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《速報解説》 中小企業向け設備投資減税の延長・拡充等~令和7年度税制改正大綱~

《速報解説》 中小企業向け設備投資減税の延長・拡充等 ~令和7年度税制改正大綱~   Profession Journal編集部   令和6年12月27日に閣議決定された令和7年度税制改正大綱では、中小企業関連税制として既報のとおり中小企業に対する軽減税率が対象の一部見直しとともに2年延長された他、令和7年3月31日に適用期限を迎える各設備投資減税制度について、下記の改正案が示されている。 まず中小企業投資促進税制(中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却(30%)又は税額控除(7%)(措法42の6))は、一部見直しとともに(※)、適用期限が令和9年3月31日まで2年延長される。 (※) 関係法令の改正を前提に、みなし大企業の判定における大規模法人の有する株式又は出資から、「その判定対象である法人が農地法に規定する農地所有適格法人である場合で、かつ、一定の承認会社(農林漁業法人等に対する投資の円滑化に関する特別措置法に規定する承認会社のうち地方公共団体、農業協同組合、農業協同組合連合会、農林中央金庫又は株式会社日本政策金融公庫がその総株主の議決権の過半数を有しているもの)がその農地所有適格法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の50%を超える数又は金額の株式又は出資を有する場合におけるその株式又は出資」が除外される。 【参考図①】 (※) 経済産業省ホームページ 次に中小企業経営強化税制(中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却(即時償却)又は税額控除(7%又は10%)(措法42の12の4))についても適用期限が令和9年3月31日まで2年延長される他、下記の見直しが行われる。 【参考図②】 (※) 経済産業省ホームページ 【参考図③】 (※) 経済産業省ホームページ また、中小企業防災・減災投資促進税制(特定事業継続力強化設備等の特別償却(16%)(措法44の2))は、対象資産から「感染症の発生が事業活動に与える影響の軽減に資する機能を有する減価償却資産(サーモグラフィ装置)」を除外した上で、適用期限が令和9年3月31日まで2年延長される。 【参考図④】 (※) 経済産業省ホームページ 最後に先端設備等導入計画の認定を受けた中小企業者に対する固定資産税の軽減措置(地法附15㊹)については、対象資産を「雇用者給与等支給額の引上げの方針を位置づけた同計画に基づき取得する一定の機械・装置等」に限定し(現行は賃上げ方針表明により軽減の上乗せ)、軽減割合の見直しを行った上で、適用期限が令和9年3月31 日まで延長される。 【参考図⑤】 (※) 経済産業省ホームページ (了)
#Profession Journal 編集部
2025/01/06
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《速報解説》 金融庁、法人税等会計基準等の改正案を受け、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表

《速報解説》 金融庁、法人税等会計基準等の改正案を受け、「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024(令和6)年12月27日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。財務諸表等規則ガイドライン及び連結財務諸表規則ガイドラインも改正する。 これは、2024年11月21日に公表された「2024年年次改善プロジェクトによる企業会計基準等の改正(案)」において、「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」(企業会計基準公開草案第82号。企業会計基準第27号の改正案)等が示されたことを受けたものである。 意見募集期間は2025年1月27日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 財務諸表等規則等の主な改正 主に次の改正を行う(連結財務諸表規則も同様)。   Ⅲ 施行日等 企業会計基準委員会において、公開草案の結果を踏まえ公表される「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準」等の適用日を踏まえて、財務諸表等規則等を施行する予定である。 (了)
#阿部 光成
2025/01/06
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《速報解説》 「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等が金融庁から公表される~新リース会計基準等を受け、リースに関する注記について新たに規定~

《速報解説》 「財務諸表等規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等が金融庁から公表される ~新リース会計基準等を受け、リースに関する注記について新たに規定~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024(令和6)年12月24日、金融庁は、「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等を公表し、意見募集を行っている。「財務諸表等規則に規定する金融庁長官が定める企業会計の基準を指定する件」等の一部改正(案)も公表されている。 これは、「リースに関する会計基準」(企業会計基準第34号)等を受けたものである。 意見募集期間は2025年1月24日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 財務諸表等規則等の主な改正 財務諸表等規則8条の6を改正し、「リースに関する注記」として、以下のように規定する。 下記のほか、財務諸表等規則8条の6第1項1号ロ及びハ、2号並びに3号に掲げる事項は、財務諸表提出会社が連結財務諸表を作成している場合には、当該事項の記載を省略することができるなどを規定する。 1 借手のリースに関する注記事項 2 貸手のファイナンス・リースに関する注記事項 3 貸手のオペレーティング・リースに関する注記事項 4 その他 上記のほか、例えば、次の改正事項がある。 第一種中間財務諸表及び第二種中間財務諸表の規定や、連結財務諸表規則についても、リースに関連する改正が行われている。   Ⅲ 財務諸表等規則ガイドラインの主な改正 「「財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(財務諸表等規則ガイドライン)」についても改正されている。 例えば、重要な会計方針の記載に関して、「ファイナンス・リース取引に係る収益及び費用の計上基準等」から「リースに係る収益及び費用の計上基準等」へ改正する(財務諸表等規則ガイドライン、8の2の3、3(6)➀)。 また、企業会計の基準の指定については、適用時期も含めて行われるものであることから、個々の企業会計の基準の適用時期については、特段の定めのない限り、個々の企業会計の基準の規定に従うものとする(財務諸表等規則ガイドライン1-3、2(1))。 販売費及び一般管理費に属する費用の例示から、「不動産賃借料」が削除されている(財務諸表等規則ガイドライン84)。 「「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」の取扱いに関する留意事項について(連結財務諸表規則ガイドライン)」も改正されている。   Ⅳ 施行日等 公布の日から施行する予定である(経過措置に注意)。 (了)
#阿部 光成
2025/01/06
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《速報解説》 金融庁が「記述情報の開示の好事例集2024(第3弾)」を公表~人的資本、多様性及び人権に係る好事例を追加~

《速報解説》 金融庁が「記述情報の開示の好事例集2024(第3弾)」を公表 ~人的資本、多様性及び人権に係る好事例を追加~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024(令和6)年12月27日、金融庁は、「記述情報の開示の好事例集2024(第3弾)」を公表した。 これは、2024年11月8日の「記述情報の開示の好事例集2024(第1弾)」、2024年12月5日の「記述情報の開示の好事例集2024(第2弾)」に続くものであり、サステナビリティに関する考え方及び取組の開示③(人的資本、多様性及び人権)について議論したものである。「定量分析」も更新している。 今後、第4回勉強会以降のテーマを追加して、公表、更新することを予定しているとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 有価証券報告書のサステナビリティに関する考え方及び取組の全般的な開示のポイント サステナビリティ情報に関する重要な情報は、有価証券報告書に記載することが期待されていること、非財務情報と財務情報の開示のタイミングが同じであることが重要であることが追加されている。   Ⅲ 人的資本、多様性等の開示例 主な開示のポイントとして、経営戦略と人材戦略が関連した開示が重要であり、人材戦略がどのように企業価値向上につながるかについて開示することが有用であること、人的資本に関する財務データを開示することが有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(一貫した価値創造ストーリーや持続的成長の道筋がより効果的に伝わるよう工夫していることなど)。 「人材育成方針、社内環境整備方針等」の好事例のポイントとして次のことが記載されている。 「従業員の状況」の好事例のポイントとして次のことが記載されている。   Ⅳ 人権の開示例 主な開示のポイントとして、サプライチェーン上の人権に関する取組みとして、現地訪問によりセルフチェックを行っている場合には、訪問頻度や訪問先の選定基準、選定理由を開示することが有用であることなどが記載されている。 好事例として採り上げた企業の主な取組みが記載されている(重要課題ごとの記載内容の粒度をそろえるため、フレームワークに沿った開示とすることを心掛けたことなど)。 「人権」の好事例のポイントとして次のことが記載されている。 (了)
#阿部 光成
2025/01/06
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プロフェッションジャーナル第600号公開に向けたお祝いの言葉

◆◇◆ はじめに ◆◇◆ 資格の学校TACと出版社の清文社が合弁会社として立ち上げた株式会社プロフェッションネットワークは、2012年5月に創業を開始しました。同社が運営する税務・会計Web情報誌プロフェッションジャーナルは同年10月から12月における5回の準備号を経て2013年1月10日に創刊、毎週木曜日の公開を継続し、2024年12月26日をもって第600号を公開させていただく運びとなりました。 本誌が10年以上にわたり運営を継続できましたのは、ひとえに会員読者の皆様及び本誌へご寄稿いただいた多くの先生方のご支援によるものであり、あらためまして深く感謝申し上げます。 創刊当時はまだWeb情報誌という存在が数えるほどしかなく、スマートフォンの普及率も低いなか、本誌はTACによるシステム・サービス開発力、清文社による編集技術をそれぞれ活かし、当初よりWebのみの公開、かつ、スマホ閲覧最適化のシステムを織り込んでまいりました。ここまで公開・蓄積された解説記事は約9,500、実務家にとっての情報データベースとしての有効性を日々更新しております。 そしてこのたび、平時より本誌へご寄稿いただいている筆者の先生方より、ご多用の中、第600号公開を記念し温かいお言葉を頂戴しましたので、下記の通り公開させていただきます。 今後もより良い媒体を目指し尽力いたしますので、本誌を引き続きご愛読、ご支援くださいますよう、よろしくお願い申し上げます。 プロフェッションジャーナル編集部一同 ※掲載順は順不同です。 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ 「プロフェッションジャーナルへの期待-貴重なアーカイブ」 東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹 プロフェッションジャーナル600号の公開、おめでとうございます。 私は、プロフェッションジャーナル創刊の2013年1月以来、毎月一度「monthly Tax views」という連載を続けており、すでに10年以上が経過しました。私にとって生活の一部となっている寄稿を通して感じたことを記して、プロフェッションジャーナルへの期待の言葉に代えたいと思います。 執筆の際、私が最も苦労するのはテーマの選定です。読者は、ほとんどが税務や会計のプロの方であり、税制の個別テーマについては、私より詳しい方々が大勢いらっしゃるため、私としては、専門分野である租税政策や財政の話題を取り上げ、差別化を図ることにしています。 その際に気を付けることとして、プロフェッションジャーナルがWebメディアだという点です。ほぼリアルタイム、同時進行なので、即時性の高い「旬の課題」を取り上げることとしています。最近は政治情勢が変わり、税制の議論も利害が複雑化してきました。またSNSでは、注目を集めようと不確かな事実関係をもとにした極端な意見が幅を利かせています。そのような状況の中、自分なりに少し世の中の議論の先を見ながらテーマを選んでいます。 また、毎年暮れには編集部の方々と、私が取り上げたテーマの記事のアクセス状況などを参考にしながら、どのテーマが読まれたのかなどについて検討会を行っています。税制は最も政治性の高い話題なので、なるべく中立的な立場で、そうはいっても自らの考え方をわかりやすく発信していきたいと考えています。 最後に、Webメディアのメリットの1つは、検索の容易性にあると思っています。プロフェッションジャーナルは、税務・会計の諸問題についての情報提供や各部門の専門家による程度の高い解説や意見がアーカイブとして蓄積されており、貴重な財産となっています。折に触れその中から興味のある記事を検索して学び直すことは、大きな楽しみの1つです。 プロフェッションジャーナルの益々の発展をお祈りします。 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ 「プロが読むべき情報誌」 中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦 プロフェッションジャーナル600号公開とのこと誠におめでとうございます。 ご縁をいただき、2013年創刊の本誌に同年から連載を始めたことが、つい最近のことのようです。思うに小職の連載スタートの第1回は、馬券訴訟をテーマにしたものでした。当時、同訴訟には刑事事件のものと民事事件のものがありましたが、いずれの納税者も外れ馬券の購入費用を必要経費として雑所得の金額の計算上控除されるべきだと主張していました。しかしながら、国税庁は所得税基本通達34-1において、競馬の馬券の払戻金に係る所得区分を一時所得と通達していたため、いわば通達に反する処理を求めた訴訟だったわけです。小職は、このうちの民事事件において雑所得該当性を主張する鑑定意見書を提出したところ、最高裁で納税者勝訴となった小職にとってとても思い出深い事件が、本誌の連載の出発点であったのです。その後も、事件に直接携わった長崎年金二重課税訴訟、LLP事件、LPS事件など、多くの事例を本誌において紹介させていただきました。 もっとも、小職の関心事項は、これまで携わってきた多数の租税訴訟の紹介そのものよりも解釈論の方にシフトしてきており、連載のコンテンツは変容してまいりました。 さて、プロフェッションジャーナルはその名のとおり、プロフェッション向けの情報誌ですが、プロフェッションの仕事には何が求められているのでしょうか。 小職のまったくの私見として常に思っていることなのですが、プロフェッションにとって、十分な情報収集なくして盤石な仕事はできないと思っております。やや強調する別言を許してもらえるとすれば、正確なエビデンスなくしてプロフェッションは生き残れないということを意味しています。この文脈で小職が強調したいことは、プロフェッションに求められているのは、情報のリサーチ力と読書量だということです。 プロフェッションジャーナルがそのプロフェッションのための重要な情報獲得ツールであることは言を俟たないと思います。今後も、これまで同様、このようなWEB情報誌が情報収集の中心になることは間違いないでしょう。 プロフェッションのための情報誌として、今後も大いに期待するとともに、小職も、出し惜しみをせず、これまで関わってきた「超」がつくほど重要な租税事件について、いわば当事者的目線で紹介していこうと思います。プロフェッションの仕事に役立つ情報を提供することで、少しでも読者の皆さんの盤石な仕事のお役に立てれば幸甚の極みです。 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ 「プロフェッションジャーナル600号公開に寄せて」 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 プロフェッションジャーナル600号公開、誠におめでとうございます。2013年1月10日の創刊号から12年間の長きにわたり「税務・会計Web情報誌」としての評価を高め社会におけるその地位を確立してこられたことに、心よりお慶びを申し上げます。 さて、私がプロフェッションジャーナルに初めて寄稿させていただいたのは2018年8月16日の281号であり、その後2020年12月24日の400号まで50回にわたって「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』」を連載させていただきました。この連載に先立ち、清文社の小泉定裕社長とプロフェッションジャーナルの坂田啓編集長からご依頼の趣旨等の説明を受けテーマ等を検討した結果、私が税法の研究において常に念頭に置いてきた「税法の基礎理論」とりわけ租税法律主義論を中心に原則1回読み切りの「読み物」を執筆させていただくことにしました。 その旨を坂田編集長にお伝えしたところ、「谷口教授と学ぶ」をいわば枕詞として付けることを提案していただき、「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』」として連載を始めました。その際、「谷口教授と学ぶ」に相応しい内容にするにはどのような「読み物」にすればよいか思案した結果、学説や判例を引用・参照するに当たりその要点・要旨を述べるだけでなく、できるだけ原典をそのまま引用することによって、学説・判例について私が理解したところを、読者には原典に当たって検討しながら読んでもらうことができるようにすることを、執筆の基本方針とすることにしました。 連載を始めその基本方針に徐々に慣れてきたことから、当初は月1回であった公開を月2回の公開とする連載に切り替え、「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』」の連載終了後は「谷口教授と学ぶ」をシリーズ化し、2021年4月22日の416号から「谷口教授と学ぶ『税法基本判例』」を、2022年4月14日の465号からは「谷口教授と学ぶ『国税通則法の構造と手続』」をそれぞれ月1回ずつ公開させていただいております(2024年11月末時点で前者は第44回、後者は第32回)。 このように私のこれまで40数年に及ぶ研究生活の中で経験したことのない長期間にわたる連載を続けてこられたのは、「谷口教授と学ぶ」という坂田編集長から提案していただいた枕詞のお陰であると心より感謝しております。その枕詞の趣旨を私なりに理解して立てた基本方針に従い「谷口教授と学ぶ」というスタイルで原稿の執筆を続けることを通じて、個人的な思いとしては研究の「新境地」を開くことができたと考えております。 このようなスタイルでの原稿執筆を可能にしてくれたのは、紙ベースの伝統的な雑誌とは異なり字数制限がさほど厳格でないWeb雑誌の特性・優位性であると考えるところであり、その意味でも、プロフェッションジャーナルには今後更なる飛躍・発展の可能性が大いにあると確信しております。 プロフェッションジャーナルの今後更なるご継続とご発展を祈念申し上げます。 ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ ◆◇◆ 「〈小説〉『所得課税第三部門にて。』」 大阪学院大学法学部教授 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 現在、第87話まで「〈小説〉『所得課税第三部門にて。』」の連載を行っている。このシリーズは、2013年1月10日に「〈小説〉『法人課税第三部門にて。』」を第1話として掲載したのがスタートである。この『法人課税第三部門にて。』は、第23話まで執筆し、次回作として、「〈小説〉『資産課税第三部門にて。』」を第24話まで執筆したうえで、新シリーズとして、現在の「小説『所得課税第三部門』にて。」へと続いている。 これらを通算すると、早いもので執筆期間は、10年を優に過ぎていることになる。当初の「〈小説〉『法人課税第三部門にて。』」は、『入門税務調査~小説でつかむ改正国税通則法の要点と検証』(2014)として、法律文化社から書籍として出版され、さらに、清文社からも『マンガでわかる税務調査』(2016)としてマンガ本になっている。これまで、マンガ本は、2冊(『入門税務訴訟』(2003)『マンガでわかる遺産相続』(2011))清文社から出版しているので、『マンガでわかる税務調査』は、3冊目となっている。 プロフェッションジャーナルでの税務署(法人課税部門、資産課税部門、所得課税部門)シリーズは、税務署内で、主として統括官と調査官の2人が、日常の税務の問題について議論するというスタイルを採っている。もちろん、多くは筆者の想像の下で、書いているが、一部、知人の元税務職員らに確認をしていることもある。ちなみに、筆者は、国税(大阪国税不服審判所も含めて)に10年間勤務した経験を有しているので、ある程度、昔の税務署内部の状況は理解している。 税法は、その条文を読んでもその理解の内容が異なることがよくある。特に、納税者と課税庁では、条文の解釈が異なることが多々ある。租税法律主義を強調する納税者と租税公平主義を維持しようとする課税庁では、本質的に、条文の読み方が異なるのかもしれない。ともあれ、このシリーズでは、統括官と調査官の会話を通じて、それぞれの考え方を分かりやすく理解できるように執筆することを心がけている。 ところで、このような会話における議論は、その会話の展開によって、当初考えていた結論と異なることが起こる。一人の人間が二役を演じるのであるから、このような執筆形式では当然のことで、筆者としては面白い体験になっている。 また、税務署内部の取扱いについても、いろいろな人に取材し、情報を収集し、できるだけ興味深いテーマを議論できるようにしている。 税金は、難解なものでないということを読者に伝えることを、筆者はモットーとしている。その意味で、600号公開を迎えるプロフェッションジャーナルにおいて、このようなシリーズを続けさせてもらえることに、感謝したい。
#Profession Journal 編集部
2024/12/26
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.600が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年12月26日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.600を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2024/12/26
税務 税務・会計 解説 解説一覧

日本の企業税制 【第134回】「令和7年度税制改正大綱がまとまる」

日本の企業税制 【第134回】 「令和7年度税制改正大綱がまとまる」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴   12月20日、与党(自由民主党・公明党)の「令和7年度税制改正大綱」が公表された。 今回の税制改正プロセスにおいては、従来の自由民主党と公明党の両党による与党税制協議の枠組みに加えて、与党と国民民主党との3党間での税制協議も併行して行われた。11月20日から開始した3党間での税制協議は12月17日までの間に計6回開催された。いわゆる「103万円の壁」を巡っては、12月13日の協議において、与党側から給与所得控除と基礎控除をそれぞれ10万円ずつ令和7年から引き上げる提案があったものの、それに続く12月17日の協議において、与党側からのさらなる提案がなかったことから、国民民主党が協議を打ち切るという展開となっていた。 12月20日に公表された与党大綱では、12月11日の3党の幹事長間での合意(①いわゆる「103万円の壁」は、国民民主党の主張する178万円を目指して、来年から引き上げる、②いわゆる「ガソリンの暫定税率」は、廃止する)が改めて引用され、「引き続き、真摯に協議を行っていく」ことが表明された。   〇「103万円の壁」の見直し 今回の3党協議の焦点となった「103万円の壁」の見直しについては、大綱では、12月13日の与党提案ベースの内容となった。 物価上昇局面における税負担の調整及び就業調整への対応の観点から、1995年以来の物価動向を踏まえ、所得税の基礎控除を最大48万円から最大58万円に10万円引き上げることとした。なお、基礎控除の金額が減少し始めるのが現行制度では合計所得金額が2,400万円のところであったのが、2,350万円からに引下げも併せて行われる。また、給与所得控除の最低保障額も同様に、55万円から65万円に10万円引き上げられる。 加えて、大学生のアルバイトの就業調整への対応として、19歳~22歳の子の給与収入が150万円までは親が所得控除(63万円)を受けられる特別控除を創設することとし、さらに、子の給与収入が150万円を超えた場合でも控除額は段階的に逓減する仕組みも併せて講じることとされている。これは配偶者特別控除と同様の措置である。 これらの見直しは、令和7年末の年末調整から適用される。 一方、個人住民税に関しては、国税規定がそのまま参照される給与所得控除については、最低保証額が65万円に引き上げられることとなる一方、基礎控除(43万円)については、見直しは見送られた。19歳~22歳の子への対応については国税同様である(最大45万円)。個人住民税の見直しは令和8年度分からの実施となる。   〇確定拠出年金の拠出限度額の見直し 老後に向けた資産形成の支援の観点から、確定拠出年金(企業型DC及びiDeCo(個人型確定拠出年金))について、企業年金の有無等によるiDeCoの拠出限度額の差異を解消する。賃金上昇の伸びを踏まえ、会社員(2号被保険者)の共通拠出限度額(企業型DC+iDeCo)を7,000円引き上げる(月額5.5万円 ➡ 6.2万円)。この結果、企業年金のない会社員のiDeCoの拠出限度額が2.7倍になる(月額2.3万円 ➡ 6.2万円)。また、個人事業主(1号被保険者)についても会社員と同額引き上げる(月額6.8万円 ➡ 7.5万円)。   〇子育て支援措置 子育て支援に関する政策税制として、令和6年度税制改正で先行的に1年限りの措置として行われている住宅ローン控除・住宅リフォーム税制については、引き続き令和7年限りの時限措置として継続することとされた。また、23歳未満の扶養親族を有する場合に生命保険料控除の拡充(新生命保険料に係る一般枠(遺族保障)について適用限度額の上乗せを行う(4万円 ➡ 6万円))を令和8年限りの時限措置として行うこととされた。 また、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置については、「こども未来戦略」の集中取組期間(令和8年度まで)の最中であることから、令和9年3月31日まで2年延長となった。 なお、令和6年度税制改正大綱では、高校生年代の扶養控除等の令和8年分からの見直し(38万円 ➡ 25万円)が示唆されていたが、今回の大綱では、令和8年分の所得税及び令和9年度分の個人住民税については、現行制度を維持し、「令和8年度以降の税制改正において、各種控除のあり方の一環として検討し、結論を得る」こととなった。   〇中小企業税制 リーマンショックの際に導入され現在まで継続している中小企業者等の軽減税率の特例(15%)については令和9年3月31日まで2年延長されたが、所得10億円超の企業には適用税率を17%にするなどの見直しが行われる。 一方、このような所得の高い中小企業に対しては、さらに業績の拡大を後押しすべく、売上高100億円超を目指す中小企業を対象に、中小企業経営強化税制を拡充し、対象資産に「建物」を追加するとともに、給与増加割合に応じた償却率・税額控除率を設定した(給与増加割合2.5%以上の場合に償却率15%又は税額控除率1%、給与増加割合5%以上の場合に償却率25%又は税額控除率2%)。 また、法人版事業承継税制の特例措置における役員就任要件が見直され、現行では贈与の日まで引き続き3年以上特例認定贈与承継会社の役員等に就任していることが求められていたところ、贈与の直前において特例認定贈与承継会社の役員等であることでよいこととなる(令和7年1月1日以後に贈与により取得する財産に係る贈与税について適用する)。   〇スタートアップ投資、NISA エンジェル税制について、再投資期間を最大で2年間に延長(繰戻し還付制度の創設)する。 NISAについて、つみたて投資枠のETFの最低取引単位の見直し(1,000円以下 ➡ 10,000円以下)や金融機関変更時の即日買付を可能とする等により、利便性を向上させることとした。   〇防衛力強化に係る財源確保のための税制措置 安全保障環境が厳しさを増す中、わが国の防衛力の抜本的な強化を行うために安定的な財源を確保するという観点から、令和5年度税制改正大綱において、防衛力強化に係る財源の一部(1兆円程度)を法人税・所得税・たばこ税により賄う大枠が示されていたところであったが、その開始時期や制度の詳細については未定であった。 今回の大綱では、その詳細が明らかとなった。 法人税は、令和8年4月1日以後に開始する事業年度について、法人税額から500万円を控除した上で、税率4%(法人税率換算1%程度)の新たな付加税を創設する。 一方、所得税は、令和5年度大綱等を踏まえつつ、「103万円の壁」の引上げ等の影響も勘案しながら、引き続き検討することとなった。 また、加熱式たばこの課税について、紙巻たばことの間の税負担差を解消するため、2段階で適正化(令和8年4月、令和8年10月)した上で、国のたばこ税率を3段階で引上げる(令和9年4月、令和10年4月及び令和11年4月に0.5円/1本ずつ)こととなった。   〇国際課税 「法人税引下げ競争」に歯止めをかける観点から、G20・OECDの国際合意に則り、グローバル・ミニマム課税(最低税率15%)の導入が進められており、わが国では令和6年4月1日以後に開始する対象会計年度から、所得合算ルール(IIR)の適用が開始したところであるが、それを補完する制度として、今回の大綱では、軽課税所得ルール(UTPR)及び国内ミニマム課税(QDMTT)を法制化することとされた。 (了)
#600(掲載号)
#小畑 良晴
2024/12/26
税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第45回】「所得税法における無効所得の取扱いと債務免除益の無効基因喪失の意義」-錯誤無効債務免除源泉徴収事件・最判平成30年9月25日民集72巻4号317頁-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第45回】 「所得税法における無効所得の取扱いと債務免除益の無効基因喪失の意義」 -錯誤無効債務免除源泉徴収事件・最判平成30年9月25日民集72巻4号317頁-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 今回は、最判平成30年9月25日民集72巻4号317頁(以下「平成30年最判」という)を取り上げて、所得税法における無効所得の取扱いについて検討することにする。 平成30年最判の事案(以下「本件」という)について、今回のサブタイトルでは「錯誤無効債務免除源泉徴収事件」という名称を用いたが、この名称は、本件の当初の主たる争点からすると適切なものではないが、そのことを踏まえた上で敢えて、最終的に争点となった問題を念頭に置いて用いることにした名称である。本件の訴訟の推移は複雑であるので、まずは、その推移を整理しておこう。 本件は、権利能力のない社団である青果荷受組合Xが、同組合理事長Aに対し、Xからの借入金債務の免除(以下「本件債務免除」という)をしたところ、所轄税務署長から、これに係る経済的な利益(以下「本件債務免除益」という)がAに対する賞与に該当するとして、給与所得に係る源泉所得税の納税告知処分及び不納付加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という)を受けたため、①本件債務免除益の給与所得該当性、②本件債務免除益に対する当時の所得税基本通達36-17本文(以下「本件旧通達」という)の適用による収入金額不算入の可否、及び③本件債務免除についての錯誤無効の主張の可否を争って、国を相手に本件各処分の取消しを求めた事案である。 第1審・岡山地判平成25年3月27日民集72巻4号336頁は争点①を判断することなく争点②について本件債務免除益の収入金額不算入を認め請求を認容し、控訴審・広島高岡山支部判平成26年1月30日税資264号順号12402は争点①について本件債務免除益の給与所得該当性を否定し争点②について判断することなく控訴を棄却し、上告審・最判平成27年10月8日判タ1419号72頁は、争点①について本件債務免除益の給与所得該当性を肯定し原判決を破棄した上で争点②及び争点③について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻した(民集72巻4号317頁では、控訴審は「第1次第2審」、上告審は「第1次上告審」、差戻控訴審は「第2次第2審」と表記されている。これに倣えば、平成30年最判は「第2次上告審判決」と表記されることになろう)。 第2次第2審・広島高判平成29年2月8日民集72巻4号353頁は、まず、下記のとおり、本件旧通達の趣旨を判示し(㋐)、その上で争点②について判示した(㋑)。 次に、争点③について下記のとおり判示した(下線筆者)。 これに対して、平成30年最判(第2次上告審判決)は、下記のとおり判示して(下線筆者)、原判決の上記判断についてその理由づけを是認しなかったものの、その結論は是認した。 上記の判示から明らかなように、所得税法における無効所得の取扱いについて一般論を示した下線部の前段にいう「その行為により生じた経済的成果がその行為の無効であることに基因して失われた」こと(以下「経済的成果の無効基因喪失」という)こそが、所得税法における無効所得の取扱いを決定的に左右すると考えられることから、以下では、まずⅡで、所得税法における無効所得の取扱いについて判例の立場を明らかにした上で、次にⅢで、経済的成果の無効基因喪失の意義を本件に即して検討することにする。   Ⅱ 所得税法における無効所得の取扱い 所得税法における無効所得の取扱いについて「先例」(可部恒雄「判解」最判解民事篇(昭和46年度)645頁、665頁)というべき戦時補償特別措置法施行前「決済」事件・最判昭和38年10月29日訟月9巻12号1373頁(以下「昭和38年最判」という)は次のとおり一般論を判示した(下線筆者)。 この一般論は、「所得概念の経済的把握とも呼ぶべきもので、利得の発生原因たる行為が有効か否か、したがって利得者が法律上有効にそれを保有しうるものであるか否か、とは無関係に、経済的に見て、利得者が他の有効に保有しうる利得に対すると同じようにその利得に対して現実にコントロールを及ぼしており、自己のためにそれを享受している限り、課税対象たる所得を構成する、という考え方」(金子宏『租税法理論の形成と解明〔上巻〕』(有斐閣・2010年)436頁[初出・1965年]。下線筆者。この考え方を拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【189】では「所得概念の経済的把握説」と呼んでいる)と同じ立場に立つものといえる(金子宏『所得概念の研究〔所得課税の基礎理論 上巻〕』(有斐閣・1995年)110頁(注283)[初出・1975年]参照)。 所得概念の経済的把握説は、その後、利息制限法制限超過利息[所得税]事件・最判昭和46年11月9日民集25巻8号1120頁(以下「昭和46年最判」という)でも採用され「判例法上承認された」(金子・前掲『所得概念の研究』102頁[初出・1975年])と考えられるようになった。この判決は次のとおり判示している(下線筆者)。 昭和46年最判は、前述のように所得概念の経済的把握説の立場を確立した判例と解されると同時に、所得の年度帰属の判定に関して管理支配基準ないし管理支配主義を採用した判例とも解されている(金子宏『租税法〔第24版〕』(弘文堂・2021年)319頁、佐藤英明『スタンダード所得税法〔第4版〕』(弘文堂・2024年)265頁、前掲拙著【335】等参照)。 昭和46年最判は、制限超過利息・損害金について「未収の場合」には「約定の履行期の到来によつても、利息・損害金債権を生ずるに由なく、・・・・・・、とうてい、収入実現の蓋然性があるものということはでき[ない]」(下線筆者)として、約定の履行期の属する年度の「収入すべき金額」該当性を否定したが、同最判のいう「収入実現の蓋然性」は、同じく管理支配基準を採用した判例と解されている「仮執行宣言付判決」収受家賃課税事件・最判昭和53年2月24日民集32巻1号43頁(以下「昭和53年最判」という)の次の判示(下線・傍点筆者)にいう「所得の実現があつたとみることができる状態」と同じ意味内容をもつ概念であると解される。 昭和53年最判は、前記の昭和46年最判のいう「収入実現の蓋然性」と同じ意味内容の「所得の実現があつたとみることができる状態」という説示と並んで、「すでに金員を収受し、所得の実現があつたとみることができる状態が生じたときには」、「これを自己の所有として自由に処分することができる」と説示していることからすると、管理支配基準が問題にする収入・所得の管理支配は、内容的には、所得概念の経済的把握説のいう「経済的に見て、利得者が他の有効に保有しうる利得に対すると同じようにその利得に対して現実にコントロールを及ぼしており、自己のためにそれを享受している」ことを意味すると解される。 そうすると、所得概念の経済的把握説も管理支配基準も、所得概念に関する純資産増加説(Reinvermögenszugangstheorie)が説く所得の本質的要素である「所得の処分可能性」に着目する考え方であると解することができよう。純資産増加説を初めて唱えたシャンツ(Georg von Schanz)は、①所得税を人の担税力(Leistungsfähigkeit)に応じて課される租税として理解し、②担税力を「他に依存せぬ独立した経済力」(Schanz, Der Einkommensbegriff und die Einkommensteuergesetze, FinArch. 13.Jg.(1896), 1, 5.)として、すなわち、「自己の固有の資産を費消することなく、また、借入金(負債)を受け入れることもなく、どれだけの資金を自由に処分することができるか」(Schanz, a.a.O., 5.)を示す概念として理解した上で、③担税力の増加を「自己のそれまでの資産それ自体を減少させることなく自由に処分できるものとして、一定期間にある者に流入したもの」すなわち「一定期間内の純資産の増加」(Schanz, a.a.O., 23.)によって測定するものとし、④これをもって所得を定義したのである。 以上を要するに、所得税法における無効所得の取扱いを決定的に左右する、経済的成果の無効基因喪失は、一般論としては、純資産増加説を前提にして観念される「所得の処分可能性の無効基因喪失」を意味するものと考えられる。   Ⅲ 債務免除益の無効基因喪失の意義と平成30年最判による本件債務免除益の取扱い さて、本件において無効基因喪失(その行為の無効であることに基因して失われたこと)が問題とされた経済的成果(無効所得)は債務免除益であり、本件については「経済的成果の喪失とは債務免除益の場合に何であるのかという議論もなすべきと思われる」(木山泰嗣「判批」税経通信73巻14号(2018年)170頁、175頁)との鋭い指摘がされているところである。そこで、以下では、まず、債務免除益の無効基因喪失の所得税法上の意義を明らかにした上で、平成30年最判による本件債務免除益の取扱いについて検討することにする。 債務免除益の無効基因喪失の所得税法上の意義を明らかにするためには、債務免除益の所得税法上の意義を明らかにしておく必要がある。債務免除益が収入金額のうち「経済的な利益」(所税36条1項括弧書)に該当することについては異論はなかろうが、このことを前提にして、債務免除益の無効基因喪失の所得税法上の意義を明らかにするための考え方を、所得概念論の観点から以下の(1)から(3)の3つのステップに分けて整理しておこう。 (1)まず、「経済的な利益をもって収入する場合」(所税36条1項括弧書)における当該利益の「享受」(同条2項)については、「享受」でもって「所得の処分可能性」を手に入れたこと(前掲拙著【336】も参照)を前提にして、包括的所得概念に関する所得定式すなわち「所得=蓄積+消費」(同【170】)に照らし、①蓄積型享受と②消費型享受を区別することができる(同【298】参照)。 ①蓄積型享受は、さらに、純資産増加説にいう「純資産」(正の蓄積)の取得による経済的利益の享受と「負債」(負の蓄積)の喪失による経済的利益の享受とに区別され、前者には例えばストック・オプションによる権利行使益の享受が、後者には例えば債務免除益の享受がそれぞれ該当し、また、②消費型享受は、取得と同時に消費される経済的利益の享受であり、これには例えば従業員レクリエーション費用の使用者負担や低廉な家賃による社宅居住による経済的利益の享受が該当する(前掲拙著【298】参照)。 (2)次に、シャンツは、前述のとおり、担税力を「他に依存せぬ独立した経済力」(Schanz, a.a.O., 5.)として、すなわち、「自己の固有の資産を費消することなく、また、借入金(負債)を受け入れることもなく、どれだけの資金を自由に処分することができるか」(Schanz, a.a.O., 5.)を示す概念として理解していたが、そのことは、純資産増加説では、借入金は、人の総資産には含まれるが純資産の増加すなわち担税力の増加をもたらすものではなく、したがって、課税所得に該当しないことを意味する(前掲拙著【170】参照)。 このような理由で借入金の課税所得該当性を否定すると、債務免除により借入金の返済不要が確定した場合には、今度は、当該借入金の額に相当する額の債務免除益が課税所得に該当することになると考えられる(前掲拙著【170】参照)。 (3)最後に、債務免除が有効にされた場合、債務免除に基因して負債(負の蓄積)が失われ、これに連動して債務免除益という純資産(正の蓄積)が増加することになるが、このことによって総資産(純資産と負債との総額)に変動は生じないのである。 同様のことは逆方向でも起こる(このことを、橋本彩「判批」ジュリスト1531号(平成30年度重判解)194頁、195頁は「巻き戻した状態にする」と表現したものと解される)。すなわち、債務免除が無効となった場合、その無効に基因して、前記①蓄積型享受の対象である、負債(負の蓄積)の喪失による経済的利益すなわち債務免除益が失われることになるが、このことは、債務免除の無効に基因して負債(負の蓄積)が復活し、これに連動して債務免除益という純資産(正の蓄積)が減少することを意味する。とはいえ、このことによっても総資産(純資産と負債との総額)に変動は生じない。 以上の3つのステップを踏んで債務免除益の無効基因喪失の所得税法上の意義を考えてみると、債務免除益の蓄積型享受の場合には、債務免除の効力の有無が直接的に純資産(正の蓄積)及び負債(負の蓄積)の増減に連動するが、ただ、債務免除の効力の有無は総資産を変動させることなく、総資産に占める純資産と負債の割合を変動させるにとどまる。債務免除の効力の有無と純資産(正の蓄積)及び負債(負の蓄積)の増減とのこのような直接的連動を前提にすると、所得税法36条が有効な債務免除による経済的利益の「享受」(蓄積型享受)の事実だけを捉えて当該債務免除益を純資産の増加すなわち所得として課税することを定めている以上、債務免除の無効に基因する経済的利益の「享受」(蓄積型享受)が失われた場合には、その喪失の事実だけを捉えて当該債務免除益(無効所得)の無効基因喪失を純資産の減少として当該債務免除益に対する課税を断念し、あるいは既に執行済みの場合は取り消すべきである、ということになろう。 これを本件についてみると、Xが本件債務免除の錯誤無効を主張し裁判所がその主張を認め本件債務免除が無効とされた場合には、本件債務免除の無効と本件債務免除益という純資産(正の蓄積)の喪失とが直接的に連動する以上、「Aとの間で債務免除が無効であることとされていることをうかがわせる外形的な要素」(佐藤英明「判批」TKC税研情報27巻1号(2018年)12頁、19頁)すなわち「具体的かつ実行可能な債務弁済計画が立案され、かつ、その少なくとも一部が履行されている、などの事情」(同頁脚注12)を、本件債務免除益の無効基因喪失について要求するのは「過剰」(橋本・前掲「判批」195頁)というべきである。 本件債務免除の無効と本件債務免除益という純資産(正の蓄積)の喪失との直接的連動によって、本件債務免除益の無効基因喪失につきXの意思の働く余地は排除されている以上、上記のような「外形的要素」は所得概念論の観点からは要求されないと考えるところである。「簡単に経済的成果を失わせることができると納税者による錯誤無効の主張がむやみやたらとなされかねないとの危惧」(橋本・前掲「判批」195頁)を債務免除益の無効基因喪失に関する判断において考慮することは、まさに「他事考慮」というべきであろう。 以上の考察に基づき平成30年最判による本件債務免除益の取扱いを検討すると、同最判は、経済的成果の無効基因喪失に関する一般論の点では妥当であるが、本件債務免除益の無効基因喪失に関する判断の点では妥当でないと考えられる。すなわち、同最判がXにおいて「本件債務免除が錯誤により無効である旨の主張」はしてはいるが納税告知処分前に「本件債務免除により生じた経済的成果がその無効であることに基因して失われた旨の主張」をしていないことをもって、本件債務免除益の無効基因喪失を認めなかったのは、経済的成果の無効基因喪失に関する一般論の適用を、債務免除の無効とこれに基因する純資産(正の蓄積)の喪失との直接的連動を特質とする債務免除益という特殊な経済的成果について誤ったものとして、妥当でないと考えられるのである。 なお、平成30年最判の前記判示(Ⅰ参照)について調査官解説は下記のとおり解説しているが(荒谷謙介「判解」最判解民事篇(平成30年度)181頁、192頁。下線筆者)、本件債務免除の錯誤無効の主張は、本件第2次第2審判決では許容されず、本件第2次上告審判決(平成30年最判)で許容され本件債務免除の無効が認められたこと(この判断についても議論のあるところである。これに反対するものとして渡辺充「判批」判例評論730号(2019年)148頁、151頁参照)からすると、下記の解説にいう「前提」は成り立たないように思われる。債務免除益という特殊な経済的成果の前記の特質に鑑みれば尚更である。裁判所としては、本件債務免除の錯誤無効の主張を認める以上は、本件債務免除益という経済的成果の喪失を、本件債務免除の無効と直接的に連動するものとして直ちに認定すべきであると考えるところである。   Ⅳ おわりに 今回は、所得税法における無効所得の取扱いを整理・検討した上で、錯誤無効債務免除源泉徴収事件を素材にして主に債務免除益の無効基因喪失の意義を検討し、その検討に基づき平成30年最判による本件債務免除益の取扱いを批判的に検討しこれに反対する見解を述べた。 所得税法における無効所得の取扱いについては、学説・判例ともに所得概念論を基礎にして妥当な一般論を確立してきたとみてよいが、債務免除益の無効基因喪失については、所得概念論の観点からみて、学説・判例ともに更なる検討の深化が必要であるように思われる。 債務免除益の所得課税上の取扱いについては、近時、優れた研究業績が公表されてきているが(その代表的業績として藤間大順『債務免除益の課税理論』(勁草書房・2020年)参照。本件の特に争点①②について同書216頁参照)、今回は、純資産増加説に立ち返るとともに、収入金額のうち経済的利益の「享受」(所税36条2項)の概念についても検討を加えることによって、債務免除益の無効基因喪失の所得税法上の意義を明らかにした。 最後に、その検討結果として提示した考え方を、少し長くなるが、「債務免除益の無効基因喪失に関する、債務免除の無効とこれに基因する純資産(正の蓄積)の喪失との直接的連動論」と称しておこう。 (了)
#600(掲載号)
#谷口 勢津夫
2024/12/26
所得税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

令和6年分 確定申告実務の留意点 【第1回】「令和6年分の申告に適用される改正事項」

令和6年分 確定申告実務の留意点 【第1回】 「令和6年分の申告に適用される改正事項」   公認会計士・税理士 篠藤 敦子   -はじめに- 令和6年分の確定申告の受付は、令和7年2月17日(月)から3月17日(月)まで行われる。還付申告は、令和7年2月17日(月)以前でも行うことができる。 なお、e-Taxを利用する場合は、令和7年1月6日(月)から3月17日(月)の間であれば、メンテナンス時間(3月17日を除く毎週月曜日午前0時~午前8時30分を予定)を除き、24時間 (※)申告書を送信することが可能である。 (※) 1月6日(月)は8時30分から、3月17日(月)は24時まで 今回から3回シリーズで、令和6年分の確定申告に係る実務上の留意点を解説する。 第1回(本稿)と第2回は、「令和6年分における特別税額控除」(以下、「定額減税」という)を取り上げる。 なお、確定申告に係る下記の拙稿も併せてご参照いただきたい。 (注) 記事掲載後の税制改正等により、解説内容が現在の規定に基づくものとは異なるケースがある。過年度の記事内に順次コメントを入れるので留意していただきたい。   【1】 定額減税の概要 令和6年度税制改正により、定額減税が実施されることとなった(措法41の3の3①)。定額減税とは、納税者の税額から一律に一定額を差し引く減税方法である。 今回の定額減税は、令和6年分の所得税(個人住民税は令和6年度分)に限った措置とされている。 (1) 対象者 定額減税の対象者は、令和6年分(個人住民税は令和5年分)の合計所得金額が1,805万円以下の居住者である。 〈定額減税の対象者〉 ① 所得制限あり 定額減税の適用には所得制限があり、対象となるのは、所得税は令和6年分、個人住民税は令和5年分の合計所得金額が1,805万円以下(給与所得のみの場合、給与収入2,000万円以下)の納税者本人に限られる(措法41の3の3①、地税附則5の8①)。 ② 居住者に限定 定額減税の対象者は、納税者本人のうち居住者に限られる。また、減税額計算の基礎となる同一生計配偶者と扶養親族も居住者に限られている(措法41の3の3②)。 (2) 減税額 令和6年分として措置された減税額は、下記〈表1〉の金額の合計額である(措法41の3の3②)。 〈表1:減税額〉    【2】 合計所得金額に関するチェックポイント 定額減税の対象者は、令和6年分(個人住民税は令和5年分)の合計所得金額が1,805万円以下であることが要件とされている。「合計所得金額」であることから、2ヶ所以上から給与等の支払いを受けている場合にはすべてを合計した給与所得により判定し、複数の所得がある場合にはすべてを合計して判定する。 ただし、次の繰越控除を受けている場合は、その適用前の金額になる。 合計所得金額に関するチェックポイントをまとめると、次のとおりである。 *  *  * 次回(第2回)は、確定申告で定額減税を適用する際の同一生計配偶者及び扶養親族に関するチェックポイントについて解説する予定である。   (了)   
#600(掲載号)
#篠藤 敦子
2024/12/26
消費税・地方消費税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例141(消費税)】 「「課税事業者選択届出書」を提出したため、「2割特例」の適用が受けられず、修正申告となってしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例141(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆適格請求書発行事業者となる小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)(平成28年改正法附則51の2①②) (1) 経過措置の内容 「2割特例」とは、インボイス発行事業者の令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間において、インボイス制度を機に免税事業者からインボイス発行事業者として課税事業者になった場合又は免税事業者が「課税事業者選択届出書」の提出により課税事業者となった場合には、仕入税額控除の金額を、特別控除税額(課税標準である金額の合計額に対する消費税額から売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の80に相当する金額)とすることにより、納付税額をその課税標準に対する消費税額の20%とすることができる経過措置である。したがってインボイス発行事業者となる前から課税事業者である場合等には適用できない。 (2) 適用できる期間 「2割特例」を適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間である。このため、免税事業者である3月決算法人が令和5年10月1日から登録を受けた場合には、令和6年3月決算分(10月~翌3月分のみ)から令和9年3月決算分までの計4回の申告に適用することができる。 (出典) 財務省「インボイス制度の負担軽減措置のよくある質問とその回答」 (3) 適用できない場合 次のような場合には「2割特例」の適用はできない。 (4) 適用を受けるための手続き 「2割特例」の適用に当たっては、事前の届出は必要ない。消費税の確定申告書に「2割特例」の適用を受ける旨を付記することにより、適用を受けることができる。       (了)
#600(掲載号)
#齋藤 和助
2024/12/26

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