電子書類の法律実務Q&A 【第12回】 「バーチャル株主総会を実施する場合の注意点は何か」 弁護士法人 咲くやこの花法律事務所 弁護士 池内 康裕 〔Q〕 遠隔地にいる株主にも株主総会に出席して権利行使してもらうため、株主総会の会場に来なくても済むバーチャル株主総会を実施したいと考えています。バーチャル株主総会を実施することは可能なのでしょうか。 また、実施する場合の注意点について教えてください。 〔A〕 バーチャル株主総会には、大きく分けて3種類あると言われています(後述)。 本件の場合、会場で株主総会を実施し、離れた場所でも電子的方法を用いて権利行使できるという方法で開催することを検討すべきです。このような方法で開催する株主総会をハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)といいます。 ハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)の開催にあたっては、通信障害、なりすまし、動画配信による株主の肖像権の侵害等の特有の問題があります。これらの問題点に対応することが必要です。 また、インターネット等の手段を用いて、バーチャル株主総会に出席すること(バーチャル出席)は、会社法上の権利ではなく、会社が追加的に出席手段を提供しているに過ぎません。そのため、一定の条件の下、バーチャル出席株主の権利行使を制限することもできます。権利行使の制限が認められる具体的条件について確認することも重要です。 ● ● ● ● 解 説 ● ● ● ● 1 バーチャル株主総会について 株主総会といえば、株主総会の会場で、取締役、株主が集まって、株主がその場で質問し、議決権を行使するものだとイメージされる方が多いと思われる。このような取締役や株主等が一堂に会する物理的な場所において開催される株主総会をリアル株主総会という。 これに対して、バーチャル株主総会とは、取締役や株主が、インターネット等の電子的手段(電話、電子メール、チャット、動画配信等)を用いて参加又は出席することが認められている株主総会のことだ。 バーチャル株主総会には、以下の①から③の3種類あると言われている。 まず、大きな分類として、会場でリアル株主総会が開催されるハイブリッド型と会場でリアル株主総会が開催されないバーチャルオンリー型に分かれる。 バーチャルオンリー型の場合、一定の場所で株主総会が開催されていないので、株主は、リアル株主総会に物理的に出席すること自体ができない。企業にとっては、会場費用が削減できるし、感染症によりロックダウンの措置が講じられた場合も株主総会が開催できるというメリットがある。 次にハイブリッド型には、会場に行かなければ権利行使できない「参加型」と会場に行かなくても離れた場所で電子的方法を用いて権利行使できる「出席型」に分けられる。 「参加型」の場合、株主は、リアル株主総会の状況を動画等で見ることができるが、議決権行使等の権利行使はできない。 質問の事例は、遠隔地にいる株主に権利行使してもらうことが目的なので、②ハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)、③バーチャルオンリー型株主総会を検討することになる。 2 バーチャル株主総会の適法性 バーチャル株主総会の開催が法的に認められるかどうか確認しよう。 ハイブリッド型バーチャル株主総会(参加型)とハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)については、法的に認められている。 次に、バーチャルオンリー型については、産業競争力強化法により、上場企業は、経済産業大臣及び法務大臣の確認を受けた場合、定款で定めることにより、可能になる(施行後2年間は、定款の変更なしに可能であった)。 ただし、バーチャルオンリー型の場合、上場企業以外は適法に開催することができないし、リアル株主総会に出席したい株主のニーズに応えることができないという問題点がある。 以上より、質問の事例では、②ハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)を検討するのが適切だ。 3 ハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)の9つの注意点 ハイブリッド型バーチャル株主総会(出席型)を開催するにあたっての注意点は以下のとおりだ。 (1) どのような通信手段とすべきか 情報伝達の双方向性と即時性が確保されていれば適法である。会社側とバーチャル出席株主がお互いにすぐ、情報伝達をすることができれば法的に問題ないということだ。 会社側の情報については、即時性を確保するために、音声(及び映像)、株主側の情報については、音声(及び映像)又はテキストで伝えることが考えられる。 バーチャル株主総会といえば、テレビ会議をイメージする方が多いが、電話会議等により音声のみで開催することは法的に可能だ。 (2) 通信障害リスク 通信障害により、株主が審議や決議に参加できないことが考えられる。 対策としては、通信障害が起こらないように安定的な回線を使用すること、発生した場合のバックアップシステム(インターネット回線が通信障害により利用できない場合、電話会議システムを併用する)を整備することが考えられる。 では、通信障害により一部の株主が権利行使できなかった場合、株主総会の決議取消事由(会社法831条1項1号)になるか。 この点について、経済産業省の「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」(以下「実施ガイド」という)によれば、通信障害のリスクを事前に株主に告知して、かつ、通信障害の防止のために合理的な対策をとっていた場合、決議取消事由に当たらないと解釈される可能性があるとされている。 (3) 議長及び取締役等のリアル出席の要否 議長及び取締役が、株主総会の会場に物理的に出席する必要はないと考えられている。 (4) 本人確認 なりすましによる議決権行使の可能性が想定されるので、本人確認が必要である。 この点について、実施ガイドによれば、株主ごとにIDやパスワードを設定し、固有のIDとパスワードが記載された議決権行使書面を株主に郵送し、それを用いてログインする株主について、本人確認を実施していると考えられる。それ以上に特別の本人確認を実施する必要はない。 (5) プライバシー、肖像権への配慮 株主の顔を撮影し、動画配信すると、肖像権侵害の問題が生じる。動画配信する場合、経営陣のみを映し、株主の顔が映り込まないような形で行った方がよい。 (6) 議決権行使 電子投票制度と混同しないようにしなければならない。会社法312条で、電子投票制度が定められているが、これは株主総会自体に出席しない株主を対象としたものだ。 株主がバーチャル出席をして、インターネット等を通して議決権を行使した場合、法的には株主総会に出席して、議決権を行使したことになるので、電子投票ではない。 事前に書面投票又は電子投票によって議決権行使した株主がバーチャル出席して議決権を行使した場合、バーチャル出席による議決権行使が優先される。 この点については、①ログインの時点で事前の議決権行使を取り消す、②採決のタイミングで事前の議決権行使を取り消す、という方法が考えられるので、どちらの方法を採用するか、招集通知に記載する必要がある。②の方法を採用することをお勧めしたい。 (7) 代理人による出席 会社法310条1項により、「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる」とされている。 では、バーチャル株主総会の場合、代理人による議決権行使を認めないことはできるか。 実施ガイドによれば、招集通知に記載することを条件に、バーチャル出席の場合、代理人による議決権の行使を認めないことも可能という解釈が示されている。 この場合も、物理的な場所で開催されるリアル株主総会に、代理人は出席することができる。どうしても代理人を出席させたいのであれば、リアル株主総会に出席させれば済むので、代理人によるバーチャル出席を認める必要性が低いのだ。 (8) 質問の方法 会社法314条により、「取締役、会計参与、監査役及び執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならない」とされている。この定めは、株主の質問権を認めたものだ。 まず、バーチャル出席を理由に、質問権そのものを認めないということは許されない。 バーチャル株主総会では、質問権行使の方法として、音声による質問以外に、テキストの送信による質問を認めることが考えられる。テキストの送信による質問の場合、議長が読み上げるか、質問内容をスクリーン上に表示することになる。 テキストの場合、コピーアンドペーストをして同じ質問を繰り返すなど濫用的権利行使がされるリスクがある。文字数、回数や送信期限等を招集通知に記載したうえで、質問権を合理的に制限することは可能である。文字数については200字から300字以内、同一株主の質問回数については1個から3個に制限するのであれば、合理的制限として適法であるという指摘もある(後掲『デジタル株主総会の法的論点と実務』183頁)。 (9) 動議対応 動議とは、株主総会の目的である事項及び総会の運営などに関し総会の決議を求める旨の意思表示である。動議を提出できるのは、株主と議長だ。 例えば、株主は、「取締役選任の件」という議題について、「Aを取締役に選任する」という議案を提出することができる(会社法304条)。 動議について、実施ガイドによれば、招集通知に記載することを条件に、バーチャル出席株主の提案を認めないことも可能という解釈が示されている。 動議の採決についても、実施ガイドによれば、招集通知に記載のない事項について、採決するシステムの構築が困難な場合、採決を認めないことも可能という解釈が示されている。 これらの制限は、動議を取り上げたり、招集通知に記載のない事項について採決をしたりすることが、現在の通信技術を前提にすると難しいことを根拠にしていると考えられる。 株主の人数が極めて少ない場合は、上記根拠は当てはまらないので、動議の制限は難しいだろう。 (了)
空き家をめぐる法律問題 【事例54】 「宅地建物取引業者に対して経済的インセンティブを与えることの可否」 弁護士 羽柴 研吾 - 事 例 - 当市では、空き家の取引を促進するために、空き家バンクに登録された空き家の取引を成立させた宅地建物取引業者に対して、経済的インセンティブを与えることを検討しています。もっとも、宅地建物取引業者に対する経済的インセンティブの付与は、宅地建物取引業法との関係が問題になると指摘されています。取引成立時の経済的インセンティブを与える場合、どのような法的問題がありますか。 1 はじめに 増加の一途をたどる空き家の取引を促進するため、空き家バンクが活用されており、空き家バンクを通じた取引に宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という)の媒介を条件としているところもある。さらなる空き家の取引を促進するため、宅建業者に経済的なインセンティブを与える方策も考えられるところ、このような方法は宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)との関係を整理しておく必要がある。そこで、本事例では空き家に関する宅建業法上の報酬規制について検討をする。 2 報酬告示の具体的内容 宅建業者は、空き家の売買等を媒介した場合、国土交通大臣の定める基準(「宅地建物取引業者が宅地又は建物の売買等に関して受けることができる報酬の額」、以下「報酬告示」という)に従って報酬を請求することができる(宅建業法第46条第1項)。報酬告示第二は、宅建業者の売買等の媒介に関する報酬の額を次のように定めている。 もっとも、空き家の売買のように、売買代金が比較的低額になりやすい取引の場合、従来の報酬告示どおりに算定すると宅建業者の報酬も低くなることから、宅建業法上の報酬規制が空き家取引の促進を阻害する要因となっていることが指摘されていた。そこで、現在では、空き家等の売買等を媒介した場合の報酬を、委託者と宅建業者の合意によって、報酬告示第二の計算方法によって算出された金額と現地調査等に要する費用の合計額を報酬とすることが認められている(報酬告示第七、これによって売主の負担する仲介手数料が増えた)。 ただし、この特例は、①売主からの依頼による場合で、②代金が4,000,000円(消費税相当額を含まない)以下の取引であって、③通常の媒介に比べて現地調査等の費用を要するものに限られている。また、④報酬上限額は198,000円(180,000円に1.1を乗じた額)である点に留意が必要である。 3 宅建業者の報酬と宅建業法の関係 宅建業法第46条の趣旨は、宅建業者が委託者に対して不当に多額の報酬を請求することを防ぐことにある。そのため、宅建業者は報酬告示に定めた限度内で個々の取引事情に応じて適正な報酬請求を行わなければならない(最判昭和43年8月20日民集22巻8号1677頁)。また、同条は、報酬合意のうち報酬告示を超える部分の実体的効力を否定し、契約の実体上の効力を所定最高額の範囲に制限し、これによって一般大衆を保護する強行法規としての趣旨も含んでいるため、所定の最高額を超える契約部分は無効になると解されている(最判昭和45年2月26日民集24巻2号104頁)。 したがって、当該取引の個別事情を踏まえず、宅建業者が最高限度額の報酬請求をすることは認められない。また、委託者が任意に報酬告示を超える報酬額を支払おうとする場合でも、宅建業者がこれを受領することは同条に違反することになる。 宅建業者が同条に違反して、報酬限度額を超える報酬を受領すると、指示や業務停止等の行政処分(同法第65条第1項、第2項)を受けるほかに、100万円以下の罰金(同法第82条第2号)に処される可能性もある。例えば、報酬限度額を超える報酬を受領した場合、15日間の業務停止とされている(国都交通省「宅地建物取引業者の違反行為に対する監督処分の基準」別表(17.限度額を超える報酬の受領))。 上記の宅建業法第46条の趣旨や性質からすると、地方公共団体が、空き家の取引を促進する目的があるとしても、空き家の売買を成立させた宅建業者に対して、宅建業法及び報酬告示に定める額を超えて経済的利益を与えることは、その実質が報酬としての性質を有することを理由に宅建業法第46条に反する可能性があると考えられる。 4 問題の整理 空き家バンクに登録された空き家の売買を成立させた宅建業者に対して、売買の当事者間で合意した報酬とは別枠で、地方公共団体が経済的利益を与えることは、宅建業法第46条に違反するおそれがあるため、留意が必要である。この点に加え、報酬告示が空き家取引を促進させるために、売主が負担する報酬額を増加させた改正経緯を踏まえると、現在、少なくない地方公共団体が宅建業者の報酬の一部を補助金で援助する制度を設けているように、宅建業法及び報酬告示の範囲内で経済的補助をすることにとどめるのが相当と考えられる。 (了)
〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第73話】 「修正申告の勧奨」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一 「・・・浅田君・・・何を真剣に読んでいるの?」 いつの間にか、中尾統括官が浅田調査官の傍らに立っている。 「ええ、税務調査の判例を読んでいるのですが・・・」 浅田調査官は、顔を上げて中尾統括官の顔を見る。 「・・・しかし、税務調査で・・・こんな乱暴なことをするのですか?」 そう言うと、浅田調査官は、判決文(大阪地裁平成30年4月12日判決)の一部を読む。 浅田調査官は、原告の主張の一部を読むと、「これって・・・もし本当であれば、脅迫に近いと思うのですが・・・」と言う。 「もっとも、課税庁である被告は、原告の主張する、このような修正申告の勧奨の態様を否認していますが・・・」 浅田調査官は、付け加える。 中尾統括官は、浅田調査官から渡された判決文を読み始める。A4で6枚の分量なので、それほど時間はかからない。 「・・・更に、原告は、国家賠償請求もしている・・・」 中尾統括官は、判決文をめくりながら、その該当する箇所を読み始める。 「・・・ところで、中尾統括官は、今まで、このような勧奨を行ったことがありますか?」 浅田調査官が、真面目な顔をして、尋ねる。 「・・・いや・・・」 中尾統括官は、苦笑する。 「・・・しかし、悪質な納税者に対しては、少し厳しい態度で接しなければ、税務調査はうまく進まない・・・」 中尾統括官は、弁解じみた応答をする。 「確かに、僕もそう思いますね」 浅田調査官は、大きく頷く。 「・・・しかし、修正申告の勧奨には、問題が多い・・・」 中尾統括官は、判決文を見ながら、言う。 「・・・修正申告は、納税者が自らの意思で提出するもので、課税庁からの勧奨によって提出するものではない・・・」 浅田調査官は、言う。 「納税者にとって、加算税や延滞税の減免が期待できるときは、修正申告を提出するメリットはありますが、税務調査の後に、修正申告の勧奨をされて提出する修正申告は、更正処分と同じですから、なんら納税者にとってメリットはない・・・逆に、税務署にとっては、理由附記などを省略できるメリットがありますが・・・」 浅田調査官は、苦笑いをする。 「・・・理由附記の不備は、処分の取消原因にもなることから、税務署は、理由附記について慎重にならざるを得ない・・・」 中尾統括官も頷く。 浅田調査官は、図を描きながら、「・・・ということは、納税者にとって、税務調査後、修正申告の勧奨に応じるメリットは、あまりないということですか・・・」と中尾統括官に尋ねる。 「そうでもないだろう・・・」 と中尾統括官が言い、言葉を続ける。 「・・・納税者は、税務署と・・・税務調査後、税務署の主張する増差所得などについて・・・修正申告書を提出する際に、交渉ができるということだ」 中尾統括官は、不機嫌そうに言う。 「また、修正申告の勧奨に応じれば、税務調査が終了することになるから、納税者としては、メリットがある」 中尾統括官の言葉に、浅田調査官は、頷く。 「・・・修正申告は、増差所得の交渉の場として、税務署にとっても納税者にとってもメリットがあるということですね・・・そう考えると、なかなか修正申告の勧奨の常態化はなくならない・・・」 浅田調査官は、声を落とす。 「・・・しかし、増差所得を税務署と納税者の交渉で、勝手に決めたら、租税法律主義なんて存在しないことになる・・・」 中尾統括官の声が大きくなる。 「・・・ということは、修正申告の勧奨を廃止すべきということですか?」 浅田調査官は、中尾統括官の顔を見る。 「そうだな・・・現実的には難しいけれど・・・修正申告の勧奨は、廃止すべきだと思う・・・納税者と税務署の話し合いによって、課税所得が決定することは、租税法律主義、特に、合法性の原則に反し、課税の公平も損なうことになる・・・」 中尾統括官は、判決文を見ながら、「それに、修正申告の勧奨については、税務署による違法な行為が行われやすいので、廃止すべきだろう」と付け加える。 (つづく)
《速報解説》 会計士協会、J-SOXの改訂等を受けた 内部統制監査上の留意事項に関する周知文書を公表 ~全社的な内部統制評価の適切な見直しが行われているかの確認の重要性に言及~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2023年9月28日、日本公認会計士協会は、財務報告内部統制監査基準報告書第1号周知文書第1号「「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月)等を受けた内部統制監査上の留意事項に関する周知文書」を公表した。 周知文書は、「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準並びに財務報告に係る内部統制の評価及び監査に関する実施基準の改訂について(意見書)」(2023年4月7日、企業会計審議会)などの改訂内部統制基準及び内部統制実施基準等に基づく内部統制監査業務を実施するに当たって、日本公認会計士協会の会員の実務の参考に資するために公表するものである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 内部統制の基本的枠組みの改訂 内部統制の目的と基本的要素が、企業を取り巻く環境の変化に合わせて改訂されたほか、経営者による内部統制の無効化に関する記載の追加などが行われている。 Ⅲ 財務報告に係る内部統制の評価及び報告の改訂 経営者による内部統制の評価範囲の決定において、財務報告の信頼性に及ぼす影響の重要性を適切に考慮すべきことが改めて強調されている。 Ⅳ 内部統制監査における留意事項 監査人は、改訂後の内部統制の基本的枠組みに準拠して、経営者が内部統制の整備及び運用並びに評価を行っているかについて留意する。 特に、全社的な内部統制の評価に当たっては、内部統制の基本的な要素ごとに例示されている42項目が広く実務に利用されているが、監査人は、これらの評価項目が今回の改訂を踏まえ、必要に応じて、適切に見直しが行われているかについて確認することが重要である。 また、経営者による内部統制の評価範囲の決定について、数値基準を機械的に適用すべきでないこと、トップ・ダウン型のリスク・アプローチの再確認が行われている。 特に、連結集団を構成する個々の会社単位で全社的な内部統制を評価することのみではなく、企業集団全体の観点から全社的な内部統制の整備及び運用状況の評価を適切に実施しているかという点についても留意する(親会社による子会社に対する管理体制など)。 (了)
2023年9月28日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.537を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第30回】 「誤還付「過納金」相当額の「納付」に係る延滞税の賦課と課税上の衡平」 -延滞税不発生事件・最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁- 大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 前回は、納税義務の消滅原因(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【104】)の1つである還付金等の充当(同【116】)の前提として整理した還付金等の意義(同【115】)に関連して、過納金相当額の不当利得の返還を認めた判例を取り上げ検討したが、今回は還付金等のうち過納金の還付に関連して、「過納金」相当額の誤還付に伴う「納付」(いわば返納)に伴う延滞税の賦課が争われた事件において延滞税の納付義務の不存在を確認した最判平成26年12月12日訟月61巻5号1073頁(以下「本判決」という)を検討する。本判決には少数意見として千葉勝美裁判官の補足意見と小貫芳宣裁判官の意見が表示されている。 本件は、納税者(上告人ら)が相続税の期限内申告及び納付をした後で更正の請求をしたところ、所轄税務署長において、相続財産(土地)の評価の誤りを理由に減額更正をし、その減額分相当額を過納金として還付した後、自ら当該減額更正の内容を覆しこれに係る相続財産の評価の誤りを理由に増額更正を行い、これにより「新たに」納付すべきこととなった本税額につき、平成28年度税制改正前の国税通則法60条1項2号、2項及び61条1項1号に基づき、法定納期限の翌日から完納の日までの期間に係る延滞税の納付の催告をしたことから、納税者が国(被上告人)を相手に、上記の延滞税は発生していないとして、その納付義務がないことの確認を求めた事件である。 本件においては、期限内申告及び納付に基づく相続税額が誤った減額更正により過納金として還付された後、正しい増額更正がされ当該過納金相当額の納付に伴い延滞税の賦課が問題となったのであるが、そもそも、本件で還付された金額が過納金(納税義務の誤った確定に基づく納付であるが故に、当該租税の納付それ自体が、不適法である場合に、返還されるべき税額に相当する金額。前掲拙著【115】)といえるかどうかも検討すべき論点であるが、本判決はこの点は特に問題としていないものの、結論からみれば、本件における還付は法的根拠のない誤った金員の返還(誤還付)であったが故に、納税者による納付は有効に存続しており、延滞税を課すべき事由は存在しなかったことを認めたものと解することもできる(誤還付の問題については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第17回参照。前掲拙著【117】も参照)。 この点は措くとして、今回は、延滞税の不発生に関する論理構成を中心に本判決を検討することにするが、本判決については、以前、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第16回で検討したので、今回は、基本的にはそこでの検討を再録することとし、これに若干の加筆修正を施すにとどめた。そこでは、本判決の論理構成を目的論的限定解釈及び目的論的限定適用とみて検討したのであるが、その上で目的論的解釈の納税者に有利な「過形成」の観点から小貫芳宣裁判官の意見を支持した筆者の見解は今日でも変わっていない。 なお、「過形成」とは、そもそもは医学用語の「hyperplasia」の訳語で「細胞の増加による組織の過度の発育」(森岡恭彦総監訳『カラー図説 医学大事典』(朝倉書店・1985年)111頁)をいうが、ここでは、法創造を意味する法の継続形成(Rechtsfortbildung)をイメージしながら、租税法規の趣旨・目的という「細胞」の増加によって税法の解釈という「組織」が「過度の発育」を遂げて税法の解釈の許容限度を超えることを意味する言葉として、「過形成」という言葉を使用している(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)222-223頁[初出・2015年]参照)。 Ⅱ 多数意見の「目的論的限定解釈」に対する少数意見の立場 1 多数意見 本判決は、次のとおり判示して(下線筆者)、納税者の請求を認容した。 本判決については、「課税上の衡平」という法創造根拠理由に基づき納税者の個別的救済を図った判決として高く評価するものであり(前掲拙著『税法創造論』136頁[初出・2021年]。なお、「法創造根拠理由」の意味については同132頁注57参照)、本連載にいう「税法基本判例」の1つであると考えるところである。「衡平」については、「とくに法による正義の実現との関連では、衡平(equity)という観念が重要な位置を占め・・・・・・、実定法の一般的な準則をそのまま個別的事例に適用すると、実質的正義の観点からみて著しく不合理な結果が生じる場合に、その法的準則の適用を制限ないし抑制する働きをする。」(田中成明『現代法理学』(有斐閣・2011年)323頁)といわれている。 本判決の示した解釈(最後の下線部)については、千葉勝美裁判官が補足意見において、「この解釈は、法60条1項2号をいわば目的論的に限定解釈する面もある」と述べているところである。ここでいわれる「目的論的限定解釈」について、本判決における少数意見では、以下で述べるように、2通りの異なる立場が示されている。 2 千葉勝美裁判官補足意見 千葉勝美裁判官は補足意見において、前記の引用部分に続けて、次のとおり述べている(下線筆者)。 ここで示された考え方は、多数意見において国税通則法60条1項2号の解釈(目的論的限定解釈)によって定立された延滞税不発生に係る規範を「例外的な事案」(千葉裁判官補足意見)に限って適用する、いわば「目的論的限定適用」ともいうべき法適用の方法を説き、もって多数意見の説得力を強めようとしたものと解される。 3 小貫芳宣裁判官意見 他方、小貫芳宣裁判官は意見において、まず、次のとおり述べ(下線筆者)、本件の事実関係に即して、国税通則法60条1項2号の規定について延滞税の発生要件の欠缺を認めている。 その上で、小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を、次のとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている(下線筆者)。 以上のように、小貫裁判官の意見は、結論の点では、多数意見と同じく、本件における延滞税の不発生を認めるものではあるが、その理由づけを、多数意見とは異なり、延滞税の発生要件の欠缺に見出すものであると解される。 この点に関し、千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、「条文にはない明確な基準を示すことについては、それが解釈により不文の消極要件を作ることにもな」り、「延滞税の発生要件を定めた法60条1項2号にただし書きを加えるような機能を果たすことになる。」という的確な指摘を行っている(下線筆者)。小貫裁判官は延滞税の発生要件の欠缺を問題にするが、その欠缺は、論理的には、千葉裁判官の上記の指摘のように、延滞税の発生要件に係る消極要件ないし適用除外要件の欠缺とみるべきであろう。そこで、以下では、小貫裁判官の意見にいう延滞税の発生要件の欠缺について、「延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺」という表現を用いることにする。 このように考えると、小貫裁判官の意見は、国税通則法60条1項2号の規定について、目的論的制限(teleologische Reduktion)という一種の法創造(法の継続形成)の方法によって消極要件ないし適用除外要件を創造し、本件においてこの要件の適用によって延滞税の不発生を結論づけたものであると解される。 目的論的制限とは、法の欠缺のうちいわゆる隠れた欠缺(verdeckte Lücke)すなわち適用除外規定の欠缺についての欠缺補充方法をいう(前掲拙著『税法基本講義』【46】。ほかに、広中俊雄『民法解釈方法に関する十二講』(有斐閣・1997年)64頁、拙著『租税回避論』(清文社・2014年)特に第1章第2節参照)。これは、法の欠缺補充の方法であるが故に、狭義の法解釈(可能な語義の枠内での法解釈)とは区別される法創造ないし法の継続形成の領域に属するものであるが、法的思考方法の点では依然としてなお「解釈的」方法を用いるもの(「解釈的」方法による法創造。谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回Ⅱ参照)である。 Ⅲ 納税者に有利な「過形成」の許容性 1 目的論的限定適用と目的論的制限との異同 千葉裁判官の補足意見と小貫裁判官の意見とは、以上で検討してきたとおり、法解釈適用方法論の観点からすると、法の趣旨・目的を考慮する点では同じであるが、その内容や法的性格の点では、目的論的限定適用と目的論的制限として区別すべきものであると考えられる。このことは、以下でみるように、小貫裁判官の意見と多数意見との違いに関する千葉裁判官によるこれまた的確な整理の中から、読み取ることができる。 千葉裁判官は、小貫裁判官の意見について、前記のとおり「解釈により不文の消極要件を作ることにもなること」を指摘しているが、その前の文章では、次のとおり述べている(下線筆者)。 その上で、千葉裁判官は次のとおり述べている(下線筆者)。 他方、千葉裁判官は、多数意見について、次のとおり述べている(下線筆者)。 なお、この叙述からも、千葉裁判官が目的論的限定適用の観点から多数意見の説得力を強めようとしたことを読み取ることができよう。 千葉裁判官による以上の整理からすると、小貫裁判官の意見における目的論的制限は、「租税の画一性と大量処理の観点」から、延滞税の不発生の処理に関して、「全体的な影響」を及ぼすことになるという意味で、税法の目的論的解釈の「過形成」として性格づけることができるように思われる。もっとも、税法の目的論的解釈の「過形成」といっても、納税者に不利な「過形成」(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第7回、第10回~第15回参照)とは異なり、延滞税の不発生という納税者に有利な結果をもたらす「過形成」(納税者に有利な「過形成」)である。 2 延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺に対する立法的対応 では、千葉裁判官の補足意見(目的論的限定適用)と小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、いずれが妥当であろうか。 確かに、目的論的限定適用の方が、目的論的制限に比べて「全体的な影響が少なくて済む点」(千葉裁判官補足意見)で、個別事案の解決のための司法判断としては、妥当であるようにも思われる。 しかし、司法の役割は、個別事案の解決のみに尽きるのであろうか。いやむしろ、司法は、そのような役割に加えて、法の欠缺が存在する場合には、個別事案の判断を通じてあるいはそれに関連して、そのことを公然と指摘することによって、立法者にその欠缺の存在を認識させ、もってその欠缺を補充するための法改正等の立法的対応を促すべきであるように思われる。そうすることも、三権分立制の下での司法の役割であると考えるところである。 このように考えると、本件当時の延滞税規定(平成28年度税制改正前税通60条・61条)について延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を認め得るか否かあるいは認めるべきか否かが、小貫裁判官の意見の妥当性ないし目的論的制限の許容性を判断する上で、決定的な意味をもつように思われる。 小貫裁判官は、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を、前記Ⅱの3でみたとおり、①法定期限内の納税の事実を重視する観点と②延滞税の趣旨・目的及び結果の不当性の観点から、理由づけている。これらのうち、②の観点は、千葉裁判官が補足意見において目的論的限定適用を理由づけるために依拠した観点(前記Ⅱの2参照)と基本的に同じものといってよかろう。 したがって、小貫裁判官が意見において延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺の存在を指摘するに当たって、決定的な意味をもったのは、前記の①の観点であると考えられる。この観点は、以下でみるとおり、延滞税の根本的な存在意義ないし終局的な趣旨・目的に照らして極めて重要であり、決して等閑視すべきものではない。 本判決においては、多数意見も少数意見も、延滞税の趣旨・目的を「期限内に申告及び納付をした者との間の負担の公平を図るとともに期限内の納付を促すこと」(多数意見)として捉える点では、一致している。ただ、このような趣旨・目的は、いわば「中間的な趣旨・目的」であって、「終局的な趣旨・目的」は申告納税制度の適正な実施の確保にあるとみるべきである。 前記の①における法定期限内の納税の事実という「厳然として存在した」(小貫裁判官意見)事実を、延滞税の課税上なかったことにするとすれば、そのような「フィクション」(同)は、申告納税制度に対する納税者の信頼を大きく損ない、同制度の適正な実施を阻害することになるといっても過言ではなかろう(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第17回も参照)。 立法者としては、そのような事態が現実のものとなることは阻止しなければならない。その意味で、平成28年度税制改正における延滞税の計算期間等の見直し(税通61条2項。財務省「平成28年度税制改正の解説」867頁以下参照)は、適切な立法的対応といえよう。 Ⅳ おわりに 以上を要するに、小貫裁判官の意見(目的論的制限)は、延滞税規定の目的論的限定解釈(多数意見)や目的論的限定適用(千葉裁判官補足意見)に比べ、本件における納税者の救済を図るにとどまらず、更に一歩踏み込んで、目的論的限定解釈の「過形成」によって、延滞税の発生要件(に係る適用除外要件)の欠缺を補充し、延滞税の発生要件を適正化し、もって申告納税制度の適正な実施を確保しようとしたものとして、妥当な考え方であるといえよう。 しかも、本判決は事例判決ではあるが、小貫裁判官の意見は、税法の目的論的解釈について、納税者に有利な「過形成」が許される場合を明らかにしたものとして、より広い射程を有すると考えるところである。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第31回】 「〔第4表〕非経常的な利益金額の判定」 税理士 柴田 健次 Q A社の類似業種比準価額の計算をする場合において、1株当たりの年利益金額の計算上、「非経常的な利益金額」は除外されていますが、次の❶から❸までの各項目は、「非経常的な利益金額」に該当することになりますか。 なお、A社は7月決算であり、課税時期は令和5年9月1日となります。 A ❶機械装置の売却益及び❷保険差益は、「非経常的な利益金額」に該当しませんが、❸雇用調整助成金は、「非経常的な利益金額」に該当することになります。 ◆ ◆ ◆ ① 「非経常的な利益金額」の取扱い 1株当たりの年利益金額を算定する場合には、法人税の課税所得金額から固定資産売却益、保険差益等の「非経常的な利益金額」を除くこととされています(評価通達183(2))。これは、類似業種比準価額を算出するときの比準要素である利益金額として、臨時偶発的に生じた収益力を排除し、評価会社の営む事業に基づく経常的な収益力を株式の価額に反映させるためのものと解されています。 あくまでも「非経常的な利益金額」を除外しているのみとなりますので、非経常的な損失の額は、反対に加算する必要はありません。例えば、死亡退職金9,000万円の損失と固定資産税売却益7,000万円がある場合には、これらを相殺し損失の額は2,000万円(9,000万円 - 7,000万円)となりますので、「非経常的な利益金額」は0となります。反対に死亡退職金7,000万円の損失と固定資産売却益9,000万円がある場合には、これらを相殺し利益の額は2,000万円(9,000万円 - 7,000万円)となりますので、「非経常的な利益金額」は2,000万円となります。 実務的には、損益計算書に記載されている営業外収益、特別利益、営業外費用及び特別損失に対応する勘定科目内訳明細の確認が必要となり、内容に不明点や確認事項があれば、会社の経理担当者等に確認する必要があります。 ② 「非経常的な利益金額」の判断 「非経常的な利益金額」に該当するかどうかについて争われた事例として、東京地裁令和元年5月14日判決(TAINSコード:Z269-13269)があります。納税者は、クレーン車売却益が「非経常的な利益金額」に該当すると主張したのに対し、東京地裁は、本件会社が行うクレーン事業に係る損益には、クレーン車のオペレーティングリース事業のほか、クレーン車売却による損益も経常的に含まれ、クレーン車の売却が一定の期間において反復継続的に行われていること、建設業法に規定する損益計算書や金融機関に提出する損益計算書においても「特別損益」ではなく「完成工事高」や「クレーン収入」として記載されていることなどを考慮して、実体的にも経常損益に該当すると判断し、クレーン車売却益は「非経常的な利益」に該当しないとして、納税者の主張を退けました。 東京地裁は、「非経常的な利益金額」の判断をどのように行うかについて、下記の通り判示しています。 (下線部は筆者による) したがって、①その利益が評価会社の事業の内容とどのように関係していたのか、②その利益が発生した原因は何か、③その利益は、反復継続的又は臨時偶発的であるのかを確認する必要があります。そしてこれらを総合勘案し、評価会社の経常的収益力を適切に株価に反映させるためにその利益を除外するべきかどうかを判断する必要があります。 ③ 本問の場合の当てはめ ❶ 機械装置の売却益 機械装置の売却益は金属製品製造業を営む上で発生し、特別償却をしたことに伴い発生しているため過去の減価償却との関係性があり、反復継続的に発生していることから、経常的な利益であると考えられ、「非経常的な利益金額」には該当しないと判断できます。 ❷ 保険差益 保険差益は、A社の事業とは直接関係はありませんが、A社の事業で生じた利益を圧縮する目的及び資産運用の目的で保険加入を行い、支払時に一部を損金として計上した結果、利益が発生しており、反復継続的に発生していることから、経常的な利益であると考えられ、「非経常的な利益金額」には該当しないと判断できます。 ❸ 雇用調整助成金 雇用調整助成金は、経済上の理由により、事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、雇用の維持を図るための休業等に要した費用を助成する制度となりますので、雇用を維持する上で、A社の事業と大きく関係があります。また、3年間継続して受け取っていた点を考慮すると反復継続的であると判断でき、経常的な利益であるとの考え方もあるかと思います。 ただし、雇用調整助成金の特例措置(コロナ特例)の経過措置は、令和5年3月31日をもって終了しており、また、新型コロナウイルス感染症の位置づけは、令和5年5月8日から「5類感染症」になりましたので、あくまでも臨時偶発的な利益であり、A社の事業に基づく経常的な収益力ではないと判断することが相当と考えられますので、「非経常的な利益金額」に該当すると判断できます。 ☆実務上のポイント☆ 勘定科目だけで「特別な利益金額」に該当するかどうかは判断できませんので、評価会社の事業の内容、その利益の発生原因、その利益が反復継続的又は臨時偶発的であるか否か等を総合勘案して判断する必要があります。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例126(所得税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合の3,000万円の特別控除(措法35③) 相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人が、その取得をした被相続人居住用家屋又はその敷地を、平成28年4月1日から令和9年12月31日までの間に譲渡し、次の要件に当てはまるときは、居住用財産を譲渡したものとみなして、3,000万円の特別控除の適用を受けることができる。なお、要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所するなど、特定の事由により相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていなかった場合で、一定の要件を満たすときは、被相続人の居住用家屋に該当するものとして特例の適用を受けることができる。 〈適用要件〉 なお、次のいずれかに該当する場合には「空き家に係る3,000万円の特別控除」の適用は受けられない。 〈適用除外・・要件〉 ◆「被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした個人」の範囲(措通35-9) 「相続又は遺贈による被相続人居住用家屋及び被相続人居住用家屋の敷地等の取得をした相続人」とは、相続又は遺贈により、被相続人居住用家屋と被相続人居住用家屋の敷地等の両方を取得した相続人に限られるから、相続又は遺贈により被相続人居住用家屋のみ又は被相続人居住用家屋の敷地等のみを取得した相続人は含まれない。 ◆税賠保険の免責事由 免責条項のうち主なものは以下になる。以下の事由によって生じた損害については、保険金支払いの対象にはならない。 (了)
〈一角塾〉 図解で読み解く国際租税判例 【第26回】 「上村工業第一事件 -残余利益分割法が適用された事例- (地判平29.11.24、高判令1.7.9、最判令2.3.20)(その2)」 ~租税特別措置法66条の4第2項ほか~ 税理士・特定社会保険労務士 森田 國弘 《論点2:「同種」の問題》 次にK社取引及びP社取引が比較対象となるかの条件として、T社取引及びU社取引と、K社取引及びP社取引が「同種」及び「同様の状況」にあるかが問題となり、争われた。まず、「同種」についての両者の主張は主に次のとおりである。 ① 当事者の主張 Xは、「同種」か否かの判断対象は使用許諾されたノウハウであって、T社及びU社へ提供されたノウハウもK社及びP社へ提供されたノウハウも製品種類が同じであれば、使用許諾の対象である製造ノウハウは「同種」であるといえるし、製品種類が異なっても、ロイヤリティ料率に影響を及ぼす程度の差異が認められなければ「同種」であるといえるのであって、T社ライセンス取引の対象とされているノウハウは、K社及びP社ライセンス取引の対象とされているノウハウと同様に、めっき薬品の製造に係るノウハウであり、種類を同じくする製品を対象とするものであり、その対価に影響を与えるような差異もないから、「同種」の無形資産の取引といえると一審で主張した。 また、Xは二審において、めっき薬品については、その製造ノウハウは複数の原料を一定の比率で投入し攪拌することにあり、また、同一の設備で製造が可能であり、別のめっき薬品の製造に際して大きな追加投資やリスク負担は生じない。したがって、それぞれの取引は「同種」の要件を満たす、と主張した。 Yは、棚卸資産について「同種」と認められるためには、性状、構造、機能等の面で相当程度の類似性が必要であり、無形資産についても同様であり、取引の形態、無形資産の種類、保護の期間と程度、その無形資産によって期待される利益の程度を考慮して判断すべきであると主張した。 まず、無形資産の使用許諾の対象製品の種類別で比較すると、T社取引、U社取引とK社取引、P社取引とでは、そもそも使用許諾の対象となっている薬品の種類に明確な差異が認められるから、使用を許諾した無形資産が「同種」といえないことは明らかであり、使用を許諾した無形資産が「同種」であるとはいえない。 次に、用途別に見ると、T社では、PWB(プリント配線板)関連が圧倒的に多く、汎用がわずかであるのに対し、K社では、汎用がPWB関連を大幅に上回っている。同種のめっき薬品であっても、用途が異なれば、それに伴う製造プロセスや品質管理、必要な技術フォロー体制の場面でも差異が生じ、各契約における価格決定等にも当然違いをもたらすから、この観点からも使用を許諾した無形資産が「同種」であるとはいえない。 また、役務提供の内容について見ても、T社取引においては、無電解金めっき液を使用しためっき工程についての技術助言、ユーザー対応等のために、緊急の要請に応えた臨時の出張も行うなど頻繁に出張がされているのに対して、K社及びP社に対する役務提供はそのような内容ではなく、「同種」であるとはいえないと一審で主張した。 ② 判決 一審判決では、地裁はYの主張をほぼ認め、使用許諾の対象製品の種類に明確な差異が存在すること、用途についても差異が存在していること、役務提供についても頻度及び程度に相当程度の差異が認められるところから「同種」とはいえないと判示した。 二審の高裁では、本件において独立企業間価格の算定及び比較可能性の判断の単位となる取引は、一の単位としてのT社取引及びU社取引であるから、これらの各取引に含まれる個別のめっき薬品の製造ノウハウ等の使用許諾取引との比較可能性を問題にするXの主張は、前提を欠き、採用することができないと全面否定した。 ③ 評釈等 Xは、「同種」か否かの判断対象はノウハウであって生み出される製品ではないと主張するのに対して、Yも裁判所も生み出される製品の種類、用途について大きな差異が存在することを主張した。 すなわち、Xは製造技術そのものは同じ種類の製品であれば何ら変わりはなく、単純に配合比に基づいて原料を投入し、攪拌するだけの技術であり、ノウハウそのものについては同じであると述べた。 これに対してY及び裁判所はノウハウ提供の対象製品の種類、用途の違いを主張して同種ではないと決めつけるが、この判断は本事件の大きなポイントである。 《論点3:「同様の状況」の問題》 続いて、「同様の状況」についてみてみる。 ここでは、製造地域、販売地域、市場等地域の差異、契約形態、条件等の差異、技術指導等、役務提供の差異などが論点となる。 ① 当事者の主張 Xは、本件取引において、市場となる国、地域や、権利の独占性の有無、対象製品の市場におけるシェアなどにおいて、差異はあるがいずれも価格に重大な影響を及ぼすことが客観的に明らかであるといえる証拠は何も存在しないので「同様の状況の下での取引」ではないと判断することはできず、「同様の状況」の要件を満たすと主張した。 これに対してYは、独立価格比準法又はこれと同等の方法における比較対象取引は「同様の状況」の下でされた取引であることを要し、「同様の状況」の下でされた取引といえるかは、取引段階、取引数量、取引時期、引渡条件、取引市場等が考慮されるべき重要な要素となり、以下の点に照らし「同様の状況」の取引とはいえないと主張した。 まず、製造・販売地域が明らかに異なる。一方は台湾、マレーシアであるのに対し、他方は韓国、タイである。 続いて、契約形態・条件が異なる。本件国外関連取引では、独占的権利が付与されているが、K社取引では非独占的契約となっており、その差異を調整することはできない。次いで上記「論点2:「同種」の問題」でも説明したが、役務提供の頻度及び程度が異なる。 そして、市場の状況が異なる。T社ライセンス製品は、台湾のPWB用途のめっき薬品の市場で約80%のシェアを占めているが、K社の韓国におけるPWB関連向けのシェアは約14.6%にすぎず、その違いは価格競争力等に影響する。また、生産実績から見てもT社とK社とでは大きな差があるなど、その差異を調整することはできないと一審で主張した。 ② 判決 地裁は、ほぼYの主張を支持し、次のように判示した。 そもそも、T社取引は、台湾の法人を相手方とする無形資産等の取引であるのに対し、K社取引は韓国の法人を相手方とするものである。 無形資産の使用許諾及び役務提供の対象たる製品の市場となる国・地域が異なれば、景気の状況は当然異なるし、同一製品でも販売価格に差異が生じ得る。製造・販売地域の違いは、当該製品に係る無形資産等の対価の額に影響を及ぼす事情といえる。 T社取引においては、T社に対して対象地域における独占的権利が付与されているがK社取引においてK社に付与されているのは非独占的権利である。このように無形資産の使用許諾が独占的なものであるか否かの違いは、その対価の額に影響を及ぼす事情というべきである。 台湾のPWB用途のめっき薬品の市場において、T社ライセンス製品は約80%のシェアを占めているのに対し、韓国の同市場においては、K社の製品は約14.6%のシェアを有するにすぎない。このような市場におけるシェアの違いは、当該製品の価格競争力や収益力に影響を及ぼし、引いては当該製品に係る無形資産等の対価の額にも影響を及ぼす事情といえる。 このようなことから、T社取引とK社取引及びP社取引は「同様の状況」ということはできないと判示した。二審判決もこれを支持した。 ここにおいて、基本三法と同等の方法を用いることはできないと認められ、基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法(租税特別措置法66条の4第2項2号ロ)を用いるべきと判示され、次に「残余利益分割法と同等の方法」の適用の可否について争われた。 ③ 評釈等 比較可能性について、OECDの移転価格ガイドライン(1995年)はパラ1.17において、重要な属性として移転された資産又は役務の特性、(使用した資産や引き受けたリスクを考慮して)当事者が果たす機能、契約条件、当事者の経済環境、及び当事者が遂行している事業戦略などがあげられるとしている。 今村隆氏は、「5つの要素のうちの、資産、役務の特性と契約条件が本質的に異なっているということで、内部コンパラになり得ない、比較可能性がないということで、この判決に賛成です。」(※2)と述べ、対象製品の種類や用途の違い、技術支援のサポート体制の違い、独占、非独占の契約条件の違いを指摘する。 (※2) 今村隆「移転価格税制についての最近の裁判例と諸問題-デジタル課税における同税制の今後の役割」租税研究838号(2019年)、228頁 (3) 「残余利益分割法と同等の方法」が相当であることの可否 Yによれば、本件国外関連取引に基づいて製造販売されたXライセンス製品は、T社の所在する台湾や、T社及びU社の製品を販売しているS社の所在するシンガポールを含むASEAN諸国において、Xの製造技術・ノウハウが提供されることにより、他社よりも優位な競争上の地位を築いたと主張した。これはXが、研究開発、海外支援体制の確立等の企業活動により、〔1〕めっき薬品等の製造及び販売に関する技術情報やノウハウを提供し、〔2〕国外関連者やその顧客に対し技術支援を行うことによってXライセンス製品に対する信用を形成、保持及び発展させたことによるものであり、この〔1〕及び〔2〕はXの無形資産である。 また、T社及びS社についてはXの支援を受けながら、〔3〕顧客に対する営業・技術サポートを行うことでXライセンス製品のイメージを浸透及び普及させて付加価値を創出し、Xライセンス製品を台湾等において製造及び販売してきたのであり、この〔3〕はT社とS社の無形資産である。 これらの無形資産を総合的に活用することによって、本件国外関連取引は事業成果を上げているといえるのであるから、上記〔1〕ないし〔3〕の無形資産は、超過利益の源泉である重要な無形資産である。 したがって、本件国外関連取引の独立企業間価格については、その他の方法である利益分割法(租税特別措置法施行令39条の12第8項)と同等の方法の中でも、X、T社及びS社の有する重要な無形資産が利益獲得に寄与する点に着目し、通常得られる利益をそれぞれに配分した残余の利益をその重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分して独立企業間価格を算定する「残余利益分割法(租税特別措置法通達66の4(4)-5)と同等の方法」を適用して算定するのが相当であると主張した。 地裁も高裁もこれを全面的に支持し、「残余利益分割法と同等の方法」を用いるのが合理的であるということができると判示した。 独立企業間価格の算定について、X及びT社、S社それぞれが重要な無形資産を有するとして「残余利益分割法と同等の方法」を用いることができるとした判決について、今村隆氏は、「本判決が指摘するような本件国外関連取引の特徴からして、残余利益分割法と同等の方法により独立企業間価格を算定するのが合理的である」(※3)と判決を支持している。 (※3) 前掲(※1)書134頁 ただ、平成18年の更正処分時点においては、残余利益分割法については、租税特別措置法関係関係通達66の4(4)-5に規定があるだけで、法的には租税特別措置法施行令39条の12第8項に利益分割らしき記述のみで、残余利益分割法が明確に規定されたのは、平成23年政令第199号による改正で、租税特別措置法施行令39条の12第8項1号ハにおいて、利益分割法の下位分類として規定されており、事件当時は基本三法優位の時代であることに留意すべきである。 Xが、「残余利益分割法と同等の方法」より「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を主張する背景には上記の事情がある。 (4) 「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」の適用は可能ではないか ① 当事者の主張 Xは、仮にT社取引及びU社取引とK社取引及びP社取引が「同種」又は「同様の状況」が認められず、「独立価格比準法と同等の方法」が認められなかったとしても、「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」に該当し、「残余利益分割法」よりも独立企業間価格に近似する価格を算定し得る場合には、「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」となると解して、他の方法との比較において最も近似する価格(理想的な価格)を独立企業間価格とすべきであると主張し、Xが設定しているロイヤリティ料率は業界の一般的な水準をもって設定されているので、「理想的な価格」からの乖離も大きくなく、信頼性に疑問を感じさせる残余利益分割法よりも適切であると主張した。 これに対してYは、Xの主張する独立企業間価格(理想的な価格)がいくらであるか客観的に明らかでなければ、「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」と他の方法とのどちらが独立企業間価格の近似値を算定し得るのかは判断できないはずである。また複数の算定結果から「理想的な価格」の「近似値」を選択するための方法についての説明もないため、結局のところ、「本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」が「理想的な価格」の「近似値」を算定できるはずだという結論ありきの失当なものであると主張した。 ② 判決 地裁は、本件T社取引及びU社取引とK社取引及びP社取引とは、相当程度の差異が存在することからすれば、K社取引及びP社取引を比較対象として、独立企業間価格を的確に算定する具体的な方法を見出すことはできないから、本件国外関連取引について「独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」を適用することが合理的ということはできないと、Xの主張を退けた。 高裁は、「本件独立価格比準法に準ずる方法と同等の方法」と「残余利益分割法」のいずれが当該「理想的な価格」と近似する価格を算出する方法であるのか特定できることが前提となるが、およそ現実的とはいえないとし、したがって、Xの主張は独自の見解であるといわざるを得ず、これを採用することはできないとした。 上記のとおり地裁、高裁ともにXの主張を退けた。 ③ 評釈等 基本三法に準ずる方法については、「移転価格税制の適用に当たっての参考事例集」(国税庁)に「基本三法に準ずる方法は、基本三法の考え方から乖離しない限りにおいて、取引内容に適合した合理的な方法を採用する途を残したものと解されている」とあり、合理的な例としては、商品取引所相場など市場価格等の客観的かつ現実的な指標に基づき算定する方法等をあげており、ただ、基本三法に準ずる方法は、基本三法において比較対象取引として求められる比較可能性の要件(租税特別措置法関係通達66の4(2)-3(※4)に規定する諸要素の類似性)まで緩めることを認めるものでなく、当該要件を満たしていない取引については、基本三法に準ずる方法においても比較対象取引として用いることができないことに留意する必要があるとある。 (※4) 租税特別措置法関係通達66の4(2)-3 (比較対象取引の選定に当たって検討すべき諸要素) (1)棚卸資産の種類、役務の内容等(2)取引段階(小売り又は卸売、一次問屋又は二次問屋等の別をいう)(3)取引数量(4)契約条件(5)取引時期(6)売手又は買手の果たす機能(7)売手又は買手の負担するリスク(8)売手又は買手の使用する無形資産(9)売手又は買手の事業戦略(10)売手又は買手の市場参入時期(11)政府の規制(12)市場の状況 金子宏氏は、「基本三法に準ずる方法とは、取引内容に適合し、かつ基本三法の考え方から乖離しない合理的な方法を意味すると解すべき。」(※5)と述べる。 (※5) 金子宏『租税法〈14版〉』弘文堂(2009年)、430頁 これらを総合勘案すると、客観的かつ現実的な指標というものが求められることが分かる。 Xの主張は、Xが設定しているロイヤリティ料率が一般的な水準として設定されているので、理想的な価格として適切であると主張するが、客観的かつ現実的な指標としては認めにくい。そのため地裁、高裁の判決は妥当なところである。 なお、この事件では(争点2)として、本件国外関連取引に係る独立企業間価格の算定として残余利益分割法を採用して算定する上で、分割対象利益の算出(営業利益の算定方法)、基本的利益及び残余利益の算定、及び無形資産の価値の算定について、その方法に問題があるとして争われた。本稿においては省略するが、これについてもYの主張が認められた。 (5) 総括 この事件は、調査開始から最終決着まで22年、また更正処分からでも16年という長い年月を経ている。 また、二国間の相互協議、異議申立て、不服審判所、地裁、高裁、最高裁(不受理)の全てを経過しており、移転価格を学ぶ上で、特に残余利益分割法を研究する上で大変参考になる事件である。 このあと、上村工業第二事件へと続くのであるが、第二事件は地裁のみで控訴しなかったので、ここで全てが完結した。 (了)
固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第30回】 「民事再生により経営権を取得した法人は、ゴルフ場利用税の特別徴収義務者である共同事業者と認めることができないとされた事例」 税理士 菅野 真美 ▷ゴルフ場利用税とは ゴルフ場利用税は、ゴルフ場の利用に対し、利用の日ごとに定額によって、当該ゴルフ場所在の道府県において、その利用者に課する(地法75)地方税の1つである。 ゴルフをプレーした利用者が納税義務者であり、ゴルフ場利用税の標準税率は、1人1日につき800円である(地法76①)。利用者が申告納税するのではなく、特別徴収義務者が利用者からゴルフ場利用税を徴収して納付することになる。特別徴収義務者は、ゴルフ場の経営者その他徴収の便宜を有する者で、その道府県の条例によって指定されたものである(地法83①)。共同事業に係る地方団体の徴収金は、特別徴収義務者である共同事業者が連帯して納入する義務を負う(地法10の2②)ことになるが、共同事業者は、どのような者が該当するのか法律では具体的に定められていない。 今回は、民事再生手続きの過程で、経営権を取得した法人を共同事業者であると認定し、連帯納付義務があるにもかかわらず申告納税を行っていないことから、ゴルフ場利用税の決定処分を行ったことについて、その決定処分の取消しを求める審査請求を行った事案について検討する。 ▷共同事業者に関する当事者の主張 本件は、民事再生手続きによりゴルフ会社(乙社)の経営権を取得した甲社がゴルフ場利用税の共同事業者になるか否かが争点となっている。甲社の主張と鳥取県の主張をそれぞれ整理すると、主に次のようになる。 ▷審査庁鳥取県の判断 裁決では、甲社はゴルフ場の共同事業者であるとする処分庁の主張は採用することができないから、甲社に納税義務があることを認めることはできないとした。その理由は主に以下のとおりである。 * * * このように、ゴルフ場利用税において、共同事業者というのは、経営支配権を誰が持っているのか、支払いを誰が行っているのかではなく、企業の取引で生じた債権・債務が誰に帰属しているかで判断されている。共同事業者とならない場合は、連帯納付義務は発生しない。共同事業者について具体的に法令で定められていないため、このように判断せざるを得ないのだろう。 (了)