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〔中小企業のM&Aの成否を決める〕対象企業の見方・見られ方 【第28回】「「中小PMIガイドライン」を積極活用しよう」~その3:失敗事例から学ぶ③~

〔中小企業のM&Aの成否を決める〕 対象企業の見方・見られ方 【第28回】 「「中小PMIガイドライン」を積極活用しよう」 ~その3:失敗事例から学ぶ③~   公認会計士・税理士 荻窪 輝明   《今回の対象者別ポイント》 買い手企業 ⇒M&Aの目的や、PMIにかけられる経営資源等に応じて、「中小PMIガイドライン」の必要な取組を参照する。 売り手企業 ⇒M&Aの目的や、PMIにかけられる経営資源等に応じて、「中小PMIガイドライン」の必要な取組を参照する。 支援機関(第三者) ⇒支援先の企業が円滑に事業を引き継ぎ、M&Aの目的やシナジー効果等を実現するために必要な助言ができるように、「中小PMIガイドライン」を参照する。 その他の対象者 ⇒M&Aの目的や、PMIにかけられる経営資源等に応じて、「中小PMIガイドライン」の必要な取組を参照する。   〇 PMI「信頼関係構築」に起因する失敗事例 前回、前々回と、2022年3月17日に中小企業庁が取りまとめ公表した「中小PMIガイドライン」の中から、PMIに起因する失敗事例のうち、「経営統合」「業務統合」の領域に関する失敗事例を中心に取り上げ、対応上のポイントを紹介しました。今回も、前回までに続いて本ガイドラインに掲載されている失敗事例を見ていきます。 今回は、前回に一部を紹介した「信頼関係構築」の領域に関する失敗事例の続きを解説します。 (1) 「信頼関係構築」に関する失敗事例② (注) 本ガイドラインには失敗例に対する取組例が示されていますが、本稿では割愛し、私見ですがこのような失敗を回避ないしは防ぐためのポイントを簡単に紹介します。以降の失敗例についても同様です。 ① 従業員にとってM&Aは転職と同じくらい大きなイベント 転職経験がない方の多くも、直属の上司、部・課といった組織の上司、あるいは組織のトップが変わるだけで、業務の進め方が変化して混乱した、不安が増したという経験をお持ちではないでしょうか。 売り手従業員としては、「M&Aなんて自分の仕事人生で経験することはないだろう」「入社した勤め先で会社員人生を全うするだろう」と思っていたところに、M&Aによって、ある日突然、別会社に転職するほどの衝撃を受けることになります。買い手が「株主が変わりました」「組織のトップが変わります」「あなたの上司はこの方になります」「これまでの仕組みは大きく変わりますのでよろしく」という一方的な姿勢では、決してM&Aが上手くいくはずもありません。 本ガイドラインには、取組のポイントとして以下の内容が書かれています。 これらのヒントから、やはり当事者間の信頼関係構築がM&A成功への近道だと考えられます。 買い手の会社において、買い手従業員が経営者を信頼するから安心して労働力を提供するのと同じように、M&Aによる売り手の信頼なくして売り手従業員が買い手にとっての理想的な労働力の担い手となることはありません。M&Aによって後々に得られる効果を考慮するなら、目の前にいる売り手の信任の獲得を軽視せずに情熱を注ぐ姿勢が大切です。 少なくとも、多くの従業員は望まずして買い手の傘下に入る存在ですので、買い手の理屈だけでは動くはずがないと思って臨み、良好な関係を築くための努力を惜しんではいけません。 ② 売り手従業員が気にする処遇・待遇 ほとんどの売り手従業員は、M&Aを受けて、テレビドラマなどで見聞きする「買収された」という消極的なイメージしか抱かないと思います。そのイメージは、働く従業員自身と家族の生活への危機感につながっていきます。 M&Aに伴う従業員説明会などの場で多く耳にする声が、従業員自らの処遇や待遇に対する不安や不満です。大半の従業員は生活の原資を得るために仕事をしているわけですから、給与、賞与、昇格、昇給、手当、休日、福利厚生、社会保障といった生活に関わる待遇の状況と条件には当然敏感に反応します。 M&Aそのものは受け入れたとしても、今後、将来の自分と家族の生活に落とし込んだときに納得できない、腑に落ちない場合には、売り手従業員の意欲の低下、離職を招きやすく、統合後の大幅な戦力ダウンになります。 私見ですが、社内で優秀と思われている方は、他社でも重宝されうる人材ですので、さほど転職先には困らないようです。最近では転職年齢に関わらず有為な人材であれば他社での活躍の場が広がっているので、能力が高い方の退職へのハードルは一段と低くなっています。 このように、売り手というせっかくの力を得たと思ったら、人材という肝心の中身が空っぽになっていた、という事態に陥らないように気を付けたいところです。 本ガイドラインには、基本的な取組が多数の例示によって紹介されています。譲渡側従業員との信頼関係構築にあたって不安を覚える買い手の皆様は、本ガイドラインをその名の通り指針として活用されるのをお勧めします。 (2) 「信頼関係構築」に関する失敗事例③ 成功すると、失敗例とは逆の展開に至るケースもあるのが取引先との信頼関係構築です。取引先との早期かつ効果的な信頼関係構築の結果、以下の状況に発展するケースが考えられます。 M&Aによってこうした発展を期待したいですし、従業員との信頼関係構築とは違い、取引先であれば、法人としてM&Aの趣旨を理解してもらえれば取引の継続が期待できます。ただし、属人的な関係やつながりで成り立つ取引も多いはずですので、統合後の会社側の担当者の変更によって関係性が薄くなる可能性がある点には留意します。 M&Aという非日常の出来事の到来は、主要な取引先への挨拶、価格など今後の条件面を含む交渉、買い手の魅力を含んだ統合後の会社や商材のアピールなど、絶好のセールスチャンスにもなりますので、買い手がこのような出来事を好機と捉えられるかどうかが取引先との信頼関係構築成否のカギになります。 本ガイドラインでは、取引先との価格交渉時の参照資料として「中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」(中小企業庁)を紹介しており、必要に応じてM&Aに伴う取引先対応に活用できる内容となっています。 *  *  * これまで、3回続けてM&Aによる統合後の失敗事例に触れてきました。本ガイドラインに掲載された失敗事例はいずれも実務上よく遭遇するものばかりで、これからM&Aを行う方々の成功のために紹介されています。これらの事例を踏まえて、M&Aに関わる当事者の皆様がM&Aを成功に導かれることを願っています。 (了)

#No. 476(掲載号)
#荻窪 輝明
2022/07/07

空き家をめぐる法律問題 【事例40】「所有者不明土地管理制度を利用した悪臭問題対策」

空き家をめぐる法律問題 【事例40】 「所有者不明土地管理制度を利用した悪臭問題対策」   弁護士 羽柴 研吾   - 事 例 - 私の自宅の隣家は空き家となっており、成長した樹木の枝が境界を越えて侵入しているだけでなく、ごみも投棄され悪臭が漂う日が続いています。隣家の登記簿上の名義人は知らない方で、行方も分かりません。隣家の悪臭問題は自治会でも以前から話題になっているのですが、どのように対応すればよいですか。 (注) 本事例では行政法上の対応は検討対象から外している。   1 所有者不明・管理不全土地等の問題とごみ問題 隣家・隣地(以下「隣家等」という)の所有権者が行方不明である場合や、隣家等の管理が適切に行われない場合に、隣地にごみが投棄され、周囲に悪臭等の被害を及ぼすことがある。悪臭等の被害を受けた者は、当該隣家等の所有権者に対して、所有権侵害や人格権侵害又はそのおそれがあることを理由に、妨害排除や妨害予防等の請求をすることが考えられる。 しかし、当該隣家等の所有権者を特定できないこともあれば、特定して請求をしても改善されないこともある。また、これらの請求を受けて改善措置が講じられることがあっても、一時的な対応に留まり継続的に管理されないこともある。 そこで、今回は、原則令和5年4月1日から施行される予定の改正民法等を踏まえて、このような問題への対応策を検討したい。なお、便宜上、改正後の民法を「改正後民法」と表記する。   2 所有者不明土地・管理不全土地管理人選任の申立て (1) 所有者不明土地管理人と管理不全土地管理人 所有者不明の土地や管理不全の土地がある場合、利害関係人は、地方裁判所に対して、所有者不明土地管理人や管理不全土地管理人の選任を申し立てることができる。どの程度の被害が生じていれば利害関係人として認められるかは、事例の集積を待つことになるが、管理の必要性(改正後民法第264条の2第1項、同法第264条の9第1項)が要件として求められていることからすると、受忍限度を超えるような被害が生じている場合に限定されるように思われる。 これらの管理人選任の申立ては、各選任要件を満たす限り、どちらかを選択して申立てをすることができる。もっとも、所有者不明土地管理人の場合、当該土地の管理権限が当該管理人に専属するものとされているため、裁判所の許可を得れば、所有者の同意を得ることなく、当該土地の処分をすることもできる(改正後民法第264条の3。管理不全土地管理人の権限を規定する同法第264条の10第3項は、処分行為を行う場合に所有者の同意も要件としている)。そのため、当該土地を処分することまで想定して管理人選任を申し立てるような場合には、所有者不明土地管理人の選任を選択することになると考えられる。 なお、土地の管理だけでなく、隣家の建物も管理が必要な状態である場合には、別途、所有者不明建物管理人又は管理不全建物管理人の選任を申し立てる必要がある。 (2) 所有者不明土地管理人の権限 所有者不明土地管理人の権限は、①所有者不明土地管理命令の対象とされた土地、②所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産、③管理・処分その他の事由によって当該管理人が得た財産に及ぶ(改正後民法第264条の3)。 上記②のうち、所有者不明土地上にある動産は、当該土地の所有権者の所有する動産を意味するため、第三者の所有する動産には当然効力は及ばない。もっとも、不法に投棄されたごみのように、当該第三者が動産の所有権を放棄したとみられる事情がある場合には、当該動産も上記②の所有者不明土地管理命令の効力が及ぶ動産と解することができる。 (3) 所有者不明土地管理人選任の申立人 上記のとおり、所有者不明土地管理人選任の申立人には、具体的な被害を受けている隣家の者が含まれうるが、当該土地が所在する自治会が含まれるのかが問題となりうる。直接的な関与を避けたい者にとっては、自治会を通じて問題解決を図ることができれば、心理的な面での負担も軽減することができる。 自治会が認可地縁団体(地方自治法第260条の2)になっている場合、当該自治会は法人格を有するため、当該自治会が申立人となりうる。また、当該自治会が認可地縁団体ではない場合でも、当該自治会が権利能力なき社団の要件(※)を満たしている場合には、当該自治会の代表者の名義で申し立てる余地もあると考えられる。 (※) ①団体としての組織をそなえ、②多数決の原則が行なわれ、③構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定しているもの(最判昭和39年10月15日民集18巻8号1671頁参照)。   3 越境した枝の切除 所有者不明土地管理人は、当該土地を管理する義務を負うため、当該土地上の竹木の枝が越境している場合には、当該枝を切除する等の措置を講じる必要がある。また、改正後民法では、土地の所有権者に、隣地の竹木の枝が境界線を越えているにもかかわらず、隣地の竹木の所有権者を知ることができない場合や、その所在を知ることができない場合に、枝を切除する権利を認めたため(改正後民法第233条第3項第2号)、当該管理人によることなく、自ら枝の切除をすることもできる。 隣地と高低差があるなど隣地の竹木の枝を切除するために隣地を使用する必要がある場合、原則として隣地の所有権者と使用者に対してあらかじめ通知する必要がある(改正後民法第209条第3項本文)。 もっとも、あらかじめ通知することが困難なときは、使用後に遅滞なく通知をすれば足りる(同項ただし書)。「あらかじめ通知することが困難なとき」には、当該隣地の所有権者や使用者が不明である場合や、その所在を把握できない場合が含まれると解されており、この場合、当該所有権者や使用者が判明した後に通知をすれば足りる。そのため、通知をするためだけに所有者不明土地管理人の選任を申し立てる必要はない。   4 本件について 本件において隣家からの受忍限度を超える悪臭の被害を防ぐためには、所有者不明土地管理人の選任を(必要に応じて所有者不明建物管理人の選任も併せて)申し立てることが考えられる。 また、自治会が認可地縁団体になっている場合や権利能力なき社団としての要件を満たしている場合には、自治会(前者の場合)又はその代表者(後者の場合)が上記申立てをすることも考えられる。 もっとも、上記のいずれの場合でも、裁判所から予納金の納付を求められる可能性があるため、経済的負担があることに留意が必要である。 越境した枝については、所有者不明土地管理人が選任されている場合は、当該管理人に切除の請求をすれば足りるが、管理人の選任をしていない場合は、隣地の竹木の所有権者が不明又は行方不明の場合に該当することを理由に自ら切除することができる。この場合も、事実上、切除費用を負担することになる可能性が高いため留意が必要である。 (了)

#No. 476(掲載号)
#羽柴 研吾
2022/07/07

事例で検証する最新コンプライアンス問題 【第23回】「電機メーカーでの品質不正-内部通報制度が機能しなかったのはなぜか」

事例で検証する 最新コンプライアンス問題 【第23回】 「電機メーカーでの品質不正 -内部通報制度が機能しなかったのはなぜか」   弁護士 原 正雄   M電機の品質不正は重大な問題であった。そこで、本連載では、【第21回】で品質不正が起きた原因について論じ、【第22回】で3度にわたる点検でも不正を発見できなかった理由について論じた。第23回となる本稿では、M電機の内部通報制度について解説したい。 内部通報制度については、2022年6月、改正公益通報者保護法が施行されたことが大きなトピックである。改正法は、企業に対して内部通報窓口の設置義務を課すなど、内部通報制度に係る重大な内容を多々定めている。企業における内部通報制度の重要性はさらに高まった。 そうした中で、M電機は内部通報制度を整備していたにもかかわらず、今回問題となった品質不正を発見できなかった。なぜ、内部通報制度が効果を発揮できなかったのか。 本稿では、調査委員会が作成した調査報告書に基づき、M電機が整備していた内部通報制度の概要を確認しつつ、可児工場と長崎製作所を例として、M電機において品質不正についての内部通報がなされなかった原因について分析する。   1 M電機における内部通報制度の概要 M電機は、以下の2つの内部通報窓口を設置していた。 通報件数は、以下のとおりである。 2020年度で見ると、M電機の従業員数は約3万6,000人である。同年度の通報件数は65件なので、従業員554人当たり1件という状況である。 内部通報制度が活発に利用されている企業では、従業員100人未満当たりで1件ということもある。M電機の554人当たり1件という数字は、内部通報制度が活発に利用されていた、とは言えなかったことを示す。品質に関する通報もあったようだが、ごく少数であった。   2 内部通報がなされなかった原因 M電機の可児工場や長崎製作所では、長い間、品質不正が行われていた。しかし、そうした不正について内部通報が行われることはなかった。 (1) 現場の従業員たちが問題から目を背けてしまった M電機において内部通報がなされなかったことの1つの要因として、現場の従業員たちが問題から目を背けてしまったという事情がある。問題から目を背けたのでは、そもそも通報しようという話にならない。それでは、従業員たちは、なぜ品質不正という問題から目を背けてしまったのか。 ① 当事者意識の欠如 まず、M電機では、現場の従業員に当事者意識が欠けていた。可児工場の品質保証課の管理職経験者は、以下のとおり述べる。 ② 悪しき「事なかれ主義」 また、悪しき「事なかれ主義」に囚われていた従業員も複数いたようである。可児工場の従業員は、以下のとおり述べる。 また、長崎製作所の従業員は、以下のとおり述べる。 ③ 顧客とのトラブルを懸念した 内部通報をしなかった理由として、顧客とのトラブルを懸念したという事情もあった。長年にわたって品質不正を行って不正な製品を納品し続けてきたため、今になって公表すれば顧客との関係で収拾がつかなくなる、という発想である。 この点について長崎製作所の従業員は、以下のとおり述べる。 M電機では、多くの従業員は、最初に配属された製作所や工場にその後も属し続け、他に異動することは希である。その間に自らが属する製作所や工場に強い帰属意識を持つようになり、限定的な人間関係が構築される。そのため、製作所や工場単位で見るならば、従業員同士は極めて「仲が良い」とのことである。 しかし、濃密な人的関係の結果、顧客に対して誠実であるよりも、仲間に対して忠実であることを選択してしまったようである。そうした従業員たちが、品質不正の存在を認識していたにもかかわらず、問題から目を背けてしまったものと考える。 (2) 現場の従業員が内部通報制度を信頼していなかった とはいえ、品質不正という問題に直面した際、全ての従業員が、何らの葛藤もなく単純に目を背けていたとも思えない。中には、こうした問題を看過してしまってよいのか、悩んだ従業員もいたはずである。 しかし、結果として、可児工場や長崎製作所において品質不正を通報するに至った従業員は1人もいなかった。それはなぜか。 M電機において内部通報がなされなかったことのもう1つの要因として、現場の従業員が内部通報制度を信頼していなかったという事情がある。 ① 実効性があるとの信頼を得ていなかった まず、M電機の従業員は「内部通報制度を利用すれば問題を解決できる」という考えを有していなかった。従業員たちは「内部通報をしても会社が助けてくれるかは分からない、会社は何の支援もしてくれないかもしれない」と感じていた。 内部通報をしなかった理由につき、長崎製作所の従業員は、以下のとおり述べる。 M電機の内部通報制度は、実効性あるものとしての信頼を獲得できていなかった。経営陣による「内部通報制度を通じて不正を発見し、是正したい」という思いは、現場には伝わっていなかったのである。 ② 通報者保護についての信頼を得ていなかった また、M電機の従業員らは、内部通報制度を利用した場合、通報者が保護されないのではないか、という疑いを有していた。通報者が保護されるとの信頼がなければ、内部通報制度を利用しようとは思わない。この点についてある従業員は、以下のとおり述べている。 ③ 信頼を得られていなかったのは、周知が不十分であったから 内部通報制度は、上記のとおり十分な信頼を得ていなかった。それでは、なぜ、十分な信頼を獲得できなかったのか。 その理由として、周知が不十分であったことがあげられる。M電機では、内部通報制度の存在を知らない従業員や、内部通報制度がどのような仕組みなのか正しく理解していない従業員が複数いた。例えば、以下のとおり述べる従業員がいた。 経営陣が真に熱心に内部通報制度に取り組んでいたのであれば、周知活動についても熱心に行い、全ての従業員が内部通報制度を十分に理解するまで徹底したはずであった。その結果、周知が熱心に行われること自体が、経営陣が内部通報制度に真剣に取り組んでいるというメッセージになったはずであった。 しかし、実際には、M電機は、eラーニングや従業員研修、ポスター掲示等を通じて、内部通報制度の周知を図っていたようであるが、十分とは言えなかった。その結果、従業員たちは「経営陣は、内部通報制度についてさほど熱心ではない」と受け止めてしまったようである。そうだとすれば、内部通報制度が信頼を獲得できなかったことも当然であった。   3 結論 (1) 原因についてのまとめ 上記のとおり、M電機では、内部通報制度は設けられていたものの、活発には利用されていなかった。その結果、品質不正について通報がなされることもなかった。 その原因の1つとして、現場の従業員たちが問題から目を背けてしまったという事情があった。 そして、もう1つの原因として、内部通報制度の周知が不十分であった結果、現場の従業員が内部通報制度を信頼するに至らなかったという事情があった。 (2) 問題の解決に向けて 1つ目の原因である「従業員たちが問題から目を背けてしまった」という点は、企業風土の問題である。一朝一夕に解決することは難しい。 しかし、企業風土の改善という課題は、避けて通ることはできない。M電機は、企業風土の改善に全力で取り組まなければならない。 また、M電機においても、全ての従業員が問題から目を背けていたわけではない。中には心苦しい思いをしていた従業員もいた。そうした従業員は、2021年にM電機が調査委員会を設置したことで会社が品質不正問題に本気で取り組んだことを知った。そして、それまでの態度を転じて、品質不正の調査に積極的に応じている。 例えば、ある担当者は、調査委員会のヒアリングに対して、不正行為の存在を積極的に説明した。その理由について、以下のとおり述べている。 これは、2つ目の原因である「内部通報制度が信頼を獲得できていなかった」という問題にも関わるものである。 心ある従業員たちが声を上げやすくなるよう、経営陣は、内部通報制度に真剣に取り組まなければならない。そして、経営陣が内部通報制度に真剣に取り組めば、そのこと自体が、コンプライアンスの重要性についての経営陣から従業員に対するメッセージとなる。そうしたメッセージを受けて、現場の従業員たちも次第に経営陣のコンプライアンスに対する思いを受け止め、内部通報制度を信頼するようになる。そうした中で、従業員たちの考え方が少しずつ変わり、問題に正しく向き合う従業員も増えてくる。 すなわち、2つ目の原因である「内部通報制度が信頼を獲得できていなかった」という問題を解決するために内部通報制度の周知に熱心に取り組むということが、実は1つ目の原因である「現場の従業員たちが問題から目を背けてしまった」という事情を解消し、企業風土の改善につながるのである。 (3) 結語 コンプライアンス経営を実現して企業価値を維持向上するには、地道な取り組みが不可欠である。地道な取り組みの積み重ねによって、初めてより良い企業風土を構築できる。 そうした地道な取り組みの1つとして、内部通報制度がある。企業は、内部通報制度の構築と運用に真剣に取り組み、従業員への周知を徹底しなければならない。 M電機の品質不正問題は、多くの企業にとって、内部通報制度の重要性を認識するための貴重な機会であり、ひいては企業風土のさらなる改善の必要性を改めて認識するための重要な契機と言える。 (了)

#No. 476(掲載号)
#原 正雄
2022/07/07

〈小説〉『所得課税第三部門にて。』 【第58話】「隠蔽仮装と必要経費の否認」

〈小説〉 『所得課税第三部門にて。』 【第58話】 「隠蔽仮装と必要経費の否認」 公認会計士・税理士 八ッ尾 順一   「・・・この改正で、税務調査が、行いやすくなるのかなあ・・・」 浅田調査官は、令和4年度税制改正の「所得税法45条3項」の箇所を見ながらつぶやく。 上記の「一定の場合」とは、次①又は②に該当する場合である。 「・・・税制調査会では、この新たな規定について、次のような説明をしている・・・」 そう言いながら、浅田調査官は、税制調査会(第7回総会)の議事録(寺﨑主税局調査課長の答弁)の一部を見る。 「・・・しかし、納税者が自らの所得金額を計算する際に、必要経費そのものを簿外にすることはないのでは・・・」 浅田調査官が首をかしげていると、中尾統括官が声をかける。 「何をそんなに真剣に考えているの?」 中尾統括官は、浅田調査官が開いている令和4年度税制改正のページを覗く。 「・・・ああ、所得税法45条か・・・」 中尾統括官は、大きく頷く。 「・・・これは税務調査の際に、納税者が不利になると、後出しジャンケン的に証拠書類を提示することなく簿外経費を主張する不心得な納税者に対して、一定の規制を行う規定なのだが・・・」 浅田調査官は、納得しない顔をしている。 「・・・しかし、必要経費を簿外にする納税者はいるのでしょうか?」 浅田調査官は、中尾統括官を見る。 「この制度の趣旨は、もともと記帳義務や申告義務を適正に履行させることを目的としたもので、そして、そのようなことをしない納税者には、必要経費を認めないことによって、適正な記帳と申告を促すということなのだ・・・」 中尾統括官は、所得税法45条の趣旨を説明する。 「そして、この制度は、税務調査の段階で、何らかの収入が発見されたときに、事後的に簿外経費を明らかにするといった不誠実な納税者への対応を図るものだともいわれている」 浅田調査官は、大きく頷く。 「そうでしょうね・・・簿外の収入が見つかったという前提でしょうね・・・納税者が必要経費のみ簿外にするなんてことは、とうてい考えられない」 中尾統括官は、傍らにある税務六法を手に取って、法人税法34条(役員給与の損金不算入)を開く。 「この条文の3項にも今回の改正と同じように、隠蔽・仮装に基づいて、役員に対して支給する給与は、損金の額に算入しないという規定がある」 そう言いながら、中尾統括官は、同条3項を読み上げる。 「この規定は、税務調査で簿外の売上が発見され、しかし、その売上から役員の定期同額給与が支給されていた場合、理論上、役員給与は、損金の額に算入され、その結果、簿外の売上に対して課税できないことになるので、平成10年度税制改正で、このように隠蔽・仮装して役員に支給する給与は、損金の額に算入しないと規定した・・・」 中尾統括官は、言葉を続ける。 「・・・それまでは、簿外収入による役員に対する定時・定額支給の訴訟が多かったと聞いている・・・」 中尾統括官は、名古屋地裁平成4年2月28日判決を紹介する。 「この平成10年度改正前の裁判では、役員への簿外(定時・定額)支給の給与は、臨時的給与=役員賞与として、否認されていたが、隠蔽・仮装に基づく役員報酬は、損金算入しないと立法で手当てし、課税庁は一つ一つ訴訟をしなくてもよくなった・・・今回の改正も同様の措置だろう」 浅田調査官は、大きく頷く。 (つづく)

#No. 476(掲載号)
#八ッ尾 順一
2022/07/07

令和3年度税制改正に関する《資料リンク集》(更新)

令和3年度税制改正に関する 《資料リンク集》 このページでは「令和3年度税制改正」に関し各府省庁・主な団体等から公表された情報ページへのリンク先をまとめています。 新たな情報の公表により、随時更新します。   - ご 案 内 - Profession Journalの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》については随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/07/04

《速報解説》 会計士協会、公認会計士のサステナビリティ教育に向けた検討事項をまとめ、報告書として公表~今後、シラバスの開発やプラットフォームの整備等も進める方針~

《速報解説》 会計士協会、公認会計士のサステナビリティ教育に 向けた検討事項をまとめ、報告書として公表 ~今後、シラバスの開発やプラットフォームの整備等も進める方針~ 公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年6月30日、日本公認会計士協会は、サステナビリティ教育検討プロジェクトチーム報告書「公認会計士のサステナビリティに関する知見及び能力の育成に向けた検討」を公表した。 これは、公認会計士がサステナビリティの知見・能力を高める必要性を認識し、公認会計士のサステナビリティ教育の在り方について包括的な検討を行ったものである。 公認会計士のサステナビリティ教育に関するシラバスを策定することが適当であるとしている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 サステナビリティ関連の教育に関する課題 公認会計士業界におけるサステナビリティ関連の教育に関する課題として、次の点が指摘されている。 2 公認会計士に求められるサステナビリティ関連の知見・能力 サステナビリティに関して公認会計士が具備すべき知見・能力(会計・監査に関する職業的専門家として共通的に備えるべきもの)について、次のように整理している。 3 財務諸表の監査に従事する者(外部監査人)に求められる知見・能力 公認会計士に共通的に求められる知見・能力を踏まえ、財務諸表の監査に従事する者(外部監査人)に求められる知見・能力として、次の整理を行っている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 475(掲載号)
#阿部 光成
2022/07/04

《速報解説》 「公認会計士の社会的認識の分析を通じた監査の現場力強化に向けた提言」をJICPAが公表~企業・公認会計士双方の認識の差異を明らかにし、業務及びコミュニケーションの改善へ~

《速報解説》 「公認会計士の社会的認識の分析を通じた 監査の現場力強化に向けた提言」をJICPAが公表 ~企業・公認会計士双方の認識の差異を明らかにし、業務及びコミュニケーションの改善へ~ 公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年6月30日、日本公認会計士協会のホームページにおいて、学校法人先端教育機構 社会構想大学院大学による研究報告書「公認会計士の社会的認識の分析を通じた監査の現場力強化に向けた提言」が公表されている。 これは、企業及び公認会計士の双方の視点から「公認会計士による監査がどのように見られているか」について定量(量的)・定性(質的)の両面から調査し、双方の認識の差異(ズレ)を明らかにすることで、企業・公認会計士双方の業務及びコミュニケーションの改善につなげ、公認会計士の「現場力」の向上に寄与するためのものである。 日本公認会計士協会は、「学校法人先端教育機構 社会構想大学院大学による研究報告書「公認会計士の社会的認識の分析を通じた監査の現場力強化に向けた提言」の公表を受けて」を公表し、所感を述べている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 研究報告書では、「公認会計士の社会的貢献」、「社会的期待」及び「行動」に関して、公認会計士と企業関係者それぞれに質問を実施し、t検定を用いてどのような認識の差異が存在するか量的に分析を行っている。 分析の方法及び結果については、研究報告書をお読みいただきたい(全体で139ページ)。 以下では、主に、研究報告書の「3.本研究の考察結果のまとめと監査の現場力強化に向けた提言」に記載されている事項について、その概要を述べることとする(研究報告書の69~72ページ)。 1 量的分析を通じた公認会計士視点と企業視点の比較 主に以下の分析結果について記載されている。 2 重回帰分析を通じた公認会計士に対する認識を規定する要因の探索 主に以下の分析結果について記載されている。 3 自由記述の質的分析を通じた公認会計士視点と企業視点の比較 主に以下の分析結果について記載されている。 監査のメタファーの分析では、公認会計士側は「公認会計士による監査」には「強制的な権限がない」ことを意識している一方で、企業側は必ずしもそうではない可能性があることが示唆されている(61ページ)。 また、企業関係者個々人が経験した公認会計士の「当たり外れ」が、個人的な視点からの公認会計士イメージに大きく影響している可能性についても理解する必要があるとのことである。公認会計士は人によって「レベルの差が大きい」ため、「世間知らず・常識に疎い」と見なされてしまうこと、専門家としての実態を伴う形で認識され、評価されていない場合には「先生と呼ぶに値しない」と受け止められていることなどがある(61ページ)。 企業側の不満が「必要な知識及び自社・業界理解の不足」「提言力の不足」「人材(人財)の不足」という3つの「不足」の形で示されていたことも注目に値するとのことである(61ページ)。 4 専門職としての公認会計士の専門性とその認識 主に以下の分析結果について記載されている。 公認会計士側に比べて、企業側は「公認会計士の業務内容や意義は公認会計士ではない人々に十分理解されている」と考えているが、同時に「公認会計士はAIにとって代替される可能性が高い職業だ」とも考えているとのことである(67ページ)。 5 監査の現場力強化に向けた提言 監査の現場力強化のために、「クライアントが、専門職が保有している知識やスキルを信用した上で業務を依頼したいと思える」ような関係性などについて述べており、公認会計士と企業とのコミュニケーションのあり方の改善(コミュニケーションにおいて企業のビジネスの理解を求める声があったことなど)など、企業に寄り添ったコミュニケーション活動を充実させることについて述べている。   Ⅲ 日本公認会計士協会の所感 日本公認会計士協会の所感として、主に次のことが述べられている。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 475(掲載号)
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2022/07/04

《速報解説》 令和4年分路線価を国税庁が公表~コロナ禍の影響緩み、全国平均路線価は0.5%の上昇~

《速報解説》 令和4年分路線価を国税庁が公表 ~コロナ禍の影響緩み、全国平均路線価は0.5%の上昇~   Profession Journal編集部   国税庁は7月1日、相続税及び贈与税の算定基準となる令和4年分の路線価(1月1日時点)を公表した。 昨年はコロナ禍の影響が路線価に反映された最初の年であり、一昨年までの上昇傾向から一転して全国平均路線価は0.5%の下落となっていた。 しかし、引き続きコロナ禍の影響を受けている令和4年分の全国平均路線価は0.5%の上昇に転じている。要因としては、昨年と比較してコロナ禍の影響が緩和されたことによる一部観光地や繁華街での需要回復や、リモートワークの浸透などにより都市部から離れた一部地域の需要が高まったことが考えられる。 ちなみに今年を加え、37年連続路線価トップとなったのは、東京都中央区銀座5丁目の「鳩居堂」前で、1平方メートルあたり4,224万円となった。昨年に続き路線価自体は下落したものの、下げ幅は1.1%と昨年の7.0%と比べると緩やかになっている。 〇上昇地域と下落地域の特徴 昨年大幅下落となったインバウンド(訪日外国客)需要が牽引してきた地域については、下げ幅は緩やかになったものの、依然として今年も下落傾向にあり、大阪府の心斎橋筋2丁目は前年比マイナス10.6%となった。国内旅行の需要により回復傾向の観光地もある一方で、インバウンド需要の回復が望めないことで下落が続く地域もあり、観光地において2極化が進んでいる。 また、コロナ禍によるリモートワークの浸透などで、都市部のオフィス街は下落傾向にあり、東京都千代田区丸の内2丁目はマイナス1.3%となっているが、ワーケーションやセカンドハウス需要により、長野県白馬村の村道和田野線は前年比20.0%のプラスとなるなど、直近の生活様式の変化が反映されている地域もある。 なお、上記で取り上げた地域も含め、各国税局では国税局管内各税務署の最高路線価を下記のとおり公表している。 〈各局が公表した最高路線価(別表)のページ〉 (了)

#No. 475(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2022/07/04

《速報解説》 会計士協会が2022年版の「上場会社等における会計不正の動向」を公表~売上の過大計上、循環取引等の収益関連の会計不正に係る手口の割合が5年ぶりに50%に届く~

《速報解説》 会計士協会が2022年版の「上場会社等における会計不正の動向」を公表 ~売上の過大計上、循環取引等の収益関連の会計不正に係る手口の割合が5年ぶりに50%に届く~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   日本公認会計士協会(経営研究調査会)は、2022年6月27日付けで経営研究調査会研究資料第9号「上場会社等における会計不正の動向(2022年版)」を公表した。 「上場会社等における会計不正の動向」(以下「研究資料」と略称する)は、2018年から毎年公表されているものであり、研究資料における分類項目を当初から変化させることなく、比較可能性が維持されている。 本稿では、公表された研究資料の概要を紹介するとともに、2018年3月期以降の会計不正の動向の変化について検討をしたい。   1 会計不正の定義 研究資料では、過去の研究資料と同様に、会計不正(Accounting fraud)の類型を、主に「粉飾決算」と「資産の流用」に分類したうえで、「粉飾決算」と「資産の流用」とに明確に区分できないものは「粉飾決算」に含めて集計している。 巻末に【参考】として記載されているそれぞれの定義の一部を引用する。 なお、定義については、2018年版から変更されていない。   2 会計不正の動向 研究資料で集計、分析を行っている項目は次の9つに分類されている、この分類についても、上述のとおり、2018年版以降、変更はない。   3 集計・分析結果の特徴 (1) 会計不正の公表会社数 会計不正を公表した会社の数は、2018年3月期から2022年3月期までの5年間で164社となっている。当該5年間では、2020年3月期の46社が最大であり、2022年3月期における会計不正の公表社数は31社で、前年同期の25社を上回った。 (2) 会計不正の類型と手口 会計不正を「粉飾決算」と「資産の流用」に分類した場合、2022年3月期までの5年間の平均で「粉飾決算」の割合が81.0%となっている。2022年3月期においては、件数ベースでは83.0%が「粉飾決算」で、前年同期の77.6%から増加しており、年度によってばらつきが見られる。 粉飾決算の割合が8割を超えていることについて、研究資料では、「資産の流用による影響額よりも、粉飾決算による影響額の方が多額になる」ことから、「上場企業等が適時開示基準に則って公表する数は、粉飾決算の方が多くなると考えられる」と分析しており、この分析は2018年版以降、同じ表現となっている。 不正の手口としては、収益関連の会計不正(売上の過大計上、循環取引、工事進行基準)の割合が2017年3月期の63.0%以来、5年ぶりに50%に達していることが注目される。 (3) 会計不正の主要な業種内訳 2022年3月期までの5年間で、会計不正が行われた事業を基に分類した業種別の公表件数では、サービス業が27社でトップ、以下、卸売業21社、電気機器17社と続いており、公表会社数に変動はあるものの、上位3業種の順位に変動はない。 (4) 会計不正の上場市場別の内訳 会計不正を公表した会社が上場している市場別に分類したところ、2022年3月期においては、東証第1部17社(前年同期18社。以下括弧内の数字が前年同期を示す)、東証第2部4社(2社)、ジャスダック4社(2社)、マザーズ4社(3社)その他2社(0社)となり、前年同期と比較すると、東証第二部、ジャスダック及びマザーズに分類される会社において、会計不正の発覚が増加傾向にある。 また、東証第1部及び東証第2部と新興市場との間で、「上場会社数の市場別内訳の割合と会計不正の市場別内訳の割合が近似しており、(中略)不正の発生割合は変わらなかった」という分析は2022年3月期も変わっておらず、「新興市場に上場している会社の会計不正が多い」という一般的な先入観は否定されている。 (5) 会計不正の発覚経路 2022年3月期までの5年間における会計不正の発覚経路は、内部統制等が44社、当局の調査等が25社、内部通報が22社、公認会計士監査が18社となっていて、前年との比較では、公認会計士による監査で発覚した会計不正が22社から18社へと減少しているのが気になるところである。一方、発覚経路の「記載なし」、つまり未公表としている会社が20社あり、この点について、研究資料は、「発覚経路の記載は、調査報告書の利用者が不正の未然防止や早期発見を考える上で重要な情報であるため、積極的に公表することが望まれる」とコメントしている。こうした指摘は、2018年版以降、表現に差異は見られるものの、繰り返し表明されているところである。 (6) 会計不正の関与者 2022年3月期までの5年間における会計不正の主体的な関与者、共謀の有無などを分析した結果、関与者の役職や共謀の有無については年度ごとのバラつきが見られるものの、役員と管理職については、共謀して会計不正を行うことが多く(共謀が87社、単独が27社)、非管理職については、単独26社、共謀21社と、単独での会計不正が共謀をわずかながら上回っていることが明らかになった。 (7) 会計不正の発生場所 2022年3月期までの5年間における会計不正の発生場所を上場会社、国内子会社及び海外子会社別に分類して集計した結果、上場会社本体が78社、国内子会社が55社、海外子会社が41社となった(複数の場所で発生している会社については、それぞれ集計している)。2021年3月期及び2022年3月期は、上場会社本体での会計不正の発生社数を国内子会社が上回る状態が続いている一方、海外子会社における会計不正の件数は少ない状態が続いている。 会計不正が発覚した海外子会社の所在地については、中国が52.4%、中国を除くアジアと北米・南米がそれぞれ16.7%となっている。 (8) 会計不正の不正調査体制の動向 2022年3月期までの5年間における会計不正発生時の調査委員会の組成を、「社内のみ」「社内+外部専門家」「外部専門家のみ」の3つに分類して集計したところ、それぞれ、26社、71社、66社となった。2022年3月期は、「外部専門家のみ」の調査委員会設置数が31社中17社と過半数を超えている。 会計不正の分類別に不正調査体制を比較すると、「粉飾決算」では「外部専門家のみ」で組成されている調査体制を採用する会社が多く(44.5%)、「資産の流用」では「社内のみ」で調査に当たる会社が多くなっている(34.6%)ことがわかる。 (9) 会計不正と内部統制報告書の訂正の関係 2022年3月期までの5年間において、会計不正の発覚に伴って、過年度の内部統制報告書を訂正した上場会社は73社であった。訂正を行った会社のうち67社は、会計不正の類型が「粉飾決算」であった。 内部統制報告書の訂正割合の変化に注目すると、2021年3月期は28.0%まで減少していたが、2022年3月期は45.2%に増加している。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 475(掲載号)
#米澤 勝
2022/07/01

《速報解説》 JICPA、「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料」を公表~研究開発費等会計基準設定時には想定になかったソフトウェア関連取引の多様な実務に対応~

《速報解説》 JICPA、「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料」を公表 ~研究開発費等会計基準設定時には想定になかったソフトウェア関連取引の多様な実務に対応~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年6月30日、日本公認会計士協会は、「ソフトウェア制作費等に係る会計処理及び開示に関する研究資料~DX環境下におけるソフトウェア関連取引への対応~」(会計制度委員会研究資料第7号)を公表した。 これにより、2022年2月24日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。公開草案に寄せられた主なコメントの概要とその対応も公表されている。主なコメントの概要では、実務上の課題が多数寄せられている。 これは、ソフトウェアに関するビジネスの環境変化に伴い、多様な実務が生じていることを踏まえ、ソフトウェア及びその周辺の取引に関する会計上の取扱いについて研究したものである。 国際財務報告基準(IFRS)及び米国基準との比較が詳細に行われており、また、ソフトウェアに関連する会計処理などが詳細に検討されているため、実務の参考になるものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 ソフトウェアに関するビジネスの環境変化が生じている中で、研究開発費等会計基準や研究開発費等実務指針の設定時に想定されていないソフトウェア及びその周辺の取引に関して多様な実務が生じていることから、それらで示されていないものに関する実務上の課題を抽出し、検討している。 ただし、「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号)及びリース取引に関する事項については、検討対象としていない。 主に次の内容である。 1 現状の課題 実務の分析、ヒアリング及びアンケート調査を行い、研究開発費等会計基準の開発時に想定されておらず、基準の設定後に新たに生じた取引については、現行の研究開発費等会計基準に従ってどのように会計処理すべきかが必ずしも明らかではないと考えられると述べている。 特に、自社利用のソフトウェアと市場販売目的のソフトウェアというソフトウェアの分類や、 収益獲得を目的とするソフトウェアを自社利用のソフトウェアとして分類した場合におけるソフトウェアの資産計上の開始時点の取扱いは現行のソフトウェア実務に合わない可能性があるとのことである。 2 クラウドサービスのベンダー側の会計処理 サービス提供のために利用するソフトウェアについて、研究開発費等会計基準における分類を確認したところ、自社利用のソフトウェアに分類(16社)、市場販売目的のソフトウェアに分類(1社)、資産計上していない(9社)という結果であった。 研究開発費等会計基準においてSaaSのベンダーがサービス提供のために利用するソフトウェアをいずれに分類すべきかについては必ずしも明らかではないが、アンケートでは、ソフトウェアそのものを販売しているわけではない点や、 研究開発費等実務指針11項①の「通信ソフトウェア又は第三者への業務処理サービスの提供に用いるソフトウェア等を利用することにより、会社(ソフトウェアを利用した情報処理サービスの提供者)が、契約に基づいて情報等の提供を行い、受益者からその対価を得ることとなる場合」 との類似性を挙げて、自社利用のソフトウェアに分類しているとの回答が多く見られたとしている。 次のことが述べられている。 また、次のような意見が聞かれたとのことである。 3 クラウドサービスのユーザー側の会計処理 クラウドサービスのユーザー側の会計処理について、現行の会計基準の体系の中では明確な規定は設けられていない。 クラウドサービスの中でも、特に、実務的に論点となることが多いと考えられる一般事業会社がSaaSを利用するケースを中心に、ユーザー側の会計処理(サービスの提供を受けることに対して継続的に支払う費用及びユーザーが支払う初期設定費用やカスタマイズ費用の会計処理など)について、次のように述べている。 4 コンピューターゲームの制作費用の会計処理 ゲーム業界に適用される我が国の会計基準等については、研究開発費及びソフトウェアQ&Aでゲームソフトの制作に言及した記述はあるものの、ゲーム業界固有の事象について詳細に定めた取扱いはないとのことである。 コンピューターゲーム開発業を主要な事業としている企業の事例を見ると、一般消費者向けのコンピューターゲームの開発活動に係る会計処理にばらつきが見られる(無形固定資産として計上している企業と、流動資産として計上している企業とが混在)。 5 実務上の課題とそれを踏まえた提言 現状認識している具体的な実務上の課題とそれに係る提言として、次のことが記載されている。 (了)

#No. 475(掲載号)
#阿部 光成
2022/06/30
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