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《速報解説》 国税庁が「源泉徴収票のみなし提出の特例」に係る特設ページとQ&Aを公表~令和9年1月から給与所得の源泉徴収票は税務署への提出不要に~

《速報解説》 国税庁が「源泉徴収票のみなし提出の特例」に係る特設ページとQ&Aを公表 ~令和9年1月から給与所得の源泉徴収票は税務署への提出不要に~   Profession Journal編集部   このほど国税庁HPにおいて「源泉徴収票のみなし提出の特例 特設ページ」が設置され、あわせて「源泉徴収票(給与所得・公的年金等)のみなし提出の特例に関するQ&A」(以下、単に「Q&A」という)が公表された。 特設ページでは、「源泉徴収票のみなし提出の特例」に係る情報が集約されており、その中のQ&Aにおいては、制度概要等に係る16の問いが設けられている。   1 現行実務と「源泉徴収票のみなし提出の特例」 これまで、給与支払者又は公的年金等の支払者は、受給者の市区町村に給与支払報告書又は公的年金等支払報告書(以下、併せて「支払報告書」という)を提出するほか、給与所得の源泉徴収票又は公的年金等の源泉徴収票(以下、併せて「源泉徴収票」という)を所轄税務署にも提出する必要があった。 この支払者の事務負担軽減のため、令和5年度税制改正において、「源泉徴収票のみなし提出の特例」が創設された。 この特例により令和9年1月1日以後、給与支払者又は公的年金等の支払者は、源泉徴収票に記載すべき一定の事項が記載された支払報告書を市区町村に提出した場合、税務署に源泉徴収票を提出したものとみなされる。つまり、税務署提出用の源泉徴収票の作成と提出が必要なくなる。   2 Q&Aの主な内容 今回のQ&Aにおいて公表された16の設問のうち、実務的に留意したい点を以下いくつか紹介する。 (1) 中途退職者に係る給与所得の源泉徴収票の取扱い(問2) 令和8年の途中で退職した従業員に係る給与所得の源泉徴収票が、源泉徴収票のみなし提出の特例の対象となる「令和9年1月1日以後に提出すべきもの」に含まれるか否かについては、「含まれる」としている。 法令上、年の途中で退職した従業員に係る給与所得の源泉徴収票は退職の日以後1月以内に税務署に提出することが義務付けられている。ただし、運用上の取扱いにより、翌年1月末までにそのほかの給与所得の源泉徴収票とまとめて提出してもよいとされている。 このことより、令和8年の途中で退職した従業員に係る給与所得の源泉徴収票についても令和9年1月1日以後に提出する場合には、「令和9年1月1日以後に提出すべき」ものとして取り扱って問題ない。 (2) 受給者への源泉徴収票交付の必要性(問3) 今回の特例制度に伴い、税務署への源泉徴収票の提出は不要となるが、改正前と同様に受給者本人への源泉徴収票の交付は必要であるため、留意したい。 (3) 源泉徴収票を税務署に提出した場合の市区町村への支払報告書の提出(問6) 今回の特例制度は、市区町村へ源泉徴収票に記載すべき一定の事項が記載された支払報告書を提出することで、源泉徴収票を税務署へ提出することが不要となる制度であり、源泉徴収票を税務署に提出した場合、市区町村へ支払報告書を提出したとみなす制度ではないため、支払報告書については別途市区町村へ提出する必要がある。 (4) 源泉徴収票の提出範囲の変更(問7) 今回の特例制度の創設に伴い、源泉徴収票と支払報告書の提出範囲を揃える(年の途中で死亡した者の公的年金等の源泉徴収票を除く。)改正も行われたため、具体的な提出範囲は以下のとおりとなっている(下表についてはQ&Aより抜粋)。 〈給与所得の源泉徴収票〉 〈給与支払報告書〉 〈公的年金等の源泉徴収票〉 〈公的年金等の支払報告書の提出範囲〉 *  *  * なお、上記以外にも令和7年分の源泉徴収票の提出を失念していた場合の取扱い(問10)や、すでに提出済みの令和7年分の源泉徴収票に誤りがあった場合の訂正方法(問11)、令和8年分の支払報告書を提出したが、その支払報告書に誤りがあった場合の訂正方法(問12)などについても言及されている。 特例制度の開始に伴い、前述したとおり、中途退職者に係る給与所得の源泉徴収票の取扱いや受給者への源泉徴収票交付は変わらずに必要になるなど細かな注意点もある。 また、令和8年分の年末調整後に令和9年1月に提出する書類に影響があり、企業によっては業務フローに変更があることも想定されるため、税理士としてはクライアント先に早めの周知を行うとともに、今後の特設ページの情報の更新についても留意したい。 (了)
#Profession Journal 編集部
2026/04/30
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《速報解説》 金融庁、「有価証券報告書レビュー及び大量保有報告書等のレビューについて(令和8年度)」を公表~重点テーマ審査は人的資本開示~

《速報解説》 金融庁、「有価証券報告書レビュー及び大量保有報告書等のレビューについて(令和8年度)」を公表 ~重点テーマ審査は人的資本開示~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026(令和8)年4月28日、金融庁は、ホームページを更新し、「有価証券報告書レビュー及び大量保有報告書等のレビューについて(令和8年度)」を公表した。 これは、2026年3月27日に公表した「有価証券報告書の作成・提出に際しての留意すべき事項等(識別された課題への対応にあたって参考となる開示例集を含む)について」を更新するものである。 2026年3月期以降の有価証券報告書の作成に当たっては、これらに記載されている事項に特に注意し、適切に作成する必要があると考えられる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 有価証券報告書レビューの実施について 2026年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書のレビューについて、以下の内容で実施する。 1 法令改正等関係審査 次の法令改正事項等について、有価証券報告書の記載項目を対象に審査を実施する。 有価証券報告書提出会社は、別添の「調査票」に回答することが求められているので、有価証券報告書の作成に際して注意が必要である。 2 重点テーマ審査 次のテーマに着目し、2026年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書の提出会社の中から審査対象会社を選定し、法令及び一般に公正妥当と認められる企業会計の基準等に照らして、有価証券報告書の記載内容(会計処理を含む)を審査する。 審査の結果、有価証券報告書に適切ではないと考えられる記載内容等が見つかった場合には訂正又は次年度の有価証券報告書での改善を求める通知等を行う。 ◎ 人的資本に関する開示 令和8年2月に施行された人的資本開示に関する「企業内容等の開示に関する内閣府令及び特定有価証券の内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」の適用に伴い、有価証券報告書において開示される「従業員の状況等」に関する記載内容について提出会社による自主的な改善に資するよう審査する。 有価証券報告書において開示される「サステナビリティに関する考え方及び取組」における人的資本に関する記載内容についても、同様に審査する。 財務局等からの質問票には、次の観点も反映していると述べられており、本3月期の有価証券報告書の作成に際しても、下記の観点を十分に考慮し、開示の要否を判断すべきものと解される。   Ⅲ 大量保有報告書等のレビューについて 令和6年金融商品取引法等改正における大量保有報告制度の改正が令和8年5月1日から施行されることを踏まえ、令和8年度においては、大量保有報告書及び変更報告書を対象に、当該改正に係る記載を重点的に審査する。 2026年4月24日に「大量保有報告書等の提出について」が公表されており、参考になる。 (了)
#阿部 光成
2026/04/30
お知らせ その他お知らせ

プロフェッションジャーナル No.667が公開されました!~今週のお薦め記事~

2026年4月30日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.667を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
#Profession Journal 編集部
2026/04/30
税務 税務・会計 解説 解説一覧

谷口教授と学ぶ「税法基本判例」 【第57回】「「譲渡所得課税の趣旨」法理の「牽引力」の減退と復活・遮断(「どんでん返し」)」-借入金利子取得費控除[三輪田]事件・最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁への「遠い道程」-

谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第57回】 「「譲渡所得課税の趣旨」法理の「牽引力」の減退と復活・遮断(「どんでん返し」)」 -借入金利子取得費控除[三輪田]事件・最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁への「遠い道程」-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   Ⅰ はじめに 1 借入金利子の取得費算入の可否問題 前々回、前回と2回にわたって「譲渡所得課税の趣旨」法理(最判昭和43年10月31日訟月14巻12号1442頁、最判昭和47年12月26日民集26巻10号2083頁、最判昭和50年5月27日民集29巻5号641頁等。学説では増加益清算課税説)を取り上げ、同法理の枠内における(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶と(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷との「競い合い」(「趣旨内競い合い」)の観点から、譲渡所得課税に関する判例を検討してきたが、その際には、譲渡所得の本質ないし譲渡所得課税の本質に着目して、譲渡所得課税❶の「先行」あるいは場合によっては「独走」を問題にしてきた。 これに対して、今回は、譲渡所得課税❷の側から、そのために行われる譲渡所得の金額の計算において総収入金額から控除される取得費(所税33条3項・38条)の概念に着目して、その意義をめぐる判例として借入金利子取得費控除[三輪田]事件・最判平成4年7月14日民集46巻5号492頁(以下「平成4年7月最判」という)を取り上げ、譲渡所得の基因となる資産の取得のための借入金に係る利子を取得費に算入し譲渡所得の金額の計算上総収入金額から控除することを認めるか否かの問題(以下「借入金利子の取得費算入の可否問題」という)を検討する。 借入金利子の取得費算入の可否が問題とされるようになった社会経済的背景については次のように述べられている(岩﨑政明「判批」月刊税務事例19巻12号(1987年)4頁、5-6頁)。 借入金利子の取得費算入の可否問題については、旧所得税法(昭和22年法律第27号)の時代から税務行政における考え方・取扱いに変遷があり、学説においても考え方の対立が顕著であり、下級審の裁判例にも対立がみられたところであるが、それらの状況・動向は平成4年7月最判に関する調査官解説(福岡右武「判解」最判解民事篇(平成4年度)266頁、274-296頁)で詳細かつ的確に整理・分析されているので、以下では、その整理・分析において用いられている見解の分類(消極説、積極説、中間説)も含めその調査官解説を踏まえて、同問題を主として「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)に基づく「趣旨内競い合い」の観点から裁判例に即して検討することにする。 2 使用後譲渡型の事案と未使用譲渡型の事案 その検討に入る前に注意しておくべきことは、平成4年7月最判に関する調査官解説における「消極説、積極説、中間説」という分類は、非業務用資産に関する「使用後譲渡型の事案」(増井良啓「判批」法学協会雑誌111巻7号(1994年)1094頁、1103頁。太字筆者)、すなわち、当該資産を取得しその本来の用法に従い使用した後譲渡する場合を想定したものと解されるが、借入金利子の取得費算入の可否問題はかつては「未使用譲渡型の事案」(同1104頁。太字筆者)、すなわち、当該資産を取得後その本来の用法に従い使用することなく譲渡した場合について議論されていた、ということである。 すなわち、課税実務は、旧所得税法の下で昭和26年以後は、固定資産の取得に係る借入金利子の取得価額算入を一律に否定していたのに対して、昭和35年以後は、固定資産の使用開始前の期間に対応する借入金利子の取得価額算入を認めるようになり、昭和40年全文改正後の所得税法(昭和40年法律第33号)の下でも当初はその取扱いを継続していた(以上の経緯について福岡・前掲「判解」274-276頁参照)ところ、この取扱いの意味やこれをめぐる議論については次の解説がされていた(白崎浅吉「資産を購入するために借入れた資金の利子の性格について―譲渡所得課税との関連において―」税務大学校論叢5号(1972年)151頁、154-155頁)。 ここで注意すべきは、未使用譲渡型の事案における借入金利子の取得費算入の可否問題に関する「積極説」(白崎・前掲論文155頁)は、前記の調査官解説における分類によれば中間説に属する見解とみるべきものであった、ということである。この「積極説」は、「所得税はネット・インカム(net income)に課税すべきものであり」(白崎・前掲論文155頁)「所得は費用収益対応の考え方により計算すべきものである」(同156頁)という「ネット・インカム課税説」(同157頁)に基づき、「取得した資産が業務用であれば、その取得のために要した借入金利子は業務上の収益に、非業務用であれば、いわゆるインピューテッド・インカム(imputed income)に対応することが考えられる」(同上)と説く見解であり(これに対して同158-159頁は「インピューテッド・インカムとの関連」を否定し消極説を説いている。ほかに荻野豊「判批」月刊税務事例4巻12号(1972年)14頁、17頁も同旨)、非業務用資産について敷衍すると、次のような見解(白崎・前掲論文158頁)をいうものとされていた。 要するに、上記の「積極説」は、業務用資産であれ非業務用資産であれ、使用後譲渡型の事案における、使用開始の前後で借入金利子の取得費算入の可否を異にする昭和35年以後の課税実務の取扱いを、未使用譲渡型の事案についても貫徹する見解であり、前記の調査官解説における分類によれば中間説に属する見解とみるべきものであったのである。 ところが、その後、東京高判昭和54年6月26日訟月25巻11号2873頁(以下「昭和54年東京高判」という)が未使用譲渡型の事案において、固定資産の使用開始の前後を問わず、一定の基準(相当因果関係基準)により借入金利子の取得費算入を認める判断を示したことから、借入金利子の取得費算入の可否問題をめぐる議論は、固定資産の使用開始の前後で借入金利子の取扱いを異にするかどうかをめぐって、展開されることになった。前記の調査官解説が「積極説」というのは、固定資産の使用開始の前後を問わず借入金利子の取得費算入を認める見解である(福岡・前掲「判解」279-281頁参照)。昭和54年東京高判及びその後の議論については後記Ⅲ・Ⅳで検討することにする。 なお、所得税法33条3項は、譲渡所得の金額の計算上、譲渡所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及び譲渡費用の合計額を控除する旨を規定しているが、そこで規定されている取得費は、昭和40年全文改正前の旧所得税法では既に述べたように「取得価額」という文言で規定されていた。その文言の変更理由については下記のとおり解説されていた(橋本守次「所得計算関係の改正」税務弘報13巻6号(1965年)15頁、27-28頁)ので、この解説に従い、改正の前後でその意味内容に実質的変更はないと理解した上で、以下では「取得費」及び「取得価額」の用語法については特に問題にしないことにする(なお、「取得費の取得価額化」については拙著『税法基本講義〔第8版〕』(弘文堂・2025年)【290】参照)。   Ⅱ 「譲渡所得課税の趣旨」法理の「牽引力」と消極説 借入金利子の取得費算入の可否問題に関する消極説は、「借入金利子は取得費に含まれないとする見解」(福岡・前掲「判解」277頁)であり「歴史的に最も古くから存在する見解」(同278頁)である(白崎・前掲論文が消極説の立場に立つことについては同158頁以下参照)。その論拠には様々なものがあるが(福岡・前掲「判解」278-279頁参照)、そのうち「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)から導出されたものと解される論拠として、次のような論拠(同278-279頁。下線筆者。白崎・前掲論文160-161頁も参照)が説かれてきた。 この論拠は、「資産の取得時における価値と譲渡時における価値の開差額」を「所得」として把握し課税するという考え方を意味するものであるが、この考え方は、「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)から導出されたものであり、「客観的価額説」(岡村忠生「譲渡所得課税における取得費について(二)」法学論叢135巻3号(1994年)1頁。太字筆者。同7頁・9頁等では「客観的価値説」(太字筆者)とも呼ばれている)ないし「客観的価格差課税説」と呼ぶことができよう。後者の名称は、平成4年7月最判を参照しこれと同旨の判断を示した借入金利子取得費控除[増淵]事件・最判平成4年9月10日訟月39巻5号957頁(以下「平成4年9月最判」という)の原審・東京高判昭和61年2月26日訟月32巻10号2415頁(以下「昭和61年2月東京高判」という)における「譲渡所得課税の本来の趣旨からすれば、取得時と譲渡時における資産の客観的な価格差に対して課税することが要請されるはずである」との判示(下線筆者)から着想を得て、付けたものである。また、取得費の意義に関するこの考え方(客観的価格差課税説)に基づく譲渡所得課税は、譲渡所得の意義に関しては(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶に対応するものであり、これと相俟って譲渡所得課税に関する理論モデルを構成するものである(前掲拙著【289】参照)。 ここで、消極説の立場に立つ裁判例として東京地判昭和46年9月30日訟月18巻2号343頁(下記㋐)及び昭和54年東京高判の原審・東京地判昭和52年8月10日訟月23巻11号1961頁(下記㋑。以下「昭和52年東京地判」という)の判示(下線筆者)をみておくと、それらが、「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)ないし客観的価格差課税説に基づき、取得費(「資産の取得に要した金額」)の意義を「資産取得のために直接必要とした費用」ないし「当該資産の客観的価額の一部を構成する支出」として狭く解釈し(このような解釈論を以下では「直接的付随費用と間接的付随費用の二分論」ないし単に「付随費用二分論」という)、もって「資産取得のための間接的な支出」としての借入金利子の取得費算入を否定したことは明らかである。 以上で述べたところを「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)に基づく「趣旨内競い合い」の観点から換言すると、消極説は、「譲渡所得課税の趣旨」法理(増加益清算課税説)のいわば「牽引力」によって(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷を(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶の方に引き寄せ、譲渡所得課税❷において譲渡所得に係る総収入金額から控除される取得費の意義・範囲を、譲渡所得課税❶に関する客観的価格差課税説及び付随費用二分論によって狭く規定・確定し、もって借入金利子の取得費算入を否定する見解といってよかろう。 このように消極説を理解すると、同説において取得費は資産の取得時の価値ないし価格として性格づけられることになろう。   Ⅲ 「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づく「趣旨内競い合い」の状況変化 1 譲渡益課税説の台頭と積極説 ところで、資産の取得時の価値ないし価格は、企業会計においては、資産の取得原価を意味するが、このことは、譲渡所得課税❷における譲渡所得の金額の計算構造と結びついて、借入金利子の取得費算入を肯定する論拠を構成するようになったと考えられる(白崎・前掲論文157-158頁参照。なお、「支払利息・原価説」については染谷恭次郎『現代財務会計〔改訂増補3版〕』(中央経済社・1991年)137頁以下参照)。その論拠は、昭和54年東京高判において課税庁(被控訴人)の主張を正面から鋭く批判し同判決の立場(積極説)に影響を与えたと思われる次の見解(北野弘久『税法解釈の個別的研究Ⅰ』(学陽書房・1979年)60頁。傍点原文・下線筆者)によって、明確に述べられている。 上記の引用文にいう「現代税法における所得計算制度の基底的思考」は、「いわゆる損益計算的思考(成果計算的思考)」としてのいわゆる純所得課税の考え方を意味するものと解される。ここで注目されるのが、純所得課税の考え方に基づき借入金利子の取得費算入の可否問題を解釈論的に検討する「視座の設定」を行う下記の見解(金子宏『課税単位及び譲渡所得の研究 所得課税の基礎理論 中巻』(有斐閣・1996年)250-251頁[初出・1981年]。下線筆者)である。この見解は、後記2でみるように、上記の見解とは逆に、昭和54年東京高判に対する批判を展開するものである。 以上のような純所得課税の考え方に照らして譲渡所得課税❷における譲渡所得の金額の計算構造をみると、それは、純所得の一種(いわば「限定された純所得」)である譲渡益(所税33条3項括弧書)を所得として把握し課税するものと考えることができよう(このような考え方を以下では「譲渡益課税説」という。これについては前回Ⅰ、前掲拙著【289】参照)。 昭和54年東京高判は、借入金利子の取得費算入の可否問題について譲渡益課税説に基づく判断を示したものと解される。というのも、この判決は、「譲渡所得課税の趣旨」法理を示した判例を明示的に参照し(この点で原審・昭和52年東京地判とは異なる)、その上で「この趣旨を基礎として考察を進めるに」と判示しながらも(下記㋐。下線筆者)、その考察は原審・昭和52年東京地判とは異なり客観的価格差課税説による消極説の方向には進まず、むしろ逆に、借入金利子の取得費算入を肯定する積極説の方向に進み、その考察に基づき昭和54年東京高判は、借入金利子の取得費算入の範囲を借入金利子と資産の取得との間における「相当因果関係」の有無によって画する旨を判示した(下記㋑。下線筆者)からである。 ただ、昭和54年東京高判は、非業務用資産の取得のための借入金利子のうち当該資産の使用開始までの分に限って取得費算入を肯定していた本件当時の所得税基本通達38-7に対して、下記のとおり判示して(下線・傍点筆者)、使用開始の前後を問わず積極説を貫徹するための論拠(の1つ)として「譲渡所得課税の趣旨」法理(に基づく譲渡所得の本質的意義)を援用するという独特の、、、論理構成を採用した(ここでその論理構成を「独特の論理構成」と表現したのは、本来ならば消極説と結びつくはずの同法理を積極説貫徹の論拠として援用したことを考えてのことである)。 この判示は、純所得課税の考え方を所得計算上具体化する費用収益対応の原則を借入金利子の取得費算入の可否判断において援用すること(上記引用判示中の1つ目の下線部参照)を「筋ちがいのこと」として阻止するために、「譲渡所得課税の趣旨」法理を援用している点で、独特の、、、論理構成を採用したものと考えられるのである(金子・前掲書266-267頁[初出・1981年]も参照)。 いずれにせよ、昭和54年東京高判は、「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づく「趣旨内競い合い」において譲渡所得課税❷を前面に押し立て譲渡益課税説に依拠して積極説を採用したが、それでも譲渡所得課税❶の考え方を完全には排除しなかったといえよう。その意味で、昭和54年東京高判においても、「譲渡所得課税の趣旨」法理の「牽引力」は、減退、、したとはいえ、しかも独特の、、、論理構成においてではあれ、維持されていたといってよかろう。この点については、見方によっては、「ここ[=前記の『筋ちがいのこと』判示]から、資産の取得費とは、外的条件による価格変動の対象となるものであるという客観的価額説にたどり着くのに、あとわずか半歩もなかったのである。」(岡村・前掲論文12-13頁)」という見方も成り立つかもしれない。 2 譲渡益課税説制限論としての中間説(積極説的中間説) 昭和54年東京高判の事案は、前記Ⅰ2で述べたように、平成4年7月最判の事案と異なり使用後譲渡型の事案ではなく未使用譲渡型の事案であったが、同東京高判を受けて、「昭54・10・26付で所得税基本通達38-8が改められ、固定資産を使用しないで譲渡した場合、譲渡の日までの期間に対応する借入金の利子を取得費に算入することとされた。」(増井・前掲「判批」1099-1100頁)ところである。 ただ、昭和54年東京高判やこれを受けた通達改正については、「この改正は本判決の本件事案に対する結論に従うものであるが、使用開始の前後により借入金利子の取扱いを異にするのは合理的でないとする本判決の考え方については、これに従うものではない。」とか、「本件においては使用することなく譲渡された資産が問題となったこともあって、本判決の考え方が具体的にどのような場合にどのように適用されるのか必ずしも明らかではないように思われる。」といった指摘がされている(清永敬次ほか『税務署の判断と裁判所の判断―逆転判決の研究―』(六法出版社・1986年)449頁[清永敬次執筆])。 このような指摘は正鵠を射たものであるように思われる。昭和54年東京高判については、以下で述べるように、その後、実際に、この判決の考え方が、未使用譲渡型の事案にとどまらず使用後譲渡型の事案についても、資産の使用開始の前後を問わず妥当するか否かをめぐって、議論がされることになったのである。 まず、昭和54年東京高判が資産の使用開始の前後を問わず当該資産の取得との相当因果関係の有無によって借入金利子の取得費算入の可否を判断したこと(相当因果関係基準による積極説)に対して、課税実務の立場から次のような批判(以下「批判ⓐ」という)がなされた(品川芳宣「資産の取得に要した借入金利子は当該資産の取得費に当たるか」税務弘報28巻2号(1980年)143頁、150-151頁。下線筆者)。 昭和54年東京高判に対する批判ⓐは、「法人税の所得計算とのバランス」の観点(これは純所得課税の考え方ないしその具体化としての費用収益対応の原則の観点を意味すると考えられる)から、非業務用資産の使用開始前の借入金利子を当該資産の取得原価として取得費に算入することを認める積極説の立場に立ちつつも、「事業主体と生活主体の両面を有する個人の所得税の特殊性」の観点から、当該資産の使用開始後の期間に対応する借入金利子については、取得費算入を否定するものと解される。 後者の観点は、非業務用資産についても当該資産の使用開始前は前者の観点(「法人税の所得計算とのバランス」)から当該資産の所有者を「事業主体」と同等に取り扱い借入金利子の取得費算入を認める一方で、当該資産の使用開始後は当該資産の所有者を「生活主体」とみて借入金利子を生活費ないし家事費として取得費に算入しない、という考え方を支持するものと解される。 次に、昭和54年東京高判に対しては、「所得概念論の観点からの検討」(金子・前掲書267頁[初出・1981年])により、次のような批判(以下「批判ⓑ」という)がなされた(同267-268頁。下線筆者)。 批判ⓑも、批判ⓐと同じく、非業務用資産の借入金利子のうち使用開始後の期間に対応するものについて取得費算入を否認しようとするものである。この点に関して注意すべきは、批判ⓑも、前記1で述べたように、借入金利子の取得費算入を「純所得(ネットインカム)課税の考え方の実定法的表現」とみているということである。つまり、批判ⓑも批判ⓐも、さらには昭和54年東京高判(相当因果関係基準による積極説)も、純所得課税の考え方(譲渡所得課税に関しては譲渡益課税説)を借入金利子の取得費算入の可否判断の「出発点」とする点では、共通していると考えられるのである。このことは、批判ⓑが下記のとおり説く限りにおいては(金子・前掲書264-265頁[初出・1981年])、昭和54年東京高判と基本的には(「相当因果関係」と「実質的関連性」及び「合理的に必要」との違いを別にすれば)同じ論理を展開していることからして、明らかであろう。 このように、批判ⓐだけでなく批判ⓑも、取得費算入の可否判断の「出発点」(純所得課税の考え方ないし譲渡所得課税に関しては譲渡益課税説)の点では、昭和54年東京高判と共通すると考えられる。ただし、積極説の下でこれを支持する考え方として台頭してきた譲渡益課税説は、批判ⓐ及び批判ⓑが問題にする非業務用資産の使用開始後の借入金利子の取扱いに関しては、いわば「頭打ち」になったのである。 勿論、批判ⓐと批判ⓑとは、積極説が援用する費用収益対応の原則において、「費用」の側に着目し控除可能な費用の不存在(生活費・家事費の存在)を論拠とするか(批判ⓐ)、又は「収益」の側に着目し課税の対象となる所得の不存在(帰属所得の存在)を論拠とするか(批判ⓑ)の点で、異なることはいうまでもないが、いずれの批判に従うにしても、譲渡益課税説が、非業務用資産の使用開始後の借入金利子の取扱いに関して、「頭打ち」になることは確かである。その意味で、批判ⓐ及び批判ⓑは「譲渡益課税説制限論」として中間説を説くものとみることができよう。このような中間説は、積極説の立場を基本にしているという意味で「積極説的中間説」ということができよう。 3 譲渡益課税説制限論の論拠 もっとも、批判ⓐと批判ⓑの論拠の違いは排他的な意味をもつものではなく、むしろ、それらは並存し得るものであると考えられる。実際、平成4年9月最判の原審・昭和61年2月東京高判には、両批判の論拠を(下記の引用文の2段落目の冒頭の「そして」という接続詞が示すように)順接的に並存させる判示(下線筆者)が、下記のとおりみられるところである(批判ⓐの論拠は1段落目で、批判ⓑの論拠は2段落目でそれぞれ説示されている)。 これに対して、この判決の翌月に示された、平成4年7月最判の原審・東京高判昭和61年3月31日行集37巻3号557頁(以下「昭和61年3月東京高判」という)は、批判ⓐの前提となる、固定資産の使用開始前後における費用目的変更論(福岡・前掲「判解」293頁では「性質変更論」(太字筆者))ともいうべき上記の1段落目の論拠には言及せず、批判ⓑにおける「所得概念論の観点」から示された上記の2段落目の論拠に基づき、下記のとおり判示して(下線筆者)、固定資産の使用開始可能日、、、、、、、以後の借入金利子の取得費算入を否定した(実際の使用開始日、、、、、、、、を基準とする昭和61年2月東京高判の方が批判ⓑにより親和的であるが)。 このように、昭和の時代の終盤においては、借入金利子の取得費算入の可否問題に関する裁判例の趨勢は、批判ⓑの論拠を基軸として、中間説(積極説的中間説)の方向に帰するかのように思われた。もっとも、批判ⓑの論拠に対しても、当時から、慎重な見解ないし疑問が存在したことには注意しておくべきである。例えば、「帰属収益を所得税法がどのように考えているのか、換言すれば、所得税法の解釈論の上でどこまで帰属収益のことを考慮に入れて議論をすることができるのかという点について、もう少しつめておくことが必要であるように考えられる。」(清永ほか・前掲書447頁[清永執筆])、「たしかに、逆に、帰属所得に課税する場合には、それに対応する費用をその所得に係る収入金額から控除しなければならないであろう。しかし、この議論を、帰属所得を得ていない未使用の場合に取得費に含めるという結論に直結させることには、飛躍があるように思えてならない。帰属所得の課税をしていない現行法下においては、帰属所得とは無関係であるとみた方がよいと思われる。このような場合の借入金利子を取得費とするには、明示的な立法措置が必要と思われる。」(碓井光明「判批」判例評論329号(1986年)22頁、24-25頁)と指摘されていたのである。 4 平成4年7月最判における「譲渡所得課税の趣旨」法理の「牽引力」の復活・遮断 ところが、平成4年7月最判は、昭和54年東京高判に対する批判ⓐ及び批判ⓑ並びに後者と同じく「所得概念論の観点」に基づく原審・昭和61年3月東京高判と、結論の点では同じ見解(中間説)を採用しながらも、以下で述べるように、理由づけの点では全く異なる判断を示した。 平成4年7月最判は、まず、居住用不動産の取得に係る借入金利子について、下記のとおり判示して(下線筆者)、当該不動産の使用開始の前後を問わず一般的に、当該取得者(個人)の「日常的な生活費ないし家事費」としてその取得費算入を否定する判断を示した。 以上の判断は、1段落目の判示から明らかなように、「譲渡所得課税の趣旨」法理を復活、、させその「牽引力」によって取得費概念を狭く限定し、もって消極説に帰結する論理を展開するものであるといってよかろう(前記Ⅱ参照)。つまり、平成4年7月最判は、その論理展開の点で基本的には消極説の立場に立つものと解されるのである。 もっとも、平成4年7月最判は、次に、当該借入金利子のうち当該居住用不動産の使用(居住)開始前の期間に対応するものについて、前記の判示に続けて下記のとおり判示して、その取得費算入を認めた(下線筆者)。 この判断は、昭和54年東京高判に対する批判ⓐのように非業務用資産の使用開始後、の期間に係る借入金利子についてその「家事費性の肯定、、」によってその「取得費算入を否定、、」したものではなく、非業務用資産のうち居住用不動産の使用(居住)開始前、の期間に係る借入金利子についてその「家事費性の否定、、」によってその「取得費算入を肯定、、」したものであり、また、その「議論の運び」(増井・前掲「判批」1101頁)の点では、批判ⓑやこれと同じく「所得概念論の観点」に基づく昭和61年3月東京高判と比較すると、「原則・例外が逆転」(同上)したものであるといえよう。 では、平成4年7月最判が、それまで課税実務・学説・裁判例で示されてきた中間説(積極説的中間説)とは論理展開において立論の出発点を逆転させた中間説(以下では「消極説的中間説」という)を採用したのはなぜであろうか。その理由は、まず第1に、同最判が前述したように「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づき消極説の立場を基本にしていることにあると考えられる。 その上で、第2の理由としては、同最判が非業務用資産一般ではなく居住用不動産のみを対象にして借入金利子の取得費算入の可否を判断したものであることを挙げることができよう。居住用不動産については、平成4年7月最判の前記判示では、「右借入れの後、個人が当該不動産をその居住の用に供するに至るまでにはある程度の期間を要するのが通常であり、したがって、当該個人は右期間中当該不動産を使用することなく利子の支払を余儀なくされるものであること」が勘案されているが、そのことは非業務用資産について一般的に認められる事情ではなく、特に居住用不動産について認められる事情(特別の事情)であるといえよう。そのような特別の事情の勘案は、上記の第1の理由に関して述べた「譲渡所得課税の趣旨」法理とは内容・性質の全く異なる考慮である。 このことを所得課税に関する租税理論の観点から表現すると、居住用不動産の使用開始前の期間に係る借入金利子は、生活費・家事費という消費支出の性質を有するものではあるが、「余儀なくされる」消費支出すなわちやむを得ざる消費支出として所得課税上担税力の減殺要因を構成すべきものといえよう。やむを得ざる消費支出は現行所得税法上は医療費控除(73条)等の所得控除の中で考慮されているが(前掲拙著【355】以下参照)、平成4年7月最判はそのような考慮を、居住用不動産の使用開始前の期間に係る借入金利子の取得費算入の可否判断においても、行ったものと解される。その意味で、同最判は借入金利子の取得費算入の可否判断において一種の法創造に基づく判断を行ったものとみることができよう。 そのような法創造は、積極説から積極説的中間説への流れを逆転させるために復活、、させた「譲渡所得課税の趣旨」法理の「牽引力」をもって、借入金利子の取得費算入の可否判断を消極説まで引き戻すのではなく、居住用不動産に関する前記の特別の事情の勘案によって、その引き戻しの流れを遮断、、し、もって消極説的中間説に押しとどめるといういわば「どんでん返し」を行ったものといえよう。 ただ、そのような法創造の当否については、平成4年7月最判が「準備費用」なる概念を「付随費用」と結びつけて展開した論理構成の当否(増井・前掲「判批」1101頁参照)とも相俟って、議論の余地があるところであろう(その論理構成は、直接的付随費用と間接的付随費用の二分論(前記Ⅱ参照)に「準備費用」の概念によって「風穴」を開けようとする解釈論的試みであるとは思われるが)。この点について、平成4年9月最判における橋元四郎平裁判官の反対意見の次の指摘は傾聴に値するものであろう。   Ⅳ 平成4年7月最判の意義(消極説的中間説) 以上、今回は、借入金利子の取得費算入の可否問題について、裁判所の判断の展開を軸にして検討を行い、平成4年7月最判によって中間説(消極説的中間説)が判例として確立されたことを確認した。 ただ、平成4年7月最判に対しては批判がいくつかみられることも確かである(以下の批判とは異なる家事費排除の観点からの批判について岡村・前掲論文3-7頁参照)。そのうち最も本質的で厳しい批判と思われるのは、「本判決[=平成4年7月最判]の論理においては、所得概念からの発想という観点が、見事なまでに欠落している。そしてこの点こそが、本判決の最大の問題点である。」(増井・前掲「判批」1101頁。下線筆者)という批判であり、それは次のとおり敷衍されている(同1102頁。下線筆者)。 確かに、鋭い批判であり傾聴すべきものではあるが、しかしながら、「本判決[=平成4年7月最判]の論理においては、所得概念からの発想という観点が、見事なまでに欠落している。」(増井・前掲「判批」1101頁)とまではいえないように思われる。というのも、平成4年7月最判は前述したように「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づき基本的には消極説の立場に立つものであるが、同法理は資産の増加益を所得として譲渡所得の意義(本質的意義ないし理論[包括的所得概念論]的意義)を明らかにするものであるからである。しかも平成4年7月最判は、同法理の「牽引力」によって消極説の方向に結論を導いた点では、租税さや取り問題に対処するものと評価することもできよう。 とはいえ、平成4年7月最判には帰属所得の観点が欠落していることは確かである。平成4年9月最判には味村治裁判官の意見と橋元四郎平裁判官の反対意見があるが、それらにおいても帰属所得の観点は言及されていない。最高裁の態度がそのような状況にある中で、平成4年7月最判に関する調査官解説は、帰属所得の観点(前記の批判ⓑを説く「金子教授の見解」)について、「極めて巧みな理論構成に基づくもの」(福岡・前掲「判解」292頁)と認めつつ、「実定法上の明示的な規定を欠く帰属所得の観念を導入することについての当否の問題」(同上)を指摘した上で、その問題を下記のとおり詳細に検討し肯定的な見解を述べている(同293頁。下線筆者。なお、否定的な見解として岡村・前掲論文19-21頁参照)。 にもかかわらず、平成4年7月最判が借入金利子の取得費算入の可否問題に関する判断において帰属所得の観点を採り入れず、前述したように「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づき消極説を基本としつつ居住用不動産に関する特別の事情を勘案して消極説的中間説の立場を示したのはなぜであろうか。 その理由は、「帰属所得と譲渡所得との異質性」という本質的な問題に見出すことができるのではないかと考えられる。すなわち、帰属所得については、上記の調査官解説が金子宏教授の見解(同「租税法における所得概念の構成(三・完)」法学協会雑誌92巻9号(1975年)1112頁以下[同『所得概念の研究 所得課税の基礎理論 上巻』(有斐閣・1995年)86頁以下に所収])に従って示した「自己の財産の利用から得られる経済的利益及び自家労働から得られる経済的利益」というような理解が、一般的であるといってよかろうが、譲渡所得については、「譲渡所得課税の趣旨」法理における資産の増加益という理解が、一般的であることからすると、借入金利子の取得費算入の可否問題に関して両者を結びつけてその判断の論拠を構成することには、理論的にも実定法的にも、無理があると考えられるのである。 まず、理論的な観点からみると、帰属所得の場合、これに該当する経済的利益が発生・取得と同時に消費され、その存在が認識されにくく、しかも仮に認識されたとしても、所得の発生・取得が前面には出ず所得の消費の背後に隠れてしまう。その意味で、帰属所得は「影の所得(Schatteneinkommen)」(Tipke/Lang, Steuerrecht, 24. Aufl., 2021, Rz. 8.124.太字筆者。岡村・前掲論文19頁も参照)といえよう。とはいえ、帰属所得は、包括的所得概念による「所得=蓄積+消費」という所得定式においては「消費」の構成要素であることは確かである。これに対して、譲渡所得は資産の増加益として、同所得定式においては「蓄積」の構成要素である。この点で帰属所得と譲渡所得とは異質である。 また、所得の取得・発生の点でも、帰属所得は自己の財産の利用及び労働等の活動(余暇を含む)に基因するのに対して、譲渡所得は資産の増加益といっても、資産の所有者の意思によらない外的条件の変化に基因する資産の増加益に限られる(このことが「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づく譲渡所得の本質的意義からの帰結であることについては前掲拙著【273】参照)という異質性が、両者の間に認められる(木村弘之亮「判批」判例評論259号(1980年)9頁、11頁も参照)。つまり、帰属所得については、その取得・発生の態様に応じて帰属家賃、帰属地代、帰属収益、帰属賃金等の類型が論じられてきたところ、譲渡所得が問題になる場面において帰属所得を「帰属増加益」ということは論理的にはできるとしても、「帰属増加益」という類型は理論的には観念できないのである。この点について、「外的条件による資産の価値変化は、その資産の使用価値に関わりなく生じる」(岡村・前掲論文12頁)との指摘は示唆に富むものである(同13-14頁も参照)。 次に、実定法的観点からみると、居住用不動産の使用による帰属所得は帰属家賃であり、実定法上もし現行所得税法39条に相当するような規定が定められていれば、不動産所得として課税されることになろうが、これに対する所得税の課税において、実定税法上は、譲渡所得に係る取得費の控除(所税33条3項・38条1項)は問題にならないはずである。にもかかわらず、「実定法上の明示的な規定を欠く帰属所得の観念を導入すること」(福岡・前掲「判解」292頁)は現行所得税法の解釈論として無理があり、とりわけ「帰属所得の観点」から取得費概念を論ずることには論理的な飛躍ないし障壁があるように思われる。 そうすると、借入金利子の取得費算入の可否判断において「実定法上の明示的な規定を欠く帰属所得の観念を導入する」(福岡・前掲「判解」292頁)ためには、居住用不動産の使用による帰属所得(帰属家賃)について、①収入金額による「所得の実現」(同293頁)を擬制し、②その収入金額を不動産所得ではなく譲渡所得に係る総収入金額として擬制する、といういわば「二重の擬制」が必要になると考えられるが、そのような「極めて専門技術的な判断」(大嶋訴訟・最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁)は立法府に委ねるべきものであり、裁判所には司法権の限界に鑑み「荷が重すぎる」と最高裁は判断したのではないかと考えられる。 以上の考察に基づいて平成4年7月最判の意義を検討すると、同最判は、そのような「二重の擬制」を法創造(司法的立法)によって行うのではなく、むしろ、居住用不動産について認められる前記の特別の事情、すなわち、「右借入れの後、個人が当該不動産をその居住の用に供するに至るまでにはある程度の期間を要するのが通常であり、したがって、当該個人は右期間中当該不動産を使用することなく利子の支払を余儀なくされるものであること」という事情を勘案して、居住用不動産の使用開始前の期間に係る借入金利子についてやむを得ざる消費支出として家事費性を否定し取得費算入を肯定するという一種の法創造を行ったものと解される(前記Ⅲ4参照)。 最高裁としては、居住用不動産について上記の特別の事情を勘案することは、わが国における本件当時の居住用不動産取得(とりわけ住宅取得契約・ローン等)の実情やこれに関する国民一般の常識に適っていたことから、そのような特別の事情を勘案して借入金利子の取得費算入の可否判断を行うことは、たとえその判断が法創造の領域における判断になるとしても、訴訟当事者を含め広く国民一般に受け容れられるものと考えたのではないかと思われる。 要するに、平成4年7月最判の意義は、取得費の意義に関する法創造に基づき居住用不動産に関する前記の特別の事情を勘案し借入金利子の取得費算入の可否を判断したことにあると考えるところである。 こうして、裁判所は借入金利子の取得費算入の可否問題について「遠い道程」の果てに平成4年7月最判に辿り着いたのである。   Ⅴ おわりに 今回を含め3回にわたって、「譲渡所得課税の趣旨」法理に基づく「趣旨内競い合い」の観点から、譲渡所得課税に関する判例を検討した。 前々回と前回は、譲渡所得の本質ないし譲渡所得課税の本質に着目して、(譲渡所得の本質的意義(理論[包括的所得概念論]的意義)に基づく)譲渡所得課税❶の「先行」あるいは財産分与の場合には「独走」を問題にした。 今回は、(譲渡所得の実定法的意義に基づく)譲渡所得課税❷の側から、そのための取得費控除に着目して、借入金利子の取得費算入の可否問題を検討し、消極説から積極説へ、そして積極説的中間説から消極説的中間説へ、と裁判所の立場が変転してきたことを明らかにした。 このように、譲渡所得をめぐる課税問題については、「譲渡所得課税の趣旨」法理の枠内における譲渡所得課税❶と譲渡所得課税❷との「競い合い」(「趣旨内競い合い」)の中で、その司法的解決が図られてきたといってよかろう。その問題解決は法解釈の領域を越え法創造に及ぶこともあったが、その問題解決の基軸には常に「譲渡所得課税の趣旨」法理が据えられてきたという意味では、譲渡所得課税に関する判例法理には一貫性があるといってよかろう。 (了)
#667(掲載号)
#谷口 勢津夫
2026/04/30
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〈令和8年度税制改正〉中小企業者等の少額減価償却資産の特例の見直しに伴う実務ポイント

令和8年度税制改正 中小企業者等の少額減価償却資産の特例の見直し に伴う実務ポイント 税理士 油谷 景子   1 改正内容 一定の中小企業者等が取得価額30万円未満の減価償却資産を取得して事業の用に供した時にその全額を損金算入できる制度、「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」について、近年の物価の高騰等を考慮して、次の改正が行われた(措法67の5、28の2、措令39の28)。 項 目 改正前 改正後 ①適用期限 令和8年3月31日まで 令和11年3月31日まで ②対象となる減価償却資産の取得価額 取得価額 30万円未満 1事業年度合計 300万円まで 取得価額 40万円未満 1事業年度合計 300万円まで ③対象法人の範囲 常時使用する従業員数 500人以下 (特定法人は300人以下) 常時使用する従業員数 400人以下 (特定法人は300人以下) ① 適用期限の延長 令和8年3月31日までとされていた適用期限が3年延長され、令和11年3月31日まで延長された(法人税・所得税共通)。 ② 取得価額の上限額の引上げ 取得価額30万円未満とされていた上限額が、取得価額40万円未満まで引き上げられた(法人税・所得税共通)。 ③ 対象法人の範囲の縮小 対象となる中小企業者等の対象範囲について、常時使用する従業員数500人以下の法人から常時使用する従業員数400人以下の法人へと範囲が縮小された。なお、個人事業者についても、常時使用する従業員数400人以下へと対象範囲が縮小された。 〈対象となる中小企業者等の範囲の縮小変遷〉 本制度の対象は、「事務負担に配慮する必要があるもの」とされており、事務負担に配慮する必要があるものかどうかは、「常時使用する従業員数」により判定される。なお、対象法人の範囲は、次のとおり縮小されてきた。 (対象法人の範囲) 対象資産の取得等の日及び 事業の用に供した日 常時使用する従業員数 平成28年4月1日~ 令和2年3月31日 1,000人以下 令和2年4月1日~ 令和6年3月31日 500人以下 令和6年4月1日~ 令和8年3月31日 500人以下(特定法人(注)は300人以下) 令和8年4月1日~ 令和11年3月31日 400人以下(特定法人(注)は300人以下) (注) 特定法人とは、期首の資本金の額等が1億円を超える法人、通算法人、相互会社、投資法人、特定目的会社をいう。   2 改正による影響 (1) 少額減価償却資産の範囲の拡大 本改正により、一定の中小企業者等が取得する取得価額40万円未満の減価償却資産について、事業の用に供した事業年度にその取得価額に相当する金額を損金経理したときは、「少額減価償却資産」としてその事業年度にその全額を損金算入できるようになった。 例えば、高性能のパソコンなどは取得価額30万円を超えるものもあるが、その場合も40万円未満であれば、今後は取得し事業の用に供した事業年度に「消耗品費」等として損金経理することにより、一時に損金算入できる。これにより、中小企業等の減価償却資産の購入が増加することが見込まれる。財務省は、本改正による影響額として、初年度10億円、平年度20億円程度の税収減を見込んでいる。 (2) 他の中小企業向け設備投資税制への影響 次の中小企業向けの設備投資税制の取得価額要件について、引上げが行われた。 ① 「中小企業投資促進税制」(措法42の6、措法10の3)の取得価額 中小企業者等が機械等を取得した場合の特別償却又は法人税の特別控除(中小企業投資促進税制)における工具の取得価額要件について、「1台又は1基の取得価額が30万円以上の工具の取得価額の合計額が120万円以上であること」の要件が、「1台又は1基の取得価額が40万円以上の工具の取得価額の合計額が120万円以上であること」となった(所得税も同様)。 ② 「中小企業経営強化税制」(措法42の12の4、措法10の5の3)の取得価額 中小企業者等が特定経営力向上設備等を取得した場合の特別償却又は税額控除制度(中小企業経営強化税制)における工具及び器具備品の取得価額要件について、現行の30万円以上から40万円以上に引き上げられた(所得税も同様)。 ③ 「特定事業継続力強化設備等の特別償却制度」(措法44の2)の取得価額 特定事業継続力強化設備等の特別償却制度における器具備品の取得価額要件について、現行の30万円以上から40万円以上に引き上げられた(所得税も同様)。   3 実務で気を付けるべきポイント (1) 適用対象者 あらためて、本制度の対象者を整理しておきたい。 本制度の対象となるのは、中小企業者(適用除外事業者に該当するものを除く)又は農業協同組合等で、青色申告書を提出する法人である。ただし、通算法人は適用除外となる。 また、本制度は前述の通り「事務負担に配慮する必要があるもの」が対象となり、令和8年4月1日以降は、事務負担に配慮する必要があるものとして、常時使用する従業員の数が「400人以下」(特定法人は300人以下)の法人が対象となる。 なお、この「事務負担に配慮する必要があるものかどうか」は、原則として、少額減価償却資産の取得等をした日及び事業の用に供した日の現況により判定するが、事業年度終了日において、常時使用する従業員数が400人以下(特定法人は300人以下)の法人に該当する場合には、資本金の額が1億円以下の法人等に該当する期間に取得等をして事業の用に供した少額減価償却資産について、本特例を適用することができる(措通67の5-1)。 個人については、中小企業者に該当する個人で青色申告書を提出する方が、不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき業務の用に供した減価償却資産が対象となる。個人も、法人と同様に常時使用する従業員数の要件を満たす方が対象となる。 (2) 一事業年度で合計300万円の上限は変わらない 本制度は一事業年度の少額減価償却資産の合計額が300万円になるまで損金算入ができるとする上限がある。 令和8年度税制改正では、あくまでも1つ1つの減価償却資産の取得価額の上限額が引き上げられたのみであり、一事業年度の少額減価償却資産の合計額が300万円に達するまでとする損金算入限度額の上限は変わらない点に留意が必要である。なお、事業年度が1年に満たない場合は、この上限額は月割り計算とされる。 (3) 中小企業向け設備投資税制の取得価額要件の引上げ 本改正に伴い、次の中小企業向け設備投資税制の取得価額の範囲が30万円以上から「40万円以上」となったため、適用の判定時に留意が必要である。 (4) スタッフやクライアントへの周知 今回の改正による適用期限の延長、取得価額の引上げ、対象範囲となる中小企業の範囲の変更の改正は、クライアント及びスタッフへ周知しておく必要がある。 また、取得価額の判定は、その事業者が採用している経理方式により税抜金額又は税込金額で行われる点も改めて周知しておきたい。 なお、本特例の適用に当たっては、法人は法人税の確定申告書別表16(7)「少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例に関する明細書」の作成及び「適用額明細書」の添付が必要である。また、個人事業主は青色決算書の「減価償却費の計算」の「摘要」欄に「措法28の2」の記載が必要である。   (了)
#667(掲載号)
#油谷 景子
2026/04/30
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グループ企業の税務Q&A 【第4回】「通算グループ内の法人との合併が行われた場合」

グループ企業の税務Q&A 第 4 回 通算グループ内の法人との合併が行われた場合 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター/税理士 川瀬 裕太   ◆ ◆ ◆〈解説〉◆ ◆ ◆ 1 合併法人の繰越欠損金の使用制限 (1) 法人税の繰越欠損金 通算法人を合併法人とする適格合併でその通算法人との間に通算完全支配関係がある他の内国法人を被合併法人とする合併が行われた場合には、その通算法人の欠損金額については、法人税法第57条第4項(適格組織再編成等が行われた場合の欠損金の切捨て)の規定は、適用しないこととされています(法令112の2⑦)。 したがって、合併法人の未処理欠損金額の使用は制限されません。 (2) 住民税の繰越欠損金(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額) 合併法人の未処理欠損金額の使用を制限する規定はありません。 (3) 事業税の繰越欠損金 事業税の課税標準である各事業年度の所得を算定する場合には、法人税法施行令第112条の2第6項から第8項までの規定の例によらないこととされています(地令20の3)。 したがって、上記1(1)のようなグループ通算制度特有の規定はないことから、通常通り、下記の要件をいずれも満たさない場合には、合併法人の未処理欠損金額の使用が制限されることとなります(法法57④、法令112⑨⑩、地令20の3)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています。 ただし、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、欠損金の制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令113①④、地令20の3)。   2 被合併法人の繰越欠損金の引継制限 (1) 法人税の繰越欠損金 通算法人を合併法人とする適格合併でその通算法人との間に通算完全支配関係がある他の内国法人を被合併法人とするものが行われた場合には、これらの他の内国法人の未処理欠損金額については、法人税法第57条第3項(適格合併又は残余財産の確定の場合の欠損金の引継制限)の規定は、適用しないこととされています(法令112の2⑥)。 したがって、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎは制限されません。 適格合併が行われた場合において、被合併法人の未処理欠損金額があるときは、その金額は、それぞれの未処理欠損金額が生じた各事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなし、特定欠損金額に該当するものは特定欠損金額として、非特定欠損金額に該当するものは非特定欠損金額として引き継ぐこととなります(法法57②、法法64の7③)。 (2) 住民税の繰越欠損金(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額) 被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎを制限する規定はありません。 適格合併が行われた場合において、被合併法人の未処理欠損金額(控除対象通算適用前欠損調整額、控除対象通算対象所得調整額、控除対象配賦欠損調整額)があるときは、その金額は、それぞれの未処理欠損金額が生じた各事業年度の開始の日の属する合併法人の各事業年度において生じた欠損金額とみなされます(地法53⑤⑮㉑、321の8⑤⑮㉑)。 (3) 事業税 事業税の課税標準である各事業年度の所得を算定する場合には、法人税法施行令第112条の2第6項から第8項までの規定の例によらないこととされています(地令20の3)。 したがって、上記2(1)のようなグループ通算制度特有の規定はないことから、通常通り、下記の要件をいずれも満たさない場合には、被合併法人の未処理欠損金額の引継ぎが制限されることとなります(法法57②③、法令112③④、地法72の23①②、地令20の3)。 (※) 欠損金利用を目的に法人を設立する等一定の場合が除かれています。 ただし、支配関係事業年度の前事業年度終了時の資産及び負債について時価評価した場合には、欠損金の制限対象金額の計算について特例が設けられています(法令113①、地令20の3)。   3 本件へのあてはめ 通算法人P社を合併法人とする適格合併でP社との間に通算完全支配関係がある通算子法人A社を被合併法人とする合併が行われた場合、P社の法人税の未処理欠損金額については、法人税法第57条第4項(適格組織再編成等が行われた場合の欠損金の切捨て)の規定は、適用されません。 また、合併法人P社の住民税の未処理欠損金額の使用を制限する規定はありません。 ただし、事業税の未処理欠損金額についてグループ通算制度特有の規定はないことから、通常通り、5年超支配要件又はみなし共同事業要件を満たさない場合には、合併法人P社の事業税の未処理欠損金額の使用は制限されることとなります。 同様に、通算法人P社を合併法人とする適格合併でP社との間に通算完全支配関係がある通算子法人A社を被合併法人とするものが行われた場合、A社の法人税の未処理欠損金額についても、法人税法第57条第3項(適格合併又は残余財産の確定の場合の欠損金の引継ぎ制限)の規定は、適用しないこととされています。 また、被合併法人A社の住民税の未処理欠損金額の引継ぎを制限する規定はありません。 ただし、事業税の未処理欠損金額についてグループ通算制度特有の規定はないことから、通常通り、5年超支配要件又はみなし共同事業要件を満たさない場合には、被合併法人A社の事業税の未処理欠損金額の引継ぎは制限されることとなります。   (了)
#667(掲載号)
#川瀬 裕太
2026/04/30
税務 税務・会計 解説 解説一覧 財産評価

街の税理士が「あれっ?」と思う税務の疑問点 【第12回】「相続開始前にリフォームをしたが固定資産税評価額に反映されていない場合」

街の税理士が「あれっ?」と思う 税務の疑問点 【第12回】 「相続開始前にリフォームをしたが固定資産税評価額に反映されていない場合」   城東税務勉強会 税理士 大塚 進一   問 題 父が亡くなる半年前に父が所有する建物が古くなっていたので、父の負担で補修修繕もかねて大規模なリフォームをしました。 相続開始時の固定資産税評価額には反映されていませんが、建物の相続税評価額はどうすれば良いですか。 回 答 大規模な工事でそれにより固定資産税評価額が改定されている場合は、その改定後の固定資産税評価額で相続税の申告を行えば良いですが、建築確認申請等が必要ない場合、固定資産税評価額が改定されないことが多いです。 この場合、その付近の家屋との構造、経過年数、用途等の差を考慮して評定した価額で評価しますが、状況の類似した付近の家屋がない場合がほとんどですので、リフォーム前の家屋の固定資産税評価額に、通常そのリフォームにかかる再建築価額の相続税評価額を加えた額で評価します。 なお、リフォームにかかる再建築価額とは建物の資産価値が増した分に相当する額のみのことを言います。よって上記の場合、補修修繕もかねたリフォーム代金の総額から、見積書等より補修修繕に相当する金額を差し引き、リフォーム費用を算出します。半年前の工事なのでリフォーム費用を再建築価額として、相続税評価額を以下のように計算します。 よって、建物の相続税評価額は、従前の固定資産税評価額+リフォーム費用の相続税評価額となります。また、役所に固定資産税評価額の評価替えを依頼する方法もあり、この場合の相続税評価額は評価替え後の固定資産税評価額となります。 考 察 質疑応答事例・財産評価(増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価)では、「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない場合の家屋の価額は、増改築等に係る部分以外の部分に対応する固定資産税評価額に、当該増改築等に係る部分の価額 ~省略~ を加算した価額 ~省略~ 」とあります。 よって、「増改築等に係る家屋~」とある事から、大規模な工事であっても増改築等にあたらない修繕の範囲内のもの、すなわち、壁紙の張替えや外壁の塗装等の経年劣化部分の修復や維持管理の工事、雨漏りの屋根修理等の壊れた部分を修理する原状回復工事は相続直前に行っていても、相続税評価額に加算する必要はありません。 またトイレ、浴室、洗面所や台所等の設備の取替えである場合、法人税や所得税では新たな減価償却資産の取得となる場合もありますが、それらが固定資産税に影響しないことから考えると、原状回復にとどまらず以前と比べて資産価値が増す設備取替えを除いて、増改築等にあたらず、相続税評価額に加算する必要はないでしょう。 なお、2025年の建築基準法改正により建築確認申請が必要な工事の範囲が増え、大規模リフォームが固定資産税評価額に反映されやすくなっています。まとめると次のようになります。 つまり、リフォームによって建物の資産価値を高める(いわゆる資本的支出にあたる)場合のみ、相続税評価額に加算します。一般的に補修修繕と一緒にリフォームを行う場合、これらを区別するために見積書や請求書等で確認します。 また、固定資産税評価額の評価替えが必要な大規模工事も課税時期に評価替えが行われていないことがあります。その場合、上記の計算式で算出された額を加算すると高額になるなら、相続税の申告期限に間に合えば、役所に固定資産税評価額の評価替えを依頼する方法もあります(おそらくこちらの方が評価額は低くなると思われますが、固定資産税の負担は増えます)。 また、法人所有の建物に対する通常の修繕の範囲外の資産価値を高めるリフォームについては、取引相場のない株式の評価に含めます。このとき1株当たりの純資産価額の計算において、課税時期前3年以内に取得または新築している場合は70%の価額にせず、通常の取引価額(課税時期における通常の取引価額に相当するなら帳簿価額)を用います。 なお、建物所有者でない者がリフォーム代金を負担した場合、リフォーム代金の負担者から建物所有者への贈与として取り扱われます。すなわち、上記問題の場合のリフォーム代金を子が負担していた場合、その時に建物所有者の父に対して贈与税がかかり、その後の相続が発生した場合、その建物を相続した者に相続税がかかるので、リフォーム代金の負担には注意が必要です。 (了)
#667(掲載号)
#城東税務勉強会
2026/04/30
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔実務で差がつく!〕相続時精算課税制度Q&A 【第6回】「相続時精算課税と相続税の2割加算(その2)」~相続時精算課税の権利義務を承継した場合~

〔実務で差がつく!〕 相続時精算課税制度Q&A 【第6回】 「相続時精算課税と相続税の2割加算(その2)」 ~相続時精算課税の権利義務を承継した場合~   税理士 徳田 敏彦   【Q】 Bは父Aから令和4年7月に土地の贈与を受け、相続時精算課税制度を選択した。 令和6年1月に父Aより先にBに相続が発生した。そのため、Bの配偶者であるCはBが有していた相続時精算課税の適用を受けていたことに伴う納税に係る権利又は義務を承継した。 その後、令和7年10月に父Aに相続が発生した。 父Aは遺言を残しており、全財産をC(Bの配偶者)に遺贈する内容である。そのため、Cは父Aに係る相続税で、①遺贈により財産を取得したことによる申告と②相続時精算課税の権利又は義務を承継したことによる申告が必要になる。 この場合、相続税の2割加算はどの部分に適用されるのか。 【A】 Cが遺贈により取得した部分のみが、相続税の2割加算の対象となる。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 相続、遺贈又は相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した者が、被相続人の一親等の血族及び配偶者以外の者である場合には2割加算が適用される(相法18)。 この「一親等の血族」に当たるかどうかは「被相続人の死亡の時の状況」により判定する(相基通18-2)。 そのため、Cは父Aから遺贈を受けたことによる相続税額の計算においては、父Aが死亡した時の状況により一親等の血族か否かを判定する。 それでは、相続時精算課税の権利又は義務を承継したことによる相続税額の計算において、相続税の2割加算の対象になるか否かはどの時点で判定するのか。 相続時精算課税の権利又は義務を承継したことによる相続税額の計算において、2割加算の対象になるか否かの判定は「相続時精算課税適用者が死亡した時の状況により判定する」としている(相基通18-2)。 これは次のような考え方から整理されている。 (出典) 甲斐裕也編『令和8年版 相続税法基本通達逐条解説』(大蔵財務協会・2026年)320頁 そのため、1人の者が2以上の異なる地位に基づいて相続税の申告をすることになる場合には、それぞれの申告における財産を取得した者としての地位で「被相続人の一親等の血族等」に該当するのかを判定することになる。 上記の例では、以下の2つの地位に基づいて相続税の2割加算判定を行う。   (了)
#667(掲載号)
#徳田 敏彦
2026/04/30
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第95回】「租税条約上の居住者該当性が争われた事例(東地令5.5.30)(その2)」

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第95回】 「租税条約上の居住者該当性が争われた事例 (東地令5.5.30)(その2)」   税理士 柿本 雅一     4 検討 (1) 租税条約における居住者の定義 OECDモデル条約第4条(居住者)は以下のように規定している。 租税条約における「者」は個人のみならず法人も含まれる。日本の法人税法は法人の居住地の判断基準として本店所在地主義を採用しているため、OECDモデル条約の当該条項を留保しており(※1)、その代わりとして、日本の多くの租税条約では、「住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地等の基準により当該一方の締約国において課税を課されるべきもの」を居住者としているものが多い。 (※1) コメンタリー4条パラグラフ28 この点、OECDモデル条約及び日本の租税条約で言う「課税を受けるべきものとされる(liable to tax)」は何を意味するかが問題となる。 増井教授は、「最初のOECDモデル条約(1963年)では、「課税を受けることとなる」と訳されており、その後1977年に「課税を受けるべきものとされる」と訳されており、これが現在でも一般的に使われている。しかし、「英文にいうliable to taxの意味をより正確にとらえる訳としては「納税義務がある」という訳のほうがより適切であったかもしれない」と述べられている(※2)。 (※2) 李昌煕・増井良啓「租税条約の居住者概念は全世界所得課税を要件とするか-各国裁判例の分析-」『ジュリスト』1362号(2008)127頁、関口博久『租税条約の人的適用に関する研究』一般社団法人大蔵財務協会(2012)98頁 そして、「当該一方の締約国の国内法の規定により、納税義務を負う者が居住者と決定されるものとなる。我が国の場合では、前述の所得税法の規定する居住者(所税2条1項3号)と法人税法の規定する内国法人(法税2条3号)が租税条約上の居住者となる。この点、条約の但書が規定するように、一方の締約国内に源泉のある所得又は当該一方の締約国に存在する財産のみについて納税義務を負う者については、租税条約上の居住者とはならない。このように、租税条約上の居住者(ここではOECDモデル条約4条1項)とは、租税条約上のものであり、国内法を参考とするが、国内法上の概念とは別の概念である」(※3)と述べられている。 (※3) 関口 同上99-100頁、増井良啓「居住地振り分け規定の適用効果」『税務事例研究』108号(2009)43頁 (2) 租税条約上の居住者の範囲 租税条約における居住者とは、「国内法の規定により納税義務を負う者である」と定義付けした場合、この納税義務者は無制限納税義務者(※4)に限定されるかが次の問題となる。我が国ではこれまであまり深く論じられてこなかった論点ではあるが、無制限納税義務者を意味すると解されている(※5)。 (※4) 一般に、国籍を有する者と領域内に居住する者に対しては領域外で得た所得についても管轄権を及ぼすことが出来ると考えて、居住者の納税義務を全世界所得に対して成立させることを無制限納税義務という。他方、領域内に居住しない者に対しても領域内に源泉のある所得に対して管轄権を及ぼすことが出来ると考えて、非居住者の納税義務を国内源泉所得のみに対して成立させることを制限納税義務という。本庄資「租税条約」税務経理協会(2000)57頁-58頁 (※5) 小松芳明『租税条約の研究』有斐閣(1973)26頁 そして、財務省は、国内法により課税されない者は租税条約の居住者には含まれないことを踏まえ(※6)、本条約締結時点において、「アラブ首長国連邦の現行法令では、原則として所得税及び法人税が課されておらず、また「住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準」に基づき「課税を受けるべきものとされる者」の区分をしていないことから、署名時点においては、アラブ首長国連邦、同国の各首長国及び上記(注1)③に掲げられる特定の機関のみが我が国に源泉のある所得に対する課税に係る条約の特典を享受することができる「一方の締約国の居住者」に該当すると考えられます。」と説明している(※7)。 (※6) 財務省主税局時代に日米租税条約の改定に携わった浅川雅嗣氏は、「もっとも、条約上の「者(person)」はそれが課税を受けるべき場合にのみ「居住者(resident)」として条約上の各種の特典を享受することとなる(第4条の1)。従って、それ自体として納税義務者となることはない我が国の信託、任意組合等の場合、・・・「居住者」としての特典を享受するわけではない。」と述べている。浅川雅嗣「コンメンタール改訂日米租税条約」大蔵財務協会(2005)39頁 (※7) 『平成25年度税制改正の解説』803-804頁 この点、増井教授は、「住所、居所、事業の管理の場所その他これらに類する基準により当該一方の締約国において租税を課されるべきものとされる者」の意味を「文言の通常の意味に解するならば、一定の場所があることを基準として納税義務を負う者を指すであろう。だが、各国の裁判例において広く認められている解釈はこれとは異なり、その文言をもって、全世界所得について課税を受けるべき者と解釈する傾向にある」(※8)と述べ、カナダでの判例を題材として、これは「草案者の意思やOECDモデル租税条約コンメンタリーを参照しつつ、目的論的解釈によっている」と指摘している(※9)。加えて、「租税条約の明文規定をもって、「居住者とは一方の締結国の国内法で全世界所得納税義務を負う者である」と書いてこそ、はじめてこの結論が導きかれるのではないだろうか。我々はこうして、問題の核心に到達する。すなわち、租税条約の文言を目的論的に解釈して居住者概念を国内法上の全世界所得納税義務を負う者と解することは、果たして正当なことなのであろうか」と疑問を呈しておられる(※10)。そして、「国際的二重課税排除の方式として国外源泉所得免除方式を採用する国の企業は、国外源泉所得についても潜在的に納税義務を負っており、したがって「課税を受けるべきものとされる者」に該当すると解することができよう」(※11)と述べられている。 (※8) 増井良啓「租税条約上の居住者概念は全世界所得課税を要件とするか-各国裁判例の分析」『ジュリスト』1362号(2008)123頁 (※9) 増井 同上128頁 (※10) 増井 同上129頁 (※11) 増井 同上131頁 (3) 判決の評価 本判決に関しては、裁判所は、「本判決が二重課税排除という本条約の趣旨を「居住者基準」の理解において重視していることが窺え」(※12)られ、「本件においては、課税対象を検討する前に、そもそも現地法令において居住者基準にて課税を受けるべきものとされる者はいないという整理」(※13)がなされているとの評釈がある。 (※12) 鈴木悠哉「租税条約における居住者該当性」『令和6年度重要判例解説』1610号(2025)159頁 (※13) 田中良「租税条約における「居住者」該当性」『ジュリスト』1602号(2024)11頁 確かに、判例は二重課税の排除という租税条約の主たる目的を重視しつつ、居住者の範囲と課税所得の範囲を深く結びつけて、租税条約上の居住者は無制限納税義務者である必要があると判断しているように見受けられる。しかしながら、OECD租税条約コンメンタリーにおいても「第2文の適用は、一方の国において包括的課税の対象とならない者を除外するという、その趣旨及び目的に照らして解釈しなければ、課税上属地主義を採用する国の一切の居住者が条約の適用対象者から除外されることにもなりかねず、これは明らかに意図しない結果となる」と注意喚起されている点を無視している。 例えば、属地主義を採用しているシンガポールと日本は租税条約を締結しているが、シンガポールに設立された法人に対して租税条約の適用をしている。このことからもその国の居住者の範囲と課税所得の範囲との間には一定の整合性はあるもの、別の概念であると捉えるのが文理解釈の観点からも自然であると考えられる。 また、もう少し議論を広げて、ドバイ所得税命令2条3のような源泉地管轄に基づく制限納税義務者の場合に租税条約が適用される余地があるのかどうかを考えると二重課税の排除を重視するという観点から言えば一考の余地はあるように思われる。 例えば、法人税法138条は国内源泉所得を定義しているが、その中身を見ると、純粋に国内において発生した所得のみを対象としていない。具体的には、外国法人が恒久的施設(PE)を通じて事業を行う場合に、AOAの考え方に基づき、PEが本店等から分離・独立した企業であると擬制した場合に得られるべき所得(PE帰属所得)に係る所得計算をすることとされたためである。端的に言えば、PE帰属所得はPEが稼得した所得であれば良く、国内での事業所得に限らず、外国法人の本店所在地以外の第三国で生じた所得をも含むものとされている(※14)。そして国外の所得に対して課税をするからこそ、二重課税が生ずることを回避する目的で外国法人のPEに対する外国税額控除制度を新たに設けている(※15)。 (※14) 国税庁「国際課税原則の帰属主義への見直しに係る改正のあらまし」平成27年10月 (※15) 「外国法人のPEが本店所在地国以外の第三国で得た所得がPE帰属所得としてわが国の課税対象となることに伴い、PEのための外国税額控除制度を設ける。」と平成26年度税制改正大綱で説明している つまり、国内源泉所得の範囲として「国外に源泉のある所得」を含めているケースもあり、この場合には二重課税が発生する余地は十分にある。二重課税の排除を重視すれば、租税条約の適用場面において無制限納税者と差異を設ける必要性は低いように考えられる。 次に、本判決は、法人税基本通達20-2-1を始めとする規定を2010年モデル租税条約が新たに採用したAOAアプローチに即したものと評価する。この点は妥当な判断だと思われる。ただ、原告(納税者)が主張したドバイ本店と本件活動拠点の帰属割合の主張に対しては、「月ごとの入金額や経費等について・・・ドバイ本店に対し、本件各事業に係る収益及び経費等について口頭で報告したが、個別の取引について許可を求めたり報告したりすることはなかったと認められるのであって・・・、これからすれば、本件各事業に係る重要な方針や戦略の決定をドバイ本店において行い、ドバイ本店において本件各事業に関するリスクを負っていたということはできない」としている。 この指摘は実務において大きな示唆を与えると考えられる。つまり、単なる報告や連絡レベルでは本店の関与は認められず、個別取引の意思決定レベルでの関与が認められなければ、共通費の合理的な配分は認められないことになる。 (4) おわりに 租税条約の適用を受けるためには一方又は双方の締約国の居住者である必要がある。そこで租税条約上の居住者とは何を意味するのかが重要になるが、本件は租税条約上の居住者概念について争われた初めての事案であり、裁判所は、二重課税の排除を目的とする租税条約の適用を受けるのは無制限納税義務者に限られると示した。 しかし、二重課税が発生するのは国外所得を課税所得の範囲に含めているからであり、居住者となる国又は地域において純粋に国内源泉所得のみに対する課税に限定していない限り二重課税の排除の必要性は失われない。 また、本件条約やOECDモデル租税条約にはただし書きが付されているため、結果として居住者の範囲から制限納税義務者を排除することになるが、日本が締結した条約の中には居住者概念の中にただし書きが入っていない条約も存在する(※16)。租税条約上の居住者の範囲を無制限納税義務者に限定する立場に立てばこのただし書きは確認規定であると評価すると思われるが、条約相手国との関係によりただし書きの有無が存在する点を鑑みれば創設規定であるとも考えられ、この立場からは租税条約の居住者には制限納税義務者が含まれることが前提になっていると主張しうる。残念なことに本判決はこの点について何ら述べていないため全ての租税条約に共通する考えを示したものかそれとも本件条約の適用上の考えを示したものかは明らかでない。 (※16) 例えば、シンガポール、マレーシア、インドなど 以上を考慮すれば、居住者とは「当該一方の締約国の国内法の規定により納税義務を負う者」と解し、「住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地、事業の管理の場所その他これらに類する基準」はその国又は地域において納税義務が発生するかどうかを判断する基準を例示的に列挙していると捉えるのが自然であるように思われる。 なお、租税条約上の居住者概念に関する初めての裁判所の判断であるため、本件だけで居住者概念が確立されたと考えるべきでは無く、居住者の定義にただし書きがない租税条約の場合でも本事例と同じ解釈が展開されるかどうか等今後の判例の積み重ねを見ていく必要がある。 (了)
#667(掲載号)
#柿本 雅一
2026/04/30
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連結会計を学ぶ(改) 【第20回】「連結範囲からの除外に関する取扱い」

連結会計を学ぶ(改) 【第20回】 「連結範囲からの除外に関する取扱い」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、連結範囲からの除外に関する取扱いについて、「連結財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第22号。以下「連結会計基準」という)及び「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」(移管指針第4号。以下「資本連結実務指針」という)にしたがって解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 子会社に対する支配の喪失 1 連結対象となる子会社の財務諸表の範囲 連結財務諸表では、子会社に対する支配を獲得した場合には、支配獲得日以後の当該子会社の資産・負債及び収益・費用を親会社の財務諸表の各項目に連結し、一方、子会社に対する支配を喪失した場合には、支配喪失日以後の当該会社の資産・負債及び収益・費用を連結から除外することになる(資本連結実務指針2項)。 連結対象となる子会社の財務諸表の範囲は、いずれの時点において支配の獲得又は喪失が生じたとみなすかにより、次のように取り扱われる(資本連結実務指針7項)。 2 連結除外に関する会計処理 子会社株式の売却により支配を喪失して関連会社となる場合には、資本連結実務指針45項(支配を喪失して関連会社になった場合の処理)及び45-2項(支配を喪失して関連会社になった場合ののれんの未償却額の取扱い)に従って会計処理する(資本連結実務指針41項)。 子会社株式の売却により支配を喪失して連結子会社及び関連会社のいずれにも該当しなくなった場合には、資本連結実務指針46項(支配を喪失して関連会社にも該当しなくなった場合の処理)に従って会計処理する(資本連結実務指針41項)。 3 連結除外に関する資本剰余金の会計処理(子会社株式の追加取得及び一部売却等によって生じたもの) 子会社株式の追加取得及び一部売却等(親会社と子会社の支配関係が継続している場合に限る)が行われた場合、追加取得持分と追加投資額との間に生じた差額又は売却による親会社の持分の減少額と売却価額との間に生じた差額は、資本剰余金として処理される(連結会計基準28項、29項)。 この資本剰余金は、支配を喪失して連結範囲及び持分法適用範囲から除外されたとしても、過去の追加取得又は一部売却取引で計上された資本剰余金は取り崩さず、結果として、資本剰余金は子会社でも関連会社でもなくなってもそのまま計上されることとなる(資本連結実務指針49-2項、68-2項)。 これは、支配継続中の一部売却等の取引は、親会社と子会社の非支配株主との間の取引であり、当該取引によって生じた資本剰余金は子会社に帰属するものではないためである(資本連結実務指針68-2項)。 なお、資本剰余金が負の値となり、当該負の値を利益剰余金から減額する処理を行っていた場合には、連結範囲から除外された後も当該処理は、連結財務諸表上、引き継がれることになる(資本連結実務指針49-2項、39-2項)。   (了)
#667(掲載号)
#阿部 光成
2026/04/30
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