《速報解説》 会計士協会、監基報720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」の適用を踏まえた会社法監査等のスケジュールの検討を会員に促す ~実務の参考となるスケジュール検討例も掲載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月22日、日本公認会計士協会は、会員向けに、「監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」の適用を踏まえた会社法監査等のスケジュールの検討について」を公表した。 2020年11月6日付けで監査基準が改訂されたことを受け、監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」(以下「監基報720」という)が改正され、2022年3月決算に係る財務諸表の監査から適用となる。 そのため、今後、会社法監査のスケジュールの検討が必要となる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 「その他の記載内容」と会社法監査 「その他の記載内容」とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書を除いた部分の記載内容のことである。 監基報720では、「その他の記載内容」に対する監査人の作業を明確にするとともに、監査報告書に必要な記載を求めることとしており、従来以上の対応が必要になると考えられる。 会社法監査において、「その他の記載内容」は事業報告及びその附属明細書となる。 従来と同様に、事業報告及びその附属明細書は、会計監査人の監査対象ではないが、監基報720では、監査人は監査意見を表明しない場合を除いて、「その他の記載内容」に対する作業の結果を監査報告書に記載することとされている。 そのため、会社法監査において、会計監査人は次のことに注意が必要と考えられる。 「会社法監査のスケジュール検討例」も記載されているので、実務に役立つものと思われる。 (了)
《速報解説》 電話加入権の評価方法を見直す改正評価通達が公表される ~令和3年1月1日以後の相続等から適用~ Profession Journal編集部 既報のとおり国税庁が4月20日付けでパブリックコメントに付していた財産評価基本通達の改正案が、6月22日に確定、公表された(パブコメからの変更点なし)。 今回の改正通達では、現下の社会経済の実態等を踏まえ、電話加入権の評価方法(評基通161)が大きく見直された。改正前は①取引相場のある電話加入権の価額は課税時期における通常の取引価額に相当する金額によって評価し、②それ以外の場合は売買実例価額等を基として、電話取扱局ごとに国税局長の定める標準価額によって評価するとされ、この「標準価額」は国税庁の財産評価基準ページで確認できるが、全国一律1,500円とされていた。 改正後は、①②の区分がなく、「電話加入権の価額は、売買実例価額、精通者意見価格等を参酌して評価する。」こととされる(改正評基通161)。 (※) パブコメの概要では、「申告に当たっては、財産評価基本通達128により一括評価する家庭用動産等(1個又は1組の価額が5万円以下のもの)に、電話加入権を含めることとして差し支えないものとする予定」と記載されていた(下記〔追記〕を参照)。 さらに、「1番から10番まで若しくは100番のような呼称しやすい番号又は42番、4989番のような誰もが嫌がる番号」といった特殊な番号の電話加入権の評価について定めた財産評価基本通達162は削除された。 改正通達では他に、都市計画道路予定地の区域内にある宅地の評価(評基通24-7)について、容積率の区分の整理及びこれに伴う補正率の見直しが行われている(詳細はこちら)。 今回の改正通達は令和3年1月1日以後に相続、遺贈又は贈与により取得した財産の評価及び令和3年分以後の地価税の課税価格の計算の基礎となる土地等の評価について適用される。遡及適用となっている点、留意されたい。 (了) ↓お勧め連載記事↓
《速報解説》 ASBJ、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」の確定を公表 ~公表に伴い適用指針の理解を助けるフローチャートも合わせて記載~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月17日、企業会計基準委員会は、「時価の算定に関する会計基準の適用指針」(改正企業会計基準適用指針第31号)を公表した。これにより、2021年1月18日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 これは、投資信託の時価の算定と貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価について取扱いを示すものである。 「公表にあたって」では、「別紙1 投資信託財産が金融商品である投資信託の時価に関するフローチャート」及び「別紙2 投資信託財産が不動産である投資信託の時価に関するフローチャート」が記載されており、適用指針の理解に資するものと思われる。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 投資信託財産が金融商品である投資信託の取扱い 「時価の算定に関する会計基準」(企業会計基準第30号)5項に定める時価の定義により、金融商品取引所(それに類する外国の法令に基づき設立されたものを含む)に上場しており、その市場が主要な市場となる投資信託で、その市場における取引価格が存在する場合、当該価格が時価になると考えられる(49-2項)。 市場における取引価格が存在しない場合について、次に述べるように規定している。 1 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約又は買戻請求に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合(24-2項) なお、24-2項の取扱いを適用し、基準価額を時価とする場合、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がなく、当該基準価額により解約等ができることで、第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであると判断することができる(24-6項)。 2 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合(24-3項) 投資信託財産が金融商品である投資信託について、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合、次のいずれかに該当するときは、基準価額を時価とみなすことができる。 次の規定に注意する。 Ⅲ 投資信託財産が不動産である投資信託の取扱い 市場価格のない投資信託財産が不動産である投資信託について、金融商品会計基準に従い、一律に時価をもって貸借対照表価額とすることで会計処理を統一している(49-10項)。 市場における取引価格が存在しない場合について、次に述べるように規定している。 1 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がない場合(24-8項) なお、24-8項の取扱いを適用し、基準価額を時価とする場合、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がなく、当該基準価額により解約等ができることで、第三者から入手した相場価格が会計基準に従って算定されたものであると判断することができる(24-11項)。 2 市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合(24-9項) 投資信託財産が不動産である投資信託について、市場における取引価格が存在せず、かつ、解約等に関して市場参加者からリスクの対価を求められるほどの重要な制限がある場合、基準価額を時価とみなすことができる。 次の規定に注意する。 Ⅳ 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資の時価の注記に関する取扱い 貸借対照表に持分相当額を純額で計上する組合等への出資(「金融商品会計に関する実務指針」(会計制度委員会報告第14号)132項、308項)については、金融商品時価開示適用指針4項(1)に定める事項の注記を要しないこととし、その場合、他の金融商品における金融商品時価開示適用指針4項(1)の注記に併せて、所要の注記を行う(24-16項)。 Ⅴ 適用時期等 (了)
2021年6月17日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.424を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
日本の企業税制 【第92回】 「税務に関するコーポレートガバナンスの充実」 一般社団法人日本経済団体連合会 経済基盤本部長 小畑 良晴 〇コーポレートガバナンス・コードの改訂 東京証券取引所は、6月11日、コーポレートガバナンス・コードの改訂に係る有価証券上場規程の一部改正を行い、同日より施行することを公表した。 今回の改訂の主なポイントは以下の通りである。 第1に取締役会の機能発揮に関して、①プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任(必要な場合には、過半数の選任の検討を慫慂)、②指名委員会・報酬委員会の設置(プライム市場上場企業は、独立社外取締役を委員会の過半数選任)、③経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表、④他社での経営経験を有する経営人材の独立社外取締役への選任、が求められている。 第2に、企業の中核人材における多様性の確保に関して、①管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定、②多様性の確保に向けた人材育成方針・社内環境整備方針をその実施状況とあわせて公表、が求められている。 第3にサステナビリティを巡る課題への取組みに関して、①プライム市場上場企業において、気候関連財務情報タスクフォース(TCFD) 又はそれと同等の国際的枠組みに基づく気候変動開示の質と量を充実、②サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示することが盛り込まれた。 上場会社は、遅くとも本年12月までに、この改訂コーポレートガバナンス・コードに沿ってコーポレートガバナンス報告書の提出を行うことが必要である。ただし、プライム市場上場会社のみに適用される原則等に関しては、東京証券取引所において新市場区分の適用が開始となる2022年4月以降に開催される各社の株主総会の終了後遅滞なくこれらの原則等に関する事項について記載したコーポレートガバナンス報告書を提出するよう求められることとなる。 〇英国における税務コーポレートガバナンス コーポレートガバナンス・コードは2015年に制定されて以降、2018年の改訂に次いで今回は2回目の改訂となった。これらの改訂を経て、上場会社が考慮すべき事項は質・量ともに充実され、例えば、独立社外取締役については、制定当初は2名以上選任すべきこととされていたのが今回3分の1以上と変更された。その背景には、実際にかなりの数の上場企業がすでに3分の1以上となっているということもある。 わが国のコーポレートガバナンス・コードの制定にあたり1つの参考とされたのが英国のコーポレートガバナンス・コードであったが、英国では、税務に関するコーポレートガバナンスも早くから制度化が進められてきた。 特にその中核となっているのが税務戦略の開示義務である。この開示義務の対象には、英国企業(単体・グループ)のみならず、多国籍企業グループに属する従属英国企業も含まれている。開示すべき税務戦略の内容としては、①税務リスクの管理に関する方針、②自社の許容する税務リスク、③タックスプランニングに係る方針、④税務当局との協力、の4点について言及する必要がある。 〇わが国における税務コーポレートガバナンス わが国の国税庁においても、税務に関するコーポレートガバナンスの充実に向けた取組みは2011年以来行われてきた。2016年には企業の自発的な税務コーポレートガバナンスの充実に向けた取組みを後押しするための事務運営指針等が公表され、その後、改訂も行われてきた。 その背景には、大企業の税務コンプライアンス(納税者が納税義務を自発的かつ適正に履行すること)の維持・向上には、トップマネジメント(法人の代表取締役、代表執行役のほか、法人の業務に関する意思決定を行う経営責任者等)の積極的な関与・指導の下、大企業が自ら税務に関するコーポレートガバナンスを充実させていくことが重要、かつ、効果的であるという考え方がある。 具体的な取組みとしては、国税局所管の特別国税調査官が所掌する法人(約500社)を対象に、税務調査の機会において、対象法人に「税務に関するコーポレートガバナンス確認表」の記載を依頼し、その確認及び判定を行い、また、トップマネジメントと面談を行い、調査結果の概要を説明し、その是正事項の再発防止に向けた取組みを含め、税務に関するコーポレートガバナンスについて、改善が必要な箇所に関して、効果的な取組事例を紹介しつつ、意見交換を実施している。 また、税務に関する状況が良好であり調査必要度が低いと判定された法人については、調査が行われない事業年度において、申告済の事業年度における重要度の高い取引等の処理(組織再編(合併、分割、事業譲渡等)の処理、売却損、譲渡損、除却損、評価損等の損失計上取引の処理)で、金額が多額なものを自主的に開示し、当局がその適正処理を確認すること等を条件に次回の調査時期が1年以上延長されるなどの措置も講じられている。この調査時期の延長等の対象となっている法人数は、令和元事務年度で97社となっている。 デジタル課税をはじめとする国際課税ルールが大きく変化し、また国内法でもBEPSプロジェクトを踏まえたCFC税制の見直しなどが行われる中、国際的な税務対応のボリュームは従来とは比較にならないぐらい増大し、それに伴い税務リスクも高まっていることから、今後ますます税務に関するコーポレートガバナンスの整備は企業にとって重要性を増すものと考えられよう。 (了)
令和3年度税制改正における 固定資産税の宅地の負担調整措置 税理士 菅野 真美 1 固定資産税とは 固定資産税は、毎年1月1日(賦課期日)に土地、家屋、償却資産を所有している者が、固定資産の価格に基づいて算定された税額を固定資産が所在する市町村(東京都特別区については東京都)に納める税金である(地法341、342①、343①、359、都税条例3③二)。 土地については、賦課期日における土地の価格が課税標準額となることが原則であるが(地法349)、宅地のうち住宅用地の場合で一般住宅用地又は小規模住宅用地の要件を満たしたときは、価格に1/3又は1/6(住宅用地特例率)を乗じた額が課税標準額となる(地法349の3の2①②)。 2 土地の価格と価格の修正 土地の価格は、原則的には、公示価格等の7割を目途として算定された価格である(固定資産評価基準第1章12節一)。評価額の基礎となる路線価も公開されている。土地や、家屋の価格については、相続税の路線価のように毎年公表され、価格が増減するようなものではなく、3年に一度の評価替えが行われ、原則的には、基準年度(地法341六)の価格が据え置かれる(地法349①②③)。基準年度の価格は、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日の価格に基づいて算定される(固定資産評価基準第1章12節一)。直近の基準年度は令和3年度であり、令和3年度の価格は令和2年1月1日時点の価格に基づいて算定される。 しかし、昨今の新型コロナウイルス感染症による景気の停滞から地価が下落した地域もあり、この場合、令和3年分の価格を据え置くことが妥当でない場合においては、令和4年度、令和5年度の価格を修正することとされている(地法附則17の2)。 なお、令和4年度又は令和5年度における土地の価格に関する修正基準(以下「修正基準」という)が、令和3年7月1日付総務省告示第220号をもって告示された。 修正基準においては、令和2年1月1日時点の価格に修正率を適用することとしているが、既に下落修正を行っている宅地については、その価格にその後の地価下落率を乗じる方法によっても差し支えないとされている。 3 負担調整措置 宅地等の固定資産税の評価水準について市町村ごとにばらつきがあったことから、平成6年度に7割評価が実施された。また、平成9年度の評価替えで地域や土地によるばらつきのある負担水準(当年度の評価額に対する前年度課税標準額の割合)の均衡化を重視する負担調整措置が設けられた。これは負担水準の高い土地は税負担を引き下げ又は据え置き、負担水準の低い土地はなだらかに税負担を上昇させることで負担水準の幅を狭めるという考え方に基づくものである。 その後、その時々の状況に応じて改正を繰り返しながらも基本的な考え方は変わっていない。そのため、地価が下落しているのに税額が上がるという現象が起こる場合もある。 4 令和3年度の固定資産税の負担調整措置 令和3年度は評価替えの年で、原則的には、令和2年1月1日の固定資産税評価額に基づいて固定資産税を計算し、その価額が3年間継続されることになるが、令和3年度の税制改正で、令和3年度については、新型コロナウイルス感染症による社会経済活動の大きな変化と、納税者の負担感に配慮して下記のように取り扱うこととされた。 (1) 宅地のうち商業地等 商業地等の課税標準額は、負担水準(当年度の評価額に対する前年度課税標準額の割合)(※)が70%を超える場合は、固定資産税評価額の70%相当額に税率を乗じて計算し(地法附則18⑤)、負担水準が60%以上70%以下の場合は、前年度の課税標準額に据え置くルールが以前からあることから(地法附則18④)、令和3年度については、負担水準が60%未満の場合も、前年度の課税標準額に据え置くこととされた(地法附則18①)。 (※) 負担水準 = 前年度の課税標準額 ÷(当年度の固定資産税評価額 × 課税標準の特例率)× 100(地法附則17八イ) つまり、固定資産税の課税標準額が前年度より上がった場合は、前年度の課税標準額に据え置き、下がった場合は「当年度の固定資産税評価額 × 70%」を当年度の課税標準額とする。 (2) 宅地のうち住宅用地等 住宅用地等は、通常は固定資産税評価額に住宅用地特例率(1/3又は1/6)を乗じて課税標準額を算定するが、令和3年度については、「前年度の課税標準額 < 当年度の課税標準額」の場合は、前年度の課税標準額に据え置く(地法附則18①)。 つまり、固定資産税の課税標準額が前年度よりも上がった場合は、前年度の課税標準額に据え置き、下がった場合は当年度の固定資産税評価額に基づき当年度の課税標準額を算定する。 5 令和4年度、令和5年度の固定資産税の負担調整措置 (1) 宅地のうち商業地等 令和4年度、令和5年度の商業地等の課税標準額は、従来の負担調整措置と同じ算式で計算する。負担水準が70%を超える場合は、固定資産税評価額の70%相当額に税率を乗じて計算し(地法附則18⑤)、負担水準が60%以上70%以下の場合は、前年度の課税標準額に据え置く(地法附則18④)。そして、60%未満の場合の課税標準額は、「前年度の課税標準額 + 当年度の評価額 ×5%」を原則とする(地法附則18①)。 ただし、計算した額が当年度の評価額の60%を超える場合は評価額の60%相当額(地法附則18②)、評価額の20%に満たない場合は評価額の20%相当額が課税標準額となる(地法附則18③)。 (2) 宅地のうち住宅用地等 令和4年度、令和5年度の住宅用地等の課税標準額は、従来の負担調整措置と同じ算式で計算する。 「当年度の課税標準額(当年度の評価額 × 住宅用地特例率)」と、「前年度の課税標準額 + 当年度の課税標準額(当年度の評価額 × 住宅用地特例率)× 5%」のいずれか低い額となる(地法附則18①)。 ただし、計算した額が「当年度の評価額 × 住宅用地特例率」の20%に満たない場合は、「当年度の評価額 × 住宅用地特例率」の20%相当額が課税標準額となる(地法附則18③)。 6 条例による減額制度の延長 固定資産税の負担を緩和するための条例で定めることができる次の(1)及び(2)の制度の適用期限を3年間(令和5年度まで)延長する。 (1) 税負担急増土地に係る条例減額制度 これは、当年度の住宅用地、商業地等の固定資産税額が前年度の課税標準額に“1.1以上で条例において定める率” (※)に税率を乗じて算定した額を上回る場合は、その上回る額を減額する制度である(地法附則21の2)。 (※) 東京都23区内の住宅用地や商業地等については条例で1.1と定められている(都税条例附則15の3)。 (2) 商業地等に係る条例減額制度 これは、商業地等については、固定資産税評価額の70%を課税標準額として固定資産税を算定しているが、この上限を60%から70%の範囲で、条例で定める率まで下げて固定資産税額を算定し差額を減額する制度である(地法附則21)。 また、東京都23区内の商業地等については、上限を65%に減額するとされている(都税条例附則15の2)。 なお、都市計画税についても負担調整措置があり、令和3年度の税制改正で固定資産税と同様の改正が行われている。 (了) ↓お勧め連載記事↓
相続税の実務問答 【第60回】 「相続開始の年に被相続人から贈与を受けた場合の贈与税の申告(相続又は遺贈により財産を取得する場合)」 税理士 梶野 研二 [答] 被相続人から相続開始の年に財産の贈与を受けた場合、その贈与を受けた人が、その被相続人からの相続又は遺贈により財産を取得した場合には、その贈与により取得した財産の価額は、相続税の課税価格に加算され、贈与税の課税価格には算入されません。 したがって、今年の4月にお亡くなりになられたお父様からその遺産の2分の1を相続することとなったあなたが今年の2月にお父様から贈与を受けた現金300万円については、贈与税の申告をする必要はありません。 ※画像をクリックすると、別ページで拡大表示されます。 ● ● ● ● ● 説 明 ● ● ● ● ● 1 贈与税の申告義務と相続税における相続開始前3年以内の贈与加算の関係 贈与により財産を取得した者は、その年中に贈与により取得した価額の合計額から贈与税の基礎控除額を控除し、贈与税の税率を適用した結果贈与税が算出される場合(在外財産に対する贈与税額の控除(相法21の8)が適用される場合にはその控除後の金額)には、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日の間に贈与税の申告書を納税地の税務署長に提出しなければなりません(相法28①)。 ところで、被相続人から相続又は遺贈により財産を取得した者が、当該被相続人の相続開始の日前3年以内に当該被相続人から財産の贈与を受けた場合には、相続税法第19条第1項の規定により当該贈与財産の価額は、相続税の課税価格に加算されるとともに、当該財産の贈与に対して課された贈与税額は相続税額から控除することとされています。 一方、相続又は遺贈により財産を取得した者が相続開始の年に当該相続に係る被相続人から贈与により取得した財産の価額で相続税法第19条の規定により相続税の課税価格に加算されるものは、贈与税の課税価格に算入しないこととされています(相法21の2④)。 被相続人からの生前贈与については贈与税の課税価格に算入しない旨の上記の相続税法第21条の2第4項の規定(以下「贈与税の非課税規定」といいます)のポイントは次のとおりです。 (※) 贈与税の課税制度は、①暦年課税方式と②相続時精算課税方式の2つの制度があります。今回の設例は、そのうちの暦年課税方式を前提としたものです。相続時精算課税制度における特定贈与者であった被相続人から贈与を受けた財産(相続時精算課税が適用される財産)の価額については、相続税法第19条の規定は適用されませんが、相続税法第21条の15第1項及び同法第21条の16第1項の規定により相続税の課税対象とされます。 特定贈与者である被相続人からの贈与により相続時精算課税適用者が財産を取得した場合において、当該特定贈与者がその贈与をした年の中途において死亡したときは、その贈与により取得した財産の価額については、相続税法第21条の2第4項の規定は適用されませんが、贈与税の申告は提出する必要はありません(相法28④)。詳しくは、別の回で説明します。 2 ご質問の場合 あなたは、令和3年2月にお父様から300万円の贈与を受けましたので、この贈与について(このほかに令和3年中に贈与を受けた財産があれば、その価額も合計したところで)、令和4年2月1日から3月15日までの間に贈与税の申告を行い、算出された贈与税を納付しなければならないはずでした。 しかしながら、お父様が令和3年4月にお亡くなりになり、あなたはその相続によりお父様の財産を相続することとなりました。 したがって、あなたが、お父様の相続開始前3年以内の令和3年2月にお父様から贈与された300万円は、相続税法第19条第1項の規定により相続税の課税価格に加算されますが、相続開始の年である令和3年中に受けた贈与ですから、相続税法第21条の2第4項の規定により、贈与税の申告は必要ありません(もちろん、お父様からの贈与のほかに贈与税の基礎控除額を超える贈与を受けている場合には、その贈与については、贈与税の申告が必要です)。 (了)
〈ポイント解説〉 役員報酬の税務 【第27回】 「子会社を吸収合併する場合の役員報酬に関する対応」 税理士 中尾 隼大 ○●○● 解 説 ●○●○ (1) 合併における臨時改定事由の該当性 本件の事例のように、経営基盤の強化等を目的として、親会社が子会社を吸収合併するケースは多い。この場合において、親会社の役員がその担当領域における専門的知識や経験を子会社に共有すべく、子会社の役員を兼ねることは往々にしてあるため、グループ内合併においては税務上の役員給与の論点に気を払う必要がある。 この場合、特に問題となるのが臨時改定事由該当性の判断である。すなわち、上記事例において、合併が定時改定時期以外に行われ、合併後の役員報酬額を150万円とする場合に、合併法人において臨時改定事由に該当し、改定前・改定後の役員報酬額がそれぞれ定期同額給与に該当するのかという問題である。 この点、法人税法施行令69条1項1号ロでは、「臨時改定事由」を以下のように規定している。 また、下線部分の「その他これらに類するやむを得ない事情」の例示として、法人税基本通達9-2-12の3は以下のように示している。 この通達は、「合併法人と被合併法人の役員を兼任していた場合に、合併が臨時改定事由に該当するため、合併後は役員給与額を合算してよい」とダイレクトに示しているものではない。しかし、上記のような事例において、合併により子会社の事業内容が親会社に引き継がれたことを受け、当該役員が子会社で担っていた職務を引き続き担うような事情があるのであれば、臨時改定事由に該当すると判断して差し支えないと考えられる。したがって、合併を受けて役員報酬額を改定することで、改定前・改定後のそれぞれが定期同額給与に該当することとなる。 この場合、仮に、合併法人となる親会社が当該役員を対象として事前確定届出給与を支給することを予定していたとしても、合併を理由とする臨時改定事由に該当するとして、「事前確定届出給与に関する変更届出書(以下、「変更届出書」)」を提出することが可能である(法令69⑤)。さらに、被合併法人側で「事前確定届出給与に関する届出書(以下、「届出書」)」を提出し、合併法人側では提出していない場合であっても、合併後、合併法人側にて臨時改定事由に該当するとして届出書を新たに提出することも可能である(法令69④二)(※1)。 (※1) 【第17回】の解説で臨時改定事由に係る届出書提出期限を割愛したためここで触れると、多くの場合、臨時改定事由に係る届出書の提出期限は、当該臨時改定事由により事前確定届出給与に関する定めをすることを前提として、当該臨時改定事由が生じた日から1月を経過する日までである(法令69④)。変更届出書についても1月という期限は同様である(法令69⑤二)。 (2) 実務上の対応 ① 日割り計算による未払計上の不可 役員報酬額については、いわゆる日割り計算は不要である。これは、役員と会社は委任関係にあり(会社法329、330)、有償の委任契約の存在により、役員が会社に報酬を求めることにある(詳細は【第10回】参照)。役員が報酬を請求するという前提に立てば、その債務が確定するのは計算期間満了時となるためであり(※2)、翻せば計算期間が満了していなければ、日割り計算が認められないこととなる。 (※2) 同旨の解説として、櫻井光照『役員の法務と税務』(大蔵財務協会、2017)291頁がある。 したがって、一方では被合併法人の7月26日~7月31日分は役員報酬を支給するべきではなく、他方では合併法人の同期間を含む計算期間の役員報酬額は増額するが同期間中の職務内容は事実上変更がないということとなる(以下②中の図表参照)。 この点、実務上、役員給与の定期同額性を保つため、被合併法人側の同期間において「支給をしない」という対応に加え、「1月分全額支給する」という便宜的な対応や解説も散見されるところである。 ② 未払計上すべき場合と留意点 上記の通り、役員報酬に日割り計算が認められない以上、日割り計算による役員報酬額の未払計上は認められない。したがって、支給日が合併の効力発生日前であるならば、最終の役員報酬として支給した後に合併を行うこととなる。翻せば、計算期間が満了し、かつ未支給である場合には、役員の手取り額を未払計上すべきである(下図)。 上記事例では給与計算締日が25日であることから、当該報酬の支給日が翌月10日である場合には計算締日までの報酬が被合併法人側で債務として確定し、損益計算書(P/L)に役員報酬として計上した上で貸借対照表(B/S)に未払計上することとなる(※3)。加えて、合併法人となる親会社は、合併により資産及び負債を受け入れるため、未払計上された被合併法人支給分の役員報酬も債務として受け入れた後に役員に支給する。すなわち、合併法人側でP/Lに計上されることはない。 (※3) 【第18回】では、資金繰りに一時的に窮した場合において未払計上する場合を取り上げている。 この場合における当該役員に8月10日に交付する給与明細は、合併法人が発行する給与明細の備考欄等に「被合併法人分」等として内訳を明記し、合併法人分と合算して支給することが一案である。被合併法人は支給日時点で法人格が消滅しており、合併法人がいわば立替払い的な支払いを行うためである。そうすることで、給与明細上は上記のように区分される一方、会計上は合併法人分のみがP/Lに役員報酬として計上され、被合併法人分はB/Sの未払勘定の取崩しとしての取扱いが明確となるため、定期同額給与への該当性について、その信憑性を担保する一助となり得るだろう。 (了)
基礎から身につく組織再編税制 【第29回】 「適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱い」 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 今回は、適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いについて解説します。 1 適格分社型分割を行った場合の資産の受入れ(原則) 分割法人が適格分社型分割により分割承継法人にその有する資産・負債の移転をしたときは、分割直前の帳簿価額で譲渡をしたものとされるため、分割承継法人の移転資産等の取得価額は、分割直前の帳簿価額となります(法法62の3、法令123の4)。 「帳簿価額」とは、税務上の帳簿価額をいうため、税務上否認した金額も含めて受け入れることとなります(法基通12の2-1-1)。 2 適格分社型分割により受け入れた「棚卸資産」の取扱い 棚卸資産の取得価額は、次の金額の合計額となります(法令32④)。 3 適格分社型分割により受け入れた「減価償却資産」の取扱い (1) 受入価額 税務上の帳簿価額で譲渡したこととなるため、税務上否認した金額(償却超過額)を含めた帳簿価額で受け入れます。 (2) 償却限度額の計算の基礎となる取得価額 受け入れる価額とは別に、償却限度額の計算の基礎となる取得価額は、次の金額の合計額となります(法令54①五ロ)。 (3) みなし損金経理 分割法人の償却超過額は、分割承継法人において、過年度に償却費として損金経理した金額として取り扱われます。 分割法人の帳簿価額を減額して受け入れたときも、その減額部分を分割承継法人の過年度の損金経理額とみなすこととされています(法法31④⑤)。 (4) 耐用年数 耐用年数は、中古資産の耐用年数の規定を適用することができますが(耐令3①)、分割法人が中古資産の見積耐用年数によって計算していたときは、その耐用年数によることもできます(耐令3②)。 4 適格分社型分割により受け入れた「繰延資産・一括償却資産」の取扱い (1) 取得価額 減価償却資産と同様に、税務上の帳簿価額で譲渡したこととなるため、税務上否認した金額(償却超過額)を含めた帳簿価額で受け入れます。 (2) みなし損金経理 分割法人の償却超過額は、分割承継法人において、過年度に償却費として損金経理した金額として取り扱われます(法法32④⑥、法令133の2⑨)。 分割法人の帳簿価額を減額して受け入れたときも、その減額部分は分割承継法人の過年度の損金経理額とみなすこととされています(法法32⑦、法令133の2⑩)。 5 適格分社型分割により受け入れた「貸倒引当金」の取扱い 適格分社型分割により分割承継法人が貸倒引当金を分割法人から受け入れた場合は、分割承継法人の分割事業年度の所得金額の計算上、益金の額に算入することとなります(法法52⑪)。 6 所有期間の通算 受取配当等の益金不算入の関連法人株式等の判定、外国子会社配当益金不算入の外国子会社の判定、所得税額控除の配当元本の所有期間の計算において、分割法人が保有していた期間は分割承継法人で保有していたものとみなされます。 7 適格分社型分割により増加する「資本金等の額」 分割承継法人において適格分社型分割により増加する資本金等の額は、次のとおりです(法令8①七)。 ① 加算項目 ② 減算項目 8 適格分社型分割により増加する「利益積立金額」 適格分社型分割において、分割承継法人の利益積立金額は増加しません。 9 具体例 〈分割法人の貸借対照表〉 〔前提〕 〔分割承継法人の受入税務仕訳〕 〇資産・負債 適格分社型分割の場合は、簿価で受け入れることとなります。 〇増加する資本金等の額 移転資産の帳簿価額から移転負債の帳簿価額を減算して計算します。 〇増加する利益積立金額 適格分社型分割の場合には、利益積立金額は増加しません。 ◆適格分社型分割を行った場合の分割承継法人の取扱いのポイント◆ 原則として資産は税務上の帳簿価額で受け入れることとなります。 分割承継法人の資本金等の額は増加しますが、利益積立金額は増加しません。 (了)
居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第34回】 「株主でない会社に対する譲渡」 -特殊関係者に対する譲渡- 税理士 大久保 昭佳 Q Xは、従来から居住の用に供してきた家屋とその土地を、C社に売却しました。 XはC社の株主ではありませんが、Xの妻の父であるWは、C社の株式の80%を所有しています。なお、XとWとは住居も生計も別です。 他の適用要件が具備されている場合、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」を受けることができるでしょうか。 A 「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができます。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある法人などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、Xの妻の父であるWは、Xの親族(1親等の姻族)ではありますが、両者は住居も生計も別ですので、租税特別措置法施行令第26条の7第3項各号に掲げる者ではないことから、C社は法人税法施行令第4条(同族関係者の範囲)第2項に掲げる当該他の会社に該当しません。つまり、C社への譲渡は特殊関係者への譲渡に該当しないことから、特例の適用を受けることができます(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められています(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)。 (了)