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〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第57回】「一次相続時に賃貸部分があった場合における敷地所有権者の相続に係る貸付事業用宅地等の特例の適用(配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」

〔事例で解決〕小規模宅地等特例Q&A 【第57回】 「一次相続時に賃貸部分があった場合における敷地所有権者の相続に係る貸付事業用宅地等の特例の適用 (配偶者居住権設定後に二次相続があった場合)」   税理士 柴田 健次   [Q] 甲の相続(一次相続)では、下記のとおり甲の所有する建物(1階部分は甲乙の居住用、2階部分は甲の貸付事業用)について配偶者居住権が設定され、甲の配偶者である乙が配偶者居住権を取得し、土地建物の所有権は、甲の長男である丙が取得しました。 甲の相続後は、乙がしばらくの間、居住の用に供していましたが、乙が老人ホームに入所するのを契機として、乙は丙の承諾を得て、第三者に1階部分を賃貸することになりました。乙が貸付の用に供した後、3年経過後に丙に相続が発生しました。丙の相続開始前の建物の利用状況は、1階も2階も第三者に賃貸しています。1階部分は配偶者居住権に基づき、乙が賃借人と賃貸借契約を締結していますが、2階部分は甲の相続開始前からの賃借人に引き続き賃貸しているため、丙が賃借人と賃貸借契約を締結しています。 丙の遺言書には、土地及び建物については丙の子である丁に相続させる旨が記載されています。乙及び丁は丙と生計を一にしていました。この場合に丁が適用できる小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例の適用面積は何㎡でしょうか。 【相続関係図】 ※画像をクリックすると別ページで拡大表示されます。 【丙の相続時における土地に係る相続税評価額】 [A] 丁は他の要件を満たせば、2階部分の162㎡について小規模宅地等に係る貸付事業用宅地等の特例(以下単に「特例」という)を受けることができます。 ◆ ◆ ◆[解説]◆ ◆ ◆ 1 配偶者居住権等が及ぶ範囲 配偶者居住権が設定された場合には、居住建物の全部について無償で使用及び収益をする権利を取得することになります(民法1028)。ただし、居住建物の一部が賃貸用である場合には、賃借人に権利を主張することはできないため、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています(相法23の2①一かっこ書・③一かっこ書、相令5の7)。 したがって、本問の場合には、1階部分について配偶者居住権及び敷地利用権が設定されることになります。 なお、老人ホームに入所して居住の用に供しなくなった場合においても、下記の配偶者居住権の消滅事由に該当しなければ、配偶者居住権は存続することになります。第三者に居住建物の使用をさせるときは、居住建物の所有者の承諾を得る必要があります(民法1032)。この場合の賃料の帰属は、居住建物について使用及び収益をすることができる配偶者居住権者となります。 なお、配偶者居住権の消滅事由の例としては、下記のものがあります。   2 二次相続に係る配偶者居住権及び敷地利用権の相続税評価額 配偶者居住権の設定後に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した配偶者居住権の目的となっている建物及び敷地所有権の相続税評価額については、相続税法23条の2の規定に準じて計算することになります(相基通23の2-6)。 具体的には、二次相続発生時において配偶者居住権の設定があったものとして計算しますので、二次相続開始時における乙の平均余命年数等を使用することになります。当然ですが、乙の平均余命年数は、一時相続時よりも二次相続時の方が短くなっていますので、敷地利用権の相続税評価額は、路線価の上昇等がない場合には、二次相続時の方が低くなります。 上記1の解説のとおり、居住建物の一部が賃貸用である場合には、配偶者居住権及び敷地利用権の評価額の計算の基礎となる金額から「賃貸の用に供されている部分」を除くこととされています。ただし、そのような取扱いは配偶者居住権設定時(本問の場合には一次相続時)に賃貸している場合であり、配偶者居住権設定後に賃貸している場合には、配偶者居住権に基づき賃貸していますので、配偶者居住権の計算の基礎となる金額から除外しないで配偶者居住権及び敷地利用権を計算することになります。 したがって、本問の場合には、1階部分については配偶者居住権に基づき賃貸していますので、配偶者居住権の計算の基礎となる金額から除外する必要はありません。2階部分については、配偶者居住権に基づき賃貸していないため、換言すれば、対抗力を有する継続賃借人に配偶者居住権の主張をすることができないため、配偶者居住権の計算の基礎となる金額から除外する必要があります。 また、本連載【第56回】でも解説していますが、配偶者居住権に基づき賃貸されている場合には、配偶者居住権の権利内に賃借権も包括されているため、1階部分について借家権控除を考慮する必要はありません。 2階部分については、丙が第三者に賃貸していますので、貸家建付地として借家権控除の対象となります。 以上、本問についてまとめると下記のとおりとなります。 ◆配偶者居住権に基づく賃貸の有無における賃料の帰属と借家権控除の可否 なお、本問の場合には継続賃借人がいるため2階部分については配偶者居住権の主張をすることができませんが、継続賃借人が退去し、乙が丙の承諾を得て、新たな賃借人との間で賃貸借契約を締結した場合には、2階部分についても配偶者居住権に基づき賃貸したことになりますので、1階と同様の取扱いとなります。   3 相続税評価額の算定と面積の計算 敷地利用権及び敷地所有権に区分し、相続税評価額と面積を計算します。上記2で解説のとおり、配偶者居住権に基づき賃貸している場合には、賃貸されている部分を除外する必要はなく、借家権控除を考慮して計算する必要もありません。 (1) 1階部分の相続税評価額と面積 ・敷地利用権の相続税評価額: ・敷地所有権の相続税評価額: ・敷地利用権の面積: ・敷地所有権の面積: (2) 2階部分の相続税評価額と面積 ・相続税評価額: ・面積: (3) 各人ごとの相続税評価額と面積 敷地利用権16,335,000円は、乙の財産であるため、丙の相続時において丙の相続財産に計上する必要はありません。乙の相続時においては、民法の規定により配偶者居住権は消滅し、相続を原因とする財産の移転もないため、配偶者居住権及び敷地利用権の価額を乙の相続財産に計上する必要はありません。   4 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等の範囲 貸付事業用宅地等は、被相続⼈又はその被相続人と生計を一にしていた親族(以下「被相続人等」という)の貸付事業の⽤に供されていた宅地等であることが要件の1つとなっています。したがって、その宅地等が「誰の」、そして何の「用途」に供されていたかが重要となります。 本問の場合には、1階部分については、配偶者居住権に基づき賃貸されていますので、乙の貸付事業用宅地等(措通69の4-4の2)となり、2階部分については、丙の貸付事業用宅地等(措通69の4-4)となります。 本問の場合における配偶者居住権に基づく賃貸の有無における賃料の帰属と特例判定の判断となる通達についてまとめると下記のとおりとなります。 ◆配偶者居住権に基づく賃貸の有無における賃料の帰属と特例の判定 (※) 被相続人等の貸付事業の用に供されていた宅地等に該当するか否かの判断 (※) 下線部は筆者による。   5 本問の場合の特例適用の可否 貸付事業用宅地等の意義は、本連載【第39回】で解説していますが、特例の適否については、下記のとおりとなります。 (1) 2階部分 被相続人である丙の貸付事業の用に供されていた宅地等を相続人である丁が相続し、相続税の申告期限まで引き続き宅地等を有し、かつ、引き続き貸付事業の⽤に供していれば、特例の対象となります。 (2) 1階部分 被相続人の生計一親族である乙の貸付事業の用に供されていた宅地等ですが、乙は宅地等を取得していませんので、特例の対象にはなりません。 したがって、丁は2階部分の162㎡について特例の適用を受けることができます。 なお、仮に乙が丙の所有する土地建物の所有権を遺贈により取得した場合には、2階部分は被相続人の貸付事業用宅地等として特例の対象(措通69の4-4)となり、1階部分は生計一親族の貸付事業用宅地等として特例の対象(措通69の4-4の2)となります。その場合には、特例対象宅地等の面積は、2階部分(162㎡)と1階の敷地所有権部分(89.1㎡)となりますが、限度面積(200㎡)を超えるため、200㎡までの面積内で選択適用することになります。特例金額が大きくなるように選択する場合には、自用地である1階の敷地所有権部分(89.1㎡)から優先的に適用し、残りの面積110.9㎡(200㎡-89.1㎡)について2階部分から選択することになります。 乙が取得した場合には、特例は200㎡について適用できますが、配偶者居住権は消滅(本連載【第56回】で解説)し、乙の相続時に土地建物の所有権として評価が必要になります。   ★実務上のポイント★ 配偶者居住権に基づき賃貸しているか否かにより賃料の帰属者が異なり、特例の判定方法も異なりますので、賃料の帰属者と適用される通達を確認することが重要となります。   (了)

#No. 492(掲載号)
#柴田 健次
2022/10/27

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第22回】「介護付き有料老人ホーム等の附属駐車場が、特例の適用のある「住宅用地」に該当するか否かで争われた事例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第22回】 「介護付き有料老人ホーム等の附属駐車場が、特例の適用のある「住宅用地」に該当するか否かで争われた事例」   税理士 菅野 真美   ▷住宅用地の減額と併用住宅の場合の特例 土地や家屋を課税標準とする固定資産税であるが、住宅用地に対しては特に税負担を軽減する必要があるとの考慮から(※1)、課税標準の特例という軽減措置が設けられている。すなわち、小規模住宅用地(住宅用地で住宅1戸につき200㎡までの部分)については、価格の6分の1相当額が固定資産税の課税標準に、小規模住宅用地以外の住宅用地については、価格の3分の1相当額が固定資産税の課税標準となる。 (※1) 金子宏『租税法(第24版)』(弘文堂、2021年)788頁。 それでは、「住宅用地とは何か」という点につき確認する。まず、土地が専用住宅の敷地の用に供されているか、併用住宅の敷地の用に供されているかに区分される。専用住宅(専ら人の居住の用に供する家屋)の敷地は、原則的には、その上にある家屋の床面積の10倍を超えている場合は、10倍までの土地が住宅用地となれる。 併用住宅(一部が居住の用に供されている家屋)の敷地の用に供されている土地は、原則的には家屋の種類に応じて区分し、それぞれの家屋のうち居住部分の割合に応じた率を乗じた面積(土地の面積が、その上にある家屋の床面積の10倍を超えている場合は、10倍までの土地)が住宅用地として軽減対象となる(地方税法第349条の3の2、地方税法施行令第52条の11)。 (※) 居住部分の割合 = 一部を人の居住の用に供する家屋のうち居住の用に供する部分の床面積/家屋の床面積 住宅用地の範囲について併設されている駐車場がある場合の取扱いはどうなっているのか。 東京都においては、住宅用家屋の敷地と一体となっている自家用駐車場は住宅用地に含まれているが、外部貸駐車場(月極駐車場、コインパーキング、カーシェアリングやシェアサイクルの用地など)は住宅用地に該当しないとされている(※2)。 (※2) 東京都主税局ホームページ「固定資産税・都市計画税(土地・家屋)」を参考としている。 それでは、介護事業者が介護老人ホームや小規模多機能型居宅介護施設の運営のために借りた家屋の敷地に併設された附属駐車場は住宅用地に該当するのか。この件について争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か 本事案について、時系列で並べると次のようになる。   ▷事案の争点 争点は、駐車場が住宅用地に該当しないという東京都の賦課決定処分は違法であるか否かである。   ▷東京都の主張 東京都は次のような理由から駐車場は住宅用地に該当しないと主張した。   ▷裁判所の判断 地裁は、Xの請求を認めた。判決の要旨は次のようなものである。 この判決に不服な東京都は控訴したが、高裁も同様に東京都の控訴は理由がないとして棄却した。 併用住宅に附属した駐車場の利用者が居住者以外の併用住宅利用者であったとしても、住宅用地の計算の基礎となる敷地の用に供されている土地に該当する。駐車場を含めた契約の主体が家屋を利用したYであり、その事業の関係者が利用していたからである。 (了)

#No. 492(掲載号)
#菅野 真美
2022/10/27

株式需給緩衝信託の概要と会計処理の現状

株式需給緩衝信託の概要と会計処理の現状   史彩監査法人 パートナー 公認会計士 西田 友洋   2022年2月14日に野村証券株式会社及び野村信託銀行株式会社より、「株式需給緩衝信託®のサービス提供開始について」が公表された。今回は、この株式需給緩衝信託に対応する会計基準がない現状を鑑み、この信託の概要を確認し、導入事例を参考に会計処理について解説していきたい。   1 株式需給緩衝信託®の概要 株式需給緩衝信託®とは、大株主等が保有する株式を、発行会社が設定する信託を通じて取得し、株式市場の需給に配慮しながら流動化させていく仕組みで、野村證券株式会社と野村信託銀行株式会社が開発した信託スキームである。 このスキームにより、以下のような効果がもたらされることにより、上場会社のガバナンス向上に資する株式売却が可能となる。 【株式需給緩衝信託®の取引の流れ】 (出所:野村グループホームページ「株式需給緩衝信託®のサービス提供開始について」)   2 株式需給緩衝信託®の事例 EDINET上で以下の期間の有価証券報告書及び四半期報告書について、Key Word「株式需給緩衝信託」で検索した結果、以下の3社が該当した。 (1) 株式会社クロス・マーケティンググループ(有価証券報告書 決算日:2022年6月30日) 連結財務諸表に対する監査報告書の監査上の主要な検討事項(KAM)、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の注記において、会計処理について以下のような記載がある。 (2) 株式会社近鉄百貨店(第2四半期報告書 決算日:2022年8月31日) 追加情報注記において、以下の記載がある(下線筆者)。 株式会社近鉄百貨店においては、株式会社クロス・マーケティンググループとは異なり、信託が保有した株式は自己株式として認識し、売却した際の取得価額と売却価額の差額は、その他資本剰余金として会計処理していると考えられる。 (3) 株式会社ヨシックスホールディングス(第1四半期報告書 決算日:2022年6月30日) 追加情報注記において、以下の記載がある(下線筆者)。なお、市場への売却については、第2四半期連結会計期間以降に実施しているため、追加情報注記に、自己株式の処分の影響に関する記載はなかった。 株式会社ヨシックスホールディングスにおいては、株式会社近鉄百貨店と同様に、信託が保有した株式は自己株式として認識し、売却した際の取得価額と売却価額の差額は、その他資本剰余金として会計処理していると考えられる。   3 結論 株式会社クロス・マーケティンググループは信託が取得した株式について、自己株式として取り扱わず、「投資有価証券」として取り扱っている。一方、株式会社近鉄百貨店及び株式会社ヨシックスホールディングスは、「自己株式」として取り扱っている。 現状では、株式需給緩衝信託®に対する会計基準がないため、会社ごとに会計処理が異なる状況となった。 今後、会計基準が作成されるかどうかは明らかではないが、上記事例、実務対応報告第23号「信託の会計処理に関する実務上の取扱い」等をもとに、監査人とも十分に協議し、会計処理を判断することが必要であると考えられる。 (了)

#No. 492(掲載号)
#西田 友洋
2022/10/27

開示担当者のためのベーシック注記事項Q&A 【第4回】「収益認識に関する注記③」-当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報-

開示担当者のための ベーシック注記事項Q&A 【第4回】 「収益認識に関する注記③」 -当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報-   仰星監査法人 公認会計士 竹本 泰明   Question 当社は連結計算書類の作成義務のある会社です。連結注記表及び個別注記表における収益認識に関する注記のうち「当該事業年度及び翌事業年度以降の収益の金額を理解するための情報」について、何を記載すればいいか教えてください。 Answer 連結注記表では、契約資産及び契約負債の残高や残存履行義務に配分した取引価格の金額などを注記することが求められます。なお、連結計算書類を作成する場合、個別注記表では収益の分解情報に関する注記は省略できます。 ● ● ● 解説 ● ● ● 1 経団連のひな型による解説 経団連が公表している「会社法施行規則及び会社計算規則による株式会社の各種書類のひな型(改訂版)」(2021年3月9日)によれば、連結注記表、個別注記表それぞれ次のような注記が考えられます。 【連結注記表】 【個別注記表】   2 注記事項の解説 (1) 注記事項の全体像 まずは【第2回】で説明した内容のおさらいです。 連結計算書類の作成義務のある会社を前提とした場合、連結注記表・個別注記表で記載すべき注記事項は次のとおりです(会社計算規則第115条の2第1項)。 (※) 連結計算書類を作成する株式会社は、個別注記表において注記を要しません。なお、連結計算書類の作成義務のある株式会社(会社法第444条第3項の株式会社)以外の株式会社は、連結計算書類を作成していなくても個別注記表において注記を省略できます。 (2) 個々の注記事項の解説 上記(1)の③では、「収益認識に関する会計基準」で次の2つが項目として記載されており、実務的にこの2つについて注記している会社が多い印象です。 (「収益認識に関する会計基準」第80-20項、第80-21項より抜粋) 詳細な注記事項は、細かい内容となるため「収益認識に関する会計基準」第80-20項~第80-24項を参照してください。 ここでは、実際の注記事例を見て、注記のイメージを掴んでもらいましょう。 [オカダアイヨン株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※オカダアイヨン株式会社「第63回定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」5頁より抜粋。 [住友電気工業株式会社 2022年3月期 連結注記表] ※住友電気工業株式会社「第152期(2021年4月1日から2022年3月31日まで)定時株主総会招集ご通知に際してのインターネット開示事項」12頁より抜粋。 *  *  * 今回のテーマの「当期及び翌期以降の収益の金額を理解するための情報」は、将来の業績予測等につながる情報を記載するため、財務諸表利用者にとっても比較的関心が高い項目ではないでしょうか。それだけに、重要なものは不足がないよう注意しなければならない分野だと考えられます。 次回は、「会計上の見積りに関する注記」をテーマに解説します。   (了)

#No. 492(掲載号)
#竹本 泰明
2022/10/27

〔具体事例から読み取る〕“強い”会社の仕組みづくりQ&A 【第9回】「社内情報の漏えいや不正利用等を防ぐためにはどのような整備が必要か」

〔具体事例から読み取る〕 “強い"会社の仕組みづくりQ&A 【第9回】 「社内情報の漏えいや不正利用等を防ぐためにはどのような整備が必要か」   米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   ◆◇ 解 説 ◇◆ 1 退職者等のIDが放置されるリスク 退職者や休職者のユーザーIDをシステム内から削除せず、そのまま放置しておくと、なりすましをはじめ、企業の重要な情報の持ち出しなど、不正に悪用されるリスクがあることを、まず認識しなければならない。 とりわけ、従業員の入退社の頻度が比較的高く、社内の陣容が流動的である場合には、ユーザーIDの登録はもちろん、権限の変更や削除に関わる手続をあらかじめ整備しておくことが大切になる。例えば次の手続を参考にしてほしい。 例えば、②を人事部門の責任者が担い、③及び④を情報部門の責任者や担当者が行うことで、部門間での相互けん制を実現させることもできよう。   2 ユーザーIDの棚卸を実施する 上記の手続を定め、たとえ部門間の連携を図ったとしても、繁忙期などはユーザーIDに関する権限の変更や削除に関わる情報のやりとりが不完全になることも想定される。このため、定期的に、登録IDの棚卸を行うことを勧める。 実在しない幽霊社員にユーザーIDが付与されたままになっていないか、部門間の人事異動があったにもかかわらず、以前に所属した部門が持つ情報へのアクセスの遮断が実施されないままになってはいないかなど、社員の在籍とアクセス権限の割り当てに関わる正確性や網羅性を検証することが必要である。これは、念のためを想定した発見的な統制ともいえる。 棚卸の間隔は、会社の規模やシステム活用の程度に応じて異なるため、業務の効率性とシステムの活用の重要度に応じて、各社で判断が異なるであろう。   3 既存ユーザーIDの使い回しや共有の問題 退職者が発生した場合、社員に付与したユーザーIDを削除せずに、便宜的に他者にユーザーIDを転用して活用する会社を、実はよく見かける。冒頭の質問に見られるように、エンジニアや同じグループ内の関係する会社からの出張者など、頻繁に会社に出入りする外部の関係者に、臨時に既存のユーザーIDを使わせるといった場合がこれに該当する。 あるいは、1つの部門や事業所内で使う端末にアクセスする際、部門や事業所内の社員に共通するユーザーIDを与え、更に権限も同一に持つというケースも見られる。これらは、いずれも情報漏えいや情報の不正操作に陥りかねない危ういケースとなる。 (1) 既存のユーザーIDの使い回し 不要となったユーザーIDを削除せずに、当初の目的と異なる利用に供するということを行っている会社はないだろうか。不要となったユーザーIDは、必ず削除手続を経たうえで、新たな用途が発生する都度、発行手続をとるべきである。 一見手間に見える手続だが、退職者のほかにも一時的にユーザーIDを使った外部の者が、それを改めて使い、不正に会社の情報にアクセスしないという保証はどこにもない。ひとたび大切な企業情報が流出し、仮にそれが競合企業に売却されていたとしたら、一体どのような事態に発展するかを想像してほしい。使い回しはくれぐれも避けるべきである。 (2) ユーザーIDの共有 部門や営業所など、1つの端末を全ての従業員が利用し、アクセスに用いられるIDやパスワードも全て共有されているといったことはないだろうか。そのうえアクセス権限の階層化が行われておらず、業務に関わるあらゆる処理画面を、全ての従業員が閲覧でき、入力処理などが可能になっている場合は、情報管理上極めて危険な状況にあると言わざるを得ない。 端末を使って新規の顧客登録、請求書の作成や売上データの修正等の処理ができるような場合、それは架空の顧客登録や架空売上、売上の水増し計上などのリスクを見過ごしていることに他ならない。たとえ端末は共有しても、アクセスのためのIDやパスワードを各人に付し、権限と業務の範囲にふさわしいアクセス権限を付与して、業務内容を限定するルールづくりを行うべきである。   4 特権IDの取扱いとログの管理 これまで述べたように社内の情報を適切に管理し、システムを適切に運用するには、規程、規則やマニュアルづくりとその順守が欠かせない。そして従業員は、原則として業務を実施する上で必要な情報にのみ、アクセスが許されるのが通常である。しかし、システムの円滑な運用を保証するために、この原則に対して例外的なIDの取扱いを認めておくことも大切になる。 つまり、プログラムやデータベースに対してあらゆるアクセスの権限が認められ、設定の変更やバッジ処理、緊急の場合にはデータを直接変更できる権限を創設しておく必要がある。情報部門が持つオールマイティーな特権IDがそれに当たる。特権IDはシステムを適切に運用、保守をするうえで必要不可欠な権限になるが、考え方によっては、システム全般を統制するルールを破ることが可能となる強大な特権である。 したがって、必要性がある半面で、権限の付与とその後の運用において濫用を防止するために、下記の手続を定めて慎重に管理することが大切である。 (了)

#No. 492(掲載号)
#打田 昌行
2022/10/27

税理士事務所の労務管理Q&A 【第10回】「育児休業制度」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第10回】 「育児休業制度」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   育児休業制度が令和4年4月1日と令和4年10月1日の2段階で改正されています。 今回は、男性の育児休業と育児休業に関する雇用環境整備等の義務化について解説します。 * * 解 説 * * 1 育児休業 育児休業とは、原則として、満1歳未満の子を養育するための休業をいいますが、事業主は、就業規則で規定をしていなくても、本人からの申出があれば、育児・介護休業法に基づき育児休業を与えなければなりません。 (1) 育児休業の対象者 育児休業を希望する労働者(日雇労働者を除く)であって、1歳に満たない子と同居し、養育する者は、男女問わず育児休業を取得することができます。 ただし、有期雇用労働者にあっては、申出時点において、子が1歳6ヶ月(子が2歳に達するまでの間で必要な日数について育児休業する場合の申出にあっては2歳)に達する日までに雇用契約期間が満了し、更新されないことが明らかでない者に限り育児休業が可能です。 (2) 育児休業期間 育児休業期間は、原則として「子が1歳に達するまでの間で労働者が申し出た期間」ですが、女性の場合は、産後休業(出産後8週間)が優先されるので、産後休業終了後に育児休業が開始されます。 また、保育所に入所できないなど一定の場合は、最長、子が2歳に達するまで休業をすることができます。 育児休業を希望する労働者は、原則として、育児休業を開始しようとする日の1ヶ月前(1歳を超える休業、1歳6ヶ月を超える休業及び後述の産後パパ育休の場合は、2週間前)までに、育児休業申出書を事業所の担当者に提出することにより、希望通りの期間、育児休業を取得することができます。 (3) 男性の育児休業(産後パパ育休の創設) 令和4年10月1日から通常の育児休業とは別に、子の出生後8週間以内に最長4週間(28日間)を1回又は2回に分けて取得できるようになりました。取得できる期間が、女性の産後休業中に当たることから、基本的には、男性の労働者を対象としたもので「産後パパ育休」と呼ばれています(下表参照)。 〈産後パパ育休の取得例〉 (※) 取得可能日数は、合計で4週間(28日)、分割せずに4週間一括で取得することもできます。 また、通常の育児休業では、休業中の就業は、原則不可とされていますが、産後パパ育休では、労使協定を締結している場合に限り、休業中に勤務先での仕事が可能です。 ただし、休業中の就業日数・就業時間は、休業期間中の所定労働日・所定労働時間の半分以下等の一定の限度があります。 (4) 育児休業の分割取得 従来育児休業が取得できるのは、特別な事情がない限り、子が1歳に達するまでに連続した期間で1回のみでしたが、令和4年10月1日から2回に分けて取得できるようになりました。 前述の産後パパ育休と通常の育児休業は別のものですので、男性の場合は、産後パパ育休と組み合わせれば、育時休業を4回に分けて取得することができます(下図参照)。   2 育児休業に関する環境整備等の義務化 令和4年4月1日から「育児休業を取得しやすい雇用環境の整備」及び「妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置」が事業規模を問わず、すべての事業所の事業主に義務付けられました。 (1) 育児休業を取得しやすい雇用環境整備の義務化 雇用環境整備の措置とは、下記の4つをいいます。この4つのうち、いずれかの措置を講じなければなりませんが、複数の措置を講じることが望ましいと言われています。 〈雇用環境整備のための措置〉 (2) 妊娠・出産の申出をした労働者に対する個別の周知・意向確認の措置 本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対して、事業主は育児休業制度について周知するとともに、休業の取得意向の確認を、「個別に」行うことが義務付けられました。 周知事項及び個別周知・意向確認の方法は、下記のとおりです。   3 育児休業規程の整備 育児休業制度は、事業規模を問わず、すべての事業所に適用されます。 また、改正による育児休業に関する雇用環境整備等も、すべての事業所に対して義務化されましたので、小規模の事業所でもその対応が必要です。 常時使用する労働者が10人未満の事業所は、就業規則の作成・届出義務がありませんが、育児休業に関する規程は、厚生労働省ホームページの規定例等を参考に作成していただき、女性だけでなく、配偶者の出産によって休業する男性労働者への対応にも備えてください。 (了)

#No. 492(掲載号)
#佐竹 康男
2022/10/27

〔相続実務への影響がよくわかる〕改正民法・不動産登記法Q&A 【第11回】「新設された相続土地国庫帰属制度の概要と手続」

〔相続実務への影響がよくわかる〕 改正民法・不動産登記法Q&A 【第11回】 「新設された相続土地国庫帰属制度の概要と手続」   司法書士 丸山 洋一郎 弁護士 松井 知行    【Q】 令和3年4月21日の相続土地国庫帰属法の成立により新設された、相続した土地を手放して国庫に帰属させる制度について教えてください。 【A】 相続等により取得した土地のうち一定の要件を満たすものについて、法務大臣の承認を受けて一定の負担金を納付することで当該土地の所有権を国庫に帰属させる制度が創設された。 -《解説》- 1 制度創設の背景 近年、所有者不明土地(所有者が不明又は所有者の所在が不明な土地)の増加が問題になっている。このような所有者不明土地が発生する要因の1つとして、相続等により望まない土地を取得した所有者が、土地の管理を負担に感じ土地を手放したいと考えるケースが増えていることが指摘されている。 そこで、所有者不明土地の発生を予防し、土地の管理不全化を防止するために、相続等によって土地を取得した者が土地の所有権を国庫に帰属させることができる制度(相続土地国庫帰属制度)が新たに設けられることになった。   2 相続土地国庫帰属制度と他の制度との違い (1) 土地所有権の放棄 土地所有権の放棄は、土地の所有者が一方的意思表示により自己の所有権を消滅させ、土地を所有者のいない状態にするものである。民法第239条第2項は、所有者のいない不動産は国庫に帰属するものとしていることから、土地所有権の放棄が認められるとその土地は国庫に帰属することになり、その点で相続土地国庫帰属制度と類似している。 他方で、土地所有権の放棄は所有者の一方的意思表示により土地を国庫に帰属させるものであるのに対し、相続土地国庫帰属制度では法務大臣による承認を経た土地のみについて国庫への帰属を認めるものである点で異なる。なお、土地所有権の放棄の可否については、現行民法上明文の規定は存在せず、確立した判例も存在していない。 (2) 国への寄付 国が土地の寄付を受けてその所有権を取得することがある。これは法的には、土地所有者と国との間で土地について贈与契約(民法第549条)を締結したものと評価される。国への寄付では、契約当事者の意思表示により土地の所有権が移転するのに対し、相続土地国庫帰属制度では、所定の手続を経ることで法律の規定により国庫に帰属する点で異なる。 (3) 相続の放棄 相続の放棄は、法定相続人が法定の期間内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をすることにより、当初から相続人でなかったものとみなされ、被相続人の権利義務を一切承継しないこととする制度である。 相続の放棄をすると不動産の所有権に限らず一切の権利義務を承継しないことになるのに対し、相続土地国庫帰属制度は相続等により取得した財産のうち特定の土地のみを手放して国庫に帰属させることができる点で異なる。   3 手続の流れ   4 制度を利用するための要件 (1) 承認申請をすることができる者であること (2) 制度を利用できない土地に該当しないこと 国庫への帰属が認められるためには以下の❶及び❷に該当しないことが必要であり、承認申請した土地が以下の❶又は❷に該当する場合には、当該承認申請は却下又は不承認されることとなる。 ❶却下事由に該当する土地(法第2条第3項) ❷不承認事由に該当する土地(法第5条第1項)   5 制度の開始 相続土地国庫帰属法の施行に伴い、令和5年4月27日に相続土地国庫帰属制度は開始される。 (了)

#No. 492(掲載号)
#丸山 洋一郎、松井 知行
2022/10/27

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例76】株式会社スノーピーク「代表取締役社長執行役員山井梨沙の辞任と代表取締役社長執行役員の交代について」 (2022.9.21)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例76】 株式会社スノーピーク 「代表取締役社長執行役員山井梨沙の辞任と代表取締役社長執行役員の交代について」 (2022.9.21)   公認会計士/事業創造大学院大学教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、株式会社スノーピーク(以下「スノーピーク」という)が2022年9月21日に開示した「代表取締役社長執行役員山井梨沙の辞任と代表取締役社長執行役員の交代について」である。代表取締役の異動に関する開示であり(通常は「代表取締役の異動に関するお知らせ」というタイトルにされるが)、「異動の理由」には次のように記載されている。 奇妙な開示である。同社は適時開示の目的をよく理解していないのだろう。   2 個人的な理由だが 代表取締役が個人的な理由により辞任する場合、通常、「異動の理由」には「一身上の都合」と記載されるのみである。今回の開示における辞任理由も個人的な理由のはずだが、わざわざ「当社代表取締役社長執行役員である山井梨沙から、既婚男性との交際及び妊娠を理由として、当社及びグループ会社の取締役の職務を辞任したいとの申し出がありました。」と記載されている。 ENEOSホールディングス株式会社(以下「ENEOS」という)が2022年8月12日に開示した「代表取締役の異動(辞任)に関するお知らせ」においても、「異動(辞任)の理由」は「一身上の都合による」と記載されているのみである。後にマスコミの報道により、女性に対する不適切な行為があったため、辞任したことが明らかになったが、それも、会社内部の事情によるのではなく、あくまで個人的な理由である。 なお、山井梨沙氏(以下「梨沙氏」という)はスズキ株式会社の社外取締役も辞任し、同社は2022年9月21日に「取締役の辞任に関するお知らせ」を開示しているが、その辞任の理由には、当然だが、「本人から一身上の都合による辞任の申し出があったため。」と記載されているのみである。   3 「誹謗中傷」に対して 今回の開示に対しては様々な反響があったようである。スノーピークは、2022年9月24日、自社のホームページ上に「誹謗中傷等に対する法的措置について」を開示し、最初に次のように記載している。今回の開示が招いた「誹謗中傷」に対して法的措置を講じるという。 今回の開示に対して様々な反響が生じることは容易に想像できたはずである。「誹謗中傷等に対する法的措置について」にも、次のように記載されている。それなのに、なぜ「既婚男性との交際及び妊娠」などと記載したのだろうか。 なお、「誹謗中傷等に対する法的措置について」には次のような記載があるが、「叱咤激励」と「誹謗中傷」の線引きについて、同社はどのように考えているのだろうか。まさか同社の関係者によるものは「叱咤激励」で、それ以外は「誹謗中傷」ではあるまい。   4 適時開示の目的 後でマスコミによって報道されるよりも先に開示した方がいいと考えたのだろうか。あるいは、「一身上の都合」と書くと、様々な憶測を呼ぶので、最初から書いてしまおうと考えたのだろうか。いずれにしても、その判断は誤りだった。今回の開示は、あくまで梨沙氏の個人的な問題をスノーピークの問題にしてしまった。 適時開示の目的は、投資家に対して投資判断に資する情報を提供することである。「既婚男性との交際及び妊娠」という記載が投資判断に資するとは思われない。プラスの印象を与えることもない。奇妙な開示を行う会社というマイナスの印象を与えるだけである。 代表取締役が個人的な理由により辞任する場合、その理由について、マスコミが関心を持つことはあっても、投資家が関心を持つことはない。代表取締役が会社内部の事情により異動するのであれば別だが、個人的な理由による場合、投資家にとって重要なのは、異動の事実のみである。そのため、通常、辞任の理由は「一身上の都合」で問題ないのである。 ENEOSは、マスコミの報道があったため、2022年9月21日、自社のホームページ上に「当社元会長に関する一部報道について」を開示し、代表取締役が「不適切な言動に及んだと判断」したため、彼に辞任を求めたのだとしている。具体的な記載を避けているのも、TDnet上にではなく自社のホームページ上に開示しているのも、それが適時開示の対象ではないことを同社が理解しているからだろう。 今回の開示においても、辞任の理由は「一身上の都合」とすべきだった。そして、あくまで梨沙氏個人が「憶測」の対象となるべきだった。どうしても「既婚男性との交際及び妊娠」を言いたいのならば、スノーピークによる開示においてではなく、梨沙氏個人の立場で公表すべきだった。   5 何を反省? 「誹謗中傷等に対する法的措置について」には、「ご叱責を頂いており、当社は、これを真摯に受け止め、深く反省する所存です」という記載がある。スノーピークは何を反省するのだろうか。奇妙な開示を行ったことだろうか、あるいは、梨沙氏が辞任したことだろうか。奇妙な開示を行ったことを反省するのならば、理解できるが、梨沙氏が辞任したことだとしたら、理解し難い。梨沙氏の辞任は個人的な理由によるもので、同社とは無関係である。同社による反省の対象とはならない。 また、今回の開示には、「本件を重く受け止め、代表取締役会長執行役員山井太から役員報酬3ヶ月分の20%を、代表取締役副社長執行役員高井文寛から役員報酬3ヶ月分の10%を自主返上したいとの申し出があり、当社としてこれらの申し出を受理することを決定いたしました」という記載があるが、これも理解し難い。梨沙氏は個人的な理由により辞任したのに、なぜ山井太氏と高井文寛氏が報酬を自主返上しなければならないのだろうか。 山井太氏は梨沙氏の父親であるため、責任を感じたのだろうか。そうだとしたら、高井文寛氏にとってはいい迷惑であるし、そもそも上場会社における経営にそうした感情を持ち込むこと自体が問題である。 あるいは、個人的な理由により職を途中で投げ出すような人物を代表取締役に選定したことに責任を感じたのだろうか。そうだとしたら、代表取締役の選定は取締役会で行うのだから、取締役全員が報酬を自主返上すべきである。   6 反省すべきは 今回の開示からわかることは、スノーピークが、上場会社でありながら、山井家のファミリー企業としての意識が抜け切れていない会社だということである。山井家としての情報発信とスノーピークとしての情報発信、山井家の責任とスノーピークの責任、それらが峻別されず、混同されている。 反省するならば、その点である。確かに山井家は依然として同社の多くの株式を所有しているようだが(第58期有価証券報告書)、同社の所有者は山井家だけではない。上場した以上、ファミリー企業としての意識は捨て去らなければならない。それが無理ならば、上場すべきではない。 そのことに気付かないと、今後また、同社は今回のような奇妙な開示を行ってしまうだろう。 (了)

#No. 492(掲載号)
#鈴木 広樹
2022/10/27

プラス思考の経済効果 【第8回】「大谷翔平選手の経済効果」

プラス思考の経済効果 【第8回】 「大谷翔平選手の経済効果」   関西大学名誉教授・大阪府立大学名誉教授 宮本 勝浩   1 はじめに 2022年もロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手は大活躍をしています。9月27日現在で、打者として打率2割7分1厘、ホームラン34本、打点93、盗塁11、投手として14勝8敗、防御率2.47、奪取三振203と、二刀流としては伝説のベーブ・ルースを超える活躍をしています。そして、今年も昨年に続きアメリカンリーグの最高殊勲選手(MVP)の有力候補です。しかし、今年はヤンキースのアーロン・ジャッジ選手がベーブ・ルースのホームラン記録を超える61本(9月28日)を打つ大活躍をしていて、大谷選手のMVPの強敵となっています。 今回は、日米でブームを巻き起こしている大谷選手の経済効果を紹介しましょう。なお、今年はシーズン途中ですので、本稿での金額は昨年の数値です。   2 大谷選手の経済効果 大谷選手のアメリカと日本国内における直接効果の項目を次のように仮定します。   3 アメリカ国内の直接効果の推計 (1) 球場における観客増加による消費額 エンゼルス関係者の話では、大谷選手の出場する試合は以前と比較すると平均3,000人の観客が増えているとのことですので、本稿ではエンゼルスのホームゲームでは1試合につき約3,000人、ビジターでは約1,500人の観客が増加すると仮定します。MLBの試合数162試合で、ホームゲームとビジターを半分ずつとすると、ホームゲームでは約24万3,000人、ビジターでは約12万1,500人、合計約36万4,500人の観客が増加することになります。 次に、これらの増加した観客の消費額を計算します。アメリカの「マネーワイズ」が2019年に発表した「ファンにとって最も高額なメジャーリーグの球場」の特集では、全球場の平均消費額は4人家族で234.38ドル(当時の為替レートで約2万5,030円)でした。これには、チケット代、駐車場代、4人分の飲み物とホットドッグ代などが含まれています。この金額を参考にすると、大谷選手のファン増加による消費額は約22億8,086万円となります。 (2) 大谷選手によるMLBの放映権収入 MLBでは全国ネットの放映権は、各球団の収入ではなくMLBの収入になり、それらは全球団に配分されます。 本稿では日本のNHKとMLBの契約を見てみましょう。ウォール・ストリート・ジャーナルによりますと、日本のNHKとMLBとの放送権の契約は2004年~2009年の6年間で総額2億7,500万ドル(年平均約4,600万ドル:当時の為替レートで約49億8,000万円)でした。現在では正確な金額は不明ですが、毎日のように日本選手の活躍がNHKで放映されていることを考えれば、かなりの金額がMLBに支払われていると想定できます。MLBの要求はかなり厳しいので筆者は現在では少なくとも年平均約8,000万ドルがMLBに支払われていると想定しています。そして、そのほとんどが大谷選手の放映であることを考えれば、大谷選手の活躍を放送するためにNHKがMLBに支払う放送料の半分の約4,000万ドル(上記当時の為替レートで約44億円)の価値があると考えてもいいでしょう。 (3) 大谷選手の年俸 大谷選手の年俸はその成績から考えると非常に低いと言われています。一昨年大谷選手が結んだ契約は、2年間総額850万ドル(当時の為替レートで約9億3,500万円)で、2021年の年俸はたった300万ドル(当時の為替レートで約3億3,000万円)でした。アメリカの「Bleacher Report」は、2021年の大谷選手は現在もらっている年俸の10倍の価値(3,000万ドル:当時の為替レートで約33億円)があると述べています。大谷選手の年俸は、彼の生活のための消費に使われ、さらに残額は預金されるでしょう。金融機関に預けられた預金は金融機関により投資に使われます。したがって、大谷選手の年俸は経済効果の直接効果になるのです。 (4) アメリカにおける大谷選手のグッズの売上高 本拠地のエンゼル・スタジアムでの大谷選手のグッズの売れ行きは、驚くほど好調であるとのことです。エンゼルスの商品販売担当のエリック・アースア・ゼネラルマネージャーによると、「選手のグッズの売上げは対前年比で8%であれば「アメ-ジング(素晴らしい)」との評価を受けるが、大谷選手のグッズの売上げは2桁の伸びであった」と述べています。 本稿ではエンゼル・スタジアムに足を運ぶファンの約5%がオオタニグッズを購入すると仮定します。エンゼルスは年平均ホームゲームで約302万人のファンを集めるので、約15万1,000人のファンが何らかのオオタニグッズを購入すると仮定します。そして、オオタニグッズの平均価格を約8,000円とすると、オオタニグッズの売上げは約12億800万円となります。 (5) 大谷選手のスポンサー契約料 昨年、エンゼルスのジョン・カーピーノ球団社長は「オオタニと契約して日本の6企業と新しいスポンサー契約を結んだ」と述べています。日本の場合では、大谷選手のスポンサー契約は1社当たり約1億円ですので、その金額を仮定すると約6億円になります。 (6) アメリカ国内の直接効果の合計 以上の計算からアメリカ国内の直接効果の合計金額は約88億1,886億円となります。   4 日本国内の直接効果の推計 続いて、日本における大谷選手の直接効果を推計しましょう。 その結果、日本における大谷選手の直接効果は約17億円となります。   5 大谷選手の経済効果の計算 これまで計算してきた直接効果に基づいて経済効果を計算します。今回は最新のアメリカの産業連関表を入手することができなかったので、日本の産業連関表を参考にして経済効果を求めます。アメリカと日本では、産業構造は少し異なりますが、先進国としては一番類似した産業構造をしている上に、財政乗数もほぼ同じです。内閣府作成の日本の最新の全国産業連関表を用いても誤差は少ないと考えられますので、2015年の内閣府作成の「全国産業連関表」を用いて、これまで計算してきた直接効果約105億1,886万円(約88億1,886万円+約17億円)の経済効果を計算すると、次のように約227億2,074万円となりました(詳しい計算式については割愛します)。 〈大谷選手の経済効果〉   6 まとめ 本稿では、大活躍しているロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手の経済効果を分析して約227億2,074万円の経済効果があることがわかりました。これは驚くべき金額です。 例えば、2011年の中日ドラゴンズ優勝の経済効果は約219億円(共立経済研究所試算)、2013年の東北楽天ゴールデンイーグルス優勝の経済効果は約230億円(宮本研究室試算)であったことから考えれば、大谷選手1人で約227億円の経済効果をもたらすことになれば、いかに大谷選手が偉大な選手であるかということがわかるでしょう。 2022年~23年には、年俸のアップ、アメリカのインフレ、為替の円安などでさらに大きな経済効果が期待されるでしょう。 (了)

#No. 492(掲載号)
#宮本 勝浩
2022/10/27

《速報解説》 金融庁、令和4年公認会計法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表~合わせて会計士協会からは協会制度変更要綱案が示される~

《速報解説》 金融庁、令和4年公認会計法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表 ~合わせて会計士協会からは協会制度変更要綱案が示される~   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 2022(令和4)年10月21日、金融庁は、令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等を公表し、意見募集を行っている。 これは、2022(令和4)年5月11日に成立した「公認会計士法及び金融商品取引法の一部を改正する法律」(令和4年法律第41号)の施行に伴い、関係政令・内閣府令等の規定の整備を行うものである。 意見募集期間は2022年11月21日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等 1 上場会社等監査人登録制度に係る規定の整備 2 監査法人の社員の配偶関係に基づく業務制限に係る規定の整備 監査法人の社員が被監査会社等の役員等と配偶関係を有する場合に、監査法人の業務が制限されることとなる社員の範囲等を定める。 3 その他 4 施行期日等 パブリックコメント終了後、所要の手続を経て公布、施行(2023(令和5)年4月1日)の予定である。 経過措置が規定される予定である。   Ⅲ 日本公認会計士協会の「公認会計士法改正に関連する協会制度変更要綱案」(公開草案) 1 主な内容 2022年10月21日、日本公認会計士協会は、「公認会計士法改正に関連する協会制度変更要綱案」(公開草案)を公表し、意見募集を行っている。 これは、前述の公認会計士法の改正による改正項目のうち、日本公認会計士協会の会則等を変更する必要のあるものに関して、その制度変更の方向性について取りまとめたものである。 なお、公開草案は、上述の令和4年公認会計士法等改正に係る政令・内閣府令案等を踏まえたものである。 公開草案は次の項目を取り上げている。 意見募集期間は2022年11月4日までである。 2 適用時期等 2022年改正公認会計士法は、公布の日(2022年5月18日)から起算して1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行される。変更規定は、経過措置を含め法令の施行に従う。 (了)

#阿部 光成
2022/10/25
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