《速報解説》 金融庁が「監査に関する品質管理基準の改訂」の公開草案を公表 ~経済社会の変化に対応し、監査事務所による監査の品質管理を見直す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月30日、企業会計審議会監査部会は、「監査に関する品質管理基準の改訂について(公開草案)」を公表し、意見募集を行っている。 これは、経済社会を取り巻く環境変化が加速し、監査業務にも変化が生じていることから、監査事務所において、より積極的に品質管理上のリスクを捉えて、当該リスクに対処する品質管理体制の構築へとするものである。 意見募集期間は2021年7月29日までである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ リスク・アプローチに基づく品質管理システムの導入 リスク・アプローチに基づく品質管理システムとは、監査事務所自らが、品質管理システムの項目ごとに達成すべき品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうるリスクを識別して評価を行い、評価したリスクに対処するための方針又は手続を定め、これを実施することである。 Ⅲ 品質管理システムの構成 品質管理システムの項目ごとの主な改訂点は次のとおりである。 1 監査事務所のリスク評価プロセス 監査事務所の主体的な品質管理を可能とするため、監査事務所に対し、品質管理システムの項目ごとに、品質目標を設定し、当該品質目標の達成を阻害しうる品質リスクを識別して評価を行い、評価した品質リスクに対処するための方針又は手続を定め、実施することを求める。 2 ガバナンス及びリーダーシップ 監査事務所に対し、次のことを求める。 3 職業倫理及び独立性 監査事務所に対し、次のことを求める。 4 監査契約の新規の締結及び更新 監査事務所に対し、次のことを求める。 5 業務の実施 より質の高い監査の実施を可能とするため、監査事務所に対し、次の事項に関する品質目標を設定することを求める。 6 監査業務に係る審査 原則としてすべての監査業務について審査を求めるとともに、品質管理の方針又は手続において、意見が適切に形成されていることを確認できる他の方法が定められている場合には審査を受けないことができることを規定する。 7 監査事務所の業務運営に関する資源 監査事務所に対し、人的資源に加え、テクノロジー資源、知的資源等の業務運営に関する資源の取得又は開発、維持及び配分に関する品質目標を設定することを求める。 8 情報と伝達 監査事務所の内外から適時に情報を収集し、監査事務所の内外と適時に情報の伝達を行うことが重要であるので、情報と伝達に関する品質管理システムの項目を新たに追加する。 9 品質管理システムのモニタリング及び改善プロセス 監査事務所が、監査事務所自身によるモニタリング、改善活動の実施、監査事務所の外部からの検査及びその他の関連する情報から得られた発見事項の評価を行うことを明確化する。 10 監査事務所間の引継 監査事務所に対し、監査事務所間の引継について品質目標を設定し、不正リスク対応基準において求められる引継に関する手続をすべての監査に対して求める。 Ⅳ 監査事務所が所属するネットワークへの対応 監査事務所に対し、品質管理システムにおいてネットワークの要求事項を適用し、又は業務運営に関する資源等を利用する場合には、監査事務所としての責任を理解した上で、適用又は利用することを求める。 Ⅴ 品質管理システムの評価 監査事務所の品質管理システムに関する最高責任者に対し、少なくとも年に一度、基準日を定めて品質管理システムを評価し、当該システムの目的が達成されているという合理的な保証を監査事務所に提供しているかを結論付けることを求める。 Ⅵ 適用時期等 改訂品質管理基準は、2023年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間(公認会計士法上の大規模監査法人以外の監査事務所においては、2024年7月1日以後に開始する事業年度又は会計期間)に係る財務諸表の監査から実施する。 改訂品質管理基準中、品質管理システムの評価については、改訂品質管理基準の実施以後に開始する監査事務所の会計年度の末日から実施することができる。ただし、それ以前の事業年度又は会計期間に係る財務諸表の監査から実施することを妨げない。 (了)
《速報解説》 会計士協会、2020年度の品質管理レビューの概要等を公表 ~今後の行動計画としてKAMの報告への対応、新型コロナに関する対応等を予定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月25日、日本公認会計士協会は、次のものを公表した。 これらは、監査法人又は公認会計士が行う監査の品質管理の状況をレビューする制度(品質管理レビュー制度)に基づくものであり、基本的な対象は、監査法人又は公認会計士である。 しかしながら、これらに記載されている内容については、一般の事業会社における会計処理等にも関連するものがあるので、実務において参考になるものを紹介する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 会計処理等に関連する改善勧告 改善勧告事項は、次の項目から多く発生しているとのことである(「2020年度 品質管理レビューの概要」(本編)、36ページ)。 「会計上の見積りの監査」に関して、次の改善勧告事項が見られたとのことである(「2020年度 品質管理レビューの概要」(本編)、36ページ)。 また、「不正による重要な虚偽表示リスクの識別、評価及び対応」では、「収益認識」や「経営者による内部統制を無効化するリスク」が多かったとのことである(「2020年度 品質管理レビューの概要」(本編)、36ページ)。 具体的には次の改善勧告事項である。 次の事項に関する改善勧告事項が述べられている(「2020年度 品質管理レビュー事例解説集」、13、25、30、31、40、41、43、44、45、46、47、48、50、54、56ページ)。 より具体的な内容は、「2020年度 品質管理レビュー事例解説集」をお読みいただきたい。 Ⅲ 今後の行動計画 次の対応を行うとのことである(「2020年度 品質管理レビューの概要」(本編)、45、46ページ)。 Ⅳ 会計監査人の異動理由 2020年4月1日から2021年3月31日までに生じた会計監査人の異動のうち、2021年4月30日までに前任監査人及び後任監査人から届出書の提出があった103件の会計監査人の異動について、その理由を集計している(「2020年度 品質管理レビューの概要(資料編)」、18、19ページ)。 異動理由として「監査報酬」、「継続監査期間」をあげている例が多い。 一方、後任監査人は、「監査人の対応の適時性や人員への不満」も「継続監査期間」と同程度を異動理由として挙げており、前任監査人及び後任監査人の回答件数が最も大きく乖離しているとのことである。 Ⅴ IFIAR の調査結果 監査監督機関国際フォーラム(以下「IFIAR」という)は、世界各国・地域の監査監督機関から構成された組織である。 IFIARによる「上場会社の監査業務における品質管理の項目別の指摘数」では、次のものがあげられている(「2020年度 品質管理レビューの概要(資料編)」、23ページ)。 公正価値測定を含む会計上の見積りの監査については、指摘数は前年度から減少しているが、前年度同様、整合性のない監査証拠の検討を含む経営者の仮定の合理性を十分に評価していないという指摘がほぼ半数を占めているとのことである(「2020年度 品質管理レビューの概要(資料編)」、23ページ)。 (了)
《速報解説》 監査役協会が監査役監査基準等の今後の改定スケジュールを公表 ~令和元年改正会社法・監査基準及びCGコードの改訂の反映を予定~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月25日、日本監査役協会は、「監査役監査基準等の今後の改定スケジュールについて」を公表した。 これは、次のものを反映させる改定スケジュールを示すものである。 現時点での予定であり、今後の検討状況によって時期が変更となることもあるとのことである。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 改定版の公表時期については次のとおり見込んでいる。 (了)
《速報解説》 会計士協会、「監査報告書に係るQ&A」の改正を公表 ~証券発行に関する文書におけるその他の記載内容の適用範囲等について示す~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2021年6月25日、日本公認会計士協会は、監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の改正を公表した。これにより、2020年10月21日から意見募集されていた公開草案が確定することになる。 「監査基準委員会研究報告第6号「監査報告書に係るQ&A」の公開草案に対するコメントの概要及び対応について」も公表されており、発行市場における「その他の記載内容」の範囲について、海外における資金調達の際に現地国の法令に従って発行される証券発行に関する文書に関するコメントが寄せられている。 「監査報告書に係るQ&A」の改正に関する公開草案は、監査基準委員会報告書720「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」の改正について(改正後の名称:監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」)」等(公開草案)の適合修正として公表されていたものである。 なお、2021年1月14日付で(ホームページ掲載日は2021年2月12日)、監査基準委員会報告書720「監査した財務諸表が含まれる開示書類におけるその他の記載内容に関連する監査人の責任」の改正(改正後の名称:監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」)及び関連する監査基準委員会報告書の改正が公表されている。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な改正内容 主な改正内容は、監査基準委員会報告書720「その他の記載内容に関連する監査人の責任」の改正に伴う、監査報告書におけるその他の記載内容についての解説及び証券発行に関する文書におけるその他の記載内容の適用範囲についてのQ&Aの追加である。 1 その他の記載内容(Q1-1等) 「その他の記載内容」とは、監査した財務諸表を含む開示書類のうち当該財務諸表と監査報告書とを除いた部分の記載内容をいう。 例えば、「Q1-1 従来の監査報告書と新しい監査報告書の変更点及び共通点」では、「その他の記載内容」区分が新設されたことなどが記載されている。 2 証券発行に関する文書におけるその他の記載内容の適用範囲(Q1-8) 我が国における証券発行に関する文書としては、有価証券届出書及び目論見書並びに新規上場申請のための有価証券報告書(Ⅰの部)が存在し、これらの文書には監査した財務諸表及びその監査報告書が含まれる。 このため、これらの文書はいずれも監査基準委員会報告書720の適用対象となると考えられる。 一方、海外における資金調達の際に現地国の法令に従って発行される証券発行に関する文書については、監査基準委員会報告書720の適用対象外になると考えられる。 (了)
《速報解説》 パブコメを経て改正所得税基本通達36-37が確定 ~R1.7.8以後締結分の保険契約等でR3.7.1以後の権利の支給について適用~ Profession Journal編集部 既報のとおり4月28日付でパブコメに付されていた低解約返戻金型保険等の評価に係る所得税基本通達36-37の改正案が、6月25日付で確定、公表された。 なお、改正案からの変更は行われていない。寄せられた意見に対する国税庁の考え方についても下記※ページにおいて示されている。 現行(改正前)は、使用者が役員や従業員に対し保険契約等(生命保険契約若しくは損害保険契約又はこれらに類する共済契約)に関する権利を支給した場合、支給時において保険契約等を解約した場合に支払われることとなる解約返戻金の額で評価する取扱いとされている。 ただし、「低解約返戻金型保険」や「復旧することのできる払済保険」など解約返戻金の額が著しく低いと認められる保険契約等については、第三者との通常の取引において低い解約返戻金の額で名義変更等を行うことは想定されないことから、支給時解約返戻金の額で評価することは適当ではないとして、今回の見直しに至った。 改正後は、保険契約等に関する権利について、支払保険料の一部を前払保険料として資産に計上する取扱いが定められている法人税基本通達の取扱いを踏まえ、使用者が、役員や従業員に対して、解約返戻金の額が著しく低いと認められる次の保険契約等に関する権利を支給した場合には、それぞれ次の金額で評価することとしている。 (注) 「支給時資産計上額」とは、使用者が支払った保険料の額のうちその保険契約等に関する権利の支給時の直前において前払保険料として法人税基本通達の取扱いにより資産に計上すべき金額をいい、預け金などで処理した前納保険料の金額、未収の剰余金の分配額等がある場合には、これらの金額を加算した金額をいう。 改正後の取扱いは令和3年7月1日以後に行う保険契約等に関する権利の支給について適用され、同日前に行った保険契約等に関する権利の支給については、改正前の取扱いによる(改正通達附則)。 ただし、見直しの対象となる保険契約等に関する権利は上記の通り「法人税基本通達9-3-5の2の取扱いの適用を受けるものに限る。」とされており、この法基通9-3-5の2は令和元年の改正通達によって新設され令和元年7月8日以後に締結する保険契約等について適用するとされていることから、同日前に締結した保険契約等は、原則として見直しの対象にならないことになる(詳しくは[こちら]を参照)。 なおパブコメ概要では、「今回の見直しの対象は法人税基本通達9-3-5の2の適用を受ける保険契約等に関する権利としているが、法人税基本通達の他の取扱いにより保険料の一部を前払保険料に計上する『解約返戻率の低い定期保険等』及び『養老保険』などについては、保険商品の設計などを調査したうえで、見直しの要否を検討する」としている。 〈所得税基本通達36-37の新旧対照表〉 (了)
《速報解説》 国税庁、令和2年度の再調査の請求、審査請求、訴訟の概要を公表 ~コロナ禍が権利救済分野にも影響~ 公認会計士・税理士 大橋 誠一 2021年6月23日、国税庁は、令和2年度(会計年度)における「再調査の請求」「審査請求」「訴訟」の概要をそれぞれ公表した。 国税に関する法律に基づく処分についての納税者の救済制度には、処分庁(税務署長など)に対する再調査の請求(かつての異議申立て)や国税不服審判所長に対する審査請求という行政上の救済制度(不服申立制度)と、裁判所に対して訴訟を提起して処分の是正を求める司法上の救済制度がある。 以下では、令和2年度におけるこれら救済制度に係る統計情報等について検討する。 1 再調査の請求 (1) 発生状況 (※) 国税庁「令和2年度における再調査の請求の概要」より抜粋。 平成28年度以降の申立件数が減少しているのは、従前は青色申告書に係る更正等以外の処分については必ず異議申立て(現在の再調査の請求)を経なければ審査請求を行うことができなかったが、平成28年4月1日以後の処分については、納税者の選択により、再調査の請求を経ずに直接審査請求できるように国税通則法が改正され、そのようにした納税者が多くなった(令和2年度の直接審査請求割合は71.5%)からである。 令和元年度及び令和2年度の申立件数の減少は、新型コロナウイルス感染症の影響により、税務調査件数の減少に伴う不利益処分件数の減少が影響しているものと考えられる。 (2) 処理状況 (※) 国税庁「令和2年度における再調査の請求の概要」より抜粋。 令和2年度の認容割合(処分の全部又は一部が取り消された割合)は10.0%であり、例年10%前後の数値を示している。 国税庁の業績目標である標準審理期間の3ヶ月以内処理件数割合は99.9%と急上昇しているが、令和2年度は災害等による調査の中断や納税者の都合によって3ヶ月以内に処理できなかった事案を除外して算出しており、当該影響を含めた割合は87.9%であったことから、やはり新型コロナウイルス感染症の影響はあったとみられる。 2 審査請求 (1) 発生状況 (※) 国税庁「令和2年度における審査請求の概要」より抜粋。 平成28年度以降の請求件数が増加しているのは、前述の直接審査請求の増加による請求時期の前倒しの影響とみられる。 令和元年度及び令和2年度の申立件数の減少は、新型コロナウイルス感染症の影響により、税務調査件数の減少に伴う不利益処分件数の減少が影響しているものと考えられる。 (2) 処理状況 (※) 国税庁「令和2年度における審査請求の概要」より抜粋。 令和2年度の認容割合(処分の全部又は一部が取り消された割合)は10.0%であり、例年10%前後の数値を示している。 国税庁の業績目標である標準審理期間の1年以内処理件数割合は83.5%と急減しているが、審判官の合議によって審理する国税不服審判所の性格から、新型コロナウイルス感染症の蔓延防止に対応した審理態勢の構築に一定の時間を要した影響とみられる。 3 訴訟 (1) 発生状況 (※) 国税庁「令和2年度における訴訟の概要」より抜粋。 新規発生である第一審の件数は概ね減少傾向にあるが、これは事前照会に対する文書回答手続などの制度の充実により、納税者の予測可能性が一定程度向上していることによるものと考えられる。 令和2年度の発生件数の減少は、新型コロナウイルス感染症の影響とみられる。 なお、不服申立て(再調査の請求・審査請求)は不利益処分の件数を単位としており、例えば、1人の請求人が5件の不利益処分を受けて全件不服申立てをすれば「5件」としてカウントするが、訴訟は原告単位であり、上記の例では「1件」とカウントすることになる。 (2) 終結状況 (※) 国税庁「令和2年度における訴訟の概要」より抜粋。 令和2年度において被告である国が敗訴した割合である敗訴件数割合は7.8%であり、例年10%弱の数値を示している。 なお、不服申立て(再調査の請求・審査請求)は不利益処分がいったん取り消されるとその効力が確定する(処分庁はそれを不服として上級審理庁に判断の見直しを求めることができない)が、訴訟は国が敗訴しても控訴・上告によって判断の見直しを求めることができるという相違点がある。 (了) ↓お勧め連載記事↓
2021年6月24日(木)AM10:30、 プロフェッションジャーナル No.425を公開! - ご 案 内 - プロフェッションジャーナルの解説記事は毎週木曜日(AM10:30)に公開し、《速報解説》は随時公開します。
谷口教授と学ぶ 税法基本判例 【第3回】 「課税要件法定主義と委任命令」 -ふるさと納税不指定事件・最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁- 大阪大学大学院高等司法研究科教授 谷口 勢津夫 Ⅰ はじめに 今回は、租税法律主義(形式的租税法律主義。租税法律主義の意義と分類については、谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第1回】参照)の要請のうち課税要件法定主義に関して委任命令の委任範囲逸脱の問題を扱ったふるさと納税不指定事件・最判令和2年6月30日民集74巻4号800頁(以下「本判決」という。本判決には宮崎裕子裁判官の補足意見と林景一裁判官の補足意見が示されているが、以下では「宮崎補足意見」、「林補足意見」という)を取り上げる。本判決は、拙著『税法基本講義〔第6版〕』(弘文堂・2018年)では当然のことながら取り上げていないが、現在改訂作業中の同書第7版(今秋刊行予定)では欄外番号【30】で取り上げることにしている。 形式的租税法律主義すなわち法律によらない課税の禁止の原則からすれば、課税要件をはじめとして納税者の実体的・手続的権利義務にかかわる事項は、すべて法律で定めなければならない(前回Ⅱで取り上げた大嶋訴訟・最[大]判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁等参照)。この要請は、租税法律主義の民主主義的再構成(谷口教授と学ぶ「税法の基礎理論」【第34回】Ⅱ、【第43回】Ⅳ、【第45回】Ⅲ参照)に基づき租税立法者の規律責務を明確にし租税法律の規律密度(ここでは特に規律事項の範囲)を高めるものであり、課税要件法定主義と呼ばれる。 課税要件法定主義の下では、命令(行政立法)への委任について①委任する租税法律(委任法律)の側で委任の仕方が、②委任を受けて定められる命令(委任命令)の側で委任範囲の逸脱が問題にされる。①については、個別的・具体的委任は許されるが、一般的・白紙的委任は課税要件法定主義に反し違憲であることに異論はない(ただし、一般的・白紙的委任を認めた裁判例としては神戸地判平成12年3月28日訟月48巻6号1519頁があるくらいで、これも控訴審・大阪高判平成12年10月24日訟月48巻6号1534頁で覆された)。また、②については、委任範囲を逸脱した委任命令を課税要件法定主義に反し違憲とするか、又は委任法律に反し違法とするかはともかく(本判決と同じく筆者も後者の立場である)、その委任命令が無効であることに異論はない。 今回検討する本判決は上記の②の問題について、従来の判例の立場を踏まえつつ、新たな判断を示したものとして注目される。以下では、拙稿「判批」民商法雑誌157巻2号(2021年)281頁をベースにしながら、本判決について検討することにする。その検討に入る前に、本件の事案の概要を以下に述べておこう。 ふるさと納税制度(地税37条の2第1項・第2項、314条の7第1項・第2項)は、平成20年度税制改正により導入された。創設当時は、地方団体が寄附金の受領に伴い当該寄附金の支出者に対して提供する物品、役務等のいわゆる返礼品について特に定める法令上の規制は存在しなかった。もっとも、その後、寄附金の額に対する返礼品の調達価格の割合(返礼割合)の高い返礼品を提供する地方団体が多くの寄附金を集める事態が生じたこと等から、Y(総務大臣-被告・被上告人)は、地方団体に対する技術的な助言(自治254条の4第1項)として、平成27年以後、状況の変化に応じて通知(本件各通知)により是正を求めたにもかかわらず、一部の地方団体が過度な返礼品を送付して多額の寄附金を得る状況はその後も継続していた。 そこで、総務省は、過度な返礼品を送付しふるさと納税制度の趣旨を歪めているような地方団体を特例控除の対象外にすることができるようにするとの基本的な考え方に基づいて、所定の基準(募集適正基準等)に適合する地方団体として総務大臣が指定するものに対する寄附金のみを特例控除対象寄附金とする制度(本件指定制度)を導入すること等を内容とする法律案(本件法律案)を作成した。本件法律案は内閣から国会に提出され、平成31年3月27日に成立し、そのうち本件指定制度の導入等を内容とする改正規定(本件改正規定)は令和元年6月1日から施行された。本件指定制度を定める地方税法37条の2第2項(本件授権規定)に基づき、総務大臣は、平成31年4月1日、募集適正基準等を定める告示(本件告示)を発し、令和元年6月1日から適用することとした。 本件告示1条はふるさと納税制度の趣旨について「ふるさとやお世話になった地方団体に感謝し、若しくは応援する気持ちを伝え、又は税の使い途を自らの意思で決めることを可能にすること」と述べている。本件で本件授権規定による委任の範囲の逸脱が問題とされたのは本件告示2条3号であるが、これは、募集適正基準の1つとして、「平成30年11月1日から法第37条の2第3項・・・・・・に規定する申出書を提出する日までの間に、前条に規定する趣旨に反する方法により他の地方団体に多大な影響を及ぼすような第1号寄附金の募集を行い、当該趣旨に沿った方法による第1号寄附金の募集を行う他の地方団体に比して著しく多額の第1号寄附金を受領した地方団体でないこと」という指定基準を定めるものである。 以上のような経緯で導入された本件指定制度の下で平成31年4月5日付けで初年度に係る指定の申出(本件指定申出)をした泉佐野市に対してYが当該指定をしない旨の決定(本件不指定)をした。その理由は、本件指定申出に係る申出書等の内容上の問題(不指定理由①)、本件告示2条3号のうち過去の募集実績に係る基準(過去の募集実績基準)違反(不指定理由②)及び法定返礼品基準違反(不指定理由③)であったが、X(泉佐野市市長-原告・上告人)は、本件不指定を不服として、地方自治法250条の13第1項に基づき国地方係争処理委員会への審査の申出を経て、令和元年11月1日、本件不指定は違法な国の関与に当たると主張して、同法251条の5第1項2号に基づき、Yに対し本件不指定の取消しを求めた。 Ⅱ 本判決の判断基準とその適用 以下では、今回の主題に従い不指定理由②に関する本判決の判断内容を以下でみておこう。 まず、本判決は委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準について次のとおり判示した。 次に、本判決は、「このような観点から,本件告示2条3号の効力について検討する」として、「法文の文理」、「委任の趣旨」及び「立法過程における議論」(「本件法律案の作成の経緯」及び「国会における本件法律案の審議の過程」)を検討しているが、これらのうち本判決が委任の範囲逸脱の判断において特に重視したものと解される「委任の趣旨」に関する判示(下線筆者)を次に引用しておく。 最後に、本判決は次のとおり判示して本件告示2条3号の規定につき地方税法37条の2第2項(本件授権規定)の委任の範囲逸脱を認めた。 Ⅲ 委任の趣旨と「法律の専管事項」 1 従来の判例法理 本判決は、委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準として、医薬品ネット販売事件・最判平成25年1月11日民集67巻1号1頁が次の判示で採用した「授権趣旨の明確性」(宮村教平「判批」阪大法学63巻5号(2014年)1627頁、1632頁、宇賀克也『行政法概説Ⅰ 行政法総論〔第7版〕』(有斐閣・2020年)309頁等)という基準を「下敷き」(中原茂樹「判批」法教480号(2020年)114頁)にして、「事例判断的な表現」(高木光「判批」民商149巻3号(2013年)269頁、277頁)も含めて、同じような判断基準を採用したものと解される(原田大樹『判例で学ぶ法学 行政法』(新世社・2020年)211頁参照)。 このような基準によって判断する際の考慮要素について、上記最判に関する調査官解説(岡田幸人「判解」最判解民事篇(平成25年度)1頁、20頁)は従来の判例の立場を次のように整理している。 2 委任の趣旨に関する「法律の所管事項二分論」 本判決について従来の判例法理と比べて特徴的と思われるのは、「委任の趣旨」に関する前記の判示である。 本判決は、まず、本件授権規定が募集適正基準の策定を本件告示に委任した趣旨として、同基準の策定が❶「総務大臣の専門技術的な裁量に委ねるのが適当な事柄」及び「状況の変化に対応した柔軟性の確保が問題となる事柄」である旨を判示している。この判示は、委任の趣旨に関する一般論(岡田・前掲「判解」19頁、宇賀・前掲書301頁参照)を募集適正基準について述べたものであり、特に異論はなかろう。 本判決は、次に、法律の所管事項について❶と区分して、❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」を示し、過去の募集実績基準はこれに該当する旨を判示している(法律の所管事項二分論)。この点について、林補足意見は「Yにおいて、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであったといえる。」と述べている。 「委任の趣旨」に関する本判決の以上の判断からすると、❷の事項はいわば「法律の専管事項」である以上、これに該当する過去の募集実績基準の策定は本件授権規定によって委任されていないこと(いわば「委任の不存在」)になるから、「[過去の募集実績]基準の策定を委任する授権の趣旨が明確に読み取れるということはできない。」と結論づけられたものと解される。つまり、この結論にとって決定的な意味をもつのは、「委任の趣旨」に関する前記の判断のうち、過去の募集実績基準が❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」という「法律の専管事項」に該当するという判断であると考えられる。 3 過去の募集実績基準の「法律の専管事項」該当性の理由 では、その判断はどのような理由に基づくものであろうか。「委任の趣旨」に関する前記の判示によれば、過去の募集実績基準は、「[本件指定制度]の導入前にふるさと納税制度の趣旨に反する方法により著しく多額の寄附金を受領していた地方団体について、他の地方団体との公平性を確保しその納得を得るという観点」から、設けられたものとされているが、この「観点」には、ⓐ過去すなわち本件指定制度の導入前の募集実績の考慮とⓑ他の地方団体との公平の確保という2つの要素が含まれている。 まず、ⓐについて、本判決は、遡及課税立法に関する判例(最判平成23年9月22日民集65巻6号2756頁等)の趣旨に照らして、ⓐを法律で定めることを要求したものと解される。判例では、遡及課税を法律で定めたとしても、「[当該法律の]適用によって納税者の租税法規上の地位が変更され,課税関係における法的安定に影響が及び得る場合」には当該法律の憲法84条適合性が問題となり得るとされているが、そうすると、過去の募集実績基準が「委任の趣旨」に関する前記判示にいう「指定を受けようとする地方団体の地位に継続的に重大な不利益を生じさせるもの」である以上、ⓐは❷「立法者において主として政治的、政策的観点から判断すべき性質の事柄」に該当するとされたものと解される。 次に、ⓑ他の地方団体との公平の確保は、地方自治の保障(憲92条・94条)からの要請であると解される。地方自治の基本的要素としての団体自治は、国からの独立性に加えて地方公共団体相互の公平性をも要素とすると考えられる。後者は法律の枠内で保障されるものとされている以上、ⓑも前記❷の事項に該当するとされたものと解される。 Ⅳ おわりに 以上において、委任命令に係る委任の範囲逸脱の判断基準に関する判例法理に対して本判決が新たに付け加えた、「委任の趣旨」に関する法律の所管事項二分論ともいうべき考え方を明らかにし過去の募集実績基準に関して検討した。 最後に、本件の背景にある、より本質的と思われる立法のあり方の問題についても若干の検討を加えておきたい。 宮崎補足意見は、「本件の背景にあるいくつかの問題を俯瞰しつつ」法廷意見の理由を補足しているが、その問題の1つとして、本件告示1条で示されたふるさと納税制度の趣旨(Ⅰ参照)に照らして、「寄附金と税という異質なものが制度の前提にあ」り「調整の仕組みを欠いた状態」で「本件改正規定の施行前に地方団体が行なった寄附金の募集態様や返礼品の提供という行為を,制度の趣旨に反するか否か,あるいは制度の趣旨をゆがめるような行為であるか否かという観点から評価することには無理がある。」と述べている。 思うに、そのような不明確な「趣旨」では、一方で、「本件改正規定の施行前に地方団体が行なった寄附金の募集態様や返礼品の提供という行為」を「制度の濫用」(外国税額控除余裕枠利用事件・最判平成17年12月19日民集59巻10号2964頁。この判決については「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』【第7回】等参照)と認めることまではできないし、他方で、立法者が制度設計に当たりその要件を定める場合における要件化の基準として制度の規律密度を高めることに資する「立法基準性」を満たし得ず、したがって、規律密度の低さに帰結すると考えられる。規律密度の低い制度は、その回避や濫用を容易に許してしまういわゆる「脇の甘い」制度であるが、ふるさと納税制度は、本件指定制度の導入までは、そのような制度の1つであったといえよう。 ふるさと納税制度の「脇の甘さ」は、本件指定制度の趣旨や本件におけるYの主張の中で述べられている「他の地方団体との不公平」に帰結した。すなわち、ふるさと納税制度の創設時には地方団体に「良識ある行動」が強く期待されていたが(「ふるさとのうぜい研究会報告書」(平成19年10月)23頁参照)、「良識ない行動」が同制度上禁止されておらず、しかも「良識ある行動」をする場合に比べて「良識ない行動」をすることによって同制度を通じて多額の寄附金を受け取ることができるというのであれば、「良識ない行動」をする地方団体が現れることは想定できるし(実際に想定されていた)、実際に現れたのである。 ふるさと納税制度のこのような問題(弊害)は、構造の点では、租税回避の類型の1つである税法上の課税減免規定の濫用による租税回避(前掲拙著【66】参照)の問題と類似する。この租税回避の問題は、納税者が税法上の課税減免規定をその趣旨・目的に反して(その要件を文言上のみ充足して)利用することによって課税減免の利益を享受し、当該課税減免規定を利用しない納税者との間で租税負担の不公平をもたらすという問題であり、当該課税減免規定の趣旨・目的に反する利用に対する適用除外規定の欠缺(隠れた欠缺)による規律密度の低さに基因するものである。そのような欠缺を補充し租税負担の公平を実現するのは、第一次的には、立法者の責任である(前掲拙著【69】参照)。この意味で、次の見解(宮崎裕子「一般的租税回避否認規定-実務家の視点から(国際的租税回避への法的対応における選択肢を納税者の目線から考える)」ジュリスト1496号(2016年)37頁、43頁)は正鵠を射たものである。 この見解を裁判官の立場から述べるとすれば、次のようになろう(Albert Hensel, Zur Dogmatik des Begriffs "Steuerumgehung", in Bonner Festgabe für Zitelmann, 1923, 217, 230.)。 これらの見解は、ふるさと納税制度の弊害である「他の地方団体との不公平」の是正についても、基本的に妥当すると考えられる。そもそも、他の地方団体との公平の確保は、Ⅲ3で述べたように、憲法上の地方自治の保障から要請されることに加え、ふるさと納税制度のそのような弊害は制度検討段階から想定されていた以上、現実に生じてきた弊害への対応を本件各通知に委ね法律改正の遅延により本件のような事態を招いた責任は、第一次的には、国(総務大臣及び国会)にあると考えるべきである。 このように考えると、ふるさと納税制度については、無条件に、「Yにおいて、法的な問題として、そのような不当な状態を、将来のみならず過去の行為をも考慮に入れて解消することを目指すのであれば、制度改正に際し、その旨の明示的な規定を設けることを、法律レベルで追求すべきであった」(林補足意見)ということにはならないように思われる。過去の募集実績基準のような行政による「事後立法」を必要としない、機動的な「質の高い立法力」(宮崎・前掲論文43頁)こそが、立法者に強く求められると考えるところである。 「質の高い立法力」は行政立法についても不可欠であり、委任命令が委任法律による委任の範囲を逸脱することがないよう、行政は「委任の趣旨」を的確かつ適切に具体化する委任命令を制定しなければならない。最判令和3年3月11日裁時1763号4頁・裁判所ウェブサイト(本件第一審判決及び控訴審判決については「谷口教授と学ぶ『税法の基礎理論』【第18回】【第19回】参照)をみても、そのことを痛感する次第である。 (了)
令和3年度税制改正における 『連結納税制度』改正事項の解説 【第1回】 「カーボンニュートラル投資促進税制の創設」 公認会計士・税理士 税理士法人トラスト 足立 好幸 ~はじめに~ 連結納税適用法人を対象に令和3年度税制改正の概要を解説したい。 連結納税適用法人に関する税制は、次の4種類に分類される。 令和3年度の税制改正は、ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生、デジタル社会の実現、グリーン社会の実現、中小企業の支援・地方創生を主要テーマとした改正となっている。ウィズコロナ・ポストコロナの経済再生では、企業のDXを促進する措置の創設、活発な研究開発を維持するための研究開発税制とコロナ禍を踏まえた賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し、繰越欠損金の控除上限の特例の措置、株式対価M&Aを促進するための措置が講じられている。 また、デジタル社会の実現では、納税環境のデジタル化として税務関係書類における押印義務の見直し、電子帳簿等保存制度の見直し等、グリーン化社会の実現では、カーボンニュートラルに向けた税制措置の創設、中小企業の支援・地方創生では中小企業向けの投資促進税制及び所得拡大促進税制の見直しと延長が実現している。 本稿では、連結納税制度に関係する改正項目について、その具体的な取扱いについて解説していくこととする。 なお、本稿の意見に関する部分は、筆者の個人的な見解であることをあらかじめお断りする。 [1] カーボンニュートラル投資促進税制の創設 連結納税制度においても、2050年カーボンニュートラルに向け、脱炭素化効果の高い先進的な投資(化合物パワー半導体等の生産設備への投資、生産プロセスの脱炭素化を進める投資)について、税額控除又は特別償却ができる措置が創設されている(3年間の時限措置)。 連結納税制度におけるカーボンニュートラル投資促進税制は、各連結法人を計算単位として税額控除額が計算され、各連結法人の税額控除額の合計額を連結法人税額から控除し、各連結法人の税額控除額が個別帰属額となる。 具体的には以下の取扱いとなる(新措法68の15の7③⑥)。 以上のとおり、税額控除の限度となる法人税額基準額について、連結グループ全体の連結法人税額を考慮すること、住民税の課税標準からの控除について、連結親法人が中小企業者(適用除外事業者を除く)に該当するかで判断することを除いて、単体納税制度と同様の取扱い(新措法42の12の7③⑥、新措令27の12の7③)となる。 また、カーボンニュートラル投資促進税制は、次に掲げる連結法人について適用できない(新措法68の15の7⑧)。 (了)
Q&Aでわかる 〈判断に迷いやすい〉非上場株式の評価 【第23回】 「〔第5表〕借地権の計上」 -個人から法人へ相当の地代に満たない地代の収受があった場合- 税理士 柴田 健次 Q 経営者甲が所有しているA土地は、甲が株式を100%保有している甲株式会社に賃貸していますが、経営者甲が甲株式を令和3年に後継者である乙に贈与する予定です。 土地の賃貸借の概要は下記の通りとなります。なお、甲株式会社はA土地について借地権の認定課税を受けたことはありません。 上記の場合において、実際に支払っている土地の地代が次のそれぞれの場合には、甲株式会社の第5表「一株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上するA土地の借地権の相続税評価額は、それぞれいくらになるのでしょうか。 A 第5表「一株当たりの純資産価額(相続税評価額)の計算明細書」の資産の部に計上する借地権の相続税評価額は下記の通りとなります。 ◆ ◆ ◆ ① 相当の地代に満たない地代を支払う場合の借地権の価額 権利金の支払がなく、相当の地代に満たない地代を支払っている場合には、次の算式により借地権の価額を計算することになります(相当地代通達2・4)。 なお、「実際に支払っている地代の年額< 通常の地代の年額」である場合には、土地を賃借している法人に通常の借地権部分が帰属していると考えられるため、「自用地価額 × 借地権割合」で評価を行います。 相当の地代の年額は、下記の算式により計算した金額をいいます(相当地代通達1)。 通常の地代の年額は、通常の借地権部分を控除した底地に対応する地代の額をいいますので、下記の算式により求めます。 ただし、同族会社の株式を保有している被相続人又は贈与者に相当の地代に満たない地代を支払っている場合において、上記の算式により計算した修正借地権割合が20%に満たない場合には、被相続人の土地が80%で評価されることの権衡を考慮し、自用地価額の20%で評価することとされています(相当地代通達7、昭和43年10月28日付直資3-22他「相当の地代を収受している貸宅地の評価について」通達)。 ② 本問の場合における借地権の価額 (1) 相当の地代の90%を実際に支払っている場合 相当の地代に満たない地代を支払う場合の算式は、下記の通りとなります。本問の場合には、100,000千円 ×(1-60%)×6%=2,400千円が通常の地代の年額となります。 修正借地権割合が20%に満たない場合には、被相続人の土地が80%で評価されることの権衡を考慮し、自用地価額の20%で評価することとされていますので、借地権の価額は、10,000千円ではなく、20,000千円となります。 (2) 相当の地代の70%を実際に支払っている場合 相当の地代に満たない地代を支払う場合の算式は、下記の通りとなります。 したがって、借地権の価額は30,000千円になります。 (3) 相当の地代の30%を実際に支払っている場合 相当の地代に満たない地代を支払う場合の算式は、下記の通りとなります。 「実際に支払っている地代の年額(1,800千円)< 通常の地代の年額(2,400千円)」である場合には、土地を賃借している法人に通常の借地権部分が帰属していると考えられるため、「自用地価額 × 借地権割合」で評価を行います。 したがって、借地権の価額は、60,000千円(100,000千円 × 60%)になります。 ☆実務上のポイント☆ 「土地の無償返還に関する届出書」の提出がない場合において、相当の地代及び権利金を支払っていない場合には、相当の地代に対してどれぐらいの地代を支払っているかが重要となります。地代の支払いが少ないほど、借り得する部分が増えて、修正借地権割合が高くなりますが、借地権割合が限度となります。 (了)