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国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

日本の企業税制 【第152回】「カリフォルニア州の税制改正に対する懸念継続」

日本の企業税制 【第152回】 「カリフォルニア州の税制改正に対する懸念継続」   一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 魚住 康博   先月公開の【第151回】でもご紹介したカリフォルニア州における税制改正を巡る懸念は依然として残っている。その後の州議会での審議については、予算に関する調整が難航しているためか、当初予定されていた5月下旬の州議会下院本会議での審議には至っていない。下院歳入税制委員会での審議において、下院歳出委員会にも付託されたものの、同委員会でのヒアリング日程もまだ確定していない。しかし、海外の報道によると、法人税の抜け穴を塞ぎ、年間30億ドルの税収増を図るとして進歩派が推進する法案は、今後の協議の一環として再浮上する可能性があるとされている。 そこで、現地企業だけでなく海外から進出する企業にとって、ビジネスにおける予見可能性を損ねるだけでなく、潜在的な進出可能性を持つ企業にとっても、カリフォルニア州の進出先としての魅力を大きく毀損する可能性があることから、米国内外の経済界による懸念の声が一層高まっている。 経団連でも6月9日、カリフォルニア州のGavin Newsom知事及びRobert Rivas下院議長ほか幹部宛に公式に懸念を表明するレターを発信した。その概要訳は次の通りである。 これに先立つ5月20日には、欧州36ヶ国に存在する42団体による2,000万の事業を代表する経済団体であるBusinessEuropeが、同じく懸念を表明するレターを発信している。その概要訳は次の通りである。 (了)
#673(掲載号)
#魚住 康博
2026/06/18
法人税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈ポイント解説〉役員報酬の税務 【第81回】「関係会社へ資金移転をした上で役員に支給した金員が源泉徴収対象であるとされた事例」

〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第81回】 「関係会社へ資金移転をした上で役員に支給した金員が源泉徴収対象であるとされた事例」   税理士 中尾 隼大   ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 所得税法における「給与等」の意義 所得税法上、「給与等」の意義は、以下の通り定められている。 そして、給与等の支払いをする者は、以下の通り源泉徴収義務を負うこととなる。 つまり、支払った内容が「給与等」に該当するか否かによって、支給を受ける側では所得税額が、支給する側では源泉徴収義務を負うかどうかが異なることとなる。この判断について、最高裁判決が「給与等」の意義について判示している。具体的には、「給与所得とは雇傭契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付をいう。なお、給与所得については、とりわけ、給与支給者との関係において何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供があり、その対価として支給されるものであるかどうかが重視されなければならない。」とするもの(※1)、「雇用契約又はこれに類する原因に基づき提供された非独立的な労務の対価」とするもの(※2)等がある。 (※1) 最高裁昭和56年4月24日判決(最高裁判所裁判集民事132号619頁)。 (※2) 最高裁平成17年1月25日判決(最高裁判所裁判集民事216号71頁)。 したがって、実務上の判断においては、この内容を基に、事実に照らして判断することとなる。そこで、上記【回答】のように、関連会社を介した資金移動でも「給与等」に該当すると示された事例を以下に紹介したい。   (2) 関係会社へ資金移転してから役員に支給した金員が源泉徴収対象であるとされた事例 このように示された例として、東京地裁令和7年8月6日判決がある(※3)。 (※3)  TAINS:Z888-2896。 本件各送金は、参加人が実質的に支配するグループ企業の中で行われた取引である。そして、納税者が本件各送金を行った際、納税者からAに対する送金と、Aから参加人に対する送金との間に、最長49分しかタイムラグが無かったため、Aは着金直後に参加人に送金しているという事実が指摘されていた。納税者は、本件各送金に係る会計処理について、納税者-A間においてAに対する「未収入金」や「長期貸付金」、及び納税者に対する「仮受金」や「長期借入金」として経理しており、また、A-参加人間において参加人に対する「仮払金」、及び参加人の「事業主借」として経理していたが、課税庁は、実質に着目して各種処分をしたと考えられる。 現に、課税庁は、所得税法28条1項が給与所得に係る包括規定であることに鑑み、「法人代表者が法人経営の実権を掌握し法人を実質的に支配している事情がある場合、…自己の権限を濫用して、当該法人の事業活動を通じて得た利得は、…法人の資産から支出をし、その支出を利得、費消したと認められる場合には、…特段の事情がない限り、実質的に、法人代表者がその地位及び権限に対して受けた給与であると推認することができる。」と主張している。その上で、納税者の上記経理処理を虚偽のものであるとした。 これに対して、納税者は、学校法人の寄附行為に競走馬事業等を行う旨の規定がない中で、参加人が本件各金員を趣味である競走馬の購入費用に充てたこと、納税者が本件各金員を支給することについて理事会等で決議されていないため所得税法183条1項の「給与等の支払いをする者」に当たらないこと、本件各送金は参加人の権限を逸脱又は濫用して行ったものであるため横領行為であり労務の対価とはいえないこと等を主張した。また補助参加した参加人は、本件各送金をそれぞれ貸借関係にあったと主張し、現に参加人がAに対して、そしてAが納税者に対して、適宜返済している旨を主張した。 このような両者の主張に対して、裁判所は上記の通り示し、納税者の主張を退けた。   (3) 本件裁判例の意義 本件裁判例は、給与等の意義につき上記最高裁判決等を引用し、当該「給与等」の意義に基づき、事実認定に照らして結論を示している。その結果、本件各金員が給与等に該当し、本件各金員が不規則・臨時的支給であるため、給与等のうち賞与に当たるとされている。 本件裁判例は、グループ内の医療法人Aを介し、かつ納税者-A-参加人のそれぞれが貸借と認識し、その旨の経理処理がなされたという前提があったとしても、実質的に給与等に該当すると示された点に意義があるといえる。なぜなら、「本件のような当事者間で金銭消費貸借が成立している場合に本件のような給与所得課税を行う場合には、当該私法上の取引を否認するために、当該金銭消費貸借が仮装行為であると認定するか、同族会社等の行為計算の規定を援用するかの方法がとられてきたが、本件のように、それらの規定等を援用せず直接給与所得課税を行うことはむしろ稀であると考えられる」との指摘があるように(※4)、実質的な支配者による資金移転であることを踏まえ、給与等に当たるとされているのである。この点について、裁判所が、「客観的に給与等に該当する性質の経済的利益を意思に基づいて移転させる行為が認められれば足り、必ずしも私法上有効であることを要しないと解するのが相当である」としたことから垣間見ることができよう。 (※4) 品川芳宣「関係法人間の資金移転における役員給与(源泉徴収義務)の認定と隠蔽・仮装」T&A master 1111号。品川氏は、「もっとも、本件においては、X(筆者注:納税者)の主張と甲(参加人)の主張に一貫性がなかったことに問題があった」としている。 このように、本件裁判例の上記の考え方は、同様のグループ内企業間の取引において、リスク評価に当たって参考となるといえる。その理由は、グループ内企業において、金員の移動を貸借関係として整理し、その金員が役員への外形的な貸付となり得るケースは存在するためである。特に、個人株主を頂点とする兄弟会社間には、グループ法人税制による寄附金の全額損金不算入及び受贈益の益金不算入の適用がされず(法法25条の2、同法37②)、受贈益課税を回避するため、貸借関係として整理することが考えられる。このような場合においても、金員の流れの背景に、支配的な役員に対する資金移転の実質が認められる場合には、本件のように給与等と認定されるリスクがあることを、実務上十分認識しておく必要がある。 (了)
#673(掲載号)
#中尾 隼大
2026/06/18
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〔実務で差がつく!〕相続時精算課税制度Q&A 【第7回】「相続時精算課税制度の住宅取得等資金贈与特例を利用した場合の相続税の取扱い」~平成15年から平成21年までの住宅取得等資金贈与特例の留意点~

〔実務で差がつく!〕 相続時精算課税制度Q&A 【第7回】 「相続時精算課税制度の住宅取得等資金贈与特例を利用した場合の相続税の取扱い」 ~平成15年から平成21年までの住宅取得等資金贈与特例の留意点~   税理士 徳田 敏彦   【Q】 〔Q1〕 子Bは父Aから平成17年4月に住宅を建築するために3,500万円の贈与を受けた。子Bはその贈与について、相続時精算課税制度を選択した。 その後、令和8年3月に父Aに相続が発生した。 父Aの相続税に加算される金額はいくらになるか。 〔Q2〕 子Bは父Aから平成21年4月に住宅を建築するために3,500万円の贈与を受けた。子Bはその贈与について、相続時精算課税制度を選択した。 その後、令和8年3月に父Aに相続が発生した。 父Aの相続税に加算される金額はいくらになるか。 【A】 〔A1〕 相続税の課税価格に加算される金額は、3,500万円となる。 〔A2〕 相続税の課税価格に加算される金額は、3,000万円となる。 ◆ ◇ ◆ 解 説 ◆ ◇ ◆ 住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の特例は、贈与を受けた年により制度が異なるため、相続税で加算する金額には留意が必要である。   1 平成15年(相続時精算課税制度創設)から平成20年の取扱い 相続時精算課税制度の特別控除額2,500万円に加え、「住宅取得等資金の贈与を受けた場合の相続時精算課税に係る贈与税の特別控除の特例」の特別控除額1,000万円の上乗せ措置がある(旧措法70条の3の2、以下、「旧措法70条の3の2の特別控除額1,000万円の上乗せ措置」という)。 この特別控除額1,000万円は、近年の「直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の贈与税の非課税(措法70の2)」(以下、「住宅取得等資金の贈与税の非課税」という)とは異なり、特別控除額2,500万円の上乗せ措置のため、相続税の課税価格に加算される。   2 平成21年の取扱い 上記1と同様に、相続時精算課税制度の特別控除額2,500万円に加え、旧措法70条の3の2の特別控除額1,000万円の上乗せ措置がある。この2つの特別控除額については、いずれも相続税の課税価格に加算される。 また、この年から住宅取得等資金の贈与税の非課税が導入される。平成21年における非課税限度額は500万円で、この非課税限度額については相続税の課税価格に加算されない。 (※) 旧措法70条の3の2の特別控除額1,000万円の上乗せ措置は、平成21年12月31日で廃止された。   3 平成22年から本稿公開時点の取扱い 旧措法70条の3の2の特別控除額1,000万円の上乗せ措置は廃止され、住宅取得等資金の贈与税の非課税のみである。 住宅取得等資金の贈与税の非課税を適用した金額は、相続税の課税価格に加算されないので、相続時精算課税制度の特別控除額2,500万円のみが加算対象である。 住宅取得等資金の贈与税の非課税の限度額は、贈与年や建築する住宅性能により変動する。 上記1、2の旧措法70の3の2の特別控除額1,000万円上乗せ措置の相続税の課税価格への加算については、相続税法基本通達21の15-1(相続税の課税価格への加算の対象となる財産)の注書きにも記載がある(以下、注書き部分より一部抜粋)。 【設問への当てはめ】 なお、旧措法70条の3の2の特別控除額1,000万円の上乗せ措置が適用されているか否かは当時の贈与税申告書にチェック欄があるため、その確認が必要である。   (了)
#673(掲載号)
#徳田 敏彦
2026/06/18
相続税・贈与税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

相続税の実務問答 【第120回】「負担することとなった債務の金額が課税対象財産の価額を上回る場合」

相続税の実務問答 【第120回】 「負担することとなった債務の金額が課税対象財産の価額を上回る場合」   税理士 梶野 研二   [答]   ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 被相続人の債務の承継 私法上、被相続人の債務は、原則として、相続人及び包括受遺者(以下「相続人等」といいます。)に、法定相続分又は包括遺贈の割合(以下「法定相続分等の割合」といいます。)で承継されることとなります。 しかしながら、債権者の承諾を得ることができるのであれば、被相続人の債務を法定相続分等の割合とは異なる割合で引き受けることも可能です。 また、債権者の承諾がなくとも、相続人等の間の協議に基づいて、法定相続分等の割合とは異なる割合で被相続人の債務を負担する合意をすることも可能です。この場合、債権者保護の観点から、法定相続分等の割合とは異なる割合で債務を承継したことを債権者に主張することはできません。すなわち、法定相続分等の割合を超えて債務を承継することとなった相続人等は、いわば重畳的債務引受けをしたこととなり、他の相続人等は、その法定相続分等の割合までの金額について引き続き債務者としての義務を負うこととなります。   2 相続税の計算における債務控除額 (1) 債務控除 相続又は遺贈(包括遺贈及び相続人に対する特定遺贈に限られます。)により財産を取得した者の相続税の課税価格に算入される価額は、相続又は遺贈により取得した財産の価額から、①被相続人の債務で相続開始の際現に存するもの(公租公課が含まれます。)及び被相続人に係る葬式費用で、その相続人又は包括受遺者の負担する部分の金額を控除した金額となります(相法13①)。 (注) 制限納税義務者については、控除することのできる債務には制限があり、また、葬式費用を控除することはできません(相法13②)。 (2) 債務の負担者 上記1のとおり、相続人等の間で被相続人の債務の承継を法定相続分等の割合とは異なる割合で負担することに合意したとしても、債権者の承諾がない限り、債権者との関係では、債務が弁済されるまでは法定相続分等の割合で債務が承継された状態にあります。 しかしながら、相続税の債務控除の対象となる債務は、被相続人の債務のうちその「その者(相続人等)の負担に属する部分の金額」とされています(相法13①)。そして、「その者(相続人等)の負担に属する部分の金額」とは、相続又は包括遺贈によって財産を取得した者が実際に負担する金額をいうこととされています(相基通13-3)。実務上、債務の負担者は、遺産分割協議の際に相続人又は包括受遺者の間で合意し、その結果を、「遺産分割協議書」の中に記載することも多いと思います(国税庁HP掲載の「相続税の申告のしかた(令和7年分用)」の「参考 遺産分割協議書の記載例」125頁でも、被相続人の債務の承継者を記載しています。)が、遺産分割協議書に被相続人の債務の負担者の記載があるかどうかにかかわらず、相続人等の間で、実際に負担する債務の金額についての合意がなされたのであれば、法定相続分等の割合にかかわらず、その合意によりその者が負担することとなった金額が債務控除の対象となります。 (注) 相続人等の実際に負担する金額が確定していないときは、民法第900条から第902条までの規定による法定相続分等に応じて負担する金額をいうものとして取り扱われています(相基通13-3)。 (3) 相続税法と民法の交錯 相続人等の間で、被相続人の債務の負担者又は負担割合が合意されたとしても、債権者の承諾がなければ、債権者との関係では引き続き、相続人等が法定相続分等の割合で弁済の義務を負っています。このため、被相続人の債務の負担者又は負担割合が相続人間で合意されているにもかかわらず、法定相続分等の割合に基づき債務控除をすることができるかどうかが問題になります。この点、相続税法の「その者(相続人等)の負担に属する部分の金額」との文言からは、実際に債務を負担することとなった者又は負担した者においてその金額を控除の対象とすべきであり、法定相続分等の割合で控除することは認められないと考えます。   3 質問の場合 あなたは、お母様の遺産のうちご自宅とその敷地を取得し、その購入の際の借入金の残高を承継することとなりました。相続により取得した宅地(自宅敷地)について、小規模宅地等の特例を適用することにより、承継する債務の金額が同特例適用後の取得財産の価額を上回ることとなってしまうとのことです。一方、妹さんは、預金と株式を取得しましたが、債務は負担しないこととなりました。債権者との関係においては、妹さんが、お母様の債務のうち法定相続分相当額の1,500万円の返済義務を免れるわけではありませんが、あなたとの間の合意により妹さんがこの金額を実際に負担することとはなりませんので、妹さんが債務控除の適用を受けることはできません。 ちなみに、ご質問の3,000万円の債務をすべてあなたが承継する場合の相続税額を計算すると、あなたに相続税額は発生せず、妹さんの相続税額は320万円となります。一方、3,000万円の債務をあなた方姉妹で1,500万円ずつ承継するとした場合の相続税の負担は、あなたが27.3万円、妹さんが187.7万円で、合計215万円となります。このように債務の負担者を誰にするかにより、相続人等全体を通じた相続税の総額が大きく異なる結果となります。この点を考慮し、(ご質問の場合のように、取得する財産に紐づく債務については、その財産を相続する者とは異なる者が債務を負担するとすることは通常は想定しにくいかもしれませんが、)実際の債務の負担者について、相続税の負担をも検討する余地があるかもしれません。   (了)
#673(掲載号)
#梶野 研二
2026/06/18
国際課税 税務 税務・会計 解説 解説一覧

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第98回】「外国法人の事業分割に伴う株式の交付が配当所得に該当するとした事件 (審裁令元.8.1)(その1)」~所得税法24条1項~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第98回】 「外国法人の事業分割に伴う株式の交付が配当所得に該当するとした事件 (審裁令元.8.1)(その1)」 ~所得税法24条1項~ 井上 眞一     1 はじめに 当該事件は、日本の居住者が米国法人の株式を所有し、この米国法人が事業分割(※1)した場合、その交付された株式は、当該事業分割は法人税法第2条第12号の9に規定する分割型分割によるものではなく、所得税法第24条第1項に規定する剰余金の配当に該当するとしたものである。 (※1) 当該裁決本文で使用される「事業分割」という用語は、会社法では、第5編「組織変更、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付」に規定され、「会社分割」が使用されている。本研究では、当該裁決本文に関わる部分については、「事業分割」を使用し、解説など一般的な箇所では「会社分割」を同義で使用する。   2 事実の概要 審査請求人(以下「X」という。)は、従前から米国G社の株式を保有していた。同社がH社に吸収合併されたことにより、XはH社の株主となり、2015年10月の株式保有数は18,992株であった。H社はコンピュータ関連機器に関する事業を行い、米国K州が登記上の本店所在法人でL証券取引所に上場していた。H社の取締役会は2015年11月に以下の内容の事業分割(以下「本件事業分割」という。)を、次の通りプレス・リリースした。 この後、H社株主には、2015年10月8日付で、本件事業分割に関連する「INFORMATION STATEMENT」が交付された。同書面には、本件事業分割が、米国内国歳入法(Internal Revenue Code, 以下「IRC」という。)第355条及び第368条(a)(1)(D)に適合する組織再編成であり、米国内国歳入庁(Internal Revenue Service, 以下「IRS」という。)から、「private letter ruling」(以下「個別ルーリング」という。)の交付を受けることを条件とすることが記載されていた。 【図表1】当該事件のスピンオフまでの経緯 審査請求に至る経緯は次のとおりである。Xは、平成27年(2015年)分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、確定申告書を法定申告期限内に原処分庁(以下「Y」という。)に提出したが、H社から交付を受けた本件株式に係る金額をその所得金額に含めて計算していなかった。Yは、2016年9月、Xの所得税等について実地調査に着手した。 その結果、Yは2018年2月5日付で、Xの所得税等について更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分を行った。本件更正処分等においてYは、XがH社から交付を受けた本件株式は所得税法第24条第1項に規定する配当等に該当すると通知した。 Xは、本件株式の交付を配当等とする部分に不服があるとして、2018年4月27日に再調査の請求をしたが、再調査審理庁は、2018年7月25日付でXの再審査請求を棄却する再調査決定をした。 Xは、2018年8月22日、これらの処分に不服があるとして審査請求をした。   3 当該事件の争点及び当事者の主張 (1) 当該事件には3つの争点がある。 (2) X及びYのそれぞれの主張は以下のとおりである。 ① 争点1 (a) Xの主張 (b) Yの主張 ② 争点2 (a) Xの主張 本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する配当所得には該当しない。 (b) Yの主張 本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する配当所得に該当する。 ③ 争点3 (a) Xの主張 本件確定申告が過少申告となったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある。 (b) Yの主張 本件確定申告が過少申告となったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」があると認められない。   4 審判所の判断 (1) 争点1について ① 法令解釈 行政手続法第14条第1項本文が、不利益処分をする場合に同時にその理由を名宛人に示さなければならないとしているのは、名宛人に直接に義務を課し又はその権利を制限するという不利益処分の性質に鑑み、行政庁の判断の慎重性と合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を名宛人に知らせて不服の申立てに便宜を与える趣旨に出たものと解される。 ② 当該事件への該当性 本件通知書には、 等が記載されており、課税の根拠をその基礎となる事実関係及び適用法令を提示して具体的に説明したということができる。したがって、本件通知書の処分理由に不備はない。 (2) 争点2について ① 法令解釈 ② 事実の認定 (ア) 本事業分割に伴いH社から商号変更したN社について (ⅰ) 本事業分割後N社はM社の普通株式を保有していない。 (ⅱ) N社はIRSから個別ルーリングを取得している。 (ⅲ) N社の2016年10月期の「Form10-K(我が国の有価証券報告書に相当するもの)」に添付された2016年10月31日付及び2017年10月31日付連結貸借対照表には、M社に移転する資産及び負債の流動項目・固定項目のそれぞれの合計額が区分記載されている。 (ⅳ) 「Form10-K」に添付された2017年10月31日付の連結株主資本等変動計算書によると、本件事業分割によりN社の利益剰余金が37,296百万USドル減少しているが、資本剰余金の変動はない。 (イ) 本事業分割前後のM社について (ⅰ) M社は2016年2月〇日、米国K州法に準拠し、H社の100%子会社として、エンタープライズ事業を目的として設立された。設立時M社が発行した普通株式は1,000株でH社が保有していた。 (ⅱ) M社の2016年10月期「Form10-K」の連結株主資本等変動計算書には、本件事業分割によりM社が新たに発行した普通株式数は1,803,719千株、資本金組入額が18百万USドル(額面金額は1株当たり0.01USドル)、資本準備金組入額が37,296百万USドルと記載されている。 (ウ) 米国における組織再編成とその課税に関する規定 (ⅰ) 米国の法令には、我が国の会社分割法制のような権利義務の一般継承(包括継承)を特徴とする分割法制はない。 (ⅱ) IRC§368(a)(1)(D)は、ある法人の資産全部又は一部を他の法人への譲渡することで、当該資産の譲渡直後に、資産を取得した法人が、その対価として同社の株式その他の有価証券を資産譲渡した法人に交付する。そして、資産譲渡法人が資産取得法人を支配した上で、資産譲渡法人の株主に対し、当該株式その他の有価証券をIRC§355に規定する税制適格取引として分配するものを組織再編成の一つとして規定している。 (ⅲ) 本件事業分割において、N社は上記(ウ)(ⅱ)の記載のとおり、個別ルーリングを取得しているのでIRC§355所定の税制適格要件を全て満たしたものと考えられる。 (エ) Xの本件株式取得日について (ⅰ) Xは2015年11月〇日が日曜日であったため、11月〇+1日付で本件証券口座に本件株式18,992株を取得した。 (ⅱ) Xの取得日におけるL証券取引所におけるM社の1株当たりの価額は、・・・USドル、同日の1USドル当たり対顧客直物電信相場は×××円であった。 ③ 審判所の検討 (ア) 本件株式の交付は、剰余金の配当に該当するか否か。 本件事業分割では、上記②の(ウ)より、H社が資産及び負債をM社に移転し、その対価としてM社の株式の交付を受け、この株式をH社が比例的にH社株主に分配したと認められる。H社から商号変更したN社の連結株主資本等計算書上、利益剰余金の減少が認められる。したがって、本件株式の交付はH社の利益剰余金を原資として、実施されたものということができるから、所得税法第24条第1項に規定する配当金等に該当すると認められる。 (イ) 本件事業分割が、法人税法第2条第12号の9に規定する分割型分割に該当するか否か。 (ⅰ) 米国法令に準拠して実施された本件事業分割が、我が国法人税法上の分割のうち「分割型分割」に該当するか否かについて検討する。 (ⅱ) 我が国の会社法上の分割は、分割する会社の権利義務は吸収分割契約又は新設分割計画(本文のまま)により、承継会社又は新設会社に一括して承継されるという一般承継の法的効果が付与される。 (ⅲ) 米国においては、権利義務の一般継承を特徴とする会社分割制度は存在しない。 (ⅳ) 我が国の会社法上の分割が、法的効果としての一般承継を本質的要素としているが、本件事業分割は、我が国会社法上の分割に相当する法的効果を具備するものとは言えない。 (ⅴ) 他に本件事業分割が我が国の会社法上の分割に相当するものと認める特段の事情も認められない。 (ⅵ) したがって、本件事業分割は法人税法第2条第12号の9に規定する分割型分割には当たらない。 (ウ) 以上のとおり、Xに対する本件株式の交付は、所得税法第24条第1項に規定する法人から受ける剰余金の配当のうち、資本剰余金の額の減少に伴うもの及び法人税法上の分割型分割によるもののいずれにも該当しないものとして、同項所定の配当金に該当する。 (エ) Xは、分割前のH社の株価と、分割後のM社とN社の株価の合計がほぼ同額であり、株式価値の変動がみられないこと及びH社の株主がM社に投資したことになるため、剰余金の配当ではないと主張するが、H社の株主としての地位に基づき、その利益剰余金を原資として交付されたものであり、本件株式の交付を受けたことでXが剰余金の配当を受けたことは明らかである。 (オ) 米国における課税上の取扱いについて 我が国と米国とは別個の租税管轄権に属し、それぞれ独立した法体系を形成することから、一方の国における課税上の取扱いが、他方の国の課税上の取扱いに影響を及ぼすことはない。 (カ) 適格株式分配の該当性について Xが適用を要求する改正所得税法第24条第1項及び同法第25条第1項の各規定は、当該改正所得税法の附則により、2017年4月1日以後に行われる株式分配について適用される。Xの独自の見解である。 (3) 争点3について ① 法令解釈 「通則法第65条第4項が定めた『正当な理由があると認められる』場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である」(最高裁平成18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。 ② 請求人X主張について 所得税法は、申告納税制度を採用し、納税者自らが課税標準及び税額を算出し、これを申告して納付すべき税額を確定させるという体系になっており、申告納税制度の下における所得税等の確定申告は、納税者の判断と責任でなされるべきものである。 (ア) Xが本件株式の交付を所得として認識しなかったとしても、そのことは、Xの主観的事情といわざるを得ず、真に納税者の責めに帰すことができない客観的な事情が存在するとはいえず、同項に規定する「正当な理由」があると認められない。 (4) 審判所の結論 審査請求は理由がないから、これを棄却することとする。 ((その2)へつづく)
#673(掲載号)
#井上 眞一
2026/06/18
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連結会計を学ぶ(改) 【第23回】「持分法に関する投資と資本の差額」

連結会計を学ぶ(改) 【第23回】 「持分法に関する投資と資本の差額」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 今回は、持分法の会計処理に関して、投資と資本の差額及びその償却について解説する。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 持分法の会計処理 1 基本的な会計処理 「持分法」は、投資会社が被投資会社の資本及び損益のうち投資会社に帰属する部分の変動に応じて、その投資の額を連結決算日ごとに修正する方法である(「持分法に関する会計基準」(企業会計基準第16号。以下「持分法会計基準」という)4項)。 投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がある場合には、当該差額はのれん又は負ののれんとし、のれんは投資に含めて処理する(持分法会計基準11項)。 投資会社は、投資の日以降における被投資会社の利益又は損失のうち投資会社の持分又は負担に見合う額を算定して、投資の額を増額又は減額し、当該増減額を当期純利益の計算に含める(持分法会計基準12項)。 のれん(又は負ののれん)の会計処理は、「企業結合に関する会計基準」(企業会計基準第21号)32項(又は33項)に準じて行う(持分法会計基準12項)。 2 設例 【設例1】 投資会社と被投資会社(関連会社:20%)の個別貸借対照表は次のとおりとする。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 関連会社株式を取得した時、関連会社の資産及び負債の簿価と時価は一致していたものとする。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の取得 関連会社株式を取得した時(20%の株式を購入)の会計処理は次のとおりである(上記の投資会社の個別貸借対照表に反映済み)。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社株式の取得時)  ⇒仕訳なし 持分法の適用に際して、関連会社株式の取得原価100と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100が一致している。 このため、投資会社の投資日における投資とこれに対応する被投資会社の資本との間に差額がないので、のれん又は負ののれんは発生しない(持分法会計基準11項)。 〈関連会社株式の取得から1年後の個別貸借対照表〉 関連会社は、1年間の事業活動によって、当期純利益50を獲得した。 ① 投資会社の個別財務諸表における関連会社株式の会計処理 関連会社株式(20%の株式を保有)は、取得原価をもって貸借対照表価額としている(「金融商品に関する会計基準」(企業会計基準第10号)17項)。 このため、関連会社株式を取得した時の取得原価100が貸借対照表計上額となっている。 ② 連結財務諸表における持分法の適用(関連会社における当期純利益の計上) 当期純利益50の20%持分額は10(=50×20%)である。 【設例2】 もし、関連会社株式の取得時の個別貸借対照表が次の場合には、関連会社株式の取得原価120と関連会社の純資産500(資本金400+利益剰余金100)に対する20%である100との間に、差額20(=120-100)が発生することになる。 当該差額20は、のれんとして会計処理することになる(持分法会計基準11、12項)。 〈関連会社株式の取得時の個別貸借対照表〉 例えば、のれんを5年間で償却する場合の会計処理は次のようになる。 のれんの償却額4(=20÷5年)を計上する。 (了)
#673(掲載号)
#阿部 光成
2026/06/18
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給与計算の質問箱 【第77回】「育児休業後の時短勤務に関する注意点」

給与計算の質問箱 【第77回】 「育児休業後の時短勤務に関する注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 育児休業を取得していた社員が5月31日にて育児休業を終了し、6月1日から職場復帰しました。育児休業前はフルタイム勤務でしたが、職場復帰後は時短勤務になりました。給与計算や社会保険手続に関する注意点があればご教示ください。 A 提出すべき年金事務所への届出等や給付金の支給があるため、以下、解説する。 * * 解 説 * * 1 育児休業等終了時報酬月額変更届の提出 育児休業中は、社会保険料(健康保険・厚生年金)は免除される。職場復帰後は、給料から育児休業前の標準報酬月額に基づく社会保険料を控除する。 時短勤務になったことで給料はフルタイム勤務時より低下するが、社会保険料はフルタイム勤務時のままなので、手取りが減少する。育児休業等終了時報酬月額変更届を年金事務所へ提出することで、育児休業終了日の翌日が属する月以後3ヶ月間に受けた報酬の平均額に基づき4ヶ月目の標準報酬月額から改定することができる。 今回のケースでは、6月、7月、8月の3ヶ月間の報酬の平均額に基づき9月から社会保険料が改定される。   2 「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」の提出 上記1により社会保険料が改定されることで給料から天引きされる厚生年金保険料が減り手取りが増える一方、納付する厚生年金保険料が減ることで将来受け取れる厚生年金も減少する。「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」を年金事務所へ提出することで、将来の年金額に影響しないように育児休業前の標準報酬月額に基づく年金を受け取れる。   3 育児時短就業給付金の支給 給料が時短勤務になったことでフルタイム勤務と比べて低下したなどの一定の要件を満たす場合、育児時短就業給付金がハローワークから支給される。育児時短就業給付金の支給額は、原則として育児時短就業中の各月に支払われた賃金額×10%である。   (了)
#673(掲載号)
#上前 剛
2026/06/18
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《税理士のための》登記情報分析術 【第37回】「役員の任期のチェック」

《税理士のための》 登記情報分析術 【第37回】 「役員の任期のチェック」   司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎   株式会社の役員には任期があり、役員の構成に変更がなくても任期が到来した場合には株主総会において選任(再任)の決議を行い、登記申請をする必要がある。役員改選の登記を漏らしていると、代表取締役が裁判所から過料の制裁を受けることがある。 税理士としても一定程度任期に関する知識を身に着けておくことで、顧問先の登記記録を目にした際に登記申請の必要性に気が付き、不本意な形で過料の制裁を受ける顧問先を減らすことができるかもしれない。本稿では、基本的な任期についての知識とチェックポイントについて解説をする。   1 役員の任期とは 取締役や会計参与、監査役、会計監査人といった役員等には任期が定められている。具体的には次のとおりである。 【役員等の任期】 取締役 選任後2年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで 会計参与 取締役と同じ 監査役 選任後4年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで 会計監査人 選任後1年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで 上記の任期は原則的な任期であり、発行するすべての株式に譲渡制限が付された非公開会社では、定款の定めにより取締役、会計参与、監査役の任期は10年まで伸長することができ、多くの非公開会社が任期を伸長している。会計監査人は、任期の伸長はできないが、「みなし再任」の規定の適用があり、定時株主総会で不再任とされなければ、自動的に再任されたものとみなされることになる(会社法338条)。   2 まずは登記記録をチェック 定款で任期の伸長が可能であることから、正確な会社の任期は定款を見なければわからないが、登記記録から会社の任期を推測することはできる。 登記記録のうち「役員に関する事項」の欄には役員が選任された日が記載されている。この登記記録例では2年おきに取締役の改選登記がなされており、次は令和8年の6月に登記が必要ではないかと推測することができる。司法書士としても、まず登記記録の記載された選任のスパンをチェックして、定款を取り寄せるなどして正確な任期を把握するようにしている。   3 任期は定時株主総会に関連する 役員等の任期は単に「選任後〇年」とされるのではなく、「選任後〇年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで」というように、定時株主総会の終結時点と関連付けられていることも大切なポイントである。 役員等の選任は定時株主総会で行われることが多いところ、定時株主総会は毎年同じ日に行われるとは限らない。もし、「選任後〇年」というように定時株主総会の終結時点と関連付けられていない場合、定時株主総会の開催日が年によってズレると役員の空白期間が生まれてしまう可能性がある。 【取締役の任期が単に「2年」とされた場合】 この点、役員等の任期が選任機関である定時株主総会の終結時点と関連付けられていれば、任期の途切れなく安定した運営が可能となる。 【取締役の任期が「定時株主総会の終結の時まで」ある場合】 定時株主総会は、決算期を迎えてから一定の時期に開催することとされており(会社法296条)、法人税の申告期限や議決権行使の基準日の兼ね合いなどで、決算期から2~3か月後に開催されることが多い。税理士としては決算対応のタイミングで顧問先の任期をチェックすれば、かなりのチェック漏れは防止することができるのではないだろうか。 (了)
#673(掲載号)
#北詰 健太郎
2026/06/18
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税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第78回】「土地の借主が負担する建物のローン残額の支払いと引き換えに土地使用貸借の終了を認めた裁判例」

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第78回】 「土地の借主が負担する建物のローン残額の支払いと引き換えに 土地使用貸借の終了を認めた裁判例」   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 本連載【第19回】では、「税務で『ゼロ評価』される土地に鑑定ではなぜ価値がつくのか」というタイトルで、使用貸借を例にとり、相続税の財産評価では使用借権の価額は評価しないものとして扱われているものの、最高裁の判例では使用借権に経済的利益を認め、鑑定評価においてもある程度の価値を認めていることが多いことを述べました。 筆者が最近の裁判例を調査していたところ、これに類似する事案が目に留まりましたので、今回紹介するとともに、税務上の取扱いとは異なる面があることを改めて確認しておきたいと思います。   2 今回取り上げる裁判例 建物の使用を目的の一つとする土地の使用貸借において、建物の共有者の一人であるYが負担している土地上の建物に係るローン残額に相当する額の支払いと引き換えに、土地の使用及び収益をするのに足りる期間を経過したことによる使用貸借の終了を認めた事例(東京地裁令和3年6月24日判決(判例時報2527号、66頁))を取り上げます。   3 事案の概要と裁判所の判断 (1) 事案の概要 〈イメージ図〉 上記の〈イメージ図〉のとおり、従前から本件土地上には被相続人Aと長男Yの共有の建物(注1)が存在していましたが、土地はAの単独所有であったため、AとYとの間にはAを貸主とする土地使用貸借契約が締結されていました(その内容は、AがYに対し、本件土地を期間の定めなく無償で貸与するというものでした)。 (注1) 共有持分:A(100分の13)、Y(100分の87) その後、X(Aの二男)がAからの相続(遺言)により、本件土地の所有権及び使用貸借契約上の貸主の地位を承継しました。 このような形でXが本件土地の所有権を取得した背景には、本件建物を建築し、本件使用貸借契約を締結した当時はAとYとが本件建物で同居する予定でしたが、Yの意向によりこれが実現しなかったという事情がありました。 Xは、本件使用貸借の目的の一つが本件建物の使用であることを認めた上で、AとYの同居は実現していないことから、Yが本件建物を使用する前提が消失しているなどとして、Yに対し、本件使用貸借契約の終了を主張し、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めましたが、Yがこれに応じなかったため、訴訟に発展したものです。 なお、Yは、本件建物の建築に当たり住宅ローンを借り入れており、これを分割して返済中でした(当時のローン残額は約〇〇〇万円)。 (2) 裁判所の判断 本件審理に当たった裁判所は以下の理由により、土地の貸主XからYへのローン残額を考慮した金額の支払いと引き換えに、本件土地の使用収益に足りる期間の経過により、使用貸借の終了を認めるのが相当であるとしました(下線は筆者によります)。 〇理由 (注2) 筆者注。本件事案には、使用貸借の終了原因については令和2年改正民法施行前の条文が適用されており、判決文の記載によれば上記のとおりとなっています。ちなみに、改正後(現行法)の条文は以下のとおり第598条第1項に変更されていますが、内容的な変更はありません(解説の都合上、第597条も併せて記載いたします)。 〇民法   4 まとめ 鑑定評価においては使用貸借の権利が付着している土地や建物の価値を扱う場面に遭遇する機会があり、その際には使用借権とその価値の有無に関する判断を避けてとおることはできません。 税務上、使用借権の価値を評価しない理由は、使用借権が相互の信頼と恩恵を基に成立し、他人には譲渡できず、契約期間が満了しても更新はなく、借主の死亡により効力を失うといった脆弱な権利であることによるものと推察されます。 しかし、税務上の扱いとは別に、鑑定評価上、本件事案のような場面に遭遇し、補償的な意味合いも含めて使用借権の消滅の対価が問題となった場合、借主に帰属する何がしかの経済的利益を織り込まざるを得ないケースが発生します。 本件事案において、裁判所がローン残額を考慮した金額と引き換えに使用貸借の終了を認めるのが相当であると判断した背景として、使用貸借といえども期限が到来するまでは借主は安定的な土地利用を図ることができるという側面が考慮されたものと筆者は推察いたします。 使用貸借がこのような側面も有することを踏まえると、不動産鑑定士にとっても、使用貸借に係わる鑑定評価は奥が深く、難しいといえます。 (了)
#673(掲載号)
#黒沢 泰
2026/06/18
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書く論 【第6回】「単著か共著か」

〈執筆:編集X〉 書く論 第6回 「単著か共著か」 実務書を書こうとするとき、はじめに選択を迫られるのが、1人で書く(単著)か、複数人で書く(共著)か、という点です。 単著で始めたものが途中から共著になる、共著で進めたものが途中から単著になるというケースは、通常であれば、ほとんどありません(あるとすれば、さまざまな理由で“やむを得ず”そうなったケースです)。 編集Xがこれらの判断に迷われている著者の方へお伝えする定番のコメントは、以下のようなものです。 「単著を経験された方は『次は共著がいい』とおっしゃいますし、共著を経験された方は『単著のほうが楽』とも言われます。要は、それぞれ一長一短ありますね!」 皆さんご想像のとおり、1人だけで原稿を書き上げ、発刊に至るのは、大変な労力がかかります。 そして、孤独です(いくら編集者のサポートがあったとしても、書くことまではお手伝いできません)。 ただし、誤解を恐れずにお伝えすると、単著は楽しいのです。 それは、ご自身がイメージする書籍(ゴール)へ向かって、ご自身の判断で進めることができるからです。 どのような構成とするか、どのように解説するか、どういう図表を載せればいいか、いつ頃原稿を書き上げいつ発刊するか? タイトルは? 等々。 (版元と調整しながらではありますが)著作権者としてのオリジナリティを遺憾なく発揮することができます。 書籍へ込めた想いを形にする楽しさ、これを独り占めできるのが単著です(カバーに載るのは自分の名前だけ!)。 もちろん単著ゆえの責任やプレッシャーはかかりますが、そもそも実務家の方々は普段からそういうお立場にある方が多いので、特別な状況とは言えないのかもしれません。 では共著はどうかというと、これもまた、一人では登れない大きな山の頂へ、仲間と共に到達するという、(逆に普段では味わえない)充実感があります。 また、ご自身が書くべき原稿の分量は単著に比べて大幅に減り、労力のわりに内容・ボリューム共に大きな成果を得ることができます。 ここで、共著のスタイルは大きく2つあるように思います。1つは、著作歴があり、かつ、その書籍の内容について精通した方を編者(中心)として、その方に指導を仰ぐ方や慕う方々が共著者として参集し、一冊の本を書き上げるもの。もう1つは横のつながり(まさにお仲間)で集まった数人が力を出し合い書き上げるもの。 出来上がった分厚い本を手に取ると、「これは私一人では出せなかったな」と感慨深く、発刊後の打上げ(≒お酒)はとても楽しい(≒美味しい)。 共著にはそういう良さがあります。 ただ、もちろん単著で味わう充実感とは異なりますし、共著者の一人としての意見が必ずしも採用されることは限りません(特に編者の方がおられるケース)。また最も問題となるのが「共著者ごとのモチベーションの差」であり、一方の方が熱い想いで締め切り通りに完全な原稿を書いたとしても、期限を守れず内容も想定したものとは異なる原稿が別の共著者から上がってくるときのストレスは、実はけっこう大きいのです(トラブルにもなりやすい)。 そうならないためには、月並みですが「最初に『しっかり』話し合う」ことだと思います。そういう意味では、飲み友だちがお酒の席で共著作を決めその企画が採用されたとしても、なかなか話が進まないことが多い。 では結局どうすればいいのか、正解は、と言いますと、やっぱり 「(前略)要は、それぞれ一長一短ありますね!」 というお話に尽きるのです。 アドバイスできるとすると、お一人での仕事を好み、かつ、執筆にかける時間がある(発刊も急がない)という場合は、単著から始めていただくのがよいと思います。 単著での著作を続けていると、そのうち「私も本を出したい」という若い方から憧れの眼差しとともにお声がかかり、彼らを率い編著者のお立場となって共著書を出すこともあります。そういう執筆経験の豊富な方が編者だと、編集者はすごく助かります。 また、書籍発刊という成果を早く獲得したい場合や、一人では書き上げられない原稿を複数の力で結集(分担)し仕上げることに面白さを感じるのであれば、共著をお薦めします。 書籍ごとに共著者を募り、大きな山を次々に踏破していくのも、執筆者としての醍醐味だと思います。 最後に、お気づきの方もいるかと思いますが、実はどちらのケースも結果として「(まだ単著を出す勇気を持てない)若手の著者を育てる場」になっております。 編集者は共著の編集作業をしながら、「こういう良い原稿を書く先生なら、単著での出版を提案してみたい」と、(虎視眈々と)狙っているので、結局は編集者にとって大変ありがたいというお話でした。 (注)この連載に書かれている内容は筆者の私見であり、所属する組織とは一切関係ありません<(_ _)> (つづく)
#673(掲載号)
#編集X
2026/06/18
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