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税務 税務・会計 解説 解説一覧

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第98回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第98回】   東洋大学法学部教授 泉 絢也   (3) 暗号資産の損益計算の困難性 ア 概要 民間企業が提供する暗号資産の損益計算ソフトを利用したとしても、一般に、暗号資産の損益計算は難しく、海外CEX、DEX、プライベートウォレットを複数利用している場合、「正確に」計算することは困難である。 また、少なくとも日本においては、複数のCEXとプライベートウォレット等を利用する事例や複雑な取引をしている事例に係る損益計算に対応できる税理士は限られている。 その結果、納税者側では、損益計算に要する時間的・人的コストや専門家報酬が暗号資産取引から得られた利益を上回るケースもある。 これに対して、国内CEXでは取引履歴の提供等のインターフェースが整備されており、DEXやウォレットを利用している場合でもトランザクションの記録はブロックチェーン上で公開されているため、これらを入手することで暗号資産の損益計算を正確に行うことが可能ではないかと疑問に思う者もいるであろう。 確かに、前回(2)で示した知識やスキルをある程度有していれば、国内CEXのみを利用し、暗号資産を月に数回程度、売買しているようなケースの損益計算を行うことは難しくない。 しかしながら、海外CEX、DEX、プライベートウォレットを利用している場合には、データの取得や取込みが困難であるという問題に直面する可能性がある。 また、DEXやプライベートウォレットを利用している場合には、ブロックチェーンエクスプローラー等を用いたトランザクションの分析が必要となる場合があるため、損益計算の難易度が上がる。 このようなケースでは「正確な」損益計算を行うことは不可能なことが多いというのが暗号資産にある程度精通している税理士や国税調査官に共通する理解であろう。 イ 各段階で生じる問題 暗号資産の損益計算の①~④(前回参照)の各段階において、次のような問題が存在しており、このことが暗号資産の損益計算を一層困難なものにしている。 なお、次に示す問題は、納税者が複数のDEXやプライベートウォレットを利用している場合にはさらに深刻化する。とりわけ、取引経路が分散しているほど、取引履歴の連続性が断絶しやすく、取得価額や保有数量の一貫性が損なわれるリスクが高まる。 ① 取引所やブロックチェーンからデータを取得等 「CEXやブロックチェーンごとにデータの取得方法等が異なる場合」があることに注意を要する。 「海外CEXやDEXによっては、日本語のサポートがなく、日本の税法に基づく損益計算にも対応していない場合」もある。このような場合には、データの取得等に手間取る可能性がある。 より深刻なのは「データを取得できない場合」があるという問題である。その要因として次のようなものがある(※1)。 (※1) CEXの本人確認手続が厳格化され、利用者において完了した本人確認手続のレベルに応じて、過去の取引データへのアクセスが制限される場合もあるが、この場合は本人確認手続のレベルを進めて完了することにより、データへのアクセスが可能となる。 (※2) 藤本剛平「暗号資産(仮想通貨)の税金計算までの流れと所得区分」税経通信80巻2号(2025)62-66頁参照。 特に、 CEXの破綻やアカウント凍結等により履歴が消失した場合、納税者側で合理的説明資料を用意できなければ、取得価額や保有数量の立証が困難となり、適正な損益計算そのものが不可能となるおそれがある。結果として、税務当局による推計課税や不利な認定を受けるリスクも増加する。 このような場合、実務上は、銀行口座の入出金履歴、ブロックチェーン上の送金ログ、ウォレット残高履歴、当時の取引画面や資産管理画面のスクリーンショット、約定メール、当時の市場価格データなどを確認し、それぞれの資料が示している事実を時系列に並べ直していくことになる。 例えば、次のような資料をつなぎ合わせることで、一連の取引の流れを具体的に説明する。 さらに、可能な限り、年末時点のウォレット残高やブロックチェーン上の残高を証明し、数量の整合性を検証することで、取得・移転・保有の連続性を補強する。 このように、単一の資料だけで完結させるのではなく、複数の資料を組み合わせて「いつ・いくらで取得し・どこへ移転し・年末にどのくらい保有していたのか」を具体的かつ合理的に示していくことが実務上のポイントである。 もっとも、このような推算はあくまで「合理的説明」にとどまるため、資料の保存状況や整合性の程度によっては、税務当局との見解の相違が生じる余地がある。 なお、暗号資産の売買による収入金額の5%相当額を取得価額として計算する方法を採用する場合には注意が必要である(本連載第9回参照)。   (了)
#680(掲載号)
#泉 絢也
2026/08/06
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

《税務必敗法》 【第14回】「電子申告義務の判定を誤った」

《税務必敗法》 【第14回】 「電子申告義務の判定を誤った」   公認会計士・税理士 森 智幸   【事例】 株式会社A社は資本金3億円の製造会社である。A社の決算期は3月であり、申告期限は法人税・消費税ともに1か月延長の適用を受けている。なお、A社はグループ通算制度適用法人ではない。 A社は業績不振のため×8年6月24日の定時株主総会で減資することを決議し、減資後の資本金は9,000万円となった。 併せて、税務顧問料節減のため、×8年7月より、税務顧問を準大手税理士法人から地元のX会計事務所へ切り替えた。 しかし、引継ぎに際して、X会計事務所の担当税理士甲は、6月の減資決議を受けて資本金が9,000万円となったA社は大法人ではなくなったと誤認してしまった。 また、X会計事務所はこれまで大法人の申告経験がなかった。税金の申告については電子申告を行っているものの、会計ソフトと申告ソフトが別ベンダーであり、財務諸表については、電子データで作成すると工数がかかるうえ、入力ミスのリスクもあるため、書面で別途郵送する方式を採っていた。 翌×9年6月下旬、A社の定時株主総会終了後、甲は申告期限までに法人税及び消費税の確定申告書を電子申告し、財務諸表は他の顧問先と同様、所轄の国税局の業務センターへ書面で郵送した。 しかし、×9年7月上旬、所轄税務署からX会計事務所に電話があり、以下の内容を告げられた。 「A社は×8年度開始時点で資本金が1億円を超えていましたので、×8年度は電子申告義務対象法人です。今回、財務諸表を書面で郵送いただいていますが、財務諸表も電子提出をお願いします。」 この時点で甲は、A社は×8年度も大法人であり、添付書類も電子提出しなければならないことに初めて気付いた。 甲はA社に対して経緯を説明したうえで謝罪した。すると、A社の経理担当役員から次のようなクレームを受けた。 「無申告扱いにならなかったとはいえ、こういったことは事前に確認できなかったのでしょうか。当社も先生と相互に確認しなかった点に落ち度はあると思います。しかし、『安かろう悪かろう』とは申しませんが、もう少し品質管理を徹底していただきたいと思います。」 その後、A社との顧問契約は継続したものの、翌年の契約更新前、A社から契約解除を告げられた。   1 はじめに 本連載は、税務を行う上で「これをやったら失敗する」という必敗法を紹介するものである。今回は「電子申告義務の判定を誤った」である。 資本金の額等が1億円超の株式会社など一定の内国法人は電子申告が義務化され、電子申告義務がある法人は、申告書だけでなく、財務諸表、勘定科目内訳明細書などの添付書類もすべて電子提出する必要がある。 また、電子申告義務の要件となる資本金の額等は、事業年度開始の時点で判定する。 これらの点は国税庁が2025年7月に公表した「大法人等の皆様!!電子申告義務化に対応できていますか?」というリーフレットにも記載されているので参照されたい。 本稿では、①電子申告義務の判定のタイミングを誤る失敗、②添付書類の電子提出の体制が未整備であることに起因する失敗の2つの視点から論じる。 なお、本稿は私見であることにご留意いただきたい。   2 電子申告義務の概要 令和2年4月1日以後に開始する事業年度及び課税期間から、一定の法人は電子申告義務が課されることになった(法人税法75条の4、消費税法46条の2など)。 対象税目は法人税及び地方法人税並びに消費税及び地方消費税であり、対象法人は資本金の額等が1億円を超える法人やグループ通算制度適用法人などである。   3 電子申告義務の対象となる書類 電子申告義務がある法人は、申告書に加えて、財務諸表・勘定科目内訳明細書・会社事業概況書なども電子提出しなければならない。 なお、財務諸表などはPDF形式での提出は認められていないので注意が必要である。   4 資本金額の判定のタイミング 電子申告義務の対象法人には、資本金の額等が1億円を超える法人やグループ通算制度適用法人などがあるが、資本金の額等は事業年度開始の時で判定する。 つまり、期首時点で資本金の額等が1億円超であれば、期中で減資をして資本金の額等が1億円以下となっても、その事業年度及び課税期間は電子申告義務があるので注意する必要がある。 なお、外形標準課税の場合は事業年度終了の日における資本金の額等で判定する。他の制度と混同して思い違いをしないよう、会計事務所内でも内部チェックを行っておくことが望まれる。   5 電子申告義務を履行しなかった場合の影響 (1) 無申告加算税の対象 申告書を申告期限までにe-Taxではなく書面で提出した場合、無申告として取り扱われる。そのため、無申告加算税の対象となる。 (2) 青色申告の承認の取消対象 2期連続で無申告となると、青色申告の承認の取消対象となる(法人税法127条1項4号、事務運営指針「法人の青色申告の承認の取消しについて」4)。 (3) 顧問先からの信頼失墜と契約解除のリスク 無申告扱いとなった場合はもちろん、事例のように大法人に対応できないと判断された場合にも、顧問契約の解除につながる恐れがある。   6 添付書類のみの電子提出漏れの取扱い ここで、【事例】のように、申告書は電子申告しているものの、添付書類を書面提出してしまった場合はどうなるのか、気になる読者もいらっしゃるだろう。この点については国税庁のサイトを見ても明確な記載はない。 筆者の経験では、契約前、申告書本体は電子提出していたものの、財務諸表は法令上認められていないPDF添付で提出していた大法人があったが、無申告扱いにはなっていなかった。 あくまで一事例に基づく私見であるが、申告書本体を電子提出していれば、添付書類を誤って書面で提出しても、現状は無申告扱いにはならない運用のようである。 もっとも、これは制度の建付けと実際の運用に乖離があるともいえ、今後、厳格化される可能性は十分にある。仮に、添付書類の電子提出漏れも無申告扱いとなれば、無申告加算税の対象となりうる。添付書類も含めてすべて電子提出できる体制を早期に整備しておきたいところである。 また、【事例】のように、無申告とはならない場合でも、会計事務所が大法人に対応できない体制と見られると、信頼を失い契約解除となる可能性もある。   7 税理士職業賠償責任保険との関係 前述のとおり、無申告扱いとなった場合、無申告加算税が課される可能性がある。しかし、無申告加算税に相当する損害は、税理士職業賠償責任保険の保険金の支払い対象とはならない。そのため、損害相当額は自己負担となってしまうので、その点も注意されたい。   8 対策 (1) 電子申告義務対象法人の範囲を事務所内で管理する 前述の国税庁のリーフレットでも「特に多い誤り」として「そもそも、自社が電子申告義務化対象法人であることを認識していない。」という点が指摘されている。 会計事務所においても、顧問先が電子申告義務対象法人であるか否かを、担当者任せにしないで、会計事務所内で一元的に管理することが望まれる。 (2) 引継ぎ時のチェックリストを整備する 新規契約する際には、資本金の額を確認することもチェックリストに入れるとよいであろう。具体的には、株主資本等変動計算書などの財務諸表、別表一の資本金の欄、履歴事項全部証明書の資本金の推移を確認することが考えられる。 (3) 添付書類も電子提出できる体制を整備する 現在は、大法人等が電子申告義務の対象となっているが、今後、対象範囲が拡大することも考えられる。財務諸表を書面提出している会計事務所も一定数存在すると思われるが、対象拡大も想定して、徐々に電子化へシフトしていくとよいであろう。 (4) 互換性のある会計ソフトが多い申告ソフトを導入する 会計ソフトと申告ソフトが同一ベンダーであれば、財務諸表の電子作成は容易だが、別ベンダーの場合、データのインポートや直接入力が必要となる。 特に、直接入力は工数がかかり、しかも入力ミスのリスクがあるので、なるべく避けたいところである。申告ソフトの選定にあたっては、互換性がある会計ソフトが多いものを選ぶとよいであろう。   9 終わりに 今回は、電子申告義務の対象となる法人とその判定のタイミングに関する留意点を述べた。 国税庁は税務行政のDX化を推進している。将来、電子申告義務の対象範囲が拡大した場合や、添付書類の電子提出漏れに関する運用が厳格化された場合であっても対応できるよう、体制を整備しておきたいところである。 加えて、無申告加算税は税理士職業賠償責任保険の対象外であることも認識しておいていただきたい。 本稿が皆様の実務のご参考になれば幸いである。 (了)
#680(掲載号)
#森 智幸
2026/08/06
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第66回】「キャプティブ再保険に係る非関連者基準の収入保険料の範囲」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第66回】 「キャプティブ再保険に係る非関連者基準の収入保険料の範囲」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 外国子会社合算税制の非関連者基準を満たすか否かの判断に当たり、キャプティブ再保険の契約当事者が、外国の監督官庁の承認を得た上で、再保険契約等の内容を遡及的に修正することにより非関連者基準を満たすとすることは認められるのでしょうか。 〔A〕 令和7年6月5日の裁決事例では、非関連者基準の判断は外国関係会社の事業年度ごとに行うこととされており、変更後再保険契約が締結されたのは当該外国関係会社の事業年度終了後であり、各事業年度において有効に存在していたのは変更前の再保険契約であることから、変更前の再保険契約に基づいて、当該外国関係会社の収入保険料の金額を判断するのが合理的であるという考え方が示されました。 ●●●〔解説〕●●● 1 非関連者基準 「非関連者基準」とは、各事業年度において、主たる事業が、卸売業、銀行業、信託業、金融取引業、保険業、水運業又は航空運送業又は物品賃貸業(航空機の貸付けを主たる事業とするものに限る。)のいずれかに該当する外国関係会社について、その事業に係る一定の取引を、主として関連者以外の者(非関連者)との間で行っていることを要件とするものである。 これらの事業にこの基準を適用することとされたのは、その事業活動の範囲が必然的に国際的にならざるを得ず、これらの事業を営む特定外国子会社等に対して、地場経済との密着性を重視する所在地国基準を適用することには無理があり、それよりもその事業の大宗が関連者以外の者との取引から成っているかどうかで判断するのが適当であろうと考えられたためである。その事業を専ら関連者との取引に頼っているような場合においては、その地に所在していることについての税以外の経済的合理性は極めて希薄であると考えられ、この基準は、租税負担割合の低い国又は地域を利用した租税回避が関連者取引を通じて行われることが通例であり、また、諸外国の立法例においても関連者取引が課税要件の重要な構成要素となっていること等が背景となって設けられたものである(※1)。 (※1) 高橋元監修「タックス・ヘイブン対策税制の解説」(清文社、昭和54年1月)134頁参照 外国関係会社の関連者以外の者との取引の判定には、業種別に基準が示されており、保険業については、収入保険料の合計額のうち、関連者以外の者から受ける収入保険料の割合が50%以上であることとされている(措令39の14の3㉘五)。なお、ここでいう収入保険料が、再保険に係るものである場合には、関連者以外の者が有する資産又は関連者以外の者が負う損害賠償責任を保険の目的とする保険に係る収入保険料に限られる(※2)(措令39の14の3㉘五イ括弧書き)。 (※2) 日産自動車事件に係る本稿第32回及び第44回参照 以下では、非関連者基準の判定において、収入保険料の範囲が争われた裁決例を検討する。   2 裁決例 《国税不服審判所令和7年6月5日裁決(TAINSコード:J139-3-07)》 (1) 事案の概要 本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)に係る外国関係会社は、その主たる事業が保険業であり、いわゆる非関連者基準を満たさないことから、請求人に係る対象外国関係会社に該当し、外国子会社合算税制の適用があるなどとして法人税等の更正処分等を行ったのに対し、請求人が、原処分庁が前提とした法律関係を変更する旨、関係当事者が合意したことなどから、当該外国関係会社は非関連者基準を満たし、請求人に係る対象外国関係会社に該当しないため、外国子会社合算税制の適用はないなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。 取引の概要は下図のとおり。 請求人の自社キャプティブ保険会社である米国法人K社(外国関係会社)は、スポンサードキャプティブ保険会社(M社)を通じて(※3)、非関連者である各U社と請求人に係る保険リスクを引き受ける再保険契約(契約②)を締結し、請求人の特定の保険リスクについてM社を通じて非関連者であるR社に譲渡し(契約③)、R社により引き受けられた非関連者のリスクと交換する契約を締結した(契約④)。契約③では、契約②の保険責任の81%(又は51%(※4))をR社に出再することとされていた。 (※3) 裁決書には、「(米国ハワイ)州法上、K社は直接保険リスクを引き受けることができず、本件参加合意書によってM社を通じて一部の保険リスクを引き受けることになる」という記述がある。 (※4) 平成元年元受保険契約に係る保険責任の割合。他の年度は81%。 本件に係る事業年度終了の後、M社は、K社のため、契約②により引き受ける保険責任を19%(又は49%)とする修正に合意した(変更後再保険契約)。同時に、R社は、各U社との間で、契約②によりM社がK社のために引き受ける保険責任の81%をR社が譲り受ける旨合意した。 (2) 争点と請求人の主張 K社各事業年度において、K社は、非関連者基準を満たすか否か。具体的には、本件各K社事業年度におけるK社の収入保険料のうちに、K社の非関連者から収入する収入保険料の額の占める割合が100分の50を超えるか否か(他の争点は省略)。 請求人は、(1)契約②及び契約③によれば、K社は、請求人に係る保険リスクのうち19%(又は49%)を引き受け、その割合に相当する経済的利益が帰属する、(2)関係当事者が真に意図していたのは、最終的にK社は請求人に係るリスクのうち一部のみを引き受けるものであった、及び(3)請求人に係る保険リスクの一部をR社に移転するための保険料を除いた金額を前提として非関連者基準を判断すべきであると主張した。 (3) 審判所の判断 審判所は、M社は、K社のために各U社との間で、契約②を締結しているところ、契約②に係る各COVER NOTE(筆者注:保険で損害が担保されることを証明する書類)には、契約②により各U社が譲渡する保険責任の割合やその対価である再保険料の金額が明示されており、契約②により移転する保険責任の割合やその対価である保険料の金額が一部であることを示す記載は見当たらず、契約の各締結日において、COVER NOTEの記載どおりの合意が成立し、その合意が、変更後再保険契約の締結まで存続していたと認められると事実認定した。 そして、非関連者割合の判断は外国関係会社の事業年度ごとに行うこととされており、変更後再保険契約が締結されたのは、K社事業年度の終了後であって、本件各K社事業年度において有効に存在していたのは変更前の各COVER NOTEの記載どおりの契約②であるとした。その上で、「このことは、(中略)各K社事業年度の後にハワイ州保険局が契約②の変更を承認したとしても変わるものではない。加えて、変更前の契約②による法律関係を基礎とすることが不当であると認められるような特段の事情も認められないことからすれば、本件においては、変更前の契約②に基づいて、K社事業年度におけるK社の収入保険料の額を判断するのが合理的と認められ、請求人の主張は理由がない。」と説示し、請求を棄却した。 (4) 検討 本件はその後、東京地裁に提訴され、令和8年5月14日付で判決が下された。 東京地裁は、非関連者基準にいう「収入保険料の合計額」は、保険業を営む外国関係会社が、当該保険業に基づいて収受する保険料の総額をいうものという考え方を示し、K社が各U社との間で締結した契約②と、R社との間で締結した契約③は別個の契約であり、その保険料の支払義務又は請求権も別個に発生するものであるとした(下線筆者)。以上の事実から、各U社再保険料は、契約②に基づき、その全額がK社に帰属し、K社各事業年度の収入保険料を構成するものと認めるのが相当であり、契約④及びこれに基づく再保険料の帰属は、上記認定を左右するものではないと判示し、その結果K社の収入保険料のうちにR社再保険料(非関連者に係るもの)の占める割合は50%以下となり、K社は非関連者基準を満たさないと結論付けた(※5)。 (※5)  T&Amaster No.1124(2026年6月1日)40~41頁参照 なお、かかる第一審で原告は、①キャプティブ保険子会社の保険料収入の過半は、関係者以外の保険リスクにかかる再保険料収入が占めるとの趣旨の事前説明を受けていた、②スポンサードキャプティブ保険会社は、ハワイ州の保険当局に対し、各U社からK社への直接の出再を内容とする契約内容変更の承認を事後的に申請し、合意書を作成していたなどと主張したが、地裁は、上記の事前の説明や事後の変更承認の申請及び合意書の作成は、これらの各契約の経済的効果が、K社の引き受けた原告の関係者に係る保険リスクの一部をR社が引き受け、当該保険リスクを分散したものであったことを示すに過ぎないとして、これを排斥している(※6)(下線筆者)。 (※6) 同上(※5)   (了)
#680(掲載号)
#霞 晴久
2026/08/06
会計 税務・会計 解説 解説一覧

〈会計基準等を読むための〉コトバの探求 【第12回】「「会計処理の原則及び手続」の定義」

〈会計基準等を読むための〉 コトバの探求 【第12回】 「「会計処理の原則及び手続」の定義」   公認会計士 阿部 光成   ◆はじめに 「会計方針」は、財務諸表に注記され、また、それを変更する場合には、正当な理由が必要になるなど、会計において、重要な概念である(「会計方針の開示、会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)4-4項、5項、「企業会計原則」注解(注1-2)重要な会計方針の開示について、(注3)継続性の原則について)。 「会計方針」の定義では、「会計処理の原則及び手続」の用語が使用されているが、今回は、その定義について取り上げる。   ◆「会計方針」の定義 「会計方針」とは、財務諸表の作成にあたって採用した会計処理の原則及び手続をいう(過年度遡及会計基準4項(1))。 「企業会計原則」では、「会計方針とは、企業が損益計算書及び貸借対照表の作成に当たって、その財政状態及び経営成績を正しく示すために採用した会計処理の原則及び手続並びに表示の方法をいう」と規定されている(「企業会計原則」注解(注1-2))。 また、「継続性の原則」に関して、「いったん採用した会計処理の原則又は手続は、正当な理由により変更を行う場合を除き、財務諸表を作成する各時期を通じて継続して適用しなければならない」との規定がある(「企業会計原則」注解(注3))。 いずれも、「会計処理の原則及び手続」の用語が使用されているが、その定義は見当たらない。 過年度遡及会計基準の開発当時(2009年12月4日公表の「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」)、日本公認会計士協会の委員会で、「会計処理の原則及び手続」の定義はどうするのかと発言したことを覚えているが、特段の深い議論はなかったと記憶している。   ◆「会計処理の原則及び手続」の定義はあるか 私が前述の発言をしたのは、新井清光早稲田大学教授(当時)の「重要な会計方針」に関する次の説明があったからである。 新井清光教授は、「重要な会計方針」の定義は、従来、企業会計原則上用いられている「会計処理の原則及び手続」とどのような違いがあるのかなどの議論を説明し、そして、「従来用いられ、かつ、一般に理解されているとおりのものとして「会計処理の原則及び手続」という語を用い、従来同様、あえてその厳密な定義を加えることを避けることとし」たと述べている(『現代会計学の動向〔Ⅰ〕財務会計』(黒澤清、染谷恭次郎、若杉明編)、新井清光稿「第2章企業会計原則論、第5節「企業会計原則」および「注解」の修正、4注記事項」101ページ、中央経済社、1988年9月)。 このため、現在でも、「会計処理の原則及び手続」の定義はないものと解される。   ◆実現主義の原則などはある では、「会計処理の原則及び手続」の定義がないと困るのだろうか。 「企業会計原則」は、売上高は、実現主義の原則に従い、商品等の販売又は役務の給付によって実現したものに限るとして、「実現主義の原則」を規定している(「企業会計原則」第二損益計算書原則三のB、注解(注6)実現主義の適用について)。 また、資産の取得原価は、資産の種類に応じた費用配分の原則によって、各事業年度に配分しなければならないとし、定額法、定率法等の一定の減価償却の方法が規定されている(「企業会計原則」第三貸借対照表原則五、注解(注20)減価償却の方法について)。 商品、製品、半製品、原材料、仕掛品等のたな卸資産については、個別法、先入先出法、後入先出法、平均原価法等の方法を適用することが規定されている(「企業会計原則」第三貸借対照表原則五のA、注解(注21)たな卸資産の貸借対照表価額について)。 このように見ていくと、実現主義の原則、費用配分の原則、減価償却の方法、個別法、先入先出法、後入先出法、平均原価法等の方法が規定されていることから、「会計処理の原則及び手続」の定義がなかったとしても、一定の判断を行うことは可能であり、実務上、判断に迷う場面はあるとしても、それほど、困らないのではないだろうか。私は、このように考え、それ以上の発言は行わなかったのである。   (了)
#680(掲載号)
#阿部 光成
2026/08/06
労働基準関係 労務 労務・法務・経営

税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A【第3回】「実施規程の策定・運用と明文化による効果」

税理士事務所のためのストレスチェック制度導入Q&A第3回 実施規程の策定・運用と明文化による効果社会保険労務士富山 直樹    QUESTION 当事務所は小規模であったため、これまでストレスチェックを行っていないのですが、導入にあたっては事前にルール等を定めなければいけないのでしょうか。  ANSWER  実施に当たって、事前のルール(実施規程)を作成する必要があります。 厚生労働省から公表されている小規模事業者向けマニュアルにも「ストレスチェック制度実施規程のモデル例」が掲載されています。 「では、それをそのまま使えばいいのね!」と思われるかもしれませんが、目的や要点についてしっかりと理解した上での策定・運用ができるよう、以下で解説いたします。 ― 解 説 ― 1目的 小規模事業所においては、プライバシーの壁が極めて薄い状態にあることが多い。 「誰がストレスを抱えているのか?」「誰が医師の面接を希望したのか?」が筒抜けになってしまう恐れがあるほか、「誰が情報を管理するのか?」といった内容を厳格に定めておかねば、従業員の正直な回答が得られない、受検を拒否されるというリスクも考えられる。 ストレスチェックは原則として、「検査結果は本人の同意がない限り、代表や上司に開示してはならない」「結果によって不利益な取扱いをしてはならない」ことになっている。 というルールをきちんと明文化することで、従業員の方に安心して受検してもらい正直な回答を得ることが肝要である。 ストレスチェックは、労働者のメンタルヘルス不調を未然に防止する一次予防を目的としたものであり、まずは労働者の心身の不調を可視化し自認することで、更なる悪化を防ぐ目的につなげるためにも、安心して正直な回答が得られる前提を作ることが、実施規程作成の重要な目的の一つであると言える。 また、会社が一方的にルールを制定するのではなく、従業員と相談のうえ決めるというプロセスも、より安心感につながると考えられる。   2定めるべき項目 社内ルールとして定める場合、次の項目について定めることが望ましいとされている。 各項目について、より具体的にどのような内容が必要なのかは次のとおりである。 ① 実施体制 ・実施者(委託する外部事業者の名前) ・社内での担当者(委託先外部事業者との連絡調整を行う従業員) ・医師の面接が必要な場合、どこに依頼するのか(専属の産業医、地さんぽ等) ② 実施方法 ・実施頻度(年に1回、時期を決めて実施) ・調査内容(外部委託業者と相談のうえ決定) ・外部委託業者が調査票の配布・回収・データ入力を行い、結果は本人のみに通知されること ・ストレスチェックの結果、高ストレスと判定された者は、申し出て医師の面接を受けることができること ・会社は外部の委託業者から集団分析の結果提供を受け、職場環境の改善に活用すること(※ただし、従業員10人未満の場合は個人が特定される恐れがあることから、集団分析結果の提供を受けてはならない。) ③ 記録の保存 ・法定保存期限5年間(会社または委託事業者のどちらで保存されるのか) ④ 情報管理 ・結果は本人にのみ通知され、本人の同意なく会社が知ることはないこと ・面接指導の申出があった場合や、本人の健康管理の目的の範囲で面接指導の結果(医師からの意見書)について知ることになるが、それ以外の目的には使用しないこと ⑤ 情報の開示・苦情処理 ・ストレスチェックに関する情報開示請求、および苦情についての社内相談窓口はどこになるのか。 ⑥ 不利益取扱いの禁止 ・ストレスチェックは受検自体が任意であること ・受検をしないことでの不利益な取扱い(配置転換、昇進、評価)はないこと ・面接指導を申し出たことによる不利益取扱いもないこと   【補足「実施規程の周知方法」】 ― ま と め ― 定めるべき事項として、筆者は特に「④、⑤、⑥」が重要になると考える。従業員に安心して正直な回答をしてもらえなければ、そもそもストレスチェックを行う意味がなくなってしまう。 そして、項目の中で目に留まったと思うが、外部事業者との関係性もポイントになってくる。小規模事業所において、会社が実施者のポジションを担うことはそれこそプライバシーの問題から現実的ではなく、外部事業者との連携が必須と言える。 「では、その外部事業者はどこに依頼すれば良いのか?」 そうした疑問はもっともである。 本稿をご覧の方々は、おそらく従業員50人未満のこれまでストレスチェックの対象とはされていない、産業医の選任義務もない事業所の方々ではないだろうか。 そうした事業所向けに、「① 実施体制」に記載した「地域産業保健センター (通称:地さんぽ)」は、各地域に設置されている小規模事業所向けの産業保健指導サービスを提供する機関であり、ストレスチェック導入にあたっての個別訪問による支援サービスも始まっている模様である。 そして、こうした小規模事業者向けに、産業医サービスやストレスチェックの実施支援を行っている企業は、実は結構な数が存在する。産業医、保健師等の産業保健スタッフの紹介からストレスチェックの実施支援、会社の健康管理相談を承るような事業を行っている会社があり、筆者も懇意にしている会社がいくつかある。筆者顧問先の大部分を占める労働者数50人未満の会社からの希望により紹介を行うこともあり、中には、労働者数10名程度でも健康管理意識の高さから、紹介を希望されたケースもある。 ストレスチェックのみを実施してくれるようなサービスもあるので、準備期間である今のうちに余裕を持って選定を行い、自社に合うサービスに出会えたのであれば早めの相談を推奨したい。 (了)
#680(掲載号)
#富山 直樹
2026/08/06
労務・法務・経営 法務

空き家をめぐる法律問題 【事例78】「土地所有者が空き家の収去を求める相手方について」

空き家をめぐる法律問題 【事例78】 「土地所有者が空き家の収去を求める相手方について」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私の所有地上に、長期間使用されていない老朽化した空き家が建っています。建物の登記簿を確認するとA名義であったため、Aに建物の収去を求めたところ、Aからは「既にBに売却したので応じられない」との回答がありました。また、AにBの所在等を尋ねましたが、特に回答してもらえませんでした。 このような場合、誰を相手に建物の収去を求めたらよいでしょうか。   1 検討の視点 土地所有者が土地上の建物の収去を求める場合、誰を相手方とすべきかが問題となる。一般に、物権的返還請求権の相手方は、無権限で他人の物を現に占有している者であるため、建物を所有することによって土地を占有している者が相手方になると考えられる。もっとも、土地所有者が現在の建物所有者を特定することが難しい場合もある。そこで、本件では、このような場合にどのように対応すべきかを検討する。   2 物権的返還請求権の相手方 上記1のとおり、所有権に基づく物権的返還請求権の相手方は、現にその物を占有している者である。したがって、原則として、現在の建物所有者が請求の相手方となり、登記簿上の名義人が既に建物の所有権を譲渡している場合も、現在の建物所有者を相手方とすることになる。 もっとも、不動産の所有権は当事者の意思表示だけで移転し得るものであるため、過去の経緯が明らかでないような場合には、土地所有者が現在の建物所有者を特定することが困難なこともある。 この問題に関して、判例上、未登記建物が未登記のまま譲渡され、その後、譲渡人の意思に基づかずに譲渡人名義の登記がされた事例や、登記名義人に土地の占有権原がなかった事例では、土地所有者は現在の建物所有者を相手方とすべきものと解されていた。 これに対し、建物所有者が相続による所有権移転登記をした後、第三者に譲渡したものの所有権移転登記をしていなかった事例では、判例は、「建物の所有権を取得した者が自らの意思に基づいて所有権取得の登記を経由した場合には、たとい建物を他に譲渡したとしても、引き続き右登記名義を保有する限り、土地所有者に対し、右譲渡による建物所有権の喪失を主張して建物収去・土地明渡しの義務を免れることはできない」と判示している(最判平成6年2月8日参照)。 この平成6年判例は、土地所有者が、建物の譲渡による所有権喪失を否定してその帰属を争う関係を民法第177条の対抗関係に類似するものと捉えた上で、自己名義で登記をしておきながら所有権喪失を主張し、収去義務を免れようとすることは信義則に反することを理由に、登記名義人を相手方とすることを肯定したものである。 この判例によれば、自ら登記を備えた建物所有者がその後に所有権移転登記をしていない場合には、登記名義人に対して建物の収去を求めることができる。なお、裁判で登記名義人に建物収去が命じられたとしても、その者に収去権限がないと考えられるため、登記名義人が現在の建物所有者と協議して対応するか、それが難しいときは、土地所有者が代替執行により収去を実現し、事後的に費用負担の問題として処理することになると考えられる。   3 所有者不明建物管理人の活用 上記2の方法に加え、土地上の建物の所有者又はその所在が不明な場合には、土地所有者等の利害関係人が、裁判所に所有者不明建物管理人の選任を申し立てることも考えられる(民法第264条の8第1項)。ここでいう所有者は実際の所有者を指し、登記簿上の名義人を意味しない。そのため、登記簿上の名義人が判明しているからといって、所有者が不明な場合に該当しないことにはならない。 所有者不明建物管理人には、建物の管理・処分権限が専属し、裁判所の許可を得れば、建物の売却などの処分も可能であるため(民法第264条の8第5項、同第264条の3)、上記2の方法よりも、時間的・労力的負担を軽減できる可能性がある。   4 本件において 本件では、空き家の登記名義人はAであるが、Aは「既にBに売却した」と回答している。そのため、まずはAが実際に建物をBへ譲渡したか否かを確認する必要がある。もっとも、Aが自らの意思で建物の所有権登記を備え、その後も登記名義を保持しているのであれば、Aに対して建物収去・土地明渡しを請求できると考えられる。 この場合、Aに対して、Bとの売買契約書、引渡しの有無、代金支払の有無、Bの住所・連絡先等を確認しておくべきである。本件のようにAがBに関する情報開示に協力しない場合には、所有者不明建物管理人の選任申立ても視野に入ってくるため、所有者の特定に関する情報や確認をした経過等を証拠化しておくことが有益である。 Bの所在や現在の所有者が判明せず、Aに請求をしてもAが任意の収去に応じない場合には、Aに対する判決を得ても実効性を欠く可能性がある。また、Aの所在・資力・態度等から訴訟や民事執行による解決に相当の時間や費用を要すると見込まれる場合には、所有者不明建物管理人の選任申立てが有力な選択肢となる。管理人が選任されれば、必要に応じて裁判所の許可を得て建物の処分を進められるため、実際の所有者の所在が不明な空き家について、売却や収去等を比較的円滑に進めやすくなると考えられる。 (了)
#680(掲載号)
#羽柴 研吾
2026/08/06
読み物 連載

〈小説〉『国税審査官エイトの勤務日誌』~ある国税不服審判所の記録~【第7話】「合議体①」

〈小説〉 国税審査官エイトの勤務日誌 ~ある国税不服審判所の記録~ 第7話 合議体① 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   午前10時半から、合議体が始まる。 永途は、コピー機の前で、合議体に配る資料を3部作成している。 合議体のメンバーは、調査部出身の田中担当審判官、徴収出身の木下国税審判官、そして所得税出身の南川副審判官の三人である。そして、事件を担当している永途が論点整理等を説明することになる。 審査請求の審理は、この合議体で行うことになる。 しかし、三人の出身に鑑みると、圧倒的に法人税の知識と経験のある田中担当審判官の結論が合議体の結論になりそうである。 会議室に、永途が、分厚い資料を抱えながら入ると、既に三人は、雑談をしながら、にこやかに座っている。 永途は、慌てて「遅れてすみません・・・」と言うと、三人に資料を配る。 三人は、配られた資料をペラペラと捲り、読み始める。 しばらくすると、田中審判官が 「それでは、この事件について、永途さんに説明して貰おうか・・・」 と言う。 永途は、田中審判官の顔を見て、頷く。 「・・・はい、それでは、この事件の概要について説明します・・・」 永途は、自分の作成した資料を見ながら、説明する。 「・・・この事案は、交際費に関するものですが、論点として、二つあります・・・」 と言いながら、その資料の下に書かれている「争点」について、述べる。 「・・・この事案は、交際費について争われたものですが、二つの争点があります」 そう言うと、永途は、田中審判官をみる。 田中審判官は、黙って、永途の説明を聞きながら、資料を読んでいる。 「・・・この争点①の認定賞与の件だけれど・・・交際費を社長の個人的な支出として、税務署は考えているのですか?」 田中審判官が永途に訊ねる。 「・・・はい、この1,530万円の交際費は・・・更正処分の理由に書いてあるように、社長の個人的な支出であると認定しています」 「・・・何故そのような認定をしたのですか?」 突然、徴収出身の木下国税審判官が永途に訊く。 「・・・ええ、この1,530万円の交際費は、『鬼ババ』という居酒屋の領収書の合計額なんですけど・・・3事業年度ですが・・・」 永途は、資料を見ながら説明を続ける。 「・・・理由書には、具体的に書いてないのですが・・・女将(おかみ)と社長の個人的な繋がりで交際費が支出されていると判断しています・・・」 そのとき、南川副審判官は、 「・・・ということは、社長のコレなんですか?」 南川副審判官は、小指を立てて、顔を崩す。 「・・・おそらく、税務署はそのように判断しているのでしょう・・・ほとんど、社長一人でその『鬼ババ』に通っていますから・・・」 永途の言葉に、南川副審判官は大きく頷く。 「・・・しかし、この会社の支出した交際費は、金額が大きいから、交際費を否認して、認定賞与としても、法人税額そのものは変わらない・・・」 木下国税審判官が、資料を見ながら呟く。 「・・・ええ、共に、交際費も認定賞与も損金不算入ですから、法人税額そのものは変わらないのですが・・・認定賞与の場合、給与所得として、源泉所得税が発生し、更に、消費税上、給与所得は、仕入税額控除になりませんから、その分、所得税や消費税は、納付税額が増えます・・・」 永途は、木下国税審判官に言う。 「・・・税務署は・・・『鬼ババ』に反面調査に行っているのだろうか・・・」 南川副審判官が永途に訊ねる。 「・・・税務署から提出されている書類等の中には、『鬼ババ』の写真が入ってますが・・・女将とバイトの女の子しかいないと記録されています・・・おそらく、お店に直接行かず、お店の外観調査をしたと思われます・・・」 そう言うと、永途は、夜の暗闇に仄かに浮かんでいる「鬼ババ」のケバケバしい居酒屋の写真を見せる。 「・・・このお店は、どこにあるの?」 木下国税審判官は、真面目な顔で、永途に訊く。 「ええ、ここに書かれている住所から推測すると・・・道頓堀のあたりです・・・」 永途がそう答えると、木下国税審判官は、大きく頷く。 「・・・田中審判官・・・今度・・・この『鬼ババ』に飲みに行きましょうか?」 真面目な顔で、木下国税審判官は、直球の田中審判官の顔を見る。 (つづく)
#680(掲載号)
#八ッ尾 順一
2026/08/06
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#Profession Journal 編集部
2026/08/04
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《速報解説》 会計士協会、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」を改正~報酬依存度の計算方法及び支配関係の判断基準に関する設問の見直し等行う~

《速報解説》 会計士協会、「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」を改正 ~報酬依存度の計算方法及び支配関係の判断基準に関する設問の見直し等行う~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2026年7月15日付けで(ホームページ掲載日は2026年7月30日)、日本公認会計士協会は、倫理規則実務ガイダンス第1号「倫理規則に関するQ&A(実務ガイダンス)」の改正を公表した。 これにより、2026年5月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。 これは、報酬依存度に関する会員からの相談が多く寄せられていることに対応するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 倫理規則では、社会的影響度の高い事業体(Public Interest Entity: PIE)の監査において2年連続で報酬依存度が15%を超える場合の開示、5年連続で報酬依存度が15%を超える場合の辞任規定などが規定されている。 報酬依存度に関する会員からの相談が多く寄せられていることに対応して、次のQ&Aの見直し・新設を行う。 (了)
#阿部 光成
2026/07/31
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《速報解説》 監査役協会が「監査役等による会計不正への対応-予兆の早期把握と予防の徹底-」を公表~内部通報制度について親会社主導による統一的な仕組みの構築を提言~

《速報解説》 監査役協会が「監査役等による会計不正への対応 -予兆の早期把握と予防の徹底-」を公表 ~内部通報制度について親会社主導による統一的な仕組みの構築を提言~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   公益財団法人日本監査役協会会計委員会(以下、「会計委員会」と略称する)は、2026年7月28日、「監査役等による会計不正への対応-予兆の早期把握と予防の徹底-」を公表した。 会計委員会は、「はじめに」において、近時の会計不正は、経営者に対するガバナンスの問題や親会社の子会社グループに対するガバナンスの脆弱性に起因すると思われる事案がみられるが、こうした事案は単に一企業の問題にとどまらず、監査役等(監査役、監査等委員及び監査委員をいう)による監査や会計監査、さらには内部統制システムの実効性に対する社会的な信頼にも関わるものであり、市場全体の信頼性にも影響を及ぼす重大な事案であるという認識を踏まえ、改めて監査役等による会計不正への対応の在り方について検討し、会計不正の予兆の早期把握と予防の徹底に向けた提言を行う必要があるとの問題意識を持つに至ったと説明している。 会計委員会による報告書の内容は次のとおりである。 「はじめに」に続く、「昨今の主な会計不正事案の特徴・要点」では、ニデック株式会社、株式会社オルツ、エア・ウォーター株式会社、KDDI株式会社及び株式会社イーエムネットジャパンの5社が公開した調査報告書について、「事実の概要」「主な原因」及び「監査役等に対する提言」がそれぞれコンパクトにまとめられている。 本稿では、「各種会計不正の予兆(黄色信号)を掴むための方法」及び「各種会計不正を防ぐための予防・体制整備について」を中心に、報告書の内容について確認したい。   1 各種会計不正の予兆(黄色信号)を掴むための方法 会計委員会による「各種会計不正の予兆(黄色信号)を掴むための方法」について、まずは、項目ごとに確認したい。 最初に挙げられているのは、「経営トップの誠実性」である。会計委員会は、企業不祥事防止の観点で監査役等としてまず着目すべきは、経営トップが経営姿勢としてコンプライアンスを重視しているかであり、経営理念そのものが経営者の行動を律することにもなるため、経営執行陣、ガバナンスが適切に機能しているかというところも一つの兆候を察知するきっかけとなると説明している。 次いで、「循環取引:について、会計委員会は、循環取引が起こりうる状況として、直接の仕入先や販売先までは把握しているものの、取引の全体像の詳細までは把握していないということを挙げたうえで、監査役等の目線でも、取引の全体像を会社として把握しているかに注意する必要があるとしている。そのうえで、「循環取引を示唆する状況・兆候」について、「事業上の合理性が不透明な取引」「留意すべき取引の特徴」「特定担当者への権限の集中」及び「財務諸表上の数字に表れる特徴」の4項目について、具体的事例を列挙している。 さらに、「会計監査人への不適切な対応」について、会計委員会は、経理部門による会計不正の実行または他部門による会計不正の見過ごしや隠蔽などの場合には、会計監査人への対応が不適切となることがあるとして、次のような状況の有無を会計監査人に確認して、監査役等の立場からも経理部等の対応の合理性について検討することが有用であると説明いている。 また、監査役等の立場から、不正の予防発見のために、執行側に働きかけることが期待されている例として、「業界慣行を安易に正当化せず、他業種の上場会社の実務と照らして一般的であるかを評価すること」や「組織における経理部の地位が低い又は立場が弱い場合には、営業等の他部署に対する統制や牽制が利きにくいこと」を提言することを挙げている。   2 各種会計不正を防ぐための予防・体制整備について 会計委員会による、「各種会計不正を防ぐための予防・体制整備」についても、まずは、報告書の項目を挙げておきたい。 報告書における「各種会計不正を防ぐための予防・体制整備」で最も紙数を割いて説明している項目は、当然のことながら、「監査役会等の監査と会計監査人及び内部監査部門等との連携」である。会計委員会は、この連携に当たって、監査役等は三様監査を統括する意識を持って、主体的な役割を果たすべきであると強調したうえで、監査役等としても必要な情報を積極的に発信していくべきであると提言している。 また、「内部通報制度の整備」の解説の中では、子会社の内部通報制度について、子会社独自の通報制度を整備した場合、従業員数が少ない子会社では、匿名で通報を行ったとしても、職場環境や業務状況等から通報者が特定される可能性が高い。このことが通報に対する心理的障壁となり、結果として通報制度が十分に機能しないという懸念を示したうえで、会計委員会は、子会社を含めたグループ全体としての内部通報制度を確立し、親会社主導による統一的な仕組みの構築が望ましいという提言に導いており、これは新しい論点ではないかと思料する。 また、エア・ウォーター社の事例で、社内リニエンシー制度の導入や少人数制の対話型説明会の実施によって多くの疑義が明るみに出てきたことを取り上げ、平時におけるこうした制度の活用も考えられると説明している点については、筆者も賛同したい。   3 おわりに 報告書の最後に、会計委員会は、昨今、企業を取り巻く環境は複雑化しており、不祥事の未然防止及び透明性の確保に対する社会的要請が一層高まっている中で、監査役等は独立した立場から、経営の実態を的確に把握し、必要に応じて適切な指摘や助言を行うことが期待されているとしたうえで、経営トップによるコンプライアンス軽視の姿勢が認められる場合においても、組織内の力関係や圧力に左右されることなく、監査役等が自らの責務を全うする覚悟を持つことが不可欠であると提言している。 さらに、監査役等は、単なる形式的な監査にとどまらず、実効性のある監査を実現するための主体的かつ強い意志が求められる。今後もその役割の重要性は増していくと考えられるため、継続的な自己研鑽と責任ある行動が期待されるとして報告書を締め括っている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
#米澤 勝
2026/07/31
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