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〔疑問点を紐解く〕インボイス制度Q&A 【第14回】「令和4年度税制改正における適格請求書等保存方式導入時の経過措置の見直し」

〔疑問点を紐解く〕 インボイス制度Q&A 【第14回】 「令和4年度税制改正における 適格請求書等保存方式導入時の経過措置の見直し」   税理士 石川 幸恵   【Q】 令和4年度税制改正では、適格請求書等保存方式に係る見直しが行われました。その中で、免税事業者が適格請求書発行事業者の登録をする場合の経過措置の期間が延長されましたが、条文上、どのような改正がなされたのでしょうか。 〔ポイント〕 免税事業者は、経過措置により課税期間の中途であっても、登録開始日から適格請求書発行事業者となることができます。この経過措置は、平成28年改正法附則第44条第4項に規定されており、令和4年度の税制改正で、同項を改正することにより、この経過措置が適用される期間が延長されました。 上記の経過措置の適用を受ける事業者が、登録開始日から簡易課税制度の適用を受けられる経過措置は、消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号)附則第18条に規定されており、同様に期間が延長されました。 *  *  * 【A】 (1) 経過措置の概要と税制改正の内容 ① 経過措置がない場合の原則 免税事業者は適格請求書発行事業者の登録を受けることができません(新消法57の2①)。 ② 経過措置 免税事業者が適格請求書発行事業者の登録申請書を提出して登録を受けることにより、登録開始日から適格請求書発行事業者となることができるという経過措置が設けられています。この経過措置により、課税期間の初日から登録開始日の前日までは免税事業者、登録開始日から課税期間の末日までは適格請求書発行事業者となります。 ③ 改正の内容 (イ) 上記②の経過措置の適用を受けられる期間が、「令和5年10月1日の属する課税期間」から、「令和5年10月1日から令和11年9月30日までの日の属する課税期間」に延長されました。 (ロ) 上記②の経過措置により登録開始日から課税事業者となった場合には、その登録開始日の属する課税期間の翌課税期間からその登録開始日以後2年を経過する日の属する課税期間までの各課税期間については、事業者免税点制度は適用されません(登録開始日が令和5年10月1日の属する課税期間中である者を除く)。 ④ 簡易課税制度の適用について 従前の経過措置では、上記②の経過措置の適用を受ける事業者が登録開始日から簡易課税制度の適用を受けるための経過措置も合わせて設けられていましたが、税制改正大綱の段階では上記③と合わせて延長される旨の言及がありませんでした。 消費税法施行令等の改正(令和4年3月31日公布)により、上記③の改正後の経過措置の適用を受ける事業者が、登録開始日の属する課税期間中に簡易課税選択届出書を提出したときは、登録開始日の属する課税期間から簡易課税が適用されることが明らかとなりました。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 インボイス制度に関する令和4年度税制改正の概要は下記拙稿もご参照ください。   (2) 消費税法、消費税法施行令の改正箇所 ① 免税事業者が登録開始日から適格請求書発行事業者となることができる経過措置の原則 免税事業者が登録開始日から適格請求書発行事業者となることができる経過措置は、平成28年改正法附則第44条第4項に規定されています。令和4年度税制改正で「5年施行日の属する課税期間」から「5年施行日以後6年を経過する日までの日の属する課税期間」へと期間が変更されました(令和4年改正法20)。 《改正後》 (注) 条文中の破線部分は、意味を変えない程度に省略しています(以降同様)。 《改正前》 ② 事業者免税点制度の適用制限 令和5年10月1日を含む課税期間の翌課税期間以後に登録する場合の事業者免税点制度の適用制限は、新設された同附則第44条の第5項に拠ります(令和4年改正法20)。 ③ 簡易課税制度の経過措置について 簡易課税制度の経過措置は消費税法施行令等の一部を改正する政令(平成30年政令第135号)附則第18条の改正に拠ります。「5年施行日」を「登録開始日」とすることにより、平成28年改正法附則第44条第4項の規定の適用期間と合わせています(令和4年改正消令2)。 《改正後》 《改正前》   (了)

#No. 469(掲載号)
#石川 幸恵
2022/05/12

金融・投資商品の税務Q&A 【Q75】「NFTを譲渡した場合の課税関係」

金融・投資商品の税務Q&A 【Q75】 「NFTを譲渡した場合の課税関係」   PwC税理士法人 金融部 ディレクター 税理士 西川 真由美   ●○ 検 討 ○● 1 NFTを譲渡した場合の課税関係 NFT(非代替性トークン)やFT(代替性トークン)が取引されるケースが話題になっていますが、国税庁は、NFTやFTが暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できるものである場合の所得税法上の取扱いを、タックスアンサーの中で公表しました。 これによると、NFTやFTを譲渡した場合、その譲渡したNFTやFTがどのような資産であるかにより、下記の取扱いとなることが明らかにされています。 (1) 譲渡所得の基因となる資産に該当する場合 その所得が譲渡したNFTやFTの値上がり益(キャピタル・ゲイン)と認められる場合は、譲渡所得に区分されます。ここで、譲渡所得の基因となる資産とは具体的にどのような資産を指すのかについては、所得税法上、譲渡所得が「資産の譲渡による所得」と定義されていることから、一般に、資産そのものの値上がりによって価値が増加するものであると解されます。 これに対して、暗号資産の譲渡による所得については、所得税法上、原則として雑所得に区分されますが、これは暗号資産取引により生じた損益が、邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益で、資産そのものの値上がりにより生じた所得とは性格が異なるためであると解されています(国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて」問8参照)。 なお、NFTやFTの譲渡が、営利を目的として継続的に行われている場合には、譲渡所得ではなく、雑所得又は事業所得に区分されることになります。 (2) 譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合 譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合には、雑所得(規模等によっては事業所得)に区分されます。これは、前述の暗号資産の譲渡による所得の取扱いと整合しています。   2 本件へのあてはめ NFTを使ったデジタルトレーディングカードを譲渡したことによる所得が、その譲渡したデジタルトレーディングカードの値上がり益と認められる場合には、原則として譲渡所得に区分されるものと考えられます。 したがって、譲渡に係る収入金額から、譲渡の基因となったデジタルトレーディングカードの取得費及びその譲渡に要した費用の額の合計額を控除して、譲渡所得を計算することとなります。 ただし、デジタルトレーディングカードの譲渡を、営利を目的として継続的に行う場合には、雑所得又は事業所得として取り扱われることになると考えられます。 (了)

#No. 469(掲載号)
#西川 真由美
2022/05/12

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【追補】

“国際興業事件”を巡る5つの疑問点 ~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~ 【追補】   公認会計士・税理士 霞 晴久   1 はじめに 令和4年度税制改正の一環として、本年3月31日、法人税法施行令の一部を改正する政令が公布された(※1)。本稿は、同改正のうち、利益剰余金と資本剰余金の双方を原資として行われた剰余金の配当(以下「混合配当」という)の取扱いが争われた国際興業事件最高裁令和3年3月11日判決(※2)(以下「本件最判」という)を踏まえた同施行令23条1項4号の改正を中心に検討する。 (※1) 官報ホームページ「令和4年3月31日(特別号外 第37号)」。 (※2) 最高裁令和3年3月11日第一小法廷判決(令和元年(行ヒ)第333号)・TAINSコード:Z888-2354。 なお、かかる改正に先立ち、国税庁は、平成3年10月25日、同HP『お知らせ』において、混合配当の取扱いを公表しており(※3)、改正前の法人税法施行令23条1項4号(及び所得税法施行令61条2項4号(※4)。以下、改正前法人税法施行令を「旧法令」という)について、混合配当があった場合に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限として取り扱うという見解が示されていた。 (※3) 拙稿「《速報解説》国税庁、最高裁判決を踏まえた混合配当の取扱いについて公表~混合配当の際に算出される直前払戻等対応資本金額等につき減少資本剰余金額を上限に~」参照。 (※4) 本稿では、所得税法施行令に関する改正についての検討は省略する。詳しくは、前掲(※1)の「令和4年3月31日官報(特別号外 第37号)」の128頁を参照されたい。   2 問題の所在 本件最判で問題にされたのは、外国子会社(米国デラウエア州法に基づき設立されたLLC)から、それぞれの決議を別にする混合配当を受けた内国法人のみなし配当及び株式譲渡損益の計算方法であった。 この点につき、旧法令23条1項4号は、資本の払戻しに係るみなし配当と株式譲渡損益計算の原価となる対応資本金額等の分解(いわゆる「プロラタ計算」)について、次のように規定していた。 国際興業事件では、剰余金の分配をしたデラウエア州子会社は納税者の100%子会社であったため、最初の算式における分数の解は1である。それゆえ、株式又は出資に対応する部分の金額を計算するには2番目の算式が重要となる。そこで、国際興業事件の概要を単純化して示すと、次の表のとおりとなる。 〔表〕 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 本件最判も国側も混合配当についてはその全体が資本の払戻しに該当すると判断した(※5)ため、〔表〕でいえば、6,000が資本の払戻しとなる。次に、払戻等の直前資本金等の額は2,000であるところ、分数式①の分母(旧法令23①四イ)は前事業年度末の簿価純資産900となる(※6)ものの、同金額は分数式①の分子(旧法令23①四ロ)となるべき減少資本剰余金の金額1,000を下回るため、結果的に分数式①の分子は900となって(旧法令23①四ロ括弧書き)、分数式の解は1となり、払戻等の直前資本金等の額2,000がそのまま払戻等対応資本金額等、すなわち、株式の譲渡対価となって、全体配当6,000との差額4,000がみなし配当となるという結論が導かれるのである。 (※5) 納税者が採用した混合配当の考え方は裁判所の判示とは異なるが、その計算結果は裁判所の判示と一致している。 (※6) 法人税法施行令の規定上、プロラタ計算の分母は前事業年度終了時の簿価純資産の金額に同終了後の一定の調整項目を加減算して求めることとなるが、国際興業事件のように、翌期に配当を受領したような場合の当該配当の額は調整されないこととなっている。かかる経緯について、拙稿「“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~」【第1回】を参照。 すなわち、本件の混合配当に法施行令の規定をそのまま適用すると、実際に払い出した金額以上に、利益積立金の金額に食い込んで、資本金等の額が計算されてしまうという不合理な結果となってしまうので、裁判所は、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出される結果となる限度において、法の趣旨に適合するものではなく、法の委任の範囲を逸脱した違法なものとして無効というべきであるという判断を示した。   3 改正法施行令の内容 旧法令が、同令23条1項4号イでプロラタ計算の分母を、同ロでプロラタ計算の分子を規定し、当該分数式で求められた割合を払戻等の直前資本金等の額に乗ずるという構造であったのに対し、改正法施行令23条1項4号は、同項ロが、2以上の種類株式を発行している法人のケース、同項イがそれ以外のケースの2つに分け、それぞれが別途プロラタ計算を行うという体系となり、旧法令の柱書の部分がそれぞれ同項イ及びロに繰り下がっている形となっている。 ❶ 種類株式を発行していない場合 改正法施行令では、当該プロラタ計算によって求められた金額について、改正法施行令23条1項4号イ括弧書きで「当該払戻し等が法第24条第1項第4号に規定する資本の払戻しである場合において、当該計算した金額が当該払戻し等により減少した資本剰余金の額を超えるときは、その超える部分の金額を控除した金額(下線筆者)」という限定を付すことで、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることを防止している。上記〔表〕の例では、払戻等の直前資本金等の額が2,000と計算されたとしても、それは、減少資本剰余金の額を1,000上回っているので、結果的に払戻等の直前資本金等の額は1,000と計算されることになる。 ❷ 種類株式を発行している場合 資本の払戻しを行った法人が2以上の種類の株式を発行している場合は、資本の払戻しに係る株式の種類ごとに、種類資本金額に種類払戻割合を乗じて計算した種類株式に係る払戻対応種類資本金額の計算において、上記❶で付したのと同様の限定を付すことで、減少資本剰余金額を超える直前払戻等対応資本金額等が算出されることを防止している。 具体的には、改正法施行令23条1項4号ロ括弧書きで、「当該金額が(2)(ⅰ)又は(ⅱ)に掲げる場合の区分に応じそれぞれ(2)(ⅰ)又は(ⅱ)に定める金額を超える場合には、その超える部分の金額を控除した金額)をいう。」と定め、ここでいう(1)及び(2)について、以下のように規定している。 (※7) 法人税法施行令23条1項4号の改正と関連し、同令8条《資本金等の額》1項15号、18号、19号及び同条2項、4項、5項、6項、並びに同令9条《利益積立金額》1号、12号、13号が改正されている(詳細は前掲(※1)を参照されたい)。 ❸ 遡及調整 上述した国税庁HP『おしらせ』では、直前払戻等対応資本金額等の再計算を行った結果、過去に行った申告内容等に異動が生じ、納付税額等が過大となる株主等納税者は、国税通則法の規定に基づき所轄の税務署に更正の請求を行うことができるとしている。 ただし、更正の請求につき法定申告期限等から5年を経過している法人税又は所得税については減額更正を行うことはできないため(通則法23①本文)、留意が必要である。   4 残された課題 今回の改正は、裁判所が指摘した問題について、ピンポイントで防止する内容となっており、その範囲では異論はないものの、拙稿「“国際興業事件”を巡る5つの疑問点~プロラタ計算違法判決を生んだ根本原因~」【第1回】~【第4回】で指摘した様々な問題は依然残されたままである。最後に、それら問題を列挙し、本稿を締めくくりたい。 (※8) 東京地裁平成21年11月12日判決(平成21年(ワ)第4746号)・TAINSコード:Z999-5192。   (了)

#No. 469(掲載号)
#霞 晴久
2022/05/12

事例でわかる[事業承継対策]解決へのヒント 【第41回】「「事業承継ガイドライン」の改訂と活用」

事例でわかる[事業承継対策] 解決へのヒント 【第41回】 「「事業承継ガイドライン」の改訂と活用」   太陽グラントソントン税理士法人 (事業承継対策研究会) パートナー 税理士 西田 尚子   相談内容 私はA社の創業社長です。今年60歳になるのでそろそろ事業の承継について考えたいと思っていますが、何から始めればよいのかわかりません。知り合いから最近改訂された中小企業庁の「事業承継ガイドライン」を一度読んでみることを勧められましたが、どういった内容の資料なのでしょうか。教えてください。 ■ □ ■ □ 解 説 □ ■ □ ■ [1] 「事業承継ガイドライン」の改訂内容 (1) 改訂の背景 中小企業は、日本の企業数の約99%、従業員数の約69%を占め、地域経済・社会を支える存在です。その中小企業の円滑な事業承継は日本経済にとって極めて重要な課題であるため、中小企業庁は、関係士業団体や中小企業関係団体とともに、「事業承継協議会」を設立し、中小企業の事業承継円滑化に向けた総合的な検討を行い、その手引きとして2006年に「事業承継ガイドライン」が策定されました。 その後、親族外後継者の増加、事業承継円滑化法の施行など、中小企業の事業承継を取り巻く環境に変化が現れました。経営者の高齢化が進む中、早期に計画的な事業承継への取組みを促進することを目的として、2016年に次の3点を中心とした現在の基本構成に改訂されました。 2016年の改訂から約5年が経過し、新型コロナウイルス感染症の影響等による厳しい経営環境の中で事業承継が後回しにされる傾向もあり、経営者の高齢化はさらに進み、早期の事業承継対策は喫緊の課題となっています。こうした状況を踏まえて、前回改訂時以降に生じた変化や新たに認識された課題と対応策を反映して2022年3月に「事業承継ガイドライン(第3版)」が公表されました。 (2) 改訂のポイント ① 掲載データを最新のものに更新 各種掲載データが更新されています。また、地域や業種等による後継者不在率など新たなデータも掲載されています。 ② 新設・拡充された施策など最新の実務慣行を反映 法人版・個人版事業承継税制の特例措置、所在不明株主に関する会社法の特例、株式併合の手法などの詳細な説明が追加されています。 ③ 従業員への承継やM&Aについての説明を充実 従業員承継について、後継者の選定・育成プロセスの内容が調査データや事例も交えて充実されています。M&Aについても、2020年3月に中小企業庁が策定した「中小M&Aガイドライン」の内容を反映し、充実されています。 ④ 後継者目線に立った説明を充実 事業承継の実施時期、承継に向けた経営計画、承継後の企業の成長など、後継者に対する調査結果を踏まえ、後継者目線での説明が加えられています。   [2] 「事業承継ガイドライン(第3版)」の概要 「事業承継ガイドライン(第3版)」は、以下のような構成となっています。   [3] 具体的な活用方法 事業承継について考える際には、まずは顧問税理士への相談をお勧めします。相談を受けた顧問税理士は経営者に真摯に向き合い、対応することが求められるでしょう。例えば、次の2つの質問を経営者に持ちかけるだけで今後の方向性が定まるのではないでしょうか。 株式の承継者が子供であれば、事業承継ガイドライン54頁を、従業員であれば88頁を、承継者がいないとなれば98頁を見れば、いくつかの手法や留意点等が記載されています。これらを参考に顧問税理士は経営者へスキームを提案できるはずです。 また、財産の承継を考える際には相続税などの税負担に対する事前準備が重要です。61頁以降の事業承継に際して知っておくべき基本的な税制を確認して、どの手法を採用するかについて経営者は顧問税理士と相談しておく必要があります。 承継先が決まれば、事業承継ガイドライン31頁以降の5ステップを確認します。具体的な事業計画の策定には135頁のシートが活用できます。 事業承継の計画・実行の際には、必要に応じて金融機関や弁護士等の専門家と連携すればよいでしょう。どこに依頼すればよいのかわからない場合には、125頁以降に事業承継サポート機関の連絡先が掲載されていますので、参考としてください。   [4] 結論 「事業承継ガイドライン」は事業承継への取組み方が具体的にまとめられているので、まず事業承継を考える手始めに一読されることをお勧めします。今回の改訂では、2016年の改訂から基本的な構成に変更はありませんが、掲載データが更新され、新たな制度に関する記載内容なども充実しています。 円滑な事業承継のためには、早期に準備に取り組むことが重要です。ガイドラインでは60歳を目安とし承継対策に着手することを推奨しています。早めに顧問税理士等の専門家や事業承継支援機関に相談のうえ、事業承継プランを立てることをお勧めします。   (了)

#No. 469(掲載号)
#太陽グラントソントン税理士法人 事業承継対策研究会
2022/05/12

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第78回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第78回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也     〈Q2〉 民法上の引渡しと引渡基準 法人税法22条の2第1項の引渡しと民法上の引渡しとの関係はどのように考えるべきか。 〈A2〉 法人税法22条の2第1項の引渡しについて、民法上の引渡しと大部分において重なり合うと思われるが、完全に重なり合うわけではない。 ● ● ● 解 説 ● ● ● 法人税法22条の2第1項の引渡しそのものの意味内容については、権利確定主義あるいはそのルーツを辿ることなどにより、民法(あるいはこれを前提としているであろう商法)上の引渡しに寄せて考えることも可能である。 例えば、民法178条では、動産に関する物権の譲渡の対抗要件として引渡しという概念が用いられている。 ここでいう引渡しとは、占有権の移転(占有者が物の上に有する支配を移転すること)を意味し、具体的には次のものが含まれる。 占有権は、占有を基礎として生じる。言い換えれば、占有権は、自己のためにする意思(物を自己の利益のために所持する、すなわち自分の支配内に置くという意思)をもって物を所持することによって取得される(民法180)(我妻栄ほか『我妻・有泉コンメンタール民法 総則・物権・債権〔第6版〕』388~389頁、393~396頁、398頁(日本評論社2019)、川島武宜=川井健編『新版注釈民法(7) 物権(2)』32~44頁〔徳本鎭〕(有斐閣2007)参照)。 上記①~④は、占有(権)の取得方法ないし移転方法として民法181~184条に定められているものである。 例えば、現実の引渡しは物に対する現実的支配を移転することを意味するが、どのような場合に現実的支配の移転があったと見るべきかについては、結局、社会観念によって決めるほかなく、社会観念上、物が譲渡人の支配内から離脱して譲受人の支配内に入ったと認められればよい(舟橋諄一=徳本鎭編『新版注釈民法(6) 物権(1)』676頁〔徳本鎭〕(有斐閣1997)参照)。 よって、目的物の種類、契約内容・慣行といった個別の事情と法制度の整備やテクノロジーの進化など社会変化の影響を受けてその外延は変化しうる。 この意味で、民法上の引渡概念は、柔軟な側面を有するといえよう。 これまでも法人税基本通達でいう引渡しとは民法上の引渡しを意味するという見解が存在したように、法人税法22条の2第1項でいう目的物の引渡しは、目的物の占有の移転であり、上記①~④の4つの引渡しを包摂する概念であるという解釈が成り立ちうる。 民法における引渡しの議論は法人税法の領域においても一定の範囲で通用するのである。 もっとも、法人税法22条の2第1項の引渡しは(も)事実ないし評価的概念であって、同項は対抗要件の具備や所有権の移転(目的物が現に存在し、特定できる場合などは、まさに当事者の意思表示のみによって所有権を移転しうる。民法176)という私法上の法的効果そのものを要件として取り入れているわけではないという見方もありうる。 他方、実際問題としては特別の留保がない限り、現実の引渡しをもって所有権移転の意思表示が含まれる場合が多いこと(我妻栄〔有泉亨補訂正〕『新訂物権法 民法講義Ⅱ』189頁(岩波書店1983)参照)や、民法は物が人の事実的支配に属していると観念できる状態としての占有を占有権の基礎とし、その移転の方法として引渡しを定めていることを前提として、法人税法上の収益計上時期を決する原則規定の中に引渡概念が取り込まれたと解することは否定されない。 ただし、当事者が契約において何らかの具体的事実の発生をもって引渡しがあったものとする旨を定めた場合に、その発生をもってそのまま法人税法上の引渡要件を満たすことになるかという点は論点となりえよう。また、法人税法上の収益の計上時期の基準について、権利確定主義を標榜するとしても必ずしも法的側面に拘泥する態度が堅守されてきたわけではないことにも留意が必要である。 もう少し精緻な検討を行う余地はあるが、この意味で、法人税法22条の2第1項の引渡しについて、民法上の引渡しと大部分において重なり合うといえるとしても、一寸のズレもなく完全に重なり合うと結論付けることは躊躇される。 ここでは、次の点も指摘しておく。 少なくとも、法人税法22条の2第1項の引渡しとは、企業会計や実務慣行(商慣行)なども考慮した柔軟性・弾力性を兼ね備えた引渡しであると解する立場からは、同項の引渡しを民法上の引渡しと完全に同義のものであると解する論理必然性もない。   (了)

#No. 469(掲載号)
#泉 絢也
2022/05/12

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第36回】「未分割財産に居住していた者が被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した場合の特定居住用宅地等の特例の適用の可否」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第36回】 「未分割財産に居住していた者が被相続人の居住の用に供されていた宅地等を取得した場合の特定居住用宅地等の特例の適用の可否」   税理士 柴田 健次   [Q] 被相続人である甲(相続開始日:令和4年5月7日)は、東京都内にA土地及び家屋を所有し、相続開始の直前において1人で居住していました。甲の夫である乙は平成30年5月1日に死亡しており、乙の遺産分割協議は令和2年5月7日に成立しました。乙の相続人は配偶者である甲、長男である丙及び二男である丁の3人ですが、遺産分割協議の内容は下記の通りです。 〈乙の遺産分割協議の内容〉 甲は、公正証書遺言を残しており、遺言書の内容は下記の通りです。甲の相続人は、丙と丁の2人です。 〈甲の遺言書の内容〉 A土地及び家屋は、甲及び乙の居住の用に供されていましたが、甲の相続後は、丙が取得し、丙の居住の用に供されています。 B土地及び家屋は、乙が平成10年に丙の居住用不動産として購入したものであり、令和2年に売却するまでの間は、丙の居住の用に供されていました。丙は、売却後は、第三者から賃借して東京都内のマンションに居住していましたが、A土地及び家屋を相続した後は、賃貸を解約し、A土地及び家屋に居住しています。 丙は、別居親族で未分割財産であるB土地及び家屋に居住はしていましたが、一時的な共有状態に過ぎず、最終的に換価分割により売却をしていますので、持家がない者として、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例の適用を受けることは可能でしょうか。 [A] 丙は、特定居住用宅地等に係る小規模宅地等の特例(以下、単に「特例」という)の適用を受けることはできません。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 特定居住用宅地等に係る別居親族の要件 被相続人の居住用宅地等を取得した親族が次に掲げる要件の全てを満たすことが要件となります(措法69の4③二ロ、措令40の2⑭⑮、措規23の2④)。 平成30年度の税制改正により、持ち家がない状況を作出して特例を受けることが問題となり、下記の④の下線部部分が追加となり、⑤の要件も追加となりましたので、注意する必要があります。 なお、平成30年度の税制改正は、原則として平成30年4月1日以後の相続又は遺贈から適用されますが、平成30年4月1日から令和2年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した居住用宅地等がある場合には、改正前の要件を満たせば、特例を適用することができる経過措置があります(附則118②)。   2 未分割財産の取扱い 相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継し、相続人が数人あるときは、相続財産は、その共有に属する(民法896、898)とされていますので、遺産分割が成立するまでの間は、相続人の共有財産となります。 したがって、乙の相続開始の時から遺産分割が成立するまでの間は、乙の相続人である甲、丙及び丁の3人の共有財産となり、丙はB土地及び家屋を、乙の相続開始の時から共有者として所有していたことになります。   3 裁判事例 平成15年8月29日の東京地裁判決(TAINSコード:Z253-9422)は、相続開始前3年以内に未分割財産に居住していた者について特例の適用の可否が争われた事件です。当該事件は、平成30年度の税制改正前である平成10年の相続開始の事案で、「3年以内にその者又はその者の配偶者の所有する家屋に居住したことがない者」の要件が充足されているかどうかが問題となりました。 納税者が「法69条の3第2項2号ロ所定の『その者又はその者の配偶者の所有する家屋(・・省略・・)に居住したことがない者』とは、単に、その者又はその者の配偶者の所有する家屋に居住したことがない者ではなく、その者又はその者の配偶者の所有する家屋にその所有権を行使して居住したことがない者をいうと解すべきである。」という主張をしたのに対して、裁判所では下記のとおり、判示しました。   4 本問への当てはめ 本問の場合には、上記1④の「相続開始前3年以内に日本国内にある当該親族、当該親族の配偶者、当該親族の三親等内の親族又は当該親族と特別の関係がある一定の法人が所有する家屋(相続開始の直前において被相続人の居住の用に供されていた家屋を除く)に居住したことがないこと」の要件が問題となります。所有する家屋の範囲に未分割財産が含まれるかどうかが問題となりますが、上記2に記載の通り、未分割財産は、相続人の共有財産として取り扱われますので、丙がB土地及び家屋を所有し、居住していたことになります。 また、上記3の東京地裁の判示内容から考えても同様の解釈になります。 したがって、上記の要件を充足しないことになりますので、丙は特例の適用を受けることができません。 なお、本問の場合のように乙の相続開始の直前において持家を有していなかった丙が甲の相続後にA土地及び家屋を取得し居住する場合には、居住の継続の保護という特例の趣旨から特例を認めるべきとの考えもあるかと思いますが、あくまでも法律上の要件を充足した場合に限り、特例は認められるべきものとなり、通達等においての緩和措置もありませんので、特例の適用を受けることはできないことになります。   ★実務上のポイント★ 居住の継続という特例の趣旨だけで特例の適否は判断できませんので、1つ1つの要件を確認することが重要となります。相続税の申告の際に相続人等からお預かりする通常の資料だけでは、特例の適否の判断ができないことも少なくありませんので、相続人等からヒアリングをして要件をしっかりと確認することが重要となります。   (了)

#No. 469(掲載号)
#柴田 健次
2022/05/12

〔顧問先を税務トラブルから救う〕不服申立ての実務 【第13回】「証拠書類の閲覧謄写の活用」

〔顧問先を税務トラブルから救う〕 不服申立ての実務 【第13回】 「証拠書類の閲覧謄写の活用」   公認会計士・税理士 大橋 誠一   1 閲覧謄写範囲の拡大 (1) 国税通則法の改正 行政不服審査法の改正に伴い、国税の不服申立ての規定も歩調を合わせるように改正され、平成28年4月1日以後に行われた原処分から現行の規定が適用されている。この改正前後における証拠書類の閲覧謄写に関する規定を確認していきたい。 (2) 改正前後の規定 〈改正前の規定〉 〈改正後の規定〉 (※) 下線部筆者。 (3) 改正前後の比較 改正前は原処分庁が任意で提出した証拠のみが開示対象であったため、かつては、原処分庁が提出する証拠を最小限に抑制して開示対象を狭め、担当審判官による職権調査時に前広に開示することで、できるだけ原処分の維持を図ろうとする原処分庁側の慣行があったようだが、改正後はその垣根が外されている。 しかし、改正後においても「質問調書(国税通則法第97条第1項第1号を参照)」が開示対象外となっており、国税不服審判所が判断に用いる全ての証拠が開示されているとはいえない。 ちなみに、改正前は閲覧しか認められていなかったため、閲覧書類を閲覧者がひたすらに引き写すというにわかには措信しがたい実務が行われていたが、現在は写しの交付も許可されている。   2 担当審判官が収集した物件 新たに閲覧謄写が認められた担当審判官が原処分庁から収集した物件(国税通則法第97条第1項第2号を参照)は、以下のものが典型である。 このうち、①には、例えば、以下の書類が考えられる。 このほかに、以下の資料も存在するが、国税不服審判所は原処分庁の主張に拘束されずに判断する機関であることから、担当審判官が職権調査の現場で確認することはあっても、収集して留め置く例はあまりないものと思われる。 また、②については繊細な問題を孕んでいる。書類を提出した関係人からすると、「国税不服審判所の内部限りであれば提出に協力するが、審理関係人から閲覧請求される可能性があるとなれば、審査請求人とのこれまでの関係から提出の協力をためらう」というケースが考えられ、担当審判官による職権による証拠の収集そのものに支障を来す可能性がある。   3 閲覧請求の実務 (1) 閲覧等の請求書の提出 閲覧謄写を求める場合には、審査請求書の提出時から審理手続の終結時の前までに以下の様式の請求書を提出することになる。 (出典) 国税不服審判所「提出書類一覧」 なお、閲覧を請求するといっても、どのような証拠を担当審判官が保管しているかわからないことが通常であり、請求書の提出後に、担当審判官から目録(タイトルや提出者などが記載されている)の提供を受けて、これを基に閲覧を求める証拠の特定を行うことになる。 (2) 提出人の意見聴取 閲覧等の請求書を提出してから閲覧が実現するまでには概ね1ヶ月程度の期間を要している。閲覧を希望した書類を担当審判官に提出した者に対して について、意見を聴く機会を設けなければならないからである。 国税不服審判所は1ヶ月の流れを以下のように想定している。 例えば、審査請求人が上記2①の調査経過記録書の閲覧を求め、担当審判官もそれを収集していた場合、それを提出(作成)した原処分庁に対して、マスキングを求める範囲について意見を聴くことになり、その意見を踏まえて、担当審判官が同じ合議体に属する参加審判官や法規審査担当者と協議して最終的なマスキングの範囲(例えば、反面調査先や調査ノウハウに関する記載など)を決定して、その部分を黒塗りして審査請求人に開示することになる。 (3) 閲覧当日 日時の指定権は担当審判官にあるが、審査請求人又は代理人の都合はできる限り尊重される。当初閲覧のみを希望していた場合でも、閲覧後に写しの交付を求めることもできる。また、閲覧時にデジタルカメラ(スマートフォン)による撮影も認められる。 写しの交付を求める際は1枚10円の手数料を収入印紙で納付することになるが、事案を所管する国税不服審判所の徒歩圏内に郵便局があり、かつその郵便局が小規模で10円の収入印紙を取り扱っているか否かは定かではない。後日の納付となれば閲覧当日に写しの交付が受けられない可能性もあるため、注意が必要である。   4 今後の主張立証活動 証拠書類の閲覧謄写によって、原処分庁が原処分に及んだ根拠に係る「情報の非対称性」はそれなりに解消され、原処分庁の主張に対する反論やそれを裏付ける新たな証拠の提出がより的確に可能になると考えられる。 前述のとおり、閲覧請求は実現するまでに最低でも1ヶ月程度かかるため、当初から請求を希望する場合には、早期に(例えば、原処分庁からの答弁書を確認した段階で)請求書を提出しておき、その後は、担当審判官が職権で収集した資料を電話等で問い合わせて追加の請求をすべきか否かを検討すると良いだろう。 (了)

#No. 469(掲載号)
#大橋 誠一
2022/05/12

さっと読める! 実務必須の[重要税務判例] 【第75回】「阪神・淡路大震災事件」~最判平成17年4月14日(民集59巻3号491頁)~

さっと読める! 実務必須の [重要税務判例] 【第75回】 「阪神・淡路大震災事件」 ~最判平成17年4月14日(民集59巻3号491頁)~   弁護士 菊田 雅裕   (了)

#No. 469(掲載号)
#菊田 雅裕
2022/05/12

〔まとめて確認〕会計情報の月次速報解説 【2022年4月】

〔まとめて確認〕 会計情報の月次速報解説 【2022年4月】   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022年4月1日から4月30日までに公開した速報解説のポイントについて、改めて紹介する。 具体的な内容は、該当する速報解説をお読みいただきたい。   Ⅱ 『経団連ひな型』が一部改訂 日本経済団体連合会 経済法規委員会企画部会は、「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型」(改訂版)の一部改訂を行っている。 改訂点は次のとおりである。   Ⅲ 新会計基準関係 企業会計基準委員会から次のものが公表されている。 ① 「企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)「法人税、住民税及び事業税等に関する会計基準(案)」等」(内容:税金費用の計上区分(その他の包括利益に対する課税)、グループ法人税制が適用される場合の子会社株式等(子会社株式又は関連会社株式)の売却に係る税効果の取扱いを示す) また、日本公認会計士協会から次のものが公表されている。 ② 「会計制度委員会報告第4号「外貨建取引等の会計処理に関する実務指針」、同7号「連結財務諸表における資本連結手続に関する実務指針」、同9号「持分法会計に関する実務指針」、同14号「金融商品会計に関する実務指針」及び金融商品会計に関するQ&Aの改正について(公開草案)」(内容:上記の企業会計基準公開草案第71号(企業会計基準第27号の改正案)を受けたもの)   Ⅳ 監査法人等の監査関係 監査法人及び公認会計士の実施する監査に関連して、次のものが公表されている。 ① 「2022年3月期監査上の留意事項(ウクライナをめぐる現下の国際情勢を踏まえた監査上の対応について)」(内容:ウクライナをめぐる国際情勢に関連して、監査上の留意事項を示す) ②「監査基準委員会研究報告第1号「監査ツール」の改正について」(公開草案)(内容:監査基準委員会報告書315「重要な虚偽表示リスクの識別と評価」及び同540「会計上の見積りの監査」の改正等に対応するもの)   Ⅴ 監査役等の監査関係 日本監査役協会は、「改正公益通報者保護法施行に当たっての監査役等としての留意点-公益通報対応業務従事者制度との関係を中心に-」を公表している。 これは、2022年6月1日に、公益通報者保護法の一部を改正する法律が施行されることから、監査役等としての留意点をまとめたものである。 (了)

#No. 469(掲載号)
#阿部 光成
2022/05/12

ハラスメント発覚から紛争解決までの企業対応 【第26回】「新入社員に対するハラスメントにおける注意点」

ハラスメント発覚から紛争解決までの 企 業 対 応 【第26回】 「新入社員に対するハラスメントにおける注意点」   弁護士 柳田 忍   【Question】 新入社員が入社し、4月から勤務していますが、新入社員の1人から、指導担当からパワハラを受けていると相談を受けました。そこで、当該指導担当の部下数人に対してヒアリングを行ったところ、皆「当該指導担当からパワハラを受けたことはないし、当該指導担当が他の社員にパワハラをしているところを見たこともない」と回答したのですが、そのうち1人の社員が「自分は指導担当の言動をパワハラだと思ったことはないが、新入社員であればパワハラだと思うかもしれない」と述べました。 ある言動について、一般社員との関係ではパワハラにならないが、新入社員との関係ではパワハラになるということはあるのでしょうか。 【Answer】 同じ言動をしたとしても、相手によってパワハラに該当するか否かの判断が変わる可能性があります。 パワハラやセクハラの判断に際しては、「新入社員」などの労働者の属性も考慮されるため、業務や職場環境に不慣れで社会人生活に対して不安を抱えているであろう新入社員への言動については、よりハラスメントであると評価されやすいという側面があると考えられます。 ● ● ● 解 説 ● ● ●   1 ハラスメントの定義と新入社員 上記の質問について、まず、ハラスメントの定義上、新入社員であること等の労働者の属性を考慮することが想定されているかどうかというアプローチで検討する。 (1) パワハラについて パワハラについては、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(パワハラ指針・令和2年1月15日厚生労働省告示第5号)において、以下のとおり定義されている(赤字・下線は筆者による)。 まず、②については、「労働者の属性」が考慮要素とされていることから、新入社員であるといった属性も考慮されると思われる。 ③の「平均的な労働者」については、これがおよそ一般の平均的な労働者を指すのか、類似の属性を有する労働者の中における「平均的」な労働者を指すのかという点が問題となり得る。 この点、上記のとおり、パワハラ指針が「平均的な労働者」を「社会一般の労働者」と言い換えていること、また、厚生労働省の労働政策審議会雇用環境・均等分科会において、パワハラ指針作成等に向けて議論がなされる中で、「パワハラの定義について、労働者の平均的な感じ方といったものをベースにしまして、多くの人が明らかにパワハラではないかという案件に限定しないと、業務上の必要な指導がパワハラと受けとめられる可能性がある」といった指摘がなされていることに照らすと(同分科会議事録(第8回・平成30年10月17日))、およそ一般の平均的な労働者を指すことが想定されているものと思われる。 もっとも、同分科会においては、平均的な労働者の感じ方と一緒に被害者の認識も考慮すべきであるといった主張もなされており(同分科会議事録(第11回・平成30年11月19日及び第12回・同年12月7日))、また、令和元年5月28日付の参議院厚生労働委員会の「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律案に対する附帯決議」において、「パワーハラスメントの判断に際しては、『平均的な労働者の感じ方』を基準としつつ、『労働者の主観』にも配慮すること」とされていることから、③の判断に当たっても労働者の主観が考慮されるものと解するべきである。 よって、③の判断に当たっても、新入社員であるという属性は、労働者の主観として考慮されるものと思われる。 (2) セクハラについて 職場におけるセクハラとは、「職場」において行われる「労働者」の意に反する「性的な言動」に対する労働者の対応によりその労働者が労働条件について不利益を受けたり(対価型)、「性的な言動」により就業環境が害されたりする(環境型)ことであり「改正雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律の施行について」(平成18年10月11日雇児発第1011002号)においては、以下のように考えられている(下線は筆者による)。 上記のパワハラの定義に関する議論に照らすと、セクハラにおける「平均的な女性労働者」や「平均的な男性労働者」についても、およそ社会一般の平均的な女性労働者や男性労働者が想定されていると思われるが、上記のとおり「労働者の主観を重視しつつも」と明記されていることから、新入社員である属性は「労働者の主観」として考慮されるものと思われる。 もっとも、ある言動について性的な不快感を覚えるかどうかは平均的な新入社員とおよそ一般の平均的な女性労働者・男性労働者とでさほど差はないと思われることから、新入社員という属性がセクハラ該当性の判断に対して与える影響は大きくはないであろう。   2 新入社員に対するハラスメントと裁判例 次に、裁判例をベースに上記質問を検討する。 新入社員Aが、連日の長時間労働や、上司Y2からのパワハラにより精神障害を発症し、自殺するに至ったとして、遺族が会社Y1及び上司Y2に対して損害賠償を求めて訴訟を提起したケースにおいて、裁判所は以下のとおり損害賠償請求を認容した(岡山県貨物運送事件(仙台高判平成26年6月27日・労判1100号26頁))。 上記の判断に照らすと、裁判例においても、ハラスメントの判断に際して新入社員という属性が考慮されていると考えられる。 また、上記裁判例の判断に照らすと、ハラスメントの観点から新入社員との関係で気をつけるべき点は以下のとおりであるといえる。   3 まとめ 「新入社員に対しては、一般社員に対するよりも優しく接しなければならないのではないか」と漠然と感じている方は多いだろうが、本稿においては、ハラスメントの判断の際に新入社員であることが考慮されることを法的な見地から説明したものである。上記を参考に、新入社員とのコミュニケーションは慎重に行うべきであろう。 (了)

#No. 469(掲載号)
#柳田 忍
2022/05/12
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