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プロフェッションジャーナル No.538が公開されました!~今週のお薦め記事~

2023年10月5日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.538を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2023/10/05

monthly TAX views -No.128-「大型経済対策がインフレタックスを加速させる」

monthly TAX views -No.128- 「大型経済対策がインフレタックスを加速させる」   東京財団政策研究所研究主幹 森信 茂樹   岸田首相は9月26日、10月中に経済対策をとりまとめるよう指示するとともに、「成長の成果である税収増を国民に適切に還元すべきだ」と語った。現在生じている税収増は本当に「成長の成果」といえるものなのか、検証してみたい。 *  *  * 財務省が本年7月に公表した令和4年度(2022年度)一般会計税収は、71兆1,374億円(前年度比6.1%増)で、3年連続で過去最高を更新した。 昨年11月の補正予算編成時点に見込んだ税収は68兆3,590億円なので、2.8兆円の「税収増」が生じたことになる。問題は、それが本当にわが国の経済成長によるものなのか、という点だ。 「税収増」の要因を見てみよう。所得税収は22.5兆円(5.3%増)で0.5兆円の増収となったが、その主な要因は、名目ベースでの賃上げを反映したものだ。 厚生労働省の毎月勤労統計調査を見ると、令和4年度の現金給与総額はほぼ2%程度の伸びをしてきたが、消費者物価が4%程度上昇したため、実質賃金は2%程度のマイナスとなっている。税収増は経済成長による賃上げ(実質賃金の増加)というよりインフレの結果である。 ちなみに本年7月は現金給与総額が1.3%伸びているが消費者物価は3.9%伸びており、実質賃金は2.5%のマイナスだ。 法人税収は、14.9兆円(9.5%増)と補正後から1.2兆円増えている。これはコロナ禍からの企業業績回復の結果だが、円安や資源価格高騰による物価上昇を転嫁した結果ともいえる。 最後に消費税収だが、個人消費の持ち直しで消費税収が23.1兆円(5.4%増)と0.9兆円の増収となっている。令和4年度の消費者物価指数(生鮮食品を除く)は前年度より3.0%上昇し、1981年度以来41年ぶりの水準となっており、増収はこれ(インフレ)を反映したものといえよう。 つまり、令和4年度の想定外の「税収増」は、「成長の成果」というよりインフレの結果もたらされたものである。個人や法人から国に所得が移転したことによるもので、インフレタックスの結果といっても差し支えない。 *  *  * 先進諸国の財政政策を見ると、ここ3年のコロナ禍に伴う需要不足への対応という需要拡大策から、インフレ抑制、供給重視の財政政策に舵を切っている。例えば、バイデン大統領が大統領選挙をにらんで打ち出した「バイデノミクス」は、労働者の職業訓練の強化など人的資本の向上策や、低所得者に勤労インセンティブを与える勤労税額控除(給付付き税額控除)を充実するなど、供給重視の財政政策に転換を図っている。 冒頭述べた経済対策の規模について、自民党内には15兆円から20兆円という声も出ている。しかし、わが国の需給ギャップがプラスになったこのタイミングで、国債の増発(借金)により大型経済対策を打てば、本格的なインフレにつながりかねない。 この「税収増」は、コロナ対策などで大きく水膨れしたわが国予算の返済に充てて、予算を正常化することが必要だ。 今求められる対策は、人的資本の向上や雇用の流動化により生産性の向上を目指し、実質賃金のマイナスを防ぐことではないか。規模を競う経済政策から脱却する必要がある。 (了)

#No. 538(掲載号)
#森信 茂樹
2023/10/05

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例56】「有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力」

法人税の損金経理要件をめぐる事例解説 【事例56】 「有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力」   拓殖大学商学部教授 税理士 安部 和彦   【Q】 私は、中部地方の政令指定都市に隣接する市において、主として光学医療機器の製造・販売を行う株式会社X(資本金30億円で3月決算)に勤務し、現在経理部長を務めている者です。医療機器は、分野によって異なりますが、海外の製品が強い分野があったり、逆にわが国のメーカーが強い分野があったりと様々な状況といえますが、わが社が扱う光学医療機器(医用光学機械)は、比較的わが国のメーカーが強い分野ではないかと思われます。そのため、わが社もこれまで順調に利益を計上し内部留保を積み上げてきましたが、その再投資先として同業ないし隣接する分野の他社の株式(いずれも上場企業)を購入してきたという経営トップの意思決定は、結果としてみれば、あまり適切ではなかったように思われます。 すなわち、それらの会社の業績が思わしくなく、明らかに当初の出資額よりも大幅に価値が減価しているところばかりとなってしまいました。無論、わが社も手をこまねいているばかりではなく、わが社の精鋭を出資先に何人も送り込んだりしましたが、結果として業績が上向くことはありませんでした。そのため、会計上、これらの出資先の帳簿価額を大幅に引き下げざるを得ず、税務上も泣く泣く評価損を計上することを余儀なくされました。 しかし、その後顧問税理士から国税庁の「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)を知らされ、その時点における出資先の今後の財務状態から更なる評価損の計上が可能である旨告げられましたが、減額更正の期限が徒過していたため(平成23年12月の改正前で請求期間は1年)、嘆願書により減額更正を依頼しました。 ところが、国税局の担当官は、わが社の場合税法に照らして評価損の計上が可能となる要件を満たしていないため、嘆願書にかかわらず減額更正はできないと言ってきました。当方は、国税庁の上記Q&A(特にQ3)により初めて、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態を検討すべきことを知ったのであり、確定申告時には当該Q&Aの存在自体を知らなかったため、検討することは物理的に不可能であるから、国税局の主張は不当と考えております。わが社の考え方で問題ないでしょうか、教えてください。 【A】 国税庁のQ&Aである「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)は、法人税法及び同施行令、法人税基本通達に基づきその内容を解説したものであって、法令の規定にないものを新たに定めたものではありません。したがって、上場有価証券の評価損の計上基準は、同Q&Aにかかわらず法令に基づき行うべきものですが、通達の規定が法令の解釈として妥当である限りにおいて、通達の規定は有効であるものと考えられます。そのため、有価証券の価額に関する回復可能性の判断は、通達の規定等に基づき納税者自身が、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態等をもとに検討すべきであり、それを行っていない場合には、嘆願書の提出の有無にかかわらず、評価損の計上はできないものと考えられます。 ■ ■ ■ 解 説 ■ ■ ■ (1) 有価証券の評価損の計上 内国法人がその有する資産の評価換えをして帳簿価額を減額した場合には、原則として当該金額は損金の額に算入されない(法法33①)。しかし例外として、災害による著しい損傷によってその資産の価額が帳簿価額を下回ることとなったことその他の政令で定める事実が生じた場合においては、損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、当該評価減につき損金の額に算入することとされている(法法33②)。「災害による著しい損傷」による評価減の対象資産としては、政令で棚卸資産、有価証券、固定資産及び繰延資産が挙げられている(法令68①)。 このうち「有価証券」については、評価損が計上できる要件として、以下の事実が生じた場合とされている(法令68①二)。   (2) 市場有価証券等に係る評価損計上の要件 上記(1)①の「その価額が著しく低下したこと」とは、通達において、当該有価証券の当該事業年度終了時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいうとされている(法基通9-1-7)。 また、ここで低下の幅が「50%相当額」とされる理由について、国税庁担当官の解説書では、株式相場は常に2~3割程度の変動を繰り返しており、その程度の低落では著しく低落したとは言い難いためとされている(※1)。さらに、「近い将来その価額の回復が見込まれないこと」という要件は、企業会計原則第三・五Bや会社法(会規5③一)にも定めがある。 (※1) 松尾公二編著『法人税基本通達逐条解説(十一訂版)』(税務研究会・2023年)848頁 ところで、国税庁は平成21年に「上場有価証券の評価損に関するQ&A」を発表し、そこで「株価の回復可能性の判断の時期(Q3)」についての基準を示している。それによれば、法基通9-1-7(注)2を受けて、株価の回復可能性の判断は、あくまでも各事業年度末時点において、納税者自身により、その合理的な判断基準に基づいて行うものであり、翌事業年度以降に状況の変化(株価の上昇など)があったとしても、そのような事後的な事情は当事業年度末時点における株価の回復可能性の判断に影響を及ぼすものではなく、当事業年度に評価損として損金算入した処理を遡って是正する必要はない、としている。   (3) 有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力が争われた事例 それでは、本件と同様に、有価証券評価損の誤計上に対する減額更正に係る嘆願書の効力が争われた事例(東京地裁平成26年4月25日判決・税資264号-83(順号12464)、TAINSコード:Z264-12464)について、以下で確認してみたい。 ① 事案の概要 本件は、元々眼鏡、コンタクトレンズ、光学機器及び補聴器の製造、販売等を目的とする株式会社であったが、平成21年4月、上記事業等を100%子会社である株式会社Jに移管し、現在は、株式会社J及び上記事業等に相当する業務を営む外国会社の株式又は持分を保有することにより、当該会社の事業活動を支配又は管理することを目的とする、いわゆる持株会社で、株式を上場している原告が、会計上特別損失に計上した株式の評価損について所得金額に誤って15億2,858万3,606円を過大に計上したため、4億5,857万5,200円の法人税を過大に納付しているとして、法人税の減額更正処分を求める旨の嘆願書を数回にわたり提出し、京橋税務署長において減額更正処分の根拠たるべき事実が存在することを客観的に認識し得る状況になり、同署長は減額更正処分を行う義務を負ったのに、減額更正処分が行われなかったと主張して、被告に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求として、還付されたはずの過大納税額4億5,857万5,200円及びこれに対する損害賠償請求権発生の日の翌日である平成23年6月28日から支払済みまで民法所定年5分の割合による遅延損害金の支払いを求めた事案である。 原告は各事業年度の法人税の確定申告書において、決算上、有価証券の評価損として計上した以下の金額につき、本件各事業年度の所得に加算した。 〇有価証券評価損計上額 また、納税者は課税庁に対して嘆願書を提出しているが、その経緯は以下のとおりである。 乙税理士と丙経理部長は、東京国税局で、被告に対し、平成22年12月1日、嘆願書を提出した。同嘆願書には、本件各事業年度の法人税に係る確定申告につき更正の請求をしておらず、かつ、更正の請求をすることができる期間を経過しているが、これは、本件各事業年度当時は、本件Q&A(国税庁「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月))が発表されておらず、株価の回復可能性に関する判断ができなかったためであり、嘆願による減額更正処理をお願いしたい旨記載されている。 これに対し被告は、今さらなぜこのような請求をしているのか、決算当時の判断では税務上損金にならないとして自己否認したのではないか、本件Q&Aにより評価損の取扱いが変わったわけではないなどと回答した。 ② 事案の争点 ③ 裁判所の判断 争点1 争点2 なお、原告は控訴せず確定している。 ④ 本裁判例から学ぶこと 本裁判例は、平成23年12月の税制改正前で、減額更正の請求期間が1年と短かったため、その期限が徒過していたことから、嘆願書の提出により減額更正を認めてもらおうとした事案であるが、その判断以前に、有価証券評価損の計上要件を満たしていないため、門前払いを食らったものである。そもそも法人税法施行令68条1項2号イの「有価証券の価額が著しく低下したこと」とは、法基通9-1-7によれば、当該有価証券の当該事業年度終了の時における価額がその時の帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ることとなり、かつ、近い将来その価額の回復が見込まれないことをいう旨規定しているが、特に「帳簿価額のおおむね50%相当額を下回ること」という具体的な数値基準は、文理解釈から直ちに導かれるものではない。この点につき裁判所は、「前記ア(筆者注:法人税法33条及び同施行令68条)の解釈に照らし、具体的判断基準として合理性を有するものと解される」として肯定している。 また、「近い将来有価証券の価額の回復が見込まれないことにつき納税者が判断する必要があるか否か」について裁判所は、「申告する納税者が第一次的に株価の回復可能性につき判断を行う必要があると解され、その判断は、判断当時に定められていた合理的な判断基準あるいは合理的な根拠に基づいて行うことが必要であると解される」として、事業年度終了時に(法基通9-1-7(注)2参照)、納税者自身が主体的に、合理的な基準に基づき判断すべきと判示している。これは前述の国税庁Q&Aによって新たに追加された基準ではなく、「本件Q&Aは、そのような趣旨で記載されていると解される」というものである。 むしろ、同Q&AのQ3では、「翌事業年度以降に株価の上昇などの状況の変化があったとしても、そのような事後的な事情は、当事業年度末の株価の回復可能性の判断に影響を及ぼすものではなく、当事業年度に評価損として損金算入した処理を遡って是正する必要はありません。(※2)」としており、納税者による事業年度末の判断が合理的で根拠のあるものであれば、税務調査で(実際の株価情報から)事後的に否認するということはできないということを示しており、実務上参考になる解釈を示していると考えられる。 (※2) 松尾前掲(※1)書851頁も同旨と考えられる。   (4) 本件へのあてはめ 国税庁のQ&Aである「上場有価証券の評価損に関するQ&A」(平成21年4月)は、法人税法及び同施行令、法人税基本通達に基づきその内容を解説したものであって、法令の規定にないものを新たに定めたものではない。したがって、上場有価証券の評価損の計上基準は、同Q&Aにかかわらず法令に基づき行うべきものであるが、通達の規定が法令の解釈として妥当である限りにおいて、通達の規定は有効であるものと考えられる。そのため、有価証券の価額に関する回復可能性の判断は、通達の規定等に基づき納税者自身が、事業年度末においてその時点における出資先の今後の財務状態等をもとに検討すべきであり、それを行っていない場合には、嘆願書の提出の有無にかかわらず、評価損の計上はできないものと考えられる。 (了)

#No. 538(掲載号)
#安部 和彦
2023/10/05

〈事例から理解する〉税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第10回】「所得税基本通達2-47に定める「生計を一にする」の判定」

〈事例から理解する〉 税法上の不確定概念の具体的な判断基準 【第10回】 「所得税基本通達2-47に定める「生計を一にする」の判定」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 大阪国税不服審判所平成27年11月4日裁決 (1) 事実関係の概要 (2) 請求人の主張の概要 (※) 所得税基本通達2-47(生計を一にするの意義) (3)「生計を一にする」の法令解釈 (4) 審判所の判断の概要・請求人の主張の排斥   2 法令解釈の出所と判断基準のポイント 上記1(3)①の「日常生活の資を共通にしていた」という表現は、最高裁第一小法廷昭和51年3月18日判決(TAINSコード:Z087-3746)に見ることができる。 一方、上記1(3)②は、その敷衍を試みようとしたものと考えられるところ、「少なくとも居住費、食費、光熱費その他日常生活に係る費用の主要な部分を共通にしていた関係にあったことを要する」という表現は、東京国税不服審判所平成20年6月26日裁決(TAINSコード:J75-4-38)に見ることができる。 「日常生活の資」というと、「資力」という熟語から収入面を想起させるかもしれないが、上記1(3)②は専ら支出面に焦点を当てた解釈となっており、日常生活の支出について区分していないということが「生計を一にする」の判断基準のポイントとなるだろう。   3 所得税基本通達2-47の読み取り方 (1) 同居か別居か 同居であれば、通常は「生計を一にする」に該当することになる。 (2) 別居の場合 (了)

#No. 538(掲載号)
#大橋 誠一
2023/10/05

金融・投資商品の税務Q&A 【Q83】「付与契約の内容を変更した税制適格ストックオプションの行使により取得した株式の譲渡」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q83】 「付与契約の内容を変更した税制適格ストックオプションの行使により取得した株式の譲渡」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 付与契約に係る条件を変更することによる税制適格性への影響 上場を目指すスタートアップ企業では、役職員へのインセンティブとしてストックオプション制度を導入することがあります。ストックオプションに関する税制適格要件のうちには、ストックオプションの権利行使価額が当該ストックオプションの付与に係る契約の締結時における1株当たりの価額に相当する金額以上であること(権利行使価額要件)が定められているため、1株当たりの価額の算定が容易ではない非上場企業にとっては権利行使価額を保守的に(つまり高めに)設定せざるを得ない状況がありました。 この実務慣行に対応するため、2023年7月、国税庁から税制適格ストックオプションの権利行使価額要件に係る付与契約時の株価の算定についてガイドラインが公表され、一定の条件の下、財産評価基本通達の例によって算定することもできることが明らかにされました。さらに、ストックオプションについては当初の付与契約で定められた事項を変更した場合は、原則として税制適格ストックオプションとして取り扱うことはできないところ、今般のガイドライン公表を受けて権利行使価額を引き下げる変更を行った場合には、適格要件に抵触しないものとして取り扱われることも明示されました。   2 税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を譲渡した場合の課税関係 税制適格であるストックオプションについては、その行使により取得した株式が上場株式である場合には、当該株式の譲渡益は一般株式等(いわゆる上場株式等以外の株式等)の譲渡所得とは区別して、「上場株式等の譲渡による事業所得、雑所得及び譲渡所得の金額」として申告分離課税の対象となり、適用税率は20.315%(所得税及び復興特別所得税15.315%、地方税5%)です。上場株式等について譲渡損が生じた場合には、他の上場株式等の譲渡益との通算や、一定の要件を満たす場合には3年間の繰越控除、また、上場株式等の配当との損益通算が認められています。 なお、税制非適格ストックオプションの場合と異なり、税制適格ストックオプションを行使することにより取得した株式は特定口座やNISA口座で管理することが認められていません。   3 本件へのあてはめ 原則として、税制適格ストックオプションの付与契約を変更した場合には税制適格ストックオプションとは取り扱われなくなりますが、2023年7月の租税特別措置法通達改正を受けて権利行使価額を引き下げたものである場合には、税制適格性には影響がないものとして取り扱われると考えられます。その場合、ストックオプションの行使時には課税関係は生じず、当該行使により取得した株式を譲渡した場合に譲渡所得として確定申告をすることとなります。この譲渡所得の金額は申告分離課税の対象となり、20.315%の税率で所得税等が課されますが、譲渡時に上場株式に該当する場合には、他の上場株式等の譲渡損益との通算や譲渡損の繰越控除の適用も考えられます。また、譲渡損については、上場株式等の配当所得との損益通算も認められます。 なお、税制非適格ストックオプションと異なり、税制適格ストックオプションの行使により取得した株式を特定口座、NISA口座で管理することは認められていませんので、申告不要の取扱いをすることができない点については注意が必要です。   (了)

#No. 538(掲載号)
#西川 真由美
2023/10/05

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第27回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第27回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   イ 「②支払手段性」 暗号資産について、資金決済法上、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができる財産的価値と規定されていることや、消費税法上も支払手段に類するものとして位置付けられていること自体はそのとおりであるが、いくつか指摘しておくべきことがある。 資金決済法上の暗号資産は1号暗号資産と2号暗号資産に区分されており、それぞれ下図のとおり整理できる(本連載第2回の図再掲)。なお、令和4年6月3日の資金決済法改正により、同法における暗号資産の定義規定は2条5項から14項に移されるとともに、暗号資産の定義から電子決済手段が除かれた(令和5年6月1日から施行)。 1号暗号資産については、代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができるものであることが前提とされており、発行者と店舗等との間の契約等により代価の弁済のために使用可能な店舗等が限定されていないかなどを考慮して判断される。 よって、1号暗号資産は支払手段としての機能を有したものといえるであろう(なお、国内の暗号資産交換所に上場されている暗号資産は基本的に1号暗号資産に該当すると考えられているようである。一般社団法人日本暗号資産取引業協会「取扱暗号資産及び暗号資産概要説明書」(2023.9.1更新)参照)。 もっとも、そのような機能を有している暗号資産であったとしても、投資手段、投票権、アクセス権など支払手段以外の機能や性質を有することもありうる。 例えば、暗号資産界隈では、コミュニティやプロジェクトの意思決定をガバナンスと呼んでおり、ガバナンスに係る投票権(議決権)が付与されたトークンをガバナンストークンというが、暗号資産がガバナンストークンに該当する場合、そのような暗号資産をもって支払手段としての側面のみを強調して課税関係を考えることには疑問を提起しうる。 また、トークン保有者は一定のサービスにアクセスできる、コミュニティに参加できるなど、何らかの実用性のあるトークンをユーティリティトークンと呼んでいる。このようなユーティリティトークンを想定するとしても、同じように疑問を投げかけることができる。 本連載第24回で確認したとおり、政府は、「支払手段としての性質や資産の価値の増加益が生じる性質を複合的に有する資産」が譲渡所得の基因となる資産に該当するか否かについて、「個別具体的な資産の性質により判断される」と述べている(「暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する質問に対する答弁書」(R4.4.15))。 そうすると、国税庁は、支払手段としての性質を有する暗号資産の中には資産の価値の増加益を生ずる性質を複合的に有するものもあることを認めた上で、そのようなものが譲渡所得に該当する余地を認めているように見える。 しかしながら、政府は、その後の回答で、「現時点では、御指摘の『モナコイン』を含む暗号資産について、仮に、支払手段としての性質のほかに、資産の価値の増加益が生じる性質があるとしても、当該性質については、一般に独立した経済的価値が認められて取引の対象にされているとは考えていない」としている(「暗号資産モナコインの譲渡等に係る税務上の取扱いに関する再質問に対する答弁書」(R4.4.28))。 そうすると、国税庁は、事実上、あるいは少なくとも現時点では、譲渡所得への扉を固く閉ざしているように思われるが、設計が自由で複合的な性質を有する暗号資産の特質に、そろそろ正面から向き合う必要があるのではないか。 他方、支払手段としての側面にスポットライトを当てるとしても、もっともポピュラーなBTC、あるいはこれに次ぐETHですら、現状では、支払手段として使用できる実店舗は限られているという事実を等閑視してよいのかという疑問がある。 ヒアリングによる集計値のため、必ずしも全容を表す数値ではないが、次のとおり、暗号資産を支払いに使うことができる店舗等は徐々に増えてはいるものの、それでも10万店舗程度である(実店舗及びネットショップ等のECサイトなどで支払いが暗号資産で行えるサービス数を含む)。 (出典) 一般社団法人日本暗号資産取引業協会「暗号資産取引についての年間報告2021年度(2021年4月~2022年3月)」31頁(R4.9.30) 「④結論」と関わる部分もあるが、次のような疑問を示しておく。 2号暗号資産との関係では、要旨次のような見解が示されている(太田洋=佐々木秀「仮想通貨(暗号資産)と所得税に関する諸問題」中里実ほか編著『デジタルエコノミーと課税のフロンティア』158-159頁(有斐閣2020)参照)。 上記の見解に触れると、ある資産が支払手段としての性質を有すると、なぜそれだけで清算課税説との関係で譲渡所得の基因となる資産該当性が否定されるのかなど更なる疑問が出てくる。 「③暗号資産の譲渡益の性質」とも関わる疑問である。   (了)

#No. 538(掲載号)
#泉 絢也
2023/10/05

〈判例・裁決例からみた〉国際税務Q&A 【第34回】「外国関係会社の課税対象金額の意義」

〈判例・裁決例からみた〉 国際税務Q&A 【第34回】 「外国関係会社の課税対象金額の意義」   公認会計士・税理士 霞 晴久   〔Q〕 外国子会社合算税制において、内国法人の所得の金額の計算上益金に算入される外国関係会社の課税対象金額は、平成17年度の税制改正において、その内国法人が有する請求権の内容を勘案した数又は金額を用いて算定されるとされ、いわゆる持株基準割合から、利益持分割合に応じて合算されることとなりましたが、その改正の趣旨はどのようなものでしょうか。 〔A〕 請求権の異なる株式等を発行することにより、特定外国関係会社等の利益のうち持株割合を超える割合を内国法人に帰属させるような事態について、株式等の請求権の内容を勘案することによって対処しようとしたものであり、内国法人が特定外国関係会社等から実際に受領できる配当等の金額に相当する金額と課税対象金額との接近を指向するものとされます。 ●●●〔解説〕●●● 1 請求権等勘案合算割合 (1) 概要 外国子会社合算税制において、内国法人の所得の金額の計算上益金に算入される課税対象金額は、特定外国関係会社又は対象外国関係会社(特定外国関係会社等)の適用対象金額のうち、その内国法人が直接及び間接に有するその特定外国関係会社等の株式等の数又は金額につきその請求権の内容を勘案した数又は金額並びにその内国法人と特定外国関係会社等との間の実質支配関係の状況を勘案して計算した金額に相当する金額とされる(措法66の6①)。ここでいう「請求権」とは、その外国関係会社の剰余金の配当等を請求する権利を指し、また、「実質支配関係」とは、居住者又は内国法人が外国法人の残余財産のおおむね全部を請求する権利を有している場合における、その居住者又は内国法人と外国法人との間の関係等をいう(措法66の6②五、措令39の16①)。すなわち、課税対象金額は、特定外国関係会社等の各事業年度の適用対象金額に、当該各事業年度終了の時におけるその内国法人の当該特定外国関係会社等に係る請求権等勘案合算割合を乗じて算定される(措令39の14①)。 請求権等を勘案して合算割合を算定するという考え方は、平成17年度の税制改正において導入され、いわゆるアンダーインクルージョン(※1)に対抗するため、特定外国関係会社等が請求権の異なる株式等を発行している場合には、内国法人が外国関係会社から実際に受領できる配当等の金額に相当する金額を基に計算することとされた(※2)。 (※1) 本来課税すべき所得が課税されないことをアンダーインクルージョンといい、反対に、本来課税すべきでない所得が課税されることをオーバーインクルージョンという。 (※2) 財務省「平成17年度税制改正の解説」302頁 (2) 具体的な算定方法 請求権等勘案合算割合は、次の区分に応じ、それぞれに定める割合として求められる(措令39の14②一)。ただし、次の①及び③のいずれにも該当する場合には、①と③の割合の合計額とされる。 (※3) 居住者又は内国法人との間に実質支配関係がある外国法人をいう。 以下では、請求権等勘案合算割合を用いて算定される課税対象金額の存否について争われたみずほ銀行事件を検討する。   2 過去の裁判例 《みずほ銀行事件》 (※4) (※4) (第一審) 東京地裁令和3年3月16日判決(平成31年(行ウ)第42号)・TAINSコード:Z271-13543 (控訴審) 東京高裁令和4年3月10日判決(令和3年(行コ)第96号)(認容・却下、上告受理申立て)・TAINSコード:Z888-2445 (1) 事案の概要 本件は、銀行業を営む内国法人X(原告・控訴人)が、英領ケイマン諸島に資金調達のため設立した2つの特別目的会社(MHCB及びMHBK。以下「本件各子SPC」という)について、所轄税務署長Y(被告・被控訴人)から、特定外国子会社等として合算課税の対象となるとして処分を受けたため、Xがこれを不服として、本件各処分等のうち申告額を超える部分等の取消しを求めた事案である。 Xの行った資金調達スキームは、銀行法上の自己資本比率規制に対応するものであり、それ自体は租税回避を意図したものではなく、本件各子SPCにおいて劣後ローンに基づく利息収入が生じるものの、それを原資として第三者の投資家に対して優先出資証券に基づく配当が行われるため、本件各子SPCに留保される利益はなかった。本件各子SPCは、普通株式を発行(Xが100%保有)するとともに上記資金調達スキームに関し、優先出資証券を発行(引受会社は第三者から資金を調達したXのグループ会社)しており、「請求権の異なる株式等を発行している場合」(当時の措令39の16②一)に該当し、また、その事業年度中にSPC所得の金額を上回る金額が優先出資証券に基づいて配当され、本件各子SPCの事業年度終了前に優先発行証券がすべて償還されてしまっていたことから、Xの請求権勘案保有株式等の占める割合(本件保有株式等割合)は0%であり、課税対象金額は0円であると主張した。 一方Yは、上記施行令で株式保有割合の算定時期は事業年度終了の時と定められていたことから、事業年度終了時に発行されていたのはXが保有する普通株式のみであり、その株式保有割合は100%であってSPC所得の全額が適用対象金額となるべきと主張した。 なお、本件各子SPCの事業年度終了時において貸借対照表に計上されていた利益剰余金の金額と、Yによる更正処分によりXの適用対象金額とされた金額は以下のとおりである。 (2) 第一審の判示 本件の第一審である東京地裁は、結論として、「本件各子SPC事業年度に係る原告の本件保有株式等割合は100%であり、本件各子SPCの同事業年度に係る適用対象金額の全額が課税対象金額となり、これに相当する金額がXの本件事業年度の所得の金額の計算上益金の額に算入されるべきものであるから、本件各処分はいずれも適法」と判示し、また、「措置法66条の6第1項所定の要件を満たす場合には、同条3項所定の適用除外要件を満たす場合を除き、租税回避の目的・実態の有無や当該特定外国子会社等の所在国・地域における事業の経済的合理性の有無等にかかわらず、同条1項が適用されるというべきであり、本件においてXが主張するような、本件各子SPCを用いた本件資金調達スキームが租税回避を目的としたものでないことや、これと同様の資金調達スキームがバーゼルⅡに対応するための合理的な方法として邦銀において当時広く採用されていたことなどの事情は、仮にこれらの事情が認められるとしても、同条1項の適用の可否を左右するものではない」としてXの請求を棄却した。これを不服としてXは控訴した。 (3) 控訴審の判示 控訴審である東京高裁は、一転、以下のように判示し、Xの逆転勝訴となった ① タックス・ヘイブン対策税制の趣旨について ② 租税特別措置法施行令39条の16第1項・2項適用の是非 東京高裁は、本件各処分等につき、Yが、「措置法施行令39条の16第1項、2項の規定を形式的に適用して、本件各子SPCの適用対象金額の全額が課税対象金額としてXの本件事業年度の所得の金額の計算上益金に算入されることなどを理由として、本件各処分を行ったものである。」と述べ、以下のように判示した。 (4) 検討 本件控訴審判決は、文理解釈をことのほか重視する論者からは評判が悪く、「裁判所は文理解釈を重視して予測可能性を担保するべき」との声も上がっている(※5)と聞く。しかし、本件各子SPCの事業年度終了時の貸借対照表の株主資本の部を見れば、本件各子SPCに所得が留保されていないのは一目瞭然で、損益計算書に当期純利益(適用対象金額と同額)が計上されているからといって、それをそのまま適用対象金額として株主であるXの益金の額に算入するというのは余りに不合理であろう(※6)。 (※5) T&Amaster No.929(2022.5.2)10頁 (※6) 谷口勢津夫教授は、『税法基本講義[第7版]』(弘文堂、2021年)45頁で、「文理解釈の結果が納税者にとって著しく不当・不合理なものである場合は、裁判官は納税者に有利な解釈によってその結論を除去すべきである。というのも、納税者は直接的には自らその結果を除去する権限を持たず、裁判を受ける権利を行使して裁判所に対してその結果の除去を請求し得るにとどまるが、裁判官は裁判を受ける権利を実質化し救済を実現するためには、文理から離れた法創造によってその結果を除去し納税者の権利を救済しなければならない。租税法規はみだりに規定の文言を離れて解釈すべきものではないという有名な判例があるが、みだりにやっては駄目だといっているだけで、みだりにではなく、正当かつ合理的な理由に基づいて規定の文言を離れて解釈することは許されるといえるだろう。」と述べている。 また、本件では、事業年度途中に株式保有割合が変動しており、「事業年度終了時」という租税特別措置法施行令の規定との間に齟齬が生じた事例といえる。そもそも制度設計時には本件のような事態は想定していなかったと思われるが、そうすると、本件救済の手段として、事業年度終了時を唯一の基準とする政令の内容が法律の委任の範囲を逸脱しているとする可能性もあったと思われる(※7)。しかし、東京高裁はそのようなロジックを採用せず(※8)、施行令を文理解釈どおりに形式的に適用することはできないというのに止まり、さらに。注意喚起として、「租税回避の目的や実態の有無という新たな要件を付加するものではない。」と判示した。 (※7) 政令委任の逸脱の是非について、一定の範囲で政令無効と判示した国際興業事件(最判令和3年3月11日)を引用し、本件についても明らかに政令委任の逸脱が認められるとして論じているものに長島弘「ケイマン諸島ダブルSPCに関するTH課税事件」月刊税務事例(Vol.54 No.4)2022年4月号53頁がある。 (※8) 木村浩之「みずほ銀行事件」T&Amaster No.926(2022.4.11)23頁は、「政令の内容そのものは上記のとおり一定の基準を定めるものとして不合理とはいえず、これを無効と判断するとその射程が広がりすぎる懸念があったことから、あくまでも本件の個別事情における判断として政令を適用することができないと判断したものと思われる。」と述べている。 なお、本件はYが上告受理申立てを行っており、最高裁による最終判断が待たれるところである。    (了)

#No. 538(掲載号)
#霞 晴久
2023/10/05

〈一から学ぶ〉リース取引の会計と税務 【第9回】「その他のリース取引の会計処理(借手)」~中途解約した場合、少額リース資産及び短期のリース取引、オペレーティング・リース取引~

〈一から学ぶ〉 リース取引の会計と税務 【第9回】 「その他のリース取引の会計処理(借手)」 ~中途解約した場合、少額リース資産及び短期のリース取引、オペレーティング・リース取引~   公認会計士・税理士 喜多 弘美   前回まで、ファイナンス・リース取引の借手の会計処理について整理しました。今回は、【第7回】、【第8回】で扱わなかったファイナンス・リース取引の会計処理(中途解約した場合の会計処理、少額リース資産及び短期のリース取引の会計処理)とオペレーティング・リース取引の会計処理についてみていきます。   1 ファイナンス・リース取引を中途解約した場合の会計処理 ファイナンス・リース取引は、ファイナンス・リース取引の条件の1つにあるように「中途解約不能」のリース取引です。しかし、法的形式上は解約可能であっても、解約する場合には、相当の違約金(規定損害金)を支払わなければならない等の理由から、事実上解約不能と認められるリース取引が含まれているため、リース期間中に解約することもあります。そのため、中途解約する場合には、未経過のリース期間に係るリース料の概ね全額を、規定損害金として支払うことになります。 ファイナンス・リース取引を中途解約した場合の会計処理では、①リース資産の返却、②規定損害金の支払いの2つの処理が必要になります。以下、具体的な数字でみていきましょう。 【例】リース資産2,000万円、減価償却累計額1,600万円、リース債務800万円、規定損害金1,000万円で中途解約する場合   2 オペレーティング・リース取引の会計処理 まだファイナンス・リース取引については、少額リース資産及び短期のリース取引の会計処理が残っているのですが、その前にオペレーティング・リース取引の会計処理を把握しておく必要があるので、先に解説します。 オペレーティング・リース取引は、ファイナンス・リース取引以外の取引、すなわち、「フルペイアウト」と「中途解約不能」という2つの条件をどちらも満たさない取引です。 これは、リース物件を借りているだけの状態のため、通常の賃貸借取引に係る方法に準じて会計処理を行う(いわゆる賃貸借処理)とされており、支払ったリース料を費用処理することになります。   3 ファイナンス・リース取引の少額リース資産及び短期のリース取引の会計処理 少額リース資産及び短期のリース取引は、個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合と整理されます。 前回の最後では支払利息について、所有権移転外ファイナンス・リース取引の重要性が乏しいと認められる場合の会計処理を記載しましたが、前回はリース資産総額に重要性が乏しいと認められる場合でした。今回は個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合のため、状況が異なるので注意してください。 個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合には、オペレーティング・リース取引の会計処理に準じて、賃貸借処理を行うことができます。個々のリース資産に重要性が乏しいと認められる場合とは、次の①~③のいずれかを満たす場合です。 具体的にみていきます。   (了)

#No. 538(掲載号)
#喜多 弘美
2023/10/05

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第147回】株式会社ビジョナリーホールディングス「責任調査委員会調査報告書(2023年7月25日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第147回】 株式会社ビジョナリーホールディングス 「責任調査委員会調査報告書(2023年7月25日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝     【株式会社ビジョナリーホールディングス責任調査委員会の概要】   【株式会社ビジョナリーホールディングスの概要】 株式会社ビジョナリーホールディングス(以下「ビジョナリーHD」と略称する)は、1976年7月に設立した有限会社メガネスーパーによって全国展開していた店舗を集約化して株式会社メガネスーパーに組織変更した後、2017年11月に株式会社メガネスーパーの単独株式移転により設立された。眼鏡・コンタクトレンズの小売事業を主たる事業とする。連結子会社5社を有している。連結売上27,001百万円、経常利益464百万円、資本金184百万円。従業員数1,377名(2023年4月期連結実績)。エムスリー株式会社(報告書上の表記は「C1社」)が発行済株式の32.88%を有する筆頭株主である。本店所在地は東京都中央区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人はPwCあらた有限責任監査法人東京事務所。なお、前任の会計監査人は、RSM清和監査法人(2021年4月期まで)。   【責任調査委員会による調査報告書の概要】 1 責任調査委員会設置の経緯 ビジョナリーHDは、2023年5月31日、第三者委員会による調査報告書を受領し、これを受けて、6月5日、2014年4月期以降におけるビジョナリーHD又はその連結子会社である株式会社VHリテールサービス(以下「VHリテールサービス」という)の取締役(監査等委員である取締役を含む。以下同じ)、監査役及び委任型又は雇用型の執行役員並びにビジョナリーHDグループの従業員(責任調査対象者)の職務執行に関して任務懈怠責任があったか否か等について適切かつ公正に判断するため、中立・公正な外部の弁護士から構成される責任調査委員会を設置した。 2 責任調査委員会による責任調査対象者 責任調査委員会は、ビジョナリーHD取締役会から、同社のステークホルダーに対する影響に鑑み、責任調査対象者のうち同社の2022年4月期の取締役、監査役又は委任型の執行役員であった、同社元代表取締役社長星﨑尚彦氏(報告書上の表記は、「h1氏」。以下「星﨑元社長」と略称する)、同社元取締役松尾拓道氏(報告書上の表記は、「h2氏」。以下「松尾元取締役」と略称する)らを含む13名に対する調査を優先して行い、その結果を報告することを要請されたことから、調査報告書においては、これらの者の調査結果を優先して報告するとしている。 3 責任調査対象者の法的責任の根拠の概要 責任調査委員会は、責任調査対象者のビジョナリーHD又はVHリテールサービスに対する法的責任の根拠のうち主要なものの概要について、次のように説明している。 (1) 取締役 取締役が、会社法又は民法上、負っている法的責任は次のとおりである。 (2) 監査役 監査役は、取締役の職務執行の監査を行う義務を負っており、その職務(監査)を遂行するにつき善管注意義務を負う。 (3) 委任型の執行役員 委任型の執行役員は、会社との間の委任契約に基づき善管注意義務を負い、かかる善管注意義務の一内容として、会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図ってはならない義務や、法令を遵守してその職務を行う義務等を負う。 ただし、委任型の執行役員は、取締役とは異なり会社法上の機関ではないため、その責任の範囲についても取締役とは差異があり、委任型の執行役員は、その職務上の地位を理由に当然に自社又は子会社の他の役職員に対する監視義務や監督義務を負うものではない。 4 責任調査委員会による責任調査対象者の法的責任の認定 第三者委員会は、5月31日付調査報告書で、「不適切な事象」として、以下の6項目を列挙している。 責任調査委員会は、第三者委員会が「不適切な事象」と判断した6項目のうち、「H2社等との取引(第2)」「H4社との取引(第3)」「H3社・H5社等との取引(第4)」及び「不適切な経費支出(第7)」の4項目に加えて、「連結子会社関連問題」について、責任調査対象者個々人の法的責任に関する判断を示している。 本稿では、星﨑元社長の法的責任について、責任調査委員会がどのような結論を出したかを中心に、調査報告書を検証したい。 (1) 責任調査委員会による法的責任判断の枠組み 責任調査委員会は、責任調査対象者個々人がそれぞれの事案について、法的責任に違反しているかどうかについて、次のような文末表現を使い分けている。 (2) 星﨑元社長の法的責任 ① H2社等との取引 責任調査委員会は、第三者委員会が不適切な事象として挙げたコールセンター業務(コンタクト定期便業務を含む)を4つの行為に分割して、星﨑元社長の法的責任について判断を行った。子会社であるVHリテールサービスとH2社等との取引を、取締役会の承認を得ることなく行い、かつ、取締役会に重要な事実の報告をしていなかったこと、さらに、VHリテールサービスの財産を犠牲にしてH2社等の利益を図るものであり、子会社監督義務違反が成立する又は成立する可能性があるという結論を導いている。 ② H4社との取引 責任調査委員会は、第三者委員会が不適切な事象として挙げたVHリテールサービスとH4社との間で締結した業務委託契約に基づき、H4社に対して業務委託費が支払われていた件については、星﨑元社長がH4社の支配株主であることを前提にした場合には、この取引を、取締役会の承認を得ることなく行い、かつ、取締役会に重要な事実の報告をしていなかったことについて、利益相反取引規制の違反及び子会社監督義務の違反が成立するとしたうえで、VHリテールサービスの財産を犠牲にしてH4社の利益を図るものであるから、子会社監督義務違反が成立すること、さらに、H4社から労働者派遣の役務の提供を受けた場合には、偽装請負に該当し、労働者派遣法第24条の2に違反するため、星﨑元社長には、監視義務又は子会社監督義務違反が成立する可能性があるという結論を導いている。 ③ H3社との取引 責任調査委員会は、H3社が星﨑元社長の支配下にあることを前提に、星﨑元社長が、H3社への事業移転及び競業取引を取締役会の承認を得ることなしに行ったことについて、子会社監督義務違反が成立するとの判断を示すとともに、店舗を閉鎖する合理性がなかった店舗を事業移転の対象とし、さらに、事業移転の対価が無償であったこと、VH社グループの従業員を引き抜いたことなどは、VH社グループの財産を犠牲にしてH3社の利益を図るものであり、子会社監督義務違反が成立する可能性があるという結論を導いている。 ④ 不適切な経費支出 責任調査委員会は、第三者委員会の調査によれば、星﨑元社長による経費申請に関し、交際費について、実際の参加人数と異なる参加人数を申請するなど虚偽の申請を行っていること、また、旅費交通費について、私的な懇親会からの帰りやスポーツジムに通う際に私的に利用したタクシーの料金を申請していたことが認められ、これらの行為は、ビジョナリーHDの社内規程に違反し、会社の利益を犠牲にして自己又は第三者の利益を図るものであるといえるため、星﨑元社長には、取締役としての善管注意義務及び忠実義務の違反が成立すると考えられるという判断を示している。 ⑤ 連結子会社関連問題 責任調査委員会は、第三者委員会の調査の結果、仮にH4社又はH6社がビジョナリーHDの連結子会社に該当する場合には、星﨑元社長は、H4社又はH6社が、連結子会社に該当する可能性があることを認識しながら、有価証券報告書等や連結計算書類の作成に当たり、 ビジョナリーHDの連結子会社として取り扱わなかったことは、金融商品取引法や会社法、一般に公正妥当と認められる会計規範の定めるところに従って有価証券報告書等や連結計算書類を作成し、虚偽記載等がされないようにする義務の違反が成立する可能性があると考えられるという判断を示している。 (3) その他の調査対象者の法的責任 責任調査委員会は、星﨑元社長以外の責任調査対象者12名についても、個別の事案ごとに、上記(1)で示した4段階の判断を示している。   【報告書の特徴】 前回の連載で触れたように、第三者委員会の調査は、「星組メンバー」による面談拒否や虚偽説明、「星組関係会社」による資料の提供拒否によって、十分に解明されないままに終わっている。そうした報告書を前提に、取締役・執行役員らの法的責任を判断することを委嘱された責任調査委員会は、当然のように難しい判断を強いられている。 ビジョナリーHDは、責任調査委員会の調査報告を受けて、星﨑元社長をはじめとする元取締役及び元執行役員の合計4名及び星組関係会社のうち2社を相手取って損害賠償請求訴訟の提起に至るわけだが、同社がリリースで説明しているように、今後も同社が被った様々な損害についての訴訟提起が続くことが予想され、判決が確定するまでには長い年月を要することは間違いない。東京証券取引所による「特設注意市場銘柄指定」の解除のためには、問題の全容解明が不可欠であるが、訴訟による事実の解明を待っているわけにはいかず、指定解除の見通しは厳しいものであることが予想される。 1 再発防止策の策定・元役員等に対する責任追及方針 ビジョナリーHDは、8月21日、「第三者委員会及び責任調査委員会の調査結果及び提言を受けた再発防止策の策定並びに元役員等に対する責任追及方針のお知らせ」をリリースして、同日開催の取締役会において、再発防止策と元役員に対する損害賠償請求を提起する方針であることを決議したと公表した。 (1) 再発防止策 (2) 元役員等に対する責任追及方針 ビジョナリーHD取締役会は、任務懈怠責任が認められる可能性が認定された同社の元役員及び元執行役員に対する損害賠償請求に関し、関与の度合い、訴訟における立証可能性、損害発生への寄与度、債権回収可能性などの観点から、更なる調査・分析・検討を行ってきた結果、星﨑元社長、松尾元取締役を含む7名の元取締役・執行役員に対し、責任追及訴訟を提起することによって、任務懈怠責任の有無及びその負担すべき金額について、裁判所において公的に確定することが妥当であると判断したことを公表した。 2 特別損益の計上 ビジョナリーHDは、8月29日、「特別損益の計上及び2023年4月期連結業績の前期実績値との差異に関するお知らせ」をリリースして、下記の連結業績に影響を与える特別利益と特別損失の計上を公表した。 (1) 特別利益の計上―新株予約権戻入益 特別利益として、星﨑元社長に付与していた新株予約権の失効で215百万円の新株予約権戻入益が発生し、これに従業員の退職に伴う新株予約権の失効と合わせて229百万円の新株予約権戻入益を計上した。 (2) 特別損失の計上―減損損失と特別調査費用 特別損失として、社内基幹システム老朽化に伴う減損損失583百万円、第三者委員会及び責任調査委員会による調査費用133百万円を計上した。 3 特設注意市場銘柄指定 東京証券取引所は、8月30日、「監理銘柄(確認中)の指定解除及び特設注意市場銘柄の指定について」をリリースして、ビジョナリーHD社株式を、同月31日付で、特設注意市場銘柄に指定したことを公表した。 その理由は、次のとおり説明されている。 特設注意市場銘柄指定を受けて、ビジョナリーHDは、同日、「監理銘柄(確認中)の指定解除及び特設注意市場銘柄の指定に関するお知らせ」を公表して、「今後の対応」として、任務懈怠責任が認められる可能性が認定された同社の元役員について損害賠償請求を行うことを決議したこと、第三者調査委員会及び責任調査委員会による提言等を踏まえた再発防止策を策定・実行していることなどを説明した後、「1年の改善期間を経て指定の解除が受けられるように当社グループの役職員一丸となって皆様からの信頼回復に向けて尽力してまいります」として、リリースを締め括っている。 4 損害賠償請求訴訟 さらに、ビジョナリーHDは、9月26日になって、「当社元役員等に対する損害賠償請求訴訟の提起のお知らせ」をリリースして、同日付で、星﨑元社長、松尾元取締役及び2名の元執行役員並びにH6社及びH7社を被告とした損害賠償請求訴訟を東京地方裁判所に提起したことを公表した。訴訟の内容として、「本訴訟は、上記元役員等である被告らの任務懈怠又は上記被告らの共同不法行為等により当社が被った調査費用等に関する損害について、会社法第423条第1項(筆者注:役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、民法第709条(筆者注:不法行為による損害賠償)、第719条1項(筆者注:共同不法行為者の責任)等に基づく損害賠償請求を行うもの」であるとしたうえで、請求額は356,225,029円であると説明し、最後に、「元役員等の任務懈怠等によって当社グループが被った損害は、上記請求金額に限定されるものではなく、今後、当社グループは、上記元役員等に対し、上記訴訟の他にも損害賠償請求訴訟を提起していく予定」であることを言明している。 (了)

#No. 538(掲載号)
#米澤 勝
2023/10/05

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第42回】「金融機関、顧問だからこそ知りうるM&Aの兆候と可能性(買い手編)」

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第42回】 「金融機関、顧問だからこそ知りうるM&Aの兆候と可能性 (買い手編)」   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒企業経営の選択肢としてM&Aを検討する際のヒントを得る。 売り手企業 ⇒金融機関、顧問との関係における買い手の視点を知る。 支援機関(第三者) ⇒買い手のM&Aの意向を酌んで、助言に役立てる。 その他の対象者 ⇒第三者視点による買い手のM&Aの兆候と可能性のポイントを知る。   1 買い手のM&Aの可能性 法人企業に接する第三者は、M&Aという切り口から対象企業を眺めるとき、買い手の成長のためのM&A、買い手が売り手の救い手となってほしいと願うM&Aといった観点から、いつでも潜在的な買い手候補企業に提案できるスタンスでいることが業務上大切な役割の1つだと思います。 通常、企業に接する金融機関や顧問先を有する税理士、公認会計士などは、職業特性や業務の関係から、企業の決算書を容易に入手(又は作成等を)する立場にあります。アカウンティングやファイナンスの知見を通じて、今後、対象企業の経営や財務がどのように成長していくのが望ましいかを考え、企業に新たな選択肢を提案することが求められます。 一昔前であれば、自力成長による経営拡大を目指すのがスタンダードだったと思います。しかし、近年の中小企業を取り巻く環境は、決して楽観視できません。従業員の実質賃金や所得向上の課題、為替相場、物価水準、グローバルサプライチェーン、日本の経済成長率、人手不足など様々な事情を考慮すると、自力成長による安泰は新しい産業、成長産業には当てはまるとしても、旧来型の産業、既存の事業については当てはまらない可能性が高いです。 企業のおかれた状況によりますが、選択肢としてM&Aを考えられるのであれば、新規参入、シェア拡大、規模の経済性といったメリットを活かして、M&Aによって従来のパターンと異なる成長を遂げる一手になる可能性があります。 今回は、第三者視点で、買い手となりうる候補企業のM&Aの兆候や可能性について検討するためのヒントになりうる内容を紹介します。   2 経営環境 買い手となりうる企業にとって、将来までを含めた自社の経営環境を把握するのが重要です。言い換えれば、第三者は、普段接する企業の経営環境や、企業を取り巻く環境をよく知っていることがM&Aの兆候や可能性に気づくために必要です。また、「As is To be」の観点から、現状と、将来像や理想とのギャップを埋める過程が企業成長にとって大事となります。第三者にとって、成長の過程にM&Aが必要になるかもしれないというアンテナが求められます。 一般的に経営環境を分析するときは、フレームワークが使われるケースが多く、コンサルティング会社による経営に関する提案の中でも使用されるケースがあると思います。 フレームワークとして、PEST分析、ファイブフォース分析、3C分析、アンゾフのマトリクス、PPM分析、SWOT分析をはじめ様々なフレームワークが普及しています。これらはいずれも図示化され、わかりやすいだけに、使い勝手はいいのですが、安易に使用すると、検討に適していないフレームワークを選択してしまい、意味がない場合もある点に留意します。もちろん、適したフレームワークを活用できれば、現在の経営を立ち止まって観察でき、役立つことも多いはずです。 日頃、企業に関わる第三者の多くは、資金や財務諸表ばかりに目がいき、企業そのものの成長について検討する機会が多くない印象を受けます。企業の内外の経営環境は現在どのような状況にあって、今後どうすべきかを検討する中で、M&Aを選択した際の効果がどのように表れるかを企業と一緒になって検討するのが、望ましい第三者のあり方だと思います。 それぞれのフレームワークに関する説明は割愛しますが、代表的なフレームワークは、学術論文、専門書、ビジネス書籍、インターネットなどを通じて探せば、すぐにたどり着くはずですので、この機会に情報入手されるのをお勧めします。   3 最適資金配分の観点 (1) 資金の源泉 M&Aを買い手の側で検討できる企業は、基本的にキャッシュを有する企業です。そのキャッシュはどのように生まれるかというと、上図のように主に3つの手段から獲得すると考えればよいでしょう。ここでは、主な資金の源泉としましたが、①手元資金、②営業CF(キャッシュ・フロー)、③資金調達の3つです。 ① 手元資金 手元資金は、過去に獲得した資金の残額であり、中小企業の場合、主にB/Sの現金及び預金の項目にある内容を指します。 ② 営業CF(キャッシュ・フロー) 営業CFは営業利益とは似て非なる概念です。企業会計上の利益にはキャッシュの変動に関係なく発生する収益、費用が含まれます。代表的なものは売掛金、買掛金を伴う掛け取引や、前払費用や前受収益などの経過勘定と呼ばれる項目です。これらの存在によって、キャッシュベースの営業利益の額と企業会計上の営業利益の額は、ほぼ全ての場合で異なります。 この類には、ほかにも減価償却費が該当します。減価償却費は過去に投資した簿価に対する計算上のコストであり、P/Lではマイナスされますが、減価償却費相当分のキャッシュがその期に減るわけではありません。 また、営業CFは税引後の数値を求める特徴があります。 よって、営業利益をベースに営業CFを求める場合、 で求めるのが一般的です。なお、税引き後の営業利益のことを「NOPAT」といいます。 ここで、運転資金は通常、売上債権(売掛金など)、棚卸資産、仕入債務(買掛金など)を指し、 がプラスの値の時は運転資金増減額をマイナスにし、これらがマイナスの時は逆に運転資金増減額をプラスにします。 なぜかというと、売掛金を計上する限りキャッシュインを先送りしており、棚卸資産が計上される限りキャッシュを生まないため、計算上キャッシュのマイナスと考えます。一方、仕入債務の計上はキャッシュアウトの先送りのため計算上キャッシュのプラスと考えます。このため、売上債権と棚卸資産の合計が仕入債務を上回るようであれば運転資金は減っている、逆に、仕入債務が売上債権と棚卸資産の合計を上回るならば運転資金は増加していると考えます。 ③ 資金調達 資金調達は、中小企業の場合、エクイティ(株主資本)による調達は皆無といってもいいはずですので、通常、銀行等からの借入れを想定いただくとよいでしょう。 (2) 資金総額 企業経営の自由度を高めるには、上記(1)の資金の源泉を考え、キャッシュの総額をいかに拡大させていくかにかかっています。とはいえ、企業経営者であればお気づきのように営業CFを増やすのが企業の最優先事項です。 ちなみに、関与する税理士等が節税策を提案するケースが、中小企業の場合には多いと思います。しかし、私見ですが、中小企業経営において節税を意識しすぎるのには反対です。過去を振り返っていただくと、キャッシュアウトなしに節税できるケースはさほど多くなく、節税した分、おそらく本業以外の、直接には収益を生まない何かにキャッシュアウトしているはずです。 本来、営業CFを増やし、自由な資金を増やして、次の成長に資金を配分しながら成長する経営を目指したはずが、日本の中小企業では、節税を意識しすぎるあまり、自ら企業成長にブレーキをかけている例が多すぎると実感しています。 M&Aを念頭に置く企業や、将来M&Aを視野に入れて欲しい企業を担当する第三者は、ぜひ「M&Aに投じるキャッシュをいかに留保できるか」の視点で資金管理を行っていただければと思います。 (3) 戦略的又は計画的投資としてのM&A 上記(1)(2)の流れを受けて、十分なキャッシュがあるか、今後十分なキャッシュが生まれる可能性が高ければ、上図に記載した主な資金使途の数ある選択肢を検討できる余裕が生まれます。 その1つの手段がM&Aであり、M&Aを通して、業務の幅を広げ、川上から川下までの取引やフローの連鎖を自社が担うといった、自社になかったリソースを外部から調達してさらなる成長に繋げる道が開けます。キャッシュを使って、何の選択を行うかは企業、経営者の自由ですが、M&Aは、自社にないリソースを手に入れる手段という点で優れています。もし、ゼロから事業を立ち上げるとすれば、どれほどの時間を要するかわかりません。 設備投資ほどには安易に決断できませんが、(事業)投資の代表的な手段として、今後、中小企業の経営の選択肢に含まれる機会が増えてくると思います。 第三者として企業に関わる際は、このようなキャッシュ・フローを生み出す経営の中でいかにキャッシュを獲得し、キャッシュ総額を増やし、キャッシュを次の成長投資に配分するかの観点からM&Aを提案する機会をうかがうとよいと思います。その前提として、上記2で触れた経営環境の分析が活かされますので、現在、企業がどのようなステージにあり、今後どのような企業体を目指すのかを検討するプロセスが、買い手のM&Aの兆候や可能性を探るうえで欠かせません。 (了)

#No. 538(掲載号)
#荻窪 輝明
2023/10/05
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