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〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第37回】「新たに貸付事業の用に供された宅地等の判定(貸付事業用宅地等の判定)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第37回】 「新たに貸付事業の用に供された宅地等の判定 (貸付事業用宅地等の判定)」   税理士 柴田 健次   [Q] 平成30年度税制改正により、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で相続開始前3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等(相続開始の日まで3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の当該貸付事業の用に供されたものを除く)」が除かれることになりましたが、次に掲げるA宅地からF宅地のうち、3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するものを教えてください。 [A] A宅地及びE宅地が「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。なお、被相続人が相続開始の日まで3年を超えて引き続き租税特別措置法施行令40条の2第19項で定める貸付事業(以下「特定貸付事業」という)を行っていた場合には、A宅地及びE宅地も貸付事業用宅地等の対象となる宅地等から除かれないことになります。 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」の基本的な考え方は、本連載【第9回】の「新たに事業の用に供された宅地等の判定」と同様になります。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 平成30年度税制改正により除外される貸付事業用宅地等 平成30年度税制改正により、相続開始直前に賃貸用不動産の購入などをして金融資産を不動産に変換し、小規模宅地等の特例を適用する節税手法を防止するため、貸付事業用宅地等の範囲から、被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等で、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地等を除くこととされました。 ただし、相続開始前3年を超えて引き続き特定貸付事業を行っていた被相続人等の貸付事業の用に供されたものは、相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供されたものであっても、その範囲から除かれないこととされました(措法69の4③四、措令40の2⑲)。 特定貸付事業とは、貸付事業のうち、準事業(事業と称するに至らない不動産の貸付けその他これに類する行為で相当の対価を得て継続的に行うもの)以外のものをいいます(措令40の2①⑲)が、特定貸付事業の判定については、次回(【第38回】)解説します。 上記の取扱いは、原則として平成30年4月1日以後に相続又は遺贈により取得する小規模宅地等に係る相続税について適用されますが、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に相続又は遺贈により取得した宅地等については、平成30年4月1日以後に新たに貸付事業の用に供されたものについて適用する経過措置が設けられています(附則118④、措通69の4-24の8)。 したがって、平成30年4月1日以後に新たに貸付事業の用に供された宅地等から適用され、同日前に新たに貸付事業の用に供された宅地等については適用されませんので、改正前の要件のみ確認することになります。   2 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」の範囲 「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは、次に掲げる宅地等が貸付事業の用に供された場合のその宅地等をいうとされています(措通69の4-24の3)。 上記の判定の具体的な注意点については、それぞれ下記の通りとなります。 (1) 貸付事業の用以外の用に供されていた宅地等 貸付事業の用以外の用から貸付事業の用に供された場合には、当然に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。したがって、居住用宅地等又は貸付事業以外の事業用宅地等を貸付事業の用に供した場合には、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。 なお、貸付事業用宅地等は、被相続人又は生計一親族の貸付事業の用に供されていた宅地等がその対象とされていますが、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するかどうかの判定は、被相続人又は生計一親族のそれぞれの利用状況により行うことになります。したがって、被相続人にとって「新たに貸付事業の用に供された宅地等」であるかどうか、生計一親族にとって「新たに貸付事業の用に供された宅地等」であるかが問題になります。 本問のA宅地のように被相続人の貸付事業を廃止した上で生計一親族の貸付事業の用に供した場合には、生計一親族にとっては「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。ただし、被相続人が相続開始前3年以内に開始した相続又はその相続に係る遺贈により貸付事業の用に供されていた宅地等を取得し、かつ、その取得の日以後その宅地等を引き続き貸付事業の用に供していた場合におけるその宅地等については、この「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないこととされています(措令40の2⑨⑳)。 したがって、B宅地は被相続人の父から相続により承継していますが、父の相続時点においては「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは考えず、父の貸付事業開始時点まで遡って3年の判定を行うことになります。 (2) 宅地等若しくはその上にある建物等につき「何らの利用がされていない場合」の宅地等 被相続人が所有する未利用の宅地を被相続人又は生計一親族が貸付事業の用に供した場合には、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。一方で次に掲げる場合のように、貸付事業に係る建物等が一時的に賃貸されていなかったと認められるときには、その建物等に係る宅地等は、上記の「何らの利用がされていない場合」の宅地等に該当しないことになりますので、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」とは考えません。 上記の取扱いにより「何らの利用がされていない場合」の宅地等に該当しないことになった場合の新たに貸付事業の用に供された時は、上記の退去前、建替え前又は休業前の賃貸に係る貸付事業の用に供された時となります。 本問のC宅地のように2年前に建替えが行われた場合には、一時的に賃貸されていなかったと考えられますので、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。これに対して、E宅地については、D宅地及びその建物の売却代金で貸付事業を行っていたとしても、貸付事業を行っている場所が異なるため被相続人にとって、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当することになります。 なお、被相続人等の事業の用に供されている建物等の移転又は建替えのためその建物等を取り壊し、又は譲渡し、これらの建物等に代わるべき建物等の建築中に、又はその建物等の取得後被相続人等が事業の用に供する前に被相続人について相続が開始した場合については、租税特別措置法関係通達69の4-5(事業用建物等の建築中等に相続が開始した場合)の救済措置がありますが、その救済措置が移転又は建替えが対象になるのに対して、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」の判定では、上記の通り、移転と建替えでは、取扱いが異なる点については注意する必要があります。 本問のF宅地のように2年前の台風被害については、一時的に賃貸されていなかったと考えられますので、「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当しないことになります。なお、本問のF宅地が仮に相続税の申告期限において台風被害のために貸付事業を一時的に休業した場合には、租税特別措置法関係通達69の4―17(災害のため事業が休止された場合)の救済措置があります。   ★実務上のポイント★ 相続開始の直前において、被相続人又は生計一親族の貸付事業の用に供された宅地等がある場合には、その貸付事業が3年以内に「新たに貸付事業の用に供された宅地等」に該当するかどうか、相続人等からヒアリングをすることが重要となります。   (了)

#No. 470(掲載号)
#柴田 健次
2022/05/19

マスクと管理会計~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第4回】「在庫の管理、このままでいい?」

マスクと管理会計 ~コロナ長期化で常識は変わるか?~ 【第4回】 「在庫の管理、このままでいい?」   公認会計士 石王丸 香菜子   〔登場人物〕 ●  ●  ● 「消費者ニーズの多様化」というキーワードを頻繁に見聞きしますが、新型コロナウイルス感染症の流行はこの流れを加速させたようです。 ライフスタイルや行動、意識などが大きく変化した人もいれば、従前と大きな変化のない人もいます。また、デジタル化やオンライン化が進展する一方で、リアルな体験や直接のコミュニケーションの重要性が再認識されるような場面もあります。 消費者のニーズは、こうした様々な違いを反映して一層多様化しています。消費者ニーズの多様化に合わせ、企業の扱う商品のアイテム数も増加する傾向があります。 ●  ●  ● ●  ●  ● アイテム数が増えると、なかなか販売されずに滞留するアイテムが出てくることもあります。また、消費者ニーズが変化し、売れ筋商品から外れてしまうアイテムが生じることもあります。こうした状況では、在庫の滞留を防ぐ管理が重要です。 ●  ●  ● ●  ●  ● 以前から利用されてきた在庫管理の指標の1つに、「在庫回転期間」があります。 在庫回転期間が長いほど、在庫がなかなか販売されずに企業にとどまっていることを意味します。 アイテム数が多い状況では、在庫全体ではなくアイテムごとに在庫回転期間を把握し、早めに滞留を防ぐことが有効です。回転期間の単位に決まりはありませんが、日数や月数ベースにすると管理を担当する人がイメージしやすいようです。 また、滞留在庫に関する具体的なルールを設けて運用する方法も効果的です。「半年以上滞留しているアイテムは特売品として販売する」「3ヶ月以上注文がないアイテムは、今後は取り寄せ品扱いとする」などのルールがあれば、長期滞留を防ぎやすくなります。 ただし、補修のための在庫などは長期的に保有せざるを得ないので、アイテムの性質なども考慮するとよいですね。 ●  ●  ● ●  ●  ● アイテム数の多い在庫について、メリハリをつけて効率的に管理する方法として、「ABC分析」という方法が広く利用されています。ABC分析とは、データを重要度に基づいてA・B・Cの3グループに分類する方法です。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ●  ●  ● ●  ●  ● 上記の例では在庫金額を基準として重要度のグループ分けをしましたが、各アイテムの売上高や利益を基準としてグループ分けを行うことも考えられます。自社の状況に合わせて分析してみましょう。 ●  ●  ● ●  ●  ● 管理会計では、複数の案がある場合に各案の損益を比較して意思決定を行う方法が利用されています。部品を自製するか外注するかといった業務的意思決定は、その一例です(「ファーストステップ管理会計」【第12回】参照)。 意思決定会計の考え方は合理的ですが、損益面しか捕捉していないことが弱みとなる可能性があります。 ●  ●  ● ●  ●  ● 新型コロナウイルス感染症の流行によって、思いがけない様々な影響が多くの企業で生じました。その1つとして、部品や材料の入荷が大幅に遅延したり、それらが調達できなくなったりする事例が挙げられます。こうした事態が起こるリスクは、損益面のみを考える意思決定会計では取り込むことができません。 先行きが不透明な現状では、部品などの調達方針や保有方針を検討する際に、こうしたリスクも考慮する必要性が高まっています。意思決定会計で得られる情報に加えて、例えば、「部品が調達できなくなる可能性」と「その部品の自社における重要性」に着目してリスクに備える方針を取ることなどが想定できます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 ●  ●  ● (了)

#No. 470(掲載号)
#石王丸 香菜子
2022/05/19

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第125回】株式会社ジー・スリーホールディングス「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2022年1月28日付)」

〔会計不正調査報告書を読む〕 【第125回】 株式会社ジー・スリーホールディングス 「特別調査委員会調査報告書(公表版)(2022年1月28日付)」   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   【株式会社ジー・スリーホールディングス特別調査委員会の概要】   【株式会社ジー・スリーホールディングスの概要】 株式会社ジー・スリーホールディングス(以下「G3」と略称する)は、2000年5月に設立した株式会社コネクトテクノロジーズを母体として、2011年3月に純粋持株会社として設立した株式会社コネクトホールディングスを、2016年1月に商号変更したものである。事業内容は、グループ経営管理、再生可能エネルギー事業、新規エネルギー事業及びサスティナブル事業。売上高は3,309百万円、経常利益168百万円、資本金1,062百万円、従業員数20名(いずれも2021年8月期連結実績)。本社所在地は東京都品川区。東京証券取引所スタンダード市場上場。会計監査人は赤坂有限責人監査法人。   【調査報告書の概要】 1 特別調査委員会設置の経緯 G3は、外部機関から、過去に関東財務局長に提出した有価証券報告書及び四半期報告書に関し、一部適正性に疑義がある旨の指摘を受けたことから、2017年8月期以降の取引の売上計上時期の適正性等について検討したところ、2017年8月期に計上した未稼働太陽光発電所(伊勢志摩案件)の権利売却による売上2億8,000万円について、2019年8月期に計上することが適切であった疑いが浮上するなど、会計処理が適切だったとはいい難い取引が複数存在することがうかがわれた。 そこで、G3は、外部機関から指摘を受けた案件等に係る事実関係を調査するために、法律・会計の専門家で構成される特別調査委員会による専門的かつ客観的な調査が必要であると判断し、2021年11月10日開催の取締役会において、当委員会の設置を決議した。 2 調査対象となった案件 特別調査委員会が調査対象とした案件は、調査の契機となった伊勢志摩案件を含む4件の太陽光発電事業に係る権利関係の譲渡契約及び3件の持分譲渡契約に係る案件(これら7案件はいずれも太陽光発電事業に関するものである)に加えて、「つけまつげ案件/永九能源案件」と略称されているつけまつげの販売及び株式譲渡に係る業務委託契約である。 3 調査結果の概要 特別調査委員会は、調査対象となった8案件について、以下のような判断を示した(赤網掛け部分は、特別調査委員会が不適切な会計処理であると判断した案件)。 4 原因論(調査報告書67ページ以下) 特別調査委員会による原因分析は、次の4項目に分けて論じられている。 本稿では、とくに「太陽光発電事業の聖域化」と「コーポレート・ガバナンスの機能不全」に注目して、委員会の分析を検証したい。まず、「太陽光発電事業の聖域化」に関する原因分析についての項目は次のとおりである。 次いで、「コーポレート・ガバナンスの機能不全」に関する分析項目を挙げる。 これらの原因分析の中で、特別調査委員会が結語としているのが、G3経営陣が、現商号変更前の2015年10月26日に、当時の第三者委員会から受領した調査報告書の中で提言「機能不全に陥ったコーポレート・ガバナンスの回復」を受けて策定・導入されたはずの再発防止策を安易に緩和・変容し、あるいは重視しなくなった結果、コーポレート・ガバナンスが機能不全に陥ってしまい、不適切な会計処理の発生を許したという分析である。そして、特別調査委員会は、今回の不適切な会計処理が誰か特定の個人の行為のみによって生じたと即断することは実態にそぐわず、G3の複数の役職員が積極的あるいは消極的にそれぞれ関わり合ったために生じた問題であると捉えるべきであると締め括っている。 5 経営改善に向けた提言(調査報告書77ページ以下) 特別調査委員会は、提言を「コーポレート・ガバナンスの更なる改革」と「業務提携先との関係整備」との2つの側面から論じている。本稿では、特別調査委員会が「機能不全」と評した、「コーポレート・ガバナンス」に関する更なる改革の提言項目を見ておきたい。 監査等委員である取締役3名は、2名が公認会計士資格を、残る1名が弁護士資格を有していたが、いずれも非常勤であったこともあるのか、不適切な会計処理に気づくことはなかった。特別調査委員会は、「監査等委員会の実効性が失われていた」という原因論に基づく経営改善策として、「社外取締役には、経営、法務、会計などのスキルに基づく気づきを業務執行の適正化に活かすことのできる人材がふさわしい」ことから、「取締役会や監査等委員会において積極的に発言、意見交換ができる資質や、的確なリスク分析をしてそのリスクにあった施策を選択できる能力や資質を有する者を社外取締役として選任することが肝要である」と、提言を締め括っている。   【調査報告書の特徴】 本調査報告書の特徴を2つ挙げるとすれば、①長い調査期間(約2ヶ月半)、②前回調査時の第三者委員会委員長が再び特別調査委員会委員長に就任していることであろう。本調査報告書末尾にある「最後に」という文章には、2015年10月に受け容れられたはずの経営改善の提言に基づく再発防止策が骨抜きにされていたのみならず、前回調査時と同じ類型の不正を調査することになった、委員長の無念さがにじみ出ているように感じられるので、引用したい。 なお、「特別損失の計上及び通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」によれば、特別調査委員会による調査費用及び過年度決算の訂正に要する費用等として2022年8月期に特別損失に計上する金額は、概算額で500百万円であるとのことである。 1 会計監査人に対する虚偽説明 会計不正事案にもかかわらず、会計監査人に対するインタビューを行っていない調査委員会が目立つ中、G3特別調査委員会は、過去3代にわたるG3の会計監査人に対するインタビューを行っているようである。その中で、発覚したのが、特別調査委員会が、子会社に対する売上であり、連結内取引であると判断した「伊勢志摩案件」に関して、当時の会計監査人であった監査法人ハイビスカス(報告書上の表記は「X26」)に対し、誤った、又は虚偽の情報を提供して、2017年8月期第3四半期に売上を計上することに対する承認を得ていたという疑惑である。同監査法人の担当者によれば、当時、G3からは、G3がそれまで有していたX3社の持分を譲渡した相手先であるX22一般社団法人については、X13社が主導するために資金拠出して設立した一般社団法人であるとの情報が提供されていたということであった。 特別調査委員会は、調査の結果、X22一般社団法人の意思決定には登記上の職務執行者は関与しておらず、X3社の資金調達の大部分は、G3によって拠出されており、G3はX3社の財務及び営業又は事業の方針を決定していたことから、当時の会計監査人に提供した情報は誤ったものであり、X3社は、子会社に該当するという判断を示したものである。 2 取締役の退任・辞任 G3は、2022年4月14日、「監査等委員である取締役の辞任及び後任人事に関するお知らせ」をリリースして、2016年11月から監査等委員である取締役に就任していた松山昌司氏及び本間周平氏が、2022年5月20日開催予定の臨時株主総会終結の時をもって退任すること及び後任人事を公表した。 また、2022年4月19日には、「取締役の辞任に関するお知らせ」をリリースして、取締役松本隆氏が、一身上の都合により、同年4月30日付で取締役を辞任することを公表した。 3 会計監査人の異動 G3は、2022年2月18日、「会計監査人の異動及び金融商品取引法監査の監査証明を行う公認会計士等の選任に関するお知らせ」をリリースして、会計監査人である赤坂有限責任監査法人から退任の申出があり、監査法人アリアを公認会計士等として選任したことを公表した。 G3は、その後、2022年4月12日には、「一時会計監査人の選任に関するお知らせ」をリリースして、赤坂有限責任監査法人の会計監査業務終了に伴い、監査法人アリアを一時会計監査人として選任したことを公表している。 なお、公表されている有価証券報告書で確認したところ、G3の過年度における会計監査人の推移は、次のとおりである。 4 G3による再発防止策 2022年3月16日、G3は、「再発防止策に関するお知らせ」を公表した。その内容は次のとおりであり、概ね、特別調査委員会の提言内容に沿った形でまとめられている。 なお、同リリースでは、「関係者の責任等について」という項目を設けて、G3は、「責任の所在の明確化も再発防止の一環をなすものと考え、不適切な会計処理に関与した役職員への責任追及や社内処分を行う方針」に基づき、「客観的な判断を行うべく、法的責任の有無の判定を外部法律事務所へ委任」していることも公表しているが、本稿執筆時点において、前代表取締役社長をはじめとする関与した役職員の責任追及に関するリリースは公表されていない。 5 東京証券取引所による特設注意銘柄指定 2022年3月31日、東京証券取引所は、「特設注意市場銘柄の指定及び上場契約違約金の徴求について」というリリースを発出して、G3に対して、①2022年4月1日(金)付での特設注意市場銘柄指定、②上場契約違約金2,880万円の徴求を公表した。 日本取引所自主規制法人の審査結果に基づき、東京証券取引所が認定した「上場規則に違反して虚偽と認められる開示」が行われた背景を引用しておきたい。 6 証券取引等監視委員会による課徴金納付命令勧告 2022年4月26日、証券取引等監視委員会は、「株式会社ジー・スリーホールディングスにおける有価証券報告書等の虚偽記載に係る課徴金納付命令勧告について」をリリースして、内閣総理大臣及び金融庁長官に対して、課徴金4,605万円の納付命令を発出するよう勧告を行ったことを公表した。 証券取引等監視委員会が認定した「法令違反の事実関係」は次のとおりである。 (了)

#No. 470(掲載号)
#米澤 勝
2022/05/19

給与計算の質問箱 【第29回】「65歳以上の従業員の給与計算における注意点」

給与計算の質問箱 【第29回】 「65歳以上の従業員の給与計算における注意点」   税理士・特定社会保険労務士 上前 剛   Q 当社ではAさん(67歳)とBさん(71歳)の2名を正社員として雇用する予定です。高齢者(65歳以上の従業員)の給与計算における注意点があればご教示ください。 A 社会保険料が一部徴収不要になる。また、在職老齢年金制度により年金が支給停止される場合がある。 * * 解 説 * * 1 社会保険料の徴収 (1) 労災保険 労災保険には、年齢制限はない。そもそも会社が全額負担し従業員の負担はないことから給与計算には関係しない。 (2) 雇用保険 雇用保険には、年齢制限はない。Aさん、Bさんの給料から雇用保険料を天引きする。 (3) 健康保険 会社で加入する健康保険は75歳になるまでとされている。75歳以上は後期高齢者医療制度に移行する。Aさん、Bさんともに75歳未満なので給料から健康保険料を天引きする。 (4) 介護保険 会社で加入する介護保険は40歳以上65歳未満となる(第2号被保険者)。65歳以上は原則年金からの天引きとなる(第1号被保険者)。Aさん、Bさんともに65歳以上なので給料から介護保険料を天引きしない。 (5) 厚生年金 会社で加入する厚生年金は原則として70歳になるまでとされている。例外として老齢年金の受給資格が無い場合には任意で引き続き加入することができる。Aさんは70歳未満なので給料から厚生年金保険料を天引きする。Bさんは70歳以上なので給料から厚生年金保険料を天引きしない。   2 在職老齢年金制度による年金の支給停止 基本月額と総報酬月額相当額の合計が47万円を超える場合には年金の全部又は一部が支給停止になる。 上記を踏まえ、具体例を用いて計算すると下記の通りとなる。 【具体例】 (了)

#No. 470(掲載号)
#上前 剛
2022/05/19

税理士が知っておきたい不動産鑑定評価の常識 【第29回】「間口が2mに満たない土地の価格はどのように求めるか」~無道路地との相違とは~

税理士が知っておきたい 不動産鑑定評価の常識 【第29回】 「間口が2mに満たない土地の価格はどのように求めるか」 ~無道路地との相違とは~   不動産鑑定士 黒沢 泰   1 はじめに 【第27回】では、都市計画区域及び準都市計画区域内の建築物の敷地は、建築基準法上の道路(ただし、自動車専用道路を除きます)に2m以上接していなければならないことを述べました(建築基準法における道路の定義は【第28回】に掲げたとおりです)。 しかし、なかには間口が著しく狭く、道路に接する幅が2mに満たない土地も散見されます。今回は、このような土地(=接道義務を満たさない土地)を不動産鑑定士はどのように評価しているのか解説していきます。 2 無道路地との相違 現実に存在する土地のなかには、建築基準法上の道路に全く接していないか、接していても間口が2m未満で建築可能な要件を満たしていないものがあります。前者はいわゆる無道路地であり、後者は無道路地ではないものの、土地の効用が無道路地にやや近いものと考えられます。 後者のような接道義務を満たさない宅地も建築物の建築ができないことから、このままでは資材置場や駐車場としての利用以外に活用の途はありません。 しかし、このような土地も道路に接していることは事実であり、全くの無道路地と比較すれば間口を2mに拡幅できる可能性が少しは残されているといえます。ただし、これは一般論であり、対象地や隣接地の利用状況は個々のケースで異なるため、いつでも思うように拡幅ができるというわけではありません。例えば、隣接地に建物が目一杯建築されていれば、隣接者は所有地の一部を譲ってくれない可能性が高いといえます。 このような事情を鑑みれば、相対的な比較ではありますが、接道義務を満たさない土地の価値は接道義務を満たす土地に比べて低い(減価が大きい)ものの、無道路地に比べれば高い(減価は少ない)といえます。 3 接道義務を満たさない土地の評価 接道義務を満たさない土地の評価方法については不動産鑑定評価基準に特段の定めはなく、固定資産評価基準においても然りです。なお、財産評価基本通達では接道義務を満たさない土地を無道路地と同様に扱っています。 鑑定実務では、下図のように道路に2m接すると想定した場合の路地状敷地の価格を最初に求め、この価格から接道義務を満たすために要する拡幅対象面積に相当する買収費用や工事費用を控除して求める方法を適用するのが一般的です。 【接道義務を満たさない土地】   4 理論と現実のギャップ 鑑定評価の考え方は上記のとおりですが、実際に土地買収に係る費用を検討する場合、対象地と同じ道路に面していて条件の似かよっている土地の価格をそのまま適用すれば足りるとは限りません。なぜなら、本件のような土地買収の場合、市場に供給されている売り物件とは異なり、隣接地の所有者がいつでも売却に応じてくれるかどうか予測が困難だからです。 また、隣接者が仮に売却に応じてくれたとしても、その結果が隣接者にとって残地利用に支障を来たすこととなる場合には、通常の相場ではなく、残地補償込みの価格でなければ売買が成立しないことも考えられます(隣接地所有者は土地の一部を売却することにより、使い勝手の悪い土地になってしまうこともあり得るからです)。 さらに、隣接地の所有者にとっては、もともと売却物件でない土地の一部を、接道義務を満たさない土地所有者の都合により、予期せず売却の検討をせざるを得ない状況となります。そのため、(仮に前向きな方向で交渉が進む場合であっても)買収までに要する期間も考慮に入れる必要があります。 それだけでなく、接道義務を満たさない土地の場合、同じような条件下にある土地の取引事例がきわめて少ないことから、鑑定実務で不可欠ともされる取引事例比較法の適用が実際には困難であることも事実です(仮に、このような事例が収集可能であったとしても、取引価格の中には特殊事情が含まれており規範性に欠ける場合が多いと思われます)。 このように、接道義務を満たさない土地の評価は鑑定実務においても難易度の高い部類に入るものです。   5 参考 ~財産評価基本通達では~ 財産評価基本通達では、無道路地も接道義務を満たしていない宅地も評価上の差異を設けず以下のとおり同じ考え方で行うこととしています(下線は筆者によります)。ただし、全くの無道路地と本稿で取り上げている接道義務を満たしていない宅地とは異なる部分があることから、このような措置はあくまでも申告者の評価の簡便性に配慮したものと受け止めるべきだと思われます。 (了)

#No. 470(掲載号)
#黒沢 泰
2022/05/19

〈エピソードでわかる〉M&A最前線 【第1回】「中堅・中小企業M&Aと地方創生」

〈エピソードでわかる〉 M&A最前線 【第1回】 「中堅・中小企業M&Aと地方創生」   株式会社日本M&Aセンター 常務執行役員 営業本部 副本部長 提携統括事業部 事業部長 鈴木 康之   ◆◇◆はじめに◆◇◆ 日本の中堅・中小企業は今、大変な時代に直面しています。 人口減少、少子高齢化によって、国内市場は縮小し、働き手は減少。企業を牽引する経営者の平均年齢は60.3歳となり、日本経済を支える多くの中堅・中小企業が後継者不在問題に悩んでいるという状況です。 中小企業庁の発表によると、約380万社の中堅・中小企業のうち、70歳以上の経営者が245万人で、2025年までの10年間でその半分の127万社が後継者不在によって廃業する可能性があるといわれています。127万社のうちの半分が黒字企業なので、推計60万社が黒字にもかかわらず廃業の危機にあるということです。 廃業、特に黒字廃業は、日本の経済にとって大きな損失となります。廃業によって、従業員の雇用は喪失し失業者が増えます。連綿と受け継がれてきた日本が誇る素晴らしい技術や独特で愛すべき文化が消滅してしまいます。結果、地域の活気が徐々に失われ、日本にとって取り戻すことのできない大きな損失となります。 廃業のピンチを救い、経営者から後継者不在という悩みを払拭する方法の1つがM&Aによる事業承継です。M&Aは、後継者不在問題を解決に導くだけでなく、マッチングの相手さえ間違えなければ、新しい経営体制のもとで事業の成長を加速させることもできます。売り手企業も買い手企業も成長し、業績アップで給料も増え、従業員も幸福にできます。さらに、売り手企業のオーナーは、後継者問題の悩みから解放され憂いを残すことなく経営をゆだねられることで、老後の生活も保障され安泰となります。M&Aによって後継者不在企業を救うことは、個人、企業、地域、国、どのレベルから見ても明るい未来を期待できるのです。 本連載では、今後の日本経済の発展の一端を担うM&Aについて、現場で経営者と対峙してきたコンサルタントや公認会計士が、様々な業種、業界の事例とともにM&A実務上のポイントを含めて紹介していきます。 【第1回】となる今回は、中堅・中小企業のM&Aの現状と地方創生についてお伝えします。   1 経営者にとって必須のM&Aリテラシー 筆者が所属する日本M&Aセンターは創業して31年になりますが、この約30年間で経営者のM&Aに対する認識は大きく変わりました。最近では、M&Aによる事業承継を行った経営者が、経営者仲間から称賛されるという話もよく聞くようになりました。多くの経営者が後継者不在や企業の行く末に悩み解決の糸口を探しているからこそ、M&Aによる事業承継という大きな決断をした経営者に対して、称賛の声をかけるのでしょう。 日本M&Aセンターが支援するM&Aの売り手企業は年間約1,000件でその約9割が売上20億円以下、約半分が従業員20名以下の中堅・中小企業です。大企業のM&Aばかりがマスコミに紹介されるため目立ちにくいですが、この30年間で国内の中堅・中小企業のM&Aはすっかり根付いてきたと思います。 M&Aは、正しく理解して使うことができれば、日本企業の大多数を占める中堅・中小企業の大きな味方となります。経営者がM&Aに対するリテラシーを高め、経営環境が激しく変化する時代を勝ち抜いていく。この時代を生き抜く経営者にとって、なくてはならない力となってきています。   2 拡大する中堅・中小企業のM&Aニーズ レコフM&AデータベースのM&A件数推移によると、2021年に日本企業が関わったM&Aの件数は合計4,280件と過去最多となりました。ここ5年で破竹の勢いで増加しており、M&Aは日本企業に完全に定着したといっていいと言えます。 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 (出所) レコフM&AデータベースのM&A件数推移を基に日本M&Aセンター作成 公表されていない中堅・中小企業などの非上場会社関連を含めると、実際の件数はさらに大きく増えます。前述のように、事業承継など差し迫った事情があり、中堅・中小企業によるM&A成約件数はうなぎ上りとなっています。潜在的な案件を含めると膨大な需要があると推定されます。 さらに、このコロナ禍による経営環境の変化に対応するため、M&Aによる事業承継を検討する中堅・中小企業の経営者が増加しています。 具体的には、 コロナ禍が経営者の事業承継への意識を変え、譲渡を希望する中堅・中小企業からのご相談が増えている状況です。 このように、M&Aが中堅・中小企業の経営者にとっても一般的になってきたこと、コロナ禍など経営環境の劇的な変化による先行き不安によって、M&Aニーズはここ数年で劇的に増加してきています。   3 動き出した政府の施策 中堅・中小企業のM&A熱が高まるのを背景に、政府による中小企業M&A支援・体制整備が急テンポで動き出しました。2020年に「中小M&Aガイドライン」、さらに2021年には「中小M&A推進計画」を策定したのです。前述の通り、60万社の中堅・中小企業が後継者不在により黒字廃業の危機にあるという現状が国の背中を押しています。中堅・中小企業の体質強化は、国家戦略の要です。M&Aで後継者難を解決に導き、同時に生産性を一気に引き上げて、海外企業との競争に負けない力を付けようとしているのです。 「中小M&A推進計画」では、M&A支援機関の質の担保にも触れ、M&A支援機関の登録制度が創設されました。登録を受けた機関を中堅・中小企業が利用する場合、各種の補助金を活用できます。また、2021年10月には、M&A仲介大手5社が中心となり、M&A仲介等に関わる自主規制団体を設立し、M&A支援機関の教育やレベルアップ、苦情の受付、「中小M&Aガイドライン」の徹底などを進め、中小企業が安心して支援を受けられる環境整備に努めています。 このように、中堅・中小企業の強化育成という大きな命題を達成するために、官と民がタッグを組み、M&A支援が進んでいます。このような取組みを通じて、全国の経営者にM&Aが後継者不在問題の解決方法や成長戦略の1つであることを周知しています。   4 中堅・中小企業のM&Aは会計・税務・法律の専門家による支援が不可欠 前述してきた通り、M&Aが中堅・中小企業にとって一般的になってきています。とはいえ、まだまだ馴染みのあるものではありません。M&Aについて知りたいと思った時にどこへ声を掛けたらいいか、迷う経営者も多いのが現実です。 普段から経営者に寄り添い、相談に乗られている税理士や公認会計士など専門家の方々から、M&Aが後継者不在や成長戦略などの悩みを解決する一手であることをお伝えいただくことが重要であると考えています。 M&Aの手続きの中には、法律、会計、税金、融資などの実務的な専門知識が必要となる場面が多々あります。それらは、公認会計士、税理士など専門家の力が不可欠なのです。 今の日本にとって最も重要なテーマの1つが「地方創生」です。日本M&Aセンターは、地域の企業に密着した会計事務所などと中堅・中小企業のM&Aを数多く支援させていただいています。今後も、公認会計士、税理士などの専門家の皆様と一緒に、中堅・中小企業の事業承継問題を解決すると同時に、地域経済の活性化を推進し「地方創生」を実現していきたいと考えています。 (了)

#No. 470(掲載号)
#株式会社日本M&Aセンター
2022/05/19

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」が公布される~施行は公布日(2022.5.18)より1年以内、経過措置には注意を~

《速報解説》 「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」が公布される ~施行は公布日(2022.5.18)より1年以内、経過措置には注意を~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 令和4年5月18日、「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(法律第41号)が公布された。 これは、会計監査の信頼性の確保並びに公認会計士の一層の能力発揮及び能力向上を図り、もって企業財務書類の信頼性を高めるため、上場会社等の監査に係る登録制度の導入などの措置を講ずるものである。 今回の改正にあたっては、令和4年1月4日に金融庁より公表された「金融審議会公認会計士制度部会報告」がベースになっていると思われる。 2022年5月11日、日本公認会計士協会の会長声明「公認会計士法の改正について」が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 主な内容 1 公認会計士法の一部改正 次の改正を行う。 2 金融商品取引法の一部改正 上場会社等は、その財務計算に関する書類及び内部統制報告書について、上場会社等監査人名簿に登録を受けた公認会計士又は監査法人の監査証明を受けなければならないこととする。   Ⅲ 施行期日 この法律は、公布の日から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとする(経過措置に注意する)。 (了)

#No. 469(掲載号)
#阿部 光成
2022/05/18

プロフェッションジャーナル No.469が公開されました!~今週のお薦め記事~

2022年5月12日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル  No.469を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。

#Profession Journal 編集部
2022/05/12

酒井克彦の〈深読み◆租税法〉 【第107回】「節税商品取引を巡る法律問題(その1)」

酒井克彦の 〈深読み◆租税法〉 【第107回】 「節税商品取引を巡る法律問題(その1)」   中央大学法科大学院教授・法学博士 酒井 克彦   はじめに 税理士に節税義務なるものが当然に一般的に課されているのかという素朴な疑問を出発点として、これまでいくつかの事例を基に税理士の責任を論じてきた。結論めいたことを述べるのは早計であると思われるが、税理士法1条《税理士の使命》のみから直接に節税義務なるものを導出することは難しいといわざるを得ず、個々の事案ごとで異なる、納税者と税理士との契約内容等に踏み込んで、個別に判断すべきものであるという点を指摘できよう。 もっとも、税理士の責任論を議論するのみでは、必ずしも十分とはいえない。例えば、前回取り上げた変額保険を巡っては、特に変額保険の契約者である納税者(以下「投資者」ともいう。)が想定していた節税効果を得られずに損失を被ることとなったわけであるが、そもそも、節税商品取引を巡る法律問題を整理する必要性が再確認されるべきであろう。一見すると迂遠なようにもみえるかもしれないが、そのような整理の上で、税理士の役割を考えるというアプローチも必要なのではないかと考えるのである。 そこで、今回からは、節税商品取引を巡る法律問題について焦点を当ててみたい。まずは、節税商品取引における「投資者保護」の必要性について考えてみよう。   Ⅰ 節税商品取引における「投資者保護」の必要性 以下においては、次の2点の観点から、投資者保護の必要性を明確にすることとしたい。 これら投資者保護の必要性については、第一に深刻な投資者の被害救済への対応措置としての十分な情報の提供という側面と、第二に社会基盤整備としての側面から検討すべきであると考える。 1 一般的金融商品取引と投資者保護 節税商品取引における投資者保護の検討を行う前提として、一般的な金融商品取引(以下「一般的金融商品取引」という。)において、投資者保護がいかなる意味において要請されるのかについて確認する必要があろう。 投資者保護の要請は、第一に、投資者損害の発生を視野に入れて、金融商品に対する十分な情報が提供されなければならないという局面と、第二に、取引が公正でなければならないという局面において検討する必要がある。 そもそも、投資取引における商品には、その内容を理解し投資効果を判断するのに日常的な知識だけでは不十分で、かなりの能力を要するものが多々あり、投資者損害の発生は情報の量や質の格差のみならず、情報処理能力の格差にもその原因がある。したがって、第一に、情報は投資者にとって単にアクセス可能であるにとどまらず、理解可能なものになっていなければならないという命題を導出し得る。 投資者にはリスクとリターンを適正に判断するための、商品に関する十分な情報が提供されていなければならず、そうでなければ、投資者はまったく予想外の損害を被ることとなるからである。 第二に、投資者が合理的判断に基づいて投資することができる環境をつくることが肝要である。 自己責任原則が否定されるべきでないことはいうまでもないが、しかし、責任とは、自由な判断が保障されている状況の基でなされた行為について負うべきものであり、自己責任に基づく民事ルールの確立のためには、投資判断に必要な情報が適時、適正に投資者に利用可能な状態になっていることが求められる。 この点、上村達男早稲田大学名誉教授は、「今日、最も重要なことは、投資者の自己責任原則を強調することではなく、投資者の自己責任原則の強調が許されるような公正な土俵(市場条件)の確立を求めることであろう」と主張される(上村「投資者保護概念の再検討-自己責任原則の成立根拠-」専法42号6頁(1985))。 そこで、投資者と販売者との公正な取引関係を前提として大衆投資市場を育成・発展させるためには、投資者という相対的弱者を保護する法体系が必要になるところ、投資者保護の規制態様は、理論的には2つに分けて考えることができる。すなわち、業者を規制することによって間接的に保護する方法と、直接的に投資者を保護する方法である。 特に、後者の方法は、契約の無効・取消し、損害賠償、クーリング・オフなど、私法レベルの救済手段を認めることによって投資者の直接的な権利を保障する方法であり、説明義務違反による損害賠償はこの類型に入る。 2 節税商品取引と投資者保護 節税商品取引における投資者保護の必要性についても、一般的金融商品取引におけるそれと近似した理由を挙げることができる。すなわち、第一に、投資者損害の救済への対応として節税商品に関する十分な情報提供の必要性と、第二に、社会基盤整備の観点からの要請である。 以下、この2点について、節税商品取引における投資者保護の必要性を検討することとしたい。 (1) 節税商品に関する十分な情報提供の必要性の観点 (a) 損害発生の状況 変額保険は、保険契約者が払い込んだ保険料のうち、一般勘定に繰り入れられる部分を除いた部分を特別勘定として独立に管理し、その運用実績により保険金額及び解約返戻金額が変動する生命保険である(前回参考)。 前回の事例で見たように、変額保険は、相続税対策として高額な保険料融資とセットで資産運用を図る節税型の利用が盛んに行われたものの、1990年以降の株価の低迷によって保険料積立金の運用実績が低下し、保険給付額が支払保険料を下回ったこと等の理由から、保険契約者が損害を被る事例が続出した。 その時点で、既に膨大な数の判決が出されていたが、顕在化していなかったケースが、融資期限到来や保険価値・担保不動産価値の劣化などで銀行から融資の返済を迫られるなどして、後に事件として顕在化するケースも多い。 このように、決して変額保険訴訟は過去の問題ではなく、現在においても進行中の問題であるともいえよう。 さて、変額保険に関する損害の特徴については、①損害を受けた者の数が多いこと、②高齢で投資経験のない者が多いこと、③損害額が多額であること、④損害が深刻であることなどが指摘されている。 長年にわたり社会問題となってきた変額保険の損害が節税商品取引から生じていることは看過すべきではない。今後も節税商品過誤訴訟が発生すると思われる今日、変額保険と同様の投資者損害を招来しないよう、節税商品取引に係る投資者保護を検討することは有益であると考える。 (b) 情報提供の必要性 変額保険に関する事件を概観すると、節税商品取引に係る投資者損害の実態が判然とする。社会問題となった変額保険事件は、節税効果というものの誘引性がそれだけ高いことを見せ付ける事件である。つまり、節税効果は十分に商売のネタになるものなのである。 節税商品への投資は、その行為が法に反しないものである限り自由に行い得るものであり、合理的な経済活動として問題視されるところはなかろう。 しかし、節税効果が十分に確認されていない商品が節税効果を謡い文句に販売されることの危険性はもっと強調されるべきであると考える。また、課税上の取扱いが明確とされていないような商品を「節税商品」として販売することは一層問題視されるべきではないかと感じざるを得ない。 節税商品取引においては、商品を手にとって確かめたり、五感を使って確認したりすることのできない将来的なキャッシュ・フローに還元される効果が商品内容であることから、投資者は販売者の提供する情報を元に判断せざるを得ない。 そこで、商品内容説明としての情報が明確でないような商品は、いわゆるいかがわしい「悪徳商品」である。いわば「悪徳商品対策」としての意味からも投資者保護の視点が失われることがあってはならないのではなかろうか。 (2) 社会基盤整備の観点 節税商品取引は、課税上の優遇措置を積極的に商品内部に取り込んで設計されたものである。そもそも、租税特別措置法に規定する非課税措置など、課税上の優遇措置の多くは、政策的な意味合いが強いものも多い。このような政策的優遇措置を置いているのは資金需要を喚起する必要のある産業育成のためなどであるから、本来的には、このような課税上の優遇措置を適正かつ積極的に活用して、当該産業に資金が還流されることが望ましい。 しかし、資金需要の喚起ができたとしても、それを利用して詐欺的な行為が横行してしまうのでは、所期の政策目的が別の社会問題を惹起することとなる。このような環境は当然望ましいものではなく、かような詐欺的行為は規制されるべきものである。 ところで、旧来的な業界規制は市場を歪め、競争力を阻害するという問題を提起しているところ、このような問題は、私法上の規律によって解決されるべきであると考えられる。 つまり、私法による社会基盤整備機能の重視という視点が重要性を帯びることとなる。 節税効果が確実でないものをさも確実なものであるかのように説明し、勧誘する販売者の責任は、民事上のルールで規律すべきであり、その規律は情報劣後者である投資者の保護に視座を置いたものである必要があろう。   小括 本稿において、一般的金融商品取引における投資者保護の要請に加え、更に節税商品取引における投資者保護の要請を強調する特有の意義を再確認した。そこでは、パターナリズムによる保護の視点からではなく、投資者の合理的判断に基づく投資が行われるような十分な情報の提供や社会基盤整備としての民事上のルールの重要性が強調され得るであろう。 (続く)

#No. 469(掲載号)
#酒井 克彦
2022/05/12

谷口教授と学ぶ「国税通則法の構造と手続」 【第2回】「国税通則法1条」-国税通則法の目的と国税通則法制定の趣旨-

谷口教授と学ぶ 国税通則法の構造と手続 【第2回】 「国税通則法1条」 -国税通則法の目的と国税通則法制定の趣旨-   大阪学院大学法学部教授 谷口 勢津夫   国税通則法1条(目的)   1 目的規定と趣旨規定 国税通則法1条は、同法の「目的」を定める規定(以下「目的規定」という)である。国税徴収法1条や「内国税の適正な課税の確保を図るための国外送金等に係る調書の提出等に関する法律」1条も同様に目的規定である。 これに対して、個別税目に関する租税法律(所税1条、法税1条、相税1条、消税1条1項等)やそれらの特例を定める法律(税特措1条、電帳法1条等)はそれぞれの法律の「趣旨」を定めている(以下「趣旨規定」という)。 現行税法における「目的」と「趣旨」の使い分けについては、以上のように、通則的な規定を定める租税法律については「目的」という文言を、個別税目に関する租税法律(税目横断的な特例を定める法律を含む)については「趣旨」という文言をそれぞれ用いる、というような用語法によっていると一応はいうことができるように思われる。 目的規定及び趣旨規定の一般的意義については次のような解説がされている(坂本光「目的規定と趣旨規定/法律のラウンジ〔78〕」立法と調査282号(2008年)69頁。下線筆者)。 では、目的規定の一般的意義に関する以上の解説は、国税通則法1条の解説として妥当するのであろうか。この点を検討するに当たって、まず、国税通則法のコンメンタールとして伝統と権威のある志場喜徳郎=荒井勇=山下元利=茂串俊共編『国税通則法精解〔令和4年改訂・17版〕』(大蔵財務協会・2022年。以下「精解」という)129頁以下の解説における国税通則法1条の「目的」の整理からみていくことにしよう。   2 国税通則法1条の「目的」の整理と検討 国税通則法1条の規定のうち「国税についての基本的な事項及び共通的な事項を定め」の部分は、「何が基本的な事項であり、何が共通的な事項であるかをすべてについて区別することは困難である」(精解129頁)としても、ともかく「この法律の規定する対象となる事項」(同)を定めるものであるが、その部分に続く部分が「この法律の目的とするところ」(同)を定めている。精解はこれについて、「次の三つであることを明らかにしている」(130頁)として、①「税法の体系的な構成の整備」、②「国税の基本的な法律関係の明確化」及び③「税務の改善合理化と納税関係の適正円滑化」の3つに整理している。 これら3つの「目的」に関する解説を個別的にみておくと、まず、精解は①については、既に前回2でみたように、税制調査会「国税通則法の制定に関する答申(税制調査会第二次答申)」(昭和36年7月。以下「国税通則法答申」という)が「国税通則法制定の趣旨」として述べたこと(1頁)と基本的に同じ内容を述べた上で、「この法律は、このような実情に対処するものとして、税法の体系的な構成の整備を打ち出したものであって、以前の税法の規定が重複し、これにより条文数が不必要に多くなっていたこと、内容的な不統一があったことを解消させ、税法体系の簡易平明化を図ったのである。」(精解131頁。下線筆者)と解説している。これによれば、①「税法の体系的な構成の整備」という「目的」は、「税法体系の簡易平明化」を意味するものとされている。 なお、「税法の体系的な構成の整備」にいう「体系」という語は、筆者が本連載において国税通則法の「体系的構造」(前回3参照)という場合の「体系」とは異なる意味で用いられていると解される。後者は、租税実体法と租税手続法との目的従属的関係という法理論的意味連関を意味するのに対して、前者は、租税に関する基本的な事項及び共通的な事項について規定の欠落・重複・不備・不統一等がない、秩序づけられた実定法状態を意味するものと解される。 次に、精解は②「国税の基本的な法律関係の明確化」について、「1[=前記①]に述べたことに関連し」(131頁)と述べた上で、国税通則法答申1頁にいう「およそ租税法の基礎にあるべき基本的な法律関係、すなわち政府と納税者との間における権利・義務の態様や限界に関する制度上の仕組み」を明確にする旨を述べている(精解131頁)。 最後に、精解は③「税務の改善合理化と納税関係の適正円滑化」についても、「右の1、2に掲げた目的[=前記①②]と関連し」(131頁)と述べた上で、「この法律の目的は、税務行政の公正な運営を図るための改善合理化と、これらを通じて最終的には納税関係の適正円滑化を図ることにあることが示されている。」(同。下線筆者)と解説している。 前記③の「目的」については、「[これ]は(c)[=税務行政の公正な運営を図ること]および(d)[=国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資すること]にそっくりそのままあてはまらない。ことに『税務の改善合理化』というような文言は、この条[=国税通則法1条]には存しない。」(中川一郎・清永敬次編『コンメンタール国税通則法』(加除式[1989年追録第5号加除済]・税法研究所)D18頁[中川一郎執筆])との批判的な指摘もあるが、精解の上記解説の理解としては、③の前半の「目的」(「税務の改善合理化」)は、国税通則法1条にいう「税務行政の公正な運営を図[ること]」といういわば「中間目的」を達成するための手段であり、これらに対して同条にいう「国民の納税義務の適正かつ円滑な履行に資すること」を「最終目的」として対置しているという理解が成り立ち得るように思われる。 しかも、前記③の「目的」に関するそのような「目的」三段階説ともいうべき理解の方が、次の見解(武田昌輔監修『DHCコンメンタール国税通則法』(第一法規・加除式)604(~610)頁。下線筆者)の示す並列的理解よりも、国税通則法1条の「もつて」という文言(接続助詞相当連語)に照らして妥当であるように思われる。 もっとも、前記③の「目的」に関する三段階説は、第1段階の「税務の改善合理化」という「目的」が国税通則法1条の法文上明記されていないことから、先の指摘にみられるような批判や誤解を受けるかもしれない。このことを考慮したためであろうか、精解は、前記②の「目的」について次の解説(20-21頁。下線筆者)を行った上で、③の第1段階の「税務の改善合理化」という「目的」について、「課税処分に対する納税者の不服申立制度・・・・・・の改善」を含め「税務に関するこれら[各税に共通する]諸般の制度や手続について、納税者の便益を中心としてその改善合理化を図ること」(下線筆者)という理解を示すことによって、②と③との関連づけをより明確にしているように思われる(23頁)。 精解の以上の解説によれば、精解は、納税者の正当な権利利益ないし便益に対する配慮という点において、前記②の「目的」と③の第1段階の「税務の改善合理化」という「目的」とを関連づけ、もって前記①②③の「目的」を相互に関連づけ一体とみて、国税通則法1条の「目的」を構成したものと解されるのである。 そうすると、国税通則法1条の「目的」は、やはり、「国税通則法制定の趣旨」(国税通則法答申)ないし「この法律を制定する目的」・「この法律制定の目的」(中川・清永編・前掲コンメンタールD12頁・D17頁・D21頁[中川執筆])を意味すると解すべきであろう。したがって、同条の規定はまさに「目的規定」(前記1参照)というべきものである。   3 「国税通則法制定、、の趣旨・目的」と「国税通則法の目的」 ところで、精解は、「この条[=国税通則法1条]は、近時の立法例に従い、この法律の規定する対象となる事項及びこの法律の目的とするところを明らかにし、その解釈及び運用の指針を示したものである。」(129頁。下線筆者)と述べている。ここでいう「その解釈及び運用の指針」とは、何を意味するのであろうか。 この問題の検討に入る前に、ここでは、まず、「国税通則法制定の趣旨」ないし「この法律制定の目的」は、「国税通則法の趣旨」ないし「この法律の目的」ではないことを確認しておきたい。「国税通則法の趣旨」は、「国税通則法をはじめその他の税法そのものから客観的に知られ得るいわゆる存在理由」(中川・清永編・前掲コンメンタールB3頁[須貝脩一執筆])を意味するものとして、また、「この法律の目的」は、「国税についての基本的な事項、およびこれに関連する事項において、国民に対し財産権を保障すること」(同D23頁[中川執筆])を意味するものとして、「国税通則法制定の趣旨」ないし「この法律制定の目的」を批判的に検討する場合に拠って立つ見地とされることがある。 これらのうち「国税通則法をはじめその他の税法そのものから客観的に知られ得るいわゆる存在理由」について、その意味を理解するには、更に立ち入って「国税通則法の趣旨」を検討しておく必要があろう。その「存在理由」を説く論者は、「直接税と間接税との間における税法上の統一的規律の実現」という「税法上の新要素」の導入こそが「国税通則法制定の隠れた趣旨」であり(中川・清永編・前掲コンメンタールB16頁[須貝執筆])、これを「一層具体的にいうならば、申告納税方式の拡張適用、申告納税方式の一般化ないし普遍化ということにほかならない。」が、これこそが「国税通則法の隠れた趣旨」であると述べ(同B17頁[須貝執筆])、その上で、次のとおり説いている(同B21頁[須貝執筆]。下線筆者)。 このようにみてくると、「国税通則法制定の趣旨」ないし「この法律の制定の目的」を批判的に検討する場合に拠って立つ見地として「国税通則法の趣旨」といい「この法律の目的」といっても、両者に表現上の違いはあるものの、いずれも、納税者の権利利益の保護を国税通則法の「目的」と解するものといえよう。ここでは、税法は「自由主義的税法(自由主義に基づく租税法律主義を根本原理とする税法)」(拙著『税法基本講義〔第7版〕』(弘文堂・2021年)【11】)として性格づけられていると解される(中川・清永編・前掲コンメンタールD23頁[中川執筆]は「税法の目的を民主主義的に理解し」国税通則法の「目的」を国民の財産権の保障として捉えているが、この見解は「自由と民主の不可分性」(芦部信喜『憲法学Ⅰ憲法総論』(有斐閣・1992年)51頁)を前提にして理解すべきであろう)。 これに対して、国税通則法の「目的」を行政手続法の「目的」と対比して理解しようとする見解がある。行政手続法1条1項は同法の「目的」について次のとおり定めている。 その見解は次のとおり述べている(品川芳宣『国税通則法講義-国税手続・争訟の法理と実務問題を解説-』(日本租税研究協会・2015年)3-4頁。下線筆者)。 上記の見解は、傾聴に値する重要な内容を含んでいると考えるが、ただ、以下の2つの点において疑問ないし問題があると考えるところである。 第1に、国税通則法の「目的」と行政手続法の「目的」とを前記の見解のような形で対比することは、そもそも、妥当であろうか。前記の見解は、「法律の範囲内で納税義務を果たせば良い」という意味での納税者の実体的権利と、「税収の確保」を要請する課税権(ここでは租税債権。谷口教授と学ぶ「税法基本判例」第1回Ⅱ2参照)という国の実体的権利とを対抗軸として、国税通則法の「目的」を捉えているが、行政手続法は適正手続保障原則(憲法13条、31条参照)に基づく国民の手続的権利の保護を「目的」とするものである以上、実体的権利の保護か手続的権利の保護かという点でレベルを区別し異なるレベルで議論すべきであるにもかかわらず、前記の見解が両者を対比して論ずることは直ちには妥当といえないように思われる。 第2に、前記の見解は、国側については「法律どおりに、、、、、、税収が国庫に確保されること」(傍点筆者)を説き、他方、納税者側については「法律の範囲内で、、、、、、納税義務を果たせば良いとする納税者の権利保護」(同)を説いているが、納税者側についても「法律の範囲内で」ではなく「法律どおりに」と説くべきであると考えるところである。つまり、租税法律主義の要請する「法律どおりの課税」(合法性の原則)は、個々の納税者に対する課税が「法律の範囲を上回る課税」の禁止と「法律の範囲を下回る課税」の禁止の両方(租税法律主義の2つの「側面」)を満たすものでなければならない。確かに、納税者と国とは立場ないし利害を異にするが、しかしながら、そうであるからといって、立場・利害の違いに応じて一方のみを説くのは妥当でない。上記のような意味での「法律どおりの課税」の要請は納税者・国の双方に共通して妥当するものである(拙著『税法創造論』(清文社・2022年)44-47頁[初出・2020年]参照)。 ここではこれらの点は措くとして、先にみてきたところによると、国税通則法の「目的」の理解については、ⓐ「納税者の権利利益の保護」という観点からのアプローチとⓑ「税収の確保」という観点からのアプローチがあるが、いずれのアプローチによるかで国税通則法の解釈適用に対する態度や「解釈及び運用の指針」の理解が異なってくるように思われる。   4 国税通則法の「解釈及び運用の指針」の意義 前記ⓑのアプローチからすれば、先の引用文にあるように、「法律どおりに税収が入ってこなければ、国民全体が、その利益を受けることができません。その問題をどのように理解するかが、税法の解釈適用において非常に重要な問題であると思います。」(下線筆者)ということになるが、ここで述べられている国税通則法の解釈適用に対する態度が、もしも、「税収の確保」という「目的」を基準として目的論的解釈・目的論的事実認定を行うことにつながるとすれば、このアプローチによる国税通則法の「目的」の理解に対しては次の批判(中川・清永編・前掲コンメンタールD24-25頁[中川執筆]。下線筆者)が妥当することになろう。 実質課税の原則ないし実質主義については、夙に、「本来その事柄の性質上絶えずその法律関係は明確なものでなければならないという要求の下におかれている税法において、他方あまりにも漠然とした、そして問題に応じて国庫に対して税収を確保するための理論的な武器として用いられがちであった」(清永敬次『租税回避の研究』(ミネルヴァ書房・1995年/復刻版2015年)362頁[初出・1967年]。下線筆者)との指摘がされていたが、それは、「租税法律の第1の目的は、資金を、しかもできるだけ多くの資金を調達することである。」(Enno Becker, Zur Auslegung der Steuergesetze, StuW 1924, 145, 162.)として説かれたかつての経済的観察法(wirtschaftliche Betrachtungsweise)やこれに相当する我が国のいわゆる経済的実質主義(前掲拙著『税法基本講義』【42】参照)を想定した指摘であろう。 実質主義は、その後の展開を通じて、税法の目的論的解釈・目的論的事実認定へとその「姿」を変えていったとはいえ、もしもそれらが「税収の確保」という「目的」を基準として行われることになれば、税法の解釈適用の「過形成」ひいてはいわゆる経済的実質主義への「先祖返り」を惹起してしまうおそれがある(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」第6回、前掲拙著『税法創造論』214-224頁・247-248頁[初出・2015年]参照)。つまり、もしも「税収の確保」という「目的」を基準として税法の解釈適用がされることになるならば、「最も多くの税収をもたらすような解釈[適用]があらゆる場合に正しいということになるであろう」(Moris Lehner, Wirtschaftliche Betrachtungsweise und Besteuerung nach der wirtschaftlichen Leistungsfähigkeit, Zur Möglichkeit einer teleologishen Auslegung der Fiskalzwecknormen, in: Joachim Lang(Hrsg.), Die Steuerrechtsordnung in der Diskussion, Festschrift für Klaus Tipke zum 70. Geburtstag, Köln 1995, 237, 240.)から、そのような意味での目的論的解釈・目的論的事実認定は、租税法律主義が禁止する「恣意的課税」の危険を孕んでいるといえるのである(「普遍条項」すなわち一般条項における「恣意の危険」については同前者第30回Ⅲ、同後者281-284頁[初出・2017年]参照)。 前記ⓑのアプローチを採用する前記3(の後半)の見解も、租税法律主義の一方の「側面」として「税収の確保」を説いている以上、租税法律主義が禁止する「恣意的課税」を容認するものでないことは明らかであるが、前記ⓑのアプローチが租税法律主義から離れていくと、「恣意的課税」の危険が高まってくることからすれば、「税収の確保」の要請には、必ず、前記ⓐのアプローチによって国税通則法の「目的」を理解し、そのように理解された「目的」によって、厳格に枠を嵌めておくべきである。 このような厳格な枠の存在を前提にして初めて、国税通則法の「目的」を、その「体系的構造」(前回3参照)に基づき適正に理解することができることになろう。というのも、国税通則法の「体系的構造」は、租税実体法と租税手続法との目的従属的関係に基礎を置くものであるが、その関係は目的と手段との相互拘束・相互制約の関係でもあるため、「税収の確保」という租税実体法の目的は、その目的を実現するための手段である租税手続法固有の論理による拘束・制約を受けるからである。なお、租税負担の公平の実現も租税実体法の目的であるが、税収の確保と租税負担の公平の実現とは対概念でありいわば「コインの裏表」をなすものであることには注意しておくべきである(前掲拙著『税法基本講義』【18】参照)。 以上のような意味で、次の見解(中川・清永編・前掲コンメンタールD25~30頁[中川執筆]。下線筆者)は、国税通則法の「解釈及び運用の指針」の理解として妥当である。 (了)

#No. 469(掲載号)
#谷口 勢津夫
2022/05/12
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