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「税理士損害賠償請求」頻出事例に見る原因・予防策のポイント【事例99(消費税)】 「課税売上げのみに対応するテナント用賃貸建物の取得をした際に、不利な一括比例配分方式で申告してしまった。さらに第3年度において課税売上割合が著しく変動した場合の調整の対象となってしまったため、二重で損害が発生してしまった事例」

「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例99(消費税)】   税理士 齋藤 和助     《基礎知識》 ◆仕入控除税額の計算方法(消法30②) 消費税の原則課税における仕入税額控除の計算は、課税売上高5億円超又は課税売上割合が95%未満の場合には、全額控除は認められず、(1)個別対応方式と(2)一括比例配分方式のいずれかを選択しなければならない。 (1) 個別対応方式 その課税期間中の課税仕入れ等に係る消費税額のすべてを、①課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの(以下「課税対応」という)、②非課税売上げにのみ要する課税仕入れ等に係るもの(以下「非課税対応」という)、③課税売上げと非課税売上げに共通して要する課税仕入れ等に係るもの(以下「共通対応」という)に区分が明らかにされている場合には、次の計算式により仕入控除税額を計算することができる。 (2) 一括比例配分方式 個別対応方式のように課税仕入れ等に係る消費税額が区分されていない場合、又は区分されていてもこの方式を選択する場合に適用し、次の計算式により仕入控除税額を計算する。なお、一括比例配分方式を選択した場合には、2年間の継続適用要件がある。 ◆課税売上割合が著しく変動した場合の調整(消法33①) 課税事業者が調整対象固定資産の課税仕入れ等に係る消費税額について比例配分法により計算した場合において、その事業者が第3年度の課税期間の末日においてその調整対象固定資産を有しており、かつ、第3年度の課税期間における通算課税売上割合が仕入れ等の課税期間における課税売上割合に対して著しく減少したときは、次の金額を第3年度の課税期間の仕入控除税額から控除する。 (※) 第3年度の課税期間の末日において有する調整対象固定資産の課税仕入れ等の消費税額。 ◆比例配分法により計算した場合 個別対応方式において「共通対応」について、課税売上割合を乗じて仕入控除税額を計算する方法又は一括比例配分方式により仕入控除税額を計算する方法をいう。したがって、個別対応方式において「課税対応」に区分された調整対象固定資産は上記調整の対象にならない。 ◆著しく減少した場合(消令53②) 次の①、②のいずれの要件も満たした場合に調整が必要となる。       (了)

#No. 425(掲載号)
#齋藤 和助
2021/06/24

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第6回】「賃借人が負担した建物附属設備の固定資産税(償却資産税)の納税義務者は誰になるのかが争われた判例」

固定資産をめぐる判例・裁決例概説 【第6回】 「賃借人が負担した建物附属設備の固定資産税(償却資産税)の納税義務者は誰になるのかが争われた判例」   税理士 菅野 真美   ▷建物附属設備と付合 固定資産税の課税客体は、土地、家屋、償却資産(地方税法第341条第1号、第342条第1項)であるが、償却資産は土地及び家屋以外の事業の用に供することができる資産(地方税法第341条第4号)とされている。 電気設備、ガス設備、冷暖房設備、エレベーター等は、通常は償却資産ではなく、家屋の評価額に含まれて固定資産税の対象となるが、これらが家屋の評価額に含まれるための要件として、①家屋の所有者が所有していること、②家屋に取り付けられて家屋と構造上一体となっていること、③家屋の効用を高めるものの3点から判断することになる(固定資産評価基準第2章第1節七)とされている。 民法において、付合という制度があり、「不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない」と定められている(民法第242条)。建物附属設備が建物に付合しているかについて「当該不動産の構成部分又は社会通念上その不動産の一部分と認められる状態となり、当該物自体としての取引上の独立性を失った場合においては、不動産の所有者は民法第242条本文の規定により当該付着物の所有権を取得し、また、このような場合には当該付着物は独立した所有権の対象とならないというべきであるから、同条但書の適用はないものというべきである」(最高裁昭和35年10月4日第三小法廷判決)という判断がある。この判断のキーポイントは、建物附属設備がそれ自体として取引の独立性を失っているかどうかである。 この付合という制度が、建物附属設備を家屋の固定資産税評価額に含める根拠の1つになると考える。 それでは、賃貸借契約を締結し、賃借人の負担で取り付けた建物附属設備の固定資産税納税義務者は誰になるのか。まず、この建物附属設備の固定資産税の納税義務者について争われた事案を検討する。   ▷どのような事案か 建物の所有者XがYと賃貸借契約を締結し、Yがショッピングセンターとして使用していた。完成前にXは工事請負契約を締結して、建物附帯設備の設置を含めた建物の建築を注文した。工事請負契約に際して、Xは、Yとの間で附帯設備とその設置費用はYの負担とすることで合意していた。賃貸借契約で、附帯設備は建物賃借人の所有とすること、賃貸借契約終了時には、Xの選択にしたがってYが附帯設備を撤去して原状回復するか、Yが無償で残置することに合意していた。 建物附帯設備とは、次のようなものであった。 上記附帯設備を建物の評価額に含めて賦課したことについて、Xが不服であるとして訴えたものである。   ▷裁判所の判断 裁判所は、Xの請求は理由がないものとして棄却した。 裁判所は、上記建物附属設備は、建物から撤去されれば、他に転用できず経済的効用を失うから、建物の構成部分又は社会通念上本件建物の一部分と認められる状態となり、当該物自体としての取引上の独立性を失っているから、建物の所有者であるXが所有権を取得したと判断した。 Xは、「スケルトン貸し」(建物躯体以外の建物設備、内装、造作の費用を賃借人が負担して借りるもの)の場合に、建物に付合されるのは不合理だと主張したが、一般的には、建物の所有者が設置する防災設備やエスカレーター、エレベーターを賃借人が負担することは「スケルトン貸し」を前提として不合理と主張するのは事実的基礎を欠いている。 Xは、この賦課決定後に地方税法第343条第9項(現同条第10項)が設けられて、付合により家屋の所有者が所有することとなった附属設備であっても、取り付けた者の事業の用に供することができる資産である場合に限り、取り付けた者をもって所有者とみなすから、建物附属設備の所有者はXではないと主張した。裁判所は、あくまでもこの制度は、建物賃借人等が、自己の事業の用に供するために自己の負担で建物に附帯設備を設置したような場合であり、もともと、建物に附属設備が付合している場合は、建物所有者に対して、附属設備を含めた建物価格について固定資産税を課すことを予定しているから、本件の場合は、附属設備を含めた家屋の価格に基づく賦課決定処分は適法だと判断した。   ▷現行の法令に当てはめた場合はどう考えるか このように、判決においては、建物所有者のXが賃貸借契約の前に締結された建物附属設備の工事請負契約の当事者だから建物附属設備部分も固定資産税の納税義務者となると判断されたと考えるが、現行の地方税法第343条第10項に本件を当てはめた場合はどうなるのか検討する。 地方税法第343条第10項は次のとおりである。 この家屋の附帯設備とは、固定資産評価基準第2章における建築設備及び特殊設備のほか、地方税法施行規則第10条の2に規定するものであるが、この建築設備には、電気設備、衛生設備、空調設備、防災設備、運搬設備(エレベーターやエスカレーターを含む)がある。 また、建物附属設備の費用は賃借人が負担するが、建物附属設備の工事請負契約を締結するのは建物所有者とする実務もあるが、これは賃借人が所有者の想定していないような工事を勝手にすることを防止するためであるといわれる。 本事案を当てはめると、問題となった附属設備は建築設備に該当している。これらの工事請負契約の当事者は所有者のXであるが、XとYの間で費用負担はYと決めており、Yの事業であるショッピングセンターの使用のために不可欠である。実質的には、家屋の所有者以外のYが事業の用に供するために取り付けたものであると考える。 よって、建物附属設備部分については、Yが建物附属設備部分の納税義務者として償却資産税を負担することができると考える。 (了)

#No. 425(掲載号)
#菅野 真美
2021/06/24

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第35回】「親族に対する譲渡と親族の経営する会社に対する譲渡」-特殊関係者に対する譲渡-

居住用財産の譲渡損失特例[一問一答] 【第35回】 「親族に対する譲渡と親族の経営する会社に対する譲渡」 -特殊関係者に対する譲渡-   税理士 大久保 昭佳   Q Xが、居住用家屋とその敷地を、Xの弟であるZ(XとZは住居も生計も別であり、譲渡後に当該家屋に同居する予定もありません)に売却した場合と、Zが経営するD社(Zの持株割合90%)に売却した場合とでは、他の適用要件が具備されている場合に、「居住用財産買換の譲渡損失特例(措法41の5)」の適用関係に差が生ずるでしょうか。 A いずれの場合にも「居住用財産買換の譲渡損失特例」の適用を受けることができますので、差はありません。 ●○●○解説○●○● 「居住用財産買換の譲渡損失特例」には、譲渡した資産の譲受者が、特殊関係にある法人などに該当する場合の適用除外規定(【Q29】の解説を参照)が定められています(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 本事例の場合、Zは、租税特別措置法施行令第20条の3第1項第1号及び第2号に掲げる親族には該当しません。また、D社も、同項第5項に掲げる会社には該当しません。したがって、いずれの場合も特例の適用を受けることができます(措法41の5⑦一、措令26の7③、法令4②・③)。 なお、「特定居住用財産の譲渡損失特例(措法41の5の2)」についても、譲渡した資産の譲受者に係る同様の除外規定が定められています(措法41の5の2⑦一、措令26の7の2③、法令4②・③)。 (了)

#No. 425(掲載号)
#大久保 昭佳
2021/06/24

収益認識会計基準と法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第56回】

収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第56回】   千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也   (2) 混合取引(特に現物配当)を巡る議論 法人税法22条の2第6項との関係では、資本等取引の要素と損益取引の要素が混合ないし混在している取引(混合取引)に関する議論を確認しておく必要がある。 金子宏「法人税における資本等取引と損益取引」同編『租税法の発展』337頁以下(有斐閣2010)において、要旨次のような問題提起及び提言がなされていた(下図は筆者作成)。 混合取引の例としては、現物配当、残余財産の現物分配、現物出資(特に、デット・エクイティ・スワップ)、自己の株式の取引等が挙げられる。 このうち現物配当は、利益又は剰余金の分配として資本等取引に該当する(※)が、それは、混合取引として、同時に会社から株主への資産の移転という要素をもっているところ、この会社から株主への資産の移転が、「資産の譲渡」に該当し、そこから譲渡所得が発生すると解すべきか否かという問題がある。 (※) 法人税法22条5項。その他利益剰余金の分配に当たる部分は、22条5項の「法人が行う利益又は剰余金の分配」に当たり、その他資本剰余金の分配に当たる部分は、「法人の資本金等の額の増加又は減少を生ずる取引」に当たる。 行政解釈は、現物配当からは譲渡損益が生ずると解している模様である(平成22年度改正による法人税法62条の5第3項(下記参考1参照)の規定の中にその趣旨が現れている)が、 この行政解釈の適否については、ほとんど検討が行われていない。 現物配当は、混合取引であるとはいっても、その課税関係、すなわちそれに対して、譲渡所得の課税を行うべきか否か、また譲渡損失の控除を認めるべきか否かは、課税要件に関する極めて重要な問題であるから、租税法律主義(課税要件法定主義)の下では、立法によって対処すべき問題であって、解釈論のレベルで処理できる問題ではないし、現物配当の課税関係に関する疑義を解消するためにも法律で明確に規定することが好ましい。 現物配当からも譲渡所得が生ずると解することは、法解釈としては困難であるが(下記参考2参照)、立法論としては、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値の増加益、すなわち未実現のキャピタル・ゲインに対しては、配当の機会に配当会社に課税するのが妥当である。 立法の形式としては、法人税法22条2項の中に、あるいは別の条文で、現物配当からは、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値増加益の金額に相当する額の収益が生ずるとみなす旨の規定を設けるべきである。 (3) 立案担当者の見解の要旨 法人税法22条の2第6項について、『平成30年度 税制改正の解説』は次のように解説している。 (※) 財務省『平成30年度 税制改正の解説』277頁以下 これによれば、法人税法22条の2第6項は、おおむね混合取引を巡る議論を踏まえて、「明確化」のために作られたものと解してよいであろう。 既に見たように、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値の増加益について、配当の機会に配当会社に課税するための立法の形式としては、法人税法22条2項の中に、あるいは別の条文で、現物配当からは、配当に充てた資産の配当会社の所有期間中の価値増加益の金額に相当する額の収益が生ずると「みなす」旨の規定を設けるという改正提言がなされていた。 他方、法人税法22条の2第6項は、「無償による資産の譲渡に係る収益の額は、金銭以外の資産による利益又は剰余金の分配及び残余財産の分配又は引渡しその他これらに類する行為としての資産の譲渡に係る収益の額を含むものとする」と規定している。 かように、創設的規定という評価に結び付くような「みなす」規定ではなく、単なる確認的規定という評価に結び付くような「ものとする」規定とされた。 現物配当からも譲渡所得が生ずると解することについて、法解釈としてこれを認める行政側(立案担当者側)とこれを(基本的には)認めない上記(2)で改正提言を行った論者との間には、もとより懸隔があり、それぞれにおける立場の違いが、このように立法の形式ないし表現の相違になって現れたのであろう。 また、上記解説によれば、法人税法22条の2第6項の創設は、収益認識会計基準の公表に伴う改正という枠組みの中では、あくまで1項ないし5項の改正を「契機」として付随的に整備されたものにすぎないという位置付けになる。 このほか、立案担当者は、「その他これらに類する行為」として、例えば、法人税法24条1項6号及び7号に掲げる事由のような、株主等に対する持分権の消滅の対価としての現物資産の交付が想定される旨説明している(財務省『平成30年度 税制改正の解説』278頁)。   (了)

#No. 425(掲載号)
#泉 絢也
2021/06/24

〈事例から学ぶ〉不正を防ぐ社内体制の作り方 【第7回】「コロナ禍で高まる子会社管理リスク」~内部統制報告書から課題と問題点を学ぶ~

〈事例から学ぶ〉 不正を防ぐ社内体制の作り方 【第7回】 「コロナ禍で高まる子会社管理リスク」 ~内部統制報告書から課題と問題点を学ぶ~ 米国公認会計士・公認内部監査人 打田 昌行   はじめに 国内外に多くの拠点を展開し、子会社を持つ会社が増えています。そのなかで、子会社はじめ支店や営業所での管理体制が問われる事例が絶えません。たとえば、上場会社は、毎期自社の内部統制の有効性に関する評価結果を内部統制報告書によって株主はじめ広く利害関係者に伝えています。その報告書を見ると、子会社の不正や不適切な会計処理が増加している傾向がわかります。 筆者の調査によれば、2020年通年の報告書において伝えられた子会社の不正や不適切な会計処理は、内部統制の不備を報告した報告書延べ件数全体の約48%に及びます。コロナ禍により、国内外への出張が制限されるなか、国内外の拠点を直接管理する眼が十分届かない状態にあります。こうして国内外に展開する拠点の管理体制に潜在するリスクが見過ごされてしまう懸念も増えているといえます。   《1》 国内外の子会社に潜むリスク 子会社の運用の現状を考えてみると、物理的な距離を隔て、管理の眼が届きにくいことばかりでなく、それを管理する親会社や本社の側にも課題や問題を抱えていることが見えてきます。以下にいくつかの課題とそこに潜むリスクを挙げます。 (1) 規模の小さい子会社、支店や営業所 国内外の子会社、支店といっても社内で業務のローテーションを図るほど規模や陣容が整っているわけではなく、業務の分担が固定化しがちで、相互牽制の働きも滞る会社が多くあります。 (2) 現地経営者自らが不正を働く 海外拠点の場合、派遣された日本人経営者が業務に精通すると、重宝されて長くそのポストに収まるということがしばしば起きます。国内の親会社か本社の監視の眼が十分届かず、また監査も頻繁に行われないため、現地経営者自らが不正に手を染めるという事故が起きています。あるいはその逆のケースとして、本社の売上計上に対する過度のプレッシャーが原因となり、不正が行われるという事例も散見されます。 (3) 親会社や本社のモニタリングのリソースが不足している 経営者、取締役会、監査役又は内部監査部門によるモニタリング機能が十分働かず、監視機能の不足が問われています。その一因として、展開、拡大する国内外の子会社、支店や営業所に対し、モニタリングのリソースが追いつかない現状が挙げられます。 (4) 国内外の子会社、支店や営業所を管理する権限が錯綜する 国内外の子会社、支店や営業所に対して、親会社や本社が持つ管理、監督権限が錯綜し、時には重複することが挙げられます。親会社や本社は現場の情報を把握するため、定期的な報告を求めますが、時にそれらが重複して業務の妨げとなることも起きています。   《2》 内部統制報告書を読み解く~課題やリスクは子会社ばかりではない~ 前述の課題やリスクを表す事例が、最近の内部統制報告書に数多く報告されています。 子会社に対する管理だけでなく、それを管理する立場にある親会社の課題に関して、2021年に出されたある内部統制報告書は次のように伝えています。 上記報告書より改めて会社の課題や問題点を掘り下げてみると、次のような構造的な要因が明らかになります。   《3》 子会社はじめ支店や営業所に対する管理体制 物理的な隔たりに加え、世界的なパンデミックのなか、どうしたら子会社はじめ支店や営業所に対する管理体制を構築できるのか、いくつかのヒントを以下に挙げてみたいと思います。 (1) オンラインによる定期的なモニタリング パンデミックによってテレワークはもちろん、オンライン会議が急速に普及しました。そのおかげでわざわざ遠い現地に赴かずに、監査やモニタリングを実施することが可能になりました。 オンラインでは現地の雰囲気や、臭いや明暗などを実感することはできませんが、現地にいるわけではないので、都合がつく限り頻繁に会議やモニタリングを重ねることで多くの情報を入手することができます。その結果、限られた陣容のなかで現地への牽制機能を強化することができます。 (2) 経営層、スタッフに対する教育支援 管理一辺倒ではなく、子会社はじめ支店や営業所で働く現地経営者やスタッフに対する教育訓練を大切にする必要があります。現地経営者に経営経験が足りない場合や、スタッフに対するコンプライアンス意識の醸成含め、親会社や本社が積極的な教育訓練を実施することが大切です。 (3) 管理体制を構築する権限の整理 親会社や本社が持つ子会社はじめ支店や営業所に対する管理権限が錯綜しているという指摘をよく聞きます。現地からの財務情報を定期的に入手し、異常な徴候に早く気づくことは大切ですが、同じような情報を親会社や本社の各部門がこぞって子会社はじめ支店や営業所に求めることは、避けたいことです。親会社や本社の各部門が持つ管理権限の整理が求められます。 (4) モニタリング体制の構築 子会社はじめ支店や営業所に対する管理、監督機能が不十分であることが内部統制報告書で指摘されていました。とはいうものの、監査役をはじめとする内部監査機能が拡大を続ける国際化に、陣容がついていけていないという現実があります。 限られたリソースを有効活用するためには、モニタリングや監査先に一定の基準に基づき、優先順位をつけて効率的な対応をすることが求められます。 〈モニタリングや監査先にかかる一定の優先基準(例)〉 (了)

#No. 425(掲載号)
#打田 昌行
2021/06/24

収益認識会計基準を学ぶ 【第7回】「履行義務の識別②」

収益認識会計基準を学ぶ 【第7回】 「履行義務の識別②」   公認会計士 阿部 光成   Ⅰ はじめに 前回に引き続き、「履行義務の識別」について解説する。 なお、文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。   Ⅱ 履行義務の識別 契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財又はサービスを評価し、次の①又は②のいずれかを顧客に移転する約束のそれぞれについて履行義務として識別する(収益認識会計基準7項、32項)。   Ⅲ 別個の財又はサービス 1 要件 顧客に約束した財又はサービスは、次の(1)及び(2)の要件のいずれも満たす場合には、別個のものとする(収益認識会計基準34項)。 これらの規定については、収益認識適用指針において設例が示されているので、会計基準の規定が理解しにくい場合には、設例を先に読むことにより理解する方法も考えられる。 2 財又はサービスが別個のものとなる可能性(収益認識会計基準34項(1)) 上記のとおり、収益認識会計基準34項(1)は、当該財又はサービスが別個のものとなる可能性があることを規定している。 収益認識適用指針は、当該可能性について、顧客が次の①又は②のいずれかを行うことができる場合には、収益認識会計基準34項(1)に定める財又はサービスが別個のものとなる可能性があることに該当するとしている(収益認識適用指針5項、[設例5-1]、[設例6-3]、[設例25])。 3 契約の観点において別個のものとなること(収益認識会計基準34項(2)) 上記のとおり、収益認識会計基準34項(2)は、当該財又はサービスを顧客に移転する約束が契約の観点において別個のものとなることと規定している。 収益認識適用指針は、収益認識会計基準34項(2)に従って、財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できるかどうかを判定するにあたっては、当該約束の性質が、契約において、当該財又はサービスのそれぞれを個々に移転するものか、あるいは、当該財又はサービスをインプットとして使用した結果生じる結合後のアウトプットを移転するものかを判断すると規定している(収益認識適用指針6項)。 財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因には、例えば、次の(1)から(3)がある(収益認識適用指針6項、[設例5]、[設例6]、[設例16]、[設例24-2]、[設例25])。 4 契約の観点において別個のものとなることの考え方(収益認識会計基準34項(2)) 財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約の観点において別個のものとなるかどうか(収益認識会計基準34項(2))の判断においては、当該財又はサービスを移転する義務の履行に係るリスクが、他の約束の履行に係るリスクと区分できるかどうかが判断の基礎となる(収益認識適用指針112項)。 財又はサービスを顧客に移転する複数の約束が区分して識別できないことを示す要因(収益認識適用指針6項(1)から(3))は、いずれも当該基礎に基づくものであり、当該要因は相互に排他的なものではなく、そのうちの複数が該当する可能性もある(収益認識適用指針112項)。 実務上、財又はサービスを顧客に移転する約束が、契約の観点において別個のものとなるかどうかの判断について迷うケースも考えられる。その場合には、上記の判断の基礎となる考え方に照らして慎重に判断する必要があると考えられる。   (了)

#No. 425(掲載号)
#阿部 光成
2021/06/24

税理士事務所の労務管理Q&A 【第2回】「労働時間の管理①(裁量労働制)」

税理士事務所の労務管理Q&A 【第2回】 「労働時間の管理①(裁量労働制)」   特定社会保険労務士 佐竹 康男   第2回は労働時間の管理として、みなし労働時間の1つである裁量労働制について解説します。 * * 解 説 * * 1 裁量労働制とは 裁量労働制とは、みなし労働時間の1つで、実際に働いた時間に関係なく、事前に決めた時間(「みなし労働時間」という)働いたとみなすことができる制度です。 業務の遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があるため、その業務の手段及び時間配分の決定等について、使用者が具体的に指示しないこととする業務に従事する労働者について認められています。これを専門業務型の裁量労働制といいます(下図参照)。 〈みなし労働時間制〉 労使協定を締結してその内容を、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出することで労働者への適用が可能となっています。また、専門業務型裁量労働制で働かせることを就業規則又は就業規則に準ずるものに規定しなければなりません(下記規定例参照)。 〈就業規則の規定例〉   2 労使協定とは 労使協定とは、その事業場で労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者との書面による協定をいいます。裁量労働制を導入する場合は、下記の内容を定めて、事業場を管轄する労働基準監督署に届け出なければなりません。 〈労使協定で定める事項〉   3 専門業務型の裁量労働制が認められている業務 現在、下記記載の19業務に限り、裁量労働制が認められています。税理士業務も含まれています。 〈対象業務〉   4 税理士と有資格者 裁量労働制の対象となる「税理士の業務」とは、税理士となる資格を有し、税理士名簿への登録を受けた者自身を主体とする業務をいいます。税理士試験には合格しているけれども、税理士登録がなされていない者は、裁量労働制の対象となる「税理士の業務」には該当しません。 したがって、税理士と同様に業務の遂行方法等をその者の裁量に委ねられていたとしても、裁量労働制が適用されませんので、通常の労働時間管理が必要になります。   5 裁量労働制における労働時間と残業時間 法定労働時間は、原則として1週40時間、1日8時間です。法定労働時間を超えて労働させる場合は、三六協定を締結して、労働基準監督署に届け出なければなりません。 その上で、例えば、10時間労働した場合には、2時間分の残業手当を支払わなければなりません。 裁量労働制は、1日の労働時間をあらかじめ決めておくことで、その時間労働したこととみなす制度ですので、例えば、1日の労働時間を8時間と労使協定で決めた場合は、対象労働者が8時間を超えて10時間働いたとしても、その日の労働時間は8時間となり、残業手当が発生することがありません。逆に、6時間しか働かなくても8時間の労働とみなされるので、8時間分の賃金を支払わなければなりません。 また、みなし労働時間が8時間を超えて設定された場合には、8時間を超える分の残業手当が発生することになります。例えば9時間と設定した場合には、1時間分の残業手当を支払わなければなりません。 なお、裁量労働制は、深夜労働(22時~5時まで)や休日に労働した場合には、適用されませんので、通常の労働時間として残業手当等が発生することになります。   6 裁量労働制のメリット・デメリット 事業所(事務所)及び労働者には下記のメリット・デメリットがありますので、裁量労働制を導入する場合は、労使間で十分に協議しなければなりません。 (了)

#No. 425(掲載号)
#佐竹 康男
2021/06/24

〔検証〕適時開示からみた企業実態 【事例60】日本郵政株式会社「当社子会社の一部事業の譲渡に関するお知らせ」(2021.4.21)

〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例60】 日本郵政株式会社 「当社子会社の一部事業の譲渡に関するお知らせ」 (2021.4.21)   公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹   1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、日本郵政株式会社(以下「日本郵政」という)が2021年4月21日に開示した「当社子会社の一部事業の譲渡に関するお知らせ」である。子会社である Toll Holdings Limited(以下「トール社」という)の事業のうち特に業績が悪いエクスプレス事業を売却することにしたというのだが、売却する方針はこれよりも前に決まっていた。2020年11月5日に「当社子会社の一部事業の売却検討の決定のお知らせ」を開示し、同事業の売却を検討することを決定したとしており(検討することの決定に関する開示というのは珍しいが)、今回ようやく売却先が決まったのである。 同社は上場直前の2015年5月にトール社を買収したのだが、それから2年も経たない2017年4月25日に「減損損失の計上、平成29年3月期通期連結業績予想の修正及び子会社単体業績に係る関係会社株式評価損の発生に関するお知らせ」を開示している。その中の「減損損失の計上」は、次のように記載されている。買収するにあたり適切な調査が行われたようには到底思えない。   2 弁解のつもり? 今回の開示の中の「今後の見通し」は、次のように記載されている(下線は筆者による)。「特別損失が生じるといっても、軽微だから大丈夫ですよ」とでも言いたいのだろうか。 また、今回の開示のすぐ後の2021年4月28日に開示した「通期連結業績予想の修正に関するお知らせ」の中の「通期連結業績予想の修正の理由」には、次のような記載がある。こちらは「特別損失を計上しますが、結局、上方修正なので、問題ないでしょ」と言いたいのだろうか。その特別損失がなければ、最終利益はさらに674億円プラスの上方修正になったというのに。 どちらも、投資家の気持ちを逆撫でするかのような記載である。   3 依然として 日本郵政の開示は本連載【事例40】でも取り上げた。インサイダー情報が漏れまくりだったのだが、それは現在でも変わっていないようである。今回の開示の情報も漏れていたようで、今回の開示を行う前に、次のように記載した「本日の一部報道について」を開示している。 代表執行役のほか(2019年12月27日に「代表執行役の異動に関するお知らせ」を開示)、経営陣のうち何人かが交代したようだが、依然として現在の経営陣の中にも口の軽い方がいらっしゃるようである。   4 あの会社への出資について 日本郵政は、今回の開示よりも前の2021年3月12日に「日本郵政グループと楽天グループによる資本・業務提携のお知らせ」を開示している(前回【事例59】で触れたが、楽天株式会社(以下「楽天」という)側も同日「日本郵政グループと楽天グループ、資本・業務提携に合意」を開示)。楽天と業務提携を行うだけでなく、同社に対して1,499億円の出資を行うとされている。トール社の買収にあたってはまともな検討がなされていなかったようだが、今回はきちんとした検討がなされたのだろうか。 楽天への出資については、投資を回収できるか否かといったことだけでなく、他にも検討しなければならない問題があるように思われる。日本郵政は、上場会社とはいえ、いまだに財務大臣が63.29%の株式を保有しており(第15期有価証券報告書)、実質的にはまだ国営といえるような会社である。そうした会社が、競合がいる中で楽天に対してだけ巨額の出資を行うことは、国が楽天を優遇しているように見えなくもない。 楽天に出資するにあたっては、丁寧な説明が必要かと思われるが、開示の中にそうした記載は見当たらない。出資する理由については、「両社グループ間の関係を強化するため」と記載されているだけである。関係を強化するために、日本郵政から楽天へ巨額の出資を行うことが果たして必要なのか、また、それが適切なことなのか、釈然としないのだが。 (了)

#No. 425(掲載号)
#鈴木 広樹
2021/06/24

《速報解説》 国税庁、令和3年5月20日東京地裁判決を受け平成27年以前の公社債の譲渡による譲渡所得の取扱いを変更~旧規定で課税対象となる公社債に係る「150%基準」の判定時期を見直し~

《速報解説》 国税庁、令和3年5月20日東京地裁判決を受け平成27年以前の公社債の譲渡による譲渡所得の取扱いを変更 ~旧規定で課税対象となる公社債に係る「150%基準」の判定時期を見直し~   Profession Journal編集部   国税庁は6月22日付けで「平成27年以前の公社債の譲渡による譲渡所得に係る取扱いについて」を公表、平成28年に施行された公社債課税制度の改正前制度における取扱いを一部変更したことを明らかにした。 平成25年度税制改正では特定公社債等の譲渡所得等について非課税の対象から除外され原則15%の申告分離課税とするなど金融所得課税の一体化に向けた見直しが行われ、平成28年から施行されている。 この改正前制度では、一定の公社債の譲渡による譲渡所得のみ課税対象とされており、「割引の方法により発行される公社債等の譲渡による所得の課税の特例」(旧措法37の16①、旧措令25の15、旧措規18の16)において規定されていたが、上記の改正時にこの規定は廃止された(個人が平成28年1月1日前に行った公社債の譲渡について適用)。 廃止された旧規定では、課税対象となる公社債の要件の1つに、「その利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上である公社債(利子を付さない期間があるものを含む。)」(旧措令25の15②四)が掲げられていたが(150%基準)、従来の取扱いとして、その公社債に該当するのは「発行時点において、発行条件に定められた各利払期間の利子の利率により、その公社債の各利払期間の利子の利率のうち最も高いものを最も低いもので除して計算した割合が100分の150以上になることが必然であるもの」とされていた。 上記の取扱いであったところ、このほど、債券の利子の利率が一定の時期における一定の基準(為替レートなど)により変動する債券について、この 150%基準に該当するか否かが争われた令和3年5月20日東京地裁判決において、下記の旨が判示された。 上記の判決を受け、国税庁は従来の取扱いを変更し、150%基準に該当するか否かについては、「債券の発行条件に照らし、その発行期間においてとり得るものとされている上限利率及び下限利率を基に、その発行時の現況に照らして 150%基準を満たす現実的可能性がおよそないと認められるような特段の事情がない限り、150%基準を充足するか否か」により判断することとした。 この取扱いの変更は過去に遡って適用されることから、国税庁は、変更後の取扱いにより平成27年分以前の所得税について納めすぎになる場合には更正の請求により還付の対象(ただし法定申告期限から5年以内)となるとしている(更正の請求にあたっては譲渡した公社債の利子の利率の内容を確認することができる書類等の提出が必要)。 (了) ↓お勧め連載記事↓

#No. 424(掲載号)
#Profession Journal 編集部
2021/06/23

《速報解説》 国税不服審判所「公表裁決事例(令和2年10月~12月)」~注目事例の紹介~

 《速報解説》 国税不服審判所 「公表裁決事例(令和2年10月~12月)」 ~注目事例の紹介~   税理士・公認不正検査士(CFE) 米澤 勝   国税不服審判所は、2021(令和3)年6月17日、「令和2年10月から12月までの裁決事例の追加等」を公表した。追加で公表された裁決は表のとおり、法人税法が3件、国税通則法が2件、相続税法が1件で、合わせて6件となっている。 今回の公表裁決では、6件のうち3件が国税不服審判所によって、原処分庁の課税処分等の全部又は一部が取り消され、納税者の審査請求が棄却されたものが2件で、1件は却下されている。 【表:公表裁決事例令和2年10月から12月分の一覧】※本稿で取り上げた裁決 本稿では、公表された6件の裁決事例のうち、法人税に関連する裁決3件(いずれも、国税不服審判所が、原処分庁の賦課決定処分の一部又は全部を取り消すという判断を示している)について、検討したい。 なお、いずれの裁決も複数の争点があるが、中心的な争点に絞っていることを、あらかじめお断りしておく。   1 不動産売買契約に基づく土地等の譲渡に係る収益が請求人に帰属しないとした事例・・・③ 本件は、原処分庁が、①一般土木建築工事の調査、設計、積算、監理及び施工請負並びに土地の造成及び売買、保有、管理、賃貸借、仲介等を目的とする株式会社である審査請求人(以下「請求人」という)及び請求人以外の法人の行った土地等の譲渡等に係る収益は、その全てが請求人に帰属し、平成25年3月期の収益に計上する、②請求人による土地の開発申請に係る業務の役務提供は平成29年3月期に完了し、収益は確定している、③請求人が地上権設定契約の締結に伴い収受した金員は、返還されることのない「権利金」であり、平成30年3月期に計上すべき収益に当たるなどとして、青色申告の承認の取消処分及び更正処分等を行ったのに対し、請求人が、①土地等の譲渡等に係る収益は、請求人にその全てが帰属するものではなく、また、請求人に帰属する収益も当該事業年度に計上するものではない、②開発申請に係る業務の役務提供は完了しておらず、収益は確定していない、③地上権設定契約の一部は無効なものであって、収受した金員は将来的に返還される「敷金」であるから、収益には当たらないなどとして、これらの処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点は以下のとおり多岐にわたっているが、本稿では、収益の取得者が請求人であるか否かを争点とする争点①に絞って、国税不服審判所の判断を見ておきたい。 (2) 国税不服審判所の判断 審判所は、事業収益の帰属者について、次のように見解を示した。 そのうえで、本件で争点となっている不動産等売買契約書について、2項及び3項に係る売買の債務者(売主)として請求人が記載され、作成当時の請求人の代表取締役であるJ8の記名とその代表取締役印が押印されている一方、4項に係る売買では債務者(売主)として、H4社が記載され、作成当時のH4社の代表取締役であるJ1の記名とその代表取締役印が押印されていることから、請求人及びH4社は、H5社との間で、それぞれその意思に従って、それぞれ別の債務を負う内容の契約を締結したと認定した。 その結果、不動産売買契約に基づく、4項に係る売買の事業の主体は、H4社であり、その収益もH4社に帰属すると認められることから、4項に係る売買に係る収益は、請求人に帰属しないとして、原処分庁の主張を退ける判断をした。 最後に、国税不服審判所は、請求人の不動産売買に係る収益の帰属時期についても、H5社へ土地等に係る移転登記がされた平成23年12月1日をもって「引渡しがあった日」であると判断するのが相当であり、2項及び3項に係る売買の収益については、原処分庁の主張する平成25年3月期ではなく、平成24年3月期に計上すべきであるとして、原処分庁の主張を退ける判断をした。   2 取締役に支給した賞与は使用人兼務役員に対する使用人職務分には該当しないとした事例・・・④ 本件は、水産食料品の製造、加工及び販売等を業とする取締役会設置会社である審査請求人(以下「請求人」という)が、取締役Hに支給した給与の一部を使用人兼務役員に対する使用人としての職務に対するものとして損金の額に算入したことについて、原処分庁が、当該給与は、使用人兼務役員に対する使用人としての職務に対するものに該当しないことから損金の額に算入されないとして、法人税等の更正処分等をしたのに対し、請求人が、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 取締役Hに支給した賞与は、法人税法第34条第1項括弧書きに規定する使用人兼務役員に対して支給する使用人職務分に該当するか否か。 (2) 事実関係 取締役Hの入社から審査請求に至るまでの役職等は以下のとおりである。 (3) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、使用人兼務役員について、法人税法を引用する形で、次のように定義している。 そのうえで、請求人について、その機構上、使用人としての職制上の地位として「部長」職が明確に定められており、取締役Hは、平成27年3月31日までは、請求人の営業部の部長職の地位を有しているが、同年4月1日の機構改革以後は、請求人の営業部長の役職に就いておらず、請求人の使用人としての他の職制上の地位も有していなかったと認められると判示した。 この事実認定に基づき、国税不服審判所は、本件で争点となった賞与のうち、請求人が平成26年12月に取締役Hに支給した賞与については、使用人兼務役員に該当する期間に支給されたものであるから、使用人兼務役員に対する使用人職務分として、請求人の所得金額の計算上、損金の額に算入され、他方、同年4月1日以後に支給された額については、使用人兼務役員に対する使用人職務分には該当しないから、損金の額に算入することはできないという判断を示し、原処分庁が行った平成27年7月期の法人税の更正処分については、その一部を取り消すべきであると判断した   3 請求人が請求人の元代表者に退職金として支払った金員は、当該元代表者に退職の事実があるから、損金の額に算入されるとした事例・・・⑤ 本件は、不動産の賃貸等を営む株式会社である審査請求人(以下「請求人」という)が、平成24年11月30日、請求人の代表取締役及び取締役をいずれも辞任し、同年12月、辞任登記を行った元代表取締役に対して支給した退職金の金額を損金の額に算入して法人税等の申告を行ったところ、原処分庁が、元代表取締役は、登記上退任した後も請求人の経営に従事しており、実質的に退職したとは認められないから、当該金額は退職給与として損金の額に算入されないとして、法人税等の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が、元代表取締役は形式的にも実質的にも退職したのであるから、当該金額は損金の額に算入されるなどとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。 (1) 争点 争点には送達方法や理由付記なども含まれているが、本稿では、退職給与として損金の額に算入できるかどうか(下記争点④)に関する国税不服審判所の判断を見ておきたい。 (2) 国税不服審判所の判断 国税不服審判所は、法人税法第2条第15号が取締役等の法的な地位を有していない者でも「法人の経営に従事している者」を法人の役員に含めた趣旨について、取締役等と同様に法人の事業運営上の重要事項に参画することによって法人が行う利益の処分等に対し影響力を有する者も同法上は役員とするところにあるとしたうえで、「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解されることから、元代表者が、辞任後も継続して、請求人の経営に従事、すなわち、請求人の事業運営上の重要事項に参画しており、実質的に退職していないと認められるかについて、検討を行った。 (参考) その結果、 などの事実認定に基づき、国税不服審判所は、元代表者が、辞任後も継続して、請求人の事業運営上の重要事項に参画するみなし役員に該当し、請求人を実質的に退職していなかったと認めることはできないとして、原処分の全部を取り消す判断を示した。 (了)

#No. 424(掲載号)
#米澤 勝
2021/06/23
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