、カナメキャピタルから更なる追求を受けないために、先回りして行ったのかもしれない。しかし、その目論見は外れ、カナメキャピタルは、フクダ電子が第三者委員会の設置などに応じない場合、定時株主総会で取締役と監査役の再任反対を呼びかける方針であるとしている。 本稿執筆時点(2026年6月2日)では不明だが、今後、フクダ電子はカナメキャピタルの求めに応じるのだろうか。それとも、求めに応じず、定時株主総会で取締役や監査役が再任されないといった事態が生じるのだろうか。 (了)
#674(掲載号)
#鈴木 広樹
2026/06/25
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《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和7年10月~12月)」~注目事例の紹介~

《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和7年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2026(令和8)年6月16日、「令和7年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、国税通則法関係と国税徴収法関係が各2件、相続税法関係が1件で、合計5件と、かなり少なくなっている。公表された裁決は、「全部取消し」が1件、「全部取消し・一部取消し・棄却」が1件、「棄却」が3件となっている。 【表:公表裁決事例令和7年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 税目・税法 主に争点となった項目 裁決結果 国税通則法 ① 無申告加算税(実地調査通知後の期限後申告) 棄却 ② 重加算税 隠蔽、仮装の認定(認めなかった事例) 全部取消し 一部取消し 棄却 相続税法 ③ 更正の請求の特則 棄却 国税徴収法 ④ 無償又は著しい低額譲受人の第二次納税義務 全部取消し ⑤ 無償又は著しい低額譲受人の第二次納税義務 棄却   本稿では、公表された5件の裁決事例のうち、原処分庁による実地調査の事前通知後に期限後申告を行った審査請求人が、無申告加算税賦課決定処分の取消しを求めた事例(①)、請求人が、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為を行ったとは認められないとして取り消した事例(②)及び債務免除に係る求償債権の価額は零円であるとして債務免除により受けた利益の額は存しないとした事例(④)について、国税不服審判所の判断内容を概説したい。 なお、複数の争点がある裁決については、下記の概要の中で、その一部を割愛して、中心的な争点のみについて絞らせていただいたことを、あらかじめお断りしておく。   1 実地調査の事前通知を受けた後に期限後申告書を提出した審査請求人が、無申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めたが、棄却した事例・・・① (1) 事案の概要 本件は、H社に勤務し、給与の支払を受けるとともに、J社に顧客の紹介又は情報の提供をすることにより、報酬の支払を受けていた審査請求人が、原処分庁所属の職員から実地の調査に係る事前通知を受けた後に、所得税等の期限後申告書を提出したところ、原処分庁が、当該期限後申告書の提出は、調査があったことによりされたものであるなどとして、無申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該期限後申告書の提出時において調査があったとはいえないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 本審判の中心的な争点である「争点2」について、国税不服審判所は、国税通則法第66条第1項括弧書の趣旨から、期限後申告書の提出が、「その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」というのは、税務職員がその国税についての調査に着手して申告書の提出がなかったことが不適正であることを発見するに足るかあるいはその端緒となる資料を発見し、これによりその後の調査が進行し申告漏れの存することが発覚し更正又は決定に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達した後に、納税者がやがて更正又は決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意し、期限後申告書を提出したものでないことをいうものという解釈を述べた。 その上で、上記段階が到来していたか否か、「納税者がやがて更正又は決定に至るべきことを認識した上で期限後申告を決意し期限後申告書を提出したものでない」といえるか否かについては、調査の内容・進捗状況、それに関する納税者の認識、期限後申告に至る経緯、期限後申告と調査の内容との関連性等の事情等を総合考慮して判断すべきであるとした。 これらのことより、国税不服審判所は、事実認定及び各事情を踏まえ総合考慮して判断すると、請求人に対する調査は、各期限後申告の時点において、請求人がJ社から受けた報酬について確定申告をしていない不適正なものであることが発覚し決定に至るであろうということが客観的に相当程度の確実性をもって認められる段階に達していたというべきであり、また、事前通知を受けて、調査の内容及び進捗に関して一定の認識をし、税理士に税務代理を依頼した請求人については、やがて決定に至るべきことを認識した上で本件各期限後申告を決意し、各期限後申告書を提出したものと認められるとして、各期限後申告書の提出は、通則法第66条第1項括弧書に規定する「調査があったことにより当該国税について更正又は決定があるべきことを予知してされたものでないとき」に該当しないと判示した。 裁決の結果は、審査請求は理由がないから、これを棄却するというものである。   2 審査請求人が、取引先からの売上を妻名義である預金口座に振り込ませていたことは、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為を行ったとは認められないとした事例・・・② (1) 事案の概要 本件は、タイル工事業を営む個人事業者である審査請求人の所得税等及び消費税等について、原処分庁が、売上金額等に係る隠蔽又は仮装の行為があったとして更正等処分及び重加算税等の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、これらの処分の前提となった請求人の売上金額等は、その一部が請求人の弟に帰属するものであるとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 (3) 国税不服審判所の判断 本審判の中心的な争点である争点2「請求人に、通則法第68条第1項又は第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす行為があったか否か」について、国税不服審判所の判断は次のとおりである。 国税不服審判所は、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告等の行為そのものが隠蔽又は仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告等の行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告等がされたことを要するものであるが、重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当ではなく、納税者が、当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告等をしたような場合には、重加算税の上記賦課要件が満たされるものと解するのが相当であるという法解釈を示した。 その上で、事実認定に基づき、国税不服審判所は、請求人は、妻の名義である口座に振り込まれた売上について、過少であったとはいえ申告していたことからすると、請求人が、妻の名義である口座に売上げを振り込ませる行為により本件売上げの存在を隠蔽又は事実をわい曲したとはいえず、当該行為をもって、隠蔽又は仮装に該当する積極的な行為とはいえないこと、請求人は、複数年にわたり過少申告をし続けていたとはいえ、何らの基準や根拠のない「支払える金額」を納税額として申告書に記載して過少申告をし続けたと評価できるにとどまることを挙げて、請求人が当初から過少申告等を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告等をしたことを理由として、重加算税の賦課要件が満たされるとはいえないという判断を示した。 結論として、国税不服審判所は、平成30年分から令和3年分までの所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分は、いずれも過少申告加算税相当額又は無申告加算税相当額を超える部分の金額については違法であるから、取り消すべきであると裁決した。   3 債務免除を受けた利益の額を零円と評価して、原処分庁による納税告知書分を取り消した事例・・・④ (1) 事案の概要 本件は、不動産賃貸等を目的として設立された法人であるL社が、同社の取締役であった納税者Kから債務免除を受けていたところ、その後、土地及び建物の調査、鑑定等を目的として設立された法人である審査請求人がL社を吸収合併したことにより納付義務を承継したとして、原処分庁が、当該納税者の死亡後に、請求人に対し、国税徴収法に基づく第二次納税義務の納付告知処分をしたのに対して、請求人が、当該債務免除により受けた利益が現に存する限度の額は零円であるとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (2) 争点 L社が、債務免除により受けた利益が現に存する限度の額はいくらか。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、まず、金銭債権の実質的価値は、債務者の資産状況、支払能力等の債務者側の事情に依拠するところが大きいことから、その評価に当たっては、当該事情を踏まえて算定するのが相当であるところ、債務者につき、①手形交換所における取引停止処分を受けたとき、②法的整理の開始決定がされたとき、③事業の廃止又は休業の事実が発生しているときその他その債権金額の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情が認められる場合には、当該特別な事情による減価を適切に見込んで評価すべきであり、そのような特別な事情が認められない場合には、額面上の金額で評価するのが相当であるという解釈を示した。 そのうえで、国税不服審判所は、L社の損益状況について、債務免除時において、法的整理は開始されておらず、また、事業の廃止又は休業の事実も発生していなかったものの、①平成25年3月に本件ビルを売却したことにより家賃収入及び管理費収入が減少していること、②業務委託収入は平成27年9月期のみ計上されており、一時的な収入にとどまること、③審査請求人との合併前の平成29年9月期においては売上高が○○○○円であったこと。④L社が平成24年9月期から平成29年9月期までの各事業年度においていずれも債務超過の状況にあったこと、⑤L社が平成27年3月以降、新たに金融機関から資金の借入れを行っていないことも考慮すると、L社は、平成25年3月に本件ビルを売却して以降、経営状況が悪化し、債務免除が行われた平成26年9月期においては、新たに金融機関から資金を借り入れるなどして事業を継続することが極めて困難な状況にあったと認められるという事実認定を行った。 結論として、国税不服審判所は、債務免除時において、求償債権の全部又は一部の回収が不可能又は著しく困難であると見込まれるような特別な事情があったと認めるのが相当であり、こうした事情の下におけるL社の支払能力等を考慮すると、債務免除時における求償債権の価額は、零円と評価するのが相当であると判断をして、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととするという裁決を行った。 (参考) 国税徴収法基本通達第39条関係14(受けた利益が債務の免除である場合) (了)
#米澤 勝
2026/06/22
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#Profession Journal 編集部
2026/06/18
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