〔弁護士目線でみた〕 実務に活かす国税通則法 【第7回】 「重加算税における『隠蔽』又は『仮装』の意義」 弁護士 下尾 裕 本稿からは、加算税の中でも最も実務的論点の多い重加算税、その中でも重加算税の要件である「隠蔽」又は「仮装」の意義を取り上げる。 1 重加算税の概要 本連載【第6回】でも触れたとおり、重加算税は過少申告等を行った納税者等に「隠蔽」又は「仮装」等がある場合における加重制裁として位置づけられている。このような重加算税の性質上、重加算税が賦課される場面においては、基礎となる過少申告加算税、無申告加算税又は不納付加算税は賦課されない。 重加算税の税率等の概要を整理すると以下のとおりとなる。 (※) 重加算税は、増差税額のうち、「隠蔽」又は「仮装」が存在した部分についてのみ賦課される。また、過少申告加算税又は無申告加算税において増差税額が50万円(過少申告の場合は当初申告税額といずれか多い方の金額)を超える場合の加算部分が存在する場合については一定の調整がなされる(国税通則法施行令第27条の3第1項・第2項)。 なお、地方税において重加算税に相当するものとして、重加算金が賦課される取扱いとなっている。 2 重加算税の課税要件及び適用除外事由 (1) 重加算税の課税要件 重加算税の課税要件は、端的には、無申告、過少申告又は源泉税の不納付があった場合において、①「隠蔽」又は「仮装」行為(以下「仮装隠蔽行為」という)があること、②当該行為が「納税者」の行為として行われたことである。これらのうち、前者は、重加算税の前提となる行為内容に関する要件、後者は当該行為の行為主体に関する要件であるが、詳細については、本稿も含め回をまたぎつつ、改めて説明する。 (2) 重加算税の適用除外 重加算税は、例外的に、以下の場面では課税されない。 ただ、重加算税は、上記のとおり仮装隠蔽行為の存在を前提とするものであることから、納税者自身が自ら過少申告等の存在を明らかにすることは想定されず、それゆえ、必然的に税務調査後の修正申告又は更正処分により増差税額が発生した場合に賦課されることが大半であり、現実には②の適用場面は限定されている。 これらの適用除外要件の意義については、仮装隠蔽行為が前提となる重加算税の賦課の場面で問題になることは少ないが、基本的な考え方については、【第6回】の過少申告加算税の説明において述べたところと同様と考えて差し支えないと思われる。 なお、上記①について、国税通則法第68条第1項は、過少申告について仮装隠蔽行為があった場合について、「正当な理由がある場合」を適用除外事由としては定めていない。無申告等の場合と比較してこのような差異を定めている理由は明確ではなく、実務的に「正当な理由」を主張するケースは多くないと思われることから実務的な影響は軽微であるものの、念のため留意が必要である(関連する判例として、最高裁平成18年4月25日判決・民集60巻4号1728頁、TAINSコード:Z256-10377)。 3 仮装隠蔽行為とは何か ここでの仮装隠蔽行為は、国税の課税標準や税額計算の基礎となるべき「事実」につき、仮装隠蔽を行うものである。このうち、仮装行為の典型例としては、二重帳簿作成、売上除外、架空経費の計上、隠蔽行為の典型例としては他人名義による取引、虚偽答弁等が想定される。 以下においては、仮装隠蔽行為に関連する問題点の概要を整理してみたい。 (1) 納税者にどの程度の認識が必要か この点については、最高裁昭和62年5月8日判決・税資158号592頁(TAINSコード:Z158-5922)は、以下のとおり判示して、前提となる行為そのものの認識は必要だが、過少申告そのものの認識は不要という整理を行っている。 このような判例の考え方は、過少申告の「故意の立証は不要」(志場喜徳郎他「国税通則法精解(平成31年改訂)」(大蔵財務協会、2019年)P813以下)という見解に依拠するものと想定される国税当局との間ではやや温度差がある可能性があるものの、概ね現在の実務通説を形成しているものと考えられる。 (※) 下線筆者 (2) 仮装隠蔽行為の分水嶺 上記で述べた重加算税が賦課される場面の典型例はいずれも納税者が積極的な工作を行う場面であり、これらの場合について重加算税が賦課されることについては概ね異存はないものと思われる。 一方、実際に、納税者において重加算税の適法性が争われるケースにおいては、多額の過少申告が行われているものの、典型的な工作行為が存在しないケースも多く、加重要件としての仮装隠蔽行為の有無が争いになる場合が多い。 ① 判例の考え方 最高裁平成7年4月28日判決・民集49巻4号1193頁(TAINSコード:Z209-7518)は、会社役員が株式売買にかかる雑所得につき、事前に納税が必要になる場合等について説明を受け、顧問税理士からの再三の確認を受けたにもかかわらず、当該税理士に所得がないと回答した上で、申告をしなかったという事例において、以下のとおり判示した上、上記税理士との関係でのやりとりを「特段の行為」とみて重加算税の賦課を認めており、この判例の考え方が現在の実務通説であるとみてよいと考えられる。 (※) 下線筆者 ② 最近の重加算税取消事案 上記のとおり、仮装隠蔽行為かどうかの判断においては、上記「特段の行為」の有無を前提に判断するという枠組みそのものは固まりつつあるが、実際の適用においてはなお曖昧さを払しょくできているとはいいがたい。 特に近年、計上時期(「期ずれ」)を問題にする事案等において、当該売上又は費用の前提となる請求書のやりとりが仮装隠蔽行為であるかどうかが問題になる事案がある。 最近の裁決事例を例にとると、賃貸用建物に発生した雨漏りを防止する修繕工事について、建物の賃貸人である会社の代表取締役が、工事を発注した事業年度の終了の日までに当該工事が開始すらしていないことを認識した上で、修繕工事の施工業者に依頼して納品日欄に本件事業年度内の日付を記載した請求書を発行させ、修繕費を損金の額に算入したという事案において、国税不服審判所令和2年3月10日付裁決(金沢支部 裁決番号:令010009)は概ね以下のように判示して、請求書の発行が仮装隠蔽行為であるとしてなされた重加算税の賦課処分を一部取り消している。 この裁決では、請求書が発行された経緯を詳細に認定した上で、①請求書発行時の発行者の認識、②請求書の記載内容に虚偽が含まれているかといった点に着目をして仮装隠蔽行為の存在を否定している。 結局のところ、いかなる行為をもって仮装隠蔽行為としての「当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動」を認めるのかは総合判断とならざるを得ないが、納税者の立場で重加算税の賦課を争うにあたっては、上記裁決における請求書の発行等といった外形的事情について、過少申告を意図したものでなかったことを基礎づける合理的な説明ができるかどうかが鍵になるものと考えられ、本件のようなケースは1つの分水嶺として実務上の参考になるものと思われる。 * * * 次回は、重加算税における「納税者」の意義を中心に解説を行う。 (了)
「税理士損害賠償請求」 頻出事例に見る 原因・予防策のポイント 【事例92(法人税)】 税理士 齋藤 和助 《基礎知識》 ◆給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除(措法42の12の5①②) 青色申告法人が、平成30年4月1日から令和3年3月31日までの間に開始する各事業年度において、国内雇用者に対して給与等を支給する場合に、次の要件を満たすときは、「雇用者給与等支給増加額」(給与等支給総額の前年度からの増加額)の15%相当額の税額控除が受けられる。ただし、法人税額の20%相当額が限度となる。なお、中小企業者等については③に該当しない場合でも特別控除の適用が受けられる。 ◆特別控除の適用要件(措法42の12の5⑤) 「給与等の引上げ及び設備投資を行った場合等の法人税額の特別控除」は、確定申告書等に特別控除の対象となる「雇用者給与等支給増加額」、控除を受ける金額及び当該金額の計算に関する明細並びに「継続雇用者給与等支給額」及び「継続雇用者比較給与等支給額」を記載した書類の添付がある場合に限り、適用する。 この場合において、控除される金額の計算の基礎となる「雇用者給与等支給増加額」は、確定申告書等に添付された書類に記載された「雇用者給与等支給増加額」を限度とする。したがって、更正の請求による「雇用者給与等支給増加額」の訂正は認められない。 (了)
収益認識会計基準と 法人税法22条の2及び関係法令通達の論点研究 【第42回】 千葉商科大学商経学部准教授 泉 絢也 イ 役務提供 他方、役務提供について、法人税法22条の2第4項は、「その提供をした役務につき通常得べき対価の額」としており、どの時点の対価の額であるかという点を明記していない。 このことから、「資産の販売又は譲渡に係る『収益の額』とすべき資産の『時価』に関して、時点を示して『資産の引渡し時における価額』と規定するのであれば、本来は、役務の提供に係る『収益の額』とすべき役務の『時価』に関しても、同様に、時点を示して規定するべきである」という批判も示されている(朝長・前掲論稿25頁)。 収益の計上額に係る時価の測定時期として約定日などの近接日を採用する余地がないのかという点について、今後争点となる事例が登場する可能性は否めない。もっとも、法文の「通常得べき対価の額」という部分において、役務提供がいつなされたものであるかといった時間的要素を考慮するという見解が成り立つ可能性もある。 また、法は、「その提供をする役務」ではなく「その提供をした役務」としており、その役務が実際に提供された(費消された)時点の時価で益金算入することを求めているというような解釈も検討の余地がある。 これは、役務は、資産と異なり、提供の時に消費されると考えられるため、「提供の時における」と時点を明示して特定する必要がなかったとする見解(片山智裕『ケーススタディでおさえる収益認識会計基準』36頁(第一法規2019)参照)と接続する解釈である。 この点について、法人税法22条の2第4項は、「役務提供時に」通常得るべき対価の額に相当する金額と規定するものであるという見解も示されている。 例えば、酒井克彦教授は、法人税法22条の2第4項について、「収益の額は、『資産引渡時の価額』または『役務提供時に通常得るべき対価の額に相当する金額』と規定する〔下線筆者〕」と説明される(酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅰ〔第2版〕』20頁(中央経済社2018)、同『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』226頁(中央経済社2019)。谷口勢津夫『税法基本講義〔第6版〕』378頁(弘文堂2018)も同旨)。 かかる説明の根拠は必ずしも明らかではないが、法文に明記されていない以上、例えば、「通常得べき」対価の額とは、時間的なタイミングとしては「役務提供時」を基準とするものであるといった補充的な解釈を施したものと思われる。 ところで、法人税法22条による無償取引の収益計上とセットで考慮されるべき寄附金の損金不算入規定である法人税法37条は、その7項において、「当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする〔下線筆者〕」と定めている。このことと比較すると、上述のとおり、資産の「引渡しの時」という時間的特定を意味する語が役務提供の部分には付されていないことは、意識的になされたというべきか。 ウ 法人税法61条の2第1項との比較 法人税法61条の2第1項は、有価証券の譲渡をした場合に、「その有価証券の譲渡の時における有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額」と「その有価証券の譲渡に係る原価の額」との差額を、その譲渡に係る契約をした日の属する事業年度において、譲渡利益額として益金算入し、又は譲渡損失額として損金算入することを定めている。後述するように、立案担当者は、同項が法人税法22条の2第4項の「別段の定め」であると整理している(ただし、酒井克彦『プログレッシブ税務会計論Ⅲ』255~257頁(中央経済社2019)は反対か)。 この規定と法人税法22条の2第4項を比較することで浮かび上がる諸点を指摘しておこう。 ① 法人税法61条の2第1項1号は有価証券という「資産」に関して、「有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額」としている。他方、法人税法22条の2第4項は、資産の販売又は引渡しには「価額相当額」、役務提供には「通常得べき対価の額相当額」としており、資産と役務提供で益金に算入する額の表現を使い分けている。用語法の相違が有意であるのか、両規定の解釈論に影響があるのか、という疑問がある。 ② 法人税法61条の2第1項1号と異なり、法人税法22条の2第4項には「有償による」という語がなく、「相当額」という語がある、同項は「譲渡」ではなく目的物の「引渡」という語を使用している。用語法の相違が有意であるのか、両規定の解釈論に影響があるのか、という疑問がある。 ③ 法人税法61条の2第1項によると、契約日(約定日)基準で益金の額又は損金の額を計上することになるが、譲渡利益額又は譲渡損失額の算定のベースはその有価証券の「譲渡の時における」有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額である。同項の適用場面において、「譲渡をした日」、「引渡しをした日」、「契約をした日」の相違が今後、問題となり得る。 上記①に関して、法人税法22条の2第4項や同法61条の2第1項は、❶資産又は役務の時価そのものを対象としているのか、あるいは❷より広く、資産又は役務の時価をベースとしつつ取引条件等も考慮した場合に、第三者との取引において通常得べき対価の額(通常成立する価額)を対象としているのか、という疑問が生じることを指摘しておく。 ❷は、資産の時価をベースとしつつも、例えば、相手方が得意先であるか、消費者であるか、取引条件はいかなるものかなど種々の要素を考慮して、第三者との取引において通常得べき対価の額を想定している。 条文の文言や法人税法37条との整合性などの観点から❶を支持する見解が成り立つが、法人税法22条2項の趣旨や取引の実情という観点から❷を支持する見解もあろうか。 上記③に関して、立案担当者は、法人税法61条の2第1項は「約定時点の時価で」譲渡損益を認識するように定めたものである旨説明していることに留意が必要である(財務省『平成30年度 税制改正の解説』276~277頁参照)。同項1号は、譲渡利益額や譲渡損失額に係る算定要素の1つとして、「その有価証券の譲渡の時における有償によるその有価証券の譲渡により通常得べき対価の額」を定めている。上記説明は、その譲渡する有価証券の「譲渡の時における」「通常得べき対価の額」は「約定時の時価」であると解しているのであろう。 (了)
会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」 【第5回】 「“連結パッケージの提出期日”について聞きたい!」 石王丸公認会計士事務所 《登場人物紹介》 〈ベテラン経理のコバヤシさん〉 世界シェアトップの某メーカーで30年以上にわたり経理部に勤務。その間に会社は東証一部上場を達成。年々、開示制度の充実強化が図られる中で、5年間で13日の連結決算早期化を実現。 〈会計士〉 決算早期化の秘訣を知りたい公認会計士。といっても、そういうコンサルをしているわけではなく、単なる興味本位。 * * * (注) なお、本連載「会計士が聞く! 決算早期化「現場の回答」」の著作権は、石王丸周夫公認会計士及びベテラン経理のコバヤシさんに属するものとします。 (了)
フロー・チャートを使って学ぶ会計実務 【第53回】 「製品保証引当金」 RSM清和監査法人 公認会計士 西田 友洋 【はじめに】 家電量販店で電化製品を販売した場合に、当該製品が故障した時に一定期間内であれば無償修理等に応じる無償保証契約を締結するケースがある。このような場合に、当該契約の履行に要する(無償修理等の)支出に備え、製品・商品の販売時に製品保証引当金を計上する。今回は、製品保証引当金について解説する。 ※各ステップをクリックすると、それぞれのページに移動します。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 過去に販売した製品・商品に故障等が生じた場合に、販売後の一定期間、製品・商品の修理や交換に無償で応じる無償保証契約を締結するケースがある。このような契約に基づいて負担する費用は、その発生が当期以前の事象に起因するため、過去の実績等から費用の発生見込額を合理的に見積もることができる場合には、製品・商品の販売時に「製品保証引当金」を計上する必要がある(企業会計原則注解18)。 そのため、無償保証契約に基づき無償で修理や交換に応じた過去の実績から、将来発生するであろう費用を見積る必要がある。例えば、過去3期分の(無償の修理や交換にかかった費用)÷(無償保証契約に係る売上)の平均を算定し、当期の無償保証契約に係る売上に乗じる等が考えられる。 【STEP1】で集計した過去の実績等に基づき、製品保証引当金を計上する。 (※) 製品保証引当金繰入額は、「売上原価」又は「販売費及び一般管理費」に計上する。 無償修理等に応じた際には、以下のとおり、製品保証引当金の取り崩しが必要である。 また、製品保証引当金の金額と実際に要した費用を比較し、次の決算時の見積りにあたって、より合理的に見積りが行えるように分析を行うことが望まれる。 (1) 「実際に要した費用=製品保証引当金の計上額」の場合 (※1) ここでは、修理等において外部の業者等に支払いが行われたと仮定し、現金及び預金勘定を使用している。 (2) 「実際に要した費用>製品保証引当金の計上額」の場合 (※2) 実態に応じて勘定科目を決定する。 (※3) 実際に要した費用と製品保証引当金計上額との差額。製品保証引当金繰入額と同じ区分(売上原価又は販売費及び一般管理費)に計上する。 (3) 「実際に要した費用<製品保証引当金の計上額」の場合 (※4) 実際に要した費用と製品保証引当金計上額との差額。製品保証引当金戻入益は、製品保証引当金繰入額と相殺して表示する。 * * * 以上、3のステップをまとめたフロー・チャートを再掲する。 ※画像をクリックすると、別ウィンドウでPDFが開きます。 (了)
社外取締役と〇〇マルマル 【第8回】 「社外取締役と株主総会」 西村あさひ法律事務所 パートナー 弁護士・ニューヨーク州弁護士 野澤 大和 1 はじめに 社外取締役については、その役割の重要性に鑑みて、株主総会参考書類及び事業報告において、社内取締役とは異なる規律が設けられている。また、2020年9月1日、令和元年改正会社法(令和元年法律第70号。以下、改正後の会社法を「改正会社法」という)に伴う会社法施行規則等の法務省令の改正案(以下、「改正省令案」といい、改正後の会社法施行規則を「改正会社法施行規則案」という)が公表され、新たな記載事項の追加が見込まれている(※1)。さらに、株主総会当日において、株主からの質問の回答者として社外取締役が指名され、社外取締役としての意見を求められる場面も増えてきている。 (※1) 2020年11月24日、改正省令案のパブリックコメントの結果が公表されており、同月27日に公布が予定されている。なお、パブリックコメントの結果を踏まえた案の修正が行われているが、本稿脱稿時点に鑑みて、2020年9月1日時点の改正省令案を前提としていることに留意されたい。 そこで、本稿では、株主総会参考書類及び事業報告における社外取締役に関する規律の概要、会社法施行規則の改正による新たな記載事項及び株主からの質問対応等の株主総会当日において社外取締役に期待される役割について解説する。 2 株主総会参考書類及び事業報告における社外取締役に関する規律の概要 (1) 株主総会参考書類の記載事項 取締役候補者が、社外取締役候補者であるときは、社外取締役に期待される役割に鑑みて、社外取締役の選任の判断に当たり有用な情報の記載が必要であり、具体的には、以下の事項を選任議案に係る株主総会参考書類に記載しなければならない(会社法施行規則74条4項、74条の3第4項)。 ※改正省令案による改正部分に下線を付している。 令和元年改正会社法により、社外取締役の選任が義務づけられ(改正会社法327条の2)、また、取締役会決議により社外取締役への業務執行の委託の規律が新たに導入されたこと(改正会社法348条の2)や、近時、社外取締役に期待される役割に関する議論も進展していること(※2)を踏まえて、株式会社が社外取締役候補者に対してどのような役割を期待しているかを開示させることにより、社外取締役による監督の実効性を担保するために、候補者が社外取締役候補者である取締役の選任議案に係る株主総会参考書類として、当該候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要が追加された(改正会社法施行規則案74条4項3号、74条の3第4項3号)(※3)。 (※2) 経済産業省「社外取締役の在り方に関する実務指針(社外取締役ガイドライン)」(2020年7月31日)参照。 (※3) 経過措置として、施行日前に招集の手続が開始された株主総会の株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による(改正省令案附則2条9項)。 かかる役割の概要については、社外取締役の活動機会が拡大しており、選任時点で具体的な役割を想定できない場合もあり得ることに鑑みると、具体的な役割を列挙するのではなく、社外取締役に期待される役割(※4)を広くカバーできるように幅のある記載にしておくことが考えられる。 (※4) 平成26年改正に至る法制審議会会社法制部会第9回会議部会資料9第1(前注)によれば、社外取締役の機能については、以下のように整理されている。 ① 経営効率の向上のための助言を行う機能(助言機能) ② 経営全般の監督機能 (a) 取締役会における重要事項の決定に関して議決権を行使することなどを通じて経営全般を監督する機能 (b) 経営全般の評価に基づき、取締役会における経営者の選定・解職の決定に関して議決権を行使することなどを通じて経営者を監督する機能(経営評価機能) ③ 利益相反の監督機能 (a) 会社と経営者との間の利益相反を監督する機能 (b) 会社と経営者以外の利害関係者との間の利益相反を監督する機能 また、近時、支配株主を有する上場会社における少数株主の正当な利益のための保護のための枠組み等に関して議論が進んでおり(※5)、東京証券取引所において制度改正(※6)も行われている。そこで、これらの上場子会社における少数株主保護の議論等を踏まえて、親会社等が存在する公開会社における役員(取締役又は監査役)の選任議案に係る株主総会参考書類として、候補者が親会社等又は特定関係事業者の業務執行者であったことを知っている場合等に記載すべき事項の対象期間が過去5年間から10年間に拡大された(改正会社法施行規則案74条4項7号ロ及びハ、74条の3第4項7号ロ及びハ等)(※7)。 (※5) 東京証券取引所・従属上場会社における少数株主保護の在り方等に関する研究会「支配株主及び実質的な支配力を持つ株主を有する上場会社における少数株主の保護の在り方等に関する中間整理」(2020年9月1日)参照。 (※6) その就任の前10年以内のいずれかの時において上場会社の親会社若しくは兄弟会社の業務執行者又はこれらの者(重要でない者を除く)の近親者に該当していた者は、独立役員の独立性基準に抵触するものとされ(「上場管理等に関するガイドライン」Ⅲ5.(3)の2 cの2、d)、2020年2月7日から施行されている。 (※7) 経過措置として、施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る定時株主総会より前に開催される株主総会の株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による(改正省令案附則2条7項)。 なお、社外取締役の選任が義務づけられたことに伴い、株主総会参考書類に社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならないこととする規定は削除された(改正前の会社法施行規則74条の2の削除)(※8)。 (※8) 経過措置として、施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る定時株主総会より前に開催される株主総会の株主総会参考書類の記載については、なお従前の例による(改正省令案附則2条7項)。 (2) 事業報告の記載事項 会社役員のうち、社外取締役を含む社外役員である者が存在する場合には、事業報告における会社役員に関する事項について、会社法施行規則121条に規定する事項に追加して、以下の事項を記載しなければならない(会社法施行規則124条)。 ※改正省令案による改正部分に下線を付している。 前記(1)のとおり、候補者が社外取締役候補者である取締役の選任議案に係る株主総会参考書類として、当該候補者が社外取締役に選任された場合に果たすことが期待される役割の概要が追加されたことに伴い、社外取締役に期待される役割を当該社外取締役がどの程度果たしたかについて事後的に検証することができるようにすることにより、社外取締役による監督の実効性を担保するために、事業報告における社外役員の主な活動状況として、社外取締役が果たすことが期待される役割に関して行った職務の概要の開示が求められることとなった(※9)。 (※9) 経過措置として、施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る株式会社の事業報告の記載又は記録については、なお従前の例による(改正省令案附則2条11項)。 前記(1)のとおり、株主総会参考書類の社外取締役に期待される役割は幅のある記載にしておくことが考えられるが、事業報告においては、当該役割に「関して行った職務」とされているため、社外取締役が当該事業年度の初日から末日まで行った当該役割に関連性を有する職務を具体的に記載することが求められる。例えば、当該事業年度において、改正会社法348条の2第1項の取締役会決議に基づき業務執行の委託を受けて社外取締役がMBO時の独立委員会の委員として買収者と交渉したような場合は、かかる交渉を行ったことを社外取締役に期待される「役割に関して行った職務」として開示することになると考えられる(※10)。 (※10) 竹林俊憲編著『一問一答 令和元年改正会社法』(商事法務、2020)152頁注2。 なお、社外取締役の選任が義務づけられたことに伴い、事業報告に社外取締役を置くことが相当でない理由を記載しなければならないこととする規定等は削除された(改正前の会社法施行規則124条2項・3項の削除)(※11)。 (※11) 経過措置として、施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る株式会社の事業報告における改正前の会社法施行規則124条2項の理由の記載又は記録については、なお従前の例による(改正省令案附則2条11項)。 3 総会当日において社外取締役に期待される役割 (1) 社外取締役の出席義務・説明義務に関する会社法の規律 会社法314条は、社外取締役を含む取締役等の説明義務を定めているが、説明するためには株主総会に出席していることを要することから、取締役等の出席義務を間接的に定めたものであると解されている。ただし、正当な事由がある場合(例えば、他社の社外取締役を兼任している場合において当該他社において業務従事中であるとき)は欠席してもやむを得ず、善管注意義務違反にはならないと解されている。説明義務との関係では、社外取締役の出欠にかかわらず、他の出席取締役等により説明義務が尽くされたかどうかが問題となる。 取締役等の説明義務は、質問者である株主に対して質問事項の説明を尽くすことが義務の内容であり、また、それをもって足りることから、株主の指名に拘束されず、議長が取締役として自ら説明するか、又は説明を尽くすのに適当な取締役等を指名して説明させることができる。したがって、株主から社外取締役を指名して質問がされた場合であっても、議長はその指名に拘束されず、社外取締役が質問事項について適切に説明できる立場にあるならば、社外取締役を指名して説明させればよいが、そうでなければ他の取締役を指名して説明させてもよいと解されている。 (2) 社外取締役に期待される役割 株主総会に出席する個人株主にとっては、総会当日は、社外取締役の生の声を直接聞くことができる数少ない機会である。そのため、株主総会の場も株主との建設的な対話の一環であることを踏まえれば、総会当日において株主から社外取締役を指名して質問がされ、当該質問事項について社外取締役が説明することが適切である場合には、積極的に社外取締役に説明させることを検討すべきである。 社外取締役に期待される主な役割は独立した立場からの経営陣の監督であるところ、株主総会において社外取締役が積極的に回答することでかかる監督機能を適切に発揮していることのアピールになると考えられる。また、経営陣の事業運営について社外取締役が慎重な検討を経て支持することにした等の説明がされれば、経営陣の事業運営についての説得力が増し、株主の理解も得られやすくなると考えられる。このように、総会当日において社外取締役に積極的に回答させることは、社外取締役にとっても経営陣にとってもメリットがあり得る。もっとも、総会当日に社外取締役が回答する場合には、想定問答やリハーサル等の事前の準備を十分に行っておく必要がある。 4 おわりに 近時、社外取締役の役割に関する議論が進展しており、令和元年改正会社法により社外取締役の選任の義務づけ及び社外取締役への業務執行の委託という新たな規律の導入とともに、株主総会参考書類及び事業報告における社外取締役に関する記載事項の充実が図られている。 今後は、社外取締役の選任というコーポレートガバナンスの形式を整えるだけでなく、株主総会参考書類及び事業報告における社外取締役に関する開示を充実させ、社外取締役による監督の実効性を担保するとともに、株主との直接的な対話の機会である株主総会の場を積極的に利用して社外取締役が実効的に機能していることを対外的に示していくことが重要になると考えられる。 (了)
今から学ぶ [改正民法(債権法)]Q&A 【第16回】 (最終回) 「賃貸借契約」 堂島法律事務所 弁護士 奥津 周 司法書士法人F&Partners 司法書士 北詰 健太郎 【Q】 当社は不動産賃貸業を営んでいますが、債権法改正では賃貸借契約について見直しがあったと聞きました。具体的にどのような見直しがあったのでしょうか。 【A】 賃貸借契約については、①賃貸不動産について譲渡が行われた場合の権利関係、②賃借人による賃借物の修繕、③賃借人の原状回復義務、④敷金、などについて見直し・明確化が行われた。 1 賃貸不動産が譲渡された場合の権利関係 マンションなどの賃貸不動産が譲渡された場合、すでに賃貸借契約を締結している賃借人との間の賃貸借契約の賃貸人の地位が譲渡に伴って譲受人に移転するのか、移転するとすればその要件は何かについて、旧法には定めがなかった。 民法の一般原則からすると、契約上の地位を他人に移転させるためには、契約の相手方の承諾が必要となる。しかし、判例では、対抗要件を備えた不動産賃貸借の場合、賃貸不動産の譲渡がなされたときには、契約の相手方である賃借人の承諾がなくても、賃貸人の地位は譲渡人から譲受人に移転するとされ(大審院判例大正10年5月30日)、実務もこの理解に従ってきた。 そこで、改正法では、賃貸不動産が譲渡されたときには、原則として譲受人に移転する旨の規定が設けられた(改正法605条の2第1項)。譲受人が賃借人に対して自らが賃貸人の地位を有することを対抗するためには、賃貸人不動産の所有権移転登記が必要とされる(改正法605条の2第3項)。また、譲受人は、敷金等の返還債務についても承継することになる(改正法605条の2第4項)。 2 賃借人による賃借物の修繕 例えば建物を借りている場合に、その建物から雨漏りがしたり、建物に備え付けられている給湯設備などの設備が故障することがある。賃貸人は賃借物の修繕義務を負っているが(民法606条1項)、賃貸人が任意に修繕をしてくれないことはあり得る。建物や設備の所有者は賃貸人であるため、賃借人が勝手に修繕を行うことはできないのが原則であるが、一方で、賃貸人が修繕を行わない場合、賃借人としては生活に支障をきたすため、自ら修繕を行う必要があり、どのような場合にそれが認められるかが不明確であった。 そこで、改正法では、以下の場合に賃借人が自ら修繕を行えることを定めた(改正法607条の2)。 賃借人は、賃貸人に代わって必要な修繕を行ったときは、その費用の償還を賃貸人に請求することができる(改正法608条1項)。 3 賃借人の原状回復義務等 賃貸借契約が終了した場合、賃借人は賃借物を元の状態に戻して返還する必要がある(原状回復義務)。 もっとも、賃借人が負う原状回復義務の範囲には、一般に、通常の使用による損耗や経年による変化によるものは含まれないと理解されており、判例においても同様の判断が示されていた(最判平成17年12月16日)。 そこで、改正法では、賃借人は原状回復義務を負うが、通常損耗や経年変化はその対象ではないことが明文化された(改正法621条)。 4 敷金 マンション等の賃貸借契約を締結するにあたって、賃借人は賃貸人に対して賃料等の債務の担保として「敷金」等の名目で一定の金銭を交付することが多い。旧法では、この敷金等についての定めがなかったため、改正法では、ルールを明確化するために規定が設けられた。 改正法では、敷金について「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭をいう。」と定義し、敷金の返還時期や賃借人が賃料を支払わないときは敷金から弁済にあてることができることを明確化した(改正法622条の2)。 5 賃貸借契約の保証 本連載【第4回】においても解説したが、改正法においては、極度額を定めていない個人の根保証契約は無効となるとされ(改正法465条の2第2項)、これは賃貸借契約の保証にも適用がある。不動産賃貸借契約の場合には個人の保証人を立てるケースが多いが、賃貸借契約の保証は将来の賃料債務等を保証対象とするため、必ず根保証となる。 従前、賃貸借契約の保証において極度額を設けるケースは多くなかったと思われるが、改正法下では、極度額を設定しなければ保証契約が無効となるので注意が必要である。 6 経過措置 改正法の施行日である2020年4月1日より前に締結された賃貸借契約については、旧法が適用され、施行日以後に締結された賃貸借契約については、改正法が適用されることになる。 改正法の施行日より前に賃貸借契約が締結され、同時に個人を保証人とする保証契約が締結されているときには、賃貸借契約期間中に改正法が施行されても、旧法が適用されることになる。また、賃貸借契約は期間の定めがあり、これが自動更新条項等によって更新されることが多いが、改正法施行後に更新時期を迎えた場合の保証契約の取扱いが問題になる(仮に更新時から改正法が適用されるとすれば、極度額の定めがなければ、その時点で保証契約は無効となる)。 この点については、一般に、賃貸借に伴って締結される保証契約は、賃貸借契約が合意更新された場合を含めてその賃貸借契約から生ずる賃借人の債務を保証することを目的とするものであり、その保証契約は更新後の賃貸借契約によって生ずる債務も保証すると解されている(最判平成9年11月13日)。この理解から、改正法施行後に賃貸借契約が更新されても、極度額に関する改正法の規定は、保証契約には適用されないと解されている。 経過措置については、賃貸借契約と共になされる保証契約とあわせて、考慮すべき点が多いため、昔からの契約書を使用している場合には、これを機会に弁護士等に相談の上、見直しを行うとよいであろう。 (連載了)
〔検証〕 適時開示からみた企業実態 【事例53】 ハイアス・アンド・カンパニー株式会社 「公認会計士等の異動に関するお知らせ」 (2020.10.1) 公認会計士/事業創造大学院大学准教授 鈴木 広樹 1 今回の適時開示 今回取り上げる開示は、ハイアス・アンド・カンパニー株式会社(以下「H&C」という)が2020年10月1日に開示した「公認会計士等の異動に関するお知らせ」である。 これまで会計監査を受けていた有限責任あずさ監査法人(以下「あずさ監査法人」という)が退任することとなったのだが、後任の監査法人は未だ決まっておらず、「現在、選考しております」と記載されている。 2 監査法人退任の理由は? H&Cは、2020年9月30日に「第16期有価証券報告書の提出、並びに過年度の有価証券報告書等、決算短信等の訂正に関するお知らせ」を開示し、2016年4月期以降の有価証券報告書や決算短信などを訂正している。 そして、2020年4月期の有価証券報告書に添付された、あずさ監査法人による監査報告書の意見は「意見不表明」とされている。「意見不表明の根拠」は次のとおりである。 こうしたことから、あずさ監査法人より、「今後の監査契約を継続することが困難になったと判断したという説明とともに、辞任の申し入れ」がなされ、退任することになったというのである。 3 粉飾は上場前から H&Cは、2016年4月に東京証券取引所(以下「東証」という)のマザーズ市場に上場し、2020年7月21日には一部市場へ市場変更している(同日に「東京証券取引所市場第一部への上場市場変更に関するお知らせ」を開示)。 同社による粉飾は上場前から行われており、更にその情報が隠されたまま一部市場への市場変更も行われている。そして、その間の全ての財務諸表に対して、今回、あずさ監査法人は意見不表明とした。その結果、同社は、そもそも上場することができなかった会社となってしまった。 同社は、2020年9月30日に東証から監理銘柄(審査中)に指定された。指定期間は、同日以降、東証が上場廃止基準に該当するか否かを認定する日までである。 東証から出された「監理銘柄(審査中)の指定について」には、理由の1つとして、次のような記載がなされている。 4 公認会計士の関与 H&Cは、この粉飾を調査するため、まず特別調査委員会(同社の社外役員のほか、弁護士と公認会計士で構成)を設置したが(2020年7月28日に「当社における不適切な会計処理に係る特別調査委員会の設置に関するお知らせ」を開示)、その後、第三者委員会(同社と関係のない弁護士と公認会計士で構成)へ移行することとした(2020年8月31日に「特別調査委員会の調査状況及び第三者委員会設置に関するお知らせ」を開示)。 第三者委員会からは、2020年9月28日に「中間調査報告書」が提出された後(2020年9月29日に「第三者委員会の中間調査報告書公表に関するお知らせ」を開示)、2020年10月26日に「最終調査報告書」が提出された(同日に「第三者委員会の最終調査報告書公表に関するお知らせ」を開示)。 同社の経営陣が関与したこの粉飾の根本原因は、彼らに上場会社の経営者としての資質が無かったことなのだが、監査役に会計知識を有する者がおらず、監査役会が適切な対応を取らなかったことも、事態をより深刻なものとさせてしまった。 また、この粉飾には、なんと公認会計士も関与していた。 最終調査報告書には、次のような記載がある。 本来であれば、粉飾を防止する役割が期待される公認会計士が、こうしたことを行っていたのである。なお、念のため付言するが、同社は、この公認会計士の「実験」材料にされたわけではない。同社は、この公認会計士が考えたスキームを不適切であると認識しながら、これ幸いと利用したのである。 5 今後の険しい道のり 本稿執筆時点(2020年11月16日)において、H&Cが上場廃止となるか否かは明らかでない。2020年7月21日に一部市場へ市場変更したときに、こんなことになると予想した投資家はいなかったはずである。 同社は、2020年10月5日に「一時会計監査人の選任に関するお知らせ」を開示し、現在、後任の監査法人の会計監査を受けている。また、2020年10月30日に「再発防止策等に関するお知らせ」を開示し、様々な改善策を実施するとしている。 これまでの財務諸表に対して監査法人が適正意見を表明したうえで、同社の内部管理体制について東証が上場会社に相応しいものであると認めることになるかどうか。現時点では、相当険しい道のりであるように見える。 (了)
《速報解説》 「会社法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」等が公布 ~改正案からの変更はなく、原則令和3年3月1日から施行~ 公認会計士 阿部 光成 Ⅰ はじめに 2020(令和2)年11月20日、「会社法の一部を改正する法律(令和元年法律第70号)及び「会社法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(令和元年法律第71号)の施行に伴い、「会社法の一部を改正する法律の施行期日を定める政令」等が官報号外第242号において公布された。 文中、意見に関する部分は、私見であることを申し添える。 Ⅱ 主な内容 (了)
《速報解説》 会計検査院、子会社配当に対する源泉徴収から 還付金及びそれに伴う事務等の発生を指摘 ~源泉徴収制度の趣旨に沿っていないとの見解を示す~ 太陽グラントソントン税理士法人 ディレクター 税理士 川瀬 裕太 1 はじめに 会計検査院は「令和元年度決算検査報告の概要」を令和2年11月10日に内閣に送付したことを公表している。 本稿では、検査報告の中で、「特定検査対象」として取り上げられた下記2項目のうち、「完全子法人株式等及び関連法人株式等に係る配当等の額に対して源泉徴収を行うことにより生ずる還付金及び還付加算金並びに税務署における源泉所得税事務及び還付事務等について」の解説を行う。 2 問題の概要 会計検査院は、完全子法人株式等に係る配当等の全額及び負債利子を控除した関連法人株式等に係る配当等の全額については、益金不算入となるため、仮に源泉徴収をしなければ、納税者側の源泉徴収事務負担等が軽減されるだけでなく、税務署側の還付事務が生じない可能性があるという観点で、源泉徴収制度が趣旨に沿ったものとなっているかなどについて、検査を行った。 検査結果については、平成29年度から令和元年度に完全子法人株式等又は関連法人株式等を保有している検査対象法人(1,667社)のうち、完全子法人株式等又は関連法人株式等に係る受取配当等に対する源泉所得税相当額について所得税額控除を適用したことにより還付金が生じた法人が1,262社あり、それらに支払われた還付金が約8,898億6,092万円となっていた。 これら還付金の支払いがある法人のうち、還付加算金が生じていた法人が888社あり、それらに支払われた還付加算金は約3億6,563万円となっていた。 このように、原則として法人税が課されない完全子法人株式等に係る配当等や関連法人株式等に係る配当等に対して源泉徴収を行っていたことから、納税者側の源泉徴収事務負担等、税務署側の還付事務が生じ、源泉徴収しなければ発生しなかった還付加算金まで生じているということが明らかとなった。 3 意見の概要 会計検査院は、納税者側では、配当等に係る源泉徴収により一時的な資金負担と事務負担が生じ、税務署側でも還付金及び還付加算金を支払うことによる還付事務が生じている状況は、源泉所得税が法人税の前払的性質を持つことや、所得税を効率的かつ確実に徴収するなどの源泉徴収の制度趣旨に必ずしも沿ったものとなっていないとの見解を示している。 4 今後の動向 令和2年度税制改正の「居住用財産の譲渡特例と住宅ローン税額控除の重複適用排除」や「国外中古建物の貸付けをして所得税負担の軽減を図る事例に対応するための国外中古建物の不動産所得に係る損益通算等の特例」については、会計検査院の検査報告が契機となっている。 今回の意見公表により、源泉徴収制度について近い将来改正がなされる可能性があるため、今後の動きについて注視が必要である。 完全支配関係のある会社からの配当については、現物分配(金銭以外の配当)の場合には、源泉徴収する必要がないことと整合性をとるという点と完全支配関係のある子会社からの受取配当金が全額益金不算入となることから法人税の前払いをする必要はそもそもないという点から、完全支配関係のある子会社からの配当については、源泉徴収の対象としないことを検討する必要があると考えられる。 (了)