税理士法人ゆづりは
税理士 上西左大信
税理士 佐藤 善恵
令和7年12月19日、自由民主党・日本維新の会による「令和8年度税制改正大綱」が公表された。
今回の大綱は、高市政権が掲げる「強い経済」「世界で輝く日本」の実現に向けた税制面からのアプローチが色濃く反映されている。基礎控除等の物価連動、賃上げ促進税制の見直し、研究開発税制の拡充など、多岐にわたる改正が盛り込まれた。
【第1回】では、大綱の基本的考え方を中心に、前文から読み取れる政府の方針と注目すべきポイントについて解説する。
※本対談は2025年12月26日に収録しました。
新たな連立の枠組みと税制調査会の体制
上西:今回の大綱は、自由民主党・日本維新の会という新たな連立の枠組みのもとで作成されました。19日に、大綱案と大綱が続いて公表されました。大綱案は自由民主党の名前だけですが、大綱は両党の連名となっています。
佐藤:日本維新の会は今回新たに税制調査会を立ち上げたそうですが、これ、大綱に「新たに税制調査会を立ち上げた」ってわざわざ書いてあるのが面白いですよね。
上西:そうですね。10月に発足したとのことです。
佐藤:自民党の税調も今回体制が変わって、従来インナーとして中心的役割を果たしてきた宮沢洋一先生から小野寺五典先生に引き継がれましたね。
上西:小野寺先生は松下政経塾の後輩なんですよ。長年、宮沢先生を中心に政策税制がまとめられてきましたが、新たな体制でどう変わっていくか注目ですね。
「強い経済」「世界で輝く日本」というビジョン
佐藤:今回の大綱を読んで、「強い経済」「世界で輝く日本」というフレーズが何度も出てくるのが印象的でした。
上西:これは高市総理が総裁選の際から一貫して掲げてこられたメッセージです。総理のご著書にも繰り返し登場する表現です。今回の大綱は、このビジョンを税制面から具体化したものと言えるでしょう。
佐藤:「令和8年度税制改正の基本的考え方」では「投資により生産性が向上し、その果実が分配されることで国民が豊かになり、それが更に新たな投資につながる好循環を実現していく」と書かれていますね。いわゆる良いスパイラルを目指すということですが、税制がその好循環をどう後押しするかという視点で今回の改正を見ていく必要がありますね。
上西:その通りです。そして、ここで非常に重要な認識が示されているのが雇用と賃金に関する記述なんです。大綱では「有効求人倍率が安定的な水準を維持し、足元では人手不足が大きな課題となっている」と指摘され、さらに「賃金面でも過去に例を見ない水準の賃上げが広がりつつある中、中小企業では人材確保のための防衛的賃上げまで広がりつつある」と記されています。
佐藤:防衛的賃上げとは、企業が人材流出を防ぐことや、新たな従業員を確保するためにやむを得ず賃金を引き上げることですが、顧客からもしばしば相談を受けます。
新入社員の給料を上げたら、既存社員も上げないとモチベーションが下がってしまうという話はよく聞きます。
上西:給与水準や、給与体系の見直しが求められています。さて、この「防衛的賃上げ」という認識が、後ほど触れる賃上げ促進税制の大幅な見直しにつながっているわけです。
物価高への対応と公平性の確保
佐藤:大綱では物価高への対応も大きなテーマになっていますね。「近年の物価上昇は国民生活に影響を及ぼしており」という記述がありますが、確かに実感としても物価上昇は深刻です。
上西:はい。ここで重要なのは、単なる再分配機能の強化だけでなく、「格差の固定化を防止し、全ての人に挑戦の機会のある社会を実現する観点から、公平性の確保も求められている」と明記されている点です。
また、米国による関税措置についても言及があり、「わが国経済のみならず、世界経済全体に不透明感を与えている」との認識が示されています。
佐藤:トランプ政権の関税政策が今後日本経済にどう影響するか、実際に注視していく必要がありますね。
上西:そうです。国際情勢の不確実性が高まる中で、わが国としてどう対応していくか、税制面からも手を打っていく必要があるという問題意識が背景にあります。
佐藤:ただ、公平性の確保と言っても、実際の改正内容を見ると、本当に公平性が確保されているのかは議論の余地がありそうです。
上西:「極めて高い水準の所得に対する負担の適正化措置の見直し」では、基礎控除額を3億3,000万円から1億6,500万円に引き下げて、税率を22.5%から30%に引き上げるとなっています。
物価連動による基礎控除等の引上げ──新たな仕組みの創設
上西:今回の改正で最も画期的な制度変更の一つが、物価上昇に連動して基礎控除等を引き上げる仕組みの創設です。
佐藤:これは今までなかった制度です。ずっと据え置かれてきて、物価が上がると実質的な負担が増えるという問題がありましたから。
上西:「ブラケットクリープ」といい、賃金上昇以上に税負担がじわじわ増える(creep:忍び寄る)現象をいいます。それを解消するために、今後は定期的に見直しを行うことになったのです。
佐藤:具体的にはどういう仕組みなんですか。
上西:基礎控除の本則部分について、見直し前の控除額に税制改正時における直近2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率を乗じて調整します。給与所得控除の最低保障額についても同様の措置を講じます。
佐藤:2年ごとの見直しということですが、これは源泉徴収義務者等の事務負担に配慮したものですね。
上西:見直しの結果、控除額に端数が生じる場合には万円単位で調整しますし、見直し初年は月次の源泉徴収等では対応せず、年末調整からの対応とされています。
令和8年度税制改正においては、令和5年10月から令和7年10月までの2年間の消費者物価指数(総合)の上昇率6.0%を踏まえ、基礎控除の本則については現行58万円を62万円に、給与所得控除の最低保障額については現行65万円を69万円にそれぞれ引き上げられました。
佐藤:物価に応じて自動的に調整される仕組みができたことで、今後は物価上昇によって実質的な税負担が増えるという問題が軽減されるわけです。所得税の分野における、いわゆる「壁問題」はこれで一段落したと思われます。
個人住民税のあり方と社会保険料の負担については、引き続きの議論は残ります。
上西:ただし、この引上げは物価調整を行うものであることを踏まえ、特段の財源確保措置を要しないこととされています。税収も物価上昇に伴って増加していることが前提となっているわけです。
佐藤:なるほど。物価が上がれば税収も上がるから、その範囲で控除額を上げても財政には影響しないという理屈ですね。
(続く)
冒頭のイラストはGeminiを使用してAIで作成しています。
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