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〔重要ポイント解説〕サステナビリティ開示基準案 【第3回】「「一般開示基準(案)」の概要」

〔重要ポイント解説〕 サステナビリティ開示基準案 【第3回】 「「一般開示基準(案)」の概要」   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   2024年3月29日にSSBJより以下のサステナビリティ開示基準案が公表された。 今回は、サステナビリティ開示テーマ別基準公開草案第1号「一般開示基準(案)」(以下、「一般開示基準案」という)の概要を解説する。   〇 一般開示基準案の概要 一般開示基準案では、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示(IFRS S1号の「コア・コンテンツ(ガバナンス、戦略、リスク管理、指標及び目標)」の内容)について定めている。 (1) 目的 一般開示基準案の目的は、一般目的財務報告書の主要な利用者が企業に資源を提供するかどうかに関する意思決定を行うにあたり有用な、当該企業のサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報の開示について定めることにある(一般開示基準案1)。 サステナビリティ関連財務開示は、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれるサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報を開示する。また、企業の見通しに影響を与えると合理的に見込まれないサステナビリティ関連のリスク及び機会に関する情報は、開示する必要はない(一般開示基準案2)。 (2) 範囲 一般開示基準案は、サステナビリティ開示基準に従ってサステナビリティ関連財務開示を作成し、報告するにあたり、適用する(一般開示基準案3)。 (3) コア・コンテンツの開示 ① 4つの構成要素 サステナビリティ関連財務開示では、原則、以下に関する情報を開示する(一般開示基準案7)。 ② ガバナンス ガバナンスを開示する目的は、サステナビリティ関連のリスク及び機会をモニタリング、管理し、監督するための企業のガバナンスのプロセス、統制及び手続を理解できるようにすることにある(一般開示基準案8)。 具体的には、以下の内容を開示する(一般開示基準案9、10)。 ③ 戦略 戦略を開示する目的は、サステナビリティ関連のリスク及び機会を管理する企業の戦略を理解できるようにすることにある(一般開示基準案11)。 具体的には、以下の内容を開示する(一般開示基準案12~28)。 (※1) レジリエンスとは、サステナビリティ関連のリスクから生じる不確実性に対応する企業の能力をいう(一般開示基準案24)。 ④ リスク管理 リスク管理を開示する目的は、サステナビリティ関連のリスク及び機会を識別、評価し、優先順位付けし、モニタリングするプロセスを理解し、企業の全体的なリスク・プロファイル及び全体的なリスク管理プロセスを評価することにある(一般開示基準案29)。 具体的には、以下の内容を開示する(一般開示基準案30)。 ⑤ 指標及び目標 指標及び目標を開示する目的は、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関連する企業のパフォーマンス(企業が設定した目標、目標の達成に向けた進捗を含む)を理解できるようにすることにある(一般開示基準案31)。 具体的には、以下の内容を開示する(一般開示基準案33~40)。 (了)

#No. 571(掲載号)
#西田 友洋
2024/05/30

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第20回】「相続人申告登記の申出手続と登記記録の注意点」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第20回】 「相続人申告登記の申出手続と登記記録の注意点」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 相続人申告登記制度の詳細が、通達の公布等によって新たに明らかになったと聞きました。この内容について教えてください。 【A】 以下の内容等が明らかになった。 -《解説》- 1 はじめに 令和4年3月31日に公開した本連載【第4回】「新設された相続人申告登記制度の概要と注意点」では、相続人申告登記制度の概要と注意点についてご紹介した。 この当時は確定していなかった事項が、令和6年3月15日法務省民二第535号(相続人申告登記関係)(通達)等で明らかになった。 今回は、本Web情報誌の中心的読者であり、かつ相続実務に関わることが多いと思われる税理士、公認会計士、企業の実務担当者にとって必要な限度で、この明らかになった点を解説する。   2 相続人申告登記制度の概要 まずは復習代わりに、相続人申告登記制度の概要を再度確認する。 (※) 法務省ホームページ「相続人申告登記について」より抜粋。   3 相続人申告登記の申出手続 相続人申告登記制度において注目すべきは、申出をするにあたり、書面だけでなくオンライン申請も可能である点である。しかも、登記用の専用ソフトを利用することなく、「かんたん登記申請」によりWebブラウザ上で手続ができる。 そもそも、相続登記の申請義務を簡易に履行するために、「相続人申告登記」という制度が採用された。このように義務を簡易に履行するためには、オンラインにより手軽に申請ができるべきであり、その際に専用ソフトのダウンロードをする手間を掛けさせるべきではない。この配慮のもと、簡易な申告方法を認めたと推測する。 なお、相続人申告登記の申出をするにあたり作成する書類や添付情報の詳細は、法務省のホームページから確認してほしい。 (※) ホームページでは、相続人申告登記は非課税である点も明示されている。   4 相続人申告登記に関する登記の登記簿への記録例 本連載【第4回】「新設された相続人申告登記制度の概要と注意点」の執筆時は、相続人申告登記の登記簿への記録例はイメージに基づき紹介したに過ぎなかった。その中で注意喚起した相続人申告登記の見誤りのリスクを、明らかになった登記簿への記録例を参考に改めてご説明したい。 (※) 以下、記録例は、令和6年3月15日法務省民二第535号(相続人申告登記関係)(通達)から抜粋している。 〈相続人申告登記の基本形〉 登記記録上の所有者甲が死亡し、その子乙において、相続人申告登記の申出を行う場合の登記簿の記録例である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 この登記記録の下に、以下の記載が載る。 少しまどろっこしい表現だが、要するに、甲の相続人として申出があった者として記録されている乙は、この不動産の所有者ではなく、単に相続人であることの申出をしたに過ぎないという意味である。そのため、乙は不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりすることはできない点に注意する必要がある。 〈相続人申告登記の応用形①〉 登記記録上の所有者甲が死亡し、その配偶者乙と子の1人丙において、相続人申告登記の申出を一括で行った場合の登記簿の記録例である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 〈相続人申告登記の応用形②〉 登記記録上の所有者甲が死亡し、その配偶者乙に関して令和6年に相続人申出に係る登記がなされ、その後、子の1人丙に関して令和8年に相続人申出に係る登記がなされた場合の登記簿の記録例である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 (※) 順位2番付記2号の登記の後に、他の甲の相続人である子の1人丁による相続人申出があった場合の相続人申告事項は、順位2番付記3号に記録される。 〈相続人申告登記の応用形③〉 登記記録上の所有者甲が死亡し、その配偶者乙に関して相続人申出に係る登記がなされた。その後相続人間で遺産分割協議が整い、分割協議に基づき不動産を単独で相続した子の1人丙に関して、相続登記がなされた場合の登記簿の記録例である。 ※画像をクリックすると、別ページでPDFが開きます。 この場合は、乙による相続人申告登記はなされているものの、その後丙による相続登記がなされている点に注意が必要である。いままで挙げてきた例とは異なり、相続を原因とする所有権移転登記がなされているので、不動産の権利関係は確定している。そのため、この後、丙は相続した不動産を売却したり、抵当権の設定をしたりすることもできる。 (了)

#No. 571(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2024/05/30

わたしは税金 「クイズに当たった」-賞金と税金-

わたしは税金 「クイズに当たった」 -賞金と税金- 公認会計士・税理士 鈴木 基史   ◆クイズに当たった 「へぇー、あんたすごいじゃない。で、その車、いくらぐらいするの? 200万! すごいじゃない!」 「すごい」を連発してるのは、田中さんちのママ。妹から電話があって、ある自動車メーカーのクイズに当選し、賞品として定価200万円の車をもらったとのこと。 「でも、それって、税金かかるんじゃない?・・・そうよ、200万円ももらったら半分税金よ」 おやおや、ママの脅しで、電話の向こうの妹さんの顔が青ざめてきました。   ◆たまたま受けるものは一時所得 田中さん、半分が税金というのは言い過ぎですよ。だけど確かに、クイズや福引きなどの賞金・賞品には所得税がかかります。 たとえば、プロゴルファーが受け取る賞金・・・彼らにとってこれは稼ぎだから「事業所得」、というのはおわかりですね。でも、一般の人がクイズに応募して当たるのはたまたまのことですから、こういう場合の所得は「一時所得」。たとえクイズ・マニアでしょっちゅう応募している賞金稼ぎの人の場合でも、やはり一時所得です。   ◆現金正価の6掛けが収入金額 一時所得は次のように計算します。 一時所得は、給与所得など他の所得に加えて総合課税されますが、その際、所得金額を2分の1にして合計します。 “収入金額”は賞金ならもらった額ですが、賞品の場合はどうか? モノによりますが、妹さんのように車をもらったときは、現金正価の60%で計算します。そこで収入は、200万円×60%=120万円なり。 次に“必要経費”とは、当選するのに直接要した金額をいいます。はがきで応募すればはがき代、オートショウの会場へ足を運んだら交通費・・・ぐらいのものでしょうか。 たとえば、クイズ・マニアの人が10回はがきを出して1回当選した場合、必要経費になるのは当選した分のはがき代だけです。ご注意ください。   ◆35万円を他の所得に加える 結局、クイズの賞品には必要経費なんてほとんどなし。というわけで妹さんの場合、一時所得の計算は次のとおりです。 さらに、他の所得と合計して課税対象となる金額は、70万円×1/2=35万円ということになります。   ◆専業主婦なら無税 妹さんに給与所得などがあれば、そこに35万円を加え、来年の3月15日までに確定申告してください。 ただし、所得税には基礎控除が48万円あります。そこで、妹さんが専業主婦で収入はないということなら、クイズの賞品で所得が35万円あっても、課税所得は差引き『0』。 よって税金はかからず、もちろん確定申告も不要です。   ◆1割源泉徴収される もう少し細かいお話もしておきましょう。賞金や賞品で50万円以上もらうとき、50万円を超える部分につき、10%(正確には復興特別所得税を加えて10.21%)の税率で所得税が源泉徴収されます。 そこで確定申告をするときは、この源泉税を税額から控除するのをお忘れなく。ちょうど配当所得を確定申告するときに、15%または20%の源泉税を精算するのと同じやり方です。 賞金ではなく賞品をもらうときは、通常、渡す側で源泉税を負担すると思います。妹さんが車をもらうとき、税額は「(200万円×0.6-50万円)÷0.9×10%」で7万7,777円。 そこで一時所得の確定申告をするときは、収入の120万円にこれを加え、127万7,777円もらったものとして計算しなければなりません。   ◆宝くじは非課税 さて、ついでの話で、宝くじが当たったら税金はどうなるか。これもやはり一時所得です。でも、「当せん金付証票法」という法律があって、宝くじには税金をかけないことになっています。宝くじは、自治体などが胴元のバクチみたいなもの。当たり券に税金をかけると、お金の集まりが鈍るという配慮から、そういう扱いになっているんですね。 ただし、当たった券を誰かにあげれば贈与税の出番です。また、数人でお金を出し合って購入した宝くじが当たったときも要注意です。代表して1人が当せん金を受け取り、これを仲間に分配すると贈与税が黙っていません。 こういうときは、共同購入した全員で当せん金を受け取り、銀行が発行する宝くじの「高額当選証明書」に、各自が受け取る金額を記載してもらうことです。そうすれば贈与ではなく、宝くじの当せん金となります。   ◆競輪・競馬には税金がかかる さらについでの話ですが、競馬や競輪で当てたとき・・・これも一時所得です。こちらは宝くじのように非課税の扱いはなし。原則どおり税金がかかります。 とはいえ、『50万円』の特別控除があるので、少々もうけたぐらいなら、税金の心配はご無用です。だけど、足しげく通っている人や大穴を当てた人で、1年間の払い戻しが合計50万円を超える人は確定申告が必要。   ◆他の一時所得と合計 馬券の払戻し金だけでなく、クイズの賞金など他に何か一時所得があるときは、もちろんそれも加えて年間50万円を超えるかどうかです。馬券の払い戻しの一時所得は、次のように計算します。 この「馬券所得」の2分の1の金額が、総合課税の対象となります。   ◆馬券所得が雑所得に? 最後に、馬券所得に関して興味深いお話を一つ、ご披露しましょう。 ある人が3年間、競馬で約1億4,000万円の利益を上げていたのに申告せず、国税局の査察を受けて所得税法違反で告訴されました。起訴された金額は、何と5億7,000万円です。追徴課税の金額が実際に得た利益の4倍にもなっているのは、馬券の払戻し金の合計額から、的中した買い目の馬券代しか控除されない計算だったからです。 この人は、市販の競馬予想ソフトに改良を加え、ネット上でJRA全競馬場のほぼ全レースの馬券を無差別に購入する、という買い方をしていました。税務当局との間で最高裁まで争われましたが、裁判所はこれを「営利を目的とする継続的行為から生じた所得」、すなわち「雑所得」と認定しました。 そこで外れ馬券の購入費用や、ソフトの利用料金なども必要経費として認めたのです。その結果、脱税所得額は、一時所得であることを前提に起訴された5億7,000万円から、5,200万円に圧縮されました。   ◆原則として馬券所得は一時所得 これは、払戻し金が雑所得と認められた画期的な判決です。一時所得と雑所得では、扱いがかなり違います。一時所得には50万円の特別控除と、2分の1課税という恩典があります。ただし、必要経費となる支払いは極めて限定的です。 1,000万円、2,000万円の収入ならいざ知らず。億単位の馬券収入となると、外れ馬券もすべて必要経費にカウントされる、雑所得のほうが断然有利です。 この裁判のあと、同じような訴訟がいくつも続きました。雑所得、と認められた判決も中にはあります。でもそれはよほどのレアケースで、税務当局の基本方針はいまだ、払戻し金は一時所得となっていますのでご承知おきください。 (連載了) 人生にまつわる税金ものがたり、 もっとたくさんのお話を読みたい方へ送る一冊。

#No. 571(掲載号)
#鈴木 基史
2024/05/30

《速報解説》 会計士協会、「中間財務諸表に関する会計基準」等を受けて資本連結実務指針を改正

《速報解説》 会計士協会、「中間財務諸表に関する会計基準」等を受けて資本連結実務指針を改正   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2024年5月27日、日本公認会計士協会は、会計制度委員会報告第7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」の改正を公表した。 これにより、2024年3月22日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に対する意見は寄せられなかったとのことである。 これは、「中間財務諸表に関する会計基準」(企業会計基準第33号)等を受けたものである。   Ⅱ 資本連結実務指針の改正 「中間財務諸表に関する会計基準」の「子会社を取得又は売却した場合等のみなし取得日又はみなし売却日(中間会計基準20項)」を受けて、資本連結実務指針7項において、「この場合の決算日には四半期決算日、中間決算日又はその他の適切に決算が行われた日が含まれる」とする改正である。 「その他の適切に決算が行われた」とは、子会社において中間会計基準に準じた決算が行われたことを想定している(中間会計基準BC18項、資本連結実務指針54-3項)。   Ⅲ 適用時期等 2024年に公表された中間会計基準等を適用する連結会計年度から適用する。 (了)

#阿部 光成
2024/05/29

プロフェッションジャーナル No.570が公開されました!~今週のお薦め記事~

2024年5月23日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.570を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2024/05/23

「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例134(法人事業税)】 「法人事業税につき、「軽微な附帯事業」である太陽光発電事業を区分経理して、別々に税額を計算し合算した方が有利であった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例134(法人事業税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆事業の種類と課税方式 法人事業税は、資本金1億円以下の普通法人については、以下の事業ごとに異なる課税方式が定められている。電気供給業はその内容によって第2号事業と第3号事業に区分されており、太陽光発電事業は第3号事業に該当する。 ◆異なる区分の事業を併せて行う場合の課税方式(地方税法の施行に関する取扱いについて(道府県税関係)4の9の9) 一般に所得等課税事業、収入金額課税事業又は収入金額等課税事業のうち、複数の部門の事業を併せて行う法人の納付すべき事業税額は、原則として事業部門ごとにそれぞれ課税標準額及び税額を算定し、その税額の合算額による。 (1) 従たる事業が軽微な場合 従たる事業が主たる事業に比して社会通念上独立した事業部門とは認められない程度の軽微なものであり、したがって従たる事業が主たる事業と兼ね併せて行われているというよりも、むしろ主たる事業の附帯事業として行われていると認められる場合においては、事業部門ごとに別々に課税標準額及び税額を算定しないで、従たる事業を主たる事業のうちに含めて主たる事業に対する課税方式によって課税して差し支えない。 (2) 従たる事業のうち「軽微なもの」とは 従たる事業のうち「軽微なもの」とは、一般に、従たる事業の売上金額が主たる事業の売上金額の1割程度以下であり、かつ、売上金額など事業の経営規模の比較において、従たる事業と同種の事業を行う他の事業者と課税の公平性を欠くことにならないものをいう。この点、特に従たる事業が収入金額によって課税されている事業である場合には、当該事業を取り巻く環境変化に十分留意しつつ、その実態に即して厳に慎重に判断すべきである。 なお、「附帯事業」とは、主たる事業の有する性格等によって必然的にそれに関連して考えられる事業をいうのであるが、それ以外に主たる事業の目的を遂行するため、又は顧客の便宜に資する等の理由によって当該事業に伴って行われる事業をも含めて解することが適当である。       (了)

#No. 570(掲載号)
#齋藤 和助
2024/05/23

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第37回】「新賃借人から旧賃借人に支払われた2億円は資産の譲渡の対価ではなく、契約上の地位の消滅の対価であるとされた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第37回】 「新賃借人から旧賃借人に支払われた2億円は資産の譲渡の対価ではなく、契約上の地位の消滅の対価であるとされた事例」   税理士 菅野 真美   ▷立退料等の消費税法上の取扱い 消費税は国内で財や役務提供を受けたときにその対価に課税して受け手(買い手)が負担するが、その税金を申告納付するのは財や役務を提供する事業者である。この消費税の申告納付額は、事業者が行った資産の譲渡や役務提供の対価について課された消費税から、この資産等を手に入れるために支払った消費税を差し引いて計算する。 資産の譲渡とは、資産につきその同一性を保持しつつ、他人に移転させること(消基通5-2-1)であり、資産の譲渡により対価を受け取るような行為は、原則的には、課税取引とされる。 しかし、資産や権利が消滅することにより対価を受け取る行為については、同一性を保持しつつ、他人に移転させるものではないことから消費税の対象とはならない。 この違いが賃貸借契約のときの立退料の取扱いに現れてくる。賃貸借契約の解除に伴い、権利消滅の対価として受け取る立退料は消費税の課税対象とはならない。 消費税法基本通達5-2-7(本文) しかし、賃貸借契約を第三者に譲渡することで受け取る対価は、賃貸借契約という同一性を保持しつつ、他人に移転させることによる対価であるため資産の譲渡等に該当する。 消費税法基本通達5-2-7(注書き) このように賃借人が賃貸借契約から離脱する際に受け取った金銭は、その原因によって消費税の課税関係が異なる。今回は、賃貸借契約の合意解除により、新賃借人から旧賃借人に支払われた金銭が消費税の課税対象か否かで争われた事例を検討する。   ▷事例の概要及び争点 この事例の経緯は以下のようなものである。 昭和62年7月7日、C社は納税者に対し、土地及び同土地上に新築する建物をパチンコ店として賃貸する旨の契約(以下「本件原契約」という)を納税者と締結した。本件原契約は2度更新されており、最新となる平成24年7月30日の更新では、賃貸借の期間を同日から起算して10年間とすることとされた。 B社が、納税者の利用している土地の利用を希望したことから、納税者は本件原契約を解除したうえで建物を撤去して立ち退くことになった。しかし、本件原契約を契約期間内に解除すると契約満了までの期間、C社は賃貸料を受け取ることができず、また、他の地権者から解約違約金を求められるリスクを避けるため、2億円の金銭を新賃借人であるB社が納税者に支払うこととなった。 なお、合意解除に至るまでのプロセスにおいて、納税者とB社の間で協定書の締結と覚書が作成された。これらのポイントは次のようなものである。 〇平成31年4月19日付「物件移転等に関する協定書」と同日付「覚書」(以下「本件協定書」という) 〇令和元年8月28日付「契約上の地位承継に関する覚書」(以下「本件覚書」という) 本件協定書に従い、平成31年4月19日にB社は納税者の口座に2,000万円を振り込み、令和元年8月29日にB社は納税者の口座に1億8,000万円を振り込んだ。 納税者はこの2億円について、退去撤退に伴って支払われる損失補償金であるとして、消費税の課税標準に含めないで申告を行った。 令和3年6月29日付で課税庁は、この2億円の金銭は課税資産の譲渡等に該当するとして更正処分をした。この更正処分を不服とした納税者が、審査請求をしたところ棄却されたことから、令和5年2月17日に訴訟を提起したのが本件である。 なお、時期は不明であるが、B社は当初、消費税の納税申告でこの2億円を補償金として課税仕入の対象外としていたが、税務調査の際に本件原契約上の地位の対価であると説明し、課税仕入として計上することが認められた。 争点は、この2億円の金銭が資産の譲渡等の対価に当たるか否かである。   ▷地裁の判断は 地裁は主に以下のように述べて、納税者の請求には理由があるとして認容し、課税処分を取り消すとした。 *   *   * このように課税庁敗訴でこの事案は確定した。当初の協定書では解約することにより生ずる損失の補償として2億円を支払うと記載したが、覚書において、2億円の支払が賃借人の地位の承継の対価とは記載されていなかったことが大きな原因と考えられる。 なぜ、このような文言の変更のある覚書が作成されたのか。 B社にとっては、消費税の仕入税額控除が認められないのは不利と気づいて、地位の承継に変更してほしいという主張をしたが、納税者の納得を得ることができず、2億円の使途までは記載できなかったのではないだろうか。 また、B社は納税者らとの覚書では地位の承継のための対価と記載できなかったが、税務調査の際に上手く説明して仕入税額控除が認められるように誘導したのかもしれない。 結局、課税庁が協定書や覚書を精査せずにB社の仕入税額控除を認めたことが、今回の事例の敗訴につながったのだろう。 取引に課税する消費税に対する深い理解が、取引の交渉に際して極めて重要であるということをこの事例は物語っている。 (了)

#No. 570(掲載号)
#菅野 真美
2024/05/23

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第43回】

暗号資産(トークン)・NFTをめぐる税務 【第43回】   東洋大学法学部准教授 泉 絢也   15 暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合 個人が、自分で管理するウォレットから暗号資産を窃取されたのではなく、暗号資産を預けていた暗号資産交換業者が窃取された場合において、暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合にはどのような課税関係になるか。 実際の例として、平成30年9月に、暗号資産取引所Zaifでは、外部からの不正アクセスによりハッキング被害を受け、同社が管理する暗号資産のうちの一部が外部に不正流出した。 同社は、補償の内容等について次のとおり説明している。 (※) 暗号資産取引所Zaifのプレスリリースより抜粋 (1) 国税庁の見解 この点について、国税庁のタックスアンサーNo.1525「暗号資産交換業者から暗号資産に代えて金銭の補償を受けた場合」は、次のとおり、上記のような補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となると説明している(下線筆者)。 上記のような補償金は、非課税となる損害賠償金には該当せず、雑所得として課税の対象となるという回答部分の検討は後で行い、ここでは暗号資産の原価相当額の取扱いに着目する。 タックスアンサーのなお書き部分では、「補償金の計算の基礎となった1単位当たりの暗号資産の価額がもともとの取得単価よりも低額である場合には、雑所得の金額の計算上、損失が生じることになりますので、その場合には、その損失を他の雑所得の金額と通算することができます。」と説明している。 上記補償金が非課税所得に該当しない以上、返還できなくなった暗号資産の原価相当額を損失として計上すること自体は妥当であるが、タックスアンサーではその根拠法令は示されていないため、次の疑問を提起しておく(なお、損害賠償金等のうちに必要経費を補てんするための金額が含まれている場合のその金額は、非課税とはならない。所令30柱書括弧書)。 参考として、上記のZaifにおける不正流出に伴い受領する補償金の課税関係について、Zaifは次のとおり説明している。 (※) 暗号資産取引所Zaifのプレスリリースより抜粋 なお、上記のタックスアンサーの事例では、暗号資産交換業者に預託していたケースが想定されている。個別の契約や仕組みにもよるが、通常、暗号資産交換業者に暗号資産を預託していた顧客が有するのは暗号資産そのものではなく、その預け先である暗号資産交換業者に対する債権(返還債権)ということになろう。 このように考えられる場合には、それが不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業の遂行上生じた債権といえるのであれば、所得税法51条2項により、貸倒損失として計上できるケースもありうる。その他の場合は、同条4項により、貸倒損失として計上できるかを検討することになろう。 (2) 損害賠償金の課税関係 個人が収入等の形で新たに取得する経済的利得(純資産の増加)はすべて所得であるとする包括的所得概念(純資産増加説)を前提にするとしても、損害の回復であれば純資産は増加しないため所得ではないという説明は成り立つ。ただし、損害賠償金等を非課税所得とする現行の税制の背後には、国民感情や被害者への配慮、常識論といった価値判断も存在する。 現行所得税法上、次の①~③の保険金や損害賠償金等については非課税所得とされている(所法9①十八、所令30)。 (※1) その損害に基因して勤務又は業務に従事することができなかったことによる給与又は収益の補償として受けるものを含む。 (※2) 所得税法施行令94条の規定に該当するものを除く。 (※3) 所得税法施行令94条の規定に該当するものその他役務の対価たる性質を有するものを除く。 上記のうち①は、身体・心身への損害に基因する保険金等が非課税の対象であるため、検討の対象から外すことができる。よって、暗号資産交換業者からの上記補償金については、②と③に該当するかが問題となるが、ここでは主として②に該当するか否かを考察する。 上記③の参考として、昭和37年度税制改正で非課税所得として明記された、この「相当の見舞金」について、立案担当者は、「第三者から受ける類焼見舞金、病気見舞金等を想定しており、相当なとは、その出す人及び受ける人の社会的地位、財産の状況から相当と認められる金額を意味するものと考えている」と説明している(米山鈞一「所得税法の改正について」税務弘報10巻6号22頁)(所基通9-23や相基通21の3-9にも通ずる考え方である)。   (了)

#No. 570(掲載号)
#泉 絢也
2024/05/23

街の税理士が「あれっ?」と思う税務の疑問点 【第8回】「自宅以外で亡くなった場合の小規模宅地等の特例の適用」~老人ホームの場合②~

街の税理士が「あれっ?」と思う 税務の疑問点 【第8回】 「自宅以外で亡くなった場合の小規模宅地等の特例の適用」 ~老人ホームの場合②~   城東税務勉強会 税理士 大塚 進一   問 題 父母は二世帯住宅の2階部分に同居していましたが、母は以前に死亡し、父は政令に定められる老人ホームに入居し、要介護認定を受け、そのままその老人ホームで亡くなりました(二世帯住宅の建物と敷地は父所有)。 二世帯住宅の1階部分には長男夫妻とその娘(孫)が住んでいましたが、父が老人ホーム入居の直前まで居住していた2階部分には、老人ホーム入居後かつ父が亡くなる前に孫娘が居住し始めました。 なお、父と長男夫妻とその娘(孫)は全員生計を一にしており、父の老人ホーム入居後も生計一であり、相続以降そのまま住み続けています(建物は区分所有登記ではない)。 上記において、その建物と敷地を長男が相続した場合、敷地は相続開始直前において父の居住の用に供されていた宅地等に当たり、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例は受けられますか。 回 答 特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例は受けられると考えられます。 被相続人が老人ホーム等への入居直前まで居住の用に供していた宅地等は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等に含まれます。ただし、老人ホーム等に入居後、居住の用に供されていた宅地等が事業の用や、被相続人等又は被相続人と入居の直前に生計を一にし、かつ、その建物に引き続き居住している被相続人の親族、以外の者の居住の用に供された場合は、被相続人の居住の用に供されていた宅地等から除かれる旨の規定(措法69の4①、措令40の2③)があります。 なお、下線部でいう「被相続人等」とは、租税特別措置法69条の4第1項及び租税特別措置法関係通達69の4-2にて、「当該相続の開始の直前において当該相続又は遺贈に係る被相続人又は被相続人と生計を一にしていたその被相続人の親族」と規定されています。 孫娘は入居の直前及び相続開始の直前とも生計一の親族であるので、下線部の要件には該当しません。よって、父の土地全体が特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例が受けられます。 考 察 老人ホーム入居後の空き家に、親族が入居する場合があり、特に二世帯住宅の場合は老人ホームに入居しなかった世帯が、居住空間を広げるためその空いた部分に居住することがあります。 以下の例題では、長男夫妻とその子である孫娘は常に生計一とした上で、父との生計一か否かを考察します。 (1) 父の老人ホーム入居後、別居していた孫娘が空き部分に入居した場合(入居前後とも全員生計一) この場合、孫娘は被相続人と入居の直前に生計を一にしていますが、その建物に引き続き居住しているわけではありません。ただし、相続開始の直前において生計を一にしていた親族であるので、上記下線部の要件には該当しません。よって、父の土地全体が特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例を受けられます。 (2) 孫娘が父の老人ホーム入居前から父と同居している場合(入居前は全員生計一、入居後は父のみ生計別) この場合、孫娘は相続開始の直前において生計別ではありますが、被相続人と老人ホーム等への入居の直前に生計を一にし、その建物に引き続き居住していますので、上記下線部の要件に該当しません。よって、父の土地全体が特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例を受けられます。 以下では、上記の問題の場合とは異なる他の場合についても考察します(以下いずれの場合も相続税の申告期限まで居住)。下記(3)~(5)の場合、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例の適用可否の注意点は、居住する二世帯が老人ホーム等の入居直前及び相続開始の直前において、生計一か否かです(なお、長男夫妻及び孫娘は常に生計一とします)。 (3) 老人ホーム等への入居前後とも生計別の場合 孫娘は入居の前後とも生計別の親族であるので、上記下線部の要件に該当します。よって、特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例は受けられません。 (4) 老人ホーム等への入居前は生計別、入居後は生計一の場合 孫娘は入居の前は生計別の親族ですが、相続開始の直前は生計一の親族、すなわち被相続人等となるので、上記下線部の要件に該当しません。よって、父の土地全体が特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例は受けられます。 (5) 老人ホーム等への入居前は生計一、入居後は生計別の場合 孫娘は相続開始の直前において生計別の親族になるので、被相続人等ではありません。ただし、入居前は生計一の親族であり、その建物に引き続き居住していますので、上記下線部の要件に該当しません。よって、父の土地全体が特定居住用宅地等として小規模宅地等の特例は受けられるものと思われます。 (了)

#No. 570(掲載号)
#城東税務勉強会
2024/05/23

〈一角塾〉図解で読み解く国際租税判例 【第46回】「双輝汽船(株)タックスヘイブン便宜置籍船事件-特定外国子会社に生じた欠損金の損金算入の可否-(審裁平13.12.21、地判平16.2.10、高判平16.12.7、最判平19.9.28)(その2)」~租税特別措置法66条の6第1から3項、法人税法11条ほか~

〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第46回】 「双輝汽船(株)タックスヘイブン便宜置籍船事件 -特定外国子会社に生じた欠損金の損金算入の可否- (審裁平13.12.21、地判平16.2.10、高判平16.12.7、最判平19.9.28)(その2)」 ~租税特別措置法66条の6第1から3項、法人税法11条ほか~   税理士 畠山 和夫     4 審判及び裁判の論点別検討 (1) 本制度の立法趣旨と内容及び租税回避の意図と該当性(論点❶❷) ① 本制度の立法趣旨と内容の要点 (ⅰ) 趣旨の要点 (ⅱ) 内容の要点 ①一定の要件を満たす特定外国子会社等が、②適用対象留保金額を有する場合に③一定の金額を内国親会社の益金に算入する。 ② 当事者の主張等 (ⅰ) 納税者Xの主張 本件のように、海外子会社の設立当初から一貫して合算申告を行ってきた場合には、既に本条の立法目的を実現しているのであるから本条の適用はない。 (ⅱ) 課税庁Yの主張 本条の制定前から合算申告してきた場合はともかく、制定後は全て特定外国子会社等の要件に該当すれば本条が適用される。 ③ 租税回避の意図と該当性 (ⅰ) 納税者Xの主張 T社は、ペーパーカンパニーでありXの一部門であって、T社に帰属する資産、負債及び損益はないので、何ら租税回避のおそれはない。 (ⅱ) 裁判所の判断(高松高裁) 特段の明文の規定がないにもかかわらず、租税回避のおそれの有無という認定の困難な要件を本条の適用の要件に加えるべきとは考えられない。 ④ 論点別検討 本事件については、「租税回避の防止規定」としての実質的該当性はないといわざるを得ない。すなわち、本事件は「租税回避といえないような案件にも本制度による課税が行われてきた」事例といえる。 (2) 1項課税要件及び適用可否(論点❸❹) ① 課税要件該当性 (ⅰ) 特定外国子会社等の該当性 (ア) 納税者Xの主張 T社は、払込も株式発行も行っていないので、発行株式等がないから外国関係会社(ひいては特定外国子会社等)に当たらず課税要件に該当しない。 (イ) 課税庁Yの主張 発行株式等とは、外国関係会社を支配し得る単位化された物的地位のことであり、T社はこれに該当する。 (ウ) 審判所の判断 T社は、発起人を譲受人とする契約証書は現存しないと答弁しているが、Xはその黙示の契約を推認され、少なくとも株式の全部を取得する地位を譲り受けたものと推認される。 (ⅱ) 適用対象留保金額の存在 (ア) 納税者Xの主張 T社には適用対象留保金額が存在しないのに、本条を内国親会社Xに適用することはできない。 (イ) 課税庁Yの主張 ①特定外国子会社等の要件に該当すればよく、②適用対象留保金額がない場合にも適用あり。 (ウ) 裁判所(松山地裁):Xの主張を支持 本条は、特定外国子会社等の調整後の所得が生じていると認められる場合に、内国法人の益金算入の取扱いを規定したに過ぎず、子会社に欠損が生じた場合にまで内国法人との関係の取扱いまでも規定したものではない。 (エ) 裁判所(高松高裁):Yの主張を支持 課税執行の安定を図るという本制度の立法趣旨に鑑みれば、適用対象留保金額の有無にかかわらず、本条を適用すべきである。 ② 論点別検討 課税要件の主語は「特定外国子会社等」であり、述語は「適用対象留保金額を有する」である。主語と述語が一体となって課税要件になっているのであり、主語と述語を切り離して課税要件とすることは文理上できない。 (3) 2項2号の趣旨と内容及び適用可否(論点❺❻) ① 当事者等の主張 (ⅰ) 納税者Xの主張 本条は、特定外国子会社等に欠損が生じた場合の取扱いについては、明文上規定していない。したがって、外国関係会社が特定外国子会社等に該当する場合、その法人に係る欠損を内国法人親会社の損金に算入することが本条の規定により禁止されることはない。本号は、あくまで本条を適用して特定外国子会社等の未処分所得の金額を算出するにあたって、5年以内に生じた欠損の額を控除することを定めた、いわゆる「計算規定」である。 (ⅱ) 課税庁Yの主張 (ア) 本号の趣旨 本制度が特定外国子会社等に留保金額がある場合にのみ内国親会社の益金に算入することの均衡上、その欠損についても一定の手当(繰越控除)を講じるとともに、その処理につき統一的な取扱いを定めたものである。 (イ) 本号の内容 本号は、特定外国子会社等に欠損が生じた場合には、それを5年間は当該特定外国子会社等の未処分所得算出において控除すべきものとして繰り越すことを強制しており、内国法人の所得の計算上、損金の額に算入することを禁止するものである。 (ウ) 本号の「国税に関する法律」の規定性 納税者Xは、本号は「単なる計算規定」であるからXの確定申告を否認する根拠にはなり得ないと主張するが、本号が国税通則法24条(更正)の「国税に関する法律の規定」であることは明らかであって、本号が計算規定であるということをもって、本件更正処分等が許されないということにはならない。 (ⅲ) 裁判所(松山地裁)の判断:Xの主張を支持 同条が内国法人の所得計算において、特定外国子会社等に係る欠損取扱いについて定めた規定とする解釈は疑問である。同条は、法人税法22条3項で外国子会社の欠損が内国法人の損金に算入されないことを前提として、外国子会社の所得を算定するために5年以内の欠損控除を定めたに過ぎない。 (ⅳ) 裁判所(最高裁)の判断:Yの主張を支持 特定外国子会社等の所得について、本条1項の規定により当該特定外国子会社等に係る内国法人に対し益金算入がされる関係にあることをもって、当該内国法人の所得を計算するに当たり、上記欠損の金額を損金の額に算入することができると解することはできないというべきである。 ② 論点別検討:定義規定の課税要件化 本号は、「用語の定義規定」であり「課税要件規定」ではない。すなわち、この定義規定は、未処分留保金額が存在する場合の未処分留保金額の定義規定である。未処分留保金額が存在しない場合は、定義する対象がないため定義規定は適用できない。課税要件に含まれる用語の定義規定の役割は、抽象的・類型的な課税要件事実を定義するものとして補助概念であり、補助概念である定義規定だけでは課税要件にはなり得ない。 本件に関して言えば、子会社に未処分所得の金額があることが課税要件事実であり、未処分所得の定義「過去の繰越欠損を控除した後の金額」は課税要件事実が存在したうえでの補助概念であって、課税要件事実が存在しないのに補助概念が独立した別の課税要件(例えば「外国子会社に欠損が生じた事業年度については、翌期以降に繰り越さなければならない。」というような課税要件規定に読み替えること)になることはできないはずである。言い換えれば、課税庁Y及び高松高裁、最高裁の判決は、「定義規定の課税要件化」を図っているものであり、租税法律主義(課税要件法定主義)に反するのではないか。 (4) 損益の帰属:実質課税原則と法的独立性(論点❼) ① 当事者の主張 (ⅰ) 納税者Xの主張:帰属する(根拠は法人税法の一般原則(実質課税原則)) (ア) T社の非独立性 Xは、T社の設立以来その資産、負債及び損益を自らに帰属するものとして、自らの会計帳簿に記載するとともに、一貫していわゆる合算申告を行ってきており、T社に帰属する欠損金もなければ、T社独自の会計帳簿も存在していない。また、T社は単なる名義上の存在で、実体を有せず、Xの単なる一営業部門に過ぎない。 (イ) 課税根拠 仮に、外国子会社の欠損について親会社の損金算入ができないとしても、本条2項2号ではなく、別個の法人については所得の計算も別個に行うという法人税法の一般原則(法人の法的独立性)に求められるべきである。 したがって、本条を根拠として本件損金算入の否認はできない。法11条は否認規定であり、Xは同条ではなく申告納税制度で条理とされた実質課税の原則に基づいて自己に実質的に帰属するT社名義の資産、負債及び損益を合算して申告できる。 (ⅱ) 課税庁Yの主張:帰属しない(根拠は本条) (ア) 法的独立性 仮に本件の場合、本条を適用することができないとしてもXとT社は法人格を異にする別法人であって、T社に生じた欠損金について異なる内国法人であるXの所得と合算することが否定されるのは法人税法上当然である。 (イ) 根拠規定 本条。法11条については課税庁が否認する場合にのみに限定する理由はなく、納税者も法11条を当然に適用できるとみるべきである。 (ⅲ) 裁判所(高松高裁)の判断:帰属しない(根拠は法人税法22条3項) 法人税法22条3項は、内国法人の損金に算入すべき金額として同項1ないし3号所定の額と定めているところ、内国法人と法人格を異にする外国子会社に係る欠損の金額がこれに含まれないことが原則であることは明らかである。 (ⅳ) 裁判所(最高裁)の判断:帰属しない(根拠は法人の法的独立性) T社は、Xとは別法人として独自の活動を行っていた。本件においてはXに損益が帰属すると認めるべき事情がないことは明らかであって、T社に損益が帰属し、同社に欠損が生じたというべきであり、Xの所得を算定するに当たり、T社の欠損の金額を算入することはできない。 (注) 古田佑紀裁判官の補足意見(下線筆者) ② 論点別検討:外国子会社損益合算帰属判断の特殊な事情 本事件は、既述のとおり「便宜置籍船という租税回避といえないような案件にも本制度による課税が行われてきた」事例といえる。この事情は、古田裁判官の補足意見で述べられた特殊な事情に該当するものではないか。したがってT社のような便宜置籍法人については、実質的に内国親会社の事業部門とみなして、欠損の合算が認められる途を講じるべきと思われる。 (5) 法11条と本条の関係(論点❽) ① 当事者の主張等 (ⅰ) 納税者Xの主張 法11条と本条は、それぞれ独立した規定である。本条は所得の計算について法人税法の特別法として適用される。法11条は所得の帰属について適用される。したがって、本税制の趣旨から法11条が適用されるべきである。 (ⅱ) 課税庁Yの主張 (ⅲ) 審判所の判断 法人税法と本条とは、それぞれ独立した規定として存在するとはいえ、両者の規定が競合する場合には、まず、法人税法の特別法である本条の規定を適用することになる。 (ⅳ) 裁判所(高松高裁)の判断 (ⅴ) 裁判所(最高裁)の判断 本件各事業年度においては、外国子会社に損益が帰属し、同社に欠損が生じたものというべきである(法11条と本条の関係については判断することなく事実認定段階でXの主張を退けた)。 ② 論点別検討 法11条と本条の競合については、課税庁Y、審判所、高等裁判所とも、両条は競合関係にあり、本事件に関しては特別法である本条が適用され、一般法である法11条の適用は排除されると判断していると思われる。しかしながら、後述のとおり、両条は競合関係ではなく、協働関係にあるという理解も可能だと思われる。 (6) 民法1条2項の適用可否(論点❾) ① 審判所の判断 課税処分について、一般原理である信義則によりそれを取り消す場合があるとしても、租税法律主義の下では、平等公平を犠牲にしても納税者の信頼を保護しなければ正義に反する特別の事情(※)が存するべきである。 (※) 特別の事情 ①税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、②納税者がその表示を信頼に基づいて行動したところ、のちにその表示に反する課税処分が行われ、③そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、④納税者が税務官庁の表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうか。 ② 論点別検討 本事件の納税者Xの主張した事実から窺いえるのは、請求人が合算経理による申告を採用した経緯は請求人自らが法令解釈を独自に判断した結果であって原処分庁が公的見解を表示した事実はないこと、また、原処分庁が調査を行った際にも何ら指摘を受けないからといって、それらをもって、本件合算経理による申告が法令に照らし適法な処理であるとの原処分庁の公的見解を表示したことにもならないこと等、上記❶の理由で信義則適用の要件に該当しない。 併せて、Xは従来通りの申告を継続したまでで何らかの新しい取引等の行動を起こしたわけではないから❷にも該当しない。したがって、課税庁の本件処分について、納税者Xの「信義則違反」の主張は採用されないと思われる。 ((その3)へ続く)

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2024/05/23
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