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決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第15回】「「対前期増減率」は「対前期比」とは異なる」
◆◇◆◇◆ 決算短信の訂正事例から学ぶ実務の知識 【第15回】 「「対前期増減率」は「対前期比」とは異なる」 公認会計士 石王丸 周夫 今回取り上げるのは、サマリー情報の業績予想欄における誤記載です。 具体的には、そこに記載された対前期増減率の数値が訂正となった事例です。 業績予想の対前期増減率が訂正となった事例は、この連載の【第11回】でも解説しています。今回のケースは、まったく同じ箇所での誤りではありますが、その内容が異なります。 【第11回】の訂正事例は、第3四半期決算短信の業績予想欄において、第3四半期決算短信と同日に公表した「業績予想および配当予想の修正に関するお知らせ」に記載した別の比率を転記してしまったとみられる誤記載でした。 業績予想は、まず期末の決算短信で公表され、その後、次年度の四半期決算短信に引き継がれて開示されます。業績予想数値は、次年度の期末まで変更ないこともありますが、次年度の期末が近づくにつれ決算の着地が見えてくるため、業績予想の修正(訂正ではなく変更)が行われることもあります。【第11回】の訂正事例は、その過程で起きた誤りでした。 今回は、期末の決算短信に記載される次期の業績予想の誤記載です。 したがって、業績予想の修正とは特に関係ありません。 そういう意味では【第11回】と比べると、より基本的な知識に関わる誤りといえるでしょう。 ではさっそく、訂正事例を見ていきましょう。 訂正事例の概要 サマリー情報の業績予想欄において、対前期増減率の数値がすべて訂正となりました。 一方、売上高等の財務数値の予想数値は、いずれも訂正はありません。 対前期増減率の計算を間違えたように見えますが、比率がすべて間違っていたことから、何か理由がありそうです。 訂正イメージは次のとおりです(「%」以外の数値は「X」で表示しています)。 〈訂正事例をもとにした誤記載のイメージ〉 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【訂正前】 【訂正後】 誤りの原因 では、対前期増減率の数値が間違った原因を推測してみましょう。 上に示した事例を一見しただけでは、どのような間違いだったのかはわかりません。 そこで、訂正後の数値から訂正前の数値を引いて、差額を計算してみます。 計算の結果、すべて「-100.0」となりました。 つまり、訂正前の対前期増減率の値は、すべて 100.0過大だったというわけです。 売上高であれば、前期の売上高に比べて13.3%増加したことを「113.3%」と表していたことになります。 なぜ、そんなことになってしまったのでしょうか。 それはおそらく、前期(この場合は短信の対象期なので当期)の売上高を100%としたときに、当期(この場合は短信の対象期からみた次期)の売上高が何%になるかを表したからだと思われます。 一般に、この比率は「対前期比」と呼ばれます。 しかし、「対前期増減率」は、前期に比べてどれだけ増減があったかを比率で表すので、「対前期比」とは違います。東京証券取引所が公表しているFAQでも、対前期増減率の算定方法を次のように定めています。 (※) JPXホームページ(上場会社向けナビゲーションシステム)「決算短信等において、対前期(対前年同四半期)増減率はどのように計算すればよいですか。」 この算式から明らかなように、「対前期比」(当期の数値/前期の数値)から1を引いた値が「対前期増減率」であり、上述のように100.0過大だった原因は、「対前期増減率」を「対前期比」と間違えたことによるものとわかります。 減益なのに増益にみえる 「対前期増減率13.3%」は「対前期比113.3%」と同じことを表しており、「対前期比13.3%プラス」という言い方もあるようです。決算短信の実務以外の場面でも、よく使われる概念、表現であり、どの表し方にするか指定されていなければ、使う人の好みで選ばれているのが実情ではないでしょうか。 今回の事例は、業績予想の金額自体の誤記載でもないわけですし、それほど重大な誤りではないかもしれません。ただし、正確な情報が伝わらない可能性があるので、決算情報に係る場面では気をつけなければなりません。 今回の誤記載のイメージを、あらためて見てみましょう。 【訂正前】 【訂正後】 次期の業績は、訂正前において、対前期増減率がすべてプラス値なので、「増収増益」と受け取られます。ところが、訂正後には、利益項目の対前期増減率のすべてに△が付されており、マイナス値であるとわかります。 つまり、本当は「増収減益」だった、というわけです。 一般論ですが、増収減益というのは「売上が増えても利益が減る」という困った状態であり、経営上、何か手を打たなければならないと考えられます。 訂正前の業績予想では、そのことがわかりません。 こういう問題があるわけです。 開示前のチェックポイント 今回の事例の場合、期末の決算短信なので、当期の実績値がサマリー情報に記載されており、それと業績予想の比較をすることにより、増収減益の予想であることは把握できます。 次期業績予想欄の対前期増減率については、開示前に、その点との整合性を確認するとよいでしょう。 (了)
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空き家をめぐる法律問題 【事例67】「財産管理契約を検討する場合の留意点」
空き家をめぐる法律問題 【事例67】 「財産管理契約を検討する場合の留意点」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 私は、自宅とは別に空き家を所有していますが、近隣住民から雑草の繁茂などについて苦情を受けています。高齢のため空き家まで行って自ら管理するのは難しく、長男に管理を任せたいと考えています。 長男も私の意向に同意してくれていますが、あらかじめ何らかの取り決めをしておいたほうがよいでしょうか。なお、私には長男のほか、長女と二男の合計3人の子どもがいます。 1 検討の視点 空き家を管理する方法として、不動産業者との間で管理委託契約を締結することが考えられるが、空き家に限らず、他の財産の管理も含めて親族に管理を任せることも少なくない。 しかし、親族等による管理は、契約によることなく、親族等の善意で行われていることもあり、その負担が重くなることもある。加えて、所有者本人が将来的に判断能力を喪失することもあるため、その可能性を含めて対応を検討しておく必要がある。そこで、本事例では空き家を含む財産管理を任せる場合の留意点を検討することにしたい。 2 財産管理契約と留意点 (1) 財産管理契約の概要とその必要性 財産管理契約とは、委任者が受任者に対して自己の財産管理に関する事務を委任する契約であり、民法上の委任契約(民法第643条)に該当する。契約時には、どの財産の管理を委任するかを明示することになるが、包括的な財産管理を委任するとともに、当該委任事項に関して対外的な代理権を付与することが多いように思われる。 受任者は、委任者に対して善管注意義務(民法第644条)を負い、空き家に関しては、建物の維持管理や清掃、修繕の手配、不法侵入者への対応、近隣との連絡調整等、多岐にわたる業務を誠実に遂行する責任を負うことになる。 なお、受任者が空き家の管理を不動産業者等の専門業者に任せることも考えられるため、再委任の可否(民法第644条の2)やその条件についても契約に定めておくことが望ましい(専門業者に空き家の管理を委託する場合の留意点については【事例60】を参照)。 委任者に推定相続人が複数おり、そのうちの一人が善意で財産管理を行っているような場合、預金からの支出や費用負担をめぐって、後日、他の推定相続人との間で争いになることもある。このような紛争を未然に防止するためにも、財産管理契約を締結しておく意義は大きいと考えられる。 (2) 財産管理契約の留意点 第一に、委任契約は、特約がない限り報酬が発生しないため(民法第648条第1項)、報酬を設定する場合は、その算定方法や支払方法を財産管理契約に定めておく必要がある。なお、親族間では報酬の有無をめぐって争いになることもあるため、報酬の有無にかかわらず、その旨を定めておくことが好ましい。また、管理業務に要する費用は原則として委任者の負担となるが、管理対象の財産から事前又は事後に直接支出できるように定めておくべきである。 第二に、受任者は、委任者から請求があった場合には、いつでも委任事務の報告等を行う義務を負うところ(民法第645条)、これに加えて、財産管理契約に、定期的(例:3か月に1度)な報告義務を課すことで、管理業務の透明性を高めておくべきである。受任者が報告する際には、財産目録、収支計算書、領収書等の原資料を提出させることによって、空き家の管理に要した費用の内容を明確に把握できるようにすることができる。 第三に、財産管理契約の締結後に、委任者が後見制度の利用を要する状態に至った場合でも、財産管理契約は当然に終了しないため(民法第653条第3号)、受任者の権限の終了時期を明確にしておく必要がある。財産管理契約は、後述する任意後見契約と併せて締結されることもあり、任意後見契約の効力の発生は、任意後見監督人が選任された時点となるため(任意後見契約に関する法律第2条第1号)、委任者の判断能力の低下から任意後見契約の効力が生じるまでにタイムラグが生じることになる。この間に受任者が代理権限を行使した場合、本人の意思に沿っていたか疑義が生じるおそれもあるため、受任者の代理権の終了時期(例:任意後見監督人の選任まで)を定めておくべきである。 3 任意後見契約との関係 財産管理契約は、委任者の判断能力が十分ある時期に締結される契約であり、後見開始の審判を受けると終了することになる(民法第653条第3号)。このため、将来的に判断能力の低下を見越して、委任者の意思に基づき、信頼できる後見人をあらかじめ指定しておく任意後見契約を財産管理契約と併せて締結しておくことも少なくない。 任意後見契約は公正証書によって締結する必要があり、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されることにより後見事務が開始されることになるため、本人の権利利益保護をより確実なものとすることができる。 なお、任意後見契約においても、任意後見人の報酬の有無、後見事務に要する費用の負担、報告義務の内容等について、財産管理契約と同様に具体的に定めておく必要がある。 4 本件について 相談者は高齢のため空き家の管理が困難となっており、長男に管理を任せたい意向を有していることから、財産管理契約の締結を検討すべきである。その際には、管理業務の内容、費用の支出方法、報告義務等を詳細に定めておくべきである。 また、将来的な認知症等による判断能力低下に備えて、任意後見契約の締結も検討し、持続的な財産管理ができるようにしておくことが好ましい。 さらに、長男とその他の推定相続人との間で不要なトラブルが生じないように、委任者の承諾のもと関係者間で契約内容をあらかじめ共有しておくことも有益であると考えられる。 (了)
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《税務必敗法》 【第1回】「申告書の提出を行っていなかった」
《税務必敗法》 【第1回】 「申告書の提出を行っていなかった」 公認会計士・税理士 森 智幸 ◆ ◇ ◆ 連載開始にあたって ◆ ◇ ◆ 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。成功するときは、運が味方することもあり、その要因が定かではない。しかし、失敗するときは、必ず何らかの原因がある。その原因を1つずつ取り除いていけば、成功に近づくのである。 この考え方は、吉田兼好の徒然草『双六の名人』の中でも紹介されている。兼好が、当時の遊びである双六の名人に、上手な打ち方を尋ねたところ、名人は次のように答えたという。 税務においても、失敗の原因を理解し、それを回避することが重要である。 本連載は、税理士だけではなく、会計事務所の職員も読者の対象としている。必敗法は、税務を行う会計事務所職員もぜひ、身につけていただきたい。 本連載が、税務の一助になれば幸いである。 * * * 【事例】 6月のある日、X会計事務所に税務署から電話がかかってきた。税務署によると、顧問先であるA社の申告書が提出されていないが、どうなっているのかということだった。事務所内で調査をしたところ、担当者が申告期限を勘違いしており、申告書の提出を行っていなかったことが発覚した。 1 はじめに 税務を行う税理士にとって、顧問先の申告書の提出を忘れるということはプロフェッショナルとして絶対にあってはならないことである。 「そんなの当然だろう」と思われるかもしれないが、税理士業務では、多忙なスケジュールや顧問先数の増加により、申告期限を失念するリスクがあるので十分に注意すべきである。筆者の知人の税理士も、うっかり申告期限を失念して提出が期限後となってしまったことがある。 申告書の提出を忘れてしまうと、税法上のペナルティだけでなく、顧問先からの信頼を失い、顧問契約解除にもなりかねない。当然のことを当然に行うのがプロフェッショナルである。 そこで今回は、申告書の提出の失念を含むいくつかのケースとその防止案について説明する。 なお、本稿は法人税、消費税の申告を前提とする。 2 想定されるケースと対応策 (1) 申告書の提出期日を忘れる ① 想定されるケース (イ) 申告書の提出期日の失念 申告書の提出失念が発生する原因としては、「申告書の提出期日を忘れていた」というものが挙げられる。 その原因として考えられるのは、顧問先が増加し、顧問先の決算期と申告期日を把握しきれなくなってきたということである。法人の場合は、決算月は様々であるため、申告期限も様々である。毎月、法人の顧問先の記帳や決算を行っていると、それらの情報に埋もれてしまい、申告をうっかり忘れてしまうことがありうる。 また、時々、消費税の課税期間を短縮している顧問先もある。3ヶ月ごとあるいは1ヶ月ごとに申告期限が訪れることになるため、こちらも他の顧問先の決算・申告に埋もれて、忘れることもありうる。 (ロ) 電子申告の送信ミス これは、別稿で詳しく説明するが、電子申告の送信ミスにより、申告書を作成したものの、提出し忘れるというケースが想定される。 (ハ) 申告期限の延長の特例に関する勘違い 法人税の申告期限の延長の特例の適用を受けていないにもかかわらず、その適用を受けていると勘違いして申告期限までに提出しないケースも考えられる。消費税についても同様である。 【参考】消費税及び地方消費税無申告加算税賦課決定処分取消請求事件 (注) この事件が起こった当時は、消費税の申告期限の延長制度はなかった。 ② 対応策 (イ) 毎月の申告管理表を作成する 申告書の提出期日の失念を防止するためには、会計事務所全体で申告管理表を作成し、毎月初めに確認することが有効である。管理表の様式はもちろん自由である。その月に申告期限が到来する顧問先が一覧になっている様式のほうが見やすいであろう。 (ロ) デジタル活用によるスケジュール管理 GoogleカレンダーやOutlookカレンダーといった電子カレンダーやグループウェアのカレンダーで申告書提出予定日を設定し、デジタルで管理する方法が考えられる。また、GoogleやMicrosoftのTo-doアプリを使って、行うべきことをリスト形式で管理する方法も有効である。 (ハ) 電子申告は受信通知を確認 電子申告の場合は、必ず受信通知を確認することが重要である。また、担当者任せにせず、必ず上席が確認することで送信ミスを防止できる可能性が高まる。 (2) インターネットトラブル ① 想定されるケース インターネットに大規模な障害が発生する、あるいはWi-Fiの接続障害で、インターネットがつながらないケースが想定される。 インターネットに接続できないと電子申告もできなくなるので、申告書の提出遅延のリスクがある。 ② 対応策 インターネット障害は大規模な場合、長時間つながらないときもある。そのため、申告期限日の3日前までに申告を済ませるのが望ましい。Wi-Fiの接続障害の場合においても同様である。 (3) 電子証明書トラブル ① 想定されるケース 電子申告時は、ICカードである税理士用電子証明書を使用するが、磁気不良などで不具合が生じ、電子署名ができなくなることが想定される。 また、カードリーダライタの故障により電子証明書が使用できなくなるトラブルも想定される。 ② 対応策 電子証明書は最低2枚所有することを推奨したい。日本税理士会連合会(以下「日税連」という)の「よくある質問と回答(第五世代電子証明書)」でも2枚所有することのメリットが記載されている。 (出典:日税連「よくある質問と回答(第五世代電子証明書)」) また、カードリーダライタも同じく2台所有しておくほうがよいであろう。その理由としては、日税連による動作確認済みのカードリーダライタは一般的に広く販売されているものではないので、すぐに購入できるとは限らないからである。 (4) 郵便トラブル ① 想定されるケース 郵便で想定されるケースとして、郵便局の「ゆうゆう窓口」が24時間対応ではなくなったことに気づかず、申告書を入れた封筒を郵便局に持っていったものの、営業時間を過ぎていて郵送できないケースが想定される。 ゆうゆう窓口は、2020年4月に新型コロナウイルス感染症の拡大防止措置として原則として平日は19時まで、土日祝日は18時までとなった。コロナ禍前は24時間対応だったが、現在は営業時間が定まっているので注意が必要である。なお、郵便局によって営業時間が異なるので必ず確認していただきたい(一部郵便局は平日21時までのところもある(2025年5月現在))。 その他、郵便に関しては、宅配便で申告書を郵送してしまい、税務署が期限後申告としたケースもある(国税不服審判所平成17年1月28日裁決(TAINSコード:J69-1-01))。そもそも申告書は信書に当たるため、宅配便で送ることはできない。そのため、申告書は郵便又は信書便で送る必要がある。 ② 対応策 こちらも、申告期限日の3日前には提出を済ませておくことが望ましい。 また、郵送は、簡易書留など発信日がわかる郵便又は信書便で送ることが必要である(国税通則法22条)。郵送方法は担当者任せにせず、会計事務所内でその方法を統一しておくとよいであろう。 3 申告書の提出を失念した場合の顛末 申告書が期限後提出となった場合、税法上、以下のペナルティが発生する。 また、顧問先から契約解除となる可能性も高くなる。申告書の提出失念等には十分注意されたい。 (了)
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〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第93話】「宗教法人と源泉所得税」
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第93話】 「宗教法人と源泉所得税」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・住職が・・・こんな隠蔽仮装をするのか・・・」 浅田調査官は、職場のロッカーを整理しているときに見つけた古い新聞を見ながら、ため息をつく。 (※) 朝日新聞2023.1.31より 浅田調査官が新聞を熱心に読んでいるところに、中尾統括官がやってくる。 「どうだい・・・だいぶ片づいたか? 新聞や雑誌など、ロッカーの中のいらないものは、どんどん捨ててくれよ」 中尾統括官は、笑いながら、浅田調査官に声をかける。 「ところで・・・何をそんな真剣な顔をして読んでいるんだ?」 中尾統括官は、浅田調査官の手元にある新聞の記事を見る。 「・・・宗教法人の・・・所得隠しか・・・」 中尾統括官は、途端に、渋い顔になる。 「・・・これって、追徴税額は重加算税を含めて計約7,800万円で、この2つの宗教法人はいずれも全額納付しているようです」 浅田調査官は、記事の一部を説明する。 「・・・そして、国税局は、貯金など私的流用分を法人の会計帳簿に記載しなかったとして、重加算税対象の仮装・隠蔽にあたると判断しています・・・」 浅田調査官は、新聞を見ながら、説明を続けた。 「・・・宗教法人の住職は『税務調査は受けた。向こうの言い分はのんだ』と答え、もう一方の法人の住職は『(税務調査を)受けていない』と言っています・・・2人ともあまり反省していないようです・・・ところで、この事件は、私的に利用した金員は、住職に対する給与とみなされて、源泉徴収の漏れがあったということです・・・」 そう言うと、浅田調査官は、傍らのテーブルの上に図を描く。 「・・・もともと、宗教法人が檀家から受け取るお布施は、非課税になるのだが、そのお布施を流用して住職の個人的な支出に使った場合、それは住職個人に対する給与所得になるのだから、宗教法人には源泉徴収の義務が生じる・・・」 傍らにいる中尾統括官は、図を見ながらコメントをする。 「・・・3年ほど前の新聞記事ですけど・・・住職らによる私的流用などで源泉徴収漏れを指摘されるケースは全国的に後を絶たない。国税庁によると、2022年6月までの1年間で1,490の宗教法人を調査したところ、約7割で源泉徴収漏れが見つかった。1件あたりの追徴税額は88万2,000円だった・・・と書かれています・・・本来、人の道を説く僧侶なのですが、こんな記事を読むと、なんとも情けない気持ちになります・・・」 浅田調査官は、古い新聞を握りしめる。 「・・・そうだなあ・・・坊さんも煩悩を断つのは難しいのだろう・・・」 中尾統括官は、苦笑いをする。 「・・・それに僕は、以前から宗教法人について、あまり良いイメージを持っていない・・・宗教法人の課税をもう一度、見直した方が良いと思う・・・現在、宗教法人は、収益事業のみ非課税となっているが、僕は、原則、課税とし、非課税を希望する宗教法人には税務署に非課税の届出書を提出する義務を負わせるのが良いと思う・・・これによって、非課税となる宗教法人は限定されるだろう・・・今だったら、巷に、宗教法人=非課税と考えるものが多くいる・・・」 中尾統括官は、少し興奮しているのか、頬を赤くして言う。 「・・・昔、宗教法人がラブホテルを経営していて、客からのお布施を理由に非課税であるとして申告しなかった事件があった・・・」 そのとき、浅田調査官は、「これですか?」と表示しているスマートフォンの画面を見せる。 (※) J-CASTニュース2009.6.9より 「そうそう、この事件だよ・・・当時、新聞やテレビなどで、大々的に報道されていたことを覚えている」 中尾統括官は、懐かしそうに記事を読む。 「・・・しかし、このケースと異なるのですが、ラブホテルに僧侶がいて、その僧侶から(仏の)話を聞き、その後、自由に休憩できる部屋が与えられ、ホテルを出るときに『喜捨箱』にお金を入れてもらうというのであれば、課税されないのでしょうか・・・もちろん、ラブホテルのような料金表はないということですが・・・非課税となるのでしょうか?」 浅田調査官は、真面目な顔で、中尾統括官に訊ねる。 (つづく)
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《速報解説》 防衛特別法人税の申告書様式は別表1の次葉として取り扱う~国税庁より周知のリーフレットが公表される~
《速報解説》 防衛特別法人税の申告書様式は別表1の次葉として取り扱う ~国税庁より周知のリーフレットが公表される~ Profession Journal編集部 国税庁は5月30日付で下記2つのリーフレットを公表、令和8年4月1日以後開始事業年度から適用される防衛特別法人税について、制度の概要や使用する申告書の様式など周知を開始した。 防衛特別法人税は防衛力の抜本的な強化等のために必要な財源を確保することを目的に、令和7年度税制改正により法定化されたもの。これにより各事業年度の所得に対する法人税を課される法人は、令和8年4月1日以後に開始する各事業年度において、所得税額控除など一定の税額控除を適用しないで計算した法人税の額(基準法人税額)から、年500万円(基礎控除額)を控除した金額に4%の税率を乗じて計算した金額を防衛特別法人税額として申告・納付する必要がある。 この新税に関する申告書様式としては既報のとおり、本年4月14日公布の改正省令により「各課税事業年度の防衛特別法人税に係る申告書」の様式が明らかにされていたが、今回の国税庁リーフレットでは上記申告書について、現行の法人税及び地方法人税の申告書と一体の様式とする方針が明らかにされている。 具体的には、現行の別表1(各事業年度の所得に係る申告書:内国法人)及び別表1の2(各事業年度の所得に係る申告書:外国法人)では法人税額及び地方法人税額の税額計算を行う「次葉1」を「次葉2」としたうえ、あらたな「次葉1」として以下に示す通り、防衛特別法人税額の計算を行う様式が追加される。 (※) 国税庁ホームページより なお上述のとおり、基礎控除額として500万円が控除されることから、実際に防衛特別法人税が課されるのは一部の大企業に限られるため影響はないとする意見も見聞するが、防衛特別法人税の納税義務者は企業規模にかかわらず、各事業年度の所得に対する法人税を課される法人とされているため、防衛特別法人税額が0であっても申告は必要となる。 リーフレットにも下記の記載があるため、いわゆる中小企業であってもゼロ申告は必要となる点には留意されたい。 (了)
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《速報解説》 国税庁が基礎控除等の見直しに係るQ&A(全36問)を公表~令和8年分税額表は当初の10万円引上げのみに対応、措法41の16の2の段階的加算は年末調整等での対応が必要~
《速報解説》 国税庁が基礎控除等の見直しに係るQ&A(全36問)を公表 ~令和8年分税額表は当初の10万円引上げのみに対応、 措法41の16の2の段階的加算は年末調整等での対応が必要~ Profession Journal編集部 国税庁は5月30日付で「令和7年度税制改正(基礎控除の見直し等関係)Q&A」を公表。令和7年度税制改正で見直された基礎控除等の見直しに係る源泉徴収及び年末調整の実務について、全36問のQ&Aで解説を行っている。 Q&Aでは改正の概要や令和7年分の年末調整関係書類の記載事項、新設される「特定親族特別申告書」の記載の仕方、令和8年分以後の扶養控除等申告書に記載が必要な「源泉控除対象親族」の定義などが解説されている。 なお、既報のとおり、今回の基礎控除の見直しにあたっては当初の税制改正法案から修正があり、段階的に控除額を加算する特例措置(措法41の16の2)が織り込まれたものの、源泉徴収税額表(所得税法別表二~四)については当初案(10万円加算)に基づいたもののまま、特例措置に対応した見直しが行われていない。 この点についてQ1-2《改正の概要(基礎控除)》では下記の記述があり、令和8年分は源泉徴収において基礎控除額58万円への引上げ(当初案)に基づいた対応を行い、年末調整において特例措置(措法41の16の2)の対応を行う必要がある点が明らかにされている(下線は編集部)。 今回公表されたQ&Aの一覧は下記のとおり。 今後、更新される可能性もあるため留意されたい。 (了)
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プロフェッションジャーナル No.620が公開されました!~今週のお薦め記事~
2025年5月29日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.620を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
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谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第49回】「事業所得と給与所得の区分と契約「解釈(創造)」による否認論」-りんご生産組合事件・最判平成13年7月13日訟月48巻7号1831頁の意義-
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第49回】 「事業所得と給与所得の区分と契約「解釈(創造)」による否認論」 -りんご生産組合事件・最判平成13年7月13日訟月48巻7号1831頁の意義- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 今回は、所得税法上の事業所得(27条1項)と給与所得(28条1項)の区分が直接の争点となったりんご生産組合事件を取り上げ、国税不服審判所平成8年9月25日裁決・裁決事例集52集56頁(以下「平成8年裁決」という)、盛岡地判平成11年4月16日判タ1026号157頁(以下「平成11年盛岡地判」という)、仙台高判平成11年10月27日訟月46巻9号3700頁(以下「平成11年仙台高判」という)及び最判平成13年7月13日訟月48巻7号1831頁(以下「平成13年最判」という)の各判断の整理ないし比較検討を通じて、特に「組合課税構造の特殊性」(以下でこの概念を用いる場合それは高橋祐介「判批」税法学548号(2002年)111頁、116頁からの引用であることをお断りしておく)の捉え方に着目しながら、平成13年最判の意義を明らかにすることにする。その際には本件の事実関係が重要な意味をもつと考えられるので、以下ではまず本件の事案の概要を比較的詳しく述べておくことにする。 本件組合は、りんご生産等を行うことを目的として昭和51年に設立された民法上の組合であり、設立当初から、組合員又はその家族が出資口数に従ってりんご生産作業に出役する責任出役義務制を採用し、出役に対して対価を支払うことはなく出役の過不足は現金で精算することによって調整していたが、その後、りんごの木が成木になるにつれて出資1口当たりの必要出役日数が増え、これに伴い出役不足日数が増加する等の不都合が生じてきたため、雇用労力を用いる方が合理的であることが認識されるようになり、昭和59年の組合総会において、責任出役義務制を廃止し、りんご生産作業は管理者、専従者及び一般作業員が行い、これらの者の労賃は組合が負担する旨の決定がされた。 管理者は、りんご栽培の経験が比較的豊富である者から選任され、りんご生産作業につき様々な熟練を要する判断を行いその実施を専従者や一般作業員に指示する立場にあったのに対して、専従者は、管理者と一般作業員との間にあって管理者の指示を受けながら管理者を補助する立場にあったものの、その作業内容は、基本的には一般作業員のそれと変わるところはなかった。一般作業員は管理者が必要に応じて主として本件組合の組合員以外の近隣の農家の者から手配しており、本件組合の組合員が一般作業員として雇われる例はごく少なかった。 本件組合におけるりんご生産作業については、日給制を基本として労賃の支払が月単位でされることになっていたが、日給の金額については管理者が、組合全体の所得とは関係なく、農業委員会が示す作業単価を基礎とし作業内容・量、経験年数等を考慮して定額で決定した上で組合長の承認を得ていた。労賃の会計処理については、責任出役義務制の廃止後は、管理者及び専従者の労賃も、一般作業員の労賃と併せ一括して労務費として本件組合の経費に計上されていた。本件組合の収支決算は毎年1回行われることとされていたが、利益について現金配当がされたのは平成3年度だけで、その額は1口当たり6万円であり、その余の毎年の利益は、農機具購入の準備資金や組合の翌年度のりんご園地の管理運営費等に充当されていた。 X(請求人・原告・被控訴人・上告人)は本件組合の設立当初からの組合員であったが、昭和59年の組合総会における上記決定以降は一般作業員として労務に従事し本件組合から労賃の支払を受けていたところ、平成元年の組合総会において、昭和59年の組合総会以降専従者として選任されてきた組合員Mと共に専従者に選任され労賃も増額され、それ以降、毎年の組合総会で専従者に選任されてきた。 Xは、平成3年分、平成4年分及び平成5年分の確定申告に係る事業所得及び不動産所得に、本件組合から上記3ヶ年につき労務費として支払を受けた金額(以下「本件収入」という)を給与所得に係る収入として加算し、修正申告(再修正申告)をしたところ、Y税務署長(原処分庁・被告・控訴人・被上告人)は、本件収入がXによる本件組合に対する労務出資の対価として事業所得に該当すると判断して更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各処分」という)を行ったので、Xは本件各処分の取消しを求めて審査請求を経て訴えを提起した。 本件においては平成8年裁決から平成13年最判に至るまで原判断が次々と覆されるという極めて興味深い展開がみられたが、次のⅡでは、国税不服審判所及び各審級裁判所の判断をみておくことにする。 Ⅱ 各判断の概観 1 平成8年裁決 平成8年裁決は、まず、所得税法上の事業所得と給与所得の区分について次のとおり一般論を説示した。 この一般論に照らして本件について検討した結果、「請求人とMは、組合員として組合財産に責任ある立場から作業に従事しているものであり、作業の成否は、分配金の多寡という形で、組合員である請求人の所得計算に直接はねかえることを考慮するなら、まさに自己の計算と危険において組合業務に従事しているものというべきである。」(下線筆者)と説示して本件収入の事業所得該当性を認め、本件各処分を適法として審査請求を棄却した。 2 平成11年盛岡地判 これに対して、平成11年盛岡地判は次のとおり判示し(下線筆者)、本件収入が給与所得に該当するとして、Xの請求を認容し本件各処分を取り消した。 なお、この判示中で参照されているのは弁護士顧問料事件・最判昭和56年4月24日民集35巻3号672頁(以下「昭和56年最判」という)であるが、これが事業所得と給与所得の区分に関して示した「判断の一応の基準」は次のとおりである。 3 平成11年仙台高判 これに対して、平成11年仙台高判は次のとおり説示し(下線筆者)、本件収入が事業所得に該当するとして、平成11年盛岡地判を取り消し本件各処分を適法とした。 4 平成13年最判 これに対して、平成13年最判は次のとおり、まず、所得税法上の事業所得と給与所得の区分について一般論を説示し(【ⓐ】。下線筆者)、その上で、本件収入が給与所得に該当すると判示して(【ⓑ】)、平成11年仙台高判を職権で破棄し平成11年盛岡地判を正当と認め控訴棄却の自判をした。 Ⅲ 平成13年最判の意義-契約「解釈(創造)」による否認の阻止- 1 各判断の整理 以上の各判断は、結論の点では、事業所得該当性を肯定する判断(以下「事業所得該当判断」という)と給与所得該当性を肯定する判断(以下「給与所得該当判断」という)とに大別されるが、それぞれの判断理由で用いられた基準は、事業所得と給与所得の区分に関して昭和56年最判が判示した「判断の一応の基準」に準拠したもの(以下「昭和56年最判基準」という)と、民法上の組合の法律関係を基準とするもの(以下「組合法律関係基準」という)とに大別することができる。これらの区別を前提にすると、前記の各判断はその内容を以下のように整理することができるように思われる。 平成8年裁決は、昭和56年最判基準と組合法律関係基準の併用によって事業所得該当判断を示したものと解される。すなわち、昭和56年最判を明示的には参照していないものの、昭和56年最判基準のうち「自己の計算と危険」という事業所得の要素を組合法律関係基準のうち「組合財産に責任ある立場」や「分配金の多寡」と結びつけることによって、事業所得該当判断を示したものと解されるのである。 平成11年盛岡地判は、昭和56年最判基準を用いて給与所得該当判断を示したものと解される。すなわち、昭和56年最判を明示的に参照しながら、「自己の計算と危険」という事業所得の要素を否認した上で、管理者の「指示」や時間的な「拘束」等の給与所得の要素を認めることによって、給与所得該当判断を示したものと解されるのである。 平成11年仙台高判は、専ら組合法律関係基準を用いて事業所得該当判断を示したものと解される。すなわち、民法上の組合の法律関係から「組合の法的構造」を導き出し、これに照らして本件収入の性質を決定することによって、事業所得該当判断を示したものと解されるのである。 平成13年最判は、実質的には昭和56年最判基準を用いて給与所得該当判断を示したものと解される。すなわち、確かに、昭和56年最判を明示的には参照しておらず、しかも事業所得と給与所得の区分に関する一般論(前掲判示【ⓐ】の下線部)は組合法律関係基準をも考慮するものであるかのようにも読めるが、しかし、本件に関する次の判示(下線筆者)からすると、実質的には昭和56年最判基準を用いて判断したものと解されるのである(高橋・前掲「判批」114頁も「黙示的に従来の判例の立場を踏襲していると考えられる」とする)。 2 平成11年仙台高判と契約「解釈(創造)」による否認論 前記の各判断を以上のように整理してみると、その中で異彩を放っているのは平成11年仙台高判である。これは、昭和56年最判基準を考慮することなく、専ら民法上の「組合の法的構造」 に照らして組合法律関係基準に基づき本件収入の所得区分につき次のとおり判示し(下線筆者)、事業所得該当判断を示した。 上記の判示では、本件収入の「実質」を「組合員の総意に基づき定められた組合所得に関する損益分配の合意に従った組合の事業所得の分配」と解しているが、問題は、本件組合契約について、「組合員の総意に基づき定められた組合所得に関する損益分配の合意」があったと認めることができるかどうかという点にあると考えられる。 この点について、平成11年仙台高判は、前記の判示にいう平成元年の組合総会の決議に基づきXに対する日給を6000円とする「承認」をもって、「被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意」と評価できる旨の判断を示しているが、この判断では、「組合において労務出資を認めるためには、当該労務出資又はその評価の標準を合意しなければならないところ、本件組合においてはそのような合意が存在しない」という控訴審におけるXの主張を、十分に説得力をもって否定し得たとはいえないように思われる。 すなわち、平成11年仙台高判の上記の判断は、次の見解(佐藤英明「判批」ジュリスト1189号(2000年)123頁、124頁。下線筆者)の説くように「速断の誹りを免れえない」であろう。 このことについては、そもそも、「組合総会による報酬額の承認を労務出資に対する利益分配と私法上認定することに無理があった」(岡村忠生「判批」民商法雑誌126巻6号(2002年)908頁、912頁)というべきであろうが、ともかく、平成11年仙台高判の前記の判断には、本件組合契約における労務出資の扱い、とりわけ組合全体の所得と損益分配との関係に関する「当事者の意思等」の探索をしようとする姿勢ないし配慮はほとんどみられないといっても過言ではなかろう。 「損益分配の割合につき、民法は、当事者契約に定めるところに委ねている」(増井良啓「組合損益の出資者への帰属」税務事例研究49号(1999年)47頁、52頁)が故に、なおさら「当事者の意思等」を契約解釈を通じて探索することが必要不可欠であると考えられるが、しかし、平成11年仙台高判の前記の判断は、本件組合契約の解釈に基づく判断ではなく、「被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意」をいわば決め打ちした上で行った、本件組合契約の「行き過ぎた」解釈(許される契約解釈の限界を超えた解釈)に基づく判断とみるべきものであろう。契約解釈の「行き過ぎ」は、契約当事者の意思の「創造」に帰結するといえることから、本件組合契約に関する平成11年仙台高判による解釈を、以下では「解釈(創造)」と表記することにする(本稿でいう契約「解釈(創造)」は、私法上は、契約が当事者間で法的拘束力をもつ「法」であることから、契約当事者を拘束する法の創造(法創造)を意味するが、税法(課税要件法)上は、課税要件に該当する事実(課税要件事実)の創造(事実創造)を意味する)。 では、なぜ平成11年仙台高判は本件組合契約についてそのような「解釈(創造)」を行ったのであろうか。それは、平成11年仙台高判の次の判示(下線筆者)にみられるような所得種類の転換による租税回避の試み(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【248】参照)を否認するためであったと考えられる。 つまり、平成11年仙台高判は、契約解釈による否認論あるいは事実認定による否認論とも呼ばれ租税回避事案に関して当時注目を集め始めていた私法上の法律構成による否認論と同様の発想に基づき、契約「解釈(創造)」による否認論ともいうべき考え方を採用したものと考えられるのである。私法上の法律構成による否認論は、映画フィルムリース[パラツィーナ]事件・大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁等これを採用したものと解される裁判例もあり、2000年代初頭にかけて一世を風靡した考え方である(その代表的論者の見解として今村隆『租税回避と濫用法理-租税回避の基礎的研究-』(大蔵財務協会・2015年)第1編第3章[初出・1999年~2000年]参照。筆者の見解については前掲拙著【73】以下、拙著『租税回避論』(清文社・2014年)第3章[初出・2005年/2009年/2011年]、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第8回・第9回等参照)。 しかしながら、契約「解釈(創造)」による否認論は、契約当事者の意思の解釈を超えて「意思の創造」を認めるものであるが故に、許される契約解釈の限界を超える「解釈(創造)」を前提(小前提)にして税法の適用を行おうとするものといわざるを得ず、したがって税法の誤った適用に帰結することから、租税法律主義に基づく税法の厳格な解釈適用の要請(前掲拙著『税法基本講義』【41】参照)の下では、許容されるべきでないと考えるところである(私法上の法律構成による否認論に関して同【75】参照)。 3 平成13年最判と契約「解釈(創造)」による否認論 ただ、平成11年仙台高判は、「組合課税構造の特殊性」を重視する立場から、次のとおり判示したが(下線筆者)、この判示は、「被控訴人の労務出資に対する損益分配の割合についての合意」の決め打ちを正当化するために行ったものであると解される。 しかし、上記の判示に対して、平成13年最判は、「当該支払に係る組合員の収入が給与等に該当するとすることが直ちに組合と組合員との間に矛盾した法律関係の成立を認めることになるものでもない。」(前掲判示【ⓐ】の後段)と判示して、「組合課税構造の特殊性」を無視する立場を明らかにした。この判示は、次の正当な指摘(佐藤・前掲「判批」124頁)に照らしても、妥当である。 平成13年最判による「組合課税構造の特殊性」の無視については「意図的なものであると感じられる」(高橋・前掲「判批」118頁)との指摘がされているが、「組合課税構造の特殊性」の無視は、平成11年仙台高判が採用したと解される契約「解釈(創造)」による否認論に対する最高裁の否定的な態度の現れであるように思われる。そのような態度は、後に、最高裁が私法上の法律構成による否認論ないし事実認定による否認論について、映画フィルムリース[パラツィーナ]事件・大阪高判平成12年1月18日訟月47巻12号3767頁に対する上告審として検討を重ね、同事件・最判18年1月24日民集60巻1項252頁以降示してきた慎重ないし否定的な態度(前掲拙著『租税回避論』210頁以下[初出・2011年]参照)の先駆けとなったものとみてもよさそうである。 いずれにせよ、平成13年最判の意義(の少なくとも1つ)は、「組合課税構造の特殊性」を無視することによって、事業所得から給与所得への所得種類の転換による租税回避の試みに対する契約「解釈(創造)」による否認を阻止したことにあると考えるところである。 最後に、その阻止の結果について若干付言しておくと、組合と組合員との間に、組合契約とは別の「法律関係」が成立することが課税上認められ、組合に一定の「主体性」が課税上認められることになったといってよかろう(前掲拙著『税法基本講義』【225】参照)。そうすると、平成13年最判による「組合課税構造の特殊性」の無視は、皮肉なことに、むしろ「組合課税構造の特殊性」を明らかにし、もって組合課税の構築に寄与することになったともいえよう。 Ⅳ おわりに 平成13年最判は、昭和56年最判基準の適用の可否の側面から検討すべき税法基本判例でもあるが(前掲拙著『税法基本講義』【263】参照)、今回は、組合課税の側面から特に「組合課税構造の特殊性」の捉え方に着目して、主として平成11年仙台高判と平成13年最判との関係ないし両者の考え方の違いを検討してきた。 その検討を通じて、平成11年仙台高判は、「組合課税構造の特殊性」を重視し、事業所得から給与所得への所得種類の転換による租税回避の試みを、契約「解釈(創造)」による否認論ともいうべき考え方に依拠して否認しようとしたのに対して、平成13年最判は、「組合課税構造の特殊性」を無視することによって、そのような考え方に対して否定的な態度を示したと解することができることを明らかにした。 このような考え方の違いないし対立は、「組合課税構造の特殊性」を考慮した法整備がされていないという現行税法の問題に基因すると考えられるが、そうであるからといって、その問題は主として立法によって解決すべき問題であって、契約解釈という(税法の観点からみると)事実認定によって解決すべき問題ではないと考えられる(前掲拙著『租税回避論』40-41頁[初出・2004年]参照)。その意味でも、平成11年仙台高判が契約「解釈(創造)」による否認論に依拠して示した判断は許容されず、これを阻止したものと解される平成13年最判の判断は正当であると考えるところである。 (了)
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〈令和7年度税制改正〉新リース会計基準に伴うリース取引に係る所要の措置 【後編】
〈令和7年度税制改正〉 新リース会計基準に伴う リース取引に係る所要の措置 【後編】 公認会計士・税理士 森 智幸 1 はじめに 本稿の【前編】では、新リース会計基準の概要と、法人税・地方税・消費税に係る改正の概要について確認した。 今回の【後編】では、実務上の影響として、短期リースや少額リースの取扱い、オペレーティング・リース取引にかかる経過措置、外形標準課税の計算における注意点などを解説する。 なお、本稿は私見であることをお断りしておく。 2 実務への影響 (1) 短期リース及び少額リース 新リース会計基準では、原則として、全てのリース資産について使用権資産及びリース負債を計上するとされたが、短期リース及び少額リースについては、使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって原則として定額法により費用として計上することができる(適用指針20、22)。 ① 短期リース 短期リースとは、リース開始日において、借手のリース期間が12ヶ月以内であり、購入オプションを含まないリースをいう(適用指針4(2))。 なお、再リース期間を借手のリース期間に含めていない場合、基準41項及び42項にかかわらず、再リースを当初のリースとは独立したリースとして会計処理を行うことができるとされている(適用指針52)。再リース期間は1年以内が通常であるため、再リースは短期リースとして取り扱うことになる。 ② 少額リース 少額リースは、次の(イ)と(ロ)のいずれかを満たす場合、借手は、基準33項の定めにかかわらず、リース開始日に使用権資産及びリース負債を計上せず、借手のリース料を借手のリース期間にわたって。原則として定額法により費用として計上することができるとするものである(適用指針22)。 《図表1》 なお、前述の通り、短期リース及び少額リースに係る借手のリース料は定額法により費用計上できるが、法人税法上も、賃借人が賃借料その他当該リース資産を賃借するために支出した費用として損金経理をした金額は、償却費として損金経理をした金額に含まれるとされるため、当該費用は、各事業年度の所得の計算上、損金の額に算入することができる(法令131の2③)。 (2) 新リース会計基準適用初年度の経過措置~オペレーティング・リース 【前編】で解説したように、新リース会計基準適用後は、オペレーティング・リース取引についても、借手は使用権資産とリース負債を計上しなければならない(基準33)。 この場合、新リース会計基準適用前に契約したオペレーティング・リース取引の反映方法が問題となる。これは、旧リース会計基準では、オペレーティング・リース取引は賃貸借取引による会計処理を行ってきたので、貸借対照表にはその経済的実態が反映されていないためである。 この点については、まず、適用指針118項においてリース取引全般の経過措置として、《図表2》のように規定されている。 《図表2》 さらに、オペレーティング・リース取引については、適用指針123項から125項において、適用指針118項ただし書きの方法を選択する場合の会計処理について規定されている。 このうち、適用指針123項(2)①②に示された使用権資産の計上方法は《図表3》の通りである(具体的な計算例は、「「リースに関する会計基準の適用指針」(設例)」 の[設例20]に掲載されているので参照されたい)。 《図表3》使用権資産の計上方法 なお、上記2(1)で説明した短期リース資産と少額リース資産については、この経過措置によるリース負債の計上は不要である。 (3) 法人税法 【前編】の3(1)で述べたように、オペレーティング・リース取引については、新リース会計基準では、原則として使用権資産とリース負債を計上することとなった。一方、法人税法上は、債務が確定したリース料は、損金の額に算入するということになった(法法53)。 そのため、会計上の費用と法人税法上の損金の額には次の相違が生じる(《図表4》参照)。 《図表4》 したがって、各事業年度の所得の計算上、①の金額が②の金額を上回る場合は差額を加算することになる。 (4) 地方税 【前編】の3(2)で述べたように、借手にかかる事業税の付加価値割の課税標準の算定において、純支払賃借料を算定する際、支払賃借料のうちオペレーティング・リース取引にかかる賃借料は、法人税法上、所得の計算において損金の額に算入される部分の金額について、その損金の額に算入される事業年度の支払賃借料とするとされた(法法53)。 借手におけるオペレーティング・リース取引においては、《図表4》のとおり、原則として、会計上で計上される費用は、減価償却費と支払利息となるため、法人税法において損金の額に算入される賃借料の額とは乖離が生じる。 したがって、事業税の付加価値割の計算において、支払賃借料を算定するとき、会計上の支払賃借料を集計すると計上漏れが生じることになるため、支払賃借料の集計においては、法人税法における損金の額をベースとして集計する経理体制を整備しておく必要がある。 (5) 消費税 オペレーティング・リース取引に係る消費税の課税関係については、本稿執筆時点では国税庁から見解は出されていない。 「課税仕入の日」の考え方がポイントであり、従来の処理が継続される可能性があるが、今後、国税庁から公式見解が出る可能性もあるので、国税庁のアナウンスに注意されたい。 3 非上場の中小企業への影響 「中小企業の会計に関する指針」及び「中小企業の会計に関する基本要領」については、現時点では、新リース会計基準に伴う改訂は行われていない。そのため、これらを適用する非上場の中小企業においては、新リース会計基準の影響を受けず、従来の会計処理及び税務処理を行うことになる。 4 おわりに 新リース会計基準は、会計や税務の実務にいろいろな影響を及ぼす。特に、適用初年度は現場の実務に負担がかかると予想される。一方、短期リースや少額リースは使用権資産とリース負債を計上することはないので、このようなリース取引を明確に区分管理することは重要である。 本稿が、リース会計に携わる方々の実務の参考になれば幸いである。 (連載了)
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仕入税額控除制度における用途区分の再検討-ADW事件最高裁判決から考える- 【第4回】
仕入税額控除制度における用途区分の再検討 -ADW事件最高裁判決から考える- 【第4回】 森・濱田松本法律事務所 外国法共同事業 パートナー 弁護士・税理士 栗原 宏幸 6 ADW事件最高裁判決を踏まえた納税者の対応 前回の5で述べた所見によれば、ADW事件最高裁判決を機に、課税庁が課税対応課税仕入れの否認を積極的に行うようになる可能性がある。 そこで、事業者としては、同判決や判例解説の内容を踏まえて、これまでの課税対応の区分が適正であったかを改めて検証することが望ましいと考えられる。 検証の結果、なお課税対応を維持できると判断した課税仕入れについては、必要に応じ、納税者としてのポジションを書面で整理し、来たるべき税務調査に備えることが考えられる。 他方、検証の結果、課税対応を維持することが難しい(共通対応と判断される可能性が相応にある)と判断した課税仕入れについては、共通対応に区分を見直すとともに、必要に応じ、次の①又は②の対応について検討することが考えられる。 7 ADW事件最高裁判決の想定外の(?)副産物 上記6では、課税対応課税仕入れの否認リスクという観点から納税者の対応を検討したが、他方で、既に有識者から指摘されているように、用途区分の判定に用いる対応関係を広く捉えるとすれば、これまで非課税対応に区分してきた課税仕入れの区分を見直し、共通対応に区分すること(つまり、これまで控除を諦めていた当該課税仕入れに係る消費税額の一部を仕入税額控除の対象とすること)も可能なのではないかと考えられる(この点について詳細を検討したものとして、藤谷武史「課税仕入れの用途区分の判定の方法」税研235号68頁がある。)。 「税負担の累積排除」という消費税の理念による用途区分の規範的統制を放棄する以上は、実質的に見て税負担の累積が生じているとはいえない課税仕入れであっても、少しでも課税取引との対応関係が認められるもの(純度100%で非課税取引に対応しているとはいえないもの)については、共通対応への区分を認めざるを得ないというのが、ADW事件最高裁判決から導かれる帰結であろう。 なお、この議論を更に進めると、事実上の対応関係の解釈適用次第では、非課税売上げに対応する課税仕入れに関し、意図的に課税売上げを生じさせ、当該課税仕入れを共通対応に区分する租税回避的な行為も適法とされる可能性がある。かつての自動販売機スキームほどではないものの、今回の最高裁判決は、それに似た納税者と課税庁のイタチごっこを誘発する可能性を内包しているように思われる。 (続く)